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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143408
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】分散安定剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20230928BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/206 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20230928BHJP
   A23L 2/62 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L29/256
A23L29/262
A23L29/269
A23L29/231
A23L29/206
A23L29/30
A23L2/52 101
A23L2/62
A23L2/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050754
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原山 智子
(72)【発明者】
【氏名】倉内 達弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健一
【テーマコード(参考)】
4B041
4B117
【Fターム(参考)】
4B041LC10
4B041LE01
4B041LH02
4B041LH04
4B041LH06
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH16
4B041LP03
4B041LP04
4B041LP07
4B117LC02
4B117LE10
4B117LG01
4B117LG06
4B117LK12
4B117LK13
4B117LL04
4B117LL09
4B117LP13
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】ホモジナイズ処理を施さなくても、水等の液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めることができる分散安定剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る分散安定剤は、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含有するスラリーを、乾燥して得られた粉末であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含有するスラリーを、乾燥して得られた粉末であることを特徴とする分散安定剤。
【請求項2】
前記環状デキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、およびクラスターデキストリンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の分散安定剤。
【請求項3】
前記吸水性食物繊維と前記環状デキストリンとの配合比は、1:0.25~1:99であることを特徴とする請求項1または2記載の分散安定剤。
【請求項4】
前記吸水性食物繊維は、シトラス由来の食物繊維、αセルロール、アルギン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、高融点寒天、発酵セルロース、脱アシルジェランガムカルシウム反応物、およびLMペクチンカルシウム反応物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の分散安定剤。
【請求項5】
乾燥後、粉砕された粉末である請求項1~4のいずれか1項記載の分散安定剤。
【請求項6】
粒子径が30~2000μmである請求項1~5のいずれか1項記載の分散安定剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性食物繊維は、食品へ添加することにより、分散安定効果、保水力の増加、歩留まりの改善、食感改善効果などが期待される食物繊維素材である。具体的には、シトリファイ、ヘルバセルなどのシトラス由来の食物繊維や、セルロース、発酵セルロース、ナノセルロース、発酵ナノセルロースなどのセルロースで構成される粉末または顆粒状の組成物などが知られている。
【0003】
特許文献1には、低温において寒天を容易に溶解させることを可能とする寒天易溶化剤が記載されている。寒天易溶化剤は、DEが18以下のデキストリンおよびイヌリン、並びにこれらの糖アルコールのいずれか一以上を主成分として含有している。こうした主成分により寒天が溶解された際の絡みつきが低減されて、ダマの発生を可及的に防止することができる。
【0004】
特許文献2には、デキストリンを用いて可溶性ペクチンを製造することが記載されている。これにおいては、ペクチン溶液にデキストリンを加え、乾燥させることによって可溶性ペクチンが得られている。特許文献3には、寒天の水溶液をドラムドライ法またはスプレードライ法により乾燥することによって、使用時に水溶液化が極めて容易な易溶性寒天が得られることが記載されている。寒天およびペクチンは水溶性である。高温で溶解してしまうため、加熱時には分散安定効果を得ることができない。
