(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144361
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】シート状物およびその製造方法ならびに緩衝材
(51)【国際特許分類】
D06N 7/06 20060101AFI20231003BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
D06N7/06
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051293
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸司
(72)【発明者】
【氏名】大浦 遥
(72)【発明者】
【氏名】大森 美佐男
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA30
4F055BA02
4F055CA15
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA14
4F055EA24
4F055EA34
4F055FA07
4F055FA15
4F055GA02
4F055HA13
(57)【要約】
【課題】 軽車両の車輪などの回転軸に使用されるワッシャーなどの緩衝材として使用する際に、クッション性と耐久性に優れたシート状物を提供すること。
【解決手段】 極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなるシート状物であって、前記極細繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であり、前記シート状物の断面における前記高分子弾性体の充填率P
fが5%以上10%以下、前記シート状物の表面における前記高分子弾性体の被覆率P
cが20%以上40%以下である、シート状物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなるシート状物であって、前記極細繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であり、前記シート状物の断面における前記高分子弾性体の充填率Pfが5.0%以上10.0%以下、前記シート状物の表面における前記高分子弾性体の被覆率Pcが20.0%以上40.0%以下である、シート状物。
【請求項2】
前記Pfに対する前記Pcの比Pc/Pfが4.0以上7.0以下である、請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
前記シート状物の圧縮率が4%以上7%以下である、請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
前記シート状物の圧縮弾性率が85%以上である、請求項1~3のいずれかに記載のシート状物。
【請求項5】
前記シート状物のアスカーゴム硬度計C型による硬度が40以上70以下である、請求項1~4のいずれかに記載のシート状物。
【請求項6】
前記請求項1~5のいずれかに記載のシート状物からなる緩衝材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のシート状物を製造する方法であって、前記極細繊維またはその前駆体である複合繊維からなる繊維絡合体に前記高分子弾性体を含浸させる工程の前に、前記極細繊維または前記複合繊維からなる繊維絡合体に水溶性樹脂を含浸させ、前記水溶性樹脂を含浸させた前記繊維絡合体を90℃以上110℃以下で乾燥させる工程を含む、シート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体からなり、ワッシャーなどの緩衝材として使用する上で、クッション性や耐摩耗性に優れたシート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軽車両の車輪などの回転軸に使用されるワッシャーといった緩衝材にはポリウレタンなどからなる高分子弾性体や金属、繊維と高分子弾性体からなるシート状物が使用されている。特にクッション性の観点より、繊維と高分子弾性体からなるシート状物が好ましく使用されている。
【0003】
しかしながら、軽車両の車輪の回転軸に使用されるワッシャーなどの緩衝材として各種素材を用いた場合、緩衝する対象物同士の隙間をなくすために緩衝材の厚さを厚くすると緩衝材と対象物の動きを摩擦により妨げ、一方で対象物の動きを妨げないように緩衝材の厚みを薄くすると対象物と緩衝材の間に隙間が生じ、対象物を固定できず、動きが不安定となる。
【0004】
例えば、特許文献1では、剛性が高いポリエステルからなる極細繊維に高分子弾性体を付与するシート状物を得ることで高い圧力下で凹凸形状に対して追従することが開示されている。また特許文献2では極細繊維の束および極細繊維を緻密化させたシート状物とすることで高い平坦性が得られることが開示されている。そして、特許文献3では、無孔質高分子弾性体と多孔質高分子弾性体を不織布に含ませたシート状物とすることで圧縮に対しても耐久性が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4645361号公報
【特許文献2】特許第5204502号公報
【特許文献3】国際公開第2020/138198号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているような技術ではシート状物の表面に高分子弾性体を含まない起毛部分を有しており、緩衝材として使用した場合、繰り返しの圧縮により、厚みが薄くなってしまい、対象物と緩衝材の間に隙間が生じてしまう。また特許文献2、3に開示されているような技術では、シート状物が緻密で固くなり、クッション性が損なわれるため、緩衝する対象物との摩擦が強くなり、対象物の動きを妨げることがある。
