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特開2023-144491クリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144491
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】クリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20231003BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C09D133/00
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051486
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591216473
【氏名又は名称】一般財団法人首都高速道路技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】513220562
【氏名又は名称】首都高技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 武倫
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】真田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】雲林院 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 豊
(72)【発明者】
【氏名】木村 真二
(72)【発明者】
【氏名】田村 友喜
(72)【発明者】
【氏名】張 広鋒
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕真
(72)【発明者】
【氏名】加藤 穰
【テーマコード(参考)】
2E176
4J038
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB03
2E176BB29
4J038CG001
4J038DG262
4J038JC39
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA14
4J038NA11
4J038NA26
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性、耐ダレ性および乾燥性に優れており、優れた耐荷性を有する塗膜が得られるクリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法を提供する。
【解決手段】非反応性アクリル樹脂と反応性成分と錫触媒と有機溶剤とを含み、反応性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体の少なくとも一方を含み、有機溶剤は、20℃における酢酸n-ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が180以上の第1有機溶剤を含み、反応性成分の不揮発分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して55質量部以上96質量部以下であり、非反応性アクリル樹脂の不揮発分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して4質量部以上45質量部以下であり、第1有機溶剤の含有量は、クリヤー塗料組成物100質量部に対して20質量部以上50質量部以下である、エアゾール製品用のクリヤー塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール製品に用いられるクリヤー塗料組成物であって、
非反応性アクリル樹脂と、
反応性成分と、
錫触媒と、
有機溶剤と、を含み、
前記反応性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体の少なくとも一方を含み、
前記有機溶剤は、20℃における酢酸n-ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が180以上の第1有機溶剤を含み、
前記反応性成分の不揮発分の含有量は、前記クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、55質量部以上96質量部以下であり、
前記非反応性アクリル樹脂の不揮発分の含有量は、前記クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、4質量部以上45質量部以下であり、
前記第1有機溶剤の含有量は、前記クリヤー塗料組成物100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下である、クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
前記錫触媒の含有量は、前記非反応性アクリル樹脂の不揮発分と前記反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下である、請求項1に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクリヤー塗料組成物をコンクリート構造物に噴射する、コンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の劣化の原因の一つは、コンクリートを補強するために使用されている鉄筋の腐食である。腐食によって鉄筋の体積は肥大化する。そのため、コンクリート構造物の表面の塗装が剥がれたり、コンクリート構造物にひび割れが生じたりする。
