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特開2023-144488多孔質セラミック体および多孔質セラミック体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144488
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多孔質セラミック体および多孔質セラミック体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20231003BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C04B38/06 J
B32B18/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051480
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】木内 克将
(72)【発明者】
【氏名】會場 翔平
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AD00A
4F100AD00B
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DC11C
4F100DJ01A
4F100DJ01B
4F100EJ17
4F100EJ20
4F100EJ42
4F100EJ48
4F100EJ50
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】靭性を改善することができる多孔質セラミック体および多孔質セラミック体の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質セラミック体100は、複数のセラミック層101が積層されて構成されている。各セラミック層101は、厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されている。これらの各セラミック層101の間の各境界面102には、層間空洞部103がそれぞれ形成されている。層間空洞部103は、境界面102に大小無数に形成される空洞部分である。層間空洞部103は、多孔質セラミック体100の厚さ方向における空洞部分の最も高い部分の高さhが20μm以上かつ50μm以下に形成されている。層間空洞部103は、1つの境界面102における両端部間に実質的に均等に万遍なく形成されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック体であって、
前記セラミック層は、厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されており、
互いに隣接する前記セラミック層の間には、20μm以上かつ50μm以下の高さの層間空洞部が無数に形成されていることを特徴とする多孔質セラミック体。
【請求項2】
積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック体の製造方法であって、
前記セラミックペーパを抄造するペーパ抄造工程と、
前記セラミックペーパを積層してこの積層方向に圧力を加えて互いに隣接する前記セラミックペーパ同士が接合されたセラミックペーパ積層体を得る積層体成形工程と、
前記セラミックペーパ積層体を焼成する焼成工程とを含み、
前記積層体成形工程は、
前記積層されたセラミックペーパに圧力を加えて、各前記セラミックペーパの厚さを100μm以上かつ1000μm以下に形成するとともに、互いに隣接する前記セラミックペーパの間に20μm以上かつ50μm以下の高さの無数の層間空洞部を形成することを特徴とする多孔質セラミック体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック体およびこの多孔質セラミック体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック板がある。例えば、下記特許文献1には、10μm以上かつ100μm以下の炭化ケイ素層が1μm以上かつ20μm以下の空隙を介して積層した特殊耐熱セラミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56-134572号公報
【0004】
