(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143435
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】採血装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
A61M1/02 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050805
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 和之
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA13
4C077CC03
4C077DD13
4C077DD26
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077HH21
4C077JJ06
4C077JJ08
4C077JJ13
4C077JJ19
4C077JJ28
(57)【要約】
【課題】供血者に適した吸引圧制御を行い、採血時における供血者への負担を軽減できる採血装置を提供する。
【解決手段】採血装置1は、採血バッグを収容する収容室102と、収容室を陰圧にする排気ポンプ22と、収容室を大気開放する開放バルブ23と、排気ポンプ及び開放バルブの動作を制御する制御部11と、を備え、制御部は、供血者の現時点よりも前の採血データに基づいて、排気ポンプの動作を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採血バッグを収容する収容室と、
前記収容室を陰圧にする排気ポンプと、
前記収容室を大気開放する開放バルブと、
前記排気ポンプ及び前記開放バルブの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、供血者の現時点よりも前の採血データに基づいて、前記排気ポンプの動作を制御する、
採血装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記採血データに基づいて、前記収容室を排気する際の目標圧力値を設定し、前記収容室内の圧力が前記目標圧力値に到達するまで前記排気ポンプを動作させ、前記目標圧力値に到達した後、前記排気ポンプの動作を停止させる、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項3】
前記制御部は、採血速度が低下した場合、又は、所定の上限値を超えた場合に、前記開放バルブを開放し、前記排気ポンプによる排気をやり直す、
請求項2に記載の採血装置。
【請求項4】
前記採血データを記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記記憶部から前記採血データを取得する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の採血装置。
【請求項5】
外部端末装置と通信可能な通信部を備え、
前記制御部は、前記外部端末装置に記憶されている前記採血データを、前記通信部を介して取得する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の採血装置。
【請求項6】
前記採血データは、当該採血よりも前に行われた採血で得られた採血前履歴データであり、
前記制御部は、当該採血の開始前に前記履歴データを取得し、前記履歴データに基づいて、前記排気ポンプの動作を制御する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の採血装置。
【請求項7】
前記採血データは、当該採血時の初期の数サイクルで得られた採血中履歴データであり、
前記制御部は、当該採血中に前記採血中履歴データを取得し、当該採血のその後のサイクルにおいて、前記採血中履歴データに基づいて、前記排気ポンプの動作を制御する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の採血装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液バッグに採血するための採血装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、供血者から採血して血液バッグに収容する採血装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。採血装置を用いた採血方法としては、例えば、血液バッグ収容室に接続された吸引ポンプを動作させることにより、血液バッグを陰圧に保持し、血液を吸引する方法がある。この場合、通常、吸引圧をかけない採血モード、弱い吸引圧を持続する採血モード、強い吸引圧を持続する採血モード、供血者から採血される単位時間当たりの血液の量(=採血速度)に応じて自動的に吸引圧を制御する採血モードの中から、適切な採血モードが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、採血速度は、供血者の年齢、体形、血管の状態によって異なる。そのため、使用者は、これらを考慮して最適な採血モードを判断し選択することになる。しかしながら、判断には使用者の経験が求められる上、弱い吸引圧を持続する方法及び強い吸引圧を持続する方法において設定される吸引圧は、実際は固定値であり、供血者に最適な吸引圧であるとはいえない。
