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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144431
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20231003BHJP
   H01S 5/185 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051401
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇子
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB52
5F173AB90
5F173AH22
5F173AR32
5F173AR52
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供する。
【解決手段】透光性の基板と、n型半導体層と、活性層と、p型半導体層と、フォトニック結晶層である空孔層14Pと、反射面を有する光反射層32と、反射面とp型半導体層の間に設けられた透光性導電体層31と、を備え、空孔層は、空孔層内に定在する光を空孔層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、回折面から光出射面側に回折された第1の回折光と、回折面から光反射層側に回折され反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、第1の回折光の光強度より小さくなるように回折面と反射面との離間距離dが設けられた弱め合い領域と、当該干渉光の光強度が、記第1の回折光の光強度より大きくなるように回折面と反射面との離間距離が設けられた強め合い領域と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の基板と、
前記基板上に設けられたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたp型半導体層と、
前記n型半導体層に含まれ、前記活性層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を備えるフォトニック結晶層である空孔層と、
前記p型半導体層上に設けられ、反射面を有する光反射層と、
前記反射面と前記p型半導体層の間に設けられた透光性導電体層と、を備え、
前記基板の裏面に光出射面を有し、
前記空孔層は、前記空孔層内に定在する光を前記空孔層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、
前記回折面から前記光出射面側に回折された第1の回折光と、前記回折面から前記光反射層側に回折され前記反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、前記第1の回折光の光強度より小さくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた弱め合い領域と、
前記干渉光の前記光強度が、前記第1の回折光の光強度より大きくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた強め合い領域と、
を有する面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記透光性導電体層は、中心から順に第1領域層、第2領域層、・・・、第k領域層(kは2以上の整数)を有し、
前記第1領域層は前記弱め合い領域に設けられ、
前記第2領域層は、前記強め合い領域に設けられ、前記第1領域層とは異なる層厚を有する、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記第2領域層は前記第1領域層よりも小なる層厚を有する請求項2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記第1領域層上の前記光反射層と前記第2領域層上の前記光反射層とは互いに異なる反射率を有する請求項2又は3に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記透光性導電体層は、少なくとも第1領域層、第2領域層及び第3領域層を有し、
前記透光性導電体層の前記第1領域層及び前記第3領域層は前記強め合い領域に設けられ、
前記第2領域層は前記弱め合い領域に設けられている、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記回折面により回折された前記第1の回折光と、前記回折面により回折され、前記反射面により反射された前記第2の回折光との位相差をθ(deg)、前記第1の回折光の波長をλ、前記回折面から前記反射面までの層の平均屈折率をnave、0以上の整数をmとしたとき、前記離間距離は、以下の式で表され、
前記位相差θは、前記反射面の反射率をR、前記空孔層の面内方向及び垂直方向における前記空孔層の損失をそれぞれαp及びαv、内部損失をαiとしたとき、前記弱め合い領域は、
を満たし、前記強め合い領域は、