この特殊耐熱セラミックスは、炭化ケイ素層を形成する不融化シートの厚みムラまたは波打ちを防止するために厚さが10μm以上かつ100μm以下に形成されているとともに、各炭化ケイ素層の各層間の結合力を確保するために層間の空隙の厚さが1μm以上かつ20μm以下になるように形成されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された特殊耐熱セラミックスにおいては、靭性が極めて乏しいため僅かな撓み変形によって一気に破断して割れてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、靭性を改善することができる多孔質セラミック体および多孔質セラミック体の製造方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック体であって、セラミック層は、厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されており、互いに隣接するセラミック層の間には、20μm以上かつ50μm以下の高さの層間空洞部が無数に形成されていることにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、多孔質セラミック体は、各セラミック層の厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されているとともに、互いに隣接するセラミック層の層間には20μm以上かつ50μm以下の高さの層間空洞部が無数に形成されているため、本発明者らの実験結果によれば靭性を改善することができる。
【0009】
また、本発明は、多孔質セラミック体の発明として実施できるばかりでなく、この多孔質セラミック体の製造方法の発明としても実施できるものである。
【0010】
具体的には、多孔質セラミック体の製造方法は、積層した各セラミックペーパの焼成物がそれぞれセラミック層を形成している多層構造の多孔質セラミック体の製造方法であって、セラミックペーパを抄造するペーパ抄造工程と、セラミックペーパを積層してこの積層方向に圧力を加えて互いに隣接するセラミックペーパ同士が接合されたセラミックペーパ積層体を得る積層体成形工程と、セラミックペーパ積層体を焼成する焼成工程とを含み、積層体成形工程は、積層されたセラミックペーパに圧力を加えて、各セラミックペーパの厚さを100μm以上かつ1000μm以下に形成するとともに、互いに隣接するセラミックペーパの間に20μm以上かつ50μm以下の高さの無数の層間空洞部を形成するとよい。これによれば、多孔質セラミック体の製造方法は、前記多孔質セラミック体と同様の作用効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る多孔質セラミック体の全体構成の概略を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す多孔質セラミック体の断面の状態を模式的に示す部分拡大断面図である。
図3図1に示す多孔質セラミック体における層間空洞部の形成割合の算出対象となる境界面の断面を撮像したデジタル画像の一例である。
図4】層間空洞部を含む境界面の断面を表すデジタル画像に対してグレー処理を施したデジタル画像の一例である。
図5】層間空洞部の厚さを測定する処理を説明するためにグレー処理を施したデジタル画像を模式的に示した説明図である。
図6】本発明に係る多孔質セラミック体の製造方法の工程の流れを示すフローチャートである。
図7図6に示す第2工程の平坦化工程での加工の様子を模式的に示す説明図である。
図8図6に示す第3工程の積層体成形工程での加工の様子を模式的に示す説明図である。
図9】従来の多孔質セラミック体に対して3点曲げ試験を行った試験結果(荷重に対する撓み変形量)を示すグラフである。
図10】本発明の多孔質セラミック体(層間空洞部の高さ20μm)に対して3点曲げ試験を行った試験結果(荷重に対する撓み変形量)を示すグラフである。
図11】本発明の多孔質セラミック体(層間空洞部の高さ50μm)に対して3点曲げ試験を行った試験結果(荷重に対する撓み変形量)を示すグラフである。
図12】台座、支持ピンおよび押圧ピンを用いて3点曲げ試験を行う様子を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る多孔質セラミック体および多孔質セラミック体の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る多孔質セラミック体100の全体構成の概略を模式的に示す斜視図である。また、図2は、図1に示す多孔質セラミック体100の断面の状態を模式的に示す部分拡大断面図である。なお、本明細書において参照する模式図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表していることがあるため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0013】
この多孔質セラミック体100は、電子部品を構成するセラミック材料、陶磁器またはガラスなどの焼成時に炉内における支持台として用いられる板状の部品である。
【0014】
(多孔質セラミック体100の構成)
多孔質セラミック体100は、複数のセラミック層101が積層されて構成されている。各セラミック層101は、後述するセラミックペーパ200を焼成することで形成された部分であり、平板状のセラミック焼結体で構成されている。これらの各セラミック層101は、厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されている。また、各セラミック層101は、内部に無数の空洞で構成された層内空洞部101aが形成された多孔質状に形成されている。
