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特開2023-144029NRARP遺伝子の発現を阻害するためのsiRNA、並びにそのための方法及び組成物におけるそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144029
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】NRARP遺伝子の発現を阻害するためのsiRNA、並びにそのための方法及び組成物におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230928BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/713
A61P27/02
A61P9/00
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023131212
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2021149368の分割
【原出願日】2016-09-07
(31)【優先権主張番号】15382440.4
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507058270
【氏名又は名称】シレンティス・エセ・ア・ウ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アナ・イサベル・ヒメネス
(72)【発明者】
【氏名】コヴァドンガ・パニェダ
(72)【発明者】
【氏名】タマラ・マルティネス
(57)【要約】
【課題】本発明は、NRARP遺伝子の発現を阻害するためのsiRNA分子、並びにそのための方法及び医薬組成物におけるそれらの使用に関する。本発明はまた、NRARP遺伝子の発現及び/又は活性の増加を特徴とする、新血管形成に関連する疾患又は障害の治療及び/又は予防における前記siRNA分子の使用であって、眼の前記状態が、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せを含む群から選択される、使用にも関する。
【解決手段】本発明は、NRARPの発現を低下させ、その結果、新血管形成に関連する網膜疾患を低下させるように改善した生成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子であって、前記分子が、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にする、siRNA分子。
【請求項2】
眼の前記状態が新血管形成に関連する、請求項1に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項3】
眼の前記状態が、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せから選択される、請求項1又は2に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項4】
前記siRNAが、19個のヌクレオチドの二本鎖領域を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項5】
前記siRNAが平滑末端を有する、請求項4に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項6】
前記siRNAが、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項1から5のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項7】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項1から6のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項8】
少なくとも1つのヌクレオチドが、化学的修飾を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項9】
ヌクレオチドの前記化学的修飾が、2'-O-メチル修飾、2'-フルオロ修飾、ホスホロチオエート修飾ヌクレオチドの導入、ウラシルの5-プロピニルウラシルによる置換、ウラシルの5'-メチルウリジンによる置換、ウラシルリボースヌクレオチドの4'-チオリボースによる置換及びウラシルリボースヌクレオチドのデオキシチミジンヌクレオチドによる置換、並びにそれらの組合せから選択される、請求項8に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項10】
前記化学的修飾が、センス鎖上、アンチセンス鎖上又は両方にある、請求項8又は9に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項11】
前記siRNAが、配列番号19~配列番号66からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項12】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63及び配列番号65からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又はそうした配列からなり、前記アンチセンス鎖が、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、配列番号64及び配列番号66からなる群から選択される、請求項8から11のいずれか一項に記載のNRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において使用するためのsiRNA分子。
【請求項13】
siRNA分子であって、前記分子が、細胞中に導入されると、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にし、NRARP遺伝子の発現を低下させ、前記siRNAが、19個のヌクレオチドの平滑末端二本鎖構造を含む、siRNA分子。
【請求項14】
siRNA分子であって、前記分子が、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にする、siRNA分子。
【請求項15】
前記siRNAが、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項13又は14に記載のsiRNA分子。
【請求項16】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項13から15のいずれか一項に記載のsiRNA分子。
【請求項17】
少なくとも1つのヌクレオチドが、化学的修飾を含む、請求項13から16のいずれか一項に記載のsiRNA分子。
【請求項18】
ヌクレオチドの前記化学的修飾が、2'-O-メチル修飾、2'-フルオロ修飾、ホスホロチオエート修飾ヌクレオチドの導入、ウラシルの5-プロピニルウラシルによる置換、ウラシルの5'-メチルウリジンによる置換、ウラシルリボースヌクレオチドの4'-チオリボースによる置換及びウラシルリボースヌクレオチドのデオキシチミジンヌクレオチドによる置換、並びにそれらの組合せから選択される、請求項17に記載のsiRNA分子。
【請求項19】
前記化学的修飾が、センス鎖上、アンチセンス鎖上又は両方にある、請求項17又は18に記載のsiRNA分子。
【請求項20】
前記siRNAが、配列番号19~配列番号66からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項17から19のいずれか一項に記載のsiRNA分子。
【請求項21】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63及び配列番号65からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又はそうした配列からなり、前記アンチセンス鎖が、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、配列番号64及び配列番号66からなる群から選択される、請求項17から20のいずれか一項に記載のsiRNA分子。
【請求項22】
NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療のための医薬の製造における、請求項1から21のいずれか一項に記載のsiRNA分子の使用。
【請求項23】
眼の前記状態が新血管形成に関連する、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
眼の前記状態が、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せから選択される、請求項22又は23に記載の使用。
【請求項25】
請求項1から21のいずれか一項に記載のsiRNA分子を少なくとも含む医薬組成物。
【請求項26】
NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療方法であって、前記方法が、請求項1から21のいずれか一項に記載のsiRNA分子又は請求項25に記載の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、治療方法。
【請求項27】
眼の前記状態が、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新血管形成(neovascularization)に関連する網膜疾患の治療及び/又は予防、特に、NRARP遺伝子の高レベルの発現及び/又は活性に関連する新血管形成に関連する網膜疾患の治療及び/又は予防のためのsiRNA生成物、並びにそのための方法及び組成物におけるそれらの使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な視力を得るには、健常な網膜が必要である。網膜の障害は、部分的又は完全な視力喪失を引き起こす恐れがある。多くの網膜疾患は、共通の症状及び治療を共有するが、それぞれの疾患が、独特の特徴を有する。網膜疾患の治療の目標は、疾患の進行を停止させるか又は遅らせ、喪失した視力を維持するか又は喪失した視力を修復することである。
【0003】
神経網膜は、相互接続されている細胞層8層のネットワークで構成される複雑な神経学的組織であり、この組織は、可視光の電気機械的情報への変換を担い、この情報は、視神経を介して、脳に送られ、脳により読み取られる。網膜内における神経細胞の配置は、光が、大部分の細胞層を通って移動して網膜後部に位置する光受容器に到達することを必要とする。光が光受容器に到達すると、光受容器により情報が網膜ニューロンに伝達されて、視覚情報の局所における処理及び視覚皮質への伝達が行われる。2つの種類の光受容器、すなわち、桿状体及び錐状体がある。両方の種類の光受容器が、網膜全体を通して存在するが、桿状体は、周辺において多数を占め、一方、錐状体の密度は、網膜の中心において最も高い。網膜の中心は、黄斑としてもまた公知であり、網膜の特殊な領域であり、錐状体が高密度で詰まっており、色素の濃度が高く、ここが、視力にとって最も重要である。網膜の主要な特徴の1つは、それが透明であることである。透明であることによって、光が、光受容器が位置する、網膜の最も外側の層に到達するのが可能になる。こうした透明性が要求されることは、網膜に栄養を与え、網膜を支援するのに必要な血管構造が極めて特殊であることを意味する。網膜への血液の供給は、主要な供給源、すなわち、網膜血管構造及び脈絡膜によりもたらされる。脈絡膜は、血管に非常に富み、色素を有する組織であり、網膜と強膜との間に存在する。脈絡膜は、脈絡毛細血管を介する拡散により、網膜に栄養素、代謝産物及び気体交換をもたらす。網膜色素上皮(RPE)は、単層の、色素を有する細胞であり、神経網膜と脈絡膜との間に位置する。RPE細胞は、光感受性網膜に対して、保護、支援及び栄養供給を行う。神経網膜に特有の環境が、血液網膜バリア(hemato-retinal barrier)ともまた呼ばれる血液網膜関門(BRB)により維持される。BRBは、内側の血液網膜関門と外側の血液網膜関門とにより構成される。内側の血液網膜関門は、網膜血管構造の毛細血管内皮細胞間のタイトジャンクションにより形成される。外側の血液網膜関門は、RPE細胞のタイトジャンクションにより構成される。RPE細胞間のタイトジャンクションは、液体及び可溶性化合物のBRBを介する輸送を制御し、網膜内に毒性物質が入るのを回避するのに不可欠である。
【0004】
血管は、網膜中では、2つの主要なプロセス、すなわち、血管形成(vascularization)又は血管新生(angiogenesis)により形成される。血管形成は、組織中にすでに存在する前駆細胞が、血管の形成に寄与する内皮細胞に分化した結果として生じる。血管新生は、新しい血管が、既存の血管構造から出芽することによって生成されるという点で異なる。血管新生は、内皮細胞の増殖、遊走及び分化、並びに新たに形成された血管の成熟を必要とする。生物の成体においては、内皮細胞の数は通例安定しており、内皮の安定性は、血管新生因子の濃度と抗血管新生因子の濃度との均衡により制御される。
【0005】
因子の均衡の変化により、血管新生の誘発又は抑制が生じる。血管形成及び血管新生は、発生の間及び治癒等のその他の事象の間に生じる自然のプロセスであるが、これらのプロセスはまた、特定の疾患の病変形成においても役割も果たす。病的な新血管形成は通常、血管形成及び血管新生の両方の組合せを意味する。網膜中で発生する新血管形成には、2つの種類、すなわち、網膜新血管形成(RNV)及び脈絡膜新血管形成(CNV)があり、両方が、視力喪失を引き起こし得る。RNVにおいては、新しい血管が、網膜毛細血管から出芽し、硝子体及び網膜の神経層に侵入し、CNVにおいては、新しい血管が、脈絡膜血管構造から出芽し、網膜下空間に侵入する。RNVはCNVとは、異なる血管網を起源とし、網膜の異なる層に侵入するが、共有の分子機構により、両方の進行が促進される。RNV及びCNVは、先進国においては、重度の視力喪失の最も一般的な原因であり、新しい治療が必要である。
【0006】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管新生の最も重要なメディエーターの1つであり、RNV及びCNVの間に上方制御される。過去10年にわたり、科学者により、いくつかの新しい「抗VEGF」薬が開発されている。抗VEGF薬は、異常な血管を遮断するのに役立ち、そうした血管からの漏出を緩慢にし、視力喪失を低下させるのに役立つ。抗VEGF薬を用いる治療は、硝子体内注射により実施される。
【0007】
硝子体内(IVT)注射は、薬物を眼の後部に送達するための最も一般的な方法であり、この方法は、ベルテポルフィンを除く、網膜疾患の治療について現時点で承認されている薬物全てにより使用されている。ベルテポルフィンは、静脈内注射により投与され、それに続いて、レーザー治療が行われるが、ベルテポルフィンの使用は、最新の抗VEGF治療が販売されるようになったことに起因して顕著に減少している。IVT注射の広範な使用の背後にある理由は、薬物を送達する効率、網膜を扱う医師がこの方法を熟知していること、及び医師が治療コンプライアンスを制御することが可能であることである(Rowe-Rendlemanら、2014年)。しかし、この方法には、それ自体に極めて特有の一連の欠点が伴い、それらには、患者の不快感;眼内炎、白内障の形成及び網膜剥離のリスク;並びに投与が診察室で行われることに起因して高いコストが伴うことが含まれる。投与のその他の方法は、眼周囲への注射、脈絡膜上注射、眼球鞘下注射を含み、また、点眼剤も含む。しかし、活性成分が角膜から網膜中のその作用部位に送達されなければならないので、点眼剤に関しては、網膜の状態を治療するのに十分な効能を達成することができるかどうかについて、特定の懐疑的な見方がある。薬物の眼の後部への送達を妨害する重要なバリア及び排除経路がある。第一に、投与された薬物のうち、1~7%のみが眼により吸収されるに過ぎず、点眼剤として投与された薬物のほとんどが、眼から流れ出るか、又は鼻涙管を介して全身循環に吸収される。更に、薬物は、硝子体液からも迅速に浄化される。後眼房からのクリアランスには、2つの経路、すなわち、その前側及び後側がある。前者は、前眼房へのクリアランスをもたらし、これは、眼房水(AH)の流れ、及びその後の、前房隅角を介するAHの流出によってなされる。後者は、血液網膜関門を介する排除を意味する。したがって、血液網膜関門を通って容易に透過することができる薬物は、硝子体液中では非常に短い半減期を有するであろう。
【0008】
新血管形成に関連する網膜疾患を治療するための抗VEGF薬の代替えが、RNA干渉(RNAi)に基づく薬物である。
【0009】
RNAiは、天然に存在する、転写後の調節機構であり、この機構は、ほとんどの真核細胞中に存在し、低分子二本鎖RNA(dsRNA)分子を使用して、相同性に依存する遺伝子サイレンシングを導く。虫である線虫(C. elegans)において、RNAiをFire及びMelloが発見し{Fireら、1998年}、この発見について、2006年にノーベル賞が授与された。RNAiは、最初の記載の直後に、哺乳動物細胞中でもまた、21ヌクレオチド長の二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)によって生じることが示された{Elbashirら、2001年}。
【0010】
