(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143648
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】厚さ測定装置、厚さ測定方法、及び構造体厚さ測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 15/02 20060101AFI20230928BHJP
G01N 23/02 20060101ALI20230928BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20230928BHJP
【FI】
G01B15/02 A
G01N23/02
G01N23/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170466
(22)【出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022047893
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】相浦 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 有司
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 知将
【テーマコード(参考)】
2F067
2G001
【Fターム(参考)】
2F067AA27
2F067BB16
2F067DD01
2F067DD09
2F067EE02
2F067EE04
2F067FF07
2F067FF17
2F067GG01
2F067GG06
2F067HH04
2F067JJ03
2F067KK06
2F067NN03
2F067SS13
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001LA02
2G001LA05
2G001MA05
(57)【要約】
【課題】被測定物の内部の測定対象について厚さのばらつきが大きい場合であっても誤差を少なくして厚さの計測の精度を確保することのできる厚さ測定装置を提供する。
【解決手段】第1部材と第2部材と第3部材からなる積層物の積層物へX線を照射するX線源部と、積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、第2部材の厚さを演算する処理部を備え、処理部は、第2部材の厚さと第2部材の輝度吸収係数との間の相関性により所定の相関式を設定する相関式設定部と、第1部材と第2部材と第3部材の情報を取得する部材情報取得部と、照射X線強度と透過X線強度を取得するX線強度取得部と、第1部材と第2部材と第3部材の情報と、照射X線強度と透過X線強度と、相関式を用い第2部材の厚さを算出する演算部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、第3部材と、前記第1部材及び前記第3部材に挟まれる第2部材とからなる積層物の厚さ測定装置であって、
前記厚さ測定装置は、
前記積層物へX線を照射するX線源部と、
前記積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記第2部材の厚さを演算する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記第2部材の厚さと前記第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する相関式設定部と、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する部材情報取得部と、
前記X線源部から照射される照射X線強度と、前記X線検出部により検出される前記積層物の透過X線強度と、を取得するX線強度取得部と、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記照射X線強度と、前記透過X線強度と、前記相関式と、を用い前記第2部材の厚さを算出する演算部と、を備える
ことを特徴とする厚さ測定装置。
【請求項2】
前記相関式は、前記第2部材の複数の厚さの試料と前記第2部材の前記複数の厚さの試料の輝度吸収係数との間に成立する、次の直線回帰の一次相関の式(i)として規定されている請求項1に記載の厚さ測定装置。
【数1】
式中において、
μ
A2は第2部材の輝度吸収係数、
t
2は第2部材の厚さ、
aは一次相関の式の係数、
