(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143363
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ロングノズル及びノズルシステム
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20230928BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B22D11/10 320D
B22D41/50 520
B22D11/10 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050690
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 希莉亜
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広大
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 雄一
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FA00
4E014DB01
(57)【要約】
【課題】取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するためのロングノズルであって、ノズル内の二次メニスカスに溶融金属を叩き込んで多数の気泡を生成させた場合に、当該気泡をノズル内に効率的に回収することが可能なものを開示する。
【解決手段】取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するための筒状単孔のロングノズルであって、流入口、流出口、最小径部及び拡径部を有し、前記最小径部が、前記流出口よりも前記流入口側に存在し、前記拡径部が、前記最小径部から前記流出口に亘って存在して、前記最小径部から前記流出口に向かうにつれてノズルの内径が拡大しており、ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁とノズルの軸とのなす角度θが、5°以上10°以下である、ロングノズル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するための筒状単孔のロングノズルであって、
流入口、最小径部、拡径部及び流出口を有し、
前記最小径部が、前記流出口よりも前記流入口側に存在し、
前記拡径部が、前記最小径部から前記流出口に至るまで存在して、前記最小径部から前記流出口に向かうにつれてノズルの内径が拡大しており、
ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面とノズルの軸Xとのなす角度θが、5°以上10°以下である、
ロングノズル。
【請求項2】
前記最小径部から前記流出口までの長さL1と、前記流出口におけるノズルの内径D2との比L1/D2が、2.0以上である、
請求項1に記載のロングノズル。
【請求項3】
前記最小径部におけるノズルの内径D1と、前記流出口におけるノズルの内径D2との比D1/D2が、0.3以上0.6以下である、
請求項1又は2に記載のロングノズル。
【請求項4】
ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面の形状が、直線状、折線状及び曲線状のうちの少なくとも1つの形状である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項5】
前記流入口と前記最小径部との間に直胴部を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のロングノズル。
【請求項6】
取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するノズルシステムであって、
前記ロングノズルが、請求項1~5のいずれか1項に記載のロングノズルであり、
前記ロングノズルの前記流出口が、前記タンディッシュにおける前記溶融金属の液面よりも下方、且つ、前記タンディッシュの底面よりも上方に位置し、
前記ロングノズルの内部に不活性ガスを含む気相領域と前記溶融金属の二次メニスカスとが存在し、
前記二次メニスカスが、前記最小径部よりも前記流出口側に存在する、
ノズルシステム。
【請求項7】
前記ロングノズルの浸漬深さLDと、前記流出口におけるノズルの内径D2との比LD/D2が、1.6以上2.2以下である、
請求項6に記載のノズルシステム。
【請求項8】
下記式(1)で定義される前記二次メニスカスの高さΔHが、-10cm以上20cm以下とされる、
請求項6又は7に記載のノズルシステム。
ΔH=(PT-PL)/(ρ・g) …(1)
ここで、
PTは、前記タンディッシュ内の雰囲気圧力であり、
PLは、前記ロングノズル内の前記気相領域の圧力であり、
ρは、前記溶融金属の密度であり、
gは、重力加速度である。
【請求項9】
前記タンディッシュが内部に堰を有しないものである、
請求項6~8のいずれか1項に記載のノズルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は取鍋からタンディッシュへと溶融金属を供給するためのロングノズル及びこれを用いたノズルシステムを開示する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の連続鋳造プロセスにおいて、取鍋から鋳型へと溶融金属を供給するための中間容器としてタンディッシュが用いられている。例えば、鋼の連続鋳造を想定した場合、タンディッシュは、(1)鋳型への溶鋼供給量の安定化機能、(2)複数の鋳型への溶鋼分配機能、(3)連続鋳造を複数の溶鋼鍋を用いて継続的に実施するためのバッファ機能、(4)非金属介在物の除去機能、などの複数の機能を有する。特に、清浄度が高い高級鋼材を効率的に生産する場合には、(4)非金属介在物の除去機能が極めて重要となる。
【0003】
溶鋼中の非金属介在物は、主として製鋼プロセス中で発生する酸化物や窒化物、硫化物、気泡をはじめとした鋼中の不純物に由来する。このような非金属介在物が最終製品に残留した場合、例えば応力集中による破壊の起点となって、最終製品の材質を低下させることが知られている。また、製鋼プロセスそのものにおいても、耐火物流路の内壁に非金属介在物が付着・堆積し、流路の狭窄化や閉塞を引き起こすことで、円滑な製造を阻害するだけでなく、鋳造等の加工時に母材の表層・内部双方に欠陥を発生させ得ることから、製品歩留まりを低下させるなど、製造コストを圧迫する要因となる。そのため、多くの場合、溶鋼成分の最終調整が行われる二次精錬から鋳型に至るまでの限られた工程で、非金属介在物を溶鋼中から除去する必要がある。
【0004】
溶鋼から非金属介在物を除去するためには、一般的に、溶鋼と非金属介在物との比重差を利用して非金属介在物を溶鋼中で浮上させたうえで、フラックスと呼ばれる酸化物の浮遊層で回収する方法が採られるが、この際の浮上速度は小型の非金属介在物であるほど低下し、フラックス層で回収するまでの時間が長大化することが知られている。従って、溶鋼中の非金属介在物を低減するにあたり、非金属介在物の浮上に必要な時間を確保するためには、タンディッシュ内での非金属介在物の滞留時間を長くすることが有効と考えられる。
【0005】
