(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143454
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N27/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050844
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 裕正
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】大岩 史奈
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和冶
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB17
2G060AE19
2G060AE27
2G060BA03
2G060BB02
2G060BB18
2G060BD02
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】小型化が可能で、広い濃度範囲の可燃性ガスを検知可能なガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のガスセンサ1は、第1検知素子2と、第2検知素子3と、制御部4とを備え、制御部4は、第1検知素子2が検知素子として機能するように第1検知素子2に第1電圧を印加する第1検知モードと、第1検知素子2が補償素子として機能するように第1検知素子2に第1電圧よりも低い第2電圧を印加し、第2検知素子3が検知素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧を印加する第2検知モードと、を切り替えるように構成され、制御部4は、第1検知モードにおいて算出されるガス濃度が所定の閾値を超える場合に、第1検知モードを第2検知モードに切り替えるように構成され、および/または、第2検知モードにおいて算出されるガス濃度が所定の閾値以下の場合に、第2検知モードを第1検知モードに切り替えるように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスに含まれる可燃性ガスを検知するためのガスセンサであって、
前記可燃性ガスの燃焼熱により加熱されることにより抵抗値が変化することに基づいて前記可燃性ガスを検知する第1検知素子と、
前記可燃性ガスを含む前記測定対象ガスとの熱収支により抵抗値が変化することに基づいて前記可燃性ガスを検知する第2検知素子と、
電圧を印加することで前記第1検知素子および/または前記第2検知素子を加熱し、前記第1検知素子および/または前記第2検知素子の出力に基づいて前記可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記第1検知素子が検知素子として機能するように前記第1検知素子に第1電圧を印加する第1検知モードと、
前記第1検知素子が補償素子として機能するように前記第1検知素子に前記第1電圧よりも低い第2電圧を印加し、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に第3電圧を印加する第2検知モードと、
を切り替えるように構成され、
前記制御部は、
前記第1検知モードにおいて算出される前記ガス濃度が所定の閾値を超える場合に、前記第1検知モードを前記第2検知モードに切り替えるように構成され、および/または、
前記第2検知モードにおいて算出される前記ガス濃度が前記所定の閾値以下の場合に、前記第2検知モードを前記第1検知モードに切り替えるように構成される、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧を印加し、前記第1検知素子および前記第2検知素子の出力の合成結果に基づいて前記ガス濃度を算出するように構成される、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が補償素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加し、その状態で得られた前記第2検知素子の出力を用いて前記第1検知素子の出力を補正するように構成される、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が補償素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加している状態で、前記第1検知素子により前記可燃性ガスが検知された場合に、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧を印加するように構成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記第1検知素子および前記第2検知素子が、MEMS型として形成される、
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象ガスに含まれる可燃性ガスを検知するために、接触燃焼式ガスセンサや気体熱伝導式ガスセンサが用いられている。接触燃焼式ガスセンサは、検知素子を加熱した際に燃焼する可燃性ガスの燃焼熱により、検知素子の温度が上昇し、それによって検知素子の抵抗値が上昇する現象を利用して、可燃性ガスを検知する。気体熱伝導式ガスセンサは、可燃性ガスを含む測定対象ガスと検知素子との間で熱収支が行なわれることにより、検知素子の抵抗値が変化する現象を利用して、可燃性ガスを検知する。
【0003】
接触燃焼式ガスセンサは、可燃性ガスを高精度で検知可能であるため、可燃性ガスの燃焼範囲内の濃度を検知するのに適している一方で、可燃性ガスを燃焼させて可燃性ガスを検知する原理上、可燃性ガスが高濃度で存在する場合には、酸素不足となり完全にセンサ触媒で燃焼できずに、ガス濃度を精度良く検知出来なくなる。気体熱伝導式ガスセンサは、可燃性ガスを燃焼させることはないので、広い濃度範囲の可燃性ガスの検知が可能ではあるが、分解能が低いために、低濃度の可燃性ガスを精度よく検知することが難しい。
【0004】