【0003】
特許文献1は、芳香族アミン樹脂とイソシアネート樹脂とを含む樹脂組成物を教示している。特許文献1によれば、この樹脂組成物をコンクリート構造物の表層に塗布することにより、コンクリート片の剥落が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-144401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋梁や、高速道路の側壁、トンネルなどの巨大なコンクリート構造物を補修するために、塗料が用いられる。このような塗料には、コンクリート構造物に生じたクラックおよび/または露出した鉄筋を覆い、雨水などが内部に浸透しない程度の厚みの塗膜が形成できること、耐ダレ性に優れること、および、優れた乾燥性を有することが求められる。加えて、形成された塗膜には、外部からの振動や衝撃、経年劣化によるコンクリートの剥落が抑制できる性能(高い耐荷性)も必要である。
【0006】
湿気硬化反応形のイソシアネート樹脂含有の一液形塗料は、主剤と硬化剤を混合する必要がないため、作業性に優れる。一方、上記の一液形塗料は空気中の水分との間で硬化反応が進行し易く、二液硬化反応形ウレタン塗料と比較して、貯蔵安定性に劣る。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、塗装作業性の高い一液形の塗料であって、貯蔵安定性、耐ダレ性および乾燥性に優れており、かつ、優れた耐荷性を有する塗膜が得られるクリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
エアゾール製品に用いられるクリヤー塗料組成物であって、
非反応性アクリル樹脂と、
反応性成分と、
錫触媒と、
有機溶剤と、を含み、
前記反応性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体の少なくとも一方を含み、
前記有機溶剤は、20℃における酢酸n-ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が180以上の第1有機溶剤を含み、
前記反応性成分の不揮発分の含有量は、前記クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、55質量部以上96質量部以下であり、
前記非反応性アクリル樹脂の不揮発分の含有量は、前記クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、4質量部以上45質量部以下であり、
前記第1有機溶剤の含有量は、前記クリヤー塗料組成物100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下である、クリヤー塗料組成物。
[2]
前記錫触媒の含有量は、前記非反応性アクリル樹脂の不揮発分と前記反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下である、上記[1]に記載のクリヤー塗料組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載のクリヤー塗料組成物をコンクリート構造物に噴射する、コンクリート構造物の補修方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、貯蔵安定性、耐ダレ性および乾燥性に優れており、かつ、優れた耐荷性を有する塗膜が得られるクリヤー塗料組成物およびコンクリート構造物の補修方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[クリヤー塗料組成物]
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、一液形であって、エアゾール製品用である。エアゾール製品は、液体を孔(ステム孔)から放出することのできる機構を備える。目的の液体は、例えば、容器内に目的の液体とともに封入されているガスの力によって、噴霧状に容器外に放出される。本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、この目的の液体に相当する。
【0011】
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、コンクリート構造物の表面にクリヤー塗膜を形成する。「クリヤー塗膜」は、一方の側から、当該クリヤー塗膜を介して、他方側の状態や物体を視認できる程度に透明であればよく、他方側が鮮明に認識できる程度の透明性は要しない。クリヤー塗膜は、無色であってよく、有色であってよい。例えば、クリヤー塗膜の可視光透過率は80%以上であり、90%以上であってよい。可視光透過率(可視領域における全光線透過率)は、JIS K 7361-1に準拠する方法により測定することができる。
【0012】
エアゾール製品によれば、広範囲に容易に塗料を塗装でき、さらに、塗装する際に他の道具を必要としないため、塗装作業性が向上する。一方、ステム孔の目詰まりが生じ易い。この目詰まりは、例えば、貯蔵中に容器内で硬化反応が進行して、塗料の粘度が増大することにより生じる。
【0013】
