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特開2023-143332硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置
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  • 特開-硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置 図1
  • 特開-硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143332
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20230928BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20230928BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
C02F3/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050652
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040BB05
4D040BB14
4D040BB54
4D040BB57
4D040BB91
4D040BB93
(57)【要約】
【課題】流入原水の性状変化に伴う硝化脱窒性能の低下を抑制でき、処理水の水質悪化を抑制可能な硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置を提供する。
【解決手段】活性汚泥を収容した処理槽10内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する硝化脱窒処理工程を有し、硝化脱窒処理工程において、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が処理槽10内に供給される前に、処理槽10内に外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行う工程を有する硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥を収容した処理槽内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する硝化脱窒処理工程を有し、
前記硝化脱窒処理工程において、前記第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が前記処理槽内に供給される前に、前記処理槽内に外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行う工程
を有することを特徴とする硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項2】
前記BOD源としてメタノールを供給することを特徴とする請求項1に記載の硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項3】
前記硝化脱窒処理工程において、前記第2の有機性廃水が前記処理槽内に供給される2~6週間前から、前記処理槽内に前記BOD源を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項4】
前記処理槽内に前記BOD源を供給する前に、前記処理槽内のMLSS濃度を定常運転時よりも低下させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項5】
前記硝化脱窒処理工程が、
前記第1の有機性廃水及び前記第2の有機性廃水を脱窒処理する脱窒処理工程と、
前記脱窒処理工程で得られる脱窒処理水を硝化処理する硝化処理工程と、
を有し、
前記BOD源が、前記脱窒処理工程において供給されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項6】
前記硝化脱窒処理工程が、
前段硝化脱窒処理工程と後段硝化脱窒処理工程とを有し、
前記前段硝化脱窒処理工程に前記第2の有機性廃水が供給される前に、前記後段硝化脱窒処理工程において予め外部から前記BOD源を供給して活性汚泥の馴養を行い、前記後段硝化脱窒処理工程の硝化処理水を固液分離した処理汚泥を前記前段硝化脱窒処理工程へ返送する工程
を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法。
【請求項7】
活性汚泥を収容した処理槽内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する第1の硝化脱窒処理工程と、
前記第1の硝化脱窒処理工程の後に、前記第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水を前記処理槽内に供給し、前記第2の有機性廃水を硝化脱窒処理する第2の硝化脱窒処理工程と
を有し、
前記第1の硝化脱窒処理工程において、前記第1の有機性廃水を硝化脱窒処理するとともに、前記処理槽内に外部からBOD源を供給し、前記第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行う工程を有することを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項8】
アンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を脱窒処理する脱窒槽と、
前記脱窒槽の脱窒処理水を硝化処理する硝化槽と、