【0015】
この場合、各セラミック層101の内部に形成される層内空洞部101aは、セラミックペーパ200に含まれている有機繊維(図示せず)が消失した部分であり、互いに隣接し合う層内空洞部101a同士が繋がっていたり、隣接するすべての層内空洞部101aと繋がらずに独立して存在していたりする。
【0016】
本実施形態においては、積層された各セラミック層101は、同種の酸化アルミニウムでそれぞれ構成されている。また、各セラミック層101は、厚さが約250μmにそれぞれ形成されている。そして、多孔質セラミック体100は、本実施形態においては、10個のセラミック層101が多孔質セラミック体100の厚さ方向に積層されて構成されている。これらの各セラミック層101の間の各境界面102には、層間空洞部103がそれぞれ形成されている。
【0017】
境界面102は、多孔質セラミック体100の厚さ方向に積層された各セラミック層101における積層方向に互いに隣接する2つのセラミック層101の境界部分であり、積層されるセラミックペーパ200間に不可避的に形成される。
【0018】
層間空洞部103は、境界面102に形成される空洞部分である。この層間空洞部103は、互いに隣接する2つのセラミック層101の接合面に大小無数に分散して形成されている。これらの層間空洞部103は、多孔質セラミック体100の厚さ方向における空洞部分の最も高い部分の高さが20μm以上かつ50μm以下に形成されている。
【0019】
この場合、層間空洞部103は、境界面102において、空洞部分の高さhが20μm未満または50μmを超える高さの空洞も含まれていることもあるが、20μm以上かつ50μm以下の高さの部分を少なくとも一部に有する空洞が主として存在しているものである。ここで、空洞部分の高さhが20μm以上かつ50μm以下の空洞が主として存在するとは、空洞部分の高さhが20μm未満のみで形成された空洞部または50μmを超える高さのみで形成された空洞部の形成割合よりも空洞部分の高さが20μm以上かつ50μm以下の空洞の形成割合の方が高いことをいう。本実施形態においては、層間空洞部103は、高さhが20μmに形成されている。また、層間空洞部103は、境界面102の全体に実質的に均等に万遍なく形成されている。
【0020】
この層間空洞部103の形成割合は、境界面102の断面を撮像したデジタル画像を用いた公知の画像処理技術によって近似的に算出することができる。具体的には、作業者は、多孔質セラミック体100を盤面に対して垂直に切断して断面を露出させた後、この断面の状態を走査型電子顕微鏡などの拡大撮像装置を用いて所定の倍率(例えば、100倍)で撮像したデジタル画像データ(以下、単に「画像データ」という)を取得する。この場合、作業者は、図3に示すように、層間空洞部103の形成割合の算出対象となる境界面102の断面を含んだ状態で撮像する。
【0021】
次に、作業者は、画像データの加工を行うことができるパソコンなどのコンピュータ装置を用いて取得した画像データにおける1つの境界面102およびその周囲のセラミック層101を含んだ画像データをトリミングする。
【0022】
次に、作業者は、画像データをグレー処理することができる画像処理ソフト(公知のコンピュータプログラム)を用いて前記トリミングした画像データをグレー処理する。ここで、グレー処理は、境界面102の断面およびその周辺の撮像画像を0(白色)~255(黒色)のグレースケールにおけるグレー値に変換する処理である。この処理によって、画像データは、図4に示すように、セラミック層101の部分が白色に近い薄いグレー値で表わされているとともに、セラミック層101内の層内空洞部101aおよび層間空洞部103が黒色に近い濃いグレー値で表わされる。この場合、層間空洞部103は、セラミック層101内の層内空洞部101aより大きく形成されることが多いためセラミック層101内の層内空洞部101aより黒色に近い濃いグレー値で表わされる。
【0023】
次に、作業者は、前記画像処理ソフトを用いてグレー処理した画像データから層間空洞部103を表す部分を抽出する。具体的には、作業者は、グレー処理した画像データから所定の濃さのグレー値以上の部分を抽出する。これにより、作業者は、グレー処理した画像データから多孔質セラミック体100の盤面方向に延びる層間空洞部103を表す部分を抽出することができる。
【0024】
次に、作業者は、前記画像処理ソフトを用いて層間空洞部103の厚さを測定する。具体的には、図5に示すように、前記抽出した層間空洞部103を表す部分の画像データにおける多孔質セラミック体100の盤面方向に直交する方向の長さ(つまり、空洞部分の高さh(厚さ))を測定する。この場合、コンピュータ装置は、多孔質セラミック体100の盤面方向(境界面102の形成方向)に所定のピッチP(例えば、100μm)ごとに層間空洞部103を表す部分の厚さを測定する。
【0025】
