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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143573
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】給湯効率の高い押湯及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/08 20060101AFI20230928BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B22C9/08 H
B22C9/02 103A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022073779
(22)【出願日】2022-03-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】309010896
【氏名又は名称】有限会社ファンドリーテック・コンサルティング
(72)【発明者】
【氏名】五家 政人
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂隆
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健太郎
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PB01
4E093PB15
(57)【要約】
【課題】押湯の給湯作用を高めるとともに鋳込量を削減する押湯及び鋳造方法を提供する。
【解決手段】押湯の形状を、下部は製品部につながる押湯ネック部を適宜の時間保温する大きさの熱源部とし、上部は細く高くして給湯圧を高める静圧部とした組み合わせ形状とすることで押湯の給湯作用を高めるとともに押湯体積を削減する。また、減量注湯することで、押湯頂部に作用する溶湯圧を低減して給湯作用を高めるとともに鋳込量を削減する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄系溶湯を通気性鋳型に重力注湯する鋳造に用いる押湯であって、該押湯の形状は、下部は製品部につながる押湯ネック部を適宜の時間保温する大きさの熱源部とし、上部は細く高くして給湯圧を高める静圧部とした組み合せ形状であって、該押湯の最大径をD1、最小径をD2、高さをH1、熱源部と静圧部の接する部分の径をD3、静圧部の高さをH2、熱源部の凝固モジュラスをMf、製品部の凝固モジュラスをMcとするとき、押湯の全体形状は0.3≦D2/D1≦0.6、H1/D1≧1.5であり、熱源部は0.8≦Mf/Mc≦1.7であり、静圧部は0.4≦D3/D1≦0.8、H2/D3≧1であることを特徴とする押湯。
【請求項2】
請求項1記載の押湯を用いて、鋳込量を全キャビティーの体積よりも減量して注湯することにより、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口の湯面高さをH3、押湯頂部の高さをH4、鋳型上面の高さをH5とするとき、H3-H4≦(H5-H4)/2として、押湯頂部に作用する溶湯圧を低くすることで、押湯頂部の凝固殻の形成を遅延させて融液状態を長く保持し、製品部への押湯の給湯作用を高めることを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鋳鉄系溶湯を重力注湯する鋳造に用いる給湯効率の高い押湯と、これを用いた鋳込量を削減する鋳造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄材は自動車部品を始めとして建設機械、配管、一般機械の部品として広く使われている材料であるが、溶解工程で消費するエネルギーは膨大で、その省エネルギーのため、鋳造歩留り=製品重量/全鋳込重量を向上して鋳込量を削減することが重要な課題である。このためには、押湯の給湯作用を高めて押湯体積を削減することや、何らかの方法で鋳込量を削減することが必要である。
【0003】