bは一次相関の式の定数である。
【請求項3】
前記演算部は、次の式(ii)を用いて前記第2部材の厚さを算出する請求項2に記載の厚さ測定装置。
【数2】
式中において、
Iは透過X線強度、
I
0は透過前のX線強度、
μ
A1は第1部材の輝度吸収係数、
μ
A3は第3部材の輝度吸収係数、
t
1は第1部材の厚さ、
t
3は第3部材の厚さ、
aは一次相関の式の係数、
bは一次相関の式の定数である。
【請求項4】
前記積層物において、前記第2部材は前記第1部材及び前記第3部材を接着する接着剤である請求項1に記載の厚さ測定装置。
【請求項5】
前記積層物において、前記第1部材及び前記第3部材は金属部材である請求項1に記載の厚さ測定装置。
【請求項6】
前記第2部材の厚さの算出結果を出力する出力部が備えられる請求項1に記載の厚さ測定装置。
【請求項7】
第1部材と、第3部材と、前記第1部材及び前記第3部材に挟まれる第2部材とからなる積層物の厚さ測定装置における厚さ測定方法であって、
前記厚さ測定装置は、
前記積層物へX線を照射するX線源部と、
前記積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記第2部材の厚さを演算する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記第2部材の厚さと前記第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する相関式設定ステップと、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する部材情報取得ステップと、
前記X線源部から照射される照射X線強度と、前記X線検出部により検出される前記積層物の透過X線強度と、を取得するX線強度取得ステップと、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記照射X線強度と、前記透過X線強度と、前記相関式と、を用い前記第2部材の厚さを算出する演算ステップと、を実行する
ことを特徴とする厚さ測定方法。
【請求項8】
第1部材と、第3部材と、前記第1部材及び前記第3部材に挟まれる第2部材とからなる積層物の厚さ測定装置における厚さ測定プログラムであって、
前記厚さ測定装置は、
前記積層物へX線を照射するX線源部と、
前記積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記第2部材の厚さを演算する処理部と、を備え、
前記処理部に、
前記第2部材の厚さと前記第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する相関式設定機能と、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する部材情報取得機能と、
前記X線源部から照射される照射X線強度と、前記X線検出部により検出される前記積層物の透過X線強度と、を取得するX線強度取得機能と、
前記第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、前記照射X線強度と、前記透過X線強度と、前記相関式と、を用い前記第2部材の厚さを算出する演算機能と、を実現させる
ことを特徴とする厚さ測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さ測定装置、厚さ測定方法、及び構造体厚さ測定プログラムに関し、特にX線透過を利用して間に挟まれる部材の厚さを測定するための厚さ測定装置、厚さ測定方法、及び厚さ測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属等を材料とする複数の部品を接着剤により接合する際、塗布厚さが不均一となったり、接着剤が部品の接合部からはみ出したりする場合がある。接着剤が部品の接合部からはみ出すと、外観不良となり、塗布圧が不均一であると、接着強度不足が懸念される。
【0003】
従来、非破壊で接着厚さの検査を行う際、接着剤の部品の接合部からのはみ出しは目視、接着剤の範囲はX線二次元検査撮影、接着厚さはX線CTによってそれぞれ検査を行っていた。しかしながら、X線CTによる接着厚さの測定は時間と手間を要する。そこで、積層体に対するX線透過撮影の検査方法が提案されている(特許文献1等参照)。
【0004】
