(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143754
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】光ファイバキーを認証する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H04L 9/10 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H04L9/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023027937
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】22163917
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521124319
【氏名又は名称】テラ クアンタム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TERRA QUANTUM AG
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】ズダーノヴァ・エカチェリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴャトキン・ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】ヤロヴィコフ・ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】スミルノフ・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】グトー・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】レソヴィク・ゴルデイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光ファイバキーを認証するコンピュータに実装される方法、プログラム及びシステムを提供する。
【解決手段】認証システムによる方法は、少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択することと、チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルスを生成することと、光ファイバキーからの第1の光チャレンジパルスの反射信号に基づいて、光応答信号を決定することと、類似度メトリックを決定するために、光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキーの従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用することと、類似度メトリックに基づいて光ファイバキーを認証することと、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバキー(12)を認証するコンピュータに実装される方法であって、前記方法は、
少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択することと、
前記チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルス(20)を生成することと、
前記光ファイバキー(12)からの前記第1の光チャレンジパルス(20)の反射信号(22)に基づいて、光応答信号を決定することと、
類似度メトリックを決定するために、前記光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する前記光ファイバキー(12)の従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用することと、
前記類似度メトリックに基づいて前記光ファイバキー(12)を認証することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記光応答信号が、前記光ファイバキー(12)のコア屈折率変動による後方散乱光信号の平均変動に基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チャレンジパルスパラメータが、パルス持続時間、パルス振幅、パルス波長、位相、偏波、パルス波形、先行もしくは後続のチャレンジパルスとの分離時間、および変調パターンのうちの1つまたは複数を含み、前記変調パターンが、具体的には前記チャレンジパルス(20)を複数のサブパルスへと分割する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光ファイバキー(12)が、少なくとも100m長、特に少なくとも1000m長を有する光ファイバを備え、かつ/または
前記類似度メトリックが、光ファイバ接続(18)に沿って、前記第1の光チャレンジパルス(20)のエミッタから少なくとも100m、特に少なくとも1000mだけ離隔した、光ファイバセクション(F1、F2)からの時間領域反射信号に対応する光応答信号に基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記チャレンジパルスパラメータに基づいて調整された光レシーバを用いて、前記光ファイバキー(12)から前記反射信号(22)を受信することを含み、かつ/または
前記予想される応答が、前記チャレンジパルスパラメータにさらに基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、
少なくとも部分的にランダム化された第2のチャレンジパルスパラメータを選択することであって、前記第2のチャレンジパルスパラメータが前記チャレンジパルスパラメータとは異なっている、第2のチャレンジパルスパラメータを選択することと、
前記第2のチャレンジパルスパラメータに基づいて、第2の光チャレンジパルス(20)を生成することと、
前記光ファイバキー(12)からの反射信号(22)に基づいて、前記第2の光チャレンジパルス(20)に対する第2の光応答信号を決定することと
をさらに含み、
前記類似度メトリックが、前記第2の光応答信号に基づいてさらに決定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の光応答信号および前記第2の光応答信号が平均化または畳み込みされ、また前記光ファイバキー(12)が、前記平均化または畳み込みされた結果に基づいて認証される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、
前記第1の光チャレンジパルス(20)を発射することに関して前記反射信号(22)の到着時間と予想到着時間とを比較することと、前記比較の結果にも基づいて前記光ファイバキー(12)を認証することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記光ファイバキー(12)に関連付けられた後方散乱パワーの分散が、前記第1のチャレンジ信号が伝送される通信経路に沿った光ファイバの他の連続セクションに関連付けられた後方散乱パワーの分散よりも少なくとも20%大きく、好ましくは少なくとも50%大きく、最も好ましくは100%大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
