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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144506
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/46 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B60R22/46 142
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051508
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】角中 智
(72)【発明者】
【氏名】井尻 昂辰
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018MA02
(57)【要約】
【課題】駆動輪の回転量を一周近くまたはそれ以上とすることができ、かつ、圧力容器の長さを短くすることができるシートベルト用リトラクタを提供する。
【解決手段】一実施形態に係るシートベルト用リトラクタのプリテンショナ2では、駆動輪5を収納する収納室4が移動部材7用の退避空間42を形成する。移動部材7は、圧力容器6内で袋部材8に収納される。移動部材7は、駆動輪5の係合歯51の2つ以上をウエビングの巻取方向に押圧可能な長さを有する。袋部材8は、移動部材7を囲繞する筒状部82、筒状部82の一端から径方向外向きに広がる先端部81、および筒状部82の他端に接続された底部83を有する。緊急時、ガス発生器9が発生するガスによって袋部材8の底部83が押圧されて底部83および筒状部82が移動部材7と共に移動しつつ、筒状部82が一端から順に反転する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエビングを巻き取る、ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能な巻取ドラムと、
車両の緊急時に前記巻取ドラムを前記巻取方向に回転させるプリテンショナと、を備え、
前記プリテンショナは、
少なくとも緊急時に前記巻取ドラムと共に回転する、周方向に配列された径方向外向きに尖る複数の係合歯を有する駆動輪と、
前記駆動輪に隣接する位置で開口する末端部、およびガス発生器が設けられた基端部を有する筒状の圧力容器と、
通常時は前記圧力容器内に収納され、緊急時には前記ガス発生器が発生するガスによって前記圧力容器から押し出されながら前記複数の係合歯のうちの少なくとも1つと係合して、前記駆動輪を前記ウエビングの巻取方向に回転させる移動部材と、
前記駆動輪を収納し、前記圧力容器から押し出される前記移動部材をガイドするガイド面を有するとともに、前記移動部材用の退避空間を形成する収納室と、
前記圧力容器内で前記移動部材を収納し、前記移動部材を囲繞する筒状部、前記筒状部の一端から径方向外向きに広がって前記圧力容器の前記末端部に固定される先端部、および前記筒状部の他端に接続された、前記移動部材と当接可能な底部を有する袋部材と、を含み、
前記移動部材は、前記複数の係合歯の2つ以上を前記ウエビングの巻取方向に押圧可能な長さを有し、
緊急時に、前記ガス発生器が発生するガスによって前記袋部材の底部が押圧されて前記底部および前記筒状部が前記移動部材と共に移動しつつ、前記筒状部が前記一端から順に反転することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記袋部材は、通常時の内側面を形成する初期内層と、通常時の外側面を形成する初期外層を含み、
前記初期内層と前記初期外層とでは材質が異なることを特徴とする、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記初期内層は、前記初期外層よりも強度が高いことを特徴とする、請求項2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記初期外層は、前記初期内層よりも耐熱性が高いことを特徴とする、請求項2または3に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記初期外層は、前記初期内層よりも摺動性が高いことを特徴とする、請求項2~4の何れか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
