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特開2023-144002信号処理方法、信号処理装置、及び信号処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144002
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】信号処理方法、信号処理装置、及び信号処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230928BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N15/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127868
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2023537597の分割
【原出願日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2022018690
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】辻井 健太
(72)【発明者】
【氏名】浅井 昌人
(72)【発明者】
【氏名】武宮 孝嗣
(72)【発明者】
【氏名】山内 嘉晃
(57)【要約】
【課題】フローサイトメトリーによる分析結果の装置間でのばらつきを低減すること。
【解決手段】データ処理装置12は、フローサイトメータシステム1を構成する光電子増倍管11a,11b,11c,11dの出力を処理し、プロセッサを備える信号処理装置であって、プロセッサは、フローサイトメータシステム1を用いたフローサイトメトリーによって生じた信号光を基にした光電子増倍管11a,11b,11c,11dの強度信号を取得し、強度信号のデジタル値DNを、光電子増倍管11a,11b,11c,11dのゲインG及び信号光の量子効率Qで除算することにより、光電子増倍管11a,11b,11c,11dに入射する信号光の仮想ホトン数Sを計算し、信号光の仮想ホトン数Sを基にデータ解析を実行するように構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメータを構成する光電子増倍管の出力を処理する信号処理方法であって、
前記フローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって生じた信号光を基にした前記光電子増倍管の出力電流信号を第1電流信号として取得し、
前記第1電流信号の値を、前記光電子増倍管のゲインで除算することにより、前記光電子増倍管に入射する前記信号光の光子数あるいは前記光電子増倍管の光電変換部から放出される光電子数のいずれかである解析評価値を計算し、
前記解析評価値を基にデータ解析を実行する、
信号処理方法。
【請求項2】
前記解析評価値は、前記光子数である、
請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記データ解析は、解析対象の集団の境界を画定するゲーティング処理を含む、
請求項1又は2に記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記解析評価値、及び前記光電子増倍管のゲインを基に、前記解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、
前記ゲーティング処理では、前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いてゲートの区間を設定する、
請求項3に記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記フローサイトメータにおいて前記信号光の入射がない場合の前記光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号の平均値を第1平均値として取得し、
前記第1平均値を減算した前記第1電流信号の値を用いて、前記解析評価値を計算する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項6】
前記フローサイトメータにおいて前記信号光の入射がない場合の前記光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号のノイズ値を第2ノイズ値として取得し、
前記第2ノイズ値をさらに用いて、前記第1ノイズ値を計算する、
請求項4に記載の信号処理方法。
【請求項7】
前記フローサイトメータにおいて所定強度の励起光に応じた前記信号光に基づいた前記光電子増倍管の出力電流信号である第3電流信号の平均値である第2平均値と、当該第3電流信号のノイズ値である第3ノイズ値とを取得し、
前記第2平均値及び前記第3ノイズ値をさらに用いて、前記第1ノイズ値を計算する、
請求項4に記載の信号処理方法。
【請求項8】
前記光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した自己の信号光に起因した自己の独立系ノイズと、前記光電子増倍管とは異なる他の光電子増倍管における検出対象の信号光のうち前記光電子増倍管に漏れ込んだ信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した他の信号光に起因する他の独立系ノイズと、前記光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した自己の相関系ノイズと、を含む第1ノイズ値をさらに計算し、
前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いてデータ解析を実行する、
請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項9】
前記他の光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した他の相関系ノイズをさらに含む前記第1ノイズ値を計算する、
請求項8に記載の信号処理方法。
【請求項10】
前記解析評価値、及び前記光電子増倍管のゲインを基に、前記解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、
前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いて最適化アルゴリズムによってデータ解析を実行する、
請求項1~9のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項11】
フローサイトメータを構成する光電子増倍管の出力を処理し、プロセッサを備える信号処理装置であって、
前記プロセッサは、
前記フローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって生じた信号光を基にした前記光電子増倍管の出力電流信号を第1電流信号として取得し、
前記第1電流信号の値を、前記光電子増倍管のゲインで除算することにより、前記光電子増倍管に入射する前記信号光の光子数あるいは前記光電子増倍管の光電変換部から放出される光電子数のいずれかである解析評価値を計算し、
前記解析評価値を基にデータ解析を実行するように構成されている、
信号処理装置。
【請求項12】
前記解析評価値は、前記光子数である、
請求項11に記載の信号処理装置。
【請求項13】
前記データ解析は、解析対象の集団の境界を画定するゲーティング処理を含む、
請求項11又は12に記載の信号処理装置。
【請求項14】
前記プロセッサは、
前記解析評価値、及び前記光電子増倍管のゲインを基に、前記解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、
前記ゲーティング処理では、前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いてゲートの区間を設定する、
請求項13に記載の信号処理装置。
【請求項15】
前記プロセッサは、
前記フローサイトメータにおいて前記信号光の入射がない場合の前記光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号の平均値を第1平均値として取得し、
前記第1平均値を減算した前記第1電流信号の値を用いて、前記解析評価値を計算する、
請求項11~14のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項16】
前記プロセッサは、
前記フローサイトメータにおいて前記信号光の入射がない場合の前記光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号のノイズ値を第2ノイズ値として取得し、
前記第2ノイズ値をさらに用いて、前記第1ノイズ値を計算する、
請求項14に記載の信号処理装置。
【請求項17】
前記プロセッサは、
前記フローサイトメータにおいて所定強度の励起光に応じた前記信号光に基づいた前記光電子増倍管の出力電流信号である第3電流信号の平均値である第2平均値と、当該第3電流信号のノイズ値である第3ノイズ値とを取得し、
前記第2平均値及び前記第3ノイズ値をさらに用いて、前記第1ノイズ値を計算する、
請求項14に記載の信号処理装置。
【請求項18】
前記プロセッサは、
前記光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した自己の信号光に起因した自己の独立系ノイズと、前記光電子増倍管とは異なる他の光電子増倍管における検出対象の信号光のうち前記光電子増倍管に漏れ込んだ信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した他の信号光に起因する他の独立系ノイズと、前記光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した自己の相関系ノイズと、を含む第1ノイズ値をさらに計算し、
前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いてデータ解析を実行する、
請求項11に記載の信号処理装置。
【請求項19】
前記プロセッサは、
前記他の光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び前記光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した他の相関系ノイズをさらに含む前記第1ノイズ値を計算する、
請求項18に記載の信号処理装置。
【請求項20】
前記プロセッサは、
前記解析評価値、及び前記光電子増倍管のゲインを基に、前記解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、
前記解析評価値及び前記第1ノイズ値を用いて最適化アルゴリズムによってデータ解析を実行する、
請求項11~19のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項21】
請求項11~20のいずれか1項に記載の信号処理装置と、
前記光電子増倍管と、
前記信号光を前記光電子増倍管に導く光学系と、
