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  • 特開-弦楽器ナット用やすり 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144158
(43)【公開日】2023-10-10
(54)【発明の名称】弦楽器ナット用やすり
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/22 20200101AFI20231002BHJP
【FI】
G10D3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050985
(22)【出願日】2022-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】521462716
【氏名又は名称】ハイ リバー エンタープライズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】High River Enterprises Ltd.
(71)【出願人】
【識別番号】398068303
【氏名又は名称】ヤマウチマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 祐介
(72)【発明者】
【氏名】福岡 道孝
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002EE09
(57)【要約】
【課題】 演奏品質に悪影響を与えることなく、簡単に溝の修正を行うことができる弦楽器のナット用やすりを提供する。
【解決手段】 弦楽器の指板とヘッドの間に配置され弦を支えるナット2の溝21の形状を修正するための弦楽器ナット用やすり1であって、溝21の研磨を行うやすり刃102が、溝21に挿入される弦3の径と同一又はこれよりも大きい径の円弧状に形成されている構成としてある。やすり本体10の側面に剛性を高めるための側板11を設けてもよく、やすり刃102と側板11との間に、過剰研磨を防止するための肩部11aを形成してもよい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の指板とヘッドの間に配置され弦を支えるナットの溝の形状を修正するための弦楽器ナット用やすりであって、
前記溝の研磨を行うやすり刃が、前記溝に挿入される弦の径と同一又はこれよりも大きい径の円弧状に形成されていること、
を特徴とする弦楽器ナット用やすり。
【請求項2】
弦楽器の指板とヘッドの間に配置され弦を支えるナットの溝の形状を修正するための弦楽器ナット用やすりであって、
前記溝の研磨を行うやすり刃が、前記溝に挿入される弦と同径の円を内接円とする斜面を備えた台形状または多角形状に形成されていること、
を特徴とする弦楽器ナット用やすり。
【請求項3】
前記やすり刃がやすり本体に形成され、前記やすり本体の側面に剛性を高めるための側板を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の弦楽器ナット用やすり。
【請求項4】
前記やすり刃と前記側板との間に、過剰研磨を防止するための肩部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の弦楽器ナット用やすり。
【請求項5】
前記やすり本体の両側縁のうち、一方の側縁に粗加工用のやすり刃が形成されていることを特徴とする請求項3又は4のいずれかに記載の弦楽器ナット用やすり。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギター、ベース、ウクレレ、バイオリン、チェロ、マンドリン、コントラバス、琴、三味線及び二胡などの弦楽器において、弦を支持するナットの溝を修正するための弦楽器ナット用やすりに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の弦楽器においては、弦は指板(フィンガーボード、琴の場合は龍甲)の両端に配置されたブリッジとナットとの間で前記指板から弦を浮かした状態で支持される。そして、前記ブリッジと前記ナットとによる支点が、それぞれ弦に対する接触点となり、これら接触点を両端の節として弦が振動するようになっている。
ところで、前記ナットには、弦が挿通する複数の溝が形成されているが、溝の深さと幅は弦楽器の演奏品質において重要な要素となる(例えば特許文献1の(3)頁左上欄から右上欄の記載参照)。
