(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143769
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】コイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備
(51)【国際特許分類】
B21B 43/00 20060101AFI20230928BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20230928BHJP
B21C 47/26 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B21B43/00 D
C21D1/00 118A
B21C47/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034627
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022048432
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】杉原 広和
【テーマコード(参考)】
4E026
4K034
【Fターム(参考)】
4E026EA09
4K034AA14
4K034AA19
4K034BA09
4K034CA01
4K034DA06
4K034DA08
4K034DB03
4K034FA01
4K034FA05
4K034FB09
(57)【要約】
【課題】コイル状鋼板の表面の濡れ抑制とコイル状鋼板の冷却能力向上との両立を可能とし、コイル状鋼板に錆を発生させず、しかも高能率でコイル状鋼板の冷却を行うことができるコイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備を提供する。
【解決手段】冷却ミスト発生装置1により冷却ミストを噴射するステップと、冷却ファン2が、冷却ミスト発生装置1により噴射された冷却ミストが蒸発することにより冷却された空気を吸引して冷却床CFに載置されているコイル状鋼板Sに送風するステップと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ミスト発生装置により冷却ミストを噴射するステップと、
冷却ファンが、前記冷却ミスト発生装置により噴射された前記冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気を吸引して冷却床に置かれているコイル状鋼板に送風するステップと、
を備え、
前記冷却ミスト発生装置は、前記冷却ファンによる前記コイル状鋼板への送風方向の後方に配置されていることを特徴とするコイル状鋼板の冷却方法。
【請求項2】
前記冷却ミストは、その粒子径が40μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコイル状鋼板の冷却方法。
【請求項3】
前記冷却ファンが前記コイル状鋼板に送風するステップの後に、
前記冷却ファンによって前記コイル状鋼板に送風された気体を含む、前記コイル状鋼板の周囲の空気を前記冷却床外に排気するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載のコイル状鋼板の冷却方法。
【請求項4】
前記コイル状鋼板と前記冷却床の両方、或いは、いずれかの状態を検出する測定装置を備え、
前記測定装置が測定した条件を基に、前記冷却ミスト発生装置と前記冷却ファンの両方、或いは、いずれかを制御するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載のコイル状鋼板の冷却方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のコイル状鋼板の冷却方法を備える、コイル状鋼板の製造方法。
【請求項6】
熱延鋼板、或いは、冷延鋼板を製造することを特徴とする請求項5に記載のコイル状鋼板の製造方法。
【請求項7】
冷却ミストを噴射する冷却ミスト発生装置と、
前記冷却ミスト発生装置により噴射された前記冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気を吸引して冷却床に置かれているコイル状鋼板に送風する冷却ファンと、
を備え、
前記冷却ミスト発生装置は、前記冷却ファンによる前記コイル状鋼板への送風方向の後方に配置されていることを特徴とするコイル状鋼板の冷却設備。
【請求項8】
前記冷却ミスト発生装置が噴射する冷却ミストの粒子径は、40μm以下であることを特徴とする請求項7に記載のコイル状鋼板の冷却設備。
【請求項9】
前記コイル状鋼板の冷却設備は、前記冷却ファンによって前記コイル状鋼板に送風された気体を含む、前記コイル状鋼板の周囲の空気を前記冷却床外に排気する排気装置を備えることを特徴とする請求項7に記載のコイル状鋼板の冷却設備。
【請求項10】
前記コイル状鋼板の冷却設備は、前記冷却ファンによって前記コイル状鋼板に送風された気体を含む、前記コイル状鋼板の周囲の空気を前記冷却床外に排気する排気装置を備えることを特徴とする請求項8に記載のコイル状鋼板の冷却設備。
【請求項11】
前記コイル状鋼板の冷却設備は、さらに、前記コイル状鋼板と前記冷却床の両方、或いは、いずれかの状態を検出する測定装置を備えていることを特徴とする請求項7に記載のコイル状鋼板の冷却設備。
【請求項12】
前記コイル状鋼板の冷却設備は、測定装置が測定した条件を基に、前記冷却ミスト発生装置と前記冷却ファンの両方、或いは、いずれかを制御する制御装置を備えていることを特徴とする請求項7ないし請求項11のいずれかに記載のコイル状鋼板の冷却設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、コイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル状鋼板の製造に当たっては熱間圧延(熱延)、或いは、冷間圧延(冷延)が実行される。このうち、例えば熱延鋼板を製造する場合には、まず加熱炉においてスラブを所定温度に加熱し、加熱されたスラブを粗圧延機で圧延して粗バーとする。次いでこの粗バーを複数機の圧延スタンドからなる連続熱間仕上げ圧延機を通過させることで所定の厚みの熱延鋼板とする。