本実施形態では、イソシアネート化合物との反応性が低いか、あるいはイソシアネート化合物とほとんど反応しない、非反応性のアクリル樹脂を用いる。非反応性アクリル樹脂を配合することにより、塗料組成物の貯蔵中の粘度の上昇が抑制される。よって、ステム孔の目詰まりが抑制される。このように、粘度に代表される塗料の性状が貯蔵の前後で変化し難い性質を、貯蔵安定性と言う。
【0014】
さらに、蒸発速度の大きい有機溶剤が適量使用されるため、塗料組成物が容器外に放出されると、当該有機溶剤はすぐに揮発し始める。よって、非反応性アクリル樹脂は、被塗物に塗着した後、速やかに膜化することができる。つまり、非反応性アクリル樹脂は、ラッカー塗料のように振る舞う。そのため、本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は乾燥性に優れ、ダレ難い。クリヤー塗料組成物を塗装したとき、ダレが生じ難い性質を耐ダレ性に優れると言う。コンクリート構造物は形状が様々であって、傾斜さらには鉛直した面を有する場合も多いため、耐ダレ性に優れる塗料クリヤー塗料組成物は、塗装作業性をさらに向上させる。
【0015】
耐ダレ性は、例えば、垂れ試験機(サグテスター)あるいは鋼道路橋防食便覧(平成26年3月 公益社団法人日本道路協会)に記載のウェット膜厚計を用いて評価できる。具体的には、塗装されたガラス板をただちに垂直に立てかけて、塗膜の垂れが発生しない限界のウェット膜厚を測定する。限界膜厚が大きいほど、耐ダレ性に優れると評価できる。
【0016】
非反応性アクリル樹脂のみでは、耐荷性が得られ難いため、さらに反応性成分を併用する。反応性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびその誘導体の少なくとも一方を含む。HDIおよびその誘導体は、空気中あるいは被塗物に含まれる水分との反応により架橋して、靭性の高い硬化物を形成する。これにより、得られる塗膜には耐荷性が付与される。非反応性アクリル樹脂および反応性成分を併用することにより、耐ダレ性と耐荷性とが両立する。
【0017】
上記のHDIおよびその誘導体の硬化反応は、密閉された容器内では生じ難い。そのため、本実施形態に係るクリヤー塗料組成物をエアゾール製品に用いることにより、貯蔵安定性はより向上する。言い換えれば、本実施形態に係るクリヤー塗料組成物を用いたエアゾール製品は、反応性成分を含むにもかかわらず、優れた貯蔵安定性を有する。
【0018】
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物はさらに、錫触媒を含む。錫触媒は、HDIおよびその誘導体の硬化反応を促進するため、乾燥性(特に、指触乾燥性)が向上し、耐ダレ性も高まる。
【0019】
本実施形態に係るエアゾール製品用のクリヤー塗料組成物は、一液形でありながら貯蔵安定性に優れており、高温下で長期間(例えば、50℃3か月)保管した場合であっても使用可能である。さらに、このクリヤー塗料組成物は乾燥性および耐ダレ性に優れる。加えて、得られる塗膜は耐荷性に優れる。
【0020】
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物によれば、特に、コンクリート製の橋梁、高速道路の側壁、トンネルなどの補修を簡便に行うことができる。例えば、本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、点検時に発見された脆弱箇所の応急処置に用いることができる。得られる塗膜は耐荷性に優れるため、コンクリートの劣化およびコンクリート片の剥落が防止される。さらに、形成された塗膜はクリヤーであるため、塗膜を介して、コンクリート構造体そのもの状態を視認することができる。
【0021】
塗膜の耐荷性は、首都高速道路株式会社「橋梁塗装施工要領(2021年10月度版)」第V編塗料仕様編16.2試験方法に準じた押し抜き試験により評価される。具体的には以下の通りである。タテ300mm×ヨコ200mm×厚さ60mm、またはタテ300mm×ヨコ300mm×厚さ60mmのコンクリート板中心部を、Φ100mmの形状でコンクリート用コアカッターにより、底部を5mm(許容範囲±1mm)残した状態で、垂直に削孔する(「コア抜き」ともいう。)。
【0022】
上記コンクリート板の、コアカッターを当てた面とは反対の面であって、コア抜き部分に対向するように、200mm×200mmの面積に塗装を行い、乾燥して塗膜(ウェット膜厚250μm~350μm)を形成する。塗装面を下にして、サンプルの周縁部を支持できる試験台に載置する。コア抜き部分を表裏面から球座等で挟み、その中央部に、鉛直方向に均等に荷重をかけて、押し抜き試験を実施する。押し抜き試験は、載荷速度lmm/分で、コアが破壊するまで行う。コアが破壊したとき、塗膜が破断しているか否かを観察する。コアが破壊された一方で、塗膜が破断していない場合、耐荷性に優れると評価できる。
【0023】
23℃でフローカップ法により測定されるクリヤー塗料組成物の粘度ηは、例えば、25秒以上である。これにより、耐ダレ性が向上し得る。粘度ηは、調製直後のクリヤー塗料組成物のものであって、例えば噴射剤を含まないクリヤー塗料組成物のものである。粘度ηは、45秒以下であってよい。粘度ηは、30秒以上であってよい。粘度ηは、40秒以下であってよい。一態様において、粘度ηは、25秒以上45秒以下である。クリヤー塗料組成物は貯蔵安定性に優れるため、高温下で長期間保存した後であっても、クリヤー塗料組成物の粘度は、上記範囲を満たし得る。
【0024】