前記硝化槽の硝化処理水を固液分離する固液分離槽と、
前記固液分離槽で固液分離される汚泥を前記脱窒槽の前段に返送する返送手段と、
前記脱窒槽に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段と、
前記第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が前記脱窒槽へ供給されるタイミングの情報に基づき、前記第2の有機性廃水が前記脱窒槽へ供給される前に、前記脱窒槽に供給される前記BOD源を定常状態時よりも増加させるように前記BOD源供給手段を制御し、前記第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を促すBOD制御手段と
を備えることを特徴とする有機性廃水の処理装置。
【請求項9】
アンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を脱窒処理する第1脱窒槽と、
前記第1脱窒槽の脱窒処理水を硝化処理する第1硝化槽と、
前記第1硝化槽の硝化処理水を脱窒処理する第2脱窒槽と、
前記第2脱窒槽に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段と、
前記第2脱窒槽の脱窒処理水を曝気する曝気槽と、
前記曝気槽で得られる処理水を固液分離する固液分離槽と、
前記固液分離槽で固液分離される汚泥を前記第1脱窒槽の前段に返送する返送手段と、
前記第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が前記第1脱窒槽へ供給されるタイミングの情報に基づき、前記第2脱窒槽に供給される前記BOD源を定常状態時よりも増加させて前記第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行うように、前記第2脱窒槽に添加される前記BOD源の添加率を制御するBOD制御手段と
を備えることを特徴とする有機性廃水の処理装置。
【請求項10】
前記第2の有機性廃水が前記第1脱窒槽に供給される前に、前記第1脱窒槽へ供給される返送汚泥量を定常値よりも増量させるように、前記返送手段を制御する返送汚泥制御手段を更に備えることを特徴とする請求項9に記載の有機性廃水の処理装置。
【請求項11】
前記第1硝化槽の硝化処理水の一部を前記第1脱窒槽へ循環する循環手段を備え、
前記第2の有機性廃水が前記第1脱窒槽に供給される前に、前記循環手段を介して前記第1脱窒槽へ循環される前記硝化処理水の循環水量を定常値よりも減量させるように、前記循環手段を制御する循環水制御手段を更に備えることを特徴とする請求項9に記載の有機性廃水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア態窒素を含有する有機性廃水処理においては、活性汚泥による硝化脱窒処理が広く行われている。中でも、し尿処理場においては、従来より、除渣し尿を活性汚泥により処理する標準脱窒素方式が広く用いられてきた。一方で、現在のし尿処理方式は、前脱水方式が主流になっており、標準脱窒素方式から前脱水方式への更新事例が増えてきている。
【0003】
前脱水方式で発生する脱水分離液は、除渣し尿と比べてBOD濃度が低く、BOD濃度に対する窒素濃度の比率が大きく高まる。そのため、脱窒処理においてはBOD不足となり、十分に処理が行えない場合がある。よって、脱窒処理にBOD源を投入し、活性汚泥による脱窒処理に必要なBODを補うことが行われている。
【0004】
しかしながら、投入されるBOD源の種類によっては脱窒に利用されづらく、活性汚泥の馴養が必要になることがある。例えば、活性汚泥がメタノールをBODとして利用し脱窒できるようになるまでは、約2週間程度を要し、高い脱窒能力を示すまでには、1か月程度を要するという報告もある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
し尿処理場では、例えば、標準脱窒素方式から前脱水方式への更新工事の際等において、原水のBOD濃度の低下による脱窒のためのBOD源の不足を補うためにメタノールの添加量を増やしても、メタノールに対する馴養ができていないため、活性汚泥による脱窒処理が一時的に不十分になり、水質基準の遵守が困難になることがある。さらに、更新工事直後における活性汚泥の脱窒反応によって添加したメタノールが十分利用されない場合、メタノールが処理水中に残存したまま、し尿処理場から流出し、放流先への汚濁負荷にもなるおそれがある。
【0006】
このような現象は、前脱水方式への更新の他、メタン発酵を適用する場合にも起こり得る。すなわち、メタン発酵では、BOD源は除去されるが、アンモニア態窒素は除去されないために、後段の硝化脱窒処理において、アンモニア態窒素の脱窒のためBOD源を外部から添加する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hallin S., Rothman M. and Pell M. (1996) Adaptation of denitrifying bacteria to acetate and methanol in activated sludge. Water Research Vol. 30 No. 6 pp.1445-1450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、流入原水の性状変化に伴う硝化脱窒性能の低下を抑制でき、処理水の水質悪化を抑制可能な硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討したところ、処理中の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る新たな有機性廃水が処理槽内に供給される前に、予め処理槽内に外部からBOD源を供給することが有効であることを見出した。