【0005】
また、採血速度に応じて吸引圧を制御する方法では、排気ポンプを動作させて吸引圧を上昇させる工程と、採血速度が所定速度以上となった場合又は採血速度が低下した場合に大気開放して吸引圧を下降させる工程とが繰り返される。そのため、採血中に、大気開放により採血速度がリセットされる回数が増加すると、採血効率が低下する。特に、血管が細い供血者の場合、血管が太い供血者に比較して採血速度が遅くなる傾向にあるため、採血速度のリセットが頻繁に生じると、採血時間が非常に長くなり、供血者に対する負担が増大する。
【0006】
本発明の目的は、供血者に適した吸引圧制御を行い、採血時における供血者への負担を軽減できる採血装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る採血装置は、
採血バッグを収容する収容室と、
前記収容室を陰圧にする排気ポンプと、
前記収容室を大気開放する開放バルブと、
前記排気ポンプ及び前記開放バルブの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、供血者の現時点よりも前の採血データに基づいて、前記排気ポンプの動作を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、供血者に適した吸引圧制御を行い、採血時における供血者への負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る採血装置1の外観図である。
【
図2】
図2は、採血装置1の制御系の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、採血履歴データの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施の形態に係る採血処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、採血モードAにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、採血モードBにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、採血モードAにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、採血モードCにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、採血モードCにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の一実施の形態に係る採血装置1の外観図である。採血装置1は、陰圧方式により血液バッグに採血を行うための装置である。
【0012】
図1に示すように、採血装置1は、箱形状の筐体101を有し、筐体101の内部に収容室102が設けられている。収容室102は、上部に開口を有し、透明な蓋体103の開閉により、収容室102が開放又は密閉されるようになっている。また、収容室102には、採血バッグを載置する載せ皿が設置される。また、筐体101の前面には、入力部13及び出力部14が配置されている。使用者は、入力部13及び出力部14により、各種情報の入力及び認識を行いつつ、採血処理を実行する。
【0013】
図2は、採血装置1の制御系の一例を示す図である。
図2に示すように、採血装置1は、制御部11、記憶部12、入力部13、出力部14、通信部15、揺動部21、排気ポンプ22、開放バルブ23、重量計測部31、回転計測部32、圧力計測部33,監視部34等を備える。
【0014】
制御部11は、演算/制御装置としてのCPU(Central Processing Unit)111、主記憶装置としてのROM(Read Only Memory)112及びRAM(Random Access Memory)113等を備える。ROM112には、基本プログラムや基本的な設定データが記憶される。CPU111は、例えば、ROM112から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM113に展開し、展開したプログラムを実行することにより、採血装置1の各ブロックの動作を集中制御する。
【0015】
なお、制御部11が実行する処理の一部又は全部は、処理に応じて設けられたDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)等の電子回路によって実行されてもよい。