を満たす請求項1乃至5のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記透光性導電体層は円形形状を有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子、特にフォトニック結晶を有する面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、単一格子のフォトニック結晶を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶面発光レーザが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、多重格子フォトニック結晶層を有し、活性層の平坦性及び結晶性が高く、かつ光取り出し効率が高く、低閾値電流密度及び高量子効率で発振動作することができるフォトニック結晶面発光レーザについて開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、中心領域と、中心領域の周囲に設けられかつ中心領域よりも第1及び第2の多層膜反射鏡間の光学距離が小さい周辺領域と、を含む光ガイド構造を有する垂直共振器型発光素子が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、フォトニック結晶面発光レーザの回折光の定式化と、フォトニック結晶層において回折されてフォトニック結晶層に垂直な方向に発せられる回折放射波プロファイルなどが開示されている(FIG.1、FIG.4(b))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2018-155710号公報
【特許文献2】特開2020-045573号公報
【特許文献3】特開2019-208004号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Liang et al.: Phys.Rev. B vol.84, 195119 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の垂直共振器型発光素子においては、光学距離が異なる領域を有する光ガイド層を共振器内に設けてビームを制御しているため、高出力な単峰性のレーザ光を安定して生成するには、発振モードを考慮した上で光ガイド層を形成しなければならなかった。また、多峰性の強度分布を有するレーザ光を生成及び出射する場合も同様である(例えば、特許文献3)。
【0010】
本発明は、発振モードを制御するのではなく、フォトニック結晶(PC)層から回折され放出される回折光、つまり既に放出された光を制御してビーム形状を所望の形状に制御する点に着目してなされた。これにより、レーザの発振モードに関係なくビームの制御が可能である。換言すれば、発振に寄与していない光を利用することでビーム形状を容易かつ高精度に制御することができる。
【0011】
本発明は、上記点に着目してなされたものであり、ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、
透光性の基板と、
前記基板上に設けられたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられたp型半導体層と、
前記n型半導体層に含まれ、前記活性層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を備えるフォトニック結晶層である空孔層と、
前記p型半導体層上に設けられ、反射面を有する光反射層と、
前記反射面と前記p型半導体層の間に設けられた透光性導電体層と、を備え、
前記基板の裏面に光出射面を有し、
前記空孔層は、前記空孔層内に定在する光を前記空孔層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、
前記回折面から前記光出射面側に回折された第1の回折光と、前記回折面から前記光反射層側に回折され前記反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、前記第1の回折光の光強度より小さくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた弱め合い領域と、
前記干渉光の前記光強度が、前記第1の回折光の光強度より大きくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた強め合い領域と、を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の第1の実施形態によるPCSEL素子10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1B図1Aの空孔層14P(フォトニック結晶層)及び空孔層14P中に配列された空孔(air hole)14Kを模式的に示す部分拡大断面図である。
図2A】PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。
図2B】空孔層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図である。
図2C】PCSEL素子10の下面を模式的に示す平面図である。
図3】第1の実施形態のPCSEL素子10の光干渉層31、光反射層32及び回折光の干渉を示す図である。
図4】αv/αpに対するスロープ効率ηSEを示す図である。
図5】反射金属層にAg及びPdを用いたときのスロープ効率ηSEの位相差θに対する依存性を示す図である。
図6】空孔層14P内をx軸方向に伝搬する光が、空孔層により回折され垂直方向(±z方向)に放射される放射波の電界振幅の算出結果を示す図である。
図7】位相差θに対するスロープ効率ηSE及び干渉層膜厚の関係を示す図である。
図8】第1の実施形態の改変例を示す模式的な断面図である。
図9】第2の実施形態のPCSEL素子50の断面、干渉光強度、ビーム形状を模式的に示す図である。
図10】光反射層32(1)がPd(R=0.45)である中心領域R1についての干渉層層厚の位相差(θ)依存性を示す図である。
図11】第3の実施形態のPCSEL素子60の断面、干渉光強度、ビーム形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
1.フォトニック結晶面発光レーザの構造
(a)素子構造
