(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144230
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動方法および電子機器
(51)【国際特許分類】
H02N 2/06 20060101AFI20231003BHJP
H02N 2/04 20060101ALI20231003BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20231003BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
H02N2/06
H02N2/04
G02B7/08 B
G02B7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051111
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100160440
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和夫
【テーマコード(参考)】
2H044
5H681
【Fターム(参考)】
2H044BE04
2H044DA01
2H044DB04
5H681AA07
5H681BB07
5H681BB13
5H681BC01
5H681DD23
5H681FF26
5H681FF38
(57)【要約】
【課題】駆動周波数として使用可能な周波数帯域を増やすことができる駆動装置および駆動方法を提供する。
【解決手段】駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、ハイパスフィルタと、ローパスフィルタとを備え、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した駆動信号が前記圧電素子に印加される駆動装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
ハイパスフィルタと、
ローパスフィルタと、
を備え、
前記ハイパスフィルタおよび前記ローパスフィルタを通過した前記駆動信号が前記圧電素子に印加される
駆動装置。
【請求項2】
前記ローパスフィルタで決定される回路共振周波数をfc、前記ハイパスフィルタで決定される共振周波数fh、前記圧電素子のメカ共振周波数をfmとした場合、
fh<fm<fc
である
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記圧電素子のメカ共振周波数が前記ローパスフィルタで決定される回路共振周波数の約2倍である
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記駆動信号の駆動周波数が可聴帯域以上の周波数に設定されている
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動信号は、デューティ比が33~67%の矩形波電圧である
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記ローパスフィルタを構成する素子の回路定数が変更可能である
請求項1に駆動装置。
【請求項7】
前記ハイパスフィルタを構成する素子の回路定数が変更可能である
請求項1に駆動装置。
【請求項8】
前記圧電素子は伸縮によりカメラのフォーカス用のレンズを駆動させる
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項9】
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子に、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した前記駆動信号が印加される
駆動方法。
【請求項10】
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
ハイパスフィルタと、
ローパスフィルタと、
を備え、
前記ハイパスフィルタおよび前記ローパスフィルタを通過した前記駆動信号が前記圧電素子に印加される駆動装置
を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、駆動装置、駆動方法および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸に結合された圧電素子(ピエゾ素子)に駆動信号を供給して駆動軸を軸方向に変位させることにより移動部材を軸方向に移動させる駆動装置、いわゆるアクチユエ-タが知られている。
【0003】
そのような駆動装置としては、圧電素子とローパスフィルタを用いて構成する技術が提案されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電素子を備える駆動装置においては、圧電素子による移動部材が要求する移動速度以上を確保するための帯域、要求の電力以下に抑えて使用できる帯域、駆動装置を備える電子機器の制約上使用が制限されない帯域などに留意して駆動周波数を設定する必要がある。駆動周波数として使用可能な周波数帯域を増やして、周波数帯域内で駆動周波数として使用する帯域を変更できることが望ましい。その点において特許文献1の技術では不十分であるといえる。
