(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143432
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】状態監視装置および診断装置並びに状態監視方法および診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230928BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050795
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 伊智郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義樹
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼山 享大
(72)【発明者】
【氏名】水野 誠二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲濱▼ 浩司
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD21
2G024CA18
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】状態監視装置および方法並びに診断装置および方法において、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とする。
【解決手段】状態量を取得するデータ取得部と、過去に取得した状態量に基づいて判定用位相面データを作成する判定用位相面データ作成部と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する診断用位相面データ作成部と、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出する位相面データ算出部と、全体の変位量を出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
状態量を取得するデータ取得部と、
正常時の状態量に基づいて判定用位相面データを作成する判定用位相面データ作成部と、
診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する診断用位相面データ作成部と、
前記判定用位相面データに対する前記診断用位相面データの全体の変位量を算出する位相面データ算出部と、
前記全体の変位量を出力する出力部と、
を備える状態監視装置。
【請求項2】
前記全体の変位量は、前記判定用位相面データの図心に対する前記診断用位相面データの図心の変位量である、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記全体の変位量は、前記判定用位相面データに設定された複数の定点に対する前記診断用位相面データに設定された複数の定点の変位量である、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記判定用位相面データ作成部は、過去に作成した位相面データまたは過去に作成した複数の位相面データを平均化処理した平均位相面データを前記判定用位相面データとする、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記判定用位相面データ作成部は、過去に作成した最大位相面データまたは最小位相面データを前記判定用位相面データとする、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記判定用位相面データと前記診断用位相面データを重ねて表示することで、前記全体の変位量を表示する表示部を有する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記データ取得部は、状態量としてモータの角速度と電流と電圧を取得し、前記判定用位相面データ作成部および前記診断用位相面データ作成部は、前記角速度に対する前記電流の第1位相面データと、前記角速度に対する前記電圧の第2位相面データの少なくとも一つを作成する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記位相面データ算出部は、判定用第1位相面データに対する診断用第1位相面データの全体の第1変位量を算出すると共に、判定用第2位相面データに対する診断用第2位相面データの全体の第2変位量を算出し、前記出力部は、前記全体の第1変位量と前記全体の第2変位量を出力する、
請求項7に記載の状態監視装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の状態監視装置と、
前記全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する異常判定部と、
を有する診断装置。
【請求項10】
前記異常判定部は、前記全体の変位量が前記変位量判定値を超えると異常であると判定する、
請求項9に記載の診断装置。
【請求項11】
状態量を取得する工程と、
正常時の状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、
診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、
前記判定用位相面に対する前記判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、
前記全体の変位量を出力する工程と、
を有する状態監視方法。
【請求項12】
状態量を取得する工程と、
正常時の状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、
診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、
前記判定用位相面に対する前記判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、
前記全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する工程と、
