(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144298
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】表面処理剤、エラストマー物品及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20231003BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20231003BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231003BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231003BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231003BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D123/26
C09D183/04
C09D5/00 D
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051209
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】青海 雄太
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020BA36
4J038CB141
4J038CP031
4J038DL031
4J038JA18
4J038JC30
4J038JC35
4J038JC36
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA14
4J038PA05
4J038PA06
4J038PA07
4J038PC07
(57)【要約】
【課題】ゴム等のエラストマー表面に、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に追従可能な表面処理層を形成することのできる表面処理剤を提供する。
【解決手段】表面処理剤は、変性ポリオレフィン系樹脂を含有する第1表面処理液と、式(1)で示されるフッ素含有化合物、互いに異なる2種類のシランカップリング剤、酸触媒及びアルコール系溶媒を含有する第2表面処理液との2液からなり、シランカップリング剤のうちの1種類が、テトラエトキシシランである。
式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数、yは0~100の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリオレフィン系樹脂を含有する第1表面処理液と、
下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、互いに異なる2種類のシランカップリング剤、酸触媒及びアルコール系溶媒を含有する第2表面処理液と
の2液からなり、
前記シランカップリング剤のうちの1種類が、テトラエトキシシランであることを特徴とする表面処理剤。
【化1】
上記式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項2】
前記アルコール系溶媒が、メタノール又はエタノールであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記シランカップリング剤は、前記テトラエトキシシランである第1シランカップリング剤と、第2シランカップリング剤とを含み、
前記第2シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン又は3-メルカプトプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記酸触媒が、6~12mol/Lの塩酸であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン系樹脂が、水酸基変性ポリオレフィン系樹脂又は酸変性ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記式(1)において、yが0であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記式(1)において、R
1で表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の表面処理剤。
【化2】
上記式(2)中、pは0~2の整数である。
【請求項8】
前記式(1)において、R2はメチル基であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項9】
前記式(1)において、xが1~10の整数であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項10】
エラストマー表面に対する表面処理に使用されることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項11】
エラストマー表面を有する基部と、
前記基部の前記エラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層と
を備え、
前記表面処理層は、変性ポリオレフィン系樹脂を含む第1表面処理層と、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物を少なくとも含む第2表面処理層とからなり、
前記エラストマー表面から順に前記第1表面処理層及び前記第2表面処理層が積層されていることを特徴とするエラストマー物品。
【化3】
上記式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理剤を用いて被処理基材の表面処理を行う表面処理方法であって、
前記被処理基材の表面に前記第1表面処理液を塗布することで、第1表面処理層を形成する工程と、
前記第1表面処理層に前記第2表面処理液をスプレー塗布することで、第2表面処理層を形成する工程と
を含み、
前記第1表面処理液に前記被処理基材を浸漬させることにより、又は前記被処理基材の表面に前記第1表面処理液をスプレー塗布することにより、前記第1表面処理層を形成することを特徴とする表面処理方法。
【請求項13】
