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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144219
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】気密ブースの扉装置
(51)【国際特許分類】
   E06B 3/70 20060101AFI20231003BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20231003BHJP
   E06B 7/28 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
E06B3/70 Z
E06B5/00 Z
E06B7/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051091
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】吉田 嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹内 康二
(72)【発明者】
【氏名】窪田 杏南
(72)【発明者】
【氏名】三國 完治
(72)【発明者】
【氏名】河口 和彦
【テーマコード(参考)】
2E016
2E239
【Fターム(参考)】
2E016HA04
2E016JA01
2E016LA01
2E016LC02
2E016RA05
2E239AC02
(57)【要約】
【課題】気密ブースにおいて、気密ブース内外のガスの流入及び流出を防止しながらも、床面が略フラットであり、かつ扉の開口部を大きく設定することができ、機器等の搬入及び搬出を容易にできる扉装置を提供する
【解決手段】本発明の扉装置は、引戸形式の摺動扉を二重に設け、気密ブース内外のガスをこの二重扉の隙間内にリークさせ、気密ブース内のガスと外部のガスを混在する空間とし、この隙間のガスを送風機で吸引することにより負圧とし、気密ブース外部と気密ブース内部を隔離した状態として、それぞれのガスの相互の空間への流入又は流出を防ぐようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密ブースにおいて、摺動式の外扉と内扉からなる二重扉を有し、前記二重扉を閉めた状態において、前記二重扉の隙間を負圧とすることを特徴とする扉装置。
【請求項2】
前記二重扉の隙間のガスを送風機により吸引することにより負圧とすることを特徴とする請求項1に記載の扉装置。
【請求項3】
前記負圧は-150Pa以上0Pa未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の扉装置。
【請求項4】
前記気密ブース内は正圧であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の扉装置。
【請求項5】
前記二重扉の開口部の床面に沓摺を設けたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の扉装置。
【請求項6】
前記気密ブースと前記二重扉の開口部、及び外部空間の床面には段差がないことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の扉装置。
【請求項7】
前記二重扉の隙間の圧力を検出するための圧力測定ポート及び/又は圧力検出装置と、前記二重扉の隙間のガス濃度を測定するためのガス濃度測定ポート及び/又はガス濃度検出装置とのいずれか一方又は両方を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の扉装置。
【請求項8】
前記外扉及び/又は前記内扉に安全装置を備えたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の扉装置。
【請求項9】
前記気密ブース内に不活性ガスが充填され、前記二重扉の隙間のガスの酸素濃度を前記ガス検出装置として酸素濃度計により測定するように構成され、前記酸素濃度が所定の値より高い場合には、前記安全装置としての電磁ロックが解除され、前記外扉を開くことができ、前記安全装置としてのドアセンサが内扉が閉状態であることを検知することにより、前記不活性ガスの供給が開始されることを特徴とする請求項8に記載の扉装置。
