(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143635
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】負熱膨張材、その製造方法及び複合材料
(51)【国際特許分類】
C01G 31/02 20060101AFI20230928BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C01G31/02
C04B35/495
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161761
(22)【出願日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022047577
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022080257
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【解決課題】優れた負熱膨張特性を有する負熱膨張材を提供すること。
【解決手段】Al原子が固溶している下記一般式(1):Cu
xM
yV
zO
t(1)(式中、MはCu、V及びAl以外の原子番号11以上の金属元素を示す。xは1.60≦x≦2.40、yは0.00≦y≦0.40、zは1.70≦z≦2.30、tは6.00≦t≦9.00を示す。但し、1.00≦x+y≦3.00である。また、M元素を含有するときは、Al原子の原子換算のモル数>M原子の原子換算のモル数である。)で表される銅バナジウム複合酸化物粉体からなることを特徴とする負熱膨張材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al原子が固溶している下記一般式(1):
CuxMyVzOt (1)
(式中、MはCu、V及びAl以外の原子番号11以上の金属元素を示す。xは1.60≦x≦2.40、yは0.00≦y≦0.40、zは1.70≦z≦2.30、tは6.00≦t≦9.00を示す。但し、1.00≦x+y≦3.00である。また、M元素を含有するときは、Al原子の原子換算のモル数>M原子の原子換算のモル数である。)で表される銅バナジウム複合酸化物粉体からなることを特徴とする負熱膨張材。
【請求項2】
前記一般式(1)の式中のMが、Zn、Ga、Fe、Mg、Co、Mn、Ba及びCaから選ばれる1種又は2種以上の金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の負熱膨張材。
【請求項3】
前記一般式(1)の式中のMが、Caであることを特徴とする請求項1に記載の負熱膨張材。
【請求項4】
負熱膨張材中のAl原子の含有量が、100~30000質量ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材。
【請求項5】
熱膨張係数が、-10×10-6/K以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材。
【請求項6】
平均粒子径が、0.1~100μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材。
【請求項7】
BET比表面積が、0.05~50m2/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材。
【請求項8】
球形度が0.7以上1.0以下の球状粒子の含有率が、個数基準で75%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材。
【請求項9】
請求項1に記載の銅バナジウム複合酸化物粉体からなる負熱膨張材の製造方法であり、
Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源とを混合し、原料混合物を調製する第1工程と、
該原料混合物を焼成し、負熱膨張材を得る第2工程と、
を有することを特徴とする負熱膨張材の製造方法。
【請求項10】
第1工程は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源と、が水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の負熱膨張材の製造方法。
【請求項11】
第1工程は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源とを含むスラリーを調製し、該スラリーをスプレードライ法で乾燥処理することを特徴とする請求項9に記載の負熱膨張材の製造方法。
【請求項12】
請求項1項記載の負熱膨張材と正熱膨張材とを含むことを特徴とする複合材料。
【請求項13】
前記正熱膨張材が、金属、合金、ガラス、セラミックス、ゴム及び樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇に対して収縮する負熱膨張材、その製造方法及び該負熱膨張材を含む複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する。これに対して 、温めると逆に体積が小さくなる負の熱膨張を示す材料(以下「負熱膨張材」ということがある)も知られている。
【0003】
負の熱膨張を示す材料は、他の材料とともに用いて、温度変化による材料の熱膨張の変化を抑制することができることが知られている。
【0004】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO4)2)、ZnxCd1-x(CN)2、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0005】
リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、0~400℃の温度範囲で-3.4~-3.0ppm/℃であり、負熱膨張性が大きいことが知られている。このリン酸タングステン酸ジルコニウムと、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということがある。)とを併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(特許文献1~2等参照)。また、正熱膨張材である樹脂等の高分子化合物と負熱膨張材とを併用することも提案されている(特許文献3等参照)。