特許文献1によると、複層構造体の各部材の厚みの組み合わせとX線の透過濃度との関係を参照情報として有し、X線を照射して得られた複層構造体の透過濃度画像から前記参照情報に基づき各部材厚みの計測を行う各部材厚みのX線計測方法と装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、X線の線減弱係数、質量減弱係数は部品、部材の厚さに左右されず一定のため、X線吸収係数は部材の厚さに左右されず一定である。つまり、X線吸収係数は材質により一定である。しかしながら、透過撮影画像の輝度をもとに厚み算出に用いる輝度吸収係数は、連続したスペクトルが対象物を透過する際の線質硬化の影響を内包するため、部材の厚さにより変化することが分かっている。そのため、ある任意の厚さの標準試験片により被測定物の厚さを算出すると、輝度吸収係数を算出した厚さ付近の厚さでは精度よく算出できる。これに対し、被測定物の厚さが標準試験片の厚さから乖離するほど計測(算出)の精度が低下する問題点がある。ここで、X線吸収係数によって吸収されるX線の強度と、輝度吸収係数によって減弱される輝度は等価である。前出のX線吸収係数と輝度吸収係数との関係については後述する。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、被測定物の内部の測定対象について厚さのばらつきが大きい場合であっても誤差を少なくして厚さの計測の精度を確保することのできる厚さ測定装置、厚さ測定方法、及び構造体厚さ測定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、実施形態は、第1部材と、第3部材と、第1部材及び第3部材に挟まれる第2部材とからなる積層物の厚さ測定装置であって、厚さ測定装置は、積層物へX線を照射するX線源部と、積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、第2部材の厚さを演算する処理部と、を備え、処理部は、第2部材の厚さと第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する相関式設定部と、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する部材情報取得部と、X線源部から照射される照射X線強度と、X線検出部により検出される積層物の透過X線強度とを取得するX線強度取得部と、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、照射X線強度と、透過X線強度と、相関式とを用い第2部材の厚さを算出する演算部とを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、厚さ測定装置において、相関式は、第2部材の複数の厚さの試料と第2部材の複数の厚さの試料の輝度吸収係数との間に成立する、次の直線回帰の一次相関の式(i)として規定されていてもよい。
【0010】
【0011】
式中において、
μA2は第2部材の輝度吸収係数、
t2は第2部材の厚さ、
aは一次相関の式の係数、
bは一次相関の式の定数である。
【0012】
さらに、厚さ測定装置において、演算部は、次の式(ii)を用いて第2部材の厚さを算出することとしてもよい。
【0013】
【0014】
式中において、
Iは透過X線強度、
I0は透過前のX線強度、
μA1は第1部材の輝度吸収係数、
μA3は第3部材の輝度吸収係数、
t1は第1部材の厚さ、
t3は第3部材の厚さ、
aは一次相関の式の係数、
bは一次相関の式の定数である。
【0015】
さらに、厚さ測定装置の積層物において、第2部材は第1部材及び第3部材を接着する接着剤であることとしてもよい。また、厚さ測定装置の積層物において、第1部材及び第3部材は金属部材であることとしてもよい。
【0016】
さらに、第2部材の厚さの算出結果を出力する出力部が備えられることとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の厚さ測定装置は、第1部材と、第3部材と、第1部材及び第3部材に挟まれる第2部材とからなる積層物へX線を照射するX線源部と、積層物を透過したX線を検出するX線検出部と、第2部材の厚さを演算する処理部と、を備え、処理部は、第2部材の厚さと第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する相関式設定部と、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する部材情報取得部と、検出器により検出される積層物の透過X線強度を取得するX線強度取得部と、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、X線源部から照射される前記積層物への透過前のX線強度と、透過X線強度と、相関式と、を用い第2部材の厚さを算出する演算部とを備えるため、被測定物の内部の測定対象について厚さのばらつきが大きい場合であっても誤差を少なくして厚さの計測の精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態の厚さ測定装置を示す概略構成図である。