【0003】
そしてこの連続熱間仕上げ圧延機から出た熱延鋼板は、ランアウトテーブルに設置された冷却装置の上方及び下方から供給される冷却水によって冷却された後、巻き取り機で巻き取られることによって、コイル状熱延鋼板となる。そしてこのコイル状熱延鋼板の状態で保管される。
【0004】
一方、冷延鋼板の場合は、連続熱間仕上げ圧延機から出た熱延鋼板に対して酸洗処理工程や焼鈍処理工程、冷間圧延工程などの各工程を経て、冷延鋼板となる。そして、当該冷延鋼板についても巻き取り機で巻き取られることで、コイル状冷延鋼板となる。このようなコイル状冷延鋼板についてもこの状態で保管される。
【0005】
このように、各種鋼板は保管時には巻き取られてコイル状とされている。ちなみに、このような巻き取られた状態にある各種鋼板は、例えば、コイル状熱延鋼板の場合、その温度は500~650℃、コイル状冷延鋼板の場合には、この温度以下である。但し、この温度状態のままでは出荷や次の工程へ回すことができない。そのため、これらコイル状鋼板が置かれているコイル置き場(以下、このような置き場を適宜「冷却床」と表す。)において、常温まで冷却されてから運搬・出荷される。
【0006】
当該冷却床には、大量のコイル状鋼板が置かれて冷却されている。そのためどうしても高温のコイル状鋼板の周囲に同じく高温のコイル状鋼板が置かれることになる。従ってこの場合、各コイル状鋼板の周囲の温度は高くなっている。このため、コイル状鋼板の冷却能率が低下し、コイル状鋼板の冷却を完了するまでに、例えば、3~5日かかることもある。
【0007】
その結果、冷却床として使用するためにコイル状鋼板を置くための敷地は、広大とならざるを得ない。また、冷却に時間が掛かることから、コイル状鋼板を出荷するまでの期間が長くなるという問題が発生する。さらにこのように冷却に時間が掛かることによって、冷却床のコイル置き場不足やコイルの在庫増加も問題となる。
【0008】
そこで、コイル状鋼板の冷却時間を短縮するため、コイル状鋼板に冷却水を散布する方法が種々提案されている。しかしながら、例えばコイル状の冷延鋼板のように、コイル状鋼板の表面温度が100℃以下の状態でコイル状鋼板に冷却水が散布されると、冷却水が蒸発しにくい。そのため、コイル状鋼板の表面が水で濡れ、そのまま放置するとその表面に錆が発生することがあり得る。
【0009】
コイル状鋼板に錆が発生するとその外観が損なわれ、コイル状鋼板を製品として出荷することができなくなる。また、冷却水の散布を行わなくても、特に冬から春先にかけての外気温が低い季節は、コイル状鋼板が結露する可能性もあり、結露による錆発生の可能性もある。
【0010】
そこで、以下の特許文献1ないし特許文献4には、鋼板の冷却に関して様々な方策が開示されている。例えば、特許文献1に記載の技術のように、コイルを構成する熱延鋼板の表面が濡れないようにするために、コイル周囲の温度と湿度を測定し、コイルを冷却するための冷却水の噴霧量を制御する熱延コイルの水冷方法が提案されている。
【0011】
一方特許文献2に記載の技術では、コイル1個に対し、冷却ノズルをその幅方向両端面に配置し、両側からそれぞれの冷却ノズルを用いて冷却する熱延コイルの冷却方法も提案されている。
【0012】
さらに、特許文献3に記載の技術のように、熱間圧延ラインに設置される巻取り機で巻き取られた後のコイル状鋼板を冷却するに際し、コイル状鋼板の幅方向両端部に冷却ミストを間欠的に吹き付けて冷却を行うコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法も提案されている。
【0013】
また、特許文献4に記載の技術は、熱間圧延ラインに設置される巻取り機で巻き取られた後の金属コイルを冷却するに際し、ミストノズルから噴射されたミストをダクト入口に設置されたフィルタに噴射する。この際、フィルタによりダクト内にミストが入らないようにし、送風機により、外気を混合させて湿潤空気をコイルに吹き付けて冷却を行う金属コイルの冷却方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭57-134207号公報
【特許文献2】特開平5-177240号公報
【特許文献3】特開2013-188753号公報
【特許文献4】特開2011-167736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載された熱延コイルの水冷方法は、コイル置き場の天井という、コイルからすれば遠方からコイルに冷却水を散布している。そのため、コイルの冷却能力が低くなり、効率的なコイルの冷却ができないという問題点がある。
【0016】
また、特許文献2に記載された熱延コイルの水冷方法は、1つの熱延コイルに対し、冷却ノズルを熱延コイルの幅方向両端面に1個ずつ用いているだけである。そのため、冷却ノズルから出た微小液滴(以下、このような「微少液滴」を適宜「ミスト」と表す。)が熱延コイルの幅方向両端面に十分に広がらない。すなわち、冷却面積が狭いことから、熱延コイルの全体を冷却することが困難である。その結果、特許文献2に記載された熱延コイルの水冷方法は、コイルの冷却効率が低下するという問題がある。
【0017】
ここで、コイル状鋼板に対する冷却能力を向上させるためには、単位面積当たりのミストの噴射流量(以下、適宜「水量密度」と表す。)を増加させることが重要である。しかしながら、この水量密度を増加させると、コイル状鋼板周囲の湿度の増加やコイル表面の温度の低下といった原因でミストが蒸発しにくくなる。
【0018】
そのため、蒸発しないミストがコイルに付着しやすい。特に、コイル状鋼板の表面の温度が100℃未満の場合は、付着したミストが蒸発しにくいため、コイル表面が濡れた状態となりやすく、錆の発生を誘発しかねない。
【0019】
このような水冷時のコイル表面の濡れを防止するには、粒子径が小さなミストを用いることが有効であると考えられる。これは、ミストの粒子径が小さい方が蒸発に必要な熱量が小さく、蒸発しやすいからである。
【0020】
一方で、ミストの粒子径を微小化すると、コイル状鋼板における周囲の風の影響を受けてミストが拡散してしまうことも考えられ、ミストが冷却対象となるコイル状鋼板から外れやすい。またミストノズルからコイルへの噴射距離が短くなってしまうため、そもそも噴射されたミストがコイル状鋼板に届かない可能性が生じ得るという問題がある。
【0021】
