(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143733
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】義歯床及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/01 20060101AFI20230928BHJP
A61C 13/08 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61C13/01
A61C13/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016386
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022046978
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 朝
(72)【発明者】
【氏名】今堀 文生
(72)【発明者】
【氏名】西澤 正祥
(72)【発明者】
【氏名】藤村 英史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 学
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159FF01
4C159FF12
4C159FF24
(57)【要約】
【課題】複数のソケットにわたって連続した接着材を配置可能な義歯床を提供する。
【解決手段】本開示の義歯床は、床本体と、前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、を備え、前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、前記複数のソケットは、前記溝により連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床本体と、
前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、
を備え、
前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、
前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、
前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、
前記複数のソケットは、前記溝により連通している、
義歯床。
【請求項2】
前記床本体は、歯列弓形状を有し、
前記複数のソケットは、前記床本体の正中線を基準とした左右両側のそれぞれにおいて、
前記床本体の前記正中線付近に設けられる第1ソケットと、
前記第1ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられ第2ソケットと、
前記第2ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第3ソケットと、
前記第3ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第4ソケットと、
前記第4ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第5ソケットと、
前記第5ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第6ソケットと、
前記第6ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第7ソケットと、
を含み、
前記ソケット隔壁は、
前記床本体の前記正中線を挟んで設けられる2つの前記第1ソケットとの間に設けられる第1ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第1ソケットと前記第2ソケットとの間に設けられる第2ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第2ソケットと前記第3ソケットとの間に設けられる第3ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第3ソケットと前記第4ソケットとの間に設けられる第4ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第4ソケットと前記第5ソケットとの間に設けられる第5ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第5ソケットと前記第6ソケットとの間に設けられる第6ソケット隔壁と、
前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第6ソケットと前記第7ソケットとの間に設けられる第7ソケット隔壁と、
を含み、
前記溝は、
前記第1ソケット隔壁に設けられており、隣り合う2つの前記第1ソケットを連通する第1溝と、
前記第2ソケット隔壁に設けられており、前記第1ソケットと前記第2ソケットとを連通する第2溝と、
前記第3ソケット隔壁に設けられており、前記第2ソケットと前記第3ソケットとを連通する第3溝と、
前記第4ソケット隔壁に設けられており、前記第3ソケットと前記第4ソケットとを連通する第4溝と、
前記第5ソケット隔壁に設けられており、前記第4ソケットと前記第5ソケットとを連通する第5溝と、
前記第6ソケット隔壁に設けられており、前記第5ソケットと前記第6ソケットとを連通する第6溝と、
前記第7ソケット隔壁に設けられており、前記第6ソケットと前記第7ソケットとを連通する第7溝と、
を含み、
前記第1~第7のソケットは、前記第1~第7の溝により連通している、
請求項1に記載の義歯床。
【請求項3】
前記第1~第3の溝の深さは、前記第4~第7の溝の深さよりも大きい、
請求項2に記載の義歯床。
【請求項4】
前記第4~第7の溝の幅は、前記第1~第3の溝の幅よりも大きい、
請求項2に記載の義歯床。
【請求項5】
前記第3溝の深さは、前記第1及び第2溝の深さより大きい、
請求項3に記載の義歯床。
【請求項6】
前記溝は、底部と、前記底部から互いに向き合って延びる2つの側壁と、によって画定されており、
前記溝の深さ方向において、前記2つの側壁は前記溝の開口を画定し、
前記溝の開口は、前記溝の底部よりも大きい、
請求項1に記載の義歯床。
【請求項7】
前記2つの側壁は、前記溝の前記底部から前記開口に向かって、前記2つの側壁との間の距離を広げる方向に傾斜する傾斜壁を有する、
請求項6に記載の義歯床。
【請求項8】
前記ソケット隔壁の厚みは、前記溝に向かって小さくなっている、
請求項1に記載の義歯床。
【請求項9】
前記複数のソケットは、
中切歯の人工歯が配置される第1ソケットと、
側切歯の人工歯が配置される第2ソケットと、
犬歯の人工歯が配置される第3ソケットと、
第一小臼歯の人工歯が配置される第4ソケットと、
第二小臼歯の人工歯が配置される第5ソケットと、
第一大臼歯の人工歯が配置される第6ソケットと、
第二大臼歯の人工歯が配置される第7ソケットと、
のうち隣り合う2つ以上のソケットを含む、
請求項1に記載の義歯床。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の義歯床と、
前記義歯床の前記複数のソケットに配置される複数の人工歯と、
前記溝を介して前記複数のソケットに連続して配置され、且つ前記複数の人工歯と前記義歯床とを接着する接着材と、
を備える、
有床義歯。
【請求項11】
前記接着材は、前記溝において隣り合う人工歯を接着する、
請求項10に記載の有床義歯。
【請求項12】
前記接着材は、歯科用レジンである、
請求項10に記載の有床義歯。
【請求項13】
前記複数の人工歯は、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯又は第二大臼歯の中から選択される人工歯であって、互いに独立した複数の人工歯を含む、
請求項10に記載の有床義歯。
【請求項14】
コンピュータによって実行される義歯床の製造方法であって、
口腔内のスキャンデータを取得するステップ、
互いに接続された複数の仮想人工歯を備える仮想人工歯データを前記スキャンデータに配置するステップ、
前記仮想人工歯データが配置された前記スキャンデータに基づいて仮想歯肉部分を形成することによって、義歯床データを作成するステップ、
を含み、
前記義歯床データは、
床本体と、
前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、
を備え、
前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、
前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、
前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、
前記複数のソケットは、前記溝により連通している、
義歯床の製造方法。
【請求項15】
前記仮想人工歯データは、前記複数の仮想人工歯のうち隣り合う仮想人工歯を連結する連結部をさらに備え、
前記義歯床データを作成するステップは、前記隣り合う仮想人工歯の間において前記連結部の外形形状に沿って前記仮想歯肉部分を形成すること、を有する、
請求項14に記載の義歯床の製造方法。
【請求項16】
更に、
前記義歯床データに基づいて、3Dプリンタによって義歯床を作製するステップ、
を含む、
請求項14に記載の義歯床の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の義歯床の製造方法で作製された前記義歯床の前記複数のソケットに接着材を塗布するステップ、
前記接着材が塗布された前記複数のソケットに複数の人工歯を配置するステップ、
を含む、
有床義歯の製造方法。
【請求項18】
前記複数の人工歯を配置するステップは、前記溝を介して前記複数のソケットに連続して配置された前記接着材によって前記複数の人工歯と前記義歯床とを接着すること、を有する、
請求項17に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項19】
前記複数の人工歯を配置するステップは、前記溝に配置された前記接着材によって隣り合う人工歯を接着すること、を有する、
請求項17に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項20】
コンピュータに請求項14~19のいずれか一項に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【請求項21】
コンピュータに請求項14~19のいずれか一項に記載の方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1~7では、市販されている補強材料をPMMAレジンに埋入したり、金属板を義歯表面に張り付ける等の工夫をして義歯に補強効果が得られているか検討されている。これらの研究から、補強材料を金属接着性レジンで埋入することで義歯に補強効果が得られることが明らかになっている。
【0003】
一方で、近年、CAD/CAM法による義歯の製造技術が開発されている。非特許文献8~10に開示されるように、3Dプリンタによる義歯製造技術の発達が著しく、寸法精度及び表面性状が優れる義歯が製造可能になっている。
【0004】
特許文献1では、寸法精度及び表面性状が優れた義歯の3Dプリント方法が開示されている。特許文献2,3では、患者から得られた咬合データに基づいて義歯床データを作成し、ミリングや3Dプリントにより義歯床を造形し、義歯床のソケット部に人工歯を接着させることで有床義歯を作製している。これにより、義歯作製の効率化及び標準化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-522892号公報
【特許文献2】特開2017-18264号公報
【特許文献3】国際公開第2018/159507号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岡田政俊他,“加熱重合型接着性レジンに関する研究-レジン床義歯におけるコバルトクロム線の補強効果について-”,日本補綴歯科学会誌,1985,第29巻,第1号,p.78-84
【非特許文献2】中平良基他,“常温重合型接着性レジンの有床義歯への応用-修理時の補強線の効果-”,日本補綴歯科学会誌,1986,第30巻,第5号,p.1190-1197
【非特許文献3】中平良基他,“常温重合型接着性レジンの有床義歯への応用-補強線埋入による流し込みレジン床の補強効果-”,日本補綴歯科学会誌,1986,第30巻,第1号,p.235-241
【非特許文献4】宮本雅司,“金属板によるはりつけ補強法に関する研究 第2報 上顎全部床義歯モデル実験”,日本補綴歯科学会誌,1988,第32巻,第4号,p.853-859
【非特許文献5】今村基遵他,“床用即時重合レジン強化のためのグラスファイバーの応用 第1報 抗折たわみ試験と引張試験”,小児歯科学雑誌,1988,第26巻、第2号,p.328-335
【非特許文献6】酒匂充夫他,“各種補強材によるレジン床義歯の補強効果について”,日本補綴歯科学会誌,2004,第48巻,第4号,p.592-601
【非特許文献7】森宜昭他,“義歯床用レジンの曲げ強さに及ぼすガラス繊維クロス強化樹脂の補強効果”,日本補綴歯科学会誌,2004,第48巻,第5号,p.781-786
【非特許文献8】萩原恒夫,“3Dプリンタ材料の最新動向と今後の展望”,日本画像学会誌,2015,第54巻,第4号,p.293-300
【非特許文献9】大久保力廣,“有床義歯製作におけるCAD/CAMシステムと将来展望”,日本歯科理工学会誌,2020,第39巻,第1号,p.55-57
【非特許文献10】金澤学,“CAD/CAM技術を応用した全部床義歯製作法”,日補綴会誌,2013,第5巻,第2号,p.126-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数のソケットにわたって連続した接着材を配置可能な義歯床及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る義歯床は、
床本体と、