【
図3】厚さ測定装置の構成と機能部を示すブロック図である。
【
図6】(A)X線強度と輝度吸収係数との関係を示す第1模式図、(B)X線強度と輝度吸収係数との関係を示す第2模式図である。
【
図7】厚さ測定装置内の処理のフローチャートである。
【
図8】(A)実施例の演算結果及び計測グラフ、(B)実施例の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1の概略構成図を用い、実施形態の厚さ測定装置1を説明する。厚さ測定装置1は、複数の部材が重なり合った積層物20に対し、X線を用いて内部の層の厚さを非破壊的に算出する装置である。図示の積層物20は、上から順に第1部材21、第2部材22、第3部材23より構成される。具体的には、厚さ測定装置1は、内部の層として、第1部材21と第3部材23の間に挟まれた第2部材22の厚さについて、切断等の破壊手段を用いることなく第2部材22の厚さを算出することができる。図示は模式的に層構造としており、実際には、複雑な形状のため、事実上の外観観察は不可能である。図示は装置の一例の開示である。各部材、装置の配置、向き等は適宜である。
【0020】
積層物20としては、所定の部材同士を接着剤等の樹脂素材により接合した形態が想定される。従って、第2部材22は第1部材21と第3部材23を接着する接着剤からなる層である。また、第1部材21と第3部材23は板金、ボルト、ナット、リベット、各種金属部品である。これらは接着剤である第2部材22を介して互いに接着される。そこで、第2部材22の接着剤からなる層について、その厚さの把握が構造強度、品質維持の観点から重要である。なお、第2部材22は、接着剤以外に、パッキン、ガスケット、樹脂製ワッシャ等であっても良い。
【0021】
厚さ測定装置1の使用に際し、第1部材21、第2部材22、第3部材23より構成される積層物20は所定位置に配置される。積層物20の一方側(第1側)には当該積層物20へX線を照射するX線源部2が配置される。積層物20を挟んでX線源部2と対向する側(第2側)に積層物20を透過したX線を検出するX線検出部3が配置される。X線源部2とX線検出部3は、積層物20の中の第2部材22の厚さの算出を演算する処理部10(コンピュータ)に有線または無線により接続される。
【0022】
図2は積層物20の部分断面の模式図である。積層物20は上から順に第1部材21、第2部材22、第3部材23より構成される。図示の例では、第1部材21と第3部材23は、金属部材である。第1部材21と第3部材23は、例えば、鉄板、アルミニウム板、ステンレス鋼板材(SUS304等)、さらには樹脂の板材である。そして、第2部材22は、第1部材21と第3部材23を接着する接着剤の層である。第2部材22を構成する接着剤には、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、SBR樹脂系、シリコーン樹脂系等の公知の接着剤が使用される。図中、第1部材21の厚さはt
1、第2部材22の厚さはt
2、第3部材23の厚さはt
3である。
【0023】
第2部材22は、第1部材21と第3部材23の圧着を受けるため、接着前に正確に接着後の第2部材22の層の厚さを予測することは容易ではない。そのため、一般には、複数製造された積層物20の中から所定数を抜き取り、裁断して断面から測定していた。そのため、必ずしも全数を測定することはできない。また、測定作業が煩雑であり作業負担が大きい。そこで、実施形態の厚さ測定装置1は、第1部材21、第2部材22、及び第3部材23の既知の情報と、測定により取得するX線強度により、第2部材22の厚さt2は算出される。なお、第1部材21の厚さt1と第3部材23の厚さt3については、設計上、寸法は既知である。
【0024】
図1に示されるX線源部2は、積層物20に対して照射するX線を発生させるX線発生装置であり、主に固定陽極X線管が用いられる。当該X線管の陽極にはターゲットとして、タングステン、モリブデン等の金属が使用される。発生させるX線量(エネルギー量)は、X線を透過させる金属板部材の厚さ、材質等により設定される。X線検出部3は、X線源部2から照射され、積層物20を透過したX線量、及びX線源部2からの照射線量を検出する。X線検出部3には、公知のX線用の検出装置が使用される。
