(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144494
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】飼育用アイソレーター
(51)【国際特許分類】
A01K 1/03 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
A01K1/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051490
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(71)【出願人】
【識別番号】313017528
【氏名又は名称】日商産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】大竹 正剛
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 聡子
(72)【発明者】
【氏名】伊神 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】寒川 彰久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】網野 信
(72)【発明者】
【氏名】成岡 義明
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆行
【テーマコード(参考)】
2B101
【Fターム(参考)】
2B101AA05
2B101AA11
2B101AA13
2B101AA20
2B101EA03
2B101FA01
2B101FA05
2B101FA06
2B101FA08
(57)【要約】
【課題】 飼育室内の気密性の確保が充分にでき、且つ内部への操作も行い易く、更には日常的な飼育管理作業も簡便に行える新規な飼育用アイソレーターの開発を技術課題とする。
【解決手段】 本発明のアイソレーターRは、気密チャンバー装置S内の基台上にケージ装置Cを設けて成り、気密チャンバー装置Sの本体シート31を立体化する際には、本体フレーム1に本体シート31を吊持状態に取り付け、且つ本体シート31の底部開口と基台2とを密着させるものであり、また本体シート31には操作グローブ6が、前面および後面の各面に少なくとも一双設けられ、このうち前面の操作グローブ6が、給餌トレー74および給水トレー75からケージ装置Cの上方域まで届く相対的に高い位置に設けられ、更に後面の操作グローブ6が、飼育室85の床面から飼育室85内の動物まで届く相対的に低い位置に設けられることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
この基台と気密状態を保って接続され、適宜の容積の立体空間を構成するチャンバー本体とにより気密チャンバー装置を構成し、この気密チャンバー装置内の基台上にケージ装置が設けられて成る飼育用アイソレーターであって、
前記基台は、下方域が気密状態に設定されるとともに、平面概形を矩形状とするものであり、
一方、前記チャンバー本体は、本体シートを主要構成部材とし、この本体シートは、内部観察可能な柔軟な樹脂シート素材で構成されるとともに、底部を開放状態とした立体形状として、チャンバー本体を立体的に構成するにあたっては、基台の上方域を囲むように配設される本体フレームに本体シートを吊持状態に取り付けるとともに、本体シートの底部開口と基台とを密着させるものであり、
更に、本体シートには、外部と気密状態を保って連通するステリルロックおよび操作グローブと、空気の導入・排出を行うエアフィルタとが接続されており、
前記ケージ装置は、着脱自在のケージパネルで適宜域を囲む飼育室をチャンバー本体と間隔をもってチャンバー本体内に構成するものであり、
前記操作グローブは、本体シートの前面および後面の各面において、少なくとも一双設けられるものであり、
且つ、前記ケージ装置は、その前面下部に給餌トレーが設けられるとともに、飼育室外から飼育室内に連通する給水トレーが設けられるものであり、前記操作グローブのうち前面に設けられる操作グローブが、これら給餌トレーおよび給水トレーからケージ装置の上方域まで届く相対的に高い位置に設けられ、更に後面に設けられる操作グローブが飼育室の床面から飼育室内の動物まで届く相対的に低い位置に設けられる構成であることを特徴とする飼育用アイソレーター。
【請求項2】
前記ケージ装置は、基台上に、ケージフレームを構成するフレーム要素を、少なくとも四面立位姿勢で、内側空間を取り囲むように設けて成り、これら立位姿勢のフレーム要素を互いに固定することにより、気密チャンバー装置内に、天部を開放状態とした飼育室を形成する構成であることを特徴とする請求項1記載の飼育用アイソレーター。
【請求項3】
前記ケージ装置の後面下部には、ケージフレームに対し着脱自在に取り付けられるパネル要素が設けられるものであり、
前記後面に設けた操作グローブを介して飼育室内に進入する際には、当該パネル要素を取り外してアクセス開口を形成し、このアクセス開口から操作グローブを飼育室内に進入させる構成であることを特徴とする請求項2記載の飼育用アイソレーター。
【請求項4】
前記基台は、周縁寄りの部位を基台枠部とするとともに、この基台枠部の内側に多孔床板を設けるものであり、更に基台の下方に、外部に対し気密状態が維持される捕集シンクを設ける構成であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【請求項5】
前記多孔床板は、その一部が基台枠部に対し、上方にヒンジ開放自在に設けられていることを特徴とする請求項4記載の飼育用アイソレーター。
【請求項6】
前記本体シートに設けられる一または複数のステリルロックは、ステリルロックを構成するためのステリルロック本体と、このステリルロック本体を本体シートの内外方向に移動できるように支持する可動フレームリングと、可動フレームリングの下方に延びるリング脚部を支持する可動自在のステリルロックサポートとを具え、
ステリルロック本体の位置を飼育室から遠ざけるように外側に張り出させた外張り出し状態と、ステリルロック本体の内側先端を飼育室に嵌め入れた嵌入状態とに設定自在としていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【請求項7】
前記本体シートに設けられる操作グローブは、本体シートとの接続部において、折り畳み状態に格納できる構成であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【請求項8】
前記ケージ装置は、飼育室を仕切る仕切パネルを具えるものであり、この仕切パネルによってアイソレーターの運用中に気密状態を保ちながら、飼育室を二室以上の仕切飼育室に分割することができる構成であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【請求項9】
前記給餌トレーは、縦断面視直角状を成す樋状のトレー部を具え、このトレー部が飼育室の内外に択一的に傾倒自在に軸支されるものであり、
且つこのトレー部は、飼育室の内側に突出するように傾倒した状態で底板と前方立ち壁とを具え、縦断面視直角状を成すものであり、
当該トレー部が飼育室の外側に突出するように傾倒した状態では、前記底板が、飼育室を閉鎖する構成であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【請求項10】
前記飼育室内で飼養する動物は、ブタであり、
前記飼育は、親ブタの子宮内から取り出した状態のブタを12カ月掛けて飼育室内で成長可能とする構成であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の飼育用アイソレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば実験用動物を飼育するアイソレーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、実験動物の飼育管理を行うアイソレーターは、無菌環境を実現できることが要求されている。このようなアイソレーターとしては、例えば適宜のフレーム部材に透明なアクリル板等を支持させて、直方体状の一定の密閉室間を飼育室としたものが知られている。また飼育室を構成するスペースを柔軟な透明樹脂製シートによって覆うとともに、下方の床面は適宜の強度を発揮する床部材で構成した、いわゆるソフトチャンバータイプ等の形態も知られている。
【0003】
ところで、このような従来のアイソレーターは、気密性の確保に重きを置きつつ、マウス等の比較的小型の動物を対象とし、且つ比較的、短期間での飼育を想定しているものが多かった。このためブタ、サル、イヌなどの比較的大型の実験動物の飼育、しかも半年を超える長期にわたって無菌状態で飼養する(成長させる)ものとしては全く適していなかった。
もちろん、大型動物を飼育できるアイソレーターも存在はしたが、アイソレーター自体の滅菌、動物への直接的な操作(検診・接種)、毎日の給餌と給水、並びに排泄物の処理等の点で改良の余地を多々残すものであった。また長期飼養期間中における動物のストレス軽減については、ほぼ考慮されていなかった。
特に、親ブタの子宮内から取り出した状態から、12カ月ほどを掛けて飼養する場合には、動物にストレスが掛からず、且つ飼育管理者の身体的負担も極めて少なく使えるアイソレーターは皆無であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-108772号公報