【0005】
従来の粉末状の吸水性食物繊維は、ホモジナイズ処理を施さなければ効果を発揮しない。液体状の商品もあるが、粉末状のものに比べて重いため使い勝手が悪い。しかも、水分に起因して腐敗の問題があり、経時的に凝集して分散性が低下する。液体状の商品を乾燥して取得した粉末は、分子内の水素結合が強く分子が広がらないためホモジナイズ処理を行わないと効果を発揮しない。
水等の液体に分散したのみで分散安定効果を発揮できる粉末状の吸水性食物繊維が分散安定剤として有望であるものの、そのような吸水性食物繊維は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4727427号
【特許文献2】特開平8-116890号公報
【特許文献3】特許第1520304号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、ホモジナイズ処理を施さなくても、水等の液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めることができる分散安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含むスラリーを乾燥させて得られた粉末は、水等の液体に分散するのみで分散安定効果を発揮することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る分散安定剤は、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含有するスラリーを、乾燥して得られた粉末であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホモジナイズ処理を施さなくても、水等の液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めることができる分散安定剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の分散安定剤は、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含有するスラリーを乾燥することにより製造された粉末である。スラリー状態から乾燥して得られたことにより、本発明の分散安定剤は、ホモジナイズ処理なしに水等の液体に分散したのみで、溶液中の不溶物の分散安定性を高めることが可能となった。
【0012】
本発明における吸水性食物繊維としては、水に不溶の食物繊維、および実質的に水に不溶の食物繊維が挙げられる。実質的に水に不溶とは、不溶の食物繊維に可溶性成分が含まれるものである。具体的には、シトラス由来の食物繊維、αセルロース、アルギン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca)、高融点寒天、脱アシルジェランガムカルシウム反応物、およびLMペクチンカルシウム反応物などが挙げられる。
【0013】
シトラス由来の食物繊維としては、例えばシトリファイ、ヘルバセル、およびNUTRAVAシトラスファイバー等が挙げられる。αセルロースは、非結晶性および結晶性の両方を含むセルロースである。具体的には、発酵セルロース、ナノセルロース、および発酵ナノセルロースなどから選択することができる。吸水性食物繊維は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
なお、結晶セルロースを用いた場合には、所望の効果を備えた分散安定剤が得られない。結晶セルロースは、αセルロースとは異なって、セルロース分子鎖が緻密且つ、規則的に配列して存在する。このために、吸水性食物繊維として結晶セルロースを用いた場合には、ホモジナイズ処理を施さなくても、水等の液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めるという作用が得られない。
【0015】
環状デキストリンは、ブドウ糖6個からなるα-シクロデキストリン、ブドウ糖7個からなるβ-シクロデキストリン、ブドウ糖8個からなるγ-シクロデキストリン、およびクラスターデキストリンから選択される。クラスターデキストリンは、高度分岐環状デキストリンとも称される高分子デキストリンである。
【0016】
環状デキストリンは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。クラスターデキストリンは、シクロデキストリンに比べ溶解度が高く、耐冷凍性に優れていることから、使用しやすく好ましい。
なお、本明細書においては、環状デキストリン以外のデキストリンを、非環状デキストリンと称する。
【0017】
本発明の分散安定剤を製造するに当たっては、まず、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを所定の割合で含有するスラリーを調製する。スラリーの調製に用いる吸水性食物繊維は、粉末状でも水溶液でもよい。本発明におけるスラリーとは、固形分濃度が1~80質量%の分散液をさす。スラリー中の固形分濃度は、3~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。
【0018】
