(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143990
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】缶体
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B65D1/16 111
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127190
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2019170625の分割
【原出願日】2019-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】南馬 孝之
(72)【発明者】
【氏名】武井 政幸
(57)【要約】
【課題】薄肉化されても胴切れを生じることのない缶体を提供する。
【解決手段】缶軸Cを中心とした有底円筒状の缶本体1を有して、缶本体1は、缶底部3と缶胴部2とを備え、缶胴部2の外径が直径で55mm~60mmの範囲内であり、缶底部3の缶底5bから缶胴部2の上端開口部2aまでの缶高さが150mm~190mmの範囲内である缶体であって、缶底部3の缶軸C上の厚さが、0.270mm~0.285mmの範囲内とされ、缶胴部2は、缶底部3側のウォール部2bの厚さよりも上端開口部2a側のフランジ部2cの厚さが厚くされており、ウォール部2bを周方向に等間隔に8点の厚さを測定したウォール厚t1のばらつきが±7μmであり、フランジ部2cを周方向に等間隔に8点の厚さを測定したフランジ厚t2のばらつきが±10μmであり、フランジ厚t2の平均値とウォール厚t1の平均値との差である缶体段差t2-t1が、60μm以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を有して、
上記缶本体は、缶底部と、この缶底部の外周から上記缶軸方向上端側に延びる該缶軸を中心とした円筒状の缶胴部とを備え、
上記缶胴部の外径が直径で55mm~60mmの範囲内であり、上記缶底部の缶底から上記缶胴部の上端開口部までの缶高さが150mm~190mmの範囲内である缶体であって、
上記缶底部の上記缶軸上の厚さが、0.270mm~0.285mmの範囲内とされ、
上記缶胴部は、上記缶底部側のウォール部の厚さよりも上記上端開口部側のフランジ部の厚さが厚くされており、
上記ウォール部を周方向に等間隔に8点の厚さを測定したウォール厚のばらつきが±7μmであり、
上記フランジ部を周方向に等間隔に8点の厚さを測定したフランジ厚のばらつきが±10μmであり、
上記フランジ厚の平均値と上記ウォール厚の平均値との差である缶体段差が、60μm以下であることを特徴とする缶体。
【請求項2】
上記缶本体はアルミニウム合金材からなり、材料強度が27k材、26k材、25k材のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の缶体。
【請求項3】
上記ウォール部は、上記缶底から上記缶軸方向上端側に132.0mmまでの範囲内に形成され、
上記フランジ部は、上記上端開口部から上記缶軸方向下端側に15.4mmまでの範囲内に形成され、
これら上記ウォール部と上記フランジ部との間の10.0mmの範囲内に上記缶体段差とされた缶体段差部が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶底部と、この缶底部の外周から缶軸方向上端側に延びる缶軸を中心とした円筒状の缶胴部とを備えた缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を有する缶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような缶体および製品缶として、例えば特許文献1には、有底円筒状をなす缶本体と、この缶本体の開口部に巻き締められ、飲み口予定部が設けられた缶蓋とを備えた缶体(飲料缶)であって、缶本体は、缶軸に沿って延在する円筒状をなす缶胴部と、この缶胴部の缶軸方向下端側に設けられた缶底部と、前記缶胴部の缶軸方向上端側に連接されるとともに缶軸方向上方に向かうに従い漸次縮径されるネッキング部とを備えたものが記載されている。
【0003】