【0003】
図6(a)は非特許文献1に記載された市販のギターのナット用やすりの刃部の断面図で、(b)は(a)のやすりを用いてナットの溝を研磨したときにナットと弦(断面)の関係を示すナットの部分図である。
ナット2には、弦3が挿入できる溝21が形成されている。ナット2には、弦楽器の弦3の数に対応して複数の溝21が形成されるが、図6においては一つの溝21のみを示し、他の溝21については記載を省略している。
溝21はその底部21aで常時弦3と擦れ合っていることから、底部21aの摩耗が生じやすい。摩耗によって底部21aの幅が拡がると、弦3が横方向に移動する「ドリフト」(特許文献1の(3)頁右上欄2段落目の記載参照)が発生し、底部21aに凹凸が生じると、弦3が飛び跳ねてがたがた音やビビリ音を発生させる。そのため、定期的に又は必要に応じて、弦楽器ナット用やすり1′(以下、やすり1′と記載)によって溝21の底部21aの研磨を行い、弦3が横方向に「ドリフト」したり、凹凸によって飛び跳ねたりしないように修正をしている。
【0004】
図6に示すやすり1′は、溝21の底部の研磨を行う刃部101′が鋭角の頂部を有する三角形状に形成されている。これは、研磨の際に刃部101′が容易に撓まないように、刃部101′の基部の肉厚を5mm~7mm程度とある程度大きくする一方で、弦3の直径は、例えばアコースティックギターでは概ね0.3mm~1.3mmと非常に小さいことから、刃部101′の刃先も弦3の径に合わせて小さくする必要があるためである。
このようなやすり1′で溝21の修正を行うと、底部21aは刃部101′の形状に応じた鋭角V字状に研磨されることになり、弦3の横方向の「ドリフト」や飛び跳ねは抑制することができるようになる。
【0005】
しかし、演奏などの際に弦3を弾くと、弦3が伸縮振動して図6の紙面に直交する方向に移動しようとするが、図6(b)のように溝21の底部21aが鋭角V字状であると、弦3が鋭角V字状の底部21aに食い込んで伸縮に伴う弦3の移動に遅れが生じ、これがビビリ音や音程の狂いなどの新たな異音発生の要因となり、演奏品質に悪影響を及ぼすおそれがある。
溝21の修正時における研磨に起因するものではないが、特許文献2では、ナット(特許文献2において符号68)に対する弦(同符号64)の摩擦抵抗によって、前記弦の張力が戻らず、音程に狂いが生じる可能性があることが示唆されている(特許文献2の段落0004の記載参照)。特許文献2に記載の弦楽器用ナットでは、ナットに対する弦の摩擦抵抗に起因して弦が変化前位置に戻りにくくなることによる演奏時の異音を抑制するために、押圧駒で弦をナット表面に押さえ付け、弦の移動を規制することを提案している(同0018の記載参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59-211090号公報((3)頁左上欄から右上欄の記載参照)
【特許文献2】特開2006-227570号公報(段落0004及び0018の記載参照)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】株式会社広島鑢製造所のギターやすりのホームページ(http://www.hiroshimayasuri.com/sakiboso.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載の技術は、電気ギターの分野のものであり、電気ギターには有効であっても、それ以外の弦楽器に適しているとは言えず、かつ、既存の弦楽器のナットにそのまま適用できるものでもない。そのため、多くの弦楽器利用者は、従来とおり、やすりでナットの溝を修正しながら利用することが考えられ、演奏品質に悪影響を与えることなく、簡単に溝の修正を行うことができる改良されたやすりの提供が必要である。
本発明はこのような要望に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の弦楽器ナット用やすりは、弦楽器の指板とヘッドの間に配置され弦を支えるナットの溝の形状を修正するための弦楽器ナット用やすりであって、前記溝の研磨を行うやすり刃が、前記溝に挿入される弦の径と同一又はこれよりも大きい径の円弧状に形成されている構成としてある。
【0010】
また、別の手段としては、請求項2に記載するように、弦楽器の指板とヘッドの間に配置され弦を支えるナットの溝の形状を修正するための弦楽器ナット用やすりであって、前記溝の研磨を行うやすり刃が、前記溝に挿入される弦と同径の円を内接円とする斜面を備えた台形状または多角形状に形成されているものとしてもよい。
