(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143463
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/768 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H01L21/90 P
H01L21/90 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050866
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
【テーマコード(参考)】
5F033
【Fターム(参考)】
5F033HH03
5F033HH07
5F033HH11
5F033HH15
5F033HH19
5F033HH20
5F033HH33
5F033RR03
5F033RR04
5F033RR06
5F033SS08
5F033SS10
5F033SS11
5F033SS21
(57)【要約】
【課題】膜密度を均一かつ向上させ、膜欠陥の発生を抑制又は低減することにより、保護膜としての機能を向上させた自己組織化単分子膜の選択的成膜を可能にする基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、金属膜1が形成された金属膜形成領域と、金属膜1が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理方法であって、金属膜1に於ける自然酸化されていない表面を大気圧下で酸化して、人工酸化膜4を形成する人工酸化膜形成工程と、自己組織化単分子膜6を形成するための材料を含む処理液を基板の表面に少なくとも接触させることにより、人工酸化膜4上に自己組織化単分子膜6を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理方法であって、
前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面を大気圧下で酸化して、人工酸化膜を形成する人工酸化膜形成工程と、
自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を前記基板の表面に少なくとも接触させることにより、前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、
を含む基板処理方法。
【請求項2】
前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面に紫外線を照射する工程である請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面に酸化性処理液を接触させる工程である請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面を酸化して前記人工酸化膜を形成することにより、前記金属膜形成領域の等電点を、前記人工酸化膜が形成される前よりも面内で均一化し、かつ上昇させる工程である請求項1~3の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記人工酸化膜形成工程の前に、前記金属膜の表面に形成された自然酸化膜を除去する自然酸化膜除去工程を含む請求項1~4の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記自然酸化膜除去工程が、前記自然酸化膜に酸性溶液を接触させることにより前記自然酸化膜を除去する工程である請求項5に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記自己組織化単分子膜形成工程の後、前記金属膜形成領域に形成した前記自己組織化単分子膜を保護膜として、前記金属膜非形成領域に選択的に膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程の後、前記金属膜形成領域に形成された前記自己組織化単分子膜を大気圧下で除去して前記人工酸化膜を露出させる除去工程と、
をさらに含む請求項1~6の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記金属膜が銅膜であり、
前記人工酸化膜形成工程が、表面が自然酸化されていない前記銅膜の表面を酸化して酸化銅(II)膜を形成する工程である請求項1~7の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記処理液は、前記金属膜の表面に吸着するホスホン酸基を有するホスホン酸化合物と、溶媒とを含む請求項1~8の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理装置であって、
前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面に紫外線を大気圧下で照射することにより、前記表面を酸化して人工酸化膜を形成する紫外線照射部と、
自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を貯留する貯留部と、
前記処理液を前記基板の表面に供給して、前記金属膜形成領域の前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する供給部と、
を備える基板処理装置。
【請求項11】
金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理装置であって、
前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面に酸化性処理液を大気圧下で供給することにより、前記表面を酸化して人工酸化膜を形成する酸化性処理液供給部と、
自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を貯留する貯留部と、
前記処理液を前記基板の表面に供給して、前記金属膜形成領域の前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する供給部と、
を備える基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に膜密度が高く、かつ膜の欠陥を抑制又は低減して自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成することが可能な基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造に於いて、基板の特定の表面領域に選択的に膜を形成する技術として、フォトリソグラフィ技術が広く用いられている。例えば、下層配線形成後に絶縁膜を成膜し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、トレンチ及びビアホールを有するデュアルダマシン構造を形成し、トレンチ及びビアホールにCu等の導電膜を埋め込んで配線を形成する。
【0003】
しかし、近時、半導体デバイスの微細化が益々進んでおり、フォトリソグラフィ技術では位置合わせ精度が十分でない場合も生じている。このため、フォトリソグラフィ技術に替えて、基板表面の特定領域に高精度で選択的に膜を形成する手法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、膜形成を望まない基板領域の表面に自己組織化単分子膜を形成し、SAMが形成されていない基板領域に選択的に膜形成をする成膜方法が開示されている。この成膜方法によれば、SAMを形成するための処理液として、最適な誘電率を有する溶媒、より具体的にはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)からなる混合溶媒を用いることにより、SAMの被覆率の低減を抑制すると共に、処理溶液の金属膜に対する選択性の低下を防止することが可能とされている。
【0005】
ここで、例えば基板が銅からなる場合、基板表面は露出したCuの他、酸化銅(I)膜(CuO膜)や酸化銅(II)膜(CuO膜)からなる自然酸化膜が混在して存在した状態となっている。そのため、SAMを形成する分子は、基板表面に均一かつ高密度に吸着することが困難になっている。その結果、SAMを形成する分子が吸着できなかった部分では膜欠陥が生じ、膜密度が小さく、かつ不均一なSAMが形成されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、膜密度を均一かつ向上させ、膜欠陥の発生を抑制又は低減することにより、保護膜としての機能を向上させた自己組織化単分子膜の選択的成膜を可能にする基板処理方法及び基板処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る基板処理方法は、前記の課題を解決するために、金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理方法であって、前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面を大気圧下で酸化して、人工酸化膜を形成する人工酸化膜形成工程と、自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を前記基板の表面に少なくとも接触させることにより、前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
