(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144340
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231003BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231003BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20231003BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20231003BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B7/023
C08L33/00
C08L67/00
C08K5/092
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051262
(22)【出願日】2022-03-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古川 仁美
(72)【発明者】
【氏名】松居 久登
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK42
4F100AK42A
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA08
4F100EH20
4F100EJ42
4F100GB41
4F100HB00
4F100JA05
4F100JA11
4F100JA11A
4F100JA12
4F100JA12B
4F100JA12C
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100JK04
4F100JK06
4F100JN06
4F100JN06A
4F100JN06B
4F100JN06C
4F100JN18
4J002BG011
4J002BG051
4J002CF001
4J002EF106
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 本発明は、長期にわたり反射特性を維持でき、曲面や屈曲性が要求される部位にも使用可能な高光沢積層フィルムとすることを課題とする。
【解決手段】 異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有し、波長400~800nmにおける平均反射率が30%以上であり、かつ、100℃で30分間にわたり熱処理を行ったときの反射率変化ΔR(100℃・30min)が30%以下であることを特徴とする、積層フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有し、波長400~800nmにおける平均反射率が30%以上であり、かつ、100℃で30分間にわたり熱処理を行ったときの反射率変化ΔR(100℃・30min)が30%以下であることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験でのマス目の剥離率が10%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
L*SCE(D65)が0.1%以上30%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
積層フィルムの層数が101層以上901層以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
異なる熱可塑性樹脂層の種類が3種類であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
積層フィルムにおける異なる3種類の熱可塑性樹脂層をそれぞれA層、B層、C層とし、繰り返し数をmとしたときに、(A/B/C/B)mの繰り返しユニットを有することを特徴とする、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち、少なくとも1種類が融点220℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂層の主成分がポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレンナフタレートであることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち屈折率の最も低い熱可塑性樹脂層が、シクロヘキサンジカルボン酸を含んでなる共重合ポリエステル、アクリル樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記異なる3種類の熱可塑性樹脂層が、結晶性/半結晶性/非晶性の熱可塑性樹脂層、あるいは、結晶性/非晶性/非晶性の熱可塑性樹脂層の組み合わせで構成されることを特徴とする、請求項5~9のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項11】
曲げ剛性が0.5×10-7[N・m2]以上5.2×10-7[N・m2]以下であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項12】
波長240~2600nmの範囲において、反射率が100nm以上にわたって連続して20%以上を示す最も広い反射帯域Πの反射帯域幅をλ[nm]、当該反射帯域での平均反射率R[%]、フィルム厚みをt[μm]としたとき、(λ・R)/tが750以上1300以下を示す、請求項1~11のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の積層フィルムを用いてなる、加飾フィルム。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載の積層フィルム、または請求項13に記載の加飾フィルムを用いてなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期にわたり反射特性を維持でき、曲面や屈曲性が要求される部位にも好適に使用可能な、光沢の高い積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特定波長帯域の光線を遮蔽・抽出可能な光制御フィルムは、光や熱線などの環境因子から製品の内部環境や構成成分の劣化を防止する目的や、特定波長帯域の光線のみを抽出して所望の色調に発色させる目的で、多岐の分野にわたり実用化されている。代表例として、建材や自動車用途では室内温度上昇を抑制するための赤外線カットフィルムが、工業材料用途では紫外線レーザー表面加工時の過剰な紫外線を吸収するための紫外線カットフィルムが利用されている。また、電子情報分野ではディスプレイ光源から発せられる眼に有害な青色光線を遮蔽するブルーライトカットフィルムや、拡散・喪失するバックライトの光を再帰反射させることができる輝度向上フィルムが利用されており、自動車内装材やモバイル筐体用途では金属調を付与するための可視光全域を反射する金属調フィルムなどが利用されている。
【0003】
部材に金属調を付与する手法としてメッキやスパッタ、蒸着などがあるが、これらは金属層のため電磁波シールド性が発生し、自動車やモバイル筐体などの加飾材料として用いると電波障害を生じる場合があり問題となっていた。さらに、部材のリサイクルが困難であることや、曲面部位に使用すると割れが発生することなどの欠点もあり、近年の曲面ディスプレイやフォルダブルディスプレイへの適用が困難であった。
【0004】
このような欠点を補う、つまり、特定の波長帯域のみの光線を遮蔽でき、かつ、曲面や屈曲性が要求される部位にも使用可能な、光沢の高い積層フィルムとして、屈折率の異なる層をフィルム厚さ方向に積層し、光干渉論に基づく干渉反射を利用した反射タイプの光制御フィルムが注目されている。中でも、屈折率の異なる2種類の層(A層、B層)を交互に積層する(AB)m構成(括弧内は繰り返し単位、mは繰り返し単位の数を表す自然数)で特定の波長の光を選択的にカットする光制御フィルムは多くの公知技術が報告されており、例えば、ある一定の波長帯域において光線を反射できる技術(特許文献1、2、3)や、干渉反射の色むらが視認され難くする技術(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-537723号公報
【特許文献2】特開2012-88694号公報
【特許文献3】特開2014-228837号公報
【特許文献4】WO2019/163891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4が開示する(AB)m構成(括弧内は繰り返し単位、mは繰り返し単位の数を表す自然数)の反射タイプの光制御フィルムにおいて、高反射率化・反射帯域の広帯域化を実現するためには、積層数を増やす、あるいは2種類の樹脂層の屈折率差を高めることが必要となる。しかしながら、前者の場合はフィルム厚みが厚くなり近年の薄膜化傾向に反する態様となるため、曲面や屈曲性が要求される部位への適用が困難な点が課題である。後者の場合は骨格構造の異なる樹脂同士を積層する必要があり、樹脂層の界面で剥離が起こりやすくなるため、反射特性を長期間にわたり維持することが困難な点が問題となる。そのため、特許文献1~4が開示する(AB)m構成の反射タイプの光制御フィルムには実用面での大きな問題があった。
【0007】
上記の課題を解決するべく、本発明は、長期にわたり可視光反射特性を維持でき、曲面や屈曲性が要求される部位にも好適に使用できる積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は次の構成からなる。すなわち、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有し、波長400~800nmにおける平均反射率が30%以上であり、かつ、100℃で30分間にわたり熱処理を行った時の反射率変化ΔR(100℃・30min)が30%以下であることを特徴とする、積層フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、長期にわたり可視光反射特性を維持でき、曲面や屈曲性が要求される部位にも好適に使用可能な積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(ABCB)mの繰り返し単位を有する積層フィルムの断面図の一例である(括弧内は繰り返し単位、mは繰り返し単位の数を表す自然数)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層フィルムについて詳細を説明する。本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有し、波長400~800nmにおける平均反射率が30%以上であり、かつ、100℃で30分間にわたり熱処理を行ったときの反射率変化ΔR(100℃・30min)が30%以下であることを特徴とする、積層フィルムである。
【0012】
本発明の積層フィルムは、干渉反射により所望の反射特性を実現しつつ、実際のフィルム加工における実際の使用条件下および長期使用条件下で、積層フィルムの光学特性の変化が極めて少なく、層間の剥離が極めて生じにくいものである。
【0013】
