(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143753
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】創傷治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/06 20060101AFI20230928BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20230928BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230928BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230928BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230928BHJP
C07K 5/083 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
A61K38/06
A23L33/18
A61P17/02
A61Q19/00
A61K8/64
C07K5/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027902
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022046469
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
(72)【発明者】
【氏名】多賀 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】遠目塚 千紗
(72)【発明者】
【氏名】水野 一乘
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME14
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083EE13
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA89
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA12
4H045EA01
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】 創傷部位において、皮膚線維芽細胞などに対して走化作用を発揮し、創傷治癒効果に優れる創傷治療剤を提供する。
【解決手段】 創傷治療剤は、Gly-3Hyp-4Hyp、またはその薬学上許容される塩を含有することを特徴とする。Gly-3Hyp-4Hypは非常に安定な化合物であり、生体内に摂取後、長期間にわたり安定して血中に存在する。細胞走化作用に優れ、創傷部位に皮膚線維芽細胞、表皮細胞、血管内皮細胞などを遊走させ、創傷治癒効果を発揮する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-3Hyp-4Hyp、またはその薬学上許容される塩を含有する、創傷治療剤。
【請求項2】
請求項1記載の創傷治療剤を含有する飲食物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Gly-3Hyp-4Hypを含有する、創傷治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
-Gly-X-Y-(式中、XおよびYはそれぞれ同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の繰り返し配列から構成されるコラーゲンでは、特異的な翻訳後修飾反応により、Y位のプロリンはほぼ全てが4Hyp(4-ヒドロキシプロリン)へと水酸化され、一方でX位ではコラーゲン配列中の特定部位のプロリンのみ3Hyp(3-ヒドロキシプロリン)へと水酸化される。配列中にHypを含むことで酵素分解に対する耐性が増すことが知られており、Pro-4Hypや4Hyp-Glyがヒト血中で非常に安定であることが報告されている(非特許文献1)。コラーゲン加水分解物を経口摂取すると、その安定性により様々な4Hyp含有オリゴペプチドが血中において非常に高濃度で検出されるため、それら外因性ペプチドの効果効能に注目が集まっている。また我々は最近、3Hypを含有するトリペプチドGly-3Hyp-4Hypが骨芽細胞の分化誘導作用を有することを見出している(特許文献1)。コラーゲンは皮膚や骨などの結合組織の主要なタンパク質成分であり、近年の研究により、これらの組織に損傷を受けた場合に、その分解産物として生成する内因性のコラーゲン由来オリゴペプチドが組織修復に作用する可能性が示唆されている(非特許文献2)。
