(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143734
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】シリカ材料、イオン交換樹脂組成物、電解質膜、膜・電極接合体、固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20230928BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/1048 20160101ALI20230928BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230928BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20230928BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230928BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20230928BHJP
C25B 13/05 20210101ALI20230928BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230928BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230928BHJP
【FI】
C01B33/18 E
H01M8/10 101
H01M8/1048
H01B1/06 A
H01B1/10
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/05
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016458
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022047494
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 晃久
(72)【発明者】
【氏名】フォルテ ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】畳開 真之
【テーマコード(参考)】
4G072
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072AA41
4G072BB05
4G072CC13
4G072DD05
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4G072DD07
4G072GG01
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4G072HH17
4G072JJ15
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4G072QQ06
4G072RR07
4G072RR12
4G072TT01
4G072TT19
4G072UU30
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA04
5G301CA05
5G301CD01
5H126AA05
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5H126GG11
5H126GG18
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】電解質膜のプロトン伝導性の向上に有用な新規なシリカ材料を提供すること。
【解決手段】シリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体を有し、前記基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有するものであるか、又は、酸化ケイ素を含む基体にスルホン化剤を接触させて得られるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素を含む基体を有し、前記基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有するシリカ材料。
【請求項2】
二酸化ケイ素を含む基体にスルホン化剤を接触させて得られるシリカ材料。
【請求項3】
前記基体が、粒子状である請求項1又は請求項2に記載のシリカ材料。
【請求項4】
前記基体がシリカ粒子であり、前記シリカ粒子の一次粒子の個数平均粒子径が、1nm~500nmである請求項3に記載のシリカ材料。
【請求項5】
蛍光X線分析法(XRF)測定により求めたケイ素原子の濃度と硫黄原子の濃度との合計に対する硫黄原子の濃度の割合が、0.01%~90%である請求項1又は請求項2に記載のシリカ材料。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のシリカ材料とイオン交換樹脂とを含有するイオン交換樹脂組成物。
【請求項7】
前記イオン交換樹脂組成物の固形分に占める前記シリカ材料の含有率が、0.01質量%~90質量%である請求項6に記載のイオン交換樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6に記載のイオン交換樹脂組成物を含む電解質膜。
【請求項9】
請求項8に記載の電解質膜と、前記電解質膜の一方の表面上に積層されたカソードと、前記電解質膜の他方の表面上に積層されたアノードと、を有する膜・電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体の両面に配置されたセパレータと、を有する固体高分子形燃料電池。
【請求項11】
請求項9に記載の膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体の両面に配置されたセパレータと、を有する固体高分子形電解装置。
【請求項12】
請求項8に記載の電解質膜を有する電気化学式水素圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカ材料、イオン交換樹脂組成物、電解質膜、膜・電極接合体、固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質膜、特に固体高分子形電解質膜の性能向上に対するニーズが増している。例えば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを用いて水を電気分解することで水素を発生させ、発生した水素を圧縮等して高密度で貯蔵し、電力の必要な場所で必要な時にその水素を燃料電池に供給し発電するシステムが、二酸化炭素を発生させない非常にクリーンなエネルギーシステムとして注目されている。ここで、水の電気分解に際しては、陽極と陰極を電解質膜で隔て、陽極で生成したプロトンを電解質膜を介して陰極へ移動させ、陰極で電子と結合させて水素を得る水電解法が知られている。各極での反応式は下記のとおりである。
・陽極:H2O→1/2O2+2H++2e-
・陰極:2H++2e-→H2
一方、燃料電池においては、負極(アノード)における水素酸化反応で生成したプロトンが電解質膜を介して正極(カソード)に移動し、そこで酸素還元反応により水を発生させることで発電を行う。各極での反応式は下記のとおりである。
・負極:H2→2H++2e-
・正極:1/2O2+2H++2e-→H2O
【0003】
上記の各作動原理から明らかなように、水電解法、燃料電池のいずれにおいても、電解質膜のプロトン伝導性の向上が一般的課題である。電解質膜のプロトン伝導性を向上させるためには、電解質膜の膜厚を薄くする、電解質ポリマーのイオン交換基1当量当たりの乾燥質量(当量質量:EW)を低減する、等の方策が考えられる。
しかし、電解質膜の薄膜化には、電極間の隔膜として必要な強度の観点から自ずと限界がある。また、EWの低減にも、電解質ポリマーの骨格部分の比率が下がり固体膜を維持することが困難になることがある。