それぞれのガスセンサが検知できる可燃性ガスの濃度範囲が限られているため、より広い濃度範囲の可燃性ガスを検知できるガスセンサが求められている。このようなガスセンサとして、特許文献1には、接触燃焼式ガス検知機能と気体熱伝導式ガス検知機能とを組み合わせたガスセンサが提案されている。特許文献1のガスセンサは、接触燃焼式ガス検知機能を有する低濃度用ブリッジ回路と、気体熱伝導式ガス検知機能を有する高濃度用ブリッジ回路とを備えている。低濃度用ブリッジ回路には、検知素子として機能するガス濃度検知素子と、補償素子として機能する温度補償素子とが組み込まれている。高濃度用ブリッジ回路には、低濃度用ブリッジ回路と共有され、検知素子として機能する温度補償素子と、補償素子として機能する参照抵抗器とが組み込まれている。特許文献1のガスセンサでは、可燃性ガスである水素ガスの濃度に応じて、低濃度用ブリッジ回路と高濃度用ブリッジ回路とが切替スイッチにより切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のガスセンサでは、2つのブリッジ回路が切り替えられて使用されるために、一方のブリッジ回路が使用されている際には、他方のブリッジ回路は使用されない。また、いずれのブリッジ回路が使用される場合にも、少なくとも1つの素子が使用されない。このように、特許文献1のガスセンサでは、常時使用されることのない構成要素を設けるためのスペースが余分に必要となるために、ガスセンサが大型化してしまう。さらに、2つのブリッジ回路を切り替えるための切替スイッチを設けるためのスペースも必要であるため、これによってもガスセンサが大型化してしまう。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、小型化が可能で、広い濃度範囲の可燃性ガスを検知可能なガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスセンサは、測定対象ガスに含まれる可燃性ガスを検知するためのガスセンサであって、前記可燃性ガスの燃焼熱により加熱されることにより抵抗値が変化することに基づいて前記可燃性ガスを検知する第1検知素子と、前記可燃性ガスを含む前記測定対象ガスとの熱収支により抵抗値が変化することに基づいて前記可燃性ガスを検知する第2検知素子と、電圧を印加することで前記第1検知素子および/または前記第2検知素子を加熱し、前記第1検知素子および/または前記第2検知素子の出力に基づいて前記可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される制御部とを備え、前記制御部は、前記第1検知素子が検知素子として機能するように前記第1検知素子に第1電圧を印加する第1検知モードと、前記第1検知素子が補償素子として機能するように前記第1検知素子に前記第1電圧よりも低い第2電圧を印加し、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に第3電圧を印加する第2検知モードと、を切り替えるように構成され、前記制御部は、前記第1検知モードにおいて算出される前記ガス濃度が所定の閾値を超える場合に、前記第1検知モードを前記第2検知モードに切り替えるように構成され、および/または、前記第2検知モードにおいて算出される前記ガス濃度が前記所定の閾値以下の場合に、前記第2検知モードを前記第1検知モードに切り替えるように構成されることを特徴とする。
【0009】
また、前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧を印加し、前記第1検知素子および前記第2検知素子の出力の合成結果に基づいて前記ガス濃度を算出するように構成されることが好ましい。
【0010】
また、前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が補償素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加し、その状態で得られた前記第2検知素子の出力を用いて前記第1検知素子の出力を補正するように構成されることが好ましい。
【0011】
また、前記制御部は、前記第1検知モードにおいて、前記第2検知素子が補償素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加している状態で、前記第1検知素子により前記可燃性ガスが検知された場合に、前記第2検知素子が検知素子として機能するように前記第2検知素子に前記第3電圧を印加するように構成されることが好ましい。
【0012】
また、前記第1検知素子および前記第2検知素子が、MEMS型として形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型化が可能で、広い濃度範囲の可燃性ガスを検知可能なガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスセンサの構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るガスセンサの第1検知素子(a)および第2検知素子(b)の上面図である。
【
図3】第1検知素子および第2検知素子に印加する電圧の時間変化を示す図である。
【
図4】第1検知素子および第2検知素子に印加する電圧の時間変化を示す図である。
【
図5】第1検知素子および第2検知素子に印加する電圧の時間変化を示す図である。
【
図6】第1検知素子および第2検知素子に印加する電圧の時間変化を示す図である。
【
図7】可燃性ガスのガス濃度(低濃度域)に対する第1検知素子の出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図8】可燃性ガスのガス濃度(低濃度域)に対する第2検知素子の出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図9】可燃性ガスのガス濃度(高濃度域)に対する第2検知素子の出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図10】可燃性ガスのガス濃度(低濃度域)に対する第1検知素子および第2検知素子の合成出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図11】第1検知素子が検知素子または補償素子として機能するときの、水素のガス濃度(低濃度域)に対する第1検知素子の出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図12】第2検知素子が検知素子または補償素子として機能するときの、水素のガス濃度(高濃度域)に対する第2検知素子の出力の関係(感度特性)を示すグラフである。
【
図13】第1検知素子が補償素子として機能するときの、測定対象ガスの温度に対する第1検知素子の出力の関係(温度依存性)を示すグラフである。
【
図14】第2検知素子が補償素子として機能するときの、測定対象ガスの温度に対する第2検知素子の出力の関係(温度依存性)を示すグラフである。
【
図15】10ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)に暴露されたときの第1検知素子(a)および第2検知素子(b)の感度(メタン指示値)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るガスセンサを説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例に過ぎず、本発明のガスセンサは、以下の例に限定されることはない。