前記圧力容器の内周面と前記袋部材の筒状部との間には隙間が設けられていることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項7】
前記移動部材と反対側で前記袋部材の底部を覆う保護部材をさらに備えることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項8】
前記移動部材は棒状であるとともに、前記複数の係合歯の少なくとも1つと係合する第1突起と、前記複数の係合歯の少なくとも1つと係合する第2突起を有し、前記第1突起と前記第2突起との間に、前記複数の係合歯のうちのいくつかとの干渉を回避するための凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載のシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、シートベルトとしてのウエビングの引き出しおよび巻き取りを行うシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両衝突時などの緊急時にウエビングの引き出しを阻止するシートベルト用リトラクタが知られている。シートベルト用リトラクタの中には、緊急時にウエビングの弛みを除去するためのプリテンショナを備えるものもある。
【0003】
プリテンショナとしては種々の構造のものがあるが、近年では、棒状の移動部材およびこの移動部材によって駆動される駆動輪を用いたプリテンショナが提案されている。例えば、特許文献1には、図10に示すようなシートベルト用リトラクタ100が開示されている。
【0004】
具体的に、シートベルト用リトラクタ100は、ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能な図略の巻取ドラム(特許文献1では「スプール」と称呼)と、車両の緊急時に巻取ドラムを巻取方向に回転させるプリテンショナ110を含む。
【0005】
プリテンショナ110は、巻取ドラムと共に回転する駆動輪(特許文献1では「リングギア」と称呼)130と、駆動輪130を収納する収納室120と、駆動輪130に隣接する位置で開口する末端部および図略のガス発生器が設けられた基端部を有する筒状の圧力容器140と、通常時に圧力容器140内に収納される棒状の移動部材150を含む。
【0006】
駆動輪130は、周方向に配列された径方向外向きに尖る複数の係合歯131を有する。移動部材150は、緊急時にガス発生器が発生するガスによって圧力容器140から押し出されながら係合歯131と係合して、駆動輪130をウエビングの巻取方向に回転させる。
【0007】
収納室120は、圧力容器140から押し出される移動部材150をガイドするガイド面121を有する。また、収納室120は、圧力容器140の側方に、移動部材150用の退避空間122を形成する。退避空間122には、移動部材150における駆動輪130との係合が解消された部分が配置される。
【0008】
また、特許文献2には、図11に示すように、棒状の移動部材の代わりに球状の移動部材240が採用されたプリテンショナ210を含むシートベルト用リトラクタ200が開示されている。具体的に、このシートベルト用リトラクタ200では、ハウジング220に円形状の収納室221が設けられ、収納室221内に駆動輪230(特許文献2では「スリーブ」と称呼)が収納されている。また、ハウジング220には、移動部材240を収納する収納穴222が設けられている。収納穴222内には、移動部材240の他に、折り畳まれた袋部材250とガス発生器260が収納されている。
【0009】
緊急時にガス発生器260がガスを発生すると、袋部材250が膨張して移動部材240を収納穴222から押し出し、移動部材240が駆動輪230の1つの係合歯と係合して当該係合歯を押圧するとともに袋部材250も駆動輪230の係合歯を押圧することで、駆動輪230がウエビングの巻取方向に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-214258号公報
【特許文献2】特開平11-255073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図10に示すシートベルト用リトラクタ100では、移動部材150の長さが駆動輪130の回転量に応じて長くなる。このため、圧力容器140の長さも長くなる。これに対し、図11に示すシートベルト用リトラクタ200では、球状の移動部材240が採用されているので、収納穴222の長さは短い。
【0012】