【0007】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、極細繊維からなる不織布に高分子弾性体を付与し、軽車両の車輪などの回転軸に使用されるワッシャーといった緩衝材として使用する際に、クッション性と耐摩耗性に優れたシート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、シート状物の内部の高分子弾性体の充填率とシート状物表面被覆している高分子弾性体の被覆率を特定の範囲とすることで圧力に対して優れたクッション性を有しながら、耐摩耗性にも優れたシート状物とできることを見出した。
【0009】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0010】
すなわち本発明は、極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなるシート状物であって、前記極細繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下であり、前記シート状物の断面における前記高分子弾性体の充填率Pfが5.0%以上10.0%以下、前記シート状物の表面における前記高分子弾性体の被覆率Pcが20.0%以上40.0%以下である、シート状物である。
【0011】
また本発明は、本発明のシート状物からなる緩衝材である。
【0012】
また本発明は、本発明のシート状物を製造する方法であって、前記極細繊維またはその前駆体である複合繊維からなる繊維絡合体に前記高分子弾性体を含浸させる工程の前に、前記極細繊維または前記複合繊維からなる繊維絡合体に水溶性樹脂を含浸させ、前記水溶性樹脂を含浸させた前記繊維絡合体を90℃以上110℃以下で乾燥させる工程を含む、シート状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧縮に対しても優れたクッション性を有しつつ、かつ、耐摩耗性にも優れたシート状物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るシート状物の高分子弾性体の充填率を測定する位置を設定するためのシート状物断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【
図2】
図2は、
図1のシート状物の断面SEM写真より設定した位置を拡大してSEMで撮影した写真である。
【
図3】
図3は、本発明に係るシート状物の表面をSEMで撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシート状物は、極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなる。
【0016】
[繊維絡合体]
前記極細繊維は、耐久性、特には機械的強度、耐熱性等の観点から、ポリエステル系樹脂からなることが好ましい。
【0017】
前記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも、最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0018】
また、前記ポリエステル系樹脂として、単一のポリエステルを用いても、異なる2種以上のポリエステルを用いてもよい。
【0019】
異なる2種以上のポリエステルを用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、それらのポリエステルの固有粘度(IV値)差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明において、固有粘度は以下の方法により測定されるものとする。
(1)オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2)25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
固有粘度(IV値)=0.0242ηr+0.2634
ここで、
η:ポリマー溶液の粘度
η0:オルソクロロフェノールの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm3)
t0:オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
d0:オルソクロロフェノールの密度(g/cm3)。
【0021】
前記極細繊維を構成するポリエステル系樹脂には、種々の目的に応じて例えば、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0022】
前記極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点から、丸断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0023】
前記極細繊維の平均単繊維直径は、1.0μm以上10.0μm以下である。前記極細繊維の平均単繊維直径を、1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上とすることにより、耐摩耗性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、10.0μm以下、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下とすることにより、緻密なシート状物が得られる。
【0024】
本発明において極細繊維の平均単繊維直径とは、シート状物断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
【0025】