【特許文献2】特開2018-191593号公報
【特許文献3】特開平4-227254号公報
【特許文献4】実開昭58-152864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、飼育室内の気密性の確保が充分にでき、且つ内部への操作も行い易く、更には日常的な飼育管理作業も簡便に行える新規な飼育用アイソレーターの開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず請求項1記載の飼育用アイソレーターは、
基台と、
この基台と気密状態を保って接続され、適宜の容積の立体空間を構成するチャンバー本体とにより気密チャンバー装置を構成し、この気密チャンバー装置内の基台上にケージ装置が設けられて成る飼育用アイソレーターであって、
前記基台は、下方域が気密状態に設定されるとともに、平面概形を矩形状とするものであり、
一方、前記チャンバー本体は、本体シートを主要構成部材とし、この本体シートは、内部観察可能な柔軟な樹脂シート素材で構成されるとともに、底部を開放状態とした立体形状として、チャンバー本体を立体的に構成するにあたっては、基台の上方域を囲むように配設される本体フレームに本体シートを吊持状態に取り付けるとともに、本体シートの底部開口と基台とを密着させるものであり、
更に、本体シートには、外部と気密状態を保って連通するステリルロックおよび操作グローブと、空気の導入・排出を行うエアフィルタとが接続されており、
前記ケージ装置は、着脱自在のケージパネルで適宜域を囲む飼育室をチャンバー本体と間隔をもってチャンバー本体内に構成するものであり、
前記操作グローブは、本体シートの前面および後面の各面において、少なくとも一双設けられるものであり、
且つ、前記ケージ装置は、その前面下部に給餌トレーが設けられるとともに、飼育室外から飼育室内に連通する給水トレーが設けられるものであり、前記操作グローブのうち前面に設けられる操作グローブが、これら給餌トレーおよび給水トレーからケージ装置の上方域まで届く相対的に高い位置に設けられ、更に後面に設けられる操作グローブが飼育室の床面から飼育室内の動物まで届く相対的に低い位置に設けられる構成であることを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記ケージ装置は、基台上に、ケージフレームを構成するフレーム要素を、少なくとも四面立位姿勢で、内側空間を取り囲むように設けて成り、これら立位姿勢のフレーム要素を互いに固定することにより、気密チャンバー装置内に、天部を開放状態とした飼育室を形成する構成であることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項2記載の要件に加え、
前記ケージ装置の後面下部には、ケージフレームに対し着脱自在に取り付けられるパネル要素が設けられるものであり、
前記後面に設けた操作グローブを介して飼育室内に進入する際には、当該パネル要素を取り外してアクセス開口を形成し、このアクセス開口から操作グローブを飼育室内に進入させる構成であることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項4記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から3のいずれか1項記載の要件に加え、
前記基台は、周縁寄りの部位を基台枠部とするとともに、この基台枠部の内側に多孔床板を設けるものであり、更に基台の下方に、外部に対し気密状態が維持される捕集シンクを設ける構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項5記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項4記載の要件に加え、
前記多孔床板は、その一部が基台枠部に対し、上方にヒンジ開放自在に設けられていることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項6記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から5のいずれか1項記載の要件に加え、
前記本体シートに設けられる一または複数のステリルロックは、ステリルロックを構成するためのステリルロック本体と、このステリルロック本体を本体シートの内外方向に移動できるように支持する可動フレームリングと、可動フレームリングの下方に延びるリング脚部を支持する可動自在のステリルロックサポートとを具え、
ステリルロック本体の位置を飼育室から遠ざけるように外側に張り出させた外張り出し状態と、ステリルロック本体の内側先端を飼育室に嵌め入れた嵌入状態とに設定自在としていることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項7記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から6のいずれか1項記載の要件に加え、
前記本体シートに設けられる操作グローブは、本体シートとの接続部において、折り畳み状態に格納できる構成であることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項8記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から7のいずれか1項記載の要件に加え、
前記ケージ装置は、飼育室を仕切る仕切パネルを具えるものであり、この仕切パネルによってアイソレーターの運用中に気密状態を保ちながら、飼育室を二室以上の仕切飼育室に分割することができる構成であることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項9記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から8のいずれか1項記載の要件に加え、
前記給餌トレーは、縦断面視直角状を成す樋状のトレー部を具え、このトレー部が飼育室の内外に択一的に傾倒自在に軸支されるものであり、
且つこのトレー部は、飼育室の内側に突出するように傾倒した状態で底板と前方立ち壁とを具え、縦断面視直角状を成すものであり、
当該トレー部が飼育室の外側に突出するように傾倒した状態では、前記底板が、飼育室を閉鎖する構成であることを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項10記載の飼育用アイソレーターは、前記請求項1から9のいずれか1項記載の要件に加え、
前記飼育室内で飼養する動物は、ブタであり、
前記飼育は、親ブタの子宮内から取り出した状態のブタを12カ月掛けて飼育室内で成長可能とする構成であることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0016】
まず請求項1記載の発明によれば、基台の上方域を囲むように設けられる本体フレームに対し、本体シートを主要部材とするチャンバー本体を吊持して飼育室を形成するため、シンプルな構成の下に飼育用アイソレーターを構成することができ、ブタ、イヌ、サル、ニワトリ等を飼育するための比較的大型の動物用でも対応し易いという効果を奏する。
また本体シートの前後面に各々設けられる操作グローブは、前後面で取り付け高さ位置が異なるように構成されるため、例えば前面に設けた操作グローブによって給餌・給水作業や、前面ステリルロックからの資材の導出入の作業に加え、導入した資材をケージ装置の上方域に保管する際の移動作業が簡便に行える。また後面に設けた操作グローブによって、飼育動物に触れる作業、排泄物を除去する作業、側面ステリルロックから動物を導出入する作業等が容易に行える。このように操作グローブの設置高さを前後面で異ならせることにより、この高低差を利用して、目的の作業を分担して、より効率的に行うことができるものである。
【0017】
また請求項2記載の発明によれば、支柱を用いることなく、基台上にフレーム要素を少なくとも四面立位姿勢で設け、これらを互いに固定することによって、天部を開放状態とした飼育室を形成するため、例えばアイソレーターを組み立てる場合に、あらかじめフレーム要素を分解状態で基台上に格納(載置)しておき、チャンバー本体を装着した後に立体化形成することにより(組み立てることにより)、ケージパネルの高さが負担になることなく、基台上にチャンバー本体を装着することができ、当該作業が格段に行い易くなる。この他、気密状態を保持しながら、フレーム要素の分解・組立が可能であり、このため滅菌ガスが入り込みにくい狭小部や接地面を少なくすることができる。また、このため滅菌ガスによる除染作業も、より確実に行うことができる。
【0018】
また請求項3記載の発明によれば、少なくともケージ装置の後面下部には、着脱自在のパネル要素が設けられるため、後面側の操作グローブによって、例えば飼育室にいる動物を操作する際には、このパネル要素を取り外し、ここから操作グローブを飼育室内に進入させて飼育室内の動物を操作することができる。更に基台下方に捕集シンクを設けた場合、この捕集シンクに貯留される排泄物を回収する作業も容易に行える。
この他、ケージフレームの上部に係止用フックを設けておけば、取り外したパネル要素を引っ掛けておくことができ、取り外したパネル要素を容易に収容することができる。
【0019】
また請求項4記載の発明によれば、アイソレーター(飼育室)の底部が多孔床板で形成されるため、飼育動物の排泄物を下方の捕集シンクに落下させて回収することができる。また、捕集シンクは、外部に対し気密状態が維持される構成であるから、排泄物をアイソレーターの外部に取り出す際にも、飼育室の気密状態を維持しながら作業することができ、このような作業が行い易く且つ確実に行える。