を有する診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態監視装置および診断装置、状態監視方法および診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動装置を用いて機械製品を駆動する駆動システムにて、駆動装置システムにおける現在の状態量を監視することで、駆動装置システムを診断することが求められている。従来の診断装置としては、例えば、特許文献1に記載された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された診断装置は、診断時に取得された位相面データが正常時に取得した位相面にマージンをもった閾値位相面に含まれるか否かに基づいて、位相面データに異常があるか否かを判定するものである。この場合、位相面データが閾値位相面の外側に位置するときは、位相面データに異常があると判定することができる。一方、位相面データが閾値位相面の内側に位置するときは、位相面データに異常があると判定することができない。そのため、位相面データを高精度に診断することが困難となる。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とする状態監視装置および方法並びに診断装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の状態監視装置は、状態量を取得するデータ取得部と、正常時の状態量に基づいて判定用位相面データを作成する判定用位相面データ作成部と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する診断用位相面データ作成部と、前記判定用位相面データに対する前記診断用位相面データの全体の変位量を算出する位相面データ算出部と、前記全体の変位量を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示の診断装置は、前記状態監視装置と、前記全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する異常判定部と、を有する。
【0008】
本開示の状態監視方法は、状態量を取得する工程と、正常時の状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、前記判定用位相面に対する前記判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、前記全体の変位量を出力する工程と、を有する。
【0009】
本開示の診断方法は、状態量を取得する工程と、正常時の状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、前記判定用位相面に対する前記判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、前記全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の状態監視装置および診断装置並びに状態監視方法および診断方法によれば、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の状態監視装置の全体構成を表す概略図である。
【
図2】
図2は、状態監視装置の機能構成を表すブロック図である。
【
図3】
図3は、漏電発生時における駆動システムのモデルを表す説明図である。
【
図4】
図4は、漏電発生を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図である。
【
図5】
図5は、漏電発生を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【
図6】
図6は、巻線ショート発生時における駆動システムのモデルを表す説明図である。
【
図7】
図7は、巻線ショート発生を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図である。
【
図8】
図8は、巻線ショート発生を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【
図9】
図9は、摩擦増加を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図である。
【
図10】
図10は、摩擦増加を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【
図11】
図11は、全体の変位量の算出方法を表す説明図である。
【
図12】
図12は、X方向の変位量の算出方法を表す説明図である。
【
図13】
図13は、Y方向の変位量の算出方法を表す説明図である。
【
図14】
図14は、全体の変位量の算出方法の変形例を表す説明図である。
【
図15】
図15は、時間の経過に対する電流値および位置を表す説明図である。
【
図16】
図16は、状態監視方法および診断方法を表すフローチャートである。
【
図17】
図17は、状態監視方法および診断方法の変形例を表すフローチャートである。
【
図18】
図18は、第2実施形態の診断装置の全体構成を表す概略図である。
【
図20】
図20は、第3実施形態の状態監視装置および診断装置を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0013】
[第1実施形態]
<状態監視装置の全体構成>
図1は、第1実施形態の状態監視装置の全体構成を表す概略図である。
【0014】
図1に示すように、駆動システム10は、モータ11と、連結部材としての回転軸12と、負荷13とを有し、回転軸12は、ケース(軸受)14に回転自在に支持される。モータ11は、モータアンプ21が接続され、モータアンプ21は、モータ制御部22が接続される。
【0015】
モータ制御部22は、負荷13の角度、角速度、トルクなどの指令値が入力され、指令信号としての指令値をモータアンプ21に出力する。モータアンプ21は、指令値に基づいて必要な電力を供給する。そして、モータアンプ21は、モータ11の内部に設けられた各種センサが検出したモータ11の実際の角度、角速度、トルクなどが入力される。モータアンプ21は、入力された負荷13の実際の位置、速度、トルクに基づいてモータ11をフィードバック制御する。
【0016】
なお、上述の説明にて、駆動システム10は、モータ11の回転力を回転軸12により負荷13に伝達し、負荷13を回転させるものとしたが、この構成に限定されるものではない。例えば、駆動システム10は、モータ11の回転力を回転軸12を含む連結部材により負荷13に伝達し、負荷13を直動させるものであってもよい。
【0017】
また、モータ11は、角速度センサ23と、電流センサ24と、電圧センサ25が設けられる。角速度センサ23と電流センサ24と電圧センサ25は、モータ制御部22に接続される。角速度センサ23は、モータ11の角速度ωを計測し、モータ制御部22に出力する。電流センサ24は、モータ11の電流(モータドライバ電流)iを計測し、モータ制御部に出力する。電圧センサ25は、モータ11の電圧(モータドライバ電圧)uを計測し、モータ制御部22に出力する。
【0018】
モータ制御部22は、状態監視装置30が接続される。状態監視装置30は、モータ制御部22からモータ11の角速度ωと電流iと電圧uが入力される。なお、状態監視装置30は、角速度センサ23と、電流センサ24と、電圧センサ25から直接モータ11の角速度ωと電流iと電圧uが入力されてもよい。状態監視装置30は、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいて駆動システムの状態を監視する。
【0019】
なお、モータ制御部22としての制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0020】
<状態監視装置>
図2は、状態監視装置の機能構成を表すブロック図である。
【0021】
