IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特開2023-144524軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品
<>
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図1
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図2A
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図2B
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図2C
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図3A
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図3B
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図4
  • 特開-軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144524
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20231003BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20231003BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231003BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231003BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
B22F3/00 B
H01F1/147
C22C38/00 303T
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051538
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松野 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 守
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 好孝
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 直樹
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC28
4K018CA02
4K018CA07
4K018CA08
4K018CA11
4K018GA04
4K018HA04
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA11
5E041BB03
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】直流重畳特性を向上させることができる軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品を提供すること。
【解決手段】元素Mを含む軟磁性粒子21と、軟磁性粒子21の相互間に存在して軟磁性粒子21の外周を覆う粒間領域31と、を有する軟磁性成形体12である。軟磁性成形体12の断面で、軟磁性粒子21の中心における元素Mの割合が、軟磁性成形体12を構成する軟磁性組成物中の元素Mの割合に対して、10%以上で70%以内の範囲内にある。軟磁性成形体12の断面で、軟磁性粒子21の周りに存在する粒間領域31の各周囲長の平均が5μm以上15.5μm以下の範囲内である。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素Mを含む軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の相互間に存在して前記軟磁性粒子の外周を覆う粒間領域と、を有する軟磁性成形体であって、
前記軟磁性成形体の断面で、前記軟磁性粒子の中心における前記元素Mの割合が、前記軟磁性成形体を構成する軟磁性組成物中の前記元素Mの割合に対して、10%以上で70%以内の範囲内にあり、
前記軟磁性成形体の断面で、前記軟磁性粒子の周りに存在する前記粒間領域の各周囲長の平均が5μm以上15.5μm以下の範囲内である軟磁性成形体。
【請求項2】
前記元素Mは、FeおよびSiよりもイオン化傾向の大きい元素を少なくとも1つ以上含む請求項1に記載の軟磁性成形体。
【請求項3】
前記粒間領域に含まれる前記元素Mの割合は、前記軟磁性粒子の中心における前記元素Mの割合よりも高い請求項1または2に記載の軟磁性成形体。
【請求項4】
前記粒間領域に含まれるSiの割合は、前記軟磁性粒子の中心におけるSiの割合よりも高い請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性成形体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性成形体を有する磁性コア。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性成形体を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば軟磁性粒子を加圧成形後に熱処理して得られる軟磁性成形体と、その軟磁性成形体を有する磁性コアおよび電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性体は、フェライトに比較して、高い飽和磁束密度が得られる利点がある。このような金属磁性体としては、Fe-Si-Al系合金やFe-Si-Cr系合金等が知られている。
【0003】
たとえば特許文献1では、軟磁性合金粒子の間の領域でのクロムやアルミニウムなどの元素に対するケイ素の質量比率の最大値を特定の範囲に設定している軟磁性組成物が開発され、コアロスを有効に低減している。
【0004】