処理システムによって実行されると、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実施する機械可読命令を備える非一時的媒体。
【請求項11】
光ファイバキー(12)を認証するシステム(10)であって、前記システム(10)は、
少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択し、
チャレンジエミッタにより、前記チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルス(20)を発射するための機械可読命令を生成し、
前記光ファイバキー(12)からの前記第1の光チャレンジパルス(20)の反射信号(22)に基づいて、光応答信号を決定し、
類似度メトリックを決定するために、前記光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する前記光ファイバキー(12)の従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用する
ように構成された制御システム(14)を備える、システム(10)。
【請求項12】
前記システム(10)が、前記反射信号(22)を受信し、前記第1のチャレンジパルス(20)の発射時間に対する前記反射信号(22)の到着時間を記録するように適合された光レシーバをさらに備える、請求項11に記載のシステム(10)。
【請求項13】
前記光レシーバが、前記光ファイバキー(12)から前記反射信号(22)を受信するために前記チャレンジパルスパラメータに基づいて調整され、かつ/または
前記予想される応答が、前記チャレンジパルスパラメータにさらに基づいている、請求項12に記載のシステム(10)。
【請求項14】
前記チャレンジパルスパラメータが、パルス持続時間、パルス振幅、パルス波長、位相、偏波、パルス波形、先行もしくは後続のチャレンジパルスとの分離時間、および変調パターンのうちの1つまたは複数を含み、前記変調パターンが、具体的には前記チャレンジパルス(20)を複数のサブパルスへと分割する、請求項11に記載のシステム(10)。
【請求項15】
前記制御システム(14)が、
少なくとも部分的にランダム化された第2のチャレンジパルスパラメータを選択し、前記第2のチャレンジパルスパラメータが前記チャレンジパルスパラメータとは異なっており、
前記第2のチャレンジパルスパラメータに基づいて、第2の光チャレンジパルス(20)を発射するための機械可読命令を生成し、
前記光ファイバキー(12)からの反射信号(22)に基づいて、前記第2の光チャレンジパルスに対する第2の光応答信号を決定し、
前記類似度メトリックが、前記第2の光応答信号に基づいてさらに決定される、
ようにさらに構成されている、請求項11から14のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的に複製困難なキーを介して行う認証の分野内にある。より具体的には、本発明は、認証を目的として光学的に調査される物理的に複製困難なキーの認証に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの用途では、ユーザまたはデバイスを認証すること、例えば、デジタル化された情報へのアクセスを有効にしたり、暗号化キーを共有したり、支払いを仲介したり、車両や家屋などの物理的なオブジェクトへのアクセスを許可したりすることが重要になっている。こうした認証は、情報を交換するための既存のデータチャネルに基づいて構築されており、通常、アイデンティティの証明を提供するための「チャレンジ」と、それに基づいてユーザまたはデバイスを認証することができる、例えばアクセスを許可または拒否することができる「応答」とを含む。
【0003】
暗号化やユーザ認証は、一般に、計算することは容易であるが、逆算することは困難である一方向性関数に依存する。こうした認証は、正当なユーザが自分自身を認証するのは容易になるべきだが、敵対者が正当なユーザになりすますことは実質的に不可能になるという一般的必要性に対処するものである。
【0004】
そのような一方向性関数の1つのクラスは、物理的一方向性関数であり、物理的なオブジェクト、いわゆる「キー」が刺激(チャレンジ)を受けてプローブされ、物理的キーに特徴的であるはずの応答を生成する。一般に、物理的なオブジェクトが物理的に複製困難であることが、例えばオブジェクトの微細構造または原子構造にまで及ぶという原理は、複製困難なプロパティが、個々のチャレンジに対して異なるはずの特徴的な応答をもたらすように、オブジェクトをプローブすることに依存する。これらの応答はまた、個々の物理的なオブジェクトが確実に区別され得るように、一意であり、再現可能であり、かつ識別可能であるべきである。さらに、当技術分野の焦点は、改ざんが明らかである場合に、数学的に複製困難である、予測不可能な応答にある。
【0005】
例えば、特許文献1は、ランダムに分布した光散乱粒子を含む光散乱要素内で光が散乱する光学チップを開示しており、ランダムなスペックルパターンが作成され、応答を定義するために光検出素子上にこれが広がるように、当該光散乱粒子によって入射光が散乱する。チャレンジは、デバイス内の画像素子によって修正され得る。
【0006】
特許文献2は、暗号化キーの配信を行うために、ラージコアファイバのコイル状セクションなどの光学材料における複合伝送を使用することを提案している。チャレンジは、成形波面を有する超短パルスとして送信される。当該パルスは、波面によって決まる内部の微細散乱構造に基づいて、光媒体によって異なるチャネルへと分割される。次いで、これらのチャネルのうちの1つで得られた信号を、チャレンジの発行者に送信することで、ユーザを認証することができる。パルスの振幅を低減することにより、当該光媒体を有する人物のみが、個々のチャレンジパルスを実際に判別することができる。
【0007】
特許文献3は、光時間領域反射率測定法(OTDR)を使用した光ファイバ接続の監視について開示している。盗聴者が対象のファイバに接続しているかどうかを識別するために、対象のファイバ接続の反射率データが繰り返し記録される。反射率データの変化に基づいて、接続に沿った追加の結合器で生じる信号損失が観察され得、当該損失は盗聴者が存在することによって識別され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/00237506号明細書
【特許文献2】国際公開第2021/148222号
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0259737号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、認証を行うための既知の方法は、多くの場合、複合デバイスの作製に依存するか、またはチャレンジおよび応答の正確な分析に依存する。具体的には、例えばスペックルパターンの一部としての干渉への依存は、一般に、例えば共通の光リンクおよび光コヒーレンスが物理的に制限を受けるために、ローカル認証アプリケーションへの適用範囲を狭めてしまう。