【0006】
また、下記非特許文献1には、α-Cu2V2O7の銅バナジウム複合酸化物は、室温から200℃の温度域で-5~-6ppm/℃の線膨張係数を有することが開示されている。また、該銅バナジウム複合酸化物のCuの一部をZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素で置換したり、或いはVの一部をPで置換することにより、更に負熱膨張特性を向上させる方法も提案されている(特許文献4~5)。
【0007】
また、下記特許文献6には、一般式:Cu2―xRxV2―yMyO7(RはZn、Ga、Fe、Sn、Mnから選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Si、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Snから選ばれる少なくとも1種の元素、0≦x<2、0<y<2)で表される負熱膨張材が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献6でM元素を含む負熱膨張材として実際に実施しているものは、M元素がSiとMnのみであり、よって、特許文献6において、M元素としてAlの例示は何ら技術的な根拠がないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-35840号公報
【特許文献2】特開2015-10006号公報
【特許文献3】特開2018-2577号公報
【特許文献4】特開2019-210198号公報
【特許文献5】中国特許CN112390642号公報
【特許文献6】国際公開第2020/095518号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ceramics International, Vol.42、p17004―17008(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1の銅バナジウム複合酸化物は、リン酸タングステン酸ジルコニウムに比べ、線膨張係数が小さくなる可能性があり、より安価な原料系で製造でき、工業的に有利に製造することができること及び耐水性に優れていることから、更に、負熱膨張特性を向上させることも要求されている。
【0012】
従って、本発明は、優れた負熱膨張特性を有する負熱膨張材を提供することを目的とする。また、本発明は、工業的に有利な方法で該負熱膨張材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
すなわち、本発明(1)は、Al原子が固溶している下記一般式(1):
CuxMyVzOt (1)
(式中、MはCu、V及びAl以外の原子番号11以上の金属元素を示す。xは1.60≦x≦2.40、yは0.00≦y≦0.40、zは1.70≦z≦2.30、tは6.00≦t≦9.00を示す。但し、1.00≦x+y≦3.00である。また、M元素を含有するときは、Al原子の原子換算のモル数>M原子の原子換算のモル数である。)
で表される銅バナジウム複合酸化物粉体からなることを特徴とする負熱膨張材を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた負熱膨張特性を有する負熱膨張材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得られた負熱膨張材試料のX線回折図。
【
図2】実施例2で得られた負熱膨張材試料のX線回折図。
【
図3】実施例3で得られる負熱膨張材試料のX線回折図。
【
図4】比較例1で得られた負熱膨張材試料のX線回折図。
【
図5】実施例4で得られた負熱膨張材試料のSEM写真(倍率400)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の負熱膨張材は、Al原子が固溶している下記一般式(1):
CuxMyVzOt (1)
(式中、MはCu、V及びAl以外の原子番号11以上の金属元素を示す。xは1.60≦x≦2.40、yは0.00≦y≦0.40、zは1.70≦z≦2.30、tは6.00≦t≦9.00を示す。但し、1.00≦x+y≦3.00である。また、M元素を含有するときは、Al原子の原子換算のモル数>M原子の原子換算のモル数である。)
で表される銅バナジウム複合酸化物粉体からなることを特徴とする。
【0017】
Al原子を固溶させて含有させる銅バナジウム複合酸化物は、下記一般式(1):
CuxMyVzOt (1)
で表される銅バナジウム複合酸化物である。
【0018】
一般式(1)中、Mは負熱膨張性の向上、負熱特性の調整、樹脂分散性の改良等を目的として必要により含有させる金属元素である。MはCu、V及びAl以外の原子番号11以上の金属元素を示し、Zn、Ga、Fe、Mg、Co、Mn、Ba及びCaから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、特にCaが優れた負熱膨張特性を有したものになる観点から好ましい。
【0019】
一般式(1)中、xは1.60≦x≦2.40、好ましくは1.70≦x≦2.30である。xが上記範囲にあることにより、負熱膨張特性がより高くなる。
【0020】
一般式(1)中、yは0.00≦y≦0.40、好ましくは0.00≦y≦0.35である。yが上記範囲にあることにより、負熱膨張特性がより高くなる。
【0021】
一般式(1)中、zは1.70≦z≦2.30、好ましくは1.80≦z≦2.20である。zが上記範囲にあることにより、負熱膨張特性がより高くなる。
【0022】
一般式(1)中、tは6.00≦t≦9.00、好ましくは6.00≦t≦8.00である。tが上記範囲にあることにより、負熱膨張特性がより高くなる。
【0023】
一般式(1)中、x+yは1.00≦x+y≦3.00、好ましくは1.50≦x+y≦2.50である。x+yが上記範囲にあることにより、負熱膨張特性がより高くなる。
【0024】
また、一般式(1)において、M元素を含有するときは、Al原子の原子換算のモル数>M原子の原子換算のモル数である。
【0025】