前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、
を備え、
前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、
前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、
前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、
前記複数のソケットは、前記溝により連通している。
【0009】
本発明の一態様に係る義歯床の製造方法は、
コンピュータによって実行される義歯床の製造方法であって、
口腔内のスキャンデータを取得するステップ、
互いに接続された複数の仮想人工歯を備える仮想人工歯データを前記スキャンデータに配置するステップ、
前記仮想人工歯データが配置された前記スキャンデータに基づいて仮想歯肉部分を形成することによって、義歯床データを作成するステップ、
を含み、
前記義歯床データは、
床本体と、
前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、
を備え、
前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、
前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、
前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、
前記複数のソケットは、前記溝により連通している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のソケットにわたって連続した接着材を配置可能な義歯床及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】本発明に係る実施の形態1の義歯床の部分拡大斜視図
【
図4】本発明に係る実施の形態1の有床義歯の斜視図
【
図5】本発明に係る実施の形態1の有床義歯の平面図
【
図6】本発明に係る実施の形態1の有床義歯の臼歯部における断面図
【
図7】本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法のフローチャート
【
図8A】本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法の工程の一例を示す概略図
【
図8B】本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法の工程の一例を示す概略図
【
図8C】本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法の工程の一例を示す概略図
【
図10】本発明に係る実施の形態1の有床義歯の製造方法のフローチャート
【
図17】実施例1の義歯床データの臼歯部における断面解析部位
【
図18】比較例1の義歯床データの臼歯部の概略断面図
【
図19】実施例1の義歯床データの臼歯部の概略断面図
【
図20】実施例1の義歯床データの前歯部における断面解析部位
【
図21】比較例1の義歯床データの前歯部の概略断面図
【
図22】実施例1の義歯床データの前歯部の概略断面図
【
図23】実施例1の義歯床データのソケット接続部における断面解析部位
【
図31】比較例1に基づいて作製された義歯における臼歯部の接着材層の概略断面図
【
図32】実施例1に基づいて作製された義歯における臼歯部の接着材層の概略断面図
【
図33】比較例1に基づいて作製された義歯における前歯部の接着材層の概略断面図
【
図34】実施例1に基づいて作製された義歯における前歯部の接着材層の概略断面図
【
図35】比較例1に基づいて作製された義歯における接着材層の平面視における概略断面図
【
図36】実施例1に基づいて作製された義歯における接着材層の平面視における概略断面図
【
図38】比較例1の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の唇側面側から撮影した写真
【
図39】比較例1の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の上面側から撮影した写真
【
図40】比較例1の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破折面を撮影した写真
【
図41】実施例2の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の唇側面側から撮影した写真
【
図42】実施例2の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の上面側から撮影した写真
【
図43】実施例2の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破折面を撮影した写真
【
図44】実施例3の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の唇側面側から撮影した写真
【
図45】実施例3の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相を義歯の上面側から撮影した写真
【
図46】実施例3単独既製人工歯接着型下顎義歯の破折面を撮影した写真
【
図47】比較例1において金属製補強線無しの単独既製人工歯接着型義歯を上面から撮影した写真
【
図48】比較例1において金属製補強線を前歯部直下に埋入した単独既製人工歯接着型義歯を上面から撮影した写真
【
図49】比較例1において金属製補強線を舌側研磨面に埋入した単独既製人工歯接着型義歯を上面から撮影した写真
【
図50】実施例1における単独既製人工歯接着型義歯を上面から撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明に至った経緯)
義歯は、歯科医師によって印象採得及び咬合採得が行われた後に、歯科技工士が作業模型製作及び咬合器装着を行い、レジンキャスト法によって作製されるのが主流である。
【0013】
レジンキャスト法によって作製された義歯は、義歯床がアクリル系レジンであることが多く、義歯使用者が不意にアクリルレジン製義歯を落としてしまったり、咬合等により破損させてしまうことがある。
【0014】
前述した問題に対して、非特許文献1~7に示されるように、金属やグラスファイバー等の補強材料を義歯床に埋入して義歯を補強する試みが臨床現場においてなされている。
【0015】
しかしながら、補強材料を義歯床に埋入することは、作業が煩雑であったり、補強材料の色調が見えて審美性が損なわれる等の問題がある。
【0016】
一方で、非特許文献8~10に示されるように、3Dプリンタによる義歯製造技術の発達が著しく、寸法精度及び表面性状が優れる義歯が作製可能になっている。
【0017】
また、特許文献1では、寸法精度及び表面性状が優れた義歯の3Dプリント方法が開示されている。特許文献2,3では、3Dプリントにより義歯を作製することが開示されている。
【0018】
しかしながら、3Dプリントで用いられる光造形用樹脂は靭性に課題がある。現状では、光造形用樹脂の靭性が最終製品に用いることができる性能を有していない場合があることから、3Dプリントで作製された義歯もレジンキャスト法により作製された義歯と同様に落下等によって破折してしまうリスクが存在する。
【0019】
また、非特許文献8~10及び特許文献1~3では、3Dプリントにより製造される義歯の強度や課題について開示されていない。
【0020】
そこで、本発明者らは、3Dプリントにより作製される義歯の強度を向上させるという課題に着目し、鋭意検討した。その結果、本発明者らは、複数の人工歯が配置される複数のソケットを連通させた義歯床を検討し、当該義歯床を用いて義歯を作製することによって義歯の強度を向上させることができることを見出した。具体的には、本発明者らは、隣り合うソケット間に設けられるソケット隔壁に溝を設けることによって、複数のソケットが溝を介して連通する義歯床の構造を見出した。複数のソケットが溝を介して連通することによって、義歯床と複数の人工歯とを接着する接着材が複数のソケットにわたって連続して配置される。これにより、接着材が複数のソケットにわたって連続して配置されることで、接着材により義歯を義歯の強度を向上させることができる。
【0021】
以下、本発明の一態様について説明する。
【0022】
本発明の一態様の有床義歯は、義歯床データに基づいて造形された義歯床に対し、複数の人工歯を接着材で接着させて作製する。義歯床は、複数の人工歯が嵌合する複数のソケットを有する。ソケットの一部は隣り合う少なくとも6つ以上のソケットが連続して形成されており、連続したソケットに付与された接着材が分断されず連続して形成されている。即ち、義歯床は、従来の義歯床と異なり、ソケットの一部または全部が連続している。
【0023】
有床義歯は、隣り合うソケット同士の隣接面において溝が設けられており、歯冠乳頭に相当する部分が義歯床で形成されていない。一方、隣接面以外の義歯の唇面や舌面においては、歯冠乳頭が義歯床で形成されているため、審美面も優れているものである。
【0024】
従来では、義歯作製において人工歯を配列する際、人工歯を保持するソケットの深さ(ソケットの隣り合う歯との隣接面の高さ)が大きい方が人工歯を保持しやく、また人工歯と義歯床とを接着する接着材の厚みが均一となるため、人工歯と義歯床の接着強度を向上させると考えられている。しかし、本発明の一態様の義歯床の構成において、複数のソケットを連続して形成すること、即ち、ソケットの隣り合う歯との隣接面を基底面と合わせて形成することによって、若しくは、ソケットの隣り合う歯との隣接面を浅く形成すること、即ち、ソケットの隣り合う歯との隣接面の高さを低く形成することによって、隣接歯と連結した接着材層を形成している。これにより、有床義歯の強度を向上させることができる。
【0025】
本発明の一態様の有床義歯の製造方法は、単独既製人工歯接着型の3Dプリント義歯を作製する。有床義歯の製造方法は、単独既製人工歯を連続する接着材によって義歯床に接着して製造することによって得られる補強された3Dプリント義歯等を作製できる。本発明の一態様の有床義歯は、補強義歯とも呼ばれる。補強義歯は、例えば、接着材の形状を波形状かつU字状に連続する構造にすることにより従来の既製人工歯接着型3Dプリント義歯と比較して落下による破折が生じにくくなる。さらに、補強義歯は、市販の補強材料を使用しないため補強作業が煩雑にならず、補強材料の色調によって審美性の低下も生じない。
【0026】
本発明の一態様の有床義歯に用いる複数の人工歯は、単独人口歯もしくは連結人口歯のどちらであっても構わないが、単独人工歯の場合に特に優れた補強効果を示す。特に、隣り合う2つ以上のソケットに単独人工歯が配置される有床義歯において、特に好ましい補強効果を示す。
【0027】
本発明の一態様の有床義歯は、単独既製人工歯接着型の3Dプリント義歯であって、単独既製人工歯が組み込まれるソケットが少なくとも2つ以上接続された義歯床を有する。ソケットが接続された部位において、連続する接着材によって単独既製人工歯と義歯床が接着されている。ソケットは14つ接続されていてもよいし、義歯床後縁まで接着材が伸びていてもよい。単独既製人工歯接着型3Dプリント義歯とは、単独既製人工歯、接着材、3Dプリント義歯床で構成される義歯を指す。
【0028】
ソケット同士の接続部の高さは、接続部の(垂直方向の)断面方向において、ソケットの基底面(基底面の延長線)を0とし、人工歯の隣接面同士が接触する部分(接触点)までの高さを100とした場合の相対比として表現することが可能である。有床義歯において、ソケットの接続部の断面方向において、ソケットの接続部の断面とソケットの基底面の延長線との交点を基準点とし、基準点から人工歯の隣接面同士の接触点までの高さを100とした場合、基準点から隣り合うソケット同士の接続部の高さが20以下であることが好ましく、特に好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。なお、従来技術の義歯作製においては、ソケット同士の隣接面の高さは、人工歯の隣接面同士が接触する高さとほぼ同一(95以上)である。
【0029】
ここで、ソケット同士の接続部の高さの計測方法は任意であるが、例として汎用CADソフトウェアを用いる手法が考えられる。まず、汎用CADソフトウェアに義歯床の形状データと人工歯の形状データを読み込み、人工歯同士の隣接面接触点の位置に点を配置する。配置した点を基底面に向かって垂直に移動させ、基底面の延長線との交点に点を配置し、隣接面接触点との間隔を測定する。この間隔を100と定義する。次に、作成した義歯床におけるソケット同士の接続部の(接続部の断面方向の)隣接する人工歯同士の隣接面接触点を基底面に向かって垂線を伸ばし、基底面の接線が垂直に交わる点の間隔を測定する。そして、人工歯の隣接面接触点の高さを100として、ソケット同士の接続部の高さの値を算出する。
【0030】
複数の人工歯を義歯床に接着する際に用いる接着材層は、接続部を介して隣り合うソケットに連続して配置される。接着材層は、側面から見て波形状であって、上面及び下面から見てU字形状であることが好ましい。連続する接着材層は、2つ以上のソケットに連続して配置されていてもよく、6つ以上のソケットを連続して配置されていてもよい。接着材層は、14つのソケットに接続して配置されていてもよい。これにより、連続する接着材層により有床義歯が補強される。
【0031】
接着材は、単独既製人工歯及び義歯床と接着性を有する歯科用レジンであってもよい。粉液混合タイプの常温重合レジンが好ましいが、流し込みレジン、加熱重合レジンあるいは光重合レジンであってもよい。
【0032】
補強義歯の人工歯の位置は患者固有の位置関係に配列されている位置であってもよく、標準歯列を再現する位置であってもよい。標準歯列とは、人間の歯が生えていた位置の平均値の情報から標準化した歯列のことを指す。
【0033】
補強義歯は、部分床義歯としても使用することができる。部分床義歯として使用する場合、補強義歯は、支台装置である要件1と、隣接面板である要件2と、連結子である要件3と、人工歯である要件4と、単独既製人工歯が組み込まれる少なくとも2つ以上接続されるソケットを有する義歯床である要件5と、単独既製人工歯と義歯床を接着する接着材である要件6と、を備えることが好ましい。要件1、要件2あるいは要件3は、設計の簡略化の観点から構成要素に含めなくてもよいが、要件1から要件6まですべて含んでいる場合、義歯の機能性に優れる。
