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特開2023-143699チタン合金材及びチタン合金部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143699
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】チタン合金材及びチタン合金部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20230928BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230928BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
C22F1/00 640B
C22F1/00 650A
C22F1/00 650D
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003948
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022048511
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】今野 昂
(72)【発明者】
【氏名】逸見 義男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 明夫
(72)【発明者】
【氏名】枩倉 功和
(57)【要約】
【課題】本発明は、加工時にひずみが加えられた場合でも、高温耐久性に優れるチタン合金部品を形成できるチタン合金材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るチタン合金材は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物である。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、
Si:0.3質量%以上0.6質量%以下
を含み、
下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、
残部がTi及び不可避的不純物であるチタン合金材。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【請求項2】
下記式2をさらに満たす請求項1に記載のチタン合金材。
10≦3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eq≦14・・・2
【請求項3】
上記式1において、0.1≦[Nb]≦0.5を満たす請求項1又は請求項2に記載のチタン合金材。
【請求項4】
5%のひずみが加えられた部分を含むように曲げ加工を行ったうえで、800℃で100時間保持したときの曲げ加工部分における板厚1/4の位置のチタン合金の平均結晶粒径が30μm以下である請求項1又は請求項2に記載のチタン合金材。
【請求項5】
Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、
Si:0.3質量%以上0.6質量%以下
を含み、
下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、
残部がTi及び不可避的不純物であるチタン合金材を用い、
3%以上8%以下のひずみを加える加工工程を備えるチタン合金部品の製造方法。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金材及びチタン合金部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気管等には、軽量でかつ意匠性を高められる等の観点から、チタン材又はチタン合金材が用いられている。排気管等の部品は、板状のチタン材又はチタン合金材に曲げ加工やプレス加工を施すことで形成される。そのため、チタン材又はチタン合金材には、圧延によって形成でき、かつ加工のための十分な延性を備えていることが必要とされる。
【0003】
この部品は、内燃機関の振動や、二輪車、四輪車等の車両の走行に基づく振動に耐えられるように設計される。また、この部品は、内燃機関の排気によって高温にさらされるため、耐酸化性が高いことが求められる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-270199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタン材又はチタン合金材を用いた部品では、加工時にひずみが加わった部分で粒成長が促進しやすくなる。その結果、疲労強度が低下し、高温耐久性が低下しやすくなる。
【0006】
