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  • 特開-高Si鋼の連続鋳造方法 図1
  • 特開-高Si鋼の連続鋳造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143396
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】高Si鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20230928BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20230928BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20230928BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20230928BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230928BHJP
   C22C 38/02 20060101ALI20230928BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B22D11/00 A
B22D11/124 L
B22D11/22 B
B22D11/12 F
C22C38/00 301A
C22C38/02
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050735
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】上田 航也
(72)【発明者】
【氏名】廣角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA12
4E004MC02
4E004NC03
(57)【要約】
【課題】高Si鋼の連続鋳造時に鋳片表面割れの発生を抑制する。
【解決手段】質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有する高Si鋼の連続鋳造方法であって、鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御し、且つ、曲げ点及び前記矯正点における鋳片表面温度を、以下の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御する、高Si鋼の連続鋳造方法。
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、前記高Si鋼の組成から算出されるものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有する高Si鋼の連続鋳造方法であって、
鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御し、且つ、
曲げ点及び前記矯正点における鋳片表面温度を、以下の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御する、
高Si鋼の連続鋳造方法。
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、前記高Si鋼の組成から算出されるものである。
【請求項2】
前記高Si鋼が、質量%で、Bを0.0001~0.0005%含有する、
請求項1に記載の高Si鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は高Si鋼の連続鋳造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
鋼の高強度化を志向して鋼中にSiを添加することが一般に行われる。一方で、高濃度にSiを含む鋼(高Si鋼)を垂直曲げ型あるいは湾曲型連続鋳造機で鋳造すると、鋳片表面に横割れが発生することがある。横割れは次工程以降で製品欠陥となることから手入れによって取り除く必要があるが、手入れは歩留まりの低下および熱ロスを生じるため、割れの抑制が望まれる。
【0003】
一般に鋳片横割れは、連続鋳造機の曲げ点あるいは矯正点において不可避的に印加される引張ひずみに起因して発生する。加えて、曲げ点や矯正点を通過する際の鋳片表面温度が第IIIの脆化温度域にある場合に割れが発生し易い。この温度域で脆化が生じる原因の一つに、鋼の粒界に析出したAlNやNbCなどの微細析出物があることが知られており、介在物に応じた析出物制御による鋳片割れ防止が図られている。しかし、高Si鋼においては、脆化の原因がわかっておらず割れに対する対策が確立されていない。
【0004】
また、他の割れ防止方法としては、脆化温度域を回避するものがある。これは、連続鋳造機の2次冷却を制御して曲げ点や矯正点を通過する際の鋳片表面温度を脆化温度域外にすることで割れを防止するものである。しかしながら、鋼種ごとに脆化温度域を特定するには多くの手間と時間がかかるという課題がある。従来技術では、高Si鋼の脆化温度域を特定できていない。
【0005】