クリヤー塗料組成物の粘度は、JIS K5600-2-2:1999の3.フローカップ法に準拠して、23℃下、No4フォードカップで測定される。粘度は、同じ構成の異なる5つの塗料組成物の粘度の平均値である。
【0025】
(非反応性アクリル樹脂)
非反応性アクリル樹脂は、イソシアネート化合物(代表的には、HDIおよびその誘導体)との反応性が低いか、あるいはイソシアネート化合物とほとんど反応しない。言い換えれば、非反応性アクリル樹脂は、分子中に、イソシアネート基と反応する水酸基、カルボキシル基およびアミノ基を含有しないか、イソシアネート化合物と硬化反応し得ない程度に含有する。具体的には、非反応性アクリル樹脂の水酸基価は、1mgKOH/g以下であり、0mgKOH/gであってよい。非反応性アクリル樹脂の酸価は、1mgKOH/g以下であり、0mgKOH/gであってよい。
【0026】
非反応性アクリル樹脂は、例えば、水酸基、カルボキシル基およびアミノ基を有しない(メタ)アクリル酸エステル系のモノマー(原料モノマー)を重合することにより得られる。原料モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、ジメタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記の原料モノマーは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
上記の原料モノマーとともに、重合性の他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼンが挙げられる。
【0028】
非反応性アクリル樹脂の不揮発分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、4質量部以上45質量部以下である。これにより、乾燥性および耐ダレ性が向上する。非反応性アクリル樹脂の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、10質量部以上であってよく、12質量部以上であってよい。非反応性アクリル樹脂の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、40質量部以下であってよく、35質量部以下であってよい。
【0029】
非反応性アクリル樹脂の数平均分子量は特に限定されない。非反応性アクリル樹脂の数平均分子量は、例えば、3,000以上であってよく、5,000以上であってよい。非反応性アクリル樹脂の数平均分子量は、50,000以下であってよく、30,000以下であってよい。一態様において、非反応性アクリル樹脂の数平均分子量は、3,000以上50,000以下である。
【0030】
数平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。
【0031】
(その他の非反応性樹脂)
クリヤー塗料組成物は、さらに、アクリル樹脂以外の非反応性樹脂を含み得る。非反応性樹脂の水酸基価は、1mgKOH/g以下であり、0mgKOH/gであってよい。非反応性樹脂の酸価は、1mgKOH/g以下であり、0mgKOH/gであってよい。
【0032】
アクリル樹脂以外の非反応性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。耐候性の観点から、その他の非反応性樹脂の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、例えば、60質量部以下であってよい。
【0033】
(反応性樹脂)
クリヤー塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに反応性樹脂を含み得る。反応性樹脂は、イソシアネート化合物と反応し得る。反応性樹脂は、イソシアネート基と反応する活性水素を備える。反応性樹脂の水酸基価は、例えば、1mgKOH/g超である。反応性樹脂の酸価は、例えば、1mgKOH/g超である。反応性樹脂としては上記の非反応性アクリル樹脂およびその他の非反応性樹脂以外の樹脂が挙げられる。反応性樹脂としては、例えば、水酸基価が1mgKOH/g超のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂が挙げられる。
【0034】
反応性樹脂の不揮発分の含有量は、例えば、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、1質量部以下であり、0.5質量部以下であり、0.1質量部以下である。
【0035】
(反応性成分)
反応性成分は、湿気硬化反応形の化合物であって、空気中あるいは被塗物に含まれる水分と反応して架橋する。これにより、靭性の高い硬化物が形成され、塗膜に強靭性が付与される。
【0036】
反応性成分(典型的には、HDIおよび/またはその誘導体)の不揮発分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、55質量部以上96質量部以下である。このように、反応性成分を多く配合することにより、塗膜の耐荷性が向上する。反応性成分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、60質量部以上であってよく、65質量部以上であってよい。反応性成分の含有量は、クリヤー塗料組成物の不揮発分100質量部に対して、92質量部以下であってよく、85質量部以下であってよい。
【0037】
<HDIおよび/またはその誘導体>