特許文献1には、Siを特定量含むとともに、Alを積極的に規制することで、チタン合金の耐高温酸化性を向上できることが記載されている。しかしながら、特許文献1では、加工時に加えられるひずみと高温耐久性との関係については検討されていない。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、加工時にひずみが加えられた場合でも、高温耐久性に優れるチタン合金部品を形成できるチタン合金材を提供することを目的とする。また、本発明は、高温耐久性に優れるチタン合金部品を製造できるチタン合金部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るチタン合金材は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物である。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【0009】
本発明の別の一態様に係るチタン合金部品の製造方法は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物であるチタン合金材を用い、3%以上8%以下のひずみを加える加工工程を備える。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係るチタン合金材は、加工時にひずみが加えられた場合でも、高温耐久性に優れるチタン合金部品を形成できる。また、本発明の別の一態様に係るチタン合金部品の製造方法は、高温耐久性に優れるチタン合金部品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るチタン合金部品の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、No.1のチタン合金材における破断部を含む断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
図3図3は、No.2のチタン合金材における破断部を含む断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本発明の一態様に係るチタン合金材は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物である。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【0014】
当該チタン合金材は、Al及びSiの含有量が上記範囲であることに加えて、上記式1で表されるMo当量が上記下限以上であるので、加工のための延性に優れると共に、耐酸化性に優れており、かつ加工時にひずみが加えられた場合でも、高温耐久性を維持することができる。
【0015】
当該チタン合金材は、下記式2をさらに満たすとよい。
10≦3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eq≦14・・・2
【0016】
このように、当該チタン合金材は、上記式2を満たすことで、加工のための延性、高温強度及びひずみが加えられた場合の高温耐久性を全体としてより向上することができる。
【0017】
上記式1において、0.1≦[Nb]≦0.5を満たすとよい。このようにすることで、耐酸化性及びひずみが加えられた場合の高温耐久性をより向上することができる。
【0018】
5%のひずみが加えられた部分を含むように曲げ加工を行ったうえで、800℃で100時間保持したときの曲げ加工部分における板厚1/4の位置のチタン合金の平均結晶粒径が30μm以下であるとよい。このように構成されることで、疲労強度を高め高温耐久性を向上することができる。
【0019】
本発明の別の一態様に係るチタン合金部品の製造方法は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物であるチタン合金材を用い、3%以上8%以下のひずみを加える加工工程を備える。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【0020】
当該チタン合金部品の製造方法は、Al及びSiの含有量が上記範囲であることに加えて、上記式1で表されるMo当量が上記下限以上であるチタン合金材を用いるので、高温耐久性に優れるチタン合金部品を製造できる。
【0021】
なお、本発明において、「ひずみ」とは、公称ひずみεを意味する。また、「3%以上8%以下のひずみを加える」とは、ε=ΔL/L(ΔL:長さの変化分、L:変化前の長さ)とした場合に、3≦ε×100≦8となる部分が存在していることを意味する。
【0022】
「曲げ加工部分における板厚1/4の位置」とは、曲げ加工部分の外周面を基準とした1/4の位置を意味する。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載されている数値については、記載された上限値と下限値との一方のみを採用すること、或いは上限値と下限値を任意に組み合わせることが可能である。