特許文献1には、高Si鋼の連続鋳造における2次冷却条件を制御することで、鋳片表面の酸化スケールに起因する鋳片表面割れを抑制する技術が開示されているものの、上述したような脆化に起因する鋳片表面割れを抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5854214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通り、高Si鋼の連続鋳造時に鋳片表面割れの発生を抑制するための新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有する高Si鋼の連続鋳造方法であって、
鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御し、且つ、
曲げ点及び前記矯正点における鋳片表面温度を、以下の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御する、
高Si鋼の連続鋳造方法
を開示する。
【0009】
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、前記高Si鋼の組成から算出されるものである。
【0010】
本開示の高Si鋼の連続鋳造方法においては、前記高Si鋼が、質量%で、Bを0.0001~0.0005%含有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の連続鋳造方法によれば、高Si鋼の連続鋳造時に鋳片表面割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】高Si鋼の連続鋳造方法の一例を概略的に示している。
図2】高Si鋼のAe3点と脆化開始温度Tembとの関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明者による新たな知見
本発明者は、質量%でSiを0.60~2.60%含有する高Si鋼における脆化の原因を突き止めるべく、高Si鋼のSEM観察、熱間延性試験及び熱力学的な検討を行った。その結果、高Si鋼における脆化の原因が、鋼の組織中に析出したBN(窒化ホウ素)にあることを見出した。具体的には、鋼のSi含有量が多くなるほど、BNが析出し易くなり、脆化によって割れが生じ易くなることが分かった。
【0014】
本発明者は、高Si鋼の鋼粒界におけるBNの析出に関してさらに鋭意研究を進めた。その結果、BNは、旧オーステナイト粒界に析出したフェライトの内部に析出し易いことを見出した。具体的には、高Si鋼においては、オーステナイト粒界に濃化したBが、粒界フェライトの析出に伴ってBNとして当該粒界フェライト内に析出し易く、これにより粒界脆化が生じ易い。すなわち、高Si鋼の脆化開始温度Tembは、平衡計算上のフェライト生成温度であるAe3点と一定の関係があると予想された。
【0015】
本発明者は、上記の予想に基づき、Ae3点が異なる複数種の高Si鋼について熱間引張試験を行い、Ae3点と脆化開始温度Tembとを一つ一つ確認した。その結果、高Si鋼のAe3点と脆化開始温度Tembと間に所定の関係があることを見出すとともに、高Si鋼の連続鋳造の際、鋳片表面の温度が脆化開始温度Temb以上であれば、鋳片表面割れが生じ難いことを見出した。例えば、曲げ点や矯正点を通過する際、鋳片表面の温度が脆化開始温度Temb以上であれば、粒界脆化に起因する鋳片表面割れを抑制できる。
【0016】
2.本開示の連続鋳造方法
本開示の連続鋳造方法は、質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有する高Si鋼の連続鋳造方法であって、鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御し、且つ、曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度を、以下の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御するものである。
【0017】
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、前記高Si鋼の組成から算出されるものである。
【0018】
2.1 鋼組成
本開示の方法は高Si鋼を連続鋳造対象とするものである。高Si鋼の組成は、質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有するものであれば特に限定されるものではない。BNの析出に起因した脆化割れを解決するにあたって、Si、B及びN以外の元素の存在による実質的な影響はない。そのため、本開示の連続鋳造方法は、Si、B及びN以外に様々な元素を含む高Si鋼に対して適用可能である。以下、高Si鋼の組成の一例について説明する。以下の説明において、成分についての「%」は質量%を意味する。また、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0019】
(Si:0.60~2.60%)
