(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144445
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】テラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/35 20060101AFI20231003BHJP
G01N 21/3581 20140101ALI20231003BHJP
【FI】
G02F1/35
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051418
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 永斉
(72)【発明者】
【氏名】河合 直弥
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
【テーマコード(参考)】
2G059
2K102
【Fターム(参考)】
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH05
2G059JJ05
2G059JJ13
2G059JJ30
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2G059KK04
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2G059MM10
2K102AA07
2K102AA21
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2K102BA21
2K102BB01
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2K102EA21
2K102EB01
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】周波数が互いに異なる複数の光パルス列それぞれの光密度を小さく抑えつつ、テラヘルツ波を効率良く発生させることができるテラヘルツ波発生装置を提供する。
【解決手段】テラヘルツ波発生装置1は、パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2を、空間的に並べて同時に出力する光パルス列生成部10と、光パルス列生成部10と光学的に結合され、第1光パルス列PT1を受けて第1テラヘルツ波TW1を発生させ、第2光パルス列PT2を受けて第1テラヘルツ波TW1とは周波数が異なる第2テラヘルツ波TW2を発生させるテラヘルツ波生成部20と、光パルス列生成部10とテラヘルツ波生成部20との間の光路上に配置され、光パルス列生成部10から出力された第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2を、テラヘルツ波生成部20内の同じ一つのスポット21に集光させる集光光学系30と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列および第2光パルス列を、空間的に並べて同時に出力する光パルス列生成部と、
前記光パルス列生成部と光学的に結合され、前記第1光パルス列を受けて第1テラヘルツ波を発生させ、前記第2光パルス列を受けて前記第1テラヘルツ波とは周波数が異なる第2テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波生成部と、
前記光パルス列生成部と前記テラヘルツ波生成部との間の光路上に配置され、前記光パルス列生成部から出力された前記第1光パルス列および前記第2光パルス列を、前記テラヘルツ波生成部内の同じ一つのスポットに集光させる集光光学系と、
を備える、テラヘルツ波発生装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ波生成部は、ZnTe結晶、PPLN結晶、PPLT結晶、GaSe結晶、GaP結晶、DAST結晶、DASC結晶、DSTMS結晶、光伝導アンテナ、およびHMQ-TMSからなる群から選択される一又は複数のものを含む、請求項1に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項3】
前記光パルス列生成部は、
初期光パルスを出力するパルス光源と、
前記パルス光源と光学的に結合され、前記初期光パルスから前記第1光パルス列および第2光パルス列を並行して生成する波形整形器と、
を有し、
前記波形整形器は、前記初期光パルスのスペクトル位相を変調して前記第1光パルス列及び前記第2光パルス列を生成する空間光変調器を含む、請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項4】
前記テラヘルツ波生成部から出力された前記第1テラヘルツ波および前記第2テラヘルツ波を合波する合波部を更に備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項5】
前記第1光パルス列と前記第2光パルス列との間の時間遅延を制御する時間遅延制御部を更に備える、請求項4に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波発生装置から対象物に照射され、前記対象物から出力された前記第1テラヘルツ波および前記第2テラヘルツ波を撮像する撮像部と、
を備える、テラヘルツ波イメージング装置。
【請求項7】
パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列および第2光パルス列を、空間的に並べて同時に出力するステップと、
前記第1光パルス列を受けて第1テラヘルツ波を発生させ、前記第2光パルス列を受けて前記第1テラヘルツ波とは周波数が異なる第2テラヘルツ波を発生させるステップと、
を含み、
前記発生させるステップにおいて、前記第1光パルス列および前記第2光パルス列を同じ一つのスポットに集光させ、該一つのスポットにおいて前記第1テラヘルツ波および前記第2テラヘルツ波を発生させる、テラヘルツ波発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、非線形光学結晶に光パルス列を照射することによってテラヘルツ波を生成する技術が開示されている。非特許文献2には、強度変調可能な擬似正弦波状の光を用いて、μJオーダーのエネルギーを有する周波数可変のテラヘルツ波を発生させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Ahn, A. V. Efimov, R. D. Averitt, and A. J. Taylor, "Terahertzwaveform synthesis via optical rectification of shaped ultrafast laserpulses", Optics Express, Vol. 11, No. 20, 2486 (2003)
【非特許文献2】Zhao Chen, Xibin Zhou, Christopher A. Werley, and Keith A. Nelson, "Generationof high power tunable multicycle teraherz pulses", Applied Physics Letters,Vol.99, 071102 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、例えばフェムト秒オーダーのパルス幅を有する光パルス列を励起光として非線形光学結晶に照射し、非線形光学結晶の差周波発生によってテラヘルツ波を生成する技術が知られている(非特許文献1)。周波数がそれぞれ異なる複数のテラヘルツ波を得たい場合、パルス間隔がそれぞれ異なる複数の光パルス列を、各々に対応する個別の非線形光学結晶に(或いは、非線形光学結晶におけるそれぞれ異なる位置に)照射することが考えられる。しかしながら、テラヘルツ波を効率良く発生させるためには、励起光の光密度を大きくすることが望まれる。複数の光パルス列を各々に対応する個別の非線形光学結晶に(或いは、非線形光学結晶におけるそれぞれ異なる位置に)照射する場合、複数の光パルス列の光密度を光パルス列毎に大きくする必要があり、全体的に見て大きなエネルギーが必要となる。
【0005】
