(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144455
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】回転砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 3/02 20060101AFI20231003BHJP
B24D 3/28 20060101ALI20231003BHJP
B24D 5/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B24D3/02 310A
B24D3/28
B24D5/12 Z
B24D3/02 310D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051430
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591035852
【氏名又は名称】日本レヂボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】谷口 拓瑛
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BB03
3C063BB04
3C063BB07
3C063BC03
3C063BC09
3C063BD01
3C063BD05
3C063BG01
3C063BG07
3C063BH02
3C063CC17
3C063EE31
(57)【要約】
【課題】回転砥石の使用時の火花の発生を低減させる。
【解決手段】砥粒13と、バインダ14とを含有する材料で構成された回転砥石1であって、前記材料は、内部に難燃剤16が封入されたマイクロバルーン17を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、バインダとを含有する材料で構成された回転砥石であって、
前記材料は、内部に難燃剤が封入されたマイクロバルーンを含む、回転砥石。
【請求項2】
請求項1に記載の回転砥石において、
前記マイクロバルーンは、前記バインダに分散している、回転砥石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転砥石おいて、
前記バインダは、熱硬化性樹脂であり、
前記難燃剤の沸点は、前記熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い、回転砥石。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転砥石において、
前記バインダは、熱硬化性樹脂であり、
前記難燃剤は、水を含まない、回転砥石。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転砥石において、
前記マイクロバルーンの含有量は、前記材料の5体積%以上50体積%以下である、回転砥石。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の回転砥石において、
前記マイクロバルーンは、熱硬化性樹脂で構成されている、回転砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、気孔を残して砥粒をバインダで固めてなる円板状の砥石と、この砥石の取付孔に装着されたハブとを備え、ハブの砥石との接触部分に気孔に連通する通気孔が設けられていることを特徴とする砥石車(回転砥石)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転砥石は使用時に、切断又は研削される対象物との摩擦などにより、高温になり火花が発生することが多いが、火花の発生は、安全性の上で好ましくないだけでなく、前記対象物の切断面又は研削面の美観を損ね、さらに前記対象物の硬度、熱膨張係数等の特性に悪影響を与える場合がある。
【0005】
このため、回転砥石に代えて火花が発生しにくいソーブレードを使用することも考えられるが、ソーブレードは回転砥石に比べて切断に時間がかかる。
【0006】
本発明の課題は、回転砥石の使用時の火花の発生を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、砥粒と、バインダとを含有する材料で構成された切断用回転砥石であって、前記材料は、内部に難燃剤が封入されたマイクロバルーンを含む。
【0008】
この第1の発明では、回転砥石を構成する材料が、内部に難燃剤が封入されたマイクロバルーンを含むので、使用中に回転砥石の周端面又は表面に露出したマイクロバルーンが破壊されるとともに、これに封入された難燃剤が放出される。その結果、難燃剤により火花の発生が抑えられる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記マイクロバルーンは、前記バインダに分散している。
【0010】
