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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143812
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】分岐状プロピレン系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/06 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C08F10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042923
(22)【出願日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2022048130
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 美織
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正顕
(72)【発明者】
【氏名】中野 正人
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02Q
4J100AA03P
4J100AA04Q
4J100AA16Q
4J100AA17Q
4J100AA19Q
4J100CA01
4J100CA03
4J100CA04
4J100CA10
4J100CA11
4J100DA00
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA19
4J100DA36
4J100DA42
4J100DA49
4J100FA10
4J100FA19
4J100JA11
4J100JA58
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】成形加工に必要な溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れる分岐状プロピレン系重合体を提供する。
【解決手段】プロピレンと、エチレン及び炭素数4以上のαオレフィン0~11mol%からなる分岐状プロピレン系重合体であって、下記特性(1)~(4)を有する、分岐状プロピレン系重合体。特性(1):MFRが0.1g/10分~100g/10分である;特性(2):Mz/Mwが2.5~4.0である;特性(3):分岐指数g’(100万)が0.60~0.75である;特性(4):動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)kJ/molとMFRとが下記の式(1)を満たす。[式(1):Ea≧-12.5×log(MFR)+66]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンと、エチレン及び炭素数4以上のαオレフィン0~11mol%からなる分岐状プロピレン系重合体であって、下記特性(1)~(4)を有する、分岐状プロピレン系重合体。
特性(1):温度230℃、2.16kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分~100g/10分である。
特性(2):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が2.5~4.0である。
特性(3):3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、絶対分子量Mabsが100万の分岐指数g’(100万)が0.60~0.75である。
特性(4):動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)kJ/molとMFRとが下記の式(1)を満たす。
Ea≧-12.5×log(MFR)+66 式(1)
【請求項2】
さらに下記特性(2-2)を有する、請求項1に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(2-2):GPCによって得られる積分分子量分布曲線において、分子量が200万以上の成分の割合(W200万)と分子量が100万以上の成分の割合(W100万)の比(W200万/W100万)とMFRとが下記の式(2)を満たす。
(W200万/W100万)<-0.05×log(MFR)+0.34 式(2)
【請求項3】
さらに下記特性(5)及び(5-2)を有する、請求項1又は2に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(5):13C-NMRで測定するメソトライアッド分率が95.0%以上、99.0%未満である。
特性(5-2):異種結合(2,1結合)量が0mol%~0.30mol%、及び異種結合(1,3結合)量が0mol%~0.25mol%の範囲である。
【請求項4】
さらに下記特性(6)を有する、請求項1又は2に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(6):13C-NMRで測定する長鎖分岐数が0.1個/1000モノマー~0.5個/1000モノマーである。
【請求項5】
さらに下記特性(7)を有する、請求項1又は2に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(7):o-ジクロロベンゼンによる昇温溶出分別測定で得られる溶出曲線において、40℃以下の温度で溶出する成分の量が0.1質量%~2.5質量%である。
【請求項6】
さらに下記特性(8)を有する、請求項1又は2に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(8):歪速度(dε/dt)が1.0/秒での歪硬化度が0.70~2.50である。
【請求項7】
さらに下記特性(9)を有する、請求項1又は2に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(9):多分岐指数が0.20~1.00である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐状プロピレン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリプロピレンに分岐構造を導入することにより、比較的高い溶融張力の素材が求められるシート成形、ブロー成形、熱成形、発泡成形等への適性を高める検討が多く行われている。
最近になって、ポリプロピレンに分岐構造を導入する手法としては、主としてメタロセン触媒を利用したマクロモノマー共重合法が提案されている。マクロモノマー共重合法による分岐状ポリプロピレンは、架橋助剤を用いてパーオキサイド変性した架橋ポリプロピレンと比べて、過度に架橋した成分によるゲルの発生や、架橋により高分子量化した成分による延展性の悪化等の問題点が少ないといった利点がある。
【0003】
そのようなマクロモノマー共重合法による分岐状プロピレン系重合体としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン及び、所望により、1種以上のコモノマーから本質的に成るポリオレフィン組成物であって、前記ポリオレフィン組成物の全コモノマー含有率が0~20mol%であり、そしてさらに、前記ポリオレフィン組成物の低分子量領域に対する重量平均枝分れ指数g’が0.93未満である、ポリオレフィン組成物が開示されている(特許文献1参照)。また、(a)温度230℃において測定した荷重5.0kgでのメルトインデックスMI(g/10分)と荷重2.16kgでのメルトインデックスMI2.16(g/10分)との比MI/MI2.16と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnとが、式
MI/MI2.16≧0.240×Mw/Mn+3.1 ・・・(I)
の関係を満たし、また(b)温度230℃において測定した溶融張力MS(g)と、テトラリン溶媒中、温度135℃において測定した極限粘度〔η〕(dL/g)とが、式
logMS≧3.17×log〔η〕-0.68 ・・・(II)
の関係を満たし、かつ該極限粘度〔η〕が0.1~15.0dL/gの範囲にあるプロピレン単独重合体が開示されている。得られた分岐状プロピレン系重合体は、溶融強度や溶融張力が高くなることが示されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、4.0以下の多分散性及び90℃を超える融点を有する分枝ポリプロピレン組成物であって、前記分枝ポリプロピレン組成物の重量平均分枝指数gが0.95未満である組成物が開示されている。得られる分岐状プロピレン系重合体は改良された溶融強度を示すことが示されている(特許文献3参照)。
さらに、特定の2種のメタロセン化合物を含む触媒、具体的には、rac-SiMe[2-Me-4-Ph-lnd]ZrC1とrac-SiMe[2-Me-4-Ph-lnd]HfC1等のメタロセン化合物と、メチルアルミノキサン(MAO)を担持したシリカとを組み合わせた触媒を用いて、多段重合する方法が開示されている。得られた分岐状プロピレン系重合体は比較的高い溶融張力を示すことが示されている(特許文献4参照)。
【0005】
加えて、下記(1)~(6)の特性を有するプロピレン単独重合体
(1)GPCによって得られる重量平均分子量(Mw)が20万~100万。
(2)GPCによって得られる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Q値)が3.5~10.5。
(3)GPCによって得られる分子量分布曲線の、ピーク位置に相当する分子量の常用対数をTp、ピーク高さの50%高さとなる位置の分子量の常用対数をL50及びH50(L50はTpより低分子量側、H50はTpより高分子量側)とし、α及びβをそれぞれα=H50-Tp、β=Tp-L50と定義したとき、α/βが1.2以上。
(4)13C-NMR分析によって得られるプロピレン単位3連鎖のmm分率が90%以上。
(5)オルトジクロロベンゼンを溶媒として使用した昇温溶出分別(TREF)の測定において、90℃以下の温度で溶出する成分が6.0重量%以下。
(6)プロピレン重合体の13C-NMR分析において、44.0~44.1ppm、44.7~44.8ppm及び44.8~44.9ppmに3つのメチレン炭素(Ca、Cb、Cc)が観測され、31.6~31.7ppmにメチン炭素(Cbr)が観測され、かつ該メチン炭素が全骨格形成炭素1000個あたり0.1個以上である(ただし、全骨格形成炭素とは、メチル炭素以外のすべての炭素原子を意味する)が開示されている。当該プロピレン単独重合体は溶融張力がよいことが示されている(特許文献5参照)。
【0006】
他に、特定の複数のメタロセン化合物を含む触媒を用いて、溶融張力の測定における歪硬化度(λmax)が2.0以上のプロピレン系重合体を製造する方法が開示されている。得られた分岐状ポリプロピレンは溶融張力がよいことが示されている(特許文献6参照)。
【0007】
また、特許文献7には、少なくとも0.15の多分枝指数(MBI)を有するポリプロピレンであって、該多分枝指数(MBI)は、ヘンキーひずみ速度の10を底とする対数(lg(dε/dt))の関数としてのひずみ硬化指数(SHI)の傾きと定義され、dε/dtは変形速度であり、εはヘンキーひずみであり、及び該ひずみ硬化指数(SHI)は180℃において測定され、該ひずみ硬化指数(SHI)は、1~3のヘンキーひずみの範囲内のヘンキーひずみの10を底とする対数(lg(ε))の関数としての引張応力成長関数の10を底とする対数(lg(ηE))の傾きと定義される、ポリプロピレンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001-525460号公報
【特許文献2】特開平10-338717号公報
【特許文献3】特表2002-523575号公報
【特許文献4】特開2001-64314号公報
【特許文献5】特開2007-154121号公報
【特許文献6】特開2009-57542号公報
【特許文献7】特表2009-533540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1~6に開示されているマクロモノマー共重合法により得られる分岐状プロピレン系重合体は、溶融張力は高く、シート成形、ブロー成形、熱成形、発泡成形等への適性は高められているものの、依然として、溶融体の延展性は十分でないという問題がある。
また、特許文献7に開示されている方法により得られる分岐状プロピレン系重合体は、非結晶領域の含量を多くすることで機械的特性はよくなるが、速い歪速度(dε/dt=1.0/秒)での歪硬化度(SHI@1s-1)で示される溶融張力はそれほど高くないため、各種成形性を充分に満足できるものではなかった。
【0010】
本発明の目的は、成形加工に必要な溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れる分岐状プロピレン系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の<1>~<7>に関する。
<1> プロピレンと、エチレン及び炭素数4以上のαオレフィン0~11mol%からなる分岐状プロピレン系重合体であって、下記特性(1)~(4)を有する、分岐状プロピレン系重合体。
特性(1):温度230℃、2.16kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分~100g/10分である。
特性(2):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が2.5~4.0である。
特性(3):3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、絶対分子量Mabsが100万の分岐指数g’(100万)が0.60~0.75である。
特性(4):動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)kJ/molとMFRとが下記の式(1)を満たす。
Ea≧-12.5×log(MFR)+66 式(1)
<2> さらに下記特性(2-2)を有する、前記<1>に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(2-2):GPCによって得られる積分分子量分布曲線において、分子量が200万以上の成分の割合(W200万)と分子量が100万以上の成分の割合(W100万)の比(W200万/W100万)とMFRとが下記の式(2)を満たす。
(W200万/W100万)<-0.05×log(MFR)+0.34 式(2)
<3> さらに下記特性(5)及び(5-2)を有する、前記<1>又は<2>に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(5):13C-NMRで測定するメソトライアッド分率(mm)が95.0%以上、99.0%未満である。
特性(5-2):異種結合(2,1結合)量が0mol%~0.30mol%、及び異種結合(1,3結合)量が0mol%~0.25mol%の範囲である。
<4> さらに下記特性(6)を有する、前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(6):13C-NMRで測定する長鎖分岐数が0.1個/1000モノマー~0.5個/1000モノマーである。
<5> さらに下記特性(7)を有する、前記<1>~<4>のいずれか一項に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(7):o-ジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、40℃以下の温度で溶出する成分の量が0.1質量%~2.5質量%である。
<6> さらに下記特性(8)を有する、前記<1>~<5>のいずれか一項に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(8):歪速度(dε/dt)が1.0/秒での歪硬化度(SHI@1s-1)が0.70~2.50である。
<7> さらに下記特性(9)を有する、前記<1>~<6>のいずれか一項に記載の分岐状プロピレン系重合体。
特性(9):多分岐指数(MBI)が0.20~1.00である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形加工に必要な溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れる分岐状プロピレン系重合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間を説明する図である。
図2図2は、横軸にMFRの対数log(MFR)をとり、縦軸にW200万/W100万をとり、各実施例及び比較例で得られた分岐状プロピレン系重合体のデータをプロットしたグラフである。
図3図3は、積分分子量分布曲線の一例を示す図である。
図4図4は、横軸にMFRの対数log(MFR)をとり、縦軸にEaをとり、各実施例及び比較例で得られた分岐状プロピレン系重合体のデータをプロットしたグラフである。
図5図5は、横軸にMFRの対数log(MFR)をとり、縦軸に230℃における最高巻取速度(MaxDraw)をとり、各実施例及び比較例で得られた分岐状プロピレン系重合体のデータをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、分岐状プロピレン系重合体の延展性を向上させるためには、中~高分子量領域に多数の分岐鎖が導入された分子構造を有する多分岐分子を含有させる一方で、緩和時間が極端に長い超高分子量域成分を減らすことが好ましいとの設計思想を見出した。本発明者らは、さらに適切な分岐特性の指標として動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)とMFRとの関係で特定したところ、成形加工に必要な流動性と溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れた分岐状プロピレン系重合体を得ることに成功した。
【0015】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、プロピレンと、エチレン及び炭素数4以上のα-オレフィン0~11mol%からなる分岐状プロピレン系重合体であって、下記特性(1)~(4)を有することを特徴とする。
特性(1):温度230℃、2.16kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分~100g/10分である。
特性(2):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が2.5~4.0である。
特性(3):3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、絶対分子量Mabsが100万の分岐指数g’(100万)が0.60~0.75である。
特性(4):動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)kJ/molとMFRとが下記の式(1)を満たす。
Ea≧-12.5×log(MFR)+66 式(1)
【0016】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、前記特性(1)~(4)を有し、従来とは異なる分岐状プロピレンの構造、特に分子量分布と分岐分布を有し、MFR見合いでのEaが高いことから、成形加工に必要な流動性と溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れた分岐状プロピレン系重合体である。
【0017】
