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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143554
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】抗肥満用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230928BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20230928BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20230928BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P3/04
A61P3/06
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K36/9068
A61K36/06
A23L19/00 A
A23L5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022064778
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(72)【発明者】
【氏名】岸田 邦博
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B035
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B016LC07
4B016LC08
4B016LE02
4B016LG05
4B016LK08
4B016LK09
4B016LK18
4B016LP02
4B016LP05
4B016LP08
4B016LP13
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD28
4B018MD36
4B018MD37
4B018MD61
4B018MD81
4B018ME01
4B018ME04
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF13
4B035LC06
4B035LE01
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG32
4B035LG50
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP24
4B035LP42
4B035LP44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC11
4C087NA14
4C087ZA70
4C087ZA75
4C087ZC20
4C087ZC33
4C087ZC41
4C088AB81
4C088BA08
4C088CA03
4C088CA25
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZA75
4C088ZC20
4C088ZC33
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】 本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする新たな抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物(肝臓脂肪蓄積抑制)、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物、脂肪酸合成阻害用組成物、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制用組成物、脂質代謝促進用組成物、ACOX1遺伝子発現促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物を提供する。
【解決手段】 発明者らは、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物に、抗肥満効果、脂肪蓄積抑制効果、血中コレステロール低下効果、脂肪肝予防・改善効果、脂肪酸合成阻害効果、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制効果、脂質代謝促進効果、ACOX1遺伝子発現促進効果、β酸化促進効果及び脂肪燃焼促進効果があることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、抗肥満用組成物又は脂肪蓄積抑制用組成物。
【請求項2】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、血中コレステロール低下用組成物。
【請求項3】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、脂肪肝予防・改善用組成物。
【請求項4】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、脂肪酸合成関連酵素であるアセチル-CoAカルボキシラーゼ及び脂肪酸シンターゼの遺伝子発現量を減少させることによって脂肪合成を抑制させることを特徴とする、脂肪酸合成阻害用組成物。
【請求項5】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、ペルオキシソームにおけるβ酸化の脂質代謝関連酵素であるアシル-CoA酸化酵素の遺伝子発現量を増加させることによって脂質代謝を促進させることを特徴とする、脂質代謝促進用組成物。
【請求項6】
加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、分子脱共役タンパク質1の遺伝子発現量を増加させることによって、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内で脂肪燃焼を促進させることを特徴とする、脂肪燃焼促進用組成物。