【0003】
真皮以下の深層組織における創傷治癒過程は一般的に、出血による凝固塊が欠損をふさいで止血する出血凝固期(1)、好中球、単球、マクロファージなどの炎症性細胞が遊走して壊死組織の貪食などを行う炎症期(2)、線維芽細胞が周辺から遊走して細胞外マトリックスを再構築し、肉芽組織が形成される増殖期(3)、コラーゲン産生が十分になり線維芽細胞が減少して瘢痕が軽微になり、表皮細胞が遊走して創が収縮・閉鎖される再構築期(4)という4つの段階を経る。
【0004】
創傷治癒を促進するため、肉芽形成や表皮形成を積極的に促進する薬剤や治療法が開発されている。例えば、ストレプトマイセス・ノビリスの培養物から得られる環状ペプチドを、白血球や骨芽細胞を賦活化してサイトカインや細胞増殖因子などを産生させ創傷治癒を促進する物質として使用した、創傷治療促進剤が提案されている(特許文献2)。また、生体構成成分であるコラーゲンタンパクおよびその分解物を用いた創傷治癒剤もある(特許文献3)。X,Yを任意のアミノ酸とした場合に(Gly-X-Y)nで表されるペプチドを有効成分とするものであり、実施例では、Gly-X-Yトリペプチドを約15質量%含有するコラーゲン加水分解物のコラーゲン産生促進作用、骨折治癒促進作用などを評価している。
更に、Hyp-Gly-Pro、Hyp-Gly-Pro-Hypを含有する骨、軟骨または皮膚に関する疾患の治療剤もある(特許文献4)。Hyp-Gly-Pro、Hyp-Gly-Pro-Hypは、優れたヒアルロン酸産生促進作用、色素沈着抑制作用、アルカリフォスファターゼ抑制作用、破骨細胞分化抑制作用を有するという。
【0005】
また、コラーゲン加水分解物の摂取によってヒトの褥瘡の治癒が促進されるとの報告(非特許文献3)や、Pro-Hypがマウスの肥厚性瘢痕の形成を抑制するとの報告もある(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-58827号公報
【特許文献2】特開平10-259134号公報
【特許文献3】特開2005-281186号公報
【特許文献4】特開2014-1182号公報
【特許文献5】特開2016-28100号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shigemura et al., ”Identification of a novel food-derived collagen peptide, hydroxyprolyl-glycine, in human peripheral blood by pre-column derivatisation with phenyl isothiocyanate”, Food Chemistry, 129 (2011) 1019-1024
【非特許文献2】Sato et al., ”Generation of bioactive prolyl-hydroxyproline (Pro-Hyp) by oral administration of collagen hydrolysate and degradation of endogenous collagen”, International Journal of Food Science and Technology, 54 (2019) 1976-1980
【非特許文献3】Yamanaka et al., ”A multicenter, randomized, controlled study of the use of nutritional supplements containing collagen peptides to facilitate the healing of pressure ulcers”, Journal of Nutrition & Intermediary Metabolism, 8 (2017) 51-59
【非特許文献4】Jimi et al., ”Collagen-derived dipeptide Pro-Hyp administration accelerates muscle regenerative healing accompanied by less scarring after wounding on the abdominal wall in mice”, Scientific Reports, 11 (2021) 18750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、創傷の治癒には、マクロファージなどが遊走して壊死組織を貪食する段階、線維芽細胞が周辺から遊走して肉芽組織を形成する段階、および表皮細胞が遊走して創を収縮・閉鎖する段階がある。従って、マクロファージ、線維芽細胞、表皮細胞などに対する細胞走化作用を有する化合物は、創傷部位に細胞を集合させ創傷治癒を促進する創傷治療剤となりうる。また、このような細胞走化作用を有する物質がコラーゲン由来生体成分であれば、安全性にも優れる。