本開示の一実施形態は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、パルス間隔がそれぞれ異なる複数の光パルス列それぞれの光密度を小さく抑えつつ、テラヘルツ波を効率良く発生させることができるテラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一実施形態によるテラヘルツ波発生装置は、パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列および第2光パルス列を、空間的に並べて同時に出力する光パルス列生成部と、光パルス列生成部と光学的に結合され、第1光パルス列を受けて第1テラヘルツ波を発生させ、第2光パルス列を受けて第1テラヘルツ波とは周波数が異なる第2テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波生成部と、光パルス列生成部とテラヘルツ波生成部との間の光路上に配置され、光パルス列生成部から出力された第1光パルス列および第2光パルス列を、テラヘルツ波生成部内の同じ一つのスポットに集光させる集光光学系と、を備える。
【0007】
本開示の一実施形態によるテラヘルツ波発生方法は、パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列および第2光パルス列を、空間的に並べて同時に出力するステップと、第1光パルス列を受けて第1テラヘルツ波を発生させ、第2光パルス列を受けて第1テラヘルツ波とは周波数が異なる第2テラヘルツ波を発生させるステップと、を含み、発生させるステップにおいて、第1光パルス列および第2光パルス列を同じ一つのスポットに集光させ、該一つのスポットにおいて第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波を発生させる。
【0008】
これらのテラヘルツ波発生装置およびテラヘルツ波発生方法では、パルス間隔が互いに異なり、空間的に並んで同時に出力された第1光パルス列および第2光パルス列が、同じ一つのスポットに集光され、該一つのスポットにおいて第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波が発生する。これにより、第1光パルス列および第2光パルス列それぞれの光密度を小さく抑えつつ、一つのスポットにおける光密度を大きくして、テラヘルツ波を効率良く発生させることができる。
【0009】
上記のテラヘルツ波発生装置において、テラヘルツ波生成部は、ZnTe結晶、PPLN結晶、PPLT結晶、GaSe結晶、GaP結晶、DAST結晶、DASC結晶、DSTMS結晶、光伝導アンテナ、およびHMQ-TMSからなる群から選択される一又は複数のものを含んでもよい。この場合、第1光パルス列および第2光パルス列を受けて第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波を好適に発生させることができる。
【0010】
上記のテラヘルツ波発生装置において、光パルス列生成部は、初期光パルスを出力するパルス光源と、パルス光源と光学的に結合され、初期光パルスから第1光パルス列および第2光パルス列を並行して生成する波形整形器と、を有してもよい。波形整形器は、初期光パルスのスペクトル位相を変調して第1光パルス列及び第2光パルス列を生成する空間光変調器を含んでもよい。この場合、空間光変調器に呈示される変調パターンを制御することによって、第1光パルス列および第2光パルス列を好適に生成することができる。
【0011】
上記のテラヘルツ波発生装置は、テラヘルツ波生成部から出力された第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波を合波する合波部を更に備えてもよい。第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波は互いに異なる周波数を有するので、これらを合成することによりテラヘルツ波のパルスを生成することができる。この場合、テラヘルツ波発生装置は、第1光パルス列と第2光パルス列との間の時間遅延を制御する時間遅延制御部を更に備えてもよい。この場合、テラヘルツ波のパルスの波形を変更することが容易にできる。
【0012】
本開示の一実施形態によるテラヘルツ波イメージング装置は、上記いずれかのテラヘルツ波発生装置と、テラヘルツ波発生装置から対象物に照射され、対象物から出力された第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波を撮像する撮像部と、を備える。このテラヘルツ波イメージング装置によれば、第1光パルス列および第2光パルス列それぞれの光密度を小さく抑えつつ、テラヘルツ波生成部のスポットにおける光密度を大きくして、テラヘルツ波を効率良く発生させることができる。また、テラヘルツ波による分光イメージングを好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態によるテラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法によれば、パルス間隔がそれぞれ異なる複数の光パルス列それぞれの光密度を小さく抑えつつ、テラヘルツ波を効率良く発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係るテラヘルツ波発生装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2の(a)部および(b)部は、第1光パルス列および第2光パルス列の時間強度波形の例をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は、波形整形器の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、空間光変調器の変調面を示す図である。
【
図5】
図5の(a)部は、初期光パルスのスペクトル波形を示す。
図5の(b)部は、初期光パルスの時間強度波形を示す。
【
図6】
図6の(a)部は、空間光変調器において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの光パルス列のスペクトル波形を示す。
図6の(b)部は、光パルス列の時間強度波形を示す。
【
図7】
図7は、光パルス列の例を示す図である。
図7の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図7の(b)部は、光パルス列の時間波形を表している。
図7の(c)部は、3つの光パルスを合成したスペクトルを表している。
【
図8】
図8の(a)部および(b)部は、第1テラヘルツ波および第2テラヘルツ波の時間強度波形の例をそれぞれ示す。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るテラヘルツ波発生方法を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、データ作成装置の構成を概略的に示す図である。
【
図11】
図11は、データ作成装置のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
【
図12】
図12は、スペクトル設計部の内部構成を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、スペクトル設計部における位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、スペクトル設計部における位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
【
図15】
図15の(a)部は、初期スペクトル関数の例として、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図15の(b)部は、
図15の(a)部に示される第1波形関数からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
【
図16】
図16の(a)部及び(b)部は、
図15の(b)部に示される第2波形関数から変換された強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムをそれぞれ示す図である。
【
図17】
図17の(a)部は、
図16の(c)部および(d)部に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、1周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図17の(b)部は、