を備える信号処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の一側面は、信号処理方法、信号処理装置、及び信号処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、細胞等の試料を対象にレーザ光を利用して計数、選別、及び特性解析する技術としてフローサイトメトリーが知られている。例えば、下記特許文献1には、光源に対して軸方向に配置され、前方散乱成分を感知する第1のセンサと、第1のセンサに対してある角度に置かれ、側方散乱成分及び/又は蛍光成分を感知する第2のセンサとを具備するフローサイトメトリーシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-504051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の装置においては、センサの検出特性のばらつきによってセンサからの出力信号に変動が生じる場合がある。センサの出力信号の変動を抑えるためにセンサにおける供給電圧等の設定パラメータを調整することもできるが、この場合は、調整の度合いによって同一の入射強度の光が異なる出力信号の値として検出される。その結果、調整の度合いによって異なる分析結果が生じる場合があった。
【0005】
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、フローサイトメトリーによる分析結果のばらつきを低減することが可能な信号処理方法、信号処理装置、及び信号処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の第一の側面に係る信号処理方法は、フローサイトメータを構成する光電子増倍管の出力を処理する信号処理方法であって、フローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって生じた信号光を基にした光電子増倍管の出力電流信号を第1電流信号として取得し、第1電流信号の値を、光電子増倍管のゲインで除算することにより、光電子増倍管に入射する信号光の光子数あるいは光電子増倍管の光電変換部から放出される光電子数のいずれかである解析評価値を計算し、解析評価値を基にデータ解析を実行する。
【0007】
あるいは、実施形態の第二の側面に係る信号処理装置は、フローサイトメータを構成する光電子増倍管の出力を処理し、プロセッサを備える信号処理装置であって、プロセッサは、フローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって生じた信号光を基にした光電子増倍管の出力電流信号を第1電流信号として取得し、第1電流信号の値を、光電子増倍管のゲインで除算することにより、光電子増倍管に入射する信号光の光子数あるいは光電子増倍管の光電変換部から放出される光電子数のいずれかである解析評価値を計算し、解析評価値を基にデータ解析を実行するように構成されている。
【0008】
あるいは、実施形態の第三の側面に係る信号処理システムは、上述した信号処理装置と、光電子増倍管と、信号光を光電子増倍管に導く光学系と、を備える。
【0009】
上記第一の側面、上記第二の側面、あるいは上記第三の側面によれば、フローサイトメータを用いて生じた信号光が光電子増倍管によって検出されて第1電流信号が取得され、その第1電流信号の値から、光電子増倍管に入射する信号光の光子数あるいは光電子増倍管の光電変換部から放出される光電子数である解析評価値が計算され、計算された解析評価値を基にデータ解析が実行される。その結果、定量的に信号光を解析することができ、フローサイトメトリーによる分析結果のばらつきを低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示のいずれかの側面によれば、フローサイトメトリーによる分析結果のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態にかかるフローサイトメータであるフローサイトメータシステム1の概略構成図である。
図2図1のデータ処理装置12のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】データ処理装置12の機能構成を示すブロック図である。
図4図3の解析部203によるデータ解析において生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。
図5図3の解析部203によるデータ解析において生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。
図6】実施形態に係る信号処理方法の手順を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る信号処理方法の手順を示すフローチャートである。
図8】従来のフローサイトメトリーによるデータ解析において生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。
図9】従来のフローサイトメトリーによるデータ解析において生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。
図10】第2変形例にかかるデータ解析によって生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、実施形態にかかるフローサイトメータ(信号処理システム)であるフローサイトメータシステム1の概略構成図である。フローサイトメータシステム1は、フローサイトメトリーを実施するためのシステムであり、流体システム2、光学システム(光学系)3、及び電子システム(信号処理装置)4によって構成される。
【0014】
流体システム2は、細胞あるいは粒子等の分析対象物を含むサンプル流体が注入され、サンプル流体に含まれる分析対象物を細いチャネル5内に整列させて通過させることが可能なフローセル6を含んで構成される。このフローセル6には、ゲーティングされた分析対象物を電場制御等によってソーティング(分類および振り分け)する機能(図示せず)も設けられている。
【0015】
光学システム3は、フローセル6内を通過する分析対象物をフローサイトメトリーにより光学的に分析するシステムである。この光学システム3は、レーザ光源7、レンズ8、フィルタ9a,9b,9c,9d、ダイクロイックミラー10b,10c、光電子増倍管11a,11b,11c,11dを含んで構成され、フローサイトメトリーによって分析対象物から発生した各種の光を光電子増倍管11a,11b,11c,11dに導光する。レーザ光源7は特定周波数で単一波長帯のレーザ光(励起光)を生成する光源装置であり、レンズ8はレーザ光源7から出射されたレーザ光をフローセル6内のチャネル5に集光する。フィルタ9aは、レーザ光の照射によってサンプル流体から生じた前方散乱光を透過させる。ダイクロイックミラー10bは、レーザ光の照射によってサンプル流体から生じた側方散乱光を反射し、サンプル流体から生じた蛍光を透過させる。ダイクロイックミラー10cは、ダイクロイックミラー10bを透過した蛍光のうちの第一の波長帯の蛍光を反射し、透過した蛍光のうちの残余の波長帯の蛍光を透過させる。フィルタ9bは、ダイクロイックミラー10bによって反射された側方散乱光を透過させ、フィルタ9cは、ダイクロイックミラー10cによって反射された第一の波長帯の第一の蛍光を透過させる。フィルタ9dは、ダイクロイックミラー10cを透過した蛍光のうち第二の波長帯の第二の蛍光を透過させる。光電子増倍管11a,11b,11c,11dは、それぞれ、前方散乱光、側方散乱光、第一の蛍光、及び第二の蛍光の光軸上に設けられ、前方散乱光、側方散乱光、第一の蛍光、及び第二の蛍光のそれぞれの強度を測定する。
【0016】
電子システム4は、データ処理装置12を含んで構成され、光学システム3によって測定された光の強度を解析するための装置である。具体的には、データ処理装置12は、複数の光電子増倍管11a,11b,11c,11dに電気的に接続され、複数の光電子増倍管11a,11b,11c,11dの各チャネルで検出された強度を示す強度信号を基にヒストグラムあるいはドットプロット(サイトグラムともいう。)等を作成するデータ解析を実行するとともにゲーティング処理を実行する。また、データ処理装置12は、ゲーティング処理を基に、サンプル流体に含まれる分析対象物を対象にソーティング(分類および振り分け)を実行する。
【0017】
次に、図2および図3を参照して、データ処理装置12の構成を説明する。図2は、データ処理装置12のハードウェア構成の一例を示すブロック図であり、図3は、データ処理装置12の機能構成を示すブロック図である。
【0018】
図2に示すように、データ処理装置12は、物理的には、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)101、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)102又はROM(Read Only Memory)103、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を含んだコンピュータ等であり、各々は電気的に接続されている。なお、データ処理装置12は、入出力デバイスとして、ディスプレイ、キーボード、マウス、タッチパネルディスプレイ等を含んでいてもよいし、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等のデータ記録装置を含んでいてもよい。また、データ処理装置12は、複数のコンピュータによって構成されていてもよい。
【0019】
図3に示すように、データ処理装置12は、機能的な構成要素として、信号取得部201、計算部202、及び解析部203を備えている。図3に示すデータ処理装置12の各機能部は、CPU101及びRAM102等のハードウェア上にプログラムを読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を動作させるとともに、RAM102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。データ処理装置12のCPU101は、プログラムを実行することによって図3の各機能部を機能させ、後述する信号処理方法に対応する処理を順次実行する。なお、CPU101は、単体のハードウェアでもよく、ソフトプロセッサのようにFPGAのようなプログラマブルロジックの中に実装されたものでもよい。RAMやROMについても単体のハードウェアでもよく、FPGAのようなプログラマブルロジックの中に内蔵されたものでもよい。プログラムの実行に必要な各種データ、及び、プログラムの実行によって生成された各種データは、全て、ROM103、RAM102等の内蔵メモリ、又は、ハードディスクドライブなどの記録媒体に格納される。以下、データ処理装置12の機能的な構成要素の機能について詳細に説明する。
【0020】
信号取得部201は、複数の光電子増倍管11a,11b,11c,11dの各チャネルから出力された強度信号(出力電流信号)を取得する。取得する強度信号は、それぞれの光電子増倍管において、フローサイトメトリーによって生じた前方散乱光、側方散乱光、あるいは、蛍光等の信号光に強度に応じた増倍電子による電流を検出することによって得られたアナログ信号である。信号取得部201は、取得した各チャネルの強度信号をデジタル値DNに変換して計算部202に出力する。なお、信号取得部201のA/D変換の機能は、データ処理装置12の外付けの回路部によって実現されてもよい。
【0021】
計算部202は、信号取得部201から出力された各チャネルのデジタル値DNを、各チャネルに入射した現実の光子(ホトン)の数に準じた指標(解析評価値)である仮想ホトン数(光子数)へ変換する計算を実行する。ここで、計算部202による計算機能の説明に先立って、本願の発明者らにより検討された信号光の強度及びノイズの理論モデルについて説明する。
【0022】
検討された理論モデルによれば、強度信号の平均値A[DN:デジタルナンバー]及び強度信号のノイズσthis(標準偏差)[DN rms]は、下記式(1)及び下記式(2)によって表される。
【数1】