【0004】
電解質膜の強度を確保すべく、燃料電池の高分子電解質として、高分子多孔質膜の内部空間(空隙)に高分子電解質を含有させることで、電解質自体ではなし得なかった機械的強度の向上を達成した例がある(特許文献1)。また、ポリエチレン多孔質膜中に高分子電解質を保持させるために好適な多孔質基材が提案されている(特許文献2)。さらに、超高分子量ポリオレフィンの多孔性薄膜の網目構造がイオン交換樹脂を取り込み包含することにより、力学的強度に優れた電解質薄膜を提供した従来技術がある(特許文献3)。また、固体高分子多孔膜中に毛管凝縮作用を利用してイオン導電体を取り込み包含することにより、力学的強度に優れた薄膜電解質を提供した従来技術もある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-166557号公報
【特許文献2】特開2011-241361号公報
【特許文献3】特開昭64-22932号公報
【特許文献4】特開平1-158051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電解質膜のプロトン伝導性を向上するために上述のような方法が検討されているものの、さらなる電解質膜のプロトン伝導性の向上が求められている。
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、電解質膜のプロトン伝導性の向上に有用な新規なシリカ材料、並びに、このシリカ材料を含むイオン交換樹脂組成物、このイオン交換樹脂組成物を含む電解質膜、この電解質膜を用いた膜・電極接合体、固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 二酸化ケイ素を含む基体を有し、前記基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有するシリカ材料。
<2> 二酸化ケイ素を含む基体にスルホン化剤を接触させて得られるシリカ材料。
<3> 前記基体が、粒子状である<1>又は<2>に記載のシリカ材料。
<4> 前記基体がシリカ粒子であり、前記シリカ粒子の一次粒子の個数平均粒子径が、1nm~500nmである<3>に記載のシリカ材料。
<5> 蛍光X線分析法(XRF)測定により求めたケイ素原子の濃度と硫黄原子の濃度との合計に対する硫黄原子の濃度の割合が、0.01%~90%である<1>~<4>のいずれか1項に記載のシリカ材料。
<6> <1>~<5>のいずれか1項に記載のシリカ材料とイオン交換樹脂とを含有するイオン交換樹脂組成物。
<7> 前記イオン交換樹脂組成物の固形分に占める前記シリカ材料の含有率が、0.01質量%~90質量%である<6>に記載のイオン交換樹脂組成物。
<8> <6>又は<7>に記載のイオン交換樹脂組成物を含む電解質膜。
<9> <8>に記載の電解質膜と、前記電解質膜の一方の表面上に積層されたカソードと、前記電解質膜の他方の表面上に積層されたアノードと、を有する膜・電極接合体。
<10> <9>に記載の膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体の両面に配置されたセパレータと、を有する固体高分子形燃料電池。
<11> <9>に記載の膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体の両面に配置されたセパレータと、を有する固体高分子形電解装置。
<12> <8>に記載の電解質膜を有する電気化学式水素圧縮装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解質膜のプロトン伝導性の向上に有用な新規なシリカ材料、並びに、このシリカ材料を含むイオン交換樹脂組成物、このイオン交換樹脂組成物を含む電解質膜、この電解質膜を用いた膜・電極接合体、固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい
。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0011】
本開示において、層又は膜の平均厚みは、対象となる層又は膜の5点の厚みを測定し、その算術平均値として与えられる値とする。
層又は膜の厚みは、マイクロメーター等を用いて測定することができる。本開示において、層又は膜の厚みを直接測定可能な場合には、マイクロメーターを用いて測定する。一方、1つの層の厚み又は複数の層の総厚みをマイクロメーターを用いて測定できない場合には、電子顕微鏡を用いて、測定対象の断面を観察することで測定する。
【0012】
本開示において、電解質膜の「固形分」とは、電解質膜から水分、有機溶剤等の揮発分を除去した残部をいう。
【0013】
<シリカ材料>
本開示の第1のシリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体を有し、前記基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有するものである。スルホン酸基は基体の表面に化学的に結合したものであってもよい。
また、本開示の第2のシリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体にスルホン化剤を接触させて得られるものである。
以下、本開示の第1のシリカ材料及び本開示の第2のシリカ材料を、合わせて本開示のシリカ材料と称することがある。
【0014】
本開示のシリカ材料は、各種イオン交換樹脂と組み合わせたイオン交換樹脂組成物を用いて電解質膜としたときに、当該電解質膜のプロトン伝導性を向上することが可能となる。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
イオン交換樹脂は、スルホン酸基、カルボキシ基、第四級アンモニウム基、又は、一級、二級若しくは三級アミノ基をイオン交換基として含む。特に、固体高分子形電解質膜を構成するイオン交換樹脂に含まれる好適なイオン交換基としては、スルホン酸基が挙げられる。本開示のシリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有することから、イオン交換基(特にスルホン酸基)との親和性が高い。イオン交換樹脂中に本開示のシリカ材料を分散させることで、電解質膜中において、イオン交換性樹脂に含まれるイオン交換基と本開示のシリカ材料に含まれるスルホン酸基とが相互作用し、電解質膜中に効率よくプロトン導電パスが構築されやすい。
その結果、本開示のシリカ材料を各種イオン交換樹脂と組み合わせて電解質膜としたときに、当該電解質膜のプロトン伝導性を向上することが可能になると推察される。
【0015】
以下、本開示のシリカ材料について詳細に説明する。
【0016】
(基体)
本開示のシリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体を有する。基体の形状は特に限定されるものではなく、例えば、粒子状、繊維状、板状又は薄膜状の基体が挙げられる。
【0017】
二酸化ケイ素を含む粒子状の基体としては、シリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子は、結晶性でも非晶性でもよい。シリカ粒子は、水ガラスやアルコキシシラン等のケイ素化合物を原料に製造された粒子であってもよいし、石英を粉砕して得られる粒子であってもよい。
シリカ粒子として、具体的には、ゾルゲル法で作製されるシリカ粒子、コロイダルシリカ粒子、気相法により得られるフュームドシリカ粒子、溶融シリカ粒子等が挙げられる。
【0018】
シリカ粒子の一次粒子の個数平均粒子径は、1nm~500nmが好ましく、5nm~300nmがより好ましく、10nm~200nmがさらに好ましい。
シリカ粒子の一次粒子の個数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察により50個のシリカ粒子の円相当径を求め、その算術平均値として算出された値をいう。
シリカ粒子の一次粒子は、凝集して二次粒子を形成していてもよい。