図17の(a)部に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
【
図18】
図18の(a)部は、
図17の(b)部ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図18の(b)部は、
図18の(a)部に示される第1波形関数からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
【
図19】
図19の(a)部及び(b)部は、
図18の(b)部に示される第2波形関数から変換された、3周目における強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムをそれぞれ示す図である。
図19の(c)部は、3周目における強度スペクトログラムを示す図である。
図19の(d)部は、3周目における拘束された位相スペクトログラムを示す図である。
【
図20】
図20の(a)部は、
図19の(c)部および(d)部に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、3周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図20の(b)部は、
図20の(a)部に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
【
図21】
図21は、強度スペクトログラムを作成するための装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図22】
図22の(a)部は、ターゲット波形関数の例として、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を示すグラフである。
図22の(b)部は、時間領域の波形関数の例として、
図22の(a)部に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数及び時間位相波形関数を示すグラフである。
【
図23】
図23の(a)部は、強度スペクトログラムの例として、
図22の(b)部に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。
図23の(b)部は、3つの光パルスPLについての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムを示す図である。
【
図27】
図27は、空間の一部のテラヘルツ波のスペクトルを示す。
【
図28】
図28は、空間の別の一部のテラヘルツ波のスペクトルを示す。
【
図29】
図29は、本開示の第2実施形態に係るテラヘルツ波発生装置の構成を模式的に示す図である。
【
図30】
図30の(a)部、(b)部および(c)部は、スポットにおいて生じるテラヘルツ波の時間強度波形の例を示す。
【
図31】
図31は、本開示の第3実施形態に係るテラヘルツ波イメージング装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本開示によるテラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
【0016】
図1は、本開示の第1実施形態に係るテラヘルツ波発生装置1の構成を模式的に示す図である。本実施形態のテラヘルツ波発生装置1は、第1テラヘルツ波TW1および第2テラヘルツ波TW2を含む複数のテラヘルツ波TWを、空間的に並べて出力する装置である。
図1に示されるように、テラヘルツ波発生装置1は、光パルス列生成部10と、テラヘルツ波生成部20と、集光光学系30と、コリメート光学系40とを備えている。
【0017】
光パルス列生成部10は、第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2を含む複数の光パルス列PTを出力する。
図2の(a)部および(b)部は、第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2の時間強度波形の例をそれぞれ示す。これらの図において、横軸は時間を表し、縦軸は光強度を表す。複数の光パルス列PTそれぞれは、一定の時間間隔ΔTをあけて生成された複数の光パルスPLを含む。複数の光パルス列PTのパルス間隔、すなわち時間的に隣り合う光パルスPLの強度ピーク間の時間間隔ΔTは、光パルス列PT毎に設定され、光パルス列PT間で互いに異なる。言い換えると、複数の光パルス列PTの周期は、光パルス列PT毎に設定され、光パルス列PT間で互いに異なる。光パルス列生成部10は、複数の光パルスPLを、光軸と交差する面内において空間的に並べて同時に出力する。
【0018】
光パルス列生成部10は、パルス光源11と、波形整形器12とを有する。パルス光源11は、初期光パルスLaを出力する。パルス光源11は、例えば固体レーザ光源等のレーザ光源であり、初期光パルスLaは、例えばコヒーレントなシングル光パルスである。パルス光源11は、例えばフェムト秒レーザであり、一実施例ではLD直接励起型Yb:YAGパルスレーザである。初期光パルスLaの時間強度波形は例えばガウス関数状である。初期光パルスLaの半値全幅(FWHM)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では100fsである。初期光パルスLaは、或る程度の帯域幅を有し、連続する複数の波長成分を含む。一実施例では、初期光パルスLaの帯域幅は10nmであり、初期光パルスLaの中心波長は800nmである。
【0019】
波形整形器12は、パルス光源11と光学的に結合されている。波形整形器12は、初期光パルスLaから、複数の光パルス列PTを並行して生成する。波形整形器12は、複数の光パルスPLを、光軸と交差する面内において空間的に並べて同時に出力する。波形整形器12は、空間光変調器(SLM)13を有しており、制御部18からの制御信号SCをSLM13に受ける。SLM13は、初期光パルスLaのスペクトル位相を変調して複数の光パルス列PTを生成する。制御信号SCは、SLM13を制御するためのデータ、すなわち複素振幅分布の強度あるいは位相分布の強度を含むデータに基づいて生成される。データは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms(CGH))である。
【0020】
図3は、波形整形器12の構成例を示す図である。波形整形器12は、回折格子121、レンズ122、SLM13、レンズ123、及び回折格子124を有する。回折格子121は分光素子であり、パルス光源11と光学的に結合されている。SLM13はレンズ122を介して回折格子121と光学的に結合されている。回折格子121は、初期光パルスLaに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子121に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。
【0021】
初期光パルスLaは、回折格子121に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光Lbは、レンズ122によって各波長成分毎に集光され、SLM13の変調面に結像される。レンズ122は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0022】
SLM13は、初期光パルスLaを複数の光パルス列PTに変換するために、回折格子121から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす。そのために、SLM13は、制御部18から制御信号SCを受けて、光Lbの位相変調と強度変調とを同時に行う。なお、SLM13は、位相変調のみ、または強度変調のみを行ってもよい。SLM13は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM13はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図には透過型のSLM13が示されているが、SLM13は反射型であってもよい。また、SLM13は、位相変調型の空間光変調器に限らず、DMD(Digital Micro Mirror Device)などの強度変調型の空間光変調器、或いは位相-強度変調型の空間光変調器であってもよい。
【0023】
図4は、SLM13の変調面17を示す図である。