【0034】
(実施の形態1)
[義歯床]
本発明に係る実施の形態1の義歯床について説明する。本実施形態では、CAD/CAM技術を使用して作製する義歯床、特に3Dプリント技術を使用して作製する総義歯床について説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る実施の形態1の義歯床の斜視図である。
図2は、本発明に係る実施の形態1の義歯床の平面図である。
図1及び
図2に示すように、義歯床10は、床本体20と、床本体20に設けられた複数のソケット30と、を備える。
図1及び
図2に示す義歯床10は、下顎の総義歯床を示す。
【0036】
床本体20は、義歯床10の本体部分であり、複数の人工歯が配置される部分である。床本体20は、患者の口腔内の粘膜上に配置され、歯肉に接触する部分である。床本体20は、患者の口腔内の形状に応じた形状を有する。
【0037】
本実施形態では、義歯床10は総義歯床であり、床本体20は歯列弓形状を有する。
図2に示すように、床本体20は、例えば、U字形状を有する。床本体20は、正中線CL1を基準として左右対称の形状を有する。なお、正中線CL1は、床本体20の中心線である。床本体20において、正中線CL1に近い側を「近心側」と称し、正中線CL1から遠い側を「遠心側」と称する。また、床本体20において、正中線CL1を基準として、床本体20の左側と右側とが画定される。
【0038】
床本体20には、複数のソケット30が設けられている。複数のソケット30は、凹形状を有する。複数のソケット30は、複数の人工歯が配置される穴又は窪みである。複数のソケット30のそれぞれは、人工歯の形状に対応する凹形状を有する。言い換えると、複数のソケット30は、複数の人工歯が配置される凹部である。
【0039】
複数のソケット30は、床本体20の形状に沿って設けられている。本実施形態では、複数のソケット30は、U字状に並んで設けられている。
【0040】
複数のソケット30は、床本体20の正中線CL1を基準とした左右両側のそれぞれにおいて、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rを含む。なお、第1~第7のソケットを示す符号「31L,31R~37L,37R」のうち「L」は左側を意味し、「R」は右側を意味する。例えば、符号「31L」は床本体20の左側に設けられた第1ソケットを示し、符号「31R」は床本体20の右側に設けられた第1ソケットを示す。
【0041】
第1ソケット31L,31Rは、床本体20の正中線CL1付近に設けられる。具体的には、第1ソケット31L,31Rは、床本体20の正中線CL1を間に挟んで床本体20の左右側に設けられている。第1ソケット31L,31Rは、隣り合っている。第1ソケット31L,31Rには、中切歯の人工歯が配置される。このため、第1ソケット31L,31Rは、中切歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0042】
第2ソケット32L,32Rは、第1ソケット31L,31Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第2ソケット32Lは、床本体20の左側において第1ソケット31Lよりも遠心側に設けられ、第1ソケット31Lと隣り合っている。第2ソケット32Rは、床本体20の右側において第1ソケット31Rよりも遠心側に設けられ、第1ソケット31Rと隣り合っている。第2ソケット32L,32Rには、側切歯の人工歯が配置される。このため、第2ソケット32L,32Rは、側切歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0043】
第3ソケット33L,33Rは、第2ソケット32L,32Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第3ソケット33Lは、床本体20の左側において第2ソケット32Lよりも遠心側に設けられ、第2ソケット32Lと隣り合っている。第3ソケット33Rは、床本体20の右側において第2ソケット32Rよりも遠心側に設けられ、第2ソケット32Rと隣り合っている。第3ソケット33L,33Rには、側切歯の人工歯が配置される。このため、第3ソケット33L,33Rは、犬歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0044】
第4ソケット34L,34Rは、第3ソケット33L,33Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第4ソケット34Lは、床本体20の左側において第3ソケット33Lよりも遠心側に設けられ、第3ソケット33Lと隣り合っている。第4ソケット34Rは、床本体20の右側において第3ソケット33Rよりも遠心側に設けられ、第3ソケット33Rと隣り合っている。第4ソケット34L,34Rには、第一小臼歯の人工歯が配置される。このため、第4ソケット34L,34Rは、第一小臼歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0045】
第5ソケット35L,35Rは、第4ソケット34L,34Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第5ソケット35Lは、床本体20の左側において第4ソケット34Lよりも遠心側に設けられ、第4ソケット34Lと隣り合っている。第5ソケット35Rは、床本体20の右側において第4ソケット34Rよりも遠心側に設けられ、第4ソケット34Rと隣り合っている。第5ソケット35L,35Rには、第二小臼歯の人工歯が配置される。このため、第5ソケット35L,35Rは、第二小臼歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0046】
第6ソケット36L,36Rは、第5ソケット35L,35Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第6ソケット36Lは、床本体20の左側において第5ソケット35Lよりも遠心側に設けられ、第5ソケット35Lと隣り合っている。第6ソケット36Rは、床本体20の右側において第5ソケット35Rよりも遠心側に設けられ、第5ソケット35Rと隣り合っている。第6ソケット36L,36Rには、第一大臼歯の人工歯が配置される。このため、第6ソケット36L,36Rは、第一大臼歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0047】
第7ソケット37L,37Rは、第6ソケット36L,36Rよりも床本体20の遠心側に設けられる。第7ソケット37Lは、床本体20の左側において第6ソケット36Lよりも遠心側に設けられ、第6ソケット36Lと隣り合っている。第7ソケット37Rは、床本体20の右側において第6ソケット36Rよりも遠心側に設けられ、第6ソケット36Rと隣り合っている。第7ソケット37L,37Rには、第二大臼歯の人工歯が配置される。このため、第7ソケット37L,37Rは、第二大臼歯の人工歯の基底面の形状に対応する凹形状を有する。
【0048】
床本体20は、複数のソケット30のうち隣り合うソケットの間に設けられる第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rを有する。なお、第2~第7のソケット隔壁を示す符号「22L,22R~27L,27R」のうち「L」は左側を意味し、「R」は右側を意味する。例えば、符号「22L」は床本体20の左側に設けられた第2ソケット隔壁を指し、符号「22R」は床本体20の右側に設けられた第2ソケット隔壁を指す。
【0049】
第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rは、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rを画定する壁の一部であり、隣り合うソケット同士を隔てている。第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rは、ソケットの隣り合う方向と交差する方向に延びている。
【0050】
第1ソケット隔壁21は、床本体20の中央に設けられている。第1ソケット隔壁21は、床本体20の正中線CL1を挟んで設けられる2つの第1ソケット31L,31Rとの間に設けられている。
【0051】
第2ソケット隔壁22L,22Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第1ソケット31L,31Rと第2ソケット32L,32Rとの間に設けられている。第2ソケット隔壁22Lは、床本体20の左側において第1ソケット31Lと第2ソケット32Lとの間に設けられている。第2ソケット隔壁22Rは、床本体20の右側において第1ソケット31Rと第2ソケット32Rとの間に設けられている。
【0052】
第3ソケット隔壁23L,23Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第2ソケット32L,32Rと第3ソケット33L,33Rとの間に設けられている。第3ソケット隔壁23Lは、床本体20の左側において第2ソケット32Lと第3ソケット33Lとの間に設けられている。第3ソケット隔壁23Rは、床本体20の右側において第2ソケット32Rと第3ソケット33Rとの間に設けられている。
【0053】
第4ソケット隔壁24L,24Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第3ソケット33L,33Rと第4ソケット34L,34Rとの間に設けられている。第4ソケット隔壁24Lは、床本体20の左側において第3ソケット33Lと第4ソケット34Lとの間に設けられている。第4ソケット隔壁24Rは、床本体20の右側において第3ソケット33Rと第4ソケット34Rとの間に設けられている。
【0054】
第5ソケット隔壁25L,25Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第4ソケット34L,34Rと第5ソケット35L,35Rとの間に設けられている。第5ソケット隔壁25Lは、床本体20の左側において第4ソケット34Lと第5ソケット35Lとの間に設けられている。第5ソケット隔壁25Rは、床本体20の右側において第4ソケット34Rと第5ソケット35Rとの間に設けられている。
【0055】
第6ソケット隔壁26L,26Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第5ソケット35L,35Rと第6ソケット36L,36Rとの間に設けられている。第6ソケット隔壁26Lは、床本体20の左側において第5ソケット35Lと第6ソケット36Lとの間に設けられている。第6ソケット隔壁26Rは、床本体20の右側において第5ソケット35Rと第6ソケット36Rとの間に設けられている。
【0056】
第7ソケット隔壁27L,27Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第6ソケット36L,36Rと第7ソケット37L,37Rとの間に設けられている。第7ソケット隔壁27Lは、床本体20の左側において第6ソケット36Lと第7ソケット37Lとの間に設けられている。第7ソケット隔壁27Rは、床本体20の右側において第6ソケット36Rと第7ソケット37Rとの間に設けられている。
【0057】
第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rには、隣り合うソケットを連通する第1~第7の溝41~47L,47Rが設けられている。なお、第2~第7の溝を示す符号「42L,42R~47L,47R」のうち「L」は左側を意味し、「R」は右側を意味する。例えば、符号「42L」は床本体20の左側の第2ソケット隔壁22Lに設けられた第2溝を示し、符号「42R」は床本体20の右側の第2ソケット隔壁22Rに設けられた第2溝を示す。
【0058】
第1溝41は、第1ソケット隔壁21に設けられており、隣り合う2つの第1ソケット31L,31Rを連通する。第2溝42L,42Rは、第2ソケット隔壁22L,22Rに設けられており、第1ソケット31L,31Rと第2ソケット32L,32Rとを連通する。第3溝43L,43Rは、第3ソケット隔壁23L,23Rに設けられており、第2ソケット32L,32Rと第3ソケット33L,33Rとを連通する。第4溝44L,44Rは、第4ソケット隔壁24L,24Rに設けられており、第3ソケット33L,33Rと第4ソケット34L,34Rとを連通する。第5溝45L,45Rは、第5ソケット隔壁25L,25Rに設けられており、第4ソケット34L,34Rと第5ソケット35L,35Rとを連通する。
【0059】
このように、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rは、第1~第7の溝41~47L,47Rにより連通している。これにより、複数の人工歯を第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rに接着材によって接着する際に、接着材が第1~第7の溝41~47L,47Rを介して第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rに連続して配置される。即ち、接着材は分断されることなく、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rにわたって連続して配置される。
【0060】
図3を用いて第6溝46Lの詳細な構造について説明する。なお、第1~5及び第7の溝41~45L,47Lの構造についても基本的には第6溝46Lの構造と同様である。
【0061】
図3は、本発明に係る実施の形態1の義歯床の部分拡大斜視図である。
図3は、第5ソケット35L及び第6ソケット36Lが設けられた部分を拡大した斜視図である。
図3に示すように、第5ソケット35L及び第6ソケット36Lとの間には、第6ソケット隔壁26Lが設けられている。また、第6ソケット隔壁26Lには、第6溝46Lが設けられている。第6溝46Lは、底部46bと、底部46bから互いに向き合って延びる2つの側壁46cと、によって画定されている。開口46aは、第6溝46Lを深さ方向から見たとき、2つの側壁46cによって挟まれた領域によって画定されている。