Siは鋼の強度を向上させる元素である。本開示の連続鋳造方法は、Si含有量の多い高Si鋼の連続鋳造において特有に生じる課題を解決するものである。本発明者の知見によれば、Si含有量が少ない場合、粒界フェライトにおけるBNの析出が生じ難く、粒界脆化に起因した鋳片表面割れに係る課題がそもそも生じ難い。一方、Si含有量が過度に多い場合、BNが粒界フェライト内ではなく、オーステナイト粒界から析出し易くなり、本開示の方法による効果が低下する可能性がある。逆に言えば、BNが粒界フェライトからではなくオーステナイト粒界から析出するようになるSi濃度までは、本開示の方法による高い効果が期待できる。本発明者が確認した限りでは、Si含有量が0.60%以上2.60%以下である高Si鋼を連続鋳造する場合に、本開示の方法による効果(粒界脆化に起因する鋳片表面割れを抑制する効果)が特に顕著となる。Si含有量は、0.70%以上、0.80%以上、0.90%以上又は1.00%以上であってもよく、また、2.50%以下、2.40%以下、2.30%以下、2.20%以下、2.10%以下又は2.00%以下であってもよい。
【0020】
(B:0%超)
鋼中にBが含まれることで鋼の脆化が抑制される場合があるが、これは、鋼中に固溶したBによる効果である。上述したように、高Si鋼においては、Bが、Nと反応してBNとして粒界フェライト内に析出し易く、これが脆化原因となり易い。Bが含まれない場合は、このような課題は生じない。この点、B含有量は0%超であり、0.0001%以上であってもよい。一方で、粒界フェライトにおけるBNの析出開始温度は、B含有量によらず、実質的に変わらないものと考えられる。すなわち、B含有量が過剰である場合も、本開示の連続鋳造方法による効果が期待できる。ただし、本発明者が確認した限りでは、B含有量がごく少量である場合に、BN析出による脆化が特に生じ易い。この点、B含有量は0.0010%以下、0.0009%以下、0.0008%以下、0.0007%以下、0.0006%以下又は0.0005%以下であってもよい。Bは鋼において不純物として含まれるものであってもよいし、意図的に添加されたものであってもよい。
【0021】
(N:0%超)
Nは不純物元素であり、窒化物の生成によって鋼を脆化させる元素である。上述したように、高Si鋼においては、Nが、Bと反応してBNとして粒界フェライト内に析出し、これが脆化原因となり得る。Nが含まれない場合は、このような課題は生じない。この点、N含有量は0%超であり、0.0005%以上又は0.0010%以上であってもよい。一方で、粒界フェライトにおけるBNの析出開始温度は、N含有量によらず、実質的に変わらないものと考えられる。すなわち、N含有量が過剰である場合も、本開示の連続鋳造方法による効果が期待できる。ただし、鋼において不純物元素であるNを過剰に含ませるメリットがない。この点、N含有量は0.0200%以下、0.0150%以下、0.0100%以下、0.0080%以下、又は、0.0060%以下であってもよい。
【0022】
(その他の元素)
上述の通り、本開示の連続鋳造方法は、Si、B及びN以外に様々な元素を含む高Si鋼に対して適用可能である。Si、B及びN以外の元素としては、C、Mn、P、S、Al、Ti、Nb、Cu、Cr、O、Ni、Mo、W、V、Ta、Co、Sn、Sb、As、Mg、Zr、Ca、REM等が挙げられる。尚、本願にいうREMとは、Sc、Y、La、Ce等の希土類元素を表すが、そのうちの任意の1種類、あるいは2種類以上のREMを用いることができる。本開示の連続鋳造方法において、高Si鋼は、例えば、Si:0.60~2.60%、B:0超~0.0100%、及び、N:0超~0.0200%、並びに、C:0.0005~0.3000%、Mn:0.01~4.00%、P:0.100%以下、S:0.020%以下、Al:0~1.000%、Ti:0~0.500%、Nb:0~0.500%、Cu:0~1.000%、Cr:0~2.000%、O:0~0.0200%、Ni:0~0.500%、Mo:0~3.000%、W:0~0.100%、V:0~1.000%、Ta:0~0.100%、Co:0~3.000%、Sn:0~1.000%、Sb:0~0.500%、As:0~0.050%、Mg:0~0.050%、Zr:0~0.050%、Ca:0~0.0500%、及び、REM:0~0.0500%を含むものであってもよい。任意元素については含まれなくてもよいため、その下限は0%であり、0.0001%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよい。また、高Si鋼においては、上記元素以外の残部がFe及び不純物であってよい。不純物とは、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、鋼の製造工程の種々の要因によって混入する成分等である。
【0023】
2.2 温度制御
本開示の連続鋳造方法においては、鋳型の直下から矯正点に至るまでにおいて、鋳片の温度制御を行う。例えば、図1に示されるように、本開示の連続鋳造方法においては、上記組成を有する高Si鋼の鋳片1を鋳型10から連続的に引き抜き、鋳型10の直下から曲げ点15や矯正点20に至るまでに、鋳片1の表面に冷却水を噴射したり、或いは、鋳片1を空冷する等して鋳片1の2次冷却を行うことで、鋳片1の表面温度を制御してもよい。
【0024】
本開示の連続鋳造方法においては、鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御する。本開示の連続鋳造方法においては、鋳片の急冷及び逆変態による調整等を行わずとも、後述するように曲げ点や矯正点における鋳片表面温度を所定以上の温度とすることで、鋳片表面割れの発生を抑制することができる。本開示の連続鋳造方法においては、鋳片表面の温度がAr1点よりも高い温度に維持されるように、例えば、鋳型から矯正点に至るまで鋳片を緩冷却してもよい。