【請求項7】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、抗肥満用又は脂肪蓄積抑制用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【請求項8】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、血中コレステロール低下用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【請求項9】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪肝予防・改善用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【請求項10】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪酸合成阻害用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【請求項11】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂質代謝促進用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【請求項12】
ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪燃焼促進用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物(肝臓脂肪蓄積抑制)、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物、脂肪酸合成阻害用組成物、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制用組成物、脂質代謝促進用組成物、ACOX1遺伝子発現促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ科植物は、食用、薬用として世界各地で利用されてきたが、例えば辛み成分であるショウガオール類を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病及び/又は肥満の治療・予防剤(特許文献1)が知られており、また、ジンゲロール類をショウガオール類に変化させ、ショウガオール類の量を増加させて利用する組成物として、発酵ショウガを、温度30℃~90℃、湿度50%~90%の条件下で加熱する工程とを経て製造される、加熱発酵ショウガを含有することを特徴とする脂質代謝促進用組成物(特許文献2)等が知られている。
【0003】
また、ショウガオール類の量を増加させる方法としては、ショウガ科植物原料を発酵させる発酵工程と、発酵工程において発酵した発酵物に対して未発酵のショウガ科植物原料を添加する添加工程と、未発酵のショウガ科植物原料を添加した発酵物を、加圧下、100℃を超える温度で加熱処理する加熱工程とを有することを特徴とする発酵ショウガ含有組成物の製造方法(特許文献3)、ショウガ乾燥物を120℃~250℃で湿熱加熱により加熱することにより得られる、ショウガオールをジンゲロールより多く含有させたショウガ加工物の製造方法(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐189571号公報
【特許文献2】特開2018‐90619号公報
【特許文献3】特許第6723528号公報
【特許文献4】特許第5885153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする新たな抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物(肝臓脂肪蓄積抑制)、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物、脂肪酸合成阻害用組成物、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制用組成物、脂質代謝促進用組成物、ACOX1遺伝子発現促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物に、抗肥満効果、脂肪蓄積抑制効果、血中コレステロール低下効果、脂肪肝予防・改善効果、脂肪酸合成阻害効果、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制効果、脂質代謝促進効果、ACOX1遺伝子発現促進効果、β酸化促進効果及び脂肪燃焼促進効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]の態様に関する。
[1]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、抗肥満用組成物又は脂肪蓄積抑制用組成物。
[2]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、血中コレステロール低下用組成物。
[3]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とする、脂肪肝予防・改善用組成物。
[4]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、脂肪酸合成関連酵素であるアセチル-CoAカルボキシラーゼ及び脂肪酸シンターゼの遺伝子発現量を減少させることによって脂肪合成を抑制させることを特徴とする、脂肪酸合成阻害用組成物。
[5]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、ペルオキシソームにおけるβ酸化の脂質代謝関連酵素であるアシル-CoA酸化酵素の遺伝子発現量を増加させることによって脂質代謝を促進させることを特徴とする、脂質代謝促進用組成物。
