(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143336
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】凝集体および粉粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C08J3/16 CER
C08J3/16 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050657
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 彩加
(72)【発明者】
【氏名】石原 守雄
(72)【発明者】
【氏名】芦田 知亮
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA06
4F070AA32
4F070CB12
4F070DA34
4F070DA38
4F070DB01
4F070DC07
4F070DC08
(57)【要約】
【課題】従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用できる、新規の凝集体の製造方法を提供する。
【解決手段】ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを接触させる第一の接触工程と、前記第一の接触工程で得られた前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の接触工程と、を含む凝集体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のノズルから重合体微粒子のラテックスを鉛直方向に噴霧および/または滴下し、さらに、第2のノズルから添加剤溶液を噴霧および/または滴下することで、前記ラテックスの液滴と、前記添加剤溶液の液滴とを接触させる第一の接触工程と、
前記第2のノズルより下方に位置する第3のノズルから凝固剤溶液を噴霧して、前記第一の接触工程で得られた前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の接触工程と、を含む凝集体の製造方法。
【請求項2】
前記凝固剤溶液を水平方向に噴霧する、請求項1に記載の凝集体の製造方法。
【請求項3】
前記添加剤溶液は、水溶性高分子を含む、請求項1または2に記載の凝集体の製造方法。
【請求項4】
前記添加剤溶液を水平方向または鉛直方向に噴霧する、請求項1~3の何れか1項に記載の凝集体の製造方法。
【請求項5】
前記ラテックス中の前記重合体微粒子の濃度は、前記ラテックス100重量%中、10重量%~55重量%である、請求項1~4の何れか1項に記載の凝集体の製造方法。
【請求項6】
前記凝固剤の噴霧量は、前記重合体微粒子の噴霧量および滴下量の合計100重量部に対し、1重量部~30重量部である、請求項1~5の何れか1項に記載の凝集体の製造方法。
【請求項7】
前記重合体微粒子は、弾性体と、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する、請求項1~6の何れか1項に記載の凝集体の製造方法。
【請求項8】
前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む、請求項7に記載の凝集体の製造方法。
【請求項9】
前記グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなる、請求項7または8に記載の凝集体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の凝集体の製造方法により得られた前記凝集体を回収する回収工程と、
回収された前記凝集体を乾燥する乾燥工程と、を含む、重合体微粒子の粉粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凝集体および粉粒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体微粒子の粉粒体は、耐衝撃性改質剤等の樹脂改質剤等の用途に使用されている。このような粉粒体を製造する方法として、重合体微粒子のラテックスを凝固することで、凝集体を形成し、該凝集体を乾燥する方法が提案されている。
【0003】
このような重合体微粒子のラテックスを凝固することで凝集体および粉粒体を得る方法として、特許文献1には、凝固剤溶液を煙霧体状として含有する気相中に、増粘剤を含む重合体微粒子のラテックスを噴霧または滴下する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は優れた技術であるが、使用できる添加剤(増粘剤)の種類および/または量に制限があり、この点について改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用できる、重合体微粒子の粉粒体を提供できる、新規の凝集体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕第1のノズルから重合体微粒子のラテックスを鉛直方向に噴霧および/または滴下し、さらに、第2のノズルから添加剤溶液を噴霧および/または滴下することで、前記ラテックスの液滴と、前記添加剤溶液の液滴とを接触させる第一の接触工程と、前記第2のノズルより下方に位置する第3のノズルから凝固剤溶液を噴霧して、前記第一の接触工程で得られた前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の接触工程と、を含む凝集体の製造方法。
〔2〕前記凝固剤溶液を水平方向に噴霧する、〔1〕に記載の凝集体の製造方法。
〔3〕前記添加剤溶液は、水溶性高分子を含む、〔1〕または〔2〕に記載の凝集体の製造方法。
〔4〕前記添加剤溶液を水平方向または鉛直方向に噴霧する、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載の凝集体の製造方法。
〔5〕前記ラテックス中の前記重合体微粒子の濃度は、前記ラテックス100重量%中、10重量%~55重量%である、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載の凝集体の製造方法。
〔6〕前記凝固剤の噴霧量は、前記重合体微粒子の噴霧量および滴下量の合計100重量部に対し、1重量部~30重量部である、〔1〕~〔5〕の何れか1つに記載の凝集体の製造方法。
〔7〕前記重合体微粒子は、弾性体と、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する、〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載の凝集体の製造方法。
〔8〕前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む、〔7〕に記載の凝集体の製造方法。
〔9〕前記グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体からなる、〔7〕または〔8〕に記載の凝集体の製造方法。
〔10〕〔1〕~〔9〕の何れか1つに記載の凝集体の製造方法により得られた前記凝集体を回収する回収工程と、回収された前記凝集体を乾燥する乾燥工程と、を含む、重合体微粒子の粉粒体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用できる、新規の凝集体および粉粒体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0011】
〔1.本発明の技術的思想〕
重合体微粒子を含むラテックス(以下、ラテックスと称する場合がある)から、重合体微粒子の凝集体および粉粒体を製造する方法として、先ず、該重合体微粒子を含むラテックスを気相中に噴霧または滴下し、該気相中に噴霧した凝固剤と接触させることで凝固させ、凝集体を得、該凝集体を乾燥することで、粉粒体を得る方法が知られている。
【0012】
特許文献1には、このような凝集体および粉粒体の製造において、気相中に噴霧または滴下するラテックスに、非イオン性水溶性高分子からなる添加剤を添加することで、換言すると、添加剤を含むラテックスを噴霧または滴下することで、凝集体および粉粒体を提供する方法が提案されている。
【0013】
本発明者らは、重合体微粒子の凝集体および粉粒体の製造方法について鋭意検討する中で、特許文献1に記載のような凝集体の製造方法においては、添加剤を含むラテックスが一定以上の粘度(例えば、100mPa・sを超える粘度)を有する場合、該添加剤を含むラテックスを噴霧または滴下するためのノズルを閉塞させてしまうという問題があることを見出した。換言すると、特許文献1に記載の方法においては、噴霧または滴下する添加剤を含むラテックスの粘度を一定未満に制御する必要があるという問題があることを見出した。
【0014】
また、本発明者らは、添加剤を含むラテックスにおいて、該添加剤を含むラテックスの粘度は、添加する添加剤の種類、濃度および量の影響を大きく受けること、ならびに、添加剤自体の粘度に加え、ラテックス中の重合体微粒子と添加剤とが相互作用することによっても、混合液の粘度は大きく上昇することも見出した。そのため、特許文献1に記載のような凝集体の製造方法においては、ラテックスの粘度を一定未満(ノズルが閉塞しない程度)に制御するために、実質的に使用できる添加剤の種類および量が制限されており、この点について、さらなる改善の余地があった。
【0015】
本発明の一実施形態は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用できる、新規の凝集体および粉粒体の製造方法を提供することである。
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の知見を新たに見出し、本発明を完成するに至った:ラテックスと、添加剤溶液とを別のノズルから噴霧および/または滴下することで、従来の方法と比してより多くの種類、濃度および量の添加剤を使用できること。さらに本発明者は、気相中でラテックスと添加剤溶液を接触させる第一の接触工程と、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤を含む溶液を、凝固剤溶液と接触させる第二の接触工程と、を含む方法によれば、粉体特性に優れる粉粒体を提供できる、凝集体を提供できることも、見出した。
【0017】
ラテックスと添加剤溶液とをそれぞれ異なるノズルから噴霧および/または滴下する場合、それぞれの液体は、従来の方法のようにラテックスと添加剤とを混合した場合と比して、単独では比較的粘度が低いため、該従来の方法では実質的に使用できなかった種類、濃度および量の添加剤を使用した場合であっても、ノズルの閉塞が発生しない。そのため、本発明の一実施形態に係る凝集体の製造方法によれば、従来の方法と比してより多くの種類、濃度および量の添加剤を使用することができる。このように、より多くの種類、濃度および量の添加剤を使用できれば、得られる粉粒体の粉体特性をより改善することができる。
【0018】
ラテックス、添加剤、および、凝固剤を使用して凝集体を製造する方法(凝集体の製造方法)においては、ラテックスと凝固剤が接触した後に、該ラテックスに添加剤を接触させた場合、該添加剤による効果(例えば、粉体特性の改善)を享受できない、あるいは、該効果が低下する場合がある。本発明の一実施形態に係る凝集体の製造方法においては、先ずラテックスと添加剤とを接触させ(ラテックスおよび添加剤の混合液を得)、得られたラテックスおよび添加剤の混合液に、凝固剤を接触させることができるため、換言すると、ラテックスに対して、添加剤、および、凝固剤をこの順で接触させることができるため、添加剤による効果(例えば、粉体特性の改善)を最大限に享受することができる。
【0019】
〔2.凝集体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る凝集体の製造方法は、第1のノズルから重合体微粒子のラテックスを鉛直方向に噴霧および/または滴下し、さらに、第2のノズルから添加剤溶液を噴霧および/または滴下することで、前記ラテックスの液滴と、前記添加剤溶液の液滴とを接触させる第一の接触工程と、前記第2のノズルより下方に位置する第3のノズルから凝固剤溶液を噴霧して、前記第一の接触工程で得られた前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の接触工程と、を含む。
【0020】
本明細書において、本発明の一実施形態に係る凝集体の製造方法を、以下「本凝集体の製造方法」と称する場合もある。
【0021】
本凝集体の製造方法によれば、従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用することができる。従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用することができれば、粉体特性に優れる重合体微粒子の粉粒体を提供できる凝集体を提供し得る。このような粉体特性に優れる粉粒体は、熱硬化性樹脂等のマトリクス樹脂の改質剤として好適に使用することができる。
【0022】
本明細書において、重合体微粒子のラテックスを、「ラテックス」と称する場合があり、重合体微粒子の凝集体を、単に「凝集体」と称する場合があり、本凝集体の製造方法により得られる重合体微粒子の凝集体を、以下「本凝集体」と称する場合もある。また、重合体微粒子の粉粒体を、「粉粒体」と称する場合がある。
【0023】
以下、本凝集体の製造方法において使用する原料(成分)および装置などについて詳説した後、本凝集体の製造方法の工程について説明する。
【0024】
(2-1.ラテックス)
本明細書において「ラテックス」とは、溶媒および重合体微粒子を含み、重合体微粒子が溶媒中で分散して存在する溶液を意図する。「ラテックス」は、重合体微粒子を含むラテックスであり、「重合体微粒子の懸濁液」ともいえる。ラテックスの溶媒としては特に限定されないが、例えば水が挙げられる。溶媒が水であるラテックスは、「水性ラテックス」と称される場合もあり、「重合体微粒子の水性懸濁液」ともいえる。ラテックスの溶媒中、重合体微粒子は、1次粒子の状態で分散していることが好ましい。
【0025】
ラテックスにおける重合体微粒子の濃度は、特に限定されないが、ラテックス100重量%中、10重量%~55重量%であることが好ましく、20重量%~50重量%であることがより好ましく、30重量%~50重量%であることがさらに好ましい。ラテックスおける重合体微粒子の濃度が上記の範囲内である場合、得られる凝集体は、より良好な嵩比重を有する粉粒体を提供し得る。なお、ラテックスのおける重合体微粒子の濃度は、重合体微粒子の製造過程において使用する溶媒(例えば水)の量、および使用する単量体の量などを適宜変更することにより、調節することができる。
【0026】
ラテックスにおける重合体微粒子の濃度は、例えば、ラテックス0.5gを120℃の熱風対流型乾燥機に3時間入れて水分を蒸発させ、乾燥後の残留物(固形分)の重量W(g)を測定し、得られた値(W(g))を乾燥前のラテックスの重量0.5gで除し、得られた値に100を乗じることにより算出することができる。乾燥後の残留物、すなわち固形分は、重合体微粒子を主として含むが、重合体微粒子以外の成分も含み得る。そのため、上述の方法で算出される「ラテックス中の重合体微粒子の濃度」は、「ラテックス中の固形分の濃度」と言い換えることもできる。
【0027】
ラテックスの25℃における粘度は、特に限定されないが、得られる凝集体から粉粒体を製造する際に発生する微粉の量を低減できることから、10mPa・s以上であることが好ましく、15mPa・s以上であることがより好ましく、20mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、ラテックスの25℃における粘度の上限は、特に限定されないが、100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることがさらに好ましい。粘度が100mPa・s以下であるラテックスは、ノズル(第1のノズル)から円滑に噴霧および/または滴下することができ、ノズルの閉塞を防止することができる。
【0028】
なお、ラテックスの粘度は、ラテックスにおける固形分濃度(ラテックスにおける重合体微粒子の濃度)などを適宜変更することにより、調節することができる。
【0029】
ラテックスの粘度は、25℃のラテックスに対して、キャノン・フェンスケ、キャノン・フェンスケ逆流形、ウベローデ、ブルックフィールド(B型粘度計)等の粘度計により測定することができる。ラテックスの粘度の測定方法は、下記実施例にて詳述する。
【0030】
重合体微粒子を含むラテックスは、公知の方法、例えば、重合体微粒子の乳化重合法、あるいは、溶媒中に重合体微粒子および乳化剤を懸濁させる方法などにより製造することができる。重合体微粒子の乳化重合法は、後述の(2-3.重合体微粒子の製造方法)の項にて詳述される。
【0031】
(2-2.重合体微粒子)
重合体微粒子は、重合により得られる微粒子である限り、その他の態様としては特に限定されない。重合体微粒子は、(a)1種類の重合体(第一重合体)のみからなるものであっても良いし、(b)第一重合体を覆う第二重合体を有する、2種類以上の重合体からなるものであっても良い。また、これらの重合体は、グラフト部を有するものであっても良い。
【0032】
重合体微粒子は、第一重合体と、それを覆う第二重合体とに加え、さらに、一般的に用いられている他の加工助剤のような別成分を含んでいてもよい。なお、各重合体が一層構造となっていてもよく、多層構造となっていてもよい。すなわち、重合体微粒子は、例えば、第一重合体、第二重合体、および、他の加工助剤等の別成分のそれぞれが一層構造であってもよく、多層構造であってもよく、一層構造と、多層構造の組み合わせであっても良い。なお、重合体微粒子において、第二重合体は、第一重合体の少なくとも一部を覆うように存在している。すなわち、重合体微粒子中において、第二重合体は、第一重合体の外側に存在している。第一重合体と第二重合体は互いに化学結合していないことが好ましい。
【0033】
(グラフト部)
重合体微粒子は、グラフト部を有することが好ましい。本明細書において、「グラフト部」とは、任意の重合体に対してグラフト結合された重合体を意図する。グラフト部を有する重合体微粒子は、グラフト共重合体ともいえる。すなわち、重合体微粒子は、グラフト共重合体であることが好ましい。重合体微粒子がグラフト共重合体である場合、本凝集体の製造方法、および後述する粉粒体の製造方法において、重合体微粒子が好適な挙動を示すことができるという利点を有する。
【0034】
グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体であることが好ましい。前記構成を有するグラフト部は、種々の役割を担うことができる。「種々の役割」とは、例えば、(i)重合体微粒子と、マトリクス樹脂との相溶性を向上させること、(ii)マトリクス樹脂中における重合体微粒子の分散性を向上させること、および(iii)マトリクス樹脂および重合体微粒子を含む樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する)またはその成形体もしくは硬化物において重合体微粒子が1次粒子の状態で分散することを可能にすること、などである。
【0035】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0036】
ビニルシアン単量体の具体例としては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリレート単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意図する。
【0038】