本発明の負熱膨張材では、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物に、Al原子が固溶している。つまり、本発明の負熱膨張材は、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物からなり、且つ、該銅バナジウム複合酸化物にはAl原子が粒子内部に固溶して含有されている。通常の負熱膨張材とAl金属との複合体は、負熱膨張材粒子にAl金属が単に強固に付着して存在するものであり、本発明のように負熱膨張材粒子の粒子内部までAl原子が固溶して存在させるものではない。
本発明の負熱膨張材が、Al原子が固溶している一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物粉体であることにより、Al原子が固溶して含有されていない一般式(1)と同様の組成を有する銅バナジウム複合酸化物粉体に比べて、負熱膨張特性が向上する。すなわち、本発明の負熱膨張材が、Al原子が固溶している一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物粉体であることにより、Al原子が固溶して含有されていない一般式(1)と同様の組成を有する銅バナジウム複合酸化物粉体に比べて、熱膨張係数が小さくなる。
【0026】
本発明の負熱膨張材中、Al原子の含有量は、好ましくは100~30000質量ppm、より好ましくは500~28000質量ppm、特に好ましくは1000~26000質量ppmである。負熱膨張材中のAl原子の含有量が上記範囲にあることにより、X線回折的に単相で負熱膨張特性が優れる点で好ましい。なお、本発明において、負熱膨張材中のAl原子の含有量は、負熱膨張材を酸分解した溶液をICP発光法で分析することにより求められる。
【0027】
本発明の負熱膨張材のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは0.05~50m2/g、特に好ましくは0.1~10m2/g、一層好ましくは0.1~5m2/gである。負熱膨張材のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等のフィラーとして用いる際に、取扱いが容易になる。
【0028】
本発明の負熱膨張材の平均粒子径は、特に制限されないが、走査型電子顕微鏡観察法により求められる平均粒子径で、好ましくは0.1~100μm、特に好ましくは0.3~80μmである。負熱膨張材の平均粒子径が上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等のフィラーとして用いる際に、取扱いが容易になる。なお、本発明において、負熱膨張材の平均粒子径については、走査型電子顕微鏡観察において、倍率1000倍で任意に抽出した粒子50個の粒子径の算術平均値を、平均粒子径として求めた。このとき、各粒子の粒子径とは、粒子の二次元投影像を横断する線分のうち最も大きい長さ(最大長)をいう。
【0029】
本発明の負熱膨張材の粒子形状は、特に制限されず、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、破砕状であってもよいが、正熱膨張材との混合時にチッピング等による微粒分等の発生を抑制し、より均一混合できる観点から粒子形状は球状のものを多く含むものが一層好ましい。
【0030】
なお、本発明において、粒子形状が球状とは、必ずしも真球状のものである必要はない。本発明において球状とは球形度が0.70以上1.00以下のものであることを示す。
本発明において、球形度とは、サンプルを倍率100~1000で電子顕微鏡観察し画像解析処理を行い、得られたパラメーターから下記計算式(1)で求められる。
球形度=等面積円相当径/外接円径 (1)
(式(1)中、等面積円相当径とは、粒子の周長に円周が相当する円の直径を指す。外接円径とは、粒子の最長径を指す。)
【0031】
本発明の負熱膨張材において、球形度が0.70以上1.00以下である球状粒子の含有率は、個数基準で、好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。負熱膨張材中の球形度が0.70以上1.00以下である球状粒子の含有率が上記範囲にあることにより、正熱膨張材との混合時にチッピング等による微粒分等の発生を抑制し、正熱膨張材にする分散性及び充填特性が優れる。
本発明において、球形度が0.70以上1.00以下である球状粒子の含有率は、サンプルを倍率100~1000で電子顕微鏡観察し、任意に抽出した粒子50個について画像解析処理を行い、抽出した粒子に占める、上記計算式(1)から求められる球形度が0.70以上1.00以下である粒子の個数基準の含有割合(百分率)を示す。
【0032】
前記画像解析処理に用いられる画像解析装置としては、例えば、ルーゼックス(ニレコ社製)、PITA-04(セイシン企業社製)等が挙げられる。球形度の値は1に近づくほど真球状に近くなる。
【0033】
本発明の負熱膨張材の熱膨張係数は、Al原子が固溶して含有されていない一般式(1)と同様の組成を有する銅バナジウム複合酸化物粉体に比べて、熱膨張係数が低くなる限りは、制限されるものではないが、本発明の負熱膨張材の熱膨張係数は、好ましくは-10×10-6/K以下、より好ましくは-12×10-6/K以下、いっそう好ましくは-15×10-6/K以下であり、下限値についても特に制限されるものではないが、概ね-40×10-6/K以上、好ましくは-37×10-6/K以上である。本発明の負熱膨張材において、正熱膨張材と複合させたときに熱膨張係数が正の膨張を相殺させ易くなる点で、本発明の負熱膨張材の熱膨張係数は、特に好ましくは-35×10-6~-13×10-6/Kである。
【0034】
なお、本発明において、熱膨張係数は、以下の手順により求められる。先ず、負熱膨張材試料1.0gとバインダー樹脂0.05gとを混合し、φ6mmの金型に全量充填し、次いで、バンドプレスを用いて0.5tの圧力で成形して 成形体を作成する。この成形体を電気炉中700℃で4時間大気雰囲気で焼成して、セラミック成形体を得る。得られるセラミック成形体を、熱機械測定装置を用いて、窒素雰囲気で、荷重10g、温度50~425℃にて繰り返し2回測定し、繰り返し2回目の50~400℃間の測定値を熱膨張係数とする。熱機械測定装置としては、例えば、NETZSCH JAPAN製 TMA400SEを用いることができる。