【0024】
<チタン合金材>
当該チタン合金材は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物である。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【0025】
当該チタン合金材は、例えば板状である。当該チタン合金材は、例えば内燃機関の排気管等のチタン合金部品に形成される。上記排気管としては、例えば自動二輪車や自動四輪車等の車両用のものが挙げられ、エキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプ、触媒マフラー、プリマフラー、サイレンサー(メインマフラー)等のマフラー部材を含む。
【0026】
(Al)
Al(アルミニウム)は、当該チタン合金材において、主にα相に固溶し、固溶強化によって高温強度を向上させる。当該チタン合金材におけるAlの含有量の下限としては、上述のように0.2質量%であり、0.3質量%が好ましい。一方、当該チタン合金材におけるAlの含有量の上限としては、上述のように0.5質量%である。上記含有量が上記下限に満たないと、高温強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、当該チタン合金材の延性が不十分となり、内燃機関の排気管等への加工が困難になるおそれがある。
【0027】
(Si)
Si(ケイ素)は、当該チタン合金材のクリープ特性及び耐酸化性を向上させる。当該チタン合金材におけるSiの含有量の下限としては、上述のように0.3質量%であり、0.4質量%が好ましい。一方、当該チタン合金材におけるSiの含有量の上限としては、上述のように0.6質量%であり、0.5質量%が好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、耐酸化性の向上効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記含有量が
上記上限を超えると、当該チタン合金材の延性が不十分となり、内燃機関の排気管等への加工が困難になるおそれがある。
【0028】
(Mo当量)
上述のように、当該チタン合金材は、上記式1で表されるMo当量(モリブデン当量)が0.35以上である。このMo当量は、β相の安定性を示す指標として用いられる。すなわち、当該チタン合金材において、Mo当量は、β相安定化元素の含有量としての意味合いを有する。当該チタン合金材は、プレス加工や曲げ加工などの加工を経てチタン合金部品に形成される。加工による変形量は部分によって異なるが、10%を超えるようなひずみが加えられた部分では、高温において再結晶が生じるため、金属組織の急激な粗大化は生じない。一方で、5%前後のひずみが加えられた部分では、高温において金属組織が急激に粗大化し、耐久性が低下する。そのため、当該チタン合金材において十分な高温耐久性を得るためには、5%前後のひずみが加えられた場合でも金属組織の急激な粗大化を抑制できることが望ましい。この観点において、本発明者らが鋭意検討したところ、Mo当量を上記下限以上とすることで、5%前後のひずみが加えられた場合でも、高温における金属組織の急激な粗大化を抑制できるとの知見を得た。
【0029】
上記Mo当量の下限としては、上述のように0.35であり、0.4が好ましい。一方、上記Mo当量の上限としては、0.8が好ましく、0.6がより好ましい。上記Mo当量が上記下限に満たないと、加工によるひずみ(特に5%前後のひずみ)が加えられた場合に粒成長を抑制することができず、金属組織が粗大化することで、高温耐久性が不十分となるおそれがある。逆に、上記Mo当量が上記上限を超えると、当該チタン合金材の延性が不十分となるおそれがある。
【0030】
当該チタン合金材は、下記式2をさらに満たすことが好ましい。
10≦3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eq≦14・・・2
【0031】
当該チタン合金材は、上記式2を満たすことで、加工のための延性、高温強度及びひずみが加えられた場合の高温耐久性を全体としてより向上することができる。より詳しく説明すると、当該チタン合金材は、上記式2のうち、[Al]及び[Si]を大きくすることで高温における強度を大きくすることができる。また、当該チタン合金材は、上記式2のうち、[Mo]eqを大きくすることで高温における強度を維持しやすくなる。そのため、当該チタン合金材は、上記式2において、10≦3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eqとすることで、高温における強度を大きくすると共に、この強度を十分に維持することができ、これによって高温における疲労特性を向上することができる。さらに、当該チタン合金材は、上記式2において、3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eq≦14とすることで、延性が不十分となることを抑制することができる。