【請求項10】
前記二重扉の隙間の圧力が正圧になることにより前記気密ブースに大気が供給されることを特徴とする請求項9に記載の扉装置。
【請求項11】
前記二重扉は片引き戸であって、開口部は3000mmW(幅)×4000mmH(高さ)以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンブースやドライブース等気密を保つことが必要な気密ブースにおいて、気密ブース内のガスと外部空間のガスを直接相互に流入又は流出させないようにするための扉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密機器、電子部品、医薬品等の製造工程において、わずかでも塵埃等のパーティクルがあると、製造中の製品に付着して製品不良を起こすため、クリーンブースは高清浄度環境を確保するものとして使用されている。クリーンブース内の高清浄度を保つために、通常空気をHEPAフィルタを通して室内循環させている。また、リチウム電池や有機ELの製造工程等においては、材料が水分と反応しやすいため、例えば-40℃DP以下(以下、温度は全て「摂氏」とする。)の低露点のドライ環境が必要であり、吸着式の除湿ロータを用いたドライブースが普及している。
【0003】
クリーンブースの扉装置においては、そのクリーンブース内の温度や雰囲気を維持するため、扉装置における開閉部分のより高い気密性及び断熱性を如何にして確保するかという点に努力が払われてきた。クリーンブースでは、内部への汚れた空気の侵入を防止するために、ブース外雰囲気よりやや高い正圧に保たれている。また、ドライブースにおいても扉の開閉による人や装置の出入りにより、ドライブース内と外部の圧力変動が生じて、水分がドライブース内に侵入し、低露点環境が悪化する問題がある。このため、多量の低露点空気を供給する必要があり、設備費やランニングコストが嵩むという欠点がある。そこで、ドライブース内への水分侵入を防止し、低露点環境を保つ必要がある。このように、クリーンブースやドライブース等気密が必要なブース(以下、「気密ブース」という。)において気密を保つために、一般的には、扉本体と気密ブース本体との間に扉パッキンを設け、扉本体を気密ブース本体側に押圧するという高気密構造を採用することにより、扉装置の気密性が確保される。
【0004】
気密ブースには人の出入口及び物品の搬入、搬出等のため適宜大きさの開口が設けられており、この開口には開閉戸が取り付けられる。この開閉戸としては、開戸形式、もしくは引戸形式のものがある。開戸形式のものとして、例えば特許文献1の窓付きドアが挙げられる。特許文献1に記載の窓付きドアは、ドア本体に対してガラス窓が面一に設けられ、特に窓部をユニット化して着脱の容易化を図ることができるように工夫されたものである。また、引戸形式のものとして、例えば特許文献2の摺動式扉装置が挙げられる。特許文献2に記載の摺動式扉装置は、摺動式引戸が採用されたものであって、クリーンルーム等の負荷が大なる高気密構造を採用した場合でも、扉本体とクリーンルーム等の本体間のパッキンの形状を工夫することにより、リニアモータによる扉本体の円滑な開閉が行えるというものである。
【0005】
開戸形式、引戸形式何れにしても、開閉戸は閉戸時に常にエアタイト(一般的にJIS規格JIS A4702、A4706に定められた気密性能のうち、A-4等級線をクリアする性能を持つ(A-4等級線以下の通気量である)ことをいう。)であることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6673887号