【0020】
また請求項5記載の発明によれば、多孔床板の一部が、上方にヒンジ開放自在に構成されるため、例えば飼育動物の排泄物によって汚れた捕集シンクを清掃する際には、多孔床板の一部を上方にヒンジ開放させることによって、作業者が操作グローブを使用しながらも捕集シンクにアクセスし易くなる。また飼育動物の排泄物が多孔床板上に残っても、この除去や、多孔床板の掃除も行い易くなり、飼育動物の日常の管理作業が簡便に行える。
【0021】
また請求項6記載の発明によれば、ステリルロックは、ステリルロック本体・可動フレームリング・ステリルロックサポートが移動自在に構成されるため、例えばステリルロックを通して本アイソレーター外から動物を飼育室内に導入したり、飼育室から導出(搬出)したりする場合に、ステリルロックを飼育室内に嵌入させることができ、飼育室からステリルロックまでの空間に飼育動物が落下することや当該空間に飼育動物が自ら入り込んでしまうことを防止でき、更には操作グロ-ブを用いて、ステリルロック本体に内部シールドキャップを装着する着脱作業が容易となる。
【0022】
また請求項7記載の発明によれば、本体シートに設けられる操作グローブは、本体シートとの接続部において折り畳み状態に格納することができるため、例えば輸送時に操作グローブが邪魔になることがない。すなわち、アイソレーター内を陽圧にすると操作グローブは、この陽圧のために外側に膨出状態に突出する。通常では、この突出状態でも構わないが、例えば輸送時には、操作グローブを接続部で折り畳み状態に格納することにより、輸送時(移送時)の操作グローブの損傷を防止することができ、輸送の便を向上させることができる。
【0023】
また請求項8記載の発明によれば、気密状態を保ちながら仕切パネルを設置することによって一つの飼育室を二室以上の仕切飼育室に分割し得る。このため例えば飼育動物そのものの大きさや、飼育動物の成長度合い等に応じて、ケージ装置内全体を一つの大きな飼育室として使用したり、仕切パネルを設けて個別の仕切飼育室とし、各室内に一頭ずつ飼育動物を収容したりする等、種々の使用形態が気密状態で動物を飼育しながら採り得る。他にも、例えば飼育室(ケージ装置)内を掃除する場合には、一方の仕切飼育室に飼育動物を追いやっておき、飼育動物が不在となった仕切飼育室から掃除し、これを交互に行えば、効率的に飼育室(ケージ装置)全体の掃除が行える。
【0024】
また請求項9記載の発明によれば、給餌トレーのトレー部が縦断面視直角状を成す樋状に形成され、またこのトレー部が飼育室の内外に傾倒自在に構成され、作業者が餌(飼料)を補給している際は、ほぼ上向きに立ち上がった、トレー部の底板が、飼育室を閉鎖する蓋として作用する。従って、飼育室内にいる動物が餌を欲しがるあまり、鼻先や口先を飼育室の外方に突き出してくる事態を防止することができ、餌の補給作業が邪魔されないものである。もちろん、このようなことは、作業者の煩雑さやストレスを軽減させる効果も奏する。
また、飼育動物に餌を与えないときには、給餌トレーを、飼育室の外側に突出するように傾倒させておくことにより、給餌トレーが飼育室に突出することなく、広さ(大きさ)が定まっている飼育室内のスペースを有効に使用することができる(飼育動物の居住空間を広く確保することができる)。
【0025】
また請求項10記載の発明によれば、飼育動物はブタであり、飼育室は、親ブタの子宮内から取り出した状態のブタを、12カ月ほど掛けて飼育室内で成長可能とする構成であるから、長期にわたって、比較的大型化するブタを実際に飼育することができる。このため飼育管理者にとっても長期にわたる飼育期間中、肉体的な負担を大幅に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のアイソレーターを組立状態で示す斜視図である。
【
図2】本発明のアイソレーターを分解状態で示す斜視図である。
【
図3】本発明のアイソレーターを示す正面図(a)、並びにステリルロックを飼育室外に張り出させるようにした外張り出し状態からステリルロック内側先端を飼育室内に嵌め入れるようにした嵌入状態までを示す側面図(b)である。
【
図4】本発明のアイソレーターを示す平面図(a)、並びに基台枠部の外周縁の長さ〔L1〕が、本体シートの底部開口の周長〔L2〕よりも大きく形成されることを示す説明図(b)、並びに本体シートの底部開口を基台枠部の外周側に気密状態に設ける際、本体シートを引っ張りながら基台枠部の外周縁に密着状態に外嵌めするようにした様子を示す説明図(c)である。
【
図5】本発明のアイソレーターを示す側面図(a)、並びに本体シートの底部開口を基台の外周側に取り付ける際、本体シートを押さえ縁枠で押さえるようにした様子を示す説明図(b)、並びに操作グローブを本体シートとの接続部付近で折り畳み状態に格納できるようにした様子を示す側面断面図(c)である。
【
図6】本発明のアイソレーターをケージ装置とともに示す正面図(a)、並びに分解状態のケージ装置を立体的に組み上げる様子を段階的に示す説明図(b)である。
【
図7】本発明のアイソレーターを示す平面図(a)、並びに立体的に組み上げたフレーム要素にパネル要素を取り付ける様子を示す斜視図(b)である。
【
図8】本発明のアイソレーターをケージ装置とともに示す側面図(a)、並びに飼育室の多孔床板の一部(後方側)をヒンジ状に開放させる様子を示す側面断面図(b)である。
【
図9】給餌トレーが飼育室内に入り込んだ状態を示す側面図(a)、並びに給餌トレーが飼育室外に突出した状態を示す側面図(b)、並びに本図(b)における給餌トレーの拡大斜視図(c)である。
【
図10】背面フレーム要素に形成した比較的大サイズの開口部を、一枚のパネル要素で係脱自在に開閉できるようにした様子を示す斜視図(a)、並びに背面フレーム要素から取り外した当該パネル要素を、背面フレーム要素に係止させて収納できるようにした様子を示す斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、以下の実施例に示すとおりであるが、これらの実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例0028】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明の飼育用アイソレーターR(以下、単にアイソレーターRと記す)は、一例として
図1・
図2に示すように、大別すると、内部空間の気密維持作用を直接担う気密チャンバー装置Sと、この内部に設けられるケージ装置Cとを主要部材とする。
【0029】
またアイソレーターRは、本体フレーム1を骨格部材として具えるものであり、このものの下方に基台2を設け、基台2の上方に本体シート31を主要部材とするチャンバー本体3を設けて、内部を気密状態に構成するものである。
なお本発明では、飼育動物として例えばミニブタ等のブタを想定しており、帝王切開で親ブタの子宮内から取り出した状態(生時)から12カ月を掛けてケージ装置C内で成長させ得る(いわゆる12カ月齢)アイソレーターRを想定している。このためアイソレーターRとしては、ブタ等の大型動物を飼育する場合に適切な構成を採り、特に実験動物であるブタ自身にストレスを与えないだけの充分なスペースを確保して構成される。
因みに帝王切開で子宮から取り出した直後のミニブタは、概ね体重400g、体長15cm、体高12cmであるが、12カ月齢では概ね体重15kg、体長60cm、体高35cmまでに達する。
また、このようなことから本アイソレーターRは、12カ月齢のミニブタ2頭であっても、ブタ自身にストレスを与えないだけの充分なスペースを確保するようにしており、一例として1.44m2 (0.72×2)の容積を確保するようにしている。
ここで動物福祉の規定では、ミニブタ・家畜ブタを問わず、ブタの体重が
・~15kg 0.72m2 /頭
・~25kg 1.08m2 /頭
・~50kg 1.35m2 /頭
とされている。
従って規定上、本アイソレーターRでは、体重50kgまでのブタを飼育することができる。また本出願人による本アイソレーターRの実証試験では、ミニブタを12カ月齢で体重15kg×2頭まで飼育することに成功している。
更に、家畜ブタは、生時で概ね体重1.5kg、12カ月齢で150~200kgに達し、1.44m2 のアイソレーターRで飼育できる50kgを越えるものの、このような家畜ブタであっても本アイソレーターRによって飼育することが可能である。具体的には本アイソレーターRによって、例えば家畜ブタを3カ月齢の40kgまで飼育することができる。
【0030】
次にアイソレーターRの骨格部材である本体フレーム1について説明する。
本体フレーム1は、例えば上記
図2に示すように、その下方に平面視矩形状の立体枠構造を成す基部フレーム11を設けるものであり、基部フレーム11における脚部フレーム12の下端には、一例として四隅と左右方向の中間部(前後)の六カ所にキャスター13を設け、アイソレーターR自体の移動等を行い易くしている。
基部フレーム11は、実質的にアイソレーターRの強度部材となっており、ここにはアイソレーターRに関する予備部品などを収納し得る床部ストッカボックス92が構成され得る。
【0031】
また、基部フレーム11の上方に、気密チャンバー装置Sを吊持できる程度の強度を具えた吊枠フレーム14が支持される。この吊枠フレーム14は、前記基部フレーム11に支持させた張り出しフレーム15にコラムフレーム16を、隅部四カ所に立ち上げるように設けるとともに、その上端部を接続する天部フレーム17を具える。