次に、作業者は、層間空洞部103における空洞部分の高さhの形成割合を特定する。具体的には、作業者は、多孔質セラミック体100の一方の端部から他方の端部までの間(すなわち、両端部間)の全長に亘って前記所定のピッチPで測定した厚さの各測定値について20μm以上かつ50μm以下の範囲内にある測定値の数と同範囲外となっている測定値の数とをカウントする。これにより、作業者は、層間空洞部103における空洞部分の高さhが20μm未満または50μmを超える高さの空洞の形成割合と空洞部分の高さhが20μm以上かつ50μm以下の空洞の形成割合とをそれぞれ算出することができる。
【0026】
次に、作業者は、層間空洞部103の合否を評価する。具体的には、作業者は、20μm以上かつ50μm以下の範囲内にある測定値の数が範囲外となっている測定値の数よりも多い場合に層間空洞部103の空洞部分の高さhが20μm以上かつ50μm以下の空洞の形成割合が空洞部分の高さhが20μm未満または50μmを超える高さの空洞の形成割合よりも高いと評価する。なお、この層間空洞部103の合否の評価は、コンピュータ装置を用いて自動的に評価させるようにしてもよいことは当然である。
【0027】
この層間空洞部103の合否の評価は、1つの境界面102について1つの断面で層間空洞部103の合否を評価してもよいし、1つの境界面102に対して互いに異なる複数の位置の断面ごとに層間空洞部103の合否を評価してこれらの評価に基づいて1つの境界面102における層間空洞部103の合否結果を総合的に評価してもよい。
【0028】
また、層間空洞部103の合否の評価は、多孔質セラミック体100の内部に形成された1つの境界面102に対する層間空洞部103の合否の評価のみで行ってもよいし、2つ以上の境界面102ごとに層間空洞部103の合否の評価を行ってこれらの評価に基づいて1つの多孔質セラミック体100における層間空洞部103の合否結果を総合的に評価してもよい。
【0029】
なお、層間空洞部103における空洞部分の高さhの形成割合の特定は、境界面102の画像データを用いて作業者自身が定規などを用いて人手で算出してもよいことは当然である。また、層間空洞部103における空洞部分の高さhの形成割合の特定は、境界面102を所定の長さ(例えば、1000μm)ごとに区切って、この区間ごとに形成割合の特定を行うこともできる。この場合、1つの境界面102における層間空洞部103の合否の評価は、各区間ごとの層間空洞部103の合否の評価に基づいて総合的に評価することができる。
【0030】
また、1つの境界面102における層間空洞部103の合否の評価は、境界面102の断面の全長に亘って行うほかに、境界面102の断面の一部部分に対してのみ行うこともできる。例えば、作業者は、1つの境界面102の断面の幅方向の中央部を含む境界面102の全長のうちの少なくとも1/3以上の長さの範囲で行うこともできる。
【0031】
(多孔質セラミック体100の製造)
次に、このように構成された多孔質セラミック体100の製造方法について図6を参照しながら説明する。まず、作業者は、第1工程として、セラミックペーパ200を製作する。セラミックペーパ200は、多孔質セラミック体100におけるセラミック層101を形成する材料であり、抄造工程によって製作される。
【0032】
抄造工程は、液中に分散された繊維を濾し取って長尺シート状の抄紙体(図示せず)を形成する工程であり、従来から公知の手法である。具体的には、抄造工程は、水の中にセラミックペーパ200の原料、すなわち、有機繊維および無機粉末をそれぞれ投入して撹拌したスラリー状の原料液からこれらの原料を長尺のシート状に濾し取った後に乾燥させて長尺シート状の長尺抄紙体を得る作業である。この場合、長尺抄紙体は、含水率が10%以下まで乾燥される。また、長尺抄紙体は、本実施形態においては、0.3mmの厚さに形成される。
【0033】
ここで、有機繊維としては、木材パルプ、合成パルプ、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維およびセルロース繊維などを一種または複数種で構成することができる。
【0034】
また、無機粉末としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリカ、ムライト、コージェライト、炭化ケイ素または窒化ケイ素などを一種または複数種で構成することができる。なお、有機繊維と無機粉末とは、製作する多孔質セラミック体100の仕様に応じた配合比が適宜設定される。この場合、有機繊維は、無機粉末の3重量%以上かつ30重量%以下の配合比で配合される。
【0035】
次に、作業者は、長尺抄紙体を裁断機(図示せず)を用いて適当な大きさに裁断した単票状のセラミックペーパ200を得る。この場合、作業者は、最終的に製作する多孔質セラミック体100の平面視での形状および大きさにそれぞれ対応する形状および大きさに長尺抄紙体を裁断する。また、作業者は、多孔質セラミック体100の内部に形成するセラミック層101の数に応じた枚数のセラミックペーパ200を用意する。これらの抄造工程および裁断工程が、本発明に係るペーパ抄造工程に相当する。なお、ペーパ抄造工程は、抄造工程において直接、単票状のセラミックペーパ200を製作する場合には裁断工程は不要である。