本発明の積層フィルムにおいて、熱可塑性樹脂層が「異なる」とは、(1)組成が異なる、(2)示差走査熱量測定(DSC)において、ガラス転移温度や融点が異なる、(3)透過型電子顕微鏡観察(TEM)で断面観察したときの染色後の画像のコントラストが異なる、の少なくとも一つに該当する場合を指す。
【0014】
「組成が異なる」とは、以下に示す「組成が同じである」と見なす条件に該当しないことをいう。「組成が同じ」であるとは、各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の化学構造の繰り返し単位が95mol%以上共通している場合、若しくは各熱可塑性樹脂層の構成成分を比較したときに95%質量%の成分が共通する場合をいう。
【0015】
例えば、前者について、ポリエチレンテレフタレートであれば、エチレングリコール単位とテレフタル酸単位がエステル結合により結合した構成単位(エチレンテレフタレート単位)を主たる構成単位として有するが、ホモポリエチレンテレフタレートからなる層とイソフタル酸を10mol%共重合させたポリエチレンテレフタレートからなる層のように、層を構成する樹脂がポリエチレンテレフタレートという共通の化学構造を有しながら共重合成分量が5mol%を超える場合は両者の組成が異なるものとみなす。また、後者について、ホモポリエチレンテレフタレートのみからなる層とホモポリエチレンテレフタレートを90質量%含み残りの10質量%が他の成分である層のように、同じ構成成分を主成分としつつも5質量%を超える成分が互いに異なる場合も、両者の組成が異なるものとみなす。
【0016】
各熱可塑性樹脂層の具体的な組成/化学構造の繰り返し単位構造は、後述の測定方法の層構成に記載の方法に従い各熱可塑性樹脂層の層厚みを把握した後、当該熱可塑性樹脂層を切削して取り出す、あるいは、当該層を削り最表層に出すことで、赤外分光法(FT-IR法やナノIR法)、ガスクロマトグラフ/飛行時間型質量分析計(GC-MS)、核磁気共鳴装置(NMR)等を利用して特定することが出来る。なお、主成分とは層中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいい、以下同様に解釈することができる。
【0017】
一方で、熱可塑性樹脂層ごとに抽出できる上で、上記方法による組成の同定が困難であれば、示差走査熱量測定(DSC)において、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層が、異なる融点および/またはガラス転移温度を示すことで「異なる」ことを判断する。なお、本発明において、異なる融点、異なるガラス転移温度を示すとは、融点、ガラス転移温度が0.1℃以上異なっていることを表す。なお、後述の測定方法における示差走査熱量測定(DSC)の項に記載の25℃以上300℃以下の測定温度範囲において、熱可塑性樹脂がガラス転移温度および融点を示さない場合があるが、一方の熱可塑性樹脂層がガラス転移温度あるいは融点を示し、もう一方の熱可塑性樹脂層が示さない場合は温度差として算出はできないが、樹脂の熱特性は異なるものとして解釈する。
【0018】
さらに、上記2通りの方法で特定が困難であれば、透過型電子顕微鏡観察において観察される断面画像でコントラスト差による層界面が確認できる場合、若しくは後述の層界面(コントラスト差)に記載の方法により、隣接する2層の輝度の平均値の差が、隣接する熱可塑性樹脂層の「組成が異なる」と判断してもよい。本コントラストは、電子線の散乱、結晶回折などに起因して生じることから、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の組成が前述の基準に従って異なる場合、各熱可塑性樹脂の種類や共重合量に応じて、結晶性や電子密度状態が異なるため、染色状態が異なることにより、積層フィルムの断面画像において各層をコントラスト差のある層構造として視認することが可能となる。
【0019】
本発明の積層フィルムの熱可塑性樹脂層を形成するために用いられる代表的な熱可塑性樹脂を以下に示すが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂は下記に記載したものに限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリイソブチレン,ポリイソプレン、ポリブタジエン,ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテンなどに代表されるポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などに代表されるポリアミド樹脂、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アクリルメタクリレートコポリマー、エチレン/ノルボルネンコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー,プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマーなどに代表されるビニルモノマーのコポリマー樹脂、ポリアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリルアミド,ポリアクリロニトリルなどに代表されるアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどに代表されるポリエステル樹脂、ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシド、ポリアクリレングリコールに代表されるポリエーテル樹脂、エチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロースに代表されるセルロースエステル樹脂、ポリ乳酸,ポリブチルサクシネートなどに代表される生分解性ポリマー、その他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリシロキサン、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。
【0020】
これらの熱可塑性樹脂は1種類単独で利用しても、2種類以上のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイとして利用してもよい。ポリマーブレンドやポリマーアロイとすることで、1種類の熱可塑性樹脂からは得られない物理的・化学的性質を得ることができるほか、相溶性の大きく異なる熱可塑性樹脂層の間にこのようなポリマーブレンド・ポリマーアロイを配置することで、層間密着性を向上させることができる。これらの中でも、強度・耐熱性・透明性・積層性にかかるレオロジー特性の観点から、熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、特にポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂から選択されることが好ましい。
【0021】
本発明の積層フィルムは異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有することが重要である。「異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有する」とは、上記定義を基準に照らし合わせて判断したときに、3種類以上の熱可塑性樹脂層を有することをいう。例えば、積層フィルムに3種類の熱可塑性樹脂層があるときに、いずれの組み合わせで熱可塑性樹脂層を比較しても上記の「異なる」の定義に該当する場合は、当該積層フィルムが異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有するといえる。また、積層フィルムに4種類以上の熱可塑性樹脂層があるときも、その中の3つの熱可塑性樹脂に着目して全ての組み合わせで熱可塑性樹脂層を比較し、いずれの組み合わせにおいても上記の「異なる」の定義に該当する場合は、当該積層フィルムが少なくとも異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有するといえる。なお、4種類以上の熱可塑性樹脂層があるときは、上記「異なる」の定義を満たす熱可塑性樹脂がさらに多くてもよい。
【0022】
本発明の積層フィルムにおいて、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有する態様としては、前述の記述に倣い、3種類の異なる分子骨格構造を有する熱可塑性樹脂から各熱可塑性樹脂層が形成されていてもよく、2種類の骨格構造を有する熱可塑性樹脂層を用い、3つの熱可塑性樹脂層でそれらの混合比あるいは共重合量が異なるように設計することも出来る。本発明の積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層で形成される場合も同様に、2種類の異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂の混合や共重合で4種類の異なる組成の熱可塑性樹脂層を形成しても、3種類の異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂の混合や共重合で4種類の異なる組成の熱可塑性樹脂層を形成してもよく、また、全く異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂層を4種類用いることもできる。なお、4種類を超える熱可塑性樹脂層を有する積層フィルムにおいても同様である。
【0023】
また、繰り返し単位を構成する熱可塑性樹脂層の種類は、製造工程の煩雑化を抑えつつ所望の反射特性を実現する観点から、熱可塑性樹脂層の種類が3種類であることが好ましい。以下、異なる熱可塑性樹脂層をA層、B層、C層、D層・・・として記載し、繰り返し単位を表す場合は、各層をA、B、C、D・・・と記載することもある。本発明の積層フィルムが、異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有する場合、異なる3種類の熱可塑性樹脂層をA層、B層、C層とした場合、一定の繰り返し単位を有する構成としては、例えば、(ABC)m、(ABCB)m、(ACBC)m、(BACA)m、(ABABC)m、(ACACB)m、(BCBCA)m、(ABCBCB)m、(ACBCBC)m、(BACACA)m、(BCACAC)m、(CABABA)m、(CBABAB)m(括弧内が繰り返し単位であり、mは繰り返し単位の数を表す自然数)などを挙げることができる。
【0024】
中でも、積層フィルムが熱可塑性樹脂層の界面で剥離しないためには、界面を形成する隣り合う熱可塑性樹脂層の組み合わせの種類が少ないことが好ましい。具体的には、3種類の異なる熱可塑性樹脂から形成される界面は、A-B界面、B-C界面、C-A界面の3種類が挙げられるが、前記繰り返し単位の中で、(ABCB)m、(ABCBCB)m、(CBABAB)mはA-B界面およびB-C界面の2種類、(ACBC)m、(ACBCBC)m、(BCACAC)mはA-C界面およびB-C界面の2種類、(BACA)m、(BACACA)m、はA-B界面およびA-C界面の2種類しか存在しない。そのため、積層フィルムの層間剥離レスを実現するための熱可塑性樹脂層の組み合わせを検討するにあたり、このような態様ではA層、B層、C層のある一つの層と他の2層の層間密着性のみを考慮すればよい。そのため、上記のような態様とすることは、層間密着性の高い積層フィルムをより容易に形成しやすくなる点で好ましい。