表面が自然酸化されている金属膜では、例えば、金属膜が銅膜である場合のように、酸化銅(I)膜や酸化銅(II)膜からなる自然酸化膜が混在して形成されている。また、自然酸化膜も均一に形成されないため金属膜が露出した部分も存在する。その結果、自然酸化されている金属膜の表面状態は均一ではない。しかし前記の構成であると、表面が自然酸化されていない金属膜の表面を酸化して、人工酸化膜を形成することにより、そのような自然酸化膜が形成されている金属膜と比較して表面状態を均一にすることができる。これにより、自己組織化単分子膜を形成する分子を、自然酸化膜が形成された金属膜上に吸着させる場合と比べて、均一かつ高密度で人工酸化膜上に吸着させることができる。その結果、前記の構成であると、膜密度が高く、かつ膜の欠陥を抑制又は低減して自己組織化単分子膜を成膜することができる。
【0010】
前記の構成に於いて、前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面に紫外線を照射する工程であってもよい。
【0011】
また前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面に酸化性処理液を接触させる工程であってもよい。
【0012】
前記の構成に於いて、前記人工酸化膜形成工程は、表面が自然酸化されていない前記金属膜の表面を酸化して前記人工酸化膜を形成することにより、前記金属膜形成領域の等電点を、前記人工酸化膜が形成される前よりも面内で均一化し、かつ上昇させる工程であることが好ましい。金属膜形成領域の等電点を、人工酸化膜の形成により均一化し、かつ上昇させることにより、自己組織化単分子膜を形成するための材料として、例えばアニオン性官能基を有する化合物を用いた場合には、人工酸化膜表面とアニオン性官能基との間での酸-塩基反応により、当該化合物を均一かつ高密度で人工酸化膜上に吸着させることができる。これにより、膜密度が均一で一層高く、かつ膜の欠陥が抑制又は低減された自己組織化単分子膜を成膜することができる。
【0013】
また前記の構成に於いては、前記人工酸化膜形成工程の前に、前記金属膜の表面に形成された自然酸化膜を除去する自然酸化膜除去工程を含むことが好ましい。金属膜は、例えば、常温下で空気と接すると、表面の金属と空気中の酸素とが反応して、金属膜の表面に自然酸化膜が形成される。しかし、前記構成のように、人工酸化膜形成工程の前にこの自然酸化膜を除去しておくことで、金属膜が表面に露出した基板を準備することができる。
【0014】
さらに前記の構成に於いては、前記自然酸化膜除去工程が、前記自然酸化膜に酸性溶液を接触させることにより前記自然酸化膜を除去する工程であってもよい。
【0015】
また前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜形成工程の後、前記金属膜形成領域に形成した前記自己組織化単分子膜を保護膜として、前記金属膜非形成領域に選択的に膜を形成する膜形成工程と、前記膜形成工程の後、前記金属膜形成領域に形成された前記自己組織化単分子膜を大気圧下で除去して前記人工酸化膜を露出させる除去工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0016】
前記の構成によれば、膜形成工程において、金属膜形成領域に形成された自己組織化単分子膜を、人工酸化膜を含む金属膜に対する保護膜とすることで、金属膜非形成領域にのみ選択的に膜を形成し、人工酸化膜上に膜が形成されるのを阻害することができる。さらに除去工程に於いて自己組織化単分子膜を除去することで、人工酸化膜と膜とが表面に露出した積層構造の基板を作製することができる。
【0017】
前記の構成に於いては、前記金属膜が銅膜であり、前記人工酸化膜形成工程が、表面が自然酸化されていない前記銅膜の表面を酸化して酸化銅(II)膜を形成する工程であることが好ましい。
【0018】
金属膜としての銅膜(等電点:7.7)の表面を酸化して、人工酸化膜としての酸化銅(II)膜(等電点:9.5)を形成することにより、銅膜表面に自然酸化膜が形成されている場合と比較して、金属膜形成領域での等電点の均一化と上昇を図ることができる。その結果、膜密度が均一で極めて高く、かつ膜欠陥の発生が抑制又は低減され、保護膜としての機能に優れた自己組織化単分子膜を成膜することができる。
【0019】
前記の構成に於いて、前記処理液としては、前記金属膜の表面に吸着するホスホン酸基を有するホスホン酸化合物と、溶媒とを含むものを用いることができる。
【0020】
本発明の基板処理装置は、前記の課題を解決する為に、金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理装置であって、前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面に紫外線を大気圧下で照射することにより、前記表面を酸化して人工酸化膜を形成する紫外線照射部と、自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を貯留する貯留部と、前記処理液を前記基板の表面に供給して、前記金属膜形成領域の前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する供給部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
前記の構成によれば、紫外線照射部を備えることにより、自然酸化されていない金属膜に大気圧下で紫外線を照射することにより、当該金属膜の表面を酸化して人工酸化膜を形成することができる。そして、貯留部に貯留されている処理液を、供給部が紫外線照射後の基板表面に供給することで、人工酸化膜上に自己組織化単分子膜を形成することができる。すなわち、前記の構成であると、自然酸化膜が形成されている金属膜上に自己組織化単分子膜を形成する場合よりも、膜密度が均一で高く、膜欠陥の発生も抑制又は低減されており、保護膜としての機能に優れた自己組織化単分子膜の成膜を可能にする基板処理装置を提供することができる。
【0022】
また本発明の他の基板処理装置は、前記の課題を解決する為に、金属膜が形成された金属膜形成領域と、前記金属膜が形成されていない金属膜非形成領域とを表面に有する基板を処理する基板処理装置であって、前記金属膜に於ける自然酸化されていない表面に酸化性処理液を大気圧下で供給することにより、前記表面を酸化して人工酸化膜を形成する酸化性処理液供給部と、自己組織化単分子膜を形成するための材料を含む処理液を貯留する貯留部と、前記処理液を前記基板の表面に供給して、前記金属膜形成領域の前記人工酸化膜上に前記自己組織化単分子膜を形成する供給部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
前記の構成によれば、酸化性処理液供給部を備えることにより、自然酸化されていない金属膜に大気圧下で酸化性処理液を供給することにより、当該金属膜の表面を酸化して人工酸化膜を形成することができる。そして、貯留部に貯留されている処理液を、供給部が基板表面に供給することで、人工酸化膜上に自己組織化単分子膜を形成することができる。すなわち、前記の構成であると、自然酸化膜が形成されている金属膜上に自己組織化単分子膜を形成する場合よりも、膜密度が均一で高く、膜欠陥の発生も抑制又は低減されており、保護膜としての機能に優れた自己組織化単分子膜の成膜を可能にする基板処理装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、自然酸化されていない金属膜上に人工酸化膜を形成した上で、自己組織化単分子膜を形成する分子を吸着させるので、当該分子を高密度でかつ均一に吸着させることができる。その結果、膜密度が高くかつ均一で、膜欠陥の発生を抑制又は低減した自己組織化単分子膜を成膜することができる。すなわち、本発明であると、保護膜としての機能に優れた自己組織化単分子膜を選択的に成膜することができる基板処理方法及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る基板処理方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は基板の金属膜表面に形成されている自然酸化膜を除去する様子を表し、同図(b)は自然酸化膜が除去された金属膜表面に人工酸化膜を形成する様子を表し、同図(c)は自己組織化単分子膜の形成材料を基板表面に供給する様子を表し、同図(d)は基板表面の金属膜形成領域に自己組織化単分子膜が形成された様子を表す。
