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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144483
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】フィリング含気用油中水型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20231003BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20231003BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20231003BHJP
   A23C 19/076 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
A23G3/00
A23C19/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051473
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下地 真美子
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 峻
(72)【発明者】
【氏名】眞々田 基
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC16
4B001AC40
4B001BC01
4B001BC99
4B001EC04
4B001EC99
4B014GG11
4B014GG14
4B014GG18
4B014GK03
4B014GK07
4B014GL01
4B014GP01
4B014GP27
4B025LB21
4B025LG14
4B025LG15
4B025LG18
4B025LG26
4B025LK01
4B025LP11
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DL01
4B026DL03
4B026DX05
(57)【要約】
【課題】本発明は、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリング含気用油中水型乳化物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により、(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下、
(2) 30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下、
条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とすることで、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリング含気用である油中水型乳化物を提供することができることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相のSFCが下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする、フィリング含気用である油中水型乳化物。
(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下
(2) 30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下
【請求項2】
請求項1に記載の油中水型乳化物を、フィリング100重量部に対して3~30重量部混合し含気させる工程を含む、フィリングの含気方法。
【請求項3】
混合時の油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該フィリングが、クリームチーズである、請求項1に記載の油中水型乳化物。
【請求項5】
該フィリングが、クリームチーズである、請求項2又は3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリング含気用である油中水型乳化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋菓子においては様々なフィリングが使用されるが、その中でもクリームチーズは、風味が良好であり、万人に好まれる食品である。
また、代表的なフィリングであるカスタードクリームにおいてはそのバリエーションも豊富であり、例えばホイップクリームと併せて、含気させた状態で、洋菓子に使用される場合がある。
【0003】
含気させたフィリングに関連する出願としては、例えば特許文献1~2が存在する。特許文献1では、「水、油脂、乳固形分、糖質を主成分としたO/W型乳化物と、急冷可塑化した油脂製品を起泡させてクリーム状にしたW/O型乳化物とを連続的に混合することを特徴とする油脂乳化組成物の製造方法」に関して記載されている。特許文献2では、「カスタードクリーム配合組成物又はカスタードクリーム、起泡性クリーム、及び乳化剤を混合することを特徴とする、起泡性又は起泡済みカスタードクリームの製造法」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-61449号公報
【特許文献2】特開平10-295306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリング含気用油中水型乳化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