【0025】
本発明の積層フィルムの最表層は、両表層とも同じ熱可塑性樹脂層が配されることが好ましい。両表層が同じ熱可塑性樹脂を主成分とする層で構成されることで、後述する製造方法において、ロール延伸時にロールとフィルムの粘着防止のために、ロールと接触する熱可塑性樹脂層の熱特性に合わせてロール温度を調整する必要がなくなる。そのため、上記態様は、両最表層に配される熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の熱特性に合わせて、当該熱可塑性樹脂を主成分とする単膜フィルムを製膜する場合と同様の製膜工程で積層フィルムを得ることが可能となるため好ましい。
【0026】
さらに、最表層に位置する熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、両表層とも結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする層であることが好ましい。最表層に位置する熱可塑性樹脂層が非晶性樹脂を主成分とする場合、後述の製造方法で二軸延伸積層フィルムを得る場合に、ロールやクリップなどの製造設備への粘着による製膜不良や表面状態の悪化が生じたことや、延伸時に応力が立たず延伸が不均一になってフィルム面内で均一な物性・光学特性を有する積層フィルムが得られないことなどの問題が生じる場合がある。結晶性の判断は、当該熱可塑性樹脂層を切削して抽出し、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて、融解エンタルピーの有無を確認することで判断できる。
【0027】
本発明の積層フィルムは、後述の光学特性を満足することが重要であるが、積層フィルムが干渉による反射の効果を示すためには、熱可塑性樹脂層の屈折率差を高めることが重要となる。そのため、高屈折率を示す熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、延伸工程により屈折率を高めることが出来る、結晶性の熱可塑性樹脂からなることが好ましい。さらに前記の製膜性も考慮すると、特に、積層フィルムの最表層に位置する熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることが特に好ましい。熱可塑性樹脂層の屈折率が低いことは、当該層を構成する熱可塑性樹脂が非晶性である場合が多く、前記の製膜性の観点でも不利となる。
【0028】
以下、便宜のため、結晶性を示す熱可塑性樹脂層が、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層の中に含まれる場合は、少なくともA層は結晶性を示す熱可塑性樹脂層であることを前提として記述する。この場合、異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有する好ましい繰り返し単位の積層フィルムの中では、(ABCB)mA、(ABCBCB)mA(括弧内が繰り返し単位であり、mは自然数)、が好ましい繰り返し単位構成となる。なお、
図1は(ABCB)mAの構成を有する積層フィルムの例を表している。
【0029】
積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層(A層、B層、C層、D層)を有する場合、例えば、(ABCD)m、(ABDC)m、(ACBD)m、(ABCDCB)m、(ABDCDB)m、(ACBDBC)m、(ACDBDC)m、(ADBCBD)m、(ADCBCD)m、(BACDCA)m、(BADCDA)m、(BCADAC)m、(BCDADC)m、(BDACAD)m、(BDCACD)m、(CABDBA)m、(CADBDA)m、(CBADAB)m、(CBDADB)m、(CDABAD)m、(CDBABD)m、(DABCBA)m、(DACBCA)m、(DBACAB)m、(DBCACB)m、(DCABAC)m、(DCBABC)m(括弧内が繰り返し単位であり、mは繰り返し単位の数を表す自然数)などの繰り返し単位を有する積層フィルムとすることができる。
【0030】
積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層を有する場合においても、層間密着性を付与するために、隣接する熱可塑性樹脂層で形成される界面の種類は少ないことが好ましいため、前記繰り返し単位の中では、(ABCDCB)m、(DCBABC)mの繰り返し単位が好ましい。さらに、前述のように、最表層に配される熱可塑性樹脂層が結晶性の熱可塑性樹脂で形成されていることが、製膜性の観点で好ましいことを考慮すると、(ABCDCB)mの繰り返し単位を有することがより好ましい。
【0031】
繰り返し単位に用いられる熱可塑性樹脂からなる層の種類および繰り返し単位の並びについては、無論前記に限定されるものではないが、層の種類が増えることで同時押出するための押出機数が増えるほか、界面の種類が増えて界面密着性を付与するための樹脂設計が複雑となる。また、レオロジー挙動の異なる熱可塑性樹脂をより多く、同じ温度で積層するため、積層装置から口金でシート化するまでの工程における積層乱れも起こりやすくなる。さらに、樹脂層を合流する積層工程も煩雑になることから、5種類以上とすることは現実的ではない。
【0032】
本発明において重要な特徴である可視光領域・高反射を実現するには、光干渉反射を発生する繰り返し単位の数(前記mに相当)が多いことも重要である。本発明の積層フィルムのフィルム設計と光学性能の関係としては、類似する厚みの繰り返し単位が複数存在することで高反射率化、その繰り返し単位の厚みに傾斜を付与することで広反射帯域が実現できる。さらに、繰り返し単位の中において、後述する隣接した熱可塑性樹脂層の屈折率の関係や、各熱可塑性樹脂層の屈折率と層厚みの積で表される光学厚みを一定の関係に制御することで、高次反射抑制を実現することが出来る。
【0033】
先に記載したように異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有することで、各層間に屈折率差を生じさせることが可能であり、このような態様とすることで各層間の屈折率の差と層厚みとの関係より特定の波長の光を反射させることが出来る光学理論に基づく光干渉反射を発現させることが可能となる。具体的には、界面を挟んで隣接する各熱可塑性樹脂を主成分とする層の層厚みをdx、dy(x,y=A,B,C・・・)、および、隣接する層の屈折率差をΔn=|ny-nx|とした場合に、式(1)に従い反射光線波長(λ)が、また、隣接する層の屈折率差Δnに基づく式(2)に従い反射率(R)が概ね決定される(なお、式(1)、式(2)において、θx、θyは積層フィルムの面直方向から見て当該層への入射角、隣接する層へと入射する際の入射角を指し、kは任意の自然数である。)。ここで、隣接する層に同一の屈折率を有する熱可塑性樹脂を利用する場合、特に面直方向に入射した光に対しては、反射率を表す式(2)の分子が0となるため、界面における干渉反射が発生しないことを意味する。
【0034】
【0035】
【0036】
本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を連続して3つ以上有することが必要である。ここで規則配列とは、積層構成において一定の規則で繰り返される繰り返し単位をいい、例えば、(ABCB)mA、の構成(mは繰り返し単位の数を表す自然数)におけるABCBがこれにあたる。規則配列を連続して3つ以上有することで干渉反射が生じやすくなるため、積層フィルムの反射率向上や反射波長帯域拡張が可能となる。干渉反射を生じさせる観点から、規則配列数は好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは80以上である。規則配列数は多ければ多いほど干渉反射を発現しやすいが、製造装置の大型化に伴う製造コストの増加、積層工程の複雑化に伴う積層乱れ・積層比率の幅方向傾斜による積層フィルム幅方向均一性の悪化、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化などを軽減する観点から、300以下であることが現実的である。
【0037】
本発明の積層フィルムにおいては、積層フィルムの層数が101層以上901層以下であることが好ましい。異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される規則配列を有しつつ、層数を101層以上とすることで、十分に干渉反射を発生しやすくなり、高反射率に加えて、広反射帯域も実現しやすくなる。一方、積層数を901層以下に留めることにより、製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や積層ムラなどを抑えることができる。上記観点から積層フィルムの層数は、より好ましくは301層以上701層以下であり、さらに好ましくは401層以上701層以下である。
【0038】
本発明の積層フィルムは、積層フィルムを構成する各熱可塑性樹脂層の層厚みが、いずれも単調に増加または減少する層厚み分布、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後に減少する層厚み分布、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後に増加する層厚み分布等に設計することができる。また、層厚み分布の傾斜形態は、線形、等比、階差数列といった連続に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものに設計することができる。
【0039】
また、積層フィルム中に同じ層厚みを有する層が多く存在するほど、特定の波長における反射率が高まるため、高反射率化に向けては層厚みの増加・減少の傾斜分布が複数存在する層厚み分布であることが好ましいが、同じ積層数で同じ波長帯域をターゲットとする場合、傾斜分布が複数存在する分布の方が、単調増加/減少を示す分布と比べて、少ない積層数で狙いの反射波長帯域に相当する層厚み分布を設計する必要があるため、層厚み分布の傾斜が大きくなる。これにより、反射帯域の端部がブロード化することや、複数の傾斜分布間で干渉反射距離が生じることで反射率のベースラインのうねりの大きさが強くなることにより、視認方向に応じた積層フィルムの色むらが強くなる問題が生じる場合がある。前記問題を生じないために、積層フィルムを構成する各熱可塑性樹脂層の層厚みは、単調に増加、あるいは、単調に減少する層厚み分布を示すことが好ましい。
【0040】
本発明の積層フィルムは、波長400~800nmにおける平均反射率が30%以上であることが必要である。これにより、光沢感のあるフィルムを得ることができる。そのためには、規則配列を有する熱可塑性樹脂層の層厚みを徐々に厚く、もしくは薄くすることにより、反射する帯域を希望の値に近づけることができる。また、波長400~800nmにおける平均反射率を30%以上とするには、各層の厚みを反射帯域の波長に適したものとするために、フィルム全体の厚みを調節することも効果的である。上記観点から、波長400~800nmにおける平均反射率は、より好ましくは60%以上である。当該反射率が上がるほど光沢感が高くなり、金属調の外観とすることが可能となる。
【0041】
なお、ここでいう平均反射率とは、後述する方法にて測定した各波長の反射率を全て足し合わせ、測定波長数で割ったものである。反射率測定時のサンプリングピッチは1nmであることから、波長400~800nmの測定波長数は401となる。
【0042】