【0009】
上記に鑑み、本開示は、コラーゲン由来生体成分を有効成分とする、創傷治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コラーゲン由来のトリペプチドであるGly-3Hyp-4Hypについて詳細に検討した結果、非常に安定なトリペプチドであってコラーゲン加水分解物摂取後、長期間、血中に存在すること、および、正常皮膚線維芽細胞などに対して細胞走化性因子として作用し、線維芽細胞走化剤、表皮細胞走化剤、血管内皮細胞走化剤、創傷治療剤として使用しうることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、Gly-3Hyp-4Hyp、またはその薬学上許容される塩を含有する創傷治療剤、および創傷治療剤を含有する飲食物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】Gly-3Hyp-4Hyp、Pro-4Hypおよび4Hyp-Glyの混合ペプチド溶液を血漿と混合した後の各ペプチドの安定性を示す(n=3)。Pro-4Hypおよび4Hyp-Glyと比較して、Gly-3Hyp-4Hypは48時間にわたり高い安定性を維持していた。
【
図2】Gly-3Hyp-4HypおよびGly-Pro-4Hypの混合ペプチド溶液を血漿と混合した後の各ペプチドの安定性を示す(n=3)。Gly-Pro-4Hypは48時間後に60%以下に減少したが、Gly-3Hyp-4Hypは略100%を維持し、配列中央のProと3Hypとの相違により、安定性に大きな差が見出された。
【
図3】ヒトにコラーゲン加水分解物を経口摂取させた際の、Pro-4Hyp、4Hyp-Gly、Gly-Pro-4HypおよびGly-3Hyp-4Hypの摂取後血中濃度を示す(n=8)。Pro-4Hyp、4Hyp-Gly、Gly-Pro-4Hypの血中濃度は摂取後1時間をピークとするが、Gly-3Hyp-4Hypは摂取後4時間まで最大濃度を維持していた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の第一は、Gly-3Hyp-4Hyp、またはその薬学上許容される塩を含有する、創傷治療剤である。3Hypや4Hypは、コラーゲンの翻訳後修飾によって形成されるアミノ酸残基である。コラーゲンを構成する一次アミノ酸配列-Gly-Pro-Pro-にプロリル-4-ヒドロキシラーゼ(prolyl 4-hydroxylase)やプロリル-3-ヒドロキシラーゼ(prolyl 3-hydroxylase)が作用して生成される。
【0014】
本開示で使用するGly-3Hyp-4Hypは、コラーゲンまたはゼラチンをGly-X-Y単位で分解するコラゲナーゼを作用させ、生成したGly-3Hyp-4Hypを液体クロマトグラフィーその他の方法で精製して調製することができる。しかしながら、これに限定するものではない。
【0015】
本開示において、創傷治療剤に使用するGly-3Hyp-4Hypは、塩を形成するものであってもよい。塩は、薬学上許容される塩であることが好ましい。薬学上許容される塩とは、医学的許容可能な塩であり、投与された対象に対して略無毒である塩形態をいう。例えば、無毒の有機酸塩または無機酸塩がある。無機酸としては、塩化水素酸、硫酸、またはリン酸などがある。有機酸としては、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸があり、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチル酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、サリチル酸、フマル酸、琥珀酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、グルタル酸、2-または3-グリセロリン酸、ならびに当業者には周知の他の鉱物の酸がある。また、無機塩基や有機塩基との塩であってもよい。無機塩基としては、アルカリまたはアルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、またはマグネシウム)水酸化物、アンモニア、アンモニウム水酸化物などがある。また、有機塩基としては、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン、N-メチルグルカミン、ベンジルアミン、ピペリジン、ピロリジンなどがある。
