(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143682
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20230928BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20230928BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 653C
H01L29/91 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199490
(22)【出願日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022047592
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花岡 正行
(57)【要約】
【課題】
IGBTの閾値や負荷短絡耐量を低下させることなく、逆導通型IGBTの逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減した半導体装置を提供する。
【解決手段】
IGBT領域のベース領域の不純物濃度よりもダイオード領域の不純物濃度を低減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域上であって第1導電型と反対の導電型である第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域上であって第1導電型の第3半導体領域と、
前記第1半導体領域上であって第2半導体領域とは反対側に設けられ、第2導電型の第4半導体領域と、
第2半導体領域と対向して絶縁膜を介して配置された制御電極とを含むIGBT領域と、
前記第1半導体領域上であって第2導電型の第5半導体領域と、
を含むダイオード領域を備え、
前記第5半導体領域の不純物濃度は前記第2半導体領域の不純物濃度よりも低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1半導体領域と前記第2半導体領域との間に前記第1半導体領域よりも不純物濃度が高い第6半導体領域を含み、
前記第1半導体領域と前記第5半導体領域との間に前記第6半導体領域を含まないことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記制御電極は前記第2半導体領域を貫通する第1の溝内に設けられており、
前記第5半導体領域を貫通するように第2の溝と前記第2の溝内に絶縁された補助電極とが設けられており、
前記第5半導体領域上の前記第2の溝の側面には前記第5半導体領域より不純物濃度が高い第2導電型の第7半導体領域と、
前記第5半導体領域上であって前記第7半導体領域に隣接して配置され、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が高い第1導電型の第8半導体領域と、を含み、
前記第8半導体領域と前記第5半導体領域との界面は前記第7半導体領域と前記第5半導体領域との界面よりも深いことを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記補助電極は第1導電型のポリシリコンからなることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBTとFWDとを逆並列に接続した半導体装置において、逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減した半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどを駆動するスイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、FWD(Free Wheeling Diode)とを逆並列に接続した半導体装置が知られている。IGBTに逆並列に接続されたFWDは、モータ等のコイルで生じる逆起電力による還流電流からIGBTを保護する役割がある。
【0003】
IGBT領域とFWD領域を同一半導体基板上に形成し、小型化とボンディングワイヤを削減した逆導通型IGBT(RC-IGBT)が知られている。逆導通型IGBTの動作特性を向上させるためには、同一半導体基板に形成されるIGBT領域とFWD領域とのそれぞれの動作特性を向上させることが必要となる。特許文献1の逆導通型IGBTはFWD領域において、アノード領域34より不純物濃度が高いPアノード層36とN+キャリア制御層44を設ける例が開示されている。これにより、FWD領域の順方向電流を増加させ、FWD動作時のスイッチング速度が向上し、高速化を図ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の半導体装置においてFWD領域の逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減しようとすると、ベース領域の不純物濃度も下げる必要がある。