本発明の積層フィルムは、100℃で30分間にわたり熱処理を行ったときの反射率変化ΔR(100℃・30min)が30%以下であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。なお、ここでいう反射率変化ΔRとは、熱処理前の波長400~800nmの平均反射率(R1)と100℃の雰囲気下で30分間加熱した後の波長400~800nmの平均反射率(R2)の差(R1-R2)である。ここで、熱処理前の反射率と熱処理後の反射率は、同サンプルの同測定位置で比較しなければならない。なお、30分間加熱した後の波長400~800nmの平均反射率(R2)もサンプルの加熱処理を行う点以外は上記方法で測定することができる。
【0043】
例えばフィルムの熱収縮が大きいと、加熱によってフィルム厚みが変化して加熱前とは反射率が変化したり、違う波長帯域に反射が生じたりすることがある。また、加熱によって、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂の配向や結晶化度が変化すると、熱可塑性樹脂の屈折率の変化が生じ、加熱前に比べ光学性能が変化することがある。すなわち、ΔRは、通常、フィルムの熱収縮を抑えることや、加熱による熱可塑性樹脂の配向や結晶化度の変化を軽減することにより小さくすることができる。本発明の積層フィルムはこれらを克服したものである。
【0044】
より具体的には、ΔR(100℃・30min)を30%以下にするには、例えば用いる熱可塑性樹脂の少なくとも1種を非晶性樹脂とするとよい。より好ましくは、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1種が非晶性樹脂と結晶性樹脂を50:50~99:1の割合でコンパウンドした樹脂組成である。このような場合、加熱による分子配向や結晶性が両者の樹脂のナノアロイ構造によって変化しにくいために、加熱による光学性能の変化を抑制することが可能となる。また、本発明の積層フィルムを構成する結晶性樹脂層、非晶性樹脂層の積層比率を最適化することで熱処理による熱収縮を抑制することも可能である。フィルム製造工程のプロセス条件では、延伸後の熱処理工程温度を延伸温度以上、積層フィルムの融点温度以下とすることで熱収縮を抑制することが可能となる。
【0045】
本発明の積層フィルムは、JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験でのマス目の剥離率が10%以下であることが好ましい。なお、以下「JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率」を単に剥離率ということがある。積層フィルムの剥離は、各熱可塑性樹脂内部で破断が起きて剥離する凝集/材料破壊、熱可塑性樹脂層間の界面で剥離する界面破壊の両方によって生じると考えられるが、クロスカット試験ではその両方に起因する剥離を捉えることができる。いずれの破壊も、積層フィルムを長時間にわたり使用する場合には発生してはならない現象であり、クロスカット試験において剥離率が10%以下であることは、積層フィルムとして長期信頼性を備えていることを示す。
【0046】
一方、クロスカット試験において10%を超える剥離率を示す場合は、長期使用において積層フィルム界面からの破壊が発生し、例えば、加工工程において、ロールでのフィルム搬送中に界面で剥離による浮きが生じることや、断裁工程において断面部分でクラックが生じることで、積層フィルムとは異なる位置に設けた保護フィルム剥離時の剥離強度に負けて積層フィルム界面で剥離が生じる場合がある。また、繰り返し折り曲げが行われるような工程や用途においては、界面での浮きが生じることで、積層フィルム由来の物性・光学特性が失われる問題が発生することがある。上記観点から、剥離率はより好ましくは、3%以下であり、最も好ましくは剥離率0%である。層間密着性を高めるためには、隣接する熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を小さくすることが好ましい。ここで述べるところの相溶性パラメータとは、熱可塑性樹脂固有のエネルギーに関するパラメータであり、これらの数値が近いものほど、樹脂同士が混ざりやすいことを表す指標である。
【0047】
本発明の積層フィルムにおいて、高い層間密着性を得る(剥離率を低くする)ために、界面を形成する隣接する熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータ(SP値)の絶対値の差は1.5以下であることが好ましい。隣接する熱可塑性樹脂層同士の熱可塑性樹脂の相溶性が良好であることで、積層状態での層間剥離が生じにくくなる。
【0048】
相溶性パラメータは、Hansen、Hoy、およびFedors等の計算法によって推算することができるが、有機高分子材料として好適に用いることができる熱可塑性樹脂の相溶性パラメータは、分子鎖の繰り返し構造単位に基づき計算が可能なFedorsの計算法を用いる。この方法を用いることにより、共重合成分由来の構造単位を含む熱可塑性樹脂の相溶性パラメータは、各構造単位の比率に従って簡便に比率計算することができる。Fedorsの計算法では、置換基の種類や数に依存する分子の凝集エネルギー密度およびモル分子体積が相溶性パラメータを決定させており、式(3)に従い相溶性パラメータが推算される。ここで、Ecoh(cal/mol)は凝集エネルギーを、Vはモル分子体積(cm3/mol)を表す。
【0049】
【0050】
本発明の積層シートにおける相溶性パラメータは、Fedorの式に基づいて計算した推算値の小数第2位を四捨五入した数値とする。なお、代表的な熱可塑性樹脂の相溶性パラメータとしては、酢酸セルロース:11.0、セルロース:15.6、ポリアクリロニトリル:14.8、ポリアミド:13.6、ポリイソブチレン:7.7、ポリエチレン:8.0、ポリエチレンテレフタレート:10.7、ポリ塩化ビニル:10.1、ポリ酢酸ビニル:9.5、ポリカーボネート:9.9、ポリスチレン:9.4、ポリビニルアルコール:12.6、ポリフェニレンサルファイド:12.5、ポリブタジエン:8.3、ポリプロピレン:8.1、ポリメタクリル酸メチル:9.3などが挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂層が、複数の熱可塑性樹脂を含む場合、各熱可塑性樹脂単体の相溶性パラメータの値を有機高分子材料の含有比率と掛け合わせて合計した数値を、該熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータとする。例えば、ポリエチレンテレフタレート成分(相溶性パラメータ:10.7)とポリメタクリル酸メチル(相溶性パラメータ:9.3)が50:50の比率で含有されている場合は、両相溶性パラメータの中間値にあたる10.0が当該層の相溶性パラメータとなる。
【0052】
一般的に2つの熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を小さくする方法としては、2つの熱可塑性樹脂層における主成分である熱可塑性樹脂の骨格構造を共通のものとする方法が挙げられる。例えば、隣接する熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を抑えるには、これらの熱可塑性樹脂層の主成分を互いに共通の骨格構造を有する熱可塑性樹脂とした上で、共重合成分やアロイ/ブレンドの種類を変える態様することで、2つの熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を小さくすることができる。隣接する2つの熱可塑性樹脂層が互いに共通する化学構造を有することで、隣接する熱可塑性樹脂同士の強い分子間力が働き、高分子の界面拡散が起こり層界面を構成する厚み領域が増えることで、密着性を高める効果を奏する。
【0053】
本発明の積層フィルムは、広い反射波長帯域を達成するために、高い屈折率を示す層と低い屈折率を示す層の屈折率差を高める目的で、骨格構造の異なる熱可塑性樹脂を積層する場合がある。しかし、一般的には、骨格構造が異なり、相溶性パラメータの差が大きい樹脂同士を積層する場合、層間密着性に乏しく剥離が発生することがある。従来の公知例においても、高い反射率を示すために骨格構造の異なる熱可塑性樹脂の組み合わせた記述・実施例や、得られる積層フィルムの光学特性について記載した内容が多く見受けられるが、このような積層フィルムは所望の光学特性を満足するものの、層間剥離が発生して実用化が困難な場合が多い。本発明において、剥離率を10%以下または上記の好ましい範囲とする方法としては、層間密着性を高めるように樹脂設計・フィルム設計を調整する方法を用いることができ、以下その方法について説明する。
【0054】
層間密着性を高める好ましい樹脂設計の一つの態様として、前述したように、隣接する熱可塑性樹脂層の片側を構成する熱可塑性樹脂に、もう片側の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を共重合、アロイ、あるいはブレンドする手法が挙げられる。例えば、A/B/C/Bの繰り返し単位を有する積層フィルムにおいて、熱可塑性樹脂B層が、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Cのブレンドあるいはアロイ原料となっていることを表す。本手法が最もよく利用され、簡便な手法であるが、層を主に構成する熱可塑性樹脂内に、異なる基本骨格を有する成分が共存する形となるため、分散混合状態によっては、層を主に構成する熱可塑性樹脂内に異なる基本骨格を有する成分が海島構造(ドメイン)として存在し、白濁度(ヘイズ)が上昇して積層フィルムの透明性を損なう場合がある。特に、相溶性パラメータの差が大きい熱可塑性樹脂同士をブレンド/アロイする場合には、この海島構造が生じやすいことから、屈折率差を高めるために基本の化学構造が全く異なる樹脂同士を熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bに適用する場合は、好ましくない。異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂同士の分散度を高めるためには、二軸以上のスクリューを備える混錬押出機を用い、添加剤混錬時の吐出量に対するスクリュー回転数の比率を上げる、もしくは、スクリューの混錬に係るセグメントのアレンジメントをよりスクリュー同士が深く噛み合う形に変更し、混錬度を上げることが好ましい。もしくは、熱可塑性樹脂の相溶性を高めるような、共通骨格を有する添加剤を含ませることが好ましい。
【0055】
層間密着性を高める樹脂設計の他の態様として、片側の熱可塑性樹脂層に、隣接する熱可塑性樹脂層と同じ基本骨格を有する未反応性官能基を有する反応性添加剤を予め反応させ、両層に共通骨格の成分を含有させ相溶性を高める方法が挙げられる。具体的には、片側の層を構成する熱可塑性樹脂に含まれる未反応末端基、もしくは、片側の層内に予め添加した添加剤に含まれる末端基と、反応性添加剤とを反応させ、隣接する層との同じ基本骨格構造を持つ成分を付与し、相溶性を高める方法である。このような反応を実現するための官能基としては、例えば、片側の層にカルボキシル基末端が含まれる場合は、反応性添加剤としてフェノール基,エポキシ基やアミノ基などカルボシキル基と反応性の高い末端基を含む添加剤を、また、片側の層がアルコキシシリル基末端を含む場合は、反応性添加剤として無機フィラーや金属成分を含む添加剤を、添加することで達成できる。本手法の場合、熱可塑性樹脂を共重合、アロイ、あるいはブレンドする場合と同様に、分散状態によるヘイズ上昇の問題が起こることに加え、未反応の添加剤が積層工程前の時点において熱が加えられた際に反応がさらに進み、レオロジー特性が変化して積層乱れが発生する問題が生じる場合がある。