【0006】
本技術はこのような問題点に鑑みなされたものであり、駆動周波数として使用可能な周波数帯域を増やすことができる駆動装置、駆動方法および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、第1の技術は、駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、ハイパスフィルタと、ローパスフィルタとを備え、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した駆動信号が圧電素子に印加される駆動装置である。
【0008】
また、第2の技術は、駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子に、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した駆動信号が印加される駆動方法である。
【0009】
さらに、第3の技術は、駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、ハイパスフィルタと、ローパスフィルタとを備え、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した前記駆動信号が前記圧電素子に印加される駆動装置を備える電子機器である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本技術の駆動装置100の構成を示す図である。
【
図2】本技術の駆動装置100の回路構成を示す図である。
【
図3】従来の駆動装置200の構成を示す図である。
【
図4】従来の駆動装置200の回路構成を示す図である。
【
図5】従来の駆動装置200における電流の周波数特性を示す図である。
【
図6】本技術の駆動装置100における電流の周波数特性を示す図である。
【
図7】従来の駆動装置200における速度と電力の周波数特性を示す図である。
【
図8】本技術の駆動装置100における速度と電力の周波数特性を示す図である。
【
図9】本技術の駆動回路150において回路定数を変化させた場合のキャパシタに流れる電流Icの周波数特性を示す図である。
【
図10】
図10Aは圧電素子110に流れる電流Imの周波数特性を示す図であり、
図10Bは駆動回路150全体に流れる電流Ieの周波数特性を示す図である。
【
図11】
図11Aは第1の例の速度の特性を示すグラフであり、
図11Bは第1の例の電力の特性を示すグラフであり、
図11Cは第1の例の回路定数を示す表である。
【
図12】
図12Aは第2の例の速度の特性を示すグラフであり、
図12Bは第2の例の電力の特性を示すグラフであり、
図12Cは第2の例の回路定数を示す表である。
【
図13】
図13Aは第1乃至第4の例の速度の特性を示すグラフであり、
図13Bは第1乃至第4の例の電力の特性を示すグラフであり、
図13Cは第1乃至第4の例の回路定数を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
<1.実施の形態>
[1-1.本技術の駆動装置100と従来の駆動装置200の構成]
[1-2.従来技術の課題と本技術の駆動装置100の動作]
<2.変形例>
【0012】
<1.実施の形態>
[1-1.本技術の駆動装置100と従来の駆動装置200の構成]
図1を参照して本技術における駆動装置100の構成について説明する。駆動装置100は例えば電子機器としてのカメラに搭載され、カメラのフォーカス用のレンズを駆動させる用途などで使用する。駆動装置100により本技術の駆動方法が実現される。なお、駆動装置100をカメラにおけるレンズ(移動体)の移動に使用した場合、レンズの形状、回路部品や圧電素子110のばらつき、板バネの摩擦力などがレンズの移動速度に影響する。
【0013】
駆動装置100は、圧電素子110、錘120、駆動軸130、移動枠140、駆動回路150により構成されている。
【0014】
圧電素子110は、伸縮方向の一端側が錘120に接着固定され、伸縮方向の他端側には駆動軸130の一端側が結合されている。圧電部分には対となる電極が設けられており、電極に交流電圧を印可すると圧電部分が信号に応じた伸縮を行うことで振動が発生する。
【0015】
駆動軸130は、一端側が圧電素子110に結合されていることにより圧電素子110の駆動に連動して軸方向に駆動自在に支持されている。
【0016】
駆動軸130には駆動軸130の径方向に板バネなどを介して与えられる付勢力によって発生する摩擦力により移動枠140が固定されており、移動枠140には移動体としてのカメラのレンズLが固着される。なお、レンズLはあくまで移動体の一例であり、移動体はレンズLに限定されるものではない。駆動軸130は圧電素子110の伸縮動作に連動して動作する可動部材として構成されている。