状態監視装置30は、状態監視制御部31と、操作部32と、表示部(出力部)33と、記憶部34とを有する。
【0022】
状態監視制御部31は、モータ制御部22から入力されたモータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいてモータ11の状態の変化を判定し、異常を監視する。状態監視制御部31としての制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0023】
操作部32は、作業者が操作することで、状態監視制御部31に対して各種の操作指令やデータなどを入力可能である。操作部32は、例えば、キーボードやマウス、または、タッチ式のディスプレイである。表示部33は、状態監視制御部31の処理内容を表示可能である。表示部33は、出力部として機能し、後述する判定用位相面データと診断用位相面データを表示する。表示部33は、例えば、ディスプレイなどにより実現されるモニタである。なお、出力部は、例えば、プリンタであってもよい。記憶部34は、状態監視制御部31が実行する各種プログラムが記憶される。各種プログラムは、モータ11の状態を分析するプログラムも含む。また、記憶部34は、状態監視制御部31が分析した分析結果などを記憶する。
【0024】
また、状態監視制御部31は、データ取得部41と、判定用位相面データ作成部42と、診断用位相面データ作成部43と、位相面データ算出部44とを有する。
【0025】
データ取得部41は、監視対象である駆動システム10の各種の状態量を取得する。データ取得部41は、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uをモータ制御部22から取得する。
【0026】
判定用位相面データ作成部42は、駆動システム10の正常時の状態量に基づいて判定用位相面データを作成する。判定用位相面データ作成部42は、データ取得部41が取得したモータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいて判定用位相面データを作成する。判定用位相面データ作成部42は、過去に取得した状態量としてのモータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいて判定用位相面データを作成する。
【0027】
具体的に、判定用位相面データ作成部42は、過去に作成した位相面データを判定用位相面データとする。この場合、例えば、判定用位相面データは、駆動システム10の使用を開始する前の状態量(初期状態量)に基づいて作成した位相面データである。また、例えば、判定用位相面データは、駆動システム10を使用開始した後に調整された状態量(適正状態量)に基づいて作成した位相面データである。すなわち、判定用位相面データ作成部42は、駆動システム10が正常に作動していたときに作成した位相面データを判定用位相面データとする。
【0028】
なお、判定用位相面データ作成部42は、上述した方法により判定用位相面データを作成するものに限られない。例えば、判定用位相面データは、駆動システム10を使用開始してから所定の期間までに作成された複数の位相面データを平均処理した平均位相面データであってもよい。この場合、使用開始してから所定の期間は、使用開始から診断直前までの期間であったり、使用開始から予め設定された使用年月までの期間であったりする。すなわち、使用開始から診断直前までの駆動システム10が正常に作動していた期間であることが好ましい。
【0029】
また、例えば、判定用位相面データは、過去に作成した最大位相面データであってもよく、また、過去に作成した最小位相面データであってもよい。位相面データは、正常な範囲でも一定のばらつきを含む。正常に作動していた期間に蓄積したデータを位相面上にプロットしたうえで、もっとも外側に位置するプロットを順につなぐことで、データがプロットされた領域の外側の輪郭を抽出することができる。これは、その時点で考えられる位相面の最大領域、つまり、最大位相面データなので、これより外側のプロットを含む位相面に対して異常と判定することができる。逆に、最小位相面データは、もっとも内側に位置するプロットを順につなぐことで、データがプロットされた領域の内側の輪郭を抽出したものになるため、これより内側のプロットを含む位相面に対して異常と判定することができる。
【0030】
さらに、判定用位相面データ作成部42は、予め駆動システム10の異常の条件(漏電、巻線ショート、摩擦増加など)を網羅的に与え、シミュレーションや実験により判定用位相面データを作成してもよい。判定用位相面データは、ディープラーニングなどの機械学習により学習させてもよい。
【0031】
診断用位相面データ作成部43は、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する。診断用位相面データ作成部43は、診断時に取得した状態量としてのモータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいて診断用位相面データを作成する。ここで、診断時に取得した状態量とは、現在の状態量または過去における所定の時期の状態量である。
【0032】
本実施形態にて、データ取得部41が取得する駆動システム10の状態量は、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uである。判定用位相面データ作成部42および診断用位相面データ作成部43は、角速度ωに対する電流iの第1位相面データと、角速度ωに対する電圧uの第2位相面データの少なくとも一つを作成する。すなわち、判定用位相面データ作成部42は、角速度ωに対する電流iの判定用第1位相面データと、角速度ωに対する電圧uの判定用第2位相面データを作成する。また、診断用位相面データ作成部43は、角速度ωに対する電流iの診断用第1位相面データと、角速度ωに対する電圧uの診断用第2位相面データを作成する。なお、必要に応じて第1位相面データだけ、第2位相面データだけを作成してもよい。
【0033】
位相面データ算出部44は、判定用位相面データ作成部42が作成した判定用位相面データに対する診断用位相面データ作成部43が作成した診断用位相面データの全体の変位量を算出する。位相面データ算出部44は、判定用第1位相面データに対する診断用第1位相面データの全体の変位量を算出する。また、位相面データ算出部44は、判定用第2位相面データに対する診断用第2位相面データの全体の変位量を算出する。表示部33は、2つの算出結果である判定用第1位相面データに対する診断用第1位相面データの全体の変位量と、判定用第2位相面データに対する診断用第2位相面データの全体の変位量を表示する。作業者は、表示部33により、駆動システム10における漏電の変位量と、巻線ショートの変位量と、摩擦の変位量を監視することができる。
【0034】
ここで、位相面データ算出部44は、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出するものであるが、全体の変位量とは、例えば、判定用位相面データの図心に対する診断用位相面データの図心の変位量である。また、全体の変位量とは、例えば、判定用位相面データに設定された複数の定点に対する診断用位相面データに設定された複数の定点の変位量である。この場合、複数の定点は、時間軸上の同じ時間の値をサンプルすることが好ましい。
