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特開2023-144523アトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144523
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/375 20060101AFI20231003BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A61K31/375
A61K31/365
A61P17/00
A61P37/08
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051537
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐原 俊矢
(72)【発明者】
【氏名】岩井 美樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】仲尾次 浩一
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和彦
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BA17
4C086BA18
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB13
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】 アトピー性皮膚炎を改善できるアトピー性皮膚炎改善剤などを提供することを課題とする。
【解決手段】 特定の分子構造を有するグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む、アトピー性皮膚炎改善剤などを提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む、アトピー性皮膚炎改善剤。
【化1】
【請求項2】
下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含み、インターロイキン33及びインターロイキン1の産生を抑制するための、インターロイキン産生抑制剤。
【化2】
【請求項3】
下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含み、インターロイキン33及びインターロイキン1遺伝子の発現を抑制するための、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚疾患は、かゆみを伴う湿疹が悪化及び改善を繰り返す慢性疾患であり、様々な原因が複雑に影響し合って発症すると考えられている。アトピー性皮膚疾患は、例えば、アレルギー反応を誘発する脂質メディエーターが産生されることによって、悪化すると考えられているが、アトピー性皮膚疾患が悪化する原因はこれだけではないと考えられている。
【0003】
従来、上記のごときアトピー性皮膚疾患を改善するための様々なアトピー性皮膚炎改善剤が知られている。
【0004】
この種のアトピー性皮膚炎改善剤としては、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)含有軟膏剤と、タクロリムス軟膏剤とを含むものが知られている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載のアトピー性皮膚炎改善剤は、アレルギー反応を誘発する脂質メディエーターの1種であるロイコトリエンB4の産生を抑制できることから、アトピー性皮膚疾患の症状を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-197471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アトピー性皮膚疾患を改善できる製剤については、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0008】
そこで、本発明は、アトピー性皮膚疾患を改善できるアトピー性皮膚炎改善剤、皮膚外用剤、及び、化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアトピー性皮膚炎改善剤は、下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含むことを特徴とする。
【化1】
【0010】
本発明に係るインターロイキン産生抑制剤は、上記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含み、インターロイキン33及びインターロイキン1の産生を抑制するためのものである。
【0011】
本発明に係るインターロイキン遺伝子発現の抑制剤は、上記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含み、インターロイキン33及びインターロイキン1遺伝子の発現を抑制するためのものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤によれば、アトピー性皮膚疾患を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】インターロイキン33(IL-33)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
図2】インターロイキン1α(IL-1α)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
図3】インターロイキン1β(IL-1β)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
図4】インターロイキン33(IL-33)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