近年では、このようにクロムやアルミニウムなどの元素を含む軟磁性成形体において、直流重畳特性の向上が課題になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-038923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、直流重畳特性を向上させることができる軟磁性成形体、磁性コアおよび電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る軟磁性成形体は、
元素Mを含む軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の相互間に存在して前記軟磁性粒子の外周を覆う粒間領域と、を有する軟磁性成形体であって、
前記軟磁性成形体の断面で、前記軟磁性粒子の中心における前記元素Mの割合が、前記軟磁性成形体を構成する軟磁性組成物中の前記元素Mの割合に対して、10%以上で70%以内の範囲内にあり、
前記軟磁性成形体の断面で、前記軟磁性粒子の周りに存在する前記粒間領域の各周囲長の平均が5μm以上15.5μm以下の範囲内である。
【0008】
本発明者等は、軟磁性成形体の直流重畳特性の向上について鋭意検討した結果、軟磁性粒子の中心における元素Mの割合が特定の範囲内であることと、軟磁性粒子の粒間領域の周囲長が特定の範囲内であることが重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
好ましくは、前記元素Mは、FeおよびSiよりもイオン化傾向の大きい元素を少なくとも1つ以上含む。
【0010】
好ましくは、前記粒間領域に含まれる前記元素Mの割合は、前記軟磁性粒子の中心における前記元素Mの割合よりも高い。
【0011】
好ましくは、前記粒間領域に含まれるSiの割合は、前記軟磁性粒子の中心におけるSiの割合よりも高い。
【0012】
本発明の磁性コアは、上記のいずれかに記載の軟磁性成形体を有する。
【0013】
本発明の電子部品は、上記のいずれかに記載の軟磁性成形体を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の一実施形態に係る軟磁性成形体からなる磁性コアの概略斜視図である。
図2A図2A図1に示す磁性コアの一部断面の拡大図である。
図2B図2Bは本発明の実施例に係る磁性コアの一部断面の顕微鏡撮影画像である。
図2C図2Cは本発明の比較例に係る磁性コアの一部断面の顕微鏡撮影画像である。
図3A図3A図2Aに示す軟磁性粒子の内接円と外接円を示す概略図である。
図3B図3B図2Cに示す顕微鏡写真を拡大して軟磁性粒子の内接円と外接円を書き込んだ撮影画像である。
図4図4図2Cに示す顕微鏡写真を拡大して隣接する10個の軟磁性粒子に外接円を書き込んだ撮影画像である。
図5図5図2Bに示す顕微鏡写真の一部を拡大して粒子の粒内領域と粒間領域の測定箇所を示す撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る磁性コア10は、トロイダル形状に成形してある軟磁性成形体12を有する。磁性コア(磁芯)10の形状としては、特に限定されず、トロイダル型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、ポット型、円筒形、角柱形などを例示することができる。この磁性コア10の一部には、単一または複数のワイヤなどが巻回されることでコイル装置などの電子部品などとして用いられる。
【0017】
本実施形態に係る磁性コア10の軟磁性成形体12は、図2Aに示すように、複数の軟磁性合金粒子(軟磁性粒子)21を有する。本実施形態では、隣り合う一方の軟磁性合金粒子21から他方の軟磁性合金粒子21までの領域を軟磁性合金粒子の粒間領域31と称し、粒子21の中心付近の領域を粒内領域と称する。なお、粒子21の中心とは、後述する粒子の内接円の中心として定義される。
【0018】
本実施形態では、軟磁性合金粒子21は、元素Mと鉄(Fe)を含む。特に限定されないが、本実施形態に係る軟磁性合金粒子21は、この他にケイ素(Si)、炭素(C)または亜鉛(Zn)を含んでもよい。
【0019】
元素Mは、ケイ素(Si)よりイオン化傾向が強い(大きい)。また、元素Mは、軟磁性合金粒子21の表面に酸化被膜を形成する傾向を有する。元素Mとしては、たとえばクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)が挙げられるが、鉄合金粒子への均一な酸化被膜の形成の観点から、クロム(Cr)またはアルミニウム(Al)が好ましい。また、元素Mとしては、一種類に限られず、複数の元素を用いてもよい。
【0020】
本実施形態に係る軟磁性成形体12を構成する軟磁性合金組成物(図2Aに示す粒子21と粒間領域31の双方を含む/以下同様)は、たとえば元素Mがクロム(Cr)の場合は、クロム(Cr)をCr換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成してある。また、本実施形態に係る軟磁性成形体12を構成する軟磁性合金組成物は、たとえば元素Mがアルミニウム(Al)の場合は、アルミニウム(Al)をAl換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~14質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成してある。
【0021】
軟磁性合金組成物におけるクロム(Cr)の含有量は、好ましくは、Cr換算で1~9質量%、さらに好ましくはCr換算で3~7質量%である。
【0022】
本実施形態に係る軟磁性合金組成物におけるアルミニウム(Al)の含有量は、好ましくは、Al換算で1~9質量%、さらに好ましくはAl換算で3~7質量%である。
【0023】
本実施形態に係る軟磁性合金組成物におけるケイ素(Si)の含有量は、好ましくはSi換算で0~9質量%であり、より好ましくは2~8.5質量%である。
【0024】
本実施形態に係る軟磁性合金組成物において、残部は、実質的に鉄(Fe)のみから構成されていてもよい。本実施形態に係る軟磁性体組成物は、上記の構成成分以外にも、炭素(C)および亜鉛(Zn)などの成分が含まれていてもよい。
【0025】
本実施形態に係る軟磁性体組成物では、炭素(C)の含有量は、好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.01~0.04質量%である。本実施形態に係る軟磁性体組成物では、亜鉛(Zn)の含有量は、好ましくは0.004~0.2質量%であり、より好ましくは0.01~0.2質量%である。なお、本実施形態に係る軟磁性体組成物には、上記成分以外にも、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0026】