吸水性食物繊維と環状デキストリンとの配合比(吸水性食物繊維:環状デキストリン)は、1:0.25~1:99が好ましい。配合比は、1:1~1:49がより好ましく、1:4~1:24がさらに好ましい。
【0019】
吸水性食物繊維が粉末状の場合には、吸水性食物繊維と環状デキストリンと所定の配合比で水に分散させ、均質混合することにより、スラリーを調製することができる。水としては、例えば精製水、水道水等を用いることができる。均質混合には、一般的な方法を採用することができ、その方法は特に限定にされない。例えば、圧力衝撃型(ゴーリン式)、撹拌型(ホモミキサー)等により、水分散液を均質混合することができる。
【0020】
均質混合の条件は、その方法に応じて適宜選択することができる。例えば、ゴーリン式等の圧力衝撃型の場合は、8MPa以上の圧力で処理すればよく、ホモミキサー等の撹拌型の場合は、撹拌部回転数を5000rpm以上とすればよい。
【0021】
吸水性食物繊維として、粉末化前の液体状のものを用いてもよい。この場合、吸水性食物繊維は、精製水等の溶媒に溶解した水溶液である。吸水性食物繊維の水溶液に対し、前述の配合比となるように環状デキストリンを加え、混合することによって、上述の均質混合の操作なしにスラリーを得ることができる。
【0022】
吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含有するスラリーを乾燥させて、本発明の分散安定剤が得られる。スラリーは、ドラム乾燥、スプレー乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、またはフラッシュ乾燥などの任意の方法で乾燥させることができる。乾燥とは、水分量を10%以下程度に減少させることをさす。水分量は、8%以下程度が好ましく、5%以下程度がより好ましい。
【0023】
乾燥の条件は、その方法に応じて適宜選択することができる。ドラム乾燥の場合には、例えば70~150℃で1~15分程度であり、スプレー乾燥の場合には、例えば70℃~100℃である。また、凍結乾燥や熱風乾燥により乾燥させてもよい。
【0024】
乾燥後に得られる粉末の粒子径は、30~2000μm程度であることが好ましく、30~1000μm程度であることがより好ましい。粉末の粒子径は、「体積平均粒子径(MV)」を表し、粒度分布計により求めることができる。得られた粉末は、必要に応じて粉砕し、次いで分級して好ましい粒子径にしてもよい。粉砕は、例えばターボ粉砕機等により行うことができる。分級は、例えば篩等により行うことができる。
【0025】
本発明の分散安定剤は、環状デキストリンによって改質された吸水性食物繊維の粉末であるので、所望の効果が達成された。非環状デキストリンや、他の糖質、塩類、多糖類、タンパク質、脂質などの他の物質を使用しても、所望の効果を得ることはできない。環状デキストリンによって吸水性食物繊維が改質されるメカニズムは、以下のように推測される。
【0026】
環状デキストリンを水に溶解した場合、環の内側には疎水性基が集まり、環の外側には親水性基が集まる構造となる。ここに吸水性食物繊維が添加されると、環状デキストリンの外側の親水性基と吸水性食物繊維の親水性基とが、水素結合等によって結合する。環状デキストリン分子の表面には、親水性基が高密度に存在している。このため、環状デキストリンの親水性基に結合した吸水性食物繊維は、他の物質の親水性基に結合する場合よりも高密度となる。
【0027】
この状態で乾燥させて得られる粉末は、環状デキストリンと吸水性食物繊維とが高密度に結合した複合粉末である。これを水、塩溶液、高糖度溶液などに溶解させると、環状デキストリンのみが溶解する。凝集していない単分子の吸収性食物繊維は、溶解せずに残って均一に分散している状態になる。その結果、液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めることができる。
【0028】
非環状デキストリンでは、分子内で親水性基の密度が高くならない。このため、吸水性食物繊維は非環状デキストリンとは特異的に反応せず、吸水性食物繊維同士が水素結合等で結合してしまう。乾燥して粉末にすることにより水素結合は一層強くなって、水に添加した際には容易に分散せず沈殿してしまう。環状デキストリンを用いても、吸水性食物繊維と粉体混合するのみでは、親水性基同士の結合は生じない。このため、液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めるという効果は得られない。
【0029】
環状デキストリンを吸水性食物繊維とともにスラリー状とした後、乾燥させて粉末化することによって、従来得られなかった分散安定剤、すなわち、ホモジナイズ処理を施さなくても水等の液体に分散したのみで、溶液中の不溶物の分散安定性を高める分散安定剤の製造が可能となった。本発明の分散安定剤は、水のみならず、食塩濃度3%以上の塩溶液、糖度50以上の高糖度溶液にも効果を発揮する。
【実施例0030】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。用いる資材を以下に示す。
【0031】
<吸水性食物繊維>
・シトラスファイバー(ヘルバセルAQプラス DSP五協フード&ケミカル(株))
・シトラスファイバー(シトリファイ100 鳥越製粉(株))
・発酵ナノセルロース粉末(草野作工(株))
・アルギン酸カルシウム(イナゲルGS-80 伊那食品工業(株))
・CMC-Ca(DSP五協フード&ケミカル(株))