ここで、特許文献3に記載されたコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、常に冷却ミストをミストノズルからコイル状鋼板に噴射する。それとともに、その冷却ミストを気流に乗せてコイル状鋼板の幅方向端部に間欠的に吹き付けるために送風機の首振りを併用する方法である。
【0022】
しかしこの方法でも、上述した問題から適切にコイル状の熱延鋼板の冷却が行われない可能性がある。しかも却って冷却対象となっているコイル状鋼板以外の周囲の湿度増加を招きかねない。特に、上記コイル状の熱延鋼板の冷却方法によって冷却完了されたコイルは結露するため、コイルに錆が発生するリスクが増加する。
【0023】
また、特許文献4に記載された金属コイルの冷却方法では、ミストは、フィルタを通して金属コイルに到達するが、ミストの粒径によっては、ミストが十分に気化せず、フィルタに水等が付着・凝縮し濡れた状態となる。また、濡れたフィルタに空気を通すことにより冷却床が加湿される場合がある。
【0024】
さらに、ミストの気化熱により空気の温度が下がることから、多湿・低温の空気になり、ダクト内やコイル表面での結露リスクが増加する。確かに、湿度・温度測定を行い、それを元にミストノズルのオン・オフを制御しているが、ミストノズルからのミスト噴射を停止した後も、フィルタが濡れる場合があるため、制御応答性が悪く、結露リスクを十分に抑制できない。
【0025】
また、ダクトが長く、経路が複雑になると、ダクト内に湿度分布ができるため、湿度管理が煩雑になる。そのため、湿潤空気が通過するダクトには防錆処理が必要となり、設置・メンテナンスの負荷が高い。
【0026】
本発明は、上述したような点に着目してなされたもので、コイル状鋼板の表面の濡れ抑制とコイル状鋼板の冷却能力向上との両立を可能とし、コイル状鋼板に錆を発生させず、しかも高能率でコイル状鋼板の冷却を行うことができるコイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法は、(1)冷却ミスト発生装置により冷却ミストを噴射するステップと、冷却ファンが、冷却ミスト発生装置により噴射された冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気を吸引して冷却床に載置されているコイル状鋼板に送風するステップとを備え、冷却ミスト発生装置は、冷却ファンによるコイル状鋼板への送風方向の後方に配置されている。
【0028】
また、本発明の実施の形態における上記(1)のコイル状鋼板の冷却方法において、(2)冷却ミスト発生装置により噴射される冷却ミストは、その粒子径が40μm以下である。
【0029】
さらに、本発明の実施の形態における上記(1)または(2)のコイル状鋼板の冷却方法では、(3)冷却ファンがコイル状鋼板に送風するステップの後に、冷却ファンによってコイル状鋼板に送風された気体を含む、コイル状鋼板の周囲の空気を冷却床外に排気するステップを備えている。
【0030】
また、本発明の実施の形態における上記(1)ないし(3)のコイル状鋼板の冷却方法は、(4)コイル状鋼板と冷却床の両方、或いは、いずれかの状態を検出する測定装置を備え、測定装置が測定した条件を基に、冷却ミスト発生装置と冷却ファンの両方、或いは、いずれかを制御するステップを備える。
【0031】
本発明の実施の形態における上記(1)ないし(4)のコイル状鋼板の製造方法は、(5)冷却ミスト発生装置により冷却ミストを噴射するステップと、冷却ファンが、冷却ミスト発生装置により噴射された冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気を吸引して冷却床に載置されているコイル状鋼板に送風するステップと、を備え、冷却ミスト発生装置は、冷却ファンによるコイル状鋼板への送風方向の後方に配置されているコイル状鋼板の冷却方法を有している。
【0032】
本発明の実施の形態における上記(5)のコイル状鋼板の製造方法は、(6)熱延鋼板、或いは、冷延鋼板を製造することを特徴とする。
【0033】
本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却設備は、(7)冷却ミストを噴射する冷却ミスト発生装置と、冷却ミスト発生装置により噴射された冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気を吸引して冷却床に載置されているコイル状鋼板に送風する冷却ファンと、を備え、冷却ミスト発生装置は、冷却ファンによるコイル状鋼板への送風方向の後方に配置されている。
【0034】
また、本発明の実施の形態における上記(7)のコイル状鋼板の冷却設備において、(8)冷却ミスト発生装置が噴射する冷却ミストの粒子径は、40μm以下である。
【0035】
さらに、本発明の実施の形態における上記(7)または(8)のコイル状鋼板の冷却設備は、(9)冷却ファンによってコイル状鋼板に送風された気体を含む、コイル状鋼板の周囲の空気を冷却床外に排気する排気装置を備える。
【0036】
本発明の実施の形態における上記(7)ないし(9)のいずれかに記載のコイル状鋼板の冷却設備は、(10)さらに、コイル状鋼板と冷却床の両方、或いは、いずれかの状態を検出する測定装置を備えている。
【0037】
本発明の実施の形態における上記(7)ないし(10)のいずれかに記載のコイル状鋼板の冷却設備は、(11)測定装置が測定した条件を基に、冷却ミスト発生装置と冷却ファンの両方、或いは、いずれかを制御する制御装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
このような本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備であれば、コイル状鋼板の表面の濡れ抑制とコイル状鋼板の冷却能力向上との両立を可能とし、コイル状鋼板に錆を発生させず、しかも高能率でコイル状鋼板の冷却を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却を行う建屋の全体を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却を行う建屋を正面から示す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法の実施例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する内容については、冷却の対象となるコイル状鋼板が熱延鋼板であっても冷延鋼板であっても良く、いずれかに限定されるものではない。従って以下の説明においては特段区別することなく、単に「コイル状鋼板」と表す。