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本開示は一側面において、活性汚泥を収容した処理槽内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する硝化脱窒処理工程を有し、硝化脱窒処理工程において、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が処理槽内に供給される前に、処理槽内に外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行う工程を有する硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法である。
【0011】
本発明に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は一実施態様において、BOD源としてメタノールを供給する。
【0012】
本発明に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は別の一実施態様において、硝化脱窒処理工程において、第2の有機性廃水が処理槽内に供給される2~6週間前から処理槽内にBOD源を供給する。
【0013】
本発明に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は別の一実施態様において、処理槽内にBOD源を供給する前に、処理槽内のMLSS濃度を定常運転時よりも低下させることを含む。
【0014】
本発明に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は更に別の一実施態様において、硝化脱窒処理工程が、第1の有機性廃水及び第2の有機性廃水を脱窒処理する脱窒処理工程と、脱窒処理工程で得られる脱窒処理水を硝化処理する硝化処理工程と、を有し、BOD源が、脱窒処理工程において供給されることを含む。
【0015】
本発明に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は更に別の一実施態様において、硝化脱窒処理工程が、前段硝化脱窒処理工程と後段硝化脱窒処理工程とを有し、前段硝化脱窒処理工程に第2の有機性廃水が供給される前に、後段硝化脱窒処理工程において予め外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行い、後段硝化脱窒処理工程の硝化処理水を固液分離した処理汚泥を前段硝化脱窒処理工程へ返送する工程を有する。
【0016】
本発明は別の一側面において、活性汚泥を収容した処理槽内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する第1の硝化脱窒処理工程と、第1の硝化脱窒処理工程の後に、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水を処理槽内に供給し、第2の有機性廃水を硝化脱窒処理する第2の硝化脱窒処理工程と、を有し、第1の硝化脱窒処理工程において、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理するとともに、処理槽内に外部からBOD源を供給し、第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行う工程を有する有機性廃水の処理方法である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、アンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を脱窒処理する脱窒槽と、脱窒槽の脱窒処理水を硝化処理する硝化槽と、硝化槽の硝化処理水を固液分離する固液分離槽と、固液分離槽で固液分離される汚泥を脱窒槽の前段に返送する返送手段と、脱窒槽に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段と、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が脱窒槽へ供給されるタイミングの情報に基づき、第2の有機性廃水が脱窒槽へ供給される前に、脱窒槽に供給されるBOD源を定常状態時よりも増加させるようにBOD源供給手段を制御し、第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を促すBOD制御手段とを備える有機性廃水の処理装置である。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、アンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を脱窒処理する第1脱窒槽と、第1脱窒槽の脱窒処理水を硝化処理する第1硝化槽と、第1硝化槽の硝化処理水を脱窒処理する第2脱窒槽と、第2脱窒槽に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段と、第2脱窒槽の脱窒処理水を曝気する曝気槽と、曝気槽で得られる処理水を固液分離する固液分離槽と、固液分離槽で固液分離される汚泥を第1脱窒槽の前段に返送する返送手段と、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が第1脱窒槽へ供給されるタイミングの情報に基づき、第2脱窒槽に供給されるBOD源を定常状態時よりも増加させて第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行うように、第2脱窒槽に添加されるBOD源の添加率を制御するBOD制御手段とを備える有機性廃水の処理装置である。
