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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143632
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】樹脂部材、樹脂部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230928BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B32B27/00 C
B05D7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152552
(22)【出願日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022048142
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英昭
(72)【発明者】
【氏名】磯村 哲子
(72)【発明者】
【氏名】細羽 孝好
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075AE03
4D075AE05
4D075AE06
4D075BB24Z
4D075BB28Z
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA23
4D075DB36
4D075DC01
4D075DC08
4D075DC13
4D075DC18
4D075DC21
4D075EA05
4D075EA06
4D075EA27
4D075EB22
4D075EB38
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03A
4F100AL09A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CC00C
4F100EH46C
4F100EJ65B
4F100GB31
4F100JB16A
4F100JG01B
(57)【要約】
【課題】樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えるのに有効な技術を提供する。
【解決手段】実施形態1の樹脂部材10は、樹脂基材21と塗装膜40とプライマー層31からなり樹脂基材21と塗装膜40との間にプライマー層31が介在するように積層された積層部11を有し、プライマー層31は、樹脂基材21と塗装膜40の双方との密着性を有する樹脂フィルム30が樹脂基材21に接合されてなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と塗装膜とプライマー層からなり上記樹脂基材と上記塗装膜との間に上記プライマー層が介在するように積層された積層部を有し、
上記プライマー層は、上記樹脂基材と上記塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムが上記樹脂基材に接合されてなる、樹脂部材。
【請求項2】
上記樹脂フィルムは、静電塗装時に塗料を引き付ける導電性を有する、請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
上記樹脂基材は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる、請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項4】
上記積層部は、上記樹脂基材を第1樹脂基材としたとき、上記第1樹脂基材と上記塗装膜と上記プライマー層からなり上記第1樹脂基材と上記塗装膜との間に上記プライマー層が介在するように積層された第1積層部であり、
上記第1積層部に加えて、上記塗装膜と上記塗装膜に対する密着性を有する第2樹脂基材とが互いに積層された第2積層部を有する、請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項5】
上記第1積層部と上記第2積層部が互いに隣接して設けられている、請求項4に記載の樹脂部材。
【請求項6】
上記第1積層部と上記第2積層部の境界領域には、上記塗装膜と、上記第2樹脂基材と、上記第1積層部の上記プライマー層が上記第2積層部側に延出したプライマー層端部と、からなり、上記塗装膜と上記第2樹脂基材との間に上記プライマー層端部が介在する境界積層部が設けられている、請求項4に記載の樹脂部材。
【請求項7】
上記第1積層部と上記第2積層部の境界領域には、上記塗装膜と、上記第1積層部の上記第1樹脂基材によって構成された第1延出部と、上記第2積層部の上記第2樹脂基材によって構成された第2延出部と、からなり、上記塗装膜と上記第1延出部の間に上記第2延出部が介在する境界積層部が設けられている、請求項4に記載の樹脂部材。
【請求項8】
上記第1積層部と上記第2積層部の境界領域には、上記塗装膜と、上記第1積層部の上記第1樹脂基材によって構成された第1延出部と、上記第2積層部の上記第2樹脂基材によって構成された第2延出部と、上記第1積層部の上記プライマー層のプライマー層端部と、からなる境界積層部が設けられており、
上記境界積層部の上記第1積層部側には、上記塗装膜と上記第1延出部の間に上記プライマー層端部及び上記第2延出部が介在し且つ上記プライマー層端部が上記塗装膜側に位置する第1境界積層部が形成され、上記境界積層部の上記第2積層部側には、上記塗装膜と上記第1延出部の間に上記第2延出部のみが介在する第2境界積層部が形成されている、請求項4に記載の樹脂部材。
【請求項9】
上記樹脂フィルムと上記第2樹脂基材はともに、静電塗装時に塗料を引き付ける導電性を有する、請求項4~8のいずれか一項に記載の樹脂部材。
【請求項10】
樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムを上記樹脂基材に貼り付けて上記樹脂基材の表面にプライマー層を形成するフィルム貼り付けステップと、
上記プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する塗装ステップと、
を有する、樹脂部材の製造方法。
【請求項11】
上記塗装ステップは、上記樹脂基材と上記塗料との間に静電界をつくり塗装を行う静電塗装であり、上記樹脂フィルムは、静電塗装時に上記塗料を引き付ける導電性を有する、請求項10に記載の、樹脂部材の製造方法。
【請求項12】
上記樹脂基材は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる、請求項10または11に記載の、樹脂部材の製造方法。