【0016】
記憶部12は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はSD(Secure Digital)カード等の補助記憶装置であり、プログラムや各種データ等を記憶する。記憶部12には、例えば、採血処理プログラムが記憶されている。
【0017】
入力部13は、例えば、文字や数字の入力キー、方向キー、各種機能キー等の入力装置、及びバーコードスキャナー等の読取装置を含む。入力部13は、使用者による入力操作を受け付けて、操作信号を制御部に出力する。
【0018】
出力部14は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどの表示装置、ランプ等の報知装置、スピーカー等の音声出力装置を含む。出力部14は、制御部11の指示に従って、各種情報を出力する。なお、入力部13及び出力部14は、タッチパネル付きのフラットパネルディスプレイで構成されてもよい。
【0019】
通信部15は、例えば、NIC(Network Interface Card)、MODEM(MOdulator-DEModulator)、USB(Universal Serial Bus)等の通信インターフェースである。制御部11は、通信部15を介して、有線/無線LANやインターネット等のネットワークに接続された外部端末装置2との間で各種情報の送受信を行う。通信部15には、NFC(Near Field Communication)やBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信用の通信インターフェースを適用することもできる。
【0020】
外部端末装置2は、供血者の過去の採血履歴データを保有する。外部端末装置2は、例えば、インターネットを介して接続可能なクラウド上のサーバー装置である。また例えば、外部端末装置2は、採血装置1が使用される医療施設内の病院情報システム(HIS:Hospital Information System)のサーバー装置であってもよい。
【0021】
揺動部21は、制御部11の指示に従って、載せ皿を揺動させる。揺動部21は、例えば、載せ皿を揺動させるための揺動機構及び駆動モーターを有する。採血時に、載せ皿を揺動させることにより、血液バッグに収容されている抗凝固剤と血液が混和され、血液の凝固が防止される。
【0022】
排気ポンプ22は、制御部11の指示に従って、収容室102内を排気して陰圧に保持する。排気ポンプ22は、例えば、真空ポンプで構成される。排気ポンプ22は、動作時は、所定の排気速度で排気し続ける。
【0023】
開放バルブ23は、制御部11の指示に従って、収容室102内を大気に開放する。開放バルブ23は、収容室102に連通する配管に配置されてもよいし、排気ポンプ22に内蔵されてもよい。
【0024】
重量計測部31は、載せ皿に載置されている血液バッグの重量を計測するための重量センサーであり、例えば、ロードセルで構成される。制御部11は、重量計測部31の計測結果に基づいて、揺動部21、排気ポンプ22及び開放バルブ23の動作を制御する。
【0025】
回転計測部32は、揺動機構のギア又は揺動軸の回転や駆動モーターの回転を計測するための回転センサーである。制御部11は、回転計測部32の計測結果に基づいて、揺動部21の動作を適切に制御する。
【0026】
圧力計測部33は、収容室102内の圧力を計測するための圧力センサーである。制御部11は、圧力計測部33の計測結果に基づいて、排気ポンプ22及び開放バルブ23の動作を制御する。
【0027】
監視部34は、蓋体103の開閉状態を検出する開閉センサーである。制御部11は、監視部34の検出結果に基づいて、蓋体103の開閉状態を判定し、閉状態となっている場合にのみ、採血処理の実行を許可する。
【0028】
採血装置1は、採血時の吸引圧制御方法が異なる複数の採血モードを有する。複数の採血モードは、供血者の採血履歴データに基づいて採血時の吸引圧制御を行う採血モードA、供血者の採血履歴データがない場合に行われる採血モードB、Cを含む。採血モードBは、従来の自動的に吸引圧を制御するモードと同じである。本実施の形態の採血装置1は、採血モードA、Cで採血を実行可能である点で従来の採血装置と異なる。なお、採血装置1は、従来の吸引圧をかけない採血モード、弱い吸引圧を持続する採血モード、強い吸引圧を持続する採血モードを有し、使用者が複数の採血モードの中から、適切な採血モードを手動で選択できるようになっていてもよい。
【0029】
図3は、採血装置1において採血時に参照される採血履歴データの一例を示す図である。
図3に示す採血履歴データは、例えば、1回の採血で取得された実測データである。採血履歴データは、供血者情報に含まれる。供血者情報は、採血履歴データの他、供血者の識別情報(例えば、供血者ID)、氏名、年齢、性別、身長、体重等を含む。採血履歴データは、供血者ごとに複数、例えば、直近の所定回数分が記憶されてもよいし、最新の採血履歴データだけが記憶されてもよい。
【0030】
