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  • 特開-外装部材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144470
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】外装部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
C25D11/18 301E
C25D11/18 301B
C25D11/18 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051449
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】大丁 史弥
(72)【発明者】
【氏名】酒井 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 泰宏
(57)【要約】
【課題】耐酸,耐アルカリ性に優れる外装部材及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属材と、前記金属材の表面に形成された陽極酸化層とを備え、前記陽極酸化層は無数の微細孔を有し、前記微細孔の表面部側には金属水酸化物と金属酸化物との複合膜層を有していることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属材と、前記金属材の表面に形成された陽極酸化層とを備え、
前記陽極酸化層は無数の微細孔を有し、前記微細孔の表面部側には金属水酸化物と金属酸化物との複合膜層を有していることを特徴とする外装部材。
【請求項2】
前記複合膜層は少なくとも水酸化ニッケルと、酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムとが含まれていることを特徴とする請求項1記載の外装部材。
【請求項3】
前記複合膜層はさらにケイ酸塩が含まれていることを特徴とする請求項2記載の外装部材。
【請求項4】
前記複合膜層はさらにアクリル系有機物を含有していることを特徴とする請求項3記載の外装部材。
【請求項5】
前記複合膜層の厚みは200nm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の外装部材。
【請求項6】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属材の表面に無数の微細孔を有する陽極酸化層を形成するステップと、
フッ化ニッケル及びジルコンフッ化水素酸を含有している水溶液と反応させるステップと、
ケイ酸塩を含有する水溶液と反応させるステップとを有することを特徴とする外装部材の製造方法。
【請求項7】
前記ケイ酸塩を含有する水溶液はアクリル系有機物を含有していることを特徴とする請求項6記載の外装部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を素材に用いた各種外装部材及びその製造方法に関し、特に自動車の外装部材等のように、耐酸性,耐アルカリ性が要求される外装部材に係る。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウムあるいはアルミニウム合金等を素材に用いた各種製品の防錆を目的に、陽極酸化処理が施されている。
この種の陽極酸化皮膜は、厚さ約10~20nmのバリア層の上に、内径約5~30nmの微細孔を無数に形成したポーラス層からなる。
【0003】
陽極酸化皮膜の微細孔が、そのままでは耐食性が不充分であることから、いわゆる封孔処理が施されている。
封孔処理として、90℃以上の熱水処理,水蒸気処理等によるベーマイト化処理では、耐食性が不充分であったり、表面にくもり等が生じる恐れがあったことから、酢酸ニッケル系の水溶液を用いて比較的に高温の80℃以上の熱水にて処理することで、微細孔に酸化アルミニウムのベーマイト化に合せて水酸化ニッケルを析出させる高温封孔処理方法と、フッ化ニッケル系の水溶液を用いて、比較的低温の常温~40℃にて水酸化ニッケルとフッ化アルミニウムとを複合的に析出させる方法等が公知である。
【0004】
特許文献1には、さらに耐蒸気性,アルカリ及び酸に対する耐性を向上させる目的で、結晶性の遷移金属酸化物,結晶性の貴金属酸化物,半金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ金属酸化物のうち、少なくとも1つが充填された陽極領域と、それらのうち少なくとも1つを含む封孔領域とからなる封孔された陽極酸化皮膜が記載されている。