なお、天部フレーム17は、本体シート31の吊り下げに供されるが、本実施例では本体フレーム1の前後に配置された二本の吊持ロッド17aを利用して本体シート31を吊り下げるものである。因みに吊持ロッド17aは、吊枠フレーム14に対して、設置高さが適宜調整して固定できるように構成されており、これは例えば気密チャンバー装置Sの内圧に対応する構成である。
また、本体フレーム1は、全体の軽量化や構成の設計変更等に対応し易いように、一定の形断面を有するアルミ製の形材を用いることが好ましい。
【0032】
次に、このような本体フレーム1の基部フレーム11に支持される基台2について説明する。
基台2は、平面概形を矩形状とした盤状のものであり、その中央部を大きく開口させた床面開口20とするとともに、その周縁寄りの部位を基台枠部21とする。
基台枠部21は、例えば
図4(b)に示すように、その外縁部21aを平面視状態で外側に向かって幾分か弧状に膨出した形状とする。また外縁部21aには、後述するチャンバー本体3の本体シート31の底部開口311(本実施例では底部開口端縁)を圧締め状に外嵌めするとともに、押さえ縁枠22によって本体シート31の底部開口311を押し付け状に固定する。
【0033】
ここで、上記押さえ縁枠22によって、基台枠部21に本体シート31の底部開口311を気密状態に固定する構造を一例として
図5(b)に示す。この場合、
図5(b)の(i)に示すように、押さえ縁枠22は、基台枠部21の全周に対し、複数片分割されて固定作用を行うものが好ましく、その平面形状は、固定作用を分担するカ所における基台枠部21の外縁部21aの形状に馴染んだ形状を採る。一方、押さえ縁枠22の縦断面形状も、外縁部21aの断面形状にほぼ合致させたものとした、コ字状に近い断面形状を採り、外縁部21aを外周側から覆うような構成が望ましい。
また押さえ縁枠22の下面部には、上方に向かって締込自在のクランプボルト23が設けられる。このクランプボルト23の上端は、平板状として押付パッド23aとする。なお、このクランプボルト23としては、通常のボルトであっても構わないが、図中に併せて示すように、ボルト下端部に工具なしで締め込みが行えるような蝶ボルト状の手回し片23bを具えることが望ましい。
【0034】
更に押さえ縁枠22の外周側の面部には、一例として
図5(b)の(ii)に示すように、外れ止めボルト24を具えるものであり、この外れ止めボルト24は、基台枠部21の下部において固定状態に設けられたメネジブロック21bにねじ込まれ、押さえ縁枠22の外れ止め作用を担う。この外れ止めボルト24についても、工具なしの手作業で締め込みができるよう、手回しレバー24aを具える。
【0035】
ここで
図5(b)中の符号t1は、フィラメントを含有する非伸縮性のシールテープであり、このものは本体シート31の底部開口311と、基台枠部21の外縁部21aとの境界部を貼着するものであり、例えば外縁部21aの外周側において、ほぼ同じ位置で三周ほど巻回される。
また、図中符号t2は、上記貼着後のシールテープt1の上に、更に貼着されるビニールテープ等の押さえテープであり、例えば少しずつ位置をずらしながら外縁部21aの外周側に四周ほど巻回される。そして、このような二重のテープ貼設によって、基台枠部21に対し本体シート31をより強固に密着させることができる。
なお、上記
図5(b)は、あくまでも基台2の周辺部に本体シート31を気密状態に固定するための一構成例であり、本発明はこのような固定手法に限定されるものではない。
【0036】
更に基台枠部21は、飼育用のアイソレーターRの一部であることに因み、床面開口20に、飼育室85の床としてメッシュ状の多孔床板25を設ける。この多孔床板25は、一例として上記
図2に示すように、基台枠部21の長手方向においてほぼ均等に二分割されるとともに、前後方向では不等幅で更に二分割される。ここで本実施例では、前後方向の不等幅は、後方側が短い寸法となるように分割されており、この後方側の多孔床板25が、前後方向の分割部位を回動軸25aとして、後方側を回動自由端とするハッチ状開放自在に構成されている。これによりアイソレーターRを使用した際の飼育動物の排泄物等の排除作業(回収作業)が行い易いものである。
【0037】
そして、このような基台枠部21の下方には、一例として
図3(a)・
図5(a)に示すように、捕集シンク26が設けられる。捕集シンク26は、前記多孔床板25を通して落下してくる飼育動物の排泄物を受けるものであって、シンク底板26aを、アイソレーターRの幅方向の中央下がりで、且つ前後方向において一例として後方下がり(つまり前方上がり)状に形成される。更にその周囲はシンク側板26bにより封鎖状態に構成されている。ここで、捕集シンク26は、外部から透視観察可能な透明樹脂製の板素材で形成されることが好ましく、これにより飼育動物の排泄物の状態等の確認が容易に行えるものである。
また本実施例では、捕集シンク26を基台枠部21の下方のほぼ全範囲において一体ではなく、幅方向中央で二分割する構成を採っており(
図3(a)参照)、実質的には、二基の同形状捕集シンク26を対称的に設けている。このような構成は、後述するケージ装置Cにおいて中央部に仕切パネル84を設けて、二室の飼育室85(仕切飼育室85a)を構成した場合に、それぞれの飼育室85ごとに捕集シンク26が構成されるようにするためである。
【0038】
そして前記各捕集シンク26の後方寄りのシンク底板26aには、一例として上記
図5(a)に示すように、ドレン管路27が設けられる。このドレン管路27は、アイソレーターRの内部を常に気密状態に保つ必要があることから、内閉鎖体と外閉鎖体とを具え、これはドレン管路27を解放する場合であっても、常に内部の気密状態が維持できるようにするためである。
【0039】
次にチャンバー本体3について説明する。
チャンバー本体3の主要構成部材は本体シート31であって、このものは内部観察可能で且つ柔軟な合成樹脂製のシート素材、例えば塩化ビニール樹脂シートによって構成され、これにより飼育室85内で飼養する飼育動物の様子を外部から明確に観察することができる。
本体シート31は、展張時において下端部である底部開口311のみを開放させ、平面概形を矩形状とした立体形状を採るものであり、下端部以外の面、すなわち前面シート31a、後面シート31b、左右一対の妻面シート31c、天面シート31dの各部材が一体的に溶着等によって接続されて成るものである。
なお本体シート31の下端部は、下部全体が開放されているわけではなく、一例として上記
図4(b)に示すように、平面視矩形状を成す底面シート31eにおいて縁部以外の内側が横長状、すなわち本実施例では基台2の外縁部21aを幾らか縮小した平面視形状にくり抜かれて開放部が形成されており、本明細書ではこの開放部を底部開口311と称している。
また例えば上記
図2に示すように、天面シート31dと前面シート31aとの境界部付近、および天面シート31dと後面シート31bとの境界部付近に、吊り下げストラップ32が設けられる。この吊り下げストラップ32は、上述したように本体フレーム1の天部フレーム17(ここでは前後二本の吊持ロッド17a)に掛け下げて、本体シート31を吊持状態に支持するものである。因みに、本実施例では、ストラップと称するものの、吊り下げストラップ32としては、掛け下げ寸法(吊持長さ)が比較的長いスリーブ状のものを平面視四カ所に配設している。
【0040】
更に前記天面シート31dには、エアフィルタ接続ジョイント33が設けられものであり、このエアフィルタ接続ジョイント33は、吸気側と排気側とに各々設けられる。
エアフィルタ接続ジョイント33は、後述するエアフィルタ4と接続させる部材として短管状のエアフィルタ接続ジョイント33の上端と、エアフィルタ4の下部ジョイントとなるエア接続管45との双方に螺合するリングナット33aを具える。
【0041】
また前面シート31aに対しては、そのほぼ中央にステリルロック5を構成するためのステリルロック接続リム34が設けられるとともに、同様のステリルロック接続リム34は、両妻面シート31cにも各々設けられ、一基のチャンバー本体3には全部で三つのステリルロック5が設けられる。
更に前面シート31aと後面シート31bとには、操作グローブ6を取り付けるための操作グローブ接続リム35を設けるものであり、操作グローブ接続リム35(操作グローブ6)は、前後面の幅方向にそれぞれ一例として二双(二組)設けられる。このため結果的に一基のチャンバー本体3には、全部で八つの操作グローブ接続リム35が設けられる。なお、前面と後面との操作グローブ接続リム35の設置位置、つまり操作グローブ6の設置位置は、一例として前面シート31a側での設置位置が高く、後面シート31b側での設置位置が低い位置になるように設定されている。
これは操作グローブ6の設置高さを前後で異ならせることにより(前側を高く、後側を低く設定することにより)、例えば前面の操作グローブ6によって給餌・給水からケージ装置Cの上方域、より好ましくは後述する上部棚91まで届くような作業を行い易くし、後面の操作グローブ6によって飼育室85の床面、より好ましくは捕集シンク26のドレン管路27から飼育室85内の動物に届く作業までを行い易くするためである。このように操作グローブ6の設置高さを前後面で異ならせることにより、目的の作業を前後の操作グローブ6によって分担できるようになり、長期にわたる日々の飼育管理作業がより効率的に行えるものである。
【0042】
以下、本体シート31に対して設けられる他の各機能部材について更に説明する。まずチャンバー本体3の内部に濾過滅菌エアを供給するためのエアフィルタ4について説明する。