【請求項13】
固定金型の内面に樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムを追従させるフィルム賦形ステップと、
上記固定金型と可動金型の型締めによって射出空間を形成する型締めステップと、
第1樹脂基材と塗装膜に対する密着性を有する第2樹脂基材のそれぞれを溶融状態で上記射出空間に異なる位置から射出して、上記第1樹脂基材の表面に上記樹脂フィルムが貼合されてプライマー層が形成された第1成形部と、上記第2樹脂基材の表面に上記樹脂フィルムが貼合されていない第2成形部と、を有する成形体を成形する射出成形ステップと、
上記成形体の上記第1成形部及び上記第2成形部の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する塗装ステップと、
を有する、樹脂部材の製造方法。
【請求項14】
上記塗装ステップは、上記第1樹脂基材及び上記第2樹脂基材と上記塗料との間に静電界をつくり塗装を行う静電塗装であり、上記樹脂フィルムと上記第2樹脂基材はともに、静電塗装時に塗料を引き付ける導電性を有する、請求項13に記載の、樹脂部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体のバンパーなどに使用される樹脂部材として、樹脂基材に静電塗装が施されたものが知られている。この樹脂部材を製造する際、樹脂基材と意匠面を形成する塗装膜との密着性が低いような場合には、樹脂基材と塗装膜との間にプライマー層と称される密着層を設けるのが好ましい。このようなプライマー層は、樹脂基材と塗料が互いに密着性の低い組み合わせであっても、樹脂基材の表面側に意匠面となる塗装膜を保持する機能を果たす。この機能を実現するために、樹脂基材と塗料の密着性を高めるとともに、静電塗装に必要な導電性を付与する機能を有するプライマー塗料が使用される。
【0003】
下記特許文献1には、このようなプライマー層を形成するための技術が開示されている。この技術によれば、先ず、樹脂基材の表面にプライマー塗料を吹き付ける吹付処理が実施される。その後、樹脂基材の表面に施されたプライマー塗料の塗膜を乾燥させる乾燥処理が実施される。そして、引き続いて、プライマー層に対してベース塗料の吹付処理及び乾燥処理を行い、さらにクリア塗料の吹付処理及び焼付処理を行う。これにより、車体のバンパーのような樹脂部材を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8-500520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、樹脂基材の表面にプライマー層を形成するには、プライマー塗料の吹付処理及び乾燥処理を行うための各工程が必要になる。このため、これらの工程を実施するための高価な設備とその設置スペースが必要になるとともに多くの消費エネルギーを要する。また、樹脂基材の表面にプライマー層を形成する代わりに、樹脂基材自体に密着性及び導電性を付与するための材料を添加することも想定されるが、この場合には、樹脂基材自体の製造コストが高くなるうえに剛性などの樹脂基材の本来の基本性能を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えるのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
樹脂基材と塗装膜とプライマー層からなり上記樹脂基材と上記塗装膜との間に上記プライマー層が介在するように積層された積層部を有し、
上記プライマー層は、上記樹脂基材と上記塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムが上記樹脂基材に接合されてなる、樹脂部材、
にある。
【0008】
本発明の別態様は、
樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムを上記樹脂基材に貼り付けて上記樹脂基材の表面にプライマー層を形成するフィルム貼り付けステップと、
上記プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する塗装ステップと、
を有する、樹脂部材の製造方法、
にある。
【0009】
本発明の別態様は、
固定金型の内面に樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムを追従させるフィルム賦形ステップと、
上記固定金型と可動金型の型締めによって射出空間を形成する型締めステップと、
第1樹脂基材と塗装膜に対する密着性を有する第2樹脂基材のそれぞれを溶融状態で上記射出空間に異なる位置から射出して、上記第1樹脂基材の表面に上記樹脂フィルムが貼合されてプライマー層が形成された第1成形部と、上記第2樹脂基材の表面に上記樹脂フィルムが貼合されていない第2成形部と、を有する成形体を成形する射出成形ステップと、
上記成形体の上記第1成形部及び上記第2成形部の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する塗装ステップと、
を有する、樹脂部材の製造方法、
にある。
【発明の効果】
【0010】
上述の態様の樹脂部材によれば、樹脂基材と塗装膜との間にプライマー層が設けられている。このプライマー層は、樹脂フィルムが樹脂基材に接合されることによって形成されている。樹脂フィルムは、樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有するものである。このため、プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成するときに、樹脂基材と塗装膜を強固に接合することができる。
【0011】
上述の別態様の、樹脂部材の製造方法によれば、フィルム貼り付けステップにおいて、樹脂フィルムを樹脂基材に貼り付けてプライマー層を形成する。その後、塗装ステップにおいて、プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する。このとき、樹脂フィルムは、樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有するものである。このため、プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成するときに、樹脂基材と塗装膜を強固に接合することができる。これにより、樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造できる。
【0012】