分岐状プロピレン系重合体中に緩和しない成分又は緩和時間が長い成分が多く存在する場合には、溶融張力は増大する。一方で、重合体中の多数箇所で、分子鎖の絡み合い点を起点として局所的に配向結晶化が進行し、配向結晶化が不均一になるため、延展性が劣ると考えられる。
本発明では、成形加工に必要な溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れる分岐状プロピレン系重合体の分岐特性を表す指標として、EaとMFRとの関係に着目して特定した。
Eaは分岐数が多い、また、分岐長が長いと大きな数値をもつ指標といわれている。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、前記特性(1)~(4)を有し、従来とは異なる分岐状プロピレンの構造、特に分子量分布と分岐分布を有し、MFR見合いでのEaが高い。これにより、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、中~高分子量領域に多数の分岐鎖が導入された分子構造を有する多分岐分子を含有するが、その一方で、緩和しない成分又は緩和時間が長い成分の含有量が少ない分岐分布を有している、と推定される。上記のように特定されている本発明の分岐状プロピレン系重合体は、ある程度短い緩和時間をもつ成分が多く、極端に長い緩和時間をもつ成分は少ない緩和時間分布を示すため、分子鎖の絡み合い点を起点とする局所的な配向結晶化が起こりにくくなり、配向結晶化の不均一性を抑制することが可能になるため、延展性が向上すると推定される。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において数値範囲を示す上限値と下限値は任意の組合せを採用できる。さらに、本明細書において、各特性の好ましい範囲同士も任意の組み合わせを採用できる。
本発明において、対数は、常用対数の意味、すなわち底を10として表示される。
本発明において、「延展性」は、樹脂が溶融状態で広く薄く均一に、あるいは細く長く均一に伸びることができる性質を意味する。
【0019】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体でもよく、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~20のα-オレフィンコモノマー、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等から選ばれる一種又は二種以上のコモノマーとの共重合体でもよい。
【0020】
I.分岐状プロピレン系重合体の物性
特性(1):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、温度230℃、2.16kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分~100g/10分である。
【0021】
本発明の分岐状プロピレン系重合体において、MFRが小さすぎると、溶融樹脂の流動性が悪くなって、加熱成形が困難になる。そこで、MFRは、0.1g/10分以上であり、好ましくは1.0g/10分以上、より好ましくは3.0g/10分以上である。
一方、MFRが大きすぎると、溶融張力の低下を引き起こす。そこで、MFRは、100g/10分以下であり、好ましくは80g/10分以下、より好ましくは60g/10分以下、更に好ましくは40g/10分以下であり、32g/10分以下であってもよく、30g/10分以下であってもよい。
本発明において、MFRは、分岐状プロピレン系重合体をペレット化し、JIS K7210-1:2014「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法」に準拠して、試験条件:230℃、荷重2.16kgfで測定する値である。なお、ペレット化は、後述の実施例に記載した「造粒」と同様に行うものとする。
MFRは、重合の温度や圧力の変更及び/又は水素その他の連鎖移動剤を重合時に添加することで、調整できる。
【0022】
特性(2):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が2.5~4.0である。
Mz、Mw、数平均分子量(Mn)は、それぞれ重合体の平均分子量を表す指標である。Mzは高分子量側の比重が高くなる平均分子量の指標であり、Mnは低分子量側の比重が高くなる平均分子量の指標であり、Mwはその中間の平均分子量の指標である。また、それぞれの比、Mw/Mn、Mz/Mwはその重合体の分子量分布の広がりの指標である。
【0023】
分岐状プロピレン系重合体において、緩和時間の長い成分が適度な量で存在すること、及び溶融張力の低下を抑制する観点から、Mz/Mwは、2.5~4.0である。本発明の分岐状プロピレン系重合体のMz/Mwの上限は、好ましくは3.6以下であり、より好ましくは3.4以下であり、更に好ましくは3.2以下である。本発明の分岐状プロピレン系重合体のMz/Mwの下限は好ましくは2.6以上であり、より好ましくは2.8以上であり、更に好ましくは2.9以上である。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、以上のような分子量分布特性をもつことで、極端に緩和時間の長い成分を少なくでき、延展性を向上することができると考えられる。
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、GPCによって得られるMwとMnとの比(Mw/Mn)は、3.0~7.0であってもよい。Mw/Mnがこの範囲にあると、極端に緩和時間の長い成分が多くなりすぎることが抑制され、溶融張力が維持される。そこで、本発明の分岐状プロピレン系重合体のMw/Mnの上限は、7.0以下であってよく、6.0以下であってもよく、5.0以下であってもよく、4.5以下であってもよく、4.3以下であってもよい。一方、Mw/Mnの下限は、溶融張力の低下を抑制する観点から、3.0以上であってよく、3.2以上であってもよく、3.3以上であってもよい。
さらに、溶融樹脂の流動性の点から、本発明の分岐状プロピレン系重合体のMwは、15.0万~35.0万であってよく、18.0万~33.0万であってもよく、20.0万~32.0万であってもよい。
【0024】
Mz、Mw、Mn、Mw/Mn、Mz/Mwの値は、いずれもGPCによって得られる。その測定法、測定機器の詳細は以下のとおりである。
・装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
・検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
・カラム:昭和電工社製AT-806MS(3本)
・移動相溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
・測定温度:140℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:0.2mL
測定試料の調製は、以下のように行う。試料とODCB(0.5mg/mLのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間要して前記試料を溶解させ、測定試料を調製する。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図1のように定める。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、あらかじめ作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、いずれも東ソー社製の以下の銘柄である:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々の標品が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解させた溶液を、0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式:[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
・PS:K=1.38×10-4、α=0.7
・PP:K=1.03×10-4、α=0.78
【0025】
分岐状プロピレン系重合体のGPCで測定する平均分子量、分子量分布(Mz、Mw、Mn、Mw/Mn、Mz/Mw)及びこれらのバランスは、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素の量等によって調整できる。
【0026】
特性(2-2):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、GPCによって得られる積分分子量分布曲線において、分子量が200万以上の成分の割合(W200万)と分子量が100万以上の成分の割合(W100万)の比(W200万/W100万)とMFRとが下記の式(2)を満たすことが好ましい。
(W200万/W100万)<-0.05×log(MFR)+0.34 式(2)
W200万/W100万は、高分子量領域の成分量に対するその中でもさらに高分子量な成分量の比である。前記式(2)は、W200万/W100万がMFRの増加に対して負の相関がある関数と考えて、実施例と、実施例と同水準のMFRを有する比較例のデータに基づき、課題を解決できる実施例と課題を解決できない従来技術の比較例を区別するW200万/W100万とMFRとの関係式を近似的に決定した(図2参照)。
前記式(2)を満たすということは、W200万/W100万がMFR見合いで特定の値未満であることを示す。すなわち、分子量100万以上の高分子量の成分量に対して、それよりもさらに高分子量な分子量200万以上の成分量が相対的に少ないことを表す。
MFR見合いでW200万/W100万が上記の範囲にあると、緩和時間の長い成分が多くなりすぎることが抑制され、延展性は維持されると考えられる。よって、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、前記式(2)を満たすことが好ましい。
【0027】
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W100万が1.00質量%以上、9.50質量%以下であってよい。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、高分子量域の成分が存在することにより、溶融張力が増大すると考えられる。そこで、本発明では分子量が100万以上の成分に着目し、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W100万が1.00質量%以上であってよく、2.00質量%以上であってもよい。
一方、高分子量域の成分量が適度に存在することで、緩和時間の長い成分が適量維持され、延展性も維持されると考えられる。そこで、W100万は、9.50質量%以下であってもよく、8.00質量%以下であってもよく、6.00質量%以下であってもよく、5.00質量%以下であってもよい。
【0028】
さらに、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W200万が2.00質量%以下であってよい。
上記と同様に、非常に高い分子量域の成分量が適度に存在することで、極端に緩和時間の長い成分が適度に維持され、延展性も維持されると考えられる。そこで、本発明では分子量が200万以上の成分に着目し、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W200万が、2.00質量%以下であってもよく、1.00質量%以下であってもよく、0.70質量%以下であってもよい。本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W200万が、0.05質量%以上であってよい。
【0029】
さらに、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W200万/W100万が0.25以下であってよく、0.20以下であってよく、0.17以下であってよい。
上記と同様に、W200万/W100万が上記の範囲にあると、緩和時間の長い成分が多くなりすぎることが抑制され、延展性は維持されると考えられる。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、W200万/W100万が、0.02以上であってよく、0.03以上であってよく、0.05以上であってよい。
【0030】
本発明において、W100万及びW200万は、GPCによって得られる積分分子量分布曲線(全量を1に規格化)において、分子量(M)が100万(Log(M)=6.0)、分子量(M)が200万(Log(M)=6.3)までの積分値を、1から減じた値に、100を乗じた値として定義する。積分分子量分布曲線の一例を図3に示す。
本発明において、分岐状プロピレン系重合体のW100万及びW200万は、特性(2)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素の量等によって調整できる。
【0031】
特性(3):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、絶対分子量Mabsが100万の分岐指数g’(100万)が0.60~0.75である。
分岐指数g’は、長鎖分岐構造を有するポリマーの固有粘度[η]brと同じ分子量を有する線状ポリマーの固有粘度[η]linとの比([η]br/[η]lin)によって与えられる。ポリマー分子に長鎖分岐構造が存在すると、同じ分子量の線状ポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなり、固有粘度が小さくなることから、g’は1.0よりも小さな値をとる。また、分岐構造の量が同じでも分岐鎖長が長いと、同じ分子量の線状ポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなり、固有粘度が小さくなることから、g’は1.0よりも小さな値をとる。線状ポリマーは、定義上、1.0となる。
g’の定義は、「Developments in Polymer Charactarization-4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers、1984)に記載されており、当業者にとって公知の指標である。
g’は、3D-GPCを使用することによって、Mabsの関数として得ることができる。
本明細書において、3D-GPCとは、3つの検出器が接続されたGPC装置をいう。
係る3つの検出器は、示差屈折計(RI)、粘度検出器(Viscometer)及び多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)である。
【0032】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、絶対分子量Mabsの重量平均分子量(Mwabs)が100万未満であってよく、また、MwabsからMabs=100万の高分子量領域に分岐構造をもつことが、高い溶融張力をもつ点から好ましいと考えられる。
したがって、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、g’(100万)が0.75以下であり、好ましくは0.74以下、より好ましくは0.72以下である。一方、Mabs=100万の高分子量領域に分岐構造が適度に存在し、導入されている分岐構造の分岐鎖長が適度な長さであると、極端に緩和時間の長い成分が多くなりすぎることが抑制されて延展性も維持できると考えられる。そのため、g’(100万)は、0.60以上であり、好ましくは0.62以上、より好ましくは0.65以上である。
このように、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、高分子量成分に相当するMabs=100万の分子量領域に分岐構造をもつ成分の量が特定範囲で適切に多いことにより、溶融強度が増大し、非線形性粘弾性特性として伸長粘度の測定において歪硬化度(SHI)や溶融張力(MT)が大きくなると考えられる。重合体全体として分岐数が多くても、高分子量成分に相当するMabs=100万の部分に分岐をもつ成分の量が少ないと、SHIは大きくならない。一方で、本発明の分岐状プロピレン重合体は、Mabs=100万に適度な量の分岐構造を有し、さらに導入されている分岐構造の分岐鎖長が長すぎないため、延展性の悪化を抑制できると考えられる。
【0033】
特性(3-2):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、上記特性(3)と同様に、緩和時間の長い成分が適度に存在することで延展性を維持することができると考えられることから、3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、Mwabsでの分岐指数g’(Mwabs)は、0.70~0.90であってよい。
g’(Mwabs)の下限は、0.73以上であってよく、0.75以上であってもよく、その上限は、0.87以下であってよく、0.86以下であってもよい。
【0034】
特性(3-3):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、g’(Mwabs)とg’(100万)とが下記の式(3)を満たしていてもよい。
0.10≦g’(Mwabs)-g’(100万) 式(3)
上記のように、本発明の分岐状プロピレン系重合体では、g’(Mwabs)とg’(100万)の差が大きいことにより、緩和時間が長い成分が多くなり、溶融強度を大きくすることができると考えられる。
さらに、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、3D-GPCによって得られる分子量分布曲線において、g’(Mwabs)とg’(100万)とが下記の式(3-2)を満たしていてもよい。
g’(Mwabs)-g’(100万)≦0.20 式(3-2)
上記のように、本発明の分岐状プロピレン系重合体では、g’(Mwabs)とg’(100万)の差が大きすぎないことが、極端に長い緩和時間をもつ成分が相対的に多くなりすぎず、延展性が良くなる点から好ましいと考えられる。
また、本発明の分岐状ポリプロピレン系重合体は、分岐分布が、上記範囲にあることにより、全体としての溶融強度と延展性のバランスを保つことができる点から好ましいと考えられる。
【0035】
absによる分子量分布及び、各分子量における分岐指数の測定方法は以下の通りである。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続する。
・装置:Waters社製Alliance GPCV2000(RI及びViscometerを装備したGPC)、Technology社製DAWN-E(MALLS)
・カラム:東ソー社製GMHHR-H(S)HT(2本)
・移動相溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン(BASFジャパン社製酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)
・測定温度:140℃
・流量:1mL/分
・試料濃度:1mg/mL
・注入量:0.2175mL
MALLSから得られるMabs、二乗平均慣性半径(Rg)及びViscometerから得られる固有粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、下記の文献を参考にして計算する。
参考文献:
1.Developments in Polymer Characterization, vol.4. Essex: Applied Science; 1984. Chapter1.