【数2】


ここで、上記式におけるパラメータのうち、主に期待値に関わるものは大文字のアルファベットで表わされ、主にノイズに関わるものは小文字のギリシャ文字で表わされている。σは、フローサイトメータシステム1内で各チャネルの光電子増倍管の出力からデータ処理装置12の信号取得部201までの間において、強度信号を伝達してデジタル値に変換するまでの機能を担う回路(以下、単に「A/D変換用回路」という。)が発生するノイズ[DN rms]を示し、Cは、A/D変換用回路における光電子増倍管によって出力された電子数に対するデジタル値DNの変換係数[DN/e]を示し、Fは、増倍機構を有する光電子増倍管が持つ増倍揺らぎの程度を示す指数(過剰雑音係数)であり、Gは、光電子増倍管の持つ増倍率(ゲイン)、すなわち、入力電子数に対する出力電子数の比率[e/e]であり、Dは、光電子増倍管が持つ暗電流の有効電子数期待値[e]である。有効値とは、光電子増倍管の出力する強度信号から統計計算上において無視できる成分を除いて算出された値を意味する(以下同様)。また、Qは、光電子増倍管に入射している背景光の波長スペクトルに応じた、光電子増倍管の光子から電子への変換効率(背景光の量子効率)[e/photon]を示し、Bは、光電子増倍管に入射している背景光の入射光量における仮想ホトン数に準じた指標の期待値(背景光の仮想ホトン数期待値)[photon]を示す。「仮想ホトン数」とは、現実の光子数を定量性を保って相対的に示した値を意味する(以下同様)。また、Qは、光電子増倍管に入射している信号光の波長スペクトルに応じた、光電子増倍管の光子から電子への変換効率(信号光の量子効率)[e/photon]を示し、Sは、光電子増倍管に入射している信号光の入射光量における光子数に準じた指標の期待値(信号光の仮想ホトン数期待値)[photon]を示し、ρは、レーザ光源7あるいはサンプル流体等を起因とした、光電子増倍管への入射よりも前に発生した信号光のばらつき度合いを、信号光量期待値に対する比率によって示した値(光源及びサンプル側のばらつき率)であり、Aは、A/D変換用回路が持つ固有のオフセットを示す値(オフセット)[DN]である。
【0023】
なお、上記式(1),(2)において、Q*Bは、光電子増倍管に入射している背景光の有効光電子数[e]を示し、Q*Sは、光電子増倍管に入射している信号光の有効光電子数[e]を示している。これらの値は、上記式(1),(2)において、暗電流の有効電子数期待値Dと並んで、これらが検討された理論モデルにおける基軸物理量として扱われている。ここでいう有効光電子数とは、光電子増倍管において入射する光に応じて光電変換部から放出される光電子の数から、統計計算上において無視できる成分を除いて算出された値を意味する(以下同様)。
【0024】
光源及びサンプル側のばらつき率ρの値の変化の要因としては、主に、フローサイトメータシステム1のフローセル6内のチャネル5を流れる細胞等の分析対象物へのレーザ光の当たり方によるばらつきと、分析対象物毎に発生するばらつきとが存在する。レーザ光の当たり方によるばらつきには、レーザ光のチャネル5への当たり方のばらつきと、チャネル5内を流れる分析対象物の空間的なばらつきとが含まれる。また、分析対象物毎のばらつきには、分析対象物の大きさのばらつきと、分析対象物内に存在する測定対象となる分子あるいは分子構造の含有率のばらつきとが含まれる。ばらつき率ρに実質的に影響する要因は、レーザ光源7そのものにおける経時的な光量のばらつき、レーザ光のチャネル5への当たり方によるばらつき、チャネル5内の流速の経時的なばらつき、チャネル5内の分析対象物の空間的なばらつき、分析対象物の大きさのばらつき、分析対象物内に存在する分子あるいは分子構造の含有率のばらつき、分析対象物内に存在する分子あるいは分子構造の空間的なばらつき、分子あるいは分子構造物と染色蛍光との結合率のばらつき、染色蛍光の発光効率のばらつき、チャネル5を流れる分析対象物以外の異物によるばらつき、等が挙げられる。
【0025】
上記式(2)において、平方根内の第1項及び第2項は、信号光の仮想ホトン数期待値であるパラメータSに依存せず、A/D変換用回路のノイズを含む回路ノイズあるいは背景光と暗電流とによって主に変化する項であり、平方根内の第3項は、パラメータSの平方根S1/2に依存して、光子から電子への変換過程で発生するノイズ(ショットノイズ)によって主に変化する項であり、平方根内の第4項は、パラメータSに依存して、光源及びサンプル側のばらつきによって主に変化する項である。この式から、信号光の強度が比較的低い場合では、第1項から第3項までの影響を考慮すれば強度信号のノイズの傾向が評価できるが、信号光の強度が高い場合には、第4項の影響も加味しなければ強度信号のノイズの傾向が評価できないことが明らかにされた。
【0026】
上記のチャネル毎のパラメータのうち既知である変換係数C、ゲインG、及び信号光の量子効率Qは、ユーザによりデータ処理装置12に入力され、予めRAM102等の内部の記録媒体に記憶される。計算部202は、各チャネルに関して記憶されているパラメータを利用して次のようにして各チャネルで検出された信号光に対応する仮想ホトン数を計算する。
【0027】
すなわち、計算部202は、フローサイトメトリーによる検出を停止させ、光電子増倍管への信号光の入射がない状態で光電子増倍管から出力された強度信号(出力電流信号)のデジタル値DNを複数イベント分取得し、デジタル値DNの平均値(第1平均値)AS=0及び標準偏差(第2ノイズ値)σS=0を計算および取得する。計算された平均値AS=0及び標準偏差σS=0は、式(1)及び式(2)の理論式を適用すれば、下記式(3)及び下記式(4)に示すような値に近似する。
【数3】