上述の別態様の、樹脂部材の製造方法によれば、フィルム賦形ステップにおいて、樹脂フィルムを固定型の内面に追従させる。型締めステップにおいて、この固定金型と可動金型で型締めして射出空間を形成した後、射出成形ステップにおいて、第1樹脂基材と塗装膜に対する密着性を有する第2樹脂基材のそれぞれを溶融状態で射出空間に異なる位置から射出して成形体を成形する。この成形体は、第1樹脂基材の表面に樹脂フィルムが貼合されてプライマー層が形成された第1成形部と、第2樹脂基材の表面に樹脂フィルムが貼合されていない第2成形部と、を有する。塗装ステップにおいて、成形体の第1成形部及び第2成形部の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成する。樹脂フィルムは、樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有するものである。このため、プライマー層の表面を塗料で塗装して塗装膜を形成するときに、第1成形部の第1樹脂基材と塗装膜とを強固に接合することができる。これにより、第1樹脂基材及び第2樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造できる。
【0013】
上述の各態様では、樹脂基材に対して樹脂フィルムを使用してプライマー層を形成するようにしている。このため、プライマー塗料の吹付処理と乾燥処理を行う工程を経てプライマー層を形成するようなプライマー塗装が不要になる。プライマー塗装を行うときには、高価な設備、その設備のための設置スペース、エネルギー消費量が多い工程が必要であるのに比べて、塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを削減することが可能になる。
【0014】
以上のごとく、上述の各態様によれば、樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1の樹脂部材の断面図。
図2】実施形態1の樹脂部材の製造手順を示すフローチャート。
図3図2中のフィルム貼り付け処理の手順を示すフローチャート。
図4図3中の第1ステップの工程を模式的に示す図。
図5図3中の第2ステップの工程を模式的に示す図。
図6図3中の第3ステップの工程を模式的に示す図。
図7図3中の第4ステップの工程を模式的に示す図。
図8図3中の第5ステップの工程を模式的に示す図。
図9図3中の第6ステップの工程を模式的に示す図。
図10】実施形態2の樹脂部材の断面図。
図11】実施形態2の樹脂部材の製造手順を示すフローチャート。
図12図11中の成形処理の手順を示すフローチャート。
図13図12中の第1ステップ及び第2ステップの工程を模式的に示す図。
図14図12中の第3ステップの工程を模式的に示す図。
図15図12中の第4ステップの工程を模式的に示す図。
図16図12中の第6ステップの工程を模式的に示す図。
図17】実施形態3の樹脂部材の断面図。
図18】実施形態4の樹脂部材の断面図。
図19】実施形態4の樹脂部材の製造方法に関して図15に対応した図。
図20】実施形態5の樹脂部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0017】
上述の態様の樹脂部材において、上記樹脂フィルムは、静電塗装時に塗料を引き付ける導電性を有するのが好ましい。
【0018】
この樹脂部材によれば、樹脂フィルムが有する導電性によって、静電塗装時における塗料の塗着効率を高めることができる。このため、塗料のロスを少なく抑えることによって使用する塗料を節減できる。
【0019】
上述の態様の樹脂部材において、上記樹脂基材は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなるのが好ましい。
【0020】
オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂基材は、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)のような材料からなる樹脂基材に比べて、軽量性及びリサイクル性に優れる一方で、ABS樹脂に対して一般的に使用する塗料が密着しにくい。このため、樹脂基材と塗装膜の双方との密着性を有する樹脂フィルムを使用することにより、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂基材を使用した場合でも、樹脂基材と塗装膜を強固に接合することができる。したがって、軽量性及びリサイクル性に優れた樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えることができる。
【0021】
上述の態様の、樹脂部材の製造方法において、上記塗装ステップは、上記樹脂基材と上記塗料との間に静電界をつくり塗装を行う静電塗装であり、上記樹脂フィルムは、上記静電塗装時に上記塗料を引き付ける導電性を有するのが好ましい。
【0022】
この製造方法によれば、樹脂フィルムが有する導電性によって、塗装ステップの静電塗装時における塗料の塗着効率を高めることができる。このため、塗料のロスを少なく抑えることによって使用する塗料を節減できる。
【0023】
上述の態様の、樹脂部材の製造方法において、上記樹脂基材は、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなるのが好ましい。
【0024】
この製造方法によれば、軽量性及びリサイクル性に優れた樹脂基材の塗装品である樹脂部材を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えることができる。
【0025】
以下、上述の態様の、樹脂部材及び樹脂部材の製造方法の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1の樹脂部材10は、樹脂材料からなる樹脂基材21に塗装が施されてなる部材である。樹脂部材10は、自動車用の各種の樹脂部品(例えば、車体のバンパー、カバー、ボデーなど)として構成されている。
【0027】
樹脂部材10は、図1の断面構造が参照されるように、概して、樹脂基材21と塗装膜40とプライマー層31とからなり、樹脂基材21と塗装膜40との間にプライマー層31が介在するように積層された積層部11を有する。樹脂基材21の被覆面である表面21aにプライマー層31が設けられており、このプライマー層31の表面32に塗装膜40が設けられている。
【0028】
<樹脂基材の構造>