一般的に、溶鋼鍋からタンディッシュへの溶鋼の供給は、流量調整機能を有するスライディングノズルと、下端をタンディッシュの溶鋼中に浸漬して用いる筒状耐火物であるロングノズルとを介し、位置エネルギーを利用して流下させることでなされる。しかしながら、ロングノズルからの高速吐出流がタンディッシュの底部に衝突することで、ショートパスと呼ばれる鋳型へと向かう短絡流を形成し得るために(
図6参照)、タンディッシュにおける溶鋼の滞留時間を確保することは必ずしも容易ではない。この課題に対する一般的な対策は、タンディッシュの内部に堰を設けることで溶鋼流を迂回させる方法であるが、タンディッシュの内部に耐火物を施工することは、材料費や施工時間、作業負荷の増大を招くうえ、堰の近傍に流れがほとんどなく浮上除去に寄与しない空間が発生するほか、迂回しながらも高速で鋳型へと向かう新たな流れが誘起され得るため、必ずしも介在物の浮上を助けない。特に、小型の介在物は、浮力が小さく、溶鋼の流れに追随しやすいため、迂回による効果は大型の介在物の除去に限定され易い。
【0006】
また、製鋼プロセスにおいては、溶鋼の再酸化によって意図せずに非金属介在物が増加することに対しても注意を払わなくてはならない。一般的に、溶鋼の温度低下に伴うガス発生によって安定した鋳造が困難となることを避ける観点等から、連続鋳造に供される溶鋼は、精錬工程において脱酸処理が施され、可溶酸素濃度を大きく下回る酸素濃度となっており、非常に酸素を吸収しやすい状態にある。空気や低級酸化物と溶鋼とが接触した場合、溶鋼が酸素を吸収し、酸素との親和性が溶鋼よりも高い元素(溶鋼中に溶解しているAlやSiなど)と結びつくことで非金属介在物が生成する再酸化現象が生じてしまう。そのため、溶鋼鍋やタンディッシュにおいては、不活性ガスを用いた雰囲気の置換によりタンディッシュ内を低酸素濃度とするか、或いは、低級酸化物の含有量が少ない低反応性のフラックスを用いた溶鋼表面の被覆により溶鋼を外気から遮断する必要がある。しかしながら、ロングノズルによって溶鋼をタンディッシュに供給する場合、上記のようにノズルから吐出される溶鋼流が非常に高速であるため、タンディッシュの底部に衝突して発生した反転上昇流によってロングノズル近傍の溶鋼表面を被覆するフラックスが押し退けられ、溶鋼表面が裸湯として外気に直接曝露され、溶鋼が雰囲気内の酸素を吸収する再酸化現象が生じ得る(
図6参照)。あるいは、ロングノズル近傍には取鍋から流出したFeO等の低級酸化物の濃度が高いスラグが存在するので、ロングノズル近傍の激しい溶鋼流によってスラグ中の低級酸化物による溶鋼の再酸化が生じ得る。
【0007】
従来から、上記の課題を解決するための種々の手段が提案されている。例えば、特許文献1には、内径300mm以上の耐火物性の筒状体によって注入流を外気から遮断する注入管を用いる連続鋳造方法が開示されている。特許文献1に開示された技術によれば、ノズルから落下した注入流が管内の液面において管内の気体を叩き込むことで溶鋼中に多数の気泡を導入し、気泡が有する大きな浮力によって注入流速を減少させて、タンディッシュ内に緩やかな上昇流を生じさせることが可能と考えられる。加えて、固体の介在物は溶鋼との濡れ性が悪く、気泡に対して容易に付着するため、気泡が有する大きな浮力によって高速で浮上除去されることも期待される。一方で、上記のような注入管では、取鍋ノズルから放出された溶鋼の飛沫や浴面で飛散した溶鋼が管内壁に付着すると、管径が大きいため付着物の抜熱が著しく、付着物が凝固及び積層して閉塞に至り易い。これは、連続鋳造の操業の継続を困難にする大きな問題である。加えて注入管では、溶鋼が気相から酸素や窒素を吸収することを避けるために、管内を大量の不活性ガスで充満させる必要があり、ロングノズルを溶鋼中に浸漬させる場合と比較して大きな操業コストがかかってしまう問題がある。
【0008】
特許文献2には、タンディッシュ底部で反転した上昇流によって裸湯の曝露が発生することを防ぐために、胴体部に流れ制御部を設けたノズルが開示されている。しかしながら、特許文献2に開示された技術においては、ショートパスの発生に対しては別途対策を講じる必要があり、製造コストが増加する。加えて、ノズルの重量が増加するためノズルを把持する装置への負荷が大きく、鋳造中にノズルを支えきれなくなり、ロングノズルの接合部から溶鋼が噴き出す虞がある。
【0009】
特許文献3には、注入ノズルの内部に不活性ガスのガス空間を形成し、ノズル内の鋼浴面において注入流に不活性ガスを巻き込ませるとともに、タンディッシュの底面に設置した攪拌ボックス内で該注入流を攪拌することで、溶鋼中の介在物と気泡との凝集を促進する連続鋳造方法及び連続鋳造装置が開示されている。特許文献3に開示された技術において、連続鋳造装置の注入ノズルは吐出孔の内径が十分に大きいためガス空間が安定して形成される。一方で、特許文献3に開示された技術は、注入流が巻き込んだ気泡がすべて注入ノズル内へと再浮上し、攪拌ボックス内での攪拌作用が十分に発揮されないことを回避するために、注入ノズルの内径を所定値以下とすることを特徴としているが、注入ノズルを離脱しタンディッシュの溶鋼表面に浮上した気泡は上記の通り再酸化が生じる原因となり得る。また、撹拌ボックスのコストや施工の手間がかかるという問題もある。
【0010】
取鍋からタンディッシュへと溶鋼を給湯するためのロングノズルとしては、例えば、特許文献3に開示されたような拡径部を有しないストレートノズルや、特許文献2、4に開示されたような拡径部(円錐部)を有するものが知られている。しかしながら、従来のロングノズルでは、タンディッシュにおける裸湯やショートパスの発生を十分に抑制できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6575355号公報
【特許文献2】特表2020-530813号公報
【特許文献3】特開2011-235339号公報
【特許文献4】特開平11-010292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を供給する場合は、ロングノズル内に気相領域を形成するとともに溶融金属の液面(二次メニスカス)を形成し、ここに溶融金属を叩き込んで多数の気泡を生成させることで、溶融金属の流速を低減することができ、上述のショートパスや裸湯の発生が抑制されるものと考えられる。この場合、ロングノズル内に多数の気泡を維持するため、生成した気泡をロングノズルからできるだけ離脱させないようにし、また、生成した気泡を気相領域へと効率的に回収することが求められる。本願は、取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するためのロングノズルであって、ノズル内の二次メニスカスに溶融金属を叩き込んで多数の気泡を生成させた場合に、当該気泡をノズル内に効率的に回収することが可能なものを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するための筒状単孔のロングノズルであって、
流入口、最小径部、拡径部及び流出口を有し、
前記最小径部が、前記流出口よりも前記流入口側に存在し、
前記拡径部が、前記最小径部から前記流出口に至るまで存在して、前記最小径部から前記流出口に向かうにつれてノズルの内径が拡大しており、
ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面とノズルの軸Xとのなす角度θが、5°以上10°以下であるもの、
を開示する。
【0014】