【0017】
駆動回路150により圧電素子110に駆動信号としての鋸波形の電圧が印加されると、圧電素子110の伸縮により駆動軸130が軸方向に駆動し、駆動軸130の軸方向に沿って移動枠140が移動することになる。これにより、移動枠140に固着されている移動体としてのレンズLが移動可能となる。このような駆動装置100は圧電素子110の共振振動を利用しているために移動枠140を移動させるための駆動周波数は電子機器の構造で決定される(数十kHz~数百kHz程度)。一般に駆動周波数は圧電素子の共振周波数の2/3倍の周波数の信号を与えるのがよいとされる。
【0018】
駆動回路150は電源151、ハイパスフィルタ152、ローパスフィルタ153を備えて構成されている。
図2に示すように、駆動回路150と圧電素子110は、キャパシタC1、キャパシタC2、キャパシタC3、インダクタL1、抵抗R1、抵抗R2、および、抵抗R3により構成されている。
【0019】
圧電素子110をキャパシタC1と、直列に接続された抵抗R1、キャパシタC2、インダクタL1とが並列に接続された等価回路とする。
図2の回路図は圧電素子110も含めて示す。
【0020】
ハイパスフィルタ152は、回路構成においてローパスフィルタ153の上流側に設けられており、抵抗R3、キャパシタC3、インダクタL3により構成されている。本技術では、駆動周波数よりも低い周波数にカットオフを有するハイパスフィルタ152を設けることで、従来の駆動方法に比べて消費電力を減らしながら、圧電素子110の駆動振幅を確保することができる。
【0021】
ローパスフィルタ153は抵抗R2、インダクタL2により構成されている。
【0022】
駆動回路150全体に流れる電流をIe、キャパシタC1に流れる電流をIc、ハイパスフィルタ152に流れる電流をIh、圧電素子110に流れて振動を発生させる電流をImとする。電流Ieに駆動電圧Vをかけたものが圧電素子110で使用される電力となる。なお、圧電素子110の駆動による移動枠140の移動速度∝電流Imとする。また、電流Icは圧電素子110の先端速度に比例する。
【0023】
図3に示す従来の駆動装置200は、圧電素子210、錘220、駆動軸230、移動枠240、駆動回路250により構成されている。圧電素子210、錘220、駆動軸230、移動枠240の構成は
図1に示す駆動装置100が備える圧電素子110、錘120、駆動軸130、移動枠140と同様のものである。
【0024】
図3および
図4に示すように従来の駆動装置200における駆動回路250はハイパスフィルタを備えず、電源251とローパスフィルタ252を備えて構成されている。駆動回路250においては抵抗やコイルを直列に接続して圧電素子210の容量成分と合わせて2次のローパスフィルタを備えるように構成される。または抵抗のみで1次のCRフィルタを備えるように構成される。
【0025】
図4では圧電素子210は、キャパシタC1と、直列に接続された抵抗R1、キャパシタC2、インダクタL1とが並列に接続された等価回路とする。また、ローパスフィルタ252は抵抗R2、インダクタL2により構成されている。
【0026】
図4に示すように従来の駆動回路250全体に流れる電流をIe、キャパシタC1に流れる電流をIc、圧電素子210に流れて振動を発生させる電流をImとする。電流Ieに駆動電圧Vをかけたものが圧電素子210で使用される電力となる。
【0027】
[1-2.従来技術の課題と本技術の駆動装置100の動作]
次に従来の駆動装置200における課題と本技術の駆動装置100の動作である駆動方法について説明する。
【0028】
従来の駆動装置200においては、圧電素子210には電源251により生成された矩形波である駆動信号が直接またはローパスフィルタ252を介して入力される。駆動信号は例えばデューティ比が33~67%の矩形波電圧であり、その駆動信号がローパスフィルタ252を通過して駆動周波数fで圧電素子210に印加すると、圧電素子210による駆動軸230の軸方向の振動波形がのこぎり波形状になり、軸先端はのこぎり波形上に振幅して速度差によって移動枠240が移動する。駆動信号のデューティ比を33~67%にすると移動枠140の移動速度が最大になる。デューティ比を50%にすると素子の振動は対称的になり、移動枠140の移動速度は0となる。
【0029】
その際、電流Ieと電流Imと周波数特性は
図5に示すようになり、圧電素子210と回路共振で駆動1倍波と2倍波を組み合わせたのこぎり波形を生成し、のこぎり波形により圧電素子210を駆動させる。
【0030】
従来の駆動装置200における電流Ieと電流Imの周波数特性は、圧電素子210によるピーク、ローパスフィルタ252によるピークという2つの山を有する形状となる。
【0031】
図5に示すf1とf2は駆動周波数の例を示しており、駆動周波数は特性のピークではなく、ピークよりわずかに低い周波数帯域に設定している。
【0032】