【
図3】本発明の実施形態に係る基板処理方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は基板表面の金属膜非形成領域に膜が形成された様子を表し、同図(b)は基板表面の金属膜形成領域の自己組織化単分子膜が除去された様子を表す。
【
図4】本発明の実施形態に係る基板処理装置に備えられた処理液供給装置の概略を表す説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る基板処理装置に備えられた紫外線照射装置の概略を表す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る基板処理装置に備えられた成膜装置の概略を表す説明図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る酸化性処理液供給装置に備えられた酸化性処理液貯留部の概略を表す説明図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る基板処理装置に備えられた成膜装置の概略を表す説明図である。
【
図10】
図10(a)はCu膜表面のX線光電子スペクトルを表すグラフを表し、
図10(b)はCu膜表面のオージェ電子分光スペクトルを表すグラフを表す。
【
図11】実施例1及び比較例1の各基板に於ける原子数比(Al/(Al+Cu))を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る基板処理方法及び基板処理装置について、以下に説明する。
【0027】
<基板処理方法>
先ず、本実施形態に係る基板処理方法について、
図1~
図3を参照しながら以下に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。
図2(a)~
図2(d)は本発明の実施形態に係る基板処理方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は基板の金属膜表面に形成されている自然酸化膜を除去する様子を表し、同図(b)は自然酸化膜が除去された金属膜表面に人工酸化膜を形成する様子を表し、同図(c)は自己組織化単分子膜の形成材料を基板表面に供給する様子を表し、同図(d)は基板表面の金属膜形成領域に自己組織化単分子膜が形成された様子を表す。また、
図3(a)及び
図3(b)は、本発明の実施形態に係る基板処理方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は基板表面の金属膜非形成領域に膜が形成された様子を表し、同図(b)は基板表面の金属膜形成領域の自己組織化単分子膜が除去された様子を表す。
【0028】
本実施形態の基板処理方法は、基板Wの表面に膜を形成する際に、基板表面の材質に応じて選択的に成膜するための技術を提供するものである。尚、本明細書に於いて「基板」とは、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板をいう。
【0029】
本実施形態の基板処理方法は、
図1に示すように、基板Wの準備工程S101と、自然酸化膜除去工程S102と、紫外線照射工程(人工酸化膜形成工程)S103と、自己組織化単分子膜(以下、「SAM」という。)形成工程S104と、膜形成工程S105と、SAMを除去する除去工程S106とを少なくとも含む。
【0030】
基板Wの準備工程S101で準備される基板Wは、
図1及び
図2(a)に示すように、金属膜1が形成された金属膜形成領域と、絶縁膜2が露出して形成された金属膜非形成領域とを含む。基板Wとしては、より具体的には、例えば、任意の配線幅のトレンチが形成された絶縁膜2と、当該トレンチに埋め込まれた金属膜1とを有するものが挙げられる。尚、基板Wの準備工程は、例えば、基板搬入出機構により基板Wを収容する容器であるチャンバ(詳細については後述する。)の内部に基板Wを搬入することを含み得る。
【0031】
金属膜形成領域及び金属膜非形成領域は、
図2(a)では1つずつ形成されているが、それぞれ複数形成されていてもよい。例えば、隣り合う帯状の金属膜形成領域の間に帯状の金属膜非形成領域が介在されるように配置されてもよく、隣り合う帯状の金属膜非形成領域の間に帯上の金属膜形成領域が介在されるように配置されてもよい。
【0032】
また本実施形態の基板Wは、その表面に金属膜形成領域及び金属膜非形成領域のみが設けられている場合に限定されるものではない。例えば、金属膜1及び絶縁膜2とは異なる材料からなる他の膜が、表面に露出して形成される領域が設けられていてもよい。この場合、当該領域が設けられる位置は特に限定されず、任意に設定することができる。
【0033】
金属膜1としては特に限定されず、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、窒化チタン(TiN)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)等からなるものが挙げられる。
【0034】
金属膜1の表面には、金属膜1を構成する金属と空気中の酸素との反応により、当該金属膜1の表面が酸化されて形成された自然酸化膜3が存在する。例えば、金属膜1が銅膜である場合、金属膜形成領域には、表面に露出した銅膜の他、自然酸化膜としての酸化銅(I)膜(Cu2O膜)及び酸化銅(II)膜(CuO膜)が混在して存在している。その結果、金属膜形成領域では、等電点等の膜質が不均一な表面状態となっている。
【0035】
また絶縁膜2としては特に限定されず、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、ジルコニア(ZrO2)、窒化ケイ素(SiN)等からなるものが挙げられる。
【0036】
自然酸化膜除去工程S102は、
図1及び
図2(a)に示すように、金属膜1上に形成されている自然酸化膜3を除去する工程である。自然酸化膜除去工程S102としては、例えば、酸性溶液を自然酸化膜に接触させる酸洗浄等が挙げられる。自然酸化膜3と酸性溶液との接触方法としては特に限定されず、例えば、酸性溶液を基板W上に直接供給して塗布する方法や噴霧する方法、基板Wを酸性溶液中に浸漬させる方法等が挙げられる。酸性溶液を基板Wの表面に塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、酸性溶液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給された酸性溶液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面が酸性溶液で覆われて当該酸性溶液の液膜が形成され、これにより酸洗浄を行うことができる。尚、酸洗浄の洗浄時間としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0037】
酸性溶液としては、無機酸及び有機酸が挙げられる。無機酸としては特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、フッ酸等が挙げられる。また有機酸としては特に限定されず、例えば、酢酸、クエン酸等が挙げられる。酸性溶液の濃度は特に限定されず、自然酸化膜の種類や膜厚、洗浄時間等に応じて設定することができる。
【0038】
また自然酸化膜除去工程S102に於いては、酸性溶液を用いた酸洗浄の前に、前処理洗浄を行ってもよい。これにより、基板表面に付着した油分等を除去する中性脱脂処理が可能になる。前処理洗浄に用いられる洗浄剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、エタノール等の有機溶媒が挙げられる。前処理洗浄の方法としても特に限定されず、例えば、洗浄剤を基板W上に直接供給して塗布する方法や噴霧する方法、基板Wを洗浄剤中に浸漬させる方法等が挙げられる。洗浄剤を基板Wの表面に塗布する方法としては、酸洗浄の場合と同様、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、洗浄剤を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。尚、前処理洗浄の洗浄時間としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。また、前処理洗浄後、酸性溶液による酸洗浄の前に水洗処理を行ってもよい。
【0039】
紫外線照射工程S103は、
図1及び