【0016】
Gly-3Hyp-4Hypは、後記する実施例に示すように、正常皮膚線維芽細胞に対して細胞走化作用を有することが判明した。対照群との差で示す相対遊走細胞数は、対照群を1とした場合にGly-3Hyp-4Hyp添加群で約3倍に増加し、その増加にはダネット検定による統計的有意差(p<0.05)が検出された。N末端から2番目のアミノ酸残基が水酸化されていないProであるGly-Pro-4HypおよびPro-4Hypについても同様に評価したところ、相対遊走細胞数は対照群を1とした場合にそれぞれ約2.3および1.6であり、ダネット検定による統計的有意差も検出されなかった。Gly-3Hyp-4Hypによる細胞走化作用は、3HypがProに置換されたGly-Pro-4Hypや、その一部であるPro-4Hypから派生する効果ではなく、Gly-3Hyp-4Hyp独自の効果といえる。なお、後記する実施例に示すように、細胞走化性は、正常皮膚線維芽細胞のみならず正常表皮細胞、正常血管内皮細胞でも同様に観察された。Gly-3Hyp-4Hypが細胞走化作用を有することは、従来全く知られていない。なお、後記する実施例に示すように、Gly-3Hyp-4Hypは非常に安定なトリペプチドであり、体内に摂取した後に長期間、血中に存在するため、細胞に対する作用も長時間にわたって発揮されることが期待できる。
【0017】
創傷の治癒には、血管内皮細胞が遊走して炎症細胞を動員し、血管内皮細胞、線維芽細胞、表皮細胞等が遊走して肉芽を形成し、線維芽細胞や表皮細胞が遊走して創収縮、上皮化を経る。従って、線維芽細胞、表皮細胞、血管内皮細胞に対して細胞走化因子として作用するGly-3Hyp-4Hypは創傷治癒剤として有用である。
【0018】
本開示の創傷治療剤は、経口的、または非経口的に投与することができる。経口投与としては、Gly-3Hyp-4Hypやその薬学上許容される塩をそのまま散剤、顆粒剤、丸剤としてもよく、表面に糖衣その他で加工したコーティング剤や、カプセルに充填したカプセル剤、適当な溶媒に溶解した経口液剤や懸濁剤、乳化剤によって乳化してなる乳剤などの何れであってもよい。また、経鼻、経腸などの経管輸液によって消化器に投与するものであってもよい。また、非経口投与としては、ローション剤、軟膏剤、貼付剤(パップ剤)、注射剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤等がある。
【0019】
本開示の創傷治療剤には、適宜、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、保存料、抗酸化剤、界面活性剤、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、無機充填剤、結合剤、 希釈剤、着色料、香料、紫外線吸収剤などを添加し、投与形態に適した剤形に調製することができる。
【0020】
本開示の第二は、上記創傷治療剤を含有する飲食物である。Gly-3Hyp-4Hypは生体成分であり安全性に優れる。飲食物としては、Gly-3Hyp-4Hyp、またはその薬学上許容される塩を配合しうるものであれば、特に制限はない。例えば、従来の飲食物に添加して新規な飲食物とすることができる。このような飲食物として、野菜やフルーツ、乳酸菌などを含むジュースその他の飲料、ゼリー、ヨーグルト、プリン、アイスクリームなどの半流動性食品などがある。また、他の食材に混練して固形食品に調製してもよい。
【実施例0021】
次に実施例を挙げて具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本開示を制限するものではない。
【0022】
実施例1
以下の方法で各被験物質のヒト皮膚線維芽細胞に対する細胞走化作用を評価した。
FluoroBlok 24ウェル用カルチャーインサート(Corning社製、ポアサイズ;8μm)に、濃度100μg/mLのゼラチン(ニッピ社製、HMG-BPメディゼラチン)水溶液を75μL添加し、一晩風乾して前記インサートのフィルターメンブレンをコートし、フェノールレッド不含DMEMで洗浄した。
フェノールレッド不含DMEMを溶媒とし、被験物質としてPro-4Hyp(Bachem社製)、Gly-Pro-4Hyp(Bachem社製)、またはGly-3Hyp-4Hyp(AnyGen社にてカスタム合成)を、終濃度200nmol/mLとなるように添加し、調製した3種の被験物質溶液を24ウェルコンパニオンプレート(Corning社製)にそれぞれ1mL/ウェルで分注した。対照として被験物質溶液と同量の超純水を添加したものを同様に分注した。
