(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144367
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多層構造織物および衣料
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20231003BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20231003BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20231003BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20231003BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20231003BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20231003BHJP
A41D 31/06 20190101ALI20231003BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20231003BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D15/292
D03D15/37
D03D15/283
D01F8/14 B
A41D31/00 502B
A41D31/06 100
A41D31/14
A41D31/00 502T
A41D31/00 502P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051303
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 慧悟
(72)【発明者】
【氏名】稲田 康二郎
【テーマコード(参考)】
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA22
4L041BA59
4L041BD13
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA28
4L048AA34
4L048AA55
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB21
4L048AC00
4L048AC19
4L048BA01
4L048BA02
4L048BA09
4L048CA10
4L048CA11
4L048CA13
4L048DA01
4L048EB04
(57)【要約】
【課題】
本発明は、高い保温性を有しつつ、かつ常時通気性に優れ、発汗の有無に限らず衣類内の快適性が高い織物を提供する。
【解決手段】
本発明の多層構造織物は、多層構造織物の一方の面を構成する外層1の少なくとも一部に捲縮性繊維を含み、外層1の面における交錯点が、外層1の面とは反対側の面を構成する外層2の面における交錯点よりも少なく、外層2の少なくとも一部において厚み方向に孔を有し、該孔の1個あたりの面積は1.0×10
-8m
2/個以上、5.0×10
-7m
2/個以下であり、外層2の面1cm
2当たりの該孔の個数は4個/cm
2以上であり、外層2の面における該孔の面積割合が0.10%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造織物の一方の面を構成する外層1の少なくとも一部に捲縮性繊維を含み、外層1の面における交錯点が、外層1の面とは反対側の面を構成する外層2の面における交錯点よりも少なく、外層2の少なくとも一部において厚み方向に孔を有し、該孔の1個あたりの面積は1.0×10-8m2/個以上、5.0×10-7m2/個以下であり、外層2の面1cm2当たりの該孔の個数は4個/cm2以上であり、外層2の面における該孔の面積割合が0.10%以上である多層構造織物。
【請求項2】
前記孔の数の80%以上が非貫通孔である請求項1に記載の多層構造織物。
【請求項3】
前記捲縮性繊維の単糸繊度が1.5dtex以下である請求項1または請求項2に記載の多層構造織物。
【請求項4】
前記捲縮性繊維が、偏心芯鞘型の複合合成繊維である請求項1~3のいずれかに記載の多層構造織物。
【請求項5】
JIS L 1096(2010)記載のかさ高性が3.00cm3/g以上である請求項1~4のいずれかに記載の多層構造織物。
【請求項6】
JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が15.0cc/cm2・sec以上、100.0cc/cm2・sec以下である請求項1~5のいずれかに記載の多層構造織物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の多層構造織物を少なくとも一部に含む衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造織物および衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から保温素材の開発において、肌面と外気との間に空気層を形成したり、アクリル系繊維やキュプラ繊維などの発熱素材を用いたり、通気性を低く抑えたりする等の手段が検討されてきた。
【0003】
例えば、表層(外気側)のカバーファクターを大きく、かつ裏側(肌側)のカバーファクターを小さくし、風合いを損なうことなく防風性を発現させ、保温性と両立させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、発汗時には糸形態が変化して通気性が向上し、発汗がない場合、通気性は発汗時と比較して低めに抑え保温性を保つ技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-162169号公報