樹脂基材21は、三次元形状を有するものであり、樹脂材料によって構成されている。樹脂材料の種類は特に限定されるものではないが、自動車用の樹脂基材に適用する場合には、軽量性及びリサイクル性に優れたオレフィン系熱可塑性エラストマーを樹脂材料として使用するのが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレンの中に、エチレン-プロピレンゴム(EPDM、EPM)を微分散させたものである。この樹脂材料として、例えば、「TSOP(トヨタスーパーオレフィンポリマー)」と称されるものや、FRPと称される繊維強化プラスチックなどが挙げられる。
【0029】
<塗装膜の構造>
塗装膜40は、プライマー層31に対する上塗り塗装として形成されている。この塗装膜40は、プライマー層31側の第1層41と、第1層41を間に挟んでプライマー層31とは反対側の第2層42と、からなる。第1層41は、既知のアクリル系のベース塗料からなるベース塗装膜である。第2層42は、既知のアクリル/ウレタン系(二液硬化型)のクリア塗料からなるクリア塗装膜である。このため、塗装膜40を形成する塗料Aは、ベース塗装膜及びクリア塗料によって構成されている。
【0030】
<プライマー層の構造>
プライマー層31は、可撓性を有する薄肉の樹脂フィルム30が樹脂基材21に貼り付けられたときのフィルム層(樹脂基材21に対する積層部)である。このため、プライマー層31は樹脂フィルム30が樹脂基材21に接合されてなる。ここでいう「接合」とは「貼り付け」や「貼合」などを広く包含する主旨である。樹脂フィルム30は、樹脂基材21と塗装膜40の双方に対する密着性(すなわち、樹脂基材21と塗装膜40の間に介在することによって樹脂基材21に塗装膜40を密着させ易くする塗膜密着特性)を持つうえ、静電塗装時に塗料Aを引き付ける導電性を兼ね備えている。このため、プライマー層31は、樹脂フィルム30が樹脂基材21に貼り付けられる前に樹脂フィルム30自体が有する特性である密着性及び導電性を踏襲する層である。なお、樹脂フィルム30の厚みは特に限定されないが、一例として、30~300[μm]程度の厚みのフィルムを使用することができる。
【0031】
樹脂フィルム30は、既知のプライマー塗料の成分を含有するものである。プライマー塗料の成分を原料として薄肉のフィルム状に成形することにより樹脂フィルム30を得ることができる。なお、プライマー塗料の成分は特に限定されるものではないが、例えば、特開2021-115488号公報に開示の「水性プライマー塗料」の成分を参照することができる。この場合、この樹脂フィルム30の一例として、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ブロックポリイソシアネート化合物、ジエステル化合物及び有機着色顔料が含まれたものを使用することができる。
【0032】
具体的な材料として、例えば、塩素化ポリオレフィン系導電プライマーをフィルム化した材料、ポリオレフィン系樹脂にカーボンブラック・カーボンナノチューブ等の導電性フィラーと、水酸基等を持つ極性樹脂と、を配合してフィルム化した材料、ポリオレフィン系樹脂やPVC樹脂等をフィルム化した基材に、塗膜密着性及び導電性を有する材料をコーティングしたフィルム材料などを使用することができる。
【0033】
既知のプライマー塗料の成分を含有する樹脂フィルム30を使用することにより、プライマー塗料でプライマー層31を形成した場合と同等の塗装品質を確保することが可能になる。
【0034】
次に、図2図9を参照しながら、実施形態1の樹脂部材10の製造方法について説明する。
【0035】
図2に示されるように、この製造方法は、ステップS100からステップS150までの各処理を順次実行することによって可能になる。なお、これらのステップに対して、必要に応じて1または複数のステップが追加されてもよいし、或いは複数のステップが統合されてもよい。
【0036】
ステップS100は、予め準備された樹脂基材21の前処理を行うステップである。このステップS100によれば、樹脂基材21の表面に高圧空気を吹き付けることによって、その表面に付着している塵や汚れなどが除去される。
【0037】
ステップS110は、樹脂フィルム30を樹脂基材21に貼り付けるフィルム貼り付処理を行うフィルム貼り付けステップである。このステップS110によれば、樹脂基材21の表面21aに、プライマー層31となる樹脂フィルム30が貼り付けられる(図1を参照)。
【0038】
ステップS120からステップS150までのステップは、ステップS110で樹脂フィルム30によって形成されたプライマー層31の表面32を塗料で塗装する塗装ステップである。特に、ステップS120及びステップS130は、ベース塗料を使用した塗装ステップであり、ステップS140及びステップS150は、クリア塗料を使用した塗装ステップである。
【0039】
上記の塗装ステップは、樹脂基材21と塗料との間に静電界をつくり塗装を行う既知の静電塗装における静電作用を利用したものである。ここでいう「静電塗装」とは、特に図示しないものの、接地した樹脂基材21を正極とし、塗料噴霧装置(図示省略)を負極として、直接高電圧をかけて両極間に静電界をつくり、塗料微粒子を負に帯電させて塗装する方法をいう。
【0040】
塗料噴霧装置から帯電した状態の塗料微粒子が噴霧されると、この塗料微粒子は静電界の電気力線に沿って飛行する。そして、この塗料微粒子は、樹脂基材21側に引き付けられて付着することによって塗装膜を形成する。このような静電塗装は、塗料ミストの飛散が少なく且つ塗料の塗着効率が高いため、使用する塗料が節減できる大量生産に適している。また、塗料が微粒化し、気泡のない美しい意匠面の仕上がりが可能であり、且つ作業効率が高いという利点がある。
【0041】
ステップS120のベース塗装処理によれば、塗料噴霧装置からプライマー層31の表面32に向けてベース塗料が噴霧される。このとき、上述の静電作用に加えて、樹脂フィルム30が有する導電性を利用することによって、静電塗装時におけるベース塗料の塗着効率を高めることができる。このため、ベース塗料のロスを少なく抑えることによって使用するベース塗料を節減できる。その後、ステップS130の乾燥処理によれば、プライマー層31の表面32にベース塗料による第1層41が形成される(図1を参照)。
【0042】
なお、必要に応じて、ステップS120を複数回繰り返すようにしてもよい。また、ベース塗料が水性塗料でない場合には、ステップS130の乾燥処理を省略することもできる。
【0043】
ステップS140のクリア塗装処理によれば、塗料噴霧装置から第1層41の表面41aに向けてクリア塗料が噴霧される。このとき、上述の静電作用に加えて、樹脂フィルム30が有する導電性を利用することによって、静電塗装時におけるクリア塗料の塗着効率を高めることができる。このため、クリア塗料のロスを少なく抑えることによって使用するクリア塗料を節減できる。その後、ステップS150の焼付処理により、第1層41の表面41aにクリア塗料による第2層42が形成される(図1を参照)。