図5】インターロイキン1α(IL-1α)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
図6】インターロイキン1β(IL-1β)の遺伝子発現に与える影響を評価した試験結果(in vitro試験)を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るアトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤(以下、単に製剤ともいう)の一実施形態について以下に説明する。
【0015】
本実施形態の製剤は、下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む。
【0016】
【化2】
【0017】
本実施形態の製剤は、上記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含むため、アトピー性皮膚疾患に関わる特定の炎症性サイトカインの産生の抑制作用を発揮できることから、アトピー性皮膚疾患を改善できる。
【0018】
上記式(I)で表される化合物は、2-O-グリセリル-6-ヘキサデカノイルアスコルビン酸と称される場合がある。
上記式(I)で表される化合物に類似する、2-O-グリセリル-6-エタノイルアスコルビン酸、2-O-グリセリル-6-ブタノイルアスコルビン酸、2-O-グリセリル-6-オクタノイルアスコルビン酸(2-O-グリセリル-6-(2-エチルヘキサノイル)アスコルビン酸)、2-O-グリセリル-6-テトラデカノイルアスコルビン酸、2-O-グリセリル-6-オクタデカノイルアスコルビン酸、又は、2-O-グリセリル-6-ドコサノイルアスコルビン酸などは、アトピー性皮膚疾患を必ずしも十分に改善できない。
【0019】
本実施形態の製剤は、式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含むため、表皮細胞の炎症刺激に対するサイトカインの産生を抑制できる。例えば、インターロイキン33(IL-33)、インターロイキン1(IL-1α若しくはIL-1β)などの特定のサイトカインの産生を抑制できる。これにより、アトピー性皮膚疾患を改善できる。
【0020】
インターロイキン33(IL-33)は、アレルギー疾患の病態に関与するサイトカインであり、皮膚のアレルギー疾患では特にアトピー性皮膚炎の病態を悪化させるサイトカインである。具体的には、インターロイキン33(IL-33)は、表皮細胞から産生されるサイトカインの1種であり、アトピー性皮膚炎患者の表皮細胞では過剰に発現する。詳しくは、インターロイキン33(IL-33)は、ヘルパーT細胞のTh2細胞や二型自然リンパ球(ILC2)を活性化し、インターロイキン4(IL-4)やインターロイキン13(IL-13)などのTh2サイトカインを誘導することから、アトピー性皮膚炎を中心とする2型の炎症反応を引き起こす。
インターロイキン1(IL-1)は、様々な炎症に関与する炎症性サイトカインであり、アトピー性皮膚炎の病態の悪化にも関わるサイトカインである。例えば、インターロイキン1(IL-1)は、様々な刺激に対して表皮細胞から産生されて、炎症を引き起こす。成熟したヘルパーT細胞におけるIL-1受容体は、Th2細胞のみに存在する。IL1によってTh2細胞が増殖し、アトピー性皮膚炎を発症又は悪化させ得る。
【0021】
本実施形態の製剤は、表皮細胞が産生する上記のごとき炎症性サイトカイン遺伝子の発現を抑制できるため、IL-33、IL-1α、IL-1βの遺伝子発現抑制剤でもある。
【0022】
上記の式(I)で表される化合物は、例えば特開2011-079772に記載された以下のような合成方法によって合成できる。
(中間体:2-O-グリセリルアスコルビン酸の合成)
アルゴン雰囲気下、L-アスコルビン酸と、炭酸水素ナトリウムとを水に加え、室温で30分撹拌し、さらにグリシドールを加える。加温して60℃として5時間撹拌を行う。メタノールを加え、ろ過し、ろ液を減圧下に濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付す。クロロホルム/メタノール/水=6/4/1で溶出し、減圧下にて濃縮を行い、2-O-グリセリルアスコルビン酸を得る。
(2-O-グリセリル-6-O-ヘキサデカノイルアスコルビン酸の合成)
アルゴン雰囲気下、合成した2-O-グリセリルアスコルビン酸にピリジンを加え、さらにn-ヘキサデカン酸無水物を加え、60℃で3時間撹拌を行う。その後、水を加え酢酸エチルにより抽出を行う。抽出液を減圧下にて濃縮し、得られた残渣134mgをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付す。クロロホルム/メタノール/水=7/3/0.3混液にて溶出して精製し、減圧下にて濃縮を行い、2-O-グリセリル-6-O-ヘキサデカノイルアスコルビン酸を得る。
【0023】
本実施形態の製剤において、上記の式(I)で表される化合物の総量の濃度は、例えば0.001質量%以上5質量%以下であってもよく、0.01質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
上記の含有濃度であることによって、アトピー性皮膚疾患をより改善できるという利点がある。
【0024】
上記の製剤は、通常、水を含み、上記の成分の他に、増粘剤、界面活性剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0025】
本実施形態の製剤の性状は、特に限定されないが、例えば液状である。本実施形態の製剤は、固形状であってもよい。
【0026】
本実施形態の製剤は、一般的な方法によって製造できる。
例えば、配合する各成分を混合し、撹拌することによって上記製剤を製造できる。撹拌するための装置としては、一般的なものを使用できる。必要に応じて、加温しつつ撹拌してもよい。
【0027】