【数4】


そして、計算部202は、計算したパラメータAS=0,σS=0を内部の記録媒体に記憶させる。
【0028】
加えて、計算部202は、レーザ光の強度を所定強度に変更する、適当な発光光量となるビーズあるいは染色蛍光体を使う、または、フローサイトメータ側に校正用光源を搭載する、等の方法により、信号光の強度が十分に大きい状態で測定対象のサンプル流体を対象にフローサイトメトリーによる検出を開始させ、光電子増倍管から出力された強度信号(出力電流信号)のデジタル値DNを複数イベント分取得し、デジタル値DNの平均値(第2平均値)AS≫H及び標準偏差(第3ノイズ値)σS≫Hを計算および取得する。上記レーザ光の強度、ビーズ、染色蛍光体、または、校正用光源は、分析対象物が発光する光量の上限値、または、信号処理回路の入力上限電圧等に応じて決定される。計算された標準偏差σS≫H及び平均値AS≫Hは、式(1)及び式(2)の理論式を適用すれば、下記式(5)及び下記式(6)に示すような値に近似する。従って、計算部202は、平均値AS≫H及び標準偏差σS≫Hを基に、下記式(7)を用いて、ばらつき率ρを計算することができる。
【数5】


【数6】


【数7】


そして、計算部202は、計算したパラメータρを、内部の記録媒体に記憶させる。
【0029】
加えて、計算部202は、レーザ光の強度を2種類に変更する、改めて適当な発光光量となる2種類のビーズや染色蛍光体を使う、フローサイトメータ側へ2種類の光量を発する校正用光源を搭載する、または、十分に光量の大きい状態に対してNDフィルタを用い減光する等によって、信号光の強度を高低の2種類に変更した状態のそれぞれにおいて、測定対象のサンプル流体を対象にフローサイトメトリーによる検出を開始させ、それぞれの状態で光電子増倍管から出力された強度信号(出力電流信号)のデジタル値DNを複数イベント分取得する。さらに、計算部202は、光電子増倍管への入射光量が高い場合のデジタル値DNの平均値A及び標準偏差σと、光電子増倍管への入射光量が低い場合のデジタル値DNの平均値A及び標準偏差σを、計算および取得する。また、計算部202は、平均値A,A、標準偏差σ,σ、及び平均値AS=0を基に、下記式(8)を用いて、過剰雑音係数Fを計算する。
【数8】


そして、計算部202は、計算したパラメータFを、内部の記録媒体に記憶させる。
【0030】
上記のようにして記憶したチャネル毎のパラメータを参照して、計算部202は、レーザ光の強度を測定に適した所定値に設定した状態で測定対象のサンプル流体のフローサイトメトリーによる検出を開始させ、各チャネルの光電子増倍管から出力された強度信号(第1電流信号)のデジタル値DNを取得する。さらに、計算部202は、記憶した各チャネルのパラメータを参照し、下記式(9)を計算することにより、デジタル値DNの示す強度信号の平均値Aから仮想ホトン数Sを導出する。
【数9】


すなわち、計算部202は、強度信号の平均値Aから平均値AS=0を減算し、減算した値を、変換係数C、ゲインG、及び信号光の量子効率Qによって除算することにより、光電子増倍管に入射する信号光の仮想ホトン数Sを計算する。
【0031】
加えて、計算部202は、上記のようにして計算した仮想ホトン数Sと、記憶した各チャネルのパラメータを参照することにより、デジタル値DNの示す強度信号の標準偏差(第1ノイズ値)σthisを導出する。詳細には、計算部202は、下記式(10)を利用して、標準偏差σS=0を二乗した値に、変換係数C、ゲインG、信号光の量子効率Q、ばらつき率ρ、過剰雑音係数F、及び仮想ホトン数Sによって計算した値を加算し、加算した値の平方根を求めることにより、標準偏差(第1ノイズ値)σthisを計算する。その後、計算部202は、この標準偏差σthisを、変換係数C、ゲインG、及び信号光の量子効率Qで除算することにより、標準偏差σthis[DN rms]を仮想ホトン数に換算した標準偏差σthis[photon rms]に変換することができる。
【数10】