図4に示すように、変調面17には、複数の変調領域17aが或る方向AAに沿って並んでおり、各変調領域17aは方向AAと交差する方向ABに延びている。方向AAは、回折格子121による分光方向である。この変調面17はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域17aのそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM13は、各変調領域17aにおいて、入射した各波長成分の位相及び強度を他の波長成分から独立して変調する。なお、本実施形態のSLM13は位相変調型であるため、強度変調は、変調面17に呈示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0024】
SLM13によって変調された変調光Lcの各波長成分は、レンズ123によって回折格子124上の一点に集められる。レンズ123及び回折格子124は、変調光Lcを集光する光学系として機能する。レンズ123は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子124は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ123及び回折格子124により、変調光Lcの複数の波長成分は互いに集光・合波されて、複数の光パルス列PTとなる。SLM13が反射型である場合、レンズ122及び15は共通のレンズによって構成されてもよく、回折格子121及び16は共通の回折格子によって構成されてもよい。
【0025】
レンズ123よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子124よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調の分布は、時間領域における時間強度波形の空間的な分布に影響する。従って、複数の光パルス列PTは、SLM13の変調パターンに応じた、初期光パルスLaとは異なり且つ互いに異なる所望の時間強度波形(パルス幅およびパルス間隔)を有することができる。ここで、
図5の(a)部は、一例として、単パルス状の初期光パルスLaのスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)を示し、
図5の(b)部は、該初期光パルスLaの時間強度波形を示す。また、
図6の(a)部は、一例として、SLM13において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの光パルス列PTのスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)を示し、
図6の(b)部は、該光パルス列PTの時間強度波形を示す。
図5の(a)部及び
図6の(a)部において、横軸は波長(nm)を示し、左の縦軸は強度スペクトルの強度値(任意単位)を示し、右の縦軸はスペクトル位相の位相値(rad)を示す。また、
図5の(b)部及び
図6の(b)部において、横軸は時間(フェムト秒)を表し、縦軸は光強度(任意単位)を表す。この例では、矩形波状の位相スペクトル波形を初期光パルスLaに与えることにより、初期光パルスLaのシングルパルスが、光パルス列PTとして高次光を伴うダブルパルスに変換されている。なお、
図6に示されるスペクトル及び波形は一つの例であって、様々なスペクトル位相及びスペクトル強度の組み合わせにより、光パルス列PTのパルス幅およびパルス間隔を様々な大きさに整形することができる。
【0026】
図7は、光パルス列PTの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPLからなる光パルス列PTが示されている。
図7の(a)部は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図7の(b)部は、光パルス列PTの時間波形を表している。各光パルスPLの時間波形は例えばガウス関数状である。
【0027】
図7の(a)部及び(b)部に示されるように、3つの光パルスPLのピーク同士は時間的に互いに離れており、3つの光パルスPLの伝搬タイミングは互いにずれている。言い換えると、一の光パルスPLに対して別の光パルスPLが時間遅れを有しており、該別の光パルスPLに対して更に別の光パルスPLが時間遅れを有している。但し、隣り合う光パルスPLの裾部分同士が互いに重なっていてもよい。隣り合う光パルスPLの時間間隔(ピーク間隔)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では2000fsである。また、各光パルスPLのFWHMは、例えば10fs~5000fsの範囲内であり、一例では300fsである。
【0028】
図7の(c)部は、3つの光パルスPLを合成したスペクトルを表している。
図7の(c)部に示されるように、3つの光パルスPLを合成したスペクトルは単一のピークを有する。
図7の(c)部に示す単一のピークを有するスペクトルは、ほぼ初期光パルスLaのスペクトルと同じである。なお、
図7の(a)部に示される例では3つの光パルスPLの中心波長が互いに一致しているが、3つの光パルスPLの中心波長は互いにずれていてもよい。
【0029】
再び
図1を参照する。テラヘルツ波生成部20は、光パルス列生成部10と光学的に結合されている。テラヘルツ波生成部20は、複数の光パルス列PTを受けて、互いに周波数が異なる複数のテラヘルツ波TWを発生させる。すなわち、テラヘルツ波生成部20は、第1光パルス列PT1を受けて、複数のテラヘルツ波TWのうちの一つである第1テラヘルツ波TW1を発生させる。また、テラヘルツ波生成部20は、第2光パルス列PT2を受けて、複数のテラヘルツ波TWのうちの一つである第2テラヘルツ波TW2を発生させる。
図8の(a)部および(b)部は、第1テラヘルツ波TW1および第2テラヘルツ波TW2の時間強度波形の例をそれぞれ示す。これらの図において、横軸は時間を表し、縦軸は強度を表す。第2テラヘルツ波TW2の周波数は、第1テラヘルツ波TW1の周波数と異なる。各テラヘルツ波TWの周波数は、対応する光パルス列PTのパルス間隔に応じて決定される。各テラヘルツ波TWの強度は、対応する光パルス列PTの光強度に応じて決定される。テラヘルツ波生成部20は、複数のテラヘルツ波TWを、光軸と交差する面内において空間的に並べて同時に出力する。このとき、光軸方向から見て、複数のテラヘルツ波TWの並び順は、それぞれに対応する複数の光パルス列PTの並び順と逆になる。
【0030】
テラヘルツ波生成部20は、テラヘルツ波を生じ得る非線形光学結晶であってもよく、テラヘルツ波を生じ得る装置であってもよく、テラヘルツ波を生じ得る空間的な現象であってもよい。非線形光学結晶は、無機非線形光学結晶であってもよく、有機非線形光学結晶であってもよい。
【0031】
無機非線形光学結晶には、テルル化亜鉛(ZnTe)結晶、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)結晶、周期分極反転タンタル酸リチウム(PPLT)結晶、セレン化ガリウム(GaSe)結晶、およびリン化ガリウム(GaP)結晶からなる群から選択される一又は複数の結晶が含まれる。有機非線形光学結晶には、DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4-stilbazolium tosylate)結晶、DASC(4-dimethylamino-N-methyl-4-stilbazoliump-chlorobenzenesulfonate)結晶、DSTMS(4-N,N-dimethylamino-4’-N’-methyl-stilbazolium2,4,6-trimethylbenzenesulfonate)結晶、およびHMQ-TMS(2-(4-hydroxy-3-methoxystyryl)-1-methylquinolinium2,4,6-trimethylbenzenesulfonate)からなる群から選択される一又は複数の結晶が含まれる。非線形光学結晶は、光パルス列PTによって励起され、差周波発生によってテラヘルツ波を発生する。テラヘルツ波を生じ得る装置には、光伝導アンテナが含まれる。光伝導アンテナは、光伝導膜及び一対の電極を有する。電極構造は、例えばダイポール型、ストリップライン型、スパイラル型である。光伝導膜中の自由電子は、光パルス列PTによって励起される。自由電子は、一対の電極間に印加された電圧によって加速され、これによりテラヘルツ波TWが発生する。テラヘルツ波を生じ得る空間的な現象には、空気プラズマが含まれる。ネオン(Ne)などのガス又は空気において、光パルス列PTとしての高強度の超短光パルスを集光してプラズマを発生させると、そのプラズマからテラヘルツ波TWが発生する。