【0010】
こうした最新技術を考慮して、本発明の目的は、物理的に複製困難なキーを介したデバイスまたはユーザの認証を行うための、簡便かつ堅牢な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、独立請求項に記載の方法、コンピュータプログラム、およびシステムによって解決される。従属請求項は、好ましい実施形態に関するものである。
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、光ファイバキーを認証するコンピュータに実装される方法に関する。本方法は、少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択することと、チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルスを生成することとを含む。本方法は、光ファイバキーからの第1の光チャレンジパルスの反射信号に基づいて、光応答信号を決定することと、類似度メトリックを決定するために、光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキーの従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用することとをさらに含む。次いで、本方法は、類似度メトリックに基づいて光ファイバキーを認証することを含む。
【0013】
光ファイバキーは通常、少なくとも100m、典型的には数キロメートルの距離にわたって光信号を伝送することができる光ファイバを備える。いくつかの例では、光ファイバキーの長さは、数十キロメートルまたは数百キロメートルに達してもよい。光ファイバキーは、通信チャネルのレシーバ端に近接する光ファイバ接続の一セクションなどの、光ファイバの一セクションとして定義されてもよい。いくつかの例では、光接続全体が光ファイバキーのセットと考えられてもよい。光ファイバは通常、クラッドによって囲まれたシリカコアを備え、当該コアは、その長さに沿って光を導波するためにクラッドよりも高い屈折率を有する。この高い屈折率を得るために、光ファイバのコアには通常、Al、P、N、Geなどの原子がドープされるが、こうしたドープにより、内部構造不均一性による散乱(例えば、密度変動である)がさらに増強される。
【0014】
例えば非晶質シリカ構造から形成される光ファイバの内部化学構造は固有のものであり、複製困難であると考えられ得る。今日の技術レベルでは、細長いファイバ片の正確なコピーを作成することは実質的に不可能である。その上、コア内のドーピング原子の位置はランダムである。
【0015】
本発明は、時間的に変化する反射信号をチャレンジパルスに記録することにより、光ファイバキーに固有の内部構造から生じ得る屈折率の局所的な変動による、光の後方散乱パターンを使用することを提案している。この反射信号は、例えばレイリー後方散乱効果などによる光ファイバの長さに沿った屈折率の変動に依存するため、基準データに基づいて光ファイバキーを認証するために使用されてもよい。
【0016】
好ましい実施形態では、光応答信号は、光ファイバキーのファイバコア屈折率変動による後方散乱光信号の平均変動に基づいている。
【0017】
光応答信号は、光ファイバの実質的に複製困難な特性に本方法を依存させるために、ファイバコアに沿った内部構造(例えば、メゾスコピック構造、ナノ構造、ドーピング構造、および/または結晶/共有結合構造など)の変動に起因するファイバコアの屈折率変動に敏感に反応する必要がある。好ましくは、光ファイバキーによって生じる光応答信号の変動が、例えば、ファイバのコアまたは非晶質シリカ構造に沿ったドーパント原子の分布を含む、光ファイバコアの内部構造の作製によって誘起されるランダムな構造変動に依存する。こうした後方散乱光信号の変動は、反射信号内で、例えば検出された後方散乱光強度の変動として測定され得る。
【0018】
反射信号は、チャレンジパルスの波形に概ね依存し、また光ファイバに沿った後方散乱から生じる反射パルスとして通常は記録される。反射信号は、光ファイバキー内の第1のチャレンジパルスから生じる後方散乱パワーのプロファイルを記録するために、例えばフォトダイオードを使用して時間領域で記録され得る。反射信号は、光応答信号を取得するために処理されてもよく、この光応答信号は、空間位置の関数としての光ファイバキーの後方散乱パワーのプロファイルなどの、光ファイバ接続の他の部分から独立し得る。
【0019】
反射信号を処理することによって取得される結果としてのトレースは、ファイバセクションの光時間領域反射率測定(OTDR)形式による測定値と同様であってもよい。したがって、予想される応答は、光ファイバキーのOTDR測定の一部としての基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキーの従前に記録された光応答信号に基づいてもよい。
【0020】
しかしながら、従来のOTDR測定で取得された反射信号のタイムトレースは、原則として決定論的結果であり、この結果は、平均後方散乱パワーの分布などの光ファイバキーの数学的モデルに従って信号を変調することにより、実質的に偽造され得る。したがって、固定刺激に対するOTDR形式の応答信号は、原則として数学的に複製困難ではない可能性があるため、物理的な光ファイバキーを使用する対応方式は、以前は認証の根拠として考慮されてはいなかった。
【0021】
本方法を、実用を目的として耐タンパ性にするために、本発明者らは、光ファイバキーをプローブする際に使用されるチャレンジパルスの特性を、少なくとも擬似ランダムに変調することを提案している。光のパルスは、位相、波長、振幅、パルス幅などのいくつかのパラメータで整形され得、または高レートでの変調パターンで変調され得る。
【0022】
擬似ランダムチャレンジパルスは、擬似乱数を生成し、この乱数に基づいて擬似ランダムパルスパラメータを選択し、当該擬似ランダムパルスパラメータを用いて光チャレンジパルスを生成することによって生成されてもよい。
【0023】
好ましい実施形態では、チャレンジパルスパラメータは、パルス持続時間、パルス振幅、パルス波長、位相、偏波、パルス波形、先行もしくは後続のチャレンジパルスとの分離時間、および変調パターンのうちの1つまたは複数を含み、変調パターンは、具体的にはチャレンジパルスを複数のサブパルスへと分割する。
【0024】
結果として生じる反射信号は、パルスパラメータに概ね依存する。パルスパラメータが実質的にランダムに選択される場合、盗聴者は、一致する反射信号を生成するために当該パルスのすべての特性を測定しなければならず、チャレンジパルスの検出と信号生成との間に検出可能な時間遅延を導入することになる。
【0025】