まず押湯の給湯作用を高めるために用いる技術について、従来技術では、(1)押湯を高くするまたは大きくする。(2)湯口の溶湯高さを高くして押湯及び製品部に高い溶湯静圧をかける。(3)発熱スリーブや発熱材を使用する、などの方法が用いられている。しかし、(1)は押湯体積が大きくなり鋳造歩留りが低下する。(2)は押湯頂部に作用する溶湯静圧が高くなり、押湯頂部に凝固殻を生成し易く殻被り現象が生じ易く、その結果大気圧を有効に利用できず、押湯からの給湯作用が低下して製品に引け巣欠陥が生じ易い。また、(3)は発熱スリーブなどの補助材料の費用がかかるので適用が限定される。したがって、いずれも汎用的かつ安価な手段で押湯の給湯作用を高める方法ではなく、この解決が課題である。
【0004】
次に鋳込量の削減について、従来技術では、(1)湯口部の湯口カップの大きさを小さくする。(2)注湯時に注湯量を減らす、などの方法が行われている。しかし、(1)は注湯時の湯こぼれの問題があり適用には限界がある。(2)は製品部及び押湯の高さに応じて適宜採用されているが、湯口カップの範囲内で試行錯誤の結果をもとに一部で行われている程度で、明確な技術思想として確立されてはいない。したがって、鋳込量の削減が可能な新規な方法の開発が課題である。
【0005】
また上記のように、押湯の給湯作用を高めることと鋳込量を削減することは別個の技術として取組まれており、両方を同時に改善する方法ないし技術思想は見当たらない。本願はこの点に着目して発案されたものである。
【先行技術文献】
【0006】
従来技術についてさらに、押湯形状、押湯削減、溶湯削減などのキーワードで特許文献を検索した結果、主要なものとして下記の文献が認められた。
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5696321号
【特許文献2】特許第5696322号
【特許文献3】特許第5458295号
【特許文献4】特開2020-124735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、鋳型キャビティーは、製品部、押湯、湯道、湯口で構成されている。本発明では上記問題点に鑑み、給湯作用が高くかつ鋳込量の削減が可能な押湯、すなわち給湯効率の高い押湯、及びこの押湯を用いて鋳込量の削減が可能な鋳造方法を提供するものである。本願の基本的な技術思想はどの材質にも適用可能であるが、特に自動車部品、各種産業部品などに多く用いられている鋳鉄系材料の鋳造に効果的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(手段1)
鋳鉄系溶湯を通気性鋳型に重力注湯する鋳造に用いる押湯であって、該押湯の形状は、下部は製品部につながる押湯ネック部を適宜の時間保温する大きさの熱源部とし、上部は細く高くして給湯圧を高める静圧部とした組み合わせ形状であって、該押湯の最大径をD1、最小径をD2、高さをH1、熱源部と静圧部の接する部分の径をD3、静圧部の高さをH2、熱源部の凝固モジュラスをMf、製品部の凝固モジュラスをMcとするとき、押湯の全体形状は0.3≦D2/D1≦0.6、H1/D1≧1.5であり、熱源部は0.8≦Mf/Mc≦1.7であり、静圧部は0.4≦D3/D1≦0.8、H2/D3≧1であることを特徴とする押湯である。
【0010】
まず、押湯の給湯作用について説明する。押湯が十分な給湯作用を行うためには、押湯頂部が長く融液状態を保ち、大気圧が長時間作用することが重要である。これが発現できた時は、いわゆる押湯頂部の引けが大きくなり、その引け量相当分が製品部へ給湯されたことがわかる。押湯頂部を長く融液状態に保つことの重要性は一般にも認識されており、そのために押湯頂部に発熱剤あるいはウィリアムスコア(突起状の砂型)などが用いられることもある。しかし、これらは費用面及び設置の手間などで採用は少ない。
【0011】
次に従来の押湯について説明する。その押湯形状は、一般的には円柱体で図2に示すような形状のものが使われている。その技術思想は、押湯のサイズ及び形状は、製品部の凝固モジュラス(体積/表面積)に対応した適宜の凝固モジュラスから決まる体積に見合う直径と高さをもつ円柱体となっている。
【0012】
本願発明者らは、鋳造後の多くの押湯の調査から、このような従来形状の押湯では次のような問題点があることがわかった。すなわち、押湯頂部の平面部が広いので凝固初期の押湯頂部の湯面低下が小さく、そのため凝固殻ができ易く長くは融液状態を保持できない。その結果、押湯頂部からの大気圧が作用しにくくなり、押湯は有効な給湯作用を働かせることができなくなる場合が多い。これがいわゆる押湯頂部からの引けが誘発されない又はされにくい状態である。たとえ押湯頂部が引けても凝固完了時の引け量(給湯量)は小さく、押湯上部は体積の大きな円柱体になっているので無駄な部分が多く、鋳造歩留りを低下させる原因となっている。すなわち、給湯効率の低い押湯である。