【0032】
集光光学系30は、光パルス列生成部10とテラヘルツ波生成部20との間の、複数の光パルス列PTを伝搬する光路上に配置されている。すなわち、集光光学系30は、光パルス列生成部10およびテラヘルツ波生成部20と光学的に結合されている。集光光学系30は、光パルス列生成部10から出力された第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2を含む複数の光パルス列PTを入力し、テラヘルツ波生成部20内の同じ一つのスポット21に複数の光パルス列PTを集光させる。言い換えると、複数の光パルス列PTは、集光光学系30によって、テラヘルツ波生成部20内の単一のスポット21に集光される。集光光学系30は、レンズ31を含む。レンズ31は、光透過型の凸レンズであってもよく、光反射型のレンズ(凹面鏡)であってもよい。レンズ31の光軸に垂直な面内におけるスポット21の集光径(最小径)は例えば直径1μm以上10mm以下である。
【0033】
コリメート光学系40は、テラヘルツ波生成部20と光学的に結合され、集光光学系30との間にテラヘルツ波生成部20を挟む位置に設けられている。コリメート光学系40は、テラヘルツ波生成部20から出力された複数のテラヘルツ波TWを入力し、複数のテラヘルツ波TWを平行化(コリメート)して出力する。コリメート光学系40は、レンズ41を含む。レンズ41は、光透過型の凸レンズであってもよく、光反射型のレンズ(凹面鏡)であってもよい。複数のテラヘルツ波TWは、レンズ41の光軸と交差する面内において空間的に並んだ状態で出力される。
【0034】
図9は、本実施形態に係るテラヘルツ波発生方法を示すフローチャートである。このテラヘルツ波発生方法は、上述したテラヘルツ波発生装置1を用いて好適に行われる。
【0035】
まず、ステップST1として、パルス間隔がそれぞれ異なる複数の光パルス列PTを、光パルス列生成部10から空間的に並べて同時に出力する。複数の光パルス列PTには、パルス間隔が互いに異なる第1光パルス列PT1および第2光パルス列PT2が含まれる。次に、ステップST2として、テラヘルツ波生成部20において複数の光パルス列PTそれぞれを受けて複数のテラヘルツ波TWを発生させる。例えば、テラヘルツ波生成部20において第1光パルス列PT1を受けて第1テラヘルツ波TW1を発生させ、第2光パルス列PT2を受けて第2テラヘルツ波TW2を発生させる。このとき、集光光学系30によって複数の光パルス列PTを同じ一つのスポット21に集光させ、該一つのスポット21において複数のテラヘルツ波TWを発生させる。そして、ステップST3として、テラヘルツ波生成部20から出力された複数のテラヘルツ波TWを、コリメート光学系40によって平行化する。
【0036】
ここで、SLM13に呈示される位相変調パターンに関するデータを作成するための方法および装置について詳細に説明する。
図10は、データ作成装置6の構成を概略的に示す図である。データ作成装置6は、制御部18と電気的に接続されており、複数の光パルス列PTの時間強度波形、特にパルス幅およびパルス間隔を所望の値に近づけるための位相変調パターンに関するデータを作成し、該位相変調パターンを制御部18に提供する。制御部18は、そのデータを含む制御信号SCをSLM13に提供する。データ作成装置6は、スペクトログラム設定部6aと、スペクトル設計部6bと、データ生成部6cとを有する。データ作成装置6は、例えば、パーソナルコンピュータ;スマートフォン、タブレット端末などのスマートデバイス;あるいはクラウドサーバなどのプロセッサを有するコンピュータであってよい。なお、データ作成装置6が制御部18を兼ねてもよい。
【0037】
図11は、データ作成装置6のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
図11に示すように、データ作成装置6は、物理的には、プロセッサ(CPU)61、ROM62及びRAM63等の主記憶装置、キーボード、マウス及びタッチスクリーン等の入力デバイス64、ディスプレイ(タッチスクリーン含む)等の出力デバイス65、他の装置との間でデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール66、ハードディスク等の補助記憶装置67などを含む、通常のコンピュータとして構成され得る。
【0038】
コンピュータのプロセッサ61は、データ作成プログラムによって、上記のデータ作成装置6の各機能を実現することができる。故に、データ作成プログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、データ作成装置6におけるスペクトログラム設定部6a、スペクトル設計部6b、及びデータ生成部6cとして動作させる。変調パターン算出プログラムは、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。
【0039】
スペクトログラム設定部6aは、操作者からの所望の強度スペクトログラム(ターゲット強度スペクトログラム)に関するデータの入力を受け付ける。操作者は、予め用意したターゲット強度スペクトログラムに関するデータをスペクトログラム設定部6aに入力する。或いは、スペクトログラム設定部6aは、ターゲット強度スペクトログラムを予め保持していてもよい。ターゲット強度スペクトログラムに関するデータは、スペクトル設計部6bに与えられる。スペクトル設計部6bは、与えられたターゲット強度スペクトログラムの実現に適した位相スペクトル関数を算出する。
【0040】
データ生成部6cは、スペクトル設計部6bにおいて求められた位相スペクトル関数に基づいて、SLM13において初期光パルスLaに与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出し、位相変調パターンに関するデータを生成する。そして、このデータは制御部18に提供され、位相変調パターンを含む制御信号SCが、制御部18からSLM13に提供される。SLM13は、制御信号SCに基づいて制御される。
【0041】
図12は、スペクトル設計部6bの内部構成を示すブロック図である。
図12に示されるように、スペクトル設計部6bは、フーリエ変換部6b1、スペクトログラム変換部6b2、スペクトログラム置換部6b3、スペクトログラム逆変換部6b4、及び逆フーリエ変換部6b5を有する。スペクトル設計部6bは、以下に説明する算出方法を用いて、変調パターンの基になる位相スペクトル関数を算出する。
図13は、スペクトル設計部6bにおける位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。
図14は、スペクトル設計部6bにおける位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
【0042】
まず、初期スペクトル関数A1、すなわち周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を用意する。一例では、これらの強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)はそれぞれ初期光パルスLaの強度スペクトル及びスペクトル位相を表すが、これに限られない。
図15の(a)部は、初期スペクトル関数A1の一例として、強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を模式的に示すグラフである。
図15の(a)部において、グラフG31は強度スペクトル関数A
0(ω)を表し、グラフG32は位相スペクトル関数Φ
0(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0043】
第1波形関数A2は、下記の数式(1)によって示される。但し、nは繰り返し番号(n=1,2,・・・,N)であり、iは虚数である。第1周目(n=1)においては、初期スペクトル関数A1を、第1波形関数A2とする。すなわち、繰り返し第1周目の第1波形関数A2のΦ
1(ω)=Φ
0(ω)とする。
【数1】
スペクトル設計部6bのフーリエ変換部6b1は、第1波形関数A2に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印B1)。これにより、下記の数式(2)によって示される、時間強度波形関数a
n(t)及び時間位相波形関数φ
n(t)を含む、時間領域の第2波形関数A3が得られる。
【数2】
図15の(b)部は、