前記繊維絡合体は、不織布であることが好ましい。不織布であることにより、シート状物に高い空隙を付与し、空隙に対して高分子弾性体を充填し、緩衝材として適した硬度を得ることができる。
【0026】
不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布とがある。不織布が長繊維不織布である場合においては、強度に優れるシート状物を得られるため、好ましい。一方、短繊維不織布である場合においては、長繊維不織布の場合に比べてシート状物の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、クッション性を付与することができる。
【0027】
前記繊維絡合体を短繊維不織布とする場合の極細繊維の平均繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。平均繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、シート状物に嵩高性を付与することができる。他方、平均繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れたシート状物とすることができる。
【0028】
前記繊維絡合体の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、100g/m2以上1000g/m2以下の範囲であることが好ましい。前記の不織布の目付を、100g/m2以上、より好ましくは200g/m2以上とすることで、緩衝材と使用する上で力学物性が十分なものとことができる。一方、1000g/m2以下、より好ましくは900g/m2以下とすることで、緩衝材として加工する際に必要な柔軟性を得ることができる。
【0029】
[高分子弾性体]
前記高分子弾性体は、本発明のシート状物を構成する極細繊維を把持するバインダーとして機能する。このため、本発明のシート状物の柔軟な風合いを考慮すると、用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタンであることが好ましい。
【0030】
前記ポリウレタンとしては、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンとが挙げられるが、そのどちらも採用することができる。
【0031】
また、前記ポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0032】
前記ポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。中でも、耐加水分解性、耐摩耗性の観点からは、ポリカーボネート系ジオールを用いることが好ましい。
【0033】
前記ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルとのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0034】
前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよび2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。本発明では、それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれも採用することができる。
【0035】
前記ポリエステル系ジオールとしては、各種の低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0036】
前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0037】
前記多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0038】
前記ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0039】
前記ポリマージオールの数平均分子量は、500以上4000以下であることが好ましい。数平均分子量を好ましくは500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、シート状物が硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0040】
前記有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられる。またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0041】
前記鎖伸長剤としては、好ましくは例えばエチレンジアミンやメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0042】
前記ポリウレタンには、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤も用いることができる。ポリウレタン分子構造内により均一に架橋点を形成することができ、柔軟性の減少を軽減できるという観点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0043】
前記架橋剤としては例えば、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。
【0044】
前記高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、リン系、ハロゲン系および無機系の難燃剤、フェノール系、硫黄系およびリン系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系の光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0045】