フォトニック結晶面発光レーザ(以下、PCSELとも称する。)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n側ガイド層、発光層、p側ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0016】
一方、分布ブラッグ反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR )レーザが知られているが、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)は、以下の点でDBRレーザとは異なっている。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)では、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザでは、共振方向(フォトニック結晶層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0017】
図1Aは、本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶面発光レーザ素子(以下、PCSEL素子ともいう。)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1Aに示すように、半導体構造層11が透光性の基板12上に形成されている。なお、半導体構造層11の中心軸CXに垂直に半導体層が積層されている。
【0018】
また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。本実施形態においては、半導体構造層11は、例えば、GaN系半導体からなる。
【0019】
より詳細には、基板12上に複数の半導体層からなる半導体構造層11、すなわちn-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n側に設けられたガイド層であるn側ガイド層(第1のガイド層)14、光分布調整層23、活性層(ACT)15、p側に設けられたガイド層であるp側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層(第2導電型の第2のクラッド層)18、p-コンタクト層19がこの順で形成されている。なお、第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0020】
基板12は、主面が、Ga原子が最表面に配列した{0001}面である+c面のGaN単結晶基板である。基板12はこれに限定されないが、ジャスト基板、又は、例えば、主面がm軸方向に1°程度までオフセットした基板が好ましい。例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0021】
主面と対向する光出射領域20Lが設けられた基板面(裏面、光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0022】
以下に各半導体層の組成、層厚等の構成について説明するが、例示に過ぎず、適宜改変して適用することができる。
【0023】
n-クラッド層13は、例えばAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層(層厚2μm)である。
【0024】
n側ガイド層14は、下ガイド層14A、フォトニック結晶層(PC層)である空孔層(air-hole layer)14P及び埋込層14Bからなる。
【0025】
n側ガイド層14は、例えばn型GaN(層厚360nm)である。n側ガイド層14の下ガイド層14Aは、n型GaN(層厚200nm)である。空孔層(air-hole layer)14Pは、層厚(又は空孔14Kの深さ)が90nmである。埋込層14Bは、n型GaN(層厚90nm)である。
【0026】
光分布調整層23は、アンドープのIn0.03Ga0.97N層(層厚50nm)である。光分布調整層23は、光と空孔層14Pとの結合効率(光フィールド)を調整するための調整層として機能する。
【0027】
発光層である活性層15は、例えば2つの量子井戸層を有する多重量子井戸(MQW)層である。MQWのバリア層及び量子井戸層は、それぞれGaN(層厚6.0nm)及びInGaN(層厚3.0nm)である。また、活性層15の発光波長は435nmである。
【0028】
p側ガイド層16はp側ガイド層(1)16A及びp側ガイド層(2)16Bからなる。p側ガイド層(1)16Aは、アンドープIn0.02Ga0.98N層(層厚70nm)であり、p側ガイド層(2)16Bは、アンドープGaN層(層厚180nm)である。
【0029】
p側ガイド層16は、ドーパント(Mg:マグネシウム等)による光吸収を考慮してアンドープ層であるが、良好な電気伝導性を得るためにドープしてもよい。また、発振動作モードの電界分布を調整するため、p側ガイド層(1)16AのIn組成及び層厚は適宜選択することができる。
【0030】
電子障壁層(EBL)17は、Al0.2Ga0.8N層(層厚15nm)であり、p-クラッド層18は、Mgドープのp-Al0.06Ga0.94N層(層厚290nm)である。また、p-コンタクト層19は、Mgドープのp-GaN層(層厚25nm)である。
【0031】
なお、本明細書において、「n側」、「p側」は、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n側ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0032】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。ガイド層16、p-クラッド層18についても同様である。また、上記した全ての半導体層を設ける必要はなく、n型半導体層、p型半導体層、及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有する構成であればよい。