そうすると、IGBTの閾値電圧や負荷短絡耐量が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明の課題は、IGBTの閾値電圧や負荷短絡耐量を低下させることなく、逆導通型IGBTの逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減した半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体装置は、第1導電型の第1半導体領域と、第1半導体領域上であって第1導電型と反対の導電型である第2導電型の第2半導体領域と、第2半導体領域上であって第1導電型の第3半導体領域と、第1半導体領域上であって第2半導体領域とは反対側に設けられ、第2導電型の第4半導体領域と、第2半導体領域と対向して絶縁膜を介して配置された制御電極とを含むIGBT領域と、第1半導体領域上であって第2導電型の第5半導体領域と、を含むダイオード領域を備え、第5半導体領域の不純物濃度は第2半導体領域の不純物濃度よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、IGBTの閾値や負荷短絡耐量を低下させることなく、逆導通型IGBTの逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減した半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1を示すための断面図である。
【
図2】本発明の実施例1の不純物濃度分布を示すための断面図である。
【
図3】本発明の実施例の半導体装置におけるIGBT領域19の不純物濃度(点線)とダイオード領域20の不純物濃度(実線)を示す図である。
【
図4】従来の半導体装置におけるIGBT領域19の不純物濃度(点線)とダイオード領域20の不純物濃度(実線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に何ら限定されるものではない。
【0011】
図面を参照しながら、複数の実施形態について詳細に説明する。図面の記載は模式的なものであり、厚みと寸法の関係、各層の厚みも比率等は一例であり、発明の技術思想を限定するものではない。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる場合がある。以下の説明で、部材の位置関係を説明する際に、「上部」「下部」「右側」「左側」等は参照する図面の向きに基づいて必要に応じて使用されるが、発明の技術的思想を限定するものではない。また「上部」「下部」「右側」「左側」等の説明は部材が接していなくとも用いられる場合がある。また、「不純物濃度」とは、半導体の導電性に寄与する不純物元素の実効的な濃度を意味するものとする。例えば、半導体にドナーとなるn型不純物元素と、アクセプタとなるp型不純物元素が含有されている場合、他方の元素による相殺分を除いた一方の不純物元素の濃度を「不純物濃度」と定義する。また、半導体層または半導体領域の不純物濃度とは、特にことわりのない限り、各半導体層または各半導体領域における最大不純物濃度を意味するものとする。
【実施例0012】
本発明の実施例1に係る半導体装置を説明する。
図1は、本発明による半導体装置の素子構造を示す図である。半導体装置はIGBT領域19とFWDのダイオード領域20が設けられており、
図1の半導体装置のようにIGBT領域19に挟まれるようにダイオード領域20を設けられている。なお、IGBT領域19とダイオード領域20を交互に設けてもよいし、半導体装置を平面的に見てIGBT領域19の少なくとも一部を外側からダイオード領域20が囲むようにIGBT領域19とダイオード領域20を設けてもよい。
【0013】
IGBT領域19は、第1導電型(N型)のドリフト領域1と、ドリフト領域1上の第2導電型(P型)のベース領域2と、ベース領域2上の第1導電型(N型)のエミッタ領域3とを備える。第1のトレンチ21がベース領域2を貫通するように形成され、第1のトレンチ21の側壁にはエミッタ領域3が形成されている。
ドリフト領域1の下方に第2導電型(P型)のコレクタ領域4を備え、ドリフト領域1とコレクタ領域4との間にドリフト領域1よりも不純物濃度が高い第1導電型(N型)のフィールドストップ(FS)層5を備える。エミッタ領域3と側壁で隣接する第1のトレンチ21とそれと隣り合う第1のトレンチ21との間には、ベース領域2よりも不純物濃度が高い第2導電型(P型)のコンタクト領域9が設けられている。また、ドリフト領域1よりも不純物濃度が高い第1導電型(N型)のキャリア蓄積層8がベース領域2とドリフト領域1との間に設けられている。
第1のトレンチ21内には絶縁膜17を介して制御電極15を備える。第1の主電極13がエミッタ領域3と電気的に低抵抗接続し、第2の主電極14がコレクタ領域4と電気的に低抵抗接続している。コンタクト領域9は第1の主電極13と電気的に接続していてもよい。
【0014】
ダイオード領域20は、ドリフト領域1と、ドリフト領域1上の第2導電型(P型)のアノード領域6とを備える。第2のトレンチ22がアノード領域6を貫通するように形成され、第2のトレンチ22の開口部側の側壁には第2導電型(P型)の半導体領域11が形成されている。隣接する第2のトレンチ22間には、半導体領域11と隣接してドリフト領域1よりも不純物濃度が高い第1導電型(N型)の半導体領域12が設けられている。
ダイオード領域20のアノード領域6と反対側のドリフト領域1上にはIGBT領域19と同じくFS層5が設けられている。
ドリフト領域1の下方にコレクタ領域の代わりにFS層5よりも不純物濃度が高い第1導電型(N型)のカソードコンタクト領域7が設けられている。カソードコンタクト領域7はFS層5の下側に設けられている。
第2のトレンチ22内には絶縁膜18を介して補助電極16を備える。