【特許文献2】特開2006-161237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようにカバーファクターを調整して通気性を低くして防風性をもたせると、発汗により衣類内が蒸れて快適性が損なわれるという課題がある。
【0007】
また特許文献2のような技術では、発汗など水分によって機能性を発現するため、湿度程度では効率よく効果が発現せず、発汗量によっては快適性が損なわれるという課題が生じる。
【0008】
このように、保温性と蒸れ感抑制とを両立させることを目指した素材は存在しなかった。本発明の目的は、従来よりも保温性を有しつつも通気性にも優れ、蒸れ感が少なく、快適性に優れた多層構造織物および衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために次の構成を有する。
(1)多層構造織物の一方の面を構成する外層1の少なくとも一部に捲縮性繊維を含み、外層1の面における交錯点が、外層1の面とは反対側の面を構成する外層2の面における交錯点よりも少なく、外層2の少なくとも一部において厚み方向に孔を有し、該孔の1個あたりの面積は1.0×10-8m2/個以上、5.0×10-7m2/個以下であり、外層2の面1cm2当たりの該孔の個数は4個/cm2以上であり、外層2の面における該孔の面積割合が0.10%以上である多層構造織物。
(2)前記孔の数の80%以上が非貫通孔である(1)に記載の多層構造織物。
(3)前記捲縮性繊維の単糸繊度が1.5dtex以下である(1)または(2)に記載の多層構造織物。
(4)前記捲縮性繊維が、偏心芯鞘型の複合合成繊維である(1)~(3)のいずれかに記載の多層構造織物。
(5)JIS L 1096(2010)記載のかさ高性が3.00cm3/g以上である(1)~(4)のいずれかに記載の多層構造織物。
(6)JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が15.0cc/cm2・sec以上、100.0cc/cm2・sec以下である(1)~(5)のいずれかに記載の多層構造織物。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の多層構造織物を少なくとも一部に含む衣料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも高い保温性と通気性を両立することができ、暖かく、かつ蒸れにくい快適な多層構造織物および衣料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の多重構造織物における外層1の面の一例を示す概略図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の多重構造織物を製造する際に好ましく用いられる織物の、外層2の面に対応する面の一例を示す概略図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の多重構造織物における外層2の面の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、サイドバイサイド型複合合成繊維の横断面形態の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、偏心芯鞘型複合合成繊維の横断面形態の一例であり、その繊維断面における重心位置を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における多層構造織物とは、一枚の生地中に2層以上もつ構造を有した織物である。多層構造織物としては複数層を有する組織であれば特に限定されず、経二重織や緯二重織等の各種二重織や多重織、また、その変形組織等を例示することができる。一方の面を構成する外層1、および外層1の面とは反対側の面を構成する外層2、さらに内部に他の層を含む場合はその層、についてそれぞれ任意の組織を選択することができる。
【0013】
本発明の多重構造織物は、一方の面を構成する外層1の少なくとも一部に捲縮性繊維を含み、外層1の面における経糸と緯糸との交錯点が、外層1の面とは反対側の外層2の面の交錯点よりも少ない。本発明において外層1の面とは、多層構造織物の外表面のうち、外層1で構成される方の面をいう。同様に、外層2の面とは、多層構造織物の外表面のうち、外層2で構成される方の面をいう。なお、捲縮性繊維は外層2の少なくとも一部にも含まれていることが好ましい。捲縮性繊維が含まれることにより、かさ高性が増加し、保温性をより効果的に感じることができる。
【0014】
本発明において外層1の面および外層2の面における交錯点とは、外層1および外層2においてそれぞれ外表面から見た際に、経糸と緯糸とが交錯している点であって、一方の糸が直交する他方の糸の上にある点である。例えば、経糸に対して緯糸、または緯糸に対して経糸が、外表面に浮き出て重なっている状態となる点である。一例である
図1を用いて説明すると、経糸(1)に対して緯糸(2)が外表面に浮き出ている状態となる点として、交錯点(3)が1点存在する。また、緯糸に対して経糸(1)が外表面に浮き出ている状態となる点として、交錯点(4)が2点存在する。ここで交錯点(3)のように、緯糸(2)が経糸2本に対して連続して浮き出ている状態の点は、1点として数える。なお、浮き出て重なっていても、その前後(又は左右)で直交する糸がなく見切れている部分については、交錯点として数えない。
図1の場合、交錯点(3)は1点、交錯点(4)は2点として数える。
【0015】