図5に示す周波数特性においては、駆動周波数f1と駆動周波数f2のどちらにおいても、駆動周波数を低くすると電流Imが下がり圧電素子210による移動枠240の移動速度が下がる。また、駆動周波数を高くすると電流Imが上がり圧電素子210による移動枠240の移動速度が上がるが電流Ieも大きくなるため駆動装置200における消費電力が大きくなる。
【0033】
一方、本技術の駆動装置100においては、圧電素子110には電源151により生成された矩形波である駆動信号がハイパスフィルタ152およびローパスフィルタ153を介して入力される。駆動信号は例えばデューティ比が33~67%の矩形波電圧である。その駆動信号がハイパスフィルタ152およびローパスフィルタ153を通過して駆動周波数fで圧電素子110に印加すると、圧電素子110による駆動軸130の軸方向の振動波形がのこぎり波形状になり、軸先端はのこぎり波形上に振幅して速度差によって移動枠140が移動する。
【0034】
その際、電流Ieと電流Imと周波数特性は
図6に示すようになり、圧電素子110と回路共振を2つにして反共振周波数でのこぎり波形を生成し、そののこぎり波形により圧電素子110を駆動させる。
【0035】
本技術の駆動装置100における電流Ieと電流Imの周波数特性は、従来の駆動装置200とは異なり、圧電素子110によるピーク、ローパスフィルタ153によるピーク、ハイパスフィルタ152によるピークという3つの山を有する形状となる。
【0036】
図6に示す周波数特性における電流Ieの谷は電流が流れにくい周波数帯域であり、その周波数帯域では電流Imは電流Ieほど下がってはいない。よって、駆動周波数f3、駆動周波数f4に示すように電流Ieの谷である周波数帯域を駆動周波数にすることにより圧電素子110に入力される電流Imを維持する、すなわち圧電素子110による移動枠140の移動速度を維持しながら電流Ieを下げて消費電力を下げることができる。これにより、従来より電力効率がいい駆動装置100を実現することができる。
【0037】
次に、本技術の駆動装置100における圧電素子110による移動枠140の移動速度について説明する。
【0038】
図7および
図8はCAE(Computer Aided Engineering)モデルで従来の駆動装置200と本技術の駆動装置100の効果を確認した結果である。
図7は従来の駆動装置200における電力と圧電素子210による移動枠240の移動速度の周波数特性であり、
図8は本技術の駆動装置100における電力と圧電素子110による移動枠140の移動速度の周波数特性である。
【0039】
図7に示すように従来の駆動装置200においては、駆動周波数30khz付近で確認すると、移動枠140の移動速度を上げようとすると電力も上がることがわかる。速度が上がる周波数帯域では電力も上がっている。
【0040】
一方、
図8に示すように、本技術の駆動装置100では電力のピーク帯域がシフトしている。また、圧電素子110による移動枠140の移動速度が略一定になっている周波数帯域(約33kHz~37kHz)が存在する。その速度が略一定である周波数帯域内であればどの周波数を駆動周波数にしても移動枠140の移動速度を維持しつつ、圧電素子110に流れる電流を減らすことで消費電力を下げて電力効率を高めることができる。
【0041】
よって、本技術の駆動装置100は、ハイパスフィルタ152とローパスフィルタ153を組み合わせて用いることで駆動周波数として使用可能な周波数帯域を増やすことができる。
【0042】
また、本技術の駆動装置100は、ハイパスフィルタ152とローパスフィルタ153を組み合わせて用いることで従来の周波数帯域とは異なる帯域を駆動周波数としても移動枠140の速度を出すことができる。ハイパスフィルタ152のカットオフ周波数や回路定数を変更することで圧電素子110の性能が確保できる帯域を変化させることができるので、移動枠140の移動速度を変えることなく駆動周波数として使用する周波数を選択できるようになる。これにより、圧電素子110を駆動させるための駆動周波数を変更することができるようになる。
【0043】
このように本技術では、駆動周波数に対する移動枠140の移動速度変化が低いロバストな構成を実現させて駆動装置100および駆動装置100が搭載される電子機器の品質を向上させることができる。
【0044】
例えば、従来の駆動装置200では駆動周波数が約30KHzで速度が33.5mm/s/1Wであるが、本技術の駆動装置100では駆動周波数約35KHzで速度が42.5mm/s/1Wとなり、本技術により電力効率を約30%高めることができる。このように、ハイパスフィルタ152を設けることで駆動周波数を35kHzに設定しても圧電素子110による移動枠140の移動速度を保つことができ、さらに駆動時の消費電力も減らすことができる。
【0045】
なお、上述の本技術の駆動装置100における駆動周波数35kHzはあくまで一例であり、本技術はその駆動周波数に限定されるものではない。
【0046】
本技術の駆動装置100においては、圧電素子110と駆動回路150で構成された周波数特性において、圧電素子110のメカ共振周波数fmとローパスフィルタ153の回路共振周波数fcに加えて、ハイパスフィルタ152の共振周波数fhが得られる。