RNA干渉のプロセスは、外来遺伝子の発現を阻止するために使用される、細胞の進化的に保存されている防御機構であると考えられており、多種多様な動物の門及び植物相により広く共有されており、転写後の遺伝子サイレンシングと呼ばれている。RNAi機構の発見以来、RNAi以外の、低分子又はタンパク質が関与する従来の薬学的アプローチ用いるのでは「新薬の開発につながらない」標的に対処することによって、ヒト疾患を治療するための新しい様式として、遺伝子の発現を選択的に変化させることができる新しい化合物を解明するための研究が激増している。
【0011】
これまでに分かっていることによれば、長い二本鎖RNAが、ダイサーとして公知のリボヌクレアーゼIII様タンパク質によりプロセシングされると、RNAi機構が開始する。タンパク質のダイサーは典型的には、N末端RNAヘリカーゼドメイン、RNA結合性のいわゆるPiwi/アルゴノート/Zwille(PAZ)ドメイン、2つのリボヌクレアーゼIIIドメイン、及び二本鎖RNA結合性ドメイン(dsRBD)を含有し{Collinsら、2005年}、ダイサーの活性により、長い二本鎖RNAの、2つの塩基からなる3'オーバーハング並びに5'リン酸及び3'ヒドロキシル基を有する21~24個のヌクレオチドの二本鎖siRNAへのプロセシングが生じる。次いで、結果として生じたsiRNA二重鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として公知のエフェクター複合体内に組み込まれ、ここで、siRNAのアンチセンス鎖又はガイド鎖が、RISCを導いて、標的mRNA配列を認識し、切断する{Elbashirら、2001年}。認識及び切断は、二本鎖siRNA分子が、RNAヘリカーゼ活性により、アデノシン三リン酸(ATP)依存性にほどかれると生じる{Nykanenら、2001年}。mRNAの分解をもたらすRISCの触媒活性は、エンドヌクレアーゼのアルゴノート2(AGO2)により媒介される{Liuら、2004年;Songら、2004年}。AGO2は、高度に保存されたアルゴノートファミリーのタンパク質に属する。アルゴノートタンパク質は、約100KDaの強塩基性タンパク質であり、2つの共通のドメイン、すなわち、PIWIドメイン及びPAZドメインを含有する{Ceruttiら、2000年}。PIWIドメインは、ダイサーが関わる相互作用にとって極めて重要であり、mRNAの切断に関与するヌクレアーゼ活性を有する。AGO2は、siRNA二重鎖の一方の鎖をガイドとして使用して、相補配列を含有するメッセンジャーRNAを見出し、リン酸ジエステル骨格を、ガイド鎖の5'末端に対して10番目の塩基と11番目の塩基との間で切断する{Elbashirら、2001年}。RISCの活性化における重要なステップは、AGO2によるセンス鎖又はパッセンジャー鎖の切断であり、この鎖は、複合体から除去される{Randら、2005年}。siRNAガイド鎖とPIWIドメインとの間の相互作用を分析した結晶構造解析研究から、RISCが標的のmRNAを認識するのを導く「シード配列」を構成するのは、2~8番目のヌクレオチドのみであり、この配列中の単一ヌクレオチドのミスマッチが、この分子のサイレンシング能力に劇的な影響を及ぼす恐れがあることが明らかになっている{Maら、2005年;Doenchら、2004年;Lewisら、2003年}。mRNAが切断されると、断片中に未保護のRNA末端が存在することに起因して、mRNAは、細胞内ヌクレアーゼにより更に切断され、分解され、最早タンパク質には翻訳されず{Orbanら、2005年}、一方、RISCは、次回に再利用される{Hutvagnerら、2002年}。こうして、特定のmRNA分子及び対応するタンパク質の選択的な減弱をもたらす触媒性のプロセスが構成される。自然界に存在するこの機構を活用して、任意の最適な遺伝子を調節する目的で、siRNAエフェクターを細胞又は組織内に直接送達することによって、遺伝子サイレンシングを行うことが可能であり、この場合、そうしたエフェクターにより、RISCが活性化され、標的とするmRNAの強力かつ特異的なサイレンシングがもたらされる。RNAiは、生物医学的研究、例として、HIV、ウイルス性肝炎、心血管疾患及び脳血管疾患、代謝疾患、神経変性障害、並びにがんのための治療において適用されている{Angaji SAら、2010年}。
【0012】
長さ、構造、化学組成及び配列に関して、最大の有効性を達成するためにsiRNAが有するべきである理想的な特徴を記載する多くの研究が公開されている。siRNAの設計のための最初のパラメータが、WO02/44321としてTuschlらにより記載されたが、それ以来、多くのそれに続く研究、アルゴリズム及び/又は改善が公開されている。反応機構の詳細が浮かび上がってくるにつれて、siRNAを選択するアプローチはより高度になっており、更に、現存するデータ及び新しいデータのさらなる分析から、これらのアプローチのさらなる精緻化をもたらす追加の洞察を得ることもできる{Walton SPら、2010年}。あるいは、いくつかの最近の研究は、古典的な19+2のsiRNA構造とは明確に異なり、オーバーハング、長さ又は対称性に関する、古典的siRNAの主要な特徴に従わない、RNAiを引き起こす新規の構造の設計及び分析について報告し、哺乳動物細胞におけるRNAi機構の柔軟性について論じた{Chang CIら、2011年}。
【0013】
また、多くの努力が、siRNAの安定性の増強にも払われており、その理由は、この点が、生物学的液体中でのリボヌクレアーゼの偏在性を考慮すると、siRNAに基づく療法についての主要な障害の1つになることが理解されるからである。siRNA分子の別の内在する問題は、それらの免疫原性であり、それによって、siRNAが、自然免疫系の非特異的な活性化を誘発することが見出されている。意図しない遺伝子(mRNA)のノックダウンが、siRNA媒介型の遺伝子サイレンシングの周知の副作用である。こうしたノックダウンは、siRNAと意図する標的以外のmRNAとの間における部分的な相補性の結果として生じ、siRNAのいずれかの鎖に対して配列相補性を有する遺伝子からのオフターゲット作用(OTE)を引き起こす。安定性の増強及びOTEの低下のために従う主要な戦略の1つでは、修飾ヌクレオチド、例として、2'-O-メチルヌクレオチド、2'-アミノヌクレオチド、又は2'-O若しくは4'-Cのメチレン架橋を含有するヌクレオチドが使用されている。また、隣接するヌクレオチドに接続するリボヌクレオチド骨格の修飾についても記載されており、これは、主として、ホスホロチオエート修飾ヌクレオチドの導入によってなされる。安定性の増強及び/又は免疫原性の低下はしばしば、効能に反比例すると思われ{Parrish、2000年}、修飾ヌクレオチドの特定の数、位置及び/又は組合せのみから、安定なかつ非免疫原性のサイレンシング化合物を得ることができる。こうした点は、siRNAに基づく治療にとって重要なハードルとなることから、良好な結果を示す特定の修飾パターンについて記載する種々の研究が公開されており、そのような記載の例として、EP1527176、WO2008/050329、W02008/104978、又はWO2009/044392が挙げられるが、更に多くの研究を、文献に見出すことができる{Sanghvi YS.、2011年;Deleaveyら、2012年}。
【0014】
眼は、比較的孤立した組織コンパートメントであり、このことは、siRNAに基づく薬物を、新血管形成に関連する網膜疾患を治療するために利用する場合に好都合である。CNVの治療にsiRNAを用いることの実現可能性が、硝子体内注射により投与した、VEGF又はVEGF受容体1(VEGFR1)を対象としたsiRNAを使用して示されている{Campochiaro PA、2006年}。siRNAsの後側セグメントへの外用点眼による送達は、siRNAsが網膜に到達する前に硝子体を通過しなければならない比較的長い距離に起因して実に困難である{Guzman-Aranguez A.ら、2013年}。更にまた、眼と全身循環とを分離する、血液と眼との間の拘束性の関門、例として、血液房水関門(BAB)及びBRBも、眼の後側セグメントを冒す網膜疾患の薬学的な治療を困難にする。更に、眼のコンパートメント化された構造も、siRNAの、前眼房から眼の後側セグメントへの通過を制限する{Duvvuri Sら、2003年}。最終的には、siRNAが眼の後部に首尾よく進入しても、クリアランスの機構が有効に作用して、送達分子を迅速に浄化する{Del Amo EMら、2008年}。したがって、硝子体腔内への直接的な注射が、siRNAに基づく治療剤を眼の後側セグメント内に送達するための最も効率的な手段となっている{Edelhauser HFら、2010年}。siRNAの硝子体内注射により、siRNAの高い濃度が達成され、siRNAは、網膜組織において局所的に利用可能になり、一方、全身曝露は制限される。しかし、後側セグメントから、siRNAの濃度は、硝子体のエンドヌクレアーゼによる分解に起因し、かつ/又はBRBを越える浸透及び硝子体を越えて前眼房に達する拡散により迅速に枯渇する。したがって、眼の後側セグメント内でsiRNAの最適濃度を維持するためには、複数回の硝子体内注射が必要になる。この投与様式の主要な欠点は、複数回の硝子体内注射が、眼内圧の上昇、硝子体又は網膜の出血、網膜剥離、網膜の裂傷、眼内炎、白内障、飛蚊症及び一過性の視界不良と関連があることである{Edelhauser HFら、2010年}。したがって、硝子体内注射は、高い濃度のsiRNAを網膜に確実に送達するが、また、この投与方法には、それ自体に特有の一連のリスクも伴う。結果として、siRNAの外用投与であれば、リスクを低下させ、患者にとってより使いやすい投与方法をもたらすであろう。
【0015】
裸のsiRNAが、外用適用の後に特定の領域に到達することが示されているが、網膜の最も内側の層等のより深部の領域への接近、及び細胞による有効な取込みには、標的領域内に位置する細胞の細胞質に到達する、化合物の十分な濃度を確保し、所望の生理学的応答又は治療に対する応答を引き起こす戦略の開発が必要となる。siRNAを、角質層関門を越えて送達するための物理的アプローチとして、とりわけ、マイクロニードル(Chong、Gonzalez-Gonzalezら、2013年)、皮内注射(Leachman、Hickersonら、2010年)、電気穿孔(Nakai、Kishidaら、2007年)、イオン泳動(Kigasawa、Kajimotoら、2010年)が挙げられる。分子の修飾及び/又は製剤化もまた、分子が必要な領域内に貫通するのを可能にし、細胞による取込みを改善することができる。
【0016】
網膜疾患の治療のためのsiRNAに基づく治療剤の外用投与が記載されており、例えば、US20130123330は、糖尿病性網膜症及びその他の眼の新血管形成疾患の治療であって、少なくともVEGF若しくはVEGFR2をコードするmRNA分子に結合するsiRNA二重鎖、又はVEGF遺伝子及びVEGFR2遺伝子の両方を標的にするsiRNA二重鎖を組み合わせたカクテルを投与することによる治療を開示している。この特許出願には、siRNA二重鎖の眼への投与を、外用として、結膜下に、又は硝子体内に行うことができることが記載されている。しかし、この明細書は、硝子体内又は結膜下に投与される化合物の例しか含まない。WO2010048352(Quark Pharmaceuticals)は、網膜色素変性症(RP)、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)及び加齢黄斑変性(AMD)を含めた、網膜神経節細胞の変性又は死と関連がある眼の疾患、障害及び損傷を治療するための、化学的に修飾されたsiRNA化合物の使用を開示している。網膜組織への外用送達が、これらの細胞の喪失と関連がある標的遺伝子、例として、CASP2遺伝子、RTP801遺伝子、TIGASEII遺伝子及びp53遺伝子の発現を下方制御するsiRNA化合物について示されているが、カスパーゼ2を標的にするsiRNA化合物が唯一、眼神経保護効果を、網膜神経節細胞の生存を高めることによってもたらす化合物であることが証明されているに過ぎない。
【0017】
標的遺伝子の選択が、siRNAに基づく治療剤を用いて、新血管形成に関連する網膜疾患を治療及び/又は予防する場合には、主要な役割を果たす。Notch調節性アンキリンリピートタンパク質(Notch-regulated ankyrin repeat protein)(NRARP)は、新たに形成された分枝点においてNotchにより誘発され、ここで、Notchシグナル伝達活性とWntシグナル伝達活性とを示差的に調節して、茎の増殖と血管の安定性とのバランスを保つ。HUVEC中でのNRARPのsiRNA媒介型下方制御は、Notchの増加と相関し、Notchの増加は、茎細胞中では、翻訳されて、血管の後退をもたらし、一方、Notchの増加は、新しい先端細胞の形成をもたらす{Phng LK、Potente Mら、2009年}。したがって、NRARPが、網膜組織中での血管新生及び/又は新血管形成のプロセスの調節において重要な役割を果たす可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO02/44321
【特許文献2】EP1527176
【特許文献3】WO2008/050329
【特許文献4】W02008/104978
【特許文献5】WO2009/044392
【特許文献6】US20130123330
【特許文献7】WO2010048352
【特許文献8】WO2005062937
【特許文献9】WO2008104978
【特許文献10】EP2322617
【特許文献11】EP2348133
【特許文献12】US20130130377
【特許文献13】WO0244321
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Maniatis, T.ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982年、387~389頁
【非特許文献2】Hernandez JLら、2004年、Angiogenesis.7:235~241頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
siRNAに基づく治療剤は、網膜疾患におけるRNV及びCNVの進行を遅らせ、予防することができるが、治療の利益が、siRNAの送達が非効率であること、及びsiRNAの生物学的利用能の持続期間が限定的であることによって減少する恐れがあり、siRNA治療剤には、硝子体内注射を繰り返す長期間の治療レジメンが必要である。したがって、新血管形成に関連する網膜疾患を治療及び/又は予防するためには、新しいかつ独創的な標的遺伝子を標的にするsiRNAに基づく、改善された、非侵襲性の治療剤を設計しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、NRARPの発現を低下させ、その結果、新血管形成に関連する網膜疾患を低下させるように改善した生成物を提供する。siRNA生成物を用いて、新血管形成に関連する網膜疾患を治療する場合の利点の1つは、従来の抗血管新生治療剤と比して、siRNAに基づく治療は、より長く続く効果をもたらすことである。この特徴は、siRNAが標的タンパク質の合成を遮断するという事実に起因する。治療を中断する場合、細胞は、新しい標的タンパク質を、一から合成しなければならない。一方、従来の治療は、標的タンパク質をインタクトな状態で放置し、阻害剤が最早存在しなくなると、活性を再び示す準備が整うであろう。別の利点は、状態を治療するために、種々のsiRNAの組合せを使用することによって、効力を増加させることができることであろう。これは、NRARPを標的にするsiRNAと、NRARPのその他の調節剤、及び/又は新血管形成のその他の分子メディエーター、例として、VEGF若しくはVEGFR2とを組み合わせることによって達成することができるであろう。siRNAの作用機構では必然的に、活性な分子が細胞質に到達すると、同じ分子を使用して、多くのmRNA分子の分解を媒介することができ、このことは、1:1の化学量論比を必要とする抗体には当てはまらない。したがって、臨床において同じ効能を達成するのに必要になる化合物の用量が減少し、したがって、副作用が低下する可能性があることが予期される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】NRARPの標的遺伝子配列のうちの短い断片であって、本発明のsiRNAのための標的配列として選ばれた断片を示す図である。
図2】本発明が包含する、NRARPを標的にする本発明のsiRNA分子についてのオリゴヌクレオチド配列を示す図である。図に示す配列番号は、センス(5'->3')鎖を指す。典型的には、siRNAを、dsRNAとして投与し、したがって、siRNAは、センス鎖及びそれに相補的なアンチセンス鎖の両方を含む。配列番号10~配列番号18はそれぞれ、配列番号1~配列番号9を標的にするsiRNAである。一般に、siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖とを含み、また、3'ジヌクレオチドのオーバーハング(例えば、dTdT)を含むこともできる。しかし、このことは不可欠でない。
図3】NRARPを標的にする修飾siRNAを示す図である。配列番号19~配列番号40は、配列番号10のsiRNAの修飾されたセンス(5'->3')鎖及び修飾されたアンチセンス(5'->3')鎖を指し、配列番号10のsiRNAは、NRARP遺伝子配列のうち配列番号1を標的にする。凡例:センス鎖(S)、アンチセンス鎖(AS)、小文字(2'OMeリボヌクレオチド)、*(PSすなわちホスホチオエート結合)、小文字(斜体)(4'チオリボースすなわち4'S)、pU又は5pU(5-プロピニルウラシル3')、大文字(下線付き)(2'Fリボヌクレオチド)、小文字(下線付き、斜体)(5'-メチルウリジンすなわち5mU)、dT(デオキシチミンすなわち2'Hチミン)。