【0033】
半導体構造層11上、すなわちp-コンタクト層19上(上面)には、光干渉層31が設けられ、光干渉層31上には光反射層32が設けられている。また、光反射層32上には、p電極(アノード)20Bが設けられている。なお、光干渉層31及び光反射層32の形成領域をアノード領域RAと称する。
【0034】
半導体構造層11の側面及び上面の縁部は、SiO2などの絶縁膜21で被覆されている。また、絶縁膜21は、光干渉層31、光反射層32及びp電極20Bの側面、及びp電極20Bの上面の縁部を覆うように形成されている。
【0035】
活性層15からの放射光は空孔層(PC層)14Pによって回折される。空孔層14Pによって回折され、空孔層14Pから直接放出された光(直接回折光Ld:第1の回折光)と、空孔層14Pの回折によって放出され、光反射層32によって反射された光(反射回折光Lr:第2の回折光)とが基板12の裏面(出射面)12Rの光出射領域20L(図2C)から外部に出射される。
【0036】
図1Bは、図1Aの空孔層14P(フォトニック結晶層)及び空孔層14P中に配列された空孔(air hole)の詳細を模式的に示す拡大断面図である。本実施形態において、空孔層14Pは、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが格子点に正方格子点位置に2次元配列されている。すなわち、空孔層14Pは、二重格子構造の空孔層として形成されている。
【0037】
なお、格子点に空孔が1つ設けられた単一格子構造(シングルホール)、及び、一般に多重格子構造の空孔層について適用することができる。したがって、以下においては、空孔対14Kを単に空孔14Kと称して説明する。
【0038】
より詳細には、空孔14Kは、結晶成長面(半導体層成長面)、すなわちn側ガイド層14に平行な面において、例えば正方格子状に周期PCを有して、空孔14Kがそれぞれ正方格子点位置に2次元配列されてn側ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。
【0039】
図2Aは、PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図、図2Bは、空孔層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図、図2Cは、PCSEL素子10の下面を模式的に示す平面図である。
【0040】
図2Bに示すように、空孔層14Pにおいて空孔14Kは、例えば矩形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。図2Cに示すように、アノード領域RA(光干渉層31及び光反射層32の形成領域)は、空孔形成領域14R内に包含されるように形成されている。
【0041】
また、n電極20Aの内径は、空孔層14Pに対して垂直方向から見たときにアノード領域RA以上であればよい。
【0042】
n電極20Aの内側の領域が光出射領域20Lである。また、n電極20に電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド20Cを備えている。
(b)光干渉層、光反射層及び回折光の干渉
図3は、第1の実施形態のPCSEL素子10の光干渉層31、光反射層32及び回折光の干渉を示す図である。より詳細には、図3の上段には、半導体構造層11、光干渉層31及び光反射層32の断面が、中段には干渉により生成された干渉光LSの強度が、下段には干渉光LSのビーム形状及び強度が模式的に示されている。
【0043】
光干渉層31は、透光性の導電体層、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)で形成されている。光干渉層31は、p-コンタクト層19にオーミック接触している。なお、光干渉層31は、ITOに限定されず、亜鉛錫酸化物(ZTO)等の透光性導電体を用いることができる。
【0044】
光干渉層31は、上面視で、すなわち半導体構造層11に垂直な方向(z方向)から見たときに、円形状を有している。詳細には、光干渉層31は、円形状で層厚d1の中心領域R1(以下、第1領域ともいう。)の光干渉層31(1)と、中心領域R1の外側領域で中心領域R1と同心の円環形状を有し、中心領域R1よりも層厚の小さな(層厚はd2)周辺領域R2(以下、第2領域ともいう。)の光干渉層31(2)からなる(d1>d2)。なお、光干渉層31(1)及び光干渉層31(2)をそれぞれ第1領域層及び第2領域層とも称する。
【0045】
本実施形態において、中心領域R1の直径は100μmであり、周辺領域R2の直径(外径)は300μmである(すなわち、内径は100μm)。しかしながら、中心領域R1及び周辺領域R2の直径は、ビーム(横モード)制御の点から適宜設定することができる。
【0046】
光干渉層31上には、光反射層32として金属層が形成されている。なお、図3において、光反射層32上に設けられているp電極20Bは図示が省略されている。
【0047】
光反射層32は、空孔層14Pからの回折光を反射する。光反射層32は、光干渉層31の表面の全体を覆うように形成されている。
【0048】
光反射層32は、例えば、反射率が85%である高反射率の銀(Ag)又は反射率が45%であるパラジウム(Pd)などを用いることができる。また、光反射層32の層厚は、例えば200nmであるがこれに限定されない。
【0049】
光反射層32上に設けられているp電極20Bは(図1Aを参照)、例えばTi/Pt/Auからなるがこれに限定されない。p電極20Bには、例えばTi/Au、Ti/Al/Ti/Pt/Au、Ni/Pt/Auなどを用いることができる。また、p電極20Bの層厚を厚くしてパッド電極としてもよい。
【0050】