ここで、この特許文献1に記載された缶体および製品缶では、缶胴部の外径が55mm以上60mm以下の範囲とされ、缶蓋のシーミングパネルの上端からネッキング部の下端までの缶軸方向高さが9mm以上20mm以下の範囲内とされ、缶胴部の外径とネッキング部の最小外径との差が6mm以上8mm以下の範囲内とされている。また、缶本体の缶軸方向高さは120mm以上190mm以下の範囲内とされている。
【0004】
このような缶体は、まずカッピングプレス機によるカッピングプレス工程において、金属板を円板状に打ち抜いて絞り加工を施すことにより深さの浅いカップ状素材を成形することから製造される。次に、このカップ状素材にDIプレス機によるDIプレス工程においてパンチによって再絞りおよびしごき加工を施して缶軸方向に延伸することにより、上述のような有底円筒状の缶体が成形される。
【0005】
また、このような缶体では、缶胴部の外径(直径)が一定外径とされる一方、この缶胴部の缶底部側は肉厚が薄くされた薄肉部であるウォール部とされるとともに、缶底部とは反対の上端開口部側の部分はウォール部よりも肉厚とされたフランジ部とされたものが知られている。例えば、特許文献2には、ボトル缶に製造される缶体であって、金属板の元板厚が0.345mm~0.390mmではあるものの、フランジ部の肉厚(フランジ厚)とウォール部の肉厚(ウォール厚)との段差を0.110mm以下としたDI缶が記載されている。
【0006】
ここで、このような厚さの異なるウォール部とフランジ部とを缶胴部に形成するには、上述のようにDIプレス機において複数のしごきダイスとの間でしごき加工を行うパンチの外表面のフランジ部と対応する位置に、ウォール部とフランジ部との肉厚の差(段差)を考慮した深さの凹部を形成すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-005967号公報
【特許文献2】特開2018-131261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年では、このような缶体や製品缶を形成する金属材料の省資源化や材料製造の際の省エネルギー化のために缶本体や蓋体のさらなる薄肉化が強く求められている。例えば、アルミニウム合金製の缶体の場合には、板厚が0.230mm~0.300mm程度のアルミニウム合金よりなる板材からカップ状素材を絞り加工によって成形して缶本体を製造するようなことも要求されている。
【0009】
しかしながら、特にこのように薄肉化された缶体において、上述のように缶胴部の缶底部側は肉厚が薄くされた薄肉部であるウォール部とされるとともに、缶底部とは反対の上端開口部側の部分はウォール部よりも肉厚とされたフランジ部とされていて、フランジ厚とウォール厚との段差が大きいと、DIプレス成形機においてパンチとしごきダイスとの間でしごき加工を行う際に、缶胴部に破断が生じる、いわゆる胴切れという現象が発生し易くなる。
【0010】
そして、ひとたびこのような胴切れが発生すると、DIプレス成形機内に破断した缶本体が残ってしまうため、一旦DIプレス成形機による成形作業を中断して破断した缶本体を取り除かなければならない。このため、缶本体の生産性、ひいては製品缶の生産性も著しく低下することが避けられない。
【0011】
本発明は、このような背景の下になされたもので、薄肉化されても胴切れを生じるのを抑制することが可能な缶体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の缶体は、缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を有して、上記缶本体は、缶底部と、この缶底部の外周から上記缶軸方向上端側に延びる該缶軸を中心とした円筒状の缶胴部とを備え、上記缶胴部の外径が直径で55mm~60mmの範囲内であり、上記缶底部の缶底から上記缶胴部の上端開口部までの缶高さが150mm~190mmの範囲内である缶体であって、上記缶底部の上記缶軸上の厚さが、0.270mm~0.285mmの範囲内とされ、上記缶胴部は、上記缶底部側のウォール部の厚さよりも上記上端開口部側のフランジ部の厚さが厚くされており、上記ウォール部を周方向に等間隔に8点の厚さを測定したウォール厚のばらつきが±7μmであり、上記フランジ部を周方向に等間隔に8点の厚さを測定したフランジ厚のばらつきが±10μmであり、上記フランジ厚の平均値と上記ウォール厚の平均値との差である缶体段差が、60μm以下であることを特徴とする。
【0013】
また上記缶体において、上記缶本体はアルミニウム合金材からなり、材料強度が27k材、26k材、25k材のいずれかである。
【0014】