シリカ粒子の二次粒子の体積平均粒子径は、500nm~500μmが好ましく、1μm~300μmがより好ましく、10μm~150μmがさらに好ましい。
シリカ粒子の二次粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される値であり、例えばシスメックス社製のマスターサイザー2000を用いて測定される。具体的には、シリカ粒子と水(分散媒)と非イオン性界面活性剤(Igepal CA630;分散剤)とを混合し分散させた分散液の、体積粒度分布における中心粒子径(D50)を体積平均粒子径とする。
【0019】
二酸化ケイ素を含む繊維状の基体としては、ガラス長繊維(ガラスファイバー)、ガラス短繊維(グラスウール)等のガラス繊維、シリカナノファイバーなどが挙げられる。ガラス繊維は、無アルカリガラス(Eガラス)から構成されているものが好ましい。
ガラス繊維の直径は特に限定されるものではなく、好ましくは1μm~100μmであり、より好ましくは5μm~50μmである。
ガラス長繊維の繊維長は特に限定されるものではない。また、ガラス短繊維の繊維長は、好ましくは0.1mm~30mmであり、より好ましくは0.2mm~20mmである。
ガラス繊維の直径は、ガラス繊維の直径の平均値を示した数平均繊維径のことをいう。数平均繊維径は、ガラス繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維径を測定したときの算術平均をいう。
ガラス短繊維の繊維長は、無作為に100本選び出された繊維各々の長さを0.1mm単位まで目視にて測定し、算術平均として得られる値である。
【0020】
二酸化ケイ素を含む薄膜状の基体としては、鱗片状ガラス粒子等が挙げられる。
鱗片状ガラス粒子の体積平均粒子径は、0.1μm~200μmが好ましく、0.2μm~150μmがより好ましく、0.2μm~100μmがさらに好ましい。鱗片状ガラス粒子の体積平均粒子径は、シリカ粒子の体積平均粒子径と同様にして測定することができる。
鱗片状ガラス粒子の平均厚みは、1μm~20μmが好ましく、1.5μm~15μmがより好ましく、2μm~10μmがさらに好ましい。鱗片状ガラス粒子の平均厚みは、無作為に100個選び出されたガラス粒子各々を無作為に50個選択し、光学顕微鏡でガラス粒子の厚みを測定したときの算術平均をいう。
鱗片状ガラス粒子の体積平均粒子径の平均厚みに対する比(アスペクト比:体積平均粒子径/平均厚み)は、1.2~2000が好ましく、1.5~1500がより好ましく、2~1000がさらに好ましい。鱗片状ガラス粒子のアスペクト比は、上述の方法により求められた鱗片状ガラス粒子についての体積平均粒子径と平均厚みとの比として算出でき
る。
【0021】
また、上記の薄膜状の基体のほか、二酸化ケイ素を含む板状の基体であってもよい。板状の基体としては、ガラス板などが挙げられる。
基体としては、電解質膜等への加工性の観点から、シリカ粒子又はガラス繊維であることが好ましく、シリカ粒子であることがより好ましい。
【0022】
(スルホン酸基)
本開示の第1のシリカ材料では、基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有する。スル
ホン酸基は、基体の表面に化学的に結合していてもよい。
基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有していることは、例えば、以下の方法により確認できる。
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、蛍光X線分析(X-ray Fluorescence、XRF)等を用いて、シリカ材料中に硫黄原子が存在しているか否かを確認し、硫黄原子の存在量を定量する。走査型電子顕微鏡-エネルギー分散形X線分光法(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry,SEM-EDX)を用いて、シリカ材料の表面に硫黄原子が存在しているか否かを確認する。
また、シリカ材料0.1gを脱イオン水1.9gに分散し、分散液(5質量%分散液)のpH測定を25℃で実施する。
シリカ材料の表面に硫黄原子が存在しており、分散液のpHが3以下であれば、基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有していると判断することができる。
【0023】
本開示のシリカ材料に含まれる硫黄原子のケイ素原子に対する割合(S/Si)は、ある態様では、0.001~0.25が好ましく、0.0015~0.2がより好ましく、0.002~0.15がさらに好ましい。
本開示のシリカ材料に含まれる硫黄原子のケイ素原子に対する割合(S/Si)は、他の態様では、0.001~0.72が好ましく、0.0015~0.67がより好ましく、0.002~0.62がさらに好ましい。硫黄原子のケイ素原子に対する割合(S/Si)の算出に用いられる、シリカ材料に含まれる硫黄原子及びケイ素原子の量は、XPS測定により求めた原子存在量を用いる。
【0024】
本開示のシリカ材料に含まれる硫黄原子の濃度は、ある態様では、50mg/kg~250g/kgが好ましく、150mg/kg~200g/kgがより好ましく、300mg/kg~150g/kgがさらに好ましい。
本開示のシリカ材料に含まれる硫黄原子の濃度は、他の態様では、50mg/kg~50g/kgが好ましく、150mg/kg~30g/kgがより好ましく、300mg/kg~20g/kgがさらに好ましい。
なお、シリカ材料に含まれる硫黄原子の濃度は、XRF測定により求めた原子存在量をいう。
【0025】
本開示のシリカ材料のスルホン化度(XRFに基づくスルホン化度)は、0.01%~90%が好ましく、0.03%~80%がより好ましく、0.06%~60%がさらに好ましい。XRFに基づくスルホン化度は、XRF測定により求めたケイ素原子の濃度と硫黄原子の濃度との合計に対する硫黄原子の濃度の割合として求めた値を使用する。
【0026】
(シリカ材料の製造方法)
本開示の第1のシリカ材料では、基体の少なくとも表面にスルホン酸基を有する。基体
の少なくとも表面へスルホン酸基を存在させる方法(即ち、本開示の第1のシリカ材料の
製造方法)は特に限定されるものではない。例えば、本開示の第1のシリカ材料は、上述
した基体にスルホン化剤を接触させて製造することができる。
基体にスルホン化剤を接触させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、スルホン化剤に基体を浸漬させる方法、基体にスルホン化剤を噴霧する方法等が挙げられる。
基体にスルホン化剤を接触させる際におけるスルホン化剤の温度は、10℃~90℃が好ましく、15℃~80℃がより好ましく、20℃~70℃がさらに好ましい。
スルホン化剤に基体を浸漬させる際の浸積時間は、5分~120分が好ましく、10分~100分がより好ましく、15分~60分がさらに好ましい。
スルホン化剤に基体を浸漬させる際における、基体とスルホン化剤との比率としては、基体100質量部に対してスルホン化剤は1000質量部~50000質量部が好ましく、2000質量部~30000質量部がより好ましく、3000質量部~20000質量部がさらに好ましい。
スルホン化剤に基体を浸漬させる際に、撹拌処理を施してもよい。撹拌方法は特に限定されるものではなく、例えば、撹拌翼を用いた撹拌、遊星回転機構を有する撹拌装置による撹拌等が挙げられる。遊星回転機構を有する撹拌装置を用いることで、気泡の存在を効率的に除去できる。
基体にスルホン化剤を接触させた後、基体に対してイオン交換水、脱イオン水等による洗浄とろ過とを実施し、必要に応じてさらに基体に対してアセトン等の有機溶剤による洗浄とろ過とを実施し、基体を乾燥して第1のシリカ材料を得てもよい。
【0027】
本開示の第2のシリカ材料は、二酸化ケイ素を含む基体にスルホン化剤を接触させて得られるものである。本開示の第2のシリカ材料は、上述の本開示の第1のシリカ材料と同様の方法により製造することができる。
【0028】
スルホン化剤としては、発煙硫酸、濃硫酸、希硫酸、無水硫酸等が挙げられ、発煙硫酸又は濃硫酸が好ましく、発煙硫酸がより好ましい。