半導体構造層11については、空孔層14P及び活性層15以外の各半導体層は、図の明確さのため図示されていない。また、空孔層14Pの回折面WSと、半導体構造層11及び光干渉層31の界面との距離はdである。
【0051】
本実施形態のPCSEL素子10における回折光の干渉について以下に説明する。活性層15の放射光は空孔層14Pによって回折される。当該回折光のうち、中心領域R1の光干渉層31(1)を経て光反射層32で反射された光(反射回折光Lr)は、空孔層14Pからの直接回折光Ldと干渉して生成された干渉光(合成光)LS1が生成される(第1領域の干渉光)。
【0052】
同様に、周辺領域R2において、周辺領域R2の光干渉層31(2)を経た反射回折光Lrは、空孔層14Pからの直接回折光Ldと干渉して干渉光LS2が生成される(第2領域の干渉光)。
【0053】
中心領域R1の光干渉層31(1)の層厚d1は、直接回折光Lrと反射回折光Lrとが弱め合うように定められている。また、周辺領域R2の光干渉層31(2)の層厚d2は、直接回折光Lrと反射回折光Lrとが強め合うように定められている。
【0054】
したがって、中心領域(第1領域)R1及び周辺領域(第2領域)R2で生成され、出射される干渉光LS1及び干渉光LS2の強度は、LS1<LS2を満たす。すなわち、周辺領域R2は中心領域R1よりも明るい領域である。
【0055】
なお、説明の明確さ及び理解の容易さのため、干渉光LS1及び干渉光LS2の強度をそれぞれ同一の符号を用いて干渉光強度LS1及び干渉光強度LS2として説明する。また、干渉光LS1及び干渉光LS2を区別しないときは干渉光LSと総称する。
【0056】
2.PCSEL素子のスロープ効率
(a)反射面の反射を考慮したPCSEL素子のスロープ効率
図3に示すように、空孔層(フォトニック結晶層)14Pがxy平面上にあるとき、空孔層14Pを伝搬する光はxy平面内に定在波を形成し、その一部がフォトニック結晶によりxy平面に直交するz軸方向へ回折されレーザ光として出射される。
【0057】
中心領域R1及び周辺領域R2の光反射層32の反射面SR1及びSR2(以下、特に区別しない場合は反射面SRという。)は空孔層14Pと平行な平面上にあり、空孔層14Pによって回折されたレーザ光と反射面SRとは直交する。
【0058】
PCSEL素子10においては、出射効率を考える上で、反射面SRにおける吸収、及び入射光と反射光との干渉を考慮する必要がある。
【0059】
PCSEL素子10における共振器損失は、空孔層14Pと同一面内(xy面内)方向の損失成分αpと、これに直交する垂直方向(z方向)の損失成分αvとに分けられる。このうち、レーザ出射に寄与するのは垂直方向の成分αvであるが、反射面SRが存在する場合には、反射面SRでの吸収および反射を考慮して出射効率を考える。
【0060】
なお、本明細書において、面内方向の損失αp、垂直方向の損失αv、スロープ効率ηSEをそれぞれ次のようにも表記する。
【0061】
【数1】
【0062】
回折によって垂直方向に放射される成分はαvなので、z軸の上下方向(±z方向)に均等に回折が発生するとすれば±z方向に出射されるエネルギーは等しいため、±z方向に放射されるレーザ光は0.5αvとなる。
【0063】
反射面SRの反射率をRとすると、反射面SRの方向(+z方向)に放射されたレーザ光のうちSRで吸収される成分は0.5αv(1-R)、反射される成分は0.5αvRである。空孔層14Pから出射面12Rの方向に出射された光と、反射面SRにより出射面12Rの方向に反射された光の位相差をθとすると、出射面から出射される実効的放射係数αv1は、以下の式(1.1)で表される。
【0064】
【数2】
【0065】
また、反射面SRにおいて吸収される損失は0.5αv(1-R)であり、このとき放射損失αは、以下の式(1.2)で表される。
【0066】
【数3】
【0067】
したがって、PCSEL素子10における反射面SRを考慮したときのスロープ効率ηSE(出射効率)は、以下の式(1.3)で表される。
【0068】
【数4】
【0069】
なお、上式においてηiはレーザ発振動作時の注入効率である。また、上式においては共振器損失以外に、材料吸収による内部損失αiを考慮した。
【0070】
内部損失αi=0のとき、式(1.3)は式(1.4)で表される。
【0071】
【数5】
【0072】
すなわち、αv/αpが大きいほどスロープ効率ηSEを高めることができる。ηi =1、R=1、θ=0、αi=0の理想的な場合において、αv/αpに対するスロープ効率ηSEは図4に示される。
【0073】
図4に示すように、αv/αpが約20以上においてスロープ効率ηSEは飽和する。したがって、スロープ効率ηSEを高めるという観点から考えるとαvはαpの20倍程度であることが好ましい。
【0074】
αv/αp=20のとき、反射電極としてITO/Ag(反射率R=0.85)及びITO/Pd(反射率R=0.45)を用いたときのスロープ効率ηSEの位相差θに対する依存性を図5に示す。なお、スロープ効率ηSEは、反射がない場合のスロープ効率で規格化して示している。
【0075】
また、フォトニック結晶層を有しない垂直共振器型レーザ(VC-LD)のスロープ効率の位相差θに対する依存性を併せて示している。
【0076】
垂直共振器型レーザ(VC-LD)においては、スロープ効率は位相差θに対してcos曲線状に変化する。つまり、相対的に放射強度が強い領域(以下、強め合い領域という。)と相対的に放射強度が弱い領域が2πの間隔で周期的に出現する。
【0077】
一方、水平方向(空孔層の面内方向)に共振するPCSEL素子において、空孔層の垂直方向において直接回折光Ldと反射回折光Lrとが相対的に強め合う素子領域(以下、強め合い領域という。)と相対的に弱め合う素子領域(以下、弱め合い領域という。)とは、垂直共振器型レーザ等の他の発光デバイスとは異なる特徴を示す。これは発振に関与する全損失(αtotal)は、αv(放出による損失)、αi(構成要素による損失)、αp(共振に関する損失)の和(αtotal=αv+αi+αp)からなるが、垂直方向に出射した光の干渉に関してはαvとαiが関与するためである。