2.Polymer, 45, 6495-6505(2004)
3.Macromolecules, 33, 2424-2436(2000)
4.Macromolecules, 33, 6945-6952(2000)
g’は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる固有粘度([η]br)と、別途、線状ポリマーを測定して得られる固有粘度([η]lin)との比([η]br/[η]lin)として算出する。
ここで、線状ポリマーとして市販のホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製ノバテックPP(登録商標)グレード名:FY6)を用いて[η]linを得る。線状ポリマーの[η]linの対数は、分子量の対数と線形の関係があることは、Mark-Houwink-Sakurada式として公知であるから、[η]linは低分子量側や高分子量側に適宜外挿して数値を得ることができる。
【0036】
本発明において、分岐状プロピレン系重合体のg’(100万)及びg’(Mwabs)、g’(Mwabs)-g’(100万)は、特性(2)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素の量等を調整することで、調整することができる。中でも触媒種の選択により調整することが好ましく、特に制限はないが、複数のメタロセン化合物を含む触媒を利用したマクロモノマー共重合法における触媒種の選択により調整することが適当である。
【0037】
中でもg’(Mwabs)-g’(100万)が、式(3)又は式(3-2)を満たすことは、複数の触媒種又は複数のメタロセン化合物による触媒の選択により調整することが好ましい。
例えば、複数の触媒種又は複数のメタロセン化合物による触媒ではなく単一の触媒種又は単一のメタロセン化合物による触媒(併せて以下、単一の触媒ということがある)を使用した場合、式(3)又は式(3-2)を満たさないと考えられる。単一の触媒では、生成するマクロモノマーの分子量分布が狭いため、分子量が大きく異なるマクロモノマーが供給されないことから、式(3)の値は小さくなる、又は式(3-2)の値は大きくなると予想されるからである。参考例2を例に挙げて説明すると(表2参照)、g’(Mwabs)が大きいことから、Mwabsに短い分岐鎖をもつ成分がなく、この触媒が生成するマクロモノマーの分子量は大きいと推定される。一方、g’(100万)が小さいことから、高分子量領域(Mabs=100万)には分子量の大きいマクロモノマーによる分岐成分が存在していると推定される。このように、分子量分布が狭いマクロモノマーを生成する単一の触媒では、例えばg’(Mwabs)-g’(100万)が大きくなり、式(3-2)が満たされない。
【0038】
特性(4):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、動的粘弾性を測定して得られる流動活性化エネルギー(Ea)kJ/molとMFRとが下記の式(1)を満たす。
Ea≧-12.5×log(MFR)+66 式(1)
【0039】
一般に物体の粘性は温度の上昇に伴い減少し、その粘度の対数lnηは絶対温度の逆数1/Tに比例し、下式で表されることが古くから経験的にも知られている(化学辞典 第2版 「アンドレ―ドの粘度式」)。
【0040】
【数1】
B:比例定数
Ea:流動活性化エネルギー
R:気体定数
【0041】
このエネルギー項Eaは、アレニウスの化学反応における反応速度を流動に見立てた場合の活性化エネルギーに相当するもので、流動活性化エネルギーと呼ばれる。
「Eaが高い」とは、「流動させるためのエネルギーが大きい」ということである。分岐状プロピレン系重合体の場合には、分岐量が多かったり、また分岐長が長かったりすると分子鎖の絡み合いが増え、分子鎖を流動させるためのエネルギーが大きくなると考えられる。すなわちEaは、主に重合体中の長鎖分岐の量や長さ等に依存する。
本発明では、成形加工に必要な流動性と溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れた分岐状プロピレン系重合体を得るために、適切な分岐特性を得る指標としてEaに着目し、EaとMFRとの関係を特定した。
【0042】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、溶融時の延展性が向上する分岐特性の点から、Eaは55.0kJ/mol以上であってよく、58.0kJ/mol以上であってもよく、一方で、70.0kJ/mol以下であってよい。
【0043】
前記式(1)を満たすということは、すなわち、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、動的粘弾性を測定して得られるEaが、MFR見合いで特定の値以上にあることを示す。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、Eaが、従来のプロピレン系重合体とは異なるMFR見合いの値になり、すなわち式(1)を満たすものである。
MFR見合いでEaが小さすぎると、分岐量、分岐長、分岐分布を含む分岐特性が不適切となり、溶融時の延展性が悪くなってしまう。そこで、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、前記式(1)を満たす。
より好ましくは、下記の式(1-2)を満たすものであってよい。
Ea≧-12.5×log(MFR)+72 式(1-2)
【0044】
一般に、溶融樹脂の流動性を高くするとEaは低下するため、必要な流動性と、溶融時の延展性の向上に適した分岐特性の指標となるEaを両立したプロピレン系重合体であることが望まれる。優れた流動性を有しながら式(1)を満たす分岐状プロピレン系重合体は、従来の分岐状プロピレン系重合体ではなしえなかった重合体であり、溶融樹脂の流動性と分岐特性が高度にバランスされたものであるといえる。なお、前記式は、EaはMFRの増加に対して負の相関がある関数と考えて、実施例と、実施例と同水準の流動性を有する比較例1、2、3のデータに基づき、課題を解決できる実施例と課題を解決できない従来技術の比較例を区別するEa及びMFRの関係式を近似的に決定した(図4参照)。
【0045】
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、分岐量、分岐長、分岐分布を含む分岐特性が溶融時の延展性の向上に適していることから、MFR見合いでの流動活性化エネルギー(Ea)が高いと推定される。
MFR見合いでEaが高いと、同じMFRの分岐状プロピレン系重合体と比べて成形加工時の押出負荷をより低減できると考えられる。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、上記式(1)を満たすことから、成形加工時の押出負荷を低減しつつ延展性を高めることができる。
【0046】
MFR見合いでのEaの上限値は特に限定されるものではないが、下記の式(1-3)を満たすものであってよく、下記の式(1-4)を満たすものであってもよい。
Ea≦-12.5×log(MFR)+82 式(1-3)
Ea≦-12.5×log(MFR)+77 式(1-4)
【0047】
Eaは、溶融粘弾性の測定において、温度-時間重ね合わせ原理に基づいて、マスターカーブを作成する際のシフトファクター(aT)からアレニウス型方程式により算出される数値である。本発明において、当該マスターカーブは、200℃での溶融複素粘度(単位:Pa・秒)の角周波数(単位:rad/秒)依存性を示す曲線である。Eaは以下に示す方法で求められる。
まず、180℃、200℃、220℃の3つの温度について、それぞれの温度(T、単位:℃)における分岐状プロピレン系重合体の溶融複素粘度-角周波数曲線を求める。温度-時間重ね合わせ原理に基づいて、各溶融複素粘度-角周波数曲線を、200℃での融複素粘度-角周波数曲線に重ね合わせて、それぞれのシフトファクター(aT)を求める。それぞれの温度(T)と、各温度(T)でのaTとから、最小自乗法により[ln(aT)]と[1/(T+273.16)]との一次近似式(下記式(4))を算出する。次に、該一次式の傾きmと下記式(5)とからEaを求める。
ln(aT)=m(1/(T+273.16))+n 式(4)
Ea=|0.008314×m| 式(5)
aT:シフトファクター
Ea:流動活性化エネルギー(単位:kJ/mol)
T:温度(単位:℃)
上記計算には、市販のソフトウェアを用いてもよく、該ソフトウェアとしては、TA Instruments社製Trios等が挙げられる。
なお、aTは、それぞれの温度(T)における溶融複素粘度-角周波数の両対数曲線を、x軸(角周波数)及びy軸(溶融複素粘度)方向に移動させて、200℃での溶融複素粘度-角周波数曲線に重ね合わせた際のx軸方向の移動量である。
上記の溶融複素粘度-角周波数曲線の測定は、粘弾性測定装置(例えば、TA Instruments社製ARES-G2)を用い、窒素雰囲気下、下記の条件で行われる。
プロピレン系重合体を、気泡が入らないように180℃で5分間プレスして圧縮成形し、厚さ2.0mm、直径25mmの円盤状の測定用サンプルとする。サンプルの測定は、180℃、200℃、220℃の3つの温度について、各温度で保温された直径25mmの平行円板を使用し、厚さ2.0mmの測定用サンプルを厚さ1.5mmまで圧縮後に行う。
・ジオメトリー:パラレルプレート
・プレート直径:25mm
・プレート間隔:2mm
・ストレイン:5%
・角周波数:0.01~100rad/秒
【0048】
本発明において、分岐状プロピレン系重合体のEaとMFRとが前記の式(1)を満たすには、特性(2)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素の量等を調整することで可能となる。中でも触媒種の選択により調整することが好ましく、特に制限はないが、複数のメタロセン化合物を含む触媒を利用したマクロモノマー共重合法における触媒種の選択により調整することが適当である。
反対に、単一の触媒を使用した場合、マクロモノマー共重合性が高いこと、マクロモノマーの分子量が大きいこと、マクロモノマーの生成割合が高いことのすべてを満たすことは非常に困難であると考えられる。そのため、上記単一の触媒を使用した場合、重合体中の長鎖分岐(LCB)の量が少ない、又は分岐の長さが短くなるために、Eaが小さくなると考えられる。例えば、参考例2に示すように、末端ビニル率が低い、すなわち重合体中のマクロモノマーの生成割合が低く、LCB量が少ない場合、Eaは小さくなる。
【0049】
特性(5):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、13C-NMRで測定するメソトライアッド分率(mm)が95.0%以上、99.0%未満であることが好ましい。
特性(5-2):
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、異種結合([2,1結合])量が0mol%~0.30mol%、及び異種結合([1,3結合])量が0mol%~0.25mol%であることが好ましい。
【0050】
分岐状プロピレン系重合体の結晶性は、メソトライアッド分率(mm)やメソペンタッド分率(mmmm)で示される立体規則性と、[2,1結合]及び[1,3結合]で示される位置規則性の影響を受ける。すなわち、規則性欠損部分(立体不規則結合や異種結合部分)からラメラが折り返すことで結晶化が進行する。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、立体規則性及び位置規則性が上記の範囲にあると、せん断や伸長変形に起因する結晶化プロセスにより、成形加工時に徐々に冷却して固化していく間の樹脂の流動性と、固化していく間の溶融張力が向上すると考えられる。
【0051】
そこで、分岐状プロピレン系重合体が固化時の溶融張力を向上させるために、本発明の分岐状プロピレン系重合体のmmは、95.0%以上が好ましく、96.0%以上がより好ましく、97.0%以上が更に好ましい。
一方、mmが高すぎると、剛性、ヤング率が高くなり、フィルムのコシが強くなりすぎるおそれがあることから、本発明の分岐状プロピレン系重合体のmmは、99.0%未満が好ましく、98.5%以下が好ましく、98.2%以下がより好ましい。
【0052】
同様に、固化時の溶融張力向上の観点から、本発明の分岐状プロピレン系重合体の[2,1結合]量は、0mol%~0.30mol%が好ましく、0mol%~0.25mol%がより好ましく、0mol%~0.20mol%が更に好ましく、0.030mol%~0.25mol%がより更に好ましく、0.05mol%~0.20mol%が特に好ましい。当該[2,1結合]量の上限値は0.15mol%以下であってもよい。また、前記[2,1結合]量との組み合わせにおいて、本発明の分岐状プロピレン系重合体の[1,3結合]量は、0mol%~0.25mol%が好ましく、0mol%~0.20mol%がより好ましく,0mol%~0.15mol%が更に好ましく、0.05mol%~0.20mol%がより更に好ましく、0.10mol%~0.15mol%が特に好ましい。
【0053】
13C-NMRで測定するmm、[2,1結合]及び[1,3結合]量の測定方法と算出方法は以下の通りである。
試料200mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=2/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れ、150℃のブロックヒーターで均一に溶解することで、測定試料を調製する。
H-NMR)
・装置:ブルカー・バイオスピン社製AV400型NMR装置
・プローブ:10mmφクライオプローブ
・試料温度:120℃
・パルス角:4.5°
・パルス間隔:2秒
・積算回数:1024回
・化学シフト:化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmに設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
13C-NMR)
・装置:ブルカー・バイオスピン社製AV400型NMR装置
・プローブ:10mmφクライオプローブ
・試料温度:120℃
・パルス角:45°
・パルス間隔:17.2秒
・積算回数:3072回
・デカップリング条件:ブロードバンドデカップリング法
・化学シフト:化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
【0054】
プロピレン単位3連鎖のメソトライアッド分率(mm)は、13C-NMRにより測定された13Cシグナルの積分強度を、下記式(6)に代入することにより求められる。
mm(%)=Imm×100/(Imm+3×Imrrm) 式(6)
ここでImmは、プロピレン単位3連鎖がmmの結合様式に帰属される13Cシグナルの積分強度を表し、化学シフトが23.6~21.1ppmの範囲のシグナルの積分強度(以下「I23.6~21.1」のように記載する)として算出する。Imrrmは、プロピレン単位5連鎖がmrrmの結合様式に帰属される13Cシグナルの積分強度を表し、I19.9~19.7で示される値である。
スペクトルの帰属は、Polymer Jounral,16巻,717頁(1984年),朝倉書店や、Macromolecules,8巻,687頁(1975年)や、Polymer,30巻,1350頁(1989年)を参考に行うことができる。化学シフト範囲は、重合体の分子量等で若干シフトするが、領域の識別は、容易である。
【0055】
[2,1結合]量及び[1,3結合]量は、13C-NMRにより測定された13Cシグナルの積分強度を用い、以下の式から求める。
[2,1結合]量(mol%)=I2,1-P×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P
[1,3結合]量(mol%)=I1,3-P×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P
ここで、I1,2-P、I2,1-P、I1,3-Pはそれぞれプロピレン単位が[1,2結合]、[2,1結合]、[1,3結合]の結合様式に帰属される13Cシグナルの積分強度を表し、下記のように求める。
1,2-P=I48.80~44.50
2,1-P=(I34.68~34.63+I35.47~35.40+I35.94~35.70)/2
1,3-P=I37.50~37.20/2
【0056】
前記特性(5)及び(5-2)を満たすには、触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素量等の重合条件を調整することで可能となる。
【0057】
特性(6):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、成形時に高い溶融張力を保持する点から、13C-NMRで測定する長鎖分岐数(LCB数)が0.1個/1000モノマー~0.5個/1000モノマーであることが好ましく、0.2個/1000モノマー~0.5個/1000モノマーであることがより好ましい。
【0058】
LCB数は、13C-NMRにより、49.00~44.33ppmのプロピレン主鎖のメチレン炭素の強度を1000に規格化したときの、31.72~31.66ppmの分岐点の炭素(メチン炭素)及び44.09~44.03ppm、44.78~44.72ppm及び44.90~44.84ppmの分岐点の炭素(メチン炭素)に結合する3つのメチレン炭素のシグナル積分強度を用いて下式により算出し、1000プロピレンモノマー当たりの数とする。
LCB数=[(I44.09~43.03+I44.78~44.72+I44.90~44.84+I31.72~31.66)/4]/I49.00~44.33
LCB数を求める際の13C-NMR測定は、下記測定条件に変更する以外は、前記特性(5)の13C-NMR測定と同様に行うことができる。
・パルス間隔:4.2秒
・積算回数:20000回
【0059】
前記特性(6)を満たすには、特性(4)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素量等により調整できる。
【0060】
特性(7):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、ODCBによる昇温溶出分別(TREF)測定で得られる溶出曲線において、40℃以下の温度で溶出する成分の量が0.1質量%~2.5質量%であることが好ましい。
40℃以下で溶出する成分は、低結晶性成分であり、分岐状プロピレン系重合体において、この成分量が多いと結晶性が低下し、製品としての耐熱性や剛性が低下してしまうおそれがある。また、この成分の量が少ないとフィルムにした場合の剛性が高すぎたり、触感が悪くなってしまう。
そこで、本発明の分岐状プロピレン系重合体の40℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.7質量%以下である。
一方、40℃以下で溶出する成分が少なすぎると、例えばラミネート成形した場合に剛性が高くなりすぎて手触り等触感が悪くなるおそれがある。そこで、本発明の分岐状プロピレン系重合体の40℃以下の温度で溶出する成分の量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。
【0061】
TREFによる溶出成分の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料を140℃でODCBに溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、10分間保持する。その後、カラムを40℃に維持して10分間、引き続き昇温速度100℃/60分にてカラムを40℃から140℃までリニアに昇温しながら、溶媒であるODCBを1mL/分の流速で60分間カラムに流して、試料を溶出させて溶出曲線を得る。40℃で溶出する成分の溶出量の溶出量全量に対する割合を、40℃以下の温度で溶出する成分の量(質量%)とする。
・カラムサイズ:4.3mmφ×150mm
・カラム充填剤:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
・溶媒:ODCB
・試料濃度:5mg/mL
・試料注入量:0.1mL
・溶媒流速:1mL/分
・検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
【0062】
分岐状プロピレン系重合体のODCBによるTREFにおける40℃以下可溶分は、一般的に、重合触媒成分としてメタロセン化合物を用いることにより低く抑えることができる。触媒中の錯体の異性体混入含量を低く保つことに加え、触媒の製造時にメタロセン触媒と有機アルミニウム化合物との接触を穏やかにすることや、重合時の反応条件を極端に高温にしないことが好ましい。
【0063】
特性(8):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、歪速度(dε/dt)が1.0/秒での歪硬化度(SHI@1s-1)が0.70~2.50であることが好ましい。
ここで、SHI@1s-1とは、温度180℃、歪速度1.0/秒での伸長粘度(η)の測定において、ヘンキー歪(ε)が1から3の間の区間における、横軸にヘンキー歪の対数(log(ε))、縦軸に伸長粘度の対数(log(η))をプロットした場合の傾きである。