図3に示す採血履歴データは、採血時の収容室102内の圧力P及び採血量Vの時間変動を含む。また、採血履歴データは、採血日時、採血モードを含む。
図3の採血履歴データに従うと、採血モードB(従来の自動吸引圧制御)によって採血が実行されたこと、タイミングt1、t2で採血速度(単位時間当たりの採血量)が所定の上限値(例えば、200mL/min)を超えて大気開放されたこと、タイミングt3で採血速度が低下して大気開放されたこと、タイミングt4で目標採血量に到達し採血が終了したことなどを把握できる。
【0031】
採血履歴データを解析することで、例えば、採血時の最適な目標圧力値等を算出することができる。「最適な目標圧力値」とは、大気開放することなく、最も効率よく採血できる圧力であり、例えば、圧力P及び採血量Vの時間変動を含む採血パターンに基づいて、算出することができる。例えば、採血パターンごとに、目標圧力値を算出するための演算式が設定されている。この目標圧力値は、採血装置1の制御部11が、採血時に外部端末装置2から採血履歴データを取得して算出してもよいし、外部端末装置2において予め算出され採血履歴データとして記憶されていてもよい。
【0032】
目標圧力値は、例えば、採血履歴データに含まれる最大圧力値(
図3のタイミングt1における圧力値)、及び、最大圧力値に到達するまでに採血された採血量を元に算出される。また、採血装置1において目標圧力値が設定される際に、採血者の健康状態等を考慮して、採血履歴データに基づいて算出された目標圧力値に対して調整が加えられてもよい。
【0033】
また、供血者の採血履歴データは、採血時の供血者の生体情報(例えば、身長、体重、血圧及び心電など)、環境情報(例えば、天気、気圧など)、使用された採血装置の装置情報(例えば、昇圧速度など)と関連付けられていることが好ましい。採血履歴データに関連付けられる情報には、ビッグデータを利用することもできる。これらの情報に基づいて、過去に得られた採血履歴データを細分化して分類することで、分類ごとに最適な目標圧力値を設定することができる。採血当日には、供血者の状態等に最も近い分類の採血履歴データを採用することで、採血時の吸引圧制御が最適化される。
【0034】
図4は、第1の実施の形態に係る採血処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、使用者により採血の開始を指示する入力操作が行われることに伴い、CPU111が記憶部12に格納されている採血処理プログラムを実行することにより実現される。
【0035】
まず、ステップS11において、制御部11は、採血準備画面を表示する。採血準備画面では、例えば、供血者IDの入力が促される。供血者が供血者IDを有していない場合は、例えば、供血者情報を新規登録することが促される。
【0036】
ステップS12において、制御部11は、供血者情報を取得する。制御部11は、例えば、入力部13のバーコードリーダーにより供血者IDが読み取られることに伴い、サーバー装置に保有されているデータベースと照合し、供血者情報を取得する。
【0037】
ステップS13において、制御部11は、供血者の採血履歴データの有無を判定する。採血履歴データは、当該採血よりも前の採血で得られた採血前履歴データである。供血者情報に採血履歴データが含まれている場合(ステップS13で“YES”)、制御部11は、ステップS14の処理に移行する。供血者情報に採血履歴データが含まれていない場合(ステップS13で“NO”)、制御部11は、ステップS17の処理に移行する。
【0038】
ステップS14において、制御部11は、採血モードAを選択し、採血モードA用のプログラムを読み出す。ステップS15において、制御部11は、採血モードAで採血処理を実行する(詳細は、
図5参照)。採血モードAに従って、供血者の採血履歴データに基づいて採血時の吸引圧制御が行われる。採血モードAでの採血が終了すると、ステップS16において、制御部11は、今回の採血データを外部端末装置2に送信し、採血履歴データとして登録する。
【0039】
ステップS13において採血履歴データがないと判定された場合は、ステップS17において、制御部11は、採血モードBを選択し、採血モードB用のプログラムを読み出す。ステップS18において、制御部11は、採血モードBで採血処理を実行する(詳細は、
図6参照)。採血モードBに従って、従来と同じ自動吸引圧制御が行われる。採血モードBでの採血が終了すると、ステップS16において、制御部11は、今回の採血データを外部端末装置2に送信し、採血履歴データとして登録する。
【0040】
図5は、採血モードAにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
ステップS101において、制御部11は、目標圧力値を設定する。制御部11は、例えば、取得した採血履歴データを解析して、当該供血者の目標圧力値として設定可能な最大圧力値(例えば、