【0078】
図5に示すように、PCSEL素子では、強め合い領域となる位相差θの範囲が広く、弱め合い領域の位相差θの範囲が狭い。
【0079】
つまり、強め合い領域の干渉層の層厚許容範囲が広く、膜厚制御がしやすくなり、出射強度の制御が可能である。また、PCSEL素子の強め合い領域及び弱め合い領域の位相差θの範囲は反射層の反射率によって異なるという性質も持つ。
【0080】
したがって、PCSEL素子においては、弱め合い領域の干渉層の層厚範囲の許容幅は狭いが、弱め合い領域に位置する反射層の反射率を下げることで、弱め合い領域の層厚範囲の許容幅を広げ、強め合い領域と同じく出射強度の制御は容易になる。
【0081】
(b)波源(回折面)位置
第1の実施形態のPCSEL素子10において空孔層14Pに垂直な方向に放射される放射波プロファイルを算出した。
【0082】
より詳細には、例えば非特許文献1から、結合波理論を用いて空孔層14Pのxy方向(面内方向)に伝搬する光と、空孔層14Pによる回折波の波源(回折面)及び回折され垂直方向に放射される放射波を算出することができる。
【0083】
図6は、空孔層14P内をx軸方向に伝搬する光が、空孔層14Pにより回折され垂直方向(±z方向)に放射される放射波の電界振幅の算出結果を示す図である。
【0084】
当該計算において、空孔充填率(フィリングファクタ)FFは10%とした。また、窒化物材料系においては、+C面基板上に成長した層中に空孔を埋め込む場合には埋め込み成長中に発生するマストランスポートにより、空孔は側面がm面の六角柱構造になることが知られている(例えば、特許文献1)。したがって、ここでは空孔層14Pの空孔14Kは、z軸方向に伸びる中心軸を有する六角柱構造であるとみなして計算した。また、空孔周期PCは176nmとした。
【0085】
図6に示すように、空孔層14Pによって回折された光は、放射光として空孔層14P内のある点(z軸上の点)を起点として+z軸方向及び-z軸方向に対称に放射されていく様子が分かる。
【0086】
空孔層14P内のこの起点(z=zws)から放射波が放射されているとみなすことができるため、この点がデバイスにおける回折面(波源)WSである。そして、z=zwsを満たす面であって、空孔層14Pに平行な面が回折面であり、波源として機能する。以下においては、理解の容易さ及び説明の簡便さのため、同一符号を用い、かかる面を回折面WSとして説明する。 換言すれば、空孔層14P内に定在する光を空孔層14Pと直交する方向へ対称性を有して回折する際の電界振幅の対称中心面が回折面WSである。
【0087】
なお、基本モードの電界プロファイルは空孔層の格子構造(単一格子構造、多重格子構造)に応じて変化するので、回折面WSの位置は、空孔層の格子構造に応じて変化する。
【0088】
(c)光干渉層31の層厚の導出
まず、出射光の波長λ に対する回折面(波源)WSから反射面SRまでを構成する材料の平均屈折率をnaveとすると、回折面WS及び反射面SR間の離間距離drは以下の式(2.1)で表すことができる。
【0089】
【数6】
【0090】
なお、式(2.1)は以下の式(2.2)から導出した。
【0091】
【数7】
【0092】
式(2.2)から導出した離間距離drから回折面WSと光干渉層31との間の距離dを減算すると光干渉層31の膜厚を算出することができる。
【0093】
また、式(1.4)から、反射面による反射がない場合のスロープ効率はηSE(0)は以下の式(2.3)で与えられる。
【0094】
【数8】
【0095】
したがって、反射がある場合におけるスロープ効率ηSE(R)が、反射のない場合よりもスロープ効率を高めるためには、ηSE(R)>ηSE(0)を満たせばよく、この条件を満たす位相差θは以下の式(2.4)で与えられる。
【0096】
【数9】
【0097】
また、ηSE(R)<ηSE(0)を満たす位相差θは以下の式(2.5)で与えられる。
【0098】
【数10】
【0099】
図7は、位相差θに対するスロープ効率ηSE及び干渉層膜厚の関係を示す図である。なお、直接回折光Ldと反射回折光Lrとが弱め合う位相差θの範囲、すなわち規格化スロープ効率が1未満の位相差θの範囲を位相差範囲WIとして示している。位相差範囲WI以外の位相差範囲が強め合う範囲である。尚、強め合う範囲として、スロープ効率は1超過であるとより好ましい。また、干渉層膜厚(一点鎖線で示す)は、離間距離drから距離dを減算して求めた。
【0100】
光干渉層31及び光反射層32がITO/Ag(反射率R=0.85)であり、αv/αp=20のとき、図7に示したスロープ効率ηSE及び干渉層膜厚の位相差(θ)依存性から、弱め合いの範囲及び強め合いの範囲は以下の式(2.6)のようになる。
・弱め合いの範囲:-208.4°<θ<-151.6°又は、151.6°<θ<208.4°
・強め合いの範囲:-360°≦θ≦-208.4°又は、-151.6°≦θ≦151.6°、
又は、208.4°≦θ≦360° ・・・(2.6)
位相差θが上記の範囲にあるときの波源WSから反射面SRまでの離間距離drを求める。出射光Lrがdrを往復したときの位相が上記のようになれば良いので、離間距離drは以下の式を満たす。
【0101】
すなわち、弱め合う条件は、以下の式(2.7)で表される。
【0102】
【数11】
【0103】
また、強め合う条件は、以下の式(2.8)で表される。
【0104】
【数12】
【0105】
式(2.6)の各位相差θの範囲で式(2.1)の離間距離drを算出し、回折面WSと光干渉層31との間の距離dを減算すると、以下の式(2.9)に示す弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1及び強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2が求められる。なお、d=1060nm、λ=435nm、nave=2.4、m=13 として計算した。