【0041】
また、以下に説明する本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法は、熱間圧延ラインや冷間圧延ラインその他、酸洗や焼鈍設備に付帯あるいは設置される巻取り機で巻き取られたコイル状鋼板Sが形成され、冷却床に置かれて冷却される際に用いられるものである。
【0042】
図1は、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却を行う建屋Bの全体を示す斜視図である。
図1においては、建屋Bの内部を明らかにするために、建屋B自体は破線で示している
。
【0043】
一方、
図2は、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却を行う建屋Bを正面から示す説明図である。なお
図2においては、
図1とは異なり建屋Bは実線で示されている。また、後述する冷却ファンからコイル状鋼板Sに向けて送られた空気の流れが破線で示されている。
【0044】
また、本発明の実施の形態において建屋Bは、
図1や
図2に示すように四角形状に形成されている。但し、建屋Bの構造はどのようなものであっても良く、
図1等に示された構造に限定されない。
【0045】
図1に示すように、建屋Bは、冷却の対象となるコイル状鋼板Sを置く冷却床CFと当該冷却床CFの四方を囲む壁と冷却床CFに対向する位置に設けられる天井Rとで構成されている。なお、
図1等においては、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却方法を説明するに当たって不要な構造物については、その描画を省略している。
【0046】
また、
図1等においては、建屋Bの床面全てを、コイル状鋼板Sを冷却するための冷却床CFとして使用している。但し、建屋Bにおいてどの程度の領域を冷却床CFとして使用するかは任意に設定することができる。さらに建屋B自体もコイル状鋼板Sを冷却するための専用の建屋でなくても構わない。
【0047】
冷却床CFにはコイル状鋼板Sが配置されている。これは、当該建屋Bの内部においてコイル状鋼板Sを所望の温度となるまで冷却するために置かれているものである。
図1においては、1列5つのコイル状鋼板Sが3列冷却床CFに置かれている。但し、冷却床CFにどのような数のコイル状鋼板Sを置くかについては、運用によって任意に設定することができる。
【0048】
なお、コイル状鋼板Sを後述する冷却ミスト発生装置1や冷却ファン2といった冷却設備Cの間に複数個並べて置く場合、コイル状鋼板S同士は、例えば、1~2m程度離して配置することが好ましい。
【0049】
図1に示す冷却床CFには、コイル状鋼板Sを巻き取る際の回転軸方向、すなわち、コイル中心軸が図面において左右方向となるように置かれた状態が示されている。一方、
図2に示す冷却床CFには、当該中心軸が図面における左右方向と直交する方向となるように示されている。すなわち、冷却床CFにコイル状鋼板Sを置く際の向きについては、いずれの向きであっても良い。
【0050】
また、図面の描画上、冷却床CFに置かれているコイル状鋼板Sの大きさについては、いずれのコイル状鋼板Sも同じ大きさとしているが、冷却の対象となるコイル状鋼板Sの大きさについてはどのような大きさであっても良い。また、上述したように、コイル状鋼板Sは、コイル状熱延鋼板であってもコイル状冷延鋼板であっても良い。
【0051】
図1において、コイル状鋼板Sの中心軸と平行となる位置に、すなわち、コイル状鋼板Sが配置されている列の両側に、コイル状鋼板Sを冷却するための冷却設備Cが設けられている。冷却設備Cは、少なくとも冷却ミスト発生装置1と、冷却ファン2とから構成される。
【0052】
まず冷却ミスト発生装置1は、コイル状鋼板Sを冷却するために用いる冷却ミストを発生させる。冷却ミストとして使用される液体はどのようなものであっても良いが、冷却床CFにおける作業性、コストや入手の容易さ等から、水が好適に使用される。
【0053】
冷却ミスト発生装置1において冷却ミストを発生させる方式は、一流体方式でも二流体方式でもその方法を問わない。例えば、二流体方式を採用する場合は、所定の条件を勘案した上で冷却ミストを構成する気体の体積と冷却液との体積比率(すなわち「気水比」)を10~1000の範囲に設定することができる。
【0054】
冷却ファン2は、後述するように冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストが蒸発することにより冷却された空気を吸引して冷却床CFに置かれているコイル状鋼板Sに送風する。従って冷却ファン2からの風がコイル状鋼板Sに送られるように、冷却ファン2は、冷却ミスト発生装置1の前方、すなわち、風下に配置されることになる。
【0055】
冷却ファン2はコイル状鋼板Sに対して、例えば、1m程度離した位置に設置される。冷却ファン2とコイル状鋼板Sとを接近させすぎると、冷却ファン2が冷却対象となるコイル状鋼板Sの熱で破損する恐れがあるためである。
【0056】
一方、冷却ファン2と冷却ミスト発生装置1との間隔は、冷却ミストが蒸発し、かつ、冷却ミストが拡散して冷却ファン2に吸引されないことを避けることができる程度の間隔が望ましい。
【0057】
すなわち、ミストが蒸発する前にファンに吸引され、コイル状鋼板Sに到達すると、コイル状鋼板Sの結露リスクが高くなる。一方、冷却ファン2と冷却ミスト発生装置1の距離が離れ過ぎると、蒸発したミストの一部が冷却ファン2に吸引されず、周囲に拡がるため、ミストの蒸発効果を有効に利用できない。そのため、ミスト粒径によって好適な距離は変化し、粒径が小さくなるほど近距離になることが好ましい。従って、冷却ファン2と冷却ミスト発生装置1の距離に応じ、ミスト粒子径を制御することが重要である。この点については後述する。
【0058】
さらに、冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストは、冷却ファン2に吸引される前に蒸発するようにされている。つまり、冷却ファン2は冷却対象であるコイル状鋼板Sに対して、冷却ミストが蒸発したことにより冷却された空気と周辺空気あるいはガスから成る気体を送風することになる。