本開示のロングノズルにおいては、前記最小径部から前記流出口までの長さL1と、前記流出口におけるノズルの内径D2との比L1/D2が、2.0以上であってもよい。
【0015】
本開示のロングノズルにおいては、前記最小径部におけるノズルの内径D1と、前記流出口におけるノズルの内径D2との比D1/D2が、0.3以上0.6以下であってもよい。
【0016】
本開示のロングノズルにおいては、ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面の形状が、直線状、折線状及び曲線状のうちの少なくとも1つの形状であってもよい。
【0017】
本開示のロングノズルは、前記流入口と前記最小径部との間に直胴部を有するものであってもよい。
【0018】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するノズルシステムであって、
前記ロングノズルが、上記本開示のロングノズルであり、
前記ロングノズルの前記流出口が、前記タンディッシュにおける前記溶融金属の液面よりも下方、且つ、前記タンディッシュの底面よりも上方に位置し、
前記ロングノズルの内部に不活性ガスを含む気相領域と前記溶融金属の二次メニスカスとが存在し、
前記二次メニスカスが、前記最小径部よりも前記流出口側に存在するもの、
を開示する。
【0019】
本開示のノズルシステムにおいては、前記ロングノズルの浸漬深さLDと、前記流出口におけるノズルの内径D2との比LD/D2が、1.6以上2.2以下であってもよい。
【0020】
本開示のノズルシステムにおいては、下記式(1)で定義される前記二次メニスカスの高さΔHが、-10cm以上20cm以下とされてもよい。
【0021】
ΔH=(PT-PL)/(ρ・g) …(1)
ここで、
PTは、前記タンディッシュ内の雰囲気圧力であり、
PLは、前記ロングノズル内の前記気相領域の圧力であり、
ρは、前記溶融金属の密度であり、
gは、重力加速度である。
【0022】
本開示のノズルシステムにおいては、前記タンディッシュが内部に堰を有しないものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示のロングノズルによれば、取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給する際、ノズル内の二次メニスカスに溶融金属を叩き込んで多数の気泡を生成させた場合に、当該気泡をノズル内に効率的に回収することが可能である。これにより、ノズル内に多数の気泡を維持し易くなり、溶融金属の流速を低減し易く、タンディッシュにおけるショートパスや裸湯の発生を抑え易くなる。結果として、溶融金属の清浄度が高まり易い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ロングノズルの長手断面形状の一例を概略的に示している。
【
図2】ロングノズルの拡径部に気膜が形成されることによって気泡回収効率が向上することを説明するための概略図である。
【
図3】ロングノズルの長手断面形状の他の例を概略的に示している。
【
図4】取鍋、ロングノズル及びタンディッシュの位置関係の一例を概略的に示している。
【
図5】取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を供給している状態の一例を概略的に示している。
【
図6】従来技術における課題を概略的に示している。
【
図7】実施例及び比較例にて用いたロングノズルの形状を概略的に示している。尚、Aにおいては、分かり易さのため、二次メニスカスよりも上の溶鋼注入流を省略しつつ、二次メニスカス位置及びタンディッシュ内溶鋼湯面位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.ロングノズル
本開示のロングノズルは、取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するための筒状単孔のロングノズルである。本開示のロングノズルは、流入口、最小径部、拡径部及び流出口を有する。ここで、前記最小径部が、前記流出口よりも前記流入口側に存在し、前記拡径部が、前記最小径部から前記流出口に至るまで存在して、前記最小径部から前記流出口に向かうにつれてノズルの内径が拡大している。本開示のロングノズルにおいては、ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面とノズルの軸Xとのなす角度θが、5°以上10°以下である。
【0026】
図1(A)及び(B)にロングノズルの長手断面形状の一例を概略的に示す。
図1(A)及び(B)に示されるように、一実施形態に係るロングノズル10は、流入口11、最小径部12、拡径部13及び流出口14を有する。ロングノズル10は、流出口14を一つのみ有する筒状単孔ノズルである。図示していないが、ロングノズル10の開口形状(ノズルの軸Xと直交する断面形状)は、基本的には円形である。ただし、完全な円である必要はなく、所期の効果が得られる限り、一部変形が加えられていてもよい。ロングノズル10においては、拡径部13が、最小径部12から流出口14に至るまで存在しており、言い換えれば、最小径部12から流出口14に至るまで先太りとなっている。
図1(A)に示されるように、ロングノズル10においては、拡径部13におけるノズル内壁面とノズルの軸Xとの間に角度θが設けられており、当該角度θが5°以上10°以下の範囲内とされている。尚、ロングノズル10の使用時、ノズルの軸Xは上下方向(鉛直方向)と実質的に一致する。ロングノズル10は公知の耐火物等により構成され得る。
【0027】
1.1 流入口
流入口11は、ロングノズル10の上流側の端部に位置する。流入口11は、他の部材(例えば、コレクターノズルといったその他のノズルの下端、或いは、取鍋の流出口等)に接続され得る。流入口11におけるノズルの内径は、後述する最小径部12におけるノズルの内径と実質的に同じであってもよいし、異なっていてもよい。流入口11におけるノズルの内径D0は、例えば、50mm以上、70mm以上又は100mm以上であってもよく、200mm以下、170mm以下又は150mm以下であってもよい。
【0028】
1.2 最小径部
最小径部12は、流出口14よりも流入口11側に存在する。最小径部12の位置は、流入口11の位置と一致していてもよいし、流入口11よりも流出口14側に存在していてもよい。最小径部12におけるノズルの内径D1は、例えば、50mm以上、70mm以上又は100mm以上であってもよく、200mm以下、170mm以下又は150mm以下であってもよい。
【0029】
1.3 拡径部
拡径部13は、最小径部12から流出口14に至るまで存在する。すなわち、ロングノズル10は、最小径部12からノズル下端に至るまで先太りとなっている。このように、最小径部12から流出口14に至るまで拡径部13が存在する場合において、ロングノズル10の下端をタンディッシュ内の溶融金属に浸漬させつつ、最小径部12から流出口14へと溶融金属を流通させると、拡径部13におけるノズル内に気相領域及び二次メニスカスが形成され得る。最小径部12から二次メニスカスへと溶融金属が供給されると、当該二次メニスカスに溶融金属が叩き込まれ、多数の気泡(気泡プルーム)が生成し得る。当該気泡プルームの生成によって、溶融金属の流速を減速させる効果、非金属介在物を上昇させる効果等の種々の効果が得られることから、タンディッシュにおける裸湯やショートパスの発生等が抑制され易くなり、溶融金属の清浄度が高められ易くなる。