【0016】
本実施形態のガスセンサ1は、たとえば大気ガスなど、環境雰囲気を構成する測定対象ガスに含まれる可燃性ガスを検知するために使用される。ガスセンサ1が検知対象とする可燃性ガスは、ガス自体が燃焼する性質を有するガスであり、たとえば、水素、メタン、エタン、ブタン、イソブタン、プロパン、アセチレン、一酸化炭素などが例示される。
【0017】
ガスセンサ1は、
図1に示されるように、第1検知素子2と、第2検知素子3と、制御部4とを備えている。ガスセンサ1では、以下で詳しく述べるように、制御部4が、第1検知素子2および第2検知素子3を制御して、第1検知素子2および/または第2検知素子3の出力に基づいて可燃性ガスを検知するように構成されている。
【0018】
第1検知素子2は、可燃性ガスの燃焼熱により加熱されることにより抵抗値が変化することに基づいて可燃性ガスを検知する検知素子として機能する。第1検知素子2は、所定の温度以上に加熱されることで、検知素子として機能する。第1検知素子2は、所定の温度以上に加熱されることで、第1検知素子2の周辺に存在する可燃性ガスを燃焼させる。第1検知素子2は、燃焼した可燃性ガスの燃焼熱を受けて加熱され、それにより第1検知素子2の抵抗値が増加する。第1検知素子2は、この抵抗値の増加に基づいて、可燃性ガスの存在を検知する。第1検知素子2の抵抗値の増加量は、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度に応じて変化するので、第1検知素子2は、この抵抗値の増加量に基づいて、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度を検知する。本実施形態では、第1検知素子2は、
図7に示されるように、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度の増加に対して抵抗値が略線形に増加するように構成されている(
図7では、抵抗値に対応する値として電位差が示されている)。第1検知素子2のこのような感度特性を用いることで、測定される第1検知素子2の抵抗値(電位差)から可燃性ガスのガス濃度を求めることができる。ただし、可燃性ガスのガス濃度に対する抵抗値の関係が予め既知でありさえすれば、抵抗値の変化から可燃性ガスのガス濃度を検知できるので、第1検知素子2は、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度の増加に対して抵抗値が非線形に変化するように構成されていてもよい。第1検知素子2が検知素子として機能するための所定の温度は、可燃性ガスを燃焼可能な範囲で適宜設定することができ、たとえば400℃~550℃、好ましくは450℃~550℃、さらに好ましくは500℃~550℃、最も好ましくは500℃に設定される。
【0019】
第1検知素子2はさらに、所定の温度以下に維持されることで、第2検知素子3の温度補償をするための補償素子としても機能する。第1検知素子2は、所定の温度以下に維持されることで、可燃性ガスを燃焼させることがないか、ほとんどない。したがって、測定対象ガス中に可燃性ガスが存在しても、第1検知素子2の抵抗値が変化することがないか、ほとんどない。測定対象ガス中の可燃性ガス(水素)のガス濃度に対する第1検知素子2の出力の変化を示す
図11(
図11中では、抵抗値に対応する電位差の変化を示している)を参照すると、第1検知素子2が500℃に維持されて検知素子として機能する場合は、可燃性ガスのガス濃度の増加に伴なって出力が増加するが、第1検知素子2が100℃に維持されて補償素子として機能する場合は、可燃性ガスのガス濃度が増加しても出力がほぼ一定であることが分かる。一方、第1検知素子2は、測定対象ガスの温度に応じて温度が変化することに伴なって抵抗値が変化する(
図13参照、
図13は、測定対象ガスが20℃のときを基準として、抵抗値に対応する電位差の変化を示している)ので、この抵抗値の変化に基づいて、測定対象ガスの温度を検知することができる。第1検知素子2は、検知した測定対象ガスの温度に基づいて、検知素子として機能する第2検知素子3の温度補償をすることができる。第1検知素子2が補償素子として機能するための所定の温度は、可燃性ガスが燃焼しないか、ほとんど燃焼しない範囲で適宜設定することができ、たとえば80℃~200℃、好ましくは80℃~150℃、さらに好ましくは80℃~100℃、最も好ましくは100℃に設定される。
【0020】
第1検知素子2は、所定の温度以上で加熱された状態で検知素子として機能し、所定の温度以下の状態で補償素子として機能することができればよく、その構造は特に限定されることはない。第1検知素子2としては、たとえば、公知の接触燃焼式ガス検知素子を用いることができる。本実施形態では、第1検知素子2は、
図2(a)に示されるように、MEMS(Micro Electro Mechanical System)型として形成されている。MEMS型とは、シリコン基板などの基板の上に微細加工技術によって素子構成要素の少なくとも一部を集積化したデバイス構造のことを意味する。第1検知素子2は、MEMS型として形成されることにより、コイル型として形成される場合と比べて、小型化が可能で、低消費電力での駆動が可能である。ただし、第1検知素子2は、コイル型や、MEMS構造を採用しない基板型として形成されてもよい。
【0021】
第1検知素子2は、本実施形態では、
図2(a)に示されるように、シリコン基板などの基板S1に形成された空洞S11上に、空洞S11を介して基板本体と間隔を空けて形成されたシリコン酸化膜などの絶縁支持膜S12上に設けられている。第1検知素子2は、絶縁支持膜S12上に設けられた第1抵抗体21と、第1抵抗体21を覆うように設けられた第1絶縁酸化物膜22と、第1絶縁酸化物膜22上に形成された触媒23とを備えている。第1検知素子2は、第1抵抗体21に接続されたリード線L1を介して、第1検知素子2に電圧を印加するとともに第1検知素子2の抵抗値(または抵抗値に対応する物理量)を計測する回路(たとえば、後述する第1検知素子回路C1)に組み込まれる。
【0022】
第1抵抗体21は、電圧が印加されることで加熱されるとともに、可燃性ガスの燃焼熱を受けて加熱されて抵抗値が変化する。第1抵抗体21は、特に限定されることはなく、スパッタリングなどの成膜技術を用いて白金などにより形成される。第1絶縁酸化物膜22は、第1抵抗体21に可燃性ガスが接触することを抑制する。触媒23は、特に限定されることはないが、可燃性ガスとの接触面積を大きくして可燃性ガスの燃焼を促進するように多孔質構造を有していることが好ましい。第1絶縁酸化物膜22は、たとえば、アルミナなどの絶縁酸化物の微粉体をペースト状にしたものを第1抵抗体21上に塗布することにより形成することができる。触媒23は、可燃性ガスの燃焼を促進する。触媒23は、特に限定されることはなく、絶縁酸化物の微粉体を含むペーストに、白金などの触媒金属の微粉体を混ぜることで、第1絶縁酸化物膜22上に形成される。