さらに、適正な反射信号がいくつかの後方散乱信号のシーケンスまたは畳み込みとなり得るように、第1のチャレンジパルス列が光ファイバキーをプローブするために送信されてもよい。当該シーケンスまたは畳み込みは、周波数/波長に対する減衰、分散およびレイリー散乱が概ね非線形依存性であるために、非線形であってもよい。次いで、盗聴者がすべての実用を目的として、例えばチャレンジ信号を再生成し、応答を計算し、それに応じて多変量パルス発生器を再構成するために、有意かつ検出可能な遅延を導入することなくチャレンジ信号を捕捉し、対応する有効な(非線形)応答を生成するのが防止され得る。例えば、チャレンジパルス間の分離間隔は、光ファイバキーおよび/または光ファイバキーへの光接続を通過する各パルスの往復時間よりも短い分離時間を実行するために、10ms未満、1ms未満、100μs未満、または10μs未満であってもよい。例えば、変調パターンに従ってパルスを生成することにより、マイクロ秒未満の間隔、例えば約0.1ns~約100nsまたは約1ns~約10nsの間隔で(サブ)パルス列が生成されてもよい。
【0026】
後続のチャレンジパルス間の分離時間は、チャレンジパルス列において予測不可能なタイミングで盗聴者がチャレンジパルスに接するように変更されてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態では、本方法は、複数の第1のチャレンジパルスを生成することと、複数の第1のチャレンジパルスに対する複数の反射信号を受信することと、複数の反射信号に基づいて、例えば平均化によって光応答信号を決定することとを含む。
【0028】
これにより、広く利用可能で予め装備されているファイバ接続が光ファイバキーとして使用され得、チャレンジパルスおよびパルス生成システムによって満たす必要がある要件はわずかに存在するが、それでもなお、結果として得られる応答を使用して、堅牢かつ実質的に改ざん防止された方法で光ファイバキーを認証することができる。
【0029】
好ましい実施形態では、光ファイバキーは、少なくとも100m長、特に少なくとも1000m長を有する光ファイバを備える。
【0030】
時間領域反射率測定に基づく方法では、ファイバの比較的長いセクションのトレースを取得することができる。数百メートルのスケールで物理的なオブジェクトを複製すること、または多変量チャレンジパルスに対して予想される応答を複製することは、実質的に不可能である。
【0031】
好ましい実施形態では、類似度メトリックは、光ファイバ接続に沿って、第1の光チャレンジパルスのエミッタから少なくとも100m、特に少なくとも1000mだけ離隔した、光ファイバセクションからの時間領域反射信号に対応する光応答信号に基づいている。
【0032】
受信した応答と予想される応答とが類似しているかどうか、すなわち受信した信号が光ファイバキーからの適合する反射信号であるかどうかを判定する技術を提供する比較アルゴリズムとして、異なる手法が使用されてもよい。その手法は、光応答信号と予想される応答との間の類似度メトリックを決定するために、例えば、ニューラルネットワークに基づくアルゴリズム、他のAIアルゴリズム、パターン認識および類似度測定による統計ベースの手法、または異なる相関メトリックであってもよい。例えば、類似度メトリックは、光応答信号と予想される応答との間のピアソンの相関係数であってもよい。
【0033】
時間領域反射率測定は、通信リンクに沿ってパルス発生器から数キロメートル離隔して位置する長いファイバセクションにわたって適用され得、その結果、本方法は長距離(リモート)認証に有利に適用され得るが、本方法はローカル認証方式にも適合し得る。
【0034】
好ましい実施形態では、本方法は、チャレンジパルスパラメータに基づいて調整された光レシーバを用いて、光ファイバキーから反射信号を受信することを含む。
【0035】
例えば、反射信号は、ノイズの多い背景から反射信号を抽出するため、かつ/または予想されるシグナリング遅延を有する、かつ/もしくは第1のチャレンジパルスから生じる応答を選択するためなどに、第1のチャレンジパルスに基づいて基準信号と乗算されてもよい。別の例として、レシーバの時間ウィンドウおよび/または周波数ウィンドウが、チャレンジパルスパラメータに基づいて調整されてもよい。したがって、本方法は、耐タンパ性をさらに高めることができるコヒーレント反射測定法と同様に実施されてもよい。
【0036】
好ましい実施形態では、予想される応答は、チャレンジパルスパラメータにさらに基づいている。
【0037】
例えば、個々のチャレンジパルスに対する光ファイバキーの反射信号は、一例としてOTDRを使用して、チャレンジパルスパラメータの異なるセットまたはクラスについて従前に特徴付けられていてもよく、また予想される応答は、パルスの波長変調、パルスの位相、パルスの偏波、またはパルスのパルス波形などのチャレンジパルスパラメータに従って生成されてもよい。
【0038】
好ましい実施形態では、本方法は、少なくとも部分的にランダム化された第2のチャレンジパルスパラメータを選択することであって、第2のチャレンジパルスパラメータはチャレンジパルスパラメータとは異なっている、第2のチャレンジパルスパラメータを選択することと、第2のチャレンジパルスパラメータに基づいて、第2の光チャレンジパルスを生成することとをさらに含む。本方法は、光ファイバキーからの反射信号に基づいて、第2の光チャレンジパルスに対する第2の光応答信号を決定することをさらに含み、類似度メトリックは、第2の光応答信号に基づいてさらに決定される。
【0039】
例えば、第1の光応答信号および第2の光応答信号を平均化し、平均化結果および予想される応答に基づいて類似度メトリックが決定されてもよい。
【0040】
上述したように、本方法では、予想される応答が個々のチャレンジパルスに対する応答の畳み込みとなり得るように、異なるパルスパラメータを有するパルス列を送信してもよい。擬似ランダム方式でチャレンジパルスパラメータを変更することにより、本方法は、実用を目的として実質的に改ざんを防止するものとなり得る。例えば、第1の数の第1のチャレンジパルス列を送信し、続いて第2の数の第2のチャレンジパルス列を生成することなどによって、チャレンジパルス列内の一定数のチャレンジパルスの後に、チャレンジパルスパラメータを変化させてもよい。ただし、チャレンジパルス列における各チャレンジパルスの後に、チャレンジパルスパラメータを同様に変化させてもよい。
【0041】
当業者であれば、いくつかの実施形態において、例えば第3、第4、および第5のチャレンジパルスなどに対して複数の異なるチャレンジパルスパラメータを生成することができ、光ファイバキーに対応する光応答信号を回復するために、多数の受信反射信号に基づいて認証が実行されてもよいことも理解するであろう。
【0042】
当業者であれば、チャレンジパルス列のベースパルス、例えば一定の間隔で配置された実質的に正方形のベースパルスを変調することにより、チャレンジパルスパラメータを生成することができ、その後、信号変調によって第1および第2のチャレンジパルスから、ベースパルスを効果的に構成できることをさらに理解するであろう。例えば、ベースパルスは、互いとは異なり得るか、またはランダム化されたチャレンジパルスパラメータに基づいて部分的にランダム化された間隔を有し得る複数のチャレンジパルスから効果的に構成されるように変調されてもよい。チャレンジパルス列におけるベースパルスのそのような変調は、光応答信号の分解能を上昇させる可能性があり、盗聴者にとっては、適合する反射信号の生成が複雑になる可能性もある。
【0043】