【特許文献2】特開2001-98857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気密ブースにおいて、特許文献1に記載の開戸形式の開閉戸を採用する場合、取付けに扉本体に対し枠体(扉枠)が必要となる。特にクリーンブースでは部屋への塵埃の侵入防止や、厳密な温度・湿度管理のために、気密性が必要とされる。 そのため、クリーンブース用の扉装置は、開閉の際は仕方ないが、閉戸状態では枠体と扉本体の隙間が空かないよう、扉の四方にパッキンを回し、扉が完全に扉枠に密着するように設計されている。 ほんの少しのズレによっても隙間ができてしまう可能性があるため、扉装置製造の際には1mm単位で精度が求められる。よって、高い気密性を確保するために、扉装置は床面とはフラットではなく、扉枠の取り付けのため床面からある程度の高さを保って設置する必要がある。機器交換等のメンテナンスの際には扉枠を取り外すことが困難であるため、扉枠の段差を乗り越えて機器の搬入及び搬出を行わねばならない。また、高い気密性を確保するためにも扉を大型化することができない。すなわち、開戸形式では、点検口や人の出入り用の扉としての機能が主体となる。よって、メンテナンスの際の機器の搬入及び搬出等のためのメンテナンス扉やマシンハッチ等を別に設ける必要がある。しかしながら、メンテナンス扉やマシンハッチ等についても扉枠が必要であり、機器搬入及び搬出の際に気密を保つために設けていたこの扉枠を解体し、メンテナンス後に再度扉枠を設けて再度気密化する必要がある。さらに、メンテナンス時の機器の搬入及び搬出時、気密ブース内に保管した商品の提供のために商品を気密ブース外に持ち出す際等にはフォークリフトで運搬をすることがあるが、この場合、開口部を大きくすることや床面とフラットであることが求められる。
【0008】
特許文献1のような開戸形式、特許文献2のような引戸形式何れの開閉戸にしても、高い気密性を確保するために、扉装置における開閉部分のより高い気密性及び断熱性を如何にして確保するかが従来技術では重要であり、気密ブース内外のガスの流入及び流出を遮断するために、扉本体や扉枠の構造、パッキン等の工夫がなされてきた。
【0009】
一方で、気密性及び断熱性を高めるためにパッキン構造を強くするほど、扉本体の開閉が困難になる。また、例えば、気密ブースを冷蔵庫に使用する場合には、扉装置は出入口の開口部に結露した水分が凍結して、扉本体を蓋体に固着させていることがある。そこで、従来はやむを得ず、気密ブース内の正圧を扉本体が円滑に開閉できる程度にまで下げなければならなかった。
【0010】
扉枠の床面に近い下端にパッキン等を装着してシールし、気密性を保つようにしていても、床面の凹凸や勾配、不陸がある場合には、せっかく開戸形式や引戸形式の密閉扉を設置したとしても、気密を取ることができない可能性もあった。また、気密扉を設置するには、扉装置自体のイニシャルコストが高く、設置のための人件費も高いので、気密が取れなかった場合、これらのコストが無駄になる可能性があった。
【0011】
上記の実情に鑑み、本発明の主たる課題は、気密ブースにおいて、気密ブース内外のガスの流入及び流出を防止しながらも、床面が略フラットであり、かつ扉の開口部を大きく設定することができるので、メンテナンス時の機器交換等の際に搬入及び搬出を容易にできる扉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の扉装置は、従来のように如何にして気密をとるかという点でパッキン構造を強くするのではなく、逆転の発想を用いて、引戸形式の摺動扉を二重に設け、気密を取りつつも、敢えて気密ブース内外のガスをこの二重扉の隙間内にリークさせる構造としたことにある。また、二重扉の隙間を気密ブース内のガスと外部のガスを混在する空間とし、その隙間のガスを送風機で吸引することにより負圧とし、気密ブース外部と気密ブース内部を隔離した状態として、それぞれのガスの相互の空間への流入又は流出を防ぐようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明の扉装置は、床面の段差を作らない略フラットな摺動式扉であり、扉を大型化することができる構成となっているので、点検口や人の出入り用としての機能はもちろんのこと、メンテナンス扉やマシンハッチを別に設けずともよく、メンテナンス等の機器交換時の搬入及び搬出を容易に行うことができ、さらにフォークリフトでの資材運搬も可能となる。また、引戸を用いるため、開戸のような開閉スペースが不要である。
【0014】
本発明の扉装置は、従来のように如何にして気密をとるかという点でパッキン構造を過度に強くするものでないため、特許文献2のようにリニアモータを設けずとも手動で小さい力で開閉することができる。また、気密ブースを冷蔵庫に使用しても、二重扉構造であるため、扉装置の出入口開口部に水分が結露しにくくなり、従来のように、気密ブース内の正圧を扉体が円滑に開閉できる程度にまで下げる必要はない。