【0011】
この場合、請求項3に記載するように、前記やすり刃がやすり本体に形成され、前記やすり本体の側面に剛性を高めるための側板を設けてもよい。請求項4に記載するように、前記やすり刃と前記側板との間に、過剰研磨を防止するための肩部を形成してもよい。
【0012】
前記やすり本体の両側縁に、前記やすり刃を形成してもよい。一方の側縁のやすり刃と他方の側縁のやすり刃とは同一のものとしもよいが、目の粗さなどが異なる別のものとしてもよい。請求項5に記載するように、一方の側縁に上記構成のやすり刃を形成し、他方の側縁に荒加工用のやすり刃を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記のように構成されているので、弦楽器ナット用やすりによって研磨されたナットの溝の底部を弦に沿った形状とすることができ、弦が鋭角V字状の底部21aに食い込んで伸縮振動に伴う弦の移動に遅れを生じさせるということがない。また、溝内における弦の横方向の移動も抑制できる。そのため、ナットの溝の研磨を行っても、ビビリ音や音程の狂いなどを生じさせることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の撓み修正装置の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の弦楽器ナット用やすり(以下、「やすり」と記載)の一実施形態にかかり、(a)はその平面図、(b)は(a)のやすりのA部の部分拡大図、(c)は(a)のやすりのB部の部分拡大図、図2は、図1(a)のやすりのI-I断面図である。
やすり1は、やすり本体10とハンドル部15とを有している。やすり本体10の両側縁には、ナット2の溝21を研磨加工するための第一の刃部101及び第二の刃部102が形成されている。
本体10の一方の側縁に形成された第一の刃部101は粗加工用で、(b)に示すように、粗加工用の粗目のやすり刃101aが形成されている。第一の刃部101のやすり刃101aは、図2に示すように断面視して角形状に形成されている。
他方の側縁に形成された第二の刃部102は仕上げ加工用で、(c)に示すように細目の仕上げ加工用のやすり刃102aが形成されている。第二の刃部102のやすり刃102aは、図2に示すように断面視して円弧状に形成されている。やすり刃102aは、溝21の底部21aの形状を弦3の形状に合わせて仕上げるもので、弦3の径と同一であることが好ましいが、弦3が「ドリフト」しない範囲内であれば弦3の径よりも若干大きくしてもよい。
【0015】
ナット2の溝21の幅s(図6参照)に依るが、溝21の幅sは当該溝21に挿入される弦3の径(例えばアコースティックギターの弦では直径0.3mm~1.3mm程度)に応じたものである。そのため、溝21に挿入するやすり本体10の肉厚も、溝21に挿入される弦3の径に応じて小さくなる。例えば、直径0.3mmの弦3が挿入される溝21用のやすり1の本体10の肉厚は0.3mm又はこれより若干大きい程度であり、直径1.3mmの弦3が挿入される溝21用のやすり1の本体1の肉厚は1.3mm又はこれより若干大きい程度である。
その一方でやすり本体10と研磨を行う際に把持するハンドル部15とを合わせたやすり1の全長は、概ね18cm~20cm程度であるから、やすり本体10の肉厚に比してやすり1の全長はかなり長くなる。そのため、溝21を研磨する際にやすり本体10が撓んで溝21を研磨しにくくしたり、正確な研磨を妨げたりする要因になる。そこで、この実施形態のやすり1においては、やすり本体10からハンドル部15にかけて、その両側面に撓み抑制用の側板11をボルト12で取り付けている。このような側板12を取り付けることで、やすり1の対撓み剛性を高めることができる。
【0016】
また、側板11とやすり本体10との境界部分には、段付き状の肩部11aが形成されている。肩部11aとやすり刃101a,102aの頂部との間の高さH1,H2を予め設定された値(研磨限界時の溝21の深さ)とすることで、溝21を一定以上に研磨しようとしても肩部11aがナット2の上面に当接して、過剰な研磨を防止することができる。
【0017】
次に、図3及び図4を参照しながら、上記構成のやすり1を使ったナット2の溝21の研磨の手順について説明する。
図3は、第一の刃部101を使って溝21を粗加工する様子を示す側面図、図4は、第二の刃部102を使って溝21を仕上げ加工する様子を示す側面図である。各図において(a)は研磨時のものを、(b)は研磨後の状態を示している。