反応性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびその誘導体の少なくとも一方を含む。HDIの誘導体としては、例えば、HDIの多量体(ビウレット体、ヌレート体、アダクト体および4量体以上のプレポリマー)、HDIと他のイソシアネートとの共重合体、あるいは、これらのアルコール変性体が挙げられる。
【0038】
反応性成分は、HDIの多量体を含んでいてよい。反応性成分は、イソシアネート基の一部がアルコールで変性された、HDI多量体を含んでいてよい。反応性成分は、イソシアネート基の一部がアルコールで変性された、HDIと他のイソシアネートとの共重合体を含んでいてよい。アルコール変性によって、得られる塗膜にはさらに柔軟性が付与される。そのため、耐荷性がさらに向上し得る。
【0039】
共重合され得る他のイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0040】
アルコール変性に用いられるアルコールは特に限定されない。上記アルコールとしては、例えば、炭素数4~16の炭化水素基と、1以上のヒドロキシ基を有するものが挙げられる。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってよく、脂環式炭化水素基であってよく、芳香族炭化水素基を有していてよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖であってよく、分岐していてよい。柔軟性の観点から、炭化水素基は、直鎖または分岐した脂肪族炭化水素基であってよい。同様に、炭化水素基の炭素数は、6以上であってよく、8以上であってよい。炭化水素基の炭素数は、12以下であってよく、10以下であってよい。
【0041】
強靭性の観点から、HDIおよび/またはその誘導体の質量割合は、反応性成分の全質量の80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0042】
<その他のイソシアネート化合物>
クリヤー塗料組成物は、反応性成分として、HDI以外のイソシアネートおよびその誘導体(以下、その他のイソシアネート化合物と称する。)を含み得る。HDIおよび/またはその誘導体の一部を、その他のイソシアネート化合物に置き換えてもよい。
【0043】
その他のイソシアネート化合物としては、上記の共重合され得る他のイソシアネートおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0044】
<その他の反応性成分>
クリヤー塗料組成物は、イソシアネート化合物以外の反応性成分を含み得る。その他の反応性成分としては、例えば、シリコーン樹脂、オキサゾリジンが挙げられる。
【0045】
耐荷性の観点から、その他の反応性成分の含有量は少ない方が望ましい。その他の反応性成分の含有量は、反応性成分の全質量の10質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。
【0046】
(錫触媒)
錫触媒は、HDI等のイソシアネート化合物の硬化反応を促進する。錫触媒によって、乾燥性およびダレ性が向上する。
【0047】
錫触媒は、錫を含む有機系の触媒である。有機錫触媒としては、例えば、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫ジベンゾエートが挙げられる。有機錫触媒は、ジブチル錫ジラウレートであってよい。
【0048】
錫触媒の含有量は、非反応性アクリル樹脂の不揮発分と反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上1質量部以下である。錫触媒の含有量が0.1質量部以上であると、乾燥性が向上し、さらにダレが抑制され易い。錫触媒の含有量が1質量部以下であると、貯蔵安定性が低下し難い。
【0049】
錫触媒の含有量は、非反応性アクリル樹脂の不揮発分と反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、0.12質量部以上であってよく、0.15質量部以上であってよい。錫触媒の含有量は、非反応性アクリル樹脂の不揮発分と反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、0.95質量部以下であってよく、0.90質量部以下であってよい。
【0050】
(その他の触媒)
クリヤー塗料組成物は、錫触媒以外のその他の硬化触媒を含み得る。その他の硬化触媒としては、例えば、ビスマス化合物が挙げられる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、カルボン酸ビスマスが挙げられる。
【0051】
硬化性の観点から、その他の硬化触媒の含有量は、非反応性アクリル樹脂の不揮発分と反応性成分の不揮発分との合計100質量部に対して、0.5質量部以下であってよい。
【0052】
(有機溶剤)
有機溶剤は、20℃における酢酸n-ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度(以下、単に相対蒸発速度と称する。)が180以上の第1有機溶剤を含む。これにより、耐ダレ性および乾燥性が向上する。
【0053】
20℃における相対蒸発速度は、書籍「塗料の流動と顔料分散」(共立出版)の記載に基づき、以下の式で求められる。
相対蒸発速度E=kpM
(式中、kは0.11、pは当該有機溶剤の20℃における蒸気圧(mmHg)、Mは当該有機溶剤の分子量である。)
【0054】