【0015】
さらに、二重扉の隙間が負圧になるため、外部から汚染物質の侵入が抑えられ、クリーンブースとしては高清浄度が得られることになる。また、従来の開戸形式や引戸形式の扉装置では構造やパッキン等に工夫を凝らしても気密が取れない虞があったが、本発明の扉装置では、パッキン等に気密の取れない部分が生じたとしても、二重扉の隙間から気密ブース内のガス及び外部空間から流入するガスを吸引する構成としているので、両者の空間のガスが隔離され、結果として気密ブース内の気密性を確実に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の気密ブースの扉装置を示す概略外観図である。
図2図2は本発明の扉装置の斜視図である。
図3図3は本発明の扉装置を気密ブース上部から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例について限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の気密ブースの扉装置を示す概略外観図である。気密ブース1の壁面2には出入口用の開口部3(破線部)が設けられている。この開口部3は、例えば、フォークリフト等の運搬機械によって物品を室内に搬入及び搬出するため、開口部3の下部は床面Fと同一平面の平坦状になっている。開口部3の上部には水平状に設けられた上枠4を介して摺動式の引戸5が配設される。この開口部3を開閉する引戸5は、例えば、アルミニウム製押出形材からなる案内レールに、吊車(図示せず)を介して吊り下げられ、気密ブース1の壁面2に沿って横移動して開口部3を開閉する構成となっている。このため、レールや溝がなく床面をフラットとすることができる。この引戸5は図1の右側に摺動することにより開き、左側に摺動することにより閉じる。なお、6は引戸5に設けられた取手である。取手6は例えばステンレスや、他の材質を用いるようにしてもよい。取手6は埋込式又はパイプハンドル、その他の形式であってもよいが、図2に示す二重扉の隙間8側の取手は埋込式を用いるのが好ましい。取手6の位置は図1に示される位置に限らず、引戸を開閉しやすい場所に適宜設ける。
【0019】
壁面2は一対の表面板としてスチール、アルミ、ステンレス等の板材を適宜パネル状に折曲し、これら表面板間の内部に芯材として硬質ウレタン注入発泡剤、ペーパーコア、メタルコア等を内蔵させて断熱、防音の機能を持たせてある。一方、引戸5もほぼ同材料及び同厚のパネル体を成している。すなわち、引戸5は、一対の例えばアルミニウム製の金属板からなる表面板と、これら表面板間に介在される例えば発泡ウレタン製の断熱芯材と、開口枠又はフレームとして例えばアルミニウム製押出形材からなる中空矩形の枠材とで構成される。なお、表面板は鋼材(スチール)、ステンレス、樹脂板等であってもよく、芯材はスチレンフォーム、ペーパーハニカムやセラミックハニカム、不燃ポリスチレンフォーム、ペーパーコア、メタルコア等であってもよい。また、壁面2及び引戸5は、一対の表面板及び芯材からなるパネル体に限るものではなく、表面板のみなど、気密性を保つことのできる構成であればよい。開口部3の内周には、例えば、アルミニウム製押出形材からなる入口枠(図示せず)が設けられている。
【0020】
本発明に用いる扉装置の引戸5の仕様や構成は特に限定されないが、JIS規格JIS A4702、A4706に定められた気密性能のうち、A-4等級線をクリアする引戸であることが好ましい。なお、耐蝕性、耐熱性、耐衝撃性、透明性・色相、制電性、難燃性、波長遮蔽、摺動性、耐油性、軽量性、耐摩耗性、防虫性等、用途に合わせた材料等を選定するようにしてもよい。
【0021】
図2は本発明の扉装置の斜視図である。図2におけるA-A面は、図1に示すA-Aの断面であることを示す。本発明の扉装置は、気密ブース1の壁面2の両面を挟み込むように、外部空間O側の引戸5である外扉5a、及び気密ブース空間1S側の引戸5である内扉5bの二重の引戸5を配設することを特徴とする。
【0022】