溶融張力を増加させて成形性を向上させるとともに、延展性を向上させる観点から、本発明の分岐状プロピレン系重合体のSHI@1s-1は、0.70~2.50が好ましく、0.80~2.00がより好ましく、1.00~1.80が更に好ましい。
分岐状プロピレン系重合体は、SHI@1s-1がある程度大きい場合には、速い歪速度で緩和しない成分が当該重合体中に存在することにより伸長粘度が大きくなる。そのため、速い歪速度で歪硬化性をもたない直鎖状の重合体や、SHI@1s-1が小さい重合体とくらべて、伸長粘度が高くなるために溶融張力が増加しており、シート成形、ブロー成形、熱成形、発泡成形での成形性がよくなると考えられる。
かかる観点から、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、SHI@1s-1が0.70以上であることが好ましい。
分岐状プロピレン系重合体は、SHI@1s-1が適度に大きいと、緩和しない成分又は緩和が長い成分の量が適度に維持され、分子鎖の絡み合い点を起点として配向結晶化が局所的に進行することが抑制され、延展性が維持される観点から、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、SHI@1s-1が2.50以下であることが好ましい。
【0064】
歪硬化度(SHI)は、Polymer,Vol.42,p.8663(2001)に記載されているような一軸伸長粘度の測定によって求めることができる。本発明において、SHI@1s-1は、以下の方法により測定する。
・装置:TA Instruments社製ARES-G2
・治具:TA Instruments社製Extentional Viscosity Fixture
・測定温度:180℃
・歪速度:1.0/秒
・試験片の作製:プレス成形にて18mm×10mm、厚さ0.7mmのシートを作製
【0065】
SHIを求めるには、上記の測定方法により、あらかじめ定められた一定の歪速度で伸長粘度の時間変化データを取得し、測定データを、横軸にlog(ε)、縦軸にlog(η)をとったグラフ上にプロットする。そして、グラフからヘンキー歪が1から3の間の区間における伸長粘度の傾きを特定し、その傾きを測定条件の歪速度におけるSHIとする。
【0066】
前記特性(8)を満たすには、特性(4)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素量等により調整できる。
【0067】
特性(9):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、溶融時の延展性を優れたものとする点から多分岐指数(MBI)が0.20以上であることが好ましく、歪硬化度の歪速度依存性を抑制することによって溶融張力の安定性を得る点から、1.00以下であることが好ましい。
MBIの下限はより好ましくは0.26以上であり、上限はより好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.60以下である。
ここでMBIとは、歪速度が0.1/秒から10/秒での重合体のSHIを求め、横軸に歪速度の対数(log(dε/dt))、縦軸に歪速度が0.1/秒から10/秒でのSHIをプロットした場合の傾きである。
重合体のSHIは、歪速度によって変化する。MBIは、SHIの歪速度に対する依存性を示す。MBIの値が大きいほど、SHIが歪速度の増加につれて大きく増加することを意味する。
MBIを求めるには、歪速度が0.1/秒から10/秒の範囲で複数の歪速度におけるSHIを測定し、各歪速度におけるSHIを、横軸にlog(dε/dt)、縦軸にSHIをとったグラフ上にプロットし、歪速度が0.1/秒から10/秒の範囲におけるプロットの近似直線の傾きを、MBIとする。本発明においては、SHI@0.1s-1、SHI@1.0s-1、SHI@10.0s-1の3点のプロットを最小二乗法により直線で近似した場合の傾きをMBIとした。
【0068】
前記特性(9)を満たすには、特性(4)で説明したのと同様に、重合条件、例えば触媒種の選択、重合温度、モノマー濃度、水素量等により調整できる。
【0069】
特性(10):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、成形に必要な溶融張力を保持しながら、延展性に優れるプロピレン系重合体を得る点から、230℃の溶融張力(MT230)は、0.3g~15gであってもよく、0.5g~15gであってもよい。
MT230は、メルトテンションテスター(例えば、東洋精機社製キャピログラフ1B)を用い、下記条件で樹脂を紐状に押し出してローラーに巻き取っていった際にプーリーに検出される張力とする。
・樹脂温度:230℃
・キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
・シリンダー径:9.55mm
・シリンダー押出速度:20mm/分
・巻取速度:4.0m/分
なお、巻取速度4.0m/分で樹脂が破断する場合は、溶融張力は「評価不可」とする。
【0070】
特性(11):
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、230℃での最高巻取速度(MaxDraw)m/分とMFRとが下記式(7)で示される関係を満たしていてもよい。
(MaxDraw)>200×log(MFR)-38 式(7)
ここでMaxDrawとは、溶融張力測定において、樹脂を紐状に押し出してローラーに巻き取りながら、巻取速度を4.0m/分から加速度18.1mm/秒で徐々に上げていったときに、紐状樹脂が破断する直前の巻取速度である。
なお、巻取速度4.0m/分で樹脂が破断を引き起こす場合には、「評価不可」とする。
溶融延展性はMaxDrawを指標として評価することができ、MaxDrawが大きいほど延展性が良いことを意味する。本発明において、MaxDrawは以下の条件で測定した。
・機器:INSTRON社製キャピラリーレオメーターCEAST SR50
・キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
・バレル径:15mm
・バレル長:290mm
・シリンダー押出速度:20mm/分
・樹脂温度:230℃
【0071】
一般的に流動性を高くすると延展性は優れるようになるが、溶融張力は低下し、延展性を優れるように流動性を高くすると、溶融張力が不十分になるという問題があるため、成形に必要な溶融張力と、優れた延展性を両立したプロピレン系重合体であることが望まれる。上記式(7)で規定するMaxDrawとMFRとの関係式は、流動性見合いの延展性の指標として用いることができる。上記式(7)を満たすことは、本発明の分岐状プロピレン系重合体が、従来のプロピレン系重合体に比べて、流動性見合いの延展性に優れることを示すものである。
すなわち、本発明の分岐状プロピレン系重合体と従来のものを区別するために、溶融延展性(MaxDraw)は流動性(MFR)の増加に対して正の相関がある関数と考えて、当該関数のパラメータを設定し、本発明の分岐状プロピレン系重合体のMaxDrawが、当該関数で規定される従来のプロピレン系重合体のMaxDrawよりもMFR見合いで大きいことを示す。具体的には、実施例及び比較例データに基づき、実施例と従来技術の比較例を区別するMaxDraw及びMFRの値を仮定して、当該MaxDrawとMFRとの間に成立する関係式について、最小二乗法により当該関係式のパラメータを決定したものである(図5参照)。
【0072】
II.分岐状プロピレン系重合体の製造方法
本発明の分岐状プロピレン系重合体を製造する方法については、本発明の特徴である上記の特性を有する分岐状プロピレン系重合体が得られる方法であればよく、特に制限はないが、複数のメタロセン化合物を含む触媒を利用したマクロモノマー共重合法が適当である。
本発明者らは、複数のメタロセン化合物を含む触媒を利用したマクロモノマー共重合法における機構を以下のように推測している。
主にマクロモノマーを生成する触媒を形成するメタロセン化合物(化合物1とする)と主にマクロモノマーとプロピレンモノマーとを共重合し分岐鎖を有するポリマーを生成する触媒を形成するメタロセン化合物(化合物2とする)を含む触媒を用いて重合を行うと、次のような重合挙動をとる。
化合物1、化合物2を含むプロピレン重合用触媒を用いることにより、単純には、化合物1を含む触媒(触媒1とする)から生成するポリマーの分子量及び分子量分布と、化合物2を含む触媒(触媒2とする)から生成するポリマーの分子量及び分子量分布とを重ね合わせたような分子量領域を含む広がりをもつポリマーが得られる。
また分岐構造が形成する過程では、触媒1から生成するポリマーが末端ビニル基を有する場合、かかる末端ビニル基含有のポリマーがマクロモノマー(マクロモノマー1とする)となり、さらに、触媒1からプロピレンとマクロモノマー1との共重合物、触媒2からプロピレンとマクロモノマー1との共重合物が生成する。
触媒2から生成するポリマーが末端ビニル基を有する場合、かかる末端ビニル基含有のポリマーがマクロモノマー(マクロモノマー2とする)となり、さらに、触媒1からプロピレンとマクロモノマー2との共重合物、触媒2からプロピレンとマクロモノマー2との共重合物が生成する。
また、触媒1から生成するポリマーがマクロモノマー1となり、触媒2から生成するポリマーがマクロモノマー2となる場合、さらにまた、触媒1からプロピレンとマクロモノマー1とマクロモノマー2との共重合物、触媒2からプロピレンとマクロモノマー1とマクロモノマー2との共重合物が生成する。
このように、触媒1から生成するポリマーの分子量、分子量分布、末端ビニル率や触媒1の共重合性、触媒2から生成するポリマーの分子量、分子量分布、末端ビニル率や触媒2の共重合性、触媒1と触媒2との量比や立体的位置関係等に応じて最終生成物たる分岐状プロピレン系重合体の平均分子量、高分子量、非常に高い分子量の他に、分岐量及び分岐分布が変化する。すなわち、Mn、Mw、Mz、W100万、W200万、g’(100万)、g’(Mwabs)、[g’(Mwabs)-g’(100万)]、Ea、SHI、MBI、MTが変化すると考えられる。
【0073】
本発明の分岐状プロピレン系重合体を製造する好ましい方法は、かかる機構に制約されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
本発明の分岐状プロピレン系重合体の製造方法では、前記特性を満たしやすい点から、マクロモノマーを生成する成分[A-1]と成分[A-2]の2つの触媒成分を用い、成分[A-1]と成分[A-2]が下記条件を満たすように種類、量及び量比を選択して組み合わせた重合用触媒を用いて重合を行うことが好ましい。
a)成分[A-2]から生成する重合体の分子量は成分[A-1]から生成する重合体より分子量が高く、
b)成分[A-1]から生成する重合体の末端ビニルの割合が、成分[A-2]から生成する重合体の末端ビニルの割合よりも大きく、
c)成分[A-2]は成分[A-1]よりもマクロモノマーの共重合性がよい。
【0074】
上記a)、b)、c)を満たす成分[A-1]及び成分[A-2]を選択して組み合わせた重合用触媒を用いることにより、前記特性(1)~(4)を有し、従来とは異なる分岐状プロピレンの構造、特に分子量分布と分岐分布を有し、MFR見合いでのEaが高い本発明の分岐状プロピレン系重合体を製造しやすい。
上記a)、b)、c)を満たす成分[A-1]及び成分[A-2]を選択して組み合わせた重合用触媒を用いることにより、中~高分子量領域に多数の分岐鎖が導入された分子構造を有する多分岐分子を含有する一方で、緩和しない成分又は緩和時間が長い成分の含有量が少ない分岐分布を有する本発明の分岐状プロピレン系重合体を製造することができる。
【0075】
上記a)、b)、c)を満たす成分[A-1]及び成分[A-2]を選択して組み合わせた重合用触媒を用いることにより、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、光散乱検出器(MALLS)を用いて測定するMwabsの領域からMabs=100万の領域において、その高分子量側であるMabs=100万の領域では成分[A-2]から生成した重合体の比率が高くなり、反対に、その低分子量側であるMwabsの領域では、成分[A-1]から生成した重合体の比率が高くなる。
上記a)、b)を満たすことから、成分[A-1]からは、相対的に分子量の小さいマクロモノマー(マクロモノマー1)が多く生成され、成分[A-2]からは、相対的に分子量の大きいマクロモノマー(マクロモノマー2)が生成される。
また、分岐成分に着目すると、Mabs=100万の領域では、成分[A-2]によって、プロピレンと、マクロモノマー1及びマクロモノマー2とを共重合してできた分岐成分の比率が高い。一方、Mwabsの領域では、成分[A-1]によって、プロピレンと、マクロモノマー1及びマクロモノマー2とを共重合してできた分岐成分の比率が高くなる。
さらに、上記c)を満たしていることから、Mwabsの領域では、成分[A-1]によるマクロモノマーの共重合性が劣るので、g’(Mwabs)の低下を抑制することができると考えられる。一方、Mabs=100万の領域では、成分[A-2]がより効率的にマクロモノマー1、マクロモノマー2の両方を共重合することにより、g’(100万)が低下する。その結果、g’(Mwabs)-g’(100万)が0.10~0.20の範囲となる分岐状プロピレン系重合体を製造することができると考えられる。
【0076】
II-1.重合用触媒
本発明の分岐状プロピレン系重合体を製造するためのプロピレン重合用触媒は、好ましくは下記の成分[A-1]、成分[A-2]、成分[B]及び成分[C]を含む。
成分[A-1]:70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、末端ビニル率(Rv)が0.5以上のプロピレン単独重合体a-1を与えるメタロセン化合物、
成分[A-2]:70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、プロピレン単独重合体a-1よりもMnが大きく、Rvが0.1以上、0.5未満のプロピレン単独重合体a-2を与えるメタロセン化合物
成分[B]:成分[A-1]及び成分[A-2]と反応してイオン対を形成する化合物又は層状珪酸塩
成分[C]:有機アルミニウム化合物
【0077】
II-1-1.成分[A-1]
成分[A-1]は、70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、Rvが0.5以上のプロピレン単独重合体a-1を与えるメタロセン化合物である。成分[A-1]は、好ましくはRvが0.65以上、より好ましくは0.75以上、理想的には1.0(すべての分子鎖の片方の末端がビニル構造)となるメタロセン化合物である。Rvがより高いプロピレン単独重合体を生成する重合用触媒を形成するメタロセン化合物を用いることで、より効率の高いマクロモノマー合成工程を行うことができる。
ここで、末端ビニル率(Rv)、末端ビニリデン率(Rvd)は、下式で定義する。
Rv=[Vi]/{(総末端数-LCB数)÷2}
Rvd=[Vd]/{(総末端数-LCB数)÷2}
(ただし、[Vi]、[Vd]は、H-NMRにより算出される1000モノマーあたりの末端ビニル基の数、末端ビニリデン基の数である。総末端数は、H-NMRと13C-NMRにより算出される1000モノマーあたりの末端の総数である。
LCB数は、13C-NMRにより算出される1000モノマーあたりのLCB数である。)
【0078】
[反応機構と末端構造との関係]
プロピレン単独重合の反応機構と末端構造の関係について以下に説明する。
プロピレンの重合においては、停止反応として、一般的にはβ-水素脱離と呼ばれる連鎖移動反応が起こり、構造式(1-b)に示すプロピル-ビニリデン構造(ビニリデン構造)を停止末端にもつポリマーが生成する。また、水素を用いた場合には、通常水素へ連鎖移動が優先的に起こり、構造式(1-c)に示すi-ブチル構造を停止末端にもつポリマーが生成する。また、特定の構造のメタロセン化合物を含む触媒を用いた場合には、β-メチル脱離と呼ばれる特殊な連鎖移動反応が起こり、構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造(ビニル構造)を停止末端にもつポリマーが生成する(参照文献:Macromol.Rapid Commun.2000,21,1103-1107)。
また、停止末端としては極稀にプロピレンが不規則挿入をした後に、水素で連鎖移動すると構造式(1-e)に示すn-ブチル構造が生成する。さらに停止末端としてはプロピレンが不規則挿入をした後に、β-水素脱離が生じると構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造や、構造式(1-g)に示す末端ビニレン構造(2-ブテニル構造)が極少量生成することが考えられる。
また、開始末端としては、停止反応として、水素で連鎖移動した後、又はβ-水素脱離した後に、中心金属へ最初のプロピレンが挿入することにより、構造式(1-h)に示すn-プロピル構造となる。又は停止反応として、β-メチル脱離した後に中心金属へ最初のプロピレンが挿入すると、構造式(1-c)に示すi-ブチル構造となる。
また、開始末端としては、停止反応として、水素で連鎖移動した後、又はβ-水素脱離した後に、中心金属へ最初のプロピレンが極稀に不規則挿入することにより、構造式(1-i)に示す2,3ジメチルブチル構造となる。又は停止反応として、β-メチル脱離した後に中心金属へ最初のプロピレンが極稀に不規則挿入するにより、構造式(1-j)に示す3,4ジメチルペンチル構造となる。
これら開始末端はすべて飽和末端となる。そのため、1つのポリマー鎖が同時に2つの不飽和末端をもつことはない。
更に、構造式(1-d)に示すi-ブテニル構造を末端にもつポリマーが異性化により生成することもある。
また構造式(1-k)に示す内部ビニリデン構造は、不飽和末端が生成後、水素が脱離することでできた中間体へ更にプロピレンが挿入することによりポリマー鎖内部に生成するオレフィン構造である。
以上から、上記の中で主反応による主要な飽和末端となるのは、構造式(1-c)、構造式(1-h)であり、主要な不飽和末端となるのは構造式(1-a)、構造式(1-b)であり、その他の末端構造は、上記の主要な末端構造の数に比べて微小となる。
【0079】
これらの末端構造のうち、構造式(1-a)及び構造式(1-f)に示す構造を末端にもつポリマーは、マクロモノマーになり得る。構造式(1-a)と構造式(1-f)は最末端の二つの炭素がビニル構造をとるという点で同じであり共重合可能という機能において差はない。
しかしながら、1-プロペニル構造は、プロピレンの規則的挿入後にβ-メチル脱離した結果生成する末端であるのに対し、1-ブテニル構造はプロピレンが極稀に不規則挿入したあとにβ-水素脱離するという副反応の結果生成する構造である。そのため、1-ブテニル構造は、1-プロペニル構造に対して極微量と推定できる。その1-プロペニル構造に対する1-ブテニル構造が生成する比率は、概略、異種結合の生成確率と同程度かそれ以下と考えられる。すなわち、上記で末端ビニル基の数[Vi]のほとんどがプロピレンの規則的挿入後にβ-メチル脱離した結果の1-プロペニル構造と推定できる。
【0080】
【化1】
【0081】
【化2】
【0082】
[末端ビニル率(Rv)及び末端ビニリデン率(Rvd)の評価方法]
ここで、触媒成分のRv、Rvdを判定するときのプロピレンの重合条件を以下に記す。
20Lオートクレーブ槽内をプロピレンで置換した後、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)18.7mLを投入し、水素0.51NLを導入し、液体プロピレン5000gを導入する。その後、槽内に、成分[A-1]を含む触媒を、予備重合ポリマーを除いた質量で300mg圧送して重合を開始し、70℃で1時間重合する。最後に未反応のプロピレンをすばやくパージし、重合を停止してプロピレン重合体を得る。
RvとRvdは、それぞれ総ポリマー鎖数に対する末端ビニル基と、末端ビニリデン基の数の割合を示す指標である。まず、H-NMRと13C-NMRを用いて不飽和末端数と飽和末端数を1000モノマーあたりの数として求め、それらを合計したものを総末端数とする。同じく13C-NMRからLCB数を1000モノマーあたりの数として求める。総末端数からLCB数を引いた数の半分(1/2)を総ポリマー数とする。RvとRvdは、それぞれ不飽和末端である末端ビニル基の数[Vi]と末端ビニリデン基の数[Vd]を、総ポリマー数で除することで算出する。以下に具体的な算出方法を示す。
【0083】
<飽和末端の数の算出方法>
下記の主要な飽和末端の数は、1000モノマーあたりの数として、13Cシグナルの積分強度を用い、以下の式から求める。
構造式(1-c): [i-ブチル]=Ii-butyl×1000/Itotal-C構造式(1-e): [n-ブチル]=Inbu×1000/Itotal-C
構造式(1-h): [n-プロピル]=Inpr×1000/Itotal-C
構造式(1-i): [2,3-ジメチルブチル]=I2,3-dime×1000/Itotal-C
構造式(1-j): [3,4-ジメチルペンチル]=I3,4-dime×1000/Itotal-C