エアフィルタ4は、二基接続されるものであって、一方は導入側エアフィルタ4Aであり、他方は排出側エアフィルタ4Bである。また排出側エアフィルタ4Bのエア接続管45の円筒状の開口部には、不織布で構成される集塵プレフィルタ46を具える(
図3(a)参照)。具体的には、一例として上記
図2に示すように、フィルタボックス41を本体フレーム1における天部フレーム17に設置するとともに、その内部にフィルタエレメント42を設けている。そして、導入側エアフィルタ4A側のフィルタボックス41には、外部から清浄な空気を導入するためのエア導入管48が接続される。一方、排出側エアフィルタ4B側のフィルタボックス41には、気密チャンバー装置S内の空気を外部に排出するためのエア排出管49が接続される。
【0043】
また排出側エアフィルタ4Bからエア排出管49の間には、一例として
図3(a)・
図4(a)に示すように、導入される濾過滅菌エアの導入状態を設定し、チャンバー本体3内を幾分か陽圧状態とする内圧センサー49aを設ける。この内圧センサー49aを利用したエア排出調整装置は、公知のものであり、詳細な図示は省略するが、本体シート31の天面シート31dに接する内圧センサー49aの上下の変位により、エア排出管49の経路を開閉するものである。
【0044】
次に、アイソレーターRの内部を気密状態に保ちながら、内部に飼育用資材や飼料等を供給、あるいは内部で飼育している実験動物への接触や外部への出し入れ(導出入)等の作業を行うためのステリルロック5について説明する。
ステリルロック5は、一例として
図3(b)に示すように、上述したステリルロック接続リム34に対し、気密状態を維持するように接続されるステリルロック本体51を具える。このステリルロック本体51は、内部観察できるように透明樹脂製の筒状部材で形成され、例えばステリルロック5の使用時に(
図3(b)の(ii)参照)、ステリルロック本体51をケージ装置Cの内側、つまり飼育室85内に嵌入できるように可動状態に取り付けられる。
以下、ステリルロック本体51を可動自在とする構成について説明する。ステリルロック本体51を直接支持する部材から順に説明すると、ステリルロック本体51を外枠状に固定する可動フレームリング52を具える。この可動フレームリング52は、その下方に延びるリング脚部53を具えるものであり、このリング脚部53も、基台枠部21に対し可動状態に設けられるステリルロックサポート54上に支持されている。ステリルロックサポート54によるリング脚部53の支持は、リング脚部53がステリルロックサポート54上を移動できるように固定支持されており、その固定は適宜の固定ボルト53a等によってなされる。すなわち、本実施例では、ステリルロック本体51のみならず、これを可動状態に支持するリング脚部53、更にはリング脚部53を支持するステリルロックサポート54についても、基台枠部21に対し内外方向に移動できるように構成されている。
【0045】
このような構成によって、ステリルロック本体51は、充分な移動距離が得られる構成となっており、その位置が、例えば三段階にわたって設定できるように構成される。因みに、このような構成は、ステリルロック5を使用しないときには、ステリルロック本体51を最も外側に設定し、パネル要素81にステリルロック本体51が干渉しないようにするとともに、ステリルロック5の使用時には充分にステリルロック本体51を内側に嵌入させて使うことができるようにするための構成である。
ここで上記三段階の設定状態について説明する。
例えば
図3(b)の(i)は、ステリルロック5の非使用時において、ステリルロック本体51とリング脚部53とステリルロックサポート54とをともに、最も外側(飼育室85の外側)に張り出させた外張り出し状態であり、アイソレーターR内で飼育動物を飼養する際の状態である。また、
図3(b)の(ii)は、ステリルロック5の使用時において、ステリルロック本体51とリング脚部53とステリルロックサポート54とを全て最も内側に移動させ、ステリルロック本体51の内側先端を飼育室85内に嵌め入れた嵌入状態である。
そして、このような操作であることから、ステリルロック本体51とリング脚部53とステリルロックサポート54との設置位置により、上記図(i)・(ii)の中間的な位置が設定できるものであり、例えば
図3(b)の(iii)は、ステリルロック本体51とリング脚部53とを最も内側に移動させた状態としながら、ステリルロックサポート54を最も外側に張り出させた状態としており、これが上記図(i)・(ii)の中間的な位置となる。もちろん、上記図(i)・(ii)の中間的な位置としては、ステリルロック本体51とリング脚部53とステリルロックサポート54の三部材の位置関係によって他の位置を設定することも可能である。
【0046】
なお、詳細な説明は後述するが、本実施例のアイソレーターRは、ケージパネル8を装着したケージフレーム7を、本体シート31内に立設して、本体シート31内に飼育室85を区画形成するものであり、また基台枠部21が平面視外側に膨出した形状であること等から、例えば飼育室85内に飼育動物を導入する際、本体シート31とケージパネル8との間が空き易く(一例として10cmほどの間隙)、この間隙に飼育動物を落としてしまう、もしくは導入時にあばれた飼育動物が自ら間隙に入り込んでしまうことがあり得るため、これを防止する目的から、ステリルロック5を構成するステリルロック本体51自体を大きく移動できるようし(飼育室85の内側への嵌入移動)、且つその位置で固定できるようにしたものである。
【0047】
また、ステリルロック5は、ステリルロック本体51の使用時においてもアイソレーターR内の気密状態を常に維持できるよう、ステリルロック本体51に被せる内部シールドキャップ55をチャンバー本体3の内側に設けるとともに、外側に外部シールドキャップ56を具える。従って、このステリルロック5を用いての資材あるいは飼育動物の導出入にあたっては、外側からであれば、まず外部シールドキャップ56を外して(内部シールドキャップ55は閉鎖)、ステリルロック5内に適宜の物品を配置した後、外部シールドキャップ56を閉鎖して内部を滅菌し、次いで内部シールドキャップ55を開放してチャンバー本体3内に必要な資材等を導入する。もちろんこれらの作業は、次に述べる操作グローブ6を用いてなされる。
なお、アイソレーターRのステリルロック本体51の外側に、連結用の他のステリルロック本体を接続することにより、本アイソレーターRを他のアイソレーターと接続することもできる。動物の導出入の際には、上記のように連結してステリルロック5を介して移動させる。
【0048】
以下、前記操作グローブ6について説明する。
操作グローブ6は、その基部をチャンバー本体3に設けた操作グローブ接続リム35に気密状態に固定したものであり、全体としてアーム部61とハンド部62とを一体に成形した柔軟な素材である。
操作グローブ6は、例えば常時すなわち飼育使用時には、一例として上記
図1・
図2に示すように、アイソレーターRの内部の気圧(陽圧)により外側に突出したような状態となる。ここで一般的にはこの突出状態でも構わないが、例えば輸送等を考慮した時には、操作グローブ6を折り畳み状にした格納状態とすることも好ましい。この場合、一例として
図5(c)に示すように、アイソレーターRの内側に上方からスライドして操作グローブ接続リム35の内側部位を閉鎖するような内押さえ板63を設けるとともに、外側には外保持蓋64を設けて、内押さえ板63と外保持蓋64との間に操作グローブ6を折り畳み状に収納しておくような構成とする。
【0049】
更にアイソレーターR全体としては前記チャンバー本体3内の空間にケージ装置Cを設ける。このケージ装置Cについては、例えば基台2の基台枠部21上で立体的に組み立ててから、このケージ装置Cにチャンバー本体3を被せるように設置することができる。しかしながら、ケージ装置C等を含めたチャンバー本体3内の無菌状態をより確実に得るために、チャンバー本体3内に収めるケージ装置Cの各部材を組立前の分解状態とし(いわゆるバラの状態)、且つチャンバー本体3を天部フレーム17に吊り下げ状態に取り付けた後、その内部に滅菌ガス等を導入して充満させ、その後、チャンバー本体3内でケージ装置Cを組み立てることもできる。この場合、ケージ装置Cの構成部材は、ほぼ全表面が露出した状態であり、この状態から組み立てることで滅菌ガスが隅々まで行き渡り、無菌状態がより効果的に得られるものである。因みに、ケージ装置Cを組み立てた状態で滅菌ガス等を接触させると(除染を図ると)、ケージ装置Cの構成部材が、他の部材と接合された部分等において滅菌ガス等が作用し難く、充分な除菌効果が得られないことが予想される。
【0050】
またケージ装置Cを構成する骨格部材のケージフレーム7は、パネル状または枠面状のフレーム要素71を複数枚、基台枠部21上に立ち上げ状に組み合わせ、平面視矩形状の立体枠を構成する。すなわちケージ装置Cは、基台2上に、フレーム要素71を少なくとも四面立位姿勢で、内側空間を取り囲むように設けて成り、これら立位姿勢のフレーム要素71を互いに固定することにより、気密チャンバー装置S内に、天部を開放状態とした飼育室85を形成する。
フレーム要素71を立体的に形成するには、一例として
図6(b)-(i)に示すように、まず基台枠部21上であって、床面開口20に近い上面に、例えば断面ほぼチャンネル状の基部枠72を設置するものであり、この基部枠72は、長手方向中心で二部材に分かれるように構成されている。
次いで、例えば