第1有機溶剤としては、相対蒸発速度が180以上であって、イソシアネート基と反応しない限り、特に限定されない。第1有機溶剤としては、例えば、n-ヘキサン(1000)、n-ヘプタン(386)、メチルシクロヘキサン(320)などの炭化水素溶剤;酢酸メチル(1182)、酢酸エチル(615)、酢酸イソプロピル(500)、などのエステル系溶剤;アセトン(1160)、メチルエチルケトン(572)などのケトン系溶剤;ベンゼン(630)、トルエン(240)などの芳香族系溶剤が挙げられる。カッコ内は、相対蒸発速度を示す。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。耐ダレ性の観点から、エステル系溶剤および芳香族系溶剤であってよい。
【0055】
第1有機溶剤の含有量は、クリヤー塗料組成物100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下である。これにより、優れた貯蔵安定性および耐荷性が得られる。第1有機溶剤の含有量は、クリヤー塗料組成物100質量部に対して、23質量部以上であってよく、25質量部以上であってよい。第1有機溶剤の含有量は、クリヤー塗料組成物100質量部に対して、48質量部以下であってよく、46質量部以下であってよい。
【0056】
クリヤー塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに相対蒸発速度が180未満の第2有機溶剤を含み得る。第2有機溶剤の含有量は、全有機溶剤の50質量%未満が望ましく、40質量%未満が望ましい。第2有機溶剤の含有量は、全有機溶剤の5質量%以上であってよい。
【0057】
第2有機溶剤は、特に限定されず、上記以外の有機溶剤を用いることができる。代表的には、酢酸n-ブチル、キシレンが挙げられる。
【0058】
貯蔵安定性の観点から、クリヤー塗料組成物は、水を実質的に含まないことが望ましい。実質的に含まないとは、含有量が検出限界以下であることをいう。例えば、水の含有量は、クリヤー塗料組成物100質量部に対して、0.1質量部以下であり、0.05質量部以下である。
【0059】
(その他)
クリヤー塗料組成物は、塗料組成物に通常添加される添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、顔料、可塑剤、抗酸化剤、光安定剤、UV吸収剤、粘性制御剤、有機共溶媒および界面活性剤が挙げられる。クリヤー塗料組成物は、その透明性を損なわない範囲で顔料を含み得る。顔料の種類は特に限定されず、エアゾール製品に通常使用されているものを用いることができる。
【0060】
[エアゾール製品]
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、エアゾール製品に好適である。
エアゾール製品は、例えば、上記のクリヤー塗料組成物および噴射剤を収容する容器と、容器と連通するステム孔が形成されたステムと、ステム孔を開閉するバルブと、ステムに嵌合するノズルを有するアクチュエータと、を備える。
【0061】
通常、ステム孔はバルブによって塞がれている。アクチュエータを押し下げると、ステムの位置が下降して、ステム孔が開放される。ステム孔の開放によって、容器内の圧力が減少して、噴射剤の体積が増大する。クリヤー塗料組成物は、噴射剤によって押し上げられて、ステム孔からステム内に侵入し、そのままノズルを通って外部に噴射される。
【0062】
エアゾール製品の吐出形態は特に限定されない。例えば、霧状噴射、ジェット状噴射、泡状噴射またはジェル状噴射であってよい。広範囲に均一に噴射できる点で、霧状噴射であってよい。
【0063】
容器、ステム、バルブおよびアクチュエータの形状や材質、大きさは、特に限定されない。本実施形態では、通常エアゾール製品に用いられるものを利用することができる。
【0064】
(噴射剤)
噴射剤の種類は特に限定されない。噴射剤としては、通常、エアゾール製品に用いられるものが挙げられる。噴射剤としては、典型的には、液化ガスおよび圧縮ガスが挙げられる。液化ガスとしては、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテルおよびフッ化炭化水素(代表的には、代替フロン)が挙げられる。LPGとしては、例えば、ブタン、プロパン、およびこれらの混合物が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、圧縮空気、酸素、ヘリウム、亜酸化窒素が挙げられる。相溶性の点で、噴射剤はジメチルエーテルであってよい。
【0065】
噴射剤の量は特に限定されない。塗装作業性の観点から、クリヤー塗料組成物と噴射剤との混合割合(質量基準):クリヤー塗料組成物/噴射剤は、60/40から30/70であってよく、55/45から65/35であってよい。
【0066】
[コンクリート構造物の補修方法]
本実施形態に係るクリヤー塗料組成物は、コンクリート構造物の補修に好適である。コンクリート構造物の補修は、上記のクリヤー塗料組成物をコンクリート構造物に噴射することにより行われる。これにより、コンクリート構造物の表面には、強靭で均一なクリヤー塗膜が速やかに形成される。
【0067】
コンクリート構造物の補修は、本実施形態に係るエアゾール製品を用いることにより、より簡便に行うことができる。
【0068】