【0036】
次に、作業者は、第2工程として、単票状のセラミックペーパ200の平坦化工程を行う。具体的には、作業者は、図7に示すように、平坦面を有する金属製の一対のブロック体で構成された金型K1,K2を備えるプレス装置(図示せず)にセラミックペーパ200をセットして加圧することでセラミックペーパ200の表裏面をそれぞれ平坦化する。この場合、作業者は、セラミックペーパ200を常温下でプレスしてもよいが、金型K1,K2を100℃以上かつ200℃以下の温度に加熱した状態でセラミックペーパ200をプレスすることでより精度良く平坦化することができる。
【0037】
また、平坦化処理を施したセラミックペーパ200の平坦度(平面度)は、0.1mm以下にするとよい。また、平坦化処理を施したセラミックペーパ200の表面粗さは、Ra値で1.6μm以下が好ましい。また、セラミックペーパ200の平坦化処理は、複数枚のセラミックペーパ200を重ねて行うこともできるが、1枚ごとに圧力を加えて行うことが好ましい。
【0038】
次に、作業者は、第3工程として、セラミックペーパ200の積層体を成形する。具体的には、作業者は、図8に示すように、平坦面を有する金属製の一対のブロック体で構成された金型K3,K4を備えるプレス装置(図示せず)に複数枚のセラミックペーパ200を積層した状態でセットして加圧することでこれらのセラミックペーパ200を一体化する。この場合、作業者は、互いに隣接し合うセラミックペーパ200間に接着剤(例えば、熱硬化性樹脂)を塗布して積層する。そして、作業者は、積層されたセラミックペーパ200を盤面に対して垂直方向から所定の圧力で圧力を加えてプレスする。この場合、作業者は、前記接着剤が硬化する温度に金型K3,K4を加熱した状態で積層されたセラミックペーパ200をプレスする。
【0039】
ここで、積層されたセラミックペーパ200をプレスする圧力は、最終的に成形される多孔質セラミック体100におけるセラミック層101の厚さが100μm以上かつ1000μm以下に形成されるとともに層間空洞部103の空洞部分の高さhが20μm以上かつ50μm以下となる圧力であり、予め実験的に求めることができる。本実施形態においては、作業者は、10枚のセラミックペーパ200を積層するとともに、この積層されたセラミックペーパ200を7MPaの圧力および180℃の温度で3分間プレスする。これにより、作業者は、積層された10枚のセラミックペーパ200が比較的弱い接合力で一体化したセラミックペーパ積層体を得ることができる。この積層したセラミックペーパ200を加圧してセラミックペーパ積層体を得る工程が、本発明に係る積層体成形工程に相当する。
【0040】
次に、作業者は、第4工程として、セラミックペーパ積層体の脱脂工程を行う。ここで、脱脂工程とは、セラミックペーパ積層体に含まれる有機物を炭酸ガス化して除去するための工程である。具体的には、作業者は、セラミックペーパ積層体を脱脂用の電気炉(図示せず)の中に配置して加熱する。この場合、炉内の温度や時間はセラミックペーパ積層体に含まれる有機物を炭酸ガス化可能な温度および時間であり、予め実験的に求めることができる。本実施形態においては、作業者は、セラミックペーパ積層体を550℃で15分間加熱する。これにより、作業者は、脱脂されたセラミックペーパ積層体を得ることができる。
【0041】
次に、作業者は、第5工程として、セラミックペーパ積層体の焼成工程を行う。ここで、焼成工程は、積層されたセラミックペーパ200を強固に一体化するための工程である。具体的には、作業者は、セラミックペーパ積層体を焼成用の電気炉(図示せず)の中に配置して加熱する。この場合、炉内の温度や時間はセラミックペーパ積層体を構成する各セラミックペーパ200を焼結できる温度および時間であり、予め実験的に求めることができる。本実施形態においては、作業者は、セラミックペーパ積層体を1550℃で3時間~5時間程度加熱した後徐冷する。
【0042】
これにより、作業者は、各セラミックペーパ200が強固に一体化した多孔質セラミック体100を得ることができる。この場合、多孔質セラミック体100は、セラミックペーパ200内に存在する有機繊維が消失して層内空洞部101aが形成されるとともに、互いに隣接するセラミックペーパ200間に層間空洞部103が形成される。
【0043】
(多孔質セラミック体100の作動)
上記のように製造された多孔質セラミック体100は、電子部品を構成するセラミック材料、陶磁器またはガラスなどの焼成時に炉内における支持台として用いられる。
【0044】
この場合、多孔質セラミック体100は、層間空洞部103によって靭性が従来よりも改善しているため、取り扱い時に衝撃を受けた際における割れまたは欠損を抑制することができる。
【0045】
ここで、本発明者らによる実験結果について説明しておく。図9は、従来の多孔質セラミック体に対する3点曲げ試験の結果を示したグラフである。また、図10および図11は、本件発明に係る多孔質セラミック体100に対する3点曲げ試験の結果を示したグラフである。これらの図9ないし図11において、縦軸は曲げ荷重(N)であり、横軸は撓み変形量(mm)である。