【0032】
当該チタン合金材にあっては、上記Mo当量が所望の範囲内であればよく、β相を安定化するための元素(β相安定化元素)の種類は、特に限定されない。すなわち、β相安定化元素としては、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Fe(鉄)のいずれを含んでいてもよい。但し、当該チタン合金材は、β相安定化元素として、Nbを含むことが好ましい。Nbは、比較的微量の添加で当該チタン合金材の耐酸化性を向上することができる。また、Nbは、比較的含有量を大きくしても、当該チタン合金材の延性の低下を抑制することができる。
【0033】
上記β相安定化元素として、Nbを含む場合、当該チタン合金材は、上記式1において、0.1≦[Nb]≦0.5を満たすことが好ましい。すなわち、当該チタン合金材におけるNbの含有量の下限としては、0.1質量%が好ましい。また、Nbの含有量の下限としては、0.2質量%がより好ましい。一方、当該チタン合金材におけるNbの含有量の上限としては、0.5質量%が好ましい。また、Nbの含有量の上限としては、0.3質量%がより好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、当該チタン合金材の耐酸化性を効果的に向上することが容易でなくなるおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、当該チタン合金材の延性が不十分となるおそれがある。
【0034】
(不可避的不純物)
当該チタン合金材において、その他の元素は、Ti及び不可避的不純物である。当該チタン合金材には、鉱石及び製造方法に起因して、一般に不可避的不純物が含まれる。
【0035】
当該チタン合金材に含まれ得る不可避的不純物としては、例えばC(炭素)、Fe、Ni、Cr、Pd(パラジウム)、N(窒素)、O(酸素)等が挙げられる。上記不可避的不純物としてCを含む場合、Cの含有量としては、例えば0.05質量%以下とすることができる。上記不可避的不純物としてFeを含む場合、Feの含有量としては、例えば0.1質量%以下とすることができる。上記不可避的不純物としてNi、Cr又はPdを含む場合、これらの元素の含有量としては、例えば各元素について0.01質量%以下とすることができる。上記不可避的不純物としてNを含む場合、Nの含有量としては、例えば0.01質量%以下とすることができる。上記不可避的不純物としてOを含む場合、Oの含有量としては、例えば0.2質量%以下とすることができる。
【0036】
上記不可避的不純物のうち、Fe、Ni及びCrは、上述のβ相安定化元素に含まれる。そのため、当該チタン合金材は、上記不可避的不純物として、Fe、Ni及びCrの1種又は2種以上を含むことで、Mo当量を大きくすることが可能である。なお、当該チタン合金材は、Mo当量を大きくする観点から、Fe、Ni及びCrの1種又は2種以上を積極的に添加することも可能である。
【0037】
上記不可避的不純物のうち、Fe及びOは、強度延性バランスの調整に利用できる。また、Oは、常温で延性を確保できる限り、本発明の効果に影響を及ぼさない。当該チタン合金材は、Fe、O等の濃度の高い原料を使用して強度を高めることが可能であり、これとは反対に純度の高い原料を使用して、より厳しい成形の要求に対応できる高成形性を得ることも可能である。
【0038】
(平均結晶粒径)
当該チタン合金材において、5%のひずみが加えられた部分を含むように曲げ加工を行ったうえ、800℃で100時間保持したときの曲げ加工部分における板厚1/4の位置のチタン合金の平均結晶粒径の上限としては、疲労強度を高め高温耐久性を向上する観点から、30μmが好ましく、20μmがより好ましく、18μmがさらに好ましい。一方、上記平均結晶粒径の下限としては、特に限定されるものではないが、例えば部品加工時の成形性確保の観点から、3μmであってもよく、6μmであってもよい。なお、「チタン合金の平均結晶粒径」とは、板厚1/4の位置が中心(測定位置)となるように曲げ加工部分における断面を400倍で3視野撮影した組織写真から切断法を用いて測定される値を意味する。
【0039】
曲げ加工部分におけるチタン合金の平均結晶粒径は、例えば当該チタン合金材の製造過程における圧延条件を制御し、元の素材の平均結晶粒径を小さくすることでも調整できる。より詳しくは、例えば当該チタン合金材は、熱間圧延工程及び冷間圧延工程を経て板状に形成される。上記チタン合金の平均結晶粒径は、上記熱間圧延工程及び上記冷間圧延工程の一方又は両方の圧延率(圧延前の板厚をh1、圧延後の板厚をh2とした場合、(h1-h2)/h1で算出される値)を制御することで調整できる。