【0056】
さらに、層間密着性を高める樹脂設計の別の態様として、隣接する片側の熱可塑性樹脂層に、もう片側の熱可塑性樹脂層内に含まれる未反応官能基成分と反応する未反応官能基を含ませる処方が挙げられる。この方法では、積層工程で個別の押出機から供給された熱可塑性樹脂が積層装置内での積層工程中に反応するため、前者の方法のように各層を構成する熱可塑性樹脂のレオロジー挙動を積層工程前に変化させることないため、積層乱れを発生することなく、密着性を高めることができるため好ましい。このような反応を実現する官能基の組み合わせとしては、前記した官能基の組み合わせを利用することができる。
【0057】
層間密着性を高めることが出来る好ましい製膜条件として、延伸後に190℃以上の熱処理温度で熱処理することが挙げられる。高温での熱処理工程を経ることで、界面において樹脂同士の流動性が向上して拡散し、両熱可塑性樹脂層が相溶した界面が得られるため、熱処理温度が低い場合と比べて界面密着性を高めることができる。熱処理温度は好ましくは200℃以上である。熱処理温度が高すぎると、熱可塑性樹脂の種類によっては結晶の融解により屈折率が変化し、光学特性が変わる場合がある。熱処理温度は、230℃以下にすることが好ましい。熱処理温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いてフィルムの熱特性を昇温測定したときの微結晶融解温度(Tmeta)で把握することが出来る。
【0058】
本発明の積層フィルムは、L*SCE(D65)が0.1%以上30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。L*SCE(D65)を30%以下とすることで、積層フィルムに入射した光が反射する際に拡散光が減少し、より光沢のあるフィルムを得ることが可能となる。L*SCE(D65)を15%以下とするとより光沢度の高い金属調の外観を有するフィルムとなるため好ましい。光沢度が高いフィルムは高級感があり、種々の加飾に好適に使用される。また、このような積層フィルムは、蒸着やスパッタ等の金属層を設ける加工を施していないことから、電磁波透過性やリサイクル性にも優れる。
【0059】
L*SCE(D65)を30%以下とするためには、製膜に用いる樹脂と添加粒子および/または添加剤の相溶性が良好なものを使用する方法を採用することができる。相溶性が良好であれば延伸時のボイド発生を抑制でき、L*SCE(D65)の上昇を抑制することが可能なためである。また、樹脂と粒子の屈折率差が小さいことも重要である。屈折率差が大きいと光の散乱が大きくなり、L*SCE(D65)が高くなる。なお、巻き取り性の観点から、樹脂への粒子添加もしくは積層フィルム表層への易滑層付与が必要なことから、L*SCE(D65)は0.1%以上となる。なお、SCEとは「Specular Component Exclude」の略であり、正反射光を除去し、拡散反射光だけを測定した数値のことである。つまり、L*SCE(D65)とは、D65光源の拡散反射光のみの明度を指す。
【0060】
本発明の積層フィルムは3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち、少なくとも1種類が融点220℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。少なくとも1種類が融点220℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることで、寸法安定性や耐熱性に優れる積層フィルムとなる。なお融点の測定は、示差走査熱量測定(DSC)により行うことができ、その詳細は後述する。
【0061】
本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂層の主成分がポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレンナフタレートであることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは屈折率1.58、ポリエチレンナフタレートは屈折率1.65であり、未延伸の状態でも高屈折率を示す熱可塑性樹脂であり、延伸することでより高い面内屈折率を示すことができ、かつ、光学用途に適した高透明性、汎用性などを兼備した結晶性の熱可塑性樹脂であり好ましい。なお、ここでいう屈折率とは、ナトリウムネオンランプの波長590nmにおける屈折率をいい、これは公知のアッベ屈折率計で測定することができる。
【0062】
本発明の積層フィルムにおいて、屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層は、未延伸の状態で低屈折率を示す熱可塑性樹脂、特に屈折率1.54以下を示す熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。例えば、たとえば、単独の熱可塑性樹脂で低屈折率を示す樹脂としては、フッ化エチレン-プロピレンコポリマー(1.34)、ポリフッ化ビニリデン(1.42)、ポリブチルアクリレート(1.46)、ポリ乳酸(1.46)、ポリメチルペンテン(1.46)、ポリイソブチルメタクリレート(1.48)、ポリメチルアクリレート(1.48)、ポリエチルメタクリレート(1.48)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、セルロースアセテート(1.49)、ポリプロピレン(1.50)、ポリブチレン(1.50)、ポリアクリロニトリル(1.51)、エクデル(Ecdel;商標)(1.52)、ナイロン(1.53)、ポリエチレン(1.54)、などが挙げられる。無論、これらのブレンド品、アロイ品などを用いてもよく、前記の熱可塑性樹脂をベースとして、屈折率向上、層間密着性向上に寄与するような共重合成分を加えてもよい。また、最終的な熱可塑性樹脂の屈折率が1.54以下を満足するのであれば、1.54を超える熱可塑性樹脂をベースとし、共重合成分として異なる成分を含む熱可塑性樹脂とすることもできる。
【0063】
上記観点から、屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の屈折率は、好ましくは1.51以下、さらに好ましくは1.49以下である。中でも、延伸工程後に屈折率が大きく変化せず、透明性・層間密着性・製膜性などを考慮すると、3種類以上の熱可塑性樹脂層のうち屈折率の最も低い熱可塑性樹脂層が、シクロヘキサンジカルボン酸を含んでなる共重合ポリエステル、アクリル樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましい。アクリル樹脂としては、例えばポリブチルアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートなどを好適に用いることができる。
【0064】
本発明の積層フィルムは、異なる3種類の熱可塑性樹脂層が、結晶性/半結晶性/非晶性の熱可塑性樹脂層、あるいは、結晶性/非晶性/非晶性の熱可塑性樹脂層の組み合わせで構成されることが好ましい。ここでいう結晶性、半結晶性、非晶性の判断は、熱可塑性樹脂層が示差走査熱量計(DSC)測定において融解エンタルピーを有するか否かにより行う。結晶性および半結晶性の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度、吸熱ピークである結晶化エンタルピー、発熱ピークである融解エンタルピーの3点を示すことが特徴であるが、結晶性の熱可塑性樹脂の種類によっては、ガラス転移温度が後述する測定範囲に入らない場合もあるため、ここでは融解エンタルピーの大きさから結晶性の程度を判断する。本発明の積層フィルムにおいて、結晶性の熱可塑性樹脂層は融解エンタルピーが10J/g以上を示す熱可塑性樹脂層とし、一方、半結晶性の熱可塑性樹脂層は融解エンタルピーが0.1J/g以上10J/g未満を示す熱可塑性樹脂層と定義する。そして、融解エンタルピーを有しない熱可塑性樹脂層が、非晶性の熱可塑性樹脂層となる。
【0065】
異なる3種類の熱可塑性樹脂層を結晶性/半結晶性/非晶性あるいは結晶性/非晶性/非晶性の組み合わせとすることにより、例えば反射特性を高めるために屈折率差の大きい、骨格構造が全く異なる熱可塑性樹脂層を積層した場合においても、間に配される半結晶性、あるいは、非晶性の熱可塑性樹脂層が、分子鎖の絡み合いや界面での官能基同士の反応を導き、層間剥離が起こりにくい積層フィルムとすることができる。間に配される半結晶性あるいは非晶性の熱可塑性樹脂層は、狙いの半結晶性あるいは非晶性を示す熱可塑性樹脂を押出機より溶融押出して積層することにより形成してもよく、より結晶性の高い熱可塑性樹脂を押出し、横延伸工程において熱処理により結晶相を融解することで、目的とする半結晶性あるいは非晶性を示す熱可塑性樹脂層を形成することもできる。
【0066】
後者の場合、結晶性の熱可塑性樹脂層としては、半結晶性あるいは非晶性を示す熱可塑性樹脂層よりも融点が高い熱可塑性樹脂を用いる必要がある。このような結晶性の熱可塑性樹脂層に用いる熱可塑性樹脂としては、押出性・延伸性・汎用性に加え、積層フィルムの高反射率化にあたり重要な結晶化したときの熱可塑性樹脂層の屈折率の大きさ、積層精度に係る溶融粘度挙動の観点から、前記した好ましいポリエステル樹脂のうち、ポリオール成分としてメチレン鎖の少ないポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体から選択されることが特に好ましい。
【0067】
本発明の積層フィルムは、屈曲性が要求される部位に好適に使用する観点から、曲げ剛性が0.5×10-7[N・m2]以上5.2×10-7[N・m2]以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×10-7[N・m2]以上4.5×10-7[N・m2]以下である。曲げ剛性を5.2×10-7[N・m2]以下とすることで、曲面ディスプレイやフォルダブルディスプレイなどの屈曲性が要求される部位にも好適に使用可能となる。曲げ剛性は、JIS K-7161(2014)およびJIS K-7127(1999)に記載の方法に準拠して測定したヤング率と、断面の二次モーメントの積で表すことができ、その詳細な測定、算出方法は後述する。
【0068】
曲げ剛性を0.5×10-7[N・m2]以上5.2×10-7[N・m2]以下とする方法としては、例えば、本発明の積層フィルムを構成する各熱可塑性樹脂層に、強く配向結晶化を付与しない方法が挙げられる。熱可塑性樹脂層が強く配向結晶化されると、熱可塑性樹脂層を構成する分子鎖は緊張状態となり、成形時に高い応力を誘発する。従って、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層の少なくとも1つが配向緩和されやすい非晶性樹脂を含んでなる層であることが好ましい。さらに、製膜時のプロセス条件として、逐次または同時二軸延伸方式において、長手方向および幅方向ともに延伸倍率を3.6倍以下とすることが好ましい。より好ましくは3.3倍以下である。
【0069】