その具体的内容は、その実施例によると、陽極酸化したアルミニウム基板を約150℃~約300℃にて約30分~約2時間加熱処理することで、少なくとも部分的に結晶化させるものである。
しかし、アルミニウム金属材料と陽極酸化皮膜等の無機材料とでは、熱膨張率に大きな差があり、加熱処理の際に陽極酸化皮膜に無数のクラックが発生し、逆に耐酸性や耐アルカリ性を低下させる原因になる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-528707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐酸,耐アルカリ性に優れる外装部材及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る外装部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属材と、前記金属材の表面に形成された陽極酸化層とを備え、前記陽極酸化層は無数の微細孔を有し、前記微細孔の表面部側には金属水酸化物と金属酸化物との複合膜層を有していることを特徴とする。
本発明は、陽極酸化皮膜の封孔処理として、微細孔内に金属水酸化物と金属酸化物とを析出させて複合膜層を形成したので、金属水酸化物による耐アルカリ性と金属酸化物による耐酸性の両立を図ることができる。
【0008】
陽極酸化皮膜は、陽極酸化時に形成された酸化アルミニウムが水和反応により、ベーマイト(一水和物)あるいはバイヤライト(三水和物)が形成されるが、これらの水和物を金属水酸化物及び金属酸化物と複合化させてもよい。
【0009】
本発明において金属水酸化物は、水酸化ニッケル,水酸化ジルコニウム,水酸化コバルト,水酸化亜鉛,水酸化バナジウム等が例として挙げられる。
また、金属酸化物としては、酸化ジルコニウム,酸化チタン等が例として挙げられる。
本発明においては、複合膜層は少なくとも水酸化ニッケルと、酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムとが含まれているのが好ましい。
【0010】
本発明においては、微細孔に析出された金属酸化物と親和性が高いケイ酸塩、あるいはアクリル系有機物のうち、一方又は両方をさらに複合化させると、さらに耐酸性,耐アルカリ性が向上する。
ここで、ケイ酸塩とは、オルトケイ酸イオン,ピロケイ酸イオン等を骨格とするケイ酸化合物をいう。
また、アクリル系有機物とは、ポリアクリル,コポリアクリル等の樹脂成分をいい、無機系の析出物の隙間に入り込み、耐酸性,耐アルカリ性が向上する。
【0011】
本発明に係る外装部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属材の表面に無数の微細孔を有する陽極酸化層を形成するステップと、フッ化ニッケル及びジルコンフッ化水素酸を含有している水溶液と反応させるステップと、ケイ酸塩を含有する水溶液と反応させるステップとを有することを特徴とする。
ここで、フッ化ニッケルは、微細孔に析出時に水酸化ニッケルとして析出し、ジルコンフッ化水素酸は微細孔に析出時に酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムとして析出する。
フッ化ニッケルは、FNi・4HO等の四水和物であってもよく、ジルコンフッ化水素酸は、フッ化ジルコン酸,フッ化ジルコン水素酸とも称され、HZrFで表される。
また、水溶液には、酢酸ニッケル,フッ化カリウム,界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0012】
本発明において、上記ケイ酸塩を含有する水溶液には、アクリル系有機物を界面活性剤とともに含有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明における外装部材は、その陽極酸化皮膜の封孔処理として、金属水酸化物と金属酸化物の複合膜層としたことにより、耐酸性と耐アルカリ性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】評価結果を示す。
図2】複合膜層の厚さの計測方法を示す。
図3】元素マッピング像を示し、(a)はSi、(b)はNi、(c)はAlを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