また上記缶体において、上記ウォール部は、上記缶底から上記缶軸方向上端側に132.0mmまでの範囲内に形成され、上記フランジ部は、上記上端開口部から上記缶軸方向下端側に15.4mmまでの範囲内に形成され、これら上記ウォール部と上記フランジ部との間の10.0mmの範囲内に上記缶体段差とされた缶体段差部が形成される。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明によれば、薄肉化された缶体であっても、フランジ部とウォール部との段差によって胴切れが発生するのを抑えることができ、胴切れによってDIプレス成形機による成形作業が中断されるのを抑制して、缶体の生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の缶体の一実施形態を示す缶軸に沿った断面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態および
図4に示す実施形態の製品缶の缶底部(
図1におけるA部分)を示す拡大部分断面図である。
【
図3】
図1に示す実施形態の缶胴部の概略を示す部分断面図である(ただし、説明のため、フランジ部の厚さは大きく示されている。)。
【
図4】
図1に示す実施形態のフランジ部に肩部、首部、および巻き締め部を成形した状態を示す缶軸に沿った断面図である。
【
図5】
図4に示す缶体の巻き締め部に蓋体を取り付けた本発明の製品缶の一実施形態を示す側面図である。
【
図6】
図5に示す実施形態の巻き締め部を示す
図5におけるB部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~
図3は、本発明の缶体の一実施形態を示すものであり(ただし、
図2は、本発明の製品缶の一実施形態とも共通している。)、
図4は、この一実施形態の缶体のフランジ部に肩部、首部、および巻き締め部を成形した状態を示すものである。また、
図5および
図6は、この
図4に示す缶体の巻き締め部に蓋体を巻き締めて取り付けた本発明の製品缶の一実施形態を示すものである。
【0018】
本実施形態の缶体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属材料によって形成された
図1に示すような缶軸Cを中心とする有底円筒状の缶本体1を備えている。すなわち、この缶本体1は、缶軸Cを中心とする概略円筒状の缶胴部2と、この缶胴部2の下端側(
図1~
図3において下側。)の開口部を閉塞する概略円盤状の缶底部3とが一体に形成されて構成されている。
【0019】
このうち、缶本体1の缶底部3には、該缶底部3の中央部に、缶軸C方向の上端側(
図1~
図3において上側)に向けて凹む凹曲面状のドーム部4が形成されるとともに、このドーム部4の外周側には、缶軸C方向の下端側に突出した後に缶軸Cに対する径方向外周側に向かうに従い缶軸C方向の上端側に向かう環状凸部5が缶軸C回りの周方向に連続して形成されている。ここで、本実施形態においては、この缶本体1の缶底部3のドーム部4における上記缶軸C上の厚さt0は、0.270mm~0.285mmの範囲内とされている。
【0020】
また、上記ドーム部4から缶軸C方向の下端側に突出する上記環状凸部5の内壁部は、缶軸Cに沿った断面において
図2に示すように缶本体1の内周側に向かうに従い缶軸C方向の上端側に向かって直線状に傾斜して延びるカウンター部5aとされている。そして、このカウンター部5aが缶軸Cに沿った上記断面において缶軸Cに平行な直線Lに対してなすカウンター角度θは、本実施形態では4°~7°の範囲内とされている。
【0021】
一方、缶胴部2は、外径Dが直径で55mm~60mmの範囲内の一定の大きさとされている。また、上記缶底部3の環状凸部5の缶底5b(環状凸部5の最も缶軸C方向下端側に突出した位置)から缶軸C方向に缶胴部2の上端開口部2aまでの缶高さH1は、150mm~190mmの範囲内一定の大きさとされており、本実施形態では157.4mmとされている。
【0022】
さらに、この缶胴部2は、上記缶底部3側がウォール部2bとされるとともに、上端開口部2a側がフランジ部2cとされており、ウォール部2bの缶軸Cに対する径方向の厚さであるウォール厚t1よりも、フランジ部2cの缶軸Cに対する径方向の厚さであるフランジ厚t2が厚くされていて、ウォール部2bとフランジ部2cとの間に缶本体1の段差である缶体段差部2dが形成されている。
【0023】