捲縮性繊維を含む外層(外層1)において、捲縮性繊維は、交錯点が多いほど熱処理等の収縮時に拘束されやすく、捲縮の発現が阻害され、捲縮が少なくなる。言い換えると、この交錯点が少ないほど捲縮性繊維の捲縮発現が促進され、捲縮が増加し、高い保温性を有する多層構造織物が得られるのである。例えば、外層1の面の一例である
図1と、外層2の面の一例である
図2Bを用いて説明すると、
図1で示す交錯点は、緯糸の上から2,6,10番目の緯糸が見切れていないので2点、他は1点あり、経糸の左から4,8番目の経糸が見切れていないので3点、他は2点あり、合計33点あるのに対し、
図2Bに示す緯糸の交錯点は合計50点あることがわかる。外層1の面における交錯点が、外層2の面における交錯点よりも少ないことにより、外層1における捲縮性繊維の捲縮発現容易性や捲縮増加の効果が高い保温性効果を奏する。従って、捲縮性繊維は、少なくとも経糸緯糸のうち交錯点が少ない方に含まれていることが好ましい。浮き出ている経糸もしくは緯糸の内面側において直交する緯糸もしくは経糸は、外側の経糸もしくは緯糸を拘束しにくく、捲縮性繊維の熱処理時の捲縮発現を阻害しにくい。なお、上述した交錯点の多少については、外層1と外層2との外表面において同じ面積で比較する。
【0016】
本発明の多層構造織物は前述した通り、外層1とその反対側の外層である外層2において、それぞれ任意の組織を選択することが可能である。この織組織の選定により各層の交錯点を制御することが可能である。
【0017】
本発明においては、交錯点の比(外層1の交錯点数/外層2の交錯点数)が0.1~0.9であることが好ましく、0.1~0.8であることがより好ましい。経糸交錯点の比を0.9以下とすることで、外層1における捲縮性繊維の捲縮発現がより促進され、高い保温性を有する多層構造織物が得られる。一方で、交錯点の比を0.1以上とすることで、交錯点の減少に伴うスナッグ、ピリング等を抑制することができる。
【0018】
本発明の多層構造織物において、例えば外層1において捲縮性繊維を経糸として多く用い、柄出しや風合い調整等を目的に外層1の経糸以外に捲縮性繊維以外の繊維を用いる場合、外層1において経糸が緯糸に対し上にある交錯点を外層2の経糸が緯糸の上にある交錯点よりも少なくした、経二重組織とすることが好ましい。外層1を構成する経糸には捲縮性繊維を、外層2を構成する経糸には他の繊維を用いることで、外層1に捲縮性繊維が偏在し、保温性向上効果が高まる。また、例えば外層1において捲縮性繊維を緯糸として多く用い、柄出しや風合い調整等を目的に外層1の緯糸以外に捲縮性繊維以外の繊維を用いる場合、外層1において緯糸が経糸に対し上にある交錯点を、外層2の緯糸が経糸に対し上にある交錯点よりも少なくした、緯二重織とすることが好ましい。外層1を構成する緯糸には捲縮性繊維を、外層2を構成する緯糸には他の繊維を用いることで、外層1に捲縮性繊維が偏在し、保温性向上効果が高まる。
【0019】
本発明において捲縮性繊維は、マルチフィラメントの形態をとることが好ましい。捲縮を有する繊維であれば特に限定されず、繊維横断面が1種のポリマーから構成される繊維であっても、2種以上のポリマーから構成される複合合成繊維であってもよい。本発明において、捲縮性繊維は複合合成繊維であることが、捲縮が発現しやすく、かさ高性ひいては保温性が向上する点で好ましい。
【0020】
ここで、ポリマーとしては、繊維形成性の熱可塑性重合体が好適に用いられる。本発明の目的を達成するために好適なポリマーとしては、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)が挙げられる。
【0021】
2種のポリマーを用いる場合に、2種のポリマーを仮にA成分およびB成分とした場合、その組み合わせとしては本発明の目的に鑑み、捲縮発現のために加熱処理等を施した際に収縮差を生じるポリマーの組み合わせ、組み合わせるポリマーの溶融粘度差が10Pa・s以上となる程度に分子量および/または組成が異なるポリマーの組み合わせ、などが好適である。なお、一般に溶融粘度が高い方、分子量が高い方が、捲縮を発現し得る条件での加熱により高収縮となる傾向にある。
【0022】
上述したA成分、B成分を分子量の異なる組み合わせとする場合は、上記に例示した好適なポリマー等、用いるポリマーの分子量を変更して例えば、A成分に高分子量ポリマーを、またB成分に低分子量ポリマーとすることができる。A成分、B成分で異なる組成を組み合わせる場合、一方成分をホモポリマーとし、他方成分を共重合ポリマーとすることもできる。
【0023】
また、ポリマー組成が異なる組み合わせについても、例えば、A成分/B成分でポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性ポリウレタン/ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートなどの種々の組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせにおいては、熱処理によって収縮差を生じ、微細な捲縮形態を得ることができる。
【0024】
特に、上記ポリマーの中でも、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンなどが好ましく用いられ、中でもポリエステルは力学特性等も兼ね備えるため、より好ましい。ここでいうポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートや、それらにジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分が共重合されたもの、あるいはそれらのポリエステルをブレンドしたものが好ましく挙げられる。
【0025】