【0059】
これは、冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストが蒸発せずに冷却ファン2を介してコイル状鋼板Sに送られると、特に低温時にはコイル状鋼板Sに付着した冷却ミストが元となり錆が発生するリスクが増加するからである。
【0060】
ここでコイル状鋼板Sの抜熱、すなわち冷却は、放射と対流の2種類の熱伝達によって行われる。このうち放射は、放射率とコイル状鋼板Sの表面の絶対温度の4乗と周囲の絶対温度の4乗の差の積で表される。一方対流は、対流熱伝達係数と、コイル状鋼板Sの表面温度と周囲の空気温度の差の積で表される。従って高温物の冷却時には放射の影響が大きく、低温時には対流の影響が大きくなる。
【0061】
また、コイル状鋼板Sの冷却所要時間に着目すると、低温時、特に100℃以下から所望の温度まで到達したという冷却完了までの時間が長くなる傾向がある。従って、上述したような低温時の冷却に対する影響が大きい対流による冷却能力向上が重要である。
【0062】
対流の冷却能力向上には、上述した条件のうち、対流熱伝達係数の向上と、周囲の空気温度低下が有効である。そして対流熱伝達係数の向上には、冷却ファンの設置が効果的であり、周囲の空気温度低下には冷却ミストの噴射が効果的である。
【0063】
このように、冷却ファンによる対流熱伝達係数を増加させることによって、結露水の蒸発速度を大きくすることができるため、コイル状鋼板Sが結露した場合でも錆の発生を抑制できる。
【0064】
一方、冷却ミストが蒸発すると、気化熱により空気の温度が5℃前後低下することが実験により判明した。このように冷却ミスト発生装置による冷却ミストの噴射は、特に低温時の対流の冷却能力向上に寄与する。
【0065】
以上の観点から、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法は、冷却設備Cとして少なくとも冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2を用いることとしている。さらに、上述したような冷却の考え方から、冷却ミスト発生装置1によって噴射された冷却ミストはそのままの状態でコイル状鋼板Sへと送られるのではなく、一旦蒸発させることにより冷却された状態の空気を冷却ファン2を介してコイル状鋼板Sへと送風する。
【0066】
このような冷却方法を用いることによって、冷却ミストがコイル状鋼板Sに付着することによる錆の発生を低減することが可能となる。また併せて、たとえコイル状鋼板Sに結露が生じた場合であっても冷却ファン2から風が送られているのでコイル状鋼板Sの表面が濡れている状態を回避することができる。また、より低温となった空気を冷却ファン2を介してコイル状鋼板Sへと送風するため、コイル状鋼板Sの冷却をより効果的に行うことができる。
【0067】
従って、冷却ミスト発生装置1から噴射される冷却ミストの流量については、冷却ファン2に到達する前に冷却ミストの蒸発が可能となる量が上限となる。冷却ミストの流量が多すぎるとコイル状鋼板S周辺の相対湿度が増加し、相対湿度が100%になると冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストが蒸発しきれない。
【0068】
一方で、冷却ミストの流量が小さいと冷却ミストが蒸発することによる気化熱による空気の冷却が不十分となることから、冷却能力が不足する。そのため、冷却ファン2の送風量と冷却ミスト発生装置1による冷却ミストの噴射量のバランスを調整し、冷却床CFにおける相対湿度を制御する必要がある。
【0069】
このように本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法は、冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストが蒸発することにより冷却された空気を冷却ファン2を介してコイル状鋼板Sに送ることでコイル状鋼板Sの冷却を行うものである。そのため、上述した通り冷却ミストの粒子径に応じた冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との距離を採用することが好ましい。
【0070】
まず冷却ミストの粒子径、すなわち、冷却ミスト発生装置1から噴射される液滴の径は、40μm以下であることが望ましい。冷却ミストの粒子径が40μm以下であれば、概ね1秒程度で冷却ミストが蒸発する。そして冷却ミストの粒子径が40μmの場合、冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との距離は、概ね1.5m±0.5m程度とすることが望ましい。
【0071】
一方で、冷却ミストの粒子径が大きいほど、冷却ミストの蒸発に要する時間が長くなる。そのため、冷却ミストの粒子径が40μmよりも大きい場合、冷却ミストの蒸発効率が悪く、気化熱による空気の冷却が不十分となる。そして、冷却ミストが蒸発せずに冷却ファン2に吸引された場合、コイル状鋼板Sに冷却ミストが蒸発しないまま付着する可能性が高くなり、錆発生のリスクが増加する。
【0072】
これに対して、例えば、冷却ミストの粒子径が20μmの場合、冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との距離は、概ね1m±0.5m程度とすることが望ましい。もちろん冷却ミストの粒子径が20μm以下であっても良く、この場合は冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との距離は、冷却ミストの粒子径が20μmの場合よりも接近することになる。
【0073】
このように冷却ミストの粒子径と冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2の距離との間には相関関係が見られる。従って、冷却ミストの粒子径が20μm~40μmの場合、冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との距離は、概ね0.5m~2m程度となる。
【0074】
なお、このように冷却ミストの粒子径については、上述したような大きさが望ましいが、蒸発のしやすさを考慮しすぎると、冷却ミストの噴射量が少なくなり、必然的に蒸発量も少なくなる。そのため、このような場合には粒子径の小さい冷却ミストを多量に噴射することが望ましい。