【0040】
上記熱間圧延工程は、0.6以上0.9以下の圧延率で圧延する工程を含むことが好ましい。上記熱間圧延工程は、例えば粗圧延工程及び仕上げ圧延工程を含んでいる。上記粗圧延工程及び上記仕上げ圧延工程は、例えば分塊工程の後に行われる。上記熱間圧延工程では、上記粗圧延工程及び上記仕上げ圧延工程のうちのいずれの工程における圧延率を上記範囲内に制御してもよい。ただ、上記熱間圧延工程では、上記仕上げ圧延工程における圧延率を上記範囲内に制御することが好ましい。
【0041】
上記圧延率の下限としては、組織をより均一化させて粒成長の抑制効果を高める観点から、上述のように0.6が好ましく、0.65がより好ましく、0.7がさらに好ましい。また、上記圧延率の上限としては、表層の酸素影響層除去に伴う歩留まり低下を防ぐ観点から、上述のように0.9とすることができる。すなわち、当該チタン合金板は、上記熱間圧延工程において、0.6以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであってもよく、0.65以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであってもよく、0.7以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであってもよい。
【0042】
上記冷間圧延工程は、0.5以上0.9以下の圧延率で圧延する工程を含むことが好ましい。上記圧延率の下限としては、組織をより均一化させて粒成長の抑制効果を高める観点から、上述のように0.5が好ましく、0.6がより好ましく、0.65がさらに好ましい。また、上記圧延率の上限としては、端部の割れ除去に伴う歩留まり低下を防ぐ観点から、上述のように0.9とすることができる。すなわち、当該チタン合金板は、上記冷間圧延工程において、0.5以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであってもよく、0.6以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであてもよく、0.65以上0.9以下の圧延率で圧延されたものであってもよい。
【0043】
<チタン合金部品の製造方法>
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るチタン合金部品の製造方法について説明する。
【0044】
当該チタン合金部品の製造方法は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、下記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物であるチタン合金材を用い、3%以上8%以下のひずみを加える加工工程S1を備える。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・1
但し、上記式1における[X]は、チタン合金材における元素Xの含有量[質量%]を意味する。
【0045】
<チタン合金材の製造方法>
当該チタン合金部品の製造に用いられるチタン合金材は、例えば上述の熱間圧延工程及び冷間圧延工程を経て製造することができる。具体的には、当該チタン合金材の製造方法は、Al:0.2質量%以上0.5質量%以下、Si:0.3質量%以上0.6質量%以下を含み、上記式1で表されるMo当量[Mo]eqが0.35以上であり、残部がTi及び不可避的不純物である板材を熱間圧延する熱間圧延工程と、上記熱間圧延工程によって得られた熱延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを備える。また、当該チタン合金材の製造方法は、鋳塊が凝固した際の粗大な金属組織を持つ素材を分塊することで上記板材を形成する分塊工程と、上記冷間圧延工程によって得られた冷延板を熱処理する熱処理工程とを備える。
【0046】
当該チタン合金材の製造方法は、下記(a)及び(b)の少なくともいずれかの要件を満たすことが好ましい。また、当該チタン合金材の製造方法は、下記(a)及び(b)の両方の要件を満たすことがより好ましい。
(a)上記熱間圧延工程が、0.6以上0.9以下の圧延率で圧延する工程を含む。
(b)上記冷間圧延工程が、0.5以上0.9以下の圧延率で圧延する工程を含む。
【0047】
(分塊工程)
上記分塊工程では、鋳塊が凝固した際の粗大な金属組織を持つ素材に対して分塊鍛造または分塊圧延もしくはその両方を施すことで、上記熱間圧延工程に供する板材を形成する。上記分塊工程では、上記熱間圧延工程よりも高い温度(例えば900℃以上1100℃以下の温度)で上記素材を加工する。
【0048】
(熱間圧延工程)