【0025】
尚、Ar1点は、変態点記録測定装置(フォーマスタ装置)等を用いて測定することができる。或いは、先行文献(邦武立郎: 熱処理, 43, p. 99(2003))で提案されている以下の式(a)を用いてAr1点を特定することもできる。
【0026】
Ar1=(52C+122Si+66Cu+6Cr)-(65Mn+36Ni+58Mo)-73.2/log((Ac3-500)/v)+713 (a)
ここで、式(a)中のvは、Ac3点から冷却到達温度までの平均冷却速度(℃/s)である。
【0027】
Ac3点は変態点記録測定装置(フォーマスタ装置)等を用いて測定したものであってもよいし、先行文献(邦武立郎: 熱処理, 43, p. 99(2003))で提案されている以下の式(b)にて求められたものであってもよい。
【0028】
Ac3=(32Si+17Mo)-(231C+20Mn+40Cu+18Ni+15Cr)+912 (b)
【0029】
本開示の連続鋳造方法においては、曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度を、上記の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御する。これにより、上述したメカニズムによって鋳片表面割れの発生が抑制され得る。尚、上記の式(1)におけるAe3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、高Si鋼の組成から算出されるものである。Ae3は、Thermo-Calc(DB:TCFE10)等の熱力学計算ソフトウェアを用いて計算されたものであってもよい。
【0030】
本開示の連続鋳造方法においては、鋳片が曲げ点や矯正点に至る前に、鋳片表面温度が脆化開始温度Temb未満となることもあり得る。この場合は、曲げ点や矯正点に至るまでに鋳片表面の復熱や再加熱を行うことによって、曲げ点や矯正点における鋳片表面温度がTemb以上となるように制御すればよい。尚、鋳片表面温度が脆化開始温度Temb未満となってBNが生じたとしても、鋳片表面の復熱や再加熱によって、BNを消失させることが可能である。或いは、本開示の連続鋳造方法においては、鋳型の直下から曲げ点や矯正点に至るまで、鋳片表面温度がTemb以上の温度となるように制御してもよい。例えば、上述したように、鋳型から矯正点に至るまで鋳片を緩冷却することで、鋳片表面温度をTemb以上の温度に維持してもよい。
【0031】
本開示の連続鋳造方法において、鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度の上限は特に限定されるものではなく、連続鋳造を実施可能な程度の温度であればよい。例えば、曲げ点や矯正点における鋳片表面温度は、1200℃以下、1100℃以下、1000℃以下、900℃以下又は850℃以下であってもよい。
【0032】
3.補足
尚、本開示の連続鋳造方法は、少なくとも矯正点を有する連続鋳造機を用いる場合に適用されるものであり、曲げ点の存在は必須ではない。すなわち、本願にいう「曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度を、・・・Temb以上の温度に制御する」とは、曲げ点が存在しない場合は「矯正点における鋳片葉面温度を、・・・Temb以上の温度に制御する」ことを意味する。本開示の連続鋳造方法は、図1に示されるような曲げ点15及び矯正点20を有する垂直曲げ型連続鋳造機100だけでなく、矯正点を有するものの曲げ点を有しない湾曲型連続鋳造機を用いる場合にも適用可能である。
【0033】
本開示の連続鋳造方法は、スラブ、矩形ブルーム、丸形ブルームなど鋳片形状を問わず適用することができる。本開示の連続鋳造方法において、上記の鋼組成や温度制御以外の連続鋳造条件(鋳造速度等)については、特に限定されるものではない。
【0034】
以上の通り、本開示の連続鋳造方法によれば、高Si鋼の連続鋳造の際、BNの析出に起因する鋳片表面割れの発生を抑制することができる。尚、本願において、「鋳片表面」とは、鋳片の表面全体である必要は無い。すなわち、鋳片の表面のうち、少なくとも表面割れを抑制したい部分について、上記の温度制御を行えばよい。例えば、鋳片のコーナー部近傍における鋳片幅方向表面(ロールに接触する長辺表面)について上記の温度制御を行うことで、鋳片幅方向表面の全体において鋳片表面割れの発生が抑制され易い。
【実施例0035】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
1.脆化原因の特定
高Si鋼の脆化原因を特定するため、鋳片のSEM観察、熱間延性試験、熱力学的検討を行った。
【0037】
1.1 鋳片のSEM観察
実機の連続鋳造機で割れの発生した鋳片を切りだし、C断面の組織をSEMにて観察した。その結果、割れ近傍の粒界に多数析出したBNが観察された。尚、鋳片の化学分析の結果、Siの濃度は1.88質量%、Bの濃度は0.0002質量%(2ppm)、Nの濃度は0.0039質量%(39ppm)であった。
【0038】
1.2 熱間延性試験