前記スプレー塗布による前記第1表面処理液の塗布量と前記第2表面処理液の塗布量との体積比が、3:1~1:3の範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、エラストマー物品及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のフッ素系化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、非粘着性、防汚性等の表面特性を付与し得ることが知られている。このようなフッ素系化合物を含む表面処理剤により形成される表面処理層は、防汚層等の機能性薄膜として、例えば、ガラス、プラスチック、繊維、建築部材等の多種多様な基材に設けられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記フッ素系化合物を用いて、ゴム等のエラストマーに表面処理を施し、当該エラストマー表面に撥水性等の表面特性を付与するとともに、当該エラストマーの表面における非粘着性を向上させることが求められている。一方で、上記フッ素系化合物を用いた表面処理層に、エラストマーの伸縮に伴ってクラックが発生することがあるという問題がある。そのため、エラストマー表面の非粘着性を向上させ得るとともに、追従性も有する表面処理層を形成可能な表面処理剤が望まれている。
【0005】
上記課題に鑑みて、本発明は、ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に追従可能な表面処理層を形成することのできる表面処理剤及び表面処理方法、並びにそのような表面処理層を有するエラストマー物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、変性ポリオレフィン系樹脂を含有する第1表面処理液と、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、互いに異なる2種類のシランカップリング剤、酸触媒及びアルコール系溶媒を含有する第2表面処理液との2液からなり、前記シランカップリング剤のうちの1種類が、テトラエトキシシランであることを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0007】
【化1】
上記式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0008】
前記アルコール系溶媒として、メタノール又はエタノールを用いることができ、前記シランカップリング剤は、前記テトラエトキシシランである第1シランカップリング剤と、第2シランカップリング剤とを含み、前記第2シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン又は3-メルカプトプロピルトリメトキシシランであればよく、前記酸触媒として、6~12mol/Lの塩酸を用いることができ、前記変性ポリオレフィン系樹脂が、水酸基変性ポリオレフィン系樹脂又は酸変性ポリオレフィン系樹脂であればよく、エラストマー表面に対する表面処理に使用されるものであればよい。
【0009】
前記式(1)において、yが0であってもよく、R1で表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(2)で表される基であってもよく、R2はメチル基であってもよく、前記式(1)において、xが1~10の整数であってもよい。
【0010】
【化2】
上記式(2)中、pは0~2の整数である。
【0011】
本発明は、エラストマー表面を有する基部と、前記基部の前記エラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層とを備え、前記表面処理層は、変性ポリオレフィン系樹脂を含む第1表面処理層と、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物を少なくとも含む第2表面処理層とからなり、前記エラストマー表面から順に前記第1表面処理層及び前記第2表面処理層が積層されていることを特徴とするエラストマー物品を提供する。
【0012】
【化3】
上記式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0013】
本発明は、上記表面処理剤を用いて被処理基材の表面処理を行う表面処理方法であって、前記被処理基材の表面に前記第1表面処理液を塗布することで、第1表面処理層を形成する工程と、前記第1表面処理層に前記第2表面処理液をスプレー塗布することで、第2表面処理層を形成する工程とを含み、前記第1表面処理液に前記被処理基材を浸漬させることにより、又は前記被処理基材の表面に前記第1表面処理液をスプレー塗布することにより、前記第1表面処理層を形成することを特徴とする表面処理方法を提供する。
【0014】
前記スプレー塗布による前記第1表面処理液の塗布量と前記第2表面処理液の塗布量との体積比が、3:1~1:3の範囲内であればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に追従可能な表面処理層を形成することのできる表面処理剤及び表面処理方法、並びにそのような表面処理層を有するエラストマー物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について説明する。
[表面処理剤]
本実施形態に係る表面処理剤は、第1表面処理液と第2表面処理液とからなる2液型表面処理剤であって、特にゴム等のエラストマーの表面処理に好適に使用されるものである。第1表面処理液は、ゴム等のエラストマーの表面にプライマー層として機能する第1表面処理層を形成するために用いられるものであり、第2表面処理液は、当該プライマー層に機能層(例えば撥水層、非粘着層等)として機能する第2表面処理層を形成するために用いられるものである。
【0017】
第1表面処理液は、変性ポリオレフィン系樹脂と、溶媒とを含有する。
変性ポリオレフィン系樹脂とは、前駆体としてのポリオレフィン樹脂に、官能基を有する変性剤を用いた変性処理を施して得られるものであり、官能基を有するポリオレフィン樹脂である。変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、水酸基変性ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂等が用いられ得る。これらの水酸基変性ポリオレフィン系樹脂及び酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ユニストール(登録商標)P-801、ユニストール(登録商標)XP03F、ユニストール(登録商標)XP04A(いずれも三井化学社製)等が市販されており、これらを用いることができる。
【0018】
前駆体としてのポリオレフィン樹脂は、オレフィン系単量体に由来する繰り返し単位のみから構成された重合体であってもよいし、オレフィン系単量体に由来の繰り返し単位と共に、オレフィン系単量体以外の単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体であってもよい。