【0035】
本発明の負熱膨張材において、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物には、基本的にはZiesite相(β相)とBlossite相(α相)が存在し、また、これらの混相のものも存在する。本発明の負熱膨張材は、Ziesite相(β相)、Blossite相(α相)、あるいは、Ziesite相(β相)とBlossite相(α相)の混相のものであってもよいが、得られた銅バナジウム複合酸化物をX線回折分析したときに、Ziesite相(β相)の単相、或いはZiesite相(β相)に起因する2θ=25°付近のメインピークがBlossite相(α相)に起因する2θ=27°付近のメインピークに比べてピークの高さが高いZiesite相(β相)をより多く含む混相のものが、負熱膨張性に優れたものになる観点から好ましい。
なお、本発明において一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物が単相であるとは、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物のZiesite相(β相)が単独で存在すること、Blossite相(α相)が単独で存在すること、あるいは、Ziesite相(β相)とBlossite相(α相)の混相で存在していることを指し、X線回析的に、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物以外の回析ピークが検出されないことを意味する。
【0036】
本発明において、2θ=25°付近とは、2θ=23.5~26.5°を示す。また、2θ=27°付近とは、2θ=26.8~27.8°を示す。
本発明の負熱膨張材では、線源としてCuKα線を用いて、負熱膨張材をX線回折分析したときに、2θ=25°付近の回折ピークは、Ziesite相(β相)に由来するものであり、2θ=27°付近の回折ピークは、Blossite相(α相)に由来するものである。
【0037】
本発明の負熱膨張材の製造方法は、特に制限されないが、下記の第1工程及び第2工程を行うことにより工業的に有利に製造される。
【0038】
本発明の負熱膨張材の製造方法は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源とを混合し原料混合物を調製する第1工程と、
該原料混合物を焼成し、負熱膨張材を得る第2工程と、
を有することを特徴とする。
【0039】
第1工程は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源とを混合し原料混合物を調製する工程である。
【0040】
第1工程に係るAl源としては、例えば、アルミニウムの酸化物、水酸化物、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、重リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、乳酸アルミニウム等が挙げられる。
【0041】
第1工程に係るCu源としては、例えば、グルコン酸銅、クエン酸銅、酢酸銅、乳酸銅等の有機カルボン酸の銅塩、鉱酸の銅塩、銅の酸化物、銅の水酸化物等が挙げられる。
【0042】
第1工程に係るV源としては、例えば、バナジウム酸及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルボン酸塩、五酸化バナジウム等のバナジウムの酸化物等が挙げられる。カルボン酸のバナジウム塩としては、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸塩、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基の数が3であるクエン酸等のカルボン酸塩が挙がられる。
【0043】
第1工程に係る必要により混合されるM源としては、例えば、M源のカルボン酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物等が挙げられ、M源のカルボン酸塩としては、例えば、グルコン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩等が挙げられる。
【0044】
第1工程に係る原料混合物の調製において、Cu源、V源及び必要により添加されるM源の混合量は、原料混合物中のCu、V及びMの各原子モル比が、前記一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物の組成となるように、適宜調節されることが好ましい。また、第1工程に係る原料混合物の調製において、Al源の混合量は、得られる負熱膨張材に対して、好ましくは100~30000質量ppm、より好ましくは500~28000質量ppm、特に好ましくは1000~26000質量ppmとなるように、適宜調節されることが好ましい。
【0045】
第1工程では、Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源の混合処理を、湿式又は乾式で行うことができるが、均一な原料混合物を容易に得ることができるという点で、湿式で混合処理を行うことが好ましい。
【0046】
湿式混合処理に用いられる溶媒としては、Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源の種類によっても異なるが、水、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0047】
Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源が不溶性又は難溶性のものを用いる場合は、Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源の平均粒子径は、反応性が高くなる点で、レーザー回折法により求められる平均粒子径(D50)で、50μm以下が好ましく、0.1~40μmが特に好ましい。
【0048】
Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源が不溶性又は難溶性のものを用いる場合の湿式混合処理を行う装置としては、各原料が均一に分散したスラリーが得られれば、特に制限はない。また、スラリーの調製において、必要により、スラリーをメディアミルで湿式粉砕処理することができる。メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等のメディアミルが挙げられる。また、実験室レベルの少量の場合は、乳鉢等を用いて湿式混合処理を行ってもよい。
【0049】
また、湿式混合処理を一層効率的に行う観点から、スラリーに、分散剤を混合してもよい。スラリーに混合させる分散剤としては、各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩等が挙げられる。スラリー中の分散剤の濃度は、分散効果が高くなる点で、好ましくは0.01~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%である。
【0050】
湿式混合処理後に全量乾燥して溶媒を除去することにより、原料混合物を得ることができる。
【0051】
また、第1工程では、Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源を水溶媒に溶解させた後に、水溶媒を除去することにより、原料混合物を得ることもできる。この場合、Al源、Cu源、V源及び必要により添加されるM源として、水溶媒に溶解するものを用いればよい。水溶媒に溶解するAl源としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、重リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、乳酸アルミニウム等が挙げられる。Cu源としては、例えば、有機カルボン酸の銅塩、鉱酸の銅塩等が挙げられる。また、水溶媒に溶解するV源としては、バナジウム酸及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルボン酸塩等が挙げられる。
【0052】
第1工程において、V源としてカルボン酸のバナジウム塩を用いる場合、水溶媒に五酸化バナジウム、還元剤及びカルボン酸を添加し、60~100℃で加熱処理してカルボン酸のバナジウム塩を生成させ、この反応液をそのまま用いて、Cu源、Al源及び必要により添加するM源を混合して、Cu源、Al源、V源及び必要により添加するM源を含有する原料混合液を得、次いで、該原料混合液から水溶媒を除去して、原料混合物を調製してもよい。
【0053】
還元剤としては、還元糖が好ましく、還元糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等が挙げられ、このうち、ラクトース、スクロースが、優れた反応性を有するという観点から特に好ましい。還元糖の添加量は、五酸化バナジウム中のVに対する還元糖中のCのモル比(C/V)で、好ましくは0.7~3.0であり、効率的に還元反応を行うことができる点で、より好ましくは0.8~2.0である。カルボン酸の添加量は、五酸化バナジウムに対するモル比で、好ましくは0.1~4.0であり、効率的に透明なバナジウム溶解液を得ることができる点で、より好ましくは0.2~3.0である。
【0054】
なお、第1工程において、湿式混合処理後に全量乾燥して溶媒を除去して得られる前記一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物の組成は、各原料仕込み時のAl源、Cu源、V源及び必要により添加するM源中のAl、Cu、V及びMの原子モル比とほぼ一致する。
【0055】
第2工程は、第1工程で調製した原料混合物を焼成して、本発明の負熱膨張材を得る工程である。
【0056】
第2工程における焼成温度は、好ましくは580~780℃、より好ましくは600~750℃である。一方、第2工程における焼成温度が、上記範囲未満だと、前記一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物の生成が不十分となる傾向があり、また、上記範囲を超えると、坩堝等への融着により生成物の回収が困難になる傾向がある。第2工程における焼成時間は、特に制限されず、本発明の負熱膨張材が生成するまで十分な時間焼成を行う。
【0057】
第2工程における焼成時間は、特に制限されず、本発明の負熱膨張材が生成するまで十分な時間反応を行う。本発明の負熱膨張材の生成については、例えば、X線回折分析で単相の一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物が得られているかどうかで、本発明の負熱膨張材の生成を確認することができる。第2工程では、多くの場合、焼成時間が1時間以上、好ましくは2~20時間で、原料混合物中の原料のほぼ全てが、Al原子が固溶している前記一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物からなる負熱膨張材となる。なお、本発明において一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物が単相であるとは、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物のZiesite相(β相)が単独で存在すること、Blossite相(α相)が単独で存在すること、あるいは、Ziesite相(β相)とBlossite相(α相)の混相で存在していることを指し、X線回析的に、一般式(1)で表される銅バナジウム複合酸化物以外の回析ピークが検出されないことを意味する。
【0058】
また、第2工程において、焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよい。
【0059】
第2工程では、焼成を、1回行ってもよいし、所望により複数回行ってもよい。例えば、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、粉砕物について更に焼成を行ってもよい。
【0060】
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕、解砕、分級等を行い、本発明の負熱膨張材を得る。
【0061】