【0019】
本発明に係る有機性廃水の処理装置は一実施態様において、第2の有機性廃水が第1脱窒槽に供給される前に、第1脱窒槽へ供給される返送汚泥量を定常値よりも増量させるように、返送手段を制御する返送汚泥制御手段を更に備える。
【0020】
本発明に係る有機性廃水の処理装置は別の一実施態様において、第1硝化槽の硝化処理水の一部を第1脱窒槽へ循環する循環手段を備え、第2の有機性廃水が第1脱窒槽に供給される前に、循環手段を介して第1脱窒槽へ循環される硝化処理水の循環水量を定常値よりも減量させるように、循環手段を制御する循環水制御手段を更に備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流入原水の性状変化に伴う硝化脱窒性能の低下を抑制でき、処理水の水質悪化を抑制可能な硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】標準脱窒素処理方式を利用した第1の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置の一例を示す概略図である。
図2】前脱水方式を利用した第1の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置の一例を示す概略図である。
図3】標準脱窒素処理方式を利用した第2の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置の一例を示す概略図である。
図4】嫌気性消化処理を前処理槽として組み込んだ第2の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置の一例を示す概略図である。
図5】実施例のし尿処理場を示す概略図である。
図6】標準脱窒素方式から前脱水方式へ処理方式の切替を行った際の放流水T-N濃度の推移の例を表すグラフである。
図7】実施例1と比較例の脱窒処理におけるメタノール脱窒菌の槽内存在量の推移のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
図8】実施例2の脱窒処理におけるメタノール脱窒菌の槽内存在量の推移のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1に標準脱窒素処理方式を利用した有機性廃水の処理装置の一例を示す。本発明の第1の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置は、有機性廃水を脱窒処理する脱窒槽1と、脱窒槽1の脱窒処理水を硝化処理する硝化槽2と、硝化槽2の硝化処理水を固液分離する固液分離槽3と、固液分離槽3で固液分離される汚泥を脱窒槽1の前段に返送する返送手段4と、脱窒槽1に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段6と、制御装置7とを備える。
【0025】
有機性廃水としては、アンモニア態窒素と固形分を含有する有機性廃水が用いられる。例えば、し尿、浄化槽汚泥、有機性汚泥、生ごみ等が有機性廃水として用いられ、典型的にはし尿及び浄化槽汚泥の混合物が用いられる。
【0026】
有機性廃水はドラムスクリーン8内に供給される。ドラムスクリーン8が備える円筒型のろ過体を回転させることにより、有機性廃水中の固形分が除去される。図1では、ドラムスクリーン8が設置された例を示しているが、有機性廃水中の固形分を除去可能な装置であればこれに限定されない。例えばドラムスクリーン8の代わりにバー式スクリーン、掻き揚げ式スクリーン、傾斜ワイヤ式スクリーン等が設けられてもよい。
【0027】
ドラムスクリーン8で固形分が除去された有機性廃水(除渣し尿)は、調整槽5内に供給され、固液分離槽3から返送される返送汚泥と混合される。調整槽5に収容された有機性廃水は、有機性廃水を硝化脱窒処理するための脱窒槽1と硝化槽2とを備える処理槽10内へ供給される。硝化槽2内には、有機性廃水を硝化処理するための硝化細菌を含む活性汚泥が収容され、硝化槽2内で活性汚泥を用いた硝化処理が行われる。硝化処理を経た硝化処理水は循環手段13によって脱窒槽1へ供給される。脱窒槽1内には、供給された硝化処理水を脱窒処理するための従属栄養細菌を含む活性汚泥が収容され、脱窒槽1内で活性汚泥を用いて硝化処理水中の硝酸態窒素を流入原水中のBODを利用した脱窒処理が行われる。脱窒槽1内で脱窒処理された脱窒処理水は硝化槽2へ供給される。
【0028】
硝化槽2で得られた硝化処理水は、固液分離槽3へ供給され、処理水と処理汚泥とに固液分離される。固液分離槽3としては、例えば沈殿池が用いられる。処理汚泥は、引抜ポンプ等を備える返送手段4を介して調整槽5に返送され、ドラムスクリーン8から供給された有機性廃水と混合された後に、脱窒槽1へ返送される。硝化槽2と脱窒槽1との間には、硝化槽2の硝化処理水の循環水として脱窒槽1へ循環させる循環手段13が設けられている。循環水量は、通常であれば流入原水の10~30倍程度とすることが多い。
【0029】
BOD源供給手段6は、脱窒槽1内に外部からBOD源を添加する。BOD源としてはメタノールを用いることが好ましい。メタノールは生分解性が高く、脱窒反応において微生物に速やかに利用されるため、BOD源としてメタノールを利用することにより、脱窒処理ではより効率的に窒素除去が行える。また、BOD源として用いられ得る他の有機物等と比較してもコストにおいても優れ、汎用性にも優れる。
【0030】
制御装置7は、BOD源供給手段6、循環手段13、及び返送手段4にそれぞれ接続されている。制御装置7は、BOD源供給手段6、循環手段13、及び返送手段4へそれぞれ制御信号を出力することにより、BOD源供給手段6によるBOD源の添加率の制御、添加開始及び添加停止の制御、循環手段13による循環水の循環流量制御及び循環水の供給又は停止の制御、返送手段4による返送汚泥の返送量制御及び返送又は返送停止の制御等を行う。