【0013】
従来、押湯の給湯作用を高めて製品の引け巣欠陥を防止するために、先述のように、押湯の体積を大きくする又は高さを増して溶湯圧を大きくする、あるいは、湯口高さを高くして溶湯圧を大きくする、などが行われてきた。このため鋳込量削減とは逆作用で何とか製品の健全性を確保してきた。しかし、製品に引け巣欠陥が生じるたびに押湯が大きくなるばかりである。本願発明者らは、このような対応とは全く異なる技術思想で高い給湯作用と溶湯削減を両方達成する方法を提供するものである。
【0014】
本手段における押湯は、まず(1)押湯の形状は、下部は製品部につながる押湯ネック部を保温する熱量を有する体積の熱源部とし、上部は細く高くして給湯圧を高める静圧部とした組み合せ形状である。
【0015】
この押湯では、下部の熱源部によって押湯から製品部につながる押湯ネック部は保温され、適宜の時間、製品部への溶湯補給が可能になっている。また、上部の静圧部は細く高くなっているので、凝固初期の押湯頂部の湯面低下が早くかつその量が大きい。そのため鋳型と溶湯の間に早期に厚い空気層が発生して断熱され、凝固殻の生成が遅延され融液状態を長く保持できる。その結果、押湯頂部から大気圧が長時間作用して給湯作用が高められる。また、押湯上部の静圧部を細く高くしているので、この部分は従来の押湯に比べて体積も小さく溶湯削減となる。すなわち給湯作用と鋳込量削減の両方の作用が可能な給湯効率の高い押湯である。
【0016】
本手段の押湯形状をさらに詳細に説明すると、(2)押湯の全体形状は0.3≦D2/D1≦0.6、H1/D1≧1.5であり、熱源部は0.8≦Mf/Mc≦1.7であり、静圧部は0.4≦D3/D1≦0.8、H2/D3≧1である。
【0017】
押湯の全体形状は、最大径D1と最小径D2及び高さH1で規定した。最小径D2は最大径D1より小さく、上部が細い形状としている。これは、上記で説明したように、凝固にともなう押湯頂部の湯面低下を早くかつその量を大きくして、鋳型と湯面の間に早期に厚い空気層を作って融液状態を長時間保持して給湯作用を高めるためである。また、高さH1は製品部高さに応じて適宜の高さとする。押湯頂部は製品部高さより高くする方が好ましいが、特にこれに限定されるものではない。本手段の場合、押湯頂部を製品部高さより高くしても静圧部を細くしているので小さな体積増加ですむ。
【0018】
熱源部は、製品部の凝固モジュラスに対応した凝固モジュラスの大きさとした。図2に示した従来押湯の凝固モジュラスMrは、製品部の凝固モジュラスをMcとすると、古くからの研究ではMr/Mc=(1.2~1.4)程度が適正値とされてきたが、実用的にはMr/Mc=(1.5~2.5)が使われている。この理由は、上記に説明したような従来押湯のもつ押湯頂部の引け性の不安定によるものである。また、製品が複雑になったこと、あるいは量産における溶湯性状のバラツキを補償するためなどであると考えられる。
【0019】
本手段の熱源部の凝固モジュラスMfは、0.8≦Mf/Mc≦1.7であり従来押湯に比べて小さな値(小さい体積)であるが、適宜の時間、製品部につながる押湯ネック部を保温して給湯できるようにした。この値については、溶湯材質、鋳型種類、製品形状などに応じて適宜の値を用いるようにする。例えば、溶湯材質では、片状黒鉛鋳鉄、バーミキュラー黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄の順で前者ほど小さな値を用いるようにする。また、鋳型種類では、シェル鋳型、自硬性鋳型、生砂鋳型の順で前者ほど小さな値を用いるようにする。また、製品形状については、単純形状品、厚肉品ほど小さな値を、複雑形状、薄肉品ほど大きな値を用いるようにする。一般的な鋳造条件ではこれらの組合せとなり、凝固シミュレーション又は経験に基づいてこの範囲の適宜の値を用いるようにする。
【0020】
本手段の熱源部の凝固モジュラスMfは従来に比べ小さくなっているが、押湯頂部を細く高くしているので上記のように凝固にともなう押湯頂部の引け誘発効果が大きくなっており、熱源部の凝固モジュラスが小さくなってもこれを補償できる。また凝固モジュラスが小さくなっているので押湯体積の削減にも寄与できるようになっている。なお、凝固モジュラスMfについては、給湯作用と溶湯削減のバランスを考慮すると、1.0≦Mf/Mc≦1.5が好ましい。
【0021】