粒子形状が球状である負熱膨張材を製造する方法としては、前記第1工程において湿式混合処理後の全量乾燥を、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法を用いて行うことにより、湿式混合処理後のスラリーを乾燥処理し、次いで、前記第2工程を行うことにより、球形度が0.70以上1.00以下の球状粒子の含有率が、個数基準で75%以上、好ましくは80%以上である負熱膨張材を製造する方法が挙げられる。
【0062】
噴霧乾燥法において、霧化された液滴の大きさは特に限定されないが、1~40μmが好ましく、5~30μmが特に好ましい。スプレードライヤーへのスラリーの供給量は、この観点を考慮して決定することが好ましい。
なお、スプレードライヤーにおいて乾燥のために用いる熱風の温度は、100~270℃、好ましくは150~230℃であることが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0063】
本発明の負熱膨張材の製造方法により得られる負熱膨張材の走査型電子顕微鏡観察法により求められる平均粒子径は、好ましくは0.1~100μm、特に好ましくは0.3~80μmであり、また、BET比表面積は、0.05~50m2/g、特に好ましくは0.1~10m2/gである。負熱膨張材の平均粒子径、BET比表面積が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を樹脂やガラス等へのフィラー用として用いる際に、取扱いが容易になる点で好ましい。
【0064】
また、本発明に係る負熱膨張材は、樹脂分散性や負熱膨張材の耐湿性を向上させることを目的として、必要により粒子表面が、表面処理が施されていてもよい。また、本発明の負熱膨張材の製造方法は、樹脂分散性や負熱膨張材の耐湿性を向上させることを目的として、必要により、焼成を行い得られた負熱膨張材に対し、表面処理を施してもよい。
【0065】
表面処理としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸又はその誘導体、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素を1種又は2種以上含有する無機化合物等で粒子表面を被覆処理する方法等が挙げられる(例えば、WO2020/095837号パンフレット。WO2020/261976号パンフレット、WO2019/087722号パンフレット、特開2020―147486号公報参照)。また、これらを適宜組み合わせて表面処理を行ってもよい。
【0066】
本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材の熱膨張係数は、-10×10-6/K以下、好ましくは-12×10-6/K以下、いっそう好ましくは-15×10-6/K以下であり、下限値については概ね-40×10-6/K以上、好ましくは-37×10-6/K以上である。本発明の負熱膨張材の製造方法を行い得られる負熱膨張材の熱膨張係数は、正熱膨張材と複合させたときに熱膨張係数が正の膨張を相殺させ易くなる点で、特に好ましくは-35×10-6~-13×10-6/Kである。
【0067】
本発明の負熱膨張材は、粉体又はペーストとして用いられる。本発明の負熱膨張材をペーストとして用いる場合には、本発明の負熱膨張材を、溶媒及び/又は粘性の低い液状樹脂に混合及び分散させ、ペーストの状態で用いる。また、本発明の負熱膨張材を、溶媒及び/又は粘性の低い液状樹脂に分散させ、更に必要により、バインダー、フラックス材及び分散剤等を含有させて、ペーストの状態で用いてもよい。
【0068】
本発明の負熱膨張材は、正熱膨張材として、各種有機化合物又は無機化合物と併用され、複合材料として用いられる。本発明の複合材料は、本発明の負熱膨張材と、正熱膨張材と、を含む。
【0069】
正熱膨張材として用いられる有機化合物としては、特に限定されないが、ゴム、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS、ポリアクリレート、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂などを挙げられる。また、正熱膨張材として用いられる無機化合物としては、二酸化ケイ素、珪酸塩、グラファイト、サファイア、各種のガラス材料、コンクリート材料、各種のセラミック材料などが挙げられる。
【0070】
本発明の複合材料は、負熱膨張特性に優れる本発明の負熱膨張材を含んでいるため、他の化合物との配合比率によって、負熱膨張率、零熱膨張率又は低熱膨張率を実現することが可能である。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0072】
(X線回折装置)
実施例ではX線回折装置(リガク社製 UltimaIV)を用いて、下記の測定条件で測定を行った。
線源:Cu-Kα
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査速度:4°/sec
【0073】
(実施例1)
(第1工程)
バナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)3.00g、アンモニア水6ml、純水80mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱してA液を得た。次にグルコン酸銅(扶桑化学工業製)11.35gを純水50mlに加えて攪拌し、B液を得た。次に硝酸アルミニウム9水和物0.24gを純水10mlに加えて攪拌し、C液を得た。次にA液に対してB液、C液の順に加えて各原料が溶解した溶液である原料混合液を得た。
得られた原料混合液を攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状の原料混合物を得た。
(第2工程)
得られたペースト状の原料混合物を坩堝中、大気下で、700℃で4時間焼成して焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=25°付近にメインの回析ピークを持つZiesite相の単相のCu
2.00V
2.00O
7.00が検出された。焼成品のX線回折図を
図1に示す。また、得られた焼成品を酸分解した溶液をICP発光分析し、焼成品中のAl原子の含有量を求めたところ、Al原子の含有量は3980質量ppmであった。これらの結果、焼成品は、Al原子が3980質量ppm固溶しているZiesite相の単相の銅バナジウム複合酸化物であることがわかった。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は破砕状であった。