【0025】
処理部10は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム等、種々の電子計算機(計算リソース)である。図示の処理部10はパーソナルコンピュータであり、演算結果の表示のためのディスプレイ16、その他、入力用のキーボード17、マウス18等が接続されている。
【0026】
図3は処理部10の構成と機能部を示すブロック図である。処理部10には、各種の演算実行のためのCPU11、処理用のプログラムを記憶するROM12、データ等の記憶のためのRAM13、各種のデータ及び演算結果等の記憶のための記憶部14、さらに、I/O(インプット・アウトプットインターフェース)15等が備えられる。I/O15は通信(送受信)用のインターフェース、バッファ等である。I/O15は、X線源部2への照射の制御信号の送信、X線検出部3等からの入力信号の受信等に用いられCPU11と連携する。
【0027】
さらに
図3のブロック図はCPU11内の機能部を示す。CPU11の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、CPU11は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現する。詳細には、相関式設定部110、部材情報取得部120、X線強度取得部130、演算部140、出力部150等を備える。
【0028】
相関式設定部110は、第2部材22の厚さと第2部材22の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する。
【0029】
輝度吸収係数は、物質の厚さによって変化する。しかし、この輝度吸収係数は、ある物質についての特定の厚さにおける測定から導き出された数値である。従前のX線を用いた非破壊の厚さ測定装置においては、単純に物質毎に所定の輝度吸収係数を用い、被検査物に含まれる層の厚さを算出していた。
【0030】
ところが、
図4の模式図のように、厳密には、物質の厚さ(板厚)(横軸)が増減すると、物質の種類によっては、輝度吸収係数は右下がりの曲線のように変化してしまうことが判明した。なお図示とは異なり、物質の種類により、輝度吸収係数の曲線の傾き、右上がり等の変化は見られる。一般に、物質の厚さが増加(厚くなる)すると、算出される数値は実測よりも減少し、逆にある物質の厚さが減少(薄くなる)すると、算出される数値は実測よりも増加する。そのため、所定の厚さ(t
s:例えば厚さ2mm)の1点のみに基づく輝度吸収係数を利用すると、現実の非破壊検査の際の算出では、当然に所定の厚さ(t
s)以外の厚さであることから、算出と実測(正寸)との間の誤差が不可避であった。
【0031】
そこで、予め、計測対象について、厚さの異なる複数の試料が作成され、同時に各試料の輝度吸収係数が求められる。そこで、試料における厚さと輝度吸収係数の相関性に基づいて所定の相関式が設定される。具体的には、複数種類の厚さの第2部材22(接着剤等の樹脂素材)と、各厚さの第2部材22の輝度吸収係数との間に成立する相関式が設定される。
【0032】
相関式については、一次関数、二次関数、べき関数、指数関数、対数関数等の相関性が認められる関数式が採用される。関数式の選択に際しては、第2部材22(接着剤等の樹脂素材)の材質、素材が考慮される。
【0033】
実施形態では、相関式は、直線回帰の一次相関の式(i)として規定される。式(i)は、
図5の模式図のとおり、第2部材の複数の厚さの試料と、第2部材の複数の厚さの試料の輝度吸収係数から最小二乗法により算出され、設定される。一次相関の式とする場合、式中に含まれる係数、定数の個数が少なく、後述の関係式の設定は容易となる。
【0034】
式(i)において、μA2は第2部材の輝度吸収係数、t2は第2部材の厚さ、aは一次相関の式の係数、bは一次相関の式の定数である。
【0035】
【0036】
ここで、
図6の模式図を用い、X線強度と輝度吸収係数との関係について説明する。
図6(A)の第1模式図では、所定の部材(金属、樹脂等)について、厚さ(X透過距離):t、材質に基づく輝度吸収係数:μ、そして、照射X線強度:I
0、及び透過X線強度:Iが求められたとする。すると、式(f1)の関係式が成立する。これより、厚さ:tについて導くと、式(f2)が成立する。式中の「ln」は自然対数である。なお、X線吸収係数は輝度吸収係数に変換可能である(式(fc)参照)。
【0037】
【0038】