[6]加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物が、分子脱共役タンパク質1の遺伝子発現量を増加させることによって、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内で脂肪燃焼を促進させることを特徴とする、脂肪燃焼促進用組成物。
[7]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、抗肥満用又は脂肪蓄積抑制用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
[8]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、血中コレステロール低下用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
[9]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪肝予防・改善用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
[10]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪酸合成阻害用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
[11]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂質代謝促進用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
[12]ジンゲロールよりショウガオールを多く含む加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させることを特徴とする、脂肪燃焼促進用加熱ショウガ抽出物酵母発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって天然物由来の成分を有効成分とする安全な抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物(肝臓脂肪蓄積抑制)、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物、脂肪酸合成阻害用組成物、脂質代謝促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物を提供でき、摂取することで、抗肥満効果、脂肪蓄積抑制効果、血中コレステロール低下効果、脂肪肝予防・改善効果、脂肪酸合成阻害効果、脂質代謝促進効果、β酸化促進効果、脂肪燃焼促進効果が得られ、各種飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料に含ませて利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】各投与群における試験期間中のマウスの体重推移を示す。
図2】各投与群における飼料1gあたりの体重増加量(g)(棒グラフ)と1日あたりの平均摂餌量(g)(◆)を示す。
図3】試験後の各投与群における血中グルコース濃度を示す。
図4】試験後の各投与群における血中トリグリセリド濃度を示す。
図5】試験後の各投与群における血中コレステロール濃度を示す。
図6】試験後の各投与群における肝臓重量を示す。
図7】試験後の各投与群における副睾丸周囲脂肪重量を示す。
図8】試験後の各投与群における腎周囲脂肪重量を示す。
図9】試験後の各投与群における肝臓中トリグリセリド濃度を示す。
図10】試験後の各投与群における肝臓中コレステロール濃度を示す。
図11】試験後の各投与群における肝臓組織のACC1遺伝子発現量を示す。
図12】試験後の各投与群における肝臓組織のFAS遺伝子発現量を示す。
図13】試験後の各投与群における肝臓組織のACOX1遺伝子発現量を示す。
図14】試験後の各投与群における肝臓組織のHMG-CoA還元酵素遺伝子発現量を示す。
図15】試験後の各投与群における褐色脂肪組織のUCP1遺伝子発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物(肝臓脂肪蓄積抑制)、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物及び脂肪酸合成阻害用組成物は、ショウガ抽出物、加熱ショウガ抽出物又は加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分として含有し、脂質代謝促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物は、加熱ショウガ抽出物又は加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を有効成分として含有する。尚、これらの組成物を、以後、まとめて本発明の組成物と呼ぶことがある。
【0011】
本発明に記載の加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物は、加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料を、酵母で発酵させた発酵物であればよく、クルイベロマイセス属に属する菌、トルラスポラ属に属する菌及びメチニコウィア属に属する菌の少なくとも1種を接種して発酵させることによって得られるが、例えば、発酵ジンジャーエキスパウダーS(池田糖化工業株式会社製)を使用できる。クルイベロマイセス属に属する菌としては、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(K.marxianus)が例示でき、トルラスポラ属に属する菌としては、トルラスポラ・マレーア(Torulaspora maleeae)、トルラスポラ・デルブリュッキイ(T.delbrueckii)が例示でき、メチニコウィア属に属する菌としては、メチニコウィア・プルシェリマ(Metschnikowia pulcherrima)が例示でき、1種又は2種以上を使用することができる。