【0019】
上記ポリオレフィン樹脂としては、炭素数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体等を挙げることができる。具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ4-メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・へキセン共重合体等のα-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。
【0020】
水酸基変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリセロール、ラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル等が挙げられる。
【0021】
酸変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤は、後述する架橋反応に寄与し得る官能基を分子内に有する化合物であればよい。架橋反応に寄与し得る官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物に由来の基、カルボン酸エステル基、水酸基、エポキシ基、アミド基、アンモニウム基、ニトリル基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基、アセチル基、チオール基、エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ホスホン基、ニトロ基、ウレタン基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの官能基のうち、カルボキシル基、カルボン酸無水物に由来の基、カルボン酸エステル基、水酸基、アンモニウム基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基が好ましい。なお、酸変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤は、上記官能基のうちの2種以上を分子内に有する化合物であってもよい。
【0022】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリオレフィン樹脂に、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、アコニット酸等の不飽和カルボン酸及び/又は無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物を反応させて、カルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物に由来の基を導入(グラフト変性)することで得られる。
【0023】
変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~2000000程度であればよく、好ましくは20000~1500000、より好ましくは25000~250000、特に好ましくは30000~150000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、例えば、テトラヒドロフランを溶媒として用いた、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であればよい。
【0024】
第1表面処理液に含まれる溶媒としては、上記変性ポリオレフィン系樹脂を溶解可能なものであり、かつ本実施形態に係る表面処理剤による表面処理対象であるエラストマーを侵さないものであればよく、例えば、トルエン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を用いることができる。
【0025】
第1表面処理液において、変性ポリオレフィン系樹脂と溶媒との含有比(質量基準)は、例えば、1:10~1:60程度であればよく、好ましくは、1:10~1:30程度であればよい。
【0026】
第1表面処理液は、トルエン、n-ヘキサン等の上記溶媒に上記変性ポリオレフィン系樹脂を溶解させることで調製され得る。
【0027】
上記第1表面処理液は、溶媒に溶解した変性ポリオレフィン系樹脂により構成されるため、エラストマー表面に対して密着性を有し、かつ後述の第2表面処理液により形成される第2表面処理層に対して密着性を有する第1表面処理層を形成することができる。この第1表面処理層の第2表面処理層に対する密着性が強すぎると、第2表面処理層により発現される非粘着性に悪影響を及ぼすおそれがあるが、第1表面処理層の第2表面処理層に対する密着性は、第2表面処理層により発現される非粘着性に悪影響を与えない程度である。また、第1表面処理液は、エラストマー表面の伸縮に対し良好な追従性を有する第1表面処理層を形成することができる。
【0028】
エラストマー表面に使用されるプライマーとして、変性テルペンフェノール樹脂及びメルカプト系シランカップリング剤を含むものが知られているが、当該プライマーに含まれるメルカプト系シランカップリング剤が吸湿(吸水)してしまうと架橋してゲル化してしまう。上記第1表面処理液は、吸湿(吸水)により架橋してゲル化するようなシランカップリング剤を含まないため、保管が容易であって、安定的に長期保管が可能である。
【0029】
第2表面処理液は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、互いに異なる2種類のシランカップリング剤と、酸触媒と、アルコール系溶媒とを含有する。
【0030】
【化4】
式(1)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0031】
式(1)において、R1で表されるフルオロアルキル基を含有する基としては、例えば、-CF3、-C2F5、-C3F7、-C6F13、-C7F15等の-CqF2q+1(q=1~10)で表されるフルオロアルキル基;オキシフルオロアルキレン基等を挙げることができ、これらのうち、下記式(2)で示されるオキシフルオロアルキレン基であるのが好ましい。
【0032】
【0033】
式(1)において、R2で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2のアルキル基が挙げられ、R2で表されるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の炭素数2~4のアルコキシアルキル基が挙げられる。これらのうち、R2で表される基としては、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0034】