式(fc)中、照射X線強度I0は背景の輝度C0、透過X線強度Iは輝度Cとして置換して、μAは輝度吸収係数、tは厚さである。より詳しく説明すると、X線吸収係数によって吸収されるX線の強度と、輝度吸収係数によって減弱される輝度は等価である。そこで、X線強度のI及びI0を、C及びC0に置き換えることによりX線吸収係数を輝度吸収係数に読み替えることが可能である。また、撮影環境では連続したエネルギのスペクトルが生じる。このため、輝度吸収係数には板厚依存性がある。これに対し、エネルギ毎に固有の値を有するX線吸収係数は板厚依存性との関連を有さない。
【0039】
【0040】
【0041】
次に、
図6(B)の第2模式図では、複数の部材が重なった状態が示される。模式図は、実施形態の第1部材21、第2部材22、及び第3部材23からなる積層物20に対応する3層構造を想定している。図中、Iは透過X線強度(最終透過X線強度)、I
0は透過前のX線強度(照射X線強度)、I
1は第1部材透過後のX線強度、I
2は第2部材透過後のX線強度、μ
A1は第1部材の輝度吸収係数、μ
A2は第2部材の輝度吸収係数、μ
A3は第3部材の輝度吸収係数、t
1は第1部材の厚さ、t
2は第2部材の厚さ、t
3は第3部材の厚さである。なお、これらの記号は、後出の数式においても共通としている。
【0042】
前出の式(f1)に倣って第2模式図の3層構造の関係式を構築すると、式(f3)が成立する。そして、式(f4)のとおり変形することができる。式(f4)の上3段の式では、式(f1)から式(f3)まで拡張する様子の式が示され、続いて両辺はI0で除され、最終的に自然対数をとった式に変形される。こうして、(f5)のt2の式として中間に存在する部材(層)の厚さを求めることができる。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
式(f5)より第1部材21と第3部材23に挟まれた第2部材22の厚さt
2は算出可能である。しかしながら、前掲の
図4の説明のとおり、式(f5)の中の第2部材の輝度吸収係数のμ
A2をそのまま使用すると、測定対象の厚さいかんによって誤差が増大して非破壊検査の精度が低下する。
【0047】
そこで、厚さと輝度吸収係数の相関式、具体的には、前出の一次相関の式(i)が取り入れられる。結果、第2部材の輝度吸収係数のμA2は、一次相関の式(i)を通じて補正される。こうして、式(f6)を得ることができる。さらに、式(f6)において、t2(第2部材の厚さ)を解くことができ、式(ii)を得ることができる。
【0048】
【0049】
【0050】
図3に戻り、部材情報取得部120は、第1部材21の厚さt
1及び輝度吸収係数μ
A1と、第3部材23の厚さt
3及び輝度吸収係数μ
A3を取得する。
【0051】
第1部材21の厚さt1及び輝度吸収係数μA1と、第3部材23の厚さt3及び輝度吸収係数μA3については既知であり、設計上の情報として取得可能である。また、第2部材22の輝度吸収係数μA2については、前出の相関式設定部110にて設定される所定の相関式、実施形態では、相関式設定部110にて設定される一次相関の式(i)が取得される。各部材の情報取得に際しては、処理部10へ数値入力の他に、CAD等の設計データから処理部10へ取り込まれるようにしても良い。
【0052】
X線強度取得部130は、X線源部2から照射される照射X線強度I
0と、X線検出部3により検出される積層物20の透過X線強度Iを取得する。
図1参照のとおり、被検査物(計測対象)の積層物20は、X線源部2とX線検出部3との間の所定位置に配置され、X線強度が計測される。
【0053】
続いて、演算部140は、積層物20における第1部材21の厚さt1及び輝度吸収係数μA1と、第3部材23の厚さt3及び輝度吸収係数μA3と、照射X線強度I0と、透過X線強度Iと、相関式(第2部材の厚さが考慮されるX線強度と線吸収係数の相関式)とを用い第2部材22の厚さt2を算出する。
【0054】
算出に際し使用される相関式は、一次関数、二次関数等の相関性が認められる関数式であり、第2部材の材質により適切に選択される。一連の実施形態では、相関式に前出の直線回帰の一次相関の式(i)が適用される。そこで、式(f6)の第2部材22の輝度吸収係数μA2に、直線回帰の一次相関の式(i)のμA2が代入されて、第2部材22の輝度吸収係数μA2の補正が行われる。そして、第2部材の厚さt2を算出するための式(ii)が得られ、算出に必要な各数値が入力される。こうして、第2部材の厚さt2は算出される。
【0055】
出力部150は、積層物20における第2部材22の厚さt
2の算出結果(推定厚さ)を出力する。出力に当たっては、