図3のタイミングt1における圧力値)及び最大圧力値に到達するまでに採血された採血量を特定し、これらに基づいて目標圧力値を設定する。このとき、採血当日の天候(気圧)や供血者の健康状態に応じて、目標圧力値が調整されてもよい。なお、目標圧力値の調整は、採血装置1において自動的に行われてもよいし、利用者の手動操作に基づいて行われてもよい。
【0041】
ステップS102において、制御部11は、開放バルブ23を閉状態に制御するとともに、排気ポンプの動作を開始する。収容室102内の圧力は、負方向に徐々に上昇し、採血が進行する。
【0042】
ステップS103において、制御部11は、圧力計測部33の計測結果に基づいて、目標圧力値に到達したか否かを判定する。目標圧力値に到達した場合(ステップS103で“YES”)、制御部11は、ステップS104の処理に移行する。目標圧力値に到達していない場合(ステップS103で“NO”)、制御部11は、ステップS103の処理を繰り返す。なお、目標圧力値に到達していない場合に、ステップS106の処理に移行し、採血動態に応じて、開放バルブ23を開放させるようにしてもよい。
【0043】
ステップS104において、制御部11は、排気ポンプ22を停止する。収容室102内の圧力は、供血者にとって最適な目標圧力値で、ほぼ一定に維持される。
【0044】
ステップS105において、制御部11は、開放バルブ23を徐々に開放する。例えば、所定時間間隔で、開放バルブ23の開動作及び閉動作を繰り返す。この処理により、収容室102内の圧力は、徐々に低下する。一般に、採血量が増加するにつれて、供血者の循環血液量が減少し、血圧が低下する。収容室102内の圧力が、供血者の血圧に対して高すぎると、採血速度が低下する虞がある。そこで、ステップS105では、収容室102内の圧力が供血者の血圧に対して高くなりすぎないように、開放バルブ23の動作が制御されている。なお、ステップS105の処理を省略し、収容室102内の圧力が一定に保持されるようにしてもよい。
【0045】
ステップS106において、制御部11は、重量計測部31の計測結果に基づいて、目標採血量に到達したか否かを判定する。目標採血量に到達した場合(ステップS106で“YES”)、制御部11は、ステップS107の処理に移行し、開放バルブ23を開放する。採血モードAでの採血は終了となる。目標採血量に到達していない場合(ステップS106で“NO”)、制御部11は、ステップS108の処理に移行する。
【0046】
ステップS108、ステップS109において、制御部11は、採血状態の適否を判定する。制御部11は、例えば、所定期間における採血量の増分ΔVに基づいて、採血状態の適否を判定する。採血速度の適正範囲は、例えば、0mL/min~200mL/minである。
【0047】
具体的には、ステップS108において、制御部11は、採血量の増分ΔVに基づいて、単位時間当たりの採血量が減少したか否か、すなわち採血速度が低下したか否かを判定する。採血速度が低下した場合(ステップS108で“YES”)、血流不足等により供血者の採血状態が低下している。。この場合、制御部11は、ステップS110の処理に移行する。一方、採血速度が低下していない場合(ステップS108で“NO”)、血流不足等による採血速度の低下は生じていない。この場合、制御部11は、ステップS109の処理に移行する。
【0048】
なお、ステップS108では、採血速度が前回判定時の採血速度を下回った場合に採血速度が低下したと判定してもよいし、採血速度の低下を判定するためのしきい値を設け、採血速度がしきい値を超えて低下した場合に、採血速度が低下したと判定してもよい。
【0049】
ステップS109において、制御部11は、採血量の増分ΔVに基づいて、採血速度が所定速度以上であるか否かを判定する。採血速度が所定速度以上である場合(ステップS109で“YES”)、採血過多となる。この場合、制御部11は、ステップS110の処理に移行する。一方、採血速度が所定速度以下である場合(ステップS109で“NO”)、採血速度はほぼ一定で維持されており、適正な採血状態で採血が行われている。この場合、制御部11は、ステップS106の処理に移行する。
【0050】
ステップS110において、制御部11は、開放バルブ23を開放する。収容室102内は大気開放され、大気圧付近まで低下する。これに伴い、採血速度は一旦低下する。大気開放された後、制御部11は、ステップS102以降の処理を繰り返す。つまり、改めて目標圧力値まで圧力を上昇させ、目標圧力値での採血が行われる。
【0051】
図6は、採血モードBにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
ステップS121において、制御部11は、開放バルブ23を閉状態に制御するとともに、排気ポンプの動作を開始する。収容室102内の圧力は、負方向に徐々に上昇し、採血が進行する。
【0052】
ステップS122において、制御部11は、目標採血量に到達したか否かを判定する。目標採血量に到達した場合(ステップS122で“YES”)、制御部11は、ステップS123の処理に移行し、開放バルブ23を開放する。採血モードBでの採血は終了となる。目標採血量に到達していない場合(ステップS122で“NO”)、制御部11は、ステップS124の処理に移行する。
