(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143524
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ホイップクリームの保形性改良用油中水型乳化物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20230928BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050943
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 峻
(72)【発明者】
【氏名】下地 真美子
(72)【発明者】
【氏名】眞々田 基
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B025LB21
4B025LG14
4B025LG15
4B025LG18
4B025LG26
4B025LK01
4B025LP11
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DL01
4B026DL03
4B026DX05
(57)【要約】
【課題】ホイップクリームの保形性を改良可能な、作業効率にも優れた手段を提供すること。
【解決手段】SFCが5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下、かつ30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下である油中水型乳化物を用いる。これを起泡性水中油型乳化物100重量部に対し3~30重量部混合しホイップすることでホイップクリームの保形性が改良される。本発明の油中水型乳化物は冷蔵庫から出してすぐ温度調整不要で均一に混合可能であり、かつ風味食感面では適度な濃厚感も付与される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相のSFCが下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする、ホイップクリームの保形性改良用である油中水型乳化物。
(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下
(2)30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下
【請求項2】
請求項1に記載の油中水型乳化物を、起泡性水中油型乳化物100重量部に対し3~30重量部混合しホイップする工程を含む、ホイップクリームの保形性改良方法。
【請求項3】
混合時の油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化物を用いたホイップクリームの保形性改良に関する。
【背景技術】
【0002】
起泡性水中油型乳化物を起泡させることで得られるホイップクリームにおいて、保形性の維持や向上は主要な課題の1つである。
既存の起泡性水中油型乳化物に添加することで保形性を改良する方法としては、例えば油脂中にSUS型トリグリセリドを25~90重量%含む乳化物を混合する技術(特許文献1)、特定組成の油分、水分、無脂固形分を含有するO/W型乳化物の添加(特許文献2)などが開示されている。
また特定組成のエステル交換油脂とアルギン酸類、カルシウム、水を含有する水中油型乳化物を添加する技術も開示されているが(特許文献3)、ゲル化剤由来の食感が感じられる場合がある。
【0003】
一方、濃厚感を付与する目的でホイップクリームにバターやマーガリンを加えることが行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-205号公報
【特許文献2】国際公開2004/062384号パンフレット
【特許文献3】特開2013-099289号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】クックパッド[online]「簡単節約にバターホイップ 万能クリーム」、インターネット<URL:http://cookpad.com/recipe/2585555>2014年4月13日、検索日2022年3月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はホイップクリームの保形性改良手段の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは本課題について鋭意検討し、SFCが特定条件を満たす油中水型乳化物の添加が有効であることを見出した。さらにこの油中水型乳化物は冷蔵庫から出してすぐ温度調整不要で均一に混合可能という作業効率面でのメリットも備え、かつ風味食感面では適度な濃厚感も付与されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は
1.油相のSFCが下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする、ホイップクリームの保形性改良用である油中水型乳化物、
(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下
(2)30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下
2.1に記載の油中水型乳化物を起泡性水中油型乳化物100重量部に対し3~30重量部混合しホイップする工程を含む、ホイップクリームの保形性改良方法、
3.混合時の油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下である2に記載の方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば保形性、作業性、風味食感の良好なホイップクリーム、及びこれを用いた菓子類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
(保形性改良用)
本発明は起泡性水中油型乳化物に混合して起泡させることでホイップクリームの保形性を改良する、作業性良好な油中水型乳化物に関する。
【0012】
(油中水型乳化物)
本発明の油中水型乳化物は油相のSFC(固体脂含量)が以下の条件をすべて満たすことを特徴とする。なお本発明における油相とは油脂及び油溶性成分(親油性乳化剤、色素、抗酸化剤、香料等)を含有する混合物を指す。
5℃で30%以上50%以下、好ましくは35~45%
10℃で20%以上40%以下、好ましくは25~35%
20℃で10%以上20%以下、好ましくは12~17%
30℃で1%以上10%以下、好ましくは2~6%
30℃のSFC/10℃のSFCの比が0.1以上0.2以下、好ましくは0.11~0.15
SFCが上記の範囲及び比率であることで、保形性改良と作業性を兼ね備えることができる。
なおSFCはAOCS Official Method第5版Cd16-81に準じ、60℃で15分間以上温調して油脂を融解させ、0℃で60分間保持することにより固化し、さらに各測定温度で30分間温調後に測定したものである。
【0013】