上述した、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0039】
グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体に由来する構成単位、ビニルシアン単量体に由来する構成単位および(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位を合計で、グラフト部100重量%中に、10~95重量%含むことが好ましく、30~92重量%含むことがより好ましく、50~90重量%含むことがさらに好ましく、60~87重量%含むことが特に好ましく、70~85重量%含むことが最も好ましい。
【0040】
グラフト部は、構成単位として、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。前記反応性基を有する単量体は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることが好ましく、エポキシ基、水酸基、およびカルボン酸基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることがより好ましく、エポキシ基を有する単量体であることが最も好ましい。前記構成によると、樹脂組成物中で重合体微粒子のグラフト部とマトリクス樹脂とを化学結合させることができる。これにより、樹脂組成物中またはその成形体もしくは硬化物中で、重合体微粒子を凝集させることなく、重合体微粒子の良好な分散状態を維持することができる。
【0041】
エポキシ基を有する単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、およびアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0042】
水酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、(i)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);(ii)カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;(iii)α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどのヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート;(iv)二価カルボン酸(フタル酸など)と二価アルコール(プロピレングリコールなど)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
【0043】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸などのモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などのジカルボン酸などが挙げられる。カルボン酸基を有する単量体としては、前記モノカルボン酸が好適に用いられる。
【0044】
上述した反応性基を有する単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0045】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、0.5重量%~90.0重量%含むことが好ましく、1.0重量%~50.0重量%含むことがより好ましく、2.0重量%~35.0重量%含むことがさらに好ましく、3.0重量%~20.0重量%含むことが特に好ましい。グラフト部が、グラフト部100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、(i)0.5重量%以上含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する成形体または硬化物を提供することができ、(ii)90.0重量%以下含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する成形体または硬化物を提供することができ、かつ、該樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
【0046】
反応性基を有する単量体に由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
【0047】
グラフト部は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。グラフト部が、多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合、(i)樹脂組成物中において重合体微粒子の膨潤を防止することができる、(ii)樹脂組成物の粘度が低くなるため、樹脂組成物の取扱い性が良好となる傾向がある、および(iii)マトリクス樹脂における重合体微粒子の分散性が向上する、などの利点を有する。
【0048】
グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含まない場合、グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合と比較して、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性により優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0049】
多官能性単量体は、同一分子内にラジカル重合性反応基を2つ以上有する単量体ともいえる。前記ラジカル重合性反応基は、好ましくは炭素-炭素二重結合である。多官能性単量体としては、ブタジエンは含まれず、アリルアルキル(メタ)アクリレート類およびアリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類のような、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。多官能性単量体としては、また、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなども挙げられる。
【0050】
上述の多官能性単量体の中でも、グラフト部の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0051】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、多官能性単量体に由来する構成単位を、1重量%~20重量%含むことが好ましく、5重量%~15重量%含むことがより好ましい。
【0052】
グラフト部の重合において、上述した単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、グラフト部は、構成単位として、上述した単量体に由来する構成単位の他に、他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0053】
また、グラフト部は、後述する弾性体に対してグラフト結合された重合体であることが好ましい。
【0054】
(グラフト部のガラス転移温度)
グラフト部のガラス転移温度は、特に限定されないが、0℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がより好ましい。グラフト部のガラス転移温度が60℃以上の重合体微粒子は硬質グレードともいえる。硬質グレードを用いる場合、後述する熱処理工程および乾燥工程での熱処理において、硬質非弾性重合体ラテックスの使用量を低減できるという利点も有する。グラフト部のガラス転移温度は、65℃以上であってもよく、70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、90℃以上であってもよく、100℃以上であってもよい。グラフト部のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、190℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、140℃以下がより好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0055】
グラフト部のTgは、グラフト部に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、グラフト部を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られるグラフト部のTgを調整することができる。
【0056】
グラフト部が2種以上の単量体の共重合物であり、かつグラフト部の製造(重合)に使用した単量体が既知である場合、該グラフト部のガラス転移温度Tgは以下に示すFOX式(数式1)で算出することが可能である。
【0057】
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・+wn/Tgn(数式1)
ここで、Tg1、Tg2、・・・、Tgnは、それぞれ、グラフト部を構成する成分(すなわちグラフト部の製造で使用した単量体)1、2、・・・、nの単独重合体のTg(K)、w1、w2、・・・、wnは、それぞれ、グラフト部を構成する成分(すなわちグラフト部の製造で使用した単量体)1、2、・・・、nの重量分率である。また、単独重合体のTgは、例えば、Polymer Handbook Fourth Edition(J.Brandupら編、Jphn Wiley & Sons,Inc)に記載されている数値などを用いることができる。また、新規ポリマーの場合には、粘弾性測定法(剪断法、測定周波数:1Hz)における損失正接(tanδ)のピーク温度をTgとして採用すればよい。
【0058】
グラフト部の製造(重合)に使用した単量体が未知である場合、グラフト部のTgは、重合体微粒子からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)重合体微粒子からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も高いピーク温度をグラフト部のガラス転移温度とする。
【0059】
(グラフト部の変形例)
本発明の一実施形態において、グラフト部は、同一の組成の構成単位を有する1種のグラフト部のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、グラフト部は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種のグラフト部からなってもよい。
【0060】
重合体微粒子が多段重合体である場合、グラフト部は任意の重合体(例えば後述する弾性体)の少なくとも一部を被覆し得るか、または任意の重合体の全体を被覆し得る。重合体微粒子が多段重合体である場合、グラフト部の一部は任意の重合体の内側に入り込んでいることもある。グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆していることが好ましい。換言すれば、グラフト部の少なくとも一部分は、重合体微粒子の最も外側に存在することが好ましい。
【0061】
重合体微粒子が多段重合体である場合、任意の重合体(例えば後述する弾性体)およびグラフト部が、層構造を形成していてもよい。例えば、弾性体が最内層(コア層とも称する。)を形成し、弾性体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層とも称する。)として形成される態様も、本発明の一態様である。弾性体をコア層とし、グラフト部をシェル層とする構造はコアシェル構造ともいえる。このように、弾性体およびグラフト部が層構造(コアシェル構造)を形成している重合体微粒子は、多層重合体またはコアシェル重合体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、重合体微粒子は、多段重合体であってもよく、かつ/または、多層重合体もしくはコアシェル重合体であってもよい。ただし、グラフト部を有している限り、重合体微粒子は前記構成に制限されるわけではない。
【0062】
(弾性体)
重合体微粒子は、さらに弾性体を有するものであることが好ましい。上述したグラフト部は、弾性体に対してグラフト結合された重合体であることが好ましい。すなわち、重合体微粒子は、弾性体と、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体であることがより好ましい。以下、重合体微粒子がゴム含有グラフト共重合体である場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。
【0063】
該弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。弾性体は、上述したゴム以外に、天然ゴムを含んでいてもよい。弾性体は、弾性部またはゴム粒子と言い換えることもできる。
【0064】
弾性体がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。場合Aにおいて、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。靱性および/または耐衝撃性に優れる成形体または硬化物は、耐久性に優れる成形体または硬化物ともいえる。
【0065】
前記ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。前記ジエン系単量体は、共役ジエン系単量体と言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、ジエン系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0066】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体、などが挙げられる。上述した、ビニル系単量体Aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ビニル系単量体Aの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Aにおけるジエン系ゴムにおいて、ビニル系単量体Aに由来する構成単位は任意成分である。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0068】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエンに由来する構成単位からなるブタジエンゴム(ポリブタジエンゴムとも称する。)、または、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム(ポリスチレン-ブタジエンとも称する。)が好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記構成によると、重合体微粒子がジエン系ゴムを含むことによる所望の効果がより発揮され得る。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる成形体または硬化物の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。
【0069】
弾性体が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。場合Bでは、多種の単量体の組合せにより、弾性体の幅広い重合体設計が可能となる。
【0070】
前記(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位100重量%中、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0071】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリレート系単量体の中でも、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、および2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0072】
場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムとしては、メチル(メタ)アクリレートゴム、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴムおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴムがより好ましい。メチル(メタ)アクリレートゴムは、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、エチル(メタ)アクリレートゴムはエチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、ブチル(メタ)アクリレートゴムはブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムは2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムである。該構成によると、弾性体のガラス転移温度(Tg)が低くなるためTgが低い重合体微粒子および樹脂組成物が得られる。その結果、(i)得られる樹脂組成物は、優れた靱性を有する成形体または硬化物を提供でき、かつ(ii)該樹脂組成物の粘度をより低くすることができる。
【0073】
(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体B、とも称する。)としては、前記ビニル系単量体Aにおいて列挙した単量体が挙げられる。ビニル系単量体Bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニル系単量体Bの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Bにおける(メタ)アクリレート系ゴムにおいて、ビニル系単量体Bに由来する構成単位は任意成分である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0074】
弾性体がオルガノシロキサン系ゴムを含む場合(場合C)について説明する。場合Cにおいて、得られる樹脂組成物は、十分な耐熱性を有し、かつ低温での耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0075】
オルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、(i)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、(ii)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのオルガノシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
本明細書において、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体をジメチルシリルオキシゴムと称し、メチルフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体をメチルフェニルシリルオキシゴムと称し、ジメチルシリルオキシ単位とジフェニルシリルオキシ単位とから構成される重合体をジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムと称する。場合Cにおいて、オルガノシロキサン系ゴムとしては、(i)得られる粉粒体を含む樹脂組成物が耐熱性に優れる成形体または硬化物を提供することができることから、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴムおよびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、(ii)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシゴムであることがより好ましい。
