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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144349
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】増築方法及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231003BHJP
   E04H 3/08 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
E04G23/02 J
E04H3/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051275
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 匠
(72)【発明者】
【氏名】野溝 貞良
(72)【発明者】
【氏名】桑原 敦
(72)【発明者】
【氏名】坂田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 環
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 篤哉
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA00
2E176BB34
(57)【要約】
【課題】床面積を増やした建物を効率的に利用することができる増築方法及び建物を提供する。
【解決手段】既存棟10に対して増築棟20を増築する。この場合、既存棟10において、増築棟20においても利用される共通機能部を抽出し、増築棟20と既存棟10とを繋ぐ渡り廊下31、32の途中に、共通機能部を配置した中継棟40を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物に対して新築建物を増築する増築方法であって、
前記既存建物の機能部の中で、前記新築建物においても利用される共通機能部を抽出し、
前記新築建物と前記既存建物とを繋ぐ渡り廊下の途中に、前記共通機能部を配置した中継建物を設けることを特徴とする増築方法。
【請求項2】
前記共通機能部は、前記既存建物及び前記新築建物の各利用者に対してサービスを提供するエリアであることを特徴とする請求項1に記載の増築方法。
【請求項3】
前記共通機能部のサービスを、前記既存建物の各室に提供する第1補助機能室を前記既存建物に設けるとともに、前記共通機能部のサービスを前記新築建物の各室に提供する第2補助機能室を前記新築建物に設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の増築方法。
【請求項4】
前記渡り廊下を、前記中継建物を貫通させて、前記渡り廊下の側面に、前記共通機能部を設けることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の増築方法。
【請求項5】
前記既存建物の機能部の中で、前記渡り廊下が接続される前記既存建物の接続階における機能空間と、前記渡り廊下が接続される前記新築建物の接続階における機能空間とを共通にすることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の増築方法。
【請求項6】
前記渡り廊下の床と、前記渡り廊下が接続される前記既存建物の接続階及び前記新築建物の接続階の床とが面一になるように、前記渡り廊下を配置することを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の増築方法。
【請求項7】
既存建物に対して、渡り廊下で接続した新築建物と、
前記渡り廊下の途中に、前記既存建物の機能部の中で、前記新築建物においても利用される共通機能部を配置した中継建物を設けたことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の増築方法及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
利用者の利便性を図るために、複数の建物を結ぶ廊下(渡り廊下)で接続することがある(例えば、特許文献1参照)。この文献に記載された技術では、少なくとも一端に外部との出入り口を設けた直線状のコリダーと、コリダーを挟んで対向配置されるとともに、天井裏空間及び床下空間に設けたリターンチャンバにより空調空気が流通する二つのクリーンルームを備える。そして、コリダーを横切って両クリーンルーム間を気密に接続する渡り廊下と、両クリーンルームとコリダーとの対向面を気密に仕切る透明パーティションとを備える。
【0003】
また、既存建物が手狭になった場合、共通した目的の建物を新たに新築した増築棟を設けることがある(例えば、特許文献2参照)。この文献に記載された技術では、複数の建物が渡り廊下により接続された構造を有する既設建物の増築において、既設建物を使用しながら上方に増築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-296944号公報
【特許文献2】特開2007-247202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既存建物と新築建物との距離がある場合、両建物を利用するための動線が長くなる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する増築方法は、既存建物に対して新築建物を増築する。そして、前記既存建物の機能部の中で、前記新築建物においても利用される共通機能部を抽出し、前記新築建物と前記既存建物とを繋ぐ渡り廊下の途中に、前記共通機能部を配置した中継建物を設ける。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、床面積を増やした建物を効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態における建物の斜視図であって、(a)は増築前、(b)は増築後の斜視図である。