ここで、上記ウォール部2bは、上記缶底5bから缶軸C方向上端側に132.0mm(缶胴部2と缶底部3との境界から缶軸C方向上端側に106.0mm)までの範囲内に形成されるとともに、上記フランジ部2cは、上記上端開口部2aから缶軸C方向下端側に15.4mmまでの範囲内に形成され、これらウォール部2bとフランジ部2cとの間の10.0mmの範囲内に上記缶体段差部2dが形成される。
【0024】
そして、フランジ部2cのフランジ厚t2とウォール部2bのウォール厚t1との缶体段差t2-t1は、60μm以下とされている。なお、このフランジ部2cのフランジ厚t2とウォール部2bのウォール厚t1との缶体段差t2-t1は、50μm以上とされるのが望ましい。
【0025】
ここで、本実施形態では、缶底5bから缶軸C方向上端側に79mmの高さh1の位置において周方向に等間隔に8点の厚さを測定して、その平均値をウォール厚t1としている。このときのウォール厚t1のばらつきは±7μmであるのが望ましい。また、本実施形態では、缶胴部2の上端開口部2aから缶軸C方向下端側に7mmの位置である缶底5bからの高さh2の位置において周方向に等間隔に8点の厚さを測定して、その平均値をフランジ厚t2としている。このときのフランジ厚t2のばらつきは±10μmであるのが望ましい。
【0026】
このように成形された缶体は、必要に応じて上端開口部2aがトリミングされて所定の上記缶高さH1に調整された後、
図4に示すようにネッキング加工において上記フランジ部2cが縮径させられることにより上端開口部2aに向かうに従い縮径させられて肩部6が成形されるとともに、この肩部6の上端に連なるように缶軸Cを中心とした円筒状の首部7が成形される。さらに、この首部7から上端開口部2aは缶軸C方向上端側に向かうに従い缶軸Cに沿った断面において曲線状に拡径させられて、首部7の上端に連なる巻き締め部8が成形される。
【0027】
こうして成形された缶体には、飲料等の内容物が充填された後、
図5および
図6に示すように上記巻き締め部8に図示されないプルタブが備えられた蓋体9が巻き締められて取り付けられ、本発明の製品缶(充填済缶)の一実施形態に製造される。すなわち、この製品缶の一実施形態も、缶軸Cを中心とした有底円筒状の製品缶本体10と、この製品缶本体10の上端開口部に巻き締められて取り付けられる缶軸Cを中心とした円盤状の上記蓋体9とを有している。
【0028】
また、この製品缶本体10も、上記缶体の缶本体1と同様の缶底部3と、この缶底部3の外周から缶軸C方向上端側に延びる肩部6、首部7、巻き締め部8、および蓋体9を除いて缶軸Cを中心とした略円筒状の缶胴部2とを備えている。ここで、缶胴部2の外径は缶本体1と同じく直径で55mm~60mmの範囲内であり、缶底部3の缶底5bから蓋体9の上端部9aまでの製品缶の缶高さH2は、150mm~190mmの範囲内であって、本実施形態では155.6mmであり、缶体の缶高さH1よりは僅かに低くされている。
【0029】
ここで、この製品缶の製品缶本体10におけるウォール部2bのウォール厚t3は缶本体1のウォール厚t1と略等しい。一方、上記ネッキング工程においてフランジ部2cが縮径されて肩部6および首部7が成形されることにより、この製品缶の製品缶本体10の肩部6および首部7におけるフランジ部2eのフランジ厚t4は、缶体の缶本体1におけるフランジ部2cのフランジ厚t2よりも厚くなる。
【0030】
そして、この製品缶本体10におけるフランジ部2eのフランジ厚t4とウォール部2bのウォール厚t3との製品缶段差t4-t3は、74μm以下とされている。なお、この製品缶の製品缶本体10におけるフランジ部2eのフランジ厚t4とウォール部2bのウォール厚t3との製品缶段差t4-t3は、60μm以上とされるのが望ましい。
【0031】
ここで、本実施形態の製品缶においても、ウォール部2bのウォール厚t3は、缶体と同じく缶底5bから缶軸C方向上端側に79mmの高さh1の位置において周方向に等間隔に8点の缶胴部2の厚さを測定して、その平均値をウォール厚t3としている。このときのウォール厚t3のばらつきは±7μm以内であるのが望ましい。
【0032】
また、本実施形態の製品缶においては、フランジ部2eのフランジ厚t4は、
図6に示すように蓋体9の上端部9aから缶軸C方向下端側に4mmの高さh3の位置において周方向に等間隔に8点の厚さを測定して、その平均値をフランジ厚t4としている。この高さh3の位置は、上記首部7の位置に略相当する。なお、このときのフランジ厚t4のばらつきは±10μm以内であるのが望ましい。
【0033】