発煙硫酸における三酸化硫黄の濃度は、10質量%~80質量%が好ましく、15質量%~75質量%がより好ましく、20質量%~70質量%がさらに好ましい。
【0029】
<イオン交換樹脂組成物>
本開示のイオン交換樹脂組成物は、本開示のシリカ材料とイオン交換樹脂とを含有する。本開示のイオン交換樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
本開示のシリカ材料については既述の通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0030】
イオン交換樹脂に含まれるイオン交換基は特に限定されるものではなく、例えば、スルホン酸基、カルボキシ基、第四級アンモニウム基、又は、一級、二級若しくは三級アミノ基が挙げられる。
これらの中でも、プロトン伝導性に優れるスルホン酸基であることが好ましい。
【0031】
本開示のイオン交換樹脂組成物に含有されるイオン交換樹脂の種類は特に限定されるものではない。
芳香族系イオン交換樹脂としては、ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ジフェニルパラフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリアミド、ポリベンゾアゾール、ポリイミド等の芳香族系ポリマーのスルホン化体が挙げられる。
より具体的には、一般式(I)で表される構造単位を含むポリフェニレンのスルホン化体、一般式(II)で表される構造単位を含むポリフェニレンスルフィドのスルホン化体、一般式(III)で表される構造単位を含むポリフェニレンオキシドのスルホン化体、一般式(IV)で表される構造単位を含むポリジフェニルパラフェニレンオキシドのスルホン化体、一般式(V)で表される構造単位を含むポリスルホンのスルホン化体、一般式(VI)で表される構造単位を含むポリエーテルスルホンのスルホン化体、一般式(VII)で表される構造単位を含むポリエーテルケトンのスルホン化体、一般式(VIII)で表される構造単位を含むポリエーテルエーテルケトンのスルホン化体、一般式(IX)
で表される構造単位を含むポリエーテルケトンケトンのスルホン化体、一般式(X)で表される構造単位を含むポリエーテルニトリルのスルホン化体、一般式(XI)で表される構造単位を含むポリアミドのスルホン化体、一般式(XII)で表される構造単位を含むポリベンゾアゾールのスルホン化体及び一般式(XIII)で表される構造単位を含むポリイミドのスルホン化体が挙げられる。
なかでも、一般式(VI)で表される構造単位を含むポリエーテルスルホンのスルホン化体、一般式(II)で表される構造単位を含むポリフェニレンスルフィドのスルホン化体、一般式(V)で表される構造単位を含むポリスルホンのスルホン化体が好ましく、一般式(VI)で表される構造単位を含むポリエーテルスルホンのスルホン化体がより好ましい。
本開示では、イオン交換樹脂の2種以上が併用されてもよい。2種以上のイオン交換樹脂が併用される場合、例えば、一般式(VI)で表される構造単位を含むポリエーテルスルホンのスルホン化体と前述したポリエーテルスルホン以外の樹脂のスルホン化体とが併用されてもよい。
一般式(I)~(XIII)において、nは1又は2以上の整数を示す。
【0032】
【0033】
【0034】
芳香族系イオン交換樹脂のスルホン化率としては、5モル%~90モル%が好ましく、8モル%~80モル%がより好ましく、10モル%~70モル%がさらに好ましい。
本開示において、芳香族系イオン交換樹脂のスルホン化率とは、芳香族系イオン交換樹脂に含まれる全構造単位に占める、スルホン酸基で置換された構造単位の割合をいう。
【0035】
フッ素系のイオン交換樹脂としては、ナフィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイビオン、ゴアセレクト等のパーフルオロスルホ
ン酸電解質ポリマーが挙げられる。
また、ミライム(登録商標)等のポリエチレン多孔膜などの補強材とイオン交換樹脂と本開示のシリカ材料とを組み合わせて、電解質膜としてもよい。
【0036】
イオン交換樹脂のEWは、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましく、350以上であることが特に好ましい。また、EWは、2600以下であることが好ましく、2300以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましく、1700以下であることが特に好ましい。EWが2600以下であることにより発電性能に優れる電解質膜を得ることができ、また、EWが250以上であることにより機械的強度に優れる電解質膜を得ることができる。また、イオン交換樹脂のEWは、200以上2600以下であることが好ましい。
【0037】
酸型のイオン交換樹脂のEWは、以下の方法により測定される。
およそ0.02g~0.10gのイオン交換樹脂を50mLの25℃飽和NaCl水溶液(0.26g/mL)に浸漬し、攪拌しながら10分間放置した後、富士フイルム和光純薬(株)製試薬特級フェノールフタレインを指示薬として富士フイルム和光純薬(株)製試薬特級0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。中和後得られたNa型イオン交換膜を純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型イオン交換膜の質量をW(mg)とし、下記式より当量質量EW(g/eq)を求める。
EW=(W/M)-22
【0038】
分子構造中にフッ素原子を含むイオン交換樹脂を用いて電解質膜を作製すると、電解質膜が固体高分子形電解質膜等として動作する際に、イオン交換樹脂の分解によりフッ酸の生ずることがある。そのため、イオン交換性樹脂としては、分子構造中にフッ素原子を含まないか、又は分子構造中におけるフッ素原子の含有率が50質量%以下のイオン交換樹脂が好ましい。
【0039】
本開示のイオン交換樹脂組成物は、イオン交換樹脂と共にイオン交換能が低いか又はイオン交換能を示さないその他の樹脂(以下、非イオン交換樹脂と称することがある。)を併用してもよい。本開示において、非イオン交換樹脂とは、EWが10000以上であることをいう。
非イオン交換樹脂の具体例としては、上述の一般式(I)~(XIII)で表される構造単位を含む樹脂が挙げられる。
【0040】
本開示のイオン交換樹脂組成物がイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とを併用する場合、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との含有比率は特に限定されない。例えば、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物についてのEWが所望の値となるようにイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との含有比率を調整すればよい。
イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物についてのEWは、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましく、350以上であることが特に好ましい。また、EWは、2600以下であることが好ましく、2300以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましく、1700以下であることが特に好ましい。EWが2600以下であることにより発電性能に優れる電解質膜を得ることができ、また、EWが250以上であることにより機械的強度に優れる電解質膜を得ることができる。また、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物のEWは、200以上2600以下であることが好ましい。