図15の(a)部に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a
1(t)及び時間位相波形関数φ
1(t)を模式的に示すグラフである。
図15の(b)部において、グラフG41は時間強度波形関数a
1(t)を表し、グラフG42は時間位相波形関数φ
1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0044】
続いて、スペクトル設計部6bのスペクトログラム変換部6b2は、第2波形関数A3に対して短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)を行う(図中の矢印B2)。これにより、下記の数式(3)によって示される強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42が得られる。
【数3】
図16の(a)部及び(b)部それぞれは、
図15の(b)部に示される第2波形関数A3から変換された強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。なお、
図16の(a)部および(b)部において横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。また、スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA41において単一の光パルスPLが現れている。
【0045】
なお、第2波形関数A3を強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換するためのスペクトログラム変換部6b2における処理は、STFTに限られず、他の処理であってもよい。時間強度波形をスペクトログラムに変換する処理は、STFTを含めて時間-周波数変換と呼ばれる。時間-周波数変換では、時間強度波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(強度スペクトル)からなる3次元情報を生成する。本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、強度スペクトル)を「スペクトログラム」と定義する。時間-周波数変換としては、STFTのほか、ウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、またはモルレーウェーブレット変換)などがある。
【0046】
続いて、スペクトル設計部6bのスペクトログラム置換部6b3は、強度スペクトログラムA41を予め作成された強度スペクトログラムA43(ターゲット強度スペクトログラム)に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束する(図中の矢印B3)。強度スペクトログラムA43は、スペクトログラム設定部6a(
図1を参照)から提供される。位相スペクトログラムA42を拘束するとは、位相スペクトログラムA42を変化させない(そのまま残す)ことを意味する。これにより、上記の数式(3)は、下記の数式(4)に置き換えられる。TSG(ω,t)はターゲット強度スペクトログラム関数である。
【数4】
図16の(c)部は、強度スペクトログラムA43の一例を示す図である。
図16の(d)部は、拘束された位相スペクトログラムA42を示す図である。なお、
図16の(c)部および(d)部においても、横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA43に、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPLを含む光パルス列PTが含まれている。拘束された位相スペクトログラムA42は、
図16の(b)部と全く同一である。
【0047】
続いて、スペクトル設計部6bのスペクトログラム逆変換部6b4は、強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42に対して逆STFTを行う(図中の矢印B4)。なお、ここでもスペクトログラム変換部6b2と同様に、STFT以外の時間-周波数変換を用いてもよい。これにより、下記の数式(5)によって示される、時間強度波形関数a'
n(t)及び時間位相波形関数φ'
n(t)を含む時間領域の第3波形関数A5が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数5】
図17の(a)部は、
図16の(c)部および(d)部に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、1周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'
1(t)及び時間位相波形関数φ'
1(t)を模式的に示すグラフである。
図17の(a)部において、グラフG51は時間強度波形関数a'
1(t)を表し、グラフG52は時間位相波形関数φ'
1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0048】
続いて、スペクトル設計部6bの逆フーリエ変換部6b5は、第3波形関数A5に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印B5)。これにより、下記の数式(6)によって示される、強度スペクトル関数A
n(ω)及び位相スペクトル関数Φ'
n(ω)を含む周波数領域の第4波形関数A6が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数6】
図17の(b)部は、
図17の(a)部に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A
1(ω)及び位相スペクトル関数Φ'
1(ω)を模式的に示すグラフである。
図17の(b)部において、グラフG61は強度スペクトル関数A
1(ω)を表し、グラフG62は位相スペクトル関数Φ'
1(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0049】
その後、スペクトル設計部6bは、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φ1(ω)を第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'1(ω)に置き換える(すなわち第1波形関数A2のΦ2(ω)=Φ'1(ω)とする。図中の矢印B6を参照)。そして、上述したフーリエ変換部6b1、スペクトログラム変換部6b2、スペクトログラム置換部6b3、スペクトログラム逆変換部6b4、及び逆フーリエ変換部6b5の動作を、位相スペクトル関数が収束するまでN回にわたって繰り返す。このように、スペクトル設計部6bでは、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、(n+1)周目の第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φn+1(ω)をn周目の第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'n(ω)に置き換えながら、フーリエ変換部6b1、スペクトログラム変換部6b2、スペクトログラム置換部6b3、スペクトログラム逆変換部6b4、及び逆フーリエ変換部6b5がこの順で繰り返し動作する。
【0050】
図18の(a)部は、
図17の(b)部ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A
0(ω)(グラフG71)及び位相スペクトル関数Φ
3(ω)(グラフG72)を模式的に示すグラフである。位相スペクトル関数Φ
3(ω)の波形が1周目から変化していることがわかる。
図18の(b)部は、
図18の(a)部に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a
3(t)(グラフG81)及び時間位相波形関数φ
3(t)(グラフG82)を模式的に示すグラフである。
図19の(a)部及び(b)部それぞれは、
図18の(b)部に示される第2波形関数A3から変換された、3周目における強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPLが生成され始めていることがわかる。
図19の(c)部は、3周目における強度スペクトログラムA43を示す図であって、これは