これらのポリマーにおいては、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化チタンなどの艶消し剤、難燃剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物、カーボンブラックを必要に応じて含有させることができる。
【0026】
本発明において、捲縮性繊維は仮撚加工糸であることが好ましい。仮撚加工糸とすることで単糸間の捲縮の位相が揃うことを抑制でき、それにより、より微細な捲縮形態とすることができる。結果として保温性が向上し、また単糸間の空隙を通ることで通気性も制御することができる。仮撚加工方法としては、一般に用いられるピンタイプ、フリクションディスクタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等、従来公知のいかなる方法によるものでもよい。また、1段ヒーター仮撚加工や2段ヒーター仮撚加工を適宜選択することができる。例えば、1段ヒーター仮撚加工を行う場合には、織物でのストレッチ性を重視し、2段ヒーター仮撚加工は寸法変化や加工工程での異常な収縮を抑制する場合に好適に使用することができる。
【0027】
本発明において、捲縮性繊維を複合合成繊維とする場合、複合合成繊維の複合形態としては特に限定されないが、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型が好ましい例として例示できる。具体的には
図3に例示されるサイドバイサイド型または
図4に例示される偏心芯鞘型の横断面形態をとることが好ましい。
図3は、サイドバイサイド型複合合成繊維の横断面形態の一例であり、A成分(10)とB成分(11)がサイドバイサイド型に複合されている状態を示す。
図4は、偏心芯鞘型複合合成繊維の横断面形態の一例であり、その繊維断面における重心位置を説明するための繊維横断面である。
【0028】
ここで偏心とは、複合合成繊維断面において芯成分の面積における重心点が複合合成繊維全体の面積における重心点と異なっていることを指す。以下、
図4を用いて具体的に説明すると、水平ハッチングがB成分(11)であり、45degハッチング(右上がり斜線)がA成分(10)であって、複合合成繊維断面におけるA成分の重心点(a)と、複合合成繊維断面の重心点(C)が異なって示されている。芯成分(A成分)と鞘成分(B成分)の組み合わせとしてポリエステル同士の組合せは、良好な捲縮と力学特性を有し、湿度や気温変化に対する寸法安定性に優れることから好ましい。ポリブチレンテレフタレート(PBT)を芯成分として用いることで、良好な捲縮を有し、よりかさ高い断熱層を形成することで保温性が高い織物が得られるため、特に好ましい。また、芯成分としてポリトリメチレンテレフタレート(PPT)を用いても良好な捲縮を有し、よりかさ高い断熱層を形成することで保温性が高い織物が得られ、好ましく使用することができる。
【0029】
本発明においては、捲縮性繊維が偏心芯鞘型複合合成繊維であると、繊維軸方向に湾曲し続け、3次元的なスパイラル構造をとり、良好な捲縮性繊維となるため好ましい。ここで、上述した重心点(a)と重心点(C)との重心位置が離れているほどより細かい捲縮となり、良好な保温性やストレッチ性能が得られる。また2成分間のポリマー剥離が抑制できることから捲縮性が維持でき、保温性が保てるという点においても非常に好ましい。さらに、芯成分を鞘成分で完全に覆うことにより、織物に摩擦や衝撃が加わっても白化現象や毛羽立ちなどが生じることを抑制できるので織物品位を保つことができ、これらに加え、単糸細繊度化原糸の紡糸操業性の観点からも、好ましい。
【0030】
本発明において、捲縮性繊維がサイドバイサイド型の複合合成繊維である場合、A成分とB成分の繊維横断面における複合面積比率は、捲縮発現の観点からA成分:B成分の面積比として70:30~30:70の範囲が好ましく、65:35~35:65の範囲がより好ましい。
【0031】
本発明において、捲縮性繊維が偏心芯鞘型の複合合成繊維である場合、芯成分と鞘成分の繊維横断面における複合面積比率は、偏心芯鞘型複合合成繊維としての物理特性をより改良するため、両成分の比率は、芯成分:鞘成分の面積比として70:30~30:70の範囲が好ましく、65:35~45:55の範囲がより好ましい。また、捲縮発現の観点から、芯成分を高収縮成分、あるいは高分子量ポリマーとして、その比率を多くすることが、微細なスパイラル構造を容易に実現できる点で好ましい。
【0032】
本発明においては、捲縮性繊維と他の繊維、又は捲縮性繊維同士を2本以上合糸または混繊して使用することも可能である。混繊する場合においては、インターレース混繊やタスラン混繊、仮撚加工、2種類以上の混繊など目的によって適宜選択して使用することができる。
【0033】
本発明の多層構造織物においては、外層1において、捲縮性繊維を50面積%以上含むことが保温性の点で好ましく、70面積%以上であることがより好ましい。上限としては、100面積%であることが最も保温性に富む点で好ましい。外層1は、捲縮性繊維の捲縮発現を促進する構造であるため、捲縮性繊維を多く含有するほど保温性向上効果が高くなり好ましい。ここで、上記において50面積%以上含むとは、外層を形成する繊維をその外表面から観察した際に、捲縮性繊維が占める面積比率が50%以上であることをいう。測定方法は実施例にて詳述する。
【0034】
本発明における捲縮性繊維の単糸繊度は、1.5dtex以下とすることが好ましい。より好ましくは1.0dtex以下である。1.5dtex以下の単糸繊度の捲縮性繊維とすることにより、より微細なスパイラル構造とすることができる。すなわち、単糸間の空隙がより微細になり、各々の空隙が断熱層として機能することで高い保温性を有する素材となるのである。下限としては、単糸細繊度化に伴うスナッグ、ピリング等の物性面の低下を抑制する点で0.1dtex以上であることが好ましい。捲縮性繊維の総繊度は10dtex以上600dtex以下の範囲とすることが好ましい。衣料用として好ましい範囲は、10dtex以上300dtex以下である。