しかし、図11に示すシートベルト用リトラクタ200では、収納室221が円形状であるので、駆動輪230を、360度から係合歯のワンピッチを差し引いた角度の回転量までしか回転させることができない。駆動輪230の回転量を増大させるには、図10に示すシートベルト用リトラクタ100と同様に、収納室221の形状を例えば図11で上方に膨らむ長丸状にして駆動輪230の上方に移動部材240用の退避空間を形成するとともに、移動部材240を複数の球で構成することが考えられる。この場合、移動部材240の長さが長くなるため、収納穴222の代わりに圧力容器を採用し、その圧力容器内に移動部材240を構成する複数の球を収納することが好ましい。
【0013】
しかしながら、上記のようにシートベルト用リトラクタ200を改変した場合には、圧力容器内に移動部材240(複数の球)だけでなく袋部材250が収納される。袋部材250は折り畳まれた状態で圧力容器内に収納されるものの、袋部材250が折り畳まれていない状態の長さは移動部材240のストロークと同程度必要であり、折り畳まれた状態の袋部材250の長さもある程度長くなる。従って、その分圧力容器が長くなる。
【0014】
そこで、本発明は、駆動輪の回転量を一周近くまたはそれ以上とすることができ、かつ、圧力容器の長さを短くすることができるシートベルト用リトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は、ウエビングを巻き取る、ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能な巻取ドラムと、車両の緊急時に前記巻取ドラムを前記巻取方向に回転させるプリテンショナと、を備え、前記プリテンショナは、少なくとも緊急時に前記巻取ドラムと共に回転する、周方向に配列された径方向外向きに尖る複数の係合歯を有する駆動輪と、前記駆動輪に隣接する位置で開口する末端部、およびガス発生器が設けられた基端部を有する筒状の圧力容器と、通常時は前記圧力容器内に収納され、緊急時には前記ガス発生器が発生するガスによって前記圧力容器から押し出されながら前記複数の係合歯のうちの少なくとも1つと係合して、前記駆動輪を前記ウエビングの巻取方向に回転させる移動部材と、前記駆動輪を収納し、前記圧力容器から押し出される前記移動部材をガイドするガイド面を有するとともに、前記移動部材用の退避空間を形成する収納室と、前記圧力容器内で前記移動部材を収納し、前記移動部材を囲繞する筒状部、前記筒状部の一端から径方向外向きに広がって前記圧力容器の前記末端部に固定される先端部、および前記筒状部の他端に接続された、前記移動部材と当接可能な底部を有する袋部材と、を含み、前記移動部材は、前記複数の係合歯の2つ以上を前記ウエビングの巻取方向に押圧可能な長さを有し、緊急時に、前記ガス発生器が発生するガスによって前記袋部材の底部が押圧されて前記底部および前記筒状部が前記移動部材と共に移動しつつ、前記筒状部が前記一端から順に反転することを特徴とするシートベルト用リトラクタを提供する。
【0016】
上記の構成によれば、移動部材が係合歯の2つ以上を押圧可能な長さを有し、駆動輪を収納する収納室が移動部材用の退避空間を形成するので、駆動輪の回転量を一周近くまたはそれ以上とすることができる。さらに、圧力容器内で移動部材を収納する袋部材は筒状部および底部を含み、袋部材の筒状部が反転しながら移動部材が圧力容器から押し出されるので、折り畳んだ袋部材を圧力容器内に収納する場合に比べて、圧力容器の長さを短くすることができる。しかも、筒状部の長さが移動部材のストロークの半分程度となるので、袋部材の長さを短くすることができる。
【0017】
前記袋部材は、通常時の内側面を形成する初期内層と、通常時の外側面を形成する初期外層を含み、前記初期内層と前記初期外層とでは材質が異なってもよい。この構成によれば、初期内層および初期外層に、それらに適した異なる特性を付与することができる。
【0018】
前記初期内層は、前記初期外層よりも強度が高くてもよい。初期内層は筒状部が反転したときに外側となって駆動輪の係合歯と接触する。従って、初期内層の強度が初期外層の強度よりも高ければ、駆動輪による袋部材の破損を防止することができる。
【0019】
前記初期外層は、前記初期内層よりも耐熱性が高くてもよい。初期外層は、ガス発生器がガスを発生するときにそのガスと接触する。従って、初期外層の耐熱性が初期内層の耐熱性よりも高ければ、ガス発生器の出力を高く設定することができる。これにより、プリテンショナのウエビング引き込み力を高くすることができる。
【0020】