【0062】
2つの側壁46cは、底部46bから開口46aに向かって、2つの側壁46cとの間の距離が大きくなる方向に傾斜する傾斜壁46dを有する。傾斜壁46dは、第6溝46Lの幅W6を広げる方向に傾斜している。
【0063】
第6溝46Lの深さ方向から見たとき、第6溝46Lの開口46aは、底部46bよりも大きくなっている。
【0064】
第6ソケット隔壁26Lの厚みは、第6溝46Lに向かって小さくなっている。具体的には、第6ソケット隔壁26Lの厚みは、第6溝46Lに向かって連続して小さくなっている。即ち、第6溝46Lを画定する2つの側壁46cが互いに向き合う方向に近づくにつれて先細りした形状を有している。
【0065】
[有床義歯]
図4は、本発明に係る実施の形態1の有床義歯の斜視図である。
図5は、本発明に係る実施の形態1の有床義歯の平面図である。
図6は、本発明に係る実施の形態1の有床義歯の臼歯部における断面図である。なお、
図4~
図6に示す有床義歯50は、下顎の総義歯を示す。なお、
図6は、下顎総義歯の左側の臼歯部における断面を示すが、その他の部分も同様の構成を有する。
【0066】
図4~
図6に示すように、有床義歯50は、義歯床10と、複数の人工歯60と、接着材70と、を備える。
【0067】
複数の人工歯60は、義歯床10の複数のソケット30に配置される。また、複数の人工歯60は、接着材70によって義歯床10に接着される。複数の人工歯60は、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯又は第二大臼歯の中から選択される人工歯であって、互いに独立した複数の人工歯を含む。
【0068】
本実施形態では、有床義歯50は総義歯であるため、複数の人工歯60は、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯及び第二大臼歯を含む14歯の人工歯61L,61R~67L,67Rを含む。14歯の人工歯は、1歯ずつ独立しており、繋がっていない。複数の人工歯61L,61R~67L,67Rは、複数のソケット31L,31R~37L,37Rに配置される。
【0069】
接着材70は、義歯床10の複数のソケット30に配置され、義歯床10と複数の人工歯60とを接着する。接着材70は、義歯床10のソケット隔壁21~27L,27Rに設けられた溝41~47L,47Rにも配置されている。これにより、接着材70は、溝41~47L,47Rを介して複数のソケット30に連続して配置される。
【0070】
例えば、接着材70は、複数のソケット30にわたって連続したU字状で配置されている。接着材70が、分断されず、連続した状態で複数のソケット30にわたって配置されることによって義歯床10の強度を補強することができる。
【0071】
また、溝41~47L,47Rに配置されている接着材70は、隣り合う人工歯同士を接着している。即ち、接着材70は、隣り合う人工歯の隣接面同士を接着している。これにより、複数の人工歯60が人工歯の隣り合う方向にも接着材70によって接着されるため、複数の人工歯60の接着がより強固になる。
【0072】
接着材70は、例えば、歯科用レジンを用いることができる。歯科用レジンは、例えば、粉液混合タイプの常温重合レジンであってもよい。あるいは、歯科用レジンは、流し込みレジン、加熱重合レジンあるいは光重合レジンであってもよい。
【0073】
[義歯床の製造方法]
図7は、本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法のフローチャートである。
図8A~
図8Cは、本発明に係る実施の形態1の義歯床の製造方法の工程の一例を示す概略図である。
【0074】
図7に示すように、義歯床10の製造方法は、ステップST1~ST4を含む。なお、当該製造方法は、例えば、製造装置によって実施される。製造装置は、プロセッサと、プロセッサにより実行可能な命令を記憶したメモリと、を備える。例えば、製造装置は、コンピュータである。
【0075】
ステップST1では、口腔内のスキャンデータ80を取得する。
【0076】
図8Aは、口腔内のスキャンデータの一例を示す。
図8Aに示すように、口腔内のスキャンデータ80は、製造する義歯床10が取り付けられる口腔内の形状を表したデータである。
【0077】
例えば、口腔内のスキャンデータ80は、スキャナを用いて、患者の口腔内をスキャンすることによって取得されてもよいし、患者の口腔内を再現した模型をスキャンすることによって取得されてもよい。あるいは、口腔内のスキャンデータ80は、通信装置を用いて外部装置から受信することによって取得されてもよい。
【0078】
図7に戻って、ステップST2では、複数の仮想人工歯が連結された仮想人工歯データ90をスキャンデータ80に配置する。
【0079】
図8Bは、ステップST1で取得した口腔内のスキャンデータに仮想人工歯データを配置した状態を示す。
図8Bに示すように、仮想人工歯データ90は、口腔内のスキャンデータ80上に配置される。仮想人工歯データ90は、口腔内のスキャンデータ80に義歯床データを作成するために用いられる。
【0080】
ここで、仮想人工歯データ90について説明する。
【0081】
図9は、仮想人工歯データの一例を示す斜視図である。
図9に示すように、仮想人工歯データ90は、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97Rを含む。仮想人工歯データ90は、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97Rを歯列弓形状に並べて配置したデータである。仮想人工歯データ90は、左側において第1~第7の仮想人工歯91L~97Lを配置しており、右側において第1~第7の仮想人工歯91R~97Rを配置している。
【0082】
第1仮想人工歯91L,91Rは、中切歯の仮想人工歯である。第2仮想人工歯92L,92Rは、側切歯の仮想人工歯である。第3仮想人工歯93L,93Rは、犬歯の仮想人工歯である。第4仮想人工歯94L,94Rは、第一小臼歯の仮想人工歯である。第5仮想人工歯95L,95Rは、第二小臼歯の仮想人工歯である。第6仮想人工歯96L,96Rは、第一大臼歯の仮想人工歯である。第7仮想人工歯97L,97Rは、第二大臼歯の仮想人工歯である。
【0083】
第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97Rは、後述するステップST3で作成する義歯床データに複数のソケットを設けるために用いられる。
【0084】
仮想人工歯データ90は、隣り合う仮想人工歯91L,91R~97L,97Rを接続して繋げている。具体的には、仮想人工歯データ90は、隣り合う仮想人工歯を連結する連結部98を含む。仮想人工歯データ90は、連結部98によって隣り合う仮想人工歯91L,91R~97L,97Rを連結し、一体化している。
【0085】
連結部98は、仮想人工歯データ90の左右の第1仮想人工歯91L,91Rとの間に設けられている。また、連結部98は、仮想人工歯データ90の左右のそれぞれにおける第1仮想人工歯91L,91Rと第2仮想人工歯92L,92Rとの間、第2仮想人工歯92L,92Rと第3仮想人工歯93L,93Rとの間、第3仮想人工歯93L,93Rと第4仮想人工歯94L,94Rとの間、第4仮想人工歯94L,94Rと第5仮想人工歯95L,95Rとの間、第5仮想人工歯95L,95Rと第6仮想人工歯96L,96Rとの間、及び第6仮想人工歯96L,96Rと第7仮想人工歯97L,97Rとの間に設けられている。
【0086】
連結部98は、後述するステップST3で作成する義歯床データ100に溝を設けるために用いられる。連結部98は、例えば、板状に形成されている。なお、連結部98の形状及び/又は大きさは、義歯床データ100において作成する溝の形状及び/又は大きさに応じて変更してもよい。
【0087】
図7に戻って、ステップST3では、仮想人工歯データ90が配置されたスキャンデータ80に基づいて義歯床データ100を作成する。義歯床データ100は、義歯床10の形状を表したデータである。
【0088】
図8Cは、仮想人工歯データ90が配置されたスキャンデータ80に義歯床データ100を作成した図である。
図8Cに示すように、仮想人工歯データ90の形状及びスキャンデータ80の口腔内形状に合わせて義歯床データ100を作成する。
【0089】
ステップST3では、仮想人工歯データ90の外形形状及び口腔内のスキャンデータ80の外形形状に沿って義歯床データ100の仮想歯肉部分101が形成される。仮想歯肉部分101は、仮想人工歯データ90及びスキャンデータ80が存在する部分を避けて形成される。仮想歯肉部分101は、義歯床10の床本体20に相当する。
【0090】
本実施形態では、仮想歯肉部分101は、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97の歯根部分の外形形状及び連結部98の外形形状に沿って形成される。
【0091】
仮想歯肉部分101を形成した後、仮想人工歯データ90及びスキャンデータ80を削除する。これにより、仮想歯肉部分101において、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97が削除された部分に、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97の歯根形状に対応する複数のソケットが形成される。即ち、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97が削除された部分に、第1~第7の仮想人工歯91L,91R~97L,97が配置可能な複数のソケットが形成される。また、隣り合うソケットの間に設けられたソケット隔壁において、連結部98が削除された部分に、隣り合うソケットを連通する溝が形成される。
【0092】
このようにして、義歯床10の形状を表した義歯床データ100が完成する。完成した義歯床データ100は、床本体と、床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、を備える。義歯床データ100において、複数のソケットは、床本体の形状に沿って設けられており、床本体は、複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有する。ソケット隔壁には、隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、複数のソケットは、溝により連通している。
【0093】
図7に戻って、ステップST4では、義歯床データ100に基づいて義歯床10を作製する。例えば、ステップST4では、ステップST3で作成した義歯床データ100に基づいて、3Dプリンタによって義歯床10を作製する。
【0094】
このように、上記した製造方法のステップST1~ST4を実施することによって、義歯床10を作製することができる。
【0095】
[有床義歯の製造方法]
図10は、本発明に係る実施の形態1の有床義歯の製造方法のフローチャートである。
【0096】
図10に示すように、有床義歯50の製造方法は、ステップST11~ST12を含む。なお、当該製造方法は、例えば、製造装置によって実施される。製造装置は、プロセッサと、プロセッサにより実行可能な命令を記憶したメモリと、を備える。例えば、製造装置は、コンピュータである。
【0097】
ステップST11では、義歯床10の複数のソケット30に接着材70を塗布する。例えば、ステップST11では、溝41~47Lに接着材70が塗布されず、複数のソケット30に接着材70が塗布される。なお、ステップST11は、複数のソケット30及び溝41~47Lに接着材70が塗布されてもよい。
【0098】
ステップST12では、接着材70が塗布された複数のソケット30に複数の人工歯60を配置する。これにより、複数の人工歯60が複数のソケット30に配置された状態で、接着材70によって接着される。
【0099】
ステップST12は、ステップST12A及びST12Bを含む。
【0100】
ステップST12Aでは、溝41~47Lを介して複数のソケット30に連続して配置された接着材70によって複数の人工歯60と義歯床10とを接着する。例えば、複数のソケット30に複数の人工歯60を配置する際に、複数のソケット30に塗布された接着材70が人工歯60によって押されて、溝41~47Lに流れ込む。これにより、複数の溝41~47Lを介して複数のソケット30に跨って連続した接着材70が形成される。このため、接着材70は、隣り合うソケット間で分断されずに繋がった状態で複数のソケット30に配置された複数の人工歯60と義歯床10とを接着する。
【0101】
ステップST12Bでは、溝41~47Lに配置された接着材70によって隣り合う人工歯60を接着する。これにより、複数の人工歯60同士も接着材70によって接着される。
【0102】
このように、上記した製造方法のステップST11~ST12を実施することによって、有床義歯50を作製することができる。
【0103】
[効果]
本発明に係る実施の形態1の義歯床10、有床義歯50及びこれらの製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
【0104】
本発明に係る実施の形態1の義歯床10は、床本体20と、床本体20に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケット30と、を備える。複数のソケット30は、床本体20の形状に沿って設けられている。床本体20は、複数のソケット30のうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁21~27L,27Rをする。ソケット隔壁21~27L,27Rには、隣り合うソケットを連通する溝41~47L,47Rが設けられている。複数のソケット30は、溝41~47L,47Rにより連通している。
【0105】
このような構成により、複数のソケット30にわたって連続した接着材70を配置可能となる。具体的には、義歯床10には、隣り合うソケット間を隔てるソケット隔壁21~27L,27Rが設けられており、ソケット隔壁21~27L,27Rには隣り合うソケット同士を連通する溝41~47L,47Rが設けられている。複数のソケット30は、溝41~47L,47Rを介して連通している。即ち、複数のソケット30により画定される複数の人工歯60が配置される空間は、溝41~47L,47Rを介して繋がっている。これにより、複数のソケット30に複数の人工歯60を接着するための接着材70を複数のソケット30にわたって連続して配置することができる。その結果、接着材70により義歯床10を補強することができる。