・d1:110.9nm<d1<125.2nm、又は、201.6nm<d1<215.8nm
・d2:72.8nm≦d2≦110.9nm、又は、125.2nm≦d2≦201.6nm、
又は、215.8nm≦d2≦254nm ・・・(2.9)
式(2.9)を満たすように中心領域R1の層厚d1及び周辺領域R2の層厚d2を定めることにより、周辺領域R2が中心領域R1よりも明るくすることができ(干渉光強度:LS1<LS2)、ビーム制御を行うことができる。
【0106】
なお、図3に模式的に示すように、強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2が弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1よりも小さいことが好ましい。強め合い領域の光干渉層31(2)の材料損失による出射強度の低減を抑制しつつ、所望ビーム形状のレーザ光が得られるからである。
【0107】
したがって、弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1として式(2.9)の最小値110.9nm、及び強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2として式(2.9)の最小値72.8nmを採用することがさらに好ましい。この場合、光干渉層31は、中心領域R1が周辺領域R2よりも厚い凸状の構造を有する。
【0108】
以上、説明したように、本実施形態によれば、ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供することができる。
【0109】
(d)改変例
図8は、第1の実施形態の改変例を示す模式的な断面図である。本改変例のPCSEL素子40では、強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2は弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1よりも大である。
【0110】
すなわち、光干渉層31は、周辺領域R2が中心領域R1よりも厚い凹状の構造を有している。この場合であってもビーム形状を高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを実現することができる。
【0111】
[第2の実施形態]
図9は、第2の実施形態のPCSEL素子50の断面、干渉光強度、ビーム形状を模式的に示す図である。本実施形態においては、光干渉層31(1)上には光反射層32(1)が形成され、光干渉層31(2)上には、光反射層32(1)とは異なる反射率の光反射層32(2)が形成されている。その他の点については第1の実施形態のPCSEL素子10と同様である。
【0112】
より具体的には、光干渉層31(1)及び31(2)はITO層であり、光反射層32(1)がPd(反射率R=0.45)、光反射層32(2)がAg層(反射率R=0.85)である。
【0113】
第1の実施形態のPCSEL素子10と同様に、中心領域R1が弱め合い領域であり、周辺領域R2が強め合い領域である。したがって、中心領域R1及び周辺領域R2の干渉光LS1及び干渉光LS2の強度は、LS1<LS2である。すなわち、干渉光の強度が相対的に弱め合う領域に反射率の相対的に低い光反射層32(1)が適用され、干渉光の強度が相対的に強め合う領域に反射率の相対的に高い光反射層32(2)が適用される。
【0114】
光反射層32(1)がPd(反射率R=0.45)である中心領域R1についての干渉層層厚の位相差(θ)依存性を図10に示す。
【0115】
光反射層32(1)を用いた場合、弱め合いの範囲及び強め合いの範囲は以下の式(2.10)のように求められる。
・弱め合いの範囲:-230.2°<θ<-129.8°又は、129.8°<θ<230.2°
・強め合いの範囲:-360°≦θ≦-230.2°又は、-129.8°≦θ≦129.8°
又は、230.2°≦θ≦360°
・・・(2.10)
【0116】
弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1は、式(2.10)の各位相差θの範囲で式(2.1)の離間距離drを算出し、回折面WSと光干渉層31との間の距離dを減算して求められる。なお、d=1060nm、λ=435nm、nave=2.4、m=13 として計算した。
・d1:105.4nm<d1<130.7nm、又は、196.1nm<d1<221.3nm
・・・(2.11)
【0117】
ここで、第2の実施形態における強め合い領域(周辺領域R2)にはAg層である光反射層32(2)が適用されているので、膜厚d2は式(2.9)と同様にして求められる。
【0118】
式(2.11)を満たすように中心領域R1の層厚d1を定め、式(2.9)を満たすように周辺領域R2の層厚d2を定めることにより、周辺領域R2が中心領域R1よりも明るくすることができ(干渉光強度:LS1<LS2)、ビーム制御を行うことができる。
【0119】
なお、図9に模式的に示すように、強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2が弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1よりも小さいことが好ましい。強め合い領域の光干渉層31(2)の材料損失による出射強度の低減を抑制しつつ、所望ビーム形状のレーザ光が得られるからである。
【0120】
本実施形態においても、弱め合い領域(中心領域R1)の層厚d1として式(2.11)の最小値104.8nm、及び強め合い領域(周辺領域R2)の層厚d2として式(2.11)の最小値72.8nmを採用することがさらに好ましい。