【0031】
図2は、図1のドラムスクリーン8の代わりに、前処理槽9として脱水装置を配置した前脱水方式の有機性廃水の処理装置の一例を示す。図1に示す標準脱窒素処理方式から図2に示す前脱水方式への設備の切替を行う場合、設備の切替に伴って、脱窒槽1へ流入する有機性廃水の性状が大きく変動する。
【0032】
例えば、図1の標準脱窒素処理方式を利用したし尿処理場では、ドラムスクリーン8で処理される除渣し尿(本明細書では「第1の有機性廃水」ともいう)の性状は、例えば、SSが1,000~30,000mg/L、生物学的酸素要求量(BOD)が2,000~20,000mg/L、全窒素(T-N)が300~3,500mg/L、BODと全窒素の比(BOD/T-N)が3.0~5.0程度である。
【0033】
一方、図2に示すような前脱水方式へ設備の切替を行うと、前処理槽9で処理された脱水処理液(本明細書では「第2の有機性廃水」ともいう)は、脱水処理によってSS、BOD等が多く除去されるために、典型的にはBOD濃度が低く、BOD濃度に対する窒素濃度の比率が大きく高まる。以下に限定されるものではないが、例えば、前処理槽9として脱水装置を用いた場合、脱水処理液の性状は、例えば、SSが700~20,000mg/L、BODが600~6,000mg/L、全窒素(T-N)が200~2,000mg/L、BODと全窒素の比(BOD/T-N)が1.0~3.0程度となる。
【0034】
その結果、脱窒槽1においては、ドラムスクリーン8から前処理槽9への設備の交換の直後に、脱窒槽1へ流入する有機性廃水の窒素除去のために活性汚泥が消費するBODが不足する。これにより、活性汚泥による脱窒処理が一時的に不足し、脱窒処理水の硝酸態窒素(NOx-N)濃度が高いまま硝化槽2へと流入する。硝化槽2以降においては脱窒処理がなされないため、処理水のNOx-N濃度が高いまま放流時のT-Nの水質基準を満足できない状況が生じる場合がある。
【0035】
本発明の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置によれば、BOD制御手段71が、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が脱窒槽1へ供給されるタイミングの情報をもとに、この第2の有機性廃水が脱窒槽1へ供給される前の所定の期間に、予め脱窒槽1に供給されるBOD源を定常状態時よりも増加させるようにBOD源供給手段6を制御する。例えば、BOD制御手段71は、図1のドラムスクリーン8から図2の脱水装置で構成される前処理槽9へと設備を切り替え、脱窒槽1内に前処理槽9で処理された有機性廃水が流入する日時の情報が既知である場合には、その日時より前の所定の期間からBOD源が脱窒槽1内へ定常状態時よりも多く供給されるようにBOD源供給手段6を制御する。
【0036】
これにより、設備の切替前から、設備の切替直後に流入するBOD濃度の低い第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を事前に促すことができるとともに、活性汚泥の脱窒処理に必要なBOD源が不足しないようにBOD源を脱窒槽1に補うことができる。その結果、設備の切替直後に、BOD濃度の低い有機性廃水が脱窒槽1へ流入しても、予め馴養した活性汚泥により、添加されたBOD源を利用した脱窒処理を十分に行うことができ、設備切替に伴う一時的な処理水の水質悪化が抑制される。
【0037】
BOD制御手段71は、有機性廃水よりもBOD濃度が低く、脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が流入する時点を基準とした場合に、その基準時の2~6週間前、一実施態様では2~4週間前、更なる実施態様では2~3週間前から脱窒槽1へのBOD源の供給量を増加させるように、BOD源供給手段6を制御することが好ましい。これにより、流入原水の大きな性状変化が生じたとしても、脱窒槽1における脱窒処理をより安定的に行うことができる。
【0038】
BOD制御手段71は、脱窒槽1へのBOD源の供給量を連続的に徐々に増加させるように、或いは段階的に増加させるように、BOD源供給手段6を制御することが好ましい。例えば、BOD制御手段71は、BOD源を、設備の切替後の定常状態時(定格値)の0.5倍、1倍、2倍と徐々に増加させて、4週間程度供給することにより、脱窒槽1内の活性汚泥の馴養をより円滑に行うことができる。
【0039】
更には、脱窒槽1へ外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を促進させる前に、脱窒槽1内のMLSS濃度を定常運転時(定常値)よりも下げるように調整しておくことが好ましい。これにより、脱窒槽1内の活性汚泥に対する、外部から添加されたBOD源を利用可能な脱窒菌の発生比率を高めることができるため、第2の有機性廃水の処理に好適な活性汚泥の馴養をより円滑に行うことができる。MLSS濃度の調整は、脱窒槽1で処理される脱窒処理水の水質が悪化しない程度に下げておく必要がある。以下に限定されないが、脱窒槽1内のMLSS濃度が定常状態時のMLSS濃度に対して80%以下、典型的には50~80%程度、より好ましくは60~70%程度となるように調整することが好ましい。
【0040】
例えば、脱窒槽1において除渣し尿を脱窒処理する場合には、MLSS濃度は典型的には4000~7000mg/L程度であるが、脱窒槽1にBOD源を外部から供給する場合には、BOD源の供給前に、脱窒槽1内のMLSS濃度を例えば3000~5000mg/L程度に下げておくことが好ましい。
【0041】