上記の製剤は、皮膚外用剤(経皮投与剤)又は化粧料であることが好ましい。斯かる皮膚外用剤又は化粧料は、通常、皮膚に塗布されて使用される。上記の皮膚外用剤又は化粧料は、例えば、顔の皮膚、首の皮膚、四肢の皮膚、頭皮、毛髪、また、鼻孔・唇・耳・生殖器・肛門などにおける粘膜に塗布されて使用されてもよい。また、上記の皮膚外用剤又は化粧料は、入浴剤の用途で使用されてもよく、皮膚貼付剤の用途で使用されてもよい。
【0028】
本実施形態の製剤は、薬機法上の化粧品、医薬部外品、医薬品等の分類には必ずしも拘束されない。
【0029】
本発明のアトピー性皮膚炎改善剤、インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、一般の皮膚外用組成物や経口投与用組成物などにおいて採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【0030】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
下記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む、アトピー性皮膚炎改善剤。
【化3】
(2)
上記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む、インターロイキン産生抑制剤。
(3)
上記式(I)で表されるグリセリルアスコルビン酸アシル化誘導体を含む、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤。
【実施例0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(試験例1)
2-O-グリセリル-6-ヘキサデカノイルアスコルビン酸(式(I)で表される化合物)を水などの溶媒に溶解させることによって、各試験例の製剤(例えば、皮膚外用剤として使用可能)を製造した。
なお、濃度は、都度、10μM、20μMなどに設定した。
【0033】
(試験例2)
式(I)で表される化合物に代えて、2-O-グリセリル-6-ドデカノイルアスコルビン酸を用いた点以外は、試験例1と同様にして製剤を製造した。
(試験例3)
式(I)で表される化合物に代えて、2-O-グリセリル-6-テトラデカノイルアスコルビン酸を用いた点以外は、試験例1と同様にして製剤を製造した。
(試験例4)
式(I)で表される化合物に代えて、2-O-グリセリル-6-オクタデカノイルアスコルビン酸を用いた点以外は、試験例1と同様にして製剤を製造した。
(試験例5)
式(I)で表される化合物に代えて、アスコルビン酸を用いた点以外は、試験例1と同様にして製剤を製造した。
(試験例6)
式(I)で表される化合物に代えて、パルミチン酸アスコルビルを用いた点以外は、試験例1と同様にして製剤を製造した。
【0034】
<サイトカインの産生抑制に関する評価(in vitro試験)>
in vitro試験の詳細は、以下の通りである。
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK クラボウ社製)を12well plateに6×10個播種し、37℃、5%CO条件下で72時間培養した。培養培地を取り除いたうえで、下記の炎症刺激物質(最終濃度25ng/mL)と、上記試験例で用いた各化合物とを含む培地に交換し、さらに37℃、5%CO条件下で3時間培養した。その後、製品名「PureLink RNA Mini kit」(invitrogen社)の取扱説明書に従い、細胞からtotalRNAを精製し、試験キット「ReverTra AceTM qPCR RT Master Mix(TOYOBO社製)」を用いて精製したRNAをcDNAに逆転写した。上記cDNAについて、リアルタイムPCR法により、IL-33のmRNA発現量を定量評価した。内部標準補正としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を使用した。
なお、各試験例で用いた化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させてストックを作製した後、10~20μMの濃度となるように各試験例で用いた化合物を培地に溶解した。その際、DMSOの濃度は細胞毒性が出ない濃度(1%以下)になるように希釈した。
・炎症刺激物質(Phorbol12-myristate13-acetate)PMA
・ネガティブコントロール(NC PMA添加なし)
・ポジティブコントロール(ステロイド系抗炎症薬)
(Dexamethasone)DEX 濃度10μM
同様にして、インターロイキン1α(IL-1α)、及び、インターロイキン1β(IL-1β)についても評価を実施した。
【0035】
試験例1~4について、上記のサイトカインの産生抑制に関する評価に関するin vitro試験の結果を示すグラフを図1図3に示す。
試験例1、5、6について、上記のサイトカインの産生抑制に関する評価に関するin vitro試験の結果を示すグラフを図4図6に示す。
図1図6から把握されるように、2-O-グリセリル-6-ヘキサデカノイルアスコルビン酸を含む製剤によって、アトピー性皮膚疾患の悪化に強く関連する、サイトカイン遺伝子の発現が抑制された。
よって、本実施形態のアトピー性皮膚炎改善剤(インターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤)は、アトピー性皮膚疾患を改善させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアトピー性皮膚炎改善剤は、例えば、皮膚外用剤又は化粧料の用途で使用できる。本発明のインターロイキン産生抑制剤、及び、インターロイキン遺伝子発現の抑制剤は、例えば、アトピー性皮膚疾患による乾燥肌を予防軽減するため、又は、アトピー性皮膚疾患による炎症性の肌荒れを予防軽減するために、皮膚に適用されて使用される。本発明のアトピー性皮膚炎改善剤等は、例えば直接角質層に塗布され、医薬品、医薬部外品、又は化粧品等の用途で好適に使用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6