解析部203は、計算部202によって計算されたチャネル毎の仮想ホトン数S及びチャネル毎の標準偏差σthisのデータを基に、データ解析を実行する。具体的には、複数のチャネルの仮想ホトン数Sを基にヒストグラム及びドットプロットを生成し、それらを入出力デバイスに出力する。また、解析部203は、生成したドットプロットを対象にゲーティング処理を行い、異なる分析対象物の集団の境界を画定する。さらに、解析部203は、流体システム2を制御することにより、分析対象物の集団の境界を基に、集団を分類及び振り分けするソーティング処理を実行させることもできる。
【0032】
図4及び図5は、解析部203によるデータ解析において生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。図4には、抗体Aに対応する蛍光チャネルの仮想ホトン数と抗体Bに対応する蛍光チャネルの仮想ホトン数との関係をプロットしたドットプロットが示され、ゲーティング処理によって画定された境界が実線で示されている。このように、ゲーティング処理により検出対象の全体の分析対象物中の集団の割合が計算及び出力され、抗体A及び抗体Bの両方が陰性の集団の割合“36.6%”、抗体Bのみが陽性の集団の割合“34.7%”、抗体Aのみが陽性の集団の割合“27.7%”、抗体A,Bの両方が陽性の割合“1.05%”と出力される。図5には、蛍光色素Cy5を用いた蛍光チャネルの仮想ホトン数と蛍光色素TRを用いた蛍光チャネルの仮想ホトン数との関係をプロットしたドットプロットが示されている。このように、ゲーティング処理によって集団の境界を画定する際には、集団の仮想ホトン数の平均値Sを中心とした、その平均値Sに対応する標準偏差σthisで決定されるゲート区間の範囲Wの境界を自動で画定することができる。標準偏差σthisで決定される範囲Wは、例えば、仮想ホトン数がS±3×σthisの範囲に設定される。
【0033】
次に、図6及び図7を参照して、フローサイトメータシステム1を用いた光電子増倍管の出力信号の処理方法の手順を説明する。図6には、フローサイトメータシステム1によるチャネル毎のパラメータの事前準備の処理を示し、図7には、サンプル流体を対象としたフローサイトメトリーによる分析処理を示す。
【0034】
まず、図6を参照して、ユーザによって、チャネル毎のパラメータのうち既知である変換係数C、ゲインG、及び信号光の量子効率Qがデータ処理装置12に入力される(ステップS101)。その後、フローサイトメータシステム1において各チャネルに信号光が入射しない状態で、データ処理装置12によって各チャネルのデジタル値DNのデータが複数イベント分取得される(ステップS102)。そうすると、データ処理装置12において、各チャネルのパラメータAS=0,σS=0が取得及び保存される(ステップS103)。
【0035】
次に、フローサイトメータシステム1においてレーザ光を所定強度に変更する、適当な発光光量となるビーズあるいは染色蛍光体を使う、または、フローサイトメータ側に校正用光源を搭載する、等の方法により、信号光の強度が十分に大きい状態で、データ処理装置12によって、測定対象のサンプル流体を対象に信号光を検出することにより、各チャネルのデジタル値DNのデータが複数イベント分取得される(ステップS104)。そうすると、データ処理装置12において、各チャネルのパラメータρが取得及び保存される(ステップS105)。
【0036】
さらに、フローサイトメータシステム1においてレーザ光の強度を2種類に変更する、適当な発光光量となる2種類のビーズ又は蛍光色素を用いる、2種類の光量の校正用光源を用いる、あるいは、十分に明るい状態から2種類のNDフィルタを用いる、等を行い、信号光の強度を高低の2種類に変更した状態で、データ処理装置12において、測定対象のサンプル流体を対象に信号光が検出されることにより、各チャネルのデジタル値DNのデータが複数イベント分取得される(ステップS106)。そうすると、データ処理装置12において、各チャネルのパラメータFが取得及び保存される(ステップS107)。以上により、事前準備処理が完了される。
【0037】
図7を参照して、フローサイトメータシステム1においてレーザ光の強度を測定に適した所定値に設定した状態で測定対象のサンプル流体のフローサイトメトリーによる検出が開始され、それに応じて、データ処理装置12によって、各チャネルのデジタル値DNのデータが取得される(ステップS201)。次に、データ処理装置12において、各チャネルのデジタル値DNを用いて、各チャネルのヒストグラム、及びドットプロットが生成される(ステップS202)。その際には、データ処理装置12によって、記憶した各チャネルのパラメータAS=0,σS=0,ρ,Fが参照され、各チャネルのデジタル値DNが仮想ホトン数Sに変換されるとともに仮想ホトン数Sに対応する標準偏差σthisが計算される(ステップS203)。
【0038】
その後、データ処理装置12によって、生成したヒストグラム及びドットプロットに対して、計算した仮想ホトン数S及び標準偏差σthisを用いたゲーティング処理が施される(ステップS204)。そして、データ処理装置12によって、ゲーティング処理の結果に基づいて、ヒストグラム及びドットプロットに示されるデータ中の分析対象物の集団(ターゲット集団)の分類分けが行われる(ステップS205)。
【0039】
次に、データ処理装置12においてソーティングが実行されるように設定されている場合(ステップS206;Yes)には、データ処理装置12によって、分類分けされたターゲット集団に対してソーティングが行われるように制御される(S207)。一方、データ処理装置12においてソーティングが実行されないように設定されている場合(ステップS206;No)には、データ処理装置12によって、分類分けされたターゲット集団に対して全体に対する割合の計算等のデータ解析処理が行われる(S208)。
【0040】
以上説明した実施形態に係るフローサイトメータシステム1の作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態に係るフローサイトメータシステム1においては、各チャネルにおいて生じた信号光が光電子増倍管11a,11b,11c,11dによって検出されて強度信号が取得され、その強度信号のデジタル値DNから光電子増倍管11a,11b,11c,11dに入射する信号光の仮想ホトン数Sが計算され、計算された信号光の仮想ホトン数Sを基にデータ解析が実行される。その結果、定量的に信号光を解析することができ、フローサイトメトリーによる分析結果のばらつきを低減することができる。特に、本実施形態では、解析評価値として仮想ホトン数が用いられているので、異なる装置間でのフローサイトメトリーによる分析結果のばらつきも低減することができる。
【0042】
また、本実施形態かかるデータ処理装置12は、データ解析として、解析対象の集団の境界を画定するゲーティング処理を実行する。これにより、定量的な信号光の強度情報を基にゲーティング処理を行うことができ、解析対象の集団同定の精度を高めることができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係るデータ処理装置12においては、計算した信号光の仮想ホトン数Sからその仮想ホトン数Sに含まれるノイズに相当する標準偏差σthisが計算され、ゲーティング処理においてその標準偏差σthisを用いてゲート区間が設定される。これにより、解析対象の集団同定の精度をさらに高めることできる。
【0044】
さらに、本実施形態に係るデータ処理装置12は、フローサイトメータシステム1において信号光の入射がない場合の光電子増倍管11a,11b,11c,11dの強度信号のデジタル値DNの平均値AS=0を取得し、平均値AS=0を減算した平均値Aを用いて、信号光の仮想ホトン数Sを計算している。こうすれば、背景光および暗電流の影響を除いて信号光の仮想ホトン数Sを計算することができる。その結果、フローサイトメトリーによる分析結果の信頼性を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態に係るデータ処理装置12は、フローサイトメータシステム1において信号光の入射がない場合の光電子増倍管11a,11b,11c,11dの強度信号のデジタル値DNの標準偏差σS=0を取得し、標準偏差σS=0をさらに用いて、標準偏差σthisを計算している。こうすれば、背景光および暗電流の影響を考慮して信号光の仮想ホトン数のノイズ成分を計算することができる。その結果、解析対象の集団同定の精度をより高めることできる。
【0046】
また、本実施形態に係るデータ処理装置12は、フローサイトメータシステム1において所定強度のレーザ光に応じた信号光に基づいた光電子増倍管11a,11b,11c,11dの強度信号のデジタル値DNの平均値AS≫Hと、そのデジタル値DNの標準偏差σS≫Hを取得し、平均値AS≫H及び標準偏差σS≫Hをさらに用いて、標準偏差σthisを計算している。かかる構成を採れば、光源の特性及び解析対象のばらつきを考慮して信号光の仮想ホトン数のノイズ成分を計算することができる。その結果、解析対象の集団同定の精度をより高めることできる。
【0047】
図8は、従来のフローサイトメトリーによるデータ解析において、一のシステムによって生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフであり、図9は、従来のフローサイトメトリーによるデータ解析において、別のシステムによって生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフである。このように、同じ分析対象物を含むサンプル流体を対象とした場合でも、2つのシステムでデータ解析による集団の比率が異なって計算される。例えば、抗体A,Bの両方が陽性の割合が、一のシステムでは“0.78%”と計算され、別のシステムでは“10.1%”と計算され、両者によって計算される比率が大きく異なった値に計算される。これは、システムに含まれる装置の特性のばらつき、システムのオペレータによる装置の調整度合いのばらつき等が起因している。本実施形態によれば、このようなばらつきによる分析結果のばらつきを確実に低減することができる。
【0048】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0049】
例えば、ドットプロットにおけるゲーティング処理は、電子システム4による自動設定に限らず、作業者の入力によって設定してもよいし、自動設定されたものを作業者の入力によって調整してもよい。また、実施形態における光電子増倍管は、ダイノードあるいは電子収集電極であるアノードを備えたもののみではなく、光電変換部から放出された光電子を半導体素子で増倍および検出するHPD(Hybrid Photo Detector)でもよい。
【0050】
また、第1変形例として、データ処理装置12は、解析評価値として、仮想ホトン数の代わりに有効光電子数(光電子数)を用いてもよい。その場合には、信号光の強度及びノイズの理論モデルとして、下記式(11)及び下記式(12)によって表される理論モデルが適用される。
【数11】


【数12】

【0051】
第1変形例においては、計算部202は、上記実施形態と同様にして、暗電流の有効電子数期待値ED、背景光の有効光電子数EB、有効光電子数期待値ESとして、パラメータAES=0,σES=0、ばらつき率ρ、パラメータFを計算し内部の記憶媒体に記憶させる。そして、計算部202は、測定対象のサンプル流体の検出が開始された際に、取得したデジタル値DNを基に下記式(13)を計算することにより、デジタル値DNの示す強度信号の平均値Aから、有効光電子数Eを導出する。
【数13】

【0052】
さらに、計算部202は、下記式(14)に、計算した有効光電子数Eと、記憶したパラメータσES=0,F及びばらつき率ρとを適用することにより、標準偏差σthisを計算する。
【数14】