さらに、この製品缶において、缶底部3の形状や寸法は、缶体と略変わることがない。従って、本実施形態の製品缶においても、缶底部3のドーム部4における缶軸C上の厚さt0は、0.270mm~0.285mmの範囲内とされるとともに、カウンター部5aが缶軸Cに沿った断面において缶軸Cに平行な直線Lに対してなすカウンター角度θも、4°~7°の範囲内とされる。
【0034】
このように構成された缶体および製品缶では、缶体においては缶本体1のフランジ厚t2とウォール厚t1との差である缶体段差t2-t1が60μm以下とされるとともに、製品缶においては製品缶本体10のフランジ厚t4とウォール厚t3との差である製品缶段差t4-t3が74μm以下とされており、いずれもフランジ厚t2、t4がウォール厚t1、t3よりも厚くされているものの、缶体段差t2-t1や製品缶段差t4-t3が小さく設定されている。
【0035】
このため、DIプレス機において複数のしごきダイスとの間でしごき加工を行うパンチの外表面の凹部の段差も小さくすることができるので、板厚の薄い金属板から缶本体1を成形する場合でも、この段差に引っ掛かって缶本体1に破断が生じて胴切れが発生するのを抑えることができる。従って、DIプレス成形機による成形作業が胴切れによって中断するのを抑制することができるので、缶体の生産性の向上を図ることができ、ひいては製品缶の生産性の向上も図ることが可能となる。
【0036】
ここで、缶体において缶本体1の缶胴部2のフランジ厚t2とウォール厚t1との差である缶体段差t2-t1が60μmを上回ると、缶本体1に胴切れが発生し易くなってしまう。また、製品缶においては、上述のように缶体の缶本体1のフランジ部2cにネッキング加工が施されてフランジ部2cが縮径されることにより、フランジ厚t4は厚くなるので、缶体段差t2-t1よりも大きい74μm以下の製品缶段差t4-t3であれば、缶体のDIプレス成形機によるDIプレス工程において胴切れが防止されていたとすることができる。
【0037】
一方、このような缶体および製品缶では、DIプレス成形機のパンチおよびしごきダイスにより、上述のように缶本体1および製品缶本体10の缶底部3には、その中央部に缶軸C方向上端側に向けて凹む凹曲面状のドーム部4が形成されるとともに、このドーム部4の外周側には、缶軸C方向下端側に突出した後に缶軸Cに対する径方向外周側に向かうに従い缶軸C方向上端側に向かう環状凸部5が缶軸C回りの周方向に連続して形成されている。ここで、この缶底部3の形状、寸法は、上述のように缶本体1と製品缶本体10とで略変わることはない。
【0038】
そして、本実施形態の缶体および製品缶では、このような缶底部3におけるドーム部4から缶軸C方向下端側に突出する環状凸部5の内壁部が、缶軸Cに沿った断面において缶本体1または製品缶本体10の内周側に向かうに従い缶軸C方向上端側に向かって直線状に傾斜して延びるカウンター部5aとされており、このカウンター部5aが上記断面において缶軸Cに平行な直線Lに対してなすカウンター角度θが4°~7°の範囲内とされている。
【0039】
このため、本実施形態によれば、缶底部3の耐圧強度を確保しつつ、DIプレス工程において缶底部3に亀裂が生じて缶体および製品缶の生産性が損なわれるのを避けることができる。すなわち、このカウンター角度θが7°よりも大きいと、カウンター部5aが缶軸Cに対して大きな角度で傾斜して、缶底部3の耐圧強度が損なわれるおそれがある。
【0040】
一方、逆に、このカウンター角度θが4°よりも小さいと、カウンター部5aが缶軸Cに平行に近くなり、DIプレス成形機のパンチとしごきダイスのカウンター部5aを成形する部分がカップ状素材の底面部に垂直に切り込まれるような成形状態となって、缶底部3に亀裂が生じるおそれがある。
【0041】
また、本実施形態では、この缶底部3のドーム部4における缶軸C上の厚さt0が、0.270mm~0.285mmの範囲内とされており、このドーム部4における缶軸C上の厚さt0は、缶体に成形される金属板の板厚と略等しいので、より薄い金属板から缶体および製品缶を成形することができる。このため、本実施形態によれば、缶体や製品缶を形成する金属材料の省資源化やこのような材料製造の際の省エネルギー化を図ることができる。
【0042】
ここで、このドーム部4における缶軸C上の厚さt0が0.270mmを下回るほど薄いと、缶本体1に必要な耐圧強度を確保することができなくなるおそれがあり、製品缶本体10においても耐圧強度が不足するおそれがある。一方、逆に、このドーム部4における缶軸C上の厚さt0が0.285mmを上回るほど厚いと、缶体や製品缶に成形される金属板の板厚も厚くなって十分な省資源化や省エネルギー化を図ることができなくなるおそれがある。