クリームチーズを含気させることで、その用途や市場の拡大が期待される。含気フィリングに関する技術としてはカスタードの例があるが、クリームチーズにおいては、カスタードクリームよりも硬さがあるために、カスタードクリームでの技術を応用することは困難な場合があった。さらに、クリームチーズを含気させると、その口当たりは軽い食感となってしまうことが想定され、良好な風味ではあるもののすっきりとした風味になりやすい。より濃厚な風味を付与するためには、バターの使用が考えられるが、冷蔵保存下から室温に戻す必要があり、温調が必須となり作業が煩雑である。また、温調が必須である場合、細菌が繁殖するという課題も有していた。
【0007】
なお、特許文献1では、「起泡させたW/O型乳化組成物のなかに風味豊かなO/W型乳化組成物を混合すること」を必須としており、予めW/O型乳化組成物を起泡させ、別途、O/W型乳化組成物を混合する必要があり、本発明を完成させる上で参考とはならなかった。
また、特許文献2は「出来合いのカスタードクリームと起泡性クリーム及びケーキ用乳化油脂を同時にホイップ」する発明であるが、本発明では起泡性クリームを必須とせず、本発明を完成させる上で参考とならなかった。
【0008】
本発明者らは、冷蔵下であっても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを提供することが出来れば、更なる市場の拡大につながるのではないかと、鋭意検討を重ねた。その結果、油相のSFCが特定条件を満たす油中水型乳化物を用いることで、前記課題を解決し本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
1.油相のSFCが下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする、フィリング含気用である油中水型乳化物、
(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下
(2) 30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下
2.1に記載の油中水型乳化物を、フィリング100重量部に対して3~30重量部混合し含気させる工程を含む、フィリングの含気方法、
3.混合時の油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下である、2に記載の方法、
4.該フィリングが、クリームチーズである、1に記載の油中水型乳化物、
5.該フィリングが、クリームチーズである、2又は3に記載の方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリング含気用油中水型乳化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(フィリング含気用)
本発明に係る油中水型乳化物は、フィリングに混合して含気させるものを指す。ここで言うフィリングは、水中油型乳化物であって、カスタードクリームなどのフラワーペースト類や、クリームチーズ、チーズペースト、ガナッシュが挙げられる。特に、本発明では、カスタード又はクリームチーズがより好ましく、クリームチーズが特に好ましい。本発明の油中水型乳化物を混合し、同時にホイップすることで、カスタードクリームやクリームチーズなどの水中油型乳化物に、良好な濃厚感を与え、かつ冷蔵下であっても容易にホイップ可能なフィリング含気用油中水型乳化物に関する。
【0012】
(油中水型乳化物)
本発明の油中水型乳化物は、その油相のSFC(固体脂含量)が以下の条件をすべて満たすことを特徴とする。
5℃で30%以上50%以下、好ましくは35~45%
10℃で20%以上40%以下、好ましくは25~35%
20℃で10%以上20%以下、好ましくは12~17%
30℃で1%以上10%以下、好ましくは2~6%
30℃のSFC/10℃のSFCの比が0.1以上0.2以下、好ましくは0.11~0.15
SFCが上述の範囲及び比率であることで、作業効率向上を兼ね備えた油中水型乳化物が提供できる。なお、本発明におけるSFC(固体脂含量)とは、AOCS Official Method第5版Cd16-81に準じて、60℃で15分以上温調して油脂を融解させ、0℃で60分保持することにより固化し、さらに各測定温度で30分温調後に測定したものである。
【0013】
本発明で言う油相は、本発明に係る油中水型乳化物の原料において、油及び油に溶解する原料を混合したものである。代表的には、油に油溶性乳化剤及び油溶性色素、香料等を混合したものである。また、水相は、本発明に係る油中水型乳化物の原料において、水分及び水分に溶解する原料を混合したものである。代表的なものには、水に水溶性である乳化剤、水溶性色素、蛋白質、糖類やデキストリン等の炭水化物、卵製品やメイラード生成物等を混合したものである。
【0014】
作業効率についてより具体的に説明する。
一般の油中水型乳化物を用いる場合は予め室温(20℃)環境に少なくとも6時間以上、通常1晩(12~20時間)程度静置し、温度調整を行う必要がある。
しかし本発明の油中水型乳化物は、これを冷蔵庫から出してすぐに、ないしは室温での静置時間が十分に取れていない状態でも、フィリングと同時に、かつ均一に混合することができる。
具体的には油中水型乳化物の品温が2℃以上15℃以下、より好ましくは2℃~10℃、さらに好ましくは2℃~7℃であっても、容易に混合することが可能である。この利点により作業効率が大幅に改善され、また急な追加生産にも臨機応変に対応することができる。
【0015】
油中水型乳化物に用いる油脂原料としては公知の食用油脂類をいずれも使用することができ、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、及び/又はこれらの単独又は混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等から選択される1以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