図6(b)-(ii)に示すように、この基部枠72を下部の支持部材として、フレーム側面を構成するフレーム要素71を立ち上げ状に設けるものであって、まずフレーム要素71の下部を基部枠72に嵌め込むような状態として蝶ボルト等の固定ボルト72aにより、基部枠72側に固定する。このようなフレーム要素71を四周全てに立ち上げて、相互に接続部で固定し合い、一例として
図6(b)-(iii)に示すような平面視矩形状の立体枠となるケージフレーム7を構成する。
【0051】
これらフレーム要素71は、正面フレーム要素71aと背面フレーム要素71bと妻面フレーム要素71cと仕切フレーム要素71dとを具えて成り、設置部位に応じて形態を異ならせる。まず正面フレーム要素71aは、長手方向中間で二分割され、二枚の部材で構成されるが、その形状は左右対称に形成される。すなわち正面フレーム要素71aは、上部面に略矩形状の開口部73が形成されるとともに、下部面にはハッチ状に開閉できる給餌トレー74が設けられる。
【0052】
給餌トレー74は、一例として
図9に示すように、実質的に餌(飼料)を貯留するトレー部741を具え、このトレー部741は、側面断面視で直角状、つまりほぼ90°を成す桶状に形成され、その下端部が正面フレーム要素71aに対しヒンジ状に接続されている。これによりトレー部741は、正面フレーム要素71aに対し、飼育室85側に入り込んだ状態(
図9(a))と、正面フレーム要素71aから外側つまり飼育室85外に突出した状態(
図9(b))とのいずれかに傾倒できるように構成されている。すなわち給餌トレー74は、実質的に餌を貯留するトレー部741が、正面フレーム要素71aを境として飼育室85の内外に択一的に傾倒できるように構成されている。もちろん、作業者が餌を補給する際には、トレー部741を正面フレーム要素71aの外側(作業者の手前側)に傾倒させるものであり、補給した餌を飼育動物に与える際に、トレー部741を正面フレーム要素71aの内側(飼育室85の内側)に傾倒させるものである。
【0053】
次に、給餌トレー74の各部の名称について更に詳細に説明する。
給餌トレー74は、トレー部741を飼育室85の内側に収めた傾倒状態で視た場合、底板742と、後方立ち壁(奥側立ち壁)743と、前方立ち壁(手前側立ち壁)744とを具えて成る。従って、餌の補給作業の際、つまりトレー部741を正面フレーム要素71aの外側に傾倒させた際には、上記
図9(b)に示すように、底板742がほぼ上向きに立ち上がった状態となり、前方立ち壁744と後方立ち壁743がほぼ水平になった状態となる。もちろん前方立ち壁744が下方に位置し、後方立ち壁743が上方に位置する。
【0054】
そして、給餌トレー74がこのような構成であるため、作業者が餌を補給している際には、ほぼ上向きに立ち上がった底板742が、正面フレーム要素71aとほぼ同一の平面上を成し、給餌トレー74を取り付けるために正面フレーム要素71aに形成された開口部、つまり飼育室85が実質的に閉鎖される。従って、飼育室85内に動物がいても、動物が餌を欲しがるあまり、鼻先や口先を当該開口部から外方に突き出してくるような事態が防止でき、作業者による餌の補給作業が、飼育動物によって邪魔されないものである。もちろん、このようなことは、作業性を促進させることはもちろん、作業者のストレスや煩雑さを大幅に軽減させるものである。
【0055】
またトレー部741を飼育室85の内側に収めた傾倒状態(
図9(a))で、前方立ち壁744の上端部には、飼育室85内側に突出する短寸の返し745が設けられている。この返し745は、餌を補給する際の前方へのこぼれ落ちを防止するものである。すなわち補給時には、例えば
図9(b)に示したように前方立ち壁744が、下方でほぼ水平状態を呈するため、この返し745がないと、トレー部741に補給した餌が手前側にこぼれ落ちてしまうものである。特に餌の補給時には、飼育動物が餌を催促しようとして、飼育室85を塞いでいる底板742を飼育室85の内側からつつくことがあり、このために餌が前方に一層こぼれ易くなるが、返し745を設けることによって、前方へのこぼれ落ちを抑えることができる。
【0056】
また、トレー部741には、返し745の突出側先端部と、後方立ち壁743の突出側先端部との間にトレー部741の幅方向をほぼ均等に仕切る区分け体746を設けることができる。この区分け体746は、本実施例では二本設けられ、トレー部741を三つに区画するように形成されている。また区分け体746としては、ワイヤや紐等の索条体を適用することができ、例えば飼育室に三頭の動物を飼育している場合には、この三頭に同時に餌を与えることができるものである。逆に言えば、このような区分け体746がない場合には、一つのトレー部741に補給した餌を三頭の飼育動物に与えようとしても、食欲旺盛な個体だけが、広いエリアの餌を食べてしまうことがあり(特定の個体だけが独占的に食べてしまうことがあり)、区分け体746を設けることにより、多頭飼育された動物にほぼ均等に餌を与えることができるものである。
【0057】
更に正面フレーム要素71aにおいて、給餌トレー74の側方には、このものと並ぶように給水トレー75が設けられる(
図2参照)。この給水トレー75は、一例として
図8(c)に示すように、最終の取付状態では、実質的な貯水部75aが飼育室85内、つまり正面フレーム要素71aの内側に臨むように設けられ、正面フレーム要素71aの外側には、飲用水を入れた給水用ボトル75bが倒立状態に配置され、この貯水部75aと給水用ボトル75bの下端部とが、給水管75cによって連通接続されている。すなわち、給水管75cによって正面フレーム要素71aの内側と外側とが連通するように構成されており、給水用ボトル75bに入れた飲用水が、給水管75cを通して、貯水部75aに常時一定量の引用水が補充される構成となっている。
【0058】
また正面フレーム要素71aの開口部73には、一例として
図7(b)-vに示すように、後述する透明樹脂製のケージパネル8が設置されるものであり、そのため正面フレーム要素71aには、ケージパネル8を取り付けるための係止用フック76を具える。
なお、フレーム要素71にケージパネル8を設置する構成は、正面フレーム要素71aだけに限らず、背面フレーム要素71bや妻面フレーム要素71cでも同様である。そのため背面フレーム要素71bや妻面フレーム要素71cにも開口部73が形成され、ここにケージパネル8が設置されるものであり、そのための係止用フック76も設けられる。すなわち背面フレーム要素71b・妻面フレーム要素71cについては、正面フレーム要素71aに比べてシンプルな構成を採るものであり、周縁部を枠状とし、その内側を大きく開口させたフレーム構造を採り、ここにケージパネル8を設けるものである。
【0059】
以下、このケージパネル8について説明する。
ケージパネル8は、前記フレーム要素71で半ば囲まれた四周部の各面に、パネル要素81を着脱自在に取り付け、一定範囲を区画し、これによりチャンバー本体3内を平面視矩形状に仕切った一定の立体空間である飼育室85を形成する。
パネル要素81は、透明樹脂製の平板状のボードに対し、適宜、透視孔82を形成して成り(ここでは縦長状に開口された複数の孔)、更にパネル四隅部などに係止孔83が形成されている。この係止孔83は、一例として
図7(b)-vに示すように、上方部の孔径を小さく、且つ下方部の孔径を大きく形成し、これら両孔を連続させた、言わば瓢箪状とでも表現できる形状に形成される。この係止孔83を利用してフレーム要素71に形成されている係止用フック76に対し、パネル要素81を吊り下げ状に係止させる。この係止状態は、前述の通り係脱自在(着脱自在)とされるものであり、前記孔形状を有する係止孔83に対し、係止用フック76は、先端側が大径で且つ基端側を小径として形成される、言わばキノコ状で、このような相互の構成から、言わばバヨネット係合として、係脱自在の作用を奏している。具体的には、例えばパネル要素81をフレーム要素71に取り付ける際には、まず係止用フック76(フレーム要素71)の先端大径部に、係止孔83(パネル要素81)の下側大孔部を嵌め込むように貫通させるものであり、貫通させたらパネル要素81を自重で下方に下げるようにすることで、係止用フック76(フレーム要素71)の基端小径部と、係止孔83(パネル要素81)の上側小孔部が嵌まり合い、両部材の係止が図られる。
【0060】
更にケージパネル8としては、仕切パネル84も用意される。この仕切パネル84は、パネル要素81で区画された飼育室85の中間部位(左右方向の中間部位)を仕切って、小さなスペースの仕切飼育室85aを構成するものである。なお、仕切パネル84を立設するにあたっては、あらかじめ仕切フレーム要素71dの内側中間部に対向状態に溝を形成しておき、この溝を利用して、仕切パネル84を上方からスライドさせて嵌め込むことが可能である。因みに仕切パネル84は、例えば上下方向に三分割されたものを直列状に嵌め込むような構成を採るものであり、これにより気密状態で飼育動物を飼養しながら、操作グローブ6を用いて適宜飼育室85内を複数の仕切飼育室85aに区画することができる。
【0061】
ここで
図7(b)-ivに示した実施例では、妻面フレーム要素71cは、開口部73を有する枠状(枠面状)に形成され、この開口部73に横長状のパネル要素81を上下に二枚、直列状に並べるような取付形態を示した。
これに対し、背面側のケージフレーム7(背面フレーム要素71b)とケージパネル8は、以下述べるような構成を基本構造とする。具体的には、例えば