上記の主要な飽和末端以外にも他の飽和末端が検出される場合には、既知の文献値を利用して、同様に1000モノマーあたりの数として算出する。
ここで、Ii-butyl、Inbu、Inpr、I2,3-dime、I3,4-dimeはそれぞれ、構造式(1-c)、構造式(1-e)、構造式(1-h)、構造式(
1-i)、構造式(1-j)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
i-butyl =I23.80~23.65
nbu =I36.99~36.88
npr =I39.71~39.61
2,3-dime =(I16.30~16.20+I43.05~43.00)/2
3,4-dime =I12.0~11.60
また、Itotal-Cは、以下の式で示される量である。
total-C=Ii-butyl+Inbu+Inpr+I2,3-dime+I3,4-dime+I1,2―P+I2,1―P+I1,3―P
また、上記の主要な飽和構造以外にも他の飽和構造が存在する場合には、検出されるすべての構造数を上式に加える。
1,2―Pは、1,2挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I2,1―Pは、2,1挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,3―Pは、1,3挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、を表し、以下の式で示される量である。
1,2-P=I48.80~44.50
2,1-P=(I34.68~34.63+I35.47~35.40+I35.94~35.70)/2
1,3-P=I37.50~37.20/2
【0084】
<不飽和末端の数の算出方法>
不飽和末端の数は、1000モノマーあたりの数として、Hシグナルの積分強度を用い、以下のように求める。
H-NMRでは、構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造と、構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造の不飽和結合のプロトンシグナルは、H-NMRスペクトルの5.08ppm~4.85ppmと5.86ppm~5.69ppmのシグナルに重なって検出される。そこで、末端ビニル基の数[Vi]は、1-プロペニル構造と1-ブテニル構造を合わせた数とする。
構造式(1-a)+構造式(1-f):[Vi]=Ivi×1000/Itotal
同様にして、末端ビニリデン基の数[Vd]、i-ブテニル基の数[i-ブテニル]、ビニレン末端の数[末端ビニレン]、内部ビニリデンの数[内部ビニリデン]は以下の式から求められる。
構造式(1-b):[Vd]=Ivd×1000/Itotal
構造式(1-d):[i-ブテニル]=Iibu×1000/Itotal
構造式(1-g):[末端ビニレン]=Ivnl×1000/Itotal
構造式(1-k):[内部ビニリデン]=Iivd×1000/Itotal
ここで、Ivi、Ivd、Iibu、Ivnl、Iivdは、それぞれ、構造式(1-a)+構造式(1-f)、構造式(1-b)、構造式(1-d)、構造式(1-g)、構造式(1-k)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
vi=(I5.08~4.85+I5.86~5.69)/3
vd=(I4.78~4.65)/2
ibu=I5.26~5.08
vnl =(I5.58~5.26)/2
ivd=(I4.85~4.78)/2
また、Itotalは、以下の式で示される量である。
total=Imain/6+Ivi+Ivd+Iibu+Ivnl+Iivd
また、上記の主要な不飽和構造以外にも他の不飽和構造が存在する場合には、検出されるすべての末端数を上式に加える。
mainとはH-NMRスペクトルの4.00ppm~0.00ppmに検出される、末端を含むポリマー鎖の飽和炭素に結合するプロトンシグナルの積分強度の総和である。
【0085】
<LCB数の算出方法>
LCB数は、特性(6)に記載の方法で1000モノマーあたりの数として求める。
<総末端数の算出方法>
総末端数は、H-NMRと13C-NMRにより算出される1000モノマーあたりの末端の総数である。
<末端ビニル率(Rv)・末端ビニリデン率(Rvd)の算出方法>
上記で得られた[Vi]、[Vd]、総末端数、LCB数を用いて下式を用いて算出する。
Rv=[Vi]/{(総末端数-LCB数)÷2}
Rvd=[Vd]/{(総末端数-LCB数)÷2}
【0086】
成分[A-1]としては、例えば、インデニル基の2位に嵩高い複素環基を有し、4位に置換されてもよいアリール基又は窒素、酸素若しくは硫黄原子を含有する複素環基等を有するビスインデニル錯体を挙げることができ、非限定的な好ましい実施形態の一つとして、下記の構造を挙げることができる。
【0087】
【化3】
[一般式(a1)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、窒素、酸素又は硫黄原子を含有する炭素数4~16の複素環基を示す。R13及びR14は、それぞれ独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン若しくはこれらから選択される複数のヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~30のアリール基、又は窒素、酸素若しくは硫黄原子を含有する炭素数6~16の複素環基を表す。Q11は、炭素数1~20の二価の炭化水素基、又は炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を表し、M11は、ジルコニウム又はハフニウムを表し、X11及びY11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基を有するシリル基、炭素数1~20のハロゲン化炭化水素基、アミノ基又は炭素数1~20のアルキルアミノ基を表す。]
【0088】
上記R11及びR12の窒素、酸素又は硫黄原子を含有する炭素数4~16の複素環基は、好ましくは2-フリル基、置換された2-フリル基、置換された2-チエニル基、置換された2-フルフリル基であり、更に好ましくは、置換された2-フリル基である。
11及びR12を窒素、酸素又は硫黄原子を含有する炭素数4~16の複素環基から選ばれる基とすることにより、末端ビニル率(Rv)を高くすることができ、なかでも、複素環基上に適当な大きさの置換基を導入することにより、複素環と遷移金属上の配位場、成長ポリマー鎖との相対的な位置関係を適切にすることにより、Rvをより高くすることができる。
また、置換された2-フリル基、置換された2-チエニル基、置換された2-フルフリル基の置換基としては、炭素数1~4の炭化水素基が好ましい。
さらに、R11及びR12として、特に好ましくは、5-メチル-2-フリル基である。また、R11及びR12は、互いに同一である場合が好ましい。
【0089】
上記R13及びR14は、それぞれ独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン若しくはこれらから選択される複数のヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~30のアリール基、又は窒素、酸素若しくは硫黄原子を含有する炭素数6~16の複素環基である。
特に、R13とR14を、より嵩高くすることで、より立体規則性が高く、異種結合が少なく、末端ビニル率が高いプロピレン重合体を得ることができる。
そこで、R13及びR14は、炭素数6~16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1~6の炭化水素基、炭素数1~6の炭化水素基を有するシリル基、炭素数1~6のハロゲン原子含有炭化水素基、又はハロゲン原子を置換基として有してもよいアリール基が好ましく、そのようなR13及びR14の具体例としては、4-t-ブチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、3,5-ジt-ブチルフェニル基、4-クロロフェニル基、4-トリメチルシリルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が挙げられる。
また、R13及びR14としては、更に好ましくは、炭素数6~16になる範囲で、1つ以上の、炭素数1~6の炭化水素基、炭素数1~6の炭化水素基を有するシリル基、炭素数1~6のハロゲン原子含有炭化水素基、又はハロゲン原子を置換基として有するフェニル基である。また、その置換される位置は、フェニル基上の4位が好ましい。そのようなR13及びR14の具体例としては、4-t-ブチルフェニル基、4-ビフェニリル基、4-クロロフェニル基、4-トリメチルシリルフェニル基である。また、R13とR14が互いに同一である場合が好ましい。
【0090】
上記X11及びY11は、補助配位子であり、成分[B]と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限りX11及びY11は、配位子の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基を有するシリル基、炭素数1~20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1~20の酸素原子含有炭化水素基、アミノ基又は炭素数1~20のアルキルアミノ基を表す。
【0091】
上記Q11は、二つの五員環を結合する、炭素数1~20の二価の炭化水素基、又は炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を表す。
上述のシリレン基、又はゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
上記Q11の具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、1,2-エチレン等のアルキレン基;ジフェニルメチレン等のアリールアルキレン基;シリレン基;メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n-プロピル)シリレン、ジ(i-プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン等のアルキルシリレン基、メチル(フェニル)シリレン等の(アルキル)(アリール)シリレン基;ジフェニルシリレン等のアリールシリレン基;テトラメチルジシリレン等のアルキルオリゴシリレン基;ゲルミレン基;上記の2価の炭素数1~20の炭化水素基を有するシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;アリールゲルミレン基等を挙げることができる。これらの中では、炭素数1~20の炭化水素基を有するシリレン基、又は、炭素数1~20の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、アルキルゲルミレン基が特に好ましい。
【0092】
上記一般式(a1)で表される化合物のうち、好ましい化合物として、以下に具体的に例示する。
(1)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(2)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(2-チエニル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(3)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(4)ジクロロ[1,1’-ジフェニルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(5)ジクロロ[1,1’-ジメチルゲルミレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(6)ジクロロ[1,1’-ジメチルゲルミレンビス{2-(5-メチル-2-チエニル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(7)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(8)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-トリメチルシリル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(9)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-フェニル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(10)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(4,5-ジメチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(11)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(2-ベンゾフリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(12)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(2-フルフリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(13)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-クロロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(14)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-クロロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(15)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-フルオロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(16)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-トリフルオロメチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(17)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-i-プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(18)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(19)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-i-プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(20)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(21)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-トリメチルシリルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(22)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(2-フリル)-4-(1-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
(23)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス(2-(2-フリル)-4-(2-ナフチル)インデニル)]ハフニウム、
(24)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス(2-(2-フリル)-4-(2-フェナンスリル)インデニル)]ハフニウム、
(25)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス(2-(2-フリル)-4-(9-フェナンスリル)インデニル)]ハフニウム、
(26)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-ビフェニリル)インデニル}]ハフニウム、
(27)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(1-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
(28)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(2-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
(29)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(1-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
(30)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(2-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
等を挙げることができる。
【0093】
これらのうち好ましいのは、
(3)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(7)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-フェニルインデニル}]ハフニウム、
(13)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-クロロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(14)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-クロロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
フリル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(17)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-i-プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(18)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(19)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-i-プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(20)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-(21)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-トリメチルシリルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(26)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-ビフェニリル)インデニル}]ハフニウム、
(28)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(2-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
(30)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(2-ナフチル)インデニル}]ハフニウム、
である。
また、より好ましいのは、
(13)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-クロロフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(17)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-i-プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(18)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-t-ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