図4】ヒトHeLa細胞における、NRARPを標的にする以下、すなわち、配列番号10(SYL136001)、配列番号11(SYL136005)、配列番号12(SYL136003)及び配列番号13(SYL136004)のsiRNAのうちの1つのトランスフェクションの後のin vitroでのNRARP遺伝子の発現レベルを示す図である。
図5】ヒトHeLa細胞における、NRARPを標的にする以下、すなわち、配列番号10(SYL136001)、配列番号11(SYL136005)、配列番号12(SYL136003)及び配列番号13(SYL136004)のsiRNAのうちの1つのトランスフェクションの後のin vitroでの細胞生存率を示す図である。
図6】ヒトHeLa細胞における、NRARPを標的にする配列番号10のsiRNA並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでのNRARP遺伝子の発現レベルを示す図である。
図7】ヒトBEAS-2B細胞における、NRARPを標的にする配列番号10のsiRNA並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでのNRARP遺伝子の発現レベルを示す図である。
図8】マウスC2C12細胞における、配列番号10並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでのNRARP遺伝子の発現レベルを示す図である。
図9】ラットARL6細胞における、配列番号10又は配列番号37のいずれかのトランスフェクションの後のin vitroでのNRARP遺伝子の発現レベルを示す図である。
図10】ヒトHeLa細胞における、配列番号10並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでの細胞生存率を示す図である。
図11】ヒトBEAS-2B細胞における、配列番号10並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでの細胞生存率を示す図である。
図12】マウスC2C12細胞における、配列番号10並びにその修飾された対応物、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のトランスフェクションの後のin vitroでの細胞生存率を示す図である。
図13】ラットARL6細胞における、配列番号10又は配列番号37のいずれかのトランスフェクションの後のin vitroでの細胞生存率を示す図である。
図14】CNVのレーザーによる誘発の後の、網膜におけるNRARPのmRNAレベルを示す図である。データは、1つの時点当たり3匹の動物(6眼)の平均±s.e.mを示す。
図15】CNVのレーザーによる誘発の後の、脈絡膜/RPEにおけるNRARPのmRNAレベルを示す図である。データは、1つの時点当たり少なくとも2匹の動物(4眼)の平均±s.e.mを示す。
図16】ビヒクル若しくは配列番号37(5mg/ml)の外用投与又は抗VEGF(5μg/眼)の硝子体内注射のいずれかの場合の、レーザーによる処置の3週間後における病変の測定値を示す棒グラフである。病変の面積を、フルオレセイン血管造影により決定した。面積は、画像分析コンピュータ処理ソフトウエアを使用して(ピクセル2で示して)定量化し、病変の中心にある血管形成が生じていない領域は除外した。データは、1つの時点当たり6匹の動物(12眼)の平均±s.e.mを示す。
図17】構造を評価するための研究された変数を示す図である。1.master junctionの数;2.master segmentの数;3.master segmentの全長;4.meshの数;5.meshの総面積。
図18】種々の研究したパラメータの、完全培地に応答した変化を示す図である。以下のパラメータ:master junctionの数;master segmentの数;master segmentの全長;meshの数;meshの総面積を示す。負の対照としての補充物質を有しないEBM培地(基本培地)又は補充物質及び10%のFCSを有する完全培地(陽性の対照)を使用して、マトリゲルで被覆した培養皿上に蒔いた細胞から、結果を得た。
図19A】配列番号37又はKDRのsiRNAに応答した、種々の研究したパラメータの分析を示す図である。
図19B図19Aの続きである。
図20】種々の条件に応答して形成された構造を示す写真である。
図21】種々の濃度のVEGFに応答した、HUVEC細胞の増殖を示す図(図21A)であり、ベバシズマブによる、VEGFが誘発する増殖の阻害を示す図(図21B)である。
図22】HUVEC細胞における、完全培地(10%のFCS及び100ng/mlのVEGF)により誘発される増殖に対する、抗KDRのsiRNA又は配列番号37のsiRNAの作用を示す図である。
図23】VEGFの増加する用量に応答した、HUVEC細胞の遊走を示す図である。
図24】補充物質を有しない培地及び完全培地(10%のFCS+100ng/mlのVEGF)が誘発するHUVEC細胞の遊走に対する、抗KDRのsiRNA又は配列番号37のsiRNAの作用を示す図である。
図25】種々の条件に応答した、上方のコンパートメント中の(遊走する)細胞の写真を示す図である。
図26】基礎条件下の創傷治癒及び10ng/mlのVEGFに応答した創傷治癒の定量化を示す図(A)であり、0時及び誘発の24時間後の時期における病変を示す写真(B)である。
図27】基礎条件下の創傷治癒並びに完全培地(10%のFCS及び100ng/mlのVEGF)に応答した創傷治癒の定量化を示す図である。
図28】アッセイした種々の条件下における、0時及び誘発の16時間後の創傷を示す写真である。
図29】HUVEC細胞におけるNRARPのmRNAレベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1の態様では、本発明は、NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療及び/又は予防において、医薬として使用するためのsiRNA分子を提供することであって、前記分子は、細胞中に導入されると、配列番号1~配列番号9を含むか又は配列番号1~配列番号9からなる群から選択される配列を特異的に標的にし、NRARP遺伝子の発現を低下させる、siRNA分子を提供することに関する。好ましくは、標的配列は、配列番号1を含むか、又は配列番号1からなる。
【0024】
本発明によれば、例えば、siRNA分子が、遺伝子の発現を選択的に減少させるか又は阻害する場合に、siRNAは、遺伝子を「標的にする」。句「選択的に減少させるか又は阻害する」は、本明細書で使用する場合、1つの遺伝子、この場合には、NRARPの発現に影響を及ぼすsiRNAを網羅する。あるいは、siRNAの(一方の鎖)が、厳密な条件下で、遺伝子の転写物、すなわち、そのmRNAにハイブリダイズする場合にも、siRNAは、遺伝子を標的にする。「厳密な条件下で」ハイブリダイズするとは、ハイブリダイゼーションに不利に働く傾向がある標準的な条件、例えば、高温及び/又は低い含有量の塩の下で、標的のmRNAの領域にアニールすることを意味する。適切な(0.1×SSC、68℃、2時間を用いる)プロトコールが、Maniatis, T.ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982年、387~389頁に記載されている。
【0025】
本明細書に引用する核酸配列は、別段の記載がない限り、5'から3'への方向で記載する。用語「核酸」は、DNA若しくはRNAのいずれか、又はそれらの修飾形態を指し、これは、DNA(アデニン「A」、シトシン「C」、グアニン「G」、チミン「T」)又はRNA(アデニン「A」、シトシン「C」、グアニン「G」、ウラシル「U」)中に存在するプリン塩基又はピリミジン塩基を含む。RNA中に、「T」塩基が天然には存在しないにもかかわらず、本明細書で提供する干渉RNAは、「T」塩基を、例えば、3'末端において含むことができる。場合によっては、これらの塩基を「dT」と表して、リボヌクレオチド鎖中に存在するデオキシリボヌクレオチドを区別する場合もある。
【0026】
siRNAを設計する目的で使用するデータベース中で転写物バリアントを定義するために使用する場合には、上記の定義に従う標的配列を標的DNA配列として記載し、一方、使用しようとする特定の化合物は、それに対応して定義されるRNA配列である。
【0027】
当業者は、任意の標的遺伝子配列に、公共のデータベースを介してアクセスすることができる。例えば、ヒトNRARPのmRNAに対応するGenBank受託番号は、NP_001004354.1及びNM_001004354.2(遺伝子ID:441478)である。更に、ENSEMBL(MBL-EBI/Wellcome Trust Sanger Institute)も、以下のヒトNRARPの受託番号、すなわち、ENSG00000198435を有する。こうした情報は全て、無料でアクセスできるEnsembleデータベース中にある。
【0028】
本発明により同定された前記好ましい標的領域は、配列番号1~配列番号9から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号1~配列番号9から選択される少なくとも1つの配列からなる。
【0029】
好ましい実施形態では、前記好ましい標的領域は、配列番号1を含むか、又は配列番号1からなる。
【0030】
これらの配列は、以下の種、すなわち、ヒト(Homo sapiens)、ハツカネズミ(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)、イヌ(Canis lupus familiaris)及びブタ(Sus scrofa domestica)の間で100%の相同性を示す。
【0031】
RNAiの分野では、in vitroにおける研究により、ヒトsiRNAが、動物モデルの遺伝子のノックダウンを誘導することが可能でないことが実証される場合には、siRNAの効能を適切な動物モデルにおいて分析するために、代理の化合物(動物において活性な類似体)を合成する。この代理の化合物は、ヒトsiRNAと同じ領域に対して設計され、したがって、これら2つのsiRNAは、ヒトの標的遺伝子と動物の標的遺伝子との間の相同性に関わるいくつかのヌクレオチドを除いて、同じ配列を有する。このアプローチは広く使用されて、その他のオリゴヌクレオチドの開発、とりわけ、毒物学及び効能の研究が行われている{Kornbrust Dら、2013年}。
【0032】
より好ましい実施形態では、前記好ましい標的領域は、配列番号1(5'-CACCAGGACATCGTGCTCT-3')を含むか、又は配列番号1からなる。
【0033】
結果として、本発明の態様に従うsiRNAは、好ましくは、二本鎖RNA分子を含み、そのアンチセンス鎖は、配列番号1~配列番号9からなる少なくとも1つの配列に実質的に相補的なRNA配列を含み、そのセンス鎖は、アンチセンス鎖に相補的なRNA配列を含み、この場合、両方の鎖が、ヌクレオチド間の標準的な塩基対形成によりハイブリダイズする。本発明の態様に従うsiRNAは、好ましくは、二本鎖RNA分子を含み、そのアンチセンス鎖は、配列番号1~配列番号9に実質的に相補的なRNA配列を含み、更により好ましくは、アンチセンス鎖は、配列番号1に実質的に相補的なRNA配列を含むか、又は配列番号1に実質的に相補的なRNA配列からなるのがより好ましい。
【0034】
本発明での意味の範囲内において、標的のmRNA配列に「実質的に相補的」はまた、前記標的配列と「実質的に同一」であると理解することもできる。「同一性」は、当業者に公知であるように、配列間でヌクレオチドの順番及び同一性を一致させることによって決定する場合のヌクレオチド配列間の配列の関連性の程度である。一実施形態では、標的のmRNA配列に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相補性を有する、siRNAのアンチセンス鎖を、実質的に相補的であるとみなし、本発明において使用することができる。相補性のパーセントは、第2の核酸分子中の一連の隣接するヌクレオチドとワトソン-クリック型の塩基対形成を起こすことができる、第1の核酸分子中の隣接するヌクレオチドのパーセントを記載する。好ましい実施形態では、siRNAの二本鎖の部分に関して、アンチセンスsiRNA鎖は、標的のmRNA配列に100%相補的であり、センス鎖は、アンチセンス鎖に100%相補的である。siRNAはまた、対を形成しないオーバーハング、例えば、3'ジヌクレオチドのオーバーハング、好ましくは、dTdTを含むこともできる。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明が特定する、眼の前記状態(好ましくは、眼の網膜の状態)は、新血管形成に関連する疾患又は障害である。より好ましくは、眼の前記状態は、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せから選択される。
【0036】
現況技術から公知であるように、多くの異なる構造が、RNA干渉を達成するために提案されている。一般に、これらの二本鎖分子は、約19~約25のヌクレオチド長であり、平滑末端構造を含む分子及びオーバーハングを有する構造を含む分子がある。オーバーハングは、リボヌクレアーゼが認識するのを低下させ、ダイサーの自然の基質を模倣するので、好都合であることが記載されており、いずれかの鎖の5'末端又は3'末端上に存在させることができる。著者の中には、分子の両方の3'末端上にオーバーハングを含めることを推奨する者も、一方、1つのオーバーハングで十分であるとみなす者もいる。その他の著者は、特定の修飾パターンを有する平滑末端構造の使用を記載している(EP1527176、WO2005062937、WO2008104978、EP2322617、EP2348133、US20130130377、及びその他の多数)。
【0037】
オーバーハングは、1つ~5つの間のヌクレオチドで構成することができ、典型的には、オーバーハングは、ジヌクレオチドで構成される。当分野で使用されている古典的な分子は、19個のヌクレオチドの二本鎖分子を含み、デオキシヌクレオチドを好ましくは含む、3'ジヌクレオチドのオーバーハングを更に含み、このことは、Tuschlによる最初の研究(WO0244321)で教示されている。これらのオーバーハングは、ヌクレアーゼ(リボヌクレアーゼ)による分解に対する抵抗性を更に増強するといわれている。その後、Kimら、2005年は、(ジヌクレオチドのオーバーハングを含有する)21塩基長の生成物が、RISC上に取り込まれるのに必要であることを記載している。更に、Bramsenら、2009年は、サイレンシングの効率を更に増加させるために、不安定化をもたらす可能性がある修飾をオーバーハングに導入することについて記載している。
【0038】
したがって、本発明の多様な態様の好ましい実施形態は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNA分子であって、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖中に少なくとも1つのオーバーハング、好ましくは、3'のオーバーハングを含むsiRNA分子を指す。より好ましくは、前記siRNA分子は、配列番号1を標的にする。本発明が、配列番号1~配列番号9から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNA分子に関する場合、siRNAは、標的と同等の長さを有し、標的に相補的なアンチセンス鎖、及びアンチセンス鎖と同等の長さを有し、アンチセンス鎖に相補的なセンス鎖を含む。アンチセンス鎖及びセンス鎖は、他方の鎖にも標的にも相補的でなく、かつ/又はsiRNAの二本鎖の部分として対形成を行わない追加の塩基を更に含むことができる。例えば、配列番号1は、19個のヌクレオチドの配列であり、このsiRNAは、19bpの二本鎖領域、及び追加のジヌクレオチドのオーバーハングを含むことができ、この19bpの二本鎖の部分に関しては、配列同一性を示す。
【0039】
本発明の多様な態様の好ましい実施形態は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNA分子であって、二本鎖siRNA分子のそれぞれの鎖が、約18ヌクレオチド長~約28ヌクレオチド長以上(例えば、約18、19、20、21、22、23、24、25、26、27又は28ヌクレオチド長以上)である、siRNA分子を指す。
【0040】
本発明の多様な態様の別の好ましい実施形態は、配列番号10~配列番号18からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、18ヌクレオチド長~28ヌクレオチド長以上のsiRNA分子を指す。より好ましくは、二本鎖siRNA分子は、少なくとも19ヌクレオチド長であり、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される。
【0041】
本発明の多様な態様の別の代替の実施形態は、平滑末端を有する分子を提供する。
【0042】
更に、本発明の好ましい実施形態は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にする、19個のヌクレオチドの二本鎖構造を含むか又は19個のヌクレオチドの二本鎖構造からなるsiRNAにも関する。より好ましくは、siRNAは、19個のヌクレオチドの二本鎖構造を含むか、又は19個のヌクレオチドの二本鎖構造からなり、この二本鎖構造は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にし、更により好ましくは、配列番号1を標的にする。
【0043】