【0074】
(実施例2)
(第1工程)
バナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)3.00g、アンモニア水6ml、純水80mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱してA液を得た。次にグルコン酸銅(扶桑化学工業製)11.06gを純水50mlに加えて攪拌し、B液を得た。次に硝酸アルミニウム9水和物0.48gを純水10mlに加えて攪拌し、C液を得た。次にA液に対してB液、C液の順に加えて各原料が溶解した溶液である原料混合液を得た。
前記原料混合液を攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状の反応混合物を得た。
(第2工程)
前記ペースト状の反応混合物を坩堝中、大気下で、700℃で4時間焼成して焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=25°付近にメインの回析ピークを持つZiesite相の単相のCu
2.00V
2.00O
7.00が検出された。焼成品のX線回折図を
図2に示す。また、得られた焼成品を酸分解した溶液をICP発光分析し、焼成品中のAl原子の含有量を求めたところ、Al原子の含有量は8000質量ppmであった。これらの結果、焼成品は、Al原子が8000質量ppm固溶しているZiesite相の単相の銅バナジウム複合酸化物であることがわかった。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は破砕状であった。
【0075】
(実施例3)
(第1工程)
バナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)3.00g、アンモニア水6ml、純水80mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱してA液を得た。次にグルコン酸銅(扶桑化学工業製)10.19gを純水50mlに加えて攪拌し、B液を得た。次に硝酸アルミニウム9水和物1.20gを純水20mlに加えて攪拌し、C液を得た。次にA液に対してB液、C液の順に加えて各原料が溶解した溶液である原料混合液を得た。
前記原料混合液を攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状の原料混合物を得た。
(第2工程)
前記ペースト状の原料混合物を坩堝中、大気下で、700℃で4時間焼成して焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=25°付近にメインの回析ピークを持つZiesite相の単相のCu
2.00V
2.00O
7.00が検出された。焼成品のX線回折図を
図3に示す。また、得られた焼成品を酸分解した溶液をICP発光分析し、焼成品中のAl原子の含有量を求めたところ、Al原子の含有量は20330質量ppmであった。これらの結果、焼成品は、Al原子が20330質量ppm固溶しているZiesite相の単相の銅バナジウム複合酸化物であることがわかった。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は破砕状であった。
【0076】
(比較例1)
五酸化バナジウム(V
2O
5:平均粒子径1.0μm)1.71g、酸化銅(CuO:平均粒子径1.5μm)1.50g、エタノール30mlを分散媒として乳鉢で20分間粉砕混合した後に乾燥して原料混合物を得た。この粉末を大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=27°付近にメインの回析ピークを持つBlossite相の単相のCu
2.00V
2.00O
7.00が検出された。焼成品のX線回折図を
図4に示す。
つまり、比較例1では、A1源を用いておらず、得られるCu
2V
2O
7の銅バナジウム複合酸化物は、Al原子が固溶したものではない。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は破砕状であった。
【0077】
(物性評価)
実施例及び比較例で得られた負熱膨張材試料について、平均粒子径、BET比表面積及び熱膨張係数を測定した。なお、平均粒子径及び熱膨張係数は下記のようにして測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
(平均粒子径)
負熱膨張材試料を、走査型電子顕微鏡で倍率1000倍で観察し、観察視野から、任意に抽出した粒子50個の最長径を測定し、それらの算術平均値を、負熱膨張材試料の平均粒子径として求めた。
【0079】
(熱膨張係数の測定)
<成型体の作製>
試料1.00gにプロピレンカーボネート0.05gを加えて乳鉢で3分間粉砕混合した後、0.15gを計量し、φ6mmの金型に全量充填した。次いで、ハンドプレスを用いて、0.5tの圧力で成型して粉末成型体を作製した。得られた粉末成型体を電気炉にて700℃まで3時間で昇温し4時間保持してセラミック成型体を作製した。
<熱膨張係数の測定>
作製したセラミック成形体について、熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)を用いて熱膨張係数を測定した。測定条件を、窒素雰囲気、荷重10g、温度範囲50℃~425℃と、繰り返し2回測定した。繰り返し2回目の測定の50~400℃間での熱膨張係数を、負熱膨張材試料の熱膨張係数とした。
【0080】
【0081】
なお、比較例1の負熱膨張材試料の50~300℃間での熱膨張係数は-4.4×10―6/Kであった。
【0082】
(実施例4)
五酸化バナジウム(V2O5:平均粒子径1.0μm)16.2質量部、酸化銅(CuO:平均粒子径1.5μm)13.5質量部、水酸化アルミニウム(Al(OH)3:平均粒子径(1.2)μm)0.5質量部を計量し、純水69.7質量部を分散媒として30分間攪拌して30.2質量%スラリーを調製した。