【0121】
以上、説明したように、本実施形態によれば、ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供することができる。
【0122】
[第3の実施形態]
第3の実施形態のPCSEL素子について、以下に説明する。本実施形態においては、光干渉層31が、中心から順に第1領域R1、第2領域R2、・・・、第n領域Rn(nは3以上の整数)に分割されている。
【0123】
すなわち、光干渉層31は、光干渉層31(1)、光干渉層31(2)、・・・、光干渉層31(n)を有している。光干渉層31(1)が中心領域である第1領域R1に設けられ、その外側に順に光干渉層31(1)、31(2)、・・・、31(n)が周辺領域に設けられている。
【0124】
図11は、第3の実施形態のPCSEL素子60の断面、干渉光強度、ビーム形状を模式的に示す図である。PCSEL素子60においては、光干渉層31が、中心から順に第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3に分割されている場合(n=3)を示している。
【0125】
すなわち、光干渉層31は、中心から順に光干渉層31(1)、光干渉層31(2)及び光干渉層31(3)からなる。光干渉層31上には光反射層32が設けられている。
【0126】
より具体的には、第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3の直径はそれぞれ100μm、200μm及び300μmである。
【0127】
第1領域R1(中心領域)の干渉光強度LS1が最も大きく、第2領域R2の干渉光強度LS2が最も小さく、第3領域R3の干渉光強度LS3は第1領域R1及び第2領域R2の中間の強度を有する。
【0128】
すなわち、LS1>LS3>LS2であるように光干渉層31(1)、光干渉層31(2)及び光干渉層31(3)の層厚が定められている。各光干渉層の層厚は、第1の実施形態及び第2の実施形態において説明した干渉層層厚の位相差(θ)依存性に基づいて決定することができる。
【0129】
具体的には、光干渉層31(1)、光干渉層31(2)及び光干渉層31(3)のITO層の層厚は、それぞれ73nm、118nm及び103nmである。
【0130】
本実施形態によれば、ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供することができる点は上記した実施形態と同様である。
【0131】
特に、本実施形態によれば、干渉光強度の高い領域である第1領域R1及び第3領域R3の間にこれらよりも干渉光強度の低い第2領域R2が設けられている。すなわち、干渉光強度の高い領域R1及びR3を離間して設けることができる。
【0132】
したがって、例えば、光ビームによって対象物を加熱する場合に、加熱位置及び加熱工程を調整することが可能である。例えば、光ビームの照射位置を移動させて溶接を行う場合では、光ビームの進行方向において先に照射される領域R3の光によって加工対象物の予備加熱、次いで領域R1の光によって本加工、次いで領域R3の光によって加工後のなまし加工を行うことができる。これにより溶接の品質が向上し、また後工程も一度に行うことができる利点を有する。
【0133】
なお、光干渉層31が3つの領域からなる場合について説明したが、一般に第1領域R1、第2領域R2、・・・、第n領域Rnからなる場合について同様に適用することができる。
【0134】
この場合、所望のビーム形状になるように、各領域の干渉光強度を干渉層層厚の位相差(θ)依存性に基づいて定めることができる。すなわち、第j領域Rj(j=1,2,・・・,n)の干渉光強度LSjが所望の強度になるように定めればよい。また、第2の実施形態と同様にして、反射率がそれぞれ異なる光反射層32(1)及び32(2)を適用してもよい。
【0135】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明した。上記した実施形態においては、光干渉層が円形状を有する場合について説明したが、本発明において、用語「円形状」は、楕円形状及び長円形状を含み、「円環形状」は、楕円環形状及び長円環形状を含む。
【0136】
また、光干渉層は円形状に限らず、矩形状、多角形状等の形状を有していてもよい。また、光干渉層の各領域は、同心の相似形状を有することが好ましい。
【0137】
また、上記した実施形態における誘電体、反射金属、それらの組成及び数値等は例示に過ぎず、本発明の発明内で適宜改変して適用することができる。また、単一格子構造及び二重格子構造のPCSEL素子について例示したが、一般に多重格子構造のPCSEL素子に適用することができる。
【0138】
また、本発明は、空孔が六角柱形状を有する空孔層について例示したが、空孔が円柱状、矩形状、多角形状、またティアドロップ形状などの不定柱形状を有する場合についても適用することができる。
【0139】
以上、詳細に説明したように、上記した本実施形態によれば、ビーム形状を容易かつ高精度に制御することができ、高い出力までビーム(横モード)安定性に優れたフォトニック結晶面発光レーザを提供することができる。
【符号の説明】
【0140】
10,40,50,60:PCSEL素子、12:基板、14:n側ガイド層(第1のガイド層)、14K:空孔/空孔対、14P:フォトニック結晶層(空孔層)、15:活性層(ACT)、16:p側ガイド層(第2のガイド層)、20A:n電極、20B:p電極、31,31(1),31(2):光干渉層(透光性導電体層)、32,32(1),32(2):光反射層、d:回折面WSと光干渉層31との間の距離、dr:離間距離、Ld:直接回折光、Lr:反射回折光、R1:中心領域(第1領域)、R2:周辺領域(第2領域)、SR,SR1,SR2:反射面、WS:回折面(波源)

図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11