試験片を作成し、耐アルカリ性及び耐酸性を評価したので以下説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0016】
(1)アルミニウム板材に200g/L濃度の硫酸水溶液を用いて、20℃,電流密度1A/dm,30分間電解処理し、約9μmの陽極酸化皮膜を形成し、十分に水洗を行った。
(2)次に以下質量%にて、フッ化ニッケル(四水和物)0.55%,酢酸ニッケル0.5%,ジルコンフッ化水素酸0.05%,フッ化カリウム0.04%,0.2%以下の界面活性剤からなる水溶液に75℃,15分間浸漬処理し、充分に水洗した。
(3)次に、ケイ酸塩約0.1%,アクリル系有機物約0.1%,界面活性剤0.1~0.2%含有する水溶液に、約95℃,20分間浸漬し、その後に充分に水洗した。
(4)陽極酸化皮膜の表面部側に形成された複合膜層の厚さは、図2に示すように表面処理部分を折り曲げると、陽極酸化皮膜の破断面が露出する。
日本電子製JSM-IT700HRにて、35,000倍観察し、上面から陽極酸化皮膜の柱状の微細孔が確認できるまでの厚みを複合膜層とした。
実施例1では、約300nmであった。
(5)陽極酸化皮膜の表面部付近のSi,Ni,AlのTEM元素マッピング像を示す。
これらのことから、複合膜層は微細孔に充填された部分と、その表面に析出した層から形成されていることが分かる。
【実施例0017】
実施例2は、実施例1において(2)に示した一段目の処理時間を10分、(3)に示した二段目の処理時間を15分にした。
他は、実施例1と同様に作成した。
複合膜層の厚さは、約200nmであった。
【参考例1】
【0018】
参考例1は、実施例1の(2)に示した一段目の処理条件を5分にし、(3)に示した二段目の処理条件を10分にした。
他は、実施例1と同様に作成した。
複合膜層の厚さは、約100nmであった。
【比較例1】
【0019】
比較例1は、実施例1の(1)と同様に、陽極酸化皮膜を形成した後に、0.5%の酢酸ニッケル水溶液を用いて、90℃,20分間の封孔処理をした。
【比較例2】
【0020】
比較例2は、実施例1の(1)と同様に陽極酸化皮膜を形成した後に、約3%のフッ化ニッケル水溶液を用いて、30℃,20分の一段目の封孔処理をした後に、二段目として蒸気蒸孔を20分間実施した。
【0021】
実施例1,2、参考例1、比較例1,2にて製作した試験片を用いて、下記のとおり耐アルカリ性,耐酸性試験を実施した。
<耐アルカリ性試験方法>
pH12.5の水酸化ナトリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、その後に洗浄乾燥する。
試験前後の光沢をHORIBA製IG-410光沢計にて計測し、下記式(1)にて光沢保持率を算出した。
光沢保持率(%)=試験後の光沢/試験前の光沢×100 ・・・(1)
<耐酸性試験方法>
pH4の硫酸水溶液を試験片に1滴滴下し、乾燥後同じ場所に更に1滴滴下することを繰り返す。
滴下部分を水を付けたペーパータオルにて拭き取り、白色に変化するまでの滴下回数を計測する。
【0022】
評価結果を図1の表に示す。
実施例1,2は、いずれも比較例1,2よりも耐アルカリ性,耐酸性が優れている。
自動車の外装部品に本発明を適用しようとすると、光沢保持率80%以上,耐酸性200回以上を目標とした。
参考例1も耐酸性が比較例1,2よりも優れているので、本発明の効果が認められるものの、複合膜厚さが100nmレベルと薄い場合には、実施例1,2よりも耐アルカリ性,耐酸性が劣っていたので、好ましくは複合膜厚さが200nm以上であるのがよい。
【0023】
<従来技術との比較>
本発明における実施例1の試験片と、特許文献1の段落(0051)に基づいて、本出願人が試験片を製作し、pH0.8硫酸水溶液,24時間の浸漬試験を実施した。
本願実施例1では、皮膜の厚みの減少率が5%未満であったのに対して、特許文献1の追試サンプルは約20%も減少していた。
このことから、本発明に係る外装部材は、従来技術よりも耐酸性に優れていると推定される。
【0024】
本実施例において、実施例1,2の処理条件に限定されるものではない。
例えば一段目の処理液は、微細孔中に水酸化ニッケルと、酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムとを析出させるのが目的であり、組成は質量%で下記の範囲が好ましい。
(1)フッ化ニッケル:0.30~1.00%
(2)ジルコンフッ化水素酸:0.02~0.05%
(3)フッ化カリウム:0.05%以下
二段目の処理液は、ケイ酸塩0.05~0.20%,アクリル系有機物0.05~0.20%、及び界面活性剤0.20%以下が好ましい。
図1
図2
図3