【0106】
近年、義歯床を作製する方法として、3Dプリンタにより義歯床を作製する方法が開発されている。3Dプリンタにより作製される義歯床は、例えば、光造形用材料を用いて作製される。光造形用材料は、一般的な方法で義歯床を作製する場合に用いられる歯科材料と比べて強度が低い。そのため、3Dプリンタで作製した義歯床を用いて有床義歯を作製した場合、例えば、落下などの衝撃によって有床義歯が割れやすいという問題がある。本発明に係る実施の形態1の義歯床10では、接着材70を溝41~47L,47Rを介して複数のソケット30にわたって連続して配置できるため、接着材70によって義歯床10を補強することができる。これにより、3Dプリンタによって作製された義歯床10を用いて有床義歯50を作製した場合、接着材70によって義歯床10の強度を向上させることができる。その結果、3Dプリンタで作製した義歯床10を用いた有床義歯50を落下させたとしても割れにくくなる。
【0107】
床本体20は、歯列弓形状を有する。複数のソケット30は、床本体20の正中線CL1を基準とした左右両側のそれぞれにおいて、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rを含む。第1ソケット31L,31Rは、床本体20の正中線CL1付近に設けられている。第2ソケット32L,32Rは、第1ソケット31L,31Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。第3ソケット33L,33Rは、第2ソケット32L,32Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。第4ソケット34L,34Rは、第3ソケット33L,33Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。第5ソケット35L,35Rは、第4ソケット34L,34Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。第6ソケット36L,36Rは、第5ソケット35L,35Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。第7ソケット37L,37Rは、第6ソケット36L,36Rよりも床本体20の遠心側に設けられている。ソケット隔壁は、第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rを含む。第1ソケット隔壁21は、床本体20の正中線CL1を挟んで設けられる2つの第1ソケット31L,31Rとの間に設けられている。第2ソケット隔壁22L,22Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第1ソケット31L,31Rと第2ソケット32L,32Rとの間に設けられている。第3ソケット隔壁23L,23Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第2ソケット32L,32Rと第3ソケット33L,33Rとの間に設けられている。第4ソケット隔壁24L,24Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第3ソケット33L,33Rと第4ソケット34L,34Rとの間に設けられている。第5ソケット隔壁25L,25Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第4ソケット34L,34Rと第5ソケット35L,35Rとの間に設けられている。第6ソケット隔壁26L,26Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第5ソケット35L,35Rと第6ソケット36L,36Rとの間に設けられている。第7ソケット隔壁27L,27Rは、床本体20の左右両側のそれぞれにおいて第6ソケット36L,36Rと第7ソケット37L,37Rとの間に設けられている。溝は、第1~第7の溝41~47L,47Rを含む。第1溝41は、第1ソケット隔壁21に設けられており、隣り合う2つの第1ソケット31L,31Rを連通する。第2溝42L,42Rは、第2ソケット隔壁22L,22Rに設けられており、第1ソケット31L,31Rと第2ソケット32L,32Rとを連通する。第3溝43L,43Rは、第3ソケット隔壁23L,23Rに設けられており、第2ソケット32L,32Rと第3ソケット33L,33Rとを連通する。第4溝44L,44Rは、第4ソケット隔壁24L,24Rに設けられており、第3ソケット33L,33Rと第4ソケット34L,34Rとを連通する。第5溝45L,45Rは、第5ソケット隔壁25L,25Rに設けられており、第4ソケット34L,34Rと第5ソケット35L,35Rとを連通する。第6溝46L,46Rは、第6ソケット隔壁26L,26Rに設けられており、第5ソケット35L,35Rと第6ソケット36L,36Rとを連通する。第7溝47L,47Rは、第7ソケット隔壁27L,27Rに設けられており、第6ソケット36L,36Rと第7ソケット37L,37Rとを連通する。第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rは、第1~第7の溝41~47L,47Rにより連通している。
【0108】
このような構成により、義歯床10が総義歯床である場合に、14個のソケット30に接着材70を連続して配置することができる。これにより、義歯床10を更に補強することができる。
【0109】
第1~第3の溝41~43L,43Rの深さD1~D3は、第4~第7の溝44L,44R~47L,47Rの深さD4~D7よりも大きい。
【0110】
このような構成により、第1~第3の溝41~43L,43Rでは、第4~第7の溝44L,44R~47L,47Rと比べて、溝の深さ方向、即ち、床本体20の高さ方向により多くの接着材70が配置可能となる。これにより、第1~第3のソケット31L,31R~33L,33Rが設けられている部分を接着材70によってより強固に補強することができる。例えば、歯列弓形状を有する床本体20では、落下などの衝撃を受けたときに、第1~第3のソケット31L,31R~33L,33Rが設けられている部分が、第4~第7のソケット34L,34R~37L,37Rが設けられている部分と比べて、床本体20の高さ方向に割れやすい。このため、第1~第3の溝41~43L,43Rの深さを大きくすることによって、第1~第3の溝41~43L,43Rの深さ方向により多くの接着材70を配置することができる。第1~第3の溝41~43Lに配置される接着材70は、床本体20の高さ方向における強度を向上させることができる。即ち、衝撃などの外部の力により割れやすい部分である第1~第3のソケット31L,31R~33L,33Rが設けられている部分に、より多くの接着材70を配置可能とすることによって義歯床10の強度を向上させることができる。
【0111】
第3溝43L,43Rの深さD3は、第1及び第2溝41,42L,42Rの深さD1,D2より大きい。
【0112】
このような構成により、第1~第3の溝41~43L,43Rのうち第3溝43L,43Rを最も深く形成することによって、第3溝43L,43Rにより多くの接着材70が配置可能となる。これにより、第3ソケット33L,33R及び第4ソケット34L,34Rが設けられている部分を接着材70によってより強固に補強することができる。
【0113】
第4~第7の溝44L,44R~47L,47Rの幅W4~W7は、前記第1~第3の溝41~43L,43Rの幅W1~W3よりも大きい。
【0114】
このような構成により、第4~第7の溝44L,44R~47L,47Rでは、第1~第3の溝41~43L,43Rと比べて、溝の幅方向、即ち、床本体20の唇側から口蓋側に向かう方向に、より多くの接着材70が配置可能となる。これにより、第4~第7のソケット34L,34R~37L,37Rに配置される第4~第7の人工歯同士をより強固に接着することができる。
【0115】
溝41~47L,47Rは、底部41b~47bと、底部41b~47bから互いに向き合って延びる2つの側壁41c~47cと、によって画定されている。溝の深さ方向における溝41~47L,47Rの開口41a~47aは、2つの側壁41c~47cによって画定され、溝41~47L,47Rの底部41b~47bよりも大きい。
【0116】
このような構成により、溝41~47L,47Rの底部41b~47bよりも開口41a~47a付近に接着材70をより多く配置可能となる。これにより、接着材70によって義歯床10をより強固に補強しつつ、複数の人工歯60間の接着強度を向上させることができる。また、溝41~47L,47Rの開口41a~47aを大きくすることによって、接着材70が塗布しやすくなる。
【0117】
2つの側壁41c~47cは、溝41~47L,47Rの底部41b~47bから開口41a~47aに向かって、2つの側壁41c~47cとの間の距離を広げる方向に傾斜する傾斜壁41d~47dを有する。
【0118】
このような構成により、複数の人工歯60を複数のソケット30に配置して接着する際に、接着材70が溝41~47L,47Rの底部41b~47bから開口41a~47aに向かって流れ込みやすくなる。その結果、溝の深さ方向において、接着材70を溝41~47L,47Rに配置しやすくなる。
【0119】
ソケット隔壁21~27L,27Rの厚みは、溝41~47L,47Rに向かって小さくなっている。
【0120】
このような構成により、接着材70が塗布された複数のソケット30に複数の人工歯60が配置される際に、接着材70が溝41~47L,47Rに向かって流れ込みやすくなる。その結果、接着材70を溝41~47L,47Rに配置しやすくなる。
【0121】
本発明に係る実施の形態1の有床義歯50は、義歯床10と、複数の人工歯60と、接着材70と、を備える。複数の人工歯60は、義歯床10の複数のソケット30に配置される。接着材70は、義歯床10の溝41~47L,47Rを介して複数のソケット30に連続して配置され、且つ複数の人工歯60と義歯床10とを接着している。
【0122】
このような構成により、有床義歯50の強度を向上させることができる。具体的には、接着材70が複数のソケット30にわたって連続して配置されることによって、接着材70により義歯床10を補強することができる。例えば、3Dプリンタで作製した義歯床10は落下などの衝撃を受けると割れやすいという問題がある。有床義歯50では、3Dプリンタで作製した義歯床10を用いて作製された場合であっても、接着材70によって補強することができる。これにより、落下などの衝撃を受けたとしても有床義歯50が割れにくくなっている。
【0123】
接着材70は、溝41~47L,47Rにおいて隣り合う人工歯を接着する。
【0124】
このような構成により、隣り合う人工歯同士も接着材70によって接着することができるため、複数の人工歯60同士も強固に接着でき、有床義歯50の強度を向上させることができる。
【0125】
接着材70は、歯科用レジンである。
【0126】
このような構成により、接着材70によって有床義歯50の強度をさらに向上させることができる。
【0127】
複数の人工歯60は、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯又は第二大臼歯の中から選択される人工歯であって、互いに独立した複数の人工歯を含む。
【0128】
このような構成により、独立した人工歯同士の間に接着材70が配置され、隣り合う人工歯同士が接着材70によってより確実に接着される。
【0129】
本発明に係る実施の形態1の義歯床10の製造方法は、コンピュータによって実行され、ステップST1~ST3を含む。ステップST1では、口腔内のスキャンデータ80を取得する。ステップST2では、互いに接続された複数の仮想人工歯91L,91R~97L,97Rを備える仮想人工歯データ90をスキャンデータ80に配置する。ステップST3では、仮想人工歯データ90が配置されたスキャンデータ80に基づいて仮想歯肉部分101を形成することによって、義歯床データ100を作成する。義歯床データ100は、床本体と、床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、を備える。複数のソケットは、床本体の形状に沿って設けられている。床本体は、複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられている。複数のソケットは、溝により連通している。
【0130】
このような構成により、複数のソケット30にわたって連続した接着材70を配置可能な義歯床10を製造するための義歯床データ100を作成することができる。義歯床データ100は、義歯床10の形状を示す設計データである。義歯床データ100に基づいて、例えば、3Dプリンタ又は加工装置などによって義歯床10を製造することができる。
【0131】
仮想人工歯データ90は、複数の仮想人工歯91L,91R~97L,97Rのうち隣り合う仮想人工歯を連結する連結部98を備える。義歯床データ100を作成するステップST3は、隣り合う仮想人工歯の間において連結部98の外形形状に沿って仮想歯肉部分101を形成すること、を有する。
【0132】
このような構成により、連結部98が設けられている部分を避けて仮想歯肉部分101を形成できる。これにより、連結部98が設けられている部分を削除すれば、当該部分に連結部98の形状に応じた溝を形成することができる。
【0133】
義歯床10の製造方法は、義歯床データ100に基づいて、3Dプリンタによって義歯床10を作製するステップST4を含む。
【0134】
このような構成により、3Dプリンタによって義歯床10を容易に作成することができる。
【0135】
本発明に係る実施の形態1の有床義歯50の製造方法は、コンピュータによって実行され、ステップST11及びST12を含む。ステップST11では、上述した義歯床10の製造方法で作製された義歯床10の複数のソケット30に接着材70を塗布する。ステップST12では、接着材70が塗布された複数のソケット30に複数の人工歯60を配置する。
【0136】