前記初期外層は、前記初期内層よりも摺動性が高くてもよい。ガス発生器がガスを発生するとき、初期外層は圧力容器の内周面と摺動する。従って、初期外層の摺動性が初期内層の摺動性よりも高ければ、圧力容器の内周面と袋部材の筒状部との間の摩擦抵抗を低減することができる。
【0021】
前記圧力容器の内周面と前記袋部材の筒状部との間には隙間が設けられてもよい。この構成によれば、ガス発生器が発生するガスを、圧力容器の内周面と前記袋部材との間の隙間を通じて袋部材の先端部または筒状部の反転部まで導くことができる。このため、袋部材の底部を、ガス発生器が発生するガスによって押圧するだけでなく、袋部材の先端部または筒状部の反転部にかかる圧力を利用して引き上げることができる。
【0022】
上記のシートベルト用リトラクタは、前記移動部材と反対側で前記袋部材の底部を覆う保護部材をさらに備えてもよい。この構成によれば、ガス発生器が発生するガスが袋部材の底部に直接当たらないので、袋部材に必要な耐熱性が低くなる。従って、袋部材の厚さやコストを低減することができる。
【0023】
前記移動部材は棒状であるとともに、前記複数の係合歯の少なくとも1つと係合する第1突起と、前記複数の係合歯の少なくとも1つと係合する第2突起を有し、前記第1突起と前記第2突起との間に、前記複数の係合歯のうちのいくつかとの干渉を回避するための凹部が形成されてもよい。この構成によれば、移動部材が全長に亘って一定の厚さの棒状である場合に比べて、筒状部の反転を進行し易くすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、駆動輪の回転量を一周近くまたはそれ以上とすることができるとともに、圧力容器の長さを短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るシートベルト用リトラクタの斜視図である。
図2】第1実施形態におけるプリテンショナの断面図である。
図3】圧力容器、袋部材および移動部材の要部を拡大した図である。
図4】駆動輪の斜視図である。
図5】(a)~(c)は、プリテンショナの動作を示す図である。
図6】(a)は図5(b)のVIA-VIA線に沿った断面図、(b)は図5(c)のVIB-VIB線に沿った断面図である。
図7】第2実施形態におけるプリテンショナの断面図である。
図8】(a)~(c)は、プリテンショナの動作を示す図である。
図9】その他の実施形態におけるプリテンショナの断面図である。
図10】従来のシートベルト用リトラクタのプリテンショナの断面図である。
図11】従来の別のシートベルト用リトラクタのプリテンショナの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1を示す。このシートベルト用リトラクタ1は、ハウジング11、巻取ドラム12およびプリテンショナ2を含む。
【0027】
ハウジング11は板金製であり、互いに対向する一対の側壁を含む。これらの側壁には、巻取ドラム12が挿通される開口がそれぞれ設けられている。巻取ドラム12は、ウエビング10を巻き取るものであり、ウエビング10の巻取方向と引出方向に回転可能である。
【0028】
プリテンショナ2は、車両の緊急時に巻取ドラム12を巻取方向に回転させる。図1および図2に示すように、プリテンショナ2は、駆動輪5と、緊急時に駆動輪5を駆動する移動部材7と、通常時に移動部材7を収納する筒状の圧力容器6と、駆動輪5および圧力容器6の一部を覆うカバー3を含む。
【0029】
駆動輪5は、少なくとも緊急時に巻取ドラム12と共に回転する。駆動輪5は巻取ドラム12と連結されて常に巻取ドラム12と共に回転してもよい。あるいは、緊急時のみ駆動輪5が巻取ドラム12と共にウエビングの巻取方向に回転するように、駆動輪5と巻取ドラム12との間にクラッチが設けられてもよい。クラッチが設けられる場合、例えば、駆動輪5が移動部材7によってウエビングの巻取方向に回転されて巻取ドラム12に対して所定角度だけ相対回転したときに、クラッチによって駆動輪5と巻取ドラム12とが一体回転可能となるように結合される。
【0030】
駆動輪5は、図4に示すように、周方向に配列された径方向外向きに尖る複数(本実施形態では、11歯)の係合歯51を有する。各係合歯51は、駆動輪5の回転軸に沿う方向を幅方向とするギヤ歯状の形状を有する。本実施形態では、各係合歯51の歯先52の中央に、駆動輪5の径方向内向きに窪む凹部53が形成されている。ただし、各係合歯51の歯先52の形状は適宜変更可能である。
【0031】
移動部材7は、本実施形態では、駆動輪5の軸方向と直交する面上での厚さが一定の棒状である。また、本実施形態では、図6(a)に示すように、移動部材7の断面形状が円形状である。ただし、移動部材7の断面形状は別の形状であってもよい。