本発明の積層フィルムは、波長240~2600nmの範囲において、反射率が100nm以上にわたって連続して20%以上を示す最も長波長側に位置する反射帯域Πの反射帯域幅をλ[nm]、当該反射帯域での平均反射率R[%]、フィルム厚みをt[μm]としたとき、(λ・R)/tが720以上1300以下を示すことが好ましい。ここでは、実施例で後述する反射率・反射分光スペクトル測定にて、分光光度計を用いて1nmピッチで測定して得られる反射分光スペクトルに、10点平均処理を施して得られる分光スペクトルを用いてλ・Rを算出する。詳説は後述するが、分光光度計による測定において235nm~2605nmの反射率データを取得し、連続する10点のデータを平均処理することで、240nm~2600nmの反射スペクトルデータを得ることができる。このような態様とすることにより、光沢感があり、かつ薄膜な積層フィルムを得ることが可能となる。上記観点から、より好ましくは、反射率が100nm以上にわたって連続して40%以上を示す反射帯域を有する態様であり、このような態様とすることで、より光沢感が高く金属調の外観を有した薄膜積層フィルムを得ることが可能となる。
【0070】
本発明の波長帯域Πは、反射率が100nm以上にわたって連続して20%以上を示す波長帯域が複数存在する場合、最も長波長側に位置する波長帯域を指す。また、反射波長帯域において、反射率が20%未満を示す領域が一部でも含まれる場合には、その領域を境界として、連続して100nmにわたって反射率が20%以上を示す長波長側の波長帯域をΠと定義する。
【0071】
本発明の積層フィルムは、同じ積層工程を経て作製しても、積層フィルムの厚みに応じて波長帯域がシフトする。そのため、λ・Rのみでは積層フィルムの構成に基づく、異なる3種類の熱可塑性樹脂層からなる本発明の積層フィルムの特徴である、高反射率・広反射帯域の効果を現すことができない。そこで、本発明では前記領域面積を厚みtで割り返すことにより、積層フィルムの厚みによる波長帯域幅変化の影響を打ち消し、積層フィルムの構成に基づいた高反射率・広反射帯域の効果を表すこととする。
【0072】
本発明の積層フィルムは、本来満たすべきフィルムの特性を悪化させない程度に、光吸収剤(紫外線吸収剤、染料、顔料、熱線吸収剤)、酸化防止剤、光安定剤、消光剤、耐熱安定剤、耐侯安定剤、有機易滑剤、有機または無機の微粒子、充填剤、耐電防止剤、核剤、難燃剤などを、含有してもよい。特に、熱可塑性樹脂の種類に応じてはエネルギーの強い紫外線を吸収して劣化が促進される場合があることから、反応競合させて光劣化を抑制する目的で紫外線吸収剤を含むことが好ましい。さらに、光吸収剤自身は樹脂押出工程において熱・酸素による影響を受けた劣化、および、紫外線および酸素との反応による光劣化の影響を受ける場合がある。そのため、前者に対しては酸化防止剤を、後者に対しては光安定剤や消光剤を、共に添加剤として、劣化の可能性がある熱可塑性樹脂に添加することが好ましい。
【0073】
次に、本発明の加飾フィルムと成形体について説明する。本発明の積層フィルムは、長期にわたり可視光反射特性を維持でき、従来の多層積層構造を有する積層フィルムよりも薄膜であることから、平面以外に、曲面や屈曲性が要求される部位にも好適に用いることができる。たとえば、家電や電子機器、自動車では外装・内装の金属調を発色する加飾フィルム、工業材料用途では、看板などの鋼板ラミネート用フィルム、電子デバイス用途ではスマートフォン、電子ペーパー、タブレット等の加飾フィルムなどとして利用することができる。使用方法としては、後貼り、もしくは、成形体としてインモールド成形あるいはインサート成形を施して利用することができる。すなわち、本発明の加飾フィルム及び成形体は、本発明の積層フィルムを用いてなる。
【0074】
次に、本発明の積層フィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。もちろん本発明は係る例に限定して解釈されるものではない。
【0075】
積層フィルムの各層を構成する熱可塑性樹脂をペレットなどの形態で用意する。ペレットは必要に応じて、熱風中あるいは真空下で乾燥された後、別々の押出機に供給される。添加剤を熱可塑性樹脂中に含有する場合は、本押出の過程で粉末・顆粒・液状の添加剤を混練分散してもよく、予め熱可塑性樹脂中に添加剤を分散させたマスターペレットを供給することもできる。押出機内において、融点以上に加熱溶融された各熱可塑性樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルター等を介して異物や変性した樹脂などが取り除かれる。これらの熱可塑性樹脂は積層装置を介して所望の積層体を形成された後、ダイよりシート状に吐出される。そして、ダイから吐出されたシートはキャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却個化され、キャストシートが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面上の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させて急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。補助的にキャスティングドラム面に液状の界面活性水や流動パラフィンなどの濡れ性のよい液体を塗布し、密着性を付与することもできる。
【0076】
積層フィルムを構成する複数種の熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂層の種類以上の台数の押出機を用いて異なる流路から送り出し、シート状で吐出される前に多層積層装置へ送り込まれる。多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に多層積層構造を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物発生量が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、この装置では、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため、任意の層厚みを達成することが可能となる。このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層シートをダイへと導き、上述の通りキャストシートが得られる。
【0077】
積層体をダイまで導くための単管の流路断面形状は、流路の厚みに対する流路の幅方向長さの比が5以上の、高いアスペクト比を有することが好ましい。単管内を積層体が流れる際、単管壁面近傍と単管中心部分では、単管壁面で受けるせん断の影響により、一般に流速差が生まれる。特に、単管の幅方向端部では、単管幅方向壁面による流速差の影響も加わるため、複雑な渦状の樹脂流が発生し、積層乱れが生じる。流路断面のアスペクト比が小さい単管を用いると、単管の幅方向位置での樹脂流の乱れの影響が幅方向中央付近にも影響するため、フィルム幅方向での積層乱れがより大きい積層フィルムが得られることとなる。さらに、本発明のように、熱可塑性樹脂層の種類が3種類以上の積層体の場合、層を構成する熱可塑性樹脂ごとに粘弾性挙動が異なる場合が多く、樹脂流速差が生まれやすい低アスペクト比の流路断面を有する単管を用いると、粘弾性挙動の変化も相まって、積層乱れがより顕著となる場合がある。このことから、フィルム幅方向に積層乱れの少ない積層フィルムを得るためには、単管の流路断面形状はなるべく高いアスペクト比を示すことが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。単管流路断面のアスペクト比が極端に高い場合、流路の幅方向長さが非常に長くなることでフィルム幅方向への装置の大型化を招く、あるいは、流路の厚みが非常に薄くなることで単管の幅方向位置に限らず単管壁面における流速差の影響を強く受け、フィルム全体で厚み方向への積層厚み乱れが大きくなる等の問題が生じる場合がある。そのため、アスペクト比の上限は100とすることが現実的である。
【0078】
得られたキャストシートは、続いて長手方向および幅方向に二軸延伸されることが好ましい。延伸は逐次に二軸延伸してもよいし、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。ここで長手方向とは、フィルムの走行方向をいい、幅方向とは長手方向とフィルム面内で直交する方向をいう。
【0079】
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、シートに長手方向の分子配向を与えるための一軸延伸を指し、通常は、ロールの周速差により施され、1段階で行っても、複数本のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、例えば、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度からガラス転移温度+100℃の範囲内に設定することが好ましい。長手方向の延伸工程で強く配向させた場合には、フィルム幅方向のネックダウンが生じるため、十分なフィルム幅を得られない他、幅方向延伸後の長手方向および/または幅方向の厚みむらや透過スペクトルむらが大きくなる場合がある。
【0080】
このようにして得られた一軸延伸された積層シートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能を付与した易接着層をインラインコーティングにより付与する。インラインコーティングの工程において、易接着層は積層フィルムの片面に塗布してもよく、積層フィルムの両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0081】
続いて一軸延伸された積層シートに幅方向の延伸を施す。幅方向の延伸シートとは、シート幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いてシートの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して行う。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、例えば、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃が好ましい。
【0082】
こうして二軸延伸された積層フィルムは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷する際に、長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用しても良い。
【0083】
続いて、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストシートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。インラインコーティングの工程において、易接着層は積層フィルムの片面に塗布してもよく、積層ユニットの両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0084】
次に、キャストシートを同時二軸テンターへ導きシートの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6~50倍が好ましく、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、面積倍率として8~30倍が特に好ましく用いられる。延伸速度は同じ速度でもよく、異なる速度で長手方向と幅方向に延伸してもよい。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃が好ましい。