【0077】
場合Cにおいて、重合体微粒子は、重合体微粒子に含まれる弾性体100重量%中、オルガノシロキサン系ゴムを80重量%以上含有していることが好ましく、90重量%以上含有していることがより好ましい。前記構成によると、得られる樹脂組成物は、耐熱性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0078】
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の弾性体をさらに含んでいてもよい。ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の弾性体としては、例えば天然ゴムが挙げられる。
【0079】
本発明の一実施形態において、弾性体は、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブタジエン-(メタ)アクリレートゴム、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴム、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴム、およびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、およびジメチルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0080】
(弾性体の架橋構造)
重合体微粒子の熱硬化性樹脂中での分散安定性を保持する観点から、弾性体には、架橋構造が導入されていることが好ましい。弾性体に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、弾性体の製造において、弾性体を構成し得る単量体に、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を混合し、次いで重合する方法が挙げられる。本明細書において、弾性体など重合体を製造することを、重合体を重合する、とも称する。
【0081】
また、オルガノシロキサン系ゴムに架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(A)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物と他の材料とを併用する方法、(B)反応性基(例えば(i)メルカプト基および(ii)反応性を有するビニル基、など)をオルガノシロキサン系ゴムに導入し、その後、得られた反応生成物に、(i)有機過酸化物または(ii)重合性を有するビニル単量体などを添加してラジカル反応させる方法、または、(C)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
【0082】
多官能性単量体としては、上述した(グラフト部)の項で例示した多官能性単量体が挙げられる。それら多官能性単量体の中でも、弾性体の架橋構造の導入に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0083】
(弾性体のガラス転移温度)
弾性体のガラス転移温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がより好ましい。弾性体のガラス転移温度は、-10℃以下でもよく、-20℃以下でもよく、-40℃以下でもよく、-45℃以下でもよく、-50℃以下でもよく、-55℃以下でもよく、-60℃以下でもよく、-65℃以下でもよく、-70℃以下でもよく、-75℃以下でもよく、-80℃以下でもよく、-85℃以下でもよく、-90℃以下でもよく、-95℃以下でもよく、-100℃以下でもよい。本明細書において、「ガラス転移温度」を「Tg」と称する場合もある。該構成によると、低いTgを有する重合体微粒子、および、低いTgを有する樹脂組成物を得ることができる。その結果、得られる樹脂組成物は、優れた靱性を有する成形体または硬化物を提供できる。また、該構成によると、得られる樹脂組成物の粘度を、より低くすることができる。
【0084】
弾性体のガラス転移温度(Tg)は、「重合体微粒子のグラフト部」を「重合体微粒子の弾性体」に読み替える以外、上述したFOX式(数式1)で算出することができる。
【0085】
弾性体の製造(重合)に使用した単量体が未知である場合、弾性体のTgは、重合体微粒子からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)重合体微粒子からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も低いピーク温度を弾性体のガラス転移温度とする。
【0086】
一方、得られる成形体または硬化物の弾性率(剛性)の低下を抑制することができる、すなわち十分な弾性率(剛性)を有する成形体または硬化物が得られることから、弾性体のTgは、0℃よりも大きいことが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。
【0087】
弾性体のTgは、弾性体に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、弾性体を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られる弾性体のTgを調整することができる。
【0088】
ここで、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃よりも大きいTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群aとする。また、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃未満のTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群bとする。単量体群aから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を50~100重量%(より好ましくは、65~99重量%)、および単量体群bから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を0~50重量%(より好ましくは、1~35重量%)含む弾性体を、弾性体Gとする。弾性体Gは、Tgが0℃よりも大きい。また、弾性体が弾性体Gを含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な剛性を有する成形体または硬化物を提供することができる。
【0089】
弾性体のTgが0℃よりも大きい場合も、弾性体に架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入方法としては、前記の方法が挙げられる。
【0090】
前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、以下に限るものではないが、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレンなどの無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレンなどのビニル置換芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどの環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレンなどの環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレンなどの環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレンなどの環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒトロキシスチレンなどの環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類;ビニルベンゾエート、ビニルシクロヘキサノエートなどのビニルエステル類;塩化ビニルなどのビニルハロゲン化物類;アセナフタレン、インデンなどの芳香族単量体類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート類;フェニルメタクリレートなどの芳香族メタクリレート;イソボルニルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレートなどのメタクリレート類;メタクリロニトリルなどのメタクリル酸誘導体を含むメタクリル単量体;イソボルニルアクリレート、tert-ブチルアクリレートなどのある種のアクリル酸エステル;アクリロニトリルなどのアクリル酸誘導体を含むアクリル単量体、などが挙げられる。さらに、前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、1-アダマンチルアクリレートおよび1-アダマンチルメタクリレート、など、単独重合体としたとき120℃以上のTgを有する単独重合体を提供し得る単量体が挙げられる。これらの単量体aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
前記単量体bとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(別名:アクリル酸ブチル)、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートなどが挙げられる。これらの単量体bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの単量体bの中でも、特に好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートである。
【0092】
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。弾性体の体積平均粒子径が(i)0.03μm以上である場合、所望の体積平均粒子径を有する弾性体を安定的に得ることができ、(ii)50.00μm以下である場合、得られる成形体または硬化物の耐熱性および耐衝撃性が良好となる。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。弾性体の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0093】
(弾性体の割合)
重合体微粒子中に占める弾性体の割合は、重合体微粒子全体を100重量%として、40~97重量%が好ましく、60~95重量%がより好ましく、70~93重量%がさらに好ましい。弾性体の前記割合が、(i)40重量%以上である場合、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができ、(ii)97重量%以下である場合、重合体微粒子は容易には凝集しないため、樹脂組成物が高粘度となることがなく、その結果、得られる樹脂組成物は取り扱いに優れたものとなり得る。
【0094】
(弾性体の変形例)
本発明の一実施形態において、重合体微粒子の「弾性体」は、構成単位の組成が同一である1種類の弾性体、のみからなってもよい。この場合、重合体微粒子の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種類である。
【0095】
本発明の一実施形態において、重合体微粒子の「弾性体」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種の弾性体からなってもよい。この場合、重合体微粒子の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される2種類以上であってもよい。また、この場合、重合体微粒子の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種類であってもよい。換言すれば、重合体微粒子の「弾性体」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種のジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムまたはオルガノシロキサン系ゴムであってもよい。
【0096】
本発明の一実施形態において、重合体微粒子の「弾性体」が、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種の弾性体からなる場合について説明する。この場合、複数種の弾性体のそれぞれを、弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nとする。ここで、nは2以上の整数である。重合体微粒子の「弾性体」は、それぞれ別々に重合された弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nの複合体を含んでいてもよい。重合体微粒子の「弾性体」は、弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nをそれぞれ順に重合して得られる1つの弾性体を含んでいてもよい。このように、複数の弾性体(重合体)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種の弾性体を多段重合して得られる1つの弾性体を、多段重合弾性体とも称する。多段重合弾性体の製造方法については、後に詳述する。
【0097】
弾性体1、弾性体2、・・・、および弾性体nからなる多段重合弾性体について説明する。該多段重合弾性体において、弾性体nは、弾性体n-1の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体n-1の全体を被覆し得る。該多段重合弾性体において、弾性体nの一部は弾性体n-1の内側に入り込んでいることもある。
【0098】
多段重合弾性体において、複数の弾性体のそれぞれが、層構造を形成していてもよい。例えば、多段重合弾性体が、弾性体1、弾性体2、および弾性体3からなる場合、弾性体1が最内層を形成し、弾性体1の外側に弾性体2の層が形成され、さらに弾性体2の層の外側に弾性体3の層が弾性体における最外層として形成される態様も、本発明の一態様である。このように、複数の弾性体のそれぞれが層構造を形成している多段重合弾性体は、多層弾性体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、重合体微粒子の「弾性体」は、(i)複数種の弾性体の複合体、(ii)多段重合弾性体および/または(iii)多層弾性体を含んでいてもよい。
【0099】
(表面架橋重合体)
ゴム含有グラフト共重合体は、弾性体、および、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体をさらに有することが好ましい。換言すれば、重合体微粒子は、弾性体、および、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体をさらに有することが好ましい。以下、重合体微粒子(例えばゴム含有グラフト共重合体)が、表面架橋重合体をさらに有する場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。この場合、(i)重合体微粒子の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(ii)熱硬化性樹脂における重合体微粒子の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が弾性体の少なくとも一部を被覆することにより、重合体微粒子の弾性体部分の露出が減り、その結果、弾性体同士が引っ付きにくくなるため、重合体微粒子の分散性が向上する。
【0100】
重合体微粒子が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(i)本樹脂組成物の粘度を低下させる効果、(ii)弾性体における架橋密度を上げる効果、および(iii)グラフト部のグラフト効率を高める効果。弾性体における架橋密度とは、弾性体全体における架橋構造の数の程度を意図する。
【0101】
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を30~100重量%、およびその他のビニル系単量体に由来する構成単位を0~70重量%、合計100重量%含む重合体からなる。
【0102】
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性単量体としては、上述の多官能性単量体と同じ単量体が挙げられる。それら多官能性単量体の中でも、表面架橋重合体の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0103】
重合体微粒子は、ゴム含有グラフト共重合体の重合とは独立して重合された表面架橋重合体を含んでいてもよく、または、ゴム含有グラフト共重合体と共に重合された表面架橋重合体を含んでいてもよい。重合体微粒子は、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体であってもよい。これらいずれの態様においても、表面架橋重合体は弾性体の少なくとも一部を被覆し得る。
【0104】
表面架橋重合体は、弾性体の一部とみなすこともできる。換言すれば、表面架橋重合体は、ゴム含有グラフト共重合体の一部とみなすこともでき、表面架橋重合部ともいえる。重合体微粒子が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部は、(i)表面架橋重合体以外の弾性体に対してグラフト結合されていてもよく、(ii)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(iii)表面架橋重合体以外の弾性体および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。重合体微粒子が表面架橋重合体を含む場合、上述した弾性体の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む弾性体の体積平均粒子径を意図する。
【0105】
重合体微粒子が、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体である場合(場合D)について説明する。場合Dにおいて、表面架橋重合体は、弾性体の一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、表面架橋重合体の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、グラフト部は、表面架橋重合体の一部を被覆し得るか、または表面架橋重合体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、グラフト部の一部は表面架橋重合体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、弾性体、表面架橋重合体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層)とし、弾性体の外側に表面架橋重合体の層が中間層として存在し、表面架橋重合体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層)として存在する態様も、本発明の一態様である。