【0047】
本技術においては回路定数を変えることで圧電素子110のメカ共振周波数fm、ハイパスフィルタ152の共振周波数fh、ローパスフィルタ153の回路共振周波数fcを変更することができる。
【0048】
メカ共振周波数fm近傍を駆動周波数とし、回路共振周波数fcが駆動周波数の二倍になるように駆動周波数を設定するが、ハイパスフィルタ152とローパスフィルタ153の回路定数の回路定数を変更することで性能が出る駆動周波数を任意に調整することができる。
【0049】
ハイパスフィルタ152の共振周波数fh、ローパスフィルタ153の回路共振周波数fc、圧電素子110のメカ共振周波数fmは下記の式1の関係を有していることが望ましい。これにより、従来の駆動装置200において用いている駆動周波数に近い周波数帯域で新たな駆動周波数を設定することができる。
【0050】
[式1]
fh<fm<fc
【0051】
また、圧電素子110の駆動により移動枠140を移動させるためには回路共振周波数fcがメカ共振周波数fmの概ね2倍の関係になっている必要があり、回路共振周波数fcとメカ共振周波数fmが下記の式2の関係を有している必要がある。
【0052】
[式2]
2×fm≒fc
【0053】
例えば、圧電素子110の等価回路を構成するキャパシタC1、抵抗R1、キャパシタC2、インダクタL1の回路定数を下記のように設定する。
【0054】
キャパシタC1:~100nF
抵抗R1:~0.2Ω
キャパシタC2:~300nF
インダクタL1:~100uH
【0055】
そして、ローパスフィルタ153を構成するインダクタL2、ハイパスフィルタ152を構成するキャパシタC3およびインダクタL3の回路定数を変化させることにより、
図9A、
図9Bの圧電素子110の先端振幅で示すように、ハイパスフィルタ152の共振周波数fh、ローパスフィルタ153の回路共振周波数fc、圧電素子110のメカ共振周波数fmを変化させることができる。この結果をもとに駆動周波数を決定することができる。
図9A、
図9Bでは各周波数特性のピークの位置が低い側から共振周波数fh、メカ共振周波数fm、回路共振周波数fcである。
図9A、
図9Bは電流Icの周波数特性を示すものであり、電流Icは圧電素子110の先端速度に比例する。なお、
図9に示す回路定数はあくまで一例であり、本技術はその値に限定されるものではない。
【0056】
また、圧電素子110に流れる電流Imと逆向きの電流Ihがハイパスフィルタ152に流れるように駆動回路150を設計することにより、駆動装置100における消費電力を減少させることができる。
【0057】
圧電素子110に流れる電流Imと逆向きの電流Ihがハイパスフィルタ152に流れる場合の電流Imの周波数特性は
図10Aに示すようになり、電流Ieの周波数特性は
図10Bに示すようになる。
【0058】
図10Aに示すように電流Imの特性は変化していないため、圧電素子110の駆動による移動枠140の移動速度は変わらない。一方、ハイパスフィルタ152を設けて、そのハイパスフィルタ152の回路定数を適切に設定することにより、
図10Bに示すように電流Ieの特性においては電流が流れない反共振周波数をシフトさせることにより、電流Ieを下げることができる。
【0059】
よって、
図10Bのグラフにおいて電流Ieが下がっている周波数帯域を駆動周波数とすることにより、圧電素子110に流れる電流Imの特性を変化させず、すなわち圧電素子の振動による移動枠140の速度を下げることなく、電流Ieを下げることができる。
【0060】
電流Imに対する電流Ihの位相差が180度で電流Imに対して電流Ihが逆向きになってハイパスフィルタ152に流れることにより、
図10Bのグラフの谷間の範囲では電流Ieが減っている。
【0061】
電流Imに対して電流Ihは逆向きであるため、駆動回路150全体に流れる電流Ieを含めて下記の式3の関係が成り立ち、駆動装置100全体における電流量が減少する。
【0062】
[式3]
Ie=Ih+Im≒0
【0063】
ハイパスフィルタ152を設けることにより振動の速度はほぼ一定のままで消費電力を減少させることができるので電力効率を高めることができる。
【0064】
また、駆動装置100の回路定数を調整することにより、駆動装置100のFV特性(速度と周波数の特性)を変化させて、速度周波数特性のピークの位置を変化させることができる。これにより複数の最適な駆動周波数を設定することができる。
【0065】
例えば、ローパスフィルタ153を構成するインダクタL2を60~80uHとし、ハイパスフィルタ152を構成するキャパシタC3を1.5uFとし、インダクタL3を80~100uHとした場合、駆動装置100のFV特性は
図11Aに示すようになり、電力特性は
図11Bに示すようになる。この場合、駆動周波数を26~28kHzにすることにより最適な速度で移動枠140を移動させることができる。
【0066】
また、ローパスフィルタ153を構成するインダクタL2を~15uHとし、ハイパスフィルタ152を構成するキャパシタC3を1~1.5uFとし、インダクタL3を~60uHとした場合、駆動装置100のFV特性は