図10(a)に示すように、背面フレーム要素71bの開口部73は、下半分を越える比較的大きな開口として形成され、この開口部73を塞ぐようにケージパネル8(パネル要素81)が一枚、着脱自在に設けられる。ここで当該開口部73を、背面フレーム要素71bの下半分を越える大サイズとして開口したのは、本体シート31の後面に設けられた操作グローブ6を介して飼育室85内の動物を操作する場合や、飼育室85の床面、より詳細には捕集シンク26のドレン管路27にアクセスする場合など、操作グローブ6を嵌めた作業者の手が、より届き易いようにするためである。すなわち、例えば飼育室85の多孔床板25の一部を開閉する作業では、操作グローブ6を嵌めた作業者の手が、背面フレーム要素71bに形成された開口部73を通り抜けて、多孔床板25まで届くようにアクセスするため、開口部73も背面フレーム要素71bにおいて低い位置(下面部)に、且つ下半分を越える大サイズで形成することにより、アクセス自由度が高まるものである。また、このため背面フレーム要素71bに取り付けられていたパネル要素81を取り外して、飼育室85内にアクセスするために形成した開口(開口部73とほぼ同じ大きさ)を本明細書ではアクセス開口と称している。
もちろん、このような場合、背面フレーム要素71bから取り外したパネル要素81は、例えば上記
図10(b)に示すように、背面フレーム要素71bの上端部付近に設けた別の係止用フック76に引っ掛けて、収納することが可能である。
なお図中符号77は、上記開口部73を閉鎖したパネル要素81の下端縁を押さえるための掛止片であり、例えば係止用フック76と同様の構成を採る。そして、係止用フック76と掛止片77とを同様の構成とすることにより、上記
図10(a)に示すように開口部73を閉鎖する際にパネル要素81の上部を係止していた係止用フック76が、上記
図10(b)に示すように取り外したパネル要素81を収納する際に、その下端縁を押さえる掛止片77として利用することができるものである。
また、開口部73を閉鎖したパネル要素81の下端縁を、掛止片77で押さえることによって、飼育室85内にいる飼育動物が鼻先や口先等で、閉鎖状態のパネル要素81を押したとしても、パネル要素81の下端縁があばれることがなく、このものの閉鎖状態を強固に維持することができる。
【0062】
更にアイソレーターRは、実験動物等の飼育にあたっての使い勝手を向上させるため、前記ケージ装置C(ケージフレーム7)におけるフレーム要素71の上部にストッカ装置9たる上部棚91を具える。この上部棚91は、透明樹脂素材で形成されるものであり、これは飼育室85内の採光を妨げないためであり、例えば気密チャンバー装置S内にステリルロック5を介して導入した滅菌済みの給水用ボトル75bや餌を、上部棚91にストックしても内部目視が充分行えるものである。
なお、基部フレーム11には、上述したように予備部品などを収納することができる床部ストッカボックス92が構成され、この床部ストッカボックス92もストッカ装置9に含まれる。
【0063】
本発明のアイソレーターRは、以上述べた基本構造を有するものであり、以下、この組立方法の手順やその後の使用方法等について説明する。
(1)初期組み付け
まず本発明のアイソレーターRは、初期組み付けの段階で、基台2に対しケージ装置Cの構成部材を搭載し、そののち基台2の周辺部、特に本実施例では基台枠部21の外縁部21aに対し、チャンバー本体3における本体シート31の底部開口311を固定する。
すなわちアイソレーターRは、主たる構成部材としてチャンバー本体3とケージ装置Cとを具えた二層構造であり、例えば基台2上で、ケージ装置Cを組み上げてから、チャンバー本体3の本体シート31を基台枠部21に対し固定する手法が容易である。しかしながら、組み上げられたケージ装置Cの上から、チャンバー本体3(本体シート31)を、吊枠フレーム14の間を通すように被せるより簡便に本体シート31を設置することができ、更にはアイソレーターRとして内部の無菌状態をより確実に得ることも考慮すると、まずケージ装置Cの構成部材を基台2上に重ね置き状態に置き(
図6(b)-(ii)参照)、そののち本体シート31を、吊枠フレーム14を利用して立体状に吊設する方が好ましい。
次いで、本体シート31の底部開口311を基台枠部21の外縁部21aに固定する。このような状態とした後、本体シート31内に、例えば過酸化水素ガスのような殺菌作用を有する気体を充填し、ケージ装置Cの構成部材を含め、本体シート31の内部を滅菌するものである。このような手法の方が、全体としての殺菌効果が高いことが経験的に知られており、ここでも基本的にこのような手順を採る。もちろん従来通り、例えば過酢酸など殺菌効果のある薬液を、スプレーガンを用いて加圧空気とともに霧状に噴霧し、気密チャンバー装置S内およびケージ装置Cを滅菌することもできる。
【0064】
なお、本体シート31の底部開口311を基台枠部21に固定するにあたっては、この接続部における気密性を充分確保するため独自の構成を具えている。具体的には、一例として
図4(b)に示すように、本体シート31の底部開口311の周長L2は、基台枠部21の周長寸法L1より小さく形成される。そのため本体シート31の底部開口311を基台枠部21の外縁部21aに嵌める際には、一例として
図4(c)に示すように、柔軟で且つある程度の伸縮性を有する本体シート31の底部開口311を、周方向に引っ張るように半ば強引に広げながら、外縁部21aに回し嵌めするものである。これにより本体シート31の底部開口311を基台枠部21の外周に強密着状態に嵌め込むことができ、当該部位での気密状態が充分に確保される。
【0065】
更に基台枠部21の外縁部21aは、外側に向けて弧状に膨出するように形成されているから、この形状によっても本体シート31の底部開口311と外縁部21aとの、より強固な密着が図られる。因みに外縁部21aが直線状である場合は、本体シート31と外縁部21aとは、基台枠部21の角稜部において強固に密着する一方、中間部位では両者の密着が必ずしも充分に成されないものである。
【0066】
また本体シート31の底部開口311を基台枠部21の周囲に外嵌めしたら、一例として
図4(c)の拡大図・
図5(b)に示すように、これらの境界部に、非伸縮性のシールテープt1を貼設する。このシールテープt1は、例えば外縁部21aの外周側において、ほぼ同じ位置で三周ほど巻回される。
その後、このシールテープt1の上から、押さえテープt2を更に貼設する。この押さえテープt2は、少しずつ位置をずらしながらシールテープt1の外周側に四周ほど巻回される。そして、このような二重のテープ貼着によって、本体シート31を基台枠部21に対し、一層強固に密着させることができる。
【0067】
その後、以上のようにして本体シート31(底部開口311)を取り付けた基台枠部21を、一例として上記
図5(b)に示すように、押さえ縁枠22によって更に固定する。すなわち外縁部21aの外周側に、側断面視コ字状の押さえ縁枠22をあてがうように設け、これをクランプボルト23等で挟み込み、更には押さえ縁枠22の外周側の面部に設けられた外れ止めボルト24を、基台枠部21の下部に固定されたメネジブロック21bにねじ込むものである。この構成により、押さえ縁枠22は、本体シート31(底部開口311)をくわえ込んだ状態で、基台枠部21に対し垂直方向および水平方向の二方向からの固定が図られ、強固に押さえ縁枠22の外れ止め作用が図られる。なお、実際の作業では、水平方向の外れ止めボルト24で押さえ縁枠22の仮止めを行っておいてから、垂直方向のクランプボルト23を締め込み、再度、水平方向の外れ止めボルト24を本締め(増し締め)を行うような取り付け方が現実的である。
そして、このような複合的な取り付け構造を採るため、本体シート31そのものには一切孔などを開口することなく、本体シート31を基台枠部21に取り付けることができ、且つチャンバー本体3内を陽圧にしても、本体シート31の底部開口311が基台枠部21から外れてしまうことがないものである。
【0068】
(2)殺菌
この段階でアイソレーターRは、分解したケージ装置Cの各構成部材が、重ね倒し状態で基台枠部21上に設けられており、アイソレーターRとして半ば組立途中の状態を呈するものであり、この状態で殺菌作業が開始される。既に述べたように、このような状態で殺菌作業を行うと、例えば過酸化水素ガスを含んだ滅菌ガスをチャンバー本体3内に供給した場合、その供給量が少なくても、ケージ装置Cの各構成部材に殺菌効果が行きわたる点で好ましい。
【0069】
(3)ケージ装置の組み立て
このような状態で、分解されたケージ装置Cを組み上げる。この際、チャンバー本体3内部に滅菌ガスが充満された状態で組み上げるため、フレーム要素71同士の接続部や、組み付け状態でフレーム要素71の設置部となる部位等にも充分滅菌ガスを接触させることができ(暴露)、より効果的な除染が期待できる。
【0070】
また、チャンバー本体3内を陽圧とすると、チャンバー本体3に設けられている操作グローブ6も、この内圧を受けて外側に張り出したような状態を呈する(
図1・
図2参照)。もちろん操作グローブ6の格納装置である内押さえ板63と外保持蓋64とが具えられ、操作グローブ6を折り畳み状に収納している場合には、これらを解除して操作グローブ6を使用可能な状態に外方に膨出させる。このような作用により操作グローブ6に対して作業者は、その内部に手を入れて、操作グローブ6をチャンバー本体3内に押し込むと操作グローブ6は、あたかも裏返し状となって適宜の作業が行える状態となる。
【0071】
この状態で密閉されたチャンバー本体3内において、ケージ装置Cの組立作業がなされる。また、この作業自体は、上述した操作グローブ6を使用しての作業となる。なお、
図6(b)・
図7(b)にケージ装置Cの組立状況を段階的に示しており、本図ではチャンバー本体3(本体シート31)を描いていないが、実際には上記のようにチャンバー本体3内の密閉空間で組み立てるものである。また、そのため大気開放状態での組立作業に比べると、幾らか作業が行い難いことは否めない。