【0044】
上記のステップS110は、例えば、図3に示される第1ステップS111から第6ステップS116までの処理を順次実行することによって可能になる。また、これらの処理を、後述のフィルム貼り付け装置1を使用して実行することができる。なお、これらの処理については、1つのステップに必要に応じて1または複数のステップが追加されてもよいし、或いは複数のステップが統合されてもよい。
【0045】
図4に示されるように、図3中の第1ステップS111は、樹脂基材21及び樹脂フィルム30を、フィルム貼り付け装置1の下ボックス2にセットするステップである。下ボックス2は、樹脂基材21を収容するための下部空間2aと、上ボックス5(図5を参照)との固定のためのフランジ部2bと、ロッド4を挿通するための挿通穴2cと、を有する。下ボックス2の下部空間2aには、ロッド4によって上下方向Xに昇降動作可能なテーブル3が配置されている。ロッド4は、アクチュエータ(図示省略)を駆動源として上下方向Xに往復動可能とされている。
【0046】
第1ステップS111によれば、初期位置P1に設定されているテーブル3上に受け治具3aが先にセットされ、その後に受け治具3aに樹脂基材21が載せられて位置決めされることにより、樹脂基材21が下ボックス2にセットされる。樹脂フィルム30は、テーブル3上に置かれた樹脂基材21を上方から覆うようにしてフランジ部2bに係合することにより下ボックス2にセットされる。このとき、樹脂フィルム30は、その外縁部30aがフランジ部2bによって下方から支持された状態で下ボックス2に対して位置決めされる。
【0047】
図5に示されるように、図3中の第2ステップS112は、真空引きを行うステップである。先ず、下ボックス2のフランジ部2bと上ボックス5のフランジ部5bとを互いに突き合わせた状態で固定部材(図示省略)によって固定する。上ボックス5は、下ボックス2の下部空間2aに連通する上部空間5aと、ボックス内部に設けられた加熱装置6と、を有する。
【0048】
下ボックス2と上ボックス5が互いに固定された状態で、上ボックス5の上部空間5aを真空ポンプなどの吸引装置(図示省略)で真空引きする。このときの真空条件は特に限定されないが、一例として、上ボックス5の上部空間5aが-100[kPa]程度の減圧状態となるような真空条件を採用することができる。
【0049】
図6に示されるように、図3中の第3ステップS113は、樹脂フィルム30を加熱するステップである。先ず、加熱装置6を作動させて樹脂フィルム30の加熱を開始する。これにより、樹脂フィルム30は加熱によって軟化し始める。
【0050】
その後、樹脂フィルム30が所定温度になったら、ロッド4を上方へ駆動する。これにより、テーブル3が初期位置P1から突き上げ位置P2まで上昇する。上ボックス5の上部空間5aの減圧状態で樹脂フィルム30を加熱することによって、樹脂基材21の表面21aに倣うように樹脂フィルム30を容易に軟化させることができる。
【0051】
加熱装置6は、樹脂フィルム30の表面のみを加熱できる小型のものを使用するのが好ましい。これにより、加熱装置6によるエネルギー消費量を低く抑えることができる。なお、加熱装置6として、ファンヒータ、赤外線ヒーター、ドライヤーなどを適宜に採用することができる。
【0052】
図7に示されるように、図3中の第4ステップS114は、樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30を圧着させるステップである。上ボックス5の上部空間5aの密閉を解除することによって大気圧開放を行う。このときの急激な圧力変動と、樹脂フィルム30の冷却による収縮作用と、を利用して、樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30を圧着させることができる。このとき、可撓性を有する樹脂フィルム30が三次元形状を有する樹脂基材21の表面21aの全体に倣うように貼り付けられる。これにより、樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30が貼り付けられた成形体Mが得られる。
【0053】
なお、この第4ステップS114では、必要に応じて、大気圧から更なる高圧状態まで加圧するようにしてもよい。これにより、樹脂フィルム30の圧着効果を更に高めることが可能になる。また、この第4ステップS114では、必要に応じて、大気圧開放と同時に樹脂フィルム30を加熱するようにしてもよい。これにより、樹脂フィルム30の温度低下が要因で圧着力が低下するのを抑制できる。また、樹脂基材21の表面21aと樹脂フィルム30との少なくとも一方に予め接着剤を塗布するようにしてもよい。
【0054】
図8に示されるように、図3中の第5ステップS115は、フィルム貼り付け装置1から成形体Mを取り出すステップである。下ボックス2に対して上ボックス5を上昇させた後、テーブル3上に形成された成形体Mを取り出す。
【0055】
図9に示されるように、図3中の第6ステップS116は、成形体Mにおいて余分な樹脂フィルム30のトリミングを行うステップである。樹脂フィルム30の余り部分30bを切断用治具Cでカットする。この第6ステップS116によれば、成形体Mから樹脂フィルム30の余り部分30bが除去された成形体Maが得られる。そして、この成形体Maに前述のステップS120からステップS150までの塗装処理を施すことにより、樹脂部材10(図1を参照)が得られる。
【0056】
フィルム貼り付け装置1は、極力小型のものであるのが好ましい。これにより、フィルム貼り付け装置1に要する初期投資を低減できる。
【0057】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0058】
実施形態1の樹脂部材10は、樹脂基材21と塗装膜40との間にプライマー層31を備える。このプライマー層31は、フィルム貼り付けステップS110において、樹脂フィルム30が樹脂基材21の表面21aに貼り付けられることによって形成されている。その後、ステップS120からステップS150までの塗装処理において、プライマー層31の表面32を塗料Aで塗装して塗装膜40を形成する。樹脂フィルム30は、樹脂基材21と塗装膜40の双方との密着性を有するものである。このため、プライマー層31の表面32を塗料Aで塗装して塗装膜40を形成するときに、樹脂基材21と塗装膜40を強固に接合することができる。これにより、樹脂基材21の塗装品である樹脂部材10を製造できる。
【0059】