【0085】
こうして同時二軸延伸されたシートは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層のうち最も融点が高い樹脂層の融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷する際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行ってもよい。また、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理をしてもよい。
【0086】
以上のようにして得られた積層フィルムは、巻き取り装置を介して必要な幅にトリミングされ、巻き取り皺が付かないようにロールの状態で巻き取られる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにシート両端部にエンボス処理を施してもよい。
【0087】
本発明の積層フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上100μm以下であることが好ましい。各種機能性フィルムの薄膜化傾向や、ハイエンド特性である屈曲性を加味すると、80μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。積層フィルムの厚みに下限はないものの、ロール巻取り性を安定なものとし、破れなく製膜するためには、現実的には10μm以上の厚みであることが好ましい。
【0088】
また、本発明の積層フィルムの最表面には、耐擦傷や寸法安定性、接着性・密着性などの機能を付加するために硬化型樹脂を主成分として構成されるハードコート層が積層されていてもよい。積層フィルムを製品へ実装するためにロールトゥロールで搬送した際に、ロールとフィルム間の擦れにより積層フィルム表面に傷発生を防止することができる。さらに、積層フィルム内の樹脂オリゴマー成分や、積層フィルムに添加することができる各種添加剤が、高温熱処理においてブリードアウトする可能性がある場合でも、ハードコート層を最表面に設けることで、架橋密度の高いハードコート層が析出抑制効果を示しうる。また、硬化性樹脂層を積層することで熱処理によるフィルムの寸法変化を抑えることもでき、熱収縮によるフィルム厚みの増加、それに伴う積層フィルムの透過スペクトルなどの光学特性の変化を抑制することができる。
【0089】
ハードコート層は、本積層フィルムにおいて優位な特性を有することから、積層フィルムの少なくとも片面に形成することが、フィルムの性状、特にフィルム寸法を維持するために好ましい。ハードコート層は積層フィルムの両面に塗布することも可能であるが、ハードコート層同士が接着することでフィルムの滑り性、ひいてはロールの巻き性を悪化させる可能性があるため、ハードコート層は片面のみに形成する、もしくは、両面に形成する際には、少なくとも片側のハードコート層は滑り性を付与するために、粒子添加や大気プラズマ・真空下プラズマなどの表面凹凸処理を行うことが好ましい。
【0090】
該ハードコート層は、積層フィルムの最表面に直接積層することもできるが、インラインコーティング層を介して積層することがより好ましい。ハードコート層と積層フィルム最表面の熱可塑性樹脂との屈折率差が大きい場合、インラインコーティング層の屈折率を調整することで、双方の密着性を向上することができるため好ましい。インラインコーティング層の屈折率としては、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂A層の屈折率と、ハードコート層を構成する硬化性樹脂の屈折率との間の数値を示すことが好ましく、より好ましくは両樹脂の屈折率の中間(熱可塑性樹脂Aの屈折率をα、ハードコート層を構成する硬化性樹脂の屈折率をβとしたとき、0.98×(α+β)/2以上1.02×(α+β)/2以下)の値を示すことである。たとえば、積層フィルム最表面に位置する熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを、硬化性樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合、前者は延伸後の屈折率が1.65程度、後者は屈折率が1.50程度と屈折率差が大きくなることから、密着不良を引き起こす可能性がある。そのため、該インラインコーティング層の屈折率は1.50以上1.60以下の値を有することが好ましく、より好ましくは1.55以上1.58以下の屈折率である。
【0091】
ハードコート層に用いることができる硬化性樹脂としては、高透明で耐久性があるものが好ましく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂を単独で、または混合して使用できる。硬化性や可撓性、生産性の点において、硬化性樹脂はポリアクリレート樹脂に代表されるアクリル樹脂などの活性エネルギー線硬化型樹脂からなることが好ましい。また、耐擦傷性を付加する場合、硬化性樹脂は熱硬化性のウレタン樹脂からなることが好ましい。
【0092】
本発明における活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、放射線(α線、β線、γ線など)などアクリル系のビニル基を重合させる各種電磁波を意味する。実用的には、紫外線が最も簡便であり好ましい。紫外線源としては、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、炭素アーク灯などを用いることができる。紫外線源により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐ点で酸素濃度が出来るだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下や不活性ガス雰囲気下で硬化する方がより好ましい。また、電子線方式の場合は、装置が高価でかつ不活性気体下での操作が必要であるが、光重合開始剤や光増感剤などを含有させなくてもよい点から有利である。
【実施例0093】
以下、実施例に沿って本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に記載の態様に限定されるものではない。なお、各特性は、以下の手法により測定した。
【0094】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
【0095】
(1)層構成
積層フィルムの層厚み分布は、ウルトラミクロトームにより厚み方向と平行に切断して薄片化したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡TEM1400 Plus((株)日本電子製)を用い、加速電圧100kVの条件で積層フィルムの断面を観察して断面像を取得し、断面像と顕微鏡の測長機能より、層構成(積層数、繰り返し単位、層厚み分布)および各層厚みを測定した。なお、各層間のコントラスト差を大きく得るために、電子染色剤(RuO4など)を使用した染色技術を用いた。また、各層の厚みにあわせて、薄膜層厚みが100nm未満の場合は直接倍率4万倍、薄膜層厚みが100nm以上500nm未満である場合は直接倍率2万倍、500nm以上である場合は厚みに応じて1千倍から1万倍にて観察を実施し、層厚み分布を解析した。得られた画像のコントラスト差を基に、積層数、繰り返し単位、各層の層厚み、積層比を判断した。なお、積層比については、再表層を除く部分の繰り返し単位に着目し、熱可塑性樹脂B層を基準として他の熱可塑性樹脂層の積層比を算出した。
【0096】
(2)層界面(コントラスト差)
(1)の透過型電子顕微鏡観察において得られた断面画像を圧縮画像ファイル(JPEG)に変換し、積層フィルムの厚み方向に沿って、ImagePro-10(販売元 伯東株式会社)を用いて、ラインプロファイルにより位置-輝度データを取得した。その後、表計算ソフト(マイクロソフト社“Excel”(登録商標) 2016)を用いて、位置と輝度の関係をプロットして得られたプロファイルに対し、5点移動平均処理を施して平均処理した位置-輝度プロファイルを取得した。なお、平均処理は、連続する5点の測定位置に対して輝度の平均処理を施し、位置を1点ずつ変更して同じ計算を連続処理することで行った。得られた平均処理済の位置-輝度プロファイルにおいて、傾きが正から負、あるいは負から正へ変化する変曲点で囲まれる位置を1つの層と判断した。当該手法で得られた各層に対し、続いて積層フィルムの平面方向(厚み方向に対して垂直な方向)に対して位置-輝度データを取得した。その後、層ごとに得られた輝度の平均値と標準偏差を算出し、隣接する2層の輝度の平均値の差が、隣接する熱可塑性樹脂層の輝度の標準偏差のいずれよりも大きい場合、これら隣接する2層は異なると判断した。また、当該変曲点間の位置の差(距離)を、各層の層厚みとして算出した。
【0097】
(3)反射帯域Πの反射帯域幅λ、及び当該反射帯域での平均反射率R
積層フィルムの幅方向中央部から4cm四方でサンプルを切り出し、その片面に黒色ラッカースプレーで背面黒処理を施した。背面黒処理では3回重ね塗りを行い、光を透過しない状態とした。日立ハイテクサイエンス製の分光光度計U-4100を使用し、積分球背面の開口部には反射部材として、付属の酸化アルミニウム板を固定した。また、反射率測定ユニットとして、付属の12°正反射付属装置を積分球の直前に設置し、背面黒処理したサンプルの未処理側を本ユニット側に向けて密着させて、波長235nmから2605nm範囲での反射分光スペクトルを連続的に測定した。測定にあたっては、スキャン速度を600nm/min、サンプリングピッチを1nmに設定した。得られた分光反射スペクトルをもとに、反射率が100nm以上にわたって連続して20%以上を示す最も広い反射帯域をΠとし、本波長帯域Πの反射帯域幅をλ、反射帯域の平均反射率をRとして読みとった。
【0098】
(4)波長400~800nmにおける平均反射率、及び反射率変化ΔR
サンプルを積層フィルム幅方向中央部から10cm四方で切り出し、本サンプルを日立ハイテクサイエンス製の分光光度計U-4100を使用して以下の手順で測定した。まず、サンプル中央部が積分球背面の開口部にくるようにサンプルを固定し、サンプルの反射分光スペクトルを測定した。測定にあたっては、装置付属の積分球に酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)を取り付けた状態でバックグラウンド補正を行い、波長235nm以上2605nm以下の波長領域における反射分光スペクトルを、スキャン速度600nm/min、サンプリングピッチ1nmの条件で連続的に測定した。取得したデータを連続する10点のデータで平均処理することで波長400~800nmの平均反射率を算出し、得られた値を加熱前の平均反射率(R1(%))とした。次に、本サンプルを100℃雰囲気下に保たれたオーブン中に入れ、無加重の状態で30分間放置した後、室温に取り出した。このサンプルについて、反射率測定位置が加熱前と同一になるようにしながら、上記の方法にて反射率を測定して波長400~800nmの平均反射率を算出し、得られた値を加熱後の平均反射率(R2(%))とした。加熱前の平均反射率(R1(%))から加熱後の平均反射率(R2(%))を差し引いて反射率変化(ΔR(%))とした。
【0099】
(5)クロスカット剥離率