また、静圧部は給湯圧と溶湯削減を考慮した形状とした。D3/D1によって、熱源部と静圧部の境界の径を規定した。その境界部には造型時の成型性及び型抜き性を考慮して適宜のつなぎRを付すことが望ましい。また、H2/D3によって静圧部の高さを規定した。この高さは、製品部の高さに応じて適宜の高さにする。
【0022】
熱源部は球状体、楕円体又は円柱状が効率がよい。特に球状体とこれに近い楕円体は単位体積当たりの凝固モジュラスが最も大きく給湯効率が高く溶湯削減の効果が大きい。静圧部はテーパー状の円柱体が簡便で使い易い。本願押湯の作用効果はこれらに限定せれず上記の条件に合うものであればよい。
【0023】
(手段2)
手段1記載の押湯を用いて、鋳込量を全キャビティーの体積よりも減量して注湯することにより、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口の湯面高さをH3、押湯頂部の高さをH4、鋳型上面の高さをH5とするとき、H3-H4≦(H5-H4)/2として、押湯頂部に作用する溶湯圧を低くすることで、押湯頂部の凝固殻の形成を遅延させて融液状態を保持し、凝固収縮にともなう押湯の給湯作用を高めることを特徴とする鋳造方法である。
【0024】
手段1の押湯によって給湯作用が高くかつ溶湯削減が可能になったので、さらに本手段では、鋳込量を全キャビティーの体積より減量して注湯することで注湯完了時点の湯口の湯面を下げ、押湯の給湯作用を高めるとともに鋳込量削減を可能にするようにした。すなわち、注湯完了時点の湯口の湯面を下げることによって、湯口の湯面高さと押湯頂部の高さの差を、全キャビティーの体積分の溶湯を注湯するときよりも小さくしている。これによって、湯口から押湯頂部に作用する溶湯圧は小さくなり熱伝達が下がる。そのため本願押湯の押湯頂部の凝固殻の形成がさらに遅延され融液状態がより長く保持されるので、大気圧がより長時間作用して押湯から製品部への給湯作用が高められる。また同時に湯口の溶湯も削減される。
【0025】
その効果を発現させるために、鋳型見切面からの湯口の湯面高さをH3、押湯頂部の高さをH4、鋳型上面の高さをH5とするとき、H3-H4≦(H5-H4)/2としている。H3-H4は本手段で減量して注湯した場合の押湯頂部に作用する溶湯圧に相当する高さであり、H5-H4は従来技術で全キャビティーの体積分の溶湯を注湯した場合の溶湯圧に相当する高さである。本手段によって、押湯頂部に作用する溶湯圧は半分以下になり、押湯頂部の凝固がさらに遅延され融液状態を保持し易くなり、より長時間大気圧が作用して給湯作用を高められる。また、この条件に合う減量注湯では、大抵の場合、湯口のうち体積の大きな湯口カップ部は削減されるようになっているので、溶湯削減にも効果が大きい。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、手段1の押湯によって給湯作用が高く、かつ鋳込量削減が可能な押湯が提供でき、手段2の鋳造方法によっても同じく、給湯作用が高く、かつ鋳込量削減が可能な鋳造方法が提供できた。好ましくは、2つの手段を併用することで大幅な溶湯削減が可能となる。両手段とも従来技術では不可能とされていた、給湯作用を高めることと、鋳込量を削減するという2つの背反する目的を可能にするものである。これらは、従来技術の技術思想とは全く異なる新規な技術思想に基づくものである。この結果、給湯作用の向上による製品の品質改善と併せて大幅な溶湯削減が可能になり、省エネルギー、CO削減に大いに貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】 本発明の実施例1の押湯を示す図である。
図2】 従来技術の押湯を示す図である。
図3】 本発明の実施例2の押湯を示す図である。
図4】 本発明の実施例3の押湯を示す図である。
図5】 本発明の実施例4の凝固初期の押湯頂部の引け状態を示す図である。
図6】 本発明の実施例4の凝固完了時の押湯頂部の引け状態を示す図である。
図7】 本発明の実施例5の従来押湯に対する本願押湯の溶湯削減量を検討する図である。
図8】 本発明の実施例6の注湯完了時点の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明を実施例にもとづいて詳細に説明するが、これら実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例0029】