【0075】
さらに、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却方法においては、冷却ミスト発生装置1による冷却ミストの噴射と冷却ミストの噴射停止とは間欠的に行われ、それぞれ一定期間交互に繰り返されるように制御される。そしてコイル状鋼板Sの目標冷却時間に応じ、噴射間隔を設定すれば良い。
【0076】
このように冷却ミストの噴射と噴射停止をそれぞれ一定期間交互に繰り返すことにより、噴射を続けた場合に比べてコイル状鋼板Sの周囲における湿度の増加を抑制できる。より好適には、コイル状鋼板Sの温度が低下すると結露のリスクが増加するため、冷却ミストの噴射間隔を長めに設定することで、錆を抑制しやすくすることができる。
【0077】
また、コイル状鋼板Sが十分低温になり冷却が完了した場合には、ランニングコストと結露リスクの観点から、冷却ミスト発生装置1による冷却ミストの噴射を停止することが好ましい。
【0078】
ここで、冷却ミストが蒸発すると、特にコイル状鋼板Sの周囲における湿度が増加することになる。湿度が高くなると、コイル状鋼板Sが低温の時には特に結露し、錆が発生しやすくなる。そのため、湿度の増加は望ましくない。
【0079】
温かい空気は上昇するため、冷却床CFの天井Rに排気ファンなどを設置し、積極的に冷却床CFの空気を、例えば建屋Bの外に排気することにより、湿度の増加を抑制することが可能である。
【0080】
例えば、冷却床CFの温度が40℃、相対湿度が90%、露点が38℃である場合、コイル状鋼板Sは38℃以下で結露する。従って、冷却により、コイル状鋼板Sの周囲の温度に対してコイル状鋼板Sの表面温度が2℃低下するか、相対湿度が100%になるとコイル状鋼板Sの表面が結露するため、冷却床CFの周囲の空気を排気して湿度を低下させる必要がある。
【0081】
そこで本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却設備Cにおいては、建屋Bの天井RにルーフファンRFを設けている。すなわち
図1や
図2に示すように、例えば、建屋Bには3つのルーフファンRFが設けられている。当該ルーフファンRFをどのような数設けるかについては、自由に設定することができる。また、
図1に示すように天井Rに一列になるようにルーフファンRFが設置されているが、この配置位置についても自由に設定可能である。
【0082】
また、上述したように、コイル状鋼板Sの冷却時に温められた空気がコイル状鋼板Sの上方に浮上することを考慮すると、排気に関して本発明の実施の形態において説明するな、天井R1に設けられているルーフファンRFを用いなくても良い。すなわち、冷却床CFに並んだコイル状鋼板Sの上端よりも上方に排気装置が設置されていれば良い。
【0083】
図2には、これら冷却ミスト発生装置1、冷却ファン2、及び、ルーフファンRFからなる冷却設備Cを稼働させた場合の風の動きが破線で示されている。
図2に示すように、コイル状鋼板Sが列状に置かれている両側に冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2が配置されている。
【0084】
冷却ミスト発生装置1から噴射された冷却ミストは、冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との間で蒸発することにより周囲の空気を冷却する。冷却ファン2はこの冷却された空気を吸引して周囲の気体ともども吹き出してコイル状鋼板Sへと送る。冷却ファン2からコイル状鋼板Sに向けて送られた気体は、
図2に破線の矢印で示されているように、冷却床CF周囲の空気を含めてルーフファンRFから建屋Bの外部に排気される。
【0085】
さらに、これまで説明してきた冷却ミスト発生装置1や冷却ファン2の制御に当たって、測定装置3を用いて建屋B内の状況を把握して得られた情報を基にすることができる。
図1や
図2においては、建屋Bの壁に測定装置3の一例として、温湿度計を設置した状態を示している。
【0086】
このように温度と湿度を把握できれば、露点を推定することができる。これにより、コイル状鋼板Sに対する結露の発生リスクを把握し、例えば、図示しない制御装置により冷却ミスト発生装置1や冷却ファン2等の冷却設備Cの制御を行うことができる。また、温湿度計によって把握された温度等の情報を基に、冷却床CFから結露発生前にコイル状鋼板Sを搬出することも可能となる。
【0087】
なお、コイル状鋼板Sは冷却床CFに多数配置されることから、温度測定のために用いる測定装置3としては、例えば、放射温度計の使用が望ましい。また、2次元放射温度計を用い、1台で複数のコイル状鋼板Sの温度測定を行っても良い。測定位置は、コイル状鋼板Sの中心軸に直交する面、すなわち、その幅端部で構成される面の測定が望ましい。
【0088】
なぜならば、コイル状鋼板Sのうち幅端部で構成される面は、半径方向は鋼板が積層された状態となっており、熱伝導が悪いからである。また、最外周や最内周は巻き緩んでいる場合もあり、さらに熱伝導率が悪くなる場合がある。このように熱伝導率が悪いと、内部からの温度が伝わりにくいため、温度を低めに見積もる必要が出てくるなど、正確な測定が困難である。そこでこのような弊害がなく確実にコイル状鋼板Sの温度を測定することができる幅端部で構成される面を測定する。
【0089】
また、ここでは測定装置3として温湿度計の例を挙げた。但し、例えば、結露発生に関しては、測定装置3としてビデオカメラを設置して、コイル状鋼板Sを直接観察することによって、結露発生有無を判断しても良い。
【0090】
次に、これまで説明してきた冷却ミスト発生装置1等の冷却設備Cを用いたコイル状鋼板Sの冷却方法について、その実施例を説明する。
図3は、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板Sの冷却方法の実施例を示す表である。
【0091】
図3の表に示すように、ここでは縦に実施例が8つ、これらの実施例を比較するための比較例を5つ挙げている。また横には、「冷却方法」、「ファン台数(台/列)」、「コイル個数(個/列)」、「ルーフファン使用」、「ミスト粒子直径(μm)」、「フィルタ(有無)」、「間欠パターン」、「放射温度計設置」、「冷却床温・湿度計設置」、「冷却床平均温度(℃)」、「平均相対湿度(%)」、及び、「コイル回収温度(℃)」の12の条件が記載されている。一方「冷却時間」、及び、「錆」の2つの項目は、実施の結果を示している。