上述のように、実施形態1では、樹脂基材21への樹脂フィルム30の貼り付けによってプライマー層31を形成するようにしている。このため、プライマー塗料の吹付処理と乾燥処理を行う工程を経てプライマー層を形成するプライマー塗装が不要になる。プライマー塗装を行うときには、高価な設備、その設備のための設置スペース、エネルギー消費量が多い工程が必要であるのに比べて、塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを削減することが可能になる。
【0060】
また、実施形態1の場合には、樹脂基材21自体に密着性及び導電性を付与するための材料を添加する必要がなく、この添加によって樹脂基材21の剛性などの本来の基本性能が低下するのを防ぐことができる。
【0061】
加えて実施形態1の場合には、プライマー塗装に必要なエネルギー消費量を少なく抑えることができ、塗装工程からの二酸化炭素の排出量を抑制することが可能になる。
【0062】
したがって、実施形態1によれば、樹脂基材21の塗装品である樹脂部材10を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを低く抑えることが可能になる。
【0063】
実施形態1によれば、樹脂基材21と塗装膜40の双方との密着性を有する樹脂フィルム30を使用することにより、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂基材21を使用した場合でも、樹脂基材21と塗装膜40を強固に接合することができる。したがって、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)のような材料からなる樹脂基材に比べて軽量性及びリサイクル性に優れた樹脂基材21の塗装品である樹脂部材10を製造するときに塗装に必要な設備コストと塗装時の消費エネルギーを削減することができる。
【0064】
実施形態1では、プライマー塗料を使用する代わりに、樹脂基材21に樹脂フィルム30を貼り付けることよってプライマー層31を形成するようにしている。プライマー塗料を使用すると、塗装ブースの吸排気管理及び温湿度管理をはじめ、塗膜の乾燥処理、架橋反応のための加熱処理などに起因する二酸化炭素の排出量が問題になるが、実施形態1によれば、このような問題に対して二酸化炭素の排出量を削減できるという作用効果を奏する。
【0065】
実施形態1によれば、プライマー塗料を使用した場合と同様の性能を有する樹脂部材10を得ることができる。
【0066】
実施形態1によれば、樹脂部材10がプライマー層31に塗装処理を施されたものであるため、この樹脂部材10とこれに隣接して設けられる車体構成部との色調を同様に合わせることが可能である。
【0067】
次に、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0068】
(実施形態2)
図10に示されるように、実施形態2の樹脂部材10Aは、2種類の樹脂基材21,22を使用している点で、1種類の樹脂基材21のみを使用している、実施形態1の樹脂部材10と相違している。
【0069】
樹脂部材10Aは、その端部10aが屈曲形状をなしている。端部10aがこのような屈曲形状を有する場合、その屈曲形状が要因で端部10aにまで樹脂フィルム30を貼り付けるのが難しい。そこで、本形態は、樹脂フィルム30を貼り付けるのが難しい形状を有する樹脂部材に対して有効な技術であり、樹脂部材10Aの端部10a以外の部位に樹脂フィルム30を貼合し、樹脂部材10Aの端部10aには樹脂フィルム30を貼合しないようにしている。そして、その代わりに、第1樹脂基材21とは別に、樹脂フィルム30と同様の機能を有する第2樹脂基材22を準備し、この第2樹脂基材22を使用して端部10aを構築している。
【0070】
すなわち、本形態の第2樹脂基材22は、第1樹脂基材21とは異なり、塗装膜40に対する塗膜密着性と、静電塗装時に塗料を引き付ける導電性と、を兼ね備えた樹脂材料によって構成されている。本構成によれば、樹脂フィルム30を使用することが困難な部位に対しても、この樹脂フィルム30と同様の機能を第2樹脂基材22に付与することで対応できる。
【0071】
第2樹脂基材22の樹脂材料の具体例として、例えば、ポリプロピレン系樹脂にカーボンブラック・カーボンナノチューブ等の導電性フィラーと、水酸基等を持つ極性樹脂と、を配合した材料、ポリプロピレン系樹脂にポリエチレンオキサイド系導電剤と、末端に水酸基を持つポリオレフィン系オリゴマーと、を配合した材料などが挙げられる。
【0072】
なお、本形態の第2樹脂基材22は、第1樹脂基材21に樹脂フィルム30と同様の機能を付与するための別材料を添加したものであるため、第1樹脂基材21に比べて剛性が低い。また、この第2樹脂基材22は、第1樹脂基材21に比べて材料コストが高い。
【0073】
ここで、図10の下部には、樹脂部材10Aの端部10aの断面構造を明確に説明するための図面が便宜的に示されている。以下、樹脂部材10Aの屈曲状の端部10aの構造を仮想的に直線状であるものとして説明する。
【0074】
樹脂部材10Aは、第1積層部11及び第2積層部12を有する。第1積層部11と第2積層部12が互いに隣接して設けられている。第1積層部11は、第1樹脂基材21と塗装膜40とプライマー層31からなり第1樹脂基材21と塗装膜40との間にプライマー層31が介在するように積層された積層部である。これに対して、第2積層部12は、塗装膜40と第2樹脂基材22が互いに積層された積層部である。
【0075】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0076】
次に、図11図16を参照しながら、実施形態2の樹脂部材10Aの製造方法について説明する。
【0077】
図11に示されるように、この製造方法は、ステップS210からステップS250までの各処理を順次実行することによって可能になる。なお、これらのステップに対して、必要に応じて1または複数のステップが追加されてもよいし、或いは複数のステップが統合されてもよい。
【0078】
ステップS210は、成形処理を行う成形処理ステップである。ステップS220からステップS250までのステップは、実施形態1のステップS120からステップS150までのステップと同様に、静電塗装を利用して、成形体M(図16を参照)の表面に塗装を施す塗装ステップである。特に、ステップS220及びステップS230は、ベース塗料を使用した塗装ステップであり、ステップS240及びステップS250は、クリア塗料を使用した塗装ステップである。
【0079】
上記のステップS210は、例えば、図12に示される第1ステップS211から第6ステップS216までの処理を順次実行することによって可能になる。なお、これらの処理については、1つのステップに必要に応じて1または複数のステップが追加されてもよいし、或いは複数のステップが統合されてもよい。