【0012】
本発明で使用する発酵用液体原料は、加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含む発酵用液体原料であればよく、例えば一般的な微生物用培地に加熱ショウガ抽出物と乳化剤とを含ませることで調製できる。一般的な微生物用培地は、炭素源、窒素源、無機物、その他前記菌が必要とする微量栄養素等を含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用できる。
【0013】
本発明で使用する加熱ショウガ抽出物は、ショウガ科植物を抽出前後に加熱して得られるショウガ抽出物であって、抽出法としては、超臨界抽出法、水蒸気蒸留法、溶媒抽出法等が例示できる。生の植物中又は未加熱のショウガ抽出物中では、ジンゲロール含有量よりショウガオール含有量の方がはるかに少ないことが知られているが、本発明では、抽出前後に加熱等の処理を行ってショウガオール含有量を高めており、加熱ショウガ抽出物はジンゲロールよりショウガオールを多く含めばよく、ショウガオールをジンゲロールの1.5倍以上含むのが好ましく、2倍以上含むのがより好ましく、3倍以上含むのがさらに好ましく、上限は特に限定されないが、15倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましく、例えば、ジンジャーエキスパウダーS、H、E又はNE(池田糖化工業株式会社製)を使用できる。ショウガオール含有量が高められれば特に限定されないが、例えば100~300℃、好ましくは120~250℃で加熱することで、ショウガオール含有量の高い加熱ショウガ抽出物を調製できる。発酵用液体原料中の加熱ショウガ抽出物含有量は、0.02~80重量%が好ましく、0.04~50重量%がより好ましく、0.03~30重量%がさらに好ましく、発酵用液体原料中のショウガオール含有量は、0.01~8重量%が好ましく、0.02~5重量%がより好ましく、0.03~35重量%がさらに好ましい。発酵用液体原料への加熱ショウガ抽出物の添加は発酵前でもよく、発酵中に複数回に分けて添加してもよい。
【0014】
本発明で使用する乳化剤は、乳化能力を有する成分であれば特に限定されないが、例えば、アカシアガム、ガティガム、キサンタンガム、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、カゼイン、大豆タンパク質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン等が挙げられる。発酵用原料中の乳化剤の含有量は、0.1~15重量%が好ましく、0.2~10重量%がより好ましく、ショウガオールと乳化剤とを添加した後に乳化処理することが好ましく、乳化処理は発酵前又は発酵と並行して実施できる。乳化処理は、一般的な乳化方法で行うことができる。詳細には、乳化装置を用いて行うことができ、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機、ホモミキサー、ホモディスパー等を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。
【0015】
発酵条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的条件下で発酵するのが好ましく、発酵温度は例えば10~50℃が例示でき、15~40℃が好ましく、発酵時間は例えば2~72時間が例示でき、4~48時間が好ましく、6~36時間がより好ましく、pHは例えば2.0~8.0が例示でき、3.0~7.5が好ましい。
【0016】
発酵後に、殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。発酵物の回収は、不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等により、固液分離することで得られる液体として利用してもよいし、さらに濃縮及び/又は乾燥し、濃縮品や乾燥品として利用してもよい。ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等により乾燥して、粉末化でき、一般的な賦形剤を使用できる。
【0017】
本発明に記載の加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物は、パラドールを発酵前より多く含有するのが好ましく、ショウガ抽出物中のジンゲロールが、加熱によりショウガオールに変換され、加熱ショウガ抽出物中のショウガオールが酵母発酵によりパラドールに変換されると考えられるため、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物中では、パラドール含有量が最も多く、ジンゲロールよりパラドールを多く含むのが好ましく、パラドールをジンゲロールの1.2倍以上含むのが好ましく、1.5倍以上含むのがより好ましく、2倍以上含むのがさらに好ましく、ショウガオールよりパラドールを多く含むのが好ましく、パラドールをショウガオールの1.2倍以上含むのが好ましく、1.5倍以上含むのがより好ましく、2倍以上含むのがさらに好ましく、上限は特に限定されないが、発酵によりショウガオールがパラドールに変換されると考えられるため、パラドールが発酵前及び発酵中に加えたショウガオールの総含有量を超えることはない。加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物としては、例えば、発酵ジンジャーエキスパウダーS(池田糖化工業株式会社製)を使用できる。また、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物中のショウガオール含有量は、発酵前よりも減少していればよく、発酵前の0.7倍以下が好ましく、0.6倍以下がより好ましく、0.5倍以下がさらに好ましく、ショウガ抽出物中のショウガオール含有量の4.5倍以下が好ましく、4倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。また、ショウガオールとジンゲロールは、何れもパラドールより少なければ特に限定されないが、ショウガオールとジンゲロールとの比(ショウガオール/ジンゲロール=S/G)は、0.001~8が好ましく、0.005~5がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1未満が特に好ましい。