追加的にまたは代替的に、本方法では、光応答信号を生成することの一部として、例えばロックイン手法の一部として、第1および第2のチャレンジパルスの反射信号を平均化するか、または畳み込むことができ、その結果、光応答信号を、異なるチャレンジパルスパラメータを有し得るいくつかの低振幅の反射信号から回復させてもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、第1の光応答信号および第2の光応答信号は平均化または畳み込みされ、また光ファイバキーは、平均化または畳み込みされた結果に基づいて認証される。
【0045】
いくつかの実施形態では、本方法は、第2の類似度メトリックを決定するために、第2の光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキーの従前に記録された応答に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用することをさらに含む。光ファイバキーを認証することは、第2の類似度メトリックに基づいて光ファイバキーを認証することをさらに含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、第1の類似度メトリックおよび第2の光類似度メトリックが平均化され、当該平均化結果に基づいて光ファイバキーが認証される。
【0047】
実際の用途では、擬似ランダムチャレンジパルスから反射信号を再生成することは、通常、反射信号の到着時間を監視することによって検出され得る応答の遅延を導入する。
【0048】
好ましい実施形態では、本方法は、第1の光チャレンジパルスを発射することに関して反射信号の到着時間と予想到着時間とを比較することと、比較の結果にも基づいて光ファイバキーを認証することとをさらに含む。
【0049】
例えば、チャレンジパルスエミッタと反射信号レシーバとの内部クロックを連結することにより、一例として、記録された反射信号を第1のチャレンジパルスに基づく基準信号と乗算することによって、第1のチャレンジパルスの発射と反射信号の受信との間に生じる時間遅延を監視して、潜在的な改ざんを防止することができる。したがって、到着時間を監視することは反射信号の測定に組み込まれてもよく、また到着時間の不一致は、光応答信号および/または類似度メトリックの減少をもたらし得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、本方法は、第1の光チャレンジパルスを発射することに関して反射信号の到着時間を記録することを含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、光ファイバキーを認証することは、光ファイバ接続のノード間の通信プロトコルを開始することの一部を形成してもよく、また光ファイバキーを正規に認証することにより、通信プロトコルを開始するために光ファイバキーに関連付けられたノードが正規に認証される。その結果、第1のノードは、光ファイバ接続の反対側の第2のノードに関連付けられた光ファイバキーを認証するために、第1のチャレンジパルスを生成することができる。
【0052】
光ファイバキーは、例えば、認証される必要があるレシーバ端において、またはノード間の光ファイバ接続に沿って、あるノードに特徴的なノード間の光ファイバ接続のファイバセクションによって実装されてもよい。光ファイバキーは、既存の標準的な光ファイバ接続の一部を形成してもよく、また本方法は、光ファイバキーとして機能する光ファイバの既存のセクションに基づいて実装されてもよい。また一方で、本方法は、専用の光ファイバキーとして機能するために、光ファイバのコイル状セクションなどの認証ファイバを提供することをさらに含んでもよい。光ファイバキーは、盗聴者が光ファイバキーを広範囲に特徴付けたり、あるいは信号を当該光ファイバキーに再ルーティングしたりする可能性を最小限に抑えるなど、認証目的で光ファイバネットワークに選択的に結合されてもよく、かつ/または信号終端/検出器に近接したレシーバ端に配置されてもよい。
【0053】
認証目的のために専用光ファイバキーを設けた場合、例えば、構造不均一性によって発生する光ファイバキーの伝搬方向に沿った屈折率分布の分散を大きくすることにより、認証方式で使用する光ファイバキーの調整をさらに行えるようになり得る。例えば、光ファイバは、結果として得られる光ファイバキーがより強いドーパントのクラスタ化を有することができ、関連するファイバセクションにおいてより顕著な後方散乱をもたらすことができるように、ドーパントのクラスタ化を防止する化合物を除外して作製されてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、光ファイバキーは、光ファイバキー内の光の散乱を増大させるために、例えば熱輻射、機械的歪み、または追加のドーピングを用いて処理されてもよい。
【0054】
好ましい実施形態では、光ファイバキーに関連付けられた後方散乱パワーの分散は、第1のチャレンジ信号が伝送される通信経路に沿った光ファイバの他の連続セクションに関連付けられた後方散乱パワーの分散よりも少なくとも20%大きく、好ましくは少なくとも50%大きく、最も好ましくは100%大きい。
【0055】
当業者であれば、このことに関連して、異なるファイバのジョイントが著しい信号損失の発生に関連している可能性がある一方で、光路に沿った増幅器が、同様に信号の著しい変動をもたらす可能性があることを理解するであろう。しかしながら、時間領域トレースにおけるそのような事象は、上述した意味において光ファイバの延長された連続セクションから生じるとは考えられず、したがって通常は、上述したように光ファイバの他の連続セクションを構成することはない。
【0056】
いくつかの実施形態では、本方法は、応答信号の分散が増加するように局所的な散乱部位を誘導するために、光ファイバキー内に散乱クラスタを生成することをさらに含む。そのようなクラスタは、光ファイバに高分子をドープして、ファイバ内に中空微細構造または気泡を形成することによって、または当技術分野で公知の他の方法によって作成され得る。
【0057】
第1の態様による方法は、処理システムに実装されてもよい。処理システムは、単一の処理ユニットを備えてもよく、または機能的に接続され得る複数の処理ユニットを備えてもよい。処理ユニットは、マイクロコントローラ、ASIC、PLA(CPLA)、FPGA、またはソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、もしくはそれらの組合せに基づいて動作する処理デバイスを含む他の処理デバイスを備えてもよい。処理デバイスは、内蔵メモリを含むか、または外部メモリと通信するか、またはその両方を含むことができ、センサ、デバイス、機器、集積論理回路、他のコントローラなどに接続するためのインターフェースをさらに備えてもよく、当該インターフェースは、電気信号、光信号、無線信号、音響信号などの信号を受信または送信するように構成されてもよい。例えば、処理システムは、チャレンジパルスパラメータに関連付けられた命令を送信するためのデータインターフェースを介して、パルス生成システムおよび/または光レシーバに接続されてもよい。
【0058】