本発明の特定の実施形態は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とする、19個のヌクレオチドの、平滑末端を有する二本鎖siRNAに関する。より好ましくは、siRNAは、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とし、更により好ましくは、siRNAは、配列番号1を標的とする。さらなる特定の実施形態では、この化合物は、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる。さらなる好ましい実施形態では、このsiRNAのアンチセンス鎖は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列に少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%相補的である。
【0044】
好ましい実施形態では、この化合物は、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる。
【0045】
別の好ましい実施形態では、この化合物は、センス鎖とセンス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖とセンス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、センス鎖が、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる。
【0046】
より好ましい実施形態では、この化合物は、SYL136001と名付けた我々の基準化合物に対応する、配列番号10を含むか、又は配列番号10からなる(センス鎖:5'-CACCAGGACAUCGUGCUCU-3'、及びアンチセンス鎖:5'-AGAGCACGAUGUCCUGGUG-3')。
【0047】
更に、本発明の背景技術と呼ぶセクションに記載したように、siRNA分子に関する重要な課題は、リボヌクレアーゼの偏在性に起因する、生物学的液体中でのそれらの不安定性である。その結果、ヌクレオチドに対する、多くの異なる化学的修飾の使用が、化合物の安定性を増強する目的で記載されている。
【0048】
siRNA分子の別の内在する問題は、それらの免疫原性であり、それによって、siRNAが、特定のサイトカインの上方制御、例えば、I型及び/又はII型のインターフェロン並びにIL-12、IL-6及び/又はTNF-アルファの生成を含めた、自然免疫系の非特異的な活性化を誘発することが見出されている。これらの作用の起源は、トール様受容体、例として、TLR7、TLR8及び/又はTLR3のsiRNAによる活性化であると考えられている。
【0049】
また、これらの作用、すなわち、リボヌクレアーゼによる認識、及び免疫原性の両方が、配列依存性であることも記載されている。
【0050】
また、化合物の安定性を、リボヌクレアーゼに対する感受性を減少させることによって増強する化学的修飾の中には、免疫認識の誘発を低下させ、その結果、その後の免疫応答を低下させることも可能であるものがある。しかしまた、siRNA中への化学的に修飾されたヌクレオチドの挿入により、前のセクションで記載したように、サイレンシングの効能の減少が生じる恐れもあり、したがって、こうした挿入には、慎重にアプローチなければならない。
【0051】
その結果、本発明の多様な態様の好ましい実施形態では、siRNAは、化学的修飾を有する少なくとも1つのヌクレオチドを更に含む。
【0052】
安定性を増強し、免疫原性作用を低下させる好ましい化学的修飾は、2'-O-メチルヌクレオチド、2'-フルオロヌクレオチド、2'-アミノヌクレオチド、2'-デオキシヌクレオチド、又は2'-O若しくは4'-Cのメチレン架橋を含有するヌクレオチドを含む。エキソヌクレアーゼから保護するためのその他の好ましい化学的修飾は、ExoEndoLightパターンの修飾(EEL)、すなわち、センス鎖中の全てのピリミジンの2'-O-メチル残基への修飾、及びアンチセンス鎖中の5'-UA-3'又は5'-CA-3'のモチーフ中にある全てのピリミジンの2'-O-メチル残基への修飾を含む。更にまた、センス鎖の1位を2'-O-メチルに変化させて、センス鎖の5'-リン酸化を阻止し、したがって、siRNAの鎖特異性を増加させることもできる。更にまた、センス鎖は、14位において2'-O-メチル修飾を含むこともでき、その理由は、この位置にある2'-O-Me残基は、センス鎖を不活性化し、したがって、siRNAの鎖特異性を増加させるからである。更に、ヌクレアーゼから保護するためのその他の好ましい化学的修飾は、2'-フルオロ及び2'-O-メチル修飾を、センス鎖(5'末端)上では2'-Fから開始し、アンチセンス鎖上では2'-O-Meから開始して交互にもたらす、メチル-フルオロ修飾パターン(MEF)も含む。更にまた、センス鎖の1位を2'-O-Meに、かつアンチセンス鎖の1位を2'-Fに変化させることもできる(その理由は、2'F残基は、5'-リン酸化に適し、一方、2'O-Me残基は、かさ高く、一般にリン酸化を損なうからである)。この修飾パターンは、分子を安定化させるのみならず、また、RISCがセンス鎖を使用するのを不可能にし、したがって、鎖特異性も促す。また、ホスホロチオエート結合をリン酸ジエステル連結の代わりに使用することによりヌクレオチドを結合させることによって、リボヌクレオチド骨格の修飾を実施することもできる。本発明での意味の範囲内において、さらなる好ましい化学的修飾は、4'チオリボース、5-プロピニルウラシル、3',5'-メチルウリジン;又はウラシルリボヌクレオチドのデオキシチミジン(デオキシリボヌクレオチド)による置換に関する。本発明の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの化学的に修飾したヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチド骨格中の少なくとも1つの化学的修飾が、siRNAのセンス鎖上、アンチセンス鎖上又は両方の鎖上にある。
【0053】
したがって、一実施形態では、siRNAは、配列番号19~配列番号66からなる群から選択される、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖を有する少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号19~配列番号66からなる群から選択されるセンス鎖及び/又はアンチセンス鎖を有する少なくとも1つの配列からなる。
【0054】
好ましい実施形態では、siRNAは、センス鎖とセンス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖とセンス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、センス鎖が、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63及び配列番号65からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又はそうした配列からなり、アンチセンス鎖がそれぞれ、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、配列番号64及び配列番号66からなる群から選択される。
【0055】
上記の記載に従うsiRNA分子を、細胞の内側に、それらのネイティブの構造で、当技術分野で公知の方法を使用して送達することができる。例えば、遺伝子サイレンシングをin vitroで試験する場合は、これらの化合物を、標準的なトランスフェクション試薬を使用して投与する。また、効果をin vivoで達成するためには、これらの化合物は、その化合物のみで投与するか、又は送達増強剤、例えば、リポソーム等を使用して;特定の部分とのコンジュゲーション等を使用して投与することもできるが、多くの異なる選択肢が、当技術分野で公知であり、それらを、体内の所望の標的部位に応じて様々に使用する。
【0056】
あるいは、本発明の多様な態様のsiRNA分子を、細胞内で真核生物のプロモーターから発現させることもできる。siRNA分子を発現させることが可能な組換えベクターを、標的細胞中に送達し、そこで持続させることができる。あるいは、核酸分子の一過性の発現をもたらすベクターを使用することもできる。そのようなベクターは、必要に応じて、繰り返して投与することができる。siRNA分子は、発現すると、標的のmRNAと相互作用し、RNA干渉応答をもたらす。この様式で生成されるsiRNA分子はしばしば、shRNA(低分子ヘアピン型RNA)と呼ばれ、その理由は、それらのセンス鎖とアンチセンス鎖とが、ヌクレオチドの小型のループにより合体しているからである。siRNA分子を発現させるベクターの送達は、全身性であり得、例として、静脈内若しくは筋肉内への投与、対象から外植した標的細胞に投与し、続いて、対象内に再導入すること、又は所望の標的細胞中への導入を可能にするであろう任意のその他の手段により行われる。
【0057】
本発明のさらなる態様は、NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療方法において使用するための医薬の調製における、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNAの使用に関する。より好ましくは、前記配列は、配列番号1である。この方法は、患者においてNRARPの発現を阻害する工程を含む。阻害という用語を使用して、発現又は活性の減少又は下方制御を指し示す。好ましくは、眼の状態は、新血管形成に関連する疾患又は障害である。一実施形態では、眼の状態は、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性脈絡膜新血管形成(これはまた、一般に、網膜下新血管形成、フックス斑又はフォルスター-フックスの網膜斑(Forster-Fuchs' retinal spot)、及び病的な近視における円板状変性とも呼ばれる)、並びに未熟児網膜症(ROP)、更に、それらの組合せを含む群から選択される。
【0058】
また、NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態の治療方法も提供する。この方法は、患者においてNRARPの発現を阻害する工程を含む。この方法は、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNAを投与する工程を含むことができる。より好ましくは、前記配列は、配列番号1である。
【0059】
NRARPのmRNAを対象とするsiRNAを用いる治療処置は、従来の抗血管新生治療剤に比して有益であることが予測され、この有益性は、その特異性、安定性、効力、自然の作用機構、及び同じ又は異なる遺伝子標的を標的にするその他のsiRNA剤と、それらがヌクレオチド配列においてのみ異なるに過ぎないことから、同じような化学的性質を有することに起因する。siRNAに基づく治療により、標的タンパク質の合成が遮断され、このことにより、NRARP遺伝子の発現の低下の持続、及びより長く続く効果が引き起こされ、こうして、硝子体内注射に続いて起こる結果を回避することができる。このことは、これらに限定されないが、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)を含む新血管形成に関連する疾患又は障害等の症例において、とりわけ重要であり、その理由は、そうした症例はしばしば慢性状態であり、それらの治療において、多数の硝子体内注射を必要とするからである。眼内注射を繰り返すと、有害な副作用のリスクが増加し、それらの副作用としては、とりわけ、眼内部の圧力の増加、炎症、出血、感染、網膜又は周囲の神経若しくは構造に対する傷害、視力喪失のみならず、また、医学的手順において使用される医療処置に由来する副作用、例として、抗生物質又は瞳孔を広げるための薬物の使用に由来する副作用も挙げられる。加えて、siRNAを遺伝子工学的に作製して、野生型の対立遺伝子とは、わずか単一ヌクレオチドだけ異なる、遺伝子の突然変異状態の対立遺伝子の発現のサイレンシングを行うこともできる。したがって、siRNAに基づく治療は、野生型タンパク質の発現は継続させながら、疾患の突然変異状態の対立遺伝子を選択的に不活性化することによって、点突然変異を有する遺伝子の発現を好都合に調節して、疾患を遅らせ、又は予防さえ行うことができる。
【0060】
そのような医薬を調製することを踏まえて、本発明の多様な態様のsiRNAを、医薬組成物として製剤化することができる。好ましくは、前記siRNAの組成物及び製剤を、目的の臓器に外用投与することができる。更により好ましい実施形態では、眼、好ましくは、眼の角膜表面に外用投与するために、それらを製剤化することができる。角膜表面への適用は、例えば、点眼剤、ジェル剤、ローション剤、クリーム剤又は眼への挿入体の形態をとることができる。眼へのその他の投与剤型は、眼内への注射剤を含むことができる。
【0061】
本発明の多様な態様のさらなる好ましい実施形態は、NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態を治療するための医薬として使用するための、先行する段落の記載に従う、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にするsiRNAに関する。より好ましくは、前記配列は、配列番号1である。上記に記載したように、siRNAは、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にする、19個のヌクレオチドの二本鎖構造を含むか、又は配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にする、19個のヌクレオチドの二本鎖構造からなるsiRNAであり得る。このsiRNAは、平滑末端を有し得る。好ましくは、siRNAが、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる。
【0062】
本発明に従って使用するためのその他のsiRNAは、配列番号19~配列番号66からなる群から選択される、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖を有する少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号19~配列番号66からなる群から選択される、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖を有する少なくとも1つの配列からなる。
【0063】
本発明に関する範囲内においては、配列を「特異的に標的にする」ため、本発明のsiRNAは、好ましくは、同じシード配列を少なくとも含む。したがって、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にする、本発明に従う配列はいずれも、好ましくは、アンチセンス鎖の2位~8位において同一である。より好ましくは、特異的に標的にする前記選択される配列は、配列番号1である。
【0064】
上記にもかかわらず、本発明の多様な態様のsiRNAを使用して、眼以外の組織において、NRARPの発現のサイレンシングを行うことができる。したがって、前記siRNAは、相応に製剤化すべきである。
【0065】
例えば、siRNA分子は、対象に投与するために、リポソームを含めた、送達ビヒクルを含むことができる。担体及び希釈剤並びにそれらの塩が、薬学的に許容できる製剤中に存在し得る。当業者に公知の多様な方法により、核酸分子を細胞に投与することができ、それらの方法として、これらに限定されないが、リポソーム中への封入;イオン泳動による方法;又はその他のビヒクル、例として、生分解性ポリマー、ヒドロゲル、シクロデキストリン、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)及びPLCAマイクロスフェア、生分解性ナノカプセル、並びに生体接着性マイクロスフェア内への組込みによる方法;又はタンパク質性のベクターよる方法が挙げられる。また、細胞内送達構成成分は、これらに限定されないが、エンドソームを破壊して、核酸がリソソームによる分解を回避するのを可能にするための膜融合性のウイルスペプチド;発現を維持するためのウイルスタンパク質(例えば、インテグラーゼ、LTRエレメント、repタンパク質、oriP及びEBNA-1タンパク質)を含む、ウイルス構成成分であり得、又は細胞表面タンパク質と相互作用するウイルス構成成分であり得る。適切なウイルス性細胞内送達構成成分として、これらに限定されないが、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、及び好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)が挙げられる。一実施形態では、ウイルスの構成成分とリポソームと組み合わせた、細胞に特異的なsiRNA担体により、siRNA分子を送達する。別の実施形態では、また、ポリエチレンイミン、及びその誘導体、例として、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)誘導体又はポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体を用いて、本発明の核酸分子を製剤化するか、又はポリエチレンイミン及びその誘導体との、本発明の核酸分子の複合体を形成することもできる。本発明の好ましい組成物は、水溶液、とりわけ、生理食塩水の水溶液、例として、約7.0~約7.4のpH範囲、好ましくは、7.2±0.5のpHを有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0066】