作業性についてより具体的に説明する。一般の油中水型乳化物を用いる場合は予め室温(20℃)環境に少なくとも6時間以上、通常一晩(12~20時間)程度静置し温度調整を行う必要がある。しかし本発明の油中水型乳化物はこれを冷蔵庫から出してすぐに、ないしは室温での静置時間が十分に取れていない状態でも均一に混合することができる。
具体的には油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下、より好ましくは2℃~10℃、さらに好ましくは2℃~7℃であっても容易に混合することが可能である。この利点により作業性、作業効率が大幅に改善され、また急な追加生産にも臨機応変に対応することができる。
【0014】
油中水型乳化物に用いる油脂原料としては公知の食用油脂類をいずれも使用することができ、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、及び/又はこれらの単独又は混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等から選択される1以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
油中水型乳化組成物の製造法についても特に限定されない。例えば常法通り油相と水相とを予備乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーターなどの掻き取り式急冷混捏装置で急冷捏和することにより製造することができる。油相は融解した油脂に必要に応じて色素、抗酸化剤、乳化剤、香料等の油溶性成分を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。水相は水又は温水に水溶性の乳成分、必要に応じて食塩、糖類、無機塩類等を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。
【0016】
(起泡性水中油型乳化物)
起泡性水中油型乳化物とはホイップ用クリームとも称される流動状態の乳化物であって、攪拌して起泡(ホイップ)させて用いられる。なお、本発明においては起泡性水中油型乳化物をホイッパーやミキサー等で攪拌して空気を抱き込み起泡させたものを「ホイップクリーム」と称する。
【0017】
これらの混合比率としては起泡性水中油型乳化物100重量部に対して油中水型乳化物3~30重量部が例示できる。好ましくは5~25重量部、より好ましくは8~20重量部である。これより少ないと本発明の効果が不十分な場合がある。これより多いとホイップクリームの乳化状態が不安定になり、食感や外観が損なわれてしまう場合がある。
【0018】
油中水型乳化物と起泡性水中油型乳化物の混合及びホイップ方法にも特に制限はないが、まずミキサー低~中速(例えばホバートミキサー1~2速)でこれらを略均一に混合し、回転数を上げて(例えばホバートミキサー3速)所望の比重までホイップする手段が例示できる。
【0019】
本発明においては油中水型乳化物及び起泡性水中油型乳化物の他にもナッツペースト、ココア、チョコレート類、抹茶、糖類などの副原材料、色素、香料など、本発明の効果を阻害しない範囲でいずれも使用することができる。
特にナッツペースト等、常温で液体の油脂分を多く含む副原材料を混合する場合はホイップクリームの保形性が顕著に低下してしまう場合があるが、本発明の油中水型乳化物を用いることで改良することができる。あわせて適度な濃厚感も付与されるため、より嗜好性の高いホイップクリームを提供することが可能となる。
【実施例0020】
以下に実施例および比較例を記載し、本発明をより詳細に説明する。なお、文中「%」及び「部」は特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0021】
(油中水型乳化物の調製)
表1の配合に従い、常法により油相と水相とを調製、予備乳化の後に全原材料を混合し、コンビネーターにより急冷混捏し、油中水型乳化物Aを製造した。
なお表中油脂組成物a、bは以下を使用した。
油脂組成物a:ヤシ油、高エルシン酸菜種極度硬化油、及びパーム分別ステアリンの混合油をエステル交換した油脂
油脂組成物b:製品名「パーキッドY」不二製油株式会社(炭素数12以下の脂肪酸を含む油脂とパーム油を主成分とするエステル交換油を含有する油脂)
別途、市販の油中水型乳化物B~F、及び市販の無塩バター(G)を準備した。
これらの物性値をあわせて表2に示した。
【0022】
【0023】
【0024】
(起泡性水中油型乳化物への混合、ホイップ試験)
市販の起泡性水中油型乳化物(「クリアホイップ」不二製油株式会社、油分30.6%)85部、油中水型乳化物A~G各15部、これらを合わせてホバートミキサーを用いて2速で30秒混合後、続いて3速1.5~2分間、さらに2速1分間、比重0.4~0.5を目安にホイップした。
起泡性水中油型乳化物は冷蔵庫から出してすぐに試験に用い(品温約5℃)、油中水型乳化物については以下の各品温にて用いた。
20℃:予め20℃環境に15時間(1晩)静置し、温度調整したもの
5℃:冷蔵庫から出してすぐに使用
【0025】
(検証1)作業性の評価
一次スクリーニングとして、油中水型乳化物の品温と作業性について以下の観点から5段階で評価した。なお、油中水型乳化物を混合しないもの(起泡性水中油型乳化物のみ)をコントロールとした。
5:問題なし
4:ほとんど問題なし、やや分散に難あり
3:ホイップ可能だが分散性悪い
2:ホイップ不可
1:油脂分離あり、ホイップ不可
【0026】
(表3)油中水型乳化物の品温とホイップ時の作業性評価
【0027】
表3に示す通り、油中水型乳化物Aはいずれの温度で用いてもホイップ可能であり、作業効率面での優位性が確認された。なお評点2以下は以後の試験からは省略した。
【0028】
(検証2)保形性の確認
ホイップクリームをそれぞれ円形カップ(直径60mm×深さ32mm)に擦り切り充填し、以下の条件で最大荷重を測定した
使用機器:クリープメータ RE2-33005C(YAMADEN)
プランジャー:No.3(直径16mm×高さ25mm、円柱形)
速度:1mm/sec
測定環境:室温(20℃)
【0029】
【0030】
(考察)
油中水型乳化物C以外はいずれもコントロールと同等以上の硬さを示し、ホイップクリームの保形性改良効果を有していると判断した。油中水型乳化物Cは品温5℃で混合することができたが荷重はコントロールより低い値を示し、保形性改良効果は確認されなかった。
検証1、2より、油中水型乳化物Aのみが5℃、20℃いずれの温度でも混合可能であり、且ついずれも保形性改良効果を有していることが認められた。
【0031】
(検証3)官能評価
検証2に用いたホイップクリームについて、クリーム及び洋菓子製品開発に従事するパネラー10名にて下記観点の官能評価(5点満点)を行い、その平均点を表5に示した。全ての項目で評点3以上であるものを合格とした。
口溶け:良好(5点)~悪い(1点)
濃厚感:強い(5点)~弱い(1点)
ざらつき:全く感じない(5点)~明確に感じる(1点)
【0032】
表5に示す通り、油中水型乳化物Aの混合によって良好な口溶けを維持したまま濃厚感が顕著に向上した(実施例1、2)。ざらつきの発生も認められなかった。
【0033】
【0034】
(検証4)冷凍~解凍テスト
実施例1、2のホイップクリームをフリーザー(-20℃)で24時間冷凍(緩慢凍結)した。続いて冷蔵庫(5℃)に移し、15時間静置後に離水、及び食感劣化(特にボソボソした食感)の有無を確認した。
結果、いずれも目立った離水や食感の劣化は観察されなかった。