IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特開-超伝導物質の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144257
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】超伝導物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231003BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20231003BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01B13/00 565D
C01G3/00
C01G1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051155
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】東 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西久保 匠
【テーマコード(参考)】
4G047
5G321
【Fターム(参考)】
4G047JC02
4G047KA02
4G047KA14
4G047KC01
5G321AA04
5G321DB21
(57)【要約】
【課題】従来より低い反応温度、短い加熱時間、少ないエネルギー消費で超伝導物質を製造するための技術の提供にある。
【解決手段】超伝導物質の製造方法は、イットリウム塩と、バリウム塩と、銅塩とを、中性又は酸性の溶液に溶解し、金属塩溶液を形成する工程と、金属塩溶液を、次亜ハロゲン酸塩及びアルカリ性化合物と混合して金属塩を析出させ、反応前駆体を形成する工程と、反応前駆体を加熱して、下記式(1)で表される化合物を含む超伝導物質を形成する工程と、を含む。
YBaCu7-y・・・(1)
[式(1)中、yは0≦y≦0.5を満たす。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導物質の製造方法であって、
イットリウム塩と、バリウム塩と、銅塩とを、中性又は酸性の溶液に溶解し、金属塩溶液を形成する工程と、
前記金属塩溶液を、次亜ハロゲン酸塩及びアルカリ性化合物と混合して金属塩を析出させ、反応前駆体を形成する工程と、
前記反応前駆体を加熱して、下記式(1)で表される化合物を含む超伝導物質を形成する工程と、
を含むことを特徴とする超伝導物質の製造方法。
YBaCu7-y・・・(1)
[式(1)中、yは0≦y≦0.5を満たす。]
【請求項2】
前記金属塩を析出させるのと同時に前記金属塩の金属を酸化させることを特徴とする請求項1に記載の超伝導物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体窒素の沸点より高い90K以上で超伝導転移を起こす高温超伝導物質として、YBaCu7-y(YBCO)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E. Takayama-Muromachi et al., Japanese Journal of Applied Physics, 26, L1156 (1987).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
YBCOの結晶系は斜方晶であるが、酸素欠損(y>0.5)により、超伝導を示さない正方晶が生成する。そのため、従来、YBCOは、酸化イットリウム、炭酸バリウム、酸化銅の混合物を1000℃以上で焼成後、低温(600℃以下)で十時間以上アニールすることによって合成されており、合成までに長時間を要していた。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、従来より低い反応温度、短い加熱時間、少ないエネルギー消費で超伝導物質を製造するための技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、超伝導物質の製造方法である。当該製造方法は、イットリウム塩と、バリウム塩と、銅塩とを、中性又は酸性の溶液に溶解し、金属塩溶液を形成する工程と、
金属塩溶液を、次亜ハロゲン酸塩及びアルカリ性化合物と混合して金属塩を析出させ、反応前駆体を形成する工程と、
反応前駆体を加熱して、下記式(1)で表される化合物を含む超伝導物質を形成する工程と、
を含む。
YBaCu7-y・・・(1)
[式(1)中、yは0≦y≦0.5を満たす。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来より低い反応温度、短い加熱時間、少ないエネルギー消費で超伝導物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る超伝導物質の磁化温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態に係る超伝導物質の製造方法によって製造される超伝導物質は、下記式(1)で表される化合物を含む。
YBaCu7-y・・・(1)
[式(1)中、yは0≦y≦0.5を満たす。]
この化合物は、層状ペロブスカイト構造型と呼ばれる結晶構造を有する。この超伝導物質は、後述する反応前駆体を加熱することによって、従来より低い反応温度、短い加熱時間、少ないエネルギー消費で製造される。
【0010】
(超伝導物質の製造方法)
本実施の形態に係る超伝導物質の製造方法は、金属塩溶液を形成する工程と、反応前駆体を形成する工程と、超伝導物質を形成する工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0011】