前記インサートに、ウシ胎児血清非存在下、フェノールレッド不含DMEM中で一晩静置・馴化した成人正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製)を、4×104細胞/インサートの濃度で播種し、前記プレートにこのインサートを設置して、37℃、CO2濃度5%の条件で18時間インキュベーションした。
【0023】
別途用意した24ウェルコンパニオンプレートの各ウェルに、終濃度5μMのカルセイン-AM溶液(同仁化学研究所社製)含有、フェノールレッド不含DMEMを600μL分注した。これに、上記インキュベーション後の各インサートを設置して37℃、CO2濃度5%の条件で30分間インキュベーションすることで、フィルターメンブレンの下部に遊走した細胞を蛍光標識した。
【0024】
標識した遊走細胞を、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800(キーエンス社製)を用いて励起波長470nm・吸収波長525nmのチャンネルで観察し、1つのフィルターメンブレンに対して7視野の画像を取得した。BZ-X800 Analyzer(キーエンス社製)のハイブリッドセルカウント機能を用い、計数サイズの下限を200μm2に設定して細胞を計数し、7視野の遊走細胞数の平均値および標準偏差を算出した。各被験物質による遊走細胞数を対照の遊走細胞数に対してダネット検定を行い、各被験物質のヒト皮膚線維芽細胞に対する走化作用を評価した。結果を、対照を1とした相対値で表1に示す。
【0025】
表1に示すように、Pro-4Hyp、Gly-Pro-4Hyp、およびGly-3Hyp-4Hypは、いずれも対照より遊走細胞数が増加する傾向が観察された。しかしながらダネット検定による多重比較検定を行ったところ、Pro-4HypおよびGly-Pro-4Hypを添加した系は、いずれも対照との間に統計的有意差は検出されなかった。
これに対し、Gly-3Hyp-4Hypを添加した系は、遊走細胞数が対照の約2.9倍に増加し、かつダネット検定により、対照との間に統計的有意差(p<0.05)が検出された。この結果から、Gly-3Hyp-4Hypはヒト皮膚線維芽細胞に対して細胞走化作用を有するといえる。
【0026】
【0027】
実施例2
実施例1で使用したヒト皮膚線維芽細胞に代えてヒト表皮細胞を使用し、以下の方法で、Gly-3Hyp-4Hypの表皮細胞に対する走化作用を評価した。
フェノールレッド不含HuMedia-KB2(クラボウ社製)に0.1%の透析FBS(Thermo Fisher Scientific社製)を混合したものを溶媒とし、被験物質としてGly-3Hyp-4Hypを、終濃度200nmol/mLとなるように添加し、調製した被験物質溶液を24ウェルコンパニオンプレートにそれぞれ1mL/ウェルで分注した。対照として被験物質溶液と同量の超純水を添加したものを同様に分注した。
FluoroBlok 24ウェル用カルチャーインサートに、前記の溶媒(フェノールレッド不含HuMedia-KB2、0.1%透析FBS含有)中で一晩静置・馴化した正常成人ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を、10×104細胞/インサートの濃度で播種し、前記プレートにこのインサートを設置して、37℃、CO2濃度5%の条件で24時間インキュベーションした。
実施例1のフェノールレッド不含DMEMを前記の溶媒(フェノールレッド不含HuMedia-KB2、0.1%透析FBS含有)に変えて、同様の操作でフィルターメンブレンの下部に遊走した細胞を蛍光標識した。標識した遊走細胞は、実施例1と同様の操作で計数した。
結果を表2に示す。t検定により、対照とGly-3Hyp-4Hypの間に統計的有意差(p<0.05)が検出された。この結果から、Gly-3Hyp-4Hypはヒト表皮細胞に対して細胞走化作用を有するといえる。
【0028】
【0029】
実施例3
実施例1で使用したヒト皮膚線維芽細胞に代えてヒト血管内皮細胞を使用し、以下の方法で、Gly-3Hyp-4Hypの血管内皮細胞に対する走化作用を評価した。
フェノールレッド不含HuMedia-EB2(クラボウ社製)を溶媒とし、被験物質としてGly-3Hyp-4Hypを、終濃度200nmol/mLとなるように添加し、調製した被験物質溶液を24ウェルコンパニオンプレートにそれぞれ1mL/ウェルで分注した。対照として被験物質溶液と同量の超純水を添加したものを同様に分注した。
FluoroBlok 24ウェル用カルチャーインサートに、前記の溶媒(フェノールレッド不含HuMedia-EB2)中で一晩静置・馴化したヒト臍帯静脈内皮細胞(クラボウ社製)を、5×104細胞/インサートの濃度で播種し、前記プレートにこのインサートを設置して、37℃、CO2濃度5%の条件で4時間インキュベーションした。