【0035】
次に本発明における捲縮性繊維の好ましい製造方法の一例を述べるが、特にこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、紡糸温度はポリマー融点よりも+20~+50℃高い温度で設定するのが好ましい。ポリマー融点よりも+20℃以上高く設定することで、ポリマーが紡糸機配管内で固化して閉塞することを防ぐことができ、かつ高めに設定する温度を+50℃以下とすることでポリマーの過度な熱劣化を抑制することができるため好ましい。
【0037】
捲縮性繊維は溶融紡糸法によって好ましく得られるが、口金は、品質および操業安定的に紡糸することが可能であれば、通常用いられるいずれの内部構造のものであっても良く、特に特開2011-174215号公報や特開2011-208313号公報、特開2012-136804号公報に例示される分配板方式口金を好適に用いて所望とする断面形状とすることができる。
【0038】
捲縮性繊維は、前記のとおり単糸繊度が1.5dtex以下と細繊度であることが好ましいが、その製造において、易溶出成分を海とし、捲縮性繊維を島とする海島複合繊維として製造し、その後海成分を溶出除去することで得ることも可能である。海島溶出成分によってバイメタル構造複合繊維の周りを覆うことで、紡糸性を改善しつつ、単糸繊度の細い繊維を得られる。一方、直接紡糸法は、溶出加工工程が不要となることで製造が単純になり、織物の製造コストが下がる傾向にあり好ましい。また、海島溶出によって得られたバイメタル複合繊維での織物の溶出前熱処理が不要となることで、捲縮発現効果が大きくなりやすい。捲縮発現効果が大きくなると、織物の保温性が向上するので好ましい。
【0039】
本発明において、好ましく用いられる偏心芯鞘型複合合成繊維では、片側の成分を他方の成分で完全に覆っていることで遅延収縮が抑制でき、均一な織物を得ることにも寄与することができる点で好ましい。さらには、高収縮成分としてこれまで用いることができなかった高分子量ポリマーや高弾性ポリマー等を用いることができる点で好ましい。
【0040】
本発明において、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型の複合合成繊維を製造する場合、吐出されたポリマーを未延伸糸として一旦巻き取った後に延伸する二工程法のほか、紡糸および延伸工程を連続して行う直接紡糸延伸法や高速製糸法など、いずれのプロセスにおいても採用できる。また、高速製糸法における紡糸速度の範囲は特に限定されず、半延伸糸として巻き取った後に延伸する工程でもよい。さらに、必要に応じて仮撚などの糸加工を行うこともできる。
【0041】
捲縮性繊維を二工程法で製糸する場合、ホットロール-ホットロール延伸や熱ピンを用いた延伸の他、あらゆる通常の延伸方法を用いることができる。また、用途に応じて交絡や仮撚を加えながら延伸してもよい。毛羽発生や両成分の剥離などの複合異常を抑制するために、延伸糸の残留伸度は25~50%となるように延伸することが好ましい。ストレッチ状態で熱セットを行い、緊張を保ったままガラス転移温度以下に冷却して分子鎖を構造固定すると、収縮応力を高くでき織物の風合い向上に有効である。具体的には、0.3~3.0%程度のストレッチ状態のまま冷却ロールを通過させると、高い収縮応力が得られるので好ましい。なお、捲縮を発現させるために収縮するポリマー側(例えばA成分)に応力歪みを与えた状態で製糸、巻取を行うため、巻取後の織物形成前に粘弾性的な挙動により遅延収縮が発生し、織物にスジができる場合がある。
【0042】
本発明の多層構造織物においては、捲縮性繊維以外の他の繊維を含んでいても良い。具体的には、木綿、絹、動物繊維(羊毛)などの天然繊維や、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系などの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、または再生セルロース系繊維である。中でも、速乾性の観点から、ポリエステル系、ポリアミド系の合成繊維であることが好ましい。
【0043】
捲縮性繊維以外の繊維の形態としては、紡績糸であっても、マルチフィラメント糸であってもよいが、繊維屑脱落を抑制する点で、マルチフィラメント糸が好ましい。捲縮性繊維以外の繊維が紡績糸である場合、綿番手で10番以上の範囲を設定できる。さらに、衣料用として好ましい範囲は、20番以上170番以下である。捲縮性繊維以外の繊維がマルチフィラメント糸である場合、総繊度として10dtex以上600dtex以下の範囲とすることが好ましい。さらに、衣料用として、好ましい範囲は、10dtex以上300dtex以下である。
【0044】
本発明の多層構造織物は外層2の少なくとも一部において、厚み方向に孔を有し、孔の1個あたりの面積は通気性の観点から1.0×10-8m2/個以上である。好ましくは、3.0×10-8m2/個以上である。また、保温性の観点から5.0×10-7m2/個以下であり、好ましくは、3.0×10-7m2/個以下であり、より好ましくは1.0×10-7m2/個以下である。
【0045】
また、多層構造織物における外層2の面1cm2当たりの孔の個数が、4個/cm2以上、好ましくは8個/cm2以上、より好ましくは10個/cm2以上である。上限は特に限定されないが、保温性の点で50個/cm2以下であることが好ましく、40個/cm2以下であることがより好ましく、30個/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0046】