【0030】
ここで、拡径部13における角度θが5°以上10°以下である場合、以下の効果が期待できる。すなわち、
図2に示されるように、二次メニスカスに溶融金属が叩き込まれて多数の気泡が生成した場合に、溶融金属中の当該気泡が上昇する際、拡径部13におけるノズル内壁面に気膜が形成され、且つ、当該気膜を高速で浮上させることができる。これにより、溶融金属中に生成させた気泡をノズル内の気相領域へと速やかに回収することができ、気泡がノズルの流出口14からノズル外へと流出し難くなる。その結果、ノズル内において気相領域、二次メニスカス及び気泡プルームが維持され易くなり、上述の溶融金属の流速を減速させる効果、非金属介在物を上昇させる効果等が一層発揮され易くなる。結果として、タンディッシュにおける裸湯やショートパスの発生等が抑制され易くなり、溶融金属の清浄度が高められ易くなる。拡径部13がノズルの流出口14に至るまで存在することで、ノズルの下端から気膜が形成され得ることから、気膜形成による気泡の回収効率が一層増大する。角度θが5°未満である場合やマイナスである場合(縮径している場合)、気膜がほとんど形成されず、気泡を効率的に回収し難い。気膜がより形成され易い観点から、角度θは、6°以上又は7°以上であってもよい。一方、角度θが大き過ぎると、気膜は形成されるものの、気膜の浮上速度が低下し、気泡の浮上速度よりもむしろ遅くなる。本発明者の知見によれば、角度θが10°以下であれば、気膜の浮上速度が気泡の浮上速度よりも速くなり、上記した有利な効果が発揮され易くなる。尚、気膜の浮上速度が気泡の浮上速度よりも速くなるのは、気膜が偏平状であることから浮上の際の抵抗が小さくなること等によるものと考えられる。
【0031】
ノズルの長手断面形状において、拡径部13におけるノズル内壁面の形状は、直線状、折線状及び曲線状のうちの少なくとも1つの形状であってよい。言い換えれば、拡径部13においては、上流側から下流側にかけてノズル内径が直線的に拡大(単調増加にて拡大)していてもよいし、曲線的に拡大していてもよい。また、拡径部13においては、上流側から下流側にかけてノズル内径が連続的に拡大していてもよいし、断続的に拡大していてもよい。
図1には、拡径部13における角度θがノズルの上流から下流にかけて一定である形態(ノズルの長手断面形状において、拡径部13におけるノズル内壁面の形状が直線状である形態)を例示したが、拡径部13における角度θは、ノズルの上流から下流にかけて変化していてもよい。例えば、拡径部13において、ノズルの上流から下流に向かうにつれて、角度θが連続的又は断続的に増大していてもよい。すなわち、
図3に示されるように、拡径部13が、上流側において角度θ
1を有し、下流側において角度θ
2を有し、角度θ
1よりも角度θ
2のほうが大きくてもよい。或いは、ノズルの上流から下流に向かうにつれて、角度θが連続的又は断続的に減少していてもよい(すなわち、θ
1>θ
2であってもよい)。いずれにしても、本開示のロングノズルにおいては、拡径部における上記角度θが、5°以上10°以下の範囲内となる。言い換えれば、本開示のロングノズルは、最小径部12から流出口14に至るまでの間において、角度θが5°未満となる部分や、角度θが10°超となる部分を有しない。
【0032】
最小径部12から流出口14までの長さ(拡径部13の全長)L1は、例えば、300mm以上又は500mm以上であってもよく、1000mm以下又は800mm以下であってもよい。拡径部13の全長L1が大きいほど、ノズル内の二次メニスカスからノズル下端までの体積が大きくなり易く、気泡プルームの保持体積が大きくなり易い。そのため、溶融金属の流速を減速させる効果、非金属介在物を上昇させる効果等の種々の効果が一層顕著に得られ易くなる。一方、拡径部13の全長L1が大き過ぎると、これら効果が飽和するほか、ノズル重量が過度に重くなり易い。
【0033】
1.4 流出口
流出口14は、ロングノズル10の下流側の端部に位置する。流出口14は、タンディッシュ内の溶融金属に開放されている。流出口14におけるノズルの内径D2は、上述の角度θが達成されるサイズであればよい。例えば、100mm以上、130mm以上又は150mm以上であってもよく、350mm以下、330mm以下又は300mm以下であってもよい。
【0034】
1.5 直胴部
図1(A)及び(B)に示されるように、ロングノズル10は、流入口11と最小径部12との間に直胴部15を有していてもよい。直胴部とは、上流から下流かけてノズルの内径に実質的な変化がない部分をいう。この場合、流入口11から直胴部15の下端に至るまで、ノズルの内径が実質的に同一であってもよい。流入口11から直胴部15の下端に至るまで、最小径部12が存在していてもよい。このような直胴部15を備えることで、ノズル内の溶融金属の流速及び流通方向が安定化し、ノズル内の気相領域や二次メニスカスが安定し、直胴部15よりも下流側において安定して気泡プルームを生成させ易くなる。直胴部15の長さL
0は、例えば、300mm以上又は500mm以上であってもよく、1000mm以下又は800mm以下であってもよい。
【0035】
1.6 拡径部全長/流出口径
ロングノズル10においては、最小径部12から流出口14までの長さ(拡径部13の全長)L1と、流出口14におけるノズルの内径D2との比L1/D2は、特に限定されるものではない。拡径部13による上記効果をより確保し易い観点から、比L1/D2は、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上又は2.0以上であってもよい。
【0036】
1.7 最小径/流出口径
ロングノズル10においては、最小径部12におけるノズルの内径D1と、流出口14におけるノズルの内径D2との比D1/D2は1.0未満であればよい。ただし、比D1/D2が小さ過ぎると、上記の角度θを満たすために拡径部13の全長L1を長くする必要が生じる。また、比D1/D2が大き過ぎると、上記の角度θを満たすために拡径部13の全長L1を短くする必要が生じる。拡径部13による上記効果をより確保し易い観点から、比D1/D2は0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよく、0.8以下、0.7以下又は0.6以下であってもよい。
【0037】
1.8 ノズル全長
ロングノズル10の全長(流入口11から流出口14までの長さ)Lは、例えば、1000mm以上又は1200mm以上であってもよく、1800mm以下又は1600mm以下であってもよい。
【0038】
2.ノズルシステム
本開示のノズルシステムは、取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するものである。前記ロングノズルは、上述した本開示のロングノズルである。本開示のノズルシステムにおいては、前記ロングノズルの前記流出口が、前記タンディッシュにおける前記溶融金属の液面よりも下方、且つ、前記タンディッシュの底面よりも上方に位置し、前記ロングノズルの内部に不活性ガスを含む気相領域と前記溶融金属の二次メニスカスとが存在し、前記二次メニスカスが、前記最小径部よりも前記流出口側(すなわち、拡径部)に存在する。
【0039】
図4及び5に一実施形態に係るノズルシステム100の構成を概略的に示す。
図4及び5に示されるように、ノズルシステム100は、取鍋101からロングノズル10を介してタンディッシュ102へと溶融金属105を下向きに供給するものである。