図2】実施形態における建物の側面図である。
図3】実施形態における建物の3階の平面図である。
図4】実施形態における建物の4階の平面図である。
図5】実施形態における中継棟の3階の平面図である。
図6】実施形態における中継棟の4階の平面図である。
図7】実施形態における設計処理の説明図である。
図8】実施形態における建物における動線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図8を用いて、増築方法、及びこの増築方法により構築された建物を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態では、建物としての病院の増築について説明する。
図1(a)に示すように、病院A1は、敷地G1に構築されている既存棟10(既存建物)からなる。この既存棟10は、柱や梁などの構造体を強化し、建物全体の強度で地震に抵抗する耐震構造である。
【0010】
そして、図1(b)に示すように、既存棟10に対して増築棟20(新築建物)を増築する。ここで、増築棟20は、敷地G1と道路を挟んで隣接する敷地G2に構築される。この増築棟20は、建物の下部に免震層を設けて、地震の揺れを低減する免震構造により構築する。
【0011】
既存棟10と増築棟20とに間には、渡り廊下を設ける。この場合、敷地G1において、既存棟10寄りに中継棟40(中継建物)を設ける。そして、渡り廊下31、32は、中継棟40を経由して、既存棟10と増築棟20とを接続する。この中継棟40は、耐震構造で構築するとともに、側面に避難階段設備40a、40bを設ける。そして、渡り廊下31と既存棟10との接続部において、耐震構造用エキスパンションジョイントで接続する。また、渡り廊下32と中継棟40との接続部において、耐震構造用エキスパンションジョイントで接続する。渡り廊下32と増築棟20との接続部において、免震構造用エキスパンションジョイントで接続する。
【0012】
図2に示すように、既存棟10は、1階11~6階16の6階建てである。既存棟10の1階11は外来受付、2階12は管理室、3階13には手術室及び病棟、4階14及び5階15には病棟が設けられている。6階16には、後述するようにサブキッチンを設ける。
【0013】
増築棟20は、1階21~6階26の6階建てである。増築棟20の1階21には外来受付、2階22には管理室、3階23には手術室とサブキッチン、4階24、5階25、6階26には病棟を設ける。なお、4階24には、バルコニ24bを設ける。手術室は、手術という特定機能を実現するため、増築棟20の手術室を、既存棟10の手術室と同じ階層(本実施形態では3階)に設ける。
【0014】
中継棟40の1階41は院外薬局、2階42は院内薬局、3階43には食堂、売店を設ける。更に、後述するように、中継棟40の3階43にはサブキッチン、4階44にはメインキッチンを設ける。
【0015】
渡り廊下31は、既存棟10の3階13と、中継棟40の3階43とを、段差をなくした面一で接続する。渡り廊下32は、増築棟20の3階23と、中継棟40の3階43とを、段差をなくした面一で接続する。
【0016】
図3に示すように、渡り廊下31,32は、中継棟40の3階43内を、直線状で貫通するように繋げる。
図4に示すように、中継棟40の3階43、渡り廊下31,32の上方に中継棟40の4階44が設けられる。
また、3階23、4階24内には、各階層を繋げる複数のエレベータev2が設けられている。
【0017】
図5に示すように、中継棟40の3階43には、売店43a、食堂43b、サブキッチンk1が設けられている。そして、渡り廊下31、32は、中継棟40の通路430の床と面一に接続される。売店43a、食堂43bの出入口は、通路430に面するように配置される。
【0018】
図6に示すように、中継棟40の4階44には、メインキッチンk0が設けられる。そして、中継棟40には、1階41~4階44を接続するエレベータev4が設けられる。このエレベータev4を用いることにより、4階44のメインキッチンk0から3階43のサブキッチンk1や通路430に移動することができる。
【0019】
(設計処理)
次に、図7を用いて、既存棟10に対して、増築棟20を構築する場合の設計処理を説明する。
【0020】
まず、既存棟、増築棟の共通機能部を抽出する(S11)。ここでは、既存棟10において、増築棟20においても利用する共通機能部を特定する。共通機能部は、既存棟10及び増築棟20の各室に対して共通したサービスを提供するエリアである。例えば、本実施形態では、増築棟20には、手術室、病棟を設ける。そして、既存棟10にも、手術室、病棟がある。この場合、既存棟10及び増築棟20の手術室は、既存棟10及び増築棟20の各病棟の患者が利用するので、共通機能部として特定する。
【0021】
また、既存棟10において、共通機能部として、病棟の各病室に対する食事を調理する調理施設(キッチン)を想定する。一つのキッチンで調理した食事を、既存棟10及び増築棟20の病室に配膳する場合、キッチンを共通機能部として特定する。
【0022】
また、既存棟10及び増築棟20の患者のために調剤を行なう薬局(院内、院外)を共通機能部として特定する。
また、既存棟10及び増築棟20の利用者が利用する売店を共通機能部として特定する。
【0023】
次に、既存棟10と増築棟20とを繋げる渡り廊下を配置する(ステップS12)。ここでは、既存棟10の設備と増築棟20の設備との間での往来(動線)が多い階層を特定する。例えば、既存棟10の病室から増築棟20の手術室、既存棟10の病室から増築棟20の手術室、既存棟10の手術室から増築棟20の手術室までの各動線を特定する。
【0024】
また、一つのキッチンで調理した食事を、既存棟10及び増築棟20の病室に配膳を行なう場合も、共通機能部であるキッチンから各病室までの、各動線を特定する。