図2(b)に示すように、大気圧下で、自然酸化膜3が除去された後の金属膜1の表面に紫外線(波長域:380nm以下)を照射することにより、金属膜1の表面を酸化して人工酸化膜4を形成する工程である。このように自然酸化膜3を人工酸化膜4に置き換えることで、自然酸化膜3が存在するときには不均一であった金属膜形成領域の表面状態、より詳細には等電点等を面内で均一にすることができる。例えば、金属膜1が銅膜(等電点:7.7)である場合、銅膜表面に自然酸化膜3が形成されている状態の金属膜形成領域では、露出した銅膜と、自然酸化膜としてのCuO膜(等電点:9.5)及びCu
2O膜とが混在した表面状態となっている。しかし、自然酸化膜3が除去された銅膜に紫外線を照射して銅膜の表面を酸化することで、人工酸化膜4としてのCuO膜(等電点:9.5)を形成することができる。これにより、銅膜の露出を抑制できる上、Cu
2O膜も減少させることができるので、CuO膜が銅膜の表面に形成された後の金属膜形成領域では、自然酸化膜が銅膜の表面に形成されているときと比較して、表面状態が均一であり、かつ等電点等も、自然酸化膜3が除去され銅膜が露出した状態の金属膜形成領域と比較して上昇させることができる。尚、本明細書に於いて「大気圧下」とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧以上1.3気圧以下の環境のことを指す。
【0040】
また紫外線照射工程S103に於いては、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で紫外線照射を行ってもよい。これにより、照射する紫外線の積算光量を、基板Wの表面Wfの面内で均一化することができる。
【0041】
紫外線の照射条件に関し、照射強度としては、1mW/cm2以上、100mW/cm2以下の範囲が好ましく、2.5mW/cm2以上、30mW/cm2以下の範囲がより好ましく、5mW/cm2以上、15mW/cm2以下の範囲が特に好ましい。紫外線の照射強度を5mW/cm2以上にすることにより、金属膜1の表面を十分に酸化することができる。その一方、紫外線の照射強度を15mW/cm2以下にすることにより、人工酸化膜4の膜厚が厚くなり過ぎるのを防止することができる。また紫外線の照射時間としては、0.016時間以上、1時間以下の範囲が好ましく、0.4時間以上、0.64時間以下の範囲がより好ましく、0.08時間以上、0.32時間以下の範囲が特に好ましい。紫外線の照射時間を0.08時間以上にすることにより、金属膜1の表面を十分に酸化することができる。その一方、紫外線の照射時間を0.32時間以下にすることにより、人工酸化膜4の膜厚が厚くなり過ぎるのを防止することができる。さらに照射される紫外線のピーク波長は、使用する光源に応じて適宜選択することができる。例えば、185nmと254nmの複数のピーク波長を含んでもよい。
【0042】
紫外線を照射する光源の種類としては特に限定されず、線光源又は点光源の何れでもよい。紫外線の照射位置、及び光源と基板W表面との距離については特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、基板W及び照射領域の面積を考慮して、照射される基板Wに対し紫外線の照射強度が基板Wの面内で均一となるように設定されるのが好ましい。
【0043】
SAM形成工程S104は、
図1、
図2(c)及び
図2(d)に示すように、処理液を基板Wの表面に接触させることで、人工酸化膜4の表面に処理液中に含まれるSAM形成材料5を吸着させ、これによりSAM6を形成する工程である。人工酸化膜4は、自然酸化膜3と比較して表面状態が均一であり、かつ等電点も大きいため、SAM形成材料5は、自然酸化膜3の場合と異なり、均一かつ高密度で人工酸化膜4上に吸着することができる。その結果、膜密度が均一で高く、膜欠陥の発生が抑制又は低減されており、保護膜としての機能に優れたSAM6を形成することができる。
【0044】
処理液は、SAMを形成する材料(以下、「SAM形成材料」という。)と、溶媒とを少なくとも含む。SAM形成材料は溶媒に溶解していてもよく、分散していてもよい。
【0045】
SAM形成材料としては特に限定されず、例えば、モノホスホン酸、ジホスホン酸等のホスホン酸基を有するホスホン酸化合物が挙げられる。これらのホスホン酸化合物は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
モノホスホン酸としては特に限定されず、例えば、一般式R-P(=O)(OH)2(式中、Rは炭素数1~18で表されるアルキル基;炭素数1~18の範囲内であって、フッ素原子を有するアルキル基;又はビニル基を表す。)で表されるホスホン酸化合物が挙げられる。尚、本明細書に於いて炭素数の範囲を表す場合、その範囲は当該範囲に含まれる全ての整数の炭素数を含むことを意味する。従って、例えば「炭素数1~3」のアルキル基とは、炭素数が1、2及び3の全てのアルキル基を意味する。
【0047】
炭素数1~18で表されるアルキル基は、直鎖状及び分岐状の何れでもよい。さらにアルキル基の炭素数は、3~18の範囲が好ましく、10~18の範囲がより好ましい。また、炭素数1~18の範囲内であって、フッ素原子を有するアルキル基は、直鎖状及び分岐状の何れでもよい。さらにフッ素原子を有するアルキル基の炭素数は、3~18の範囲が好ましく、10~1の範囲がより好ましい。
【0048】
さらに前記R-P(=O)(OH)2で表されるモノホスホン酸としては、具体的には、例えば、以下の化学式(1)~(16)の何れかで表される化合物が挙げられる。
【0049】
【0050】
またモノホスホン酸としては、前述の例示したものの他に以下の化学式(17)~(19)の何れかで表される化合物も用いることができる。
【0051】
【0052】
ジホスホン酸としては、以下の化学式(20)及び(21)の何れかで表される化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
例示したホスホン酸化合物のうち、緻密なSAM形成の観点からは、オクタデシルホスホン酸が好ましい。
【0055】
処理液に於ける溶媒としては特に限定されず、例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、グリコールエーテル溶媒、グリコールエステル溶媒等が挙げられる。アルコール溶媒としては特に限定されず、例えば、エタノール等が挙げられる。エーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。グリコールエーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等が挙げられる。グリコールエステル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。これらの溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの溶媒は、前述の例示したホスホン酸化合物と任意に組み合わせて用いることができる。例示した溶媒のうちホスホン酸化合物を溶解させることができるとの観点からは、アルコール溶媒が好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0056】
SAM形成材料の含有量は、処理液の全質量に対し0.0004質量%~0.2質量%の範囲内が好ましく、0.004質量%~0.08質量%の範囲内がより好ましく、0.04質量%~0.06質量%の範囲内が特に好ましい。
【0057】
また処理液には、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては特に限定されず、例えば、安定剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0058】
SAM6は基板Wの金属膜形成領域の金属膜1上にのみ選択的に形成され、金属膜非形成領域には形成されない。SAM6が金属膜1上にのみ形成されるのは、例えば、金属膜1がCu(銅)膜である場合、SAM形成材料5であるホスホン酸化合物のホスホン酸基と、Cu膜表面の-OH基とが以下の化学反応式で表されるように反応するためである。
【0059】
【0060】
処理液を基板Wに接触させる方法としては特に限定されず、例えば、処理液を基板Wの表面に塗布する方法や処理液を基板Wの表面に噴霧する方法、基板Wを処理液中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0061】
処理液を基板Wの表面に塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、処理液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給された処理液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面が処理液で覆われて、当該処理液の液膜が形成される。
【0062】
SAM形成工程S104に於いては、基板Wの表面に残存する処理液を除去する工程を含み得る。処理液を除去する工程としては特に限定されず、例えば、基板Wを加熱する工程や基板Wを一定速度で回転させることにより遠心力で処理液を振り切る工程等が挙げられる。