このような構成により、接着材70によって義歯床10を補強することによって、強度を向上させた有床義歯50を作製することができる。
【0137】
ステップST12は、溝41~47L,47Rを介して複数のソケット30に連続して配置された接着材70によって複数の人工歯60と義歯床10とを接着すること、を有する。
【0138】
このような構成により、接着材70が溝41~47L,47Rを介して複数のソケット30にわたって連続して配置され、義歯床10をさらに補強することができる。これにより、さらに強度が向上した有床義歯50を製造することができる。
【0139】
ステップST12は、溝41~47L,47Rに配置された接着材70によって隣り合う人工歯を接着すること、を有する。
【0140】
このような構成により、接着材70が隣り合う人工歯同士を接着し、複数の人工歯60をより強固に接着することができる。これにより、さらに強度が向上した有床義歯50を製造することができる。
【0141】
なお、本実施形態では、義歯床10が総義歯床である例について説明したが、これに限定されない。例えば、義歯床10は、部分義歯床であってもよい。部分義歯床は、第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rのうち隣り合う2つ以上のソケットが設けられている。
【0142】
【0143】
図11に示す義歯床10Aは、第5ソケット35L及び第6ソケット36Lが床本体20に設けられた義歯床である。義歯床10Aには、維持装置11を備える。維持装置11は、義歯床10Aが外れないように維持する装置である。維持装置11は、例えば、クラスプ又はレストである。維持装置11は、支台装置と称されてもよい。
【0144】
義歯床10Aでは、第5ソケット35L及び第6ソケット36Lとの間の第6ソケット隔壁26Lに、溝46Lが設けられており、第5ソケット35Lと第6ソケット36Lとが溝46Lによって連通している。
【0145】
図12に示す義歯床10Bは、床本体20の右側に第6ソケット36R及び第7ソケット37Rが設けられており、床本体20の左側に第5~第7のソケット35L~37Lが設けられた義歯床である。義歯床10Bは、床本体20の右側及び左側のそれぞれに維持装置11を備える。また、義歯床10Bは、左側と右側の床本体が大連結子12によって接続されている。大連結子12は、U字状に形成されている。
【0146】
義歯床10Bの床本体20の右側では、第6ソケット36Rと第7ソケット37Rとの間の第7ソケット隔壁27Rに、溝47Rが設けられており、第6ソケット36Rと第7ソケット37Rとが溝47Rによって連通している。義歯床10Bの床本体20の左側では、第5ソケット35Lと第6ソケット36Lとの間の第6ソケット隔壁26Lに溝46Lが設けられており、第6ソケット36Lと第7ソケット37Lとの間の第7ソケット隔壁27Lに溝47Lが設けられている。第5ソケット35Lと第6ソケット36Lとが溝46Lによって連通しており、第6ソケット36Lと第7ソケット37Lとが溝47Lによって連通している。
【0147】
このような部分義歯床である義歯床10A,10Bにおいても、複数のソケット30にわたって連続した接着材70を配置可能であり、義歯床10と同様の効果を奏する。
【0148】
また、本実施形態では、有床義歯50が総義歯である例について説明したが、これに限定されない。例えば、有床義歯50は、部分義歯であってもよい。
【0149】
また、本実施形態では、義歯床10が3Dプリンタによって作製される例について説明したが、これに限定されない。義歯床10は、3Dプリンタ以外の装置によって作製されてもよい。例えば、義歯床10は、光造形用材料以外の材料で形成されていてもよい。
【0150】
また、本実施形態では、複数の人工歯60が、互いに独立した複数の人工歯である例について説明したが、これに限定されない。例えば、複数の人工歯60は、2つ以上の人工歯が連結された連結人工歯を含んでいてもよい。
【0151】
また、本実施形態における義歯床10及び有床義歯50の製造方法では、適用される環境等に応じて、ステップを変更、追加、減少、分割、及び統合してもよい。
【0152】
また、本実施形態では、義歯床10及び有床義歯50の製造方法の例を説明したが、これに限定されない。当該製造方法を実行させるためのプログラム、又は当該製造方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって実現されてもよい。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、当該製造方法を、プロセッサによって実行可能なコンピュータ読み取り可能な命令として含んでいてもよい。コンピュータ読み取り可能な媒体は、様々なタイプの揮発性及び不揮発性記録媒体を含んでもよく、例えば、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、リード・オンリー・メモリ(ROM)、プログラマブル・リード・オンリー・メモリ(PROM)、電気的プログラマブル・リード・オンリー・メモリ(PROM)、電気的に消去可能なリード・オンリー・メモリ(EPROM)、フラッシュメモリ、いくつかの他の有形データ記憶デバイス、それらのいくつかの組み合わせを含んでもよい。
【実施例0153】
(比較例1の義歯床の形状データの作成)
比較例1として、複数のソケットが接続されていない、即ち、複数のソケットが連通していない義歯床データ200を設計した。比較例1では、技工用デスクトップスキャナー(E1,3Shape,デンマーク)で無歯顎模型をスキャニングして、歯科用CADソフトウェア(Dental Designer 2020,3Shape)でフルデンチャーの設計を行った。比較例1は、単独既製人工歯が組み込まれるソケットを義歯床に形成する条件で設計した。設計によって得られた比較例1の義歯床データ200を
図13及び
図14に示す。
【0154】
図13及び
図14に示すように、比較例1の義歯床データ200は、床本体220と、床本体220に設けられる複数のソケット230と、を備える。床本体220は、歯列弓形状、即ち、U字形状を有する。複数のソケット230は、隣り合うソケットの間に設けられたソケット隔壁221によって隔てられており、互いに独立している。即ち、複数のソケット230は、連通しておらず、繋がっていない。
【0155】
(実施例1の義歯床の形状データの作成)
実施例1として、本発明の実施の形態1の義歯床データ100を設計した。実施例1では、比較例1で作成した義歯床データ200を汎用CADソフトウェア(Rhinoceros 3D,Robert McNeel & Associates,アメリカ)に読み込み、前歯部におけるソケットには直径2.0mm、高さ4.0mmの円柱データを下部鼓形空隙に配置して義歯床の形状データと円柱データとをブーリアン演算(差)によって削除することにより複数のソケット30を接続した。臼歯部におけるソケットには縦3.0mm、横3.0mm、高さ3.0mmの立方体を下部鼓形空隙に配置して義歯床の形状データと円柱データをブーリアン演算(差)によって削除することにより複数のソケット30を接続した。以上のように、14個のソケットが接続された義歯床10の形状データを作成した。ソケット同士の接続部の高さは、接続部の断面方向において、ソケットの基底面を0とし、人工歯の隣接面同士が接触する部分(接触点)までの高さを100とした場合、本実施例においては接続部の高さを5に設定した。得られた実施例1の義歯床の形状データを
図15及び
図16に示す。
【0156】
図15及び
図16に示すように、実施例1の義歯床データ100は、床本体120と、床本体120に設けられる複数のソケット130と、を備える。隣り合うソケットの間に設けられたソケット隔壁121には、隣り合うソケット同士を連通する溝140が設けられている。複数のソケット230は、溝141によって連通しており、繋がっている。実施例1の義歯床データ100は、比較例1の義歯床データ200と比べて溝140が設けられている点を除いて同じ形状を有する。
【0157】
(比較例1と実施例1の義歯床データにおける臼歯部のソケット形状の比較解析)
比較例1と実施例1の義歯床データ100,200の臼歯部を断面解析して比較を行った。義歯床データ100,200の臼歯部とは、第一小臼歯~第二大臼歯が配置されるソケットの部分を指す。実施例1の臼歯部の断面解析部位を
図17に示す。
図17に示すように、義歯床データ100の臼歯部をP-P線で切断した断面を断面解析部位とした。比較例1についても実施例1と同様にして臼歯部の断面解析を行った。比較例1の義歯床データ200の臼歯部の断面を
図18に示す。また、実施例1の義歯床データ100の臼歯部の断面を
図19に示す。
図18に示すように、比較例1の義歯床データ200における臼歯部のソケット形状は、個々のソケット130が独立していることが確認された。即ち、比較例1の義歯床データ200の臼歯部では、隣り合うソケット130同士がソケット隔壁121によって隔てられており、連通していない。対して、
図19に示すように、実施例1の義歯床データ100における臼歯部のソケット形状は、ソケット130同士が接続されていることが確認された。即ち、実施例1の義歯床データ100の臼歯部では、隣り合うソケット130が溝140によって連通しており、複数のソケット130が繋がっている。
【0158】
(比較例1と実施例1の義歯床データにおける前歯部のソケット形状の比較解析)
比較例1と実施例1の義歯床データ100,200の前歯部を断面解析して比較を行った。義歯床データ100,200の前歯部は、中切歯~犬歯が配置されるソケットの部分を指す。実施例1の前歯部の断面解析部位を
図20に示す。
図20に示すように、義歯床データ100の前歯部をQ-Q線で切断した断面を断面解析部位とした。比較例1についても実施例1と同様にして前歯部の断面解析を行った。比較例1の義歯床データ200の前歯部の断面を
図21に示す。また、実施例1の義歯床データ100の前歯部の断面を
図22に示す。
図21に示すように、比較例1の義歯床データ200におけるソケット形状は、個々のソケットが独立していることが確認された。即ち、比較例1の義歯床データ200の前歯部では、隣り合うソケット130同士がソケット隔壁121によって隔てられており、連通していない。対して、
図22に示すように、実施例1の義歯床データ100における前歯部のソケット形状は、ソケット130同士が接続されていることが確認された。即ち、実施例1の義歯床データ100の前歯部では、隣り合うソケット130が溝140によって連通しており、複数のソケット130が繋がっている。
【0159】
(実施例1の義歯床データにおけるソケット接続部位形状の比較解析)
実施例1の義歯床データ100ソケット接続部位を断面解析して比較を行った。ソケット接続部位とは、隣り合うソケットの間に設けられたソケット隔壁を指す。実施例1の義歯床データ100の断面解析部位を
図23に示す。
図23に示すように、義歯床データ100をA-A線~G-G線で切断した断面を断面解析部位とした。なお、
図23において、義歯床データ100の第1~第7のソケット131L,131R~137L,137Rは、義歯床10の第1~第7のソケット31L,31R~37L,37Rに対応する。義歯床データ100の第1~第7のソケット隔壁121C~127L,127Rは、義歯床10の第1~第7のソケット隔壁21~27L,27Rに対応する。
【0160】
図24~
図30は、それぞれ、
図23に示す義歯床データ100をA-A線~G-G線で切断した概略断面図である。
図24~
図30は、それぞれ、義歯床データ100の第1~7のソケット隔壁121C~127Lを切断した概略断面を示す。
【0161】
図24~
図30に示すように、義歯床データ100の第1~7のソケット隔壁121C~127Lには、それぞれ、第1~第7の溝141~147Lが設けられている。義歯床データ100の第1~第7の溝141~147Lは、義歯床10の第1~第7の溝41~47Lに対応する。
【0162】
第1~第7の溝141~147Lは、第1~第7のソケット131L~137Lの基底部に向かって窪んでいる。また、第1~第7の溝141~147Lは、第1~7のソケット隔壁121C~127Lの厚み方向に、第1~7のソケット隔壁121C~127Lを貫通している。「第1~7のソケット隔壁121C~127Lの厚み方向」とは、第1~第7のソケット131L~137Lが隣り合う方向を意味する。
【0163】
第1~第7の溝141~147Lは、溝の深さ方向において開口141a~147aを有する凹部である。具体的には、第1~第7の溝141~147Lは、底部141b~147bと、底部141b~147bから互いに向き合って延びる2つの側壁141c~147cと、によって画定されている。また、2つの側壁141c~147cは、底部141b~147bから開口141a~147aに向かって、2つの側壁141c~147cとの間の距離を広げる方向に傾斜する傾斜壁141d~147dを有する。
【0164】
義歯床データ100の開口141a~147a、底部141b~147b、側壁141c~147c及び傾斜壁141d~147dは、それぞれ、義歯床10の開口41a~47a、底部41b~47b、側壁41c~47c及び傾斜壁41d~47dに対応する。
【0165】
次に、第1~第7の溝141~147Lの寸法関係について説明する。
【0166】
図24~
図30に戻って、第1~第3の溝141~143Lの深さD1~D3は、第4~第7の溝144L~147Lの深さD4~D7よりも大きくなっている。このため、義歯床データ100に基づいて作製された義歯床10では、複数の人工歯60を接着材70によって接着する際に、第1~第3の溝41~43Lに配置される接着材70を、第4~第7の溝144L~147Lに配置される接着材70よりも溝の深さ方向に大きくすることができる。
【0167】