実施例1のフェノールレッド不含DMEMを前記の溶媒(フェノールレッド不含HuMedia-EB2)に変えて、同様の操作でフィルターメンブレンの下部に遊走した細胞を蛍光標識した。標識した遊走細胞は、実施例1と同様の操作で計数した。
結果を表3に示す。t検定により、対照とGly-3Hyp-4Hypの間に統計的有意差(p<0.05)が検出された。この結果から、Gly-3Hyp-4Hypはヒト血管内皮細胞に対して細胞走化作用を有するといえる。
【0030】
【0031】
実施例4
以下の方法で各被験物質の安定性を評価した。
あらかじめ前日に、コラーゲン不含有の飼料AIN-93M(オリエンタル酵母工業社製)を与えて飼料由来のコラーゲンの影響を排した18カ月齢のオスICRマウス(日本エスエルシー社)から血液を採取し、遠心分離により血漿を調製した。この血漿98μLを2μLのペプチド混合液(Gly-3Hyp-4Hyp、Pro-4Hypおよび4Hyp-Gly、またはGly-3Hyp-4HypおよびGly-Pro-4Hyp;各ペプチド濃度1mg/mL)と混合し、37℃でインキュベーションした。混合直後(0時間)および4、8、24、48時間後に反応液を回収し、3倍量の冷エタノールと混合して遠心分離後に得た上清を0.1%ギ酸で20倍希釈してから、下記LC/MS測定条件で測定した。検出された各ペプチドのピーク面積から、0時間を1とした相対比を算出した。Gly-3Hyp-4Hyp、Pro-4Hypおよび4Hyp-Glyの混合サンプルの結果を
図1に、Gly-3Hyp-4HypおよびGly-Pro-4Hypの混合サンプルの結果を
図2に示す。
【0032】
LC/MS測定条件
高速液体クロマトグラフ:1200Series(アジレント・テクノロジー社製)、
質量分析装置:3200 QTRAP(エービー・サイエックス社製)、
分析カラム:Ascentis Express F5 5μm, 4.6mm i.d.×150mm(SUPELCO社製)、
カラム温度:40℃
移動相:A液;0.1%ギ酸、B液;100%アセトニトリル、
グラジエント条件:
0~7.5分:A液100%、
7.5~20分:A液100~10%;B液0~90%、
20~25分:A液10%;B液90%、
25~30分:A液100%、
流速:0.4mL/min、
イオン化:ESI、ポジティブ、
分析モード:Multiple Reaction Monitoring(MRM)モード、
イオンスプレー電圧:3kV、
イオンソース温度:500℃
【0033】
図1に示すように、安定性の高いことが報告されているPro-4Hypおよび4Hyp-Glyでも、マウス血漿との反応により、反応48時後ではほぼ半分以下まで分解されたのに対し、Gly-3Hyp-4Hypは全く分解されずに安定であった。また、
図2に示すように、Gly-3Hyp-4Hypと配列の類似したGly-Pro-4Hypも徐々に分解された。このことは、配列中央のProが3Hypに置換することが、生体内安定性に大きく寄与することを意味する。Gly-3Hyp-4Hypは非常に高い酵素分解耐性を有し、血流から組織に移行してからも長時間にわたり、細胞走化作用その他の生理活性を発揮しうると推察された。
【0034】
実施例5
以下の方法でコラーゲン加水分解物摂取後のヒトにおける血中Gly-3Hyp-4Hyp濃度の評価を行った。
試験日の前日から12時間絶食状態の健康なヒト8名にブタ皮膚コラーゲン加水分解物(ニッピ社製)5gを摂取させ、摂取前(0時間)および0.5、1、2、4、6時間後に血液を回収して遠心分離により血漿を調製した。内部標準として安定同位体標識コラーゲンの酵素分解物(特許文献5の実施例1に準じて調製)を添加した後、3倍量の冷エタノールと混合して遠心分離後に得た上清を遠心濃縮により乾燥させ、0.1%ギ酸で再溶解してから上記と同様のLC/MS測定条件で測定を行った。各ペプチドの血中濃度は、ペプチドのピーク面積と対応する安定同位体標識ペプチドのピーク面積の比に、添加した安定同位体標識ペプチドの濃度を掛け合わせることで算出した。
【0035】
図3に示すように、コラーゲン由来ペプチドの中で特に高い血中濃度を示すPro-4Hypおよび4Hyp-Glyでも、その濃度はコラーゲン加水分解物摂取後1時間をピークとして速やかに減少した。それに対しGly-3Hyp-4Hypは、摂取後4時間まで最大濃度を維持していた。また、配列の類似したGly-Pro-4Hypに比べると、Gly-3Hyp-4Hypは長く血中に存在するのに加えて、摂取後2時間以降の血中濃度も高値となった。以上の結果により、高い酵素分解耐性を持つGly-3Hyp-4Hypは、コラーゲン加水分解物摂取後に他のコラーゲン由来ペプチドに比べて長く血中に存在することが示され、各組織に存在する各種細胞に対して長時間供給されて、細胞走化作用その他の生理活性が発揮されると考えられる。