【0063】
基板Wを加熱する工程の場合、基板Wの加熱温度としては、処理液を十分に気化して除去できる程度であれば特に限定されないが、通常は0℃~200℃の範囲内であり、好ましくは10℃~150℃、より好ましくは20℃~100℃である。また、加熱時間も処理液を十分に気化して除去できる程度であれば特に限定されないが、通常は0.0003時間~1時間の範囲内であり、好ましくは0.0003時間~0.5時間、より好ましくは0.0003時間~0.17時間である。
【0064】
また、処理液を遠心力により振り切る工程を行う場合、基板Wの回転数としては処理液を十分に振り切れる程度であれば特に限定されないが、通常は1rpm~3000rpmの範囲で設定され、好ましくは1rpm~2000rpm、より好ましくは1rpm~1000rpmである。
【0065】
また、処理液を除去する工程は、処理液が残存する基板Wの表面にリンス液を接触させるリンス工程を含むことが好ましい。この場合、処理液を除去する工程は、例えば、先ずリンス工程が行われた後に、前述の基板Wを加熱する工程が行われる。これにより、基板Wの表面Wf上の処理液をリンス液に置換した後、当該リンス液を加熱により除去することができる。また処理液を除去する工程は、リンス工程が行われた後に、前述の遠心力による振り切り工程を行ってもよい。この場合、基板Wの表面Wf上の処理液をリンス液に置換した後、当該リンス液を遠心力により基板Wの表面Wf上から振り切り、除去することができる。処理液を除去する工程にリンス工程を含めることで、基板Wの表面に処理液が残留することを一層防止できる。また、基板Wの表面(又は、基板Wの金属膜非形成領域)にSAMが残留することや、SAMが析出することも一層防止できる。その結果、その後の金属膜非形成領域への選択的な成膜(詳細については後述する。)をさらに良好に行うことができる。
【0066】
基板Wの表面にリンス液を接触させる方法としては特に限定されず、例えば、リンス液を基板W上に直接供給して塗布する方法や噴霧する方法、基板Wをリンス液中に浸漬させる方法等が挙げられる。リンス液を基板Wの表面に塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、リンス液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給されたリンス液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面がリンス液で覆われて当該リンス液の液膜が形成され、処理液をリンス液に置換することができる。尚、リンス工程の時間としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0067】
リンス液としては特に限定されず、例えば、処理液に適用される溶媒を用いることができる。リンス液は、より具体的には、例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、グリコールエーテル溶媒、グリコールエステル溶媒等が挙げられる。アルコール溶媒としては特に限定されず、例えば、エタノール等が挙げられる。エーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。グリコールエーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等が挙げられる。グリコールエステル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。これらのリンス液は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
尚、SAM形成工程S104で用いられる処理液に対しては、予め処理液中の溶存酸素濃度を低減させる工程(溶存酸素濃度低減工程)を行っていてもよい。これにより、金属膜1が酸化して金属が処理液中に溶解し、金属膜1がエッチングされるのを低減することができる。
【0069】
処理液の溶存酸素濃度を低減させる方法としては特に限定されず、例えば、不活性ガスを処理液中に供給してバブリングを行う方法や、真空脱気装置又は酸素透過膜を用いた方法等が挙げられる。不活性ガスとしては、例えば、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス及びアルゴン(Ar)ガス等が挙げられる。
【0070】
不活性ガスを用いたバブリングにより処理液中の溶存酸素濃度を低減させる場合、本工程は不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。これにより、処理液中の溶存酸素濃度を一層低減させることができる。また、不活性ガスの雰囲気下で行う場合、当該不活性ガスの雰囲気中に於ける酸素濃度は0.1%未満であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが特に好ましい。酸素濃度が0.1%未満の不活性ガス雰囲気下で処理液の溶存酸素濃度を低減させると、雰囲気中に含まれる酸素が処理液に溶解するのを防止することができ、処理液中の溶存酸素濃度を一層低減することができる。尚、不活性ガスとしては、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス及びアルゴン(Ar)ガス等を用いることができる。
【0071】
溶存酸素濃度低減工程後(又は処理液を基板Wに接触させる直前)の処理液の溶存酸素濃度は100ppb未満であることが好ましく、10ppb以下であることがより好ましく、1ppb以下であることが特に好ましい。
【0072】
膜形成工程S105は、
図1及び
図3(a)に示すように、目的とする膜7を金属膜非形成領域の絶縁膜2上に形成する工程である。このとき、金属膜形成領域に形成されたSAM6が金属膜1の保護膜としてマスクする機能を果たす。本実施形態のSAM6は、膜密度が高く均一であり、また膜欠陥の発生も抑制又は低減されているので、保護機能に優れている。そのため、膜7の金属膜非形成領域への選択的な成膜を良好に行うことができる。
【0073】
目的とする膜7としては特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化コバルト(CoO)、又は酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる膜が挙げられる。またこれらの膜7を形成する方法としては特に限定されず、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成膜)法、ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法、真空蒸着、スパッタリング、メッキ、サーマルCVD及びサーマルALD等が挙げられる。
【0074】
除去工程S106は、
図1及び
図3(b)に示すように、膜7を形成する工程の実行後に、金属膜形成領域に形成されたSAM6を除去する工程である。SAM6を除去する方法としては特に限定されず、例えば、SAM6を溶解又はエッチング等により直接除去する方法、金属膜1の表層部分をSAM6ごと薄く剥離する方法等を利用することができる。
【0075】
例えば、ホスホン酸化合物からなるSAM6を除去する場合には、酢酸をSAM6に接触させることによりSAM6を除去することができる。これにより、
図3(b)に示すように、金属膜非形成領域にのみ膜7が選択的に形成され、かつ金属膜1が露出した基板Wを得ることができる。
【0076】
また、エッチングによりSAM6を除去する場合、例えば、酸素含有ガスを接触させてSAM6をガス化することにより当該SAM6を除去することができる。尚、酸素含有ガスとしては特に限定されず、例えば、酸素(O2)ガス、オゾン(O3)ガス等が挙げられる。これらの酸素含有ガスは、化学反応を促進すべく、高温に加熱されていてもよい。また、これらの酸素含有ガスは、化学反応を促進すべく、プラズマ化されていてもよい。
【0077】
以上のように、本実施形態の基板処理方法によれば、溶存酸素濃度を低減させた処理液を用いてSAM6を形成することにより、当該SAM6の金属膜形成領域に於ける選択的な成膜の過程で、金属膜1がエッチングされるのを抑制することができる。
【0078】
<基板処理装置>
次に、本実施形態に係る基板処理装置について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態の基板処理装置は、処理液を供給するための処理液供給装置と、人工酸化膜を成膜するための紫外線照射装置と、SAM6を成膜するための成膜装置と、基板処理装置の各部を制御するための制御部とを少なくとも備える。
【0079】
[処理液供給装置]
本実施形態に係る処理液供給装置100は、