【0023】
第1検知素子2は、第1検知素子2を加熱するために電圧を印加することができ、可燃性ガスの燃焼熱を受けて変化する第1検知素子2の抵抗値(または抵抗値に対応する物理量)を計測することができればよく、その回路配置は特に限定されない。本実施形態では、第1検知素子2は、
図1に示されるように、第1検知素子回路C1に組み込まれる。第1検知素子回路C1は、第1検知素子2に電圧を印加することで第1検知素子2を加熱するとともに、可燃性ガスの燃焼熱を受けて変化する第1検知素子2の抵抗値に対応する電位差を計測する。第1検知素子回路C1は、第1検知素子2と、第1検知素子2と電気的に直列に接続された固定抵抗体R1と、第1検知素子2および固定抵抗体R1に電圧を印加する第1電圧供給部VS1と、第1検知素子2の両端子間の電位差を計測する電位差計Vとを備えている。第1検知素子回路C1は、通信可能に接続された制御部4から制御信号を受け取り、第1電圧供給部VS1により第1検知素子2に電圧を印加して第1検知素子2を加熱し、電位差計Vにより第1検知素子2の両端子間の電位差を計測する。電位差計Vにより計測される電位差は、第1検知素子2の抵抗値に比例するため、第1検知素子2の抵抗値に対応する値として取り扱うことができる。第1検知素子回路C1は、電位差計Vにより計測される電位差を第1検知素子2の出力として制御部4に送信する。
【0024】
第1検知素子2は、
図1に示されるように、ガスセンサ1に少なくとも2つ備えられていてもよい。少なくとも2つの第1検知素子2は、第1検知素子回路C1内において、スイッチSWによって互いに切り替え可能に組み込まれる。ガスセンサ1が、少なくとも2つの第1検知素子2を備えることで、少なくとも2つの第1検知素子2のうちの1つの第1検知素子2が劣化した場合に、少なくとも2つの第1検知素子2のうちの、劣化していない他の第1検知素子2と切り替えることができる。それにより、ガスセンサ1を長寿命化することができる。ただし、第1検知素子2は、ガスセンサ1に必ずしも2つ以上備えられていなくてもよく、少なくとも1つが備えられていればよい。
【0025】
第2検知素子3は、可燃性ガスを含む測定対象ガスとの熱収支により抵抗値が変化することに基づいて可燃性ガスを検知する検知素子として機能する。第2検知素子3は、所定の温度以上で加熱されることで、検知素子として機能する。第2検知素子3は、所定の温度以上で加熱された際に、可燃性ガスを含む測定対象ガスとの間で熱収支が生じ(たとえば測定対象ガスにより熱が収奪され)、それにより抵抗値が変化する(たとえば低下する)。測定対象ガス中の可燃性ガスの有無によって、また、含まれる可燃性ガスのガス濃度に応じて、第2検知素子3の収支される熱量が変化し、第2検知素子3の抵抗値が変化する。第2検知素子3は、抵抗値の変化量に基づいて、可燃性ガスを検知し、また、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度を検知する。本実施形態では、第2検知素子3は、
図8および
図9に示されるように、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度の増加に対して抵抗値が略線形に低下するように構成されている(
図8および
図9では、抵抗値に対応する値として電位差が示されている)。第2検知素子3のこのような感度特性を用いることで、測定される第2検知素子3の抵抗値(電位差)から可燃性ガスのガス濃度を求めることができる。ただし、可燃性ガスのガス濃度に対する抵抗値の関係が予め既知でありさえすれば、抵抗値の変化から可燃性ガスのガス濃度を検知できるので、第2検知素子3は、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度の増加に対して抵抗値が非線形に変化するように構成されていてもよい。第2検知素子3が検知素子として機能するための所定の温度は、可燃性ガスを含む測定対象ガスとの間で熱収支があり、可燃性ガスの存在により抵抗値が変化し得る範囲で適宜設定することができ、たとえば200℃~350℃、好ましくは250℃~350℃、さらに好ましくは300℃~350℃、最も好ましくは300℃に設定される。
【0026】
第2検知素子3はさらに、所定の温度範囲に維持されることで、第1検知素子2の温度補償をするための補償素子としても機能する。第2検知素子3は、所定の温度範囲の状態では、可燃性ガスの有無によって抵抗値が変化するような、測定対象ガスとの間の熱収支がほとんど行なわれないので、測定対象ガス中に可燃性ガスが存在しても抵抗値が変化することはないか、ほとんどない。このときの所定の温度範囲は、可燃性ガスの有無によって抵抗値が変化しないか、ほとんどしない範囲で適宜設定することができ、たとえば30℃~100℃、好ましくは30℃~75℃、さらに好ましくは30℃~50℃、最も好ましくは50℃に設定される。測定対象ガス中の可燃性ガス(水素)のガス濃度に対する第2検知素子3の出力の変化を示す
図12(
図12中では、抵抗値に対応する電位差の変化を示している)を参照すると、第2検知素子3が300℃で維持されて検知素子として機能する場合は、可燃性ガスのガス濃度の増加に伴なって出力が低下するが、第2検知素子3が50℃で維持されて補償素子として機能する場合は、可燃性ガスのガス濃度が増加しても出力がほぼ一定であることが分かる。一方、第2検知素子3は、測定対象ガスの温度に応じて温度が変化することに伴なって抵抗値が変化する(
図14参照、
図14は、測定対象ガスが20℃のときを基準として、抵抗値に対応する電位差の変化を示している)ので、この抵抗値の変化に基づいて、測定対象ガスの温度を検知することができる。第2検知素子3は、検知した測定対象ガスの温度に基づいて、検知素子として機能する第1検知素子2の温度補償をすることができる。
【0027】
第2検知素子3は、所定の温度以上で加熱された状態で検知素子として機能し、所定の温度範囲で補償素子として機能することができればよく、その構造は特に限定されることはない。第2検知素子3としては、たとえば、公知の気体熱伝導式ガス検知素子を用いることができる。本実施形態では、第2検知素子3は、
図2(b)に示されるように、MEMS型として形成されている。第2検知素子3は、MEMS型として形成されることにより、コイル型として形成される場合と比べて、小型化が可能で、低消費電力での駆動が可能である。ただし、第2検知素子3は、コイル型や、MEMS構造を採用しない基板型として形成されてもよい。
【0028】
第2検知素子3は、本実施形態では、
図2(b)に示されるように、シリコン基板などの基板S2に形成された空洞S21上に、空洞S21を介して基板本体と間隔を空けて形成されたシリコン酸化膜などの絶縁支持膜S22上に設けられている。第2検知素子3は、絶縁支持膜S22上に設けられた第2抵抗体31と、第2抵抗体31を覆うように設けられた第2絶縁酸化物膜32とを備えている。第2検知素子3は、第2抵抗体31に接続されたリード線L2を介して、第2検知素子3に電圧を印加するとともに第2検知素子3の抵抗値(または抵抗値に対応する物理量)を計測する回路(たとえば、後述する第2検知素子回路C2)に組み込まれる。