さらに、外層2の面における孔の面積割合が0.10%以上、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.30%以上である。上限は特に限定されないが、保温性の点で3.0%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明の多層構造織物は、上記の下限値である孔面積1.0×10-8m2/個未満、1cm2当たりの孔個数が4個/cm2未満、孔の面積割合が0.10%未満の場合、通気性が小さくなり、蒸れ感やオーバーシュートを防ぐことができない。また、孔面積5.0×10-7m2/個を超える場合、通気性が大きくなり、高い保温性を達成することができない。本発明においては、保温性と蒸れ感抑制とを両立させるため、上述した特定の範囲に制御することが必要である。なお、孔の面積、個数における測定方法は、実施例にて詳述する。
【0048】
本発明の多層構造織物は、上述したように外層2において厚み方向の少なくとも一部に孔を有するが、外層1を含むその他の層においても厚み方向に少なくとも一部に孔を有していても良い。その場合、好ましくは孔の数の80%以上を非貫通孔とすることで一定の通気性を保ちつつ、より高い保温性を達成することができる。本発明でいう非貫通孔とは、本発明の多層構造織物の一方の面から他方の面に厚み方向に直線上に貫通していない孔をいう。非貫通孔とすることにより、外層1の捲縮性繊維の空隙による一定の通気性で蒸れ感を抑えつつ、また非貫通孔であることで断熱層が多く形成されるためより保温性を高くすることができる。なお、外層1における外表面1cm2当たりの孔の個数(H1)は、対応する外層2における外表面1cm2当たりの孔の数(H2)よりも少ない(H1<H2)ことが、保温性の観点から好ましく、H1が0個/cm2であることがより好ましい。
【0049】
本発明の多層構造織物における孔の製造方法は、特に限定されないが、上述したように非貫通孔であることが好ましいことから、ニードル等によるパンチングではなく、溶解により得ることが好ましい。具体的には、経糸の一部と緯糸の一部が、水及び/又は同一の特定溶剤で溶解及び/又は分解する繊維からなる織物の一部を、水及び/又は特定溶剤中で溶解及び/又は分解除去して、繊維の直交部分にその繊度に応じた孔を形成させることが好ましい。図を用いて説明すると、
図2Aにおいて溶解及び/又は分解する繊維(7)を溶解及び/又は分解除去することにより、
図2Bのように孔(9)を形成させることができる。こうすることにより、外層1や外層2、その他の層がある場合にはその他の層において、任意の場所に孔を形成させることができ、適宜、孔の面積、個数を変えることで通気性や保温性を制御することが容易となる。また、外層1にも孔がある場合、その位置関係も制御することができ、通常、外層2の孔との位置関係が近いほど、通気性が増加し、保温性が低下する傾向にある。
【0050】
水で溶解する繊維とは、例えばポリビニルアルコール系繊維などの水溶性繊維を例示できる。少なくとも1本の経糸と少なくとも1本の緯糸に水溶性繊維を用い、水中にて溶解除去することにより、経糸と緯糸の直交部分に孔を形成することができる。除去する際の水温は20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また100℃以下の湯浴中で溶解除去することが好ましい。
【0051】
上述した特定溶剤としては、易アルカリ溶解性繊維であるポリエステル系繊維やポリ乳酸系繊維に対しては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ物質溶液を例示でき、アルカリ水溶液として用いることが好ましい。特に水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液であることが好ましく、アルカリ水溶液の浴温度は50℃以上とすることが、溶解及び/又は除去する際のコストパフォーマンスに優れ好ましい。
【0052】
溶解及び/又は分解させる経糸、緯糸には、例えばポリビニルアルコール系繊維などの水溶性繊維、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸およびメトオキシポリオキシエチレングリコールなどの第3成分が共重合されたポリエステル系繊維、ポリ乳酸系繊維などの易アルカリ溶解性繊維などを用いることができるが、特に限定されるものではない。またこれらを単独あるいは2種以上の複合物として使用することもできる。これらを単独で使用する場合は、2本以上を配列、引き揃え、合糸、合撚などして用いることができる。
【0053】
本発明の多層構造織物は、好ましくはJIS L 1096(2010)記載のかさ高性が好ましくは3.00cm3/g以上であり、より好ましくは15.00cm3/g以下である。かさ高性を3.00cm3/g以上とすることで、空気層をより多く形成でき、高い保温性を発現できる。また、かさ高性を15.00cm3/g以下とすることで、衣料として着用感を損なうことなく、より保温性を発現することができる。かさ高性は、外層1や外層2の目付や密度、厚さなどにより制御することができる。
【0054】
本発明においては、JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が15.0cc/cm2・sec以上、100.0cc/cm2・sec以下であることが好ましい。この範囲にて良好に蒸れ感やオーバーシュートを防ぎつつ、高い保温性を発現することができる。通気性は、孔の1個あたりの面積や、外層2の面1cm2当たりの孔の個数、外層2の面における孔の面積割合等により調整することができる。
【0055】
本発明で用いる多層構造織物は従来公知の方法で製織することができ、また従来公知の方法で染色加工することもできる。染色加工としては、例えば、精練、リラックス、熱セット、染色加工、減量加工、機能加工などが挙げられる。機能加工は、必要に応じて、撥水、制電、難燃、吸湿、抗菌、柔軟仕上げ、その他公知の機能加工を施すことができる。
【0056】