一般に、シート状物における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができる。本発明においては、前記高分子弾性体の含有量は、前記繊維絡合体の質量に対して10質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。前記高分子弾性体の含有量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、繊維間の高分子弾性体による結合を強めることができ、シート状物の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記の高分子弾性体の含有量を60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることで、シート状物をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0046】
[シート状物]
本発明のシート状物は、前記シート状物の断面における高分子弾性体の充填率Pfが5.0%以上10.0%以下である。高分子弾性体の充填率Pfは、シート内部に含まれる高分子弾性体の割合を示す。Pfが5.0%以上、さらに好ましくは5.1%以上とすることで、シート状物内の空隙に高分子弾性体が充填され、軽車両の車輪などの回転軸に使用されるワッシャーなどに使用される緩衝材として、適度な硬度を付与することができる。一方、Pfが10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下とすることで、シート状物の内部に空隙を残すことで、圧縮に対するクッション性が得られる。
【0047】
なお、本発明において、シート状物の高分子弾性体の充填率は、以下の方法によって求められる値を採用することができる。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所からタテ×ヨコ=1cm×1cmの測定サンプルを10個採取する。
(ii)走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、前記の測定サンプルの断面を倍率100倍でサンプル中央部が画面の中央となるよう配置し、
図1に例示するような画像を撮影し、JPEG形式で保存する。
(iii)撮影した画像の中央部に画像と水平となるように1本の線(
図1中11)を引き、さらに画像の中央部に先に引いた水平に引いた線と直行するように線(
図1中12)を引き、2本の線が交差する部分を倍率300倍で
図2に例示するようなシート状物の断面写真を、測定サンプルごとに1枚ずつ、計10枚撮影し、JPEG形式で保存する。
(iv)画像処理ソフトとしては、例えば、株式会社キーエンス製「VW-9000 Alubum」を用いることができ、それぞれの画像において、
図2(21)に示す高分子弾性体部分の面積を測定する。測定した高分子弾性体の総面積と画像全体の面積より下記式を用いて高分子弾性体充填率(P
f)を算出する。
P
f=高分子弾性体の総面積/画像全体の面積
(v)前項において求めた各点の高分子弾性体充填率の平均値の小数点以下第二位を四捨五入して得られた値を高分子弾性体充填率(%)とする。
【0048】
本発明のシート状物においては、シート状物の表面における高分子弾性体の被覆率Pcが20.0%以上40.0%以下である。Pcが20.0%以上、より好ましくは20.3%以上、さらに好ましくは20.5%以上であることで、極細繊維と高分子弾性体の接着が強くなり、耐摩耗性に優れたものとすることができる。一方、Pcが40.0%以下、より好ましくは39.0%以下、さらに好ましくは38.0%以下であることで、表面の高分子弾性体の被覆膜の面積が小さくなり、摩耗時に発生する高分子弾性体による大きなピリングの発生を抑制することができる。
【0049】
なお、本発明において、シート状物の表面における高分子弾性体の被覆率P
cは、以下の方法によって求められる値を採用することができる。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所からタテ×ヨコ=1cm×1cmの測定サンプルを10個採取する。
(ii)走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、前記の測定サンプルの表面を倍率300倍で観察する。そして、
図3に例示するようなシート状物の表面写真を、測定サンプルごとに1枚ずつ、計10枚撮影し、JPEG形式で保存する。
(iii)画像処理ソフトとして、例えば、株式会社キーエンス製「VW-9000 Alubum」などを用い、それぞれの画像において、
図3中31に示す高分子弾性体部分の面積を測定する。測定した高分子弾性体の総面積と画像全体の面積より下記式を用いて高分子弾性体充填率P
cを算出する。
P
c=高分子弾性体の総面積/画像全体の面積
(v)前項において求めた各点の高分子弾性体充填率の平均値の小数点以下第二位を四捨五入して得られた値を高分子弾性体充填率(%)とする。
【0050】
本発明のシート状物は、Pfに対するPcの比Pc/Pfが4.0以上7.0以下であることが好ましい。Pc/Pfが4.0以上、より好ましくは4.1以上、さらに好ましくは4.2以上であることにより、シート状物表面の極細繊維が高分子弾性体で被覆されており、耐摩耗性に優れたものとすることができる。一方、Pc/Pfが7.0以下、より好ましくは6.9以下、さらに好ましくは6.8以下であることで、シート状物内部に高分子弾性体が充填されており、優れたクッション性を付与することができる。
【0051】
本発明のシート状物は、圧縮率が4.0%以上7.0%以下であることが好ましい。圧縮率が4%以上、より好ましくは4.5%以上、さらに好ましくは5.0%以上であることにより、圧縮対して変形しやすくなり、クッション性に優れたものとすることができる。一方、圧縮率が7.0%以下、より好ましくは6.9%以下、さらに好ましくは6.8%以下であることで、瞬間的な圧縮に対しての変形を小さくすることができ、繰り返しの圧縮に対する耐久性に優れたものとすることができる。