図1は本願手段1を用いた押湯の形状の一例を示したものである。本願押湯1は下部の熱源部2として球状体を用い、上部の静圧部3として細く高いテーパー状の円柱体を組合せた形状である。押湯の図の横に各部の形状寸法の関係を示している。押湯の最大径をD1、最小径をD2、高さをH1、熱源部2と静圧部3の接する部分の径をD3、静圧部の高さをH2、熱源部2の凝固モジュラスをMf、製品部(図示せず)の凝固モジュラスをMcとするとき、押湯の全体形状1は0.3≦D2/D1≦0.6、H1/D1≧1.5であり、熱源部2は0.8≦Mf/Mc≦1.7であり、静圧部3は0.4≦D3/D1≦0.8、H2/D3≧1である。
【0030】
熱源部2は製品部の凝固モジュラスMcに対応した凝固モジュラスをMfとしており、押湯1から製品部へつながる押湯ネック部4を適宜の時間保温して給湯を可能にしている。本例では、熱源部2に球状体を用いたが、これに近い楕円体を用いてもほぼ同じ効果を得ることができる。静圧部3は細く高くして溶湯圧を高めて給湯力を確保するとともに、凝固初期に押湯頂部5の湯面低下を早く大きくして早期に厚い空気層を発生させ、その断熱効果によって押湯頂部5を長く融液状態として大気圧を長時間作用させるようにしている。
【0031】
従来技術の一般的な押湯形状を図2に示す。通常、従来押湯6の下部7は本図のような半球状体又は円柱体で、上部8は同じ直径のテーパー状の円柱体で構成されている。このような従来押湯6の問題点は、本願押湯1に比べて、(1)押湯頂部9の平面が広いため、凝固初期の溶湯低下が小さく、薄い空気層しか発生できず、その断熱効果は小さいので、押湯頂部9を長く融液状態に保ち得ない。そのため、大気圧の作用する時間が短い。(2)上部の円柱体の部分に給湯に寄与しない無駄な体積が大きく給湯効率が低い、などがある。このような本願押湯1と従来押湯6の給湯の作用・効果の違いについては、実施例4で詳細に説明する。
【実施例0032】
図3は本願手段1を用いた押湯の形状の別の例を示したものである。本願押湯1は下部の熱源部2として円柱体を用い、上部の静圧部3として細く高いテーパー状の円柱体を組合せた形状である。押湯の図の横に図1と同様な各部の形状寸法の関係を示している。このように、熱源部2を円柱体としても同様な効果を得ることができる。図1の球状体の熱源部と本図の円柱体の熱源部では、球状体の方が単位体積当たりの凝固モジュラスが大きく給湯効率は高い。円柱体を用いるときは高さ/直径比が1に近い形状を使うことが望ましい。
【実施例0033】
図4は同じく本願手段1を用いた押湯の形状のもうひとつ別の例を示したものである。本図の本願押湯1は、図2の従来技術の押湯6の下部の直径Dに相当する高さまでを熱源部2として残し、上部(0.7Dの部分)の約半分10を削除して半円柱体の静圧部3としたものである。これによっても押湯頂部5は細くなり面積は半分になるので、実施例1、2と同じように押湯頂部5の凝固初期の湯面低下が早くかつ大きくなり、早期に厚い空気層が生じて断熱効果で同様な給湯作用を発現できる。この本願押湯1の形状で押湯体積は従来押湯6に比べて約20%削減できる。
【実施例0034】
図5は本願手段1を用いた押湯1と従来技術の押湯6の凝固初期の押湯頂部5と9の引け(湯面低下)を比較したものである。従来押湯6の場合には、押湯頂部9が広いため凝固にともなう湯面低下は小さく空気層12は薄い。これに対し本願押湯1では、押湯頂部5が狭くかつ静圧部が細いため凝固にともなう湯面低下が早くかつ大きく、空気層11は早期に厚くなる。この結果、押湯頂部5と9の空気層(引け量)11と12の厚さに差が生じ、その部分の断熱性の差となり、融液状態の保持時間は本願押湯1の方が長くなる。その結果、本願押湯1の方が長時間大気圧が作用し製品部への高い給湯作用が得られることになる。
【0035】
図6はさらに凝固が進んで凝固完了になったときの押湯頂部5、9からの引けの状態を示したものである。従来押湯6では引け14は上部に留まり引け量も小さく、押湯全体に占める引け量の割合も小さく無駄な体積が多い。これに比べ、本願押湯1の引け13は深く押湯下部まで入っており引け量も大きい。すなわち、無駄な体積部分が少なく給湯効率が高いことがわかる。従来押湯6でも鋳造条件によっては本図よりも大きな引け量となる場合もあるが、逆に引け量が小さくなる場合もありばらつきが大きい。
【実施例0036】
図7は従来押湯6に対する本願押湯1の溶湯削減量を検討した一例を示したものである。この例では、従来押湯6、本願押湯1とも、下部の直径Dと高さH(1.7D)は同一とし、押湯上部及び押湯頂部形状を変えたものでその体積、表面積、凝固モジュラスを比較した。