式(1)において、R3及びR4で表される有機基としては、例えば、下記式(i)~(v)で示される基を挙げることができる。
【0035】
【0036】
式(1)において、トリアルコキシシリル基又はトリアルコキシアルコキシシリル基(-Si(OR2)3)が結合する中間鎖(-CH2-CH-)の数xは、1~100であり、好ましくは1~50、より好ましくは1~10、特に好ましくは2~3である。また、中間鎖(-CH2-CR3R4-)の数yは、0~100であり、好ましくは0~50、より好ましくは0~10、特に好ましくは0である。
【0037】
上記フッ素含有化合物として好適な化合物としては、下記式(3)~(7)で示される化合物を例示することができる。特に、上記フッ素含有化合物が式(3)又は式(6)で示される化合物(式(1)においてy=0である化合物)であると、1分子中に占められるフッ素原子の割合が大きくなる。
【0038】
【0039】
【0040】
【化9】
式(4)及び式(5)中、R
1’は、-CF(CF
3)OCF
2CF(CF
3)OC
3F
7で表される基である。式(4)中、xaは1~100の整数である。式(5)中、xbは1~100の整数であり、ybは1~500の整数である。
【0041】
【化10】
式(6)中、xcは1~10の整数であり、ycは0~100の整数である。
【0042】
【化11】
式(7)中、xdは1~10の整数であり、ydは0~100の整数である。
【0043】
上記式(1)で示されるフッ素含有化合物は、下記式(Ia)で示されるフッ素含有過酸化物の存在下に、下記式(Ib)で示される単量体と、下記式(Ic)で示される単量体とを重合させることにより得られる。なお、この反応生成物(フッ素含有化合物)中には、フルオロアルキル基を含有する基(R1)が片末端のみに導入されているオリゴマーが任意の割合で含まれていてもよい。
【0044】
【化12】
式(Ia)~(Ic)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表す。
【0045】
本実施形態における第2表面処理液は、互いに異なる2種類のシランカップリング剤として、第1シランカップリング剤と、第2シランカップリング剤とを含む。第1シランカップリング剤としては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS,Si(OC2H5)4)を用いることができる。第2シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン等を用いることができる。第2表面処理液が互いに異なる2種類のシランカップリング剤(第1シランカップリング剤及び第2シランカップリング剤)を含み、特に第2シランカップリング剤が第1シランカップリング剤に比して反応性が高いことで、第2表面処理層を形成するときにおける反応性を向上させることができるため、良好な非粘着性及び追従性を有する第2表面処理層を短時間に形成することができる。
【0046】
酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸等を用いることができ、好ましくは塩酸を用いることができる。酸触媒の濃度としては、例えば、6~12mol/Lであればよく、10~12mol/L程度であるのが好ましい。第2表面処理液が酸触媒を含むことで、第2表面処理層を形成するときにおける反応性を向上させることができるため、良好な非粘着性及び追従性を有する第2表面処理層を短時間に形成することができる。
【0047】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等を用いることができ、好ましくはメタノールを用いることができる。第2表面処理液がアルコール系溶媒を含むことで、第2表面処理層を形成するときにおける反応性を向上させることができるため、良好な非粘着性及び追従性を有する第2表面処理層を短時間に形成することができる。
【0048】
本実施形態における第2表面処理液は、上記フッ素含有化合物、第1シランカップリング剤(TEOS)、第2シランカップリング剤及びアルコール系溶媒を混合した後、酸触媒を添加して10分~1時間程度攪拌することで調製され得る。
【0049】
上記第2表面処理液によれば、第1表面処理液によりエラストマー表面に形成される第1表面処理層上に、非粘着性及び追従性に優れた第2表面処理層を形成することができる。
【0050】
[表面処理方法]
本実施形態における表面処理方法は、本実施形態に係る表面処理剤を用いて被処理基材であるエラストマー表面の表面処理を行う表面処理方法である。表面処理方法は、被処理基材の表面に第1表面処理液を塗布することで、第1表面処理層を形成する工程と、第1表面処理層に第2表面処理液をスプレー塗布することで、第2表面処理層を形成する工程とを含む。
【0051】
被処理基材としては、表面処理剤により表面処理される表面がエラストマーにより構成されているものであればよく、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、ウレタンゴム(AU,EU)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)及びそれらのエラストマー(ゴム)により構成されるゴム製品(例えば、Oリング、Xリング、アンブレラ、バルブ等)であってもよいし、エラストマー(ゴム)と金属や樹脂等との複合体であってエラストマー表面を有するもの等であってもよい。
【0052】
第1表面処理層を形成する工程において、第1表面処理液に被処理基材を浸漬させることで被処理基材の表面に第1表面処理液を塗布してもよいし、被処理基材の表面に第1表面処理液をスプレー塗布してもよい。
【0053】
被処理基材の表面に第1表面処理液をスプレー塗布する場合において、第1表面処理液のスプレー塗布量と第2表面処理液のスプレー塗布量とは、体積比で3:1~1:3程度であればよく、3:2~1:1程度であるのが好ましい。スプレー塗布量の体積比が上記範囲内であることで、非粘着性及び追従性を併せ持つ表面処理層を形成することができる。
【0054】
表面処理層を形成する領域は、被処理基材のエラストマー表面の一部であってもよいし、全面であってもよい。
【0055】
本実施形態において、第1表面処理液及び第2表面処理液を被処理基材の表面に塗布することで形成された塗膜を加熱してもよい。加熱方法としては、オーブンによる加熱、熱プレスによる加熱等が挙げられるが、特に制限されるものではない。加熱条件としては、例えば、100~180℃で10~60分程度、好ましくは120~160℃で10~30分程度である。このようにして被処理基材のエラストマー表面に表面処理層を形成することで、エラストマー表面を有する基部と、基部のエラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層(第1表面処理層及び第2表面処理層の積層体)とを備えるエラストマー物品を製造することができる。