【0080】
図13に示されるように、図12中の第1ステップS211は、樹脂フィルム30を固定金型D1に対して初期位置(図13の二点鎖線で示される平坦状の位置を参照)にセットするフィルムセットステップである。また、図12中の第2ステップS212は、真空成形により固定金型D1の内面に樹脂フィルム30に追従させるフィルム賦形ステップである。この第2ステップS212によれば、樹脂フィルム30が固定金型D1の内面形状に追従した状態で保持される。
【0081】
図14及び図15に示されるように、図12中の第3ステップS213は、固定金型D1と可動金型D2,D3の型締めによって射出空間Sを形成する型締めステップである。可動金型D3は、可動金型D2に対してスライド可能なスライドコアである。射出空間Sは、樹脂フィルム30と可動金型D2,D3のそれぞれの内面とによって区画形成された空間である。
【0082】
図15に示されるように、図12中の第4ステップS214は、第1樹脂基材21と第2樹脂基材22のそれぞれを溶融状態で射出空間Sに異なる位置から射出して充填し、成形体M(図16を参照)を成形する射出成形ステップである。溶融状態の第1樹脂基材21は、可動型D2に設けられた第1流路R1を通じて射出空間Sに充填される。溶融状態の第2樹脂基材22は、第1樹脂基材21の充填に続いて概ね同時並行して、可動型D3に設けられた第2流路R2を通じて射出空間Sに充填される。第1樹脂基材21と第2樹脂基材22は、それぞれが独立して射出空間Sに充填される。このとき、第1樹脂基材21と第2樹脂基材22のそれぞれの充填開始のタイミング、射出速度、射出圧力などの運転パラメータは、樹脂部材10Aの所望の積層構造を実現するように適宜に設定される。
【0083】
図12中の第5ステップS215は、射出成形終了後に型締めを解除して、成形体Mを取り出すステップである。このときに得られる成形体Mは、図16に示されるように、互いに横並びに配置された第1成形部M1と第2成形部M2を有する。第1成形部M1は、第1樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30が貼合されてプライマー層31が形成された部位である。これに対して、第2成形部M2は、第2樹脂基材22の表面22aに樹脂フィルム30が貼合されていない部位である。ここで、第2成形部M2にはプライマー層31が形成されていないが、前述のように第2樹脂基材22自体が樹脂フィルム30と同様の機能を有するため、第2樹脂基材22からなる第2成形部M2は、塗装時において第1成形部M1と同様に塗膜付着性及び導電性を有する。
【0084】
図16に示されるように、図12中の第6ステップS216は、成形体Mにおいて余分な樹脂フィルム30のトリミングを行うステップである。樹脂フィルム30の余り部分30bを切断用治具Cでカットする。この第6ステップS216によれば、成形体Mから樹脂フィルム30の余り部分30bが除去された成形体Maが得られる。そして、この成形体Maに前述のステップS220からステップS250までの塗装処理を施すことにより、樹脂部材10A(図10を参照)が得られる。特に図示しないものの、この塗装処理では、第1樹脂基材21及び第2樹脂基材22と塗料との間に静電界をつくり、実施形態1の場合と同様の静電塗装を行う。
【0085】
成形体Maに塗装処理を施すことによって、第1成形部M1と第2成形部M2のそれぞれの表面に塗装膜が形成されて樹脂部材10Aとなる。このとき、第1成形部M1は、プライマー層31の表面に塗装膜40が形成されることによって第1積層部11となる。また、第2成形部M2は、第2樹脂基材22の表面22aに塗装膜40が形成されることによって第2積層部12となる。
【0086】
実施形態2によれば、屈曲形状などの要因で樹脂フィルム30の貼り付けが難しい端部10aを有する樹脂部材10Aを製造するとき、その端部10aを樹脂フィルム30と同様の機能を有する第2樹脂基材22で構築することができる。これにより、樹脂部材10Aの塗装面全体にわたって塗膜密着性及び導電性を確保することができる。なお、本形態は、端部以外であっても樹脂フィルム30の貼り付けが難しい複雑な形状の部位を有する樹脂部材に対して有効であることは勿論である。
【0087】
実施形態2によれば、2種類の樹脂基材21,22を使用し成形体Mの第1成形部M1と第2成形部M2を概ね同時並行で射出成形するため、第1成形部M1と第2成形部M2を順次成形する場合に比べて、成形に要するサイクルタイムを短く抑えることが可能になる。
【0088】
実施形態2によれば、第1積層部11と第2積層部12が互いに隣接して設けられており、第1積層部11と第2積層部12の間に別の積層部が介在していないため、樹脂部材10Aの構造を簡素化することができる。
【0089】
実施形態2によれば、比較的簡単な最小限の金型構造を使用して樹脂部材10Aを製造することが可能になる。
【0090】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0091】
なお、実施形態2の樹脂部材10Aの製造方法で使用する射出成形を実施形態1の樹脂部材10の製造方法に使用することもできる。すなわち、実施形態1では、予め成形された樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30を貼り付ける場合について例示したが、実施形態1の変更例では、射出成形によって樹脂基材21の表面21aに樹脂フィルム30を貼合することができる。
【0092】
(実施形態3)
図17に示されるように、実施形態3の樹脂部材10Bは、第1積層部11と第2積層部12の境界領域に境界積層部13を有する点で、実施形態2の樹脂部材10Aと相違している。境界積層部13は、塗装膜40と、第2樹脂基材22と、第1積層部11のプライマー層31が第2積層部12側に延出したプライマー層端部31aと、からなり、塗装膜40と第2樹脂基材22との間にプライマー層端部31aが介在するように構成されている。この境界積層部13では、第2樹脂基材22の一部がプライマー層端部31aの裏面側(塗装膜40側を表面としたときの裏面側)に入り込んでいる。
【0093】
その他の構成及び製造方法は、実施形態2と同様である。
【0094】
実施形態3によれば、第1積層部11と第2積層部12の境界領域に境界積層部13を設け、この境界積層部13において第2樹脂基材22の一部がプライマー層端部31aの裏面側に入り込むようにすることで、第1積層部11の第1樹脂基材21がプライマー層端部31aからはみ出して塗装膜40と直に接するのを防ぐことができる。要するに、境界積層部13は、第1樹脂基材21が塗装膜40側に露出するのを防ぐ安全代としての機能を果たす。