ある態様では、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物に占めるイオン交換樹脂の質量基準の含有率は、1質量%~95質量%が好ましく、5質量%~90質量%がより好ましく、10質量%~80質量%がさらに好ましい。
また、ある態様では、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物についてのスルホン化率としては、5モル%~90モル%が好ましく、8モル%~80モル%がより好ましく、10モル%~70モル%がさらに好ましい。
本開示において、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とが共に芳香族系である場合におけるイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物についてのスルホン化率とは、イオン交換樹脂及び非イオン交換樹脂に含まれる全構造単位に占める、スルホン酸基で置換された構造単位の割合をいう。
イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とが共に芳香族系である場合における、イオン交換樹脂(イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とが併用される場合にはイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物)についてのスルホン化率は、プロトンNMR測定により測定されたスルホン酸基を有する単位構造とスルホン酸基を持たない単位構造との比率によって求められた値をいう。
また、混合物中のイオン交換樹脂及び非イオン交換樹脂を構成する構造単位の種類及び分子量(例えば、重量平均分子量)並びにイオン交換樹脂のスルホン化率が既知である場合、これらの値に基づいて計算により求められたスルホン化率を、混合物についてのスルホン化率とする。
【0041】
なお、イオン交換樹脂は、スルホン化率の上昇に伴い樹脂の耐久性が低下する場合がある。そのため、スルホン化率が相対的に低いイオン交換樹脂を用いる場合、非イオン交換樹脂と併用しなくともよい。また、スルホン化率が相対的に低いイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とを併用する場合、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物に占めるイオン交換樹脂の質量基準の含有率は、相対的に高くてもよい。
一方、スルホン化率が相対的に高いイオン交換樹脂を用いる場合、イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂とを併用することが好ましい。
例えば、イオン交換樹脂としてスルホン化率が1モル%~20モル%(好ましくは3モル%~18モル%、より好ましくは5モル%~15モル%)であるポリエーテルスルホンのスルホン化体が用いられる場合、イオン交換樹脂としてポリエーテルスルホンのスルホン化体が単独で用いられてもよい。
一方、イオン交換樹脂としてスルホン化率が20モル%を超え60モル%以下(好ましくは25モル%~50モル%、より好ましくは30モル%~45モル%)であるポリエーテルスルホンのスルホン化体が用いられる場合、電解質膜の耐久性の観点からイオン交換樹脂としてポリエーテルスルホンのスルホン化体と非イオン交換樹脂とを併用することが好ましい。この場合のイオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物に占めるイオン交換樹脂の質量基準の含有率は、10質量%~95質量%が好ましく、20質量%~90質量%がより好ましく、25質量%~85質量%がさらに好ましい。
【0042】
イオン交換樹脂の重量平均分子量(Mw)は、電解質膜の耐久性や機械特性の観点から30000~1000000が好ましく、35000~800000がより好ましく、40000~500000がさらに好ましい。
非イオン交換樹脂の重量平均分子量は、電解質膜の耐久性の観点から30000~1000000が好ましく、50000~800000がより好ましく、80000~500000がさらに好ましい。
イオン交換樹脂と非イオン交換樹脂との混合物についての重量平均分子量は、電解質膜の耐久性の観点から50000~800000が好ましく、80000~650000がより好ましく、100000~500000がさらに好ましい。
本開示において、樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値をいう。
【0043】
本開示のイオン交換樹脂組成物において、イオン交換樹脂組成物の固形分に占める本開示のシリカ材料の含有率は、0.01質量%~90質量%が好ましく、0.1質量%~80質量%がより好ましく、0.5質量%~60質量%がさらに好ましく、0.7質量%~50質量%が特に好ましい。シリカ粒子の含有率が上記範囲であると、イオン交換樹脂組成物による製膜性が向上する。
本開示のイオン交換樹脂組成物は、電解質膜、電極内のバインダー、化学プロセスにおける酸触媒等として用いることができる。
【0044】
<電解質膜>
本開示の電解質膜は、本開示のイオン交換樹脂組成物を含むものである。本開示の電解質膜は、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
本開示のイオン交換樹脂組成物については既述の通りであるので、本項での説明は省略する。
【0045】
電解質膜の厚みは、0.1μm~300μmであればよく、好ましくは1μm~200μm、より好ましくは2μm~150μm、さらに好ましくは3μm~50μmである。
【0046】
電解質膜の製造方法は特に限定されるものではない。
例えば、イオン交換樹脂と本開示のシリカ材料と溶剤とを含む液状組成物を基材、後述のアノード又はカソード上に塗布し、乾燥させる方法により形成できる。
溶剤としては、イオン交換樹脂を溶解又は分散可能な溶剤を使用でき、例えば、メタノ
ール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、tert-ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール等のジオール系溶剤、ジメチルスルホキシド、N、N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性溶媒、含フッ素アルコール類、含フッ素エーテル類などが挙げられる。
塗布する基材としてはテフロン(登録商標)、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムやアルミ、銅、鉄、ステンレス等の金属製のフィルム、ガラス、後述のガス拡散層(GDL)等が挙げられる。
液状組成物の塗布方法としては、例えば、バッチ式の方法としてはドクターナイフ法、バーコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷法等があり、連続式の方法としては後計量法と前計量法が挙げられる。後計量法は、過剰の塗工液を塗工し、後から所定の膜厚となるように塗工液を除去する方法である。前計量法は、所定の膜厚を得るのに必要な量の塗工液を塗工する方法である。後計量法としては、エアドクタコータ法、ブレードコーター法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、含浸コータ法、コンマコーター法等が挙げられ、前計量法としては、ダイコータ法、リバースロールコータ法、トランスファロールコータ法、グラビアコーター法、キスロールコータ法、キャストコータ法、スプレイコータ法、カーテンコータ法、カレンダコータ法、押出コータ法等が挙げられる。
【0047】
<膜・電極接合体>
本開示の膜・電極接合体は、本開示の電解質膜と、前記電解質膜の一方の表面上に積層されたカソードと、前記電解質膜の他方の表面上に積層されたアノードと、を有する。開示の膜・電極接合体は、電解質膜、アノード及びカソード以外のその他の構成を有してもよい。例えば、カソードにおける電解質膜とは反対側の表面上、及び、アノードにおける電解質膜とは反対側の表面上に、ガス拡散層を配置してもよい。