次いで、前記スラリーに分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.1質量部仕込み、スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだ。次いで、前記スラリーをメディア攪拌型ビーズミルへ供給し、湿式粉砕を行った。湿式粉砕後の固形分の平均粒子径をレーザー回折・散乱法により求めたところ、0.54μmであった。
次いで、湿式粉砕処理後のスラリーを220℃に設定したスプレードライヤーに、3.3L/hの供給速度で供給して、噴霧乾燥を行い、原料混合物を得た。
次いで、原料混合物を700℃で4時間大気中で焼成して焼成品を得た。得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=25°付近にメインの回析ピークを持つZiesite相の単相のCu2.00V2.00O7.00が検出された。また、得られた焼成品を酸分解した溶液をICP発光分析し、焼成品中のAl原子の含有量を求めたところ、Al原子の含有量は5600質量ppmであった。これらの結果、焼成品は、Al原子が5600質量ppm固溶しているZiesite相の単相の銅バナジウム複合酸化物であることがわかった。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、次いでジェットミルで粉砕を行い、粉砕物を得た。これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は球状であった。
【0083】
(実施例5)
原料混合物の焼成温度を650℃とした以外は実施例4と同様にして粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、銅バナジウム複合酸化物(Cu2.00V2.00O7.00)の単相であり、2θ=25°付近にZiesite相に起因したメインの回折ピークを持ち、また2θ=27°付近にBlossite相の回析ピークも観察された。これをAl原子が5600質量ppm固溶している負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は球状であった。
【0084】
(実施例6)
五酸化バナジウム(V2O5:平均粒子径1.0μm)16.2質量部、酸化銅(CuO:平均粒子径1.5μm)13.4質量部、水酸化アルミニウム(Al(OH)3:平均粒子径1.2μm)0.5質量部、炭酸カルシウム(CaCO3:平均粒子径2.4μm)0.2質量部を計量し、純水69.7質量部を分散媒として30分間攪拌して30.3質量%スラリーを調製した。
次いで、前記スラリーに分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.1質量部仕込み、スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだ。次いで、前記スラリーをメディア攪拌型ビーズミルへ供給し、湿式粉砕を行った。湿式粉砕後の固形分の平均粒子径をレーザー回折・散乱法により求めたところ、0.52μmであった。
次いで、湿式粉砕処理後のスラリーを220℃に設定したスプレードライヤーに、3.3L/hの供給速度で供給して、噴霧乾燥を行い、原料混合物を得た。
次いで、原料混合物を700℃で4時間大気中で焼成して焼成品を得た。得られた焼成品をX線回折分析したところ、2θ=25°付近にメインの回析ピークを持つZiesite相の単相のCu2.00V2.00O7.00が検出された。また、得られた焼成品を酸分解した溶液をICP発光分析し、焼成品中のAl原子の含有量を求めたところ、Al原子の含有量は5600質量ppmであった。これらの結果、焼成品は、Al原子が5600質量ppm固溶しているZiesite相の単相の銅バナジウム複合酸化物(Cu1.98Ca0.02V2.00O7.00)であることがわかった。
次いで、焼成品を乳鉢で粉砕処理し、次いでジェットミルで粉砕を行い、粉砕物を得た。これを負熱膨張材試料とした。
なお、この負熱膨張材試料を電子顕微鏡観察(倍率400)で任意に抽出した粒子50個について観察した結果、粒子形状は球状であった。
【0085】
(物性評価)
実施例4、実施例5及び実施例6で得られた負熱膨張材試料について、実施例1~3と同様にして平均粒子径、BET比表面積及び熱膨張係数を測定した。また、下記の方法で球状粒子の含有率を求めた。また、実施例4で得られた負熱膨張材試料のSEM写真を
図5に示す。
(球形粒子の含有率の測定)
画像解析装置ルーゼックス(ニレコ社製)を用いて、倍率400倍で任意に抽出した50個の粒子について、以下の計算式により球形度を求め、個数基準で球形度が0.70以上1.00以下である球形粒子の含有率を評価した。
球形度=等面積円相当径/外接円径
等面積円相当径:粒子の周長に円周が相当する円の直径
外接円径:粒子の最長径
【0086】
【0087】
なお、実施例5の負熱膨張材試料と実施例4の負熱膨張材はAl原子の含有量が同じであるのに関わらず実施例5の焼成温度を650℃としたものの方が実施例4の焼成温度を700℃とした負熱膨張材試料に比べて、負熱膨張性が優れたものになった。これは、熱膨張係数の測定用のセラミック成形体の調製の700℃での焼成の際に、実施例5の負熱膨張材試料では銅バナジウム複合酸化物中のBlossite相のZiesite相への転換が促進され、更に700℃での焼成の際に個々の粒子が更に粒成長することによりセラミック成形体自体で粒子間の間隙もより一層少なくなるため、実施例4の負熱膨張材を用いて調製したセラミック成形体に比べて、実施例5の負熱膨張材を用いて調製したセラミック成形体は、より緻密なものが得られるためと考えられる。
前記一般式(1)の式中のMが、Zn、Ga、Fe、Mg、Co、Mn、Ba及びCaから選ばれる1種又は2種以上の金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の負熱膨張材。
第1工程は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源と、が水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の負熱膨張材
の製造方法。
第1工程は、Al源と、Cu源と、V源と、必要により添加されるM源とを含むスラリーを調製し、該スラリーをスプレードライ法で乾燥処理することを特徴とする請求項9に記載の負熱膨張材の製造方法。