【0032】
図2に示すように、本実施形態では、通常時に、移動部材7の全体が圧力容器6内に収納される。ただし、移動部材7の大部分が圧力容器6内に収納され、残部が圧力容器6から張り出してもよい。移動部材7は、圧力容器6内で袋部材8に収納される。
【0033】
圧力容器6は、駆動輪5に隣接する位置で開口する末端部61と、ガス発生器9が設けられた基端部62を有する。本実施形態では、ガス発生器9が基端部62内に挿入されている。袋部材8は、図3に示すように、先端部81、筒状部82および底部83を有する。袋部材8は、ガス発生器9がガスを発生するとき、ガスの圧力によって移動部材7を押圧して移動させ、駆動輪5を回転させるのに十分な気密性を有する。
【0034】
筒状部82は、本実施形態では移動部材7と同程度の長さを有し、移動部材7を囲繞する。先端部81は、筒状部82の一端(図3では下端)から径方向外向きに広がって圧力容器6の末端部61に気密性を有するように固定される。本実施形態では、先端部81が圧力容器6の末端部61を包み込むように折り返されている。ただし、先端部81は必ずしも折り返されている必要はなく、圧力容器6の軸方向と直交する方向にフラットであってもよい。
【0035】
本実施形態では、袋部材8の全体が、初期内層8aと初期外層8bを有する二層構造である。初期内層8aは通常時の内側面を形成し、初期外層8bは通常時の外側面を形成する。ただし、先端部81、筒状部82および底部83のうちの少なくとも1つは一層構造であってもよい。あるいは、先端部81、筒状部82および底部83のうちの少なくとも1つは、初期内層8aと初期外層8bとの間に中間層を有する三層構造であってもよい。
【0036】
初期内層8aと初期外層8bとでは、材質が異なることが望ましい。例えば、初期内層8aは初期外層8bよりも強度が高くてもよい。これを実現するには、例えば、初期内層8aを金属の線材やアラミド繊維の糸などで構成されたメッシュとし、初期外層8bをナイロン、ポリエステル、ポリアミドなどの樹脂で構成された織布または不織布とする。
【0037】
また、初期内層8aをナイロン、ポリエステル、ポリアミドなどの樹脂で構成された織布または不織布とし、初期外層8bを合成ゴムやシリコーン樹脂などで構成された被覆層としてもよい。
【0038】
また、初期外層8bは初期内層8aよりも耐熱性が高くてもよい。これを実現するには、例えば、初期内層8aをポリエステルなどの樹脂で構成された織布または不織布とし、初期外層8bをシリコーン樹脂で構成された被覆層としてもよい。
【0039】
また、初期外層8bは初期内層8aよりも摺動性が高くてもよい。これを実現するには、例えば、初期外層8bをポリエステルなどの樹脂で構成された織布または不織布とし、初期内層8aを金属の線材で構成されたメッシュとしてもよい。
【0040】
本実施形態では、筒状部82の外径が圧力容器6の内径よりも小さく設定されることで、圧力容器6の内周面と袋部材8の筒状部82との間に隙間65が設けられている。ただし、筒状部82の外径が圧力容器6の内径と等しくされ、隙間65が省略されてもよい。あるいは、移動部材7の周面に軸方向に延びる複数の溝が設けられ、これらの溝に筒状部82が部分的に嵌まり込むことで、圧力容器6の内周面と袋部材8の筒状部82との間に隙間65が設けられてもよい。
【0041】
底部83は、筒状部82の他端(図3では上端)に接続され、移動部材7と当接可能である。本実施形態では、袋部材8の底部83に接着剤などで移動部材7が固定される。ただし、底部83は移動部材7から離間してもよく、この場合には、移動部材7は少なくとも部分的に袋部材8の初期内層8aと接触するようにされ、移動部材7と袋部材8の初期内層8aとの摩擦によって、移動部材7が袋部材8内に保持されてもよい。
【0042】
移動部材7は、緊急時、ガス発生器9が発生するガスによって圧力容器6から押し出されながら駆動輪5の係合歯51のうちの少なくとも1つと係合して、駆動輪5をウエビング10の巻取方向に回転させる。移動部材7は、係合歯51の2つ以上をウエビング10の巻取方向に押圧可能な長さを有する。本実施形態では、移動部材7の長さが、駆動輪5の歯先円上での係合歯51の約6.7ピッチ分である。
【0043】
カバー3内には、当該カバー3の内側面に沿う略U字状のガイド部材31が配置されている。そして、カバー3とガイド部材31とによって、駆動輪5を収納する収納室4が形成されている。
【0044】