【実施例0043】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。本実施例では、アルミニウム合金材よりなる板厚0.285mmで材料強度27k材、26k材、25k材と変化させた3種の金属板から、7種の缶体の缶本体1をDIプレス成形機によって100万缶ずつ成形し、上述した測定手法によりフランジ厚t2およびウォール厚t1を測定して缶体段差t2-t1を計算した。これらを、実施例1~7として表1にカウンター角度とともに示す。なお、実施例1~3と実施例4~6と実施例7とでは、カウンター角度が異なっている。
【0044】
次いで、これらの缶体にネッキング加工によって肩部6および首部7と成形するとともに巻き締め部8を成形して蓋体9を巻き締めて取り付けることにより製品缶の製品缶本体10を製造し、同じく上述した測定手法によってフランジ厚t4およびウォール厚t3を測定して製品缶段差t4-t3を計算した。さらに、これらの製品缶の落下耐圧強度とコラム強度とをシミュレーションで計算するとともに実測値を測定した。この結果も表1に併せて示す。
【0045】
また、これら実施例1~7に対する比較例として、アルミニウム合金材よりなる板厚0.285mmで材料強度を実施例1~6と同じく変化させた3種の金属板から、3種の缶体の缶本体をDIプレス成形機によって100万缶ずつ成形し、同様にフランジ厚t2およびウォール厚t1を測定して缶体段差t2-t1を計算した。
【0046】
さらに、これらの比較例においても、成形できた缶本体に蓋体9を取り付けて製品缶の製品缶本体10を製造し、同じくフランジ厚t4およびウォール厚t3を測定して製品缶段差t4-t3を計算した。また、これらの比較例においても、製品缶の落下耐圧強度とコラム強度とをシミュレーションで計算するとともに実測値を測定した。この結果も比較例1~3として表1に併せて示す。
【0047】
なお、耐圧強度の欄に比率とあるのは、比較例1の結果を100%としたときの比率である。また、実施例および比較例において、製品缶におけるフランジ厚t4およびウォール厚t3が缶体のフランジ厚t2およびウォール厚t1よりも厚くなっているのは、塗装の厚みも含んでいる。
【0048】
【0049】
このとき、実施例1~7の缶体では、DIプレス成形機による成形の際には100万缶のうち5缶にしか胴切れが発生することはなかった。これに対して、比較例1の缶体では、100万缶のうち50缶において胴切れが発生し、また比較例2の缶体では、100万缶のうち500缶以上において胴切れが発生し、さらに比較例3の缶体でも、100万缶のうち500缶以上において胴切れが発生した。また、成形できた缶体から製造した製品缶においても、比較例3では耐圧強度やコラム強度が実施例1~7や比較例1、2と比べて小さかった。なお、これら実施例1~6および比較例1~3では、缶底部3に亀裂が発生することはなかった。
【0050】
次に、実施例3、6、7と同じく材料強度25k材の板厚0.285mmのアルミニウム合金材よりなる金属板から実施例3、6、7と同じフランジ厚t2、ウォール厚t1、缶体段差t2-t1を有し、ただしカウンター角度が異なる4種の缶体を実施例3、6、7と同数成形した。
【0051】
さらに、こうして成形することができた缶体にネッキング加工によって肩部6および首部7と成形するとともに巻き締め部8を成形して蓋体9を巻き締めて取り付けることにより製品缶の製品缶本体10を製造した。この製品缶本体10においてもフランジ厚t4、ウォール厚t3を測定するとともに製品缶段差t4-t3を計算し、製品缶の落下耐圧強度とコラム強度とをシミュレーションで計算するとともに実測値を測定した。この結果を比較例11~14として表2に示す。
【0052】
【0053】
これら比較例11~14のうち、比較例11、12では、カウンター角度が7°よりも大きく、カウンター部5aが缶軸Cに対して大きな角度で傾斜しているため、シミュレーションにおいて耐圧強度が小さかった。また、比較例13、14においては、成形できた缶体から製造した製品缶では、耐圧強度、コラム強度を確保することができたものの、カウンター角度が4°よりも小さかったため、缶体のDIプレス成形機による成形の際にそれぞれ100万缶のうち1缶で缶底部3に亀裂が発生していた。缶底部3に亀裂が発生する製品缶は機能欠陥となる不良品であるため、1缶でも市場に流通させることはできない。