【0018】
本発明の組成物の摂取方法として、ショウガ抽出物、加熱ショウガ抽出物又は加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を含む組成物を経口摂取することが好ましく、本発明の効果が認められる摂取量であれば特に限定されないが、ショウガ抽出物、加熱ショウガ抽出物又は加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物の一人一日当たりの摂取量は、10~5,000mgが好ましく、20~4,000mgがより好ましく、50~3,000mg/kg体重がさらに好ましい。該摂取量を摂取できるよう、本発明の組成物を1日1回又は数回に分けて摂取すればよい。
【0019】
本発明の組成物はその有効成分が天然物由来であり、かつ、製造が容易なため、広く利用でき、各種製品に添加が可能で、液体で添加してもよく、乾燥品を添加してもよい。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、飼料等にも利用できる。各種製品中の加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物含有量は、摂取により本発明の効果が認められる量であれば特に限定されないが、0.001~50重量%が好ましく、0.005~20重量%がより好ましく、0.01~10重量%がさらに好ましい。
【実施例0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0021】
(1.加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物の調製)
ショウガ抽出物であるGinger Soft Extract 40%(バイオアクティブズジャパン株式会社製)をオートクレーブを用いて130℃で4時間加熱処理して得た加熱ショウガ抽出物120g、ガディガム(三栄薬品貿易株式会社製)70g、酵母エキス(ミースト(登録商標)P1G、アサヒグループ食品株式会社製)60g、無水結晶ぶどう糖(日本食品化工株式会社製)50g及び水道水2,500gを70℃で10分間撹拌混合した後、高圧ホモジナイザーを用いて乳化処理(40MPa)し、得られた乳化液2,800gを発酵用液体原料として、5L培養器に投入し、121℃で15分間滅菌処理を行った後、前培養液としてPD培地で30℃、20時間振盪培養したメチニコウィア・プルシェリマ NBRC1267株を1%(v/v)接種して、撹拌条件下で30℃、20時間発酵させた後、固液分離して培養液を回収し、賦形剤としてデキストリン(サンデック#300、三和澱粉工業株式会社製)450gを加えて噴霧乾燥することで、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物粉末650gを得た。
【0022】
得られた加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物粉末、並びに加熱ショウガ抽出物粉末(ジンジャーエキスパウダーE)及びショウガ抽出物粉末(ジンジャーエキスパウダーG2、池田糖化工業株式会社製)を経口投与試験に使用した。各試料に含まれる6-ジンゲロール、6-ショーガオール及び6-パラドールの含量を分析し、表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
(2.経口投与試験及びその効果)
C57BL/6Jマウス(雄、5週齢、株式会社紀和実験動物研究所より購入)を1週間馴化した後、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物粉末を5%配合した飼料(0.030%6-ジンゲロール、0.030%ショウガオール、0.10%パラドール含有)を投与する加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物投与群(5匹)、加熱ショウガ抽出物粉末を5%配合した飼料(0.035%6-ジンゲロール、0.115%ショウガオール、0.005%パラドール含有)を投与する加熱ショウガ抽出物投与群(5匹)、ショウガ抽出物粉末を5%配合した飼料(0.115%6-ジンゲロール、0.015%ショウガオール、0.005%パラドール含有を投与するショウガ抽出物投与群(5匹)及び対照飼料(40%α化コーンスターチ、20%カゼイン、20%ラード、10%大豆油、5.0%セルロース、3.5%ミネラルミックス(AIN-93G)、1.0%ビタミンミックス(AIN-93VX)、0.30%L-システイン、0.25%中酒石酸コリン、0.0014%t-ブチルヒドロキノン)を投与する対照群に分け、室温20±1℃、午前8時から午後8時点灯の明暗サイクルの環境下で飼料及び水を自由に摂取させて、それぞれ7週間飼育することで投与試験を実施した。
尚、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物5%配合飼料は、対照飼料のα化コーンスターチを35%配合とし、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物を5%配合する以外は対照飼料と同じ配合とし、加熱ショウガ抽出物配合飼料及びショウガ抽出物配合飼料も同様に調製した。
【0025】
投与試験中、各マウスの体重及び飼料摂取量を測定し、飼料1gあたりの体重増加量を算出した。図1に試験期間中のマウスの体重推移を、図2に飼料1gあたりの体重増加量(棒グラフ)と1日あたりの平均摂餌量(◆)を示した。
【0026】