(21)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-トリメチルシリルフェニル)インデニル}]ハフニウム、
である。
【0094】
II-1-2.成分[A-2]
成分[A-2]は、70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、前記プロピレン単独重合体a-1よりもMnが大きく、Rvが0.1以上、0.5より小さいプロピレン単独重合体a-2を与えるメタロセン化合物である。
【0095】
成分[A-2]は、プロピレンモノマーとプロピレンマクロモノマーとを共重合するため、及び、プロピレンマクロモノマーを生成するための重合用触媒を形成するメタロセン化合物である。
したがって、成分[A-2]は、Rvが0.1以上であり、好ましくは0.15以上であり、より好ましくは0.2以上となるメタロセン化合物である。
一方、成分[A-2]としては、高分子量かつRvが低いが、効率よくマクロモノマーを共重合する重合用触媒を形成するメタロセン化合物を用いることで、長い分岐をもつ高分子量の分岐成分が生成するのを抑制することができる。
したがって、成分[A-2]は、Rvが0.5より小さく、好ましくは0.45以下であり、より好ましくは0.3以下となるメタロセン化合物である。
【0096】
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体の特徴である、Mw、Mz、g’(100万)が前記特性を有し、好ましくは、W200万/W100万が前記特性を満たすような、平均分子量、分子量分布と分岐分布を得るためには、成分[A-2]は、成分[A-1]より、高分子量の重合体を生成することが必要である。
したがって、成分[A-2]は、成分[A-1]より、70℃でプロピレン単独重合を同一水素量で重合した場合に、高分子量の重合体を生成するメタロセン化合物である。
【0097】
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体が前記特性を満たすような、平均分子量、分子量分布と分岐分布を得るためには、成分[A-2]は成分[A-1]よりもマクロモノマーの共重合性がよいことが好ましい。
したがって、成分[A-2]は、70℃でプロピレン単独重合した場合に、生成した末端ビニルの数のうち共重合してLCBになった割合{LCB数/([Vi]+LCB数)}が、成分[A-1]より大きいメタロセン化合物であることが好ましい。
【0098】
以上のような成分[A-2]を選定することで、成分[A-1]で生成する相対的に分子量の小さいマクロモノマーが、成分[A-2]で共重合する反応を優先的に生じさせることができる。
なお、Rv及びRvdの評価方法は、成分[A-1]の評価方法において、成分[A-2]を含む触媒を、予備重合ポリマーを除いた質量で100mg、水素を1.19NL導入して重合する以外は同様に行う。
また、Mwの特性については、Rv及びRvdの評価方法と同様に、70℃でバルク重合を行い、成分[A-2]と、成分[A-1]から生成する重合体をGPC測定して得られるそれぞれのMwを比較することで評価することができる。
さらに、マクロモノマーの共重合性の特性については、Rv及びRvdの評価方法と同様に、70℃でバルク重合を行い、成分[A-2]と、成分[A-1]から生成する重合体をNMR測定して得られる、生成した末端ビニルの数のうち共重合してLCBになった割合{LCB数/([Vi]+LCB数)}を比較することで評価することができる。
【0099】
上述のように、成分[A-2]から生成する重合体中のマクロモノマーの割合は、成分[A-1]から生成する重合体中のマクロモノマーの割合より低いため、マクロモノマー2の共重合量が抑制される。その一方、成分[A-1]よりマクロモノマー共重合性がよいので、マクロモノマー1を効率的に共重合することにより、分岐状プロピレン系重合体の導入された分岐構造において分岐鎖長を調整することができる。この分岐鎖長の調整を利用し、本発明の分岐状プロピレン系重合体の特徴である、Mw、Mz、g’(100万)が前記特性を有し、好ましくは、W200万/W100万が前記特性を満たすような、平均分子量、分子量分布と分岐分布、分岐構造、それによる溶融物性(Ea、SHI、及びMBI)をもつ分岐状プロピレン系重合体を得ることができる。
【0100】
成分[A-2]は、下記一般式(a2)で表されるメタロセン化合物を挙げることができる。
【0101】
【化4】
[Mは周期表の3、4、5、6族又はランタニド若しくはアクチニド族に属するものから選択される遷移金属原子であり;好ましくは、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムであり;
pは0、1、2または3であり、好ましくは、pは2であり、金属Mの形式上の酸化状態マイナス2に等しく;
Xは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又はR、OR、OSOCF、OCOR、SR、NR 若しくはPR 基(ここで、Rは周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;好ましくは、Rは直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~20のアルキル基である)であるか;又は2つのXは、置換若しくは無置換のブタジエニル基又はOR’O基(ここで、R’は炭素数1~40のアルキリデン、炭素数6~40のアリーリデン、炭素数7~40のアルキルアリーリデン及び炭素数7~40のアリールアルキリデン基から選択される2価の基である)を形成していてもよく;好ましくは、Xは水素原子、ハロゲン原子又はR基であり;より好ましくは、Xは塩素原子又はメチル若しくはエチル基のような炭素数1~10のアルキル基であり;
Lは、周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭素数1~40の炭化水素基又は5つまでのケイ素原子を含む2価のシリレン基であり;好ましくは、Lは周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~40のアルキリデン、炭素数3~40のシクロアルキリデン、炭素数6~40のアリーリデン、炭素数7~40のアルキルアリーリデン又は炭素数7~40のアリールアルキリデン基及びSiMe、SiPhのような5つまでのケイ素原子を含むシリレン基から選択される2価の架橋基であり;好ましくは、Lは、(Z(R”)基(ここで、Zは炭素又はケイ素原子であり、nは1又は2であり、そしてR”は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基であり;好ましくは、R”は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール、炭素数7~20のアルキルアリール若しくは炭素数7~20のアリールアルキル基である)であり;より好ましくは、(Z(R”)基は、Si(CH、SiPh、SiPhMe、SiMe(SiMe)、CH、(CH又はC(CHであり;
及びRは互いに同一又は異なって、周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の炭化水素基であり;好ましくは、それらは周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;より好ましくは、R及びRは直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~20のアルキル基であり;より好ましくは、R及びRはメチル又はエチル基であり;
Tは互いに同一又は異なって、式(a2-T1)又は(a2-T2):
【0102】
【化5】
(式中、符合「*」が付けられた原子は、式(a2)の化合物において同じ符合が付けられた原子と結合し;
は水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の炭化水素基であり;好ましくは、Rは周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;より好ましくは、Rは直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~20のアルキル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;更に好ましくは、Rは1以上の炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基であり;
及びRは互いに同一又は異なって、水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の炭化水素基であり;好ましくは、R及びRは互いに同一又は異なって、水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい直鎖状若しくは分枝鎖状、環式若しくは非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;好ましくは、R及びRは水素原子であり;
は水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の炭化水素基であり;好ましくは、Rは周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;より好ましくは、Rは直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数1~20のアルキル基であり;更に好ましくは、Rはメチル又はエチル基であり;
及びRは互いに同一又は異なって、水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の炭化水素基であり;R及びRは飽和又は不飽和の、5又は6員環を形成してもよく、該環は置換基として炭素数1~20のアルキル基を有してもよく;好ましくは、R及びRは、水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~40のアルキル、炭素数2~40のアルケニル、炭素数2~40のアルキニル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール若しくは炭素数7~40のアリールアルキル基であり;
好ましくは、Rは水素原子又は直鎖状若しくは分枝鎖状の、飽和若しくは不飽和の炭素数1~20のアルキル基であり;より好ましくは、Rはメチル又はエチル基であり;
好ましくは、Rは炭素数1~40のアルキル、炭素数6~40のアリール、炭素数7~40のアルキルアリール又は炭素数7~40のアリールアルキル基であり;より好ましくは、Rは式(a2-R7):
【0103】
【化6】
(式中、
7a、R7b、R7c、R7d及びR7eは互いに同一又は異なって、水素原子又は周期表の13~17族に属するヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖状又は分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール、炭素数7~20のアルキルアリール若しくは炭素数7~20のアリールアルキル基であり;好ましくは、R7a及びR7dは水素原子であり;R7b、R7c及びR7eは好ましくは、水素原子又は直鎖状若しくは分枝鎖状、環式又は非環式の炭素数1~10のアルキル基である。)]
【0104】
一つの態様において、一般式(a2)で表される化合物は、下記一般式(a3)で表される化合物であってよい。
【0105】
【化7】
(式中、M、X、p、L、R、R、R、及びRは、式(a2)と同様の意味を有する。)
式(a3)において、Mは、一定割合で末端にビニル基を生成し、マクロモノマーを共重合して長鎖分岐を生成できる点から、ハフニウムが好ましい。
【0106】
前記一般式[a3]で表されるメタロセン錯体の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
ジメチルシリレンビス(シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(5-メチル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,3,5-トリメチル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-(4-t-ブチルフェニル)-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-(2,5-ジメチルフェニル)-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-(3,5-ジメチルフェニル)-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド
【0107】
この他にも、上記に例示した化合物の2つのXが例示の塩素原子の代わりに、片方、若しくは両方が臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等に代わった化合物も、例示することができる。また、これらのメタロセン錯体に不斉炭素が生じる場合には、特に記載が無い場合、立体異性体の1つ又はその混合物(ラセミ体を含む)を示す。
【0108】
一般式[a2]で表されるメタロセン錯体の合成方法としては、従来公知の合成方法を適宜選択して用いることができ、例えば、特表2007-528925号公報を参照して合成することができる。
一般式[a3]で表されるメタロセン錯体の合成方法としては、従来公知の合成方法を適宜選択して用いることができ、例えば、特開2021-152155号公報を参照して合成することができる。
【0109】
II-1-3.成分[B]
成分[B]は、成分[A-1]及び成分[A-2]と反応してイオン対を形成する化合物又は層状珪酸塩である。
成分[B]は単独でもよいし、二種以上を用いてもよい。成分[B]は、好ましく層状珪酸塩である。
【0110】
II-1-3-1.成分[A-1]及び成分[A-2]とイオン対を形成する化合物
成分[A-1]及び成分[A-2]と反応してイオン対を形成する化合物としては、アルミニウムオキシ化合物、ホウ素化合物等を挙げることができ、アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には次の一般式(I)~(III)で表される化合物が挙げられる。
【0111】
【化8】
【0112】
上記の一般式(I)、(II)、及び(III)において、R91、R101及びR111は、水素原子又は炭化水素基、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基を示す。また、複数のR91、R101及びR111は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは0~40、好ましくは2~30の整数を示す。
一般式(I)及び(II)で表される化合物は、アルミノキサンとも称される化合物である。アルミノキサンの中では、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内及び各群間で複数種併用することも可能である。
一般式(III)中、R112は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基を示す。
ホウ素化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオン等の陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等どの有機ホウ素化合物との錯化物、又は種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等を挙げることができる。
【0113】
II-1-3-2.層状珪酸塩
層状珪酸塩(以下、単に珪酸塩と略記することもある)とは、イオン結合等によって平行に積み重なったシート状の結晶構造を有し、さらにシート状の結晶は複数で一つの層を形成し、その層間には層間イオンを有する珪酸塩化合物をいう。
層状珪酸塩の具体例としては、例えば、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1988年)等に記載される1層の四面体シートと1層の八面体シートが組み合わさった積み重なりを基本とする1:1型構造や2層の四面体シートが1層の八面体シートを挟み込んだ積み重なりを基本とする2:1型構造をもつ層状珪酸塩が挙げられる。
1:1型構造をもつ層状珪酸塩の具体例としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族珪酸塩、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族珪酸塩等が挙げられる。
2:1型構造をもつ層状珪酸塩の具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族珪酸塩、バーミキュライト等のバーミキュライト族珪酸塩、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族珪酸塩、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
【0114】
これらの中では、主成分が2層の主に酸化ケイ素からなる四面体シートが1層の主に酸化アルミニウムからなる八面体シートを挟み込んだ積み重なりを基本とする2:1型構造をもつ層状珪酸塩であるものが好ましく、より好ましくは、主成分がスメクタイト族珪酸塩であり、更に好ましくは、主成分がモンモリロナイトである。
層状珪酸塩は、層間に交換可能なイオン(層間イオン)を含有することができ、そのような層間イオンが交換可能な層状珪酸塩はイオン交換性層状珪酸塩である。
層間イオンとしてはイオンがカチオンである層間カチオンである場合が好ましく、層間カチオンの種類としては、特に限定されないが、主成分として、リチウム、ナトリウム等の周期表第1族のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等の周期表第2族のアルカリ土類金属、あるいは鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金等の遷移金属等が挙げられる。
【0115】
層状珪酸塩は、天然物でも、人工合成物でもよい。
層状珪酸塩の形状は、特に制限はなく、天然に産出したままの形状や、人工的に合成してできた球形の形状でもよい。
また、天然に産出した層状珪酸塩を粉砕、造粒等の操作により形状を加工することが可能であり、中でも造粒によって形状を球形にすることが好ましい。さらに球形の形状に加工された層状珪酸塩は、分級等の操作によって粒子径分布を狭くすることが、良好なポリマー粒子性状を与えるため特に好ましい。
【0116】
層状珪酸塩の層間イオンを、アルカリ金属イオンとするために、層状珪酸塩を化学処理することが望ましい。
層状珪酸塩の化学処理方法は、例えば、特開2018-162391号公報の段落0048~0066の記載を参照することができる。
【0117】
本発明に好ましく用いられる成分[B]は、化学処理された層状珪酸塩である。触媒成分[A-1]、成分[A-2]が担持される量及び分布の観点から、層状珪酸塩中に含まれるアルミニウム原子とケイ素原子のモル比(Al/Si)は、好ましくは0.01~0.25、より好ましくは0.03~0.24、更に好ましくは0.05~0.23の範囲である。
層状珪酸塩中のAl及びSiは、特開2018-162391号公報の段落0089の記載を参照して、JIS法による化学分析による方法で検量線を作成し、蛍光X線で定量するという方法で測定される。
【0118】
II-1-4.成分[C]
本発明に用いられる成分[C]は、有機アルミニウム化合物であり、好ましくは、下記一般式(IV)で表される有機アルミニウム化合物が使用される。
(AlR 3-n ・・・一般式(IV)
[上記一般式(IV)中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン、水素、アルコキシ基又はアミノ基を表し、nは1~3の整数、mは1~2の整数を表す。]
有機アルミニウム化合物は、単独であるいは複数種を組み合わせて使用することができる。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn-プロピルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn-ヘキシルアルミニウム、トリn-オクチルアルミニウム、トリn-デシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、m=1、n=3のトリアルキルアルミニウム及びm=2、n=1、Xが水素のジアルキルアルミニウムヒドリドである。より好ましくは、Rが炭素数1~8であるトリアルキルアルミニウムである。
【0119】
II-1-5.触媒の調製