本発明の衣料は、本発明の多層構造織物を少なくとも一部に含む。本発明における多層構造織物を用いて、衣料とする場合、外層1を肌面側とすることが好ましい。その場合、外層1がいわゆる裏面層となる。この態様により、保温性をより効果的に感じることができる。衣料としては、特に限定されないが、例えばトップスやパンツなどが挙げられる。特に、本発明の多層構造織物は保温性がありながらも通気性にも優れることから、本発明の衣料は運動着やスポーツウェアであることがより好ましく、秋冬用であることがさらに好ましい。
【実施例0057】
以下実施例を挙げて、本発明の多層構造織物について具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0058】
(1)多層構造織物における交錯点の比
多層構造織物を観察しやすい大きさにカットし、マイクロスコープを用いて倍率100倍にて、双方の面を観察した。同観察面において、交錯している点をカウントした。なお、観察箇所の端で見切れている交錯点はカウントしないものとした。観察箇所をランダムに変更し、同じ倍率にてそれぞれの面につき、それぞれ10箇所の交錯点数をカウントし、その平均値を求めた。こうして求めた交錯点数の少ない方を外層1、多い方を外層2と定義した。また同じ場合は、任意の一方を外層1、他方を外層2とした。さらに、下記式に従って交錯点の比を求めた。測定結果は、表中外層1/外層2の交錯点の比として示した。
・交錯点の比=(外層1の交錯点数の10箇所平均)/(外層2の交錯点数の10箇所平均)。
【0059】
(2)捲縮性繊維の面積比率
多層構造織物の外層1の面を、マイクロスコープを用いて倍率50倍にて観察し、撮影した。三谷商事株式会社製「WinROOF」を用いて、全面積に対する捲縮性繊維の面積比率を計測した。ランダムに10箇所を観察し、10箇所の平均値を求めた。次いで、外層2の面についても同様に10箇所を観察し、平均値を求めた。
【0060】
(3)繊度
枠周1.0mの検尺機を用いて100回分のカセを作製し、下記式に従って繊度を測定した。
・繊度(dtex)=100回分のカセ重量(g)×100。
【0061】
(4)孔の1個あたりの面積
マイクロスコープを用いて倍率50~300倍にて外層2の面を観察し、孔の経方向ならびに緯方向の長さから面積を算出した。同手法でランダムに10箇所を計測し、10箇所の平均値として有効数字2桁で表した。ここで、孔とは1個あたりの面積が5.0×10-9m2/個以上である隙間のこととする。
【0062】
(5)孔の個数および面積割合
サンプルを経3cm×緯3cmの大きさにカットして、外層2の面について倍率30~100倍に設定したマイクロスコープにて観察し、孔の個数を数えた。なお、カット面に孔がある場合、孔個数として値に含めた。上記サンプルを10枚用意し、同様の測定方法にて、10枚の孔個数の平均値を整数に丸めて表した。また、各サンプルにおける孔の個数および上記(4)と同様に求めた孔の面積を掛けた総面積を、10枚のサンプルについて求め、それを有効数字2桁で平均して孔の面積割合とした。ここで、孔とは1個あたりの面積が5.0×10-9m2/個以上である隙間のこととする。
【0063】
(6)非貫通孔の孔個数の割合
サンプルを経2cm×緯2cmの大きさにカットして、倍率30~200倍に設定したマイクロスコープにて外層2の面を観察した。このとき、マイクロスコープのステージと生地との間に生地色とは異なる色の背景を用いた。例えば、生地色が黒色の場合、白色の背景を用い、生地色が白色の場合、黒色の背景を使うと観察がしやすい。サンプルの孔をすべて観察し、背景色が見える場合を貫通孔、背景色が見えない場合を非貫通孔として、下記式によって非貫通孔の孔個数の割合として求めた。
・非貫通孔の孔個数の割合={(非貫通孔の孔個数)/(全孔個数)}×100。
【0064】
(7)厚さ
JIS L 1096(2010) 8.4記載のA法(JIS法)に従って測定した。
【0065】
(8)目付
JIS L 1096(2010) 8.3.2記載のA法(JIS法)に従って測定した。
【0066】
(9)かさ高性
JIS L 1096(2010) 8.5記載のA法に従って測定した。
【0067】
(10)通気性
JIS L 1096(2010) 8.26記載のA法(フラジール形法)に従って測定した。
【0068】
(11)保温性clo値
カトーテック株式会社製「KES-7」保温性試験機を用い、20℃×65%R.H.の温湿度環境下にて、15cm×15cm(実測部は10cm×10cm)のサンプルを、外層1(捲縮性繊維を含む外層)が熱板(BT-Box)に接触するように取付け、40℃の熱板温度で試験機付属の電力計の変動が最少となる安定状態になるまで、ウォーミングアップを行った。それから測定を開始し、60秒間の消費電力(W)および試験機の外気温度(すなわちT-Box温度)を読取った。下記式に従って保温性clo値を求め、試験片3枚を用いて各1回ずつ測定を行い、3回測定の平均値で表した。
・clo値=(1/0.155)×(ΔT×A)/W
ここで、ΔT:熱板温度と外気温度の差(℃)、W:試験60秒間の消費電力(W)、A:熱板の面積(0.01m2)である。
【0069】
(12)暖かさに関する着用快適性評価
得られた多層構造織物を用いて、U字襟型のTシャツを作製した。被験者3人にTシャツを着用させ、20℃×65%R.H.の温湿度環境下にて着座姿勢で10分間静止させた。Tシャツの着用部の暖かさの関係につき、官能評価にて、1~3点の3段階で評価し、被験者3人の平均値を算出した。
3:とても暖かい。
2:わずかに暖かい。
1:ほとんど暖かくない。
【0070】
(13)蒸れ感に関する着用快適性評価