【0035】
<漏電検出用位相面データ>
図3は、漏電発生時における駆動システムのモデルを表す説明図、
図4は、漏電発生を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図、
図5は、漏電発生を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【0036】
図3に示すように、モータ11の電流経路に対して電機子抵抗R
Mが設けられているとき、電流i
Mとなる。ここで、駆動システム10の漏電は、モータドライバの出力以降の電流経路に違う電流経路(漏電経路)が発生したものであり、モータ11の絶縁不良等も含む。すなわち、モータ11の電流経路に漏電抵抗R
Lが発生し、漏電電流i
Lが流れる。この場合の漏電発生モデルを以下の式で示す。ここで、Keは、逆起電力定数である。
【0037】
【数1】
【数2】
運動方程式は、下記数式となる。Ktは、トルク定数Ktである。
【数3】
数式(1)と数式(3)から電流i
Mを消去し、電圧uについて数式を解くと、数式(4)を得る。
【数4】
【0038】
ここで、漏電を評価するパラメータとして漏電率μ
Lを数式(5)で表す。
【数5】
数式(5)は、計測することができる状態量としての角速度ωと電圧uとの位相面データを表しており、漏電のパラメータとして漏電率μ
Lが含まれていないことから、角速度ωと電圧uとの位相面データから漏電の発生を判定することはできない。
【0039】
一方、状態量としての角速度ωと電流iとの位相面データを求める。角速度ωと電流iとについて、数式(6)を得ることができる。
【数6】
数式(6)は、計測することができる状態量としての角速度ωと電流iとの位相面データを表しており、全ての項は、漏電のパラメータ(漏電率μ
L)の影響を受けていることから、角速度ωと電流iとの位相面データから漏電の発生を判定することはできる。
【0040】
図4に示す第1位相面データは、角速度ωの変化に対する電流iの変化を表す位相面データである。すなわち、領域Aにて、モータ11に供給する電流iが一方方向に上昇することで、モータ11が正回転を開始する。領域Bにて、モータ11の角速度ω(回転数)が増加し、トルクも緩やかに増加する。領域Bと領域Cとの間で、モータ11に供給する電流iが一定になり、モータ11の角速度ωも一定になる。そして、領域Cにて、モータ11に供給する電流iが急激に減少し、モータ11の角速度ωも減少する。領域Dにて、モータ11に供給する電流iが緩やかに減少し、モータ11の角速度ωも減少する。
【0041】
図4に示すように、判定用位相面データを実線で表し、診断用位相面データを二点鎖線で表す。角速度ωと電流iとの第1位相面データにおいて、漏電が発生すると、角速度ωが増加するのに伴って、電流iが上方に変位する。すなわち、領域B,C,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが上方に変位する。つまり、領域Bにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位し、領域Cにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位し、領域Dにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの内側に変位する。
【0042】
図5に示す第1位相面データは、角速度ωの変化に対する電圧uの変化を表す位相面データである。すなわち、領域Aにて、モータ11に供給する電圧uが一方方向に上昇することで、正回転を開始する。領域Bにて、モータ11に供給する電圧uが緩やかに上昇し、モータ11の角速度ω(回転数)も増加する。領域Bと領域Cとの間で、モータ11に供給する電圧uが一定になり、モータ11の角速度ω(回転数)も一定になる。そして、領域Cにて、モータ11に供給する電圧uが急激に減少し、モータ11が減速を開始する。領域Dにて、モータ11に供給する電圧uが緩やかに減少し、モータ11の角速度ω(回転数)も減少する。
【0043】
図5に示すように、判定用位相面データを実線で表す。角速度ωと電圧uとの第2位相面データにおいて、漏電が発生しても、角速度ωが増加するのに伴って、電圧uは変位しない。すなわち、全ての領域A,B,C,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが変位しない。
【0044】
<巻線ショート検出用位相面データ>
図6は、巻線ショート発生時における駆動システムのモデルを表す説明図、
図7は、巻線ショート発生を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図、
図8は、巻線ショート発生を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【0045】
図6に示すように、電機子抵抗R
Mと逆起電力定数Keにて、同定値の変化を解析で調べる。巻線の一部がショートし、そのショート部分をショート比率でλ(0~1)とし、電機子抵抗R
Mの有効部分をR
M(1-λ)で表す。このとき、逆起電力定数Keも同じ比率で小さくなるから、Ke(1-λ)で表す。このとき、この場合の巻線ショート発生モデルを以下の式で示す。
【数7】
発生するトルクは、巻線ショートの発生により小さくなることから、トルク定数Ktを、前述した逆起電力定数Keと同様に補正する。すなわち、トルク定数KtをKt(1-λ)に補正する。
【数8】
数式(7)と数式(8)から角速度ωと電圧uについて数式を解くと、数式(9)を得る。
【数9】
【0046】
数式(9)は、計測することができる状態量としての角速度ωと電圧uとの位相面データを表しており、巻線ショート率λが含まれていることから、角速度ωと電圧uとの位相面データから巻線ショートの発生を判定することができる。
【0047】
一方、状態量としての角速度ωと電流iとの位相面データを求める。角速度ωと電流iとについて、数式(10)を得ることができる。
【数10】
数式(10)は、計測することができる状態量としての角速度ωと電流iとの位相面データを表しており、巻線ショート率λが含まれていることから、角速度ωと電流iとの位相面データから巻線ショートの発生を判定することはできる。
【0048】
図7に示すように、判定用位相面データを実線で表し、診断用位相面データを二点鎖線で表す。角速度ωと電流iとの第1位相面データにおいて、巻線ショートが発生すると、電流iが上方に変位する。すなわち、領域B,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが上方に変位する。つまり、領域Bにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位し、領域Dにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの内側に変位する。
【0049】