投与試験終了後、絶食なしにイソフルラン吸入麻酔下で、ヘパリン処理したシリンジを用いて腹部大静脈から全採血して安楽死させた。採取した血液を遠心分離(4℃、12000×G、20分間)して血漿を回収した後、血中グルコース濃度、血中トリグリセリド濃度及び血中コレステロール濃度の測定を、各キット(グルコースCII-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製)、トリグリセライドE-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製)、コレステロールE-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製))を用いて行った。血中グルコース濃度を図3に、血中トリグリセリド濃度を図4に、血中コレステロール濃度を図5に示した。
【0027】
肝臓、副睾丸周囲脂肪、腎周囲脂肪をサンプリングして重量を測定した。肝臓重量を図6に、副睾丸周囲脂肪重量を図7に、腎周囲脂肪重量を図8に示した。
【0028】
肝臓組織からFolch法にて脂質を抽出した後、肝臓中トリグリセリド濃度及び肝臓中コレステロール濃度の測定を、前記キットを用いて行った。肝臓中トリグリセリド濃度を図9に、肝臓中コレステロール濃度を図10に示した。
【0029】
肝臓組織及び褐色脂肪組織の一部を採取し、RNAlater(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に浸漬して-80℃で保存した。採取した組織よりRNeasy(登録商標) Lipid Tissue Mini Kit(株式会社キアゲン製)を用いてRNAを抽出した後、iScript RT Supermix for RT-qPCR(バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いてcDNAを調製した。得られたcDNAをSsoFast EvaGreen(登録商標) Supermix(バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて、MiniOpticonリアルタイムPCRシステム(バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社)によるリアルタイムPCRに供し、肝臓組織における、脂肪酸合成関連酵素であるACC1(acetyl-CoA carboxylase 1(アセチル-CoAカルボキシラーゼ))及びFAS(fatty acid synthase(脂肪酸シンターゼ))、ペルオキシソームのβ酸化の脂質代謝関連酵素であるACOX1(acyl-CoA oxidase 1(アシル-CoA酸化酵素))、コレステロール合成関連酵素であるHMG-CoA還元酵素(hydroxymethylglutaryl-CoA reductase)の各遺伝子発現量、並びに褐色脂肪組織における脂肪燃焼関連タンパク質であるUCP1(uncoupling protein 1(サーモゲニン)(分子脱共役タンパク質1))の遺伝子発現量を測定した。
【0030】
β-アクチン遺伝子を内因性コントロールとし、対照群の遺伝子発現量を1とした比較Ct法(相対定量法)により評価した。ACC1遺伝子発現量を図11に、FAS遺伝子発現量を図12に、ACOX1遺伝子発現量を図13に、HMG-CoA還元酵素遺伝子発現量を図14に、UCP1遺伝子発現量を図15に示した。
【0031】
全ての測定結果は、平均値±標準誤差で示した。また、対照群と各投与群との比較は、Tukey法(有意水準:両側5%未満)にて計算した。
【0032】
図1より、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物投与群、加熱ショウガ抽出物投与群及びショウガ抽出物投与群の各投与群は対照群に比べ何れも体重の増加が抑えられ、また、図2より、各投与群は対照群に比べ何れも飼料1gあたりの体重増加量が、有意に少ないことが分かった。
【0033】
図5及び図9より、各投与群は対照群に比べ何れも血中コレステロール濃度及び肝臓トリグリセリド濃度が有意に低く、また、図6、7及び8より、各投与群は対照群に比べ何れも肝臓重量、副睾丸脂肪重量及び腎周囲脂肪重量が有意に少ないことが分かった。
【0034】
図11及び図12より、各投与群は対照群に比べ何れも脂肪酸合成関連酵素であるACC1及びFASの肝臓における遺伝子発現量が有意に少なく、また、図13より、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物投与群及び加熱ショウガ抽出物投与群は対照群に比べ何れも脂質代謝関連酵素であるACOX1の肝臓における遺伝子発現量が有意に多く、また、図14より、コレステロール合成関連酵素であるHMG-CoA還元酵素の肝臓における遺伝子発現量が有意に少ないことが分かった。
【0035】
図15より、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物投与群及び加熱ショウガ抽出物投与群は対照群に比べ何れも脂肪燃焼関連タンパク質であるUCP1の遺伝子発現量が有意に多いことが分かった。
【0036】
尚、図3、4及び10より、各投与群と対照群とで、血中グルコース濃度、血中トリグリセリド濃度及び肝臓コレステロール濃度に有意差はみられなかった。
【0037】
よって、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物、加熱ショウガ抽出物及びショウガ抽出物は、経口摂取により、抗肥満効果、脂肪蓄積抑制効果、血中コレステロール低下効果、脂肪肝予防・改善効果、脂肪酸合成阻害効果及びを有しており、抗肥満用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物、血中コレステロール低下用組成物、脂肪肝予防・改善用組成物、脂肪酸合成阻害用組成物として有用であり、加熱ショウガ抽出物の酵母発酵物及び加熱ショウガ抽出物は、脂質代謝促進効果、β酸化促進効果及び脂肪燃焼促進効果を有しており、脂質代謝促進用組成物、β酸化促進用組成物及び脂肪燃焼促進用組成物として有用であることが分かった。
図1
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