図16の(c)部に示される1週目の強度スペクトログラムA43と同一である。
図19の(d)部は、3周目における拘束された位相スペクトログラムA42を示す図であって、これは
図19の(b)部の位相スペクトログラムA42と同一である。
図20の(a)部は、
図19の(c)部および(d)部に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、3周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'
3(t)(グラフG91)及び時間位相波形関数φ'
3(t)(グラフG92)を模式的に示すグラフである。
図20の(b)部は、
図20の(a)部に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A
3(ω)(グラフG101)及び位相スペクトル関数Φ'
3(ω)(グラフG102)を模式的に示すグラフである。
【0051】
上記のような繰り返し動作によって、強度スペクトログラムA41が強度スペクトログラムA43に次第に近づくように、位相スペクトル関数Φ'n(ω)が修正される。最終的に、第4波形関数A6に含まれる位相スペクトル関数Φ'N(ω)が、所望のスペクトル位相解Φresult(ω)となる。このスペクトル位相解Φresult(ω)が、データ生成部6cに提供される。
【0052】
データ生成部6cは、スペクトル設計部6bにおいて算出されたスペクトル位相解Φresult(ω)に基づくスペクトル位相及び/又はスペクトル強度を初期光パルスLaに与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)に関するデータを算出する。
【0053】
続いて、SLM13を制御するデータの作成に用いられるターゲット強度スペクトログラムA43を作成するための装置について説明する。
図21は、強度スペクトログラムA43を作成するための装置100の機能的構成を示すブロック図である。装置100は、互いに時間差を有する複数の光パルス(例えば上述した光パルスPL)を含む光パルス列PTに関するターゲット強度スペクトログラムA43を作成する。
図21に示されるように、装置100は、波形関数設定部101と、フーリエ変換部102と、スペクトログラム変換部103と、ターゲット生成部104と、を備える。なお、装置100は、前述したデータ作成装置6と同様のハードウェア構成(
図11を参照)を有してよい。この場合、コンピュータのプロセッサ61は、ターゲット強度スペクトログラム作成プログラムによって、上記の装置100の各機能を実現することができる。故に、ターゲット強度スペクトログラム作成プログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、波形関数設定部101、フーリエ変換部102、スペクトログラム変換部103、及びターゲット生成部104として動作させる。
【0054】
波形関数設定部101は、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域のターゲット波形関数を、光パルス毎に設定する。例えば、波形関数設定部101は、光パルスPLについてターゲット波形関数を設定し、別の光パルスPLについて別のターゲット波形関数を設定し、更に別の光パルスPLについて更に別のターゲット波形関数を設定する。ターゲット波形関数のパラメータとしては、例えば下記のものが挙げられる。
a)各光パルスの強度スペクトル関数の形状(例えばガウシアン)
b)各光パルスの強度スペクトル関数のスペクトルエネルギー量
c)各光パルスの強度スペクトル関数の帯域幅(半値全幅)
d)各光パルスの強度スペクトル関数の中心波長
e)各光パルスの位相スペクトル関数
なお、各光パルスのスペクトル位相が周波数に対して線形である場合、その線形関数の傾きは、各光パルスの時間シフト量に相当する。
図22の(a)部は、ターゲット波形関数の一例として、強度スペクトル関数G131及び位相スペクトル関数G132を示すグラフである。
図22の(a)部において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は強度スペクトル関数G131の強度値(任意単位)及び位相スペクトル関数G132の位相値(rad)を示す。この例は、時間的に等間隔である3つの光パルスPLのうち中央に位置する光パルスPLについてのターゲット波形関数であるので、位相スペクトル関数G132の傾き(すなわち時間シフト量)はゼロとされている。
【0055】
フーリエ変換部102は、複数の光パルスそれぞれのターゲット波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の波形関数に変換する。
図22の(b)部は、時間領域の波形関数の一例として、
図22の(a)部に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数G141及び時間位相波形関数G142を示すグラフである。
図22の(b)部において、横軸は時間(fs)を示し、縦軸は時間強度波形関数G141の強度値(任意単位)及び時間位相波形関数G142の位相値(rad)を示す。
【0056】
スペクトログラム変換部103は、複数の光パルスそれぞれの時間領域の波形関数から強度スペクトログラムを生成する。
図23の(a)部は、強度スペクトログラムの一例として、
図22の(b)部に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。なお、強度スペクトログラムの作成方法及びスペクトログラムの定義は、前述したスペクトル設計部6bのスペクトログラム変換部6b2における説明と同様である。また、スペクトログラム変換部103においても、STFTに限らず、他の時間-周波数変換(例えばウェーブレット変換)を用いてよい。
【0057】
ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを互いに重畳して強度スペクトログラムA43を生成する。
図23の(b)部は、一例として、3つの光パルスPLについての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムA43を示す図である。なお、ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを重畳したものに対して、補正のための係数を乗算してもよい。補正のための係数は、例えば、作成したターゲット強度スペクトログラムA43のスペクトル強度分布を、初期光パルスLaの光パルスのスペクトル強度分布に近づけるための係数である。
【0058】
以上に説明した本実施形態のテラヘルツ波発生装置1およびテラヘルツ波発生方法によって得られる効果について説明する。周波数が互いに異なる複数のテラヘルツ波TWを得たい場合、
図24に示されるように、複数のテラヘルツ波生成部20を用意し、そのそれぞれに光パルス列PTを集光することが考えられる。或いは、
図25に示されるように、単一のテラヘルツ波生成部20内の異なる位置に、光パルス列PTを集光することが考えられる。しかしながら、これらの方式では、テラヘルツ波を効率良く発生させるために、複数の光パルス列PTの光密度を光パルス列PT毎に大きくする必要があり、全体的に見て大きなエネルギーが必要となる。これに対し、本実施形態のテラヘルツ波発生装置1およびテラヘルツ波発生方法では、パルス間隔ΔTが互いに異なり、空間的に並んで同時に出力された複数の光パルス列PTが、テラヘルツ波生成部20内の同じ一つのスポット21に集光される。これにより、スポット21における光密度は、複数の光パルス列PTの光密度の総和となる。したがって、各光パルス列PTの光密度を小さく抑えつつ、スポット21における光密度を大きくして、テラヘルツ波を効率良く発生させることができる。
【0059】
また、
図24に示される方式では、テラヘルツ波TWの個数に応じた数のテラヘルツ波生成部20が必要となり、部品点数が多くなるという問題がある。また、
図25に示される方式では、例えば直径が10mm程度といった大きな結晶を用意する必要があるが、純度の高い大きな結晶を作製することは極めて難しいという問題がある。また、大きな結晶も市販されているが、非常に高価であるという問題もある。本実施形態のテラヘルツ波発生装置1およびテラヘルツ波発生方法によれば、テラヘルツ波生成部20の数を削減することができ、また小さな結晶で済むので作製も容易である。
【0060】