【0092】
まず「冷却方法」としては2種類あり、実施例においてはその全てにおいて冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2を用いた冷却方法を採用している。一方、比較例については基本的に大気放冷を行い、冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2は用いていない。但し、比較例5は冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2を用いてその間にフィルタを設けた例である。
【0093】
従って、「ファン台数(台/列)」の条件は全ての実施例及び比較例5に関係する条件である。この条件は、冷却ファン2がコイル状鋼板Sを複数並べて1列とした場合に、当該1列に何台の冷却ファン2を配置しているかを示している。多くは「2台」であるが、実施例2については「1台」とし、実施例8については「4台」としている。
【0094】
「ルーフファン使用」は、コイル状鋼板Sの冷却に当たって、天井Rに設けられたルーフファンRFを使用したが否かを示している。比較例においては、比較例4がルーフファンRFを使用し、比較例5ではルーフファンRFを使用していない。一方、実施例においては、実施例5のみ使用せず、その他の実施例においてはルーフファンRFが使用されている。
【0095】
「ミスト粒子直径(μm)」は、冷却ミスト発生装置1から噴射される冷却ミストの粒子径について設定する条件である。
図3の表に明らかなように、多くの場合「20μm」の粒子径としたが、比較例5、及び、実施例3については「40μm」、実施例4については「50μm」としている。
【0096】
「フィルタ(有無)」は、冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2との間にフィルタが配置されているか否かを表している。ここでは、比較例5においてのみフィルタが配置された状態であり、その他の比較例及び全ての実施例においては、フィルタは配置されていない。
【0097】
「間欠パターン」は、冷却ミスト発生装置1から冷却ミストを噴射するに当たって、噴射と停止を交互に繰り返すパターンを示し、比較例5及び各実施例において「噴射時間(s)」と「停止時間(s)」とが設定されている。すなわち、実施例7以外は、「噴射時間」が「20s」であり、「停止時間」は「10s」である。一方実施例7については、「噴射時間」も「停止時間」も「20s」であり、「停止時間」が他の実施例よりも長く設定されている。
【0098】
なお、「ミスト粒子直径(μm)」、「間欠パターン」、次に説明する「放射温度計設置」、「冷却床温・湿度計設置」の各条件は、比較例5以外の比較例1ないし比較例4では大気放冷であって冷却ミスト発生装置1及び冷却ファン2を用いていない。従って、当該条件については示されていない。
【0099】
「放射温度計設置」は、上述した測定装置3として建屋B内に放射温度計を設置したか否かを示すものである。比較例では、比較例5を除きいずれも放射温度計を設置していない。これに対して実施例については、実施例6を除き全ての実施例において設置している。
【0100】
「冷却床温・湿度計設置」は、冷却床CFに温・湿度計を設置したか否かを示している。実施例7を除き全ての実施例において設置している。一方、比較例においては、比較例4及び比較例5の場合に冷却床温・湿度計設置が設置され、その他の比較例では設置されていない。
【0101】
「冷却床平均温度(℃)」、「平均相対湿度(%)」、及び、「コイル回収温度(℃)」の各条件については、各実施例、比較例となる実験を行う際の基本的な条件を示している。そして、これらの実験を行うに当たって、以下のような条件を設定している。
【0102】
すなわち、コイル状鋼板Sの冷却開始温度は600℃、コイル状鋼板Sの単位重量は20tоn/個とした。また、コイル状鋼板Sは1列あたり5個とし、冷却床CFの温度は30℃、相対湿度は80%とした。冷却ミストの原料としては水を採用し、その温度は30℃とした。そして最終的にコイル状鋼板Sの冷却はコイル状鋼板Sの表面温度が50℃になった時点で停止した。
【0103】
そこで上述した各種条件のうち、「冷却床平均温度(℃)」、「平均相対湿度(%)」、及び、「コイル回収温度(℃)(冷却停止温度)」の各条件については、実施例、比較例において適宜その値を変更してその変化を把握した。
【0104】
上述した各条件を実施例、比較例ごとに設定し、実験を行った結果が「冷却時間」及び「錆」の項目に示されている。前者は、「冷却時間の短縮効果による効果」を示しており、二重丸、丸、三角、バツの4種に分けてその効果を示している。
【0105】
このうち、二重丸で示されている効果は「コイル状鋼板の大気放冷による冷却時間と比較して、2日を超える冷却時間の短縮効果があった場合」である。丸は「コイル状鋼板の大気放冷による冷却時間と比較して、1.5日超~2日の冷却時間の短縮効果があった場合」を示している。
【0106】
一方、三角は「コイル状鋼板の大気放冷による冷却時間と比較して、1日超~1.5日の冷却時間の短縮効果があった場合」である。バツは「コイル状鋼板の大気放冷による冷却時間と比較して、1日以下の冷却時間の短縮効果があった場合」を示している。
【0107】
次に、「錆」と示されている効果は、「冷却後の錆発生による評価」結果を示すものである。この効果についても上記「冷却時間」の場合と同様、二重丸、丸、三角、バツの4種に分けてその効果が示されている。
【0108】
まず二重丸で示されている効果は「コイル状鋼板の全長、全幅において錆が発生していない」ことを示している。丸は、「コイル状鋼板の全長、全幅の5%未満の面積に錆が発生している」ことを示す。
【0109】
一方、三角は「コイル状鋼板の全長、全幅の10%未満の面積に錆が発生している」ことを示し、バツは「コイル状鋼板の全長、全幅の10%以上の面積に錆が発生している」ことを示している。
【0110】
以上の条件及び結果を見ると、比較例については、錆の発生については二重丸、すなわちコイル状鋼板Sに錆が発生しなかった例もあった。しかし、比較例1ないし比較例4のいずれも冷却ミスト発生装置1等を使用しない大気放冷であり、冷却時間が掛かってしまっている。その結果、これらの比較例においては冷却時間についていずれも「バツ」となっている。