上記熱間圧延工程は、例えば粗圧延工程及び仕上げ圧延工程を含む。上記仕上げ圧延工程は、上記熱間圧延工程における最後の圧延手順として行われる。上記熱間圧延工程では、上記粗圧延工程及び上記仕上げ圧延工程のうちのいずれの工程における圧延率を上記(a)の要件を満たすように制御してもよい。ただ、上記熱間圧延工程では、上記仕上げ圧延工程における圧延率を上記(a)の要件を満たすように制御することが好ましい。上記(a)の要件について、より好ましい圧延率としては、当該チタン合金材について説明した範囲と同じである。
【0049】
(冷間圧延工程)
上記冷間圧延工程は、上記熱間圧延工程によって得られた熱延板に対して、焼鈍、空冷、平面研削等を行った後に実施されてもよい。上記(b)の要件について、より好ましい圧延率としては、当該チタン合金材について説明した範囲と同じである。
【0050】
(熱処理工程)
上記熱処理工程では、例えば上記冷間圧延工程によって得られた冷延板に対して、仕上げ焼鈍を施す。上記熱処理工程における熱処理温度としては、例えば600℃以上700℃以下とすることができる。また、上記熱処理工程における熱処理時間としては、例えば10時間以上40時間以下とすることができる。
【0051】
当該チタン合金部品の製造方法は、上述の当該チタン合金材を用いて例えば内燃機関の排気管等のチタン合金部品を製造する。上記排気管としては、例えば自動二輪車や自動四輪車等の車両用のものが挙げられ、エキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプ、触媒マフラー、プリマフラー、サイレンサー(メインマフラー)等のマフラー部材を含む。
【0052】
(加工工程)
加工工程S1では、当該チタン合金材に3%以上8%以下のひずみを加えて所望の形状に加工する。換言すると、加工工程S1では、当該チタン合金材の少なくとも一部に3%以上8%以下のひずみが加わるように、当該チタン合金材を所望の形状に加工する。例えば加工工程S1で当該チタン合金材を曲げ加工する場合、上記範囲内のひずみが加えられる部分は、板厚方向(径方向)における一部の領域であってもよい。上述のように、当該チタン合金材は、5%前後のひずみが加えられた場合でも、高温における金属組織の急激な粗大化を抑制することができる。そのため、当該チタン合金部品の製造方法は、加工工程S1を備えることで、所望の形状を有すると共に、耐酸化性及び高温耐久性に優れるチタン合金部品を製造することができる。
【0053】
<利点>
当該チタン合金材は、Al及びSiの含有量が上述の範囲であることに加えて、上述の式1で表されるMo当量が上記下限以上であるので、加工のための延性に優れると共に、耐酸化性に優れており、かつ加工時にひずみが加えられた場合でも、高温耐久性を維持することができる。
【0054】
当該チタン合金部品の製造方法は、Al及びSiの含有量が上述の範囲であることに加えて、上述の式1で表されるMo当量が上記下限以上であるチタン合金材を用いるので、高温耐久性に優れるチタン合金部品を製造できる。
【0055】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【実施例0056】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0057】
(サンプルの作製)
表1に示す組成を有しており、かつ板厚が0.9mmのチタン合金材(チタン合金板)を作製した。なお、表1において、各元素の含有量は、サンプル作製時の配合割合を示している。表1中の「-」は、配合していないことを意味している。
【0058】
【表1】
【0059】
(高温耐久性)
No.1及びNo.2のチタン合金材について、圧延によって4.8%から4.9%のひずみを加えたうえで、東京衡機試験機社製のシェンク式平面曲げ疲労試験機「PTF-160」を用いて、800℃の大気中にて曲げ疲労試験を行った。この曲げ疲労試験は、試験温度(800℃)で試験片を30分間以上保持した後に開始した。試験条件は、応力振幅約80MPa、応力比-1の板厚方向への両振り負荷とし、周波数は25Hzとし、初期負荷応力が50%まで低下した時点を破断と判定した。No.1のチタン合金材については、繰り返し数1.30×10回で破断したのに対し、No.2のチタン合金材は、繰り返し数3.07×10回まで破断しなかった。No.1のチタン合金材について、繰り返し数1.30×10回後における破断部を含む断面組織を図2に示す。また、No.2のチタン合金材について、繰り返し数3.07×10回後における破断部を含む断面組織を図3に示す。なお、曲げ疲労試験開始前において、No.1及びNo.2のチタン合金の平均結晶粒径はいずれも10μm程度であった。
【0060】
図2に示すように、No.1のチタン合金材は、曲げ疲労試験における高温保持により金属組織が粗大化している。また、曲げ疲労試験によって生じた亀裂は、結晶粒界に沿っており、金属組織の粗大化が、疲労寿命の低下につながったことが分かる。これに対し、No.2のチタン合金材は、金属組織が細かく保たれており、このことが高温における曲げ疲労特性(すなわち、高温耐久性)の向上につながったと考えられる。