【0046】
ここで、従来の多孔質セラミック体は、層間空洞部103に相当する層間空洞部の高さが20μm以下(具体的には、10μm)に形成されているとともに、セラミック層101に相当するセラミック層の厚さが20μmに形成されている。また、多孔質セラミック体100は、層間空洞部103の高さhが20μmに形成されているとともに、セラミック層101の厚さが300μmに形成されている。なお、従来の多孔質セラミック体および多孔質セラミック体100における各層間空洞部103の高さhおよび各セラミック層の厚さの各値については、厳密な測定が不可能であるため凡その値であり、±15%程度の範囲を持つものである。また、被検体は、焼成工程の前の大きさで、長辺の長さ60mmで、短辺の長さが30mmの平面視で長方形状に形成されている。
【0047】
また、3点曲げ試験とは、一定の間隔を介して配置された2つの支点上に置いた被検体の中央の一点に荷重を加えて、被検体が折れたときの最大曲げ応力を測定するものである。この3点曲げ試験は、JIS規格における「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法(R1601:2008)」に従って行ったものである。
【0048】
具体的には、本願における3点曲げ試験は、図12に示すように、台座300、支持ピン302および押圧ピン303を用いて行う。台座300は、支持ピン302を介して被検体としての従来の多孔質セラミック体および多孔質セラミック体100をそれぞれ支持するための部品であり、鋼材などの金属材料をU字状のブロック体に形成して構成されている。この台座300の各部の寸法は、図12に記載されている通りであるが、図12に記載されていない奥行き方向の長さは30mmである。
【0049】
台座300は、水平に形成された上面に断面形状がV字状の2つの溝301が30mmの間隔を介してそれぞれ形成されており、各溝301内に支持ピン302が支持されている。支持ピン302は、被検体を支持するため部品であり、鋼材などの金属材料を直径が4mm、長さが30mmの円柱状に形成して構成されている。押圧ピン303は、前記した2つの支持ピン302上に架設された被検体の長手方向中央部に配置されて被検体に荷重を加えるための部品であり、鋼材などの金属材料を直径が4mm、長さが30mmの円柱状に形成して構成されている。
【0050】
試験者は、2つの支持ピン302上に架設した状態で被検体を水平に配置した状態で、図示しない加重装置を操作して押圧ピン303を介して被検体に荷重を加える。この場合、作業者は、被検体に対して最大20kNの荷重を0.5mm/分の速度で加える。そして、試験者は、下記数1に示す式を用いて被検体の曲げ強度を算出する。
(数1)
曲げ強度=(3×P×L)/(2×w×t
ここで、Pは被検体が破壊したときの最大荷重(N)であり、Lは支点間距離(mm)であり、wは被検体の幅(mm)であり、tは被検体の厚さ(mm)である。
【0051】
この実験結果によれば、従来の多孔質セラミック体においては、図9に示すように、多孔質セラミック体に50N程度の荷重を加えたところで殆ど伸びずに一気に破断していることが確認できる。一方、本件発明に係る多孔質セラミック体100においては、図10に示すように、多孔質セラミック体100に約40N程度の荷重を加えたところで伸びが生じた後に一気に破断していることが確認できる。すなわち、本件発明に係る多孔質セラミック体100は、従来の多孔質セラミック板に対して最大荷重は低下するものの靭性が向上していることが分かる。
【0052】
このように多孔質セラミック体100の靭性が向上する傾向は、層間空洞部103の高さhが30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μmおよび100μmでも同様に確認された。しかし、図11に示すように、層間空洞部103の高さhを厚く(50μm)すると、同時に最大荷重も低下する傾向にあるため、層間空洞部103の高さhは20μm以上かつ50μm以下が好適であり、より好ましくは20μ以上かつ30μm以下がよい。
【0053】
一方、多孔質セラミック体100におけるセラミック層101の厚さは、100μm以下ではセラミック層101の成形が困難である。また、セラミック層101は、厚さが100μm以下および1000μm以上では上記靭性の向上の効果が低下する傾向にある。したがって、多孔質セラミック体100におけるセラミック層101の厚さは、100μm以上かつ1000μm以下が好適であり、より好ましくは100μ以上かつ500μm以下がよい。
【0054】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、多孔質セラミック体100は、各セラミック層101の厚さが250μmに形成されているとともに、互いに隣接するセラミック層101の層間の境界面102には20μmの層間空洞部103が無数に形成されているため、本発明者らの実験結果によれば靭性を改善することができる。