第2の態様によれば、本発明は、処理システムによって実行されると、第1の態様による方法を実施する機械可読命令を備える非一時的媒体に関する。
【0059】
第3の態様によれば、本発明は、光ファイバキーを認証するシステムに関する。本システムは、少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択し、チャレンジエミッタにより、チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルスを発射するための機械可読命令を生成するように構成された制御システムを備える。本制御システムは、光ファイバキーからの第1の光チャレンジパルスの反射信号に基づいて、光応答信号を決定し、類似度メトリックを決定するために、光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキーの従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用するようにさらに構成されている。
【0060】
本システムは、第1の態様またはその実施形態の任意の組合せによる方法を実施してもよい。本システムは、類似度メトリックに応じて光ファイバキーを認証するか、または類似度メトリックを外部認証システムに送信してもよい。
【0061】
好ましい実施形態では、本システムは、反射信号を受信するように適合された光レシーバをさらに備える。
【0062】
本システムは、第1のチャレンジパルスの発射時間に対する反射信号の到着時間をさらに記録してもよい。
【0063】
好ましい実施形態では、光レシーバは、光ファイバキーから反射信号を受信するためにチャレンジパルスパラメータに基づいて調整される。
【0064】
好ましい実施形態では、予想される応答は、チャレンジパルスパラメータにさらに基づいている。
【0065】
好ましい実施形態では、チャレンジパルスパラメータは、パルス持続時間、パルス振幅、パルス波長、位相、偏波、パルス波形、先行もしくは後続のチャレンジパルスとの分離時間、および変調パターンのうちの1つまたは複数を含み、変調パターンは、具体的にはチャレンジパルスを複数のサブパルスへと分割する。
【0066】
好ましい実施形態では、制御システムは、少なくとも部分的にランダム化された第2のチャレンジパルスパラメータを選択し、第2のチャレンジパルスパラメータはチャレンジパルスパラメータとは異なっており、第2のチャレンジパルスパラメータに基づいて、第2の光チャレンジパルスを発射するための機械可読命令を生成するようにさらに構成されている。制御システムは、光ファイバキーからの反射信号に基づいて、第2の光チャレンジパルスに対する第2の光応答信号を決定するようにさらに構成されており、類似度メトリックは、第2の光応答信号に基づいてさらに決定される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
本発明による方法およびシステムの特徴ならびに多くの利点は、添付の図面を参照して好ましい実施形態の詳細な説明を読解すれば最良に理解されるであろう。
【
図1A】認証システムの一例を概略的に示す図である。
【
図1B】光ファイバの内部構造の一例を概略的に示す図である。
【
図3】光ファイバキーの典型例としての、光ファイバセクションからのOTDRトレースの一例を示す図である。
【
図4】
図3と同じ測定データに基づく後方散乱パワー変動のトレースの一例を示す図である。
【
図5】同じファイバセクションの11個の連続測定値からなる相関メトリックのマトリックスの一例を示す図である。
【
図6】
図5の例と同様に、異なるファイバセクションの複数の後方散乱パワー変動のトレース間の相関結果例を示す図である。
【
図7】別の光ファイバの相関マトリックスの更なる例を示す図であり、相関マトリックスは
図6の図と同様に取得される。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図1Aは、光ファイバキー12を認証するシステム10の一例を概略的に示す図である。本システムは、光インターフェース16に結合された制御システム14を備える。光インターフェース16は光ファイバ接続18に結合され、光ファイバ接続18を介して、光ファイバキー12に対し光チャレンジパルス20を発射するように命令され得る。
【0069】
チャレンジパルス20は、光ファイバ接続18および光ファイバキー12に沿った内部ファイバ構造の不均一性によって部分的に散乱する可能性があり、これによって反射信号22が発生する。反射信号22は、光チャレンジパルス20とは反対方向に光ファイバ接続18に沿って伝搬し、その時間依存振幅は、光ファイバ接続18に沿った屈折率変動の空間分布に依存し得る。したがって、反射信号22は、チャレンジパルス20のパルス波形と、光ファイバ接続18および光ファイバキー12の後方散乱係数の空間依存性との畳み込みであってもよい。反射信号22は、例えば光インターフェース16に結合されたフォトダイオードを使用して光インターフェース16に記録されてもよく、また光ファイバキー12の空間に依存する後方散乱を示す光応答信号を取得するために、制御システム14によって処理されてもよい。
【0070】
均一な光ファイバの場合、反射率測定原理では、原則として、光ファイバ接続18および光ファイバキー12に沿った光パワーレベルの線形低下を予測する。
【0071】
しかしながら、
図1Bの概略的な例から分かるように、光ファイバ接続の内部構造23は概して均一ではなく、不規則であることを特徴とし、これによって光の局所的な散乱が発生する可能性がある。例えば、ドーパント原子24またはドーパント原子のクラスタ26は、入射光の散乱中心として作用することができる。さらに、下にある内部構造23の不均一性28は、光ファイバ接続18および光ファイバキー12における後方散乱に等しく寄与し得る。ドーピングは光ファイバ作製における一体プロセスであり、ドーピング原子26、28の空間的構成は概ねランダムであるため、光ファイバ12、18は実効屈折率の顕著な変動を示す。この変動は、後方散乱光強度パターンに基づいて、例えば、光時間領域反射率測定法(OTDR)と同様の測定を使用して測定され得る。
【0072】
本発明者らは、光インターフェースを介して光ファイバキー12を認証するために、光ファイバキー12の後方散乱の分散を使用することを提案している。
【0073】
図2は、光ファイバキー12を認証するコンピュータに実装される方法を示す図である。本方法は、少なくとも部分的にランダム化されたチャレンジパルスパラメータを選択すること(S10)と、チャレンジパルスパラメータに基づいて第1の光チャレンジパルス20を生成すること(S12)とを含む。本方法は、時間領域で記録された光ファイバキー12からの第1の光チャレンジパルス20の反射信号22に基づいて、光応答信号を決定すること(S14)と、類似度メトリックを決定するために、光応答信号と、基準光チャレンジパルスに対する光ファイバキー12の従前に記録された光応答信号に基づく予想される応答とに比較アルゴリズムを適用すること(S16)とをさらに含む。次いで、本方法は、類似度メトリックに基づいて光ファイバキー12を認証すること(S18)を含む。
【0074】