【0056】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0057】
以下、製造例、試験例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。
【0058】
〔製造例1〕第1表面処理液の製造例
変性ポリオレフィン系樹脂(ユニストール(登録商標)XP03F,ユニストール(登録商標)XP04A,ユニストール(登録商標)P-801,いずれも三井化学社製)を溶媒(トルエン(Tol),ヘキサン(Hex))に溶解させることで、第1表面処理液(L1-1~L1-10)を調製した。各第1表面処理液における変性ポリオレフィン系樹脂及び溶媒の仕込み量を表1に示す。
【表1】
【0059】
〔製造例2〕第2表面処理液の製造例
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物と、シランカップリング剤(第1シランカップリング剤としてのテトラエトキシシラン(TEOS)及び/又は第2シランカップリング剤としての3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)もしくは3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS))と、溶媒(メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)又はアセトン(Acetone))とを混合し、酸触媒(0.1M塩酸又は12M塩酸)を添加してさらに10分間攪拌することで、第2表面処理液(L2-1~L2-37)を調製した。各第2表面処理液におけるフッ素含有化合物、シランカップリング剤(第1シランカップリング剤及び/又は第2シランカップリング剤)、溶媒及び酸触媒の仕込み量を表2に示す。
【0060】
【0061】
〔製造例3〕表面処理されたゴムシートの製造例1
8cm×8cmの正方形の領域内に、2cm角の正方形状のゴムシート(シリコーンゴムシート(Q)、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EPDM)、フッ素ゴムシート(FKM))を準備し、各ゴムシートの一方面に、製造例1で調製した第1表面処理液(L1-1~L1-3)をスプレー塗布して第1表面処理層を形成した。次に、第1表面処理層上に、製造例2で調製した第2表面処理液(L2-1~L2-37)をスプレー塗布して第2表面処理層を形成し、第1表面処理層及び第2表面処理層が形成されたゴムシート(試料1~47)を150℃で10分間焼成した。第1表面処理液及び第2表面処理液の種類、並びにそれらのスプレー塗布量を表3~7に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
〔製造例4〕表面処理されたゴムシートの製造例2
2cm角の正方形状のゴムシート(シリコーンゴムシート(Q)、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EPDM)、フッ素ゴムシート(FKM))を準備し、各ゴムシートを第1表面処理液(L1-4~L1-10)に1分間浸漬させて第1表面処理層を形成した。次に、第1表面処理層上に、製造例2で調製した第2表面処理液(L2-22)をスプレー塗布して第2表面処理層を形成し、第1表面処理層及び第2表面処理層が形成されたゴムシート(試料48~56)を150℃で10分間焼成した。第1表面処理液の種類及び第2表面処理液のスプレー塗布量を表8に示す。
【0068】
【0069】
〔試験例1〕TAC試験
試料1~56のゴムシートをプローブタック試験装置(製品名:タッキング試験機TAC-II,レスカ社製)に取り付け、ゴムシートの第2表面処理層に対し100gfの荷重を印加しながら3秒間プローブ(SUS製の円柱プローブ(直径:5.1mm))を接触させた後、プローブを試験片の表面に対する垂直方向に600mm/minの速度で剥離し、剥離するために要する力(粘着力,gf)を測定した。結果を表9~11に示す。また、同様にして、表面処理層(第1表面処理層及び第2表面処理層)を形成していないシリコーンゴムシート(Q)、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EPDM)、フッ素ゴムシート(FKM)についても、粘着力(gf)を測定したところ、シリコーンゴムシート(Q)の粘着力は194.7gf、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)の粘着力は285.7gf、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EPDM)の粘着力は486.5gf、フッ素ゴムシート(FKM)の粘着力は387.5gfであった。
【0070】
〔試験例2〕追従性試験
試料1~56のゴムシートについて、追従性に関する試験を行った。この試験は、ゴムシートを面積基準で25%まで及び50%まで一方向に伸長させながら当該ゴムシートの表面処理層に亀裂が生じているか否かを、目視又は走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより行った。結果を表9及び表10にあわせて示す。なお、表9~11における「追従性」の項目において、50%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じなかったものを「○」、50%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じたものを「△」、25%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じたものを「×」とした。
【0071】
【0072】
【0073】
表9及び表10に示す結果から、変性ポリオレフィン系樹脂を含有する第1表面処理液と、上記フッ素含有化合物、TEOS及びそれと異なる種類のシランカップリング剤、酸触媒及びアルコール系溶媒を含有する第2表面処理液との2液からなる表面処理剤でエラストマー(ゴム)表面を処理することで、優れた非粘着性を有するとともに、ゴム等の伸縮に追従可能な追従性を有する表面処理層を形成可能であることが確認された。一方で、第2表面処理液が、TEOS、又はAPTMSもしくはMPTMSを含む、すなわち1種類のシランカップリング剤を含むものである試料1~30においては、非粘着性及び追従性のいずれかにおいて劣る結果となった。