まず、第一の刃部101を溝21に挿入し、やすり刃101aを溝21の底部21aに当接させた状態でやすり1を前後に移動させて、溝21の底部21aを研磨する。第一の刃部101を使った溝21の研磨により、底部21aはやすり刃101aの形状に従った台形状に研磨される。
【0018】
次に、第二の刃部102を溝21に挿入し、やすり刃102aを溝21の底部21aに当接させた状態でやすり1を前後に移動させて、溝21の底部21aを研磨する。第二の刃部102を使った溝21の研磨により、底部21aはやすり刃102aの形状に従った滑らかな円弧状に研磨される。やすり刃102aは、この溝21に挿入される弦3の径と同一または、演奏中に弦3が「ドリフト」しない範囲内で弦3の径よりも若干大きく形成されているので、演奏などで弦3を弾いた際に、弦3が横方向に「ドリフト」したり凹凸で飛び跳ねたりすることがなく、かつ、弦3が伸縮振動しても、弦3は滑らかに底部21a上を滑ってビビり音や音程の狂いなどを発生させることがない。
【0019】
図5は、本発明のやすりの別の実施形態を説明するためのもので、(a)は第二の刃部104の部分拡大図、(b)は第二の刃部104のやすり刃104aによって研磨された溝21と弦13との関係を説明する図である。
先の実施形態では、第二の刃部102のやすり刃102aを、弦3と同一径又はこれより僅かに大きい径の円弧状として、弦3と溝21の底部21aとが円弧状に面接触するようにしている。
この実施形態のやすり刃104aは、図5(a)に示すように台形状に形成されている。前記台形の形状は、溝21に挿入される弦3と同径の円3′に対して、上底辺と二つの斜辺とが内接する形状である。
第二の刃部104のやすり刃104aをこのような形状に形成することで、やすり刃104aによって研磨された溝21の底部21aは、弦3を左右両側から規制して弦3の「ドリフト」を規制するとともに、弦3の伸縮振動に対しては妨げなく前後に移動させることができ、第一の実施形態のやすり1と同様にビビり音や音程の狂いなどを発生させることがない。
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明には限定されない。
例えば、上記の説明ではやすり本体10の両側縁に荒加工用の第一の刃部101と第二の刃部102,104とを形成しているが、荒加工用の第一の刃部101は形成しなくてもよい。また、両側縁に同一の第二の刃部102、104を形成してもよいし、やすり刃102a,104aの目の粗さや内径又は内接円3′の径などが異なる別の第二の刃部102、104を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ギター、ベース、ウクレレ、バイオリン、チェロ、マンドリン、コントラバス、琴、三味線及び二胡に限らず、他の弦楽器のナット用やすりとして広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の弦楽器ナット用やすり(以下、「やすり」と記載)の一実施形態にかかり、(a)はその平面図、(b)は(a)のやすりのA部の部分拡大図、(c)は(a)のやすりのB部の部分拡大図である。
図2図1(a)のやすりのI-I断面図である。
図3】第一の刃部を使って溝を粗加工する様子を示す側面図で、(a)は研磨時のものを、(b)は研磨後の状態を示すものである。
図4】第二の刃部を使って溝を仕上げ加工する様子を示す側面図で、(a)は研磨時のものを、(b)は研磨後の状態を示すものある。
図5】本発明のやすりの別の実施形態を説明するためのもので、(a)は第二の刃部の部分拡大図、(b)は第二の刃部のやすり刃によって研磨された溝と弦との関係を説明する図である。
図6】(a)は非特許文献1に記載された市販のギターのナット用やすりの刃部の断面図で、(b)は(a)のやすりを用いてナットの溝を研磨したときにナットと弦(断面)の関係を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0022】
1 やすり
1′ やすり(従来例)
10 やすり本体
101 第一の刃部
101′ 刃部(従来例)
101a やすり刃
102,104 第二の刃部
102a,104a やすり刃
11 側板
11a 肩部
12 ボルト
15 ハンドル部
2 ナット
21 溝
21a 底部
3 弦
3′ 円(内接円)
図1
図2
図3
図4
図5
図6