本発明に好ましく用いられるオレフィン重合用触媒は、上記成分[A-1]、成分[A-2]、成分[B]及び成分[C]を含む。これらは、重合槽内又は重合槽外で接触させて得ることができる。オレフィン重合用触媒はオレフィンの存在下で予備重合を行ってもよい。
成分[A-1]、成分[A-2]、成分[B]及び成分[C]の使用量は任意である。
例えば、成分[A-1]及び成分[A-2]の合計使用量は、成分[B]1gに対し、0.1μmol~1000μmolであってよく、0.5μmol~500μmolの範囲であってよい。
また、成分[A-1]と成分[A-2]の比率に関しては、成分[A-1]と成分[A-2]の合計モル量に対する[A-1]のモル量の割合が、好ましくは0.30以上、0.99以下である。このモル量の割合の変化は、平均分子量、高分子量、非常に高い分子量、分岐数及び分岐分布を変化させる。この変化により、必要な分岐構造を保ちつつ極端に緩和時間の長い成分が少ない本発明の分岐状プロピレン系重合体を得ることができる。
また、成分[C]の使用量は、成分[A-1]及び成分[A-2]の合計の遷移金属に対する成分[C]のアルミニウムのモル比で、0.01~5×10であってよく、0.1~1×10の範囲であってよい。
【0120】
前記成分[A-1]、成分[A-2]、成分[B]及び成分[C]を接触させる順番は、任意である。以下の順序が挙げられる。
(1)成分[A-1]又は成分[A-2]のどちらか一方と成分[B]を接触させた後に、それらを成分[C]と接触させ、その後に、残りの成分[A-1]又は成分[A-2]のどちらか一方と接触させる。
(2)成分[A-1]又は成分[A-2]の両方を別々又は同時に成分[B]を接触させた後に、それらを成分[C]と接触させる。
(3)成分[C]と成分[B]を接触させた後に、成分[A-1]と成分[A-2]を順次又は同時に接触させる。
(4)成分[B]が存在する状況下で、成分[A-1]及び成分[A-2]を同時に、成分[C]と接触させる。
この中で(4)が好ましい。
【0121】
これらの接触において、接触を充分に行うため、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素やこれらのハロゲン化物、また予備重合モノマー等が例示される。脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素の例として、具体的にはヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられる。また、予備重合モノマーとしては、プロピレンを溶媒として用いることができる。
【0122】
II-1-6.予備重合
オレフィン重合用触媒は、オレフィンを接触させて少量重合される予備重合を行った触媒であってもよい。予備重合を行った触媒は、触媒活性が向上し、プロピレン系重合体を低コストで製造することができる。
使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができ、好ましくはプロピレンである。
また使用するオレフィンは、化石燃料由来のオレフィン、バイオマス由来のオレフィン、ケミカルリサイクル由来のオレフィン及びこれらの混合物を使用できる。
予備重合槽へのオレフィンのフィード方法は、オレフィンを定速的にあるいは定圧状態になるように維持する導入方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。
予備重合温度、予備重合時間は、特に限定されないが、各々-20℃~100℃、5分~24時間の範囲であることが好ましい。
また、予備重合倍率は、成分[B]に対する予備重合ポリマーの質量比が0.01~100であってよく、より好ましくは0.1~50であってよい。
また、予備重合時に成分[C]を追加することもできる。
上記予備重合の際若しくは予備重合の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
【0123】
II-2.プロピレン系重合体の重合方法
本発明の分岐状プロピレン系重合体の重合方法としては、成分[A-1]、成分[A-2]、成分[B]及び成分[C]を含むプロピレン重合用触媒の存在下にプロピレンを単独重合又はプロピレンとコノモマーとを共重合する方法が挙げられる。
重合様式は、溶液重合法、気相重合法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク重合法等あらゆる様式を採用しうる。中でも、バルク重合法がよい。
【0124】
例えばバルク重合の重合温度は、40℃~80℃、または50℃~75℃であってよい。バルク重合の重合圧力は、1.0MPa~5.0MPa、1.5MPa~4.0MPa、または2.0MPa~3.5MPaであってよい。
重合方式については、連続重合、バッチ重合を行う方法を採用することができる。
また、重合段数については、単段重合、二段以上の多段重合をすることができる。
【0125】
重合はプロピレンの単独重合でもよく、また、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~20のα-オレフィンコモノマーとの共重合でもよい。上記α-オレフィンコモノマーの例としては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等から選ばれる一種又は二種以上のコモノマーが挙げられる。プロピレンの単独重合ではプロピレン単独重合体が得られ、プロピレンとコモノマーとの共重合ではプロピレン共重合体が得られる。
プロピレン及びコモノマーは、化石燃料由来、バイオマス由来、ケミカルリサイクル由来のもの、及びこれらの混合物を使用できる。
【0126】
[水素の使用]
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、上記の触媒の存在下、水素を使用し、水素の使用量を調整することにより得ることもできる。
水素の使用量等を調整することで、分岐状プロピレン系重合体のGPCで測定する平均分子量、分子量分布(Mz、Mw、Mn、Mw/Mn、Mz/Mw)及びこれらのバランスは、例えば以下のように調整することができる。
本発明の分岐状プロピレン系重合体の製造方法では、成分[A-1]は、成分[A-1]と成分[A-2]との関係において、相対的に低分子量成分をつくる触媒成分として作用することが好ましい。一方で、成分[A-2]は相対的に高分子量成分をつくる触媒成分として作用することが好ましい。このことより、水素の量の変化に対するMzの変化率は、Mwの変化率よりも大きくなる。そのため、Mw/Mnをあまり変化させることなくMz/Mwは変化させることができる。
例えば水素量を多くすると、低分子量をつくる成分[A-1]から生成する重合体に対して、高分子量をつくる成分[A-2]から生成する重合体の分子量低下の変化率が大きい。また相対的に成分[A-1]の方が成分[A-2]より活性化されることにより、分子量分布は、成分[A-1]から生成する重合体の方が、成分[A-2]から生成する重合体より比率が多くなるように変化する。上記のように分子量分布が変化することにより、Mw、Mw/Mnをあまり変化させることなく、Mz、Mz/Mwをより小さくすることができる。
一方、水素量を少なくすると、低分子量をつくる成分[A-1]から生成する重合体に対して、高分子量をつくる成分[A-2]から生成する重合体の高分子量化の変化率が大きくなる。そのように分子量分布が変化することにより、Mw、Mw/Mnをあまり変化させることなく、Mz、Mz/Mwをより大きくすることができる。
【0127】
[触媒の使用方法]
本発明の分岐状プロピレン系重合体を連続重合する場合には、少なくとも水素とプロピレンとを重合反応器に連続的に導入する際に、触媒も連続的に導入することが好ましい。
【0128】
[ポリマースラリー濃度]
本発明の分岐状プロピレン系重合体を、例えばバルク連続重合で製造する場合には、重合反応器内に導入するプロピレン導入量と、生成したポリマーと未反応のプロピレンを回収する量を調整することにより、重合反応器内に保有するポリマー量を一定(定常状態)に保つことができる。
この時、重合反応器内のプロピレン質量に対するポリマー量の割合(ポリマースラリー濃度)も一定となる。
ただし、ポリマースラリー濃度が一定であっても、ポリマーが沈降気味であると、プロピレン液中では位置の高低によってポリマー濃度が異なってしまう。この場合に、水素の消費速度が位置によって異なってしまい、結果的に分子量や分岐分布が広がってしまう。
そこで、本発明の分岐状プロピレン系重合体の製造方法では、ポリマースラリー濃度は55質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下である。
また生産性の観点から、ポリマースラリー濃度を調整することが好ましく、本発明の分岐状プロピレン系重合体の製造方法では、ポリマースラリー濃度は30質量%以上が好ましく、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上である。
【0129】
III.分岐状プロピレン系重合体の用途
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、粉体、加熱溶融混練後粒状に切断されたペレット等として、成形材料に供することが可能である。
本発明の分岐状プロピレン系重合体には、添加剤や樹脂を配合することができる。各種添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、造核剤、滑剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤等が挙げられる。樹脂の例としては、種々の合成樹脂、天然樹脂等が挙げられる。
本発明の分岐状プロピレン系重合体は、各種のポリプロピレンの成形法により成形することができる。成形法の例としては、射出成形、押出成形、発泡成形、中空成形等の成形法が挙げられる。製造可能な成形品の例としては、工業用射出成形部品、容器、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム、シート、パイプ、繊維等の各種成形品が挙げられる。
また、本発明の分岐状プロピレン系重合体は、必要な溶融張力を保ちつつ、極端に緩和時間の長い成分が少ない。そのため、溶融時の延展性に優れる分岐状プロピレン系重合体が提供され、延展性が必要な用途に好適に使用できる。
また本発明の分岐状プロピレン系重合体は、他の樹脂にブレンドして用いることもできる。
【実施例0130】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例においてオートクレーブは、加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させてから使用した。また、触媒調製および重合は、すべて不活性ガス下で行った。
【0131】
(1)触媒成分(A)の合成
(1-1)合成例1:触媒成分[A-1]の合成
(錯体1)
rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成:
rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウムを、特開2012-149160号公報の合成例1の方法に準じて合成した。
【0132】
(1-2)合成例2:触媒成分[A-2]の合成
(錯体2)
1)rac-ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド(錯体2)の合成:
(1-a)2,5-ジメチル-3-フェニル-ヒドロシクロペンタ[b]チオフェンの合成:
特表2003-517010号公報の実施例1に記載の方法を参考に合成を行った。
(1-b)ジメチルビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-ヒドロシクロペンタ[b]チオフェン)シランの合成:
500mlのガラス製反応容器に、2,5-ジメチル-3-フェニル-ヒドロシクロペンタ[b]チオフェン(8.8g,39mmol)、THF(200ml)を加え、-70℃まで冷却した。ここにn-ブチルリチウム-n-ヘキサン溶液(1.55mol/L,25ml,39mmol)を滴下した。滴下後、混合物を徐々に室温まで戻しながら2時間攪拌した。混合物を再び-70℃まで冷却し、1-メチルイミダゾール(0.15ml,1.9mmol)を加え、ジメチルジクロロシラン(2.5g,19mmol)を含むTHF溶液(30ml)を滴下した。滴下後、混合物を徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
得られた反応液に蒸留水を加え、分液ロートに移し食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え一晩放置し反応液を乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去して、得られた固形分をシリカゲルカラムで精製することにより、ジメチルビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-ヒドロシクロペンタ[b]チオフェン)シランの白色粉末(9.8g,収率99%)を得た。
(1-c)rac-ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド(錯体A)の合成:
500mlのガラス製反応容器に、ジメチルビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-ヒドロシクロペンタ[b]チオフェン)シラン(6.1g,12mmol)、ジエチルエーテル200mlを加え、ドライアイス-メタノール浴で-70℃まで冷却した。ここにn-ブチルリチウム-n-ヘキサン溶液(1.55mol/L,16ml,24mmol)を滴下した。滴下後、混合物を室温に戻し2時間攪拌した。得られた反応液の溶媒を20ml程度まで減圧濃縮した後、トルエン250ml,THF10mlを加え、混合物をドライアイス-メタノール浴で-70℃まで冷却した。そこに、四塩化ハフニウム3.8g(12mmol)を加えた。その後、混合物を徐々に室温に戻しながら一晩攪拌した。
溶媒を減圧留去して、得られた固形分を、トルエン/ヘキサンで再結晶することにより、ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライドのラセミ体(純度97%)を黄色結晶として0.87g(収率10%)得た。
【0133】
得られたラセミ体についてのプロトン核磁気共鳴法(H-NMR)による同定値を以下に記す。
H-NMR(CDCl)同定結果
ラセミ体:δ1.06(s,6H),δ2.42(s,6H),δ2.59(s,6H),δ8.51(s,2H),δ7.28~δ7.33(m,2H),δ7.39~δ7.43(m,4H),δ7.46~δ7.50(m,4H)
【0134】
(1-3)合成例3:比較触媒成分[CA-2]の合成
(錯体3)
rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-メチル-4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロアズレニル}]ハフニウムの合成:
rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-メチル-4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロアズレニル}]ハフニウムを、特開平11―240909号公報の実施例7の方法に準じて合成した。
【0135】
(2)成分(B)の合成例:イオン交換性層状ケイ酸塩の化学処理
撹拌翼と還流装置を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、蒸留水645.1gと98%硫酸82.6gを加え、95℃まで昇温した。
そこへ市販のモンモリロナイト(水澤化学工業社製ベンクレイKK、Al=9.78質量%、Si=31.79質量%、Mg=3.18質量%、Al/Si(モル比)=0.320、平均粒径14μm)100gを添加し、95℃で320分反応させた。320分後、蒸留水0.5Lを加えて反応を停止し、濾過することでケーキ状固体物255gを得た。
このケーキ1gには、0.31gの化学処理モンモリロナイト(中間物)が含まれていた。化学処理モンモリロナイト(中間物)の化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量%、Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222であった。
上記ケーキに蒸留水1545gを加えスラリー化し、40℃まで昇温した。スラリーに水酸化リチウム・水和物5.734gを固体のまま加え、40℃で1時間反応させた。1時間後、反応スラリーを濾過し、1Lの蒸留水で3回洗浄し、再びケーキ状固体物を得た。
得られたケーキ状固体物を90℃以上、常圧で一晩予備乾燥させた後、200℃のオイルバスを使用して突沸が収まってから2時間以上減圧乾燥することにより、化学処理モンモリロナイト80gを得た。この化学処理モンモリロナイトの化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量%、Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222、Li=0.53質量%であった。
【0136】
(3)触媒の調製
(3-1)触媒1の合成例
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(66mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.0mL)を加えて1時間撹拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分[A-1]の合成例で作製したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム(錯体1)(105μmol)をトルエン(21mL)に溶解し、溶液1を調製した。更に、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分[A-2]の合成例で作製したrac-ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド(錯体2)(45μmol)をトルエン(9mL)に溶解し、溶液2を調製した。
【0137】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(0.42mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.6mL)を加えた後、上記溶液1(21mL)を加えて20分間室温で撹拌した。
その後、更にトリイソブチルアルミニウム(0.18mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.25mL)を加えた後、上記溶液2を加えて、1時間室温で撹拌した。
その後、前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのちプロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを1時間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒1)28.2gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は1.82であった。
【0138】
(3-2)触媒2の合成例
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(66mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.0mL)を加えて1時間撹拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分[A-1]の合成例で作製したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム(錯体1)(105μmol)をトルエン(21mL)に溶解し、溶液1を調製した。更に、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記比較触媒成分[CA-2]の合成例で作製したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-メチル-4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロアズレニル}]ハフニウム(錯体3)(45μmol)をトルエン(9mL)に溶解し、溶液2を調製した。
【0139】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコにトリイソブチルアルミニウム(0.42mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.6mL)を加えた後、上記溶液1(21mL)を加えて20分間室温で撹拌した。
その後、更にトリイソブチルアルミニウム(0.18mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.25mL)を加えた後、上記溶液2を加えて、1時間室温で撹拌した。