図4及び5に示されるように、ロングノズル10は、上流側である取鍋101側に流入口11を備え、下流側であるタンディッシュ102側に流出口14を備え、且つ、上流側から下流側に向かって下向きに延在する、筒状単孔ノズルである。また、ロングノズル10の流出口14は、タンディッシュ102における溶融金属105の液面105aよりも下方、且つ、タンディッシュ102の底面102aよりも上方に位置している。また、ノズルシステム100においては、ロングノズル10の内部の拡径部13の部分に不活性ガスを含む気相領域10aと溶融金属105の二次メニスカス10bとが存在している。
【0040】
2.1 取鍋
取鍋101は、タンディッシュ102への溶融金属105の供給元となる容器である。
図4及び5に示されるように、ノズルシステム100において、取鍋101は、底面101aと側壁101bとを有して、溶融金属105を保持している。取鍋101は、さらに、蓋(不図示)を有していてもよい。取鍋101は、溶融金属105を保持可能な形状及び材質からなるものであればよい。また、取鍋101は、底面101aの一部に流出口101axが設けられ、ここから溶融金属105を流出できるように構成されていてもよい。流出口101axには、溶融金属105の流出量を制御するための開閉機構が設けられていてもよい。取鍋101の流出口101axにはロングノズル10が直接的又は間接的に接続され得る。例えば、
図5に示されるように、取鍋101の流出口101axに対して、コレクターノズル111やスライディングノズル112を介して、ロングノズル10が接続されていてもよい。取鍋101とノズルとの接続形態は特に限定されるものではなく、例えば、嵌合によって接続可能である。何らかの中間部材を介して、取鍋101とノズルとが接続されていてもよい。
【0041】
2.2 タンディッシュ
タンディッシュ102は、取鍋101からの溶融金属105の供給先となる容器である。
図4及び5に示されるように、タンディッシュ102は、底面102aと側壁102bとを有して、取鍋101から供給された溶融金属105を保持している。タンディッシュ102は、さらに、蓋102cを有していてもよい。タンディッシュ102は、溶融金属105を保持可能な形状及び材質からなるものであればよい。
図4に示されるように、タンディッシュ102の底面102aの一部には流出口102axが設けられていてもよく、ここから他の容器(例えば、鋳型)へと溶融金属105を流出できるように構成されていてもよい。流出口102axには、溶融金属105の流出量を制御するための開閉機構が設けられていてもよい。タンディッシュ102の流出口102axには、ノズル120(浸漬ノズル)が直接的又は間接的に接続されていてもよい。タンディッシュ102とノズル120との接続形態は特に限定されるものではなく、例えば、嵌合によって接続可能である。何らかの中間部材を介して、タンディッシュ102とノズル120とが接続されていてもよい。
【0042】
図5に示されるように、タンディッシュ102に供給された溶融金属105の液面105a上には、フラックスを含む浮上層106が存在していてもよい。フラックスとしては公知のフラックスを採用すればよい。このようにフラックスによって溶融金属105の液面105aを被覆することで、溶融金属105を外気から遮断することができる。また、フラックスによって溶融金属105中の非金属介在物を回収することができる。さらに、タンディッシュ102内に不活性ガスが供給されてタンディッシュ102内に外気ができるだけ入り込まない状態とされていてもよい。これにより、溶融金属105の再酸化が一層抑制され得る。尚、後述するように、ノズルシステム100によれば、気泡プルームによる溶融金属105の減速効果等によって、ロングノズル10から流出した溶融金属105がタンディッシュ102の底面102aに衝突することによる反転上昇流(
図6参照)を小さく抑えることができ、タンディッシュ102の液面105aが乱れ難く、液面105aの乱れによるフラックスの押し退けや途切れも生じ難いことから、裸湯による再酸化の問題が生じ難い。
【0043】
図4に示されるように、タンディッシュ102は、その内部に堰を有しないものであってよい。本開示のノズルシステム100においては、ロングノズル10の内部に二次メニスカス10bが形成され、溶融金属105の落下流が当該二次メニスカス10bに衝突する際に気相を巻き込む現象(気泡プルームの形成)によって、溶融金属105の下降流速が低減され易く、タンディッシュ102における溶融金属105のショートパス(
図6参照)も抑制され易いことから、タンディッシュ102の内部に堰を設けずとも溶融金属105に含まれる非金属介在物等を除去し易い。
【0044】
2.3 ノズル
2.3.1 ロングノズル
図4及び5に示されるように、溶融金属105は、ロングノズル10を介して、取鍋101からタンディッシュ102へと供給される。ロングノズル10の詳細については上述した通りである。尚、ロングノズル10は、タンディッシュ102とは独立して設置されるもので、タンディッシュ102に対して固定されている必要は無い。この点、タンディッシュの蓋に設置及び固定される注入管と、本願にいうロングノズルとでは、その構成が異なるものといえる。
【0045】
図4及び5に示されるように、ロングノズル10の流出口14は、タンディッシュ102における溶融金属105の液面105aよりも下方、且つ、タンディッシュ102の底面102aよりも上方に位置している。すなわち、ロングノズル10は、下流側の先端部がタンディッシュ102の内部の溶融金属105に浸漬されている。
図5に示されるように、ノズルシステム100においては、タンディッシュ102の溶融金属105の液面105aからロングノズル10の流出口14までの間に浸漬深さL
Dを有していてもよく、ロングノズル10の流出口14からタンディッシュ102の底面102aまでの間に距離L
Sを有していてもよい。L
DやL
Sの具体値やL
DとL
Sとの関係は特に限定されるものではない。例えば、L
Dは100mm以上、150mm以上、200mm以上、250mm以上、300mm以上、350mm以上、400mm以上又は450mm以上であってもよく、750mm以下、700mm以下又は650mm以下であってもよい。また、L
Sは200mm以上900mm以下であってもよい。また、L
DとL
Sとの比L
D/L
Sは0.2以上1.0以下であってもよい。また、流出口14におけるノズル内径D
2とL
Sとの比D
2/L
Sは0.2以上3.0以下であってもよい。さらに、ロングノズルの浸漬深さL
Dと、前記流出口におけるノズルの内径D
2との比L
D/D
2が、1.6以上2.2以下であってもよい。L
DやL
Sを調整することで、気泡のロングノズル10からの離脱等が一層抑制され易くなる。
【0046】
図4に示されるように、ロングノズル10は、二次メニスカス10bよりも上流において最小の内径D
1を有し、二次メニスカス10bにおいて内径D
Mを有し、二次メニスカス10bよりも下流の流出口14において内径D
2を有するものであってもよい。尚、D
MはD
1超D
2未満で推移し得る。
【0047】
2.3.2 コレクターノズル
図5に示されるように、ノズルシステム100においては、ロングノズル10の上流にコレクターノズル111が設けられていてもよい。コレクターノズル111は、その上流側の端部が、直接的又は間接的に取鍋101に接続され得る。また、コレクターノズル111は、その下流側の端部が、ロングノズル10の上流側の端部に接続され得る。