【0029】
第2抵抗体31は、電圧が印加されることで加熱されるとともに、可燃性ガスを含む測定対象ガスと第2絶縁酸化物膜32を介して熱収支して(たとえば測定対象ガスから熱が収奪されて)抵抗値が変化(たとえば低下)する。第2抵抗体31は、特に限定されることはなく、スパッタリングなどの成膜技術を用いて白金などにより形成される。第2絶縁酸化物膜32は、第2抵抗体31に可燃性ガスが接触することを抑制する。第2絶縁酸化物膜32は、第2抵抗体31への可燃性ガスの接触を抑制することができればよく、特に限定されることはないが、可燃性ガスの通過を抑制できる程度に緻密な構造を有していることが好ましい。第2絶縁酸化物膜32は、たとえば、スパッタリングなどの成膜手法を用いて成膜することができるシリコン酸化膜により形成することができる。
【0030】
第2検知素子3は、第2検知素子3を加熱するために電圧を印加することができ、測定対象ガスとの間の熱収支により変化する第2検知素子3の抵抗値(または抵抗値に対応する物理量)を計測することができればよく、その回路配置は特に限定されない。本実施形態では、第2検知素子3は、
図1に示されるように、第2検知素子回路C2に組み込まれる。第2検知素子回路C2は、第2検知素子3に電圧を印加することで第2検知素子3を加熱するとともに、測定対象ガスとの間の熱収支により変化する第2検知素子3の抵抗値に対応する電位差を計測する。第2検知素子回路C2は、第2検知素子3と、第2検知素子3と電気的に直列に接続された固定抵抗体R2と、第2検知素子3および固定抵抗体R2に電圧を印加する第2電圧供給部VS2と、第2検知素子3の両端子間の電位差を計測する電位差計Vとを備えている。第2検知素子回路C2は、通信可能に接続された制御部4から制御信号を受け取り、第2電圧供給部VS2により第2検知素子3に電圧を印加して第2検知素子3を加熱し、電位差計Vにより第2検知素子3の両端子間の電位差を計測する。電位差計Vにより計測される電位差は、第2検知素子3の抵抗値に比例するため、第2検知素子3の抵抗値に対応する値として取り扱うことができる。第2検知素子回路C2は、電位差計Vにより計測される電位差を第2検知素子3の出力として制御部4に送信する。
【0031】
制御部4は、電圧を印加することで第1検知素子2および/または第2検知素子3を加熱し、可燃性ガスを含む測定対象ガスとの間の相互作用によって得られる第1検知素子2および/または第2検知素子3の出力に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される。その目的のために、制御部4は、本実施形態では、
図1に示されるように、第1検知素子2および/または第2検知素子3に印加する電圧を調整する電圧調整部41と、第1検知素子2および/または第2検知素子3の出力に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出するガス濃度算出部42とを備えている。制御部4は、電圧調整部41により第1検知素子2および第2検知素子3に印加する電圧を調整することで、第1検知素子2が検知素子として機能する第1検知モードと、第2検知素子3が検知素子として機能する第2検知モードとのいずれか一方または両方を実施可能に構成されている。制御部4は、ガス濃度算出部42によって、可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2および/または第2検知素子3の出力の関係を示す感度特性(検量線)を用いて、第1検知モードおよび第2検知モードのそれぞれにおいて得られた第1検知素子2および/または第2検知素子3の出力から可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成されている。使用する感度特性は、可燃性ガスの種類に応じて、予め取得され、ガスセンサ1が備え得る記憶部(図示せず)に記憶され得る。制御部4は、特に限定されることはなく、たとえば公知のCPUにより形成される。
【0032】
第1検知モードでは、制御部4は、第1検知素子2が検知素子として機能するように第1検知素子2を加熱するために第1検知素子2に電圧を印加して、少なくとも第1検知素子2の出力に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される。また、第2検知モードでは、制御部4は、第2検知素子3が検知素子として機能するように第2検知素子3を加熱するために第2検知素子3に電圧を印加して、少なくとも第2検知素子3の出力に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される。第1検知モードは、第1検知素子2が接触燃焼式検知素子として機能するので、相対的に低濃度(たとえば、100%LEL以下)の可燃性ガスが測定対象ガス中に存在する場合に好適に実施される。第2検知モードは、第2検知素子3が気体熱伝導式検知素子として機能するので、相対的に高濃度(たとえば、100%LEL超過)の可燃性ガスが測定対象ガス中に存在する場合に好適に実施される。
【0033】
ガスセンサ1は、第1検知モードおよび第2検知モードの両方を実施可能に構成されることで、広い濃度範囲の可燃性ガスを精度よく検知することができる。また、ガスセンサ1は、第1検知モードおよび第2検知モードのいずれにおいても、以下で詳しく述べるように、第1検知素子2および第2検知素子3の両方が使用されるとともに、第1検知素子2および第2検知素子3以外に使用されない素子が存在せず、使用されない素子のためのスペースを確保する必要がないので、ガスセンサ1を小型化することができる。
【0034】
制御部4は、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度に応じて、第1検知素子2および第2検知素子3に印加する電圧を電圧調整部41により調整することで、第1検知モードと第2検知モードとを切り替えるように構成されていてもよい。たとえば、制御部4は、第1検知モードにおいて算出されるガス濃度が所定の閾値を超える場合に、第1検知モードを第2検知モードに切り替えるように構成されていてもよい。ガスセンサ1は、第1検知モードを実施中にガス濃度が所定の閾値を超えた場合に第2検知モードに切り替わることで、相対的に高濃度の可燃性ガスを精度よく検知することができる。また、制御部4は、第2検知モードにおいて算出されるガス濃度が所定の閾値以下の場合に、第2検知モードを第1検知モードに切り替えるように構成されていてもよい。ガスセンサ1は、第2検知モードを実施中にガス濃度が所定の閾値以下となった場合に第1検知モードに切り替わることで、相対的に低濃度の可燃性ガスを精度よく検知することができる。ただし、第1検知モードと第2検知モードとは、ユーザーの指示によって切り替えられてもよい。