本発明のsiRNA分子は、膜破壊剤及び/又はカチオン性脂質分子若しくはヘルパー脂質分子と複合体を形成することができる。
【0067】
本発明に関して使用することができる送達系として、例えば、水性及び非水性のジェル剤、クリーム剤、多層乳剤、マイクロエマルジョン、リポソーム、軟膏剤、水性及び非水性の液剤、ローション剤、エアロゾル剤、炭化水素基剤、並びに散剤が挙げられ、これらの系は、賦形剤、例として、可溶化剤、浸透増強剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール及びアミノ酸)、並びに親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィル及びポリビニルピロリドン)を含有することができる。一実施形態では、薬学的に許容できる担体は、リポソーム又は経皮増強剤である。
【0068】
本発明の医薬製剤は、細胞、又は例えば、ヒトを含めた、対象への投与、例えば、全身投与又は局所投与に適切な剤型をとる。適切な剤型は一つには、使用、又は進入経路、例えば、口からの、皮膚からの若しくは注射による経路に依存する。その他の要因が当技術分野で公知であり、検討される要因の例として、毒性、及び組成物又は製剤がその作用を発揮するのを阻止する剤型が含まれる。
【0069】
本発明はまた、保存又は投与するために調製された組成物であって、薬学的有効量の所望の化合物を薬学的に許容できる担体又は希釈剤中に含む組成物も含む。治療に使用するのに許容できる担体又は希釈剤が、製剤技術において周知である。例えば、保存剤、安定化剤、染料及び香味剤を加えることができる。これらは、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルを含む。更に、抗酸化剤及び懸濁化剤も使用することができる。
【0070】
薬学的に有効な用量は、病的な状態の発生を予防するか、病的な状態の発生を阻害するか、又は病的な状態を治療する(症状をある程度まで、好ましくは、症状を全て軽減する)のに必要な用量である。薬学的に有効な用量は一般に、疾患の種類、使用する組成物、投与経路、治療を受ける哺乳動物の種類、検討中の特定の哺乳動物の身体的な特徴、併用医薬品、及び医療技術における当業者であれば認識するであろう、その他の要因に依存する。
【0071】
治療有効量はまた、新血管形成と関連がある、眼、好ましくは、脈絡膜又は網膜の障害の発生を遅延させるか又は最小限に留めるのに十分なsiRNAの量を指すこともできる。治療有効量はまた、新血管形成と関連がある、眼、好ましくは、脈絡膜又は網膜の障害の治療又は管理において、治療の利益をもたらす治療剤の量を指すこともできる。更に、本発明のsiRNAに関する治療有効量は、新血管形成と関連がある、眼、好ましくは、脈絡膜又は網膜の障害の治療又は管理において、治療の利益をもたらす、治療剤の単独の又はその他の療法と組み合わせた量も意味する。本発明のsiRNAの量に関連して使用する、この用語は、全体的な療法を改善する量、望まれない作用を低下させるか若しくは回避する量、又は別の治療剤を併用する治療の効能を増強するか若しくは別の治療剤とのシナジーをもたらす量を網羅することができる。
【0072】
新血管形成に関連する眼の障害の治療又は管理における治療の利益は、新血管形成の減少の持続である。siRNAが細胞内部のNRARPレベルを減少させることを考慮すると、治療が停止された際には、細胞は新しいタンパク質を再合成しなければならない。したがって、siRNA処置に基づく療法は、NRARPを阻害するように又は新血管形成と関連があるVEGF受容体若しくは別のタンパク質の機能を遮断するように設計された低分子を使用する場合に予測されるであろう作用よりも持続性の作用を示す。このことは、治療の効能の顕著な増強であるとみなされる。
【0073】
siRNAを使用する追加の利益は、点眼剤に基づくいくつかの治療としばしば関連がある、全身循環中のその存在に由来する副作用又は毒性が生じる確率が最小限に留まることである。このことは、化合物が、血流に進入すると、血中に存在するリボヌクレアーゼにより迅速に分解されるという事実に起因する。
【0074】
他方、siRNA分子を単回用量のバイアルとして市販することができるという事実は、抗菌保存剤の製剤への添加を回避することができることを意味する。一部の患者において、これらの保存剤に対する不耐が生じて、治療の停止が必要になる恐れがある。
【0075】
好ましい投与経路の1つが外用であり、これは、直接眼に点眼することによって、好ましくは、点眼剤を使用して行われる。網膜疾患の治療について現時点で承認されている薬物の圧倒的多数が、硝子体内注射により送達されることを考慮すると、患者の生活の質もまた改善されることが予測され、その理由は、点眼剤は、軽微な不快感しか引き起こさず、硝子体内注射よりも少ない副作用を示すからである。
【0076】
しかし、上記で説明したように、眼に直接投与する経路以外の投与経路もまた使用することができる。製剤について利用しようとする正確な投与量及び投与スケジュールもまた、投与経路に依存するであろう。また、利用しようとする正確な投与量及び投与スケジュールは、障害の重大性にも依存し、治療担当医の判断及びそれぞれの患者の状況に従って決められるべきであることを当業者であれば理解するであろう。また、任意の特定の対象に特有の用量レベルは、利用する特有の化合物の活性、年齢、体重、全身健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路及び排泄速度、薬物の組合せ、並びに療法を受ける特定の疾患の重症度を含めた、多様な要因に依存することも理解される。
【0077】
本明細書に記載する本発明の製剤又はsiRNAは、従来の無毒性の薬学的に許容できる担体、アジュバント及び/又はビヒクルを含有する単位投与量製剤として投与することができる。製剤は、経口使用に適切な剤型をとることができ、例えば、錠剤、トローチ剤、ドロップ剤、水性若しくは油性の懸濁剤、分散性の散剤若しくは顆粒剤、乳剤、硬質若しくは軟質のカプセル剤、又はシロップ剤若しくはエリキシル剤である。経口使用を意図する組成物は、医薬組成物を製造するための、当技術分野で公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、薬学的に洗練され、風味良好な調製物を提供するために、当該の甘味剤、香味剤、着色剤又は保存剤を1つ又は複数含有することができる。錠剤は、活性成分を、錠剤の製造に適切である無毒性の薬学的に許容できる賦形剤との混合物中に含有する。
【0078】
これらの賦形剤は、例えば、不活性な希釈剤、例として、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウム;顆粒化剤及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ又はアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン又はアカシア;及び滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであり得る。錠剤は、コーティングしなくてもよく、又は公知の技法によりコーティングしてもよい。場合によっては、そのようなコーティングを公知の技法により調製して、胃腸管における崩壊及び吸収を遅延させ、それにより、より長い期間にわたる作用の持続をもたらすこともできる。例えば、時間を遅延させる材料、例として、グリセリルモノステアレート又はグリセリルジステアレートを利用することができる。
【0079】
経口使用のための製剤はまた、硬質ゼラチンカプセル剤として提示することもでき、この場合、活性成分を、不活性の固体の希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合し、或いは軟質ゼラチンカプセル剤として提示することもでき、この場合、活性成分を、水、又は油性の媒体、例えば、落花生油、流動パラフィン若しくはオリーブ油と混合する。
【0080】
水性懸濁剤は、混合物中に、活性な材料を、水性懸濁剤を製造するのに適切な賦形剤と共に含有する。そのような賦形剤は、懸濁化剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピル-メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ガムトラガント及びガムアカシアであり、分散剤若しくは湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えば、レシチン、又はアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンステアレート、若しくはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、若しくはエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、例として、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、若しくはエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートであり得る。水性懸濁剤はまた、1つ又は複数の保存剤、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、1つ又は複数の着色剤、1つ又は複数の香味剤、及び1つ又は複数の甘味剤、例として、スクロース又はサッカリンも含有することができる。
【0081】
活性成分を、植物油、例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油若しくはヤシ油、又は鉱油、例として、流動パラフィン中に懸濁させることによって、油性懸濁剤を製剤化することができる。油性懸濁剤は、増粘剤、例えば、ミツロウ、固形パラフィン又はセチルアルコールを含有することができる。風味良好な経口調製物を提供するためには、甘味剤及び香味剤を添加することができる。抗酸化剤、例として、アスコルビン酸を添加することによって、これらの組成物を保存することができる。
【0082】
水性懸濁剤を調製するのに適切な分散性の散剤及び顆粒剤は、水を添加することによって、分散剤又は湿潤剤、懸濁化剤及び1つ又は複数の保存剤との混合物中に活性成分をもたらす。適切な分散剤若しくは湿潤剤又は懸濁化剤は、例えば、上記ですでに言及したものである。また、追加の賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤及び着色剤も存在し得る。
【0083】
また、本発明の医薬組成物は、水中油型乳剤の剤型をとることもできる。油相は、植物油若しくは鉱油、又はこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤は、天然に存在するガム、例えば、ガムアカシア又はガムトラガント、天然に存在するホスファチド、例えば、大豆レシチン、並びに脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来するエステル又は部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、及び前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであり得る。乳剤はまた、甘味剤及び香味剤も含有することができる。
【0084】
シロップ剤及びエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、グルコース又はスクロースと共に製剤化することができる。そのような製剤はまた、粘滑剤、保存剤、並びに香味剤及び着色剤も含有することができる。本明細書に記載する本発明の医薬組成物又はsiRNAは、無菌、注射用の水性又は油質の懸濁剤の剤型をとることができる。
【0085】
この懸濁剤は、公知の技術に従って、上記で言及している適切な分散剤若しくは湿潤剤及び懸濁化剤を使用して製剤化することができる。
【0086】
また、無菌の注射用調製物は、無毒性の、非経口投与に許容できる希釈剤又は溶媒、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液としての、無菌、注射用の液剤又は懸濁剤であってもよい。利用することができる、許容できるビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌の固定油も、溶媒又は懸濁化媒体として従来から利用されている。この目的で、合成のモノ-又はジグリセリドを含めた、任意の無刺激性の固定油を利用することができる。更に、脂肪酸、例として、オレイン酸も、注射剤の調製において有用である。
【0087】
好ましい実施形態では、本発明の組成物を、溶液、好ましくは、緩衝生理食塩水溶液、例として、PBSとしてか、又は眼への外用投与のためのゲル、例えば、点眼剤の剤型等として製剤化する。そのような実施形態では、製剤は、カチオン性乳剤であり得、かつ/又はこれらに限定されないが、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、カーボポール、ヒアルロン酸及びポリアクリル酸を含めた、バイオポリマーを含有することができる。
【0088】
本発明の核酸分子はまた、例えば、薬物の直腸投与のために、坐剤の剤型で投与することもできる。薬物と、通常の温度では固体であるが、直腸の温度で液体になり、したがって、直腸中で融解して、薬物を放出する、適切な非刺激性の賦形剤とを混合することによって、これらの組成物を調製することができる。そのような材料には、カカオバター及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0089】
本発明の核酸分子は、無菌の媒体中で非経口投与することができる。薬物は、使用するビヒクル及び濃度に応じて、ビヒクル中に懸濁させてもよく又は溶解させてもよい。好都合なことに、アジュバント、例として、局所麻酔剤、保存剤及び緩衝剤を、ビヒクル中に溶解させることができる。
【0090】
したがって、本発明のさらなる好ましい実施形態は、医薬組成物であって、先行する段落に記載してきたように、配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的にするsiRNAを少なくとも含む医薬組成物に関する。より好ましくは、前記配列は、配列番号1である。
【0091】
また、本発明の核酸分子は、全体的な治療効果を増加させるために、その他の治療用化合物と組み合わせて対象に投与することもできる。ある適応症を治療するための複数の化合物の使用により、副作用の存在を低下させながら、有益な作用を増加させることができる。
【0092】
以下の定義を、本発明の理解を容易にするために含める。
【0093】
「治療する」とは、医学的に対処することを、出願人らは意味する。この用語は、網膜疾患の症状、例として、黄斑変性に伴う視力(visual acuity)の減少を軽減するため、及び疾患と関連がある生理学的変化、例として、その状態に伴う血管の異常な成長に対処するために、本発明の化合物を投与することを含む。
【0094】
用語「網膜疾患」は、複数かつ異形の病因に起因して、網膜に影響を及ぼす任意の疾患を意味する。
【0095】
用語「血管形成」は、赤血球が分散した機能性の微小血管網の形成のプロセスを指す。
【0096】
用語「血管新生」は、既存の血管からの毛細血管芽(capillary bud)及び血管芽(sprout)の突出及び伸長を指す。
【0097】
用語「網膜新血管形成(RNV)」は、網膜において新しい血管が出芽することを指す。
【0098】
用語「脈絡膜新血管形成(CNV)」は、脈絡膜血管構造から新しい血管が出芽することを指す。
【0099】
用語「新血管形成に関連する疾患又は障害」は、上記で言及した病的な新しい血管を発生させる任意の疾患又は障害に関する。そのような疾患又は障害として、とりわけ、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成、網膜中心静脈閉塞(CRVO)及び未熟児網膜症(ROP)を挙げることができるが、それらに限定されない。新血管形成に関連する、その他の眼の疾患又は障害として、例えば、虹彩血管新生(iris neovascularization、Rubeosis iridis)及び角膜血管新生(corneal neovascularization)(CN)が挙げられる。虹彩血管新生はしばしば、糖尿病、網膜芽細胞腫、網膜中心静脈閉塞、眼の虚血性症候群又は慢性網膜剥離と関連がある。角膜血管新生(corneal neovascularization)はしばしば、コンタクトレンズの装用により引き起こされるが、また、外傷又は損傷の結果としての炎症、並びに眼瞼炎、ブドウ膜炎又は角膜炎、角膜潰瘍、緑内障、及び酒さ又は狼瘡のような、その他の眼表面疾患に由来する炎症とも関連がある。
【0100】
黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD)とも呼ばれ、米国では50歳以上のヒトにおける視力喪失の最も一般的な原因であり、その有病率は、年齢と共に増加する。AMDの根底にある原因は、網膜色素上皮(RPE)中の網膜光受容器の外側部分の再生プロセスにより生成された残留物の蓄積であるようである。RPE中の、ドルーゼンとして公知のこの未分解物が蓄積すると、網膜の中心又は黄斑において光受容器の変性を引き起こす炎症性メディエーターが生成する(Bird AC、2010年)。黄斑の中心は、中心窩と名付けられ、高視力(high acuity vision)を媒介し、したがって、その変性は、重度の視力喪失を引き起こす。疾患の早期には、ドルーゼンの蓄積は、少量であり、しばしばRPEの色素沈着低下又は色素沈着過剰を伴って観察される。疾患が進行するにつれて、ドルーゼンのサイズ及び量の両方が増加する。AMDは、ウエット型(血管新生性)又はドライ型(非血管新生性)のいずれかに分類される。ドライ型の形態の疾患が、最も一般的である。ドライ型は、網膜の中心が、歪むようになるか、色素を有するようになるか、又は最も一般的には、薄くなると生じ、このプロセスは、網膜色素上皮の萎縮及び黄斑の光受容器の喪失と関連がある。この結果は、地理的な中心の萎縮である。ウエット型の形態の疾患は、ドライ型の形態よりも重症であり、重度の視力喪失に至る。ウエット型の形態は通常加齢と関連があるが、ウエット型の黄斑変性を引き起こす可能性があるその他の疾患には、重度の近視、及び一部の眼内感染、例として、AIDSを有する個体においては増悪する恐れがあるヒストプラスマ症が含まれる。ウエット型の形態は、網膜色素上皮を介して異常な血管が成長し、その結果、出血、浸出、瘢痕化又は網膜剥離生じることを特徴とする。
【0101】
虚血性網膜症は、CNV及びRNVの両方の病変形成に共通する構成成分である。虚血により、細胞の低酸素が生じ、このことにより、細胞のシグナル伝達経路が活性化されて、血管新生刺激物質、例として、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が上方制御される。VEGFは、強力な血管新生促進活性を有する分泌糖タンパク質である。VEGFは、内皮細胞上のVEGF受容体(VEGFR)に結合して、細胞の増殖及び遊走を刺激する。多数の研究から、VEGFは、CNV及びRNVの病変形成の間に上方制御されること、並びにVEGFは、CNV及びRNVの病変形成の主要なメディエーターであることが示されている。
【0102】
糖尿病性網膜症(DR)が依然として、先進国の労働年齢の人々における失明の主要な原因である。増殖性糖尿病性網膜症(PDR)が、1型糖尿病における視力を脅かす(sight-threatening)最も一般的な病変であり、一方、糖尿病性黄斑浮腫(DME)が、2型糖尿病における不十分な視力(visual acuity)の主要な原因である。2型糖尿病の高い有病率に起因して、DMEは、糖尿病性患者における視覚機能障害の主要な原因である。大きな集団に基づく研究では、10年の期間にわたるDMEの発生率は、1型糖尿病を有する患者においては20%であり、一方、この率は、2型糖尿病を有する患者においてはほとんど40%であった。更に、2型糖尿病患者においてPDRが検出される場合には、DMEがほとんど必ず存在する。重度の低酸素に起因する新血管形成が、PDRの顕著な特徴であり、一方、BRBの機能停止に起因する血管漏出が、DMEの病変形成に関与する主要な事象である。
【0103】
早産児が、網膜発生の血管新生のフェーズが完了する前に、相対的な高酸素に曝露されると、未熟児網膜症(ROP)が発症する。網膜発生の血管新生のフェーズは通例、子宮中の低酸素により推進されるので、このことは問題になる。したがって、ROPにおいては、網膜における血管新生についての正常な発生が撹乱されて、血管の喪失(vaso-obliteration)が生じ、概して無血管性の網膜が形成されるに至る。適切な血液の供給がないと、無血管性の網膜は虚血性になり、このことにより、破壊性のRNVが促進され、網膜剥離及び瘢痕組織の形成に至り、その結果、恒久的な視力喪失が生じる恐れがある。
【0104】
用語「患者」は、本明細書で使用する場合、哺乳動物、好ましくは、ヒトを含めた、動物を指す。
【0105】
本発明を、以下の非限定的な実施例において更に記載する。
【実施例0106】
1 in vitroでの分析
1.1 配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のトランスフェクションの後のNRARPの遺伝子発現レベル
以下の配列、すなわち、配列番号10(SYL136001)、配列番号11(SYL136005)、配列番号12(SYL136003)及び配列番号13(SYL136004)のうちの1つからなるセンス鎖と、併せて、相補的なアンチセンス鎖とからなる19bpの平滑末端dsRNAのうちの1つの100nMを、トランスフェクト剤としてLipofectamine 2000を用いて、ヒトHeLa細胞にトランスフェクトした。各配列番号の後のSYL参照番号は、参照するdsRNA化合物を指す。これらの実施例全体を通して(そうでないことが文脈から明らかでない限り)、特定の配列番号の投与又はトランスフェクションに言及する場合、このことは、図2及び図3に示すその配列番号からなるセンス鎖と相補的なアンチセンス鎖とからなる19bpのdsRNAを投与又はトランスフェクトしたことを示すことに留意されたい。トランスフェクションは全て、製造元の標準的な使用説明に従って実施した。同じ実験において、siRNAのスクランブル配列を、干渉の特異性の対照として使用した。細胞ペレットを収集し、処理して、siRNAの作用機構の結果としてのmRNAレベルの変動の可能性を評価した。RNAのレベルを、リアルタイムPCRにより、相対定量法、すなわち、比較の閾値を2-ΔΔCTとする方法を使用して定量化した。{Livak及びSchmittgen、2001年}。リアルタイム定量的PCRの実験は全て、三つ組で実施し、3回の独立した実験において繰り返した。平均及びSEMを計算し、図に示した。図4に示すように、NRARPのmRNAレベルが、ヒトHeLa細胞中で、研究した3つの時点において、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のトランスフェクションに応答して顕著に(50~60%)減少した。予想通り、siRNAのスクランブル配列は、研究した時点のいずれにおいても、NRARPの発現レベルを調節しなかった。
【0107】
1.2 本発明のsiRNAを用いるトランスフェクションの後のヒト細胞株の細胞生存率
本発明のsiRNAのトランスフェクションの後の細胞生存率を分析するために、ヒトHeLa細胞中で、トランスフェクト剤としてLipofectamine 2000を用いて、以下の配列、すなわち、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のうちの1つの100nMのトランスフェクションを行った後に、in vitroでの毒性を研究した。トランスフェクションは全て、製造元の標準的な使用説明に従って実施した。同じ実験において、siRNAのスクランブル配列を、干渉の特異性の対照として使用した。細胞ペレットを、トランスフェクションの24、48及び72時間後に収集し、処理して、細胞生存率の変動の可能性を評価した。Promega社製のCellTiter 96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferationアッセイを使用して、細胞生存率を測定した。この方法は、生きている細胞の、MTSテトラゾリウムをホルマザンに還元する能力に基づく。ホルマザンの量を、490nmにおける光吸収を測定することによって定量化する。平均及びSEMを計算し、図5にプロットした。図5は、以下の配列、すなわち、配列番号10、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のうちのいずれについても、そのトランスフェクションに応答する細胞生存率の変化はなかったことを示している。要約すると、本発明のsiRNAは、無毒性であることが見出され、十分に忍容されている。
【0108】
1.3 異なる細胞系における、本発明の未修飾siRNA及び化学的修飾siRNAのトランスフェクションの後のNRARPの発現レベル
本発明のsiRNAの安定性を改善するため、及び免疫原性の活性化を起こさないことを確保するために、種々のsiRNA最適化化学的修飾を、規準配列である配列番号10(SYL136001)に導入し、したがって、以下の化学的に修飾された新しい実体、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39を得た。新しい化学的修飾配列を、ヒト、マウス及びラットの細胞中に個々にトランスフェクトして、NRARPのmRNAレベルを低下させるそれらの能力を分析した。化学的修飾を、図3に詳述する。ヒトHeLa細胞、ヒトBEAS-2B細胞及びマウスC2C12細胞を選択した。その理由は、これらは、NRARPを顕著なレベルで発現する細胞であり、siRNAの、NRARPの発現に対する作用を試験するための良好なモデルとなると考えられるからである。トランスフェクト剤として、Lipofectamine(HeLa細胞)、Mirus Transit-X2(BEAS-2B)、Dharmarfect 3(C2C12)及びsiPORT NeoFX(ARL6)を用いて、以下の配列、すなわち、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のうちの1つの100nMを個々に、細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後の3つの時点(24、48及び72時間)において、遺伝子の発現を分析した。トランスフェクションは全て、製造元の標準的な使用説明に従って実施した。同じ実験において、siRNAのスクランブル配列を、干渉の特異性の対照として使用した。RNAのレベルを、リアルタイムPCRにより、相対定量法、すなわち、比較の閾値を2-ΔΔCTとする方法を使用して定量化した{Livak及びSchmittgen、2001年}。リアルタイム定量的PCRの実験は全て、三つ組で実施し、3回の独立した実験において繰り返した。平均及びSEMを計算し、プロットし、図6図9に示すグラフを得た。図6に、HeLa細胞において得られた結果を示す。この細胞系では、配列番号10(SYL136001)は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後に60%、かつトランスフェクションの48及び72時間後に50%低下させた。化学的に修飾させた配列番号19は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後に60%、かつトランスフェクションの48時間後に40%低下させ;トランスフェクションの72時間後には、基礎レベルが完全に回復した。配列番号23は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24~48時間後に40%、かつトランスフェクションの72時間後に10%低下させた。配列番号25は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24~48時間後に50~60%、かつトランスフェクションの72時間後に20%低下させた。配列番号27は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24~48時間後に30%低下させ、トランスフェクションの72時間後には、基礎レベルが回復した。配列番号29は、NRARPのmRNAレベルを非常に有効に低下させた。およそ80%の低下が、この配列に応答して、トランスフェクションの24~48時間後に観察され、その後、mRNAレベルは増加したが、依然として、トランスフェクションの72時間後でも基礎レベルを40%下回った。配列番号31は、NRARPレベルを有効に低下させ、研究した3つの時点で、基礎レベルと比して60%の低下が観察された。配列番号35は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24~48時間後に60%低下させ、トランスフェクションの72時間後に、mRNAレベルの急激な回復が見出され、したがって、NRARPのmRNAレベルは、基礎レベルを10%下回った。配列番号37は、NRARPのmRNAレベルの最も大きな低下を引き起こす化合物であった。この化合物のトランスフェクションの24、48及び72時間後に、90%、80%及び70%の低下が観察された。配列番号39は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後に70%、かつトランスフェクションの48時間後に50%低下させ、その後、mRNAレベルは急激に増加したが、トランスフェクションの72時間後でも、基礎レベルは完全には回復しなかった。図7に、ヒトBEAS-2B細胞において得られた結果を示す。この細胞系では、配列番号10(SYL136001)及び配列番号19は、NRARPレベルを、トランスフェクションの24時間後に70%低下させ、その後、mRNAレベルは緩慢に増加したが、mRNAレベルは、トランスフェクションの48時間後に基礎レベルを50%下回り、トランスフェクションの72時間後に基礎レベルを40%~50%下回ったものの、依然として、基礎レベルが、NRARPのmRNAレベルに関する研究の時間枠内で完全に回復することはなかった。配列番号23及び配列番号27は、ヒトBEAS-2B細胞において、NRARPのmRNAレベルを若干低下させ、研究した3つの時点で、低下はおよそ20~30%であった。トランスフェクションの72時間後でも、基礎レベルは完全には回復しなかった。配列番号25及び配列番号39は、NRARPのmRNAレベルを徐々かつ時間依存性に低下させ、トランスフェクションの72時間後に、50%~60%の最大の低下に達した。配列番号31及び配列番号35は、NRARPのmRNAレベルを有効に低下させ、mRNAレベルは、研究した3つの時点で、いずれの化合物にも応答して基礎レベルをおよそ60~70%下回った。この細胞系では、配列番号29及び配列番号37が、NRARPのmRNAレベルを低下させるのに最も有効な生成物であり、それぞれが、研究した3つの時点において、およそ80%及び90%の急激なかつ持続性の低下を引き起こした。予想通り、siRNAのスクランブル配列は、研究した時点のいずれにおいても、NRARPの発現レベルを低下させなかった。図8に、マウスC2C12細胞において得られた結果を示す。配列番号10(SYL136001)は、NRARPレベルを、トランスフェクションの24時間後に60%低下させ、その後、mRNAレベルは緩慢に増加した。しかし、トランスフェクションの72時間後に、NRARPのmRNAレベルは基礎レベルを40%下回ったが、依然として、この時点でも基礎レベルは完全には回復しなかった。配列番号19は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後におよそ30%低下させ、トランスフェクションの48時間後に、80%の劇的な低下が見出され、その後、レベルは増加したが、依然として、トランスフェクションの72時間後でも、NRARPのmRNAレベルは基礎レベルを40%も下回った。配列番号23、配列番号25及び配列番号27は、NRARPのmRNAレベルを若干低下させ、これらの配列のそれぞれのトランスフェクションに応答して観察された低下は、研究した3つの時点でおよそ20~40%であった。配列番号29及び配列番号39は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24及び48時間後に有効に低下させ、それぞれのこれらの時点におけるレベルは、基礎レベルを50%及び60%下回った。トランスフェクションの72時間後の両方の配列に対する応答は、先行する時点に比して増加したが、この時点では依然として、基礎レベルは回復しなかった。配列番号31は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後におよそ40%低下させ、トランスフェクションの48時間後に70%の大きな低下が見出され、その後、レベルは増加したが、依然として、トランスフェクションの72時間後でも、NRARPのmRNAレベルは基礎レベルを40%も下回った。この細胞系では、配列番号35及び配列番号37が、NRARPのmRNAレベルの最も大きな低下を引き起こす化合物であり、配列番号35及び配列番号37は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24時間後に60%、かつトランスフェクションの48時間後におよそ80%低下させた。トランスフェクションの72時間後に、基礎レベルの部分的な回復が生じた。C2C12細胞において、ここでも予想通り、siRNAのスクランブル配列は、NRARPのmRNAレベルを、研究した時点のいずれにおいても低下させなかった。図9に、ARL6ラット細胞において得られた結果を示す。配列番号10(SYL136001)は、NRARPのmRNAレベルを、トランスフェクションの24~48時間後に50%、かつトランスフェクションの72時間後に60%低下させた。配列番号37は、NRARPレベルを、トランスフェクションの24時間後に50%、トランスフェクションの48時間後に60%、かつトランスフェクションの72時間後に70%低下させた。
【0109】
1.4 異なる細胞系における、本発明の未修飾siRNA及び化学的修飾siRNAを用いるトランスフェクションの後のヒト細胞株の細胞生存率