図4に示すように、処理液を成膜装置300に供給する機能を有しており、処理液タンク11と、加圧部12と、配管13とを少なくとも備える。
図4は、本実施形態に係る基板処理装置に於ける処理液供給装置100の概略を表す説明図である。
【0080】
処理液タンク11は、処理液タンク11内の処理液を撹拌する撹拌部、及び処理液タンク11内の処理液の温度調整を行う温度調整部を備えてもよい(何れも図示しない。)。撹拌部としては、処理液タンク11内の処理液を撹拌する回転部と、回転部の回転を制御する撹拌制御部を備えるものが挙げられる。撹拌制御部は制御部400と電気的に接続され、回転部は、例えば、回転軸の下端にプロペラ状の攪拌翼を備えている。制御部400が撹拌制御部に動作指令を行うことで回転部を回転させ、これにより攪拌翼で処理液を撹拌させることができる。その結果、処理液タンク11内で、処理液の濃度及び温度を均一にすることができる。
【0081】
加圧部12は、処理液タンク11内を加圧する気体の供給源である窒素ガス供給源16、窒素ガスを加圧するポンプ(図示しない)、窒素ガス供給管14及び窒素ガス供給管14の経路途中に設けられたバルブ15を備える。窒素ガス供給源16は窒素ガス供給管14により処理液タンク11と管路接続されている。処理液タンク11内には、制御部400と電気的に接続した気圧センサ(図示しない)を設けることができる。この場合、制御部400は、気圧センサが検出した値に基づいてポンプの動作を制御することにより、処理液タンク11内の気圧を大気圧より高い所定の気圧に維持することができる。また、バルブ15も制御部400と電気的に接続させることにより、バルブ15の開閉を制御部400の動作指令によって制御することができる。
【0082】
配管13は成膜装置300と管路接続されている。配管13の途中経路にはバルブ13aが設けられている。バルブ13aは制御部400と電気的に接続されており、バルブ13aの開閉を制御部400の動作指令によって制御することができる。制御部400の動作指令によりバルブ13a及びバルブ15が開栓されると、処理液が配管13を介して成膜装置300に供給(圧送)される。
【0083】
[紫外線照射装置]
紫外線照射装置200について、
図5に基づき説明する。
図5は、成膜装置300に備えられた紫外線照射装置200の概略を表す説明図である。
【0084】
紫外線照射装置200は、成膜装置300の内部に於いて、基板保持部(詳細については後述する。)に保持された基板Wの表面Wfに紫外線を照射することが可能なように、当該基板保持部の上方(
図5の矢印Zで示す方向)に配置される。紫外線照射装置200は、複数の紫外線照射部21と、石英ガラス22とを少なくとも備える。
【0085】
図5に示す紫外線照射部21は線光源であり、その長手方向が
図5のYで示す方向と平行となるように配置されている。また、各紫外線照射部21は、相互に等間隔となるように矢印Xで示す方向に配列されている。但し、本発明の紫外線照射部はこの態様に限定されるものではない。例えば、リング状の紫外線照射部であって、相互に直径がことなるものが同心円状に配置される態様であってもよい。また、紫外線照射部は点光源であってもよい。この場合、複数の紫外線照射部が面内で相互に等間隔となるように配置されるのが好ましい。
【0086】
紫外線照射部21の種類としては特に限定されず、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ及びUV(ultraviolet)-LED(Light Emitting Diode)等を用いることができる。また、複数の紫外線照射部21は同種であってもよく、異種であってもよい。紫外線照射部21として異種のものを複数用いる場合、ピーク波長や光強度等を相互に異ならせて配置することができる。
【0087】
石英ガラス22は、紫外線照射部21と基板Wの間に配置されている。石英ガラス22は板状体であり、水平方向に平行となるように設けられている。また、石英ガラス22は、紫外線に対して光透過性、耐熱性及び耐食性を有しており、紫外線照射部21から照射される紫外線を透過させて、基板Wの表面Wfへの照射を可能にしている。さらに石英ガラス22は、紫外線照射部21をチャンバ50(詳細については後述する。)内の雰囲気から保護することができる。
【0088】
[成膜装置]
次に、成膜装置300について、
図6に基づき説明する。
図6は、基板処理装置に備えられた成膜装置300の概略を表す説明図である。尚、
図6では、
図5に示した紫外線照射装置200の図示を省略している。
【0089】
本実施形態に係る成膜装置300は、金属膜1が形成された金属膜形成領域にSAM6を成膜することが可能な枚葉式の成膜装置である。
【0090】
成膜装置300は、
図6に示すように、基板Wを保持する基板保持部30と、基板Wの表面Wfに処理液を供給する供給部40と、基板Wを収容する容器であるチャンバ50と、処理液を捕集する飛散防止カップ60とを少なくとも備える。また、成膜装置300は基板Wを搬入又は搬出する搬入出手段(図示しない)を備えることもできる。
【0091】
基板保持部30は基板Wを保持する手段であり、
図6に示すように、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるものである。この基板保持部30は、スピンベース33と回転支軸34とが一体的に結合されたスピンチャック31を有している。スピンベース33は平面視に於いて略円形形状を有しており、その中心部に、略鉛直方向に延びる中空状の回転支軸34が固定されている。回転支軸34はモータを含むチャック回転機構36の回転軸に連結されている。チャック回転機構36は円筒状のケーシング37内に収容され、回転支軸34はケーシング37により、鉛直方向の回転軸周りに回転自在に支持されている。
【0092】
チャック回転機構36は、制御部400のチャック駆動部(図示しない)からの駆動により回転支軸34を回転軸J周りに回転することができる。これにより、回転支軸34の上端部に取り付けられたスピンベース33が回転軸J周りに回転する。制御部400は、チャック駆動部を介してチャック回転機構36を制御して、スピンベース33の回転速度を調整することができる。
【0093】
また回転支軸34には、
図5及び
図6に示すように、昇降機構38が設けられていてもよい。この昇降機構38は制御部400と電気的に接続されており、制御部400からの動作指令に応じて、スピンベース33及び回転支軸34を上下方向(
図6の矢印Zで表す方向)に昇降させる。これにより、基板保持部30に保持される基板Wと紫外線照射装置200との距離を調節することができる。例えば、基板Wを成膜装置300内に搬入出させる際には、制御部400の動作指令によりスピンベース33及び回転支軸34を下降させ、紫外線照射装置200と基板Wを離間させる。その一方、基板Wの表面Wfに紫外線を照射する際には、制御部400の動作指令によりスピンベース33及び回転支軸34を上昇させ、基板Wを紫外線照射装置200に近接させる。基板Wを紫外線照射装置200に近接させる際の距離としては特に限定されず、紫外線の照射強度や照射時間等に応じて適宜設定することができる。尚、昇降機構38としては、例えばエアシリンダ、ボールねじ機構又は一軸ステージ等を用いることができる。さらに昇降機構38はベローズによって周囲が覆われていてもよい。
【0094】
スピンベース33の周縁部付近には、基板Wの周端部を把持するための複数個のチャックピン35が立設されている。チャックピン35の設置数は特に限定されないが、円形状の基板Wを確実に保持するために、少なくとも3個以上設けることが好ましい。本実施形態では、スピンベース33の周縁部に沿って等間隔に3個配置する。それぞれのチャックピン35は、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持ピンと、基板支持ピンに支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持ピンとを備えている。
【0095】
供給部40は基板保持部30の上方位置に配置されており、処理液供給装置100から供給される処理液を基板Wの表面Wf上に供給する。供給部40は、ノズル41と、アーム42とを有している。ノズル41は、水平に延設されたアーム42の先端部に取り付けられており、処理液を吐出する際にはスピンベース33の上方に配置される。また供給部40は、供給部昇降機構43をさらに有している。供給部昇降機構43はアーム42に接続されている。
【0096】
供給部昇降機構43は制御部400と電気的に接続されており、制御部400からの動作指令に応じて供給部40を昇降させることができる。これにより、供給部40のノズル41を、基板保持部30に保持されている基板Wに接近又は離隔させ、ノズル41と基板Wの表面Wfとの間の離間距離を調整することができる。
【0097】
尚、基板Wを成膜装置300内に搬入出させる際には、制御部400の動作指令により供給部昇降機構43を作動させ、供給部40を上昇させる。これにより、ノズル41と基板Wの表面Wfとを一定の距離に離隔させることができ、基板Wの搬入出を容易にすることができる。