義歯床10の床本体20において、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯が配置される第1~第3のソケット31L~33Lが設けられる前歯部は、落下などの外部からの衝撃により縦方向に割れやすい部分である。また、義歯床10の前歯部に配置される中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯は、食べ物を噛み切る役割を有しており、上顎と下顎の噛み合わせ方向、即ち、義歯床10の縦方向において力がかかりやすい。また、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯は、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯と比べて小さい。このため、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯では、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯と比べて、食べ物を噛む際に食べ物と歯との接触面積が小さくなる。その結果、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯で食べ物を噛むとき、義歯床10の縦方向において局所的に力がかかりやすく、応力が集中しやすくなっている。
【0168】
義歯床10では、第1~第3の溝41~43Lの深さD1~D3を大きくすることによって、第1~第3の溝41~43Lにおける接着材70が義歯床10の縦方向に延びるように配置されている。これにより、義歯床10の前歯部を縦方向に補強でき、義歯床10の縦方向にかかる力に対する強度が向上する。
【0169】
義歯床データ100では、第3溝143Lの深さD3は、第1及び第2溝141,142Lの深さD1,D2より大きくなっている。このため、義歯床データ100に基づいて作製された義歯床10では、複数の人工歯60を接着材70によって接着する際に、第3溝43Lに配置される接着材70を、第1及び第2溝141,142Lに配置される接着材70よりも溝の深さ方向に大きくすることができる。
【0170】
義歯床10の前歯部においては、犬歯の人工歯が配置される第3ソケット33Lの部分が第1及び第2のソケット31L,32Lと比べて、外部からの衝撃により縦方向に割れやすい部分である。このため、溝の深さ方向において、第1及び第2の溝41,42Lに比べて、第3溝43Lに配置される接着材70を大きくすることで、接着材70によって第3ソケット33L付近の義歯床10の部分を溝の深さ方向において強固に補強できる。
【0171】
義歯床データ100では、第4~第7の溝144L~147Lの幅W4~W7は、第1~第3の溝141~143Lの幅W1~W3よりも大きい。このため、義歯床データ100に基づいて作製された義歯床10では、複数の人工歯60を接着材70によって接着する際に、第4~第7の溝44L~47Lに配置される接着材70を、第1~第3の溝41~43Lに配置される接着材70よりも溝の幅方向に大きくすることができる。
【0172】
義歯床10の床本体20において、第一小臼歯~第二大臼歯が配置される第4~第7のソケット34L~37Lが設けられる臼歯部は、第1~第3のソケット31L~37Lが設けられる前歯部よりも落下などの外部からの衝撃により縦方向に割れにくい部分である。また、義歯床10の臼歯部に配置される第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯は、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯と比べて大きい。このため、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯では、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯と比べて、食べ物を噛む際に食べ物と歯との接触面積が大きくなる。さらに、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯は、前歯で噛みやすいように切った食べ物をすり潰し、細かくするという役割を有する。また、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯は、上顎の臼歯と下顎の臼歯とを接触させて噛み合わせを安定させるという役割を有する。このため、第一小臼歯~第二大臼歯の人工歯は、中切歯、側切歯及び犬歯の人工歯と比べて、義歯床10の幅方向、即ち、溝の幅方向に力がかかりやすい。
【0173】
義歯床10では、第4~第7の溝44L~47Lの幅W4~W7は、第1~第3の溝41~43Lの幅W1~W3よりも大きくすることによって、第4~第7の溝44L~47Lにおける接着材70が義歯床10の幅方向に延びるように配置されている。これにより、義歯床10の臼歯部を幅方向に補強でき、義歯床10の幅方向にかかる力に対する強度が向上する。
【0174】
なお、
図24~
図30に示す第1~第7の溝141~147Lの幅W1~W7は、開口141a~147aの幅方向の寸法を意味する。
図24~
図30に示すように、第1~第7の溝141~147Lの幅W1~W7は、溝の深さ方向から見たとき、開口141a~147aを画定する2つの側壁141c~147cを結ぶ最短距離である。第1~第7の溝141~147Lの深さD1~D7は、溝の深さ方向から見たときの開口141a~147aを画定する2つの側壁141c~147cを最短距離で結ぶ線分の中点CP1~CP7から底部141b~147bの中央まで真っすぐに描いた線分の距離である。
【0175】
なお、
図24~
図30を用いて説明した義歯床データ100の第1~第7の溝141~147Lの説明は、義歯床データ100の左側の説明になるが、義歯床データ100の右側の第1~第7の溝141~147Rについても同様である。
【0176】
以下の表1は、第1~第7の溝141~147Rの寸法範囲を示す。
【0177】
【0178】
なお、義歯床データ100の左側の第2~第7の溝142L~147Lの寸法は、表1に示す義歯床データ100の右側の第2~第7の溝142R~147Rの寸法と同じである。
【0179】
(比較例1と実施例1の義歯床データにおけるソケット接続部位の高さの比較解析)
汎用CADソフトウェアに比較例1及び実施例1の義歯床データ100、200と人工歯の形状データを読み込んだ。そして、人工歯同士の隣接面接触点の位置に点を配置した。配置した点を基底面に向かって垂直に移動させ、基底面と接する位置に点を配置した。これらの点の2点間距離をソケット接続部位の高さとして測定した。測定結果を前述したとおり、ソケットの基底面を0とし、人工歯の隣接面同士が接触する部分(接触点)までの高さを100と定義した。比較例1の義歯床データ200におけるソケット接続部位の高さは97であった。実施例1の義歯床データ100におけるソケット接続部位の高さは3であった。
【0180】
(比較例1及び実施例1の義歯床データに基づいて作製した義歯における臼歯部断面の接着材層の形状比較)
実施例1の義歯床データ100に基づいて3Dプリンタで義歯床10を作製した。義歯床10に接着材70を塗布し、複数の人工歯60を排列・接着後、義歯50を技工用トリマーで削った。そして、臼歯部断面をデジタルカメラで撮影し、得られた画像を汎用CADソフトウェアに読み込み、接着材70から成る接着材層を自由曲線でトレースすることによって、臼歯部断面における接着材層の断面データを取得した。なお、臼歯部断面は、
図17に示すP-P線断面図と同様である。比較例1についても同様の方法により臼歯部断面における接着材層の断面データを取得した。
【0181】
なお、3DプリンタはDLP方式の3Dプリンタ(IMD-2.0,カリマ,韓国)を用いた。義歯床10を作製するためのデンチャーベース材料は、アクリル系レジンを用いた。複数の人工歯60は、単独既製人工歯(ベラシアSA,松風,日本)を用いた。接着材70は、常温重合レジン(プロビナイス,松風)を用いた。
【0182】
比較例1に基づいて作製された義歯における臼歯部断面の接着材層を
図31に示す。実施例1に基づいて作製された義歯における臼歯部断面の接着材層を
図32に示す。なお、
図31及び
図32においては、説明を容易にするため、義歯床及び人工歯の図示を省略し、接着材層のみを示している。
【0183】
比較例1の義歯床データ200に基づいて作製された義歯床は、臼歯部において複数のソケットが独立しているため、
図31に示すように、接着材層171もソケットごとに独立していることが確認された。即ち、比較例1の臼歯部において、接着材層171は、隣り合うソケット間で分断されており、繋がっていない。また、接着材層171の厚みは略一定となっている。対して、実施例1の義歯床データ100に基づいて作製された義歯床10では、臼歯部において複数のソケット30が接続しているため、
図32に示すように、義歯50の接着材層71も連続していることが確認された。即ち、実施例1の臼歯部において、義歯床10の複数のソケット30は溝44L,44R~47L,47Rによって連通しているため、接着材70が複数のソケット30にわたって分断されずに配置されている。また、実施例1の臼歯部において、義歯床10は、単独既製人工歯における下部鼓形空隙部も接着材70で満たされるため、側面から見ると接着材層71の形状は波形状になっていることが確認された。即ち、実施例1の臼歯部では、隣り合うソケット30の間に設けられた溝44L,44R~47L,47Rに接着材70が配置されている。これにより、溝44L,44R~47L,47Rに配置される接着材層71の厚みは、複数のソケット30に配置される接着材層71の厚みよりも大きくなっている。
【0184】
(比較例1及び実施例1の義歯床データに基づいて作製した義歯における前歯部断面の接着材層の形状比較)
臼歯部断面の接着材層の形状比較と同じ手法により、比較例1及び実施例1により作製された義歯の前歯部断面における接着材層の断面データを取得した。なお、前歯部断面は、
図20に示すQ-Q線断面図と同様である。比較例1についても同様の方法により前歯部断面における接着材層の断面データを取得した。
【0185】
比較例1に基づいて作製された義歯における前歯部断面の接着材層171を
図33に示す。実施例1に基づいて作製された義歯における前歯部断面の接着材層71を
図34に示す。なお、
図33及び
図34においては、説明を容易にするため、義歯床及び人工歯の図示を省略し、接着材層のみを示している。
【0186】
比較例1の義歯床データ200に基づいて作製された義歯床は、前歯部において臼歯部と同様に複数のソケットが独立しているため、
図33に示すように、接着材層171もソケットごとに独立していることが確認された。即ち、比較例1の前歯部においても臼歯部と同様に、接着材層171は、隣り合うソケット間で分断されており、繋がっていない。対して、実施例1の義歯床データ100に基づいて作製された義歯床は、前歯部において複数のソケット30が接続されているため、
図34に示すように、接着材層71も連続していることが確認された。即ち、実施例1の前歯部において、義歯床10の複数のソケット30は溝41~43L,43Rによって連通しているため、接着材70が複数のソケット30にわたって分断されずに配置されている。また、実施例1の前歯部において、義歯床10は、単独既製人工歯における下部鼓形空隙部も接着材70で満たされるため、側面から見ると接着材層71の形状は波形状になっていることが確認された。即ち、実施例1の前歯部では、隣り合うソケット30の間に設けられた溝41~43L,43Rに接着材70が配置されている。これにより、溝41~43L,43Rに配置される接着材層71の厚みは、複数のソケット30に配置される接着材層71の厚みよりも大きくなっている。
【0187】
(比較例1及び実施例1の義歯床データに基づいて作製した義歯における接着材層の形状比較)
臼歯部断面の接着材層の形状比較と同じ手法により、比較例1及び実施例1により作製された義歯の接着材層の平面視における断面データを取得した。比較例1に基づいて作製された義歯における接着材層171の平面視における断面を
図35に示す。実施例1に基づいて作製された義歯における接着材層71の平面視における断面を
図36に示す。なお、
図35及び
図36においては、説明を容易にするため、義歯床及び人工歯の図示を省略し、接着材層のみを示している。
【0188】
比較例1の義歯床データ200に基づいて作製された義歯床は、複数のソケットが独立しているため接着材層171も独立していることが確認された。対して、実施例1の義歯床データ100に基づいて作製された義歯床10は、複数のソケット30が接続されているため接着材層71も連続していることが確認された。また、実施例1の義歯床10の接着材層71は、上面から見てU字形状となっていることも確認された。
【0189】
(落下試験用下顎義歯の作製)
落下試験用下顎義歯として、比較例1、実施例2~4の義歯床データに基づいて4種類の義歯を作製した。
【0190】
実施例2は、前歯部の6個のソケットのみを接続した義歯床データである。実施例2は、臼歯部のソケットを接続していない点で実施例1の義歯床データ100と異なる。実施例2の義歯床データでは、第1~第3のソケット31L,31R~33L,33Rを連通させる第1~第3の溝41~43L,43Rが設けられているが、第4~第7のソケット34L,34R~37L,37Rは連通しておらず、独立している。
【0191】
ソケットの基底面を0とし、隣り合う人工歯の隣接面同士が接触する部分(接触点)までの高さを100と定義する。このように定義した場合、実施例2では、前歯部(6歯:両側1~3番)のソケットの基底面から溝41~43L,43Rの底部41b~43bまでの高さが5である。
【0192】
実施例3及び4は、14個のソケットを接続した義歯床データある。実施例3及び4の義歯床データの基本的形状は、実施例1の義歯床データ100と同様である。実施例3は、実施例4に比べて、前歯部の溝41~43L,43Rの底部41b~43bの高さが低くなっている。即ち、実施例3は、実施例4に比べて、前歯部の溝41~43L,43Rの深さが大きくなっている。
【0193】
ソケットの基底面を0とし、隣り合う人工歯の隣接面同士が接触する部分(接触点)までの高さを100と定義する。このように定義した場合、実施例3では、前歯部(6歯:両側1~3番)のソケットの基底面から溝41~43L,43Rの底部41b~43bまでの高さが20であり、臼歯部(8歯:両側4~8番)のソケットの基底面から溝44L,44R~47L,47Rの底部44b~47bまでの高さが5である。
【0194】
実施例4では、前歯部(6歯:両側1~3番)のソケットの基底面から溝41~43L,43Rの底部41b~43bまでの高さが5であり、臼歯部(8歯:両側4~8番)のソケットの基底面から溝44L,44R~47L,47Rの底部44b~47bまでの高さが5である。
【0195】