【0052】
本発明のシート状物は、圧縮弾性率が85%以上であることが好ましい。圧縮弾性率が85%以上、より好ましくは87%以上さらに好ましくは90%以上とすることで、繰り返しの圧縮に対する耐久性に優れたものとすることができる。
【0053】
本発明において、シート状物の圧縮率、圧縮弾性率は、以下の方法によって求められる値を採用する。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所から5cm×5cmの評価用サンプルを3枚1セットとし、15枚、計5セットを採取する。
(ii)圧縮弾性器(例えば、インテック株式会社製「SE-9」など)を用い、採取したサンプルを3枚重ね、面積200mm2からなる円盤状の測定端子で1分間、荷重100gfで圧縮し、1分間経過後の3枚重ねたサンプルの厚さT1-100を記録する。
(ii)次に3枚重ねたサンプルを荷重600gfで圧縮し、1分間圧縮後の厚さT600を記録する。
(iii)サンプルに加わる圧縮を0gfとなるよう開放し、1分間静置する。
(iv)静置後のサンプルに再度荷重100gfで圧縮し、1分間経過後の厚さT2-100を記録する。
(v)記録した各サンプルの厚さより、下記式を用いて圧縮率、圧縮弾性率を算出する。
圧縮率(%)=T600/T1-100×100
圧縮弾性率(%)=T2-100/T1-100×100
(vi)算出した各サンプルの圧縮率、圧縮弾性率の小数点第一位を四捨五入して得られた値を圧縮率(%)、圧縮弾性率(%)とする。
【0054】
本発明のシート状物は、アスカーゴム硬度計C型による硬度が40以上70以下であることが好ましい。硬度が40以上、より好ましくは42以上、さらに好ましくは44以上とすることで圧縮に対して過度に変形することを抑制することができる。一方、硬度を70以下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下とすることで圧縮に対して、変形しやすくなり、緩衝材として使用した際に緩衝材と対象物との間の密閉性を高めることができる。
【0055】
なお、本発明において、シート状物のアスカーゴム硬度計C型による硬度は、以下の方法によって求められる値を採用する。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所から10cm×10cmの評価用サンプルを3枚1セットとし、15枚、計5セットを採取する。
(ii)採取したサンプルを3枚重ね、アスカーゴム硬度計C型(例えば、高分子計器株式会社製「アスカーゴム硬度計C型」など)を用いて、圧縮して硬度を測定する。
(iii)各測定した硬度の平均値の小数点第一位を四捨五入して得られた値をシート状物の硬度とする。
【0056】
[シート状物の製造方法]
本発明のシート状物の製造方法は、前記極細繊維またはその前駆体である複合繊維からなる繊維絡合体に前記高分子弾性体を含浸させる工程の前に、前記極細繊維または前記複合繊維からなる繊維絡合体に水溶性樹脂を含浸させ、前記水溶性樹脂を含浸させた前記繊維絡合体を90℃以上110℃以下で乾燥させる工程を含む。
【0057】
(繊維絡合体を形成する工程)
前記繊維絡合体としての不織布については、前記極細繊維からなるものを公知の方法によって直接形成する方法や、前記極細繊維の前駆体である複合繊維として、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維、いわゆる「極細繊維発現型繊維」を用いて不織布を形成する方法が挙げられる。
【0058】
前記複合繊維としては、海島型複合繊維が好ましい。海島型複合繊維は、島成分に後に極細繊維となる難溶解性の熱可塑性樹脂が配され、海成分に易溶解性の熱可塑性樹脂が配されてなる。海島型複合繊維において、前記海成分を後述する溶剤などを用いて溶解除去すると、除去された海成分が島成分間、すなわち、極細繊維間に適度な空隙を容易に設けさせることができる。その結果、シート状物の風合いや表面品位をより向上させることができる。
【0059】
海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0060】
前記の海成分に用いられる、易溶解性の熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。その中でも、製糸性や溶剤への溶出のしやすさ等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0061】
本発明のシート状物の製造方法において、海島型複合繊維を用いる場合には、その島成分からなる部分(以下、単に島部と記載することがある。)の強度が、2.5cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島部の強度が2.5cN/dtex以上、より好ましくは2.8cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上であることによって、シート状物の耐摩耗性を向上させることができる。
【0062】
本発明において海島型複合繊維を用いる場合に、海島型複合繊維の島部の強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2)上記(1)の試料から海成分を溶解除去したのちに、風乾する。
(3)JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4)(3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島部の強度とする。
【0063】