MLSS濃度を調整する方法としては、例えば、脱窒槽1に設けられたMLSS計の測定結果等に基づいて、返送汚泥制御手段72が、脱窒槽1内のMLSS濃度が低くなるように、返送汚泥の返送比を一時的に少なくする手法がある。或いは、MLSS濃度を調整するためのバックアップ槽を1又は複数槽配置し、バックアップ槽を用いて調整を行うことも可能である。
【0042】
他方、別途培養槽(不図示)を設けておき、返送汚泥を用いて外部から供給するBOD源に対して好適条件で馴養を行い、得られた汚泥を調整槽5又は脱窒槽1へ添加することもまた好ましい。例えばメタノールをBOD源として供給する場合は、培養槽のpHを7.0~8.5付近、より好ましくはpH8.0程度、温度15~30℃、より好ましくは25℃程度として活性汚泥の馴養を行うことが好ましい。
【0043】
(硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法)
本発明の第1の実施の形態に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は、例えば図1に示す有機性廃水の処理装置で処理することができる。この馴養方法は、活性汚泥を収容した処理槽10内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する硝化脱窒処理工程を有する。この硝化脱窒処理工程は、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理するとともに、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が処理槽10内に供給される前に、処理槽10内に外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行う工程を有する。
【0044】
「第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水」とは、上述したように、例えば、図2の前処理槽9等によって有機性廃水に対してSS、BOD等が低減されるような所定の前処理を行うことにより、有機性廃水由来の脱窒のためのBOD源の濃度が第1の有機性廃水とは異なる廃水を指す。
【0045】
以下に限定されるものではないが、図1の有機性廃水の処理装置を用いた場合の第1の有機性廃水は、BODが2,000~20,000mg/L程度、T-Nが300~3,500mg/L程度であるが、図2の前処理槽9によって前処理を行った場合の第2の有機性廃水は、BODが600~6,000mg/L程度、T-Nが200~2,000mg/L程度となる。
【0046】
処理槽10内で第1の有機性廃水を硝化脱窒処理しながら、第1の有機性廃水の処理中にBOD源を外部から処理槽10内に供給しておくことにより、第2の有機性廃水が供給される前に、予め処理槽10内に外部から添加されたBOD源に対する馴養を経た活性汚泥を十分量収容しておくことができる。また、第2の有機性廃水が処理槽10内に流入した直後も、脱窒処理に必要なBOD源は脱窒槽1内に補われるため、活性汚泥による一時的な処理不足による処理水の水質悪化を抑制できる。
【0047】
硝化脱窒処理工程は、第1の有機性廃水及び第2の有機性廃水を脱窒槽1で脱窒処理する脱窒処理工程と、脱窒処理工程で得られる脱窒処理水を硝化槽2で硝化処理する硝化処理工程と、を有し、BOD源が、脱窒処理工程において脱窒槽1に供給されることが好ましい。脱窒処理工程においてBOD源が外部から脱窒槽1に供給されることで、脱窒に必要なBOD源を十分に補うことができるため脱窒処理を安定的に進めることができる。
【0048】
(有機性廃水の処理方法)
本発明の第1の実施の形態に係る有機性廃水の処理方法は、活性汚泥を収容した処理槽10内でアンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する第1の硝化脱窒処理工程と、第1の硝化脱窒処理工程の後に、処理槽10内に第2の有機性廃水を供給し、第2の有機性廃水を硝化脱窒処理する第2の硝化脱窒処理工程とを有する。
【0049】
例えば、第1の硝化脱窒処理工程では、図1に示す有機性廃水の処理装置を用いて、ドラムスクリーン8を用いて固形分を取り除いた後の有機性廃水を処理槽10へ供給して硝化脱窒処理する。その後、ドラムスクリーン8を図2の前処理槽9に交換し、有機性廃水を前処理槽9で前処理を行って、BOD、SS等を除去することにより、第1の有機性廃水よりもBOD濃度が低い第2の有機性廃水を得る。次に、第2の有機性廃水を処理槽10へ供給して硝化脱窒処理する。
【0050】
第1の硝化脱窒処理工程においては、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理するとともに、処理槽10内に外部からBOD源を供給し、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行う工程を有することが好ましい。
【0051】
本発明の第1の実施の形態に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法、有機性廃水の処理方法および有機性廃水の処理装置によれば、装置の切替等に伴う流入原水のBOD源の組成が変化した後も、良好な脱窒性能を発揮できるため、処理水の水質悪化を抑制して、水質基準を満足することが可能なより安全な放流水を得ることができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置は、図3に示すように、アンモニア態窒素を含有する第1の有機性廃水及び第2の有機性廃水を脱窒処理する第1脱窒槽11と、第1脱窒槽11の脱窒処理水を硝化処理する第1硝化槽12と、第1硝化槽12の硝化処理水を脱窒処理する第2脱窒槽21と、第2脱窒槽21に外部からBOD源を供給するBOD源供給手段6aと、第2脱窒槽21の脱窒処理水を曝気する曝気槽22と、曝気槽22で得られる処理水を固液分離する固液分離槽3と、固液分離槽3で固液分離される汚泥を第1脱窒槽11の前段に返送する返送手段4と、第1の有機性廃水を硝化脱窒処理する条件では脱窒処理不足が生じ得る第2の有機性廃水が第1脱窒槽11へ供給されるタイミングの情報に基づいて、第2脱窒槽21に供給されるBOD源を定常状態時よりも増加させて第2の有機性廃水を硝化脱窒処理可能な活性汚泥の馴養を行うように、第2脱窒槽21に添加されるBOD源の添加率を制御するBOD制御手段71とを備える。第1脱窒槽11には、外部からBOD源を供給するためのBOD源供給手段6bが接続されている。他は図1に示す有機性廃水の処理装置と同様である。