クリヤー塗料組成物の噴射量は特に限定されない。クリヤー塗料組成物は、例えば、クリヤー塗膜の乾燥膜厚が300μm以下になるように噴射される。このような薄膜であっても、優れた耐荷性を発揮できる。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、280μm以下であってよく、250μm以下であってよい。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、150μm以上であってよい。このような膜厚であっても、ダレを生じることなく、均一な塗膜が形成される。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、180μm以上であってよく、200μm以上であってよい。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例によって説明する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0070】
(非反応性アクリル樹脂A1の製造)
撹拌機、窒素導入管、温度制御装置、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン75部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら120℃に昇温した。別途、メタクリル酸メチル50部、アクリル酸2-エチルヘキシル25部およびメタクリル酸n-ブチル25部のモノマー混合物を調製した。このモノマー混合物を、カヤエステルO(化薬アクゾ社製、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート)1部をキシレン20部に溶解した開始剤溶液とともに、3時間かけて反応容器に滴下した。
滴下終了後、120℃で0.5時間保った後、後ショットとして、さらにカヤエステルO 0.5部をキシレン6部に溶解した開始剤溶液を0.5時間かけて滴下し、さらに120℃で1時間攪拌して、アクリル樹脂A1を得た。得られたアクリル樹脂A1の不揮発分量は50%であった。
【0071】
モノマー組成から計算される、アクリル樹脂A1の不揮発分換算での水酸基価は0mgKOH/g、酸価は0mgKOH/gであった。アクリル樹脂A1の数平均分子量は、10,000であった。
【0072】
(非反応性アクリル樹脂A2の製造)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチル57部、スチレン5部、アクリル酸n-ブチル28部およびメタクリル酸2-エチルヘキシル10部を用いたこと以外は、上記と同様にして、アクリル樹脂A2を得た。
【0073】
モノマー組成から計算される、アクリル樹脂A2の不揮発分換算での水酸基価は0mgKOH/g、酸価は0mgKOH/gであった。アクリル樹脂A2の数平均分子量は、12,000であった。
【0074】
(反応性アクリル樹脂B1の製造)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチル48.72部、アクリル酸2-エチルヘキシル25部、メタクリル酸n-ブチル25部およびアクリル酸1.28部を用いたこと以外は、上記と同様にして、アクリル樹脂B1を得た。
【0075】
モノマー組成から計算される、アクリル樹脂B1の不揮発分換算での水酸基価は0mgKOH/g、酸価は10mgKOH/gであった。アクリル樹脂B1の数平均分子量は、10,000であった。
【0076】
(反応性アクリル樹脂B2の製造)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチル47.68部、アクリル酸2-エチルヘキシル25部、メタクリル酸n-ブチル25部およびヒドロキシエチルメタクリレート2.32部を用いたこと以外は、上記と同様にして、アクリル樹脂B2を得た。
【0077】
モノマー組成から計算される、アクリル樹脂B2の不揮発分換算での水酸基価は10mgKOH/g、酸価は0mgKOH/gであった。アクリル樹脂B2の数平均分子量は、10,000であった。
【0078】
(硬化剤1の製造)
撹拌器、温度計、還流管、および窒素導入管を備えた四つ口フラスコに、HDIを500質量部、2-オクタノールを20質量部、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノールを0.3質量部、および、トリデシルホスファイトを0.52質量部仕込み、80℃で2時間反応させた。次いで、反応液を45℃に冷却後、イソシアヌレート化触媒としてN-(2-ヒドロキシプロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム-2-エチルヘキサノエートを0.05質量部添加した。続いて、20分反応させた後、95℃でo-トルエンスルホンアミドを0.12質量部添加した。得られた反応液を薄膜蒸留装置に通液して真空度0.09KPa、温度150℃で蒸留し、未反応のHDIを留去させた。その後、得られた高沸側組成物(未反応のHDIを除去した後の残留分)100質量部に対してo-トルエンスルホンアミドを0.02質量部添加して、HDI誘導体である硬化剤1を、100質量部得た。
【0079】
(硬化剤2の製造)
撹拌器、温度計、還流管、および窒素導入管を備えた四つ口フラスコに、HDIを450質量部、イソホロンジイソシアネートを150質量部、2-オクタノールを25質量部、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノールを0.3質量部、および、トリデシルホスファイトを0.52質量部仕込んだこと以外は、硬化剤1と同様にして、HDIとイソホロンジイソシアネートとの共重合体である硬化剤2を、100質量部得た。