ところで、マイクロバルーンを含む回転砥石の具体的な構成として、回転砥石中に存在する気孔の内部にマイクロバルーンを含ませることも考えられる。しかし、そのような構成では、回転砥石中のマイクロバルーンの含有量が、気孔の含有率(気孔率)により制限されてしまう。ここで、第2の発明では、回転砥石に含まれるバインダにマイクロバルーンを分散させたので、マイクロバルーンの含有量が気孔率に制限されない。その結果、回転砥石中のマイクロバルーン及び難燃剤の含有量を高くして、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、前記バインダは、熱硬化性樹脂であり、前記難燃剤の沸点は、前記熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い。
【0012】
一般に、バインダとして熱硬化性樹脂を用いる場合、回転砥石の製造過程では熱硬化性樹脂を硬化させるための焼成工程を実施する。このとき、硬化前の熱硬化性樹脂にマイクロバルーンが分散していると、マイクロバルーン中の難燃剤が、焼成工程でマイクロバルーンを破裂させて蒸発してしまうおそれがある。ここで、第3の発明では、難燃剤の沸点が熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いので、難燃剤が沸点以上の温度にならないように焼成工程を実施できる。すなわち、難燃剤を完全に蒸発させることなく、回転砥石中に難燃剤が確実に残るように回転砥石を製造できる。その結果、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0013】
第4の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つにおいて、前記バインダは、熱硬化性樹脂であり、前記難燃剤は水を含まない。
【0014】
この第4の発明では、難燃剤が水を含まないので、熱硬化性樹脂を硬化させるための焼成工程を実施しても、水が蒸発してマイクロバルーンを破裂させるおそれがない。このため、回転砥石の製造過程で、破裂したマイクロバルーンから難燃剤が流出してしまうのを抑えることができる。したがって、回転砥石中に難燃剤が確実に残るように回転砥石を製造できる。その結果、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0015】
第5の発明は、第1~第4の発明のいずれか1つにおいて、前記マイクロバルーンの含有量は、前記材料の5体積%以上50体積%以下である。
【0016】
この第5の発明では、マイクロバルーンの含有量が、材料の5体積%以上であるので、難燃剤により火花の発生を低減させるという効果を確実に奏することができる。また、マイクロバルーンの含有量が材料の50体積%以下であるので、砥粒及びバインダが少なくなりすぎず、回転砥石に切断性能又は研削性能を確実に付与できる。
【0017】
第6の発明は、第1~第5の発明のいずれか1つにおいて、前記マイクロバルーンは、熱硬化性樹脂で構成されている。熱硬化性樹脂は比較的高温に耐性があるので、回転砥石の製造過程で焼成工程を実施しても、マイクロバルーンが破壊されにくい。したがって、硬化温度が比較的高いフェノール樹脂などをバインダとして用いても、マイクロバルーンを破壊しないように回転砥石を製造できるので、材料の選択自由度が高くなる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、回転砥石の使用時の火花の発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】実施例1において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図4】実施例2において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図5】実施例3において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図6】比較例1において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図7】比較例2において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図8】実施例1において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【
図9】実施例2において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【
図10】実施例3において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【
図11】比較例1において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【
図12】比較例1において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【
図13】実施例4において、回転砥石の使用により発生する火花を示す写真である。
【
図14】実施例4において、回転砥石により切断されたSS丸棒材の切断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物又はその用途を制限することを意図しない。
【0021】