本発明のsiRNAのトランスフェクションの後の細胞生存率を分析するために、ヒトHeLa細胞及びヒトBEAS-2B細胞並びにマウスC2C12細胞中でそれぞれ、トランスフェクト剤として、Lipofectamine 2000、Mirus Transit-X2、Dharmafect 3を用いて、以下の配列、すなわち、配列番号10(SYL13600)、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のうちの1つの100nMのトランスフェクションを行った後に、in vitroでの毒性研究を実施した。トランスフェクションは全て、製造元の標準的な使用説明に従って実施した。同じ実験において、siRNAのスクランブル配列を、干渉の特異性の対照として使用した。細胞ペレットを、トランスフェクションの24、48及び72時間後に収集し、処理して、siRNAのトランスフェクションの結果としての細胞生存率の変動の可能性を評価した。Promega社製のCellTiter 96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferationアッセイを使用して、細胞生存率を測定した。この方法は、生きている細胞の、MTSテトラゾリウム化合物をホルマザンに還元する能力に基づき、ホルマザンを、490nmにおける光吸収により測定する。それぞれの実験について、平均及びSEMを計算し、図10図12にプロットした。図10図11及び図12は、使用した細胞系全てにおいて、以下の配列、すなわち、配列番号10(SYL13600)、配列番号19、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号35、配列番号37及び配列番号39のうちのいずれについても、そのトランスフェクションに応答する細胞生存率の変化はなかったことを示している。更に、ARL6ラット細胞においてもまた、以下の配列、すなわち、配列番号10(SYL136001)及び配列番号37のうちの1つに対して、トランスフェクト剤としてsiPORT NeoFXを使用して、トランスフェクションに応答する細胞生存率のレベルを評価した。図13は、ARL6細胞において、試験した配列にいずれについても、それに応答する細胞生存率の顕著な変化はなかったことを示している。したがって、本発明のsiRNAは全て、無毒性であり、十分に忍容されていると結論付けることができる。
【0110】
1.5 HUVEC細胞のin vitroモデルにおける、血管新生に対する本発明のsiRNAの効能
血管新生に対する本発明のsiRNAの作用を研究するために、HUVEC細胞を用いて実験し、これらの細胞中のNRARPの発現を分析した。
【0111】
特に、これら一連の研究の目的は、HUVEC細胞のin vitroモデルにおいて、NRARPの修飾siRNA、すなわち、配列番号37の抗血管形成作用を研究することであった(このsiRNAは、配列番号37の配列からなるセンス鎖と配列番号38の配列からなる相補的なアンチセンス鎖とを有する、化学的に修飾された19bpの平滑末端dsRNAである)。
【0112】
1.5.1 緒言
血管新生は、既存の静脈からの新しい静脈の形成である。このプロセスは、発生の過程及びいくつかその他の生理学的な過程において不可欠であり、眼において、このプロセスに調節不全が生じると、種々の種類の網膜疾患、例として、加齢黄斑変性(AMD)及び糖尿病性網膜症(DR)に至る恐れがある。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、最初の供給物質から1~3回継代した後に保存されている初代細胞である。これらの細胞は、血管新生性の物質、例として、VEGFに応答して、誘発されて、管状構造を形成することができる。
【0113】
1.5.2 材料
Multiscribe逆転写酵素50U/ml(Applied Biosystems社、P/N:4311235)
リボヌクレアーゼ阻害剤20U/μl(Applied Biosystems社、P/N:N8080119)
TaqMan 2× Universal Master Mix
Qiagen" RNeasy(商標)Microkit 74004
ヒトNrarpプローブ:Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs01104102_sl
GAPDHの内在性の対照:Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs00266705_gl
ラットNrarpプローブ:Taqman遺伝子発現アッセイ、Rn03810258_sl
18Sの内在性の対照:Taqman遺伝子発現アッセイ、Hs99999901_sl
【0114】
1.5.3 方法
i)細胞
HUVEC細胞(参照番号:CC-2519/バッチ番号:000191772)を、Lonza社から得た。全ての実験を、継代6~9回時の、75~85%の細胞密度で培養した同じバッチの細胞を用いて実施した。トランスフェクションを、siPORT NeoFX(商標)を使用して、標準的な手順に従って実施した。電気穿孔については、「Hernandez JLら、2004年、Angiogenesis.7:235~241頁」に公開されている手順に従った。手短に述べると、cell manipulator(登録商標)600(BTX社)を使用して、1200μFで20ミリ秒のパルスを適用することによって、1×106個の細胞に電気穿孔を行った。電気穿孔はそれぞれ、2μgの遺伝子材料を使用して実施した。
【0115】
効能を研究するために、電気穿孔のプロトコールを使用して、細胞にトランスフェクトし、細胞を放置して、24時間の期間にわたり回復させ、その後、細胞を、96ウエルプレート中に30,000個の細胞/ウエルの密度で蒔き、上記で言及したパラメータについて、平板培養の6時間後に分析した。構造を分析した後に、細胞、培地及びマトリゲルを、リボヌクレアーゼを含有しないチューブ内に移し、β-メルカプトエタノールを有する緩衝液RLTの600μLを添加した。
【0116】
ii)標的遺伝子の発現の分析
(1)RNAの単離及び逆転写
全RNAを、細胞培養物から、RNeasy RNA抽出キット(Invitrogen社、CA、米国)を使用して単離した。4μgの全RNAを、High-Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems、Inc.社、Foster City、CA、米国)を使用して、製造元の使用説明に従って逆転写した。
【0117】
(2)qPCR
qPCRを、Stepone plus検出システム(Applied Biosystems社)を使用して実施した。TaqMan 2× Universal Master Mix中で、50ナノグラムの各試料を、以下、すなわち、95℃、10分間;続いて、95℃、15秒間の40サイクル;及び60℃、1分間の条件下で増幅した。
【0118】
1.5.4 結果
電気穿孔を行って、siRNAをHUVEC細胞内に導入して、首尾よい成果を得たことから、この方法を使用して、その後の研究を行った。この場合、マトリゲル上での毛細血管構造の形成、遊走、創傷治癒及び増殖についてのアッセイにおいて、NRARPの修飾siRNA、すなわち、配列番号37の役割を評価した。
【0119】
i)毛細血管構造の形成
(1)アッセイの設定
4時間の期間にわたり欠乏状態となした細胞を、マトリゲルで被覆した96ウエルプレート上に15,000個の細胞/ウエルで蒔いた。補充物質を有しない内皮細胞用基本培地(EBM)を、負の(構造を形成しない)対照として使用し、一方、補充物質(hEGF、ヒドロコルチゾン、ウシ脳抽出物、ゲンタマイシン、ヘパリン)及び10%のFCSを有する完全培地を、最多数の管状構造を誘発する陽性の対照として使用した。アッセイは、三つ組で、3~6回の独立した実験において実施した。24時間平板培養してから、培養物を分析した。
【0120】
更に、構造を分析するための新しい方法も設定しておく。この方法は、Gilles CarpentierがNIHのImageJのために開発したAngiogenesis Analyzerソフトウエアを使用する、5つの変数の定量化に基づく。このソフトウエアにより、血管新生のプロセスが包括的に眺められる。研究される変数を、図17に示す。
【0121】
図18に、完全培地(補充物質+10%のFCS)に応答した、研究された変数の変化を示す。この図に示すように、完全培地は、構造の総面積を変化させることなく、形成される構造の数を顕著に増加させる。
【0122】
(2)配列番号37のsiRNAの効能
細胞を、電気穿孔によりトランスフェクトし、完全培地中で24時間の期間にわたり回復させ、更に2時間にわたり血清が欠乏する状態となし、その後、細胞を、マトリゲルで被覆した96ウエルプレート上に、30,000個の細胞/ウエルの細胞密度で蒔いて、構造を形成させた。播種してから6時間及び24時間後に、形成された構造を分析した。配列番号37の効能を試験するために、以下の条件をアッセイした。
- トランスフェクトされていない細胞
- 電気穿孔を行ったシャム細胞
- 抗KDRのsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞(Life Technologies社、参照番号:145034)
- 配列番号37のsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞
【0123】
補充物質を有しない培地、並びに10%のFCS及び100ng/mlのVEGFを有する培地中で、全ての条件をアッセイした。
【0124】
最初のアッセイを、細胞をマトリゲル上に播種する前に、血清を含有しない培地中で2時間にわたり欠乏状態となしておいた細胞を用いて実施した。この手順により、構造が若干不安定化し、したがって、手順を、欠乏のステップなしで繰り返した。後者の研究の結果を、図19及び図20に示す。
【0125】
要約すると、電気穿孔は、細胞の機能に大きな影響を及ぼす。したがって、比較は、電気穿孔を行ったシャムの条件と実験の条件との間で行った。補充物質の非存在下では、siRNA-KDR及び配列番号37のsiRNA-Nrarpの両方が、血管新生構造の形成を低下させ、siRNA-KDRの作用が、配列番号37のsiRNAの作用よりも大きかった。6時間の時点において、補充物質を有する完全培地の存在下で、血管新生構造の形成に対する、両方のsiRNAの阻害性の作用がより明確になった。このことは、細胞を血清及び補充物質が欠乏した状態となすことによって、細胞生存率を低下させることができるという事実に起因し得る。細胞をマトリゲル上に播種した24時間後に実施した分析からは、結論を出せなかった。その理由は、構造がすでに解体し始めていたからである。
【0126】
ii)増殖に対する作用
(1)アッセイの設定
24時間にわたり欠乏状態となした細胞を、96ウエルプレート中に3000個の細胞/ウエルの密度で蒔き、種々の条件下で培養した。5日後に、増殖をMTTアッセイにより評価した。使用した条件を、以下に示す:2%のFCS及び種々の濃度のVEGF(20~30~50ng/ml)。2%のFCSは、細胞が基礎増殖速度を保ち、培養物が細胞停止に入るのを回避するのに必要である。図21Aは、細胞の増殖の3倍の誘発が、VEGFに応答して、試験したその濃度にかかわらずもたらされたことを示している。抗VEGF剤の阻害剤としての作用を分析するために、細胞を、30ng/mlのVEGFの存在下で、ベバシズマブ(Avastin)の濃度を減少させて(12nMから開始し、1:2で希釈した)培養した。この培養は、IC50を決定するためであった。図21Bに示すように、ベバシズマブのIC50は、0.85nMであることが見出された。
【0127】
(2)配列番号37のsiRNAの効能
細胞に電気穿孔を行い、細胞を、1%のゼラチンでコートした96ウエルプレート中に5000個の細胞/ウエルの密度で蒔き、その後、細胞を24時間の期間にわたり回復させた。細胞を、回復させてから、10%のFCS及び100ng/mlのVEGFを補充した基本培地中で培養した。平板培養の3日後に、細胞の増殖をMTTにより分析した。試験した条件を、以下に示す。
- トランスフェクトされていない細胞
- 電気穿孔を行ったシャム細胞
- 抗KDRのsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞(Life Technologies社、参照番号:145034)
- 配列番号37のsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞
【0128】
図22に示す結果から、抗KDRのsiRNA及び配列番号37のsiRNAの両方が、VEGFが誘発する増殖速度を、電気穿孔を行ったシャム細胞と比較しておよそ40%低下させることが示されている。
【0129】
iii)遊走に対する作用
(1)アッセイの設定
これらの研究を、8μmの不透明なメンブランフィルターを有する24トランスウエルシステムプレート(Transwell HTS FluroBlok(商標)Multiwell Insert System、Becton Dickinson社製)中で実施した。細胞の吸収を促進するために、メンブランの両方の表面を、I型コラーゲンを15μg/mlの濃度で用いて、37℃で2時間かけて被覆した。細胞を50,000個の細胞/ウエルの密度で蒔き、4時間の期間にわたり血清が欠乏する状態となし、その後、遊走刺激剤を添加した。刺激剤をトランスウエルの下の部分に添加してから24時間後に、上のコンパートメントまで遊走するに至った細胞を、Calcein-AMを用いて染色した後に、その数を分析した。
【0130】
完全培地(10%のFCS及び補充物質)中の遊走性の細胞の数を、細胞の遊走の陽性の対照として使用し、この応答を、VEGFの濃度を増加させる(1~10~100ng/ml)ことによって得られた数と比較した。
【0131】
図23に示すように、VEGFは、上のコンパートメントまで遊走する細胞の数について、用量依存性の増加を誘発する。VEGFに応答する最大の増加が、VEGFの最も高い濃度(100ng/ml)に応答して観察され、応答の大きさは、基礎条件に比して、およそ5~6倍になった。
【0132】
(2)配列番号37のsiRNAの効能
細胞に電気穿孔を行い、細胞を24時間の期間にわたり回復させ、その後、細胞を、15μg/mlのコラーゲンでコートした8μmの不透明なメンブランフィルターを有する96トランスウエルプレート上に、10,000個の細胞/ウエルの密度で蒔いた。試験条件を全て、基本培地の存在下及び(10%のFCS及び100ng/mlのVEGFを補充した)完全培地の存在下でアッセイした。試験条件を、以下に示し、平板培養してから24時間後に、Calcein-AMを用いて細胞を染色することによって、遊走を分析した。
- トランスフェクトされていない細胞
- 電気穿孔を行ったシャム細胞
- 抗KDRのsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞(Life Technologies社、参照番号:145034)
- 配列番号37のsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞。
【0133】
得られた結果から、電気穿孔は、細胞の遊走能力に対して有害な作用を示したことが示されている。したがって、細胞の処理は、電気穿孔の作用を廃棄するために、電気穿孔を行うシャムの条件と比較した。基本培地中の細胞は遊走しなかったが、10%のFCS及び100ng/mlのVEGFの存在は、細胞をトランスウエルシステム中の反対側のウエルまで遊走させた。10%のFCS及び100ng/mlのVEGFの作用は、配列番号37のsiRNA又は抗KDRのsiRNAのいずれの電気穿孔によっても、部分的に(30%)遮断された(図24及び図25)。
【0134】
iv)創傷治癒の研究
(1)アッセイの設定
細胞を、1%のゼラチンでコートした96ウエルプレート中に、50,000個の細胞/ウエルの密度で蒔き、基本培地中で24時間培養した。その後、培養物の狭い領域を削り取ることによって、病変をもたらし、10ng/mlのVEGFを培養物に添加した。病変をもたらした直後及び24時間後に、これらの領域を、NIHのImageJソフトウエアにより測定し、比較した。治癒した領域のパーセントを、以下に従って定量化した。
創傷治癒(%)=最後の領域/最初の領域×100
【0135】
図26に示すように、10ng/mlのVEGFにより、未処理の条件と比較して、創傷治癒率の2.5倍の増加が誘発された。
【0136】
(2)配列番号37のsiRNAの効能
細胞に電気穿孔を行い、細胞を24時間の期間にわたり回復させ、その後、細胞を、1%のゼラチンでコートした96ウエルプレート中に、70,000個の細胞/ウエルの密度で蒔いた。平板培養の24時間後に、細胞の狭い領域を削り取ることによって、病変を誘発し、病変を誘発してから16時間後に、培養物を分析した。10μΜのcalceine-AMを用いて細胞を染色し、削った領域、及び細胞により再び覆われた領域のパーセントを分析することによって、分析を実施した。試験条件を全て、基本培地の存在下及び(10%のFCS及び100ng/mlのVEGFを補充した)完全培地の存在下でアッセイした。試験条件を、以下に示し、平板培養してから24時間後に、遊走を分析した。
- トランスフェクトされていない細胞
- 電気穿孔を行ったシャム細胞
- 抗KDRのsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞(Life Technologies社、参照番号:145034)
- 配列番号37のsiRNAの1μΜをトランスフェクトした細胞
【0137】
先行する実験の場合と同様に、結果から、電気穿孔の創傷治癒に対する有害な作用が示されている。そうした理由により、全ての条件は、電気穿孔を行ったシャム細胞と比較した。図27及び図28に示すように、配列番号37のsiRNAは、基本培地中で、創傷治癒率を非常に有効に低下させた。配列番号37のsiRNAの作用は、陽性の対照である抗KDRのsiRNAの作用よりも更に大きかった。しかし、創傷治癒に対する、この作用は、細胞を完全培地中で培養する場合にはマスクされ、このことは、細胞の遊走に対するFCSの強力な作用に起因する可能性が最も高い。
【0138】
v)上記で言及した実験から得られた細胞中のNRARPのmRNAレベル
上記で言及した研究から得られたHUVEC細胞を収集し、全RNAを抽出して、NRARP標的遺伝子のレベルをqPCRにより分析した。図29は、配列番号37のsiRNAの電気穿孔に応答した、NRARPのmRNAレベルの低下を示している。
【0139】