真空溶解にて作成した高Si鋼を用いて、熱間延性試験にて高温延性を評価した。評価に際しては、下記の式(2)で定義される破断後のサンプルの絞り値R.A.(Reduction Area)を高温延性の指標とした。以下ではR.A.=60%となる温度のうち高温側を脆化開始温度Tembと呼ぶものとする。尚、一般に、R.A.は高温から低温になるにしたがって低下して60%を下回り、ある温度から再び上昇して60%を超える。そのため、「R.A.が60%となる温度」は、通常、高温側と低温側とに1つずつ、合計2つある。本実施例では、R.A.が60%となる2つの温度のうち高温側の温度を脆化開始温度Tembと呼ぶ。
【0039】
R.A.=(A-A)/A×100 …(2)
ここで、R.A.:絞り値(断面積減少率)(%)、A:引張試験前の試料の横断面積(m)、A:試料の破断部分の横断面積(m)である。
【0040】
熱間引張試験の結果から、本鋼種の脆化温度域が750℃以下に存在することが判明した。また、破断後の試験片の破面をSEMにて観察すると、破面は粒界割れであり、BNが破面に多数析出しているのが観察された。特に、BNは旧オーステナイト粒界に析出した粒界フェライトの内部に多数析出していた。
【0041】
1.3 熱力学的検討
BがNと反応してBNとして析出した場合に、鋼の延性に影響を与えるか否かを検討すべく熱力学的検討を行った。その結果、粒界偏析を考慮するとBNが安定相として存在し、BNは高Si濃度ほど析出し易いことが判明した。これは、Bの粒界への偏析のしやすさとSiによるB及びNの活量増加の影響であると考えられる。
【0042】
2.ラボ試験
以上の通り、鋳片SEM観察、熱間延性試験及び熱力学的検討の結果から、高Si鋼における脆化の原因は、旧オーステナイト粒界にフェライトが析出し、ここにBNが析出することにあることが判明した。すなわち、高Si鋼の脆化開始温度Tembは、平衡計算上のフェライト生成温度であるAe3点と一定の関係があると予想された。当該予想に基づき以下のラボ試験を行った。
【0043】
下記表1に示される組成を有する高Si鋼に対して、各々、熱間引張試験及び熱力学計算を行い、脆化開始温度TembとAe3点とを算出し、その関係を調査した。尚、Tembの算出には熱間引張試験機を用いて求めた50℃ごとの絞り値を線形で補間し、R.A.=60%となる温度を求めた。また、Ae3点はThermo-Calc(DB:TCFE10)を用いて算出した。結果を下記表2及び図2に示す。表2及び図2に示されるように、脆化開始温度TembとAe3点との間の関係は、以下の式(1)にて整理できることが分かった。
【0044】
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、高Si鋼の組成から算出されるものである。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
3.実機試験
上記のラボ試験の結果が妥当であることを実機試験で確かめた。具体的には、垂直曲げ型連続鋳造機にて5水準の鋳造を実施し、鋳片の横割れ状況を調査した。ここで、連続鋳造時、鋳型の直下から矯正点に至るまで、鋳片表面温度(本実施例では、鋳片コーナー部表面温度を意味する。以下、同様である。)がAr1点よりも高い温度に維持されるようにした。各水準における鋼組成、連続鋳造の結果、並びに、その際用いた冷却条件から算出した曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度のうちの低い方の温度Tsを表3に示す。表3に示されるように、曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度Tsが上記式(1)で示されるTemb以上であった水準1、2、3は、いずれにおいても鋳片表面割れが発生しなかった。一方で、曲げ点又は矯正点における鋳片表面温度がTemb未満であった水準4、5は、いずれにおいても鋳片表面割れが発生した。
【0048】
【表3】
【0049】
尚、連続鋳造においては、鋳片表面のうち、鋳片コーナー部表面の温度が最も低下し易い。すなわち、鋳片コーナー部の表面温度が所定の温度である場合、鋳片コーナー部以外の表面温度は当該所定の温度よりも高くなる。そのため、上記の実施例のように、鋳片コーナー部の表面温度がTemb以上に制御される場合、自ずと、鋳片表面全体の温度がTemb以上に制御されることとなる。ただし、本開示の連続鋳造方法は、鋳片表面全体の温度を制御するものに限られず、鋳片表面のうち割れの発生を抑制したい部分の温度を制御すればよい。
【0050】
4.まとめ
以上の結果から、以下の(1)~(3)を満たす方法によれば、高Si鋼を連続鋳造する際、粒界脆化に起因する鋳片表面割れを抑制することができるものといえる。
(1)連続鋳造対象が、質量%でSiを0.60~2.60%含有し、且つ、B及びNを含有する高Si鋼であること。
(2)鋳型の直下から矯正点に至るまでにおける鋳片表面温度を、Ar1点よりも高い温度に制御すること。
(3)曲げ点及び矯正点における鋳片表面温度を、以下の式(1)で算出される脆化開始温度Temb以上の温度に制御すること。
emb=Ae3-72.4 …(1)
ここで、Ae3は、フェライトの存在上限を定義する平衡温度であって、前記高Si鋼の組成から算出されるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 鋳片
10 鋳型
15 曲げ点
20 矯正点
100 連続鋳造機
図1
図2