図8に示すように、角速度ωと電圧uとの第2位相面データにおいて、巻線ショートが発生すると、電圧uが下方に変位する。すなわち、領域B,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが下方に変位する。つまり、領域Bにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの内側を通って外側に変位し、領域Dにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位する。
【0050】
<摩擦増加検出用位相面データ>
図9は、摩擦増加を判定するモータの角速度に対する電流の位相面データを表す概略図、
図10は、摩擦増加を判定するモータの角速度に対する電圧の位相面データを表す概略図である。
【0051】
転動方程式を電流iについて説くと、数式(11)を得る。
【数11】
【数12】
【数13】
摩擦増加は、角速度ωの増加に影響を受けることから、角速度ωと電圧uとの位相面データおよび角速度ωと電流iとの位相面データから摩擦増加を判定することはできる。
【0052】
図9に示すように、判定用位相面データを実線で表し、診断用位相面データを二点鎖線で表す。角速度ωと電流iとの第1位相面データにおいて、摩擦増加が発生すると、電流iが上方に変位する。すなわち、領域B,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが上方に変位する。つまり、領域Bにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位し、領域Dにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの内側に変位する。
【0053】
図10に示すように、角速度ωと電圧uとの第2位相面データにおいて、摩擦増加が発生すると、電圧uが上方に変位する。すなわち、領域B,Dにおいて、判定用位相面データに対して、診断用位相面データが上方に変位する。つまり、領域Bにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの内側を通って外側に変位し、領域Dにおいて、診断用位相面データが判定用位相面データの外側に変位する。
【0054】
<全体の変位量の算出方法>
図11は、全体の変位量の算出方法を表す説明図、
図12は、X方向の変位量の算出方法を表す説明図、
図13は、Y方向の変位量の算出方法を表す説明図である。
【0055】
位相面データ算出部44は、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出する。ここで、全体の変位量は、判定用位相面データの図心に対する診断用位相面データの図心の変位量である。以下、判定用位相面データの図心および診断用位相面データの図心について説明する。
【0056】
図11に示すように、状態量1をXと、状態量2をYとすると、判定用位相面データ101および診断用位相面データ111は、2次元データとなる。ここで、状態量1(X)は、例えば、角速度ωであり、状態量2(Y)は、電流iまたは電圧uである。そして、判定用位相面データ101は、図心102を有し、診断用位相面データ111は、図心112を有する。図心102,112とは、その位置を支点にしたとき、判定用位相面データ101および診断用位相面データ111の各図形が釣り合う点である。
【0057】
図12および
図13に示すように、例えば、判定用位相面データ101は、X方向において、Y方向に沿った短冊形状をなす複数の領域101xに分割される。すなわち、判定用位相面データ101は、各領域101xをX方向に積分したものである。同様に、判定用位相面データ101は、Y方向において、X方向に沿った短冊形状をなす複数の領域101yに分割される。すなわち、判定用位相面データ101は、各領域101yをY方向に積分したものである。すると、判定用位相面データ101の図心102は、X方向の位置とY方向の位置が下記数式により算出される。
【0058】
【数14】
【数15】
診断用位相面データ111の図心122も、同様の方法によりX方向の位置とY方向の位置が算出される。
【0059】
判定用位相面データ101の図心102のXY位置と診断用位相面データ111のXY位置が算出されると、判定用位相面データ101の図心102のXY位置と診断用位相面データ111のXY位置の偏差に基づいて変位量Dが算出される。
【0060】
なお、全体の変位量は、判定用位相面データの図心に対する診断用位相面データの図心の変位量に限定されるものではない。
【0061】
全体の変位量は、判定用位相面データに設定された複数の定点に対する診断用位相面データに設定された複数の定点の変位量であってもよい。
【0062】
図14に示すように、状態量1をXと、状態量2をYとすると、判定用位相面データ121および診断用位相面データ131は、2次元データとなる。ここで、状態量1(X)は、例えば、角速度ωであり、状態量2(Y)は、電流iまたは電圧uである。そして、判定用位相面データ101は、複数(本実施形態では、8個)の定点141,142,143,144,145,146,147,148を有する。
【0063】
診断用位相面データ131は、判定用位相面データ121との間に全体の変位量がある。すなわち、判定用位相面データ121と診断用位相面データ131とは、複数の定点141,142,143,144,145,146,147,148が移動する。判定用位相面データ121と診断用位相面データ131との間にて、複数の定点141,142,143,144,145,146,147,148の変位量Da,Db,Dc,Dd,De,Df,Dg,Dhを算出する。変位量Da,Db,Dc,Dd,De,Df,Dg,Dhの算出方法は、上述した方法を用いる。変位量Da,Db,Dc,Dd,De,Df,Dg,Dhによるベクトル量として全体の変位量を表現することができる。
【0064】
なお、全体の変位量を求めるため、判定用位相面データに設定された複数の定点に対する診断用位相面データに設定された複数の定点の変位量を算出する場合、それぞれの位相面の定点は、時間軸上の同じ時間でサンプルしたものとすることができる。この説明として、定点145から148に亘って角速度ωと電流iをサンプルした一例を
図15に示す。例えば、定点145における判定時の角速度ωと電流iに基づいて
図14の判定用位相面データの定点145がプロットされる。同様に定点145における診断時の角速度ωと電流iに基づいてプロットされる診断用位相面データの定点と判定用位相面データの定点145との変位量を算出することにより、変位量Deを得ることができる。
【0065】
<状態監視方法および診断方法>
図16は、状態監視方法および診断方法を表すフローチャートである。
【0066】
図2および