その後、前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのちプロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを1時間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒2)30.9を得た。予備重合倍率は2.09であった。
【0140】
(3-3)触媒3の合成例
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(66mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.0mL)を加えて1時間撹拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分[A-1]の合成例で作製したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム(錯体1)(75μmol)をトルエン(15mL)に溶解し、溶液1を調製した。更に、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分[A-2]の合成例で作製したrac-ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド(錯体2)(75μmol)をトルエン(15mL)に溶解し、溶液2を調製した。
【0141】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコにトリイソブチルアルミニウム(0.42mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.6mL)を加えた後、上記溶液1(21mL)を加えて20分間室温で撹拌した。
その後、更にトリイソブチルアルミニウム(0.18mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.25mL)を加えた後、上記溶液2を加えて、1時間室温で撹拌した。
その後、前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのちプロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを1時間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒3)28.5gを得た。予備重合倍率は1.85であった。
【0142】
(4)実施例
[実施例1]
(重合)
20Lオートクレーブは、槽内をプロピレンで置換して室温まで冷却して使用した。重合槽に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)18.7mL、液体プロピレン5000gを導入した後、63℃まで昇温した。その後、上記触媒1を、予備重合ポリマーを除いた質量で700mg、高圧アルゴンで重合槽に圧送して重合を開始し、槽内を速やかに70℃まで昇温した。そのまま70℃で保持し、重合開始から1時間後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止した。そうしたところ1687gのプロピレン単独重合体が得られた。得られた重合体を用いて、GPC、3D-GPC、13C-NMRの測定を行った。
【0143】
(造粒)
得られた分岐状プロピレン系重合体100質量部に対し、フェノール系酸化防止剤IRGANOX1010(BASFジャパン社製、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン)0.125質量部、フォスファイト系酸化防止剤IRGAFOS168(BASFジャパン社製、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト)0.125質量部を配合し、高速撹拌式混合機ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)を用い、室温下で3分間混合した。その後、二軸押出機KZW-15(テクノベル社製)を用い、スクリュー回転数は400rpm、混練温度はホッパー下から80、120、230℃(以降、ダイス出口まで同温度)にて溶融混練した。ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固定化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを切断・ペレット化した。
得られたペレットのMFRは4.5g/10分であった。得られたペレットを用いて、Ea、MT、伸長粘度、TREF、MaxDrawの測定を行った。各特性の評価結果を表1に示す。
【0144】
[実施例2]
実施例1の重合において、触媒1を、予備重合ポリマーを除いた質量で500mg、水素を0.09NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ1750gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは9.0g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0145】
[実施例3]
実施例1の重合において、触媒1を、予備重合ポリマーを除いた質量で400mg、水素を0.43NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ2109gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは21g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0146】
[実施例4]
実施例1の重合において、触媒1を、予備重合ポリマーを除いた質量で100mg、水素を1.87NL導入し、重合時間を3時間とする以外は同様に重合した。そうしたところ1960gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは32g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0147】
[実施例5]
実施例4の重合において、触媒1の代わりに触媒3を、予備重合ポリマーを除いた質量で160mg、水素を0.51NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ2026gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは1.2g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0148】
[実施例6]
実施例4の重合において、触媒1の代わりに触媒3を、予備重合ポリマーを除いた質量で90mg、水素を1.36NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ1852gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは2.7g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0149】
[比較例1]
20Lオートクレーブは、槽内をプロピレンで置換して室温まで冷却して使用した。重合槽に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)18.7mL、水素を0.68NL導入した後に液体プロピレン5000gを導入した後、63℃まで昇温した。その後、上記触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で310mg、高圧アルゴンで重合槽に圧送して重合を開始し、槽内を速やかに70℃まで昇温した。そのまま70℃で保持し、重合開始から1時間後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止した。そうしたところ2288gのプロピレン単独重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは3.3g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0150】
[比較例2]
比較例1の重合において、触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で230mg、水素を1.02NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ1978gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは9.9g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0151】
[比較例3]
比較例1の重合において、触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で220mg、水素を1.11NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ1936gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは15.0g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0152】
[比較例4]
比較例1の重合において、触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で360mg、水素を0.51NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ1872gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは0.8g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0153】
[比較例5]
比較例1の重合において、触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で200mg、水素を0.94NL導入する以外は同様に重合した。そうしたところ2000gの重合体が得られた。
上記得られた重合体を実施例1と同様に造粒したところ、得られたペレットのMFRは40g/10分であった。実施例1と同様に各特性を評価した結果を表1に示す。
【0154】
[参考例1]:錯体1の触媒成分(A)としての性能評価
(触媒R1の調製)
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(65mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を35mL)を加えて1時間攪拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、合成例1で合成したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム(錯体1)(0.15mmol)をトルエン(30mL)に溶解し、溶液を調製した。
【0155】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(0.60mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.85mL)を加えた後、上記溶液を加えて60分間室温で攪拌した。
その後前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にした後、プロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを40分間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒R1)29.5gを得た。予備重合倍率は1.95であった。
【0156】
(重合)
20Lオートクレーブは、槽内をプロピレンで置換して室温まで冷却して使用した。重合槽に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)18.7mL、水素を0.51NL導入した後に液体プロピレン5000gを導入した後、63℃まで昇温した。その後、上記触媒R1を、予備重合ポリマーを除いた質量で300mg、高圧アルゴンで重合槽に圧送して重合を開始し、速やかに70℃まで昇温した。そのまま70℃で保持し、重合開始から1時間後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止した。そうしたところ1740gのプロピレン単独重合体が得られた。得られた重合体を用いて、MFR、GPC、NMRの測定を行った結果を表2に示す。
【0157】
[参考例2]:錯体2の触媒成分(A)としての性能評価
(触媒R2の調製)
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(66mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.0mL)を加えて1時間撹拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記合成例2で合成したrac-ジメチルシリレンビス(2,5-ジメチル-3-フェニル-シクロペンタ[b]チエニル)ハフニウムジクロライド(錯体2)(0.15mmol)をトルエン(30mL)に溶解し、溶液を調製した。
【0158】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(0.60mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.85mL)を加えた後、上記溶液を加えて60分間室温で攪拌した。
その後、前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にした後、プロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを1時間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒R2)32.0gを得た。予備重合倍率は2.20であった。
【0159】
(重合)
参考例1の重合において、触媒R1の代わりに触媒R2を、予備重合ポリマーを除いた質量で100mg、水素を1.19NL導入する以外は、参考例1と同様に重合した。そうしたところ1153gの重合体が得られた。得られた重合体を用いて、MFR、GPC、NMRの測定を行った結果を表2に示す。
【0160】
[参考例3]:錯体3の触媒成分(A)としての性能評価
(触媒R3の調製)
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記で得られた化学処理モンモリロナイト10gを入れ、ヘプタン(66mL)を加えてスラリーとした。スラリーにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.0mL)を加えて1時間撹拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を50mLとした。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記合成例3で合成したrac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-メチル-4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロアズレニル}]ハフニウム(錯体3)(0.15mmol)をトルエン(30mL)に溶解し、溶液を調製した。
【0161】
前記した化学処理モンモリロナイトが入った1Lフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(0.60mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.85mL)を加えた後、上記溶液を加えて60分間室温で攪拌した。
その後、前記混合物にヘプタンを170mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのちプロピレンを5g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.5mL)を加えて5分撹拌した。
この触媒スラリーを1時間減圧乾燥し、予備重合触媒(触媒R3)31.0gを得た。予備重合倍率は2.10であった。
【0162】
(重合)
参考例1の重合において、触媒R1の代わりに触媒R3を、予備重合ポリマーを除いた質量で300mg、水素を0.51NL導入する以外は参考例1と同様に重合した。そうしたところ1570gの重合体が得られた。得られた重合体を用いて、MFR、GPC、NMRの測定を行った結果を表2に示す。
【0163】
表2による前記参考例1~3の結果より、合成例1の錯体1は、成分[A-1]:70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、末端ビニル率(Rv)が0.5以上のプロピレン単独重合体a-1を与えるメタロセン化合物として用いることができ、合成例2の錯体2は、成分[A-2]:70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、前記プロピレン単独重合体a-1よりも数平均分子量(Mn)が大きく、Rvが0.1以上、0.5より小さいプロピレン単独重合体a-2を与え、プロピレン単独重合体a-2は、生成した末端ビニルの数のうち共重合してLCBになった割合{LCB数/([Vi]+LCB数)}が前記プロピレン単独重合体a-1よりも大きい、メタロセン化合物として用いることができることが示された。
合成例3の錯体3は、70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、前記プロピレン単独重合体a-1よりもMnが大きいが、Rvが0であるプロピレン単独重合体を与えるメタロセン化合物であった。
【0164】
(5)測定及び評価の方法
実施例1~6及び比較例1~5で得られた分岐状プロピレン系重合体、参考例1~3で得られたプロピレン系重合体について、下記(5-1)~(5-12)は、上記本明細書記載の方法で測定及び算出した。
(5-1)MFRまた、測定したMFRの値を用いて、上記式(1)、式(2)及び式(7)の右辺により算出される値を求めた。
【0165】
(5-2)GPCによって得られるMn、Mw、Mz、Mw/Mn、及びMz/Mw
(5-3)GPCによって得られる積分分子量分布曲線におけるW100万、W200万、及びW200万/W100万
(5-4)3D-GPCによって得られるMwabs、g’(100万)、g’(Mwabs)、及び[g’(Mwabs)-g’(100万)]
(5-5)動的粘弾性測定におけるEa
(5-6)13C-NMRで測定するmm、[2,1結合]量、及び[1,3結合]量
(5-7)13C-NMRで測定するLCB数
(5-8)TREFによって得られる溶出曲線における40℃以下の温度で溶出する成分の量(TREF 40℃可溶分)
(5-9)伸長粘度測定から得られるSHI@1.0s-1及びMBI
(5-10)溶融張力(MT230)
(5-11)MaxDraw
(5-12)[Vi]、末端ビニル率、LCB数/([Vi]+LCB数)
【0166】
(6)評価結果
各実施例、比較例及び参考例の結果を表1、表2、図2図4、及び図5に示す。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
表1に示すように、比較例1~5の分岐状プロピレン系重合体は、本発明で特定した分子量分布と分岐分布を有しておらず、Mabs=100万の部分に分岐をもつ成分の量は少ないが高い溶融張力を有することから、極端に緩和時間の長い成分が多いと推定され、MFR見合いでEaが低い。その結果、溶融時の延展性が劣ったと考えられる。
これに対し、表1に示すように、実施例1~6の分岐状プロピレン系重合体はいずれも、前記特性(1)~特性(4)を満たしており、従来とは異なる分岐状プロピレンの構造、特に分子量分布と分岐分布を有していた。そして、実施例1~6の分岐状プロピレン系重合体は、MFRが1.2g/10分~32g/10分でかつMTが0.4g~5.3gであって、成形加工に必要な溶融張力を保持しながら、MaxDrawが112m/分~600m/分超過であった。このように実施例1~6の分岐状プロピレン系重合体は、成形加工に必要な流動性と溶融張力を保持しながら、溶融時の延展性に優れていた。実施例1~6の分岐状プロピレン系重合体はいずれも、MaxDrawとMFRとが、上記式(7)で示される関係を満たしており、MFR見合いで延展性に優れることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5