図1の半導体装置において、補助電極16は第1の主電極13と電気的に接続している。第1の主電極13が半導体領域11と電気的に低抵抗接続し、第2の主電極14がカソードコンタクト領域7と電気的に低抵抗接続している。半導体領域12は第1の主電極13と電気的に接続している。
【0015】
ダイオード領域20のアノード領域6の不純物濃度がIGBT領域19のベース領域2の不純物濃度よりも低くなっている。つまり、アノード領域6の最大の不純物濃度がIGBT領域19のベース領域2の最大の不純物濃度よりも低くなっている。IGBT領域19のベース領域2の不純物濃度は短絡耐量やIGBTの閾値が変化する問題があるので、比較的高めることが望ましい。しかし、ダイオード領域20のアノード領域6の不純物濃度を同様に高めてしまうと、逆方向ピーク電流(Irpeak)が大きくなってしまう。そこで、ベース領域2の不純物濃度とダイオード領域20のアノード領域6の不純物濃度を同じとせず、アノード領域6の不純物濃度をIGBT領域19のベース領域2の不純物濃度よりも低くする。これにより、半導体装置はIGBTの閾値や負荷短絡耐量を低下させることなく、逆導通型IGBTの逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減することができる。アノード領域6は例えば選択拡散で形成される。アノード領域6とする領域の上面側からイオン注入される量をマスクで限定し、第2のトレンチ22の側壁から斜めイオン注入と熱拡散でアノード領域6を形成する場合、アノード領域6を形成するイオン注入とベース領域2を形成するイオン注入とを同時に行うことができる。
本発明の実施例の半導体装置の不純物濃度分布を
図2に示す。また、本発明の実施例の半導体装置のドリフト領域1およびその上方におけるIGBT領域19とダイオード領域20の不純物濃度分布を
図3に示す。また、比較例として従来のIGBT領域とダイオード領域のドリフト領域1およびその上方における不純物濃度分布を
図4で示す。なお、
図3と
図4において、点線がIGBT領域19におけるエミッタ領域3上面からドリフト領域1までの不純物濃度分布を示し、実線がダイオード領域20における半導体領域11からドリフト領域1までの不純物濃度分布を示す。実施例の半導体装置において、
図2と
図3をみるとわかるように、アノード領域6の不純物濃度は、IGBT領域19のベース領域2の不純物濃度よりも低くなっており、アノード領域6の不純物濃度はベース領域2の不純物濃度に対し、1/20~1/2の範囲となっている。
【0016】
ここで、IGBT領域19には(N型)のキャリア蓄積層8を設けてもよいが、ダイオード領域20のアノード領域6とドリフト領域1との間に(N型)のキャリア蓄積層8を設けないことが望ましい。ダイオード領域20にキャリア蓄積層8を設ける場合、キャリア蓄積層8は一般的に基板表面側からイオン注入して形成されるため、アノード領域6が形成される領域の不純物濃度はキャリア蓄積層8よりも高くなる。すると、アノード領域6がP型であって且つ低い不純物濃度で安定して形成することが困難となる。そこで、ダイオード領域20にキャリア蓄積層8を設けないことが望ましい。さらに、ダイオード領域20にキャリア蓄積層8を設けると、アノード領域6側に空乏層がより広がりやすくなる。アノード領域6を低不純物濃度とすることで空乏層がより広がりやすくなっていることに合算して、空乏層が広がりやすくなってしまう。ゆえに、そこで、ダイオード領域20にキャリア蓄積層8を設けないことが望ましい。
【0017】
ここで、アノード領域6と第1の主電極13とが接触させると、アノード領域6が低い不純物濃度であるため、接触抵抗が大きくなり、ダイオード領域20の順電圧が上昇してしまう。そこで、アノード領域6よりも不純物濃度が高い半導体領域11をアノード領域6と第1の主電極13との間の第2の溝22の側面に形成し、半導体領域11と第1の主電極13とを電気的に接続する。 これにより、ダイオード領域20の順電圧が上昇してしまうことを抑制することができる。さらに、ダイオード領域20のアノード領域6の不純物濃度を下げると、ダイオード領域20の第2の溝22の側面で空乏層が延び易くなる。そのため、半導体領域11がチャネルストッパとして半導体領域11に達した空乏層が更に広がることを抑制することができる。ここで、第2の溝22の開口部から半導体領域11の上面上には、第2の溝22から延びる絶縁膜18が形成されている。絶縁膜18が形成されていることで、第2の溝22の開口部近傍でアノード領域6が第1の主電極13と直接接しておらず、ダイオード領域20の耐圧を向上することができる。
【0018】
また、補助電極16は制御電極15と同じく、N型のポリシリコンで形成されている。
【0019】
半導体領域11を設けると、ダイオード領域20のP型不純物濃度が上昇してしまう。
そこで、ダイオード領域20の表面にN型の半導体領域12が設けられている。N型の半導体領域12はエミッタ領域3と同一工程で形成しても良く、ドリフト領域1やキャリア蓄積層8よりも不純物濃度が高い。これにより、ダイオードが順方向動作した時のダイオード領域20の表面のホール(キャリア)を少なく保つことができる。ダイオード領域20の表面のホール濃度を低く保つため、半導体領域12の不純物濃度はP型の半導体領域11よりも高く、且つ半導体領域12の底部はP型の半導体領域11の底部より深くなるよう形成することが望ましい。つまり、半導体領域12とアノード領域6との界面は半導体領域11とアノード領域6との界面よりも深くまで形成されている。これにより、ダイオード領域20の表面のホールをより少なく保つことができ、逆導通型IGBTの逆方向ピーク電流(Irpeak)を低減することができる。