【0037】
従来押湯6及び本願押湯1の体積、表面積、凝固モジュラスをそれおれV1、S1、M1及びV2、S2、M2とすると、V1=1.24D、S1=6.28D、M1=0.198Dであり、V2=0.738D、S2=4.36D、M2=0.169Dである。したがって、V2/V1=0.59、S2/S1=0.69、M2/M1=0.85となり、本願押湯1は従来押湯に比べて41%の溶湯削減が可能となる。通常、押湯は全キャビティーの約30%を占めているので、全キャビティーに対しては約12%の鋳込量の削減である。
【0038】
ただし、凝固モジュラスは15%小さくなる。この低下分は上記に説明したように本願押湯1の押湯頂部5の凝固初期の引け量の増加による給湯作用の向上で補償されるので引け巣等の内部欠陥に影響はない。もし必要な場合には、押湯ネック部4の大きさを少し調整する程度でよい。本例は一例であるが、本願に規定する形状の押湯を用いることでこれと同様な溶湯削減効果を得ることができる。
【実施例0039】
図8は本願押湯と本願手段2を用いて鋳型キャビティーに溶湯を注湯した状態を示す。鋳型キャビティーは、製品部15、押湯16、湯道17、湯口18(湯口カップ19と湯口棒20からなる)から構成されている。従来技術では、全キャビティー体積分を鋳型上面22の湯口カップ19の一杯まで注湯するが、本手段では、注湯する体積を削減して減量注湯している。そのため、湯口18の湯面21は従来注湯よりも低くなっている。これによって、押湯頂部5にかかる溶湯圧は減少し溶湯を押湯頂部5に押付ける力が小さくなり、熱伝達が下がるため凝固が遅延され、融液状態が長く保たれる。その結果、大気圧が長時間作用して給湯作用がさらに高められる。
【0040】
このような高い給湯作用を発現させるために、注湯完了時点において、鋳型見切面23からの湯口18の湯面高さをH3、押湯頂部5の高さをH4、鋳型上面の高さをH5とするとき、H3-H4≦(H5-H4)/2であるようにした。これによって、押湯頂部5にかかる溶湯圧は通常注湯の場合の半分以下になり、確実に押湯頂部5の引けを誘発することができる。また、このように給湯作用が高められることと併せて、湯口18の溶湯削減も得られる。上記条件では、体積の大きな湯口カップ19は削除されて、湯口18の体積は半分以下に削減される。この場合、湯口18の溶湯体積は50%以上削減され、全キャビティーの体積に対して5%以上の鋳込量削減となる。
【符号の説明】
【0041】
1 本願押湯 2 熱源部 3 静圧部 4 湯口ネック部 5 押湯頂部 6 従来押湯 7 押湯下部 8 押湯上部 9 従来押湯の押湯頂部 10 削除した上部の約半分の部分 11 本願押湯の空気層 12 従来押湯の空気層 13 本願押湯の押湯頂部からの引け 14 従来押湯の押湯頂部からの引け 15 製品部 16 押湯 17 湯道 18 湯口 19 湯口カップ 20 湯口棒 21 湯面 22 鋳型上面 23 見切面 24 鋳型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄系溶湯を通気性鋳型に重力注湯する鋳造に用いる押湯であって、該押湯の形状は、下部は製品につながる押湯ネック部を適宜の時間保温する大きさの熱源部とし、上部は細く高くして給湯圧を高める静圧部とした組み合せ形状であって、該押湯の最大径をD1、最小径をD2、高さをH1、熱源部と静圧部の接する部分の径をD3、静圧部の高さをH2、熱源部の凝固モジュラスをMf、製品の凝固モジュラスをMcとするとき、押湯の全体形状は0.3≦D2/D1≦0.6、H1/D1≧1.5であり、熱源部は0.8≦Mf/Mc/≦1.7であり、静圧部は0.4≦D3/D1≦0.8、H2/D3≧1として、凝固初期に押湯頂部の湯面低下を早く大きくして鋳型との間に早期に厚い空気層を発生させ、その断熱効果で押湯頂部を長く融液状態として大気圧を長時間作用させることを特徴とする押湯。
【請求項2】
請求項1記載の押湯を用いて、鋳込量を全キャビティーの体積よりも減量して注湯することにより、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口の湯面高さをH3、押湯頂部の高さをH4、鋳型上面の高さをH5とするとき、H3-H4≦(H5-H4)/2として、押湯頂部に作用する溶湯圧を低くすることで、押湯頂部の凝固殻の形成を遅延させて融液状態を長く保持し、製品への押湯の給湯作用を高めることを特徴とする鋳造方法。