本開示の膜・電極接合体は、固体高分子形燃料電池又は固体高分子形電解装置に好適に使用される。
【0048】
膜電極接合体の製造方法としては、例えば、(1)イオン交換樹脂又はイオン交換樹脂組成物と触媒金属と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を電解質膜上に直接塗工した後、塗工液中に含まれる溶剤を乾燥除去して触媒層を形成し、両面からガス拡散層で挟み込む方法、(2)ガス拡散層となる基材上に上記塗工液を塗工し乾燥させて触媒層を形成した後、これを電解質膜にホットプレス等の方法により接合する方法、(3)上記塗工液中に含まれる溶剤に対して充分な安定性を示すフィルム(基材)上に上記塗工液を塗工し、これを乾燥して触媒層を形成し、電解質膜に触媒層をホットプレスした後、基材フィルムを剥離し、ガス拡散層で挟み込む方法等が挙げられる。上記塗工液に含まれるイオン交換樹脂およびイオン交換樹脂組成物としては、電解質膜を構成するイオン交換樹脂組成物と同様のものを用いることが好ましい。
【0049】
本開示の膜・電極接合体を固体高分子形燃料電池に用いる場合、ガス拡散層は、燃料である水素や空気の電極への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿などを担うものである。ガス拡散層として、カーボンペーパー、カーボンクロスなどガス透過性、耐酸性、電気伝導製、機械強度に優れた従来公知の材料を用いることができる。またガス拡散層の水の排出や保湿を促進するために電極側のガス拡散層表面にマイクロポーラス層を配することも好ましく利用できる。
本開示の膜・電極接合体を固体高分子形電解装置に用いる場合、ガス拡散層として、カーボンペーパー又はカーボンクロス等の炭素材料、ステンレス(Fe-Cr系合金、Fe-Ni-Cr系合金など)、アルミニウム、亜鉛、ニッケル又はチタン等の金属材料で構成される従来公知の材料を用いることができる。
【0050】
本開示の膜・電極接合体を固体高分子形燃料電池に用いる場合、触媒層に含まれる触媒は、アノード側(水素極)とカソード側(空気極)とで同じでも異なっていてもよいが、白金又は白金合金からなる金属触媒がカーボンに担持されたものが好ましい。担体となるカーボンは金属触媒が分散性よくカーボン担体に担持され、長期にわたって安定した電極反応の活性に優れるため、比表面積が50m2/g~2000m2/gであることが好ましい。
金属触媒としては、固体高分子形燃料電池におけるアノードでの水素酸化反応及びカソードでの酸素還元反応に対して高活性であるため白金からなる金属触媒であることが好ましい。電極触媒としての安定性や活性をさらに付与できる場合もあることから白金触媒からなる金属触媒であることも好ましい。上記白金合金としては、白金以外の白金族の金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びスズからなる群から選ばれる1種以上の金属と白金との合金であることが好ましく、該白金合金には白金と合金化される金属と白金との金属間化合物が含有されていてもよい。アノードで一酸化炭素を含むガスが供給される場合は、白金とルテニウムとを含む合金を使用すると、触媒の活性が安定するため好ましい。
本開示の膜・電極接合体を固体高分子形電解装置に用いる場合、カソード側(水素極)では白金又は白金合金からなる金属触媒がカーボンに担持されたものが好ましい。一方、アノード側(空気極側)ではイリジウム、白金等を触媒として用いることができる。
【0051】
<固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置>
本開示の電解質膜は、固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置及び電気化学式水素圧縮装置等に用いることができる。
固体高分子形電解装置では、水や有機溶媒を電気分解して水素等を製造することができる。
本開示の固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置は、本開示の膜・電極接合体と、膜・電極接合体の両面に配置されたセパレータと、を有する。
本開示の膜・電極接合体の外側に、セパレータを配したものを単セルとし、この様な単セル単独で用いるか、複数個の単セルを、冷却板等を介して積層して使用するなどして固体高分子形燃料電池、固体高分子形電解装置を構成してもよい。
セパレータとしては、固体高分子形燃料電池積層体間又は固体高分子形電解装置積層体間の燃料や空気を遮断し、燃料流路を配したもので、従来公知の炭素材料やステンレスなどの金属材料を用いることができる。
また、本開示の電気化学式水素圧縮装置は、本開示の電解質膜を有する。
本開示の電気化学式水素圧縮装置は、例えば、本開示の電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたカソードと、電解質膜の他方の面に設けられたアノードと、アノードへ水素含有ガスを供給するアノード供給路と、カソードから生ずる精製された水素ガスを取り出すカソード排出路と、アノード及びカソードに電圧を印加する電源と、を備えるものであってもよい。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げて、本開示のシリカ材料、イオン交換樹脂組成物及び電解質膜をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のシリカ材料、イオン交換樹脂組成物及び電解質膜の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0053】
<実施例1A>
(シリカ材料の製造)
Silicon dioxide(Sigma-Aldrich製、一次粒子の個数平均粒子径:10nm~20nm、シリカ粒子)10質量部を25℃の発煙硫酸(三酸化硫黄濃度:24質量%)400質量部に少しずつ添加し、撹拌翼で10分間撹拌した。得られた分散液を4000質量部の脱イオン水に少しずつ添加し、洗浄した後、ろ過し、ろ物として得られたシリカ粒子を回収した。回収したシリカ粒子は、さらに1000質量部の脱イオン水で洗浄し、ろ過し、ろ物を回収した。得られたろ物は、200質量部のアセトンで洗浄し、再度ろ過した。ろ物は、80℃の熱風乾燥機内で乾燥し、8.6質量部のシリカ材料Aを得た。このシリカ材料AのXRFに基づくスルホン化度は、後述の方法で測定したところ0.2%であった。このシリカ材料Aの分散液のpHを後述の方法で測定したところ、1.5であった。
なお、Silicon dioxide(Sigma-Aldrich製、体積平均粒子径:10nm~20nm、シリカ粒子)の分散液のpHを後述の方法で測定したところ、4.5であった。また、XRFに基づくスルホン化度は、後述の方法で測定したところ0%であった。
【0054】
<実施例2A>
(電解質膜1Aの製造)
スルホン化率13.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:1600g/eq、重量平均分子量:50000)15質量部にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Aで得たシリカ材料Aをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が1.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Aを分散させたドープを製造した。
得られたドープは真空ポンプで脱気処理をした後にガラス基板上に付与し、700μmに設定したドクターナイフを用いて、流延した。ガラス基板ごと、80℃に設定した熱風乾燥機に入れ、1時間乾燥させて乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜をイオン交換水に浸漬することにより、イオン交換樹脂組成物からなる電解質膜1Aをガラス基板から剥がした。得られた電解質膜1Aは脱イオン水に浸漬した状態で保管した。
【0055】