その後、計算部202は、この標準偏差σthisを変換係数C及びゲインGで除算することにより、標準偏差σthis[DN rms]を有効光電子数に換算した標準偏差σthis[e rms]に変換することができる。
【0053】
第1変形例によっても、計算した有効光電子数E及び標準偏差σthisを用いたゲーティング処理等のデータ解析が可能となり、定量的に信号光を解析することができ、フローサイトメトリーによる分析結果のばらつきを低減することができる。
【0054】
また、第2変形例として、データ処理装置12は、信号光の強度及びノイズの理論モデルとして他の理論モデルを用いて、複数の光電子増倍管11a,11b,11c,11dの各チャネルの強度信号の平均値及びノイズを計算してもよい。例えば、この第2変形例においては、2つの光電子増倍管11c,11dによって、分析対象物に含まれる複数種類の蛍光体からの複数色の蛍光の強度が測定され、光電子増倍管11c,11dの2つのチャネルのデジタル値を基にデータ解析処理が実行される。複数色の蛍光を2つのチャネルで測定する場合には一方のチャネルから他方のチャネルへの蛍光の漏れ込みが生じうる。そのため、第2変形例では、蛍光の漏れ込みを考慮した理論モデルを採用してデータ解析が実行される。以下、第2変形例にかかるデータ処理装置12によるデータ解析処理の詳細について、理論モデルとともに説明する。
【0055】
データ処理装置12においては、光電子増倍管11cのチャネル(X軸)に対応する分析対象物内の染色蛍光体Uからの第1の波長帯の蛍光の強度の期待値X[DN]と、光電子増倍管11dのチャネル(Y軸)に対応する染色蛍光体Vからの第2の波長帯の蛍光の強度の期待値Y[DN]に関して、下記式(15)及び下記式(16)によって表される理論モデルが適用される。
【数15】

【数16】

なお、上記式(15),(16)において、Xは、X軸における暗電流成分および背景光成分を含むオフセット[DN]であり、Yは、Y軸における暗電流成分および背景光成分を含むオフセット[DN]であり、Gは、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管のゲイン[e/e]であり、Gは、Y軸へ強度信号を出力する光電子増倍管のゲイン[e/e]であり、Qは、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の光子から電子への変換効率[e/photon]であり、Qは、Y軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の光子から電子への変換効率[e/photon]であり、<S>は、染色蛍光体Uから発せられ、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管に入射している信号光の波長スペクトルに応じた指標の期待値(信号光の仮想ホトン数期待値)[photon]を示し、<S>は、染色蛍光体Vから発せられ、Y軸へ強度信号を出力する光電子増倍管に入射している信号光の波長スペクトルに応じた指標の期待値(信号光の仮想ホトン数期待値)[photon]を示し、RV→Xは、染色蛍光体Vから発せられ、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管に信号光が漏れ込む割合[photon/photon]を示し、RU→Yは、染色蛍光体Uから発せられ、Y軸へ強度信号を出力する光電子増倍管に信号光が漏れ込む割合[photon/photon]を示している。
【0056】
また、上記式(15),(16)において、σcXは、X軸の強度信号における読み出しノイズ(回路が発生するノイズ、暗電流・背景光のショットノイズ成分を含む)[DN rms]を示し、σcYは、Y軸の強度信号における読み出しノイズ(回路が発生するノイズ、暗電流・背景光のショットノイズ成分を含む)[DN rms]を示し、Fは、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の過剰雑音係数であり、Fは、Y軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の過剰雑音係数であり、ρUiは、染色蛍光体Uが関係する測定において、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力とY軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力が互いに影響を及ぼし合わない(独立)ばらつき度合を示し、ρUrは、染色蛍光体Uが関係する測定において、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力とY軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力が互いに影響を及ぼし合う(相関)ばらつき度合を示し、ρViは、染色蛍光体Vが関係する測定において、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力とY軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力が互いに影響を及ぼし合わない(独立)ばらつき度合を示し、ρVrは、染色蛍光体Vが関係する測定において、X軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力とY軸へ強度信号を出力する光電子増倍管の出力が互いに影響を及ぼし合う(相関)ばらつき度合を示している。
【0057】
上記式(15)、(16)においては、右辺の第1項から第3項までが強度信号の平均値[DN]を示し、式(1)とは異なり、暗電流と背景光の影響がオフセットに含めて評価されている。また、式(15)の右辺の第4項以降は、強度信号のノイズを表し、式(2)とは異なり、暗電流と背景光の影響が回路ノイズに含めて評価されている。強度信号のノイズのうち下記式;
【数17】

の項は、自己のチャネルにおける読み出しノイズを示している。強度信号のノイズのうち下記式;
【数18】

の項は、自己のチャネルにおけるショットノイズを示しており、下記式;
【数19】

の項は、他方のチャネルからのショットノイズを示している。
【0058】
上記強度信号のノイズのうち下記式;
【数20】

の項は、自己のチャネルにおける検出対象の信号光の仮想ホトン数期待値、及び自己のチャネルの光電子増倍管のゲインを反映した、自己のチャネルの信号光に起因した自己の独立系ノイズ(光源及びサンプル側のばらつきに依存)である。独立系ノイズとは、2つのチャネルの強度信号のばらつき方(程度及び方向)が互いに独立しているような成分のノイズのことを意味している。また、強度信号のノイズのうち下記式;
【数21】

の項は、他方のチャネルにおける検出対象の信号光のうち自己のチャネルの光電子増倍管に漏れ込んだ信号光の仮想ホトン数期待値、及び自己のチャネルの光電子増倍管のゲインを反映した他方のチャネルの信号光に起因した他の独立系ノイズ(光源及びサンプル側のばらつきに依存)である。強度信号のノイズのうち下記式;
【数22】

の項は、自己のチャネルにおける検出対象の信号光の仮想ホトン数期待値、及び自己のチャネルの光電子増倍管のゲインを反映した、自己のチャネルの信号光と他方のチャネルの信号光との間の相関に起因した自己の相関系ノイズ(光源及びサンプル側のばらつきに依存)である。相関系ノイズとは、2つのチャネルの強度信号のばらつき方(程度及び方向)が互いに相関しているような成分のノイズのことを意味している。この式における「^」の表記は、チャネル間の相関に起因する相関系ノイズであることを表している。強度信号のノイズのうち下記式;
【数23】