フレーム要素71を立体的に組み上げるには、一例として
図6(b)-(i)に示すように、まず基台枠部21上であって、床面開口20の周囲上面に基部枠72を設置する。ここで基部枠72は、長手方向中心で二部材に分かれるように構成されている。
次いで、例えば
図6(b)-(ii)に示すように、この基部枠72を下部の支持部材として、フレーム側面を構成するフレーム要素71を立ち上げるように設ける。
具体的には、まずフレーム要素71の下部を基部枠72に嵌め込むようにした後、蝶ボルト等の固定ボルト72aにより、基部枠72側に固定する。このようなフレーム要素71を四周全てに立ち上げて、相互に接続部で固定し合い、一例として
図6(b)-(iii)に示すような平面視矩形状の立体枠となるケージフレーム7を構成する。
なお、フレーム要素71の中央(左右方向の中央)には、内側対向部に溝を有した仕切フレーム要素71dが設けられる。因みに、この溝は、仕切パネル84を上方から落とし込むようにスライドさせる嵌め込み用の溝である。
【0072】
その後、各フレーム要素71の開口部73に、透視孔82を有した透明樹脂製のケージパネル8のパネル要素81が設置される。パネル要素81の設置は、上述したようにフレーム要素71の係止用フック76と、パネル要素81の係止孔83とによる係脱自在の係止によって取り付けられる(
図7(b)-v参照)。
このようにしてフレーム要素71に全てのパネル要素81を設置すると(
図7(b)-iv参照)、結果的にケージ装置C内には、上記仕切パネル84によって実験動物等の仕切飼育室85aが二室設けられることとなる。
【0073】
また補機類として、飼育管理における作業性向上のために設けられている上部棚91には、例えば給水用ボトル75bに補給する滅菌水や飼料等が備蓄される。また床部ストッカボックス92には、例えばチャンバー本体3の底部開口311を基台2に貼着するシールテープt1・押さえテープt2や、予備の外部シールドキャップ56等が収納され得る。
【0074】
(4)飼育管理
このようにして構成されたアイソレーターRに対しては、チャンバー本体3の上部に設けた導入側エアフィルタ4Aから濾過滅菌エアを流入させる一方、排出側エアフィルタ4Bからチャンバー内のエアを外部に放出する。このような空気の流れによって、チャンバー本体3内は、無菌状態が維持されるとともに、内部の気圧が外部空気圧よりも幾分高めに設定されるようになっている。すなわちチャンバー本体3内は、上述した空気流によって適宜の陽圧状態に維持されるものであり、その値は一例として50から100パスカル程度である。またチャンバー本体3内の空気の換気率は、15回転/時間が目安となる。
【0075】
また、上記のように組み立てられたアイソレーターRに実験動物等を導入するにあたっては、妻面シート31cに設けられた作業リッドであるステリルロック5を利用する。実験動物を導入する際には、このような左右のステリルロック5を用い、既に述べたように、ステリルロック本体51をケージ装置C内に嵌入するようにして行われる。一方、資材等を導入する際には、前面シート31a側のステリルロック5を用いるが、ステリルロック本体51をケージ装置C内に嵌入する必要はない。
ここで実験動物を導入する作業手順としては(別のアイソレーターから導入する場合)、まずステリルロック5の外部シールドキャップ56を外して、本アイソレーターRのステリルロック本体51に、導出する実験動物が格納されている別のアイソレーターのステリルロック本体を、連結スリーブを用いて連結させる。結果、連結スリーブと互いのステリルロック本体(51)は、各々の内部シールドキャップ55により密封される。この状態で連結スリーブ内部の空間に、例えば過酢酸等の殺菌作用を有する薬液を噴霧することによって滅菌する。次いで、作業者が操作グローブ6に自分の手を嵌め込み、この操作グローブ6を利用して、飼育室85側からステリルロック5の内部シールドキャップ55を外して、互いのアイソレーター(R)を連結し、操作グローブ6を用いて実験動物を移動させる。最後に内部シールドキャップ55を被せた後、外部シールドキャップ56を被せ、殺菌作用を有する薬液によってステリルロック5内を滅菌する。
資材を導入する作業手順も原則として同様であるが、資材がステリルロック本体51内に納まる大きさであれば、ステリルロック本体51内で殺菌作用を有する薬液によってステリルロック5内を滅菌することもできる。
【0076】
なお本発明では、上述したように飼育動物として例えばミニブタ等のブタを想定しており、帝王切開で親ブタの子宮内から取り出した状態から12カ月を掛けてケージ装置C内で成長させ得るものであるから(いわゆる12カ月齢)、飼育室85としても相応の大きな空間を要する。
そして、12カ月齢までミニブタが育つと、その背丈(体高)も格段に大きくなるため、本アイソレーターRでは、前後の操作グローブ6の取付高さを異ならせており、これにより12カ月齢までに達するミニブタの飼育が効率的に行えるようにしたものである。
更に、動物の大きさや成長度合い等によって、例えば前記ケージ装置Cの仕切パネル84を取り去り、全体をより大きな一つの飼育室85として使用することが可能である。もちろん、例えば幼ブタ等の飼育動物がまだ小さいうちは、仕切パネル84を設けた各仕切飼育室85a(または仕切パネル84を取り除いた一つの大きな飼育室85)に、何頭かを収容し、多頭飼育を行うことも可能である。特にブタやイヌなどの社会性を有する動物種では、適切な飼育面積や成長に応じて多頭飼育および作業者との良好な関係を築くためのコンタクトが重要であることから、飼育室85を適宜仕切って管理できることは、動物福祉の面からも良い効果をもたらす。
【0077】
(5)飼育室における操作
チャンバー本体3内での作業は、全て操作グローブ6を嵌めて行われる。ここで前面側の比較的高い位置に設けられた操作グローブ6は、給餌トレー74に飼料を補給する給餌作業・滅菌水を給水用ボトル75bに補給する給水作業などアイソレーターRの正面内側近傍で行う作業からケージ装置Cの上方域、例えば上部棚91まで届く相対的に高位置までに及ぶ作業を行うものである。すなわち、例えば上部棚91に貯留してある飼料や滅菌水を給餌トレー74や給水用ボトル75bに補給するには、これらを一連の動作として同じ操作グローブ6で作業できることが望ましく、そのため前面側の操作グローブ6を相対的に高い位置に設けたものである。もちろん、上部棚91の高さは、飼育動物の背丈(体高)を重視して決定されるものであり、その上で、上記一連の動作が前面側の操作グローブ6によって円滑に行えるように考慮される。
一方、後面側の比較的低い位置に設けられた操作グローブ6は、別の作業、具体的には飼育室85の床面まで届き、飼育動物の排泄物処理や飼育室85内の動物への直接的な操作(検診・接種)など、相対的に低い位置の作業を行うものである。
因みに後面側の操作グローブ6を使用して、飼育動物の排泄物を処理する際には、ケージフレーム7の背面フレーム要素71bに、係脱自在に取り付けられているパネル要素81(低位置のもの)を一旦取り外し、ここから操作グローブ6を飼育室85内に進入させて、床面までアクセスするものである。更に、捕集シンク26を洗浄する場合等には、床面までアクセスした操作グローブ6を利用して、多孔床板25の一部をヒンジ状に開放させることで、捕集シンク26の洗浄を容易に行うことができるものである。また、スプレーガンで滅菌した後、捕集シンク26に貯留した薬液をドレン管路27から排出させて、アイソレーターRを効率的に乾燥させることも容易にできるものである。
なお、パネル要素81を取り外す作業は、必ずしも背面側から飼育室85内へのアクセスに限定されるものではなく、正面側や側面(妻面)側からアクセスする際にも適宜行われる。
【0078】
そして、このような実験動物の飼育を続けると、当然ながら実験動物から排泄物等が発生する。そもそもブタ等は大型動物であるから、一回の排泄量も多く、これが12カ月の長期にわたる飼育となると大量の排泄物が出るものであり、当然その回収作業や洗浄作業は、これを行う作業者にとっても大きな負担となる。
また排泄物は、基台2における多孔床板25からその下方の捕集シンク26に落下して、シンク底板26a等に溜まることとなる。なお飼育動物が排泄する都度、作業者が回収作業や洗浄作業を行うことは現実的ではないため、短期的には、排泄物を見つけた際に、作業者が多孔床板25下に落とすこともある。
そして長期飼育に伴って堆積した排泄物を回収するには、上述したように多孔床板25の少なくとも一部がハッチ状に開放するように構成されているから、多孔床板25を開放状態として、その下方に設けられている捕集シンク26の排泄物等を容易に回収することができ、捕集シンク26の洗浄も行うことができる。回収した排泄物は、ステリルロック5を介してアイソレーターRの外部に導出する。
もちろん捕集シンク26に落とした(堆積した)排泄物が、スムーズに流れないこともあり、その場合には、例えばブタ等の飼育動物を一旦、一方の仕切飼育室85aに押しやっておき、ブタが居なくなった仕切飼育室85aの多孔床板25を開放させて、堆積した排泄物を柄杓などで回収し易い位置に移動させることもあり得る。このため本発明では、上述したように後面側の操作グローブ6を相対的に低い位置に設けたものであり、このような構成でないと、上記作業が極めて行い難いか(作業者に多大な負担を掛けるか)、または全く行い得ないことが考えられる。
なお、飼育完了後にアイソレーターRを分解・洗浄する際には、基台2に塗布した洗浄液をドレン管路27等から外部に排出することが可能である。