【0035】
ここで、第1検知モードと第2検知モードとを切り替える基準となる所定の閾値は、特に限定されることはなく、第1検知モードによる検知に適したガス濃度範囲と第2の検知モードによる検知に適したガス濃度範囲との間の境界などとして適宜設定することができる。たとえば、所定の閾値を、可燃性ガスの爆発下限界濃度(100%LEL)に設定することで、可燃性ガスが爆発する可能性の低い濃度範囲では第1検知モードで精度よく可燃性ガスを検知し、可燃性ガスが爆発する可能性の高い濃度範囲では第2検知モードで精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【0036】
所定の閾値は、上述した検知精度や安全性の観点以外にも、他の要因に基づいて設定することもできる。たとえば、可燃性ガスが水素である場合、第1検知モードで第1検知素子2が検知素子として機能すると、触媒反応により水素が燃焼する過程で水が発生する。このとき、本実施形態のように第1検知素子2および第2検知素子3がMEMS型として形成されている場合には、発生した水が第1検知素子2(場合によっては、第2検知素子3)に付着することによって、抵抗値が大きく変動する現象(ベースドリフト)が生じる可能性がある。このような現象は、水素が約50%LELを超えると生じやすくなる。したがって、所定の閾値を、ベースドリフトが生じ得る下限の水素のガス濃度(約50%LEL)に設定することで、ベースドリフトが生じ得るガス濃度範囲では、ベースドリフトの発生を抑制できる第2検知モードが実施されるので、安定してガス濃度を検知することができる。
【0037】
つぎに、
図3~
図6を参照して、第1検知モードおよび第2検知モードにおける検知動作を説明する。
図3~
図6は、電源をONにしてからの、第1検知素子2および第2検知素子3に印加する電圧の時間変化を示している。たとえば、
図3および
図4は、電源をONにしてから第1検知モードが実施され、可燃性ガスのガス濃度が所定の閾値を超えた時点で第2検知モードに切り替わり、可燃性ガスのガス濃度が所定の閾値以下となった時点で第1検知モードに切り替わった状態を示している。また、
図5および
図6は、第1検知モード内で、第2検知素子3が補償素子として機能する検知モードと、第2検知素子3が検知素子として機能する検知モードとで切り替わった状態を示している。
【0038】
<第1検知モード>
第1検知モードでは、制御部4は、
図3~
図6に示されるように、第1検知素子2が検知素子として機能するように第1検知素子2に第1電圧を印加するように構成されている。第1電圧は、第1検知素子2に印加されることで、第1検知素子2が検知素子として機能し得る温度に、すなわち、第1検知素子2の周辺の可燃性ガスを燃焼させることができる温度に、第1検知素子2を加熱可能な電圧である。第1電圧は、たとえば、第1検知素子2を少なくとも400℃~550℃、好ましくは450℃~550℃、さらに好ましくは500℃~550℃、最も好ましくは500℃に加熱し得る電圧に設定することができる。第1検知素子2は、第1電圧が印加されることで、検知素子として機能し、接触燃焼式で可燃性ガスを検知することができる。
【0039】
第1検知モードにおいて、第2検知素子3は、検知素子として機能してもよいし、補償素子として機能してもよい。たとえば、制御部4は、
図3に示されるように、第1検知モードにおいて、第2検知素子3が検知素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧を印加するように構成されていてもよい。第3電圧は、第2検知素子3に印加されることで、第2検知素子3が検知素子として機能し得る温度まで、すなわち、可燃性ガスを含むことによる測定対象ガスの熱伝導率の変化に応じた、第2検知素子3が収支される熱量の変化に伴う抵抗値の変化が検知可能な温度まで、第2検知素子3を加熱可能な電圧である。第3電圧は、たとえば、第2検知素子3を少なくとも200℃~350℃、好ましくは250℃~350℃、さらに好ましくは300℃~350℃、最も好ましくは300℃に加熱し得る電圧に設定することができる。第2検知素子3は、第3電圧が印加されることで、検知素子として機能し、気体熱伝導式で可燃性ガスを検知することができる。
【0040】
このとき、制御部4は、第1検知素子2および第2検知素子3の出力の合成結果に基づいてガス濃度を算出するように構成される。
図10を参照すると、第1検知素子2および第2検知素子3がいずれも検知素子として機能する場合において、可燃性ガスのガス濃度に増加に対して、第1検知素子2および第2検知素子3の合成出力(第1検知素子2および第2検知素子3のそれぞれの出力の絶対値の和)が略線形に増加していることが分かる。制御部4は、第1検知素子2および第2検知素子3のこのような感度特性を用いることで、測定される第1検知素子2および第2検知素子3の出力から可燃性ガスのガス濃度を算出することができる。第1検知素子2および第2検知素子3の出力の合成結果に基づいてガス濃度を算出することで、より高い感度および精度で可燃性ガスを検知することができる。ただし、制御部4は、第1検知素子2の出力のみに基づいて、可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成されていてもよい。
【0041】
ガスセンサ1は、第1検知モードにおいて、第1検知素子2および第2検知素子3の両方が検知素子として機能することで、さらなる利点を得ることができる。第1検知素子2は、検知素子として機能する際に、触媒反応により可燃性ガスを燃焼させるが、測定対象ガス中にシロキサン化合物などの被毒性ガスが存在すると、触媒反応中に被毒して劣化する場合がある。第1検知素子2が劣化すると、可燃性ガスの検知感度が低下し、可燃性ガスを精度よく検知することができなくなる。それに対して、第2検知素子3は、検知素子として機能する際に、被毒性ガスによって被毒して劣化することがないか、ほとんどない。したがって、第2検知素子3の出力を基準とすることで、第1検知素子2の劣化度合い(劣化率)を評価することができるので、評価された劣化率に基づいて第1検知素子2の劣化を補償したり(劣化補償)、第1検知素子2の交換時期を判断したりすることができる。その詳細については後述する。
【0042】
制御部4は、
図4に示されるように、第1検知モードにおいて、第2検知素子3が補償素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧よりも低い第4電圧を印加するように構成されていてもよい。第4電圧は、第3電圧よりも低い電圧であり、第2検知素子3を、第2検知素子3が補償素子として機能し得る温度に維持可能な電圧である。第4電圧は、第2検知素子3に印加されることで、可燃性ガスを含むことにより測定対象ガスの熱伝導率が変化しても、測定対象ガスとの間で収支される熱量がほぼ変化することなく、抵抗値がほぼ変化しない温度に第2検知素子3を維持可能な電圧である。第4電圧は、たとえば、30℃~100℃、好ましくは30℃~75℃、さらに好ましくは30℃~50℃、最も好ましくは50℃に第2検知素子3を維持可能な電圧に設定される。第2検知素子3は、第4電圧が印加されて補償素子として機能することで、可燃性ガスのガス濃度に応じて抵抗値がほぼ変化することがない(