収納室4は、圧力容器6から押し出される移動部材7をガイドする半円状のガイド面41を有する。また、収納室4は、圧力容器6の側方に移動部材7用の退避空間42を形成する。より詳しくは、収納室4は、ガイド面41と連続する、圧力容器6の軸方向に平行な壁面43を有し、この壁面43と圧力容器6との間に退避空間42が形成される。
【0045】
ガイド面41と駆動輪5の歯先円との間の最小距離は、移動部材7の厚さよりも大きい。本実施形態では、移動部材7が係合歯51よりも軟質の材料で構成されており、係合歯51のうちの少なくとも1つと係合したときに、図5(a)および(b)、図6(a)に示すように、その係合歯51の食い込みによって塑性変形する。例えば、移動部材7の材質は、ナイロンやポリアセタールなどである。図6(a)に示すように、本実施形態では、各係合歯51の歯先52の中央に凹部53が形成されることで、係合歯51が移動部材7に食い込む量を係合歯の幅方向で均一化し易く、これにより係合歯51が移動部材7に食い込み易くなる。
【0046】
緊急時に、ガス発生器9がガスを発生すると、図5(a)および(b)に示すように、そのガスによって袋部材8の底部が押圧されて底部83および筒状部82が移動部材7と共に移動しつつ、筒状部82が一端から順に反転する。図6(b)に示すように、本実施形態では、各係合歯51の歯先52の中央に凹部53が形成されることで、袋部材8と歯先52との接触を均一化し易い。これにより、ガスの圧力によって袋部材8が部分的に強く歯先52と接触することが抑制され、袋部材8の破損が防止される。
【0047】
本実施形態では、圧力容器6の内周面と袋部材8の筒状部82との間に隙間65が設けられているので、ガス発生器9が発生するガスを、その隙間65を通じて袋部材8の先端部81または筒状部82の反転部まで導くことができる。このため、袋部材8の底部83を、ガス発生器9が発生するガスによって押圧するだけでなく、袋部材8の先端部81または筒状部82の反転部にかかる圧力を利用して引き上げることができる。
【0048】
移動部材7は、袋部材8の筒状部82の反転が他端に到達して袋部材8が完全にひっくり返るまで移動し、これにより駆動輪5は、約1.1回転(係合歯51で12歯分)する。このとき、図5(c)に示すように、退避空間42には、移動部材7における駆動輪5との係合が解消された部分が配置される。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1では、移動部材7が係合歯51の2つ以上を押圧可能な長さを有し、駆動輪5を収納する収納室4が移動部材7用の退避空間42を形成するので、駆動輪5の回転量を一周近くまたはそれ以上とすることができる。さらに、圧力容器6内で移動部材7を収納する袋部材8は筒状部82および底部83を含み、袋部材8の筒状部82が反転しながら移動部材7が圧力容器6から押し出されるので、折り畳んだ袋部材を圧力容器6内に収納する場合に比べて、圧力容器6の長さを短くすることができる。しかも、筒状部82の長さが移動部材7のストロークの半分程度となるので、袋部材8の長さを短くすることができる。
【0050】
また、本実施形態では、袋部材8の筒状部82および底部83の初期内層8aと初期外層8bとで材質が異なるため、初期内層8aおよび初期外層8bに、それらに適した異なる特性を付与することができる。
【0051】
初期内層8aは筒状部82が反転したときに外側となって駆動輪5の係合歯51と接触する。従って、初期内層8aの強度が初期外層8bの強度よりも高ければ、駆動輪5による袋部材8の破損を防止することができる。
【0052】
初期外層8bは、ガス発生器9がガスを発生するときにそのガスと接触する。従って、初期外層8bの耐熱性が初期内層8aの耐熱性よりも高ければ、ガス発生器9の出力を高く設定することができる。これにより、プリテンショナ2のウエビング引き込み力を高くすることができる。
【0053】
ガス発生器9がガスを発生するとき、初期外層8bは圧力容器6の内周面と摺動する。従って、初期外層8bの摺動性が初期内層8aの摺動性よりも高ければ、圧力容器6の内周面と袋部材8の筒状部82との間の摩擦抵抗を低減することができる。
【0054】
(第2実施形態)
図7に、本発明の第2実施形態に係るシートベルト用リトラクタのプリテンショナ2Aを示す。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0055】
本実施形態では、第1実施形態とは少し形状が異なる棒状の移動部材7Aが採用されている。この移動部材7Aは、駆動輪5の係合歯51の少なくとも1つと係合する第1突起71と、別の少なくとも1つの係合歯51と係合する第2突起72を有する。第1突起71と第2突起72との間には、図8(a)~(c)に示すように係合歯51のうちのいくつかとの干渉を回避するための凹部73が形成されている。