極細繊維発現型繊維を用いる場合において、該極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得ることができる。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0064】
前記不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、シート状物の厚さ方向に配向する繊維が長繊維不織布に比べて多くなるため、嵩高性に優れたシート状物を得ることができる。
【0065】
前記不織布として短繊維不織布を用いる場合には、極細繊維発現型繊維に、より好ましくは捲縮加工を施した上で、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得ることができる。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0066】
前記繊維絡合体には、シート状物の強度や形態安定性を向上させる目的で、前記不織布の内部もしくは片側に織物を積層し絡合一体化させて繊維絡合体とすることも、より好ましい態様の一つである。
【0067】
前記極細繊維または前記複合繊維からなる繊維絡合体に前記高分子弾性体を付与する前に、水溶性樹脂の水溶液を含浸させる。
【0068】
繊維絡合体に水溶性樹脂を付与することにより、繊維絡合体の内部に均一に高分子弾性体を付与することができ、圧縮に対しても優れたクッション性を有しつつ、かつ、耐摩耗性にも優れたシート状物を得ることができる。また、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0069】
水溶性樹脂としては、後の工程での除去が容易である観点から、ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、加工安定性の観点から鹸化度80%以上のポリビニルアルコールがより好ましく用いられる。
【0070】
水溶性樹脂を付与する場合、シート状物をより緻密なものとする観点から、水溶性樹脂を付与する前工程として、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、水溶性樹脂を付与した繊維絡合体を後加工でカレンダー処理する等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0071】
繊維絡合体に水溶性樹脂を含浸させる際の水溶性樹脂の水溶液濃度としては、1%以上20%以下が好ましい。
【0072】
水溶性樹脂の付与量は、付与直前の繊維絡合体に対し、好ましくは10質量%以上60質量%以下である。付与量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることにより、表層部に水溶性樹脂が多く偏在することになり、極細繊維と高分子弾性体の接着面積を小さくすることができる。また、付与量を60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物性が良好なシート状物が得られる。
【0073】
水溶性樹脂を含浸させた後の乾燥温度は、90℃以上110℃以下が好ましい。乾燥温度を90℃以上、より好ましくは93℃以上、さらに好ましくは95℃以上とすることで、十分に乾燥させることができる。一方、乾燥温度を110℃以下、より好ましくは107℃以下、さらに好ましくは105℃以下とすることで、水溶性樹脂のマイグレーションを抑制することができ、後の高分子弾性体を付与する工程で不織布内部に均一に高分子弾性体を付与することができる。
【0074】
(高分子弾性体を付与する工程)
水溶性樹脂を付与した前記繊維絡合体に対して、または、前記繊維絡合体極細繊維を発現させたものに対して、高分子弾性体を付与する。以下は、後者を例にとって説明をする。
【0075】
まず、前記水溶性樹脂が付与された、前記複合繊維からなる繊維絡合体を、溶剤で処理して、前記複合繊維から極細繊維を発現させる。
【0076】
前記複合繊維が海島型複合繊維の場合、海成分を溶解除去する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0077】
その後、高分子弾性体を付与する。高分子弾性体を付与する方法としては、例えば、高分子弾性体がポリウレタンである場合には、前記のポリマージオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの溶液を前記の繊維絡合体に対して含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0078】
高分子弾性体がポリウレタンである場合に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させる方法を用いてもよい。
【0079】
以上の工程によって、本発明に係る、熱可塑性樹脂組成物からなり、極細繊維からなる繊維絡合体と、高分子弾性体とからなるシート状物を得ることができる。
【0080】
[緩衝材]
本発明のシート状物は、クッション性と耐久性に優れるため、軽車両などの回転軸に使用されるワッシャー材などの緩衝材として好適に使用することができる。
【0081】
このような緩衝材としては、例えば前記シート状物をトーラス型の形状に裁断され、軽車両の回転軸と車輪の間のワッシャー材として使用することができる。
【実施例0082】
次に、実施例を用いて本発明のシート状物についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
[測定方法]
実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0084】
(1)平均単繊維直径(μm)
極細繊維の平均単繊維直径の測定には、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製VHX-D510)を用いて、前記の方法によって測定、算出した。