開口部3の下部辺部を除き、扉パッキン(図示せず)は外扉5a及び内扉5bそれぞれ、二重扉の隙間8側の開口部3の左右辺部及び上部辺部に装着され、引戸5が開口部3に引き寄せ寄せられると、扉パッキンと密着される。パッキンの材質は例えばEPDMやエラストマーのような合成ゴム等の可撓性や弾性を有する材質を用いる。上部辺部に装着される扉パッキンと左右辺部に装着される扉パッキンとは、同じくEPDMやエラストマーのような合成ゴム等の材質からなるコーナーパッキン(図示せず)を介して連結されている。よって、扉パッキンは、外扉5a及び内扉5bともに引戸5の二重扉の隙間8側において左右及び上部の三辺に連続して形成されて、引戸5の閉塞時に気密ブースの開口部3の入口枠に密着され、扉パッキンは多少潰れる状態となり、後述する下部パッキン7と合わせて開口部3が完全に閉塞されるようになっている。なお、扉パッキンを開口部3に装着せず、外扉5a及び内扉5b側の閉戸状態で開口部3と接する所に装着するようにしてもよい。
【0023】
引戸5の下端部には下部パッキン7が設けられており、この下部パッキン7は床面Fと接することにより、引戸5と床面Fとの気密性及び断熱性が確保される。下部パッキン7も扉パッキンと同様にEPDMやエラストマーのような合成ゴム等の可撓性や弾性を有する材質を用いるとよい。
【0024】
本発明の扉装置の引戸5は人や台車、フォークリフト等が通過する際に障害物となる下枠がない三方枠の構造を基本とする。床面Fは外部空間O、扉装置の開口部3、気密ブース空間1Sに渡り、フラットであることが望ましい。しかしながら、実際には床面Fの凹凸や不陸、勾配がある場合が多く、この場合には気密を保持することが難しくなる。そこで、開口部3の床面Fに沓摺を設置し、床面Fと下部パッキン7との接触面を水平にする。これにより、下部パッキン7は引戸5の閉塞時に開口部3の床面Fの沓摺に密着されるので、下部パッキン7との床面Fの沓摺の隙間がなくなり、フラットな表面とすることで気密性を保持することができる。すなわち、沓摺の設置は床面Fとの凹凸や不陸、勾配等の調整ができ、下部パッキン7と沓摺の当たり具合をより均一にすることができるので、沓摺無しの場合に比べて、後述する吸引口11からの吸引量を少なくしても二重扉の隙間8内の負圧の値が下がりやすくなるので、送風機12の動力が小さくて済むという効果がある。沓摺はステンレスが好ましいが、他の材質を用いるようにしてもよい。本発明に係る扉装置では、沓摺があってもなくてもよいが、気密を保持しやすくするため、沓摺を設ける方が好ましい。なお、沓摺を設置する場合は、床面Fと沓摺はフラットであることが望ましいが、沓摺を設けることにより多少の段差が生じる場合もある。この場合、機器の搬入及び搬出、フォークリフトによる運搬等に影響のない程度の段差とし、略フラットな状態とする。
【0025】
図3は本発明の扉装置を気密ブース上部から見た断面図である。外扉5a及び内扉5bからなる二重の引戸5が閉塞された状態で、吸引口11より送風機12にて吸引し、二重扉の隙間8内のガスを外部へ吸い出す。これにより、二重扉の隙間8内は負圧となり、二重の引戸5の外扉5a及び内扉5bそれぞれにおいて、左右辺部及び上部辺部の扉パッキン及び下部パッキン7は開口部3に沿って引戸5と強制的に接触し、密着され、扉装置は閉状態となり、気密ブース1内の気密が保たれる。このように、引戸5自体は望ましくはJIS規格JIS A4702、A4706に定められた気密性能のうち、A-4等級線をクリアする気密性を保つ一方で、引戸の外扉5a側より外部空間Oのガスが二重扉の隙間8に流入し、引戸5の内扉5b側より、気密ブース空間1Sのガスが二重扉の隙間8に流入するような構成とする。これにより、気密ブース空間1S内のガスと外部空間Oとのガスは二重の引戸5を介して分離され、それぞれのガスが相互に流入又は流出することはない。
【0026】
送風機12の吸引流量は、送風機12の出力及びバルブ等の風量調整装置13によって調整する。なお、風量調整装置13としてバルブの他に、例えば、ダンパやVAV(Variable Air Volume)等を用いてもよい。二重扉の隙間8の圧力を、圧力測定ポート9を介してマノスターゲージ等の圧力検出装置16により測定する。また、ガス濃度測定ポート10は、例えば、気密ブース1に窒素等の不活性ガスを用いる場合に、安全面の管理のため、ガス濃度測定ポート10を介して酸素濃度計につなげるようにして、二重扉の隙間8の酸素濃度を監視する。なお、酸素濃度計に限らず、気密ブース1に供給するガスの種類に応じて、ガス濃度測定ポート10につなげるガス検出装置17の種類を変えるようにしてもよい。また、ポートを増設又は分岐することで、多種類のガス検出装置を用いて多種類のガス濃度を検出するような構成としてもよい。