【0053】
第2の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置では、第1脱窒槽11と第1硝化槽12において前段硝化脱窒処理を行い、第2脱窒槽21及び曝気槽22において後段硝化脱窒処理を行う。第2の実施の形態に係る有機性廃水の処理装置によれば、脱窒槽を2槽以上備えるため、例えば、前段の第1脱窒槽11で通常の硝化脱窒処理の運転を継続しながら後段の第2脱窒槽21で活性汚泥の馴養を行うことにより、硝化脱窒処理と活性汚泥の馴養を並行して緩やかに行うことができる。
【0054】
図4は、硝化脱窒処理の前処理槽9として、有機性廃水を嫌気性消化処理する嫌気性消化槽を配置した場合の有機性廃水の処理装置の例を示している。図3のドラムスクリーン8で得られる残渣し尿に比べて、図4の前処理槽9で得られる嫌気性消化液は、SS、BOD等の濃度が低くなっているため、図3のドラムスクリーン8から図9の嫌気性消化槽への装置の切替に伴い、第1脱窒槽11へ流入する有機性廃水の性状が大きく変動する。
【0055】
そこで、第2の実施の形態では、図3のBOD制御手段71が、装置の切替等に伴い、図4の前処理槽9で処理された嫌気性消化液が、第1脱窒槽11へ流入する時点の例えば4週間前に、BOD源供給手段6aを介して第2脱窒槽21へ外部からBOD源の供給を開始し、BOD源の供給を徐々に増やすようにBOD源の供給量を制御する。これにより、第1脱窒槽11及び第1硝化槽12では、通常の硝化脱窒処理を行いながら、第2脱窒槽21及び曝気槽22において、嫌気性消化液を処理するための活性汚泥の馴養を緩やかに完了させることができる。
【0056】
第2脱窒槽21で過剰のBOD源が供給されたとしても、その後段の曝気槽22で十分曝気を行うことによりBOD源を分解することができるため、固液分離槽で得られる処理水へのBODの残存も抑制することができ、水質悪化を防ぐことができる。そして、第2脱窒槽21での活性汚泥の馴養が完了した後、定格値の1倍程度前段の第1脱窒槽11へBOD源供給手段6bを介して外部からBOD源を添加することで、約2週間で馴養が完了する。なお、第2脱窒槽21でのBOD源の添加量を定格値の2倍程度にして馴養期間を短縮することも可能である。
【0057】
嫌気性消化液が第1脱窒槽11へ供給されるようになり、第1脱窒槽11内での従来の条件では脱窒処理が不十分になり得る場合は、BOD制御手段71は、BOD源供給手段6bを介し第1脱窒槽11にメタノール等のBOD源を追加的に供給することもできる。これにより、第1脱窒槽11前段の処理装置の切替が行われた場合でも、切替後の有機性廃水を効率良く処理することができ、有機性廃水の性状変動に伴う処理水の水質悪化の問題を抑制できる。
【0058】
返送汚泥制御手段72は、第1脱窒槽11への嫌気性消化液の流入が始まる前に、第2脱窒槽21において馴養された活性汚泥をより多く調整槽5へ返送し、第1脱窒槽11での活性汚泥の馴養を促すために、嫌気性消化液の流入が始まる前の一定期間の間、返送汚泥の返送量(返送汚泥量)を定常状態時(定常値)よりも多くなるように返送手段4を制御することが好ましい。例えば、定常値の返送量をQ(m3/d)とした場合に、第2脱窒槽21でBOD源を添加して馴養を行っている期間の返送汚泥量は、水質に影響を及ぼさない程度で例えば1.1~1.5Q、更には1.2~1.4Qとすることができる。
【0059】
第2脱窒槽21へ外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を促進させる前に、第1脱窒槽11の処理性能が悪化しない程度に、第1脱窒槽11内のMLSS濃度が定常運転時よりも低くなるように調整しておくことが好ましい。第1の実施の形態と同様に、第2の実施の形態においても、第1脱窒槽11内のMLSS濃度が定常運転時のMLSS濃度に対して80%以下、典型的には50~80%程度、より好ましくは60~70%程度となるように調整することが好ましい。
【0060】
循環水制御手段73は、硝化脱窒水を第1硝化槽12から第1脱窒槽11へ循環させる循環手段13の循環流量を制御する。例えば、第2脱窒槽21で活性汚泥の馴致を行う場合、循環水制御手段73は、循環水の循環流量を定常値よりも減量させ、窒素分が残存する硝化脱窒水を第2脱窒槽21へ供給し、第2脱窒槽21で活性汚泥の馴致を促すように循環手段13を制御することが好ましい。例えば、定常状態時の返送量をQ(m3/d)とした場合に、第2脱窒槽21でBOD源を添加して馴養を行っている期間の循環水量は、0.5~0.9Q、好ましくは0.6~0.8Q、さらに好ましくは0.7~0.8Qである。0.5Q以上とすることで、第2脱窒槽21での処理が可能なため、より水質を悪化させることがない。また、0.9Q以下とすることで、第1脱窒槽11における脱窒量を制限し、十分な量の硝酸態窒素を第2脱窒槽21に供給して馴養を行うことができる。
【0061】
(硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法)