比較例1、実施例2~4は、DLP方式の3Dプリンタ(IMD-2.0,カリマ,韓国)とデンチャーベース材料(アクリル系レジン)を用いて義歯床を造形した。そして、単独既製人工歯(ベラシアSA,松風,日本)の接着面をカーボランダムポイントで荒らし、常温重合レジン(プロビナイス,松風)で人工歯を義歯床に接着した。そして、仕上げ研磨を行った。比較例1、実施例2~4において、それぞれ、落下試験用下顎義歯を3つ作製した。
【0196】
(下顎義歯の落下試験)
下顎義歯の落下試験模式図を
図37に示す。比較例1、実施例2~4で作製した単独既製人工歯接着型下顎義歯を、鉄板上に所定の高さから落下させて、破折するか否かを確認した。具体的には、義歯を落下させる高さを鉄板から50cm、100cm、150cm、200cmに設定した。落下試験では、高さが低い順に義歯を落下させ、義歯が破折するか否かを確認し、破折した義歯については試験を中止した。
【0197】
比較例1における単独既製人工歯接着型下顎義歯の落下試験結果を表2に示す。
【0198】
【0199】
実施例2における単独既製人工歯接着型下顎義歯の落下試験結果を表3に示す。
【0200】
【0201】
実施例3における単独既製人工歯接着型下顎義歯の落下試験結果を表4に示す。
【0202】
【0203】
実施例4における単独既製人工歯接着型下顎義歯の落下試験結果を表5に示す。
【0204】
【0205】
本落下試験において、破折しなかった義歯を「破折無し」、破折した義歯を「破折有り」とした。なお、破折とは、義歯が割れてしまうことを意味する。比較例1において、すべての義歯が50cmの高さからの落下で破折することが確認された。実施例2において、2つの義歯が100cmの高さからの落下で破折し、1つの義歯が150cmの高さからの落下で破折した。実施例2は、比較例1と比較して補強効果が得られていることが確認された。
【0206】
実施例3において、義歯は50cmの高さからの落下では安定して破折しなかった。しかし、2つの義歯が100cmの高さからの落下で破折し、1つの義歯が150cmの高さからの落下で破折することが確認された。実施例4では、サンプル間のばらつきが無く、すべての義歯が150cmの高さからの落下まで破折しないことが確認された。
【0207】
比較例1及び実施例2~4の条件の違いは、ソケットの接続数、ソケット側面の高さ(溝の深さ)とそれに伴う接着材の形状である。本試験結果からソケットの接続数が多く、ソケット側面の高さが低い(溝の深さが深い)ほど組み立てられた義歯が落下によって破折しにくくなることが確認された。
【0208】
(落下試験後の単独既製人工歯接着型下顎義歯の破壊様相)
比較例1の義歯の破壊様相を
図38~
図40に示す。実施例2の義歯の破壊様相を
図41~
図43に示す。実施例3の義歯の破壊様相を
図44から
図46に示す。
図38~
図40に示すように、比較例1の義歯は小帯から単独既製人工歯にかけて直線的に破折したことが確認された。また、破折面は光沢を示していた。
図41~
図43に示すように、実施例2の義歯は小帯から第一小臼歯近心にかけて大きく湾曲して破折したことが確認された。また、破折面は光沢を示していた。
図44~
図46に示すように、実施例3の義歯は小帯から下顎側切歯近心面にかけて小さく湾曲して破折したことが確認された。破折面は、凹凸が形成されており光沢はわずかであった。本結果から、比較例1の義歯は義歯床の材料そのものが脆くガラスのように破折するのに対して、実施例2及び3のようにソケットを接続する数が増えるにつれて、義歯の破壊様相に明らかな違いがみられた。このことから、接着材層の特性と形状によって単独既製人工歯接着型下顎義歯に補強効果が得られると考えられる。
【0209】
(義歯の審美性比較)
実施例1の義歯床データ100に基づいて作成された単独既製人工歯接着型義歯は、歯肉色の接着材で補強されるため、金属などの補強材料を埋入した場合と比較して審美性が損なわれないという利点もある。比較例1において金属製補強線を埋入していない単独既製人工歯接着型下顎義歯、比較例1において金属製補強線を前歯部直下に埋入した単独既製人工歯接着型下顎義歯、比較例1において金属製補強線を舌側研磨面に埋入した単独既製人工歯接着型下顎義歯、及び実施例1の単独既製人工歯接着型下顎義歯をそれぞれ作製し、画像を取得した。比較例1において金属製補強線を埋入していない単独既製人工歯接着型下顎義歯の画像を
図47に示す。比較例1において金属製補強線を前歯部直下に埋入した単独既製人工歯接着型下顎義歯の画像を
図48に示す。比較例1において金属製補強線を舌側研磨面に埋入した単独既製人工歯接着型下顎義歯の画像を
図49に示す。実施例1における単独既製人工歯接着型下顎義歯の画像を
図50に示す。
図47~
図49に示すように、比較例1において金属製補強線を埋入した部分は、金属色が義歯床から透過して見えて黒ずんでいることが確認された。対して、
図48及び
図50に示すように、実施例1における単独既製人工歯接着型下顎義歯は、比較例1において金属製補強線を埋入していない単独既製人工歯接着型下顎義歯と同等の審美性を有していることが確認された。審美性の観点からも、本発明は有用であると考えられる。
【0210】
なお、本明細書において、「第1」、「第2」などの用語は、説明のためだけに用いられるものであり、相対的な重要性または技術的特徴の順位を明示または暗示するものとして理解されるべきではない。「第1」と「第2」と限定されている特徴は、1つまたはさらに多くの当該特徴を含むことを明示または暗示するものである。
【0211】
本発明をある程度の詳細さをもって各実施形態において説明したが、これらの実施形態の開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものであり、各実施形態における要素の組合せや順序の変化は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【0212】
また、本開示の概括的かつ特定の態様は、システム、方法、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能記録媒体、並びに、それらの組み合わせにより、実現されてもよい。
【0213】
(実施形態の概要)
(1)本開示の義歯床は、床本体と、前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、を備え、前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、前記複数のソケットは、前記溝により連通している。
【0214】
(2)(1)の義歯床において、前記床本体は、歯列弓形状を有していてもよい。前記複数のソケットは、前記床本体の正中線を基準とした左右両側のそれぞれにおいて、前記床本体の前記正中線付近に設けられる第1ソケットと、前記第1ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられ第2ソケットと、前記第2ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第3ソケットと、前記第3ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第4ソケットと、前記第4ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第5ソケットと、前記第5ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第6ソケットと、前記第6ソケットよりも前記床本体の遠心側に設けられる第7ソケットと、を含んでもよい。前記ソケット隔壁は、前記床本体の前記正中線を挟んで設けられる2つの前記第1ソケットとの間に設けられる第1ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第1ソケットと前記第2ソケットとの間に設けられる第2ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第2ソケットと前記第3ソケットとの間に設けられる第3ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第3ソケットと前記第4ソケットとの間に設けられる第4ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第4ソケットと前記第5ソケットとの間に設けられる第5ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第5ソケットと前記第6ソケットとの間に設けられる第6ソケット隔壁と、前記床本体の左右両側のそれぞれにおいて前記第6ソケットと前記第7ソケットとの間に設けられる第7ソケット隔壁と、を含んでもよい。前記溝は、前記第1ソケット隔壁に設けられており、隣り合う2つの前記第1ソケットを連通する第1溝と、前記第2ソケット隔壁に設けられており、前記第1ソケットと前記第2ソケットとを連通する第2溝と、前記第3ソケット隔壁に設けられており、前記第2ソケットと前記第3ソケットとを連通する第3溝と、前記第4ソケット隔壁に設けられており、前記第3ソケットと前記第4ソケットとを連通する第4溝と、前記第5ソケット隔壁に設けられており、前記第4ソケットと前記第5ソケットとを連通する第5溝と、前記第6ソケット隔壁に設けられており、前記第5ソケットと前記第6ソケットとを連通する第6溝と、前記第7ソケット隔壁に設けられており、前記第6ソケットと前記第7ソケットとを連通する第7溝と、を含んでもよい。前記第1~第7のソケットは、前記第1~第7の溝により連通していてもよい。
【0215】
(3)(2)の義歯床において、前記第1~第3の溝の深さは、前記第4~第7の溝の深さよりも大きくてもよい。
【0216】
(4)(2)又は(3)の義歯床において、前記第4~第7の溝の幅は、前記第1~第3の溝の幅よりも大きくてもよい。
【0217】
(5)(2)~(4)のいずれか1つの義歯床において、前記第3溝の深さは、前記第1及び第2溝の深さより大きくてもよい。
【0218】
(6)(1)~(5)のいずれか1つの義歯床において、前記溝は、底部と、前記底部から互いに向き合って延びる2つの側壁と、によって画定されていてもよい。前記溝の深さ方向において、前記2つの側壁は前記溝の開口を画定しており、前記溝の開口は前記溝の底部よりも大きくてもよい。
【0219】
(7)(6)の義歯床において、前記2つの側壁は、前記溝の前記底部から前記開口に向かって、前記2つの側壁との間の距離を広げる方向に傾斜する傾斜壁を有していてもよい。
【0220】
(8)(1)~(7)のいずれか1つの義歯床において、前記ソケット隔壁の厚みは、前記溝に向かって小さくなっていてもよい。
【0221】
(9)(1)の義歯床において、前記複数のソケットは、中切歯の人工歯が配置される第1ソケットと、側切歯の人工歯が配置される第2ソケットと、犬歯の人工歯が配置される第3ソケットと、第一小臼歯の人工歯が配置される第4ソケットと、第二小臼歯の人工歯が配置される第5ソケットと、第一大臼歯の人工歯が配置される第6ソケットと、第二大臼歯の人工歯が配置される第7ソケットと、のうち隣り合う2つ以上のソケットを含んでもよい。
【0222】
(10)本開示の有床義歯は、(1)~(9)のいずれか1つの義歯床と、前記義歯床の前記複数のソケットに配置される複数の人工歯と、前記溝を介して前記複数のソケットに連続して配置され、且つ前記複数の人工歯と前記義歯床とを接着する接着材と、を備える。
【0223】
(11)(10)の有床義歯において、前記接着材は、前記溝において隣り合う人工歯を接着していてもよい。
【0224】
(12)(10)又は(11)の有床義歯において、前記接着材は、歯科用レジンであってもよい。
【0225】
(13)(10)~(12)のいずれか1つの有床義歯において、前記複数の人工歯は、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯又は第二大臼歯の中から選択される人工歯であって、互いに独立した複数の人工歯を含んでもよい。
【0226】
(14)本開示の義歯床の製造方法は、コンピュータによって実行される義歯床の製造方法であって、口腔内のスキャンデータを取得するステップ、互いに接続された複数の仮想人工歯を備える仮想人工歯データを前記スキャンデータに配置するステップ、前記仮想人工歯データが配置された前記スキャンデータに基づいて仮想歯肉部分を形成することによって、義歯床データを作成するステップ、を含む。前記義歯床データは、床本体と、前記床本体に設けられ、且つ凹形状を有する複数のソケットと、を備え、前記複数のソケットは、前記床本体の形状に沿って設けられており、前記床本体は、前記複数のソケットのうち隣り合うソケットの間に設けられるソケット隔壁を有し、前記ソケット隔壁には、前記隣り合うソケットを連通する溝が設けられており、前記複数のソケットは、前記溝により連通している。
【0227】
(15)(14)の義歯床の製造方法において、前記仮想人工歯データは、前記複数の仮想人工歯のうち隣り合う仮想人工歯を連結する連結部をさらに備えてもよい。前記義歯床データを作成するステップは、前記隣り合う仮想人工歯の間において前記連結部の外形形状に沿って前記仮想歯肉部分を形成すること、を有していてもよい。
【0228】
(16)(14)又は(15)の義歯床の製造方法は、前記義歯床データに基づいて、3Dプリンタによって義歯床を作製するステップ、をさらに含んでもよい。
【0229】
(17)有床義歯の製造方法は、(14)~(16)のいずれか1つの義歯床の製造方法で作製された前記義歯床の前記複数のソケットに接着材を塗布するステップ、前記接着材が塗布された前記複数のソケットに複数の人工歯を配置するステップ、を含む。
【0230】
(18)(17)の有床義歯の製造方法において、前記複数の人工歯を配置するステップは、前記溝を介して前記複数のソケットに連続して配置された前記接着材によって前記複数の人工歯と前記義歯床とを接着すること、を有していてもよい。
【0231】
(19)(17)又は(18)の有床義歯の製造方法において、前記複数の人工歯を配置するステップは、前記溝に配置された前記接着材によって隣り合う人工歯を接着すること、を有していてもよい。
【0232】
(20)本開示のプログラムは、コンピュータに(14)~(19)のいずれか1つの方法を実行させる。
【0233】
(21)本開示のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、コンピュータに(14)~(19)のいずれか1つの方法を実行させるプログラムを記憶する。