図12参照)一方で、測定対象ガスの温度に応じて、温度が変化して抵抗値が変化する(
図14参照)。第2検知素子3は、この抵抗値の変化に基づいて測定対象ガスの温度を検知し、検知した測定対象ガスの温度に基づいて、検知素子として機能する第1検知素子2の出力を補正することができる。その目的のために、制御部4は、第2検知素子3が第4電圧を印加された状態で得られた第2検知素子3の出力を用いて第1検知素子2の出力を補正するように構成される。そして、制御部4は、補正された第1検知素子2の出力に基づいて、可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される。第1検知素子2の温度補償が行なわれることで、実際に測定される測定対象ガスが、可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の感度特性(検量線)が得られたときの測定対象ガスの温度とは異なる温度であっても、精度よく可燃性ガスを検知することができる。検知期間内において測定対象ガスの温度が大きく変動しない場合には、
図5および
図6に示されるように、第2検知素子3に印加する電圧を第4電圧から第3電圧に変更した後に、変更前の第2検知素子3の出力に基づいて変更後の第1検知素子2の出力を補正してもよい。
【0043】
制御部4は、
図5に示されるように、第1検知モードにおいて、第2検知素子3が周期的に交互に検知素子および補償素子として機能するように、第2検知素子3に第3電圧および第4電圧を周期的に交互に印加するように構成されていてもよい。ガスセンサ1では、第2検知素子3が補償素子として機能する状態と、第2検知素子3が検知素子として機能する状態とが交互に繰り返されることで、検知期間内において測定対象ガスの温度変動や第1検知素子2の劣化率変動があった場合でも、第1検知素子2の出力に対して、それぞれの変動に対応して温度補償および劣化補償を実施することができる。したがって、ガスセンサ1は、より精度よく可燃性ガスを検知することができる。特に、本実施形態のように、第2検知素子3がMEMS型として形成される場合には、印加する電圧が変化した時に迅速に温度変化するので、たとえば100msec周期で印加電圧を変化させても、第2検知素子3が印加電圧の変化に追従して温度変化する。したがって、たとえば1秒単位で測定対象ガスの温度変動や第1検知素子2の劣化率変動があったとしても、その温度変動および劣化率変動を検知することができ、より精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【0044】
制御部4は、
図6に示されるように、第1検知モードにおいて、第2検知素子3が補償素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧よりも低い第4電圧を印加している状態で、第1検知素子2により可燃性ガスが検知された場合に、第2検知素子3が検知素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧を印加するように構成されていてもよい。これにより、ガスセンサ1は、可燃性ガスが存在しないか、ほとんど存在しない状況下では、第2検知素子3が補償素子として機能して、第1検知素子2の温度補償をすることで、精度よく可燃性ガスを監視することができる。また、ガスセンサ1は、可燃性ガスが検知されると、第2検知素子3が検知素子に切り替わって、第1検知素子2の劣化補償が可能になることで、より精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【0045】
<第2検知モード>
第2検知モードでは、制御部4は、
図3および
図4に示されるように、第2検知素子3が検知素子として機能するように第2検知素子3に第3電圧を印加するとともに、第1検知素子2が補償素子として機能するように第1検知素子2に第1電圧よりも低い第2電圧を印加するように構成される。第2電圧は、第1電圧よりも低い電圧で、第1検知素子2に印加されることで、第1検知素子2が補償素子として機能し得る温度に、すなわち、第1検知素子2の周辺の可燃性ガスを燃焼させることがないか、ほとんどない温度に、第1検知素子2を維持可能な電圧である。第2電圧は、たとえば、第1検知素子2を少なくとも80℃~200℃、好ましくは80℃~150℃、さらに好ましくは80℃~100℃、最も好ましくは100℃に加熱し得る電圧に設定することができる。第2検知モードでは、第1検知素子2が補償素子として機能して、測定対象ガスの温度を検知する。制御部4は、測定対象ガスの温度に対応する第1検知素子2の出力に基づいて、第2検知素子3の出力を補正するように構成される。そして、制御部4は、補正された第2検知素子3の出力に基づいて、測定対象ガス中の可燃性ガスのガス濃度を算出するように構成される。第2検知素子3の温度補償が行なわれることで、実際に測定される測定対象ガスが、可燃性ガスのガス濃度に対する第2検知素子3の感度特性が得られたときの測定対象ガスの温度とは異なる温度であっても、精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【0046】
以上において、第1検知モードおよび第2検知モードにおける検知動作を説明した。しかし、以上の説明は、あくまで一例であり、第1検知モードおよび第2検知モードにおける検知動作は、以上の例に限定されることはない。また、ガスセンサ1は、第1検知モードおよび第2検知モード以外の検知モードを実施することもできる。
【0047】
つぎに、第1検知素子2の劣化補償について詳しく述べる。上述したように、第1検知素子2は、検知素子として機能する際に、測定対象ガス中にシロキサン化合物などの被毒性ガスが存在すると、被毒して劣化する場合がある。それに対して、第2検知素子3は、検知素子として機能する際に、被毒性ガスによって被毒して劣化することがないか、ほとんどない。
図15(a)および
図15(b)はそれぞれ、10ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)に暴露されたときの第1検知素子2および第2検知素子3の感度(メタン指示値)の経時変化を示している。第1検知素子2は、
図15(a)に示されるように、HMDSに曝露されることによって感度が低下しており、HMDSにより被毒して劣化している。それに対して、第2検知素子3は、