【0098】
飛散防止カップ60は、スピンベース33を取り囲むように設けられる。飛散防止カップ60は昇降駆動機構(図示しない)に接続され、上下方向に昇降可能となっている。基板Wの表面Wfに処理液を供給する際には、飛散防止カップ60が昇降駆動機構によって所定位置に位置決めされ、チャックピン35により保持された基板Wを側方位置から取り囲む。これにより、基板Wやスピンベース33から飛散する処理液を捕集することができる。
【0099】
以上の説明に於いては、本発明の基板処理装置に於ける成膜装置が枚葉式である場合を例にして説明した。しかし本発明の基板処理装置はこの態様に限定されるもものでなく成膜装置がバッチ式である場合にも適用可能である。
【0100】
[制御部]
制御部400は、基板処理装置の各部と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。制御部400は、演算部と、記憶部とを有するコンピュータにより構成される。演算部としては、各種演算処理を行うCPUを用いる。また、記憶部は、基板処理プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM及び制御用ソフトウェアやデータ等を記憶しておく磁気ディスクを備える。磁気ディスクには、人工酸化膜を形成する際の紫外線の照射条件や、SAM6の成膜条件等を含む基板処理条件が予め格納されている。CPUは、基板処理条件をRAMに読み出し、その内容に従って基板処理装置の各部を制御する。
【0101】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る基板処理方法及び基板処理装置について、以下に説明する。
【0102】
<基板処理方法>
本実施形態の基板処理方法について、
図7を参照しながら以下に説明する。
図7は、本発明の第2実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。
【0103】
本実施形態の基板処理方法は、
図7に示す通り、人工酸化膜形成工程として、紫外線照射工程S103に代えて、酸化性処理液接触工程S103’を行う点が異なる。この様な構成によっても、本実施形態では、基板上に膜密度が均一で高く、かつ膜の欠陥を抑制又は低減して、保護膜としての自己組織化単分子膜を選択的に成膜することができる。尚、その他の工程は、第1実施形態と同様であるため、それらの詳細な説明を省略する。
【0104】
酸化性処理液接触工程S103’は、紫外線照射工程S103と同様、大気圧下で、自然酸化膜3が除去された後の金属膜1上に人工酸化膜4を形成する工程である。具体的には、酸化性処理液を、自然酸化膜3が除去された後の金属膜1に接触させることにより酸化して人工酸化膜4を形成する。酸化性処理液の接触方法としては特に限定されず、例えば、酸化性処理液を基板Wの表面に塗布する方法や処理液を基板Wの表面に噴霧する方法、基板Wを処理液中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0105】
酸化性処理液を基板Wの表面Wfに塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、酸化性処理液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給された酸化性処理液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面が酸化性処理液で覆われて、当該酸化性処理液の液膜が形成される。
【0106】
酸化性処理液としては、自然酸化膜3が除去された金属膜1の表面に人工酸化膜4を形成できるものであれは、特に限定されない。酸化性処理液としては、例えば、オゾン水等が挙げられる。
【0107】
酸化性処理液としてオゾン水を用いる場合、オゾン濃度としては1ppm以上、20ppm以下の範囲が好ましく、5ppm以上、20ppm以下の範囲がより好ましく、10ppm以上、20ppm以下の範囲が特に好ましい。オゾン水の濃度を10ppm以上にすることにより、金属膜1の表面を十分に酸化することができる。その一方、オゾン水の濃度を20ppm以下にすることにより、人工酸化膜4の膜厚が厚くなり過ぎるのを防止することができる。
【0108】
酸化性処理液の温度(より詳細には、基板Wの表面Wfへの供給直前の液温)としては、1℃以上、80℃以下の範囲が好ましく、10℃以上、80℃以下の範囲がより好ましく、20℃以上、80℃以下の範囲が特に好ましい。酸化性処理液の温度を20℃以上にすることにより、金属膜1の表面を十分に酸化することができる。その一方、酸化性処理液の温度を80℃以下にすることにより、人工酸化膜4の膜厚が厚くなり過ぎるのを防止することができる。
【0109】
また酸化性処理液接触工程S103’に於いては、酸化性処理液の接触により人工酸化膜を形成した後、SAM形成工程S104の前に、残存する酸化性処理液の乾燥工程を行ってもよい。
【0110】
<基板処理装置>
次に、本実施形態に係る基板処理装置について、図面を参照しながら以下に説明する。
第2実施形態に係る基板処理装置は、紫外線照射装置に代えて酸化性処理液供給装置を備え、基板保持部30に於いて昇降機構38を備えない点を除けば、基本的には第1実施形態に係る基板処理装置と同一の構成を有する。また、第2実施形態に係る制御部は、酸化性処理液供給装置を制御する機能を有する他は、第1実施形態に係る制御部400と同一の構成を有する。以下では、酸化性処理液供給装置として、酸化性処理液がオゾン水である場合を例にして説明する。また以下では、第1実施形態に係る基板処理装置と同一の機能を有するものについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0111】
[酸化性処理液供給装置]
酸化性処理液供給装置500は、
図8及び
図9に示すように、酸化性処理液貯留部70と、酸化性処理液供給部80とを少なくとも備える。
図8は、本実施形態に係る酸化性処理液供給装置500に於ける酸化性処理液貯留部70の概略を表す説明図である。
図9は、本実施形態に係る基板処理装置の概略を表す説明図である。
【0112】
酸化性処理液貯留部70は、
図8に示すように、酸化性処理液タンク71と、純水供給部72と、オゾンガス供給部73と、酸化性処理液供給管74とを少なくとも備える。
【0113】
酸化性処理液タンク71には、酸化性処理液としてのオゾン水が貯留される。オゾン水は、酸化性処理液タンク71内で、純水供給部72から供給される純水に、オゾンガス供給部73から供給されるオゾンガスを溶解させることにより製造される。
【0114】
純水供給部72は、純水の供給源である純水供給源75、純水供給管76及び純水供給管76の経路途中に設けられたバルブ76aを備える。純水供給源75は純水供給管76により酸化性処理液タンク71と管路接続されている。バルブ76aは制御部400’と電気的に接続させることにより、バルブ76aの開閉を制御部400’の動作指令によって制御することができる。制御部400’の動作指令によりバルブ76aが開栓されると、純水が純水供給管76を介して圧送される。
【0115】
オゾンガス供給部73は、オゾンガスの供給源であるオゾンガス供給源77、オゾンガス供給管78及びオゾンガス供給管78の経路途中に設けられたバルブ78aを備える。オゾンガス供給源77はオゾンガス供給管78により酸化性処理液タンク71と管路接続されている。バルブ78aを制御部400’と電気的に接続させることにより、バルブ78aの開閉を制御部400’の動作指令によって制御することができる。制御部400’の動作指令によりバルブ78aが開栓されると、オゾンガスがオゾンガス供給管78を介して圧送される。また、制御部400’の動作指令により、例えば、バルブ78aの開栓時間等を制御することにより、酸化性処理液タンク71に供給されるオゾンガスの供給量を調節することができる。これにより、酸化性処理液タンク71内で製造されるオゾン水のオゾン濃度を制御部400’により制御することができる。
【0116】
酸化性処理液供給管74は、酸化性処理液タンク71及び酸化性処理液供給部80(詳細については後述する。)と管路接続されている。酸化性処理液供給管74の途中経路にはバルブ74aが設けられている。バルブ74aは制御部400’と電気的に接続されており、バルブ74aの開閉を制御部400’の動作指令によって制御することができる。制御部400’の動作指令によりバルブ74aが開栓されると、酸化性処理液タンク71内に貯留されているオゾン水を酸化性処理液供給部80に供給することができる。
【0117】
酸化性処理液供給部80は、
図9に示すように、基板保持部30の上方位置に配置されており、酸化性処理液貯留部70の酸化性処理液タンク71から供給される処理液を基板Wの表面Wf上に供給する。酸化性処理液供給部80は、ノズル81と、アーム82とを有している。ノズル81は、水平に延設されたアーム82の先端部に取り付けられており、処理液を吐出する際にはスピンベース33の上方(