・高融点寒天(伊那寒天EM-15 伊那食品工業(株))
・結晶セルロース(旭化成(株))
・αセルロース(KCフロッグW-200(日本製紙(株))
【0032】
<環状デキストリン>
・αCD((株)シクロケム)
・βCD((株)シクロケム)
・γCD((株)シクロケム)
・クラスターデキストリン(グリコ栄養食品(株))
【0033】
吸水性食物繊維と環状デキストリンとを用いて分散安定剤を製造し、得られた分散安定剤を精製水に加え、所定の方法で撹拌することにより試料を調製する。試料について、以下の方法により粘度を測定し、分散安定効果を評価する。
【0034】
粘度の測定には、B型粘度計(TVB-10:東機産業製)を用いる。試料300gを300mLのトールビーカーに充填し、20℃の粘度を測定する。粘度は、No.2のスピンドルを用いて60rpmの条件で測定し、測定開始から40秒後の値を測定値とした。この測定値が200mPa・s以上であれば合格である。
【0035】
分散安定効果の評価には、まず、試料300gを300mLのトールビーカーに充填し、市販の黒ゴマを3g添加して攪拌する。これを室温で静置し、24時間後の黒ゴマの分散状態を目視により観察する。観察された分散状態から、以下の基準で分散安定効果を評価する。分散安定効果は、“◎”または“〇”であれば合格である。
◎:静置前とほとんど変わらず、きれいに分散している
○:◎には劣るが、きれいに分散している
△:×よりは優れるがほとんど沈殿してしまっている
×:完全に沈殿してしまっている
【0036】
<試験例1>
10gのヘルバセルと90gのクラスターデキストリンを精製水400gに分散し、圧力衝撃式ホモジナイザー(ゴーリン製)を用いて均質混合した。具体的には、20℃、15MPaで処理して、スラリーを調製した。得られたスラリーをドラム乾燥機により乾燥させて、水分量を10%以下とした。ドラム乾燥機の条件は、120℃とした。
その後、カッターミル(LONG TSONG社製)を用いて乾燥物を粉砕し、180メッシュ(91μm)にて分級することにより、実施例1の分散安定剤を作製した。
また、ヘルバセル:クラスターデキストリン=1:9で粉体混合して、比較例1の分散安定剤を得た。
【0037】
実施例1および比較例1の分散安定剤の評価を行うために、それぞれ15gを精製水に加え、所定の方法で撹拌して試料としての分散液300gを得た。撹拌には、ハンドブレンダー(泡だて器様)あるいは圧力衝撃式ホモジナイザーを用いた。ハンドブレンダーはBRAUN社製であり、最高速度で撹拌を行った。圧力衝撃式ホモジナイザーは、上述と同様であり、20℃、15MPaで撹拌を行った。
【0038】
得られた分散液を試料として用いて、上述した手法により粘度を測定し、分散安定効果を評価した。その結果を、下記表1にまとめる。
【0039】
【表1】
【0040】
上記表1に示されるように、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含むスラリーを乾燥後、粉砕して得られた実施例1の分散安定剤は、ハンドブレンダーでの攪拌により270mPa・sの粘度が得られ、十分な分散安定効果を発揮することができる。同様の吸水性食物繊維および環状デキストリンを用いても、粉体混合しただけの比較例1の場合には、ホモジナイズ処理を行わなければ同程度の分散安定効果が発揮されない。
【0041】
<試験例2>
下記表2に記載した割合(質量%)でヘルバセルとクラスターデキストリンとを配合し、500gの分散液を調製した。これを、ホモミキサー(回転数8000rpm)で30分処理して均質混合して、スラリーを調製した。スプレー乾燥機を使用して、90℃でスラリーを乾燥させた。これにより水分量が10%以下の粉末とし、実施例2~8の分散安定剤を作製した。粉末の体積平均粒子径は、100μm程度であった。
また、クラスターデキストリンを配合しない以外は同様の手法により、比較例2の分散安定剤を得た。
【0042】
実施例および比較例の分散安定剤の評価を行うために、それぞれ精製水に加え、ハンドブレンダーで撹拌して、試料としての分散液300gを得た。各分散安定剤は、ヘルバセルの質量として1.5gとなるように精製水に加えた。用いたハンドブレンダーはBRAUN社製であり、最高速度で撹拌を行った。
【0043】
得られた分散液を試料として用いて、上述した手法により粘度を測定した。また、黒ゴマの代わりに果肉を用いて分散安定効果を調べ、黒ゴマの場合と同様な評価基準で評価した。
【0044】
さらに、各分散安定剤を用いて果肉入りピーチジュースを作製し、風味を評価した。精製水120gに、桃の果肉15g、グラニュー糖15g、および、ヘルバセルの質量として1.5gとなるように分散安定剤を加えた。その後、さらに精製水を加えて、300gに調整し、ハンドブレンダーで攪拌した。用いたハンドブレンダーはBRAUN社製であり、最高速度で撹拌を行った。その後、容器に充填し、85℃で30分間殺菌して、果肉入りピーチジュースを作製した。
【0045】
得られた果肉入りピーチジュースについて10℃にて試飲を行い、以下の基準で風味を評価した。評価は10名のパネラーで行い、最も多かった評価を表に記入した。
◎:デキストリンの風味は全く感じられない
○:若干デキストリンの風味を感じるがほとんど気にならない
△:○よりも強くデキストリンの風味が感じられるが、製品の風味を損なうほどではない
×:非常に強いデキストリンの風味が感じられ、ピーチの風味をほとんど感じない