得られた多層構造織物を用いて、U字襟型のTシャツを作製した。被験者3人にTシャツを着用させ、20℃×65%R.H.の温湿度環境下にて着座姿勢で10分間静止させた。静止後、風速3m/secの風を被験者に当てながらトレッドミルにて時速6km/hで20分間の歩行を実施した。Tシャツの蒸れ感につき、官能評価にて、1~3点の3段階で評価し、被験者3人の平均値を算出した。
3:蒸れ感がほとんどない。
2:蒸れ感がわずかにある。
1:蒸れ感がとてもある。
【0071】
[実施例1]
経糸として、56dtex-48フィラメントの偏心芯鞘型複合仮撚加工糸(DTY)の2本引き揃えた繊維と90dtex-48フィラメントの5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ溶解性のポリエステル繊維をそれぞれ10本:1本の割合で交互に配列し、緯糸として、外層2には56dtex-48フィラメントの偏心芯鞘型複合仮撚加工糸(DTY)の2本引き揃えた繊維と90dtex-48フィラメントの5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ溶解性のポリエステル繊維をそれぞれ12本:1本の割合で交互に配列し、外層1には167dtex-288フィラメントの通常PET仮撚り加工糸(DTY)を使用し、二重織物を製織した。ついで、通常の精練、乾燥、中間セットを実施後、水酸化ナトリウムを3%濃度となるよう調整した溶液中で95℃×10分間、浴中処理を実施し、易アルカリ溶解性のポリエステル繊維を完全溶解させた。その後、通常の染色加工方法と吸水加工を行い、外層1が1/5ツイル変化組織、外層2が平織組織の変化組織であり、外層1の緯糸に捲縮性繊維が多く存在する緯二重織物を作製した。
【0072】
得られた多層構造織物は、外層1/外層2の交錯点の比が0.13であり、外層2における交錯点数に比べて、外層1の交錯点数が少なかった。また、捲縮性繊維の面積比率は、外層1ならびに外層2において100%であった。孔面積は3.8×10-8m2/個、孔個数は11個/cm2であり孔の面積割合は0.42%、非貫通孔割合は100%である構造であった。さらに、JIS L 1096(2010)記載のかさ高性は3.54cm3/g、保温性clo値が0.76、JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が21.0cc/cm2・secであった。暖かさに関する着用快適性評価は平均2.7点であった。また、蒸れ感に関する着用快適性評価は平均2.3点であり、肌面部において保温性が高く、かつ通気性がよく蒸れ感を感じにくい多層構造織物が得られた。
【0073】
[比較例1]
経糸と外層2の緯糸として、56dtex-48フィラメントの偏心芯鞘型複合仮撚加工糸(DTY)の2本引き揃えた繊維を使用し、外層1の緯糸として、167dtex-288フィラメントの通常PET仮撚り加工糸(DTY)を使用し、織物を製織した。ついで通常の精練、乾燥、中間セットを実施後、通常の染色加工方法と吸水加工を行い、外層1が1/5ツイル変化組織、外層2が平織組織の変化組織である緯二重織物を作製した。
【0074】
得られた多層構造織物は、外層1/外層2の交錯点の比が0.15であり、外層2における交錯点数に比べて、外層1の交錯点数が少なかった。また、捲縮性繊維の面積比率は、外層1ならびに外層2において100%であった。孔個数は0個/cm2である構造であった。さらに、JIS L 1096(2010)記載のかさ高性は3.06cm3/g、保温性clo値が0.68、JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が6.4cc/cm2・secであった。暖かさに関する着用快適性評価は平均2.7点であった。また、蒸れ感に関する着用快適性評価は平均1.0点であり、肌面部において保温性が高いが、通気性がわるく蒸れ感をとても感じる多層構造織物であった。
【0075】
[比較例2]
経糸として、84dtex-72フィラメントの通常PET繊維と90dtex-48フィラメントの5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ溶解性のポリエステル繊維をそれぞれ12本:3本の割合で交互に配列し、緯糸として、84dtex-36フィラメントの通常PET繊維と84dtex-72フィラメントの通常PET繊維とをS撚りに合撚した糸と90dtex-48フィラメントの5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ溶解性のポリエステル繊維をそれぞれ7本:3本の割合で交互に配列した糸を使用して二重織物を製織した。ついで、通常の精練、乾燥、中間セットを実施後、水酸化ナトリウムを3%濃度となるよう調整した溶液中で95℃×10分間、浴中処理を実施し、易アルカリ溶解性のポリエステル繊維を完全溶解させた。その後、通常の染色加工方法と吸水加工を行い、平織組織の変化組織の単層構造織物を作製した。
【0076】
得られた単層構造織物は、表と裏で交錯点数がほぼ等しくなり、捲縮性繊維の面積比率は、外層1ならびに外層2において0%であった。孔面積は1.7×10-7m2/個、孔個数は10個/cm2である構造であり、孔の面積割合は1.7%、非貫通孔割合は0%である構造であった。さらに、JIS L 1096(2010)記載のかさ高性は3.26cm3/g、保温性clo値が0.69、JIS L 1096(2010)記載のA法(フラジール形法)における、通気性が64.0cc/cm2・secであった。暖かさに関する着用快適性評価は平均1.7点であった。また、蒸れ感に関する着用快適性評価は平均2.7点であり、肌面部において保温性が十分ではないが、通気性がよく蒸れ感を感じにくい単層構造織物であった。
【0077】
以上より、本発明に用いる多層構造織物は、暖かさと通気性効果を両立し、一般衣料用途ならびにスポーツ・アウトドア用途や肌面に直接触れる衣料用途に極めて快適に用いることができることがわかった。
【0078】