【0053】
ステップS124、ステップS125において、制御部11は、採血状態の適否を判定する。ステップS124、S125の処理は、
図5のステップS108、S109の処理と同様である。すなわち、採血状態が適切である場合(ステップS124及びステップS125で“NO”)、制御部11は、ステップS122の処理に移行し、目標採血量に到達するまで、ステップS122、S124~S126の処理を繰り返す。採血状態が適切でない場合(ステップS124又はステップS125で“YES”)、制御部11は、ステップS126の処理に移行し、開放バルブ23を開放する。収容室102内は大気開放され、採血速度は一旦低下する。大気開放された後、制御部11は、ステップS121以降の処理を繰り返す。つまり、改めて圧力を上昇させながら採血を行い、採血速度が不適となった時点で大気開放が行われる。
【0054】
図7A、
図7Bは、採血履歴の一例を示す図である。
図7Aは、採血モードAに従って採血が行われたときの採血履歴であり、
図7Bは、採血モードBに従って採血が行われたときの採血履歴である。
図7A、
図7Bは、供血者の血流状態が比較的良好である場合について示している。
【0055】
図8A、
図8Bは、採血履歴の他の一例を示す図である。
図8Aは、採血モードAに従って採血が行われたときの履歴であり、
図8Bは、採血モードBに従って採血が行われたときの履歴である。
図8A、
図8Bでは、供血者の血流状態が比較的悪い場合について示している。
【0056】
採血モードAで制御される目標圧力値P0は、供血者の採血履歴データに基づいて算出される値であり、この目標圧力値以下で採血が行われている場合、採血速度が適正範囲に保持される可能性が高い。つまり、安全のためにステップS108及びステップS109を設けているが、ステップS108又はステップS109で“YES”となり、ステップS110で大気開放されることは稀であり、少なくとも従来の採血モード(例えば、採血モードB)に比較して、大気開放の回数よりは少なくなる。
【0057】
したがって、
図7A、
図8Aに示すように、一定の採血速度で採血が進行し、採血量は右肩上がりに増加し、従来の採血モードで採血した場合(
図7B、
図8B参照)に比較して、効率よく採血が行われる。その結果、採血が終わるまでの採血時間が格段に短縮され、供血者への負担も軽減される。
【0058】
[第2の実施の形態]
図9は、第2の実施の形態に係る採血処理の一例を示すフローチャートである。
第2の実施の形態では、供血者の採血履歴データがない場合に(ステップS23で“YES”)、ステップS27で採血モードCが選択されて、ステップS28で採血モードCに従う採血が行われる点が第1の実施の形態と異なる。
図9に示すステップS21~S26の処理については、
図4のステップS11~S16と同様である。
【0059】
図10、
図11は、採血モードCにおける採血処理の一例を示すフローチャートである。
図10に示すステップS201~S206の処理は、
図6のステップS121~S126と同様である。
【0060】
第2の実施の形態では、ステップS206で大気開放された後、
図11のステップS207の処理に移行する。制御部11は、当該採血時の初期の数サイクルで得られる採血中履歴データに基づいて、排気ポンプ22の動作を制御する。具体的には、ステップS207において、制御部11は、採血中履歴データの一例として、採血開始から大気開放されるまでの1サイクル目の採血データを取得し、当該供血者の採血パターンを特定する。
【0061】
そして、ステップS208において、制御部11は、ステップS207で特定された採血パターンに基づいて、目標圧力値を設定する。ステップS209~S217は、
図5のステップS102~S110と同様である。
【0062】
採血モードAのように採血前の過去の採血履歴データに基づいて目標圧力値を設定する場合に比較すると、ステップS208で設定される目標圧力値の精度は劣るかもしれない。しかしながら、従来の自動吸引圧制御が行われる採血モードBに比較すると、大気開放される回数が低減され、効率的に採血を行うことができる。
【0063】
なお、採血モードAにおいて、採血状態が不適当と判定され、
図5のステップS110で大気開放された後に、採血モードCに移行するようにしてもよい。採血状態が不適当であった場合、採血前履歴データに基づく吸引圧制御が、当日の供血者に適合していなかったこととなる。そこで、大気開放された後のサイクルでは、大気開放が行われるまでの採血データ、すなわち採血中履歴データに基づいて吸引圧制御を行うことで、当日の供血者に適した吸引圧制御が行われることとなり、効率的に採血を行うことができる。
【0064】
このように、本実施の形態に係る採血装置1は、採血バッグを収容する収容室102と、収容室102を陰圧にする排気ポンプ22と、収容室102を大気開放する開放バルブ23と、排気ポンプ22及び開放バルブ23の動作を制御する制御部11と、を備える。制御部11は、供血者の採血履歴データ(現時点よりも前の採血データ)に基づいて、排気ポンプの動作を制御する。