更に、各動線での移動負担を評価する。例えば、手術室が関係する動線では、移動用車輪付き簡易ベッド(ストレッチャー)等、患者の搬送用具を用いるため、移動負担が大きい。キッチンが関係する動線では、配膳のための移動台車を用いるため、移動負担がある。
【0025】
このように、動線における移動負担の大きさに基づいて、既存棟10と増築棟20とを繋げる渡り廊下を配置する階層を特定する。本実施形態では、手術室が関係する動線に基づいて、既存棟10の3階13と増築棟20の3階23とを繋げる渡り廊下を想定する。この渡り廊下を、既存棟10の接続階と、増築棟20の接続階とを、段差が生じない位置に設ける。
【0026】
次に、渡り廊下に中継棟を配置する(ステップS13)。本実施形態では、渡り廊下の途中で、既存棟10が構築されている敷地G1内に中継棟40を配置する。そして、中継棟40において、既存棟10及び増築棟20の接続階と同じ階層に渡り廊下を繋げる。
【0027】
次に、中継棟に共通機能部を配置する(ステップS14)。ここでは、共通機能部の中で、中継棟40に配置可能な共通機能部を特定する。本実施形態では、手術室は高機能設備を備えた機能空間であるため、中継棟40に配置できない。そこで、本実施形態では、共通機能部の一つであるキッチンを中継棟40に配置する。具体的には、セントラルキッチン方式のメインキッチンk0(集中調理施設)を中継棟40に配置する。セントラルキッチン方式では、メインキッチンk0で集中的に調理した食事を、各棟のサブキッチンに搬送し、サブキッチンで加熱等を行なって、最終目的地に配膳する。
更に、薬局(院内、院外)を中継棟40に配置する。
【0028】
次に、各棟に補助機能を配置する(ステップS15)。ここでは、メインキッチンk0で調理された料理を保管する補助機能を、配膳先(既存棟10、増築棟20、中継棟40)の近くに設ける。
【0029】
図8に示すように、メインキッチンk0で調理された料理を、ホテルパンカートによりチルド食材をサブキッチンk1、k2、k3に搬送する。
そして、サブキッチンk1では、メインキッチンk0で調理された料理を加熱して食堂43bに提供する。また、サブキッチンk2(第1補助機能室)では、メインキッチンk0で調理された料理を加熱し、再加熱カートを用いて、既存棟10の各室10rに搬送する。また、サブキッチンk3(第2補助機能室)では、メインキッチンk0で調理された料理を加熱し、再加熱カートを用いて、増築棟20の各室20rに搬送する。
【0030】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、既存棟10に対して増築棟20を増築する。この増築棟20は、免震構造により構築する。これにより、地震等の災害により、耐震構造の既存棟10が被災した場合にも、増築棟20により、病院機能(建物機能)を維持することができる。
【0031】
(2)本実施形態では、既存棟10と増築棟20とに間には、渡り廊下を設ける。渡り廊下31は、既存棟10の3階13と、中継棟40の3階43とを、段差をなくした面一で接続する。渡り廊下32は、増築棟20の3階23と、中継棟40の3階43とを、段差をなくした面一で接続する。これにより、既存棟10・増築棟20間の移動負担を軽減することができる。
【0032】
(3)本実施形態では、渡り廊下31、32は、中継棟40の3階43内を、直線状で貫通するように繋げる。これにより、他棟に移動時にも、渡り廊下の先を見通すことができるので、移動を容易にすることができる。
【0033】
(4)本実施形態では、中継棟40の3階43には、売店43a、食堂43bが設けられている。売店43a、食堂43bの出入口は、通路430に面するように配置される。これにより、他棟の移動時に、容易に立ち寄ることができる。
【0034】
(5)本実施形態では、既存棟10と増築棟20とを繋げる渡り廊下を配置する(ステップS12)。この場合、動線における移動負担の大きさに基づいて、既存棟10と増築棟20とを繋げる渡り廊下を構成する階層を特定する。これにより、既存棟10・増築棟20間における移動の動線における移動負担を軽減することができる。
【0035】
(6)本実施形態では、中継棟に共通機能部を配置する(ステップS14)。これにより、既存棟10及び増築棟20において重複した機能を集約して、床面積を有効活用することができる。更に、既存棟10・増築棟20間の中継棟40に共通機能部を設けることにより、既存棟10及び増築棟20のいずれの利用者の利便性を図ることができる。
【0036】
(7)本実施形態では、各棟に補助機能を配置する(ステップS15)。メインキッチンk0から、既存棟10及び増築棟20の各病室に食事を配送する場合には、病室が分散しているので、配送に手間がかかる。配送先の近くにサブキッチンを設けることにより、効率的かつタイムリーな配送を実現することができる。
【0037】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、本発明を病院の増築に適用したが、適用対象は病院に限定されるものではない。
【0038】
・上記実施形態では、動線における移動負担の大きさに基づいて、既存棟10と増築棟20とを繋げる渡り廊下を配置する階層を特定する。渡り廊下を配置する場所の基準は、移動負担の大きさに限定されるものではない。建物構造上の要因を考慮して配置してもよい。
【0039】
・上記実施形態では、中継棟40に、共通機能部としてメインキッチンk0、薬局(院内、院外)を配置する。中継棟40に設ける機能は共通機能部に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
A1…病院、G1,G2…敷地、10…既存棟、20…増築棟、31,32…渡り廊下、40…中継棟、k0…メインキッチン、k1,k2,k3…サブキッチン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8