なお、パルス間隔ΔTがそれぞれ異なる複数の光パルス列PTをテラヘルツ波生成部20内の一点(スポット21)に集光した場合であっても、複数の光パルス列PTにそれぞれ対応する周波数を有する複数のテラヘルツ波TWが発生することは、従来知られていない知見である。
図26~
図28は、周波数1THzのテラヘルツ波に対応する時間間隔を有する光パルス列と、周波数2THzのテラヘルツ波に対応する時間間隔を有する光パルス列とを、非線形光学結晶の一点に集光することにより実際に得られたテラヘルツ波のスペクトルを示すグラフである。
図26は、テラヘルツ波の全体のスペクトルを示す。
図27は、空間の一部のテラヘルツ波のスペクトルを示す。
図28は、空間の別の一部のテラヘルツ波のスペクトルを示す。
図26に示されるように、テラヘルツ波の全体のスペクトルには、1THzの周波数成分と、2THzの周波数成分とが主に含まれる。また、
図27に示されるように、空間の一部のテラヘルツ波のスペクトルには2THzの周波数成分が含まれ、
図28に示されるように、空間の別の一部のテラヘルツ波のスペクトルには1THzの周波数成分が含まれる。このことから、時間間隔が異なる複数の光パルス列をテラヘルツ波生成部の一点に集光した場合であっても、各光パルス列に対応する周波数を有する各テラヘルツ波が発生することがわかる。
【0061】
本実施形態のように、テラヘルツ波生成部20は、ZnTe結晶、PPLN結晶、PPLT結晶、GaSe結晶、GaP結晶、DAST結晶、DASC結晶、DSTMS結晶、光伝導アンテナ、およびHMQ-TMSからなる群から選択される一又は複数のものを含んでもよい。この場合、複数の光パルス列PTを受けて複数のテラヘルツ波TWを好適に発生させることができる。
【0062】
本実施形態のように、光パルス列生成部10は、初期光パルスLaを出力するパルス光源11と、パルス光源11と光学的に結合され、初期光パルスLaから複数の光パルス列PTを並行して生成する波形整形器12と、を有してもよい。波形整形器12は、初期光パルスLaのスペクトル位相を変調して複数の光パルス列PTを生成するSLM13を含んでもよい。この場合、SLM13に呈示される変調パターンを制御することによって、複数の光パルス列PTを好適に生成することができる。
[第2実施形態]
【0063】
図29は、本開示の第2実施形態に係るテラヘルツ波発生装置2の構成を模式的に示す図である。テラヘルツ波発生装置2は、第1実施形態に係るテラヘルツ波発生装置1の構成に加えて、合波部70を備えている。合波部70は、コリメート光学系40の後段、すなわちテラヘルツ波生成部20の後段に配置され、コリメート光学系40を間に挟んでテラヘルツ波生成部20と光学的に結合されている。合波部70は、テラヘルツ波生成部20から出力された第1テラヘルツ波TW1および第2テラヘルツ波TW2を含む複数のテラヘルツ波TWを合波する。一例では、合波部70は、集光レンズ71を含む。集光レンズ71は、複数のテラヘルツ波TWを一つのスポット72に集光する。スポット72では、複数のテラヘルツ波TWが合波されることにより単一のテラヘルツ波が発生する。
【0064】
また、本実施形態では、制御部18が、SLM13に提供する位相パターンを選択することにより、複数の光パルス列PT間の時間遅延量(例えば第1光パルス列PT1と第2光パルス列PT2との間の時間遅延量)を制御する。すなわち、制御部18は、本実施形態における時間遅延制御部を構成する。このように、複数の光パルス列PT間の時間遅延量、言い換えると各光パルス列PTの位相は、制御部18によって可変とされている。
図30の(a)部、(b)部および(c)部は、スポット72において生じるテラヘルツ波の時間強度波形の例を示す。複数の光パルス列PT間の時間遅延量を様々な大きさに変化させることにより、
図30に示されるようにテラヘルツ波の様々な時間強度波形を実現することができる。
【0065】
本実施形態のように、テラヘルツ波発生装置は、テラヘルツ波生成部20から出力された複数のテラヘルツ波TWを合波する合波部70を更に備えてもよい。複数のテラヘルツ波TWはそれぞれ異なる周波数を有するので、これらを合成することによりテラヘルツ波のパルスを生成することができる。この場合、テラヘルツ波発生装置が、複数の光パルス列PTの間の時間遅延を制御する時間遅延制御部(制御部18)を備えることによって、テラヘルツ波のパルスの波形を変更することが容易にできる。
【0066】
なお、任意の結晶位置において生成されるテラヘルツ波パルスの周波数をf、光パルス列PTの時間遅延量をΔtとすると、テラヘルツ波パルスの位相シフトΔφは、Δφ=2πfΔtと表される。したがって、光パルス列PTの時間遅延量を制御することにより、テラヘルツ波パルスの位相を制御することができる。また、光パルス列PTの強度を制御することにより、テラヘルツ波パルスの振幅も制御することができる。
[第3実施形態]
【0067】
図31は、本開示の第3実施形態に係るテラヘルツ波イメージング装置3の構成を模式的に示す図である。テラヘルツ波イメージング装置3は、第1実施形態に係るテラヘルツ波発生装置1の構成に加えて、撮像部50を備えている。撮像部50は、テラヘルツ波発生装置1から対象物Bに照射されて対象物Bから出力された複数のテラヘルツ波TWを撮像する。一例では、撮像部50は、イメージインテンシファイア51および二次元撮像素子52を有する。イメージインテンシファイア51は、複数のテラヘルツ波TWを光電子に変換する光電面と、光電面から出力された光電子を増倍して二次電子を出力するマイクロチャンネルプレート(MCP)と、増倍後の二次電子を光に変換する蛍光面とを有する。イメージインテンシファイア51は、このような構成を有することにより、入射した複数のテラヘルツ波TWを光に変換して出力する。二次元撮像素子52は、イメージインテンシファイア51から出力された光の像を電気的な画像データに変換する。
【0068】
本実施形態のテラヘルツ波イメージング装置3によれば、複数の光パルス列PTそれぞれの光密度を小さく抑えつつ、テラヘルツ波生成部20のスポット21における光密度を大きくして、テラヘルツ波を効率良く発生させることができる。また、テラヘルツ波による分光イメージングを好適に行うことができる。
【0069】
本開示によるテラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波イメージング装置およびテラヘルツ波発生方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態においてテラヘルツ波生成部の具体例を幾つか示したが、テラヘルツ波生成部はこれらに限られるものではなく、光パルス列を受けてテラヘルツ波を発生可能な種々のものを採用できる。また、上記実施形態では光パルス列生成部の例としてパルス光源および波形整形器を有するものを示したが、光パルス列生成部の構成はこれに限られない。例えば、光パルス列生成部は、パルス間隔がそれぞれ異なる複数の光パルス列をそれぞれ出力する複数のパルス光源を有してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1,2…テラヘルツ波発生装置、3…テラヘルツ波イメージング装置、6…データ作成装置、6a…スペクトログラム設定部、6b…スペクトル設計部、6b1…フーリエ変換部、6b2…スペクトログラム変換部、6b3…スペクトログラム置換部、6b4…スペクトログラム逆変換部、6b5…逆フーリエ変換部、6c…データ生成部、10…光パルス列生成部、11…パルス光源、12…波形整形器、13…空間光変調器(SLM)、17…変調面、17a…変調領域、18…制御部、20…テラヘルツ波生成部、21…スポット、30…集光光学系、31,41…レンズ、40…コリメート光学系、50…撮像部、51…イメージインテンシファイア、52…二次元撮像素子、61…プロセッサ(CPU)、62…ROM、64…入力デバイス、65…出力デバイス、66…通信モジュール、67…補助記憶装置、70…合波部、71…集光レンズ、72…スポット、100…装置、101…波形関数設定部、102…フーリエ変換部、103…スペクトログラム変換部、104…ターゲット生成部、121…回折格子、122,123…レンズ、124…回折格子、A1…初期スペクトル関数、A2…第1波形関数、A3…第2波形関数、A5…第3波形関数、A6…第4波形関数、A41…強度スペクトログラム、A42…位相スペクトログラム、A43…ターゲット強度スペクトログラム、AA,AB…方向、B…対象物、La…初期光パルス、Lb…光、Lc…変調光、PL…光パルス、PT…光パルス列、PT1…第1光パルス列、PT2…第2光パルス列、SC…制御信号、TW…テラヘルツ波、TW1…第1テラヘルツ波、TW2…第2テラヘルツ波。