図16に示すように、ステップS11にて、データ取得部41は、駆動システム10の各種の状態量として、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uを取得する。ステップS12にて、判定用位相面データ作成部42は、例えば、過去に作成した位相面データに基づいて判定用位相面データを作成する。判定用位相面データは、駆動システム10が正常に作動していたときに作成した位相面データを判定用位相面データである。ここで、判定用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1判定用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2判定用位相面データである。
【0067】
ステップS13にて、診断用位相面データ作成部43は、診断時に取得した状態量(角速度ω、電流i、電圧u)に基づいて診断用位相面データを作成する。診断時とは、現在または過去における特定の時期である。ここで、診断用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1診断用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2診断用位相面データである。
【0068】
ステップS14にて、位相面データ算出部44は、判定用位相面データ作成部42が作成した判定用位相面データに対する診断用位相面データ作成部43が作成した診断用位相面データの全体の変位量を算出する。そして、ステップS15にて、表示部33は、位相面データ算出部44から出力された判定用位相面データと診断用位相面データを重ねて表示する。
【0069】
つまり、表示部33は、判定用第1位相面データと診断用第1位相面データを重ねて表示すると共に、判定用第2位相面データと診断用第2位相面データを重ねて表示する。そのため、判定用第1位相面データと診断用第1位相面データとの全体の第1変位量と、判定用第2位相面データと診断用第2位相面データとの全体の第2変位量を監視することが可能となる。
【0070】
ステップS16にて、作業者は、表示部33に表示された判定用第1位相面データと診断用第1位相面データとの全体の第1変位量と、判定用第2位相面データと診断用第2位相面データとの全体の第2変位量を確認することで、駆動システム10における漏電の変位量と、巻線ショートの変位量と、摩擦の変位量を予め設定された判定値と比較する。その結果、作業者は、漏電の変位量と巻線ショートの変位量と摩擦の変位量が判定値より小さいと判断すれば、駆動システム10が正常であると判定する。一方、作業者は、漏電の変位量と巻線ショートの変位量と摩擦の変位量が判定値より大きいと判断すれば、漏電による異常、巻線ショートによる異常、摩擦増加による異常と判定する。
【0071】
<状態監視方法および診断方法の変形例>
状態監視方法および診断方法は、上述した方法に限るものではない。
図17は、状態監視方法および診断方法の変形例を表すフローチャートである。
【0072】
図2および
図17に示すように、ステップS21にて、データ取得部41は、駆動システム10の各種の状態量として、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uを取得する。ステップS22にて、判定用位相面データ作成部42は、例えば、予め駆動システム10の異常の条件(漏電、巻線ショート、摩擦増加など)を網羅的に与え、シミュレーションや実験により判定用位相面データを作成する。ここで、判定用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1判定用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2判定用位相面データである。
【0073】
ステップS23にて、診断用位相面データ作成部43は、診断時に取得した状態量(角速度ω、電流i、電圧u)に基づいて診断用位相面データを作成する。ここで、診断用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1診断用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2診断用位相面データである。
【0074】
ステップS24にて、位相面データ算出部44は、判定用位相面データ作成部42が作成した判定用位相面データに対する診断用位相面データ作成部43が作成した診断用位相面データの全体の変位量を算出する。そして、ステップS25にて、表示部33は、位相面データ算出部44から出力された判定用位相面データと診断用位相面データを重ねて表示する。なお、このとき、表示部33による判定用位相面データと診断用位相面データの表示を省略してもよい。
【0075】
ステップS26にて、状態監視制御部31は、判定用第1位相面データの画像データと診断用第1位相面データの画像データを監視する。そして、ディープラーニングなどの機械学習により判定用第2位相面データと診断用第2位相面データとの全体の変位量に基づいて、駆動システム10における漏電の変位量と、巻線ショートの変位量と、摩擦の変位量を監視する。その結果、駆動システム10の正常と異常が判定される。
【0076】
[第2実施形態]
図18は、第2実施形態の診断装置の全体構成を表す概略図、
図19は、診断方法を表すフローチャートである。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0077】
図18に示すように、診断装置50は、診断制御部51と、操作部32と、表示部33と、記憶部34とを有する。状態監視制御部31Aは、データ取得部41と、判定用位相面データ作成部42と、診断用位相面データ作成部43と、位相面データ算出部44と、異常判定部45とを有する。
【0078】
操作部32と、表示部33と、記憶部34と、データ取得部41と、判定用位相面データ作成部42と、診断用位相面データ作成部43と、位相面データ算出部44は、第1実施形態と同様である。
【0079】
異常判定部45は、位相面データ算出部44が算出することで得られた全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較し、駆動システム10が異常であるか否かを判定する。
【0080】
全体の変位量は、判定用位相面データと診断用位相面データとの変位量である。具体的に、位相面データは、角速度ωと電流iとの第1位相面データと、角速度ωと電流iとの第2位相面データがある。そのため、全体の変位量は、第1判定用位相面データと第1診断用位相面データとの第1変位量と、第2判定用位相面データと第2診断用位相面データとの第2変位量である。
【0081】
本実施形態では、全体の変位量を位相面の移動ベクトルとして求める。すなわち、駆動システム10の漏電率μL、巻線ショート率λ、摩擦Tfに対する位相面データの移動ベクトルの関係を試験やシミュレーションで求めて関数化する。ここで、関数化の方法は、例えば、応答曲面法(応答曲面近似)、部分的最小二乗回帰法、主成分回帰法など、適切方法を利用すればよい。
【0082】
すなわち、漏電率μL、巻線ショート率λ、摩擦Tfに対する位相面データの移動ベクトルの関係を関数化することで、全体の変位量として、第1位相面データ(i-ω)の第1移動ベクトルδV1が求められ、第2位相面データ(u-ω)の第2移動ベクトルδV2が求められる。そして、2個の移動ベクトルδV1,δV2から漏電率μL、巻線ショート率λ、摩擦Tfの状態を推定する。
漏電率μL=F1(δV1,δV2)