【0106】
(重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv))
重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)は、所望の粘度を有し、かつ高度に安定した樹脂組成物を得ることができることから、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)が前記範囲内である場合、マトリクス樹脂における重合体微粒子の分散性が良好となるという利点も有する。なお、本明細書において、「重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)」とは、特に言及する場合を除き、重合体微粒子の1次粒子の体積平均粒子径を意図する。重合体微粒子の体積平均粒子径は、重合体微粒子を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。
【0107】
(重合体微粒子のガラス転移温度)
重合体微粒子のガラス転移温度(Tg)は、重合体微粒子に含まれる構成単位の組成(例えば、弾性体およびグラフト部の各々に含まれる構成単位の組成)などによって、決定され得る。換言すれば、重合体微粒子を製造(重合)するときに使用する単量体の組成(例えば、弾性体およびグラフト部の各々を製造(重合)するときに使用する単量体の組成)を変化させることにより、得られる重合体微粒子のTgを調整することができる。
【0108】
重合体微粒子のガラス転移温度(Tg)は、「重合体微粒子のグラフト部」を「重合体微粒子」に読み替える以外、上述したFOX式(数式1)で算出することができる。
【0109】
(2-3.重合体微粒子の製造方法)
以下、重合体微粒子が、弾性体と、該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む場合を例に挙げて、重合体微粒子の製造方法の一例を説明する。重合体微粒子は、例えば、弾性体を重合した後、該弾性体の存在下にて該弾性体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、製造できる。
【0110】
重合体微粒子は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により製造することができる。具体的には、重合体微粒子における弾性体の重合、グラフト部の重合(グラフト重合)、および表面架橋重合体の重合は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により実施することができる。これらの中でも特に、重合体微粒子の製造方法としては、乳化重合法が好ましい。本明細書において、このような乳化重合法により得られるラテックスを、「乳化重合ラテックス」と称する場合がある。
【0111】
乳化重合法によると、(i)重合体微粒子の組成設計が容易である、(ii)重合体微粒子の工業生産が容易である、および(iii)本凝集体の製造方法で使用するのに好適なラテックスが容易に得られる、という利点を有する。これらの理由から、本凝集体の製造方法で使用するラテックスは、乳化重合ラテックスであることが好ましい。以下、重合体微粒子に含まれ得る弾性体、グラフト部、および任意の構成である表面架橋重合体の製造方法について、説明する。
【0112】
(弾性体の製造方法)
弾性体が、ジエン系ゴムおよび(メタ)アクリレート系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上を含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2005/028546号公報に記載の方法を用いることができる。
【0113】
弾性体が、オルガノシロキサン系ゴムを含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2006/070664号公報に記載の方法を用いることができる。
【0114】
重合体微粒子の「弾性体」が複数種の弾性体(例えば弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体n)からなる場合について説明する。この場合、弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体nは、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されて複合化されることにより、複数種の弾性体からなる複合体が製造されてもよい。または、弾性体1、弾性体2、・・・、弾性体nは、それぞれ順に多段重合され、複数種の弾性体からなる1つの弾性体が製造されてもよい。
【0115】
弾性体の多段重合について、具体的に説明する。例えば、以下、(1)~(4)の工程を順に行うことにより、多段重合弾性体を得ることができる:(1)弾性体1を重合して弾性体1を得る;(2)次いで弾性体1の存在下にて弾性体2を重合して2段弾性体1+2を得る;(3)次いで弾性体1+2の存在下にて弾性体3を重合して3段弾性体1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、弾性体1+2+・・・+(n-1)の存在下にて弾性体nを重合して多段重合弾性体1+2+・・・+nを得る。
【0116】
(グラフト部の製造方法)
グラフト部は、例えば、グラフト部の形成に用いる単量体を、任意の重合体(例えば弾性体)の存在下、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。(i)弾性体、または(ii)弾性体および表面架橋重合体を含む重合体微粒子前駆体、を水性ラテックスとして得た場合には、グラフト部の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。グラフト部は、例えば、WO2005/028546号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0117】
グラフト部が複数種のグラフト部(例えばグラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部n)からなる場合の、グラフト部の製造方法について説明する。この場合、グラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部nは、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されて複合化されることにより、複数種のグラフト部からなるグラフト部(複合体)が製造されてもよい。または、グラフト部1、グラフト部2、・・・、グラフト部nは、それぞれ順に多段重合され、複数種のグラフト部からなる1つのグラフト部が製造されてもよい。
【0118】
グラフト部の多段重合について、具体的に説明する。例えば、以下、(1)~(4)の工程を順に行うことにより、多段重合グラフト部を得ることができる:(1)グラフト部1を重合してグラフト部1を得る;(2)次いでグラフト部1の存在下にてグラフト部2を重合して2段グラフト部1+2を得る;(3)次いでグラフト部1+2の存在下にてグラフト部3を重合して3段グラフト部1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、グラフト部1+2+・・・+(n-1)の存在下にてグラフト部nを重合して多段重合グラフト部1+2+・・・+nを得る。
【0119】
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部を有するグラフト部を重合した後、弾性体にそれらグラフト部をグラフト重合して、重合体微粒子を製造してもよい。弾性体の存在下にて、弾性体に対して、グラフト部を構成する複数種の重合体を順に多段グラフト重合して、重合体微粒子を製造してもよい。
【0120】
(表面架橋重合体の製造方法)
表面架橋重合体は、表面架橋重合体の形成に用いる単量体を、任意の重合体(例えば弾性体)の存在下、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。弾性体を水性ラテックスとして得た場合には、表面架橋重合体の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0121】
重合体微粒子の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子の製造には、乳化剤(分散剤)として、公知の乳化剤(分散剤)を用いることができる。
【0122】
乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などが挙げられる。アニオン性乳化剤としては、硫黄系乳化剤、リン系乳化剤、ザルコシン酸系乳化剤、カルボン酸系乳化剤などが挙げられる。硫黄系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称;SDBS)などが挙げられる。リン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0123】
弾性体、グラフト部または表面架橋重合体に架橋構造を導入する目的で、弾性体、グラフト部または表面架橋重合体の重合に多官能性単量体を使用する場合、公知の連鎖移動剤(例えば、t-ドデシルメルカプタン等のアルキル基置換メルカプタン)を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる弾性体、グラフト部もしくは表面架橋重合体の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
【0124】
重合体微粒子の製造には、上述した成分に加えて、さらに界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤の種類および使用量は、公知の範囲である。
【0125】
重合体微粒子の製造において、重合における重合温度、圧力、および脱酸素などの各条件は、公知の数値範囲の条件を適宜適用することができる。
【0126】
上述した重合体微粒子の製造方法により、重合体微粒子を含むラテックスを得ることができる。すなわち、(2-3.重合体微粒子の製造方法)の項の記載は、ラテックスの製造方法に関する記載として援用できる。
【0127】
(2-4.添加剤溶液)
本凝集体の製造方法において用いられる添加剤溶液とは、液体状の添加剤、あるいは、溶媒および添加剤を含む溶液を意図する。本明細書において、本発明の一実施形態に係る添加剤溶液(本凝集体の製造方法で使用される添加剤溶液)を、「本添加剤溶液」と称する場合がある。本添加剤溶液において、添加剤は、溶媒中で分散していてもよく、溶解していてもよい。
【0128】
本明細書において、液体状の添加剤とは、添加剤として機能する液体状の物質(すなわち、溶媒に溶解または分散させることなく、溶質そのものが液状である物質)を意図する。添加剤として液体状の物質を使用する場合、該物質(添加剤)を溶媒に溶解または分散させること無く、該物質(添加剤)をそのまま添加剤溶液として使用することができる。すなわち、本凝集体の製造方法における「添加剤溶液」は、添加剤として機能する液体状の物質そのものも包含する。
【0129】
本添加剤溶液として、溶媒および添加剤を含む溶液を使用する場合、本添加剤溶液の溶媒としては特に限定されないが、例えば水が挙げられる。
【0130】
本添加剤溶液に含まれる添加剤としては、水溶性高分子、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、滑剤等が挙げられる。これらの添加剤のうち、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、後述する凝固剤は、添加剤とは見做さない。また、添加剤は、固体であってもよく、液体であってもよい。
【0131】
これらの添加剤の中でも、水溶性高分子は、比較的粘度が高い物質である。そのため、従来のように、ラテックスとこのような添加剤との混合物を噴霧する場合、該混合物の粘度が過剰に高くなってしまうため、これらの添加剤を多量(高濃度)に使用することができないか、あるいは、全く使用できない場合があった。しかしながら、本発明の一実施形態では、ラテックスと添加剤を含む溶液とを別々のノズルから噴霧するので、上述したような比較的粘度が高い物質を添加剤として使用する場合であっても、該添加剤を比較的多量(高濃度)に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、添加剤として、上述したような比較的粘度が高い物質を使用する場合に、特に有益な製造方法と言える。
【0132】
また、これらの添加剤の中でも、水溶性高分子は、ラテックス中の重合体微粒子と相互作用して、混合物の粘度を大きく上昇させる傾向がある。そのため、従来のように、ラテックスとこのような添加剤との混合物を噴霧する場合、該混合物の粘度が過剰に高くなってしまうため、これらの添加剤を多量(高濃度)に使用することができないか、あるいは、全く使用できない場合があった。しかしながら、本発明の一実施形態では、ラテックスと添加剤を含む溶液とを別々のノズルから噴霧するので、上述したような混合物の粘度を大きく上昇させる傾向がある物質を添加剤として使用する場合であっても、該添加剤を比較的多量(高濃度)に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、添加剤として、上述したような比較的粘度が高い物質を使用する場合に、特に有益な製造方法と言える。
【0133】
さらに、添加剤の中でも、水溶性高分子は、添加剤による効果を享受するために比較的多量に使用する必要がある。そのため、従来のように、重合体微粒子を含むラテックスと添加剤との混合物を噴霧する場合、該混合物の粘度が過剰に高くなってしまうため、これらの添加剤を多量(高濃度)に使用することはできず、結果として、これら添加剤による効果を十分に享受できない場合があった。しかしながら、本発明の一実施形態では、重合体微粒子を含むラテックスと添加剤を含む溶液とを別々のノズルから噴霧するので、上述したような添加剤を多量(高濃度)に使用することができ、その結果、該添加剤による効果を十分に享受できる。すなわち、本発明の一実施形態は、その効果を享受するために比較的多量に使用する必要がある添加剤である場合に、特に有益な製造方法と言える。
【0134】
上記の添加剤の中でも、ラテックスおよび添加剤を含む溶液において、軟凝集状態を形成することができ、得られる粉粒体の粉体特性をより向上(特に嵩比重の増大、および微粉の量の低減)できることから、本添加剤溶液は、水溶性高分子を含むことが好ましい。なお、本明細書において、ラテックスおよび添加剤を含む溶液における「軟凝集状態」とは、ラテックスおよび添加剤を含む溶液中に含まれる重合体微粒子の粒子間が水溶性高分子等によって架橋されることにより、該ラテックスおよび添加剤を含む溶液の粘度が、水溶性高分子等の添加前よりも上昇した状態を指す。
【0135】
水溶性高分子としては、非イオン性水溶性高分子、アニオン性水溶性高分子、カチオン性水溶性高分子、両性水溶性高分子などが挙げられる。これらの中でも、嵩比重がより高く、かつ、微粉の量のより少ない粉粒体を提供できることから、非イオン性水溶性高分子がより好ましい。
【0136】
非イオン性水溶性高分子としては、ポリカルボン酸系高分子(例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体、ポリカルボン酸ポリアルキレングリコールグラフト体、およびこれらの塩)、ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等の水溶性アルギン酸誘導体、寒天、ゼラチン、カラギーナン、などが挙げられる。これらの中でも、嵩比重がより高く、かつ、微粉の量のより少ない粉粒体を提供する観点からは、ポリカルボン酸系高分子が特に好ましい。
【0137】
水溶性高分子の分子量は特に制限されないが、粘度平均分子量が1万~800万であることが好ましく、2万~500万であることがより好ましい。該構成によれば、(a)ラテックスおよび添加剤(水溶性高分子を含む添加剤)を含む溶液の軟凝集状態が形成されやすくなるという利点、および、(b)該水溶性高分子を含む添加剤溶液の粘度が過度に高くなる虞がないという利点、等の利点を有する。水溶性高分子の粘度平均分子量Mは、水溶性高分子の極限粘度ηから、下記の式(数式2)により算出することができる(J. Appl. Polymer Sci., 1, 56 (1959) 参照):
η=6.4×10-6×M0.82 (Staudinger式)・・・(数式2)。
なお、水溶性高分子の極限粘度ηは、毛細管粘度計を使用し、純水中、測定温度35℃にて測定して得られた値とする。
【0138】
本添加剤溶液における添加剤の濃度は、特に限定されないが、1重量%~60重量%であることが好ましく、20重量%~50重量%であることがより好ましく、30重量%~50重量%であることがさらに好ましい。該構成によれば、(a)ラテックスおよび添加剤を含む溶液の粘度を、適切な範囲内で上昇させることができるという利点、(b)ラテックスおよび添加剤を含む溶液中で軟凝集状態が速やかに形成されるという利点、(c)ラテックスおよび添加剤を含む溶液と凝固剤溶液とを接触させる時間(換言すれば、第2の接触工程の時間)を短くできるため、凝集体および粉粒体を効率的に製造することができるという利点、(d)得られる粉粒体中の微粉の量の低減効果が一層高まるという利点、および/または、(e)得られる粉粒体の粉体特性がより良好となるという利点、等の利点を有する。
【0139】
なお、添加剤溶液における添加剤の濃度(固形分濃度)は、溶媒(例えば水)の量、ならびに、使用する添加剤の量、種類、および濃度などを適宜変更することにより、調節することができる。
【0140】
添加剤が固体(例えば粉体)の状態の物質である場合、添加剤溶液における添加剤の濃度(重量%)は、例えば、以下の方法により算出できる:添加剤溶液0.5gを溶媒の沸点より高い温度(例えば、溶媒の沸点+20℃)の熱風対流型乾燥機に3時間入れて溶媒を蒸発させる。次いで、乾燥後の残留物(固形分)の重量(g)を測定する。次に、得られた値を乾燥前の添加剤溶液の重量0.5gで除し、得られた値にさらに100を乗じる。上述の方法で算出される「添加剤溶液中の添加剤の濃度」は、「添加剤溶液中の固形分の濃度」と言い換えることもできる。また、添加剤が液状である場合、分留を行うことで、添加剤溶液における添加剤の濃度を測定することもできる。
【0141】
本添加剤溶液の25℃における粘度は、特に限定されず、例えば、0.3mPa・s以上であり得る。また、本添加剤溶液の25℃における粘度の上限は、特に限定されないが、100.0mPa・s以下であることが好ましく、50.0mPa・s以下であることがより好ましく、30.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。粘度が100.0mPa・s以下である添加剤溶液は、ノズル(第2のノズル)から円滑に噴霧および/または滴下することができ、該ノズルの閉塞を防止することができる。
【0142】
なお、本添加剤溶液の粘度は、本添加剤溶液における固形分濃度(本添加剤溶液における添加剤の濃度)および添加剤の種類などを適宜変更することにより、調節することができる。
【0143】
添加剤溶液の粘度は、25℃の添加剤溶液に対して、キャノン・フェンスケ、キャノン・フェンスケ逆流形、ウベローデ、ブルックフィールド(B型粘度計)等の粘度計により測定することができる。添加剤溶液の粘度の測定方法は、下記実施例にて詳述する。
【0144】