図5に示されるように、コレクターノズル111の下端の内径は、ロングノズル10の流入口11の内径D
0よりも小さくてもよい。コレクターノズル111の内径D
Cの具体的な値は特に限定されるものではない。例えば、D
Cと上述のD
0とが1.0≦D
0/D
C≦1.4なる関係を満たしていてもよい。すなわち、ロングノズル10とコレクターノズル111との接続部において、コレクターノズル111の内径D
C(cm)に対するロングノズル10の内径D
0(cm)の比D
0/D
Cが1.0以上1.4以下であってもよい。この比が小さ過ぎると、ロングノズル10とコレクターノズル111との接続部又はその近傍で、上流側から下流側に向かって縮径することによる段差が生じる場合があり、溶融金属105の漏洩や耐火物の異常損耗を引き起こす虞がある。一方、この比が大き過ぎると、ロングノズル10の側面からの放熱の影響でロングノズル10の内壁に溶融金属105が固着し易くなる。また、ロングノズル10の重量が無用に増加する虞もある。コレクターノズル111は、従来公知のコレクターノズルから適宜選定して構成されてもよい。ロングノズル10とコレクターノズル111との接続部における構造は従来と同様であってよい。例えば、ロングノズル10の上端部とコレクターノズル111の下端部とを互いに嵌め合わせることで接続部が構成されていてもよい。
【0048】
2.3.3 スライディングノズル
図5に示されるように、ノズルシステム100においては、コレクターノズル111の上流に流量調整機構112が設けられてもよい。流量調整機構112の具体例としては、例えば、
図5に示されるようなスライディングノズルが挙げられる。スライディングノズルにおいては、流通口を有する少なくとも一枚のスライド板112aが、溶融金属105の流通方向とは交差する方向にスライドされることで、流路径が変化し得る。或いは、流量調整機構112は、スライディングノズル以外の開閉機構であってもよい。流量調整機構112の形態については公知であることから、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0049】
2.4 不活性ガス供給機構
図5に示されるように、ノズルシステム100においては、ロングノズル10の外部から内部へと不活性ガスが供給されて、ロングノズル10の内部に不活性ガスを含む気相領域10aと溶融金属105の二次メニスカス10bとが形成される。ロングノズル10の外部から内部へと不活性ガスを供給する方法や手段は特に限定されない。例えば、
図5に示されるように、ノズルシステム100は、ロングノズル10の外部から内部へと不活性ガスを供給する、不活性ガス供給機構113を有していてもよい。尚、取鍋101からノズルを介してタンディッシュ102へと溶融金属105を供給する場合、取鍋101とノズルとの接続部やノズル同士の接続部等からエジェクタによってロングノズル10の内部へと外気が取り込まれる場合があるが、ノズルシステム100においては、これとは別に、ロングノズル10の内部へと不活性ガスを意図的に供給する機構113が採用され得る。或いは、当該機構113を用いることなく、上記のエジェクタのみによって気相領域10aや二次メニスカス10bが形成されるようにしてもよい。
【0050】
ノズルシステム100においては、溶融金属105の供給中に、ロングノズル10の内部に気相領域10a及び二次メニスカス10bが形成され、且つ、二次メニスカス高さΔHが所定の範囲に維持されてもよい。二次メニスカス10bに溶融金属105の下降流が衝突することで、気相領域10aから溶融金属105中に気体が巻き込まれ、溶融金属105中に大小様々な気泡群が生成し得る。ノズルシステム100がロングノズル10の内部へと不活性ガスを供給する機構113を有することで、ロングノズル10の内部において気相領域10aを一層維持し易くなり、二次メニスカス高さΔHの制御もより容易となる。不活性ガスとしては、例えば、Arが挙げられる。ロングノズル10に対する不活性ガスの供給量は特に限定されるものではなく、また、気相領域10aにおける圧力も特に限定されるものではない。不活性ガス供給機構113は、不活性ガスの供給量や圧力を制御する制御部を備えていてもよい。例えば、制御部からの信号等に基づいて、不活性ガス供給弁の開閉制御等が行われ、不活性ガスの供給量や圧力が目標値に制御され得る。
【0051】
ロングノズル10の内部へと不活性ガスを供給する機構113の具体的な形態は限定されない。例えば、不活性ガス供給源(高圧の不活性ガスが充填された容器等)とロングノズル10とを配管や弁等を介して直接的又は間接的に接続することで、当該機構113が構成され得る。或いは、不活性ガス供給源とロングノズル10よりも上流側の位置(例えば、コレクターノズル111、スライディングノズル112又は取鍋101)とを接続して、不活性ガスが供給された溶融金属105がロングノズル10に流入するようにしてもよい。ただし、不活性ガス供給機構113がロングノズル10に対して直接的に接続された場合、或いは、ロングノズル10の近傍に接続された場合のほうが、ロングノズル10に吹き込まれる不活性ガスの量を制御し易くなる。例えば、上記の機構113によって不活性ガスが供給される位置は、ロングノズル10とコレクターノズル111との接続部又はその近傍であってよく、具体的には、接続部から100mmの範囲内にあってもよい。この範囲内であれば、上記の機構113を設置し易い。また、この範囲内において不活性ガスが供給されることで、ロングノズル10の内部に気相領域10aを一層形成し易くなる。或いは、不活性ガス供給機構113はロングノズル10の拡径部13よりも上流側や拡径部13に設けられていてもよい。
【0052】
ノズルシステム100においては、例えば、気相領域10aの圧力が制御されること等によって、下記式(1)で定義される二次メニスカス高さΔHが-10cm以上20cm以下となるように構成されていてもよい。ΔHはー5cm以上又は0cm以上であってもよく、15cm以下であってもよい。
【0053】
ΔH=(PT-PL)/(ρ・g) …(1)
ここで、
PTは、前記タンディッシュ内の雰囲気圧力であり、
PLは、前記ロングノズル内の前記気相領域の圧力であり、
ρは、前記溶融金属の密度であり、
gは、重力加速度である。
【0054】
図5に示されるように、ΔHは、ロングノズル10の内部の二次メニスカス10bの高さ位置とタンディッシュ102における溶融金属105の液面105aの高さ位置との差に相当する。上記式(1)の通り、ノズルシステム100においては、ロングノズル10の内部の気相領域10aの圧力が高ければ高いほど、ΔHが小さくなる。ΔHが0cmの場合とは、気相領域10aの圧力がタンディッシュ102内の雰囲気圧力と一致する場合に相当する。尚、ノズルシステム100において、ΔHが過度にマイナスとなる場合(ロングノズル10の内部の気相領域10aの圧力がタンディッシュ102内の雰囲気圧力に対して過度に正圧である場合)、二次メニスカス10bから流出口14までのロングノズル10の容積が少なくなり、気泡プルームによる作用効果が発揮され難くなり、また、ロングノズル10内の気泡の保持に不利に働く場合がある。一方、ロングノズル10の気相領域10aの圧力を過度に低下させた場合、気密を保つことが難しくなり、外気の吸い込みを引き起こし易くなる。また、ΔHが過度に大きくなって、溶融金属105の自由落下距離が短くなり、二次メニスカス10bに溶融金属105の下降流が衝突する際の衝突力が低下し、気相領域10aから溶融金属105中への気体の巻き込みが少なくなり、気泡プルームの生成量が低下する虞がある。ΔHが好ましくはー10cm以上、より好ましくは-5cm以上、さらに好ましくは0cm以上となるように気相領域10aの圧力が制御されることで、二次メニスカス10bから流出口14までの間においてロングノズル10の容積が十分に確保でき、気泡プルームによる作用効果が発揮されるとともに、ロングノズル10内に気泡を一層保持し易くなる。結果として、タンディッシュ102における裸湯やショートパスの発生等が一層抑制されて、溶融金属105の清浄度を一層高めることができる。一方、二次メニスカス高さΔHが好ましくは20cm以下となるように気相領域10aの圧力が制御されることで、気相領域10aが過度に負圧となることがなく、外気の取り込みが抑制され、結果として溶融金属の再酸化が一層抑制され、溶融金属105の清浄度を一層高めることができる。