【0056】
本実施形態では、移動部材7Aの軸方向における第1突起71の長さが、隣り合う係合歯51の歯先52の間隔よりも小さく設定されており、第1突起71が1つの係合歯51のみと係合する。ただし、移動部材7Aの軸方向における第1突起71の長さが、隣り合う係合歯51の歯先52の間隔よりも大きく設定されており、第1突起71が2つの係合歯51と係合してもよい。この場合、第1実施形態と同様に、第1突起71が2つ目の係合歯51と係合したときにその係合歯51の食い込みによって塑性変形する。
【0057】
同様に、本実施形態では、移動部材7Aの軸方向における第2突起72の長さが、隣り合う係合歯51の歯先52の間隔よりも小さく設定されており、第2突起72が1つの係合歯51のみと係合する。ただし、移動部材7Aの軸方向における第2突起72の長さが、隣り合う係合歯51の歯先52の間隔よりも大きく設定されており、第2突起72が2つの係合歯51と係合してもよい。この場合、第1実施形態と同様に、第2突起72が2つ目の係合歯51と係合したときにその係合歯51の食い込みによって塑性変形する。
【0058】
本実施形態では、第1突起71と第2突起72の間の距離、換言すれば凹部73の長さが、駆動輪5の歯先円上での係合歯51の約5ピッチ分である。
【0059】
第1実施形態のように移動部材7が全長に亘って一定の厚さの棒状である場合には、筒状部82の既反転部と未反転部とが駆動輪5の係合歯51によって移動部材7に押し付けられるため、筒状部82の反転が進行し難いおそれがある。これに対し、本実施形態のように移動部材7Aに凹部73が形成されていれば、筒状部82の反転を進行し易くすることができる。
【0060】
また、本実施形態では、収納室4内の圧力容器6と壁面43との間にガイド部材44が設けられている。このガイド部材44は、駆動輪5に隣接する位置から圧力容器6の軸方向に沿って延びている。壁面43とガイド部材44との間には、移動部材7用の退避空間42Aが形成される。図8(c)に示すように、移動部材7における駆動輪5との係合が解消された部分が、ガイド部材44に沿って移動して退避空間42内に配置される。本実施形態では、退避空間42Aが圧力容器6と平行に形成されているが、退避空間42Aが圧力容器6に近づく方向や、離れる方向に延在していてもよい。
【0061】
第1実施形態では、退避空間42が圧力容器6に隣接する位置に形成されているため、収納室4をコンパクトにし易いが、本実施形態では、退避空間42Aが圧力容器6から離れた位置に設けられるので、退避空間42Aを自由に配置し易くなる。
【0062】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0063】
例えば、移動部材7(または7A)は、複数のピースで構成されてもよい。各ピースは、球状または棒を分割した形状であってもよい。あるいは、球状のピースと棒を分割した形状のピースとが組み合わされて使用されてもよい。移動部材7(または7A)が複数のピースで構成される場合、収納室4内には、駆動輪5との係合が解消したピースを収納室4の壁面43に沿って移動させるために、第2実施形態と同様にガイド部材44が設けられることが好ましい。
【0064】
また、例えば、袋部材8の全体が一層構造である場合、袋部材8が高温のガスにより軟化して反転し易くなるような樹脂で構成されてもよい。
【0065】
また、図9に示すプリテンショナ2Bのように、圧力容器6内には、移動部材7A(または7)と反対側で袋部材8の底部83を覆う保護部材85が配置されてもよい。この構成であれば、ガス発生器9が発生するガスが袋部材8の底部83に直接当たらないので、袋部材8に必要な耐熱性が低くなる。従って、袋部材8の厚さやコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 シートベルト用リトラクタ
10 ウエビング
12 巻取ドラム
2,2A,2B プリテンショナ
4 収納室
41 ガイド面
42,42A 退避空間
43 壁面
44 ガイド部材
5 駆動輪
51 係合歯
6 圧力容器
61 末端部
62 基端部
65 隙間
7,7A 移動部材
71 第1突起
72 第2突起
73 凹部
8 袋部材
81 先端部
82 筒状部
8a 初期内層
8b 初期外層
83 底部
85 保護部材
9 ガス発生器
図1
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