予想される応答は、光チャレンジパルス20に対する従前に測定された反射信号22に基づくことができ、または従前に測定されたOTDRトレースなどの光ファイバキー12の基準データに基づくことができ、例えば、予想される応答は、反射信号22と直接比較することができる、従前に測定されたOTDRトレースに基づくシミュレートされた光応答であってもよい。
【0075】
また一方で、本方法は、光ファイバキー12の従前に測定されたOTDRトレースと直接比較することができる光応答信号として、反射信号22から、または順次取得される複数の反射信号22からOTDRトレースを決定することもできる。
【0076】
次いで、制御システム14は、比較アルゴリズム(例えば、相関メトリックを計算するなど)を基準光応答信号および予想応答信号に適用して、反射信号22が光ファイバキー12を認証するために光ファイバキー12から後方散乱されたかどうかを判定することができる。
【0077】
その一方で、標準的なOTDR測定とは対照的に、光チャレンジパルス20の特性、および好ましくは光チャレンジパルス20の列が、例えばパルス波長/周波数、位相、または変調エンベロープに関して、少なくとも部分的にランダム化される。
【0078】
光ファイバキー12の内部構造23の複製は、最先端技術をもってしても実質的に不可能である。したがって、光ファイバキー12を模倣することを望む盗聴者は、例えば光ファイバキー12の平均後方散乱パワーのプロファイルに基づいて調整されたエミッタを有するランダム化されたチャレンジパルス20に対応する反射信号22を生成しなければならない。また一方で、典型的には、パルスパラメータを分析し、パルス発生器を再構成し、真の反射信号22を模倣するパルスを発射するために、有意な処理遅延を導入する必要がある。
【0079】
反射信号22は、チャレンジパルス20に対する真の応答が実質的に瞬間的となるように、当該媒体の光の速度で伝搬する。さらに、光ファイバキー12内の空間的に変化する後方散乱係数は、波長/周波数などの変調されたパルスのパラメータに非線形に依存し得る。したがって、通常は、真の反射信号22を模倣する適合した信号を生成する前に、チャレンジパルス20の多変量解析を実行する必要がある。このため、真の光ファイバキー12の反射信号22を複製しようとする盗聴者は通常、有意かつ検出可能な遅延を導入することなしでは、実質的に実行不可能なタスクに直面することになる。
【0080】
したがって、本方法は、光ファイバ接続18に関連付けられた物理的な光ファイバキー12を認証する簡便であるが実質的に改ざん防止された方法として使用されてもよい。
【0081】
さらに、本発明者らは、対象の光ファイバキー12が、同じファイバの異なるセクションからであっても測定において確実に区別され得ることを見出したので、提案している方法は、種々の用途においても安定していることが期待される。
【0082】
図3は、光ファイバキー12の光応答の典型例としての、光ファイバセクションからのOTDRトレースを示す図である。被測定光ファイバセクションは、全長が約25kmである光ファイバにおける、1km長の標準シングルモード通信ファイバの一セクションである。当該測定は、チャレンジパルス20のパルス持続時間が1μsであり、波長がλ=1550nmであるOTDRを使用して行われた。横軸は、ファイバセクションに沿った距離を示し、縦軸は、デシベル(dB)で示される後方散乱パワーを示す。
【0083】
光時間領域反射率測定(OTDR)装置は、レーザで生成された光パルス20の列で光ファイバセクションをプローブし、後方散乱パワーの空間プロファイルを再構成するためのフォトダイオードを使用して、反射信号22を時間領域で記録する。
【0084】
図3から分かるように、OTDR装置を用いて得られた光ファイバの光反射率データは、距離に応じて降下する直線とランダムに変化するパワーレベルとの和に近似している。後者の変動は、光ファイバに特徴的な構造不均一性に少なくとも部分的に起因する可能性があり、光ファイバキー12の指紋として使用され得る。ランダムに変化するパワー変動は、基準データと相関させるために、例えば後方散乱パワー信号の線形フィットを除去することによって、測定値から抽出され得る。
【0085】
図3に示す典型的な反射率データは、同一のパルスパラメータを有するチャレンジパルスのセットに対応する測定値を平均化することから得られることを考慮に入れるべきである。こうした平均化は、OTDR技術を用いて動作する技術的装置におけるノイズを低減するために行われる。その一方で、適切な平均化を使用すれば、さらに平均化される応答を蓄積するプロセスにおいて、光ファイバを介して送信される同一のチャレンジパルスの各々が複雑な構造で作成され得るため、盗聴者に大きな優位性をもたらすことはない。例えば、チャレンジパルス列において、各パルスは、一例として、異なる特性を有する複数のサブパルスから効果的に構成されるように、複雑な変調パターンで変調されてもよい。盗聴者は、適合する反射信号を生成するために、チャレンジパルス列内の同一の複雑なパルスのすべての特性を依然として測定する必要があるため、パルス検出と信号生成との間に検出可能な時間遅延を導入することなしに、チャレンジパルスのすべての特性を確実に測定して対応するエミッタを調整することはない。追加的にまたは代替的に、チャレンジパルスの特性を、例えば、異なるサブパルス(変調)パターンも含み得るチャレンジパルスの後続の列に対して異なるチャレンジパルスパラメータを提供することによって、所定のまたは擬似ランダムな間隔でさらに変化させることができる。
【0086】
図4は、
図3と同じ測定データに基づく後方散乱パワー変動のトレースの一例であり、最小二乗法(LSM)による線形フィットを減算することにより、線形寄与が除去されている。結果として得られるトレースは、光ファイバキー12の光応答信号と考えられてもよく、当該信号は、例えば類似度メトリックに基づいて、光ファイバキー12を認証するための将来の光応答信号と比較されてもよい。
【0087】
図5は、類似度メトリックの一例として、同じファイバセクションの11個の連続測定値からなる相関メトリックのマトリックスの一例を示す図である。相関メトリックは、
図4に関連して説明したように、それぞれの行および列に関連付けられたそれぞれの後方散乱パワー変動のトレースにおけるピアソンの相関係数に対応する。当該測定は、500nsのパルス持続時間で、λ=1550nmの波長で動作するOTDR装置を使用して行われた。
【0088】
この図は、後方散乱パワー変動のトレースの各対の相関メトリックをマトリックスの数字として示しており、当該メトリックはさらに、より良好に視覚的な識別が行われるように、グレースケールで符号化されている。図から分かるように、異なる測定値間の相関メトリックは常に0.9よりも大きく、測定が経時的に安定していることを示している。本発明者らによる長期間測定は、同じファイバセクションの測定値の自己相関が数時間後でも0.5を超えたままであることを示しており、光ファイバキー12がその平均後方散乱パワー変動のプロファイルに従って確実に識別され得ることを示している。
【0089】
図6は、