【0085】
(2)シート状物の厚さ(mm)
(i)測定器として圧縮率及び圧縮弾性率測定装置(インテック株式会社製SE-15)を用いて、面積200mm2からなる円盤状の測定端子で1分間、荷重100gfで圧縮し、1分間経過後のシート状物の厚さを測定した。
(ii)幅方向で等間隔に10点測定し、その算術平均値から小数点以下第3位を四捨五入し、シート状物の厚さ(mm)とした。
【0086】
(3)シート状物の高分子弾性体充填率Pf(%)
シート状物の高分子弾性体充填率Pfは、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製VHX-D510)を用いて、前記の方法によって測定、算出した。
【0087】
(4)シート状物の高分子弾性体被覆率Pc(%)
シート状物の高分子弾性体被覆率Pcは、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製VHX-D510)を用いて、前記の方法によって測定、算出した。
(5)シート状物の高分子弾性体の充填率Pfと被覆率Pcの比
上記(3)により測定されるPf(%)と上記(4)により測定されるPcより前記の方法によって算出した。
【0088】
(6)シート状物の圧縮率(%)、圧縮弾性率(%)
測定器として圧縮率及び圧縮弾性率測定装置(インテック株式会社製SE-15)を用いて、前記の方法によって測定、算出した。
【0089】
(7)シート状物の硬度(-)
測定機としてアスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製)を用いて、前記の方法によって測定、算出した。
【0090】
(8)シート状物の繰り返し圧縮後の圧縮弾性率(%)
シート状物を緩衝材として使用した際の圧縮に対する耐久性の指標として、以下の方法によって評価した。値が大きいほど、圧縮に対して元の厚さに対する厚さ変化が小さいことを示しており、繰り返しの圧縮弾性率が85%以上のシート状物を、圧縮に対する耐久性に優れたシート状物と評価した。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所から5cm×5cmの評価用サンプルを3枚1セットとし、15枚、計5セットを採取した。
(ii)圧縮弾性率測定装置(インテック株式会社製「SE-9」)を用い、採取したサンプルを3枚重ね、面積200mm2からなる円盤状の測定端子で1分間、荷重100gfで圧縮し、1分間経過後の3枚重ねたサンプルの厚さT1-100を記録した。
(iii)次に3枚重ねたサンプルを荷重600gfで圧縮し、1分間圧縮後、サンプルに加わる圧縮を0gfとなるよう開放し、1分間静置した。
(iv)上記(iii)を3回繰り返し行い、静置後のサンプルに再度荷重100gfで圧縮し、1分間経過後の厚さT3-100を記録した。
(v)記録した各サンプルの厚さより、下記式を用いて繰り返しの圧縮弾性率を算出した。
圧縮弾性率(%)=T3-100/T1-100×100 …式。
【0091】
(9)摩耗試験後の減量(mg)
シート状物の耐摩耗性の指標として、以下の方法によって評価した。値が小さいほど摩擦によるシート状物の減量が少ないこと、そして、耐摩耗性が良好であることを示しており、減量が0.5mg以下であるシート状物を耐摩耗性に優れたシート状物であることとした。
(i)シート状物の無作為に抽出した箇所から直径38mmの円形の評価用サンプルを6枚採取し、それぞれの評価用サンプルの質量を記録した。
(ii)マーチンデール型摩耗試験機(James H. Heal & Co.製「Model 406」)を用い、標準摩擦布(James H. Heal & Co.製「Abrastive CLOTH SM25」)を用いて、回転数を20000回に設定して耐摩耗試験を行った。
(iii)試験後のサンプルを取りだしてその質量を測定、記録し、試験前後の質量より摩耗減量を算出した。
【0092】
[実施例1]
(不織布の製造)
海成分として5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が45質量%、島成分が55質量%の複合比率で、島数36島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得た。
【0093】
得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維積層ウェブを形成し、2500本/cm2のパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が680g/m2で、厚みが3.5mmの不織布を得た。
【0094】
(水溶性樹脂の付与)
上記の不織布を96℃の温度の熱水で収縮処理させた後、これに、鹸化度が88%で、5質量%のポリビニルアルコール(以下、PVAと略することがある。)水溶液を含浸後にロールで絞り、温度105℃の熱風で20分間乾燥させ、不織布の質量に対するPVA質量の割合が27質量%のPVA付シートを得た。
【0095】
(高分子弾性体の付与)
上記のPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を10回行うことによって、海成分の溶解除去とPVA付シートの圧縮処理を行い、極細繊維不織布とPVAとからなる脱海PVA付シートを得た。
【0096】
ポリマージオールがポリカーボネート系ジオールであるポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、固形分濃度12.0%に調製した。
【0097】
上記の脱海PVA付シートを上記のポリウレタンのDMF溶液に浸漬し、その後にロールで絞り、次いでDMF濃度30%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。
【0098】