【0061】
本発明者らがさらに調査したところ、No.2のチタン合金材において金属組織が細かく保てている主たる根拠は、チタンのβ相のピン留め効果にあることが分かった。この知見を基に、No.2からNo.9について、Mo当量を調整しつつ、以下の試験を行い、チタン合金材の品質について評価した。また、No.2からNo.9について、3.4[Al]+13.4[Si]+13.9[Mo]eqの値を算出した。この結果を表2に示す。
【0062】
(粒成長1)
No.2からNo.7及びNo.9について、5%のひずみが加えられた部分を含むように曲げ加工を行ったうえで、800℃で100時間保持し、曲げ加工部分の板厚1/4の位置(曲げ加工部分の外周面を基準とした1/4の位置)におけるひずみ部分の金属組織の粗大化の有無を以下の基準で評価した。なお、チタン合金の平均結晶粒径は、板厚1/4の位置が中心(測定位置)となるように曲げ加工部分における断面を400倍で3視野撮影した組織写真から切断法を用いて測定した。また、800℃で保持する前において、No.2からNo.9のチタン合金の平均結晶粒径はいずれも10μm程度であった。この結果を表2に示す。
A:平均結晶粒径が30μm以下に制御できている。
B:平均結晶粒径が30μm以下に制御できていない。
【0063】
(伸び)
No.2からNo.9のチタン合金材について、引張荷重軸が圧延方向と平行となるようにASTM E8/E8Mに準拠して、サブサイズ引張試験片を切り出し、室温で、ひずみ速度を0.2%耐力取得までは0.5%/min、0.2%耐力取得から破断までは12.8mm/minとして、引張試験を行い、伸び[%]を求めた。この結果を表2に示す。
【0064】
(酸化重量増加量)
No.2からNo.9のチタン合金材について、それぞれ長さ50mm、幅20mmの試験片を切り出し、曲率半径6mmで長さ方向と曲げ線が垂直になるように90°曲げを行ったうえ、大気中で、100時間、800℃±14℃以内の温度に保持し、その後空冷した。加熱前後で試験片の重量を測定し、表面積当たりの酸化重量増加量[mg/cm]を算出した。この結果を表2に示す。
【0065】
(高温強度)
No.2からNo.9のチタン合金材について、G.L.(Gauge Length:応力のかかる有効距離)23mmの試験片を切り出し、800℃の大気中にて、引張速度を0.2%耐力取得までは0.13mm/min、0.2%耐力取得から破断までは1.25mm/minとして、引張試験を行い、高温強度(800℃における引張強度)[MPa]を求めた。この結果を表2に示す。
【0066】
(粒成長2)
No.2からNo.7及びNo.9の組成を有するチタン合金材について、5%のひずみが加えられた部分を含むように曲げ加工を行ったうえで、800℃で100時間保持したときの曲げ加工部分における板厚1/4の位置(曲げ加工部分の外周面を基準とした1/4の位置)のチタン合金の平均結晶粒径を上記と同様の測定方法で測定した。なお、チタン合金材としては、以下の製造工程を経て形成されたものを用いた。
表1に示す組成を有する鋳塊を1000℃で30分加熱した後、板厚20mmまで加工した。その後、片面1mm切削除去し板厚18mmとした。次いで850℃で30分間加熱し、その後直ちに板厚16mmから4mmまで熱間圧延を行った。得られた熱延板を750℃で5分間焼鈍し、空冷した後、表面の酸化スケール除去のための平面研削を行い、さらに板厚3.5mmから0.9mmまで冷間圧延を行った。その後、最終仕上げとして、660℃×28時間(均熱時間)の真空焼鈍を行い、チタン合金材を得た。
この結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
[評価結果]
表1及び表2に示しているように、Alの含有量が0.2質量%以上0.5質量%以下で、Siの含有量が0.3質量%以上0.6質量%以下であり、かつMo当量が0.35以上であるNo.2からNo.7は、粒成長が十分に抑制されており、かつ伸び、酸化重量増加量、及び高温強度のいずれについても好ましい値となっている。特に、No.2のチタン合金材は、必要な伸びを有しつつ、酸化重量増加量を十分に低くすると共に、高温強度を向上できている。一方で、No.8のチタン合金材は、Alを含有していないため、酸化重量増加量が大きく、かつ高温強度が不十分となっている。また、No.9のチタン合金材は、Mo当量が小さいため、粒成長が抑制できておらず、かつ酸化重量増加量が大きくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の一態様に係るチタン合金材は、ひずみを加えつつも、高温耐久性に優れるチタン合金部品を形成するのに適している。
図1
図2
図3