本研究において提示する結果を総合すると、配列番号37のsiRNAは、HUVEC細胞において抗血管形成作用を示すと結論付けることができ、このことは、増殖、遊走及び毛細血管構造の形成の低下により示されている。
【0140】
2. in vivoでの分析
2.1 レーザーにより誘発される脈絡膜新血管形成のラットモデルの網膜及び脈絡膜におけるNRARPの発現
2.1.1 目的
本研究の目的は、CNVがレーザーにより誘発されているNorway Brownラットの網膜及び脈絡膜におけるNRARPの発現を、種々の時点で評価することであった。この標的遺伝子の発現の分析は、i)新血管形成に関連する網膜疾患を治療するための新しい化合物を開発する目的で、この標的がサイレンシングを行うべき候補であるかどうかを研究するために、CNVに応答して、NRARPが上方制御されるかどうかを評価し、ii)標的遺伝子のサイレンシングを行うために、一時的なNRARPの発現を研究して、動物を治療するのに最もよい時間を決定するという、2つの目的を果たした。
【0141】
2.1.2 緒言
CNVは、いくつかの脈絡網膜性疾患に共通する非特異的な病変である。これらの病変は、ブルッフ膜の切断又は破壊;網膜下の空間への及び/又は網膜下の色素上皮への、脈絡膜毛細血管内皮細胞、周皮細胞及び炎症細胞の侵入を伴う炎症及び血管新生の誘発を引き起こす一連の事象を特徴とする{Grossniklaus HEら、2010年}。網膜下の空間への脈絡膜毛細血管の貫通は、いくつかの網膜疾患に共通する顕著な特徴である。これらの疾患の一部の例として、AMD、PDR又はDREが挙げられる。
【0142】
動物モデルにおいて、ブルッフ膜中に病変を誘発することによって、CNVを誘発することができ、この病変により、血管新生因子及び炎症性メディエーターの増加を特徴とする本格的なCNVをもたらす分子事象が開始される。
【0143】
我々は、Brown Norwayラットのレーザー誘発型CNVモデルを使用して、病変を誘発した後の種々の時点で、選択された標的の発現を分析するに至った。このモデルの妥当性は、EyeCRO社において確認されていた。この目的で、18匹の動物のそれぞれの眼において3つの病変を誘発し、続いて、これらの動物を屠殺し、眼を収集し、Sylentis社に送って、さらなる分析を行った。分析した標的はNRARPであった。NRARPは、血管内皮細胞の活性化に関連する糖タンパク質である。その遺伝子は、あらゆる範囲のがんにおいて過剰発現し、その過剰発現は、転移及び短期の生存期間を示す率と相関する。更に、ヒト乳がんにおけるこの遺伝子の発現レベルは、血管の形成と相関し;この遺伝子がコードするタンパク質は、VEGFとは独立に、内皮細胞の遊走及び血管構造の発生における役割を有することも見出されている{Faibish MRら、2011年}。
【0144】
2.1.3 方法
i)動物
【0145】
【表1】
【0146】
ii)実験群
【0147】
【表2】
【0148】
iii)除外基準
レーザーを適用した直後に、3つのレーザー病変のうちの2つ以上において出血が明らかである全ての眼。
【0149】
全ての組織試料を、適切に個体が識別されている凍結保存チューブ中に入れ、液体窒素中で即時に凍結した。凍結保存チューブは、実験条件に関して識別し、ドライアイス上でSylentis社に発送した。
【0150】
iv)標的遺伝子の発現の分析
(l)RNAの単離及び逆転写
全RNAを、網膜及び脈絡膜から、RNeasy RNA抽出キット(Invitrogen社、CA、米国)を使用して単離した。4μgの全RNAを、High-Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems, Inc.社、Foster City、CA、米国)を使用して、製造元の使用説明に従って逆転写した。
【0151】
(2)qPCR
qPCRを、Stepone plus検出システム(Applied Biosystems社)を使用して実施した。TaqMan 2× Universal Master Mix中で、500ナノグラムの各試料を、以下、すなわち、95℃、10分間;続いて、95℃、15秒間の40サイクル;及び60℃、1分間の条件下で増幅した。全てのqPCR増幅は、三つ組で実施し、少なくとも2回の独立した実験において繰り返し、これらの実験は常に、逆転写の対照を含むが、鋳型の対照は含まなかった。
【0152】
2.1.4 結果:NRARPの発現
CNVのレーザーによる誘発の後の種々の時点で、NRARPの発現を、網膜及びRPE/脈絡膜において分析した。得られた結果から、網膜において、レーザー病変の誘発から24時間後に、NRARPのmRNAレベルが若干減少したことが示されている。病変を誘発してから72時間後に、NRARPのmRNAレベルは、若干(時間=0と比して1.5倍に)増加している。研究の終わりに(t=504時間)、NRARPレベルは、病変を誘発する前に観察されたレベルと同等になった(図14)
【0153】
NRARPのmRNAレベルは、脈絡膜/RPEにおいて、CNVの誘発の6時間後に劇的(約2.7倍)に上方制御され、その後、緩慢に減少し始めた。研究の時間枠内に、基礎レベルが回復することはなかった(図15)。
【0154】
2.1.5 結論
この研究の結果を総合すると、NRARPは、網膜における新血管形成を制御するための治療を開発し得る有効な標的となると結論付けることができる。網膜及び脈絡膜の両方における発現のパターンから、この研究で使用したモデルにおいてNRARPの発現が顕著に誘発されたこと、及び血管新生におけるNRARPの役割を考慮すると、NRARPが、サイレンシングを行う良好な候補であり得るであろうことが示されている。
【0155】
2.2 レーザー誘発型の脈絡膜新血管形成のラットモデルにおける、NRARPを標的にするsiRNAの、病変のサイズ及び漏出の低下についての評価
2.2.1 目的
レーザー誘発型の脈絡膜新血管形成(レーザーCNV)のラットモデルにおいて、1つの試験薬剤(配列番号37のsiRNA)の抗血管新生作用/血管を破壊する作用を、外用投与の後に決定する。
【0156】
2.2.2 研究の概要
レーザー誘発型の脈絡膜新血管形成のモデルにおいて、配列番号37の外用点眼の抗血管新生作用/血管を破壊する作用を決定するために、雌のBrown Norwayラットを用いて、26日間の研究を実施した。
【0157】
総数18匹のラットを、1群当たり6匹のラットの3群に分けた。第1日~第26日に、群1及び群3に、ビヒクル(群1)又は5mg/mlの配列番号37(群3)を1日1回外用点眼した。第7日に、群3の両眼に、5μg/眼の抗VEGF(陽性の対照)の硝子体内注射を投与した。
【0158】
第3日に、レーザーによる処置を、520nmの熱レーザーを使用して実施して、1眼当たり総数3つの病変をもたらした。
【0159】
第26日(レーザーによる処置の3週間後)に、フルオレセイン血管造影を実施し、病変サイズとしての面積を、画像解析ソフトウエア(ImageJ)を使用して決定した。5μg/眼の抗VEGF Ab又は5mg/mlの配列番号37の外用点眼のいずれかを投与したラットは、それらの個別のビヒクル対照群と比較して、病変サイズの有意な低下を示した。
【0160】
2.2.3 材料及び方法
2.2.3.1 ラットにおけるレーザー誘発型の脈絡膜新血管形成(CNV)
第1日~第26日:ビヒクル又は試験薬剤の外用点眼、1日1回(アーム1、アーム2)
第5日:両眼へのレーザーによる処置を行って、1眼当たり3つの病変をもたらした
第7日:陽性の対照の両眼への硝子体内注射(アーム3)
第26日:in-vivoでのフルオレセイン血管造影
第26日:眼球を除去し、網膜及びRPE/脈絡膜を個々に収集した(研究アーム)
【0161】
2.2.3.2 研究アーム
【0162】
【表3】
【0163】
2.2.3.3 動物
系統:Brown Norway
性別:雌
年齢範囲:6~8週齢
体重範囲:120~150g
供給元:Charles River Laboratories
研究動物の数:18匹
【0164】
2.2.3.4 飼育要件
全ての動物を、動物を扱う標準的な条件下において、換気されている棚に置いた大きなケージ中で、3匹ずつまとめて飼育した。
【0165】
2.2.3.5 製剤の調製及び保存
全ての製剤について、USP(米国薬局方)の材料及び無菌の槽を利用し、試験材料の以下の一定分量を使用した。
外用ビヒクル:各130μlを26回分、加えて予備の2回分
5mg/mlの配列番号37のsiRNA:各130μlを26回分、加えて予備の2回分
【0166】
全ての製剤を、4±3℃で保存した。
【0167】
2.2.3.6 麻酔
20単位のケタミン(100mg/ml)及び100単位のキシラジン(20mg/ml)を利用して、ケタミン及びキシラジンを、U-100のシリンジを使用して混合した。麻酔用混合物を、1μl/g(体重)の腹腔内(IP)注射により適用した。
【0168】
2.2.3.7 CNV病変をもたらすためのレーザーの適用
動物の眼を、1%のCyclogyl溶液を用いて拡張し、光から保護した。観察可能な拡張を得たら、ケタミン/キシラジンを用いて、動物を鎮静させた。Micron III小動物用眼底カメラ(Phoenix Research社)を使用して、鎮静させた動物の眼底を観察し、記録した。Micron III専用のレーザー用付属品を介して接続して、レーザーによる処置を、熱レーザーを使用して実施した。520nmの波長を使用して、それぞれの眼に、1眼当たり総数3つの病変を設けた。結果として得られた眼底の画像を、記録及び評価して、レーザーが、ブルッフ膜を通って気泡を首尾よく生成するに至ったことを確認した。
【0169】
2.2.3.8 硝子体内投与
ケタミン/キシラジンを用いて、動物に麻酔を施し、Cyclogyl及び/又はトロピカミドを外用投与して、瞳孔を拡張した。鎮静及び拡張の後に、Hamilton社製シリンジ及び33ゲージ針を使用して、1眼当たり5μlの総体積を、硝子体内の毛様体扁平部に注射した。
【0170】
2.2.3.9 除外
レーザーの適用又は硝子体内への注射の後に出血の徴候を示す眼はいずれも、分析から除外した。
【0171】
2.2.3.10 フルオレセイン血管造影
動物に、ケタミン/キシラジンを用いて麻酔を施し、次いで、10%のフルオレセインナトリウムを1μl/g体重でIP注射した。Micron III及び488nmの標的波長のための励起用フィルター/バリアフィルターを使用して、眼底の画像を、8ビットのTIFFファイルとして撮影した。それぞれの眼について、眼底の標準的なカラー写真もまた撮影した。
【0172】
2.2.3.11 画像診断及び病変の定量化
画像分析コンピュータ処理ソフトウエア(ImageJ、NIH、米国)を使用して、全てのTIFF画像を定量化した。面積をピクセルで示して定量化するために、個々の病変をフリーハンドでトレースし、眼底のカラー写真は、病変の場所を参照するのに使用した。病変の中心にある血管形成が生じていない領域は、面積の計算から除外した。出血がある場合又は2つの病変がオーバーラップする場合には、これらの病変は分析から除外した。
【0173】
2.2.3.12 組織の収集
ケタミン/キシラジン(80/10mg/kg)を用いて、動物に麻酔を施し、次いで、Euthasol(ペントバルビタール)を200mg/kgでIP投与することによって、動物を安楽死させた。安楽死の後に、眼球を除去し、個々の眼を4%のパラホルムアルデヒド中に固定した。眼は、固定したら、全てを個別に、2mLのスクリューキャップ付きポリプロピレンチューブ中に保存した。
【0174】
2.2.3.13 統計学的分析
統計学的分析を、Graphpad Prismソフトウエア(4.0版)を用いて、両側マン-ホイットニーt検定を使用して実施した。<0.05のp値を示す変化のみが、統計学的に有意であると考えられる。
【0175】
2.2.4 結果
レーザー誘発型のCNVのラットモデルにおいて、外用点眼により投与した配列番号37の作用を評価した。レーザーによる処置の3週間後に、フルオレセイン血管造影を実施して、ラット眼中のCNV病変のサイズ(ピクセルで示す面積)を定量化した。
【0176】
5mg/mlの配列番号37の外用適用により、ラット眼中の病変サイズが、ビヒクル単独の点眼と比べて低下した。ビヒクル群との平均病変サイズの差は有意であった(図16;*、p≦0.05、両側マン-ホイットニーの事後検定を用いる対を形成しないt検定)。
【0177】
陽性の対照、すなわち、抗VEGFの両眼への硝子体内注射により、病変サイズが、対照と比べて有意に低下した(図16;**p≦0.01、両側マン-ホイットニーの事後検定を用いる対を形成しないt検定)。
【0178】
2.2.5 結論
脈絡膜新血管形成のラットモデルにおいて、5mg/mlの配列番号37の外用点眼により、病変サイズは、ビヒクル単独の外用点眼と比べて有意に低下する。
【0179】
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【配列表】
2023144029000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~配列番号9からなる群から選択される少なくとも1つの配列を特異的に標的にする、siRNA分子を含む、点眼剤の形態の医薬組成物。
【請求項2】
前記siRNAが、19個のヌクレオチドの二本鎖領域を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記siRNAが平滑末端を有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記siRNAが、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又は配列番号10~配列番号18からなる群から選択される少なくとも1つの配列からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのヌクレオチドが、化学的修飾を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ヌクレオチドの前記化学的修飾が、2'-O-メチル修飾、2'-フルオロ修飾、ホスホロチオエート修飾ヌクレオチドの導入、ウラシルの5-プロピニルウラシルによる置換、ウラシルの5'-メチルウリジンによる置換、ウラシルリボースヌクレオチドの4'-チオリボースによる置換及びウラシルリボースヌクレオチドのデオキシチミジンヌクレオチドによる置換、並びにそれらの組合せから選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記化学的修飾が、センス鎖上、アンチセンス鎖上又は両方にある、請求項6又は7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記siRNAが、配列番号19~配列番号66からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63及び配列番号65からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含むか、又はそうした配列からなり、前記アンチセンス鎖が、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、配列番号62、配列番号64及び配列番号66からなる群から選択される、請求項6から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記siRNAが、センス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とを含むか、又はセンス鎖と前記センス鎖に相補的であるアンチセンス鎖とからなり、前記センス鎖が、配列番号37ヌクレオチド配列を含むか、又は配列番号37ヌクレオチド配列からなり、前記アンチセンス鎖が、配列番号38のヌクレオチド配列を含むか、配列番号38のヌクレオチド配列からなる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
緩衝生理食塩水をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
約7.0~約7.4のpHを有する、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ゲルの形態である、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、カーボポール、ヒアルロン酸及びポリアクリル酸から選択される1つ又は複数のバイオポリマーをさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記siRNAは、細胞中への導入時にNRARP遺伝子の発現を低下させる、請求項1から15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
NRARPの発現及び/又は活性の増加を特徴とする眼の状態を治療及び/又は予防するための、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記眼の状態が、新血管形成に関するものである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
眼の前記状態が、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、糖尿病性網膜虚血(DRI)、糖尿病性網膜浮腫(DRE)、近視性新血管形成及び未熟児網膜症(ROP)、並びにそれらの組合せから選択される、請求項17又は18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
角膜表面への局所投与用に製剤化されている、請求項1から19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】