【0027】
二重扉の隙間8の負圧は0Pa未満、より好ましくは-150Pa以上0Pa未満とする。二重扉の隙間8の負圧が弱すぎると、引戸5が閉状態でも開口部3に扉パッキン及び下部パッキン7が密着されず隙間が生じ、気密ブース1内の気密度を保つことができず、気密ブース内空間1S及び外部空間Oのガスが二重扉の隙間8を通って相互に流入又は流出してしまう虞がある。沓摺有又は沓摺無の状態による扉パッキンの潰れ量の測定により気密性の評価(潰れ量の測定位置は開口部3の左右辺部及び上部辺部の複数箇所)を発明者らが行ったところ、沓摺無の条件では、下部パッキン7と床面Fとの隙間が大きく、通気量が多くなり、-50Pa以下の負圧にすることができなかった。一方で、沓摺有の条件では、-150Pa以下で扉パッキンの潰れ量が変わらなかった。二重扉の隙間8の負圧が大きくなるほど通気量が多くなり、送風機12の動力も大きくなるので、、二重扉の隙間8における負圧の設定値は-150Pa以上とし、沓摺を設ける方が望ましいことが分かる。ただし、二重扉の隙間8の負圧が大きすぎると、引戸5がたわみ扉の変形や破損につながるので、負圧の下限を-500Paとする。
【0028】
扉パッキン及び下部パッキン7は、消耗品であり交換する必要がある。そこで、送風機12による吸引流量を一定とし、二重扉の隙間8の圧力管理をすることによりパッキンの交換時期や再調整、メンテナンス時期を判断するようにしてもよい。
【0029】
圧力測定ポート9、ガス濃度測定ポート10、及び吸引口11の位置は、図2では扉装置上部に設けるようにしたが、これに限るものではなく、扉装置の左右辺部等任意の場所であってもよく、一つ又は複数設けるようにしてもよいし、各ポートや吸引口の位置を入れ替えるようにしてもよい。また、温度を測定するポートを設けるようにしてもよい。一つのポートから分岐して、圧力やガス濃度等を測定するようにしてもよい。なお、吸引口11には塵埃等を除去するためのフィルタ等を設けるようにしてもよい。二重扉の隙間8の幅は任意とするが、大きすぎると気密ブースの容積が小さくなるが、前室として使える用途がある。また、安全面から人が入れないような寸法としてもよい。
【0030】
気密ブース1内は必要に応じて正圧であっても負圧であってもよい。この場合、送風機12により吸引流量等を調整することで、気密ブース内空間1Sの圧力と、二重扉の隙間8の圧力バランスを適宜調整する。例えば、気密ブース内空間1Sのガス供給量より二重扉の隙間8のガス吸引量が大きいと、気密ブースが負圧になる可能性がある。なお、気密ブース空間1Sの圧力と、二重扉の隙間8の圧力バランスは、気密ブース容積や開口部3の寸法、気密ブース1に供給するガス流量、気密ブース1内のガス排気流量、送風機12の吸引流量等さまざまな因子により変動する。
【0031】
図1に示すような片引きの引戸として本発明の扉装置を構成する場合、開口部3の寸法は任意であるが、上限値として、3000mmW(幅)×4000mmH(高さ)、より好ましくは2000mmW(幅)×3000mmH(高さ)とする。開口部の寸法が大きいと引戸からの通気量が増えることになるが、メンテナンス時の機器等の搬入及び搬出が容易となり、フォークリフトが通過できる寸法では、フォークリフトよる資材運搬も可能となる。
【0032】
以上、片引きの引戸を実施例として説明したが、両引きであってもよく、引戸に自閉機能を組み込むようにしてもよい。実施例1の扉装置は手動で開閉するようにしているが、自動で開閉するようにしてもよい。また、壁面2や引戸5には窓を設けてよいし、設けずともよい。必要に応じて錠前を設置するようにしてもよい。
【実施例0033】
以下、実施例1として気密ブース1に不活性ガスとして窒素を充填させる用途として、本発明の扉装置及び気密ブース1に係る動作について説明する。実施例1において、気密ブース1内は正圧とする。安全のため、外扉5aには電磁ロック14、内扉5bにはドアセンサ15を設ける。なお、電磁ロック14やドアセンサ15は、外扉5a及び内扉5bともに入れ替えてもよく、いずれか一方のみに設けたり、どちらとも電磁ロック又はドアセンサを一種類のみを用いるようにしてもよい。電磁ロックやドアセンサに限るものではなく、用途や目的に応じてその他の安全装置を用いるようにしてもよい。
【0034】