<実施例3A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が2.9質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜2Aを得た。
【0056】
<実施例4A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が4.8質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜3Aを得た。
【0057】
<実施例5A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が9.0質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜4Aを得た。
【0058】
<実施例6A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が23.1質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜5Aを得た。
【0059】
<実施例7A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材
料Aの含有率が33.3質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜6Aを得た。
【0060】
<実施例8A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Aの含有率が47.4質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、電解質膜7Aを得た。
【0061】
<参考例1A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)を用いた以外は実施例2Aと同様にして、シリカ材料Aを含まない基準電解質膜1Aを得た。
【0062】
<比較例1A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が1.0質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜1Aを得た。
【0063】
<比較例2A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が2.9質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜2Aを得た。
【0064】
<比較例3A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が4.8質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜3Aを得た。
【0065】
<比較例4A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が9.0質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜4Aを得た。
【0066】
<比較例5A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が23.1質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜5Aを得た。
【0067】
<比較例6A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が33.3質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜6Aを得ようとしたが、製膜できなかった。
【0068】
<比較例7A>
s-PESのNMP溶液(ドープ)にシリカ粒子(Silicon dioxide)をイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ粒子の含有率が47.4質量%となる量添加する以外は実施例2Aと同様にして、比較電解質膜7Aを得ようとしたが、製膜できなかった。
【0069】
<実施例1B>
Silicon dioxide(Sigma-Aldrich製、一次粒子の個数平均粒子径:10nm~20nm、シリカ粒子)10質量部を25℃の濃硫酸(濃度:99.9%)400質量部に少しずつ添加し、Hauschild製 SpeedMixer DAC400を用いて1500rpmで15分間処理することにより、シリカ粒子を濃硫酸に分散した分散液を得た。得られた分散液を4000質量部の脱イオン水に少しずつ添加し、洗浄した後、ろ過し、ろ物として得られたシリカ粒子を回収した。回収したシリカ粒子は、さらに4000質量部の脱イオン水で洗浄し、ろ過し、ろ物を回収した。得られたろ物は、200質量部のアセトンで洗浄し、再度ろ過した。ろ物は、80℃の熱風乾燥機内で乾燥し、14.5質量部のシリカ材料Bを得た。このシリカ材料BのXRFに基づくスルホン化度は、後述の方法で測定したところ0.3%であった。このシリカ材料Bの分散液のpHを後述の方法で測定したところ、1.2であった。
【0070】
<実施例2B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq、重量平均分子量:140000)15質量部にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Bで得たシリカ材料Bをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Bの含有率が10.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Bを分散させたドープを製造した。
得られたドープは真空ポンプで脱気処理をした後にガラス基板上に付与し、700μmに設定したドクターナイフを用いて、流延した。ガラス基板ごと、80℃に設定した熱風乾燥機に入れ、1時間乾燥させて乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜をイオン交換水に浸漬することにより、イオン交換樹脂組成物からなる電解質膜1Bをガラス基板から剥がした。得られた電解質膜1Bは脱イオン水に浸漬した状態で保管した。
【0071】
<実施例3B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq、重量平均分子量:140000)12.0質量部にSolvay製のポリエーテルスルホン(PES、EW:10000g/eq以上、重量平均分子量:200000)3.0質量部及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESおよびPESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Bで得たシリカ材料Bをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Bの含有率が10.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Bを分散させたドープを製造した。
得られたドープは真空ポンプで脱気処理をした後にガラス基板上に付与し、700μmに設定したドクターナイフを用いて、流延した。ガラス基板ごと、80℃に設定した熱風乾燥機に入れ、1時間乾燥させて乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜をイオン交換水に浸漬することにより、イオン交換樹脂組成物からなる電解質膜2Bをガラス基板から剥がした。得られた電解質膜2Bは脱イオン水に浸漬した状態で保管した。
【0072】