―構成―
図1は、本発明の実施形態に係る回転砥石1を示す。この回転砥石1は、金属等の剛性を有する対象物を切断するためのものである。回転砥石1は、砥石本体11と、この砥石本体11と接着によって一体にしたプラスチック製の座部材12とを備えている。
【0022】
砥石本体11は、中央に中心孔11aが設けられた円板状に形成されている。砥石本体11は、全体にわたって同一の厚さで平らに形成されている。砥石本体11の外径は、例えば50mm以上230mm以下であり、厚さは例えば5mm以下である。中心孔11aの内径は、特に限定されないが、例えば15mmである。
【0023】
座部材12は、砥石本体11の中心孔11aの周りの片面に接着されたドーナツ板状の座部12aと、この座部12aの内周縁より軸方向に延び中心孔11aの内面に嵌め込まれたブッシュ部12bとからなる。
【0024】
図2は、砥石本体11断面の部分拡大図を示す。砥石本体11は、砥粒13と、砥粒13を結合するバインダ14と、フィラー15とを含む材料から構成されている。砥石本体11を構成する材料(以下、「構成材料」という。)は、内部に難燃剤16が封入されたマイクロバルーン17をさらに含む。
【0025】
砥粒13の含有量は、砥石本体11に高い切断性能を付与するという観点から、構成材料の10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。砥粒13の含有量は、構成材料にマイクロバルーン17を含ませることができるように、高すぎないことが好ましく、具体的には、構成材料の50体積%以下が好ましく、40体積%以下がより好ましい。砥粒13の材質としては、アルミナ質研削材、アルミナジルコニア研削材、炭化ケイ素質研削材等が挙げられる。砥粒13は、ゾル-ゲル法により製造されたセラミック砥粒であってもよい。砥粒13の粒径は、例えば0.4mm以上0.6mm以下である。
【0026】
バインダ14の含有量は、砥粒13を適度の保持力で保持するという観点から、構成材料の10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。バインダ14の含有量は、構成材料にマイクロバルーン17を含ませることができるように、高すぎないことが好ましく、具体的には、構成材料の50体積%以下が好ましく、40体積%以下がより好ましい。バインダ14は、熱硬化性樹脂から構成されており、熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0027】
フィラー15は、必ずしも含まれていなくてもよいが、例えば研削助剤として機能するものであり、砥石本体11に高い研削性能を付与するという観点から少なくとも含まれていることが好ましい。フィラー15は、砥石本体11の材料の10%体積以上含まれていることがより好ましい。フィラー15の含有量は、構成材料にマイクロバルーン17を含ませることができるように、高すぎないことが好ましく、具体的には、構成材料の40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。フィラー15の例としては、硫化鉄、硫酸カリウム、クリオライト、酸化カルシウム、塩化カリウム、カリクリオライト、カリ氷晶石等が挙げられる。
【0028】
マイクロバルーン17は、ゼラチンあるいはメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、またはその他の樹脂や無機材料等で構成されており、中でも熱硬化性樹脂で構成されていることが好ましい。マイクロバルーン17の形状は、例えば球状であり、直径は例えば0.01mm以上0.4mm以下である。マイクロバルーン17は、バインダ14に分散している。マイクロバルーン17の含有量は、構成材料に多くの難燃剤を含ませるという観点から、砥石本体11の材料の5体積%以上であり、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましい。マイクロバルーン17の含有量は、砥粒13等の含有量が少なくなりすぎないようにするという観点から、50体積%以下であり、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0029】
難燃剤16としては、難燃性を有するものであれば限定されないが、例えばリン酸エステル、シリコンオイル、塩化パラフィン等が挙げられる。難燃剤16の沸点は、バインダ14としての熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いことが好ましく、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも10℃以上高いことがより好ましい。難燃剤16は、水を含まない。難燃剤16は、冷却効果を高める水酸化アルミニウムを含有していてもよい。難燃剤16は、回転砥石1によって切断される対象物の切断中の温度を、回転砥石が難燃剤16を含まない場合に比べ、5℃以上低下させることが好ましい。
【0030】
砥石本体11は、
図2に示すように、気孔18を含んでいてもよい。砥石本体11が気孔18を含む場合、マイクロバルーン17は、気孔18の外に分散している。
【0031】
―製造方法―