【0095】
その他、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0096】
(実施形態4)
図18に示されるように、実施形態4の樹脂部材10Cは、第1積層部11と上記第2積層部12の境界領域に境界積層部14を有する点で、実施形態2の樹脂部材10Aと相違している。境界積層部14は、塗装膜40と、第1積層部11の第1樹脂基材21によって構成された第1延出部23と、第2積層部12の第2樹脂基材22によって構成された第2延出部24と、からなり、塗装膜40と第1延出部23の間に第2延出部24が介在するように構成されている。この境界積層部14は、射出成形時に第1樹脂基材21が第2樹脂基材22に潜り込むように突出し、第1樹脂基材21と第2樹脂基材22が多層化することで形成される。このとき、境界積層部14は、凸状の第1延出部23が第2樹脂基材22の凹部に嵌り込んだような断面形状をなしている。
【0097】
樹脂部材10Cを製造する場合、図19に示されるように、溶融状態の第1樹脂基材21及び第2樹脂基材22は、いずれも可動型D2に設けられた第1流路R1及び第2流路R2を通じて射出空間Sに射出される。このとき、第2樹脂基材22の射出が開始された直後のタイミングで、第1樹脂基材21の射出が開始されるのが好ましい。これにより、第1樹脂基材21は、第2樹脂基材22の流動開始直後に流動を開始することで、第2樹脂基材22を表層側へ押し広げるように流動する。これにより、境界積層部14を凸状の第1延出部23が第2樹脂基材22の凹部に嵌り込んだような断面形状をなすように成形することができる。
【0098】
その他の構成及び製造方法は、実施形態2と同様である。
【0099】
実施形態4によれば、第1積層部11と第2積層部12の境界領域に設けた境界積層部14が第1樹脂基材21を含むように構成することで、実施形態3の樹脂部材10Bの境界積層部13のように第2樹脂基材22を含むが第1樹脂基材21を含まないような場合に比べて、剛性などの基本性能が低下するのを抑制できる。
【0100】
実施形態4によれば、第1樹脂基材21と第2樹脂基材22が多層化された境界積層部14を採用することによって、第1樹脂基材21よりも材料コストが高い第2樹脂基材22のみからなる積層部の領域を減らすことができる。したがって、実施形態4は、樹脂部材10Cの製品コストが高くなるのを抑制するのに有効である。
【0101】
その他、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0102】
(実施形態5)
図20に示されるように、実施形態5の樹脂部材10Dは、第1積層部11と上記第2積層部12の境界領域に境界積層部15を有する点で、実施形態4の樹脂部材10Cと相違している。境界積層部15は、塗装膜40と、第1積層部11の第1樹脂基材21によって構成された第1延出部23と、第2積層部12の第2樹脂基材22によって構成された第2延出部24と、第1積層部11のプライマー層31のプライマー層端部31aと、からなる。
【0103】
境界積層部15の第1積層部11側には第1境界積層部15aが形成されている。第1境界積層部15aは、塗装膜40と第1延出部23の間にプライマー層端部31a及び第2延出部24が介在し且つプライマー層端部31aが塗装膜40側に位置するように構成されている。この第1境界積層部15aでは、第2樹脂基材22の一部がプライマー層端部31aの裏面側(塗装膜40側を表面としたときの裏面側)に入り込んでいる。これに対して、この境界積層部15の第2積層部12側には第2境界積層部15bが形成されている。第2境界積層部15bは、塗装膜40と第1延出部23の間に第2延出部24のみが介在するように構成されている。このとき、境界積層部15は、凸状の第1延出部23が第2樹脂基材22の凹部に嵌り込んだような断面形状をなしている。
【0104】
その他の構成及び製造方法は、実施形態4と同様である。
【0105】
実施形態5によれば、第1積層部11と第2積層部12の境界領域に境界積層部15を設け、この境界積層部15の第1境界積層部15aにおいて第2樹脂基材22の一部がプライマー層端部31aの裏面側に入り込むようにすることで、第1積層部11の第1樹脂基材21がプライマー層端部31aからはみ出して塗装膜40と直に接するのを防ぐことができる。要するに、境界積層部15の第1積層部11は、第1樹脂基材21が塗装膜40側に露出するのを防ぐ安全代としての機能を果たす。
【0106】
その他、実施形態4と同様の作用効果を奏する。
【0107】
本発明は、上述の形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0108】
上述の形態では、樹脂基材21と塗装膜40の双方との密着性と、静電塗装時に塗料Aを引き付ける導電性と、を兼ね備える樹脂フィルム30を使用してプライマー層31を形成する場合について例示したが、樹脂フィルム30は、樹脂基材21と塗装膜40の双方との密着性を少なくとも有していれば足りる。したがって、樹脂基材21と塗料Aとの間の静電作用のみで塗料Aの所望の付着性を確保できる場合には、この樹脂フィルム30に代えて、導電性を有していない樹脂フィルムを使用することもできる。
【0109】
上述の形態では、静電塗装を利用して塗装膜40を形成する場合について例示したが、塗装膜40を形成するのに静電塗装に代えて電着塗装を使用することもできる。
【0110】
上述の形態では、自動車用の各種の樹脂部品である樹脂部材10について例示したが、上述の形態を、電車や航空機の内装や外装、建材の内装や外装、電子部品、電化製品などで使用される樹脂部材の製造技術に適用することもできる。
【符号の説明】
【0111】
10,10A,10B,10C,10D 樹脂部材
11 積層部(第1積層部)
12 第2積層部
13,14,15 境界積層部
15a 第1境界積層部
15b 第2境界積層部
21 樹脂基材(第1樹脂基材)
21a 樹脂基材の表面
22 第2樹脂基材
22a 樹脂基材の表面
23 第1延出部
24 第2延出部
30 樹脂フィルム
31 プライマー層
31a プライマー層端部
32 プライマー層の表面
40 塗装膜
A 塗料
D1 固定金型
D2,D3 可動金型
M,Ma 成形体
M1 第1成形部
M2 第2成形部
S 射出空間
S110 フィルム貼り付けステップ
S120,S130,S140,S150 塗装ステップ
S212 フィルム賦形ステップ
S213 型締めステップ
S214 射出成形ステップ
S220,S230,S240,S250 塗装ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20