“◎”、“〇”または“△”であれば、合格レベルである。評価結果を、粘度および分散安定効果とともに、下記表2にまとめる。
【0046】
【表2】
【0047】
上記表2に示されるように、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含むスラリーを乾燥して得られた実施例2~8の分散安定剤は、ハンドブレンダーでの撹拌により100mPa・s以上の粘度が得られている。特に、吸水性食物繊維と環状デキストリンとの配合比(吸水性食物繊維:環状デキストリン)を1:1~1:49とした場合には、十分な分散安定効果を備えており、風味の良好な果肉入りピーチジュースを製造することができた。
ヘルバセルのみをスプレー乾燥機で乾燥して得られた比較例2の分散安定剤は、特許第1520304号に記載されているものに相当する。この分散安定剤は、ハンドブレンダーで攪拌するのみでは粘度が発現せず、十分な分散安定効果を得ることができないことが確認された。
【0048】
<試験例3>
下記表3に示した割合(質量%)で、各種吸水性食物繊維とクラスターデキストリンとを配合して、500gの分散液を調製した。これを、圧力衝撃型ホモジナイザーを用いて均質混合をして、スラリーを調製した。用いた圧力衝撃型ホモジナイザーはゴーリン社製であり、15MPaで均質混合を行った。真空凍結乾燥機(宝エーテーエム社製)を使用して、-80℃でスラリーを完全に凍結した後、40℃、6Paでスラリーを乾燥させた。これにより、水分量が10%以下の粉末とし、実施例9~15の分散安定剤(コプロセス品)を得た。粉末の平均粒子径は、100μm程度であった。
また、同様の各種吸水性食物繊維とクラスターデキストリンとを、同様の割合(1:9)で粉体混合して比較例3~11の分散安定剤を得た。
【0049】
実施例および比較例の分散安定剤の評価を行うために、それぞれ15g(吸水性食物繊維の質量として1.5g)を、精製水285gに加え、所定の方法で撹拌して試料としての分散液300gを得た。撹拌には、ハンドブレンダー(泡だて器様)あるいは圧力衝撃式ホモジナイザーを用いた。ハンドブレンダーはBRAUN社製であり、最高速度で撹拌を行った。圧力衝撃式ホモジナイザーは、上述と同様であり、20℃、15MPaで撹拌を行った。
【0050】
得られた分散液を試料として用いて、上述した手法により粘度を測定し、分散安定効果を評価した。その結果を、下記表4にまとめる。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
上記表4に示されるように、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含むスラリーを乾燥して得られた実施例9~15の分散安定剤は、吸水性食物繊維の種類によらず、ハンドブレンダーで撹拌するのみで、220mPa・s以上の粘度が得られ、十分な分散安定効果を発揮することができる。
同様の吸水性食物繊維および環状デキストリンを用いても、粉体混合しただけの比較例3~8,11の場合には、ホモジナイズ処理を行わなければ同程度の分散安定効果が発揮されない。吸水性食物繊維として結晶セルロースを用いた比較例9,10の場合には、手撹拌で所望の粘度が得られないことが示されている。
【0054】
<試験例4>
下記表5に示した割合(質量%)で、ヘルバセルと各種デキストリンとを配合して、500gの分散液を調製した。これを、圧力衝撃式ホモジナイザーを用いて均質混合して、スラリーを調製した。用いた圧力衝撃式ホモジナイザーはゴーリン社製であり、15MPaで均質混合を行った。ドラム乾燥機を使用して、120℃でスラリーを乾燥させた。これにより、水分量を10%以下の粉末とし、実施例16~19、比較例16,18の分散安定剤(コプロセス品)を得た。粉末の粒子径は、30~300μm程度であった。
また、同様のヘルバセルと各種デキストリンとを、同様の割合(1:9)で粉体混合して比較例12~15,17,19の分散安定剤を得た。
【0055】
実施例および比較例の分散安定剤の評価を行うために、それぞれ15g(吸水性食物繊維の質量として1.5g)を、精製水285gに加え、所定の方法で撹拌して試料としての分散液を得た。撹拌には、ハンドブレンダー(泡だて器様)あるいは圧力衝撃式ホモジナイザーを用いた。ハンドブレンダーはBRAUN社製であり、最高速度で撹拌を行った。圧力衝撃式ホモジナイザーは、上述と同様であり、20℃、15MPaで撹拌を行った。
【0056】
得られた分散液を試料として用いて、上述した手法により粘度を測定し、分散安定効果を評価した。その結果を、下記表6にまとめる。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
上記表6に示されるように、吸水性食物繊維と環状デキストリンとを含むスラリーを乾燥して得られた実施例16~19の分散安定剤は、ハンドブレンダーで撹拌するのみで、180mPa・s以上の粘度が得られ、十分な分散安定効果を発揮することができる。
同様の吸水性食物繊維および環状デキストリンを用いても、粉体混合しただけの比較例12~15の場合には、ホモジナイズ処理を行わなければ分散安定効果が発揮されない。非環状デキストリンを用いた場合には、スラリーを乾燥させて同様の方法により作製しても、所望の効果を備えた分散安定剤は得られない(比較例16,18)。
【0060】
本発明の分散安定剤は、ホモジナイズ処理を施さなくても、水等の液体に分散したのみで溶液中の不溶物の分散安定性を高めることができる。