の項は、他方のチャネルにおける検出対象の信号光の仮想ホトン数期待値、及び自己のチャネルの光電子増倍管のゲインを反映した、自己のチャネルの信号光と他方のチャネルの信号光との間の相関に起因した他の相関系ノイズ(光源及びサンプル側のばらつきに依存)である。この式における「^」の表記も、チャネル間の相関に起因する相関系ノイズであることを表している。式(16)の右辺の第4項以降も、同様なノイズの項を含んでいる。
【0059】
データ処理装置12の計算部202は、上記実施形態と同様にして、各チャネルの光電子増倍管への信号光の入射がない場合の強度信号、各チャネルの信号光の強度が十分に大きい場合の強度信号、各チャネルの信号光の強度を高低で変更した場合の強度信号等を取得する。そして、計算部202は、取得した強度信号を参照して上記式(15)及び上記式(16)における各パラメータを計算および記憶する。このとき、独立系ノイズ及び相関系ノイズ以外の項のパラメータは、上述した実施形態と同様にして計算でき、独立系ノイズ及び相関系ノイズの項のパラメータは、各蛍光体を光らせた状態で2つのチャネルで測定を行い、その結果得られた強度信号を上記式(15)、(16)で連立させることによって計算することができる。さらに、計算部202は、フローサイトメトリーによる検出を開始させた際に各チャネルから出力された強度信号を基に、記憶したパラメータを用いて、各チャネルの仮想ホトン数(あるいは有効光電子数)及びその標準偏差(第1ノイズ値)を導出することができる。データ処理装置12の解析部203は、計算部202によって計算された仮想ホトン数(あるいは有効光電子数)及び標準偏差を用いて、上記実施形態と同様のデータ解析を実行することができる。
【0060】
以上説明した第2変形例によれば、自己のチャネルにおける光電子増倍管の検出対象の信号光のばらつきに起因した解析評価値におけるノイズ値を精度よく予測することができる。その結果、データ解析によって定量的に信号光を解析することができる。特に、複数チャネルを用いて複数色の蛍光の強度を測定する際に、ノイズ値の予測精度が向上する。また、単色の信号光を測定対象とする場合であっても、強度信号の中には上述したような様々な要因(レーザ光の当たり方によるばらつき、分析対象物の大きさのばらつき、分析対象物の構造のばらつき等)で発生するばらつきが含まれている。本変形例のように、独立系ノイズ及び相関系ノイズに分けて評価することで、これらの要因を切り分けてノイズを予測することができる。さらには、ノイズの要因を切り分けて評価することもでき、ノイズ値を小さく収めるための改良(装置の改良、蛍光体の改良等)を行う際に、効果的に改良を行うことができる。例えば、相関系ノイズの成分が0.25と評価された際に、レーザ光の当たり方によるばらつきの相関系ノイズの成分が0.05程度であることが分かっていれば、かなりの割合で分析対象物を要因としたばらつきの成分が問題であることが推測できる。この場合は、蛍光体の結合効率を向上させることにより効果的にノイズ値を低減させることができると推測することができる。
【0061】
また、第2変形例にかかるデータ処理装置12は、一方のチャネルの信号強度及び他方のチャネルの信号強度を対象に、コンペンセーション(Compensation)と呼ばれる信号補正処理を施してもよい。コンペンセーションとは、一方のチャネルにおける信号強度を対象に他方のチャネルから漏れ込んだ分を差し引いて、目的の蛍光体からの信号光のみを反映するように補正する処理である。
【0062】
データ処理装置12の計算部202は、次のようにして、コンペンセーションを実行する。すなわち、計算部202は、一方のチャネルで取得した強度信号Xを、下記式;
【数24】

を用いて、補正値Comp[X]に変換する。ここで、係数RV→X’は、下記式;
【数25】

で表わされる係数である。この係数RV→X’は、染色蛍光体Vの発光のみでフローサイトメトリーによる検出を行い、X軸の強度信号の期待値をY軸の強度信号の期待値で割ることによって取得できる。その後、計算部202は、フローサイトメトリーによる検出を開始させた際にX軸のチャネルから出力された強度信号を基に、補正値Comp[X]を導出することができる。
【0063】
同様に、計算部202は、他方のチャネルで取得した強度信号Yを、下記式;
【数26】

を用いて、補正値Comp[Y]に変換する。ここで、係数RU→Y’は、下記式;
【数27】

で表わされる係数である。この係数RU→Y’は、染色蛍光体Uの発光のみでフローサイトメトリーによる検出を行い、Y軸の強度信号の期待値をX軸の強度信号の期待値で割ることによって取得できる。その後、計算部202は、フローサイトメトリーによる検出を開始させた際にY軸のチャネルから出力された強度信号を基に、補正値Comp[Y]を導出することができる。
【0064】
コンペンセーションにより強度信号を補正する場合には、データ処理装置12においては、強度信号Comp[X]及び強度信号Comp[Y]に関して、下記式(17)及び下記式(18)によって表される理論モデルが適用される。
【数28】

【数29】

上記式(17)、(18)においては、右辺の第1項から第3項までが強度信号の平均値[DN]を示し、右辺の第4項以降は強度信号のノイズを表している。上記式(17)のノイズのうち、
下記式;
【数30】