(金属塩溶液の形成工程)
当該工程では、イットリウム塩と、バリウム塩と、銅塩とを、中性又は酸性の溶液に溶解する。
【0012】
各構成金属の塩は、例えば硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。溶解度および溶液中での反応性の観点から、好ましくは、構成金属の塩は硝酸塩である。
【0013】
中性又は酸性の溶液としては、各構成金属の塩を溶解できる溶液であれば特に限定されない。そのような溶液の例としては、純水、希硝酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。構成金属の塩との反応性及び溶解性の観点から、希硝酸が好ましい。酸性溶液を用いる場合、アルカリ性化合物との共沈プロセスにおいて酸性溶液の濃度は薄い方が好ましい。ここで、希硝酸は、およそ20%以下程度の濃度のものを指す。なお、溶液は水溶液の他にも、アルコール等の有機溶媒と水との混合溶液であってもよい。
【0014】
(反応前駆体の形成工程)
当該工程では、前段で得られる金属塩溶液を、次亜ハロゲン酸塩及びアルカリ性化合物と混合して金属塩を析出させ、反応前駆体を形成する。これにより、各構成金属が均一に分散した複合酸化物が得られる。当該工程において、次亜ハロゲン酸塩は酸化剤として機能する。そのため、金属塩の析出と同時に金属塩の金属が酸化する。このように酸化剤として次亜ハロゲン酸塩を使用することによって、反応前駆体が酸素を十分に含むようになる。これにより、従来の合成法での長時間のアニール工程を省略でき、超伝導物質をより短時間で製造することができる。
【0015】
アルカリ性化合物は、金属塩溶液の酸性を中和できるものであれば、特に限定されない。アルカリ性化合物の例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
【0016】
次亜ハロゲン酸塩は金属塩溶液中に含まれる金属イオンを酸化するものであれば特に限定されない。例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜臭素酸カルシウムなどが挙げられる。
【0017】
金属塩の析出によって形成された反応前駆体を洗浄し、乾燥してもよい。反応前駆体の洗浄に用いる溶媒は、例えば水が挙げられる。反応前駆体の洗浄方法は、前段までに使用した薬品を取り除くことができるものであれば特に限定されない。例えば、遠心分離機とボルテックスシェイカーを使用し、複数回遠心分離、攪拌することによって反応前駆体の洗浄行うことができる。洗浄した反応前駆体の乾燥は、加熱、真空乾燥などによって行うことができる。例えば、反応前駆体を、60~200℃で6~24時間、乾燥することができる。温度条件は、好ましくは80~150℃であり、より好ましくは80~100℃である。乾燥時間は、好ましくは8~16時間、より好ましくは12~14時間である。
【0018】
(超伝導物質の形成工程)
当該工程では、反応前駆体を加熱する。これにより、上記式(1)で表される化合物が形成され、当該化合物を含む超伝導物質を得ることができる。当業者であれば、上記式(1)で表される化合物を含む超伝導物質を得ることができる温度および加熱時間の条件を適宜選択することができる。例えば、温度条件は、好ましくは700℃以上であり、より好ましくは800℃以上1000℃以下であり、さらにより好ましくは850℃以上950℃以下である。例えば、加熱時間は、好ましくは5分~12時間、より好ましくは10分~2時間である。反応前駆体の加熱は、例えば公知の電気炉にて行うことができる。所望の温度の条件を達成できるものであれば、装置の種類は特に限定されない。
【0019】
実施の形態にかかる方法では、最終生成物であるペロブスカイト酸化物の構成金属である、イットリウム、バリウム及び銅の塩を原料として用い、これらの原料を中性又は酸性の溶液に溶解し、金属塩溶液を得る。その後、金属塩溶液を次亜ハロゲン酸塩及びアルカリ性化合物と混合して、共沈により反応前駆体を形成する。これにより、長時間のアニール工程を必須とする従来の方法と比べて低い反応温度、短い加熱時間、少ないエネルギー消費で超伝導物質を製造することができる。よって、超伝導物質の産業化を促進することができる。
【実施例0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0021】
実施例1
1.33mmolの硝酸イットリウム、2.67mmolの硝酸バリウム、4mmolの硝酸銅を水に溶解させ、青色溶液を得た。この青色溶液を、10mLの炭酸カリウム水溶液(濃度4M)と、15mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度10%)の混合水溶液に滴下した。生じたゲルを遠心分離機を用いて、3度水で洗浄し(3700~6000G)、80℃の乾燥炉内で12時間乾燥させた。以上の工程により、反応前駆体を得た。
【0022】
得られた反応前駆体(100mg)を、電気炉を用いて、大気中900℃の条件下で30分間熱処理した。これにより、YBaCu7-yで表されるペロブスカイト型化合物を含む超伝導物質を得た。
【0023】
実施例1の超伝導物質について、超伝導量子干渉計により磁化温度依存性を測定した。図1に、実施例1に係る超伝導物質の磁化温度依存性を示す。
【0024】
図1に示すように、実施例1の超伝導物質は、90K以上の温度で超伝導転移を示すことが確認された。
【0025】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組み合わせや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本開示の範囲に含まれうる。
図1