回転砥石1は、以下のようにして製造する。まず、砥粒13、バインダ14、フィラー15及びマイクロバルーン17を、混合する。マイクロバルーン17は、難燃剤16が予め封入されたものを準備する。
【0032】
次いで、混合された材料を金型に入れ、金型を、圧力をかけながら40℃~70℃にて加熱することにより砥石本体11を成形する(成形工程)。この成形工程の後の焼成工程では、加熱する温度を、バインダとしての熱硬化性樹脂の硬化温度以上、且つ難燃剤の沸点以下の温度とする。なお、エポキシ樹脂の場合、温度は140℃であり、フェノール樹脂の場合、温度は180℃である。
【0033】
最後に、成形された砥石本体11の中心孔11aに座部材12のブッシュ部12bを嵌め込み、回転砥石1を完成させる。
【0034】
―効果―
本実施形態では、砥石本体11の構成材料が、内部に難燃剤16が封入されたマイクロバルーン17を含むので、回転砥石1の使用中に周端面に露出したマイクロバルーン17が破壊されるとともに、これに封入された難燃剤16が放出される。その結果、難燃剤16により火花の発生が抑えられる。
【0035】
また、本実施形態では、砥石本体11に含まれるバインダ14にマイクロバルーン17を分散させた。この構成は、例えば気孔18の内部にマイクロバルーン17を含ませる構成に比べ、マイクロバルーン17の含有量を高くすることができる。その結果、砥石本体11中の難燃剤16の含有量を高くして、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、難燃剤16の沸点がバインダ14としての熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いので、難燃剤16が沸点以上の温度にならないように焼成工程を実施できる。すなわち、難燃剤16を完全に蒸発させることなく、砥石本体11中に難燃剤16が確実に残るように回転砥石1を製造できる。その結果、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、難燃剤16は水を含まないので、バインダ14としての熱硬化性樹脂を硬化させるための焼成工程を実施しても、水が蒸発してマイクロバルーン17を破裂させるおそれがない。このため、回転砥石1の製造過程で、破裂したマイクロバルーン17から難燃剤16が流出してしまうのを抑えることができる。したがって、砥石本体11中に難燃剤が確実に残るように回転砥石1を製造できる。その結果、火花の発生をさらに低減させることができる。
【0038】
また、本実施形態では、マイクロバルーン17の含有量が、砥石本体11の構成材料の5体積%以上であるので、難燃剤16により火花の発生を低減させるという効果を確実に奏することができる。また、マイクロバルーン17の含有量が、砥石本体11を構成する材料の50体積%以下であるので、砥粒13やバインダ14が少なくなりすぎず、回転砥石1に切断性能を確実に付与できる。
【0039】
また、本実施形態では、マイクロバルーン17は、熱硬化性樹脂で構成されていることが好ましい。熱硬化性樹脂は比較的高温に耐性があるので、回転砥石1の製造過程で焼成工程を実施しても、マイクロバルーン17が破壊されにくい。例えば、マイクロバルーン17は、メラミン樹脂で構成されていれば、焼成工程で180℃の高温にしてもマイクロバルーン17のすべてが破壊されることなく、製造された砥石本体11中にマイクロバルーン17が確実に残る。したがって、硬化温度が比較的高いフェノール樹脂などをバインダ13として用いても、マイクロバルーン17を破壊しないように回転砥石1を製造できるので、材料の選択自由度が高くなる。
【0040】
ところで、砥石本体11の構成材料にマイクロバルーン17が含まれると、マイクロバルーン17が含まれない場合に比べ、回転砥石1の切断性能を左右する砥粒13、バインダ14、フィラー15等の含有量が相対的に低くなる。すると、回転砥石1の切断性能が低くなることも考えられた。
【0041】
しかし、本発明によると、後述の実施例で示すように、驚くべきことに、砥石本体11の構成材料がマイクロバルーン17を含むと、構成材料がマイクロバルーン17を含まない場合よりも速く対象物を切断できる。
【0042】
(実施形態の変形例)
マイクロバルーン17を構成する物質は、熱硬化性樹脂に限られず、例えばゼラチンであってもよい。この場合、例えば焼成工程を140℃以下の比較的低温で実施すれば、マイクロバルーン17のすべてが破壊されることなく、製造された砥石本体11中にマイクロバルーン17が確実に残る。この場合のバインダ14としては、比較的硬化温度の低いもの、例えばエポキシ樹脂を選択すればよい。
【0043】
(その他の実施形態)
本発明は、前記実施形態の構成に限られない。例えば、本発明に係る回転砥石1は、切断用のものに限られず、表面で対象物を研削する研削砥石であってもよく、例えばオフセット砥石であってもよい。バインダ14は、熱硬化性樹脂に限られず、例えば金属であってもよい。
【実施例0044】
以下に、本発明に係る回転砥石が火花の低減する効果、及び対象物を切断する切断時間を評価した、実施例1~3並びに比較例1及び2について説明する。
【0045】
[実施例1]