【0111】
上述したように、比較例5は比較例及び実施例の中で唯一フィルタを備えている。比較例5の実施結果を見ると、実施例と同様、冷却ミスト発生装置1等を用いて冷却を行っていることから、「冷却時間」については二重丸の結果が得られた。
【0112】
但し「錆」については比較例2と同様、「コイル状鋼板の全長、全幅の10%以上の面積に錆が発生している」ことを示す「バツ」との結果になった。これは、フィルタを設置したことにより、湿度管理の応答性が低下したものと考えられる。
【0113】
また、比較例5ではルーフファンRFを使用していないことから、適切な排気がなされなかったことから冷却床CFの湿度が増加した(
図3の表における平均相対湿度は、90%となっている)ことも、コイル状鋼板Sの広い面積に錆が発生した要因の1つであると考えられる。
【0114】
これに対して8つの実施例をみると、冷却時間については、冷却ミスト発生装置1等を用いて冷却を行っている。このことから、最低限でも「コイル状鋼板の大気放冷による冷却時間と比較して、1.5日超~2日の冷却時間の短縮効果があった(丸)」という結果を残すことができた。
【0115】
すなわち、まず4つの実施例については二重丸の結果が得られた。一方、残りの4つの実施例については、二重丸とはならず丸との結果となった。丸の結果となった実施例のうち、実施例2については冷却ファン2の台数を各列1台にしたため、実施例3については冷却ミスト発生装置1から噴射される冷却ミストの粒子径を「40μm」としたため、このような結果となったものと考えられる。また、実施例4は実施例3と同様、冷却ミストの粒子径が大きすぎたものと思われる。
【0116】
一方、実施例6については、放射温度計を設置していないものである。この場合、コイル状鋼板Sの温度が不明であったため、コイル状鋼板Sを冷却床CFから回収することが遅くなってしまったことが理由と考えられる。
【0117】
一方、錆の発生に関しては、8つの実施例のうち4つが二重丸だったものの、2つは三角であった。三角であったのは、実施例4と実施例5である。実施例4は、冷却ミスト発生装置1から噴射される冷却ミストの粒子径が他の実施例の場合よりも大きく、上述した好ましい粒子径よりも大きな粒子径であった。
【0118】
すなわち、実施例4の場合は冷却ミストの粒子径が「50μm」と大きく、冷却ミスト発生装置1から噴射された後、冷却ファン2に吸引されるまでの間に、その一部が蒸発せず、そのままコイル状鋼板Sに付着したためであると考えられる。
【0119】
実施例5の場合は、上述した各条件のうち、ルーフファンRFを使用していない。そのため、適切な排気がなされなかったことから冷却床CFの湿度が増加し(
図3の表における平均相対湿度は、90%となっている)、コイル状鋼板Sに錆が発生したものと考えられる。
【0120】
実施例7は、錆の発生に関して丸という結果となった。実施例7では冷却床CFに温・湿度計を設置していない。その結果、ルーフファンRFと冷却ミストの間欠パターンの制御に関する適正化ができず、冷却床CFの湿度が上昇し、その結果コイル状鋼板Sに錆が発生したものと考えられる。
【0121】
一方、実施例1及び実施例8はいずれも、冷却時間、錆の各効果について二重丸との結果を得ることができた。そのため、品質の良いコイル状鋼板を短時間で出荷することができた。また、放射温度計の設置や冷却床に温・湿度計の設置がされることでコイル状鋼板の表面温度や冷却床の温度・湿度の把握により、コイル状鋼板の出荷タイミングの適正化や結露予測が正確に実施でき、さらなる効果を得ることができた。
【0122】
また比較例5と比べても実施例1ないし実施例8ではいずれもフィルタを用いていない。従って、冷却ミスト発生装置1によって噴射されたミストがフィルタに付着し濡れた状態、すなわち多湿の状態のままであることを回避することができたと考えられる。そのため、湿度管理の応答性が良く結露のリスクも抑えられたことから、錆に関する効果も概ねい結果を得ることができた。
【0123】
なお、上述した各実施例ではコイル状鋼板Sの冷却開始温度を600℃としたが、冷却開始温度によりその発明効果が大きく変わるものではない。また、冷却ミスト発生装置1に供給する水の温度については30℃としたが、温度が低いと冷却効果はより高くなる。また、水温が冷却目標温度である50℃を超えると冷却停止温度まで冷却しにくいため、この場合は水温40℃以下が好ましい。
【0124】
以上説明した通り、本発明の実施の形態におけるコイル状鋼板の冷却方法、コイル状鋼板の製造方法、及び、コイル状鋼板の冷却設備を用いることによって、コイル状鋼板の表面の濡れ抑制とコイル状鋼板の冷却能力向上との両立を可能とし、コイル状鋼板に錆を発生させず、しかも高能率でコイル状鋼板の冷却を行うことができる。
【0125】
そして上述した実施例を踏まえて、コイル状鋼板Sの冷却を開始する際に、冷却ミスト発生装置1や冷却ファン2等の冷却設備Cの噴射量や風量等を決定し冷却を行うことによって、より確実な冷却を実行することができる。
【0126】
なお、上述したように、より表面品質要求が厳しい冷延鋼板に対しても、温度や湿度管理をより厳格化することで、本発明を適用できる。
【0127】
さらに、上述した実施例では、コイル状鋼板を5個1列とし、1列に対して1台または2台の冷却装置を設置した。但し、1列あたりのコイル状鋼板の数に応じて、列を分割し、分割した途中に冷却装置を追加して設置しても良い。
【0128】
また例えば、これまでは冷却ミスト発生装置1と冷却ファン2とは別体の装置として説明したが、両者が一体となった構造を備えていても良い。もちろんこの場合であってもファンからコイル状鋼板Sに対して送風される気体は、冷却ミストが蒸発することにより冷却された空気である。
【0129】
なお、これまで説明してきた本発明の実施の形態は、いずれも本発明の一例を示したものである。また、これらの各実施の形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。これらの各実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
1 冷却ミスト発生装置
2 冷却ファン
3 測定装置
B 建屋
CF 冷却床
RF ルーフファン
S コイル状鋼板