【0065】
具体的には、採血装置1において、制御部11は、採血履歴データ(現時点よりも前の採血データ)に基づいて、収容室102を排気する際の目標圧力値を設定し、収容室102内の圧力が目標圧力値に到達するまで排気ポンプ22を動作させ、目標圧力値に到達した後、排気ポンプ22の動作を停止させる。
【0066】
採血装置1によれば、過去の採血履歴データに基づいて、供血者に最適の目標圧力値が設定され、この目標圧力値が維持されるように吸引圧制御が行われるので、採血速度の超過によって大気開放される回数を格段に低減することができる。したがって、大気開放により採血速度がリセットされる回数を低減でき、採血効率を格段に向上することができる。その結果、採血時における供血者への負担を軽減することができる。また、採血時の消費電力を低減できる上、採血装置1の構成部品の摩耗を抑制することができる。さらには、大気開放時に生じる騒音が抑制されるので、静音性も向上する。
【0067】
また、採血装置1において、制御部11は、採血速度が所定量以上低下した場合(
図6のステップS124で“YES”)、又は採血速度が所定の上限値を超えた場合(
図6のステップS125で“YES”)に、開放バルブ23を開放し、排気ポンプ22による排気をやり直す。これにより、採血効率を向上するとともに、採血時の安全性を確保することができる。
【0068】
また、採血装置1は、採血履歴データ(採血データ)を記憶する記憶部12を備え、制御部11は、記憶部12から採血データを取得する。これにより、スタンドアローンの採血装置1においても、効率的な採血を実現することができる。
【0069】
また、採血装置1は、外部端末装置2と通信可能な通信部15を備え、制御部11は、外部端末装置2に記憶されている採血履歴データ(採血データ)を、通信部15を介して取得する。これにより、複数の採血装置1において、採血履歴データを共用することができるので、利便性が向上する。また、大量な採血履歴データに基づいて目標圧力値を算出することも可能となり、精度の高い吸引圧制御を行うことができる。
【0070】
採血データは、当該採血よりも前に行われた採血で得られた採血前履歴データであり、制御部11は、当該採血の開始前に採血前履歴データを取得し、採血前履歴データに基づいて、排気ポンプ22の動作を制御する。これにより、自己血貯血のように頻繁に採血が必要な供血者に対して、精度の高い吸引圧制御を提供することができ、負担を軽減することができる。
【0071】
また、第2の実施の形態のように、採血データは、当該採血時の初期の数サイクルで得られた採血中履歴データであり、制御部11は、当該採血中に採血中履歴データを取得し、当該採血のその後のサイクルにおいて、採血中履歴データに基づいて、排気ポンプ22の動作を制御してもよい。これにより、初めて採血を行う供血者に対しても、精度の高い吸引圧制御を提供でき、負担を軽減することができる。また、採血前履歴データに基づいて、採血モードAでの採血を行っていた場合でも、より適切な吸引圧制御を行うことができる。
【0072】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0073】
例えば、実施の形態では、採血履歴データがない場合に、自動的に採血モードB又はCによる採血が行われるようになっているが、使用者が手動で採血モードを選択できるようにしてもよい。
【0074】
また、採血装置1の記憶部12に採血履歴データを記憶する場合、ネットワークを介して、又は可搬型記憶媒体を介して、定期的に更新できるようにしてもよい。
【0075】
また、採血装置1が外部端末装置2から採血履歴データを取得する場合、外部端末装置2において予め目標圧力値が算出され、採血履歴データとして記憶され、採血装置1は採血履歴データとして目標圧力値だけを取得してもよい。この場合、採血装置1の処理負荷を軽減することができる。また、外部端末装置2は、採血装置1に比較して高い処理能力を有するので、ビッグデータ等を利用して採血履歴データを詳細に解析することができ、より適切な目標圧力値の設定も可能となる。
【0076】
また、実施の形態では、採血履歴データに基づいて目標圧力値を設定して排気ポンプ22の動作を制御する場合について説明したが、排気ポンプ22の昇圧速度を制御可能である場合には、採血履歴データに基づいて採血時の昇圧速度を設定してもよい。
【0077】
また、過去の採血履歴データの日付より数年単位で時間が経過した場合は、供血者の状態が変化している可能性がある。その場合は、前回の採血から長期間経過していることを出力部14に表示して、使用者に採血モードを選択させることができるようにしてもよい。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 採血装置
2 外部端末装置
11 制御部
12 記憶部
22 排気ポンプ
23 開放バルブ
102 収容室