(A)窒素置換運転
例えば、大気環境であった気密ブース1に窒素を吹き込み、不活性ガス環境とする。窒素置換運転によって気密ブース空間1S内の酸素濃度は21%から徐々に低減する。窒素環境到達目標値として、気密ブース空間1S内の酸素濃度を例えば3000ppm以下とする。気密ブース1内に設けた窒素置換用排気口(図示せず)を開けることにより、気密ブース空間1S内のガスを大気から窒素に置換する。この場合、二重扉の隙間8のガスを吸引し続け、負圧を保っておく。窒素置換運転を始める場合、安全上、内扉5bに設けたドアセンサ15が閉状態の信号が検出されないと窒素置換運転が開始、すなわち窒素の供給が開始されないように設定してある。
【0035】
(B)窒素維持運転
気密ブース空間1S内の酸素濃度が、例えば3000ppm以下に到達後、窒素置換用排気口を閉め、窒素供給流量を減少させる。気密ブース空間1S内の圧力調整のため、窒素置換用排気口とは異なる窒素維持運転用排気ポート(図示せず)を開ける。この場合においても、二重扉の隙間8のガスを吸引し続け、-150Pa以上0Pa未満の負圧を保ち(例えば-50Pa)、設定した気密ブース空間1Sの正圧と二重扉の隙間8の負圧の圧力バランスを調整する。気密ブース空間1Sの正圧は、例えば100~200Paとし、酸素濃度は例えば3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下とする。窒素維持運転環境において、二重扉の隙間8の酸素濃度は、例えば6%となる。
【0036】
(C)大気ブレイク運転
気密ブース1内の製造装置のメンテナンスや調整等を行う場合、窒素による不活性ガス環境を大気環境に戻し、人が気密ブース1内に立入ることができるようにする(以下、「大気ブレイク」という。)。気密ブース空間1Sへの窒素の供給を停止し、大気を供給する。大気供給流量は、例えば、(A)窒素置換運転における窒素供給流量よりも大きくすると、短い時間で気密ブース空間1S内を窒素環境から大気環境にすることができる。窒素置換用排気口を開け、窒素維持運転用排気ポートを閉める。窒素置換用排気口から排気される流量をダンパ等の風量調整装置によって調整することで、気密ブース空間1S内の圧力を調整する。この場合、圧力測定ポート9より測定される圧力が正圧値になると、すぐに大気ブレイク運転が開始されるように設定してある。なお、安全上、ガス濃度測定ポート10より酸素濃度計にて測定された二重扉の隙間8における酸素濃度が安全設定値(例えば、19%)を超えないと、外扉に設けた電磁ロック14は解除されないように設定してある。二重扉の隙間8が負圧の状態で引戸5を開閉すると扉パッキン及び下部パッキン7が傷むことからも、理にかなったシステムとなっている。大気ブレイク完了後、大気の供給を停止し、窒素置換用排気口を開けたままとし、二重扉の隙間8の吸引口11からの送風機12による吸引を停止する。
【0037】
以上のように、必要に応じて(A)(B)(C)の運転を行う。このように、吸引量の制御により、二重扉の隙間8の負圧を管理し、気密ブース空間1S内のガスと外部空間Oのガスを隔離することにより相互に流入又は流出させないようにし、安全を確保することができる。なお、実施例1では不活性ガスとして窒素を例に説明したが、ヘリウムやアルゴン等の他の不活性ガスであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る扉装置は、クリーンブースやドライブース等の気密を保つことが必要な気密ブースにおいて、気密ブース内のガスと外部空間のガスが相互に流入又は流出することを防止できるので、例えば安全に不活性ガス環境を提供することができ、また、床面が略フラットで開口部も大きく設けることができるので、メンテナンスの際の機器の搬入及び搬出、フォークリフトによる商品や資材運搬等を容易に行うことができる気密ブースを提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 気密ブース
2 壁面
3 開口部
4 上枠
5 引戸
6 取手
7 下部パッキン
8 二重扉の隙間
9 圧力測定ポート
10 ガス濃度測定ポート
11 吸引口
12 送風機
13 風量調整装置
14 電磁ロック
15 ドアセンサ
16 圧力検出装置
17 ガス濃度検出装置
1S 気密ブース空間
F 床面
O 外部空間
図1
図2
図3