本添加剤溶液は、例えば、液体の状態の添加剤または固体(例えば粉体)の状態の添加剤を、溶媒と混合することで得ることができる。複数種類の添加剤を混合する場合、各添加剤を、(a)一括して溶媒と混合してもよく、(b)それぞれの添加剤を個別に混合してもよい。また、あらかじめ溶媒に溶解または分散されている状態で市販されている添加剤を、(a)そのまま添加剤溶液として使用してもよく、(b)さらに溶媒と混合して使用してもよい。
【0145】
(2-5.凝固剤溶液)
本凝集体の製造方法において用いられる凝固剤溶液とは、液体状の凝固剤、ならびに、溶媒および凝固剤を含む溶液を意図する。本明細書において、本発明の一実施形態に係る凝固剤溶液(本凝集体の製造方法で使用される凝固剤溶液)を、「本凝固剤溶液」と称する場合がある。本凝固剤溶液において、凝固剤は、溶媒中で分散していてもよく、溶解していてもよい。
【0146】
本明細書において、液体状の凝固剤とは、凝固剤として機能する液体状の物質(すなわち、溶媒に溶解または分散させることなく、溶質そのものが液状である物質)を意図する。凝固剤として液体状の物質を使用する場合、該物質(凝固剤)を溶媒に溶解または分散させて溶液とした後に使用してもよく、該物質(凝固剤)を溶媒に溶解または分散させること無く、該物質(凝固剤)をそのまま凝固剤溶液として使用(噴霧)することができる。すなわち、本凝集体の製造方法における「凝固剤溶液」は、凝固剤として機能する液体状の物質そのものも包含する。
【0147】
本凝固剤溶液として、溶媒および凝固剤を含む溶液を使用する場合、本凝固剤溶液の溶媒としては特に限定されないが、例えば水が挙げられる。
【0148】
本凝固剤溶液に含まれる凝固剤としては、ラテックスおよび添加剤を含む溶液中の重合体微粒子を凝析および凝固し得る性質を有する物質であればよい。凝固剤としては、例えば、(i)無機酸(塩)および/または有機酸(塩)および(ii)高分子凝固剤などが挙げられる。これらの凝固剤の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において無機酸(塩)とは、「無機酸およびその塩」を意味し、有機酸(塩)とは、「有機酸およびその塩」を意味する。
【0149】
本凝固剤溶液は、凝固剤として、一価の無機酸、一価の無機酸の塩、二価の無機酸、二価の無機酸の塩、三価の無機酸、三価の無機酸の塩などからなる群から選択される1種以上の物質を含む水溶液であることが好ましい。一価の無機酸としては、(a)塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸などのハロゲン酸、および(b)硝酸などが挙げられる。二価の無機酸としては、硫酸などが挙げられる。三価の無機酸としては、リン酸などが挙げられる。これらの無機酸と塩を形成し得るカチオン性元素または分子としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(特に鉄、亜鉛)、アルミニウムなどの第13族の金属、アンモニウムなどが挙げられる。
【0150】
本凝固剤溶液は、凝固剤として、一価の有機酸、一価の有機酸塩、二価の有機酸、二価の有機酸塩などからなる群から選択される1種以上の物質を含むことが好ましい。一価の有機酸としては、ギ酸、酢酸などが挙げられる。一価の有機酸塩としては、ギ酸、酢酸などと、アルカリ金属などとの塩が挙げられる。二価の有機酸としては、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸などが挙げられる。二価の有機酸塩としては、酢酸、ギ酸などと、アルカリ土類金属などとの塩が挙げられる。
【0151】
(i)無機酸(塩)および/または有機酸(塩)の具体例としては、
(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物;硫酸アンモニウム;塩化アンモニウム;硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属硝化物;塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバンなどの無機塩類;
(b)塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類;
(c)酢酸、ギ酸などの有機酸類、およびこれら有機酸類;並びに
(d)酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウムなどの有機酸塩類、およびこれら有機酸塩類;等が挙げられる。
【0152】
高分子凝固剤としては、親水基と疎水基とを有する高分子化合物であればよく特に限定されない。高分子凝固剤としては、例えば、アニオン系高分子凝固剤、カチオン系高分子凝固剤およびノニオン系高分子凝固剤等が挙げられる。これらの中でも、重合体微粒子の電荷を中和するという利点があることから、カチオン系高分子凝固剤が好ましい。
【0153】
カチオン系高分子凝固剤は、分子内にカチオン性基を有する高分子凝固剤、すなわち水に溶解させた際にカチオン性を示す高分子凝固剤であることが好ましい。カチオン系高分子凝固剤の具体例としては、ポリアミン類、ポリジシアンジアミド類、カチオン化デンプン、カチオン系ポリ(メタ)アクリルアミド、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム塩類、ポリビニルピリジン類、キトサン等が挙げられる。
【0154】
凝固剤としては、上述した中でも、嵩比重がより高く、かつ、微粉量のより少ない粉粒体を提供できることから、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウムなどの一価または二価の無機酸塩の水溶液、または(b)塩酸、硫酸などの一価または二価の無機酸の水溶液、などが好適に使用できる。
【0155】
凝固剤溶液中の凝固剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、凝固剤溶液の全量100重量%中、0.1重量%~45.0重量%であることが好ましく、5.0重量%~40.0重量%であることがより好ましく、10.0重量%~35.0重量%であることがさらに好ましい。該構成によると、凝固剤の重合体微粒子への凝固作用が発揮されやすくなり、第2の接触工程おける凝固剤の使用量を少なくすることができる。その結果、凝集体および粉粒体の製造コストを低減でき、かつ、得られる凝集体および粉粒体に含まれる凝固剤由来の夾雑物を少なくできるという利点を有する。
【0156】
凝固剤が固体(例えば粉体)の状態の物質である場合、凝固剤溶液における凝固剤の濃度(重量%)は、例えば、以下の方法により算出できる:凝固剤溶液0.5gを溶媒の沸点より高い温度(例えば、溶媒の沸点+20℃)の熱風対流型乾燥機に3時間入れて溶媒を蒸発させる。次いで、乾燥後の残留物(固形分)の重量(g)を測定する。次に、得られた値を乾燥前の凝固剤溶液の重量0.5gで除し、得られた値にさらに100を乗じる。上述の方法で算出される「凝固剤溶液中の凝固剤の濃度」は、「凝固剤溶液中の固形分の濃度」と言い換えることもできる。また、凝固剤が液状である場合、分留を行うことで、凝固剤溶液における凝固剤の濃度を測定することもできる。
【0157】
本凝固剤溶液は、例えば、凝固剤として機能する固体(例えば粉体)の状態の物質を、溶媒と混合することで得ることができる。複数種類の凝固剤を混合する場合、各凝固剤を、(a)一括して溶媒と混合してもよく、(b)それぞれの凝固剤を個別に混合してもよい。また、あらかじめ溶媒に溶解または分散されている状態で市販されている凝固剤を、(a)そのまま凝固剤溶液として使用してもよく、(b)さらに溶媒と混合して使用してもよい。
【0158】
(2-6.装置)
本凝集体の製造方法において使用される装置(以下、製造装置または装置と称する場合がある)としては、特に限定されないが、略鉛直な内壁を有する容器を備える装置を用いることができる。該装置は、前記容器の上部(塔頂部)に、ラテックスを該装置内に鉛直方向に噴霧および/または滴下するための第1のノズルを備え、塔頂部または内壁面に、添加剤溶液を該装置内に噴霧および/または滴下するための第2のノズルを備え、さらに、前記第2のノズルより下方の内壁面に、凝固剤溶液を該装置内に噴霧するための第3のノズルを備える装置であることが好ましい。
【0159】
前記容器は、気相の領域であって、ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とが接触する第一の領域と、気相の領域であって、前記第一の領域で生成される前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の領域とが形成されていることが好ましい。また、前記容器は、底面部に、前記第二の領域で生成される凝集体を回収するための水相の領域を備える受槽を有してもよい。
【0160】
前記容器の形状は特に限定されないが、円筒形状が好ましい。前記容器が円筒形状である場合、その直径は、例えば30cm~500cmであることが好ましい。また、前記容器の塔頂部から底面部(前記受槽の液面(水相面))までの高さは、気相中(第二の領域)における、ラテックス中の重合体微粒子の凝集を適切に進行する観点から、50cm~10mが好ましく、1m~5mがより好ましく、2m~3mがさらに好ましい。
【0161】
また、該装置には、得られた凝集体を前記装置から回収するための回収装置、回収された凝集体を乾燥して粉粒体を得る乾燥装置、および、容器の内部の温度あるいは容器内に噴霧および/または滴下される各溶液等の温度を調節する温度調節装置などが、必要に応じて接続されていてよい。
【0162】
(2-7.第一の接触工程)
本凝集体の製造方法は、第1のノズルからラテックスを鉛直方向に噴霧および/または滴下し、さらに、第2のノズルから添加剤溶液を噴霧および/または滴下することで、前記ラテックスの液滴と、前記添加剤溶液の液滴とを接触させる第一の接触工程を含む。第一の接触工程においては、ラテックスおよび添加剤溶液を気相中に噴霧および/または滴下することが好ましい。したがって、第一の接触工程は、(a)ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴を得る工程であるともいえ、(b)ラテックスの液滴と添加剤溶液の液滴とを気相中で一体化する工程であるともいえ、(c)ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴を気相中で調製する工程であるともいえる。また、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴は、「ラテックスと、添加剤溶液と、が一体化してなる液滴」であるともいえ、「ラテックスに由来する重合体微粒子と、添加剤溶液に由来する添加剤、とを含む溶液の液滴」であるともいえる。
【0163】
本明細書における「鉛直方向」とは、「重量方向」を意図する。「鉛直方向」は、「鉛直下方方向」とも言える。
【0164】
本明細書において、液体(例えば、ラテックス、添加剤溶液、または凝固剤溶液)を「噴霧する」とは、該液体を加圧する、超音波処理する、等の方法により、該液体を散布するノズルの吹き出し口(孔)の口径よりも、小さい液滴径の液滴(微小液滴)とした状態で散布(霧状散布)することを意図し、液体(例えば、ラテックス、または、添加剤溶液)を「滴下する」とは、該液体を特に処理することなく、該液体を散布するノズルの吹き出し口(孔)の口径と同程度の液滴径の液滴として散布することを意図する。なお、二流体ノズルを使用して液体を散布する場合のように、散布する液体自体は加圧せずとも、該液体以外の物質(例えば、気体)を加圧した状態で同時に散布することで、該液体を微小液滴の状態で散布する場合は、該液体を「噴霧する」、と見做す。
【0165】
本発明の一実施形態において、液体(例えば、ラテックス、添加剤溶液、または凝固剤溶液)を「鉛直方向に噴霧および/または滴下する」場合、必ずしも完全に鉛直方向に該液体を噴霧および/滴下する必要はなく、例えば、鉛直方向を基準として、15°以内、10°以内あるいは5°以内の範囲で傾斜した方向に該液体を噴霧および/または滴下してもよい。すなわち、本明細書における「鉛直方向に噴霧および/または滴下する」とは、このように鉛直方向に対して角度をつけた状態で噴霧および/または滴下する態様を含む概念である。本明細書において、液体(例えば、ラテックス、添加剤溶液、または凝固剤溶液)を噴霧および/または滴下する方向は、該液体を噴霧または滴下するノズルの吹き出し口が正対する方向であるともいえる。換言すると、液体を噴霧または滴下するノズルの吹き出し口が正対する方向を調節することで、該液体を噴霧または滴下する方向を調節し得る。
【0166】
第一の接触工程で使用される第1のノズルについて説明する。第1のノズルとしては、ラテックスを噴霧および/または滴下することができる限り特に限定されないが、加圧ノズル、二流体ノズル、超音波ノズル、高周波装置または滴下ノズルであることが好ましい。中でも、体積平均液滴径200μm~400μmかつシャープな粒度分布を有する液滴を容易に噴霧可能であること、およびそのような液滴を噴霧可能なノズルの中でも経済的に優れていることから、第1のノズルは、加圧ノズルであることがより好ましく、旋回流式の加圧ノズル(旋回流式ノズル)であることがさらに好ましい。
【0167】
第1のノズルの口径は、特に限定されないが、0.01mm~2.00mmであることが好ましく、0.05mm~1.50mmがより好ましく、0.10mm~1.00mmであることがさらに好ましい。前記口径が2.00mm以下であると、噴霧または滴下したラテックスの液滴が過度に大きくなる虞がなく、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、続く第二の接触工程において、十分に凝集させることができるため、嵩比重の高い粉粒体を提供できる凝集体を得ることができる。また、前記口径が0.01mm以上であれば、ラテックスの噴霧中または滴下中にノズルが閉塞する可能性を低減でき、安定して凝集体を製造することができる。
【0168】
第1のノズルの噴霧圧力は、例えば0.5kg/cm2~30.0kg/cm2であることが好ましく、1.0kg/cm2~10.0kg/cm2であることがより好ましい。第1のノズルの噴霧圧力が0.5kg/cm2以上であれば、噴霧したラテックスの液滴が過度に大きくなる虞がなく、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、続く第二の接触工程において、十分に凝集させることができるため、嵩比重の高い粉粒体を提供できる凝集体を得ることができる。また、第1のノズルの噴霧圧力が30.0kg/cm2以下であれば、噴霧したラテックスの液滴が過度に小さくなる虞がなく、得られる粉粒体の微粉量を低減できる。
【0169】
第1のノズルは、第一の接触工程および第二の接触工程行う容器の塔頂部あるいは塔頂部付近に設置されることが好ましい。また、第1のノズルは、十分な凝固時間を確保でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、前記第一の接触工程および第二の接触工程行う容器の底面(底面が水相(液相)の領域である場合、その水相面(液相面))から、鉛直方向に100cm以上上方に位置することが好ましく、鉛直方向に150cm以上上方に位置することがより好ましく、鉛直方向に200cm以上上方に位置することがさらに好ましい。第1のノズルと、前記容器の底面との距離の上限は、装置の過剰な大型化を抑制する観点から、300cm以下であることが好ましい。
【0170】
本明細書において、第1のノズルの吹き出し口の中心と容器の底面(製造装置が前記受槽を有する場合は、当該受槽の液面(水相面))との間の鉛直方向の距離を、「第1のノズルと容器の底面(製造装置が前記受槽を有する場合は、当該受槽の液面(水相面))との間の鉛直方向の距離」とする。なお、第1のノズルが複数個存在する場合、各第1のノズルと容器の底面との間の鉛直方向の距離のうち、最も短い(近い)値を、第1のノズルと容器の底面のとの間の鉛直方向の距離とする。
【0171】
第1のノズルから噴霧または滴下されるラテックスのスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~140°であることが好ましく、30°~90°であることがより好ましい。ラテックスのスプレーコーンの角度が上記範囲である場合、(i)効率的に凝集体を製造することができ、(ii)凝集体の製造に使用する装置の過剰な大型化を抑制することができる。さらに、(iii)スプレーコーンの先端角度を5°以上とすることで、噴霧または滴下されたラテックスの液滴同士が合一化することを抑制することもでき、また、(iv)スプレーコーンの先端角度を140°以下とすることで、噴霧または滴下されたラテックスの液滴が、凝集体を製造する装置の壁面に付着することを抑制でき、また、ラテックスの液滴の壁面付着を防止するために該装置を大型化する必要がないため、該装置を小型化することもできる。なお、本明細書において、「スプレーコーン」とは、液体の噴霧または滴下を行った際に観察される、ノズルの吹き出し口から噴霧または滴下される前記液体の液滴の集合体を意図する。また、ラテックスのスプレーコーンの形状は特に限定されず、例えば、扇状であってもよく、円錐状であってもよく、中空円錐状であってもよい。
【0172】
第1のノズルの数は特に限定されず、1つであってもよく、2個以上であってもよい。また、第1のノズルとして2個以上のノズルを使用する場合、(a)各ノズルからラテックスの噴霧のみを行ってもよく、(b)各ノズルからラテックスの滴下のみを行ってもよく、(c)少なくとも一つのノズルからラテックスを噴霧しつつ、別の少なくとも一つのノズルからラテックスを滴下してもよい。
【0173】
第一の接触工程で使用される第2のノズルについて説明する。第2のノズルとしては、添加剤溶液を噴霧および/または滴下することができる限り特に限定されないが、加圧ノズル、二流体ノズル、超音波ノズル、高周波装置または滴下ノズルであることが好ましく、二流体ノズルがより好ましい。第2のノズルとして二流体ノズルを用いる場合、添加剤溶液と共に、空気、窒素、二酸化炭素等の気体を同時に噴霧することができ、気相中に添加剤溶液を煙霧体状で含有させることができ、効率的にラテックスと、添加剤溶液とを接触させることができる。
【0174】
第2のノズルの口径は、特に限定されないが、0.01mm~2.00mmであることが好ましく、0.05mm~1.50mmがより好ましく、0.10mm~1.00mmであることがさらに好ましい。前記口径が2.00mm以下であると、噴霧または滴下した添加剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、第二の接触工程において、得られるラテックスおよび添加剤を含む溶液中の重合体微粒子を十分に凝集させることができるため、嵩比重の高い粉粒体を提供できる凝集体を得ることができる。また、前記口径が0.01mm以上であれば、添加剤溶液の噴霧および/または滴下中にノズルが閉塞する可能性を低減でき、安定して凝集体を製造することができる。
【0175】
第2のノズルの噴霧圧力は、例えば、0.5kg/cm2~100.0kg/cm2であることが好ましく、1.0kg/cm2~50.0kg/cm2であることがより好ましい。第2のノズルの噴霧圧力が0.5kg/cm2以上であれば、噴霧した添加剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを効率的に接触させることができる。また、第1のノズルの噴霧圧力が100.0kg/cm2以下であれば、添加剤溶液の液滴が過度に飛散し過ぎず、ラテックスの液滴と効率的に接触させることができ、また、容器壁面への添加剤溶液の付着を低減することができる。
【0176】