油中水型乳化組成物の製造法についても特に限定されない。例えば、常法通り油相と水相とを予備乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーターなどの掻き取り式急冷混捏装置で急冷捏和することにより製造することができる。油相は、融解した油脂に必要に応じて色素、抗酸化剤、乳化剤、香料等の油溶性成分を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。水相は水又は温水に水溶性の乳成分、必要に応じて食塩、糖類、無機塩類等を添加、溶解及び/又は分散させ調製することができる。
【0017】
これらの混合比率としてはフィリング100重量部に対して油中水型乳化物3~30重量部が例示できる。好ましくは5~25重量部、より好ましくは8~20重量部である。
これより少ないと本発明の効果が得られない場合がある。
これより多いとフィリングの乳化状態が不安定になり、食感や外観が損なわれてしまう場合がある。
【0018】
油中水型乳化物とフィリングの混合及びホイップ方法にも特に制限はないが、油中水型乳化物とフィリングとを同時に、ミキサーで高速(例えばケンミックス6速)でこれらを均一に混合し、回転数を上げて所望の比重までホイップする手段が例示できる。
【0019】
本発明においては油中水型乳化物及びフィリングの他にも、ナッツペースト、ココア、チョコレート類、抹茶、糖類、フルーツピューレ、いも、栗などの副原材料、色素、香料など、本発明の効果を阻害しない範囲でいずれも使用することができる。
【0020】
以下に実施例を記載する。以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「重量%」及び「重量部」を意味するものとする。
【実施例0021】
○油中水型乳化物の調製
表1の配合に従い、常法により油相と水相とを調製、予備乳化の後に全原材料を混合し、コンビネーターにより急冷混捏し、油中水型乳化物Aを製造した。
なお表中油脂組成物a、bは以下を使用した。
油脂組成物a:ヤシ油、高エルシン酸菜種極度硬化油、及びパーム分別ステアリンの混合油をエステル交換した油脂
油脂組成物b:製品名「パーキッドY」不二製油株式会社(炭素数12以下の脂肪酸を含む油脂とパーム油を主成分とするエステル交換油を含有する油脂)
別途、市販の油中水型乳化物B~F、及び市販の無塩バター(G)を準備した。
なお、市販の無塩バター(G)は、明治乳業株式会社製「明治無塩バター」(油分82.5%)を使用した。
これらの物性値をあわせて表2に示した。
【0022】
表1.配合
【0023】
表2.各油中水型乳化物の物性値
【0024】
○含気済みフィリングの調製
水中油型乳化物のフィリングであるクリームチーズ(「LUXEクリームチーズ」北海道乳業株式会社、油分32.5%)100部、及び、油中水型乳化物A~G、又は生クリーム(「フレッシュクリーム大雪原45」森永乳業株式会社、油分45%)各17.6部を、ケンミックス(ホイッパーを使用)を用いて6速で混合し、3分45秒間ホイップした。ホイップしたものを、含気済みフィリングとして官能評価に用いた。なお、生クリームは、フィリングに含気させる従来技術として使用した。
クリームチーズ、油中水型乳化物A~G及び生クリームは冷蔵庫から出してすぐに試験に用いた(品温5℃)。
また、さらに、コントロール1として、品温20℃のバター(油中水型乳化物G)を使用し、クリームチーズとともにホイップした。市販のクリームチーズ(品温5℃)100部、バター(品温20℃)17.6部を、比重が0.85になるまでケンミックスを用いて6速で混合後、2分間ホイップした。なお、品温20℃のバターは、予め20℃の環境に15時間(1晩)静置し、温度調整したものを使用した。
【0025】
○作業性の評価
冷蔵下(5℃)における、フィリング(クリームチーズ)と混合した際の油中水型乳化物の作業性について、以下の観点から5段階で評価した。なお、コントロール1である品温20℃のバター(油中水型乳化物G)、及び、コントロール2として5℃の生クリームも同様に評価した。
5:問題なし
4:ほとんど問題なし、やや分散に難あり
3:ホイップ出来るが分散性悪い
2:ホイップ不可
1:油脂分離あり、ホイップ不可
作業性は、評点5であるものを合格とした。
【0026】
表3.
【0027】
(考察)
「○作業性の評価」より、油中水型乳化物A及びCにおいて、5℃の温度帯であっても評価が5であり、合格であった。また、油中水型乳化物A及びCは、コントロール1である品温20℃のバター(油中水型乳化物G)及びコントロール2である5℃の生クリームと比較した場合においても、最終比重が同程度のものが得られ、作業性が良好なフィリング含気用油中水型乳化物であった。
【0028】
○官能評価
「○含気済みフィリングの調製」にて作製した各含気済みフィリングについて、油中水型乳化物及び洋菓子製品開発に従事するパネラー10名にて下記観点の官能評価(5点満点)を行い、その平均点を表4に示した。
【0029】
口溶け:良好(5点)~悪い(1点)
濃厚感:強い(5点)~弱い(1点)
ざらつき:全く感じない(5点)~明確に感じる(1点)
官能評価において、口溶け、濃厚感、及びざらつきの全ての評価で評点3以上であるものを合格とした。
【0030】
表4.
【0031】
表4の結果より、口溶け、濃厚感、及びざらつきの全ての評価で3点以上であった、油中水型乳化物Aが合格であった。
【0032】
よって、表3及び表4の結果より、油中水型乳化物Aが、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリング含気用油中水型乳化物であった。さらに、油中水型乳化物Aを使用し得られた含気済みフィリングは、ざらつきが感じられず、口溶け及び濃厚感が良好なものであった。
【0033】
考察
以上の結果より、本発明において、
(1)SFC(固体脂含量)が5℃で30%以上50%以下、10℃で20%以上40%以下、20℃で10%以上20%以下、30℃で1%以上10%以下、
(2) 30℃のSFC/10℃のSFC比が0.1以上0.2以下、
条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とすることで、冷蔵下においても、作業性が良好であり、容易に含気済みフィリングを得ることができる、フィリングとの含気用である油中水型乳化物を提供することができることを見出した。