【0080】
[実施例1~12、比較例1~8]
(1)クリヤー塗料組成物の調製
アクリル樹脂、硬化剤、錫触媒および有機溶剤を、表1~4に記載の組成で配合して攪拌することにより、クリヤー塗料組成物を調製した。表1~4に記載された硬化剤およびアクリル樹脂の質量は、いずれも不揮発分のものである。
【0081】
(2)エアゾール製品の作製
容器、ステム、バルブおよびアクチュエータを備えるエアゾール製品を作製した。容器には、各実施例および比較例で調製されたクリヤー塗料組成物と、ジメチルエーテルとを、50/50の質量比で収容した。
【0082】
(3)コンクリート板への塗装
タテ300mm×ヨコ300mm×厚さ60mmのコンクリート板中心部を、Φ100mmの形状でコンクリート用コアカッターにより、底部を5mm(許容範囲±1mm)残した状態で、垂直にコア抜きした。
【0083】
作製されたエアゾール製品を用いて、上記コンクリート板のコアカッターを当てた面とは反対の面であって、コア抜き部分に対向するように、200mm×200mmの面積に塗装を行った。ウェット膜厚を300μmとした。
【0084】
続いて、塗装されたコンクリート板を、JIS K 5600-1-1(:1999)の4.3.4のa)常温乾燥に従って乾燥させた。具体的には、コンクリート板を、塗面が上向きになるように水平に保ち、温度23±2℃、相対湿度50±5%の標準状態で乾燥させた。
【0085】
[評価]
クリヤー塗料組成物および塗装されたコンクリート板について、以下の性能を評価した。評価結果を、表1~4に示す。
【0086】
(1)耐荷性
首都高速道路株式会社「橋梁塗装施工要領(2021年10月度版)」第V編塗料仕様編16.2試験方法に準じた押し抜き試験により評価した。具体的には、上記で作製したコンクリート板を、塗装面を下にして、周縁部を支持できる試験台に載置した。コア抜き部分を表裏面から球座で挟み、その中央部に、鉛直方向に均等に荷重をかけて、押し抜き試験を行った。押し抜き試験は、載荷速度lmm/分で、コアが破壊するまで行った。コアが破壊したとき、塗膜が破断しているか否かを評価した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
良:コア破壊時に、塗膜は破断していない
不良:コア破壊時に、塗膜が破断していた
【0087】
(2)乾燥性
上記の通り、JIS K 5600-1-1(:1999)の4.3.4のa)常温乾燥に従って乾燥させる際、塗膜が、JIS K 5600-1-1(:1999)4.3.5のb)半硬化乾燥になるまでの時間を計測した。
【0088】
b)半硬化乾燥とは、塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態である。半硬化乾燥になるまでの時間が、24時間以内であれば実用に適した乾燥性を有していると言える。半硬化乾燥になるまでの時間が、16時間以内であれば良好な乾燥性を有していると言える。半硬化乾燥になるまでの時間が24時間以内である場合、指触乾燥性にも優れている。指触乾燥性は、JIS K 5600-1-1(:1999)4.3.5のa)指触乾燥で規定されており、塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態を言う。
【0089】
(3)貯蔵安定性
作製されたエアゾール製品を50℃の環境下で3か月保管した。保管後のエアゾール製品の外観および塗装性を、保管前のものと比較した。塗装性としては、噴射量、飛散の程度、および発泡の程度を観察した。
良:保管の前後で、外観および塗装性に変化は見られない
可:保管後に噴射量が低下するが、保管の前後での変化は、実用上問題ない程度である
不良:保管後にエアゾール塗装できない
【0090】
(4)耐ダレ性
コンクリート板にエアゾール製品を用いて塗装し、JIS K 5600-1-6(:1999)の4.2の環境下で、ウェット膜厚計(鋼道路橋防食便覧(平成26年3月 公益社団法人日本道路協会)II-91ページに記載)を用いて、ダレが発生する限界ウェット膜厚を評価した。限界ウェット膜厚が大きいほど、耐ダレ性が高いことを示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
表1~4に示されるように、実施例1~12のクリヤー塗料組成物は、貯蔵安定性および乾燥性に優れる。さらに、得られる塗膜は耐荷性に優れ、ダレ難い。
【0096】
一方、表1に示されるように、比較例1のクリヤー塗料組成物は硬化剤(HDI誘導体)の配合量が少ないため、耐荷性に劣る。比較例2のクリヤー塗料組成物はアクリル樹脂を含まないため、乾燥性、貯蔵安定性および耐ダレ性に劣る。
【0097】
表2に示されるように、第1有機溶剤を含まず、第2有機溶剤のみを含む比較例3のクリヤー塗料組成物は貯蔵安定性に劣り、逆に第1有機溶剤を過剰に含む比較例4のクリヤー塗料組成物は耐ダレ性が低く、得られる塗膜は耐荷性に劣る。
【0098】
表3に示されるように、比較例5のクリヤー塗料組成物では、第2有機溶剤のみが用いられているため、耐ダレ性が低い。比較例6は錫触媒を含まないため、乾燥性および耐ダレ性が低い。
【0099】
表4に示されるように、比較例7および8では、反応性のアクリル樹脂を用いているため、貯蔵安定性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のクリヤー塗料組成物は、貯蔵安定性、耐ダレ性および乾燥性に優れており、かつ、優れた耐荷性を有する塗膜が得られるため、特にコンクリート構造物の補修に適している。