の項は自己のチャネルにおける読み出しノイズを示し、下記式;
【数31】

の項は他方のチャネルにおける読み出しノイズを示している。また、上記式(17)のノイズのうち、
下記式;
【数32】

の項は、自己のチャネルにおけるショットノイズを示しており、下記式;
【数33】

の項は他方のチャネルからのショットノイズを示している。
【0065】
上記強度信号のノイズのうち下記式;
【数34】

の項は、自己の独立系ノイズであり、下記式;
【数35】

の項は、他の独立系ノイズであり、下記式;
【数36】

の項は、自己の相関系ノイズである。式(17)の理論モデルでは、式(15)の理論モデルとは異なって、他方のチャネルにおける読み出しノイズを含む一方で、他の相関系ノイズは含まれていない。これは、コンペンセーションによって補正値に他方のチャネルの読出しノイズが混入する一方で、コンペンセーションによって他の相関系ノイズが打ち消されることが反映されている。上記式(18)のノイズにも同様な独立系ノイズ及び相関系ノイズが含まれている。
【0066】
データ処理装置12の計算部202は、上記式(17)、(18)によって表される理論モデルを適用して、各チャネルの仮想ホトン数(あるいは有効光電子数)及びその標準偏差を導出することができる。
【0067】
図10には、解析部203によるデータ解析によって生成および出力されたドットプロットの例を示すグラフであり、(a)部にはコンペンセーションを実行しなかった場合のグラフ、(b)にはコンペンセーションを実行した場合のグラフを示している。それぞれのグラフには、染色蛍光体Uからの蛍光に対応するチャネル(X軸)の強度信号と染色蛍光体Vからの蛍光に対応するチャネル(Y軸)の強度信号との関係がプロットされている。このように、コンペンセーションを実行しない場合に一箇所に集中していたデータ分布がコンペンセーションによって分布エリアが広がるように補正されており、チャネル間の光の漏れ込みの影響を除外した分布の評価が可能となることが分かる。
【0068】
また、第2変形例にかかるデータ処理装置12によって導出された強度信号の標準偏差の精度の評価例について説明する。分析対象物のサンプル流体を対象にした2回の測定において、データ処理装置12によって、上記式(17)、(18)から独立系ノイズの項を除いた理論モデルを用いて強度信号から標準偏差を導出させたところ、それぞれの測定における標準偏差が、30.1、及び338であった。これは、それぞれの測定を基にしたドットプロットから計算された実際の標準偏差90.8、962に対して誤差が大きくなっていた。これに対して、上記式(17)、(18)の理論モデルを用いて標準偏差を導出させたところ、それぞれの標準偏差が、93.4、937となり、誤差が小さく抑えられていることがわかった。
【0069】
上記実施形態、第1変形例、及び第2変形例にかかるデータ処理装置12においては、取得された強度信号がホトン数に変換されている。各チャネルの強度信号のゲインは、各チャネルの光電子増倍管の個体差あるいは各チャネルの検出条件毎に変化する。その結果、光学システム3に含まれるフィルタの特性が揃っていても、複数波長帯の光を測定する複数チャネルの強度信号の値をそのまま評価した場合、スペクトル形状が光電子増倍管の個体差あるいは検出条件等によってばらばらに取得されてしまう。これに対して、上記実施形態、第1変形例、及び第2変形例にかかるデータ処理装置12においては、各チャネルの強度信号をホトン数に変換して規格化して評価することができ、各チャネルの光電子増倍管の個体差あるいは各チャネルの検出条件等によらずにスペクトル形状を正確に評価することができる。
【0070】
第3変形例にかかるデータ処理装置12においては、以下のようなデータ解析を実行可能に構成されていてもよい。すなわち、計算部202は、新たな未知の分析対象物を対象にした測定によって得られた強度信号のデータを基に、仮想ホトン数等の解析評価値と、その標準偏差(第1ノイズ値)とを計算する。そして、解析部203は、データそれぞれを対象にした解析評価値及び標準偏差のデータの組を、機械学習を用いて処理したり、最適化アルゴリズムを用いて処理したり、測定結果の信頼度の評価処理に用いたりすることができる。詳細には、解析部203は、機械学習あるいは最適化アルゴリズムとして、重み付き最小二乗法を用いる。これにより、データ点に対して重み付けすることができ、標準偏差の逆数を解析評価値の重みとして使用することで、理論モデルに従って算出された妥当性に則った推定処理が可能となる。ここで、解析部203は、機械学習あるいは最適化アルゴリズムとしては、重み付き最小二乗法の他、正則化を行うもの、ベイズ統計を用いるもの、カーネル法を用いてもよいし、ベクターマシン、決定木、ニューラルネットワーク、クラスタリンク等を用いてもよい。
【0071】
実施形態の第一の側面及び第二の側面においては、解析評価値は、光子数である、ことが好適である。この場合、さらに、フローサイトメトリーによる分析結果の装置間でのばらつきも低減することができる。
【0072】
また、上記第一の側面及び上記第二の側面においては、データ解析は、解析対象の集団の境界を画定するゲーティング処理を含む、ことが好適である。これにより、定量的な信号光の強度情報を基にゲーティング処理を行うことができ、解析対象の集団同定の精度を高めることができる。
【0073】
また、上記第一の側面においては、解析評価値、及び光電子増倍管のゲインを基に、解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、ゲーティング処理では、解析評価値及び第1ノイズ値を用いてゲートの区間を設定する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、プロセッサは、解析評価値、及び光電子増倍管のゲインを基に、解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、ゲーティング処理では、解析評価値及び第1ノイズ値を用いてゲートの区間を設定する、ことも好適である。この場合、計算した信号光の光子数からその光子数に含まれるノイズに相当する値が計算され、ゲーティング処理においてその値を用いてゲートの区間が設定される。これにより、解析対象の集団同定の精度をさらに高めることできる。
【0074】
またさらに、上記第一の側面においては、フローサイトメータにおいて信号光の入射がない場合の光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号の平均値を第1平均値として取得し、第1平均値を減算した第1電流信号の値を用いて、解析評価値を計算する、ことも好適である。またさらに、上記第二の側面においては、プロセッサは、フローサイトメータにおいて信号光の入射がない場合の光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号の平均値を第1平均値として取得し、第1平均値を減算した第1電流信号の値を用いて、解析評価値を計算する、ことも好適である。こうすれば、背景光および暗電流の影響を除いて信号光の光子数を計算することができる。その結果、フローサイトメトリーによる分析結果の信頼性を高めることができる。
【0075】
さらにまた、上記第一の側面においては、フローサイトメータにおいて信号光の入射がない場合の光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号のノイズ値を第2ノイズ値として取得し、第2ノイズ値をさらに用いて、第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。さらにまた、上記第二の側面においては、プロセッサは、フローサイトメータにおいて信号光の入射がない場合の光電子増倍管の出力電流信号である第2電流信号のノイズ値を第2ノイズ値として取得し、第2ノイズ値をさらに用いて、第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。こうすれば、背景光および暗電流の影響を考慮して信号光の光子数のノイズ成分を計算することができる。その結果、解析対象の集団同定の精度をより高めることできる。
【0076】
また、上記第一の側面においては、フローサイトメータにおいて所定強度の励起光に応じた信号光に基づいた光電子増倍管の出力電流信号である第3電流信号の平均値である第2平均値と、当該第3電流信号のノイズ値である第3ノイズ値とを取得し、第2平均値及び第3ノイズ値をさらに用いて、第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、プロセッサは、フローサイトメータにおいて所定強度の励起光に応じた信号光に基づいた光電子増倍管の出力電流信号である第3電流信号の平均値である第2平均値と、当該第3電流信号のノイズ値である第3ノイズ値とを取得し、第2平均値及び第3ノイズ値をさらに用いて、第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。かかる構成を採れば、光源の特性及び解析対象のばらつきを考慮して信号光の光子数のノイズ成分を計算することができる。その結果、解析対象の集団同定の精度をより高めることできる。
【0077】
また、上記第一の側面においては、光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した自己の信号光に起因した自己の独立系ノイズと、光電子増倍管とは異なる他の光電子増倍管における検出対象の信号光のうち光電子増倍管に漏れ込んだ信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した他の信号光に起因する他の独立系ノイズと、光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した自己の相関系ノイズと、を含む第1ノイズ値をさらに計算し、解析評価値及び第1ノイズ値を用いてデータ解析を実行する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、プロセッサは、光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した自己の信号光に起因した自己の独立系ノイズと、光電子増倍管とは異なる他の光電子増倍管における検出対象の信号光のうち光電子増倍管に漏れ込んだ信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した他の信号光に起因する他の独立系ノイズと、光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した自己の相関系ノイズと、を含む第1ノイズ値をさらに計算し、解析評価値及び第1ノイズ値を用いてデータ解析を実行する、ことも好適である。かかる構成を採れば、光電子増倍管の検出対象の信号光のばらつきに起因した解析評価値におけるノイズ値を精度よく予測することができる。その結果、データ解析によって定量的に信号光を解析することができる。
【0078】
さらに、上記第一の側面においては、他の光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した他の相関系ノイズをさらに含む第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。さらに、上記第二の側面においては、プロセッサは、他の光電子増倍管における検出対象の信号光の期待値、及び光電子増倍管のゲインを反映した、自己の信号光と他の信号光との間の相関に起因した他の相関系ノイズをさらに含む第1ノイズ値を計算する、ことも好適である。この場合、光電子増倍管の検出対象の信号光のばらつきに起因した解析評価値におけるノイズ値を精度よく予測することができる。
【0079】
またさらに、上記第一の側面においては、解析評価値、及び光電子増倍管のゲインを基に、解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、解析評価値及び第1ノイズ値を用いて最適化アルゴリズムによってデータ解析を実行する、ことも好適である。またさらに、上記第二の側面においては、プロセッサは、解析評価値、及び光電子増倍管のゲインを基に、解析評価値に含まれるノイズに相当する第1ノイズ値をさらに計算し、解析評価値及び第1ノイズ値を用いて最適化アルゴリズムによってデータ解析を実行する、ことも好適である。この場合、解析評価値を対象に、重み付け等のノイズ値を反映した処理を加えながらデータ解析することができる。その結果、フローサイトメトリーによる分析結果を信頼度を反映した上で利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…フローサイトメータシステム、2…流体システム、3…光学システム、4…電子システム(信号処理装置)、5…チャネル、6…フローセル、7…レーザ光源、8…レンズ、9a,9b,9c,9d…フィルタ、10b,10c…ダイクロイックミラー、11a,11b,11c,11d…光電子増倍管、12…データ処理装置、201…信号取得部、202…計算部、203…解析部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10