図15(b)に示されるように、HMDSに曝露されても、感度が変化しておらず、HMDSにより被毒しておらず、劣化していない。したがって、第1検知モードにおいて第1検知素子2および第2検知素子3の両方を検知素子として機能させる状態において、第2検知素子3の出力を基準とすることで、第1検知素子2の劣化度合い(劣化率)を評価することができるので、評価された劣化率に基づいて第1検知素子2の劣化を補償する(劣化補償)ことができる。
【0048】
第1検知素子2の劣化率を評価し、第1検知素子2の劣化を補償するという目的のために、本実施形態では、ガスセンサ1(の制御部4)は、
図1に示されるように、第1検知素子2の劣化率を算出する劣化率算出部43と、第1検知素子2の出力および劣化率に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出するガス濃度算出部42とを備えている。
【0049】
劣化率算出部43は、第1検知素子2の出力と第2検知素子3の出力との比率を算出して、算出された比率から第1検知素子2の劣化率を算出する。第1検知素子2および第2検知素子3はいずれも、本実施形態では、上述したように、可燃性ガスのガス濃度の増加に伴なって、第1検知素子2および第2検知素子3のそれぞれの出力が略線形に変化するように構成されている(
図7および
図8参照)。したがって、第1検知素子2が劣化しておらず、第1検知素子2の検知感度が低下していなければ、第1検知素子2の出力(a1)と第2検知素子3の出力(a2)との比率(A=a1/a2)は、可燃性ガスのガス濃度に関わらず、一定の値である。第1検知素子2が劣化し、第1検知素子2の検知感度が低下すると、第1検知素子2の出力(b1)と第2検知素子3の出力(b2)との比率(B=b1/b2)が変化する。劣化率算出部43は、劣化前の比率(A)と劣化後の比率(B)を用いて、第1検知素子2の劣化率(たとえば、劣化率C=B/A×100(%))を算出することができる。
【0050】
ガス濃度算出部42は、第1検知素子2の出力、および劣化率算出部43により算出された劣化率に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出する。ガスセンサ1では、ガス濃度算出部42が、第1検知素子2の出力および劣化率に基づいて可燃性ガスのガス濃度を算出することにより、第1検知素子2が劣化したとしても、第1検知素子2の劣化が補償されて、精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【0051】
第1検知素子2が劣化している場合における、ガス濃度算出部42による可燃性ガスのガス濃度の算出方法は、第1検知素子2の出力および劣化率に基づいて行われていればよく、特に限定されない。たとえば、ガス濃度算出部42は、第1検知素子2の出力を第1検知素子2の劣化率に基づいて補正し、補正した第1検知素子2の出力から可燃性ガスのガス濃度を算出することができる。第1検知素子2の出力の補正において、たとえば、劣化率の逆数を第1検知素子2の出力に乗算することにより、劣化していなければ得られていたであろう第1検知素子2の出力を算出することができる。ガス濃度算出部42は、予め記憶部に記憶された、可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の感度特性(検量線)を用いて、算出(補正)された第1検知素子2の出力から可燃性ガスのガス濃度を算出することができる。
【0052】
ガス濃度算出部42は、予め記憶部に記憶された、可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の出力と、劣化率との関係(検量線)を用いて、実際の測定対象ガス中で得られた第1検知素子2の出力、および劣化率算出部43により算出された劣化率から、可燃性ガスのガス濃度を算出することもできる。可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の出力と、劣化率との関係は、たとえば、劣化率が既知で、劣化率が異なる複数の第1検知素子2に対して、可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の感度特性(検量線)を測定することによって得ることができる。可燃性ガスのガス濃度に対する第1検知素子2の出力と、劣化率との関係は、種類の異なる可燃性ガス毎に測定され、可燃性ガスの種類に応じて記憶部に記憶される。
【0053】
ガスセンサ1は、劣化率算出部43により算出される第1検知素子2の劣化率に応じて、ガスセンサ1に備えられる少なくとも2つの第1検知素子2を切り替えるように構成されていてもよい。その目的のために、本実施形態では、ガスセンサ1(制御部4)は、
図1に示されるように、第1検知素子2を入れ替える検知素子切替部44をさらに備えている。検知素子切替部44は、少なくとも2つの第1検知素子2のうちの1つの第1検知素子2の劣化率が所定の閾値を超えた場合、少なくとも2つの第1検知素子2のうちの、劣化率が所定の閾値以下である他の第1検知素子2を使用するように、1つの第1検知素子2から他の第1検知素子2に切り替える。このときの所定の閾値は、上述した劣化補償ができなくなる範囲で適宜設定することができ、たとえば、第1検知素子2が劣化して出力が得られなくなる範囲や、第1検知素子2が劣化して、可燃性ガスのガス濃度と第1検知素子2の出力との間の関係が線形でなくなる範囲などで設定される。検知素子切替部44は、第1検知素子2の劣化率が所定の閾値を超えた場合に、第1検知素子回路C1内のスイッチSWを切り替えることで、劣化率が所定の閾値以下である他の第1検知素子2に切り替える。これによって、ガスセンサ1を長寿命化することができる。
【0054】
上述したように、ガスセンサ1において、可燃性ガスのガス濃度を検知するために、第1検知素子2の出力と第2検知素子3の出力との比率を算出して、算出された比率から第1検知素子2の劣化率を算出する工程と、第1検知素子2の出力および劣化率に基づいてガス濃度を算出する工程とが実行される。これらの工程は、本実施形態では、ガスセンサ1の制御部4によって実行されるが、ガスセンサ1とは別の制御装置によって実行されてもよい。ガスセンサ1においてこれらの工程を実行することによって、第1検知素子2が劣化しても、精度よく可燃性ガスを検知することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ガスセンサ
2 第1検知素子
21 第1抵抗体
22 第1絶縁酸化物膜
23 触媒
3 第2検知素子
31 第2抵抗体
32 第2絶縁酸化物膜
4 制御部
41 電圧調整部
42 ガス濃度算出部
43 劣化率算出部
44 検知素子切替部
C1 第1検知素子回路
C2 第2検知素子回路
L1、L2 リード線
R1、R2 固定抵抗体
S1、S2 基板
S11、S21 空洞
S12、S22 絶縁支持膜
SW スイッチ
V 電位差計
VS1 第1電圧供給部
VS2 第2電圧供給部