【0055】
式(1)の計算に必要なタンディッシュ102の内部の雰囲気圧力PTは、タンディッシュ102の内部に通じる配管等に設置した圧力計によって計測することが可能である。また、ロングノズル10の内部の気相領域10aの圧力PLも、同様にロングノズル10の内部の気相領域10aに通じる流路を耐火物に穿ちその流路に接続した配管等に設置した圧力計によって計測することが可能である。あるいは、予備実験によってロングノズル10の内部へ供給される不活性ガスの流量とロングノズル10の内部の気相領域10aの圧力PLとの関係を求めておき、不活性ガスの供給流量からPLを推定できるようにしておいても構わない。尚、式(1)を用いてΔHを計算する際は、単位を全てSI単位に揃えて計算する。得られるΔHの単位はmとなるが、これをcmに換算すればよい。
【0056】
気相領域10aの圧力は、上述の圧力計等で連続的又は断続的に測定されればよく、測定された圧力に応じて気相領域10aに供給される不活性ガスの量を増減させることで、二次メニスカス高さΔHを制御することができる。具体的には、ノズルシステム100は、気相領域10aの圧力が第1の閾値よりも高い場合に、気相領域10aへと供給される不活性ガスの量が低下して、気相領域の圧力が低下するように構成されていてもよい。また、ノズルシステム100は、気相領域10aの圧力が第2の閾値よりも低い場合に、気相領域10aへと供給される不活性ガスの量が増加して、気相領域の圧力が上昇するように構成されていてもよい。不活性ガスの供給量の制御は、例えば、上述したような制御部による開閉弁の制御等によってなされ得る。尚、「第1の閾値」については特に限定されるものではなく、例えば、上記のΔHが所定以上となる圧力を基準に適当な閾値が設定されればよい。また、「第2の閾値」についても特に限定されるものではなく、例えば、上記のΔHが所定以下となる圧力を基準に適当な閾値が設定されればよい。第1の閾値と第2の閾値とは互いに異なる閾値であってもよいし、同じ閾値であってもよい。
【0057】
或いは、気相領域10aとタンディッシュ102内の雰囲気とを互いに連通させることで、気相領域10aの圧力をタンディッシュ102内の雰囲気と一致させることができ、結果としてΔHが0cmとなる。この点、ノズルシステム100においては、ロングノズル10が少なくとも1つの連通孔(不図示)を有していてもよく、ロングノズル10内の気相領域10aと、タンディッシュ102内の雰囲気とが、当該連通孔を介して、互いに連通可能に構成されていてもよい。上述したように、タンディッシュ102は、その内部に不活性ガスが供給されて、タンディッシュ102内に外気ができるだけ入り込まないように構成され得る。この場合、(1)連通孔を介して、気相領域10aをタンディッシュ102内に常時開放して、二次メニスカス高さΔHを常に0cmに保持してもよいし、(2)気相領域10aの圧力が第1の閾値よりも高い場合に、連通孔を介して、気相領域10aからタンディッシュ102内へと不活性ガスが排出されるようにしてもよいし、(3)気相領域10aの圧力が第2の閾値よりも低い場合に、連通孔を介して、タンディッシュ102内から気相領域10aへと不活性ガスが供給されるようにしてもよい。すなわち、連通孔は、気相領域10aとタンディッシュ102内の雰囲気との間において常時開放されていてもよいし、弁等によって開閉制御されるものであってもよい。連通孔の大きさや数は特に限定されるものではない。尚、ノズルシステム100においては、例えば、ロングノズル10内の気相領域10aの圧力が過度に高くなった場合に、気相領域10aが外気に開放されるようにしてもよいが、この場合、ロングノズル10内への外気の取り込み及び溶融金属105の再酸化を防ぐために、何らかの工夫(例えば、逆止弁を設ける等)が必要となる。
【0058】
2.5 その他の構成及び条件
ノズルシステム100においては、上記の構成及び条件以外の構成や条件は特に限定されるものではない。以下、その他の条件や構成の一例を示す。
【0059】
2.5.1 溶融金属の流量及びタンディッシュにおける平均滞留時間
ロングノズル10に供給される溶融金属105の流量Qは、例えば、8000cm3/s以上であってもよく、タンディッシュ102における溶融金属105の平均滞留時間τは、例えば、240秒以上であってもよい。ノズルシステム100における溶融金属105の流速低減効果は、大流量の溶融金属105がタンディッシュを通過する高生産性の連続鋳造において特に有用である。具体的には、溶融金属105の流量Qが8000cm3/s以上となるような場合である。さらに同流量が18000cm3/s以上であるとなお有用である。同流量の上限は特に限定されないが、40000cm3/sを超える連続鋳造は現実的でない。それほど大きな生産速度には他工程が追随し得ないからである。一方、タンディッシュ102内の平均滞留時間τが短過ぎると、溶融金属105について十分な清浄化効果を得ることが難しくなる虞がある。同時間が240秒以上であることで、例えば、50~100ミクロン程度の介在物も浮上によって除去され易くなるものと考えられる。同時間の上限値は特に限定されないが、連続鋳造の定常操業時に同時間が1500秒を超えることは現実的でない。平均滞留時間が長すぎるとタンディッシュ102における溶融金属105の温度低下が大きくなり過ぎるからである。尚、平均滞留時間τは、タンディッシュ102の容量Vτ(cm3)と、ノズルからの溶融金属の流量Q(cm3/s)との比Vτ/Qとして計算され得る。
【0060】
2.5.2 タンディッシュ内の堰
上述したように、ノズルシステム100においては、タンディッシュ102の内部に溶融金属105の流動制御機能を有する堰を設ける必要がない。ノズルシステム100によれば、堰を使わずともタンディッシュ102の内部における溶融金属105の滞留時間を確保することが可能である。むしろ、タンディッシュ102に堰を設置すると、デッドゾーンと呼ばれる淀み域を形成して実質タンディッシュ容量を減じる問題や、コスト増大の問題がある。
【0061】
2.5.3 高さ寸法
ノズルシステム100の高さ方向寸法は特に限定されない。同寸法は、取鍋101側のコレクターノズル111とタンディッシュ102の液面105aとの距離や、ロングノズル10の浸漬深さから決定され、概ね1mから2.5mとなる場合が多い。
【0062】
2.5.4 溶融金属の種類
取鍋101からロングノズル10を介してタンディッシュ102へと供給される溶融金属105の種類に特に制限はない。特に、溶融金属105が溶鋼である場合に、本開示の技術による高い効果が期待できる。溶鋼の鋼種は特に限定されない。