図9の矢印Zで示す方向)に配置される。また酸化性処理液供給部80は、酸化性処理液供給部昇降機構83をさらに有している。酸化性処理液供給部昇降機構83はアーム82に接続されている。
【0118】
酸化性処理液供給部昇降機構83は制御部400’と電気的に接続されており、制御部400’からの動作指令に応じて酸化性処理液供給部80を上下方向(
図9の矢印Zで表す方向)に昇降させることができる。これにより、酸化性処理液供給部80のノズル81を、基板保持部30に保持されている基板Wに接近又は離隔させ、ノズル81と基板Wの表面Wfとの間の離間距離を調整することができる。
【0119】
尚、基板Wを成膜装置300内に搬入出させる際には、制御部400’の動作指令により酸化性処理液供給部昇降機構83を作動させ、酸化性処理液供給部80を上昇させる。これにより、ノズル81と基板Wの表面Wfとを一定の距離に離隔させることができ、基板Wの搬入出を容易にすることができる。
【0120】
[制御部]
制御部400’は、基板処理装置の各部と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。制御部400’は、第1実施形態の制御部400の場合と同様、演算部と、記憶部とを有するコンピュータにより構成される。演算部及び記憶部のハードウェア構成は、第1実施形態の場合と同様である。また、記憶部(の磁気ディスク)には、酸化性処理液の濃度(酸化性処理液がオゾン水の場合は、オゾン濃度)や温度等の人工酸化膜を形成するための条件、及びSAM6の成膜条件等を含む基板処理条件が予め格納されている。CPUは、基板処理条件をRAMに読み出し、その内容に従って基板処理装置の各部を制御する。
【0121】
(その他の事項)
各実施形態で説明した処理液供給装置、紫外線照射装置及び酸化性処理液供給装置は、基板処理装置以外の様々な装置に利用されてもよく、又は単独で使用されてもよい。
以上の説明に於いては、本発明の最も好適な実施態様について説明した。しかし、本発明は当該実施態様に限定されるものではない。前述の実施形態及び各変形例に於ける各構成は、相互に矛盾しない範囲内で変更、修正、置換、付加、削除及び組合わせが可能である。
【実施例0122】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量、条件等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0123】
(実施例1)
[基板の準備工程]
先ず、金属膜としてのCu膜(膜厚100nm、金属膜形成領域)が表面に形成された基板を準備した。
【0124】
[自然酸化膜除去工程]
次に、基板のCu膜表面に形成されている自然酸化膜の除去を行った。具体的には、先ず、基板をアセトン中に10分間浸漬させ、基板表面の油分を除去した。続いて、基板を希硫酸(硫酸:純水=1:20(体積割合))中に2分間浸漬させ、Cu膜表面に形成されていた自然酸化膜を除去した。
【0125】
[人工酸化膜形成工程]
次に、自然酸化膜除去後のCu膜上に人工酸化膜の形成を行った。具体的には、
図5に示す様なチャンバに基板を搬送し、紫外線照射装置を用いて紫外線照射を行った。これにより、Cu膜表面に人工酸化膜としてのCuO膜を形成した。尚、紫外線の照射条件は、以下の通りとした。
紫外線照射部の光源:低圧水銀ランプ(商品名:EUV200WS-51、セン特殊光源(株)製)
紫外線のピーク波長:185nm、254nm
紫外線の照射強度 :10mW/cm
2
紫外線の照射時間 :0.16時間
チャンバ内の圧力 :大気圧
チャンバ内の温度 :25℃
チャンバ内の雰囲気:空気
【0126】
[SAM及びAl2O3膜の形成]
SAM形成材料としてのオクタデシルホスホン酸(CH3(CH2)17P(=O)(OH)2)をエタノール溶媒に溶解させ、処理液を調製した。オクタデシルホスホン酸の濃度は、処理液の全質量に対し0.05質量%とした。
【0127】
次に、処理液を用いて、人工酸化膜形成後の基板の表面にSAMを形成した。具体的には、
図6に示すような成膜装置を用いて、基板の表面に処理液を塗布し、オクタデシルホスホン酸がCu膜上に吸着してなるSAMを成膜した。
【0128】
さらに、基板の表面にAl2O3膜の形成を行った。具体的には、原子層体積装置(商品名:SUNALE-R、PICOSUN(株)製)を用いてALD法によりAl2O3膜を成膜した。
【0129】
[SAMの除去]
次に、Al2O3膜が形成されている基板に対し、SAMの除去を行った。具体的には、超音波振動を付与した酢酸(濃度100質量%)中に基板を浸漬し、酢酸にSAMを溶解させて除去した。これにより、Cu膜上に人工酸化膜であるCuO膜が形成された基板を作製した。
【0130】
(比較例1)
本比較例に於いては、自然酸化膜除去後のCu膜上に人工酸化膜を成膜することなくSAM及びAl2O3膜の成膜を行った。それ以外は、実施例1と同様の工程を行うことにより、Cu膜上に自然酸化膜が形成された基板を作製した。
【0131】
(表面状態の評価)
自然酸化膜除去前の未処理の基板、並びに実施例1及び比較例1に係る各基板について、Cu膜上の表面状態を分析して評価を行った。具体的には、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)及びオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)を用いて、Cu膜表面の状態について分析した。結果を
図10(a)及び
図10(b)に示す。
図10(a)はCu膜上のX線光電子スペクトルを表すグラフを表し、
図10(b)はCu膜上のオージェ電子分光スペクトルを表すグラフを表す。
【0132】
図10(a)及び
図10(b)から分かる通り、未処理の基板では、Cu膜上に於いて、Cu原子、Cu
2O及びCuOに固有の結合エネルギー値並びに運動エネルギー値にピークが現れた。これにより、未処理の基板のCu膜上では、露出したCu膜、Cu
2O膜及びCuO膜が混在しており、膜質が不均一な状態の自然酸化膜が形成されていることが確認された。
【0133】
比較例1の基板では、Cu膜上に於いて、Cu原子に固有の結合エネルギー値及び運動エネルギー値に、ピークが最も強く現れた。これにより、比較例1の基板では、Cu膜表面から自然酸化膜が除去されていることが確認された。他方、実施例1の基板では、CuOに固有の結合エネルギー値及び運動エネルギー値に、メインピーク及びサテライトピークが強く現れた。これにより、実施例1の基板では、Cu膜表面に人工酸化膜としてのCuO膜が形成されていることが確認された。
【0134】
(SAMの性能評価)
次に、実施例1及び比較例1に係る各基板について、SAMの保護膜としての性能評価を行った。具体的には、前述のXPSを用いたX線光電子スペクトルの測定に於いて、Cu原子の2p
3/2軌道、Al原子の2s軌道の測定ピークに於けるピーク面積を求め、さらに感度係数の補正を行い、Cu原子及びAl原子の各測定ピークに於ける補正後ピーク面積を算出した。得られたCu原子とAl原子の表面原子濃度を用いて、以下の式により原子数比(Al/(Al+Cu))を算出した。
原子数比(Al/(Al+Cu))=(XPS分析におけるAl原子の2s軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めたAl原子濃度)/((XPS分析におけるAl原子の2s軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めたAl原子濃度)+(XPS分析におけるCu原子の2p
3/2軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めたCu原子濃度))
結果を
図11に示す。
図11は、実施例1及び比較例1の各基板に於ける原子数比(Al/(Al+Cu))を比較したグラフである。
【0135】
図11から分かる通り、人工酸化膜を形成することなく、Cu膜の自然酸化膜上にSAMを形成した比較例1の基板では、Cu膜上での原子数比が0.44であり、Al原子の存在割合が高いことが確認された。これにより、Cu膜の自然酸化膜上にSAMを形成した比較例1では、Al
2O
3膜を成膜する際の保護膜としての機能が十分でないことが分かった。
【0136】
その一方、人工酸化膜であるCuO膜上にSAMを形成した実施例1の基板では、Cu膜上での原子数比が0.03にまで低減され、Al原子の存在割合が十分に抑制されていることが確認された。これにより実施例1では、CuO膜上にSAMを形成することで、自然酸化膜が除去された状態のCu膜上にSAMを形成する場合よりも、SAMの保護膜としての機能を大幅に向上できることが確認された。これは、CuO膜上にSAMを形成する場合の方が、SAMの膜密度を向上させ、かつ膜の欠陥を十分に抑制できたことによるものと推測される。