第2の実施の形態に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法は、硝化脱窒処理工程が、前段硝化脱窒処理工程と後段硝化脱窒処理工程とを有し、前段硝化脱窒処理工程に第2の有機性廃水が供給される前に、後段硝化脱窒処理工程において予め外部からBOD源を供給して活性汚泥の馴養を行い、後段硝化脱窒処理工程で得られる処理汚泥を前段硝化脱窒処理工程へ返送する工程を有する点が、第1の実施の形態に係る硝化脱窒処理における活性汚泥の馴養方法と異なる。
【0062】
第2の実施の形態に係る馴養方法によれば、脱窒槽が2槽以上あるため、循環水量を下げて後段の第2脱窒槽21での窒素負荷を増やすことで、第1脱窒槽11で通常の運転を継続しながら緩やかに活性汚泥の馴養を行うことができる。
【実施例0063】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0064】
(装置切替処理を行った場合の放流水のT-N濃度の推移)
図5に示すし尿処理場において、標準脱窒素方式から前脱水方式へ処理方式の切替を行った際の放流水T-N濃度の推移の例を図6に示す。ここでは、処理方式の切り替えによる脱窒処理への影響を小さくするため、4日目までは流入負荷を平常時の半分にして処理を行い、その後、平常の負荷に戻して処理を行った。なお、脱窒のためのBOD源としてはメタノールを使用した。T-N濃度の上昇に合わせてメタノール必要量を計算して添加した。しかしながら、処理系内にメタノールを用いて脱窒する菌が十分量存在しなかったため、T-N濃度は約2週間上昇し続け、切り替えから12日後で最大で放流基準値(10mg/L)付近まで上昇した。その後メタノール脱窒菌の増加とともにT-N濃度は低下し始め、3週間経過後から処理が安定した。
【0065】
(シミュレーション結果)
図5に示すし尿処理場において、標準脱窒素方式から前脱水方式へ処理方式の切替を行った場合における第1脱窒槽のメタノール脱窒菌量の推移についてのシミュレーションを行った。表1及び表2に処理条件を示す。なお、いずれの態様においてもT-N除去に必要なBODをT-N除去量の3倍とし、処理に必要なメタノール量は、処理に不足するBODを補うためのものとして算出した。定常状態(前脱水方式への切替後の通常状態)では、流入BOD負荷が減るため、メタノール量を増やし、第2脱窒槽では前段までの処理で処理しきれなかったT-Nを全て脱窒させるように設定した。また、比較例と実施例1では、第1硝化槽まででT-N流入負荷の97%、実施例2では馴養段階で94%、定常状態で97%が除去されるものとした。表1では、し尿由来BODで除去されるT-Nをし尿由来BODの1/3とし、メタノールで除去されるT-Nは、T-N流入負荷から、し尿由来BODで除去されるT-Nを減算した値とした。第2脱窒槽へのT-N流入負荷は、原水T-Nの流入負荷に対して3~6%となるようにし、第2脱窒槽での必要量は馴養時はメタノールで除去されるT-Nと同等とし、第1脱窒槽での必要量は処理に必要なメタノール量から第2脱窒槽での必要量を減算することにより算出した。また、表2の各収率は、活性汚泥に含まれる各種の菌が流入負荷を処理した際にどれだけの量の菌体が発生するかを示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】
【0068】
(比較例及び実施例1)
図5に示すし尿処理場において、馴養を行わずに、処理方式切り替え直後にメタノールの添加を始めた場合を比較例とし、処理方式切り替え前から硝化脱窒処理を行いながら馴養を実施した場合を実施例1とした場合における、それぞれのメタノール脱窒菌の槽内存在量の推移を図7に示す。事前に馴養を行わなかった比較例では、BOD源切替から10日後にようやくメタノール脱窒菌が必要量まで増加することがわかる。ただし、この結果は、メタノール添加量を系内汚泥の処理可能な最大値で毎日添加していることから過大評価であり、実際には図6の例のように最低でも2~3週間は必要になると考えられる。
【0069】
馴養を行った実施例1では、馴養開始から20日後にメタノール脱窒菌が必要量まで増加することが分かる。馴養中のメタノールの添加量として、切り替え後の添加量(定常状態)に対して0.5倍、1倍、2倍と順に増加させたことで、活性汚泥のメタノール利用能力に余裕を持たせることができた。なお、比較例および実施例1では、メタノール添加量を決定するために、メタノール脱窒菌の存在量やメタノール脱窒活性の評価を行い、添加量が汚泥による分解能力を超えないように注意する必要がある。
【0070】
(実施例2)
第2脱窒槽で脱窒量を増やし、その後第1脱窒槽にもメタノール添加を行った場合のメタノール脱窒菌の槽内存在量の推移のシミュレーション結果を図8に示す。第2脱窒槽での脱窒量を増やした結果、第1脱窒槽にメタノールを添加することなく、28日間で系内のメタノール脱窒菌存在量を約1.6倍に増やすことができることが分かる。その後、前段の第1脱窒槽にて定常状態時の1倍のメタノールを添加することで、11日間で必要な脱窒菌量を確保できる。本方式では、メタノール添加量の細かな調整が不要であることから、添加量調整に係る諸作業は省略でき、簡便に活性汚泥を馴養できることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
1…脱窒槽
2…硝化槽
3…固液分離槽
4…返送手段
5…調整槽
6、6a、6b…BOD源供給手段
7…制御装置
8…ドラムスクリーン
9…前処理装置
10…処理槽
11…第1脱窒槽
12…第2硝化槽
13…循環手段
21…第2脱窒槽
22…曝気槽
71…BOD制御手段
72…返送汚泥制御手段
73…循環水制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8