第2のノズルは、第一の接触工程および第二の接触工程行う容器の塔頂部または塔頂部付近に設置されてもよく、該容器の内壁面または内壁面付近に設置されてもよい。また、第2のノズルは、十分な凝固時間を確保でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、前記第一の接触工程および第二の接触工程を行う容器の底面(底面が水相の領域である場合、その水相面)から、鉛直方向に80cm以上上方に位置することが好ましく、100cm以上上方に位置することがより好ましい。また、鉛直方向に150cm以上上方に位置していてもよく、鉛直方向に200cm以上上方に位置してもよい。第2のノズルと、前記容器の底面との距離の上限は、装置の過剰な大型化を抑制する観点から、300cm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「第2のノズルと容器の底面との間の鉛直方向の距離」の測定方法は、第1のノズルを第2のノズルに置き換えること以外は、上述した「第1のノズルと容器の底面との間の鉛直方向の距離」と同じ方法で測定される。
【0177】
第2のノズルが前記容器の内壁面(または内壁面付近)に設置される場合、第1のノズルとの距離(水平方向の距離および鉛直方向の距離)は特に限定されないが、(a)ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを効率的に接触させる観点、および、(b)装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第2のノズルと、第1のノズルとの鉛直方向の距離は、50cm以下であることが好ましく、30cm以下であってもよい。また、第2のノズルと、第1のノズルとの間の水平方向の距離は、50cm以下であることが好ましく、30cm以下であってもよい。
【0178】
本明細書において、「第1のノズルと、第2のノズルとの間の鉛直方向の距離」および「第1のノズルと、第2のノズルとの間の水平方向の距離」は、以下の方法で測定される値である:(1)第1のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る鉛直方向の直線を引く(第1の直線);(2)第2のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向(鉛直方向に垂直な方向)の直線を引く(第2の直線);(3)前記第1の直線と、前記第2の直線と、の交点と、前記第1のノズルの吹き出し口の中心との間の鉛直方向の距離を、「第1のノズルと、第2のノズルとの間の鉛直方向の距離」とし、前記第1の直線と前記第2の直線の交点と、前記第2のノズルの吹き出し口の中心と、の間の水平方向の距離を、「第1のノズルと、第2のノズルとの間の水平方向の距離」とする。なお、距離の比較の対象となるノズルが複数個存在する場合(例えば、第1のノズルおよび第2のノズルがそれぞれ複数個存在する場合)、異なる種類のノズル間の距離のうち、最も短い(近い)値を、ノズル間の距離とする。
【0179】
第2のノズルが前記容器の塔頂部(または塔頂部付近)に設置される場合、第1のノズルとの距離(水平方向の距離)は特に限定されないが、(a)ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを効率的に接触させる観点、および、(b)装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第2のノズルと、第1のノズルとの間の水平方向の距離は、50cm以下であることが好ましく、30cm以下であってもよい。なお、第2のノズルが前記容器の塔頂部(または塔頂部付近)に設置される場合、第2のノズルと、第1のノズルとの間の鉛直方向の距離は、0cmであると見做す。
【0180】
第一の接触工程において、第2のノズルから添加剤溶液を噴霧および/または滴下する方向は特に限定されず、水平方向に噴霧してもよく、鉛直方向に噴霧および/または滴下してもよく、それらの組み合わせであってもよい。中でも、添加剤溶液を水平方向または鉛直方向に噴霧することが好ましい。添加剤溶液を鉛直方向に噴霧する場合、本凝集体の製造に使用する容器(装置)を小型化でき、効率的に凝集体を製造できるという利点があり、また、添加剤溶液を鉛直方向に噴霧する場合、ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴と、を効率的に接触させることができ(液滴同士の接触確率を向上でき)、効率的に凝集体を製造できるという利点がある。
【0181】
本明細書における「水平方向」とは、鉛直方向に垂直な方向を意図する。「水平方向」は、重量方向に垂直な方向であるとも言える。
【0182】
なお、本発明の一実施形態において、液体(例えば、ラテックス、添加剤溶液、または凝固剤溶液)を「水平方向に噴霧(または滴下)する」場合、必ずしも完全に水平方向に該液体を噴霧(または滴下)する必要はなく、例えば、水平方向を基準として15°以内、10°以内あるいは5°以内の範囲で傾斜した方向に該液体を噴霧(または滴下)してもよい。すなわち、本明細書における「水平方向に噴霧(または滴下)する」とは、このように水平方向対して角度をつけた状態で、液体を噴霧(または滴下)する態様を含む
第2のノズルから噴霧および/または滴下される添加剤溶液のスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~140°であることが好ましく、30°~90°であることがより好ましい。添加剤溶液のスプレーコーンの角度が上記範囲である場合、(i)効率的にラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを接触させることができ、(ii)凝集体の製造に使用する装置の過剰な大型化を抑制することができる。さらに、(iii)特に、スプレーコーンの先端角度を5°以上とすることで、噴霧または滴下された添加剤溶液の液滴同士が合一化することを抑制することもでき、また、(iv)スプレーコーンの先端角度を140°以下とすることで、噴霧または滴下された添加剤溶液の液滴が、凝集体を製造する装置の壁面に付着することを抑制でき、また、添加剤溶液の液滴の壁面付着を防止するために該装置を大型化する必要がないため、該装置を小型化することもできる。また、添加剤溶液のスプレーコーンの形状は特に限定されず、例えば、扇状であってもよく、円錐状であってもよく、中空円錐状であってもよい。
【0183】
第2のノズルの数は特に限定されず、1つであってもよく、2個以上であってもよい。また、第2のノズルとして2個以上のノズルを使用する場合、(a)各ノズルから添加剤溶液の噴霧のみを行ってもよく、(b)各ノズルから添加剤溶液の滴下のみを行ってもよく、(c)少なくとも一つのノズルから添加剤溶液を噴霧しつつ、別の少なくとも一つのノズルから添加剤溶液を滴下してもよい。
【0184】
第一の接触工程において噴霧または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径は、50μm~5mmであることが好ましく、100μm~800μmであることがより好ましく、150μm~600μmであることがさらに好ましく、200μm~400μmであることが特に好ましい。噴霧または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が50μm以上であれば、得られる粉粒体の微粉量を低減できる。また、噴霧または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が5mm以下であれば、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、続く第二の接触工程において、十分に凝集させることができるため、嵩比重が高く、微粉量の少ない粉粒体を提供できる。
【0185】
第一の接触工程において噴霧または滴下される添加剤溶液の液滴の体積平均液滴径は、0.01μm~500.00μmであることが好ましく、0.05μm~100.00μmであることがより好ましく、0.10μm~50.00μmであることがさらに好ましい。上記構成によれば、ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴と、を効率的に接触させることができる。
【0186】
なお、ラテックスおよび添加剤溶液の液滴の体積平均液滴径は、例えば、レーザー回折式スプレー液滴径測定装置により測定することができる。
【0187】
第一の接触工程において、ラテックスと接触させる添加剤の量は、重合体微粒子の種類(組成)、添加剤の種類、ラテックスの固形分(重合体微粒子の)濃度、および、添加剤溶液の濃度(固形分濃度)、などに応じて適宜に調節することができる。本明細書において、「ラテックスと接触させる添加剤の量」とは、第一の接触工程において、単位時間当たりに噴霧または滴下されるラテックス中の固形分(重合体微粒子)の量に対する、単位時間当たりに噴霧または滴下される添加剤溶液中の固形分(添加剤)の合計量を意図する。得られる粉粒体に、添加剤を添加することによる所望の効果(例えば、嵩比重の増大効果、微粉量の低減効果)を十分に付与できるという利点があることから、第一の接触工程においてラテックスと接触させる添加剤の量、すなわち、添加剤の噴霧量は、ラテックスの固形分(重合体微粒子の噴霧量および滴下量の合計量)100重量部に対して、例えば、0.001重量部~20.000重量部であることが好ましく、0.010重量部~10.000重量部であることがより好ましく、0.500重量部~5.000重量部であることがさらに好ましい。なお、第一の接触工程における「ラテックスと接触させる添加剤の量」は、添加剤溶液の濃度、単位時間当たりに噴霧または滴下される添加剤溶液の量、等適宜変更することで調節することができる。
【0188】
第一の接触工程に供するときの(噴霧または滴下する直前の)ラテックスの温度は、特に限定されない。本発明の一実施形態において、第一の接触工程に供するときのラテックスの温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、20℃~50℃であることが特に好ましい。第一の接触工程に供するときのラテックスの温度が前記の範囲内である場合、ラテックスの安定性を確保できるという利点を有する。
【0189】
第一の接触工程に供するときの(噴霧または滴下する直前の)添加剤溶液の温度は、特に限定されない。本発明の一実施形態において、第一の接触工程に供するときの添加剤溶液の温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、20℃~50℃であることが特に好ましい。また、第一の接触工程に供するときのラテックスおよび添加剤溶液の温度は、同一であってもよく、異なっていてもよい。第一の接触工程に供するときの添加剤溶液の温度が前記の範囲内である場合、(a)添加剤溶液が過度な高温となることで添加剤が変質すること、を抑制でき、また、(b)添加剤溶液が過度な低温となることで添加剤の溶解度が下がり、該添加剤が析出することを抑制できる、等の利点を有する。
【0190】
また、第一の接触工程における容器内の温度(ラテックスおよび添加剤溶液が噴霧または滴下される領域の温度)は、特に限定されないが、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、15℃~60℃であることが特に好ましい。第一の接触工程における容器内の温度が前記範囲内である場合、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、続く第二の接触工程において、十分に凝集させることができ、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点を有する。第一の接触工程における容器内の温度は、例えば、水蒸気を容器内に送気することにより制御することができる。
【0191】
(2-8.第二の接触工程)
本凝集体の製造方法は、前記第2のノズルより下方に位置する第3のノズルから凝固剤溶液を噴霧して、前記第一の接触工程で得られた前記ラテックスおよび前記添加剤溶液を含む液滴と、前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる第二の接触工程を含む。本発明の一実施形態において、前記第一の接触工程で気相中に噴霧および/または滴下されたラテックスおよび添加剤溶液は、気相中で接触し、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴を形成する。形成されたラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴は、気相中を降下し、ラテックスと添加剤溶液とが接触する領域よりも、下方の領域に噴霧される凝固剤溶液と接触する。第二の接触工程は、(a)ラテックスおよび添加剤を含む溶液と凝固剤溶液とを気相中で混合する工程であるともいえ、(b)ラテックスおよび添加剤を含む溶液中の重合体微粒子を凝集させ、凝集体を得る工程であるともいえる。
【0192】
第二の接触工程で使用される第3のノズルについて説明する。第3のノズルとしては、凝固剤溶液を噴霧することができる限り特に限定されないが、加圧ノズル(一流体ノズル)、二流体ノズル、超音波ノズルまたは高周波装置であることが好ましく、加圧ノズル(一流体ノズル)または二流体ノズルがより好ましい。第3のノズルとして加圧ノズル(一流体ノズル)または二流体ノズルを用いる場合、気相中に、微細な液滴径の(噴霧体状の)凝固剤溶液を噴霧することができ、ラテックスおよび添加剤を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴とを効率的に接触させることができる。
【0193】
第3のノズルの口径は、特に限定されないが、0.01mm~2.00mmであることが好ましく、0.05mm~1.50mmがより好ましく、0.10mm~1.00mmであることがさらに好ましい。前記口径が2.00mm以下であると、噴霧した凝固剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができるため、嵩比重の高い粉粒体を提供できる凝集体を得ることができる。また、前記口径が0.01mm以上であれば、凝固剤溶液の噴霧中にノズルが閉塞する可能性を低減でき、安定して凝集体を製造することができる。
【0194】
第3のノズルの噴霧圧力は、例えば、0.5kg/cm2~100.0kg/cm2であることが好ましく、1.0kg/cm2~50.0kg/cm2であることがより好ましい。第3のノズルの噴霧圧力が0.5kg/cm2以上であれば、噴霧される凝固剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と凝固剤溶液の液滴とを効率的に接触させることができる。また、第3のノズルの噴霧圧力が100.0kg/cm2以下であれば、凝固剤溶液の液滴が過度に飛散し過ぎず、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と効率的に接触させることができ、また、容器壁面への凝固剤溶液の付着を低減することができる。
【0195】
第3のノズルは、前記容器の内壁面(または内壁面付近)に設置されることが好ましい。また、第3のノズルの位置は、前記第2のノズルより下方に位置する限り特に限定されないが、ラテックスと、添加剤溶液とが接触する前に、換言すると、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴が生成される前に、ラテックスと凝固剤溶液が接触することを抑制でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、前記第2のノズルより、少なくとも鉛直方向に20cm以上下方に位置する(第2のノズルと、第3のノズルとの間の鉛直方向の距離が20cm以上であるともいえる)ことが好ましく、鉛直方向に30cm以上下方に位置することがより好ましく、鉛直方向に40cm以上下方に位置することがさらに好ましい。
【0196】
第2のノズルが前記容器の塔頂部に設置される場合、「第2のノズルと、第3のノズルとの鉛直方向の間の距離」は、以下の方法で測定される値である:(1)第2のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る鉛直方向の直線を引く(第1の直線);(2)第3のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向(鉛直方向に垂直な方向)の直線を引く(第2の直線);(3)前記第1の直線と前記第2の直線との交点と、前記第2のノズルの吹き出し口の中心と、の間の鉛直方向の距離を、「第2のノズルと、第3のノズルとの間の鉛直方向の距離」とする。
【0197】
また、第2のノズルが前記容器の内壁面に設置される場合、「第2のノズルと、第3のノズルとの間の鉛直方向の距離」は、以下の方法で測定される値である:(1)第2のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向の直線を引く(第1の直線);(2)第3のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向の直線を引く(第2の直線);(3)前記第1の直線と、前記第2の直線と、の間の鉛直方向の距離を、「第2のノズルと、第3のノズルとの間の鉛直方向の距離」とする。なお、距離の比較の対象となるノズルが複数個存在する場合(例えば、第2のノズルおよび第3のノズルがそれぞれ複数個存在する場合)、異なる種類のノズル間の距離のうち、最も短い(近い)値を、ノズル間の距離とする。
【0198】
第3のノズルは、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴と、を効率よく接触させることができることから、前記第1のノズルより、鉛直方向に20cm~70cm下方に位置することが好ましく、20cm~50cm下方に位置することがより好ましく、鉛直方向に25cm~45cm下方に位置することがさらに好ましく、鉛直方向に30cm~40cm下方に位置することが特に好ましい。また、第1のノズルと第3のノズルとの間の水平方向の距離は特に限定されないが、(a)ラテックスの液滴と、添加剤溶液の液滴とを効率的に接触させる観点、および、(b)装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第1のノズルと、第3のノズルとの間の水平方向の距離は、50cm以下であることが好ましく、30cm以下であってもよい。また、第3のノズルは、十分な凝固時間を確保でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、前記第一の接触工程および第二の接触工程行う容器の底面(底面が水相の領域である場合、その水相面)から、鉛直方向に50cm以上上方に位置することが好ましく、鉛直方向に60cm以上上方に位置することがより好ましい。また、第3のノズルは、鉛直方向に80cm以上上方に位置していてもよく、鉛直方向に100cm以上上方に位置していてもよく、鉛直方向に150cm以上上方に位置していてもよい。第3のノズルと、前記容器の底面との距離の上限は、装置の過剰な大型化を抑制する観点から、280cm以下であることが好ましく、250cm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「第3のノズルと容器の底面との間の鉛直方向の距離」の測定方法は、第1のノズルを第3のノズルに置き換えること以外は、上述した「第1のノズルと容器の底面との間の鉛直方向の距離」と同じ方法で測定される。
【0199】
なお、「第1のノズルと、第3のノズルとの間の水平方向の距離」は、以下の方法で測定される値である:(1)第1のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る鉛直方向の直線を引く(第1の直線);(2)第3のノズルの吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向(鉛直方向に垂直な方向)の直線を引く(第2の直線);(3)前記第1の直線と前記第2の直線の交点と、前記第3のノズルの吹き出し口の中心と、の間の水平方向の距離を、「第1のノズルと、第3のノズルとの間の鉛直方向の距離」とする。