巻線ショート率λ=F2(δV1,δV2)
摩擦Tf=F3(δV1,δV2)
【0083】
そのため、異常判定部45は、全体の変位量としての漏電率μLと巻線ショート率λと摩擦Tfを予め設定された変位量判定値としての漏電率判定値μthと巻線ショート率判定値λthと摩擦判定値Tthとを比較し、駆動システム10の異常を判定する。
【0084】
図18および
図19に示すように、ステップS31にて、データ取得部41は、駆動システム10の各種の状態量として、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uを取得する。ステップS32にて、判定用位相面データ作成部42は、例えば、過去に作成した位相面データに基づいて判定用位相面データを作成する。ここで、判定用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1判定用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2判定用位相面データである。
【0085】
ステップS33にて、診断用位相面データ作成部43は、診断時に取得した状態量(角速度ω、電流i、電圧u)に基づいて診断用位相面データを作成する。ここで、診断用位相面データは、例えば、角速度ωと電流iとの第1診断用位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2診断用位相面データである。
【0086】
ステップS34にて、位相面データ算出部44は、判定用位相面データ作成部42が作成した判定用位相面データに対する診断用位相面データ作成部43が作成した診断用位相面データの全体の変位量を算出する。そして、ステップS35にて、表示部33は、位相面データ算出部44から出力された判定用位相面データと診断用位相面データを重ねて表示する。
【0087】
ステップS36にて、異常判定部45は、診断用位相面データの移動ベクトルを算出する。すなわち、駆動システム10の漏電率μL、巻線ショート率λ、摩擦Tfに対する位相面データの移動ベクトルの関係を関数化することで、第1位相面データ(i-ω)の第1移動ベクトルδV1と第2位相面データ(u-ω)の第2移動ベクトルδV2を求める。ステップS37にて、診断用位相面データの変位量として、移動ベクトルδV1,δV2から漏電率μL、巻線ショート率λ、摩擦Tfの状態を推定する。
漏電率μL=F1(δV1,δV2)
巻線ショート率λ=F2(δV1,δV2)
摩擦Tf=F3(δV1,δV2)
【0088】
そして、ステップS38にて、異常判定部45は、漏電率μLが予め設定された漏電率判定値μthよりも大きいか否かを判定する。ここで、漏電率判定値μthは、過去の状態量や位相面データに基づいて試験やシミュレーションなどにより設定する。異常判定部45は、漏電率μLが漏電率判定値μthよりも大きくないと判定(No)すると、ステップS39にて、駆動システム10が正常であると判定する。一方、異常判定部45は、漏電率μLと漏電率判定値μthよりも大きいと判定(Yes)すると、ステップS40にて、駆動システム10が異常であると判定する。
【0089】
また、ステップS41にて、異常判定部45は、巻線ショート率λが予め設定された巻線ショート率判定値λthよりも大きいか否かを判定する。ここで、巻線ショート率判定値λthは、過去の状態量や位相面データに基づいて試験やシミュレーションなどにより設定する。異常判定部45は、巻線ショート率λが巻線ショート率判定値λthよりも大きくないと判定(No)すると、ステップS42にて、駆動システム10が正常であると判定する。一方、異常判定部45は、巻線ショート率λが巻線ショート率判定値λthよりも大きいと判定(Yes)すると、ステップS43にて、駆動システム10が異常であると判定する。
【0090】
また、ステップS44にて、異常判定部45は、摩擦Tfが予め設定された摩擦判定値Tthよりも大きいか否かを判定する。ここで、摩擦判定値Tthは、過去の状態量や位相面データに基づいて試験やシミュレーションなどにより設定する。異常判定部45は、摩擦Tfが摩擦判定値Tthよりも大きくないと判定(No)すると、ステップS45にて、駆動システム10が正常であると判定する。一方、異常判定部45は、摩擦Tfが摩擦判定値Tthよりも大きいと判定(Yes)すると、ステップS46にて、駆動システム10が異常であると判定する。
【0091】
[第3実施形態]
図20は、第3実施形態の状態監視装置および診断装置を説明するための概略図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0092】
図20に示すように、第1実施形態および第2実施形態にて、状態監視装置30や診断装置50は、モータ11の角速度ωと電流iと電圧uに基づいて駆動システム10の状態を監視または診断する。このとき、処理する位相面データは、角速度ωと電流iとの第1位相面データと、角速度ωと電圧uとの第2位相面データである。そして、第1位相面データと第2位相面データは、2次元データである。
【0093】
第3実施形態では、
図20に示すように、第1位相面データや第2位相面データを3次元データ(多次元データ)とする。判定用位相面データ151は、状態量Xと状態量Yと状態量Zとの3次元位相面データである。また、診断用位相面データ152は、状態量Xと状態量Yと状態量Zとの3次元位相面データである。ここで、状態量X,Y,Zは、例えば、角速度ω、電流i、電圧uである。位相面データ算出部44(
図18参照)は、判定用位相面データ151と診断用位相面データ152との3次元方向の全体の変位量を算出する。異常判定部45(
図18参照)は、3次元方向の全体の変位量と3次元方向の変位量判定値とを比較し、異常を判定する。なお、3次元方向の全体の変位量の算出方向は、2次元方向の全体の変位量の算出方法と同様である。
【0094】
なお、この場合、状態量としては、制御装置側のものとして、制御偏差e、三相モータの各相の電流などを組み合わせた多次元化が考えられる。
【0095】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る状態監視装置は、状態量を取得するデータ取得部41と、過去に取得した状態量に基づいて判定用位相面データを作成する判定用位相面データ作成部42と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する診断用位相面データ作成部43と、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出する位相面データ算出部44と、全体の変位量を出力する表示部(出力部)33とを備える。
【0096】
第1の態様に係る状態監視装置によれば、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出して表示することから、診断時に取得した状態量に応じた異常を適切に把握することができる。すなわち、診断用位相面データは、判定用位相面データに対して一部が変位したり、全体が変位したりする。つまり、診断用位相面データは、一部または全部が判定用位相面データの外側や内側に変位する。判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を表示すると、判定用位相面データに対する診断用位相面データの外側への変位および内側への変位を見つけることができる。その結果、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とすることができる。