<実施例4B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq)9.0質量部にSolvay製のポリエーテルスルホン(PES)6.0質量部及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESおよびPESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Bで得たシリカ材料Bをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Bの含有率が10.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Bを分散させたドープを製造した。
得られたドープを用いた以外は実施例3Bと同様にして、電解質膜3Bを得た。
【0073】
<実施例5B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq)6.0質量部にSolvay製のポリエーテルスルホン(PES)9.0質量部及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESおよびPESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Bで得たシリカ材料Bをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Bの含有率が10.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Bを分散させたドープを製造した。
得られたドープを用いた以外は実施例3Bと同様にして、電解質膜4Bを得た。
【0074】
<実施例6B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq)3.0質量部にSolvay製のポリエーテルスルホン(PES)12.0質量部及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESおよびPESのNMP溶液(ドープ)を得た。そこに、実施例1Bで得たシリカ材料Bをイオン交換樹脂組成物の固形分に占めるシリカ材料Bの含有率が10.0質量%となる量添加することにより、シリカ材料Bを分散させたドープを製造した。
得られたドープを用いた以外は実施例3Bと同様にして、電解質膜5Bを得た。
【0075】
<参考例1B>
スルホン化率34.1モル%のスルホン化ポリエーテルスルホン(s-PES、EW:500g/eq)15質量部にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、s-PESのNMP溶液(ドープ)を得た。
得られたドープは真空ポンプで脱気処理をした後にガラス基板上に付与し、650μmに設定したドクターナイフを用いて、流延した。ガラス基板ごと、80℃に設定した熱風乾燥機に入れ、1時間乾燥させて乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜をイオン交換水に浸漬することにより、イオン交換樹脂組成物からなる基準電解質膜1Bをガラス基板から剥がした。得られた基準電解質膜1Bは脱イオン水に浸漬した状態で保管した。
【0076】
<参考例2B>
Solvay製のポリエーテルスルホン(PES)15質量部にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)35質量部を加え、Hauschild製 SpeedMixer DAC150を用いて3500rpmで15分間処理することにより、PESのNMP溶液(ドープ)を得た。
得られたドープは真空ポンプで脱気処理をした後にガラス基板上に付与し、650μmに設定したドクターナイフを用いて、流延した。ガラス基板ごと、80℃に設定した熱風乾燥機に入れ、1時間乾燥させて乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜をイオン交換水に浸漬することにより、イオン交換樹脂組成物からなる基準電解質膜2Bをガラス基板から剥がした。得られた基準電解質膜2Bは脱イオン水に浸漬した状態で保管した。
【0077】
<pH測定>
シリカ材料0.1gを脱イオン水1.9gに分散し、分散液(5質量%分散液)を調製した。その分散液のpHをpH測定器(PCE-PH 18)を用いて、25℃で測定した。
【0078】
<重量平均分子量の測定>
各樹脂の重量平均分子量は、GPCにより測定した。測定条件は以下のとおりである。
装置名:高速液体クロマトグラフ LC-20Aシリーズ
カラムオーブン: CTO-20A
移動相: NMP
オートサンプラ: SIL-20AHT
LCワークステーション:LC solution
流量: 0.3ml/分
示差屈折計検出器: RID-10A
オーブン温度: 60℃
分子量標準試料: ポリスチレン
【0079】
<スルホン化度の測定>
シリカ材料をヘリウム雰囲気下で測定用容器に量り取り、XRF測定装置(PANalytical AxiosMAX)を用いて測定した。得られたスペクトルから、硫黄原子の濃度及びケイ素原子の濃度を求め、ケイ素原子の濃度と硫黄原子の濃度の合計に対する硫黄原子の濃度の割合をスルホン化度とした。
【0080】
<製膜性>
上述のようにして得られた各電解質膜についての製膜性を、下記基準に則って評価した。得られた結果を表1~表3に示す。
A:瑕疵のない膜が作製できた場合を製膜性は良好と判断した。
B:外観上は問題なく製膜できているが、プロトン伝導度測定用サンプルを切り出す際に、膜に亀裂が走った場合を膜は脆くなったが製膜可能と判断した。
C:溶媒を乾燥機内で乾燥した際に、無数の亀裂が走り、膜の形態を維持できなかった場合を製膜できないと判断した。
【0081】
<プロトン伝導度評価>
上述のようにして得られた各電解質膜について、電気化学インピーダンス測定装置(rhd instruments製 TSC Battery)を用いて周波数50Hz~107Hzの領域で電解質膜の厚み方向のインピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を測定し、プロトン伝導性の指標とした。なお、上記測定で使用した各電解質膜は、脱イオン水中で保存されていたものを、測定セル内で、80℃に昇温した状態でプロトン伝導度の測定に供した。得られた結果を表1~表3に示す。
【0082】
<フェントン試験>
欧州連合のEU harmonized protocols for testing of low temperature water electrolysers(ISBN 978-92-76-39266-8)に記載の方法でフェントン試験を行った。
すなわち、サンプルを4cm×4cmの大きさに切り取り、50℃の真空乾燥機内で4時間乾燥させ、フェントン試験前の乾燥質量を測定した。その後、過酸化水素を3質量%と、塩化鉄を用いて二価の鉄イオンを4ppm含む溶液を調整し、その溶液50mLを80℃の水浴中に入れ、溶液の温度を調整した。そこに、乾燥済のサンプルを入れ、2時間フェントン試験を行った。2時間が経過した後、サンプルを取り出し、50℃の真空乾燥機内で4時間乾燥させ、質量を測定した。この試験後の質量と試験前の質量とから、残存率(%)を算出した。得られた結果を表1~表3に示す。
【0083】
表1~表3において、EW、スルホン化率及びMwについては、イオン交換樹脂が単独で使用された場合は当該イオン交換樹脂についての値を、イオン交換樹脂が非イオン交換樹脂と併用して用いられてた場合には、両樹脂の混合物としての値を示す。
また、表1における「シリカ粒子含有率」は、シリカ材料Aの含有率を、表2における「シリカ粒子含有率」は、シリカ粒子(Silicon dioxide)の含有率を、表3における「シリカ粒子含有率」は、シリカ材料Bの含有率を、各々示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表1~表3に示すように、本開示のシリカ材料を含有する電解質膜1A-7A及び1B-5Bについてのプロトン伝導度は、本開示のシリカ材料を含有しない比較電解質膜1A-7Aに比較して、高いことがわかる。また、シリカ材料の含有率の多寡に関わらず、電解質膜1A-7A及び1B-5Bの製膜性に優れることがわかる。