【0063】
3.作用・効果
以上の通り、本開示のロングノズル10及びそれを用いたノズルシステム100によれば、二次メニスカス10bに溶融金属105が叩き込まれて多数の気泡が生成した場合に、溶融金属105中の当該気泡が上昇する際、拡径部13における内壁に気膜が形成され、且つ、当該気膜を高速で浮上させることができる。これにより、溶融金属105中に生成した気泡をノズル内の気相領域10aへと速やかに回収することができ、気泡がノズルの流出口14からノズル外へと流出し難くなる。その結果、ノズル内において気相領域10a、二次メニスカス10b及び気泡プルームを適切に維持し易くなり、溶融金属105の流速を減速させる効果、非金属介在物を上昇させる効果等が発揮され、タンディッシュ102における裸湯やショートパスの発生等が抑制され易くなり、溶融金属105の清浄度が高められ易くなる。
【0064】
4.溶融金属の連続鋳造方法
本開示の技術は、溶融金属の連続鋳造方法としての側面も有する。本開示の溶融金属の連続鋳造方法は、上記本開示のノズルシステム100を用いることに特徴がある。本開示の連続鋳造方法は、例えば、ノズルシステム100を用いて、取鍋101からロングノズル10を介してタンディッシュ102へと溶融金属105を供給すること、タンディッシュ102からノズル120を介して鋳型(不図示)へと溶融金属105を供給すること、及び、鋳型から鋳片を連続的に引き抜くこと、を含み得る。本開示の溶融金属の連続鋳造方法においては、上記のノズルシステム100が採用されることを除いて、一般的な連続鋳造条件が採用され得る。或いは、上述したように、流量Qや平均滞留時間τが所定以上となるように調整されてもよい。
【0065】
5.補足
尚、上記した種々の指標とその適正範囲の探索には、本出願人による特許第6750533号による実験装置を活用することができる。当該実験装置は、溶融金属流に作用する重力、慣性力、粘性力及び表面張力の影響を忠実に再現し、気泡の浮力や浮上速度を含めた気液二相流現象を精度よく再現できる装置である。
【実施例0066】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
【0067】
1.条件
図4及び5に示されるようなシステムを用いて鋼の連続鋳造を行った。ロングノズルとしては、
図7に示されるA~Cのいずれかの形状を有するもの採用した。また、連続鋳造時の溶鋼のスループットQを5ton/min又は10ton/min(12000cm
3/s又は23800cm
3/s)となるようにした。また、ロングノズルの下端をタンディッシュ内の溶鋼に浸漬深さL
Dにて浸漬した。さらに、連続鋳造時、必要に応じて、ロングノズルの内部へと不活性ガスを供給することで、ロングノズル内の二次メニスカス高さΔHを制御した。下記表1に、実施例及び比較例の各々の連続鋳造条件を示す。また、下記表2に、実施例及び比較例にて採用した鋳片の組成を示す。
【0068】
尚、表1における「鋼の清浄度指数」とは、厚み250mm幅1800mmに凝固した鋳片内の介在物濃度を幅中央1/4厚み、1/4幅1/4厚み、3/4幅1/4厚み、幅中央3/4厚み、1/4幅3/4厚み、3/4幅3/4厚み、の6か所から採取した5mm角×50mm長さの試料中の酸化物総量として分析した値を、後に示す比較例4の値を10として指数化したものである。当該指数が小さいほど、溶鋼の清浄度が高い。
【0069】
ノズル中の気泡がノズル外へ流出すると、その気泡がタンディッシュ湯面に浮上して裸湯(湯湧き)を引き起こす。表1における「気泡の回収率」とは、湯湧きの発生状況をカメラで撮影し、その程度により、以下の基準で評価したものである。
〇:湯湧きが全く発生しない
△:湯湧きが時々発生する
×:湯湧きが常時発生する
【0070】
【0071】
【0072】
2.結果
実施例1~4については、ロングノズルの拡径部における角度θ(θ1、θ2)が5°以上10°以下であり、二次メニスカスに溶融金属が叩き込まれて多数の気泡が生成した場合に、溶融金属中の当該気泡が上昇する際、拡径部における内壁に気膜が形成され、且つ、当該気膜を高速で浮上させることができた。これにより、溶融金属中に生成させた気泡をノズル内の気相領域へと速やかに回収することができ、気泡がノズルの流出口からノズル外へと流出することを抑制することができた。その結果、ノズル内において気相領域、二次メニスカス及び気泡プルームが維持され、溶鋼の流速を減速させる効果、非金属介在物を上昇させる効果等が発揮され、タンディッシュにおける裸湯(湯湧き)やショートパスの発生が抑制され、鋼の清浄度が高められた。また、拡径部がノズルの流出口に至るまで存在することで、ノズルの下端から気膜が形成され、気膜形成による気泡の回収効率が一層増大した。これに対し、比較例1~4については、ロングノズルの拡径部における角度θ(θ1、θ2)が5°未満又は10°超であったことから、溶鋼のスループットが小さい場合及び大きい場合のいずれについても、湯湧きが発生し、また、鋼の清浄度も悪化した。具体的には、比較例1、2については、ノズル下端が直胴部(θ2=0°)となっていることから、ノズル下端において気膜を生成させることができず、気泡を効率的に回収することができなかった。比較例3、4については、拡径部の角度が20°と大き過ぎたため、気膜は形成されるものの、当該気膜の浮上速度が気泡の浮上速度よりもむしろ低下した。
【0073】
尚、拡径部を有しないロングノズル(例えば、ストレートノズル)を用いた場合、ロングノズル内に気相領域及び二次メニスカスを安定して維持することができず、溶鋼の叩き込みによる気泡の生成が困難であった。ロングノズル内に気相領域及び二次メニスカスを安定して維持するためには、ロングノズルが最小径部の下流に拡径部を有することが好ましいといえる。
【0074】
以上の結果から、以下のロングノズル(1)やノズルシステム(2)によれば、取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給する際、ロングノズル内の二次メニスカスに溶融金属を叩き込んで多数の気泡を生成させた場合に、当該気泡をノズル内の気相領域へと効率的に回収することが可能といえる。これにより、ノズル内に気相領域、二次メニスカス及び気泡プルームを維持し易くなり、溶融金属の流速を低減し易く、タンディッシュにおけるショートパスや裸湯の発生を抑え易くなる。結果として、溶融金属の清浄度が高まり易い。
【0075】
(1)取鍋からタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するための筒状単孔のロングノズルであって、
流入口、最小径部、拡径部及び流出口を有し、
前記最小径部が、前記流出口よりも前記流入口側に存在し、
前記拡径部が、前記最小径部から前記流出口に至るまで存在して、前記最小径部から前記流出口に向かうにつれてノズルの内径が拡大しており、
ノズルの長手断面形状において、前記拡径部におけるノズル内壁面とノズルの軸Xとのなす角度θが、5°以上10°以下であるもの。
(2)取鍋からロングノズルを介してタンディッシュへと溶融金属を下向きに供給するノズルシステムであって、
前記ロングノズルが、上記のものであり、
前記ロングノズルの前記流出口が、前記タンディッシュにおける前記溶融金属の液面よりも下方、且つ、前記タンディッシュの底面よりも上方に位置し、
前記ロングノズルの内部に不活性ガスを含む気相領域と前記溶融金属の二次メニスカスとが存在し、
前記二次メニスカスが、前記最小径部よりも前記流出口側に存在するもの。