図12Aに示すようになり、電力特性は
図12Bに示すようになる。この場合、駆動周波数を34~36kHzにすることにより最適な速度で移動枠140を移動させることができる。
【0067】
このように速度が最適となる駆動周波数を変化させることができることにより、特定の周波数帯域を避けるようにして駆動周波数を設定できるようになる。
【0068】
例えば
図13Aおよび
図13Bに示すように、20kHz以下は音のノイズになり得る可聴帯域であり、26~29kHzが他の共振デバイスの振動と干渉する帯域であり、30kHz以上がカメラのイメージャの磁気ノイズに干渉する帯域であるとする。これらの干渉を避けるために干渉する周波数帯域を回避するように駆動装置100を設計する必要がある。ただし、従来は駆動周波数を変更すると共振特性をうまく使えず速度がでなかったり、また消費電力が大きくなったりする問題があった。
【0069】
それに対して本技術では、
図13Cの表に示すように回路定数を設定することにより、それらの干渉帯域を避けつつ、速度が最適となる周波数帯域に駆動周波数を設定することができる。
【0070】
図13Cの表のAに示す回路定数では駆動周波数が23~25kHzで最適な速度になる。また、
図13Cの表のBに示す回路定数では駆動周波数が33~36kHzで最適な速度になる。
図13Cの表のCは逆走になる回路定数の組み合わせである。表のA、B、C、いずれの回路定数でも駆動信号の駆動周波数を可聴帯域以上の周波数に設定することができる。
図13Cの表のDに示す回路定数は、従来の駆動装置200における回路定数である。なお、上述した磁気ノイズの干渉領域はあくまで一例であり、駆動装置100が搭載される電子機器の種類や機種などによってその干渉帯域は異なり、電子機器によってはその干渉帯域を避けるか否かを選択して駆動周波数を決定することになる。
【0071】
以上のようにして本技術の駆動装置100が動作する。本技術によれば、駆動周波数として使用可能な周波数帯域を増やすことができる。また、圧電素子110による移動枠140の移動速度を維持しながら消費電力を下げることができ、従来より電力効率がいい駆動装置100を実現することができる。また、駆動周波数に対する移動枠140の移動速度変化が低いロバストな構成を実現させて駆動装置100および駆動装置100が搭載される電子機器の品質を向上させることができる。
【0072】
<2.変形例>
以上、本技術の実施の形態について具体的に説明したが、本技術は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0073】
実施の形態では電子機器としてのカメラにおけるレンズを駆動させる例を挙げて説明したが、本技術はカメラのレンズに限らず、カメラの撮像素子や、超音波モータ、ロボット、医療用マニピュレータ、ヘッドマウントディスプレイにおける画像補正など、駆動する構成を有する様々な機器に適用することができる。
【0074】
本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
ハイパスフィルタと、
ローパスフィルタと、
を備え、
前記ハイパスフィルタおよび前記ローパスフィルタを通過した前記駆動信号が前記圧電素子に印加される
駆動装置。
(2)
前記ローパスフィルタで決定される回路共振周波数をfc、前記ハイパスフィルタで決定される共振周波数fh、前記圧電素子のメカ共振周波数をfmとした場合、
fh<fm<fc
である(1)に記載の駆動装置。
(3)
前記圧電素子のメカ共振周波数が前記ローパスフィルタで決定される回路共振周波数の約2倍である(1)または(2)に記載の駆動装置。
(4)
前記駆動信号の駆動周波数が可聴帯域以上の周波数に設定されている(1)から(3)のいずれかに記載の駆動装置。
(5)
前記駆動信号は、デューティ比が33~67%の矩形波電圧である(1)から(4)のいずれかに記載の駆動装置。
(6)
前記ローパスフィルタを構成する素子の回路定数が変更可能である(1)から(5)のいずれかに記載の駆動装置。
(7)
前記ハイパスフィルタを構成する素子の回路定数が変更可能である(1)から(6)のいずれかに記載の駆動装置。
(8)
前記圧電素子は伸縮によりカメラのフォーカス用のレンズを駆動させる(1)から(7)のいずれかに記載の駆動装置。
(9)
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子に、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを通過した前記駆動信号が印加される
駆動方法。
(10)
駆動信号の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
ハイパスフィルタと、
ローパスフィルタと、
を備え、
前記ハイパスフィルタおよび前記ローパスフィルタを通過した前記駆動信号が前記圧電素子に印加される駆動装置
を備える電子機器。
【符号の説明】
【0075】
100・・・駆動装置
110・・・圧電素子
152・・・ハイパスフィルタ
153・・・ローパスフィルタ