その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥することにより、不織布の質量に対するポリウレタン質量が30質量%のシート状物を得た。
【0099】
得られたシート状物は、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μm、厚み2.65mm、目付990g/m2、高分子弾性体充填率が6.7%、高分子弾性体被覆率が29.4%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体の被覆率との比が4.4であった。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例2]
水溶性樹脂の付与において、PVA水溶液に含浸した後の乾燥温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0101】
得られたシート状物は、極細繊維の平均短繊維直径が4.4μm、厚みが2.64mm、目付が986g/m2、高分子弾性体充填率が5.9%、高分子弾性体被覆率が30.3%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体の被覆率との比が5.1であった。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
水溶性樹脂の付与において、PVA水溶液に含浸した後の乾燥温度を95℃とした以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0103】
得られたシート状物は、厚みが2.66mm、目付992g/m2、高分子弾性体充填率が5.1%、高分子弾性体被覆率が33.5%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体の被覆率との比が6.6であった。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例4]
不織布の製造において海島型複合繊維の平均単繊維直径を5μmとした以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0105】
得られたシート状物は、極細繊維の平均単繊維直径が1.3μm、厚み2.52mm、目付981g/m2、高分子弾性体充填率が7.0%、高分子弾性体被覆率が30.1%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体の被覆率との比が4.3であった。結果を表1に示す。
【0106】
[実施例5]
不織布の製造において海島型複合繊維の平均単繊維直径を37μmとした以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0107】
得られたシート状物は、極細繊維の平均単繊維直径が9.6μm、厚み2.71mm、目付979g/m2、高分子弾性体充填率が5.7%、高分子弾性体被覆率が23.6%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体の被覆率との比が4.1であった。結果を表1に示す。
【0108】
[比較例1]
水溶性樹脂の付与において、PVA水溶液に含浸した後の乾燥を温度110℃、10分で行った以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0109】
得られたシート状物は、極細繊維の平均短繊維直径が4.4μm、厚み2.61mm、目付988g/m2、高分子弾性体の充填率が10.9%、高分子弾性体被覆率が19.9%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体との被覆率の比が1.8であった。結果を表1に示す。
【0110】
[比較例2]
水溶性樹脂の付与において、PVA水溶液に含浸した後の乾燥を温度120℃、10分で行った以外は実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0111】
得られたシート状物は、極細繊維の平均短繊維直径が4.4μm、厚み2.59mm、目付994g/m2、高分子弾性体充填率が12.5%、高分子弾性体被覆率が17.7%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体との被覆率の比が1.4であった。結果を表1に示す。
【0112】
[比較例3]
不織布の製造において、海島型複合繊維の平均単繊維直径を47μmとし、ニードルパンチ処理におけるパンチ本数を2000本/cm2とし、目付640g/m2、厚み4mmの不織布を得たこと以外は実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0113】
得られたシート状物は、極細繊維の平均短繊維直径が12.1μm、厚み2.81mm、目付946g/m2、高分子弾性体充填率が4.4%、高分子弾性体被覆率が15.3%、高分子弾性体の充填率と高分子弾性体との被覆率の比が3.5であった。結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
実施例1~5のシート状物は、いずれも摩耗試験後の減量が0.4mg以下であり、耐摩耗性に優れたものであったと言える。また、繰り返し圧縮後の圧縮弾性率も85%以上であり、クッション性に優れたものであった。
【0116】
一方、比較例1、2のシート状物は、高分子弾性体の充填率が高く、被覆率が低くなり、その結果、高分子弾性体がシート状物内部に偏在しているため、摩耗試験後の減量が多くなり、また、繰り返し圧縮後の圧縮弾性率が低い値となった。
【0117】
比較例3のシート状物は、平均単繊維直径が大きく、シート状物内部の空隙が大きくなったため、高分子弾性体の充填率と被覆率がともに低い値となり、摩耗試験後の減量が多くなり、繰り返し圧縮後の圧縮弾性率が低い値となった。