図1のディスプレイ16への表示である。出力部150により第2部材22の厚さt
2の算出結果(推定厚さ)が出力されるため、逐次の推定の結果の把握が容易となる。
【0056】
図7のフローチャートは処理部10(CPU11)におけるナゲット部の直径の推定方法の全体の流れであり、相関式設定ステップ(S110)、部材情報取得ステップ(S120)、X線強度取得ステップ(S130)、演算ステップ(S140)、出力ステップ(S150)の各種ステップを備える。むろん、処理部10自体の可動に必要な各種ステップは当然に含まれる。
【0057】
図7のフローチャートは出力ステップ(S150)を含む構成としている。
図7の構成に代えて出力ステップ(S150)が省略される構成としてもよい。また、相関式設定ステップ(S110)は、毎回の測定時に必ず実行する処理ではなく、いったん所定の相関式の設定が行われた後は、材質、設計変更等がない限り省略は可能である。
【0058】
相関式設定機能は、第2部材の厚さと第2部材の輝度吸収係数との間に成立する相関性に基づいて所定の相関式を設定する(S110;相関式設定ステップ)。部材情報取得機能は、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数を取得する(S120;部材情報取得ステップ)。X線強度取得機能は、X線源部2から照射される照射X線強度と、X線検出部3により検出される積層物20の透過X線強度とを取得する(S130;X線強度取得ステップ)。演算機能は、第1部材の厚さ及び輝度吸収係数と、第3部材の厚さ及び輝度吸収係数と、照射X線強度と、透過X線強度と、相関式とを用い第2部材の厚さを算出する(S140;演算ステップ)。出力機能は、第2部材の厚さの算出結果を出力する(S150;出力ステップ)。
【0059】
上述した本発明のコンピュータプログラムは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体に記録されていてよく、記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。
【0060】
なお、上記コンピュータプログラムは、例えば、ActionScript、JavaScript(登録商標)などのスクリプト言語、Objective-C、Java(登録商標)などのオブジェクト指向プログラミング言語、HTML5などのマークアップ言語などを用いて実装できる。
【実施例0061】
発明者は、前出の式(ii)の演算の有効性を確認するべく、積層物の中間に介在される第2部材の輝度吸収係数について、従前の第2部材の輝度吸収係数のみ(厚さの補正なし)による演算に基づく第2部材の厚さの算出結果(結果R1)及び一次相関の式を通じて厚さの補正のある演算に基づく第2部材の厚さの算出結果(結果R2)を求めた。併せて、縦に切断して実際の寸法を計測した。
【0062】
使用した被検体はアルミニウムの板材と樹脂の板材とした。アルミニウムの板材は約1.2mm、樹脂板材は約2.7mmの板厚とした。そして、双方を接着剤により接着し、乾燥するまで室温下にて静置して被検体を調製した。被検体において、アルミニウムの板材が第1部材、接着剤により形成される層が第2部材、樹脂板材が第3部材となる。
【0063】
X線管の管電圧(加速電圧)は120kV、管電流190μAであり、X線の照射時間は0.5秒間とした。
X線源から検出器までの距離(FDD:Focus Ditector Distance)は1100mm、X線源から被検体までの距離(FOD:Focus Object Distance)は450mmとした。つまり、検出器に被検体を接触させて照射した。
【0064】
図8(A)のグラフは、結果R1及び結果R2、並びに実際の寸法を示す。グラフ中の横軸の「幅」は被検体の横方向の長さ位置(mm)である。縦軸の「膜厚」は接着剤よりなる層の厚さ(mm)である。グラフ中の「破線」は結果R1(厚さの補正無し/膜厚依存考慮無し)、「実線」は結果R2(厚さの補正有り/膜厚依存考慮有り)、「○」(丸印)は実測の数値である。また、
図8(B)は当該被検体の縦切断面の写真である。写真中の白い線は接着剤よりなる層(第2部材に相当)を明確化した輪郭線である。
【0065】
図8(A)のグラフより、結果R1(厚さの補正無し/膜厚依存考慮無し)は、厚さ(グラフ中の膜厚)の厚い領域(例えば30mm近傍)では実測値との乖離が大きい。これに対し、結果R2(厚さの補正有り/膜厚依存考慮有り)は、いずれの領域においても実測値に近似して乖離が少ない。従って、実施形態の厚さ測定装置、厚さ測定方法、厚さ測定プログラムの有効性は極めて高い。