【0200】
第二の接触工程において、第3のノズルから凝固剤溶液を噴霧する方向は、ラテックスの液滴と添加剤溶液の液滴との接触よりも、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と凝固剤溶液の液滴との接触が後になる限り、特に限定されない。凝固剤溶液を噴霧する方向は、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴と、を効率的に接触させることができ、本凝集体の製造に使用する容器(装置)を小型化できるため、効率的に凝集体を製造できることから、水平方向に噴霧することが好ましい。
【0201】
第3のノズルから噴霧される凝固剤溶液のスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~140°であることが好ましく、30°~90°であることがより好ましい。凝固剤溶液のスプレーコーンの角度が上記範囲である場合、(i)ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴と、を効率的に接触させることができるため、効率的に凝集体を製造することができ、(ii)凝集体の製造に使用する装置の過剰な大型化を抑制することができる。さらに、(iii)特に、スプレーコーンの先端角度を5°以上とすることで、噴霧された凝固剤溶液の液滴同士が合一化することを抑制することもできる。また、凝固剤溶液のスプレーコーンの形状は特に限定されず、例えば、扇状であってもよく、円錐状であってもよく、中空円錐状であってもよい。
【0202】
第3のノズルの数は特に限定されず、1つであってもよく、2個以上であってもよい。
【0203】
第二の接触工程において噴霧される凝固剤溶液の液滴の体積平均液滴径は、0.01μm~500.00μmであることが好ましく、0.05μm~100.00μmであることがより好ましく、0.10μm~50.00μmであることがさらに好ましい。上記構成によれば、凝固剤溶液の液滴と、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴とを、効率的に接触させることができ、該ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、十分に凝集させることができ、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点がある。
【0204】
第二の接触工程において、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と接触させる凝固剤の量は、重合体微粒子の種類(組成)、凝固剤の種類、ラテックスの固形分(重合体微粒子の)濃度、および、凝固剤溶液の濃度(固形分濃度)、などに応じて適宜に調節することができる。本明細書において、「ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と接触させる凝固剤の量」とは、第一の接触工程において単位時間当たりに噴霧または滴下されるラテックスの固形分(重合体微粒子)の合計量に対する、第二の接触工程において単位時間当たりに噴霧される凝固剤溶液中の固形分(凝固剤)の量を意図する。(a)ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴の未凝集部分の発生を防ぐことができ、凝集体をより多く得ることができ、且つ、(b)得られる凝集体および粉粒体に含まれる凝固剤由来の夾雑物を低減できる、という利点があることから、第二の接触工程においてラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と接触させる凝固剤の量、すなわち、凝固剤の噴霧量は、単位時間当たりに噴霧または滴下されるラテックスの固形分(重合体微粒子の噴霧量および滴下量の合計量)100重量部に対して、1重量部~30重量部であることが好ましく、2重量部~20重量部であることがより好ましく、3重量部~15重量部であることがさらに好ましい。なお、第二の接触工程における「ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と接触させる凝固剤の量」は、凝固剤溶液の濃度、単位時間当たりに噴霧される凝固剤溶液の量、等適宜変更することで調節することができる。
【0205】
第二の接触工程に供するときの(噴霧する直前の)凝固剤溶液の温度は、特に限定されない。本発明の一実施形態において、第二の接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、20℃~50℃であることが特に好ましい。また、第二の接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度は、第一の接触工程に供するときのラテックスおよび添加剤溶液の温度と同一であってもよく、異なっていてもよい。第二の接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度が前記の範囲内である場合、(a)凝固剤溶液中の凝固剤が析出することを抑制できるという利点、および、(b)凝固剤溶液の溶媒の蒸発を抑制でき、該凝固剤溶液の濃度を一定に保つことができるという利点、等の利点を有する。
【0206】
また、第二の接触工程における容器内の温度(凝固剤が噴霧される領域の温度)は、特に限定されないが、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがより好ましく、15℃~60℃であることがより好ましく、15℃~50℃であることがより好ましく、15℃~45℃であることがさらに好ましく、15℃以上、45℃未満であることが特に好ましい。第二の接触工程における容器内の温度が前記範囲内である場合、第一の接触工程で得られるラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を、十分に凝集させることができるという利点を有する。第二の接触工程における容器内の温度は、前記第一の接触工程における容器内の温度と同じであることが好ましい。
【0207】
本凝集体の製造方法において、前記第一の接触工程および第二の接触工程を、前記第一の接触工程および第二の接触工程行う容器の内壁面に沿って水を流下させつつ(流下操作)実施してもよい。これにより、気相中に噴霧および/または滴下したラテックス、添加剤溶液、凝固剤溶液および得られた凝集体が、前記容器の内壁面に付着することを抑制することができる。内壁面に沿って流下させる水(流下水)の量は、特に限定されないが、例えば、ラテックス中の固形分100重量部に対し10重量部~10000重量部であることが好ましい。壁面に沿って流下させる水量が前記範囲内である場合、ラテックス、添加剤溶液、凝固剤溶液および得られた凝集体の内壁面への付着を十分に抑制でき、かつ、排水処理の負荷が過剰に高くなる虞がない。内壁面に沿って流下させる水の温度は、流下操作を簡便にする観点から、0℃~100℃であることが好ましく、10℃~60℃であることがより好ましい。
【0208】
前記第一の接触工程および第二の接触工程は、同一の容器(装置)内で、この順で行うことが好ましい。
【0209】
〔3.粉粒体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る粉粒体の製造方法は、本凝集体の製造方法により得られた凝集体を回収する回収工程と、回収された前記凝集体を乾燥する乾燥工程と、を含む。本明細書において、本発明の一実施形態に係る粉粒体の製造方法を、「本粉粒体の製造方法」と称する場合がある。本粉粒体の製造方法は、本凝集体の製造方法を一工程として含むともいえる。
【0210】
本粉粒体の製造方法は、上記構成を有するために、粉体特性に優れる粉粒体を製造することができるという利点を有する。
【0211】
以下、本粉粒体の製造方法に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔2.凝集体の製造方法〕の項の記載を援用する。
【0212】
(3-1.回収工程)
回収工程は、本凝集体の製造方法により得られた凝集体を回収する工程である。回収工程において、凝集体を回収する方法は特に限定されず、種々の方法が適用できる。例えば、第一の接触工程および第二の接触工程を経て、前記第一の接触工程および第二の接触工程を実施した容器の気相中を降下した凝集体を、該容器の底面に設置した、水相を備える受槽に降下させた後、水相中から凝集体を分離することにより回収することができる。
【0213】
ここで、水相中から凝集体を分離する方法(分離方法)は特に限定されるものではないが、例えば、遠心脱水、静置分離、ろ過脱水、圧搾脱水、または、水分蒸発等の方法を適用できる。また、前記の各種の分離方法を実施する機材は、所望の分離方法に合わせて適宜選択することができる。例えば、スクリュープレス、ローラープレス、ベルトスクリーン、振動ふるい、多重版振動フィルター、真空脱水機、加圧脱水機、ベルトプレス、遠心脱水機、等を使用することができる。
【0214】
前記受槽における水相は、水であってもよいが、凝固が不十分な凝集体をより確実に凝固できることから、前記凝固剤を含む溶液であることが好ましい。水相として凝固剤を含む溶液を使用する場合、該溶液の凝固剤の濃度(固形分濃度)は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%~15.00重量%であることが好ましく、0.05重量%~10重量%であることがより好ましく、0.10重量%~5.00重量%であることがさらに好ましい。なお、回収工程で使用する水相が、凝固剤を含む溶液である場合、該凝固剤を含む溶液の濃度は、第二の接触工程で使用する凝固剤溶液の濃度と同じであってもよいが、得られる凝集体に残存する凝固剤および/または凝固剤由来の成分の量を低減できることから、該凝固剤溶液より低い濃度であることが好ましい。
【0215】
受槽の水相として、凝固剤を含む溶液を使用する場合、前記第二の接触工程における凝固剤溶液が受槽中に降下し、凝固剤を含む溶液と混ざることにより、該凝固剤を含む溶液における凝固剤の濃度が、意図せず変化する場合がある。例えば、水相中の凝固剤を含む溶液における凝固剤の濃度が、第二の接触工程で使用する凝固剤溶液における凝固剤の濃度よりも低い場合、水相中の凝固剤を含む溶液における凝固剤の濃度が上昇する。そのため、回収工程おける凝固剤を含む溶液における凝固剤の濃度を所望の範囲内に制御することが好ましい。当該制御の方法は特に限定されないが、例えば、前記第一の接触工程および第二の接触工程を、流下操作を実施しつつ実施する場合は、流下水を受槽中に流入させることにより、前記凝固剤を含む溶液における凝固剤の濃度を所望の範囲内に制御することができる。
【0216】
回収工程における、受槽中の凝固剤を含む溶液の温度は特に限定されないが、凝集体同士を融着させず、かつ、凝固が不十分な凝集体をより十分に凝固させるという観点から、例えば、20℃~100℃であることが好ましく、40℃~100℃であることがより好ましく、60℃~100℃であることがさらに好ましい。
【0217】
回収工程においては、凝集体を、受槽中の水相と混合した状態で、すなわち、凝集体を含む分散液(スラリー)の状態で回収することができる。また、回収工程においては、凝集体(凝集体を含む溶液)を水相中から分離する前に、回収前の凝集体を含む分散液を熱処理する熱処理工程を含んでもよい。分離前の凝集体を含む分散液を熱処理することで、より嵩密度の高い粉粒体を得ることができる。このような回収前の凝集体を含む分散液を熱処理する方法としては、例えば、受槽の水相中に、高温(例えば、130℃)の水蒸気を送気する方法が挙げられる。なお、回収前の凝集体を含む分散液を、受槽中で熱処理されてもよいが、受槽から分離された状態の(例えば、他の容器等に移された)凝集体を含む分散液を、熱処理することもできる。
【0218】
回収工程は、回収された凝集体を含む分散液を脱水する脱水工程をさらに含んでもよい。回収工程が脱水工程を含む場合、続く乾燥工程をより効率的に実施することができる。脱水工程において、回収された凝集体を含む分散液を脱水する方法は特に限定されないが、例えば、吸引ろ過が挙げられる。
【0219】
本粉粒体の製造方法において、回収工程は、熱処理工程および脱水工程を含むことが特に好ましい。
【0220】
(3-2.乾燥工程)
乾燥工程は、回収工程で回収した凝集体(凝集体を含む分散液)を乾燥する工程であり、凝集体を乾燥することにより、該凝集体に含まれるラテックス、添加剤溶液、凝固剤溶液、および受槽における水相等に由来する水分を除去するとともに、凝集体内の重合体微粒子間の融着を促進させる工程であるとも言える。
【0221】
乾燥工程において、凝集体を乾燥する方法は特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、凝集体を熱処理することによって、該凝集体を乾燥してもよい。
【0222】
凝集体を熱処理することで乾燥する場合、熱処理の温度は特に限定されないが、例えば、60℃~120℃であることが好ましく、60℃~100℃であることがより好ましく、65℃~95℃であることがさらに好ましい。また、熱処理時間は、例えば、1分間~60分間であることが好ましく、5分間~30分間であることがより好ましい。
【0223】
〔4.粉粒体〕
本発明の一実施形態に係る粉粒体の製造方法により得られる粉粒体(以下、「本粉粒体」とも称する)は、粉体特性に優れる粉粒体である。また、粉体特性に優れる粉粒体である本粉粒体は、マトリクス樹脂と本粉粒体とをブレンドして得られる樹脂組成物またはその成形体もしくは硬化物中で、重合体微粒子の良好な分散状態を実現できるという利点を有する。本明細書において、「粉粒体(重合体微粒子の粉粒体)」とは、重合体微粒子の一次粒子の集合体、換言すれば重合体微粒子の二次粒子であってもよい。
【0224】
本明細書において、粉粒体の「粉体特性」は、例えば、嵩比重および粉粒体に含まれる微粉量により評価することができる。嵩比重が高い、あるいは、微粉量が少ない粉粒体は、粉体特性に優れる粉粒体であると言える。
【0225】
本明細書において、粉粒体の嵩比重は、JIS-K-6720:1999に基づき、嵩比重測定装置(蔵持科学器械製作所製 JIS K-6720型)を用いて測定された値である。本粉粒体は、嵩比重が0.38g/cm3以上であることが好ましく、0.39g/cm3以上であることがより好ましく、0.40g/cm3以上であることがさらに好ましい。粉粒体の嵩比重が高いほど、粉粒体中において重合体微粒子が緻密に凝集していることを意味し、特に、嵩比重が0.38g/cm3以上である粉粒体は、嵩比重が十分に高い粉粒体であると言える。このような嵩比重が十分に高い粉粒体は、輸送タンク、袋等に高密度に充填できるため、輸送費を軽減できる、等の利点を有する。また、本粉粒体の嵩比重の上限は特に限定されないが、例えば、1.0g/cm3以下でありえる。
【0226】
本明細書において、粉粒体の微粉量は、該粉粒体の原料となった凝集体に含まれる、微小な凝集体の量(微小凝集体量)に基づき評価することができる。本明細書において、凝集体の微小凝集体量は、凝集体の懸濁液について、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒子径分布において、粒子径が50μm以下である成分の累積百分率によって表される。本凝集体の懸濁液において、粒子径が50μm以下である微小な凝集体の累積百分率、(50μm以下微小凝集体量)は、10.0%以下であることが好ましく、7.5%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。微小凝集体量が10.0%以下である凝集体を乾燥してなる粉粒体は、微粉量が十分に少ない粉粒体となる。このような微粉量が十分に少ない粉粒体は、(a)粉立ちが少ないため、粉塵爆発リスクを低減できる、(b)作業性が良好となる、等の利点を有する。また、本凝集体の微小凝集体量の下限は特に限定されず、0.0%であってもよい。換言すると、本凝集体は微小凝集体を含まないものであってもよい。
【0227】
本粉粒体の体積平均粒子径は、特に限定されが、例えば、50μm~500μmであることが好ましく、100μm~400μmであることがより好ましく、200μm~350μmであることがさらに好ましい。
【0228】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0229】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0230】
〔測定方法〕
先ず、製造例によって製造した凝集体および粉粒体の評価方法、並びに、実施例および比較例によって回収された樹脂組成物および水系液体の評価方法について、説明する。
【0231】
(体積平均粒子径の測定)
ラテックス中に分散している重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)は、Nanotrac WaveII-EX150(マイクロトラックベル株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水でラテックスを希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水、および、各製造例で得られた重合体微粒子の屈折率を入力し、計測時間120秒、ローディングインデックス1~10の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
【0232】
(体積累積頻度に基づいた凝集体の粒度分布および微小凝集体量の測定)
実施例、比較例で得られた凝集体の懸濁液(回収工程において回収した、凝集体を含む分散液)について、粒子径分布を、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置LA-950(株式会社堀場製作所製)で測定し、体積平均粒子径1μm以上および3mm以下の粒子の体積累積頻度%から粒度分布を得た。さらに、該粒度分布に基づき、50μm以下の微小凝集体の量の累積百分率を算出した。
【0233】
(粉粒体の嵩比重の測定)
得られた粉粒体の嵩比重は、嵩比重測定装置(蔵持科学器械製作所製 JIS K-6720型)を用いて測定した。
【0234】
(ラテックス、添加剤溶液、および、ラテックスおよび添加剤溶液の混合液の25℃における粘度の測定)
ラテックス、添加剤溶液、および、ラテックスおよび添加剤溶液の混合液の25℃における粘度は、ブルックフィールド粘度計(英弘精機株式会社製 デジタル粘度計DV1;B型粘度計、スピンドルはLV-1、回転数は100rpm)で測定した。
【0235】
(ラテックス、または、ラテックスおよび添加剤の混合液の噴霧可否)
実施例、比較例において、第1のノズルより、ラテックス、または、ラテックスおよび添加剤の混合液を噴霧できるか否かを評価した。ラテックス、または、ラテックスおよび添加剤の混合液を、ノズルを閉塞させることなく噴霧できた場合を「○」とし、ノズルが閉塞し、ラテックス、または、ラテックスおよび添加剤の混合液を噴霧できなかった場合を「×」とした。
【0236】
〔製造例1〕
<ラテックスの製造>
(第1の弾性体の重合)
以下の組成の混合物をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で撹拌しながら、該ガラス製反応器内の温度を80℃に昇温した:
混合物の組成: (重量部)
イオン交換水 220
ホウ酸 0.3
炭酸ナトリウム 0.03
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.09
ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム 0.09