図5の例と同様に、2つの異なるファイバセクションF1、F2の複数の後方散乱パワー変動のトレース間の相関結果例を示す図である。当該図では、最初の5つのマトリックス要素(数字0~4)は、標準シングルモード光ファイバの第1のファイバセクションF1の後方散乱パワー変動のトレースに関連付けられている。5つの第2のマトリックス要素(数字5~9)は、光ファイバに沿って異なる位置に配置された同じ光ファイバの第2のファイバセクションF2の後方散乱パワー変動のトレースに関連付けられている。
図6から、同じファイバセクションF1、F2のトレースが、0.6を超える相関メトリックの値によって示される高い類似性を有するが、異なるファイバセクションF1、F2間の相関メトリックは0に近似しており、0.1未満であることが分かる。
【0090】
したがって、反射信号22でプローブすることができる光ファイバキー12の空間的に変化する後方散乱に同様に依存する光応答信号は、光ファイバキー12にあるか、または光ファイバキー12を所有するデバイスまたはユーザを認証するために確実に使用され得、ひいては通信チャネルを認証するために使用されてもよい。
【0091】
更なる耐タンパ性を得るために、光ファイバキー12は、例えば要求に応答して、光ファイバ接続18に選択的に接続されてもよく、これにより、第三者による光ファイバキー12の拡張読み出しを防止することができる。
【0092】
前述の例は、電気通信で使用される標準的なシングルモード光ファイバに関するものであるが、他の光ファイバを光ファイバキー12と考えることができる。例えば、光ファイバキー12は、一例として光ファイバキー12内の散乱中心の分布を変更することによって、後方散乱パワーの変動の増加を特徴とするように作製されてもよい。
【0093】
散乱中心の分布は、空間的に変化するレイリー後方散乱係数αをもたらし、
【数1】
ここで、Δχ(x、y、z)は、誘導ダイポール発振器として作用する局所的な電気磁化率の小規模の不均一性24~28の分布を表し、ωは光の周波数に関連する(E.Brinkmeyer著「Analysis of the backscattering method for single-mode optical fibers」に詳述されているように)。
【0094】
レイリー後方散乱は、内部構造23の前述の不均一性24~28によって引き起こされ得るため、分布Δχ(x、y、z)は、最終的に光ファイバベースのキー12の複雑性を決定することができる。したがって、物理的観点から望ましいとされる光ファイバキー12の特性は、分布Δχ(x、y、z)の不均一性であると考えられ得る。
【0095】
したがって、散乱中心の分布は、例えばドーピングレベルを高めること、光ファイバ内のドーパントのクラスタ化を防止するために通常用いられる化学化合物の使用を回避すること、または通常後方散乱パワー変動を増加させる光ファイバの機械的処理もしくは放射線処理によって変更されてもよい。
【0096】
専用の光ファイバキー12は、光ファイバ接続18の光ファイバの他の連続セクションよりも後方散乱パワーの分散が大きくなることを特徴とするのが好ましい。例えば、光ファイバキー12における後方散乱パワーの分散は、少なくとも同様の長さの光接続18に沿った他の光ファイバセクションにおける後方散乱パワーの対応する分散よりも、少なくとも50%大きくてもよい。分散が大きくなった結果として、光ファイバキー12は、より少ないチャレンジパルス20またはより低い振幅のチャレンジパルス20でプローブされてもよい。
【0097】
図7は、
図6の図と同様であるが、応力ロッドを有する偏波保持ゲルマニウムドープファイバの異なるセクションF1、F2に関する相関マトリックスの更なる例を示す図である。ファイバセクションF1、F2はそれぞれ1200m長であり、λ=1550nmの波長および100nsのパルス持続時間で動作するOTDR装置を使用して、距離の関数としての後方散乱パワーを測定した。
【0098】
図では、4つの第1のマトリックス要素は、第1のファイバセクションF1に関連付けられており、また4つの第2のマトリックス要素は、光ファイバに沿って異なる位置に配置された同じ光ファイバの第2のファイバセクションF2に関連付けられている。ここでも、同じファイバセクションF1、F2の後方散乱パワー変動のトレースは、0.8を超える相関メトリックの値によって示される高い類似性を有するが、異なるファイバセクションF1、F2間の相関メトリックは0に近似しており、0.1未満であることが分かる。
【0099】
図7の例のような偏波保持ファイバを使用すると、チャレンジパルス20の偏波に対する後方散乱パワーの依存性を高めることができ、したがって、本方法による光ファイバキー12の認証を改善することができる。
【0100】
上記の例で使用される相関メトリックが、線形寄与を除去した後の対象のファイバセクションF1、F2の後方散乱パワー変動の相関関数であるが、他の光応答信号に基づく相関メトリックを実施形態で使用してもよいことを、当業者であれば理解するであろう。例えば、後方散乱パワー変動の完全なトレースを再構成する必要がない場合があるが、本方法では、光ファイバキー12の特定の部分を反映する光応答信号のみを使用することができる。当該特定の部分は、後方散乱パワーの分散が大きくなることか、または後方散乱パワー変動の特性プロファイルに関連付けられたファイバセクションF1、F2に関連してもよい。さらに、(平均)反射信号22はまた、光ファイバキー12の従前に計算されたOTDRトレースに基づいて生成され得る、予想反射信号と直接比較されてもよい。
【0101】
相関メトリックは、光学キーおよび基準信号から受信した応答の比較アルゴリズムのオプションとして使用されてもよい。
図5~7に示す例における相関メトリックは、完全に重なり合う曲線(トレース)が相関係数1の値をもたらすような、2つの曲線におけるピアソンの相関係数である。その一方で、類似性の尺度を2つのデータ点セットに帰属させる任意の相関メトリックを実施形態において使用して、チャレンジパルス20に対する反射信号22の測定値に基づいて光ファイバキー12を認証するために使用できる相関メトリックが実装されてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。
【0102】
詳細な実施形態が、光ファイバキー12の光時間領域反射率測定法による応答と同様の光応答信号に基づく認証に焦点を当てているが、本方法はそのような方式に限定されなくてもよい一方で、光ファイバキー12がまた、例えば、コヒーレントなチャレンジパルス20および光ファイバキー12のコヒーレント応答の検出を含む、当技術分野で知られている他の技術でプローブされてもよいことを、当業者であればさらに理解するであろう。
【0103】
これらの好ましい実施形態および図の説明は、本発明およびそれに関連する有益な効果を例示する役割を果たしているにすぎないので、何ら限定を示唆するものと理解されるべきではない。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定されるべきである。
【符号の説明】
【0104】
10 システム
12 光ファイバキー
14 制御システム
16 光インターフェース
18 光ファイバ接続
20 チャレンジパルス
22 反射信号
23 内部構造
24 ドーパント原子
26 ドーパント原子のクラスタ
28 内部構造の不均一性
F1 第1のファイバセクション
F2 第2のファイバセクション
【外国語明細書】