砥石本体を構成する材料となる、砥粒、バインダとしての熱硬化性樹脂、フィラー及びマイクロバルーンを混合した。砥粒としてはセラミック砥粒(3M社製 商品名:キュービトロン321)を用い、熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂(明和化成社製 商品名:NWR1502+共栄社化学社製 商品名:エポライト1600)を用い、フィラーとしてはカリ氷晶石(ベネタミア社製 商品名:カリフレン)を用いた。マイクロバルーンとしては、内部に難燃剤としてのリン酸エステルが封入された、ゼラチンから構成される略球状のものを用いた。混合した材料中における、砥粒、熱硬化性樹脂、フィラー及びマイクロバルーンの含有量は、それぞれ27体積%、24体積%、6体積%及び27体積%であった。混合した材料中には気孔が16体積%含まれていた。
【0046】
次いで、混合された材料を金型に入れ、金型を60℃に加熱し圧力をかけながら成形した。その後、難燃剤であるリン酸エステルの沸点よりも低い140℃で加熱することにより砥石本体を焼成した。なお、焼成後の砥石本体は、直径105mm、厚さ1.6mmの円板状であった。成形された砥石本体の中心孔に座部材のブッシュ部を嵌め込み、回転砥石を完成させた。
【0047】
次いで、
図3に示すように、切断試験を実施した。完成した回転砥石を切断機に取り付け、切断対象物である直径13mmのSS丸棒材を、前記切断機により自動で1.5kgの荷重をかけながら切断した。切断されたSS丸棒材の切断面を目視により確認した。SS丸棒材1本を完全に切断するのにかかった時間を計測した。
【0048】
[実施例2]
実施例2では、難燃剤が、リン酸エステル100質量部に対して水酸化アルミニウム粉体10質量部を含んでいたという点を除き、実施例1と同様に回転砥石を製造した。また、実施例1と同様に切断試験を実施した。
【0049】
[実施例3]
実施例3では、難燃剤として、リン酸エステルに代えてシリコンオイルを用いたという点を除き、実施例1と同様に回転砥石を製造した。また、実施例1と同様に切断試験を実施した。
【0050】
[比較例1]
比較例1では、内部に難燃剤が封入されたマイクロバルーンに代えて、無機質の多孔質材料を用いたという点を除き、実施例1と同様に回転砥石を製造した。また、実施例1と同様に切断試験を実施した。
【0051】
[比較例2]
比較例2では、市販の回転砥石(日本レヂボン社製 商品名:レヂボンスーパーカットRSC)を切断機に取り付け、実施例1と同様に切断試験を実施した。なお、砥石本体の構成材料の組成については、表1に示す。
【0052】
表1に、各実施例及び各比較例の条件及び結果を示す。
【0053】
【0054】
[結果]
図3~5は、それぞれ実施例1~3での切断試験の様子を示し、
図6及び7は、それぞれ比較例1及び2での切断試験の様子を示す。これらの写真によると、各切断試験において火花が発生していることが分かるが、実施例1~3で発生した火花は、比較例1及び2で発生した火花より低減されていることが明らかである。
【0055】
図8~10は、それぞれ実施例1~3での切断試験により切断されたSS丸棒材の切断面を示し、
図11及び12は、それぞれ比較例1及び2での切断試験により切断されたSS丸棒材の切断面を示す。各切断面の黒い部分は、火花による焼けが生じた部分を示しており、比較例1及び2では、切断面に焼けが目立っている(
図11及び12を参照)。これに対して、実施例1~3では、切断面に焼けが目立たない(
図8~10を参照)。特に、実施例1及び2では、切断面に焼けがほとんど見られず美しい切断面となった(
図8及び9を参照)。
【0056】
また、表1によると、実施例1~3では、砥石本体の構成材料が難燃剤を含むことにより、比較例1に比べて切断中の対象物(SS丸棒材)の温度が、少なくとも28℃低下していることが分かる。
【0057】
さらに、表1によると、砥石本体の構成材料が難燃剤を含むことにより火花を低減させた実施例1~3が、驚くべきことに、比較例1及び2に比べ、切断時間が短いこと、すなわちより速く切断できることが分かる。
【0058】
以下に、マイクロバルーンの種類を変えて、火花を低減する効果、及び対象物を切断する切断時間を評価した、実施例4について説明する。
【0059】
[実施例4]
表2に示す材料及び構成で実施例1と同様にして回転砥石を製造し、実施例1と同様の切断試験を実施した。
【0060】
【0061】
[結果]
図13は、実施例4での切断試験の様子を示す。この写真によると、切断試験において火花が発生していることが分かるが、実施例4で発生した火花は、比較例1及び2で発生した火花より低減されていることが明らかである。
【0062】
図14は、実施例4での切断試験により切断されたSS丸棒材の切断面を示す。実施例4では、比較例1及び2に比べ、切断面に焼けが目立たないことが分かる(
図14を参照)。
【0063】
また、表2によると、実施例4では、砥石本体の構成材料が難燃剤を含むことにより、比較例1に比べて切断中の対象物(SS丸棒材)の温度が、少なくとも28℃低下していることが分かる。
【0064】
さらに、表2によると、砥石本体の構成材料が難燃剤を含むことにより火花を低減させた実施例4が、驚くべきことに、比較例1及び2に比べ、切断時間が短いこと、すなわちより速く切断できることが分かる。