【0055】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、多孔質セラミック体100は、セラミック層101を10層で構成した。しかし、多孔質セラミック体100は、セラミック層101を少なくとも2層で構成することができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、多孔質セラミック体100は、同じ厚さのセラミック層101を積層して構成した。しかし、多孔質セラミック体100は、互いに異なる厚さのセラミック層101を積層して構成することもできる。この場合、多孔質セラミック体100は、互いに厚さの異なるセラミックペーパ200を積層することで互いに異なる厚さのセラミック層101で構成することができる。
【0058】
また、上記実施形態においては、多孔質セラミック体100は、同じ形状のセラミック層101を積層して構成した。しかし、多孔質セラミック体100は、互いに異なる形状のセラミック層101を積層して構成することもできる。この場合、多孔質セラミック体100は、互いに異なる形状のセラミックペーパ200を積層することで互いに異なる形状のセラミック層101で構成することができる。したがって、本願発明に係る多孔質セラミック体100は、板状だけでなく複雑な三次元形状に形成された支持台のほか、セラミック製の電池・電子機器用部品、フィルタまたは陶磁器として構成することもできる。
【0059】
また、上記実施形態においては、多孔質セラミック体100の製造過程における第1工程のペーパ抄造工程で、水の中にセラミックペーパ200の原料、具体的には、有機繊維および無機粉末をそれぞれ投入したスラリー状の原料液を用いた。しかし、このペーパ抄造工程においては、有機繊維に代えてまたは加えて無機繊維を用いることもできる。この場合、無機繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維および金属繊維などを一種または複数種で構成することができる。
【0060】
また、このペーパ抄造工程においては、原料液中にバインダを含有させることもできる。この場合、バインダとしては、合成ラテックス、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマを用いることができる。ここで、熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂またはフッ素系樹脂などがある。また、熱可塑性エラストマとしては、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系またはアクリル系がある。このバインダは、原料液中に5重量%以上かつ15重量%以下の割合で混ぜるとよい。
【0061】
この場合、多孔質セラミック体100の製造方法は、第2工程における平滑化工程において、バインダが軟化する温度以上の温度でプレスして冷却することができる。これによれば、多孔質セラミック体100の製造方法は、平坦化したセラミックペーパ200の形状を長期間に亘って維持することができ、セラミックペーパ200の保管または輸送を行い易くなる。また、多孔質セラミック体100の製造方法は、原料液にバインダを含むことでセラミックペーパ200自体の一体性を高めることができるため、切断工程を行い易くすることもできる。
【0062】
また、多孔質セラミック体100の製造方法は、第3工程における積層体成形工程において、バインダが軟化する温度以上の温度でプレスして冷却する。これによれば、多孔質セラミック体100の製造方法は、積層されたセラミックペーパ200の密着度を高めて各層の剥離または変形を抑えた一体物を成形でき、後工程または完成品としての取り扱いを容易にすることができる。また、多孔質セラミック体100の製造方法は、セラミックペーパ200の積層作業時における接着剤の塗布作業も省略することができる。
【0063】
また、上記実施形態においては、多孔質セラミック体100の製造過程における第2工程でセラミックペーパ200の平坦化工程を行った。しかし、セラミックペーパ200の平坦化工程は、第1工程におけるペーパ抄造工程後のセラミックペーパ200が十分に平坦に形成されていれば省略することができる。例えば、層間空洞部103の高さhを高く形成したい場合、または第4工程における積層体成形工程で大きな圧力でプレスを行う場合になどにはセラミックペーパ200の平坦化工程を省略することができる。
【符号の説明】
【0064】
P…層間空洞部の厚さを測定する間隔、K1~K4…金型、h…層間空洞部の高さ、
100…多孔質セラミック体、101…セラミック層、101a…層内空洞部、102…境界面、103…層間空洞部、
200…セラミックペーパ、
300…台座、301…溝、302…支持ピン、303…押圧ピン。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12