【0097】
第2の態様に係る状態監視装置は、全体の変位量は、判定用位相面データの図心に対する診断用位相面データの図心の変位量である。これにより、全体の変位量を容易に算出することができる。
【0098】
第3の態様に係る状態監視装置は、全体の変位量は、判定用位相面データに設定された複数の定点に対する診断用位相面データに設定された複数の定点の変位量である。これにより、全体の変位量を容易に算出することができる。
【0099】
第4の態様に係る状態監視装置は、判定用位相面データ作成部42は、過去に作成した位相面データまたは過去に作成した複数の位相面データを平均化処理した平均位相面データを判定用位相面データとする。これにより、判定用位相面データとして過去に作成した位相面データを適用することで、駆動システム10における過去の特定の状態と診断時の状態を比較することができる。また、判定用位相面データとして平均位相面データを適用することで、駆動システムにおける過去の状態変化を加味した状態と診断時の状態を比較することができる。
【0100】
第5の態様に係る状態監視装置は、判定用位相面データ作成部42は、過去に作成した最大位相面データまたは最小位相面データを前記判定用位相面データとする。これにより、駆動システム10における過去の特定の状態と診断時の状態を比較することができる。
【0101】
第6の態様に係る状態監視装置は、判定用位相面データと診断用位相面データを重ねて表示することで、全体の変位量を表示する表示部33を有する。これにより、作業者は、表示部33により判定用位相面データと診断用位相面データとの全体の変位量を黙視することで、異常を容易に診断することができる。
【0102】
第7の態様に係る状態監視装置は、データ取得部41は、状態量としてモータの角速度ωと電流iと電圧uを取得し、判定用位相面データ作成部42および診断用位相面データ作成部43は、角速度ωに対する電流iの第1位相面データと、角速度ωに対する電圧uの第2位相面データの少なくとも一つを作成する。これにより、モータ11の状態量に基づいて駆動システム10の異常を適切に判定することができる。
【0103】
第8の態様に係る状態監視装置は、位相面データ算出部44は、判定用第1位相面データに対する診断用第1位相面データの全体の第1変位量を算出すると共に、判定用第2位相面データに対する診断用第2位相面データの全体の第2変位量を算出し、表示部33は、全体の第1変位量と前記全体の第2変位量を表示する。これにより、モータ11により駆動する駆動システム10における漏電と巻線ショートと摩擦の異常を適切に判定することができる。
【0104】
第9の態様に係る診断装置は、状態量を取得するデータ取得部41と、過去に取得した状態量に基づいて判定用位相面データを作成する判定用位相面データ作成部42と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面データを作成する診断用位相面データ作成部43と、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出する位相面データ算出部44と、全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する異常判定部45とを有する。これにより、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量と変位量判定値とを比較して異常を判定することで、判定用位相面データに対する診断用位相面データの外側への変位および内側への変位を見つけて異常を判定することができる。その結果、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とすることができる。
【0105】
第10の態様に係る診断装置は、異常判定部45は、全体の変位量が変位量判定値を超えると異常であると判定する。これにより、駆動システムにおける高精度な診断を可能とすることができる。
【0106】
第11の態様に係る状態監視方法は、状態量を取得する工程と、過去に取得した状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、判定用位相面に対する判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、全体の変位量を出力する工程とを有する。これにより、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量を算出することで、判定用位相面データに対する診断用位相面データの外側への変位および内側への変位を見つけることができる。その結果、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とすることができる。
【0107】
第12の態様に係る診断方法は、状態量を取得する工程と、過去に取得した状態量に基づいて判定用位相面を作成する工程と、診断時に取得した状態量に基づいて診断用位相面を作成する工程と、判定用位相面に対する判定用位相面の全体の変位量を算出する工程と、全体の変位量と予め設定された変位量判定値とを比較して異常であるか否かを判定する工程とを有する。これにより、判定用位相面データに対する診断用位相面データの全体の変位量と変位量判定値とを比較して異常を判定することで、判定用位相面データに対する診断用位相面データの外側への変位および内側への変位を見つけて異常を判定することができる。その結果、駆動システムの状態量を監視することで高精度な診断を可能とすることができる。
【0108】
なお、上述した実施形態では、位相面データ算出部44および異常判定部45は、第1位相面データと第2位相面データを処理対象としたが、2個の位相面データに限定されるものではない。処理する位相面データの個数は、1個でもよく、3個以上であってもよい。また、状態量として角速度ω、電流i、電圧uを用いたが、この構成に限定されるものではない。
【0109】
また、状態量としては、上述した以外に、制御偏差や三相モータの各電流データも使用することができる。制御系に異常があれば偏差が変化し、また、各相の電流が通常より低下あるいは上昇すれば位相面上で変化としてとらえることができる。その位相面の移動と異常を関数化することでより細かな異常分類に対応することができる。
【符号の説明】
【0110】
10 駆動システム
11 モータ
12 回転軸
13 負荷
14 ケース
21 モータアンプ
22 モータ制御部
23 角速度センサ
24 電流センサ
25 電圧センサ
30 状態監視装置
31 状態監視制御部
32 操作部
33 表示部
34 記憶部
41 データ取得部
42 判定用位相面データ作成部
43 診断用位相面データ作成部
44 位相面データ算出部
45 異常判定部
50 診断装置
51 診断制御部