JIS K 5600-5-6(1999年)に規定の付着性(クロスカット)試験方法に従い評価した。COTEC社製の1mm間隔のクロスカットガイドCCJ-1を用い、NTカッターで20~30°の角度にて、積層フィルムに縦横各11本の直交する切りこみを入れ、100マスの升目を形成した。当該升目に、24mm幅のニチバン社製“セロテープ”(登録商標)を貼りつけ、約60°の角度でテープを素早く引き剥がし、完全に剥離した升目の数を読み取った。この作業を10回繰り返して平均値を算出することで、クロスカット剥離率(%)を算出した。
【0100】
(6)示差走査熱量測定(DSC)
測定には(株)日立ハイテクノロジーズ社製の示差走査熱量計EXSTAR DSC6220を使用し、測定ならびに温度の読み取りはJIS-K-7122(1987年)に従って実施した。まず、試料約5mgをアルミニウム製受皿上に置き、25℃から300℃まで10℃/分の速度で昇温させた際の、室温から昇温した際のベースラインと段差転移部分の変曲点での接線との交点におけるガラス転移温度より高い温度において、融点とは異なる微小な吸熱ピークを示す微結晶融解温度(℃)を読み取った。さらに、昇温後に液体窒素で試料を急冷し、さらに同じ条件で昇温した際に最も高温側で確認される吸熱ピーク(融点)の面積にあたる融解エンタルピー(J/g)を読み取った。
【0101】
(7)反射色調測定
サンプルを積層フィルム幅方向中央部から4cm四方で切り出し、積層フィルムの片面に黒色ラッカースプレーを用いて背面黒処理を施した。背面黒処理では3回重ね塗りを行い、光を透過しない状態とした。コニカミノルタセンシング製の分光測色計CM3600dを用いて、付属の白色校正板とゼロ校正ボックスを用いて校正を行った後、背面黒処理を施したサンプルの反射色調の明度L*(SCE)を測定した。具体的には、測定径が8mmのMVDアタッチメントを取り付け、光源をD65光源とし、光の入射面を背面非処理面としたときの明度L*(SCE)を読み取った。同様の測定を、4cm四方の積層サンプル面内でランダムに選定した3点で行い、平均値を測定対象とした積層フィルムのL*SCE(D65)とした。
【0102】
(8)曲げ剛性
JIS K-7161(2014)およびJIS K-7127(1999)に準拠し、下記の条件で測定を実施した。長手方向を長辺とする10mm×200mmの長方形状に積層フィルムを切り出し、サンプルとした。続いて、オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロン”(登録商標)AMF/RTA-100を用いて、室温23℃、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにてサンプルを引っ張り、長手方向のヤング率を測定した。同様に幅方向を長辺とするサンプルについても測定を行い、幅方向のヤング率とした。各積層フィルムの長手方向および幅方向について各5回ずつ上記測定を行い、得られた値の平均値をヤング率Eとした。
【0103】
フィルムの曲げ剛性は、ヤング率Eと断面の二次モーメントIの積EIで表される。すなわち、フィルムの曲げ剛性EIは下式で表される。式中のbは測定サンプルの幅、dはフィルム厚みを指す。上記方法にて測定したヤング率Eを下式にあてはめて算出した数値を曲げ剛性とした。
EI=E・bd3/12。
【0104】
<熱可塑性樹脂>
本発明の実施例で用いる熱可塑性樹脂及び添加剤について下記する。ここで述べるポリエステル樹脂の共重合量は、酸成分100mol%,ジオール成分100mol%に対する共重合量を表す。
樹脂1: ガラス転移温度78℃、融点255℃、融解エネルギー40J/gを示す、結晶性のポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂2: ガラス転移温度79℃、融点230℃、融解エネルギー12J/gを示す、イソフタル酸10mol%共重合した結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂3: ガラス転移温度77℃、融点220℃、融解エネルギー2J/gを示す、イソフタル酸15mol%共重合した半結晶性のポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂4: ガラス転移温度97℃、融点254℃、融解エネルギー33J/gを示す、分子量400のポリエチレングリコールを5mol%共重合した結晶性のポリエチレンナフタレート樹脂
樹脂5: ガラス転移温度80℃を示す、非晶性のシクロヘキサンジメタノールを33mol%共重合した非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂6: ガラス転移温度77℃を示す、非晶性のスピログリコール20mol%共重合した非晶性のポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂7: ガラス転移温度101℃を示す、非晶性のポリメチレンメタクリレート樹脂
樹脂8: ガラス転移温度99℃を示す、樹脂4と樹脂7を50:50の体積濃度比でナノアロイ混連した非晶性の熱可塑性樹脂。
樹脂9: ガラス転移温度60℃、融点223℃、融解エネルギー26J/gを示す、アジピン酸を15mol%共重合した結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂10:ガラス転移温度78℃、融点225℃、融解エネルギー14J/gを示す、イソフタル酸12mol共重合した結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0105】
<添加剤>
エポキシ価1.4meq/gを示す平均分子量2900g/molアクリル系ポリマー。
【0106】
<水系塗剤>
下記のポリエステル樹脂1(100質量部)、反応性化合物1(30質量部)、反応性化合物2(30質量部)を混合した材料(以下、バインダー樹脂ということがある。)に、面積平均粒子径100nmのシリカコロイダル粒子をバインダー樹脂100質量部に対して0.5質量部加え、溶媒として水で固形分濃度が5質量部となるように調整した後、水の合計100質量部に対して0.03質量部の界面活性剤を加え混合することで、塗料組成物とした。
ポリエステル樹脂1:
下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を得た。反応器に下記の共重合成分、及び触媒としてシュウ酸チタンカリウム0.1質量部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、4時間かけて反応温度を250℃にまで徐々に昇温しエステル交換反応を終了させた。このポリエステル樹脂15質量部及び水85質量部を溶解槽に加え攪拌下、温度80~95℃で2時間かけて分散させ、ポリエステル樹脂の15質量%水系分散体を得た。
(共重合組成)
・ジカルボン酸成分
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル:88mol%
5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム:12mol%
・ジオール成分
ビスフェノールS1モルに対してエチレンオキサイド2molを付加した化合物:86mol%
1,3-プロパンジオール:14mol%
反応性化合物1:
カルボジイミド水系架橋剤(日清紡ケミカル(株)“カルボジライト”(登録商標) V-04)
反応性化合物2:
オキサゾリン含有ポリマー水系分散体((株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標) WS-500)。
【0107】
(実施例1)
熱可塑性樹脂層A層、B層、C層を構成する各熱可塑性樹脂として、それぞれ順に樹脂4、樹脂3、樹脂7を用いた。準備した各熱可塑性樹脂をそれぞれ、ペレット状で3台の二軸押出機に別々に投入し、それぞれ280℃、270℃、270℃で融解させて混練した。混練条件は、いずれも吐出量に対するスクリュー回転数が0.7となるように設定した。次いで、それぞれFSSタイプのリーフディスクフィルタを7枚介した後、ギヤポンプにて計量しながら、270℃に調温したスリット数601個のフィードブロックにて合流させて、積層比がA層/B層=0.98、C層/B層=1.02を示し、厚さ方向にA層/B層/C層/B層の規則配列が繰り返し積層され、かつ両表層がA層となるような合計601層の積層体を形成した。ここで、フィードブロック内のスリット長さと幅は、両最表層を除いて片側の最表面から反対側の最表面に向かって層厚みが単調増加となるように設計した。その後、フィードブロックを通過した積層体をTダイへ供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印加電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上にて、キャスト速度5.3m/mimで急冷固化して未延伸の積層キャストシートを得た。得られた積層キャストシートを、105℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。続いて、得られた積層一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施して表面の濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルム両面の処理面に#4のメタバーで透明・易滑・易接着層となる水系塗剤をコーティングした(以後、コーティングを行うとは、前記内容を意味する。)。さらに、この一軸積層フィルムを、その幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、100℃の熱風で余熱後、105℃の温度で幅方向に3.6倍延伸した。二軸延伸したフィルムは、横延伸直後に210℃の熱風で熱固定を行い、テンター出口直前にて幅方向に5%の弛緩処理を施した後巻き取った。得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0108】
(実施例2~13、比較例1~3)
各層の樹脂や添加剤、積層構成、フィルム厚み、製膜条件を表1~3のとおりとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表1~3に示す。なお、フィルム厚みの調整はキャスト速度および吐出量の調整により、積層比の調整は吐出量の調整により行った。
【0109】
【0110】
表中「層構成」は、括弧内が繰り返し単位、mが繰り返し単位の数を表す。表中「最大屈折率差」は、公知のアッベ屈折率計で測定した、ナトリウムネオンランプの波長590nmにおける屈折率より算出した。表2、3においても同じである。
【0111】
【0112】
本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層からなり、規則配列を有することで緩衝層の役割を果たす第3の熱可塑性樹脂層の効果により、屈折率差が大きくなるような分子骨格構造が全く異なる熱可塑性樹脂層を層間剥離なく積層することが出来る。これにより、同種の骨格構造を有する熱可塑性樹脂しか積層出来なかった従来技術に対して、高反射率・広帯域の光学特性を有することができ、かつ、層間剥離が生じにくい積層フィルムを得ることが可能となる。さらに、従来技術に比べ薄膜であるにもかかわらず、可視領域を反射することが可能となることから、曲面や屈曲性が要求される部位の成型や加飾にも好適に使用することができる。