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.006
硫酸第1鉄7水塩 0.002。
【0237】
その後、メチルメタクリレート25重量部およびアリルメタクリレート0.1重量部からなる第1のモノマー成分と、連鎖移動剤であるt-ドデシルメルカプタン0.1重量部と、重合開始剤であるt-ブチルハイドロパーオキサイド(BHPO)0.1重量部と、の混合液を調製した。次いで、調製した混合液100重量%のうち、25重量%を一括して前記ガラス製反応器内に仕込み、45分間の重合を行なった。
【0238】
続いて、前記混合液の残りの75重量%を、1時間にわたって前記ガラス製反応器内に連続添加した。連続添加の終了後、前記ガラス製反応器内を80℃でさらに2時間保持することで、重合を完結させ、弾性体(第1の弾性体、最内層の弾性体であるともいえる)のラテックスを得た。なお、混合液の添加後の温度保持(80℃で2時間)の間に、0.2重量部のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを前記ガラス製反応器内に追加した。得られた第1の弾性体の平均粒子径は0.16μmであり、重合転化率(重合生成量/モノマー仕込量)は98%であった。
【0239】
(第2の弾性体の重合)
上記の第1の弾性体の重合で使用したガラス製反応器を、そのまま第2の弾性体の重合に使用した。まず、第1の弾性体のラテックスを含むガラス製反応器内を、窒素気流中で80℃に保持した。該ラテックスに、過硫酸カリウム0.1重量部を添加したのち、ブチルアクリレート(アクリル酸n-ブチル)41重量部、スチレン9重量部、および、アリルメタクリレート1重量部からなる第2のモノマー混合液を、5時間にわたって連続添加した。なお、連続添加の間に、オレイン酸カリウムを3回に分けて合計で0.1重量部、前記ラテックス中に添加した。第2のモノマー混合液の連続添加終了後、重合を完結させるために、さらに過硫酸カリウム0.05重量部を反応系に添加した。さらに2時間、ガラス製反応器内の温度を80℃で保持することで、第1の弾性体に、第2の弾性体が重合した、多段重合弾性体(ゴム状重合体)のラテックスを得た。得られた多段重合弾性体の平均粒子径は0.23μmであり、重合転化率は99%であった。
【0240】
(グラフト部の重合)
上記の第2の弾性体の重合で使用したガラス製反応器を、そのままグラフト部の重合に使用した。まず、多段重合弾性体のラテックスを含むガラス製反応器内を80℃に保持した。該ラテックスに、過硫酸カリウム0.02重量部を添加したのち、メチルメタクリレート24重量部、ブチルアクリレート(アクリル酸n-ブチル)1重量部、および、t-ドデシルメルカプタン0.1重量部からなるグラフトモノマー混合液を、1時間にわたって連続添加した。グラフトモノマー混合液の追加終了後、ガラス製反応器内の温度を80℃でさらに1時間保持することで、多段重合弾性体と、該多段重合弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(重合体微粒子)のラテックス(水性ラテックス)を得た。得られた重合体微粒子の平均粒子径は0.25μmであり、重合転化率は99%であった。
【0241】
(実施例1)
<凝集体および粉粒体の製造>
製造例1のラテックス1000g(ラテックスの固形分濃度35重量%、該ラテックスに含まれるポリマー固形分350gを、100重量部とする)を取り、25℃に調整した。該ラテックスを、直径80cm、高さ100cmの円筒状の容器の塔頂部(底部の受槽の液面から1m上方)に備えられた第1のノズル(加圧ノズルの一種である旋回流式ノズル(口径0.6mm))より、噴霧圧力3.7kg/cm2にて、体積平均液滴径が200μmの液滴として、鉛直下方向に噴霧した。噴霧したラテックスのスプレーコーンの形状は円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。容器内の温度は20℃に調節されていた。それと同時に、前記第1のノズルから、水平方向に20cm、鉛直方向に20cm下方に位置するように容器の内壁に設置された、第2のノズル(二流体ノズル(口径0.5mm))から、添加剤溶液(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102、粘度平均分子量32000)の水溶液、固形分濃度5%、25℃)を、単位時間当たりに噴霧された前記ラテックスの固形分100重量部に対し、単位時間当たりの添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子)の噴霧量が1重量部となるように、空気と混合した状態で、水平方向に、体積平均液滴径が0.1μm~30.0μmの液滴となるよう噴霧した。第2のノズルの噴霧圧力は4.0kg/cm2であった。噴霧した添加剤溶液のスプレーコーンの形状は中空円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。係る操作により、気相中に噴霧したラテックスと、添加剤溶液と、を接触させ、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴を得た(第一の接触工程)。
【0242】
次いで、前記第1のノズルから、水平方向に20cm、鉛直方向に40cm下方(すなわち、前記第2のノズルから20cm下方)に位置するように容器の内壁に設置された、第3のノズル(二流体ノズル)から、凝固剤溶液(塩化カルシウムの水溶液、固形分濃度35%、25℃)を、単位時間当たりに噴霧された前記ラテックスの固形分100重量部に対し、単位時間当たりの凝固剤(塩化カルシウム)の噴霧量が5重量部~10重量部となるように、空気と混合した状態で、水平方向に、体積平均液滴径が0.1μm~30.0μmの液滴となるよう噴霧した。第3のノズルの噴霧圧力は4.0kg/cm2であった。噴霧した凝固剤溶液のスプレーコーンの形状は中空円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。なお、容器内の温度は20℃に調節されていた。係る操作により、気相中を降下した前記第一の接触工程で得られたラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、気相中に噴霧した凝固剤溶液の液滴と、を接触させ、凝集体を得た(第二の接触工程)。気相中を降下した凝集体を、前記容器の底部にて、1%濃度の塩化カルシウム水溶液(水蒸気の送気により60℃に加熱した)を入れた受槽に投入した。受槽中に投入された凝集体(凝集体を含む分散液)について、微小凝集体量を測定した。さらに、受槽の液中に水蒸気を送気し、95℃に加熱して凝集体を5分間熱処理した後、受槽に残存した溶液とともに凝集体を回収した(回収工程)。回収した凝集体を含む液体を、吸引ろ過で20分間脱水した後、得られた凝集体を、乾燥機を用いて60℃で1時間以上乾燥することで、粉粒体を得た(乾燥工程)。得られた粉粒体の嵩比重を測定した。結果を表1に示す。
【0243】
(実施例2)
第2のノズルの位置(添加剤溶液の添加位置)を表1に記載の通りに変更し、添加剤溶液を鉛直下方向から、第1のノズルの方向に10°傾けた状態で噴霧したこと以外は、実施例1と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。なお、第2のノズルに対する第3のノズルの相対位置は、水平方向に10cm、鉛直方向に40cm下方とした。各物性の測定結果を表1に示す。
【0244】
(比較例1)
添加剤溶液の噴霧を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。各物性の測定結果を表1に示す。
【0245】
(比較例2)
第1のノズルより、ラテックスに代えて、製造例1のラテックスに添加剤を添加した混合液(重合体微粒子100重量部に対して、添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102))0.025重量部を添加)を噴霧し、添加剤溶液の単独での噴霧(すなわち添加剤溶液の第2のノズルからの噴霧)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。各物性の測定結果を表1に示す。
【0246】
(比較例3)
製造例1のラテックスに添加剤を添加した混合液(ラテックスの固形分100重量部に対して、添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102))0.05重量部を添加)を用意し、第1のノズルからの噴霧を試みたが、混合液の粘度が高すぎた(60mPas・s超(回転数100rpmでの測定上限以上))ため、第1のノズルから噴霧(および滴下)することができなかった。そのため、凝集体および粉粒体を得ることはできなかった。なお、比較例3の混合液の粘度を、ブルックフィールド粘度計を用いて、回転数20rpmの条件で測定したところ、約125mPa・sであった。
【0247】
【0248】
〔まとめ1〕
実施例1および2の結果より、本凝集体の製造方法によれば、比較例と比して、より濃度が高い(添加剤の量が多い)添加剤溶液を使用して凝集体を製造できることが分かる。さらに、得られた凝集体を乾燥してなる粉粒体は、嵩比重が高く、かつ、微粉量の少ない優れた粉体特性を有する粉粒体となることがわかる。
【0249】
比較例1の結果より、添加剤溶液を使用しなかった場合、得られた凝集体を乾燥からなる粉粒体は、嵩比重が低く、かつ、微粉量の多い、粉体特性に劣る粉粒体となることがわかる。
【0250】
比較例2の結果より、従来の方法のように、予め製造例1のラテックスを添加剤溶液と混合して使用する場合、混合する添加剤の溶液の濃度を、実施例1および2の40分の1程度まで低減すれば、混合液の粘度をノズルが閉塞しない程度に抑えることはできるものの、得られた凝集体を乾燥してなる粉粒体は、嵩比重が低く、かつ、微粉量の多い、粉体特性に劣る粉粒体となることがわかる。これは、添加剤の使用量が少なすぎるために、添加剤による粉粒体の粉体特性改善効果が十分発揮されていないためであると考えられる。
【0251】
比較例3の結果より、従来の方法のように、予め製造例1のラテックスを添加剤溶液と混合して使用する場合、混合する添加剤溶液の濃度を、実施例1および2の20分の1程度とすると、混合液の粘度が過剰に高くなり、ノズルから噴霧(および滴下)することができず、凝集体および粉粒体を得ることもできないことが分かる。
【0252】
〔製造例2〕
<ラテックスの製造>
あらかじめ水に溶解したジオクチルコハク酸ナトリウム0.5重量部および硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.0008重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0032重量部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.06重量部を攪拌機付き反応器に入れ、さらに水を加えて水の全量(各成分を溶解した水および後に加えた水の合計量)を200重量部とした。反応器内の酸素をチッ素置換して空間部および水中の酸素を除去したのち、撹拌しつつ内容物を60℃まで昇温し、さらに、メチルメタクリレート80重量部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド0.05重量部の混合物を、170分かけて反応器内に連続追加しながら重合を行った。その際、連続追加の60分目と120分目にそれぞれドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2重量部を反応器内に追加した。連続追加の終了後、さらに、メチルメタクリレート8重量部、ブチルアクリレート12重量部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド0.05重量部での混合物(共重合成分)を50分かけて連続追加して重合を行い、共重合成分の連続追加終了後、反応機内の内容物を60℃に保ったまま1時間以上攪拌を続け、重合を完結させた。重合完結後、反応機内の内容物を室温まで冷却し、メチルメタクリレートを含む第一重合体と、メチルメタクリレートおよびブチルアクリレートを含む第二重合体と、を有する重合体微粒子を含むラテックスを得た。
【0253】
(実施例3)
<凝集体および粉粒体の製造>
製造例2のラテックス1000g(ラテックスの固形分濃度35重量%、該ラテックスに含まれるポリマー固形分350gを、100重量部とする)を取り、25℃に調整した。該ラテックスを、直径80cm、高さ100cmの円筒状の容器の塔頂部(底部の受槽の液面から1m上方)に備えられた第1のノズル(加圧ノズルの一種である旋回流式ノズル(口径0.6mm))より、噴霧圧力3.7kg/cm2にて、体積平均液滴径が200μmの液滴として、鉛直下方向に噴霧した。噴霧したラテックスのスプレーコーンの形状は円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。容器内の温度は50℃に調節されていた。それと同時に、前記第1のノズルから、水平方向に20cm、鉛直方向に20cm下方に位置するように容器の内壁に設置された、第2のノズル(二流体ノズル(口径0.5mm))から、添加剤溶液(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102、粘度平均分子量32000)の水溶液、固形分濃度5%、25℃)を、単位時間当たりに噴霧された前記ラテックスの固形分100重量部に対し、単位時間当たりの添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子)の噴霧量が1重量部となるように、空気と混合した状態で、水平方向に、体積平均液滴径が0.1μm~30.0μmの液滴となるよう噴霧した。第2のノズルの噴霧圧力は4.0kg/cm2であった。噴霧した添加剤溶液のスプレーコーンの形状は中空円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。係る操作により、気相中に噴霧したラテックスと、添加剤溶液と、を接触させ、ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴を得た(第一の接触工程)。
【0254】
次いで、前記第1のノズルから、水平方向に20cm、鉛直方向に40cm下方(すなわち、前記第2のノズルから20cm下方)に位置するように容器の内壁に設置された、第3のノズル(二流体ノズル)から、凝固剤溶液(塩化カルシウムの水溶液、固形分濃度35%、25℃)を、単位時間当たりに噴霧された前記ラテックスの固形分100重量部に対し、単位時間当たりの凝固剤(塩化カルシウム)の噴霧量が5重量部~10重量部となるように、空気と混合した状態で、水平方向に、体積平均液滴径が0.1μm~30.0μmの液滴となるよう噴霧した。第3のノズルの噴霧圧力は4.0kg/cm2であった。噴霧した凝固剤溶液のスプレーコーンの形状は中空円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。なお、容器内の温度は50℃に調節されていた。係る操作により、気相中を降下した前記第一の接触工程で得られたラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、気相中に噴霧した凝固剤溶液の液滴と、を接触させ、凝集体を得た(第二の接触工程)。気相中を降下した凝集体を、前記容器の底部にて1%濃度の塩化カルシウム水溶液(水蒸気の送気により95℃に加熱した)を入れた受槽に投入した。受槽の液中に蒸気を送気し、95℃に加熱して凝集体を5分間熱処理した後、受槽に残存した溶液とともに凝集体を回収した(回収工程)。回収した凝集体(凝集体を含む分散液)について、微小凝集体量を測定した。回収した凝集体を含む液体を、吸引ろ過で20分間脱水した後、得られた凝集体を、乾燥機を用いて60℃で1時間以上乾燥することで、粉粒体を得た(乾燥工程)。得られた粉粒体の嵩比重を測定した。結果を表2に示す。
【0255】
(実施例4)
第2のノズルの位置(添加剤溶液の添加位置)を表2に記載の通りに変更し、添加剤溶液を鉛直下方向から、第1のノズルの方向に10°傾けた状態で噴霧したこと以外は、実施例3と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。なお、第2のノズルに対する第3のノズルの相対位置は、水平方向に10cm、鉛直方向に40cm下方とした。各物性の測定結果を表2に示す。
【0256】
(比較例4)
添加剤溶液の噴霧を行わなかった以外は、実施例3と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。各物性の測定結果を表2に示す。
【0257】
(比較例5)
第1のノズルより、ラテックスに代えて、製造例1のラテックスに添加剤を添加した混合液(重合体微粒子100重量部に対して、添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102))0.05重量部を添加)を噴霧し、添加剤溶液の単独での噴霧(すなわち添加剤溶液の第2のノズルからの噴霧)を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で凝集体および粉粒体を製造した。各物性の測定結果を表2に示す。
【0258】
(比較例6)
製造例2のラテックスに添加剤を添加した混合液(ラテックスの固形分100重量部に対して、添加剤(ポリカルボン酸系水溶性高分子(株式会社日本触媒製、PM-102))0.1重量部を添加)を用意し、第1のノズルからの噴霧を試みたが、混合液の粘度が高すぎた(60mPas・s超(回転数100rpmでの測定上限以上))ため、第1のノズルから噴霧(および滴下)することができなかった。そのため、凝集体および粉粒体を得ることはできなかった。なお、比較例6の混合液の粘度を、ブルックフィールド粘度計を用いて、回転数20rpmの条件で測定したところ、約137mPa・sであった。
【0259】
【0260】
〔まとめ2〕
実施例3および4の結果より、本凝集体の製造方法によれば、比較例と比して、より濃度が高い(添加剤の量が多い)添加剤溶液を使用して凝集体を製造できることが分かる。さらに、得られた凝集体を乾燥してなる粉粒体は、嵩比重が高く、かつ、微粉量の少ない優れた粉体特性を有する粉粒体となることがわかる。
【0261】
比較例4の結果より、添加剤溶液を使用しなかった場合、得られた凝集体を乾燥からなる粉粒体は、嵩比重が低く、かつ、微粉量の多い、粉体特性に劣る粉粒体となることがわかる。
【0262】
比較例5の結果より、従来の方法のように、予め製造例2のラテックスを添加剤溶液と混合して使用する場合、混合する添加剤の溶液の濃度を、実施例3および4の20分の1程度まで低減すれば、混合液の粘度をノズルが閉塞しない程度に抑えることはできるものの、得られた凝集体を乾燥してなる粉粒体は、嵩比重が低く、かつ、微粉量の多い、粉体特性に劣る粉粒体となることがわかる。これは、添加剤の使用量が少なすぎるために、添加剤による粉粒体の粉体特性改善効果が十分発揮されていないためであると考えられる。
【0263】
比較例6の結果より、従来の方法のように、予め製造例2のラテックスを添加剤溶液と混合して使用する場合、混合する添加剤溶液の濃度を、実施例3および4の10分の1程度とすると、混合液の粘度が過剰に高くなり、ノズルから噴霧(および滴下)することができず、凝集体および粉粒体を得ることもできないことが分かる。
本発明の一実施形態によれば、従来技術と比してより多くの種類および/または量の添加剤を使用して、重合体微粒子を含むラテックスから、凝集体を製造することができる。このようなより多くの種類および/または量の添加剤を使用して製造された凝集体からなる粉粒体は、優れた粉体特性を期待でき、熱可塑性樹脂の改質剤等の用途に好適に利用することができる。