本実施形態に係る粒間領域31は、軟磁性合金粒子21の相互間に存在して軟磁性合金粒子21の外周を覆うように構成してある。本実施形態では、アモルファス相が粒間領域31に存在してもよい。これにより、低いコアロスを達成できる。粒間領域31には、アモルファス相であるSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物が存在してもよい。
【0027】
なお、Si-M酸化物とは主にケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)で構成された酸化物である。Si-M酸化物には、ケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)以外の元素が、ケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)の合計質量100質量%に対して合計で0.1質量%未満含まれていてもよい。
【0028】
また、Si-M複合酸化物はケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)を含むと共に、さらにこれら3成分(Si,MおよびO)以外の元素を含む。Si-M酸化物またはSi-M複合酸化物に含まれる3成分(Si,元素MおよびO)以外の元素としては、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)または銅(Cu)が挙げられる。
【0029】
本実施形態では、粒間領域31には、軟磁性合金粒子21に含有される元素に由来しないケイ素(Si)を含んでもよい。軟磁性合金粒子21に含有される元素に由来しないケイ素(Si)としては、特に限定されないが、たとえば、結合材として用いられるシリコーン樹脂に含まれるケイ素(Si)に由来すると考えられる。
【0030】
本実施形態では、図2A(実際の顕微鏡写真は図5に示す)に示す粒間領域31の所定位置O2に含まれる元素Mの割合(質量%)M2は、その粒間領域31に接する軟磁性合金粒子21の中心O1における元素Mの割合(質量%)M1よりも高い。たとえば割合の比率M2/M1は、好ましくは、20以上である。
【0031】
また、本実施形態では、軟磁性合金粒子21の中心O1における元素Mの割合(質量%)M1は、軟磁性成形体12を構成する軟磁性組成物中の元素Mの割合(質量%)M0に対して、10%以上で70%以内、好ましくは10%以上で50%以内、さらに好ましくは10%以上で45%以内の範囲内である。
【0032】
さらに、粒間領域31の所定位置O2に含まれるSiの割合S2は、軟磁性合金粒子21の中心O1におけるSiの割合S1よりも高くても低くてもよいが、高いことが好ましい。たとえば割合の比率S2/S1は、好ましくは0.1以上、さらに好ましくは3以上である。
【0033】
粒間領域31の所定位置O2は、粒間領域31の内部であれば、いずれの位置でもよいが、たとえば隣接する2つまたは3つの軟磁性合金粒子21から等距離にある位置などが測定位置として選択される。また、軟磁性合金粒子21の中心O1は、測定された粒間領域31に隣接するいずれの軟磁性合金粒子21の中心O1でもよい。
【0034】
中心は、たとえば図3A図3B)に示すように、測定対象となる軟磁性合金粒子21の断面形状に合わせて、仮想の内接円C1と外接円C2とを描き、内接円C1の中心を、軟磁性合金粒子21の中心O1とする。内接円C1は、粒子21の外縁を示す線に接触する内接円の内の最大径D1を持つ円として定義され、外接円C2は、粒子21の外縁を示す線に接触する外接円の内の最小径D2を持つ円として定義される。
【0035】
なお、図2A図5)に示すように、軟磁性合金粒子21の中心位置O1の組成と、粒間領域31の所定位置O2の組成とについては、たとえばFE-SEMに付属の十分に分解能が高いEDS装置を用いて、EDS分析を行うことで測定することができる。また、軟磁性成形体12を構成する軟磁性組成物における元素Mの割合(質量%)は、たとえば以下のようにして求めることができ、軟磁性成形体12を構成する原料組成中の元素Mの割合(質量%)と一致する。
【0036】
たとえば軟磁性成形体12を構成する軟磁性組成物における元素Mの割合(質量%)は、軟磁性成形体12のサンプルの少なくとも10質量%の破砕品を、堀場製作所製 Ultima Expertなどの分析装置によりプラズマ発光分析法で分析することで得られる。
【0037】
図2Aに示すように、本実施形態では、軟磁性成形体12の断面で、軟磁性粒子21の周りに存在する粒間領域31の各周囲長の平均が、5μm以上15.5μm以下、好ましくは5μm以上15μm以下、さらに好ましくは5μm以上12μm以下の範囲内である。粒間領域31の各周囲長の平均の計算は、以下のようにして行うことができる。
【0038】
まず、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて軟磁性成形体12の断面を観察することにより、軟磁性合金粒子21と軟磁性合金粒子21の間の領域31とを判別する。具体的には、軟磁性成形体12の断面をFE-SEMにより撮影し、たとえば図2Bまたは図2Cに示すように、反射電子像を得る。
【0039】
この反射電子像において軟磁性合金粒子21の相互間に存在し、軟磁性合金粒子21とは異なるコントラストを有する領域を軟磁性合金粒子21の間の粒間領域31とする。異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。図2Bまたは図2Cでは、粒子状に観察される明度が高い領域が軟磁性合金粒子21と判断することができ、明度が低く暗い領域が、粒間領域31と判断することができる。
【0040】
次に、たとえば図4に示すように、FE-SEMを用いて得られた軟磁性成形体12の断面の観察範囲において、断面中の互いに隣接する10個の軟磁性合金粒子21を選択する。FE-SEMを用いて得られた軟磁性成形体12の断面の観察範囲は、少なくとも10個以上、好ましくは30個以上の軟磁性合金粒子21が観察される範囲とする。
【0041】
観察範囲内で、互いに隣接する10個の軟磁性合金粒子21について、個々の粒子21の周囲長を算出し、これらの平均値を、粒間領域31の周囲長の平均として定義することができる。個々の粒子21の周囲長は、図3Aに示すように、選択された各粒子21の断面について、仮想の内接円C1と外接円C2とを描き、内接円C1の周長(π×D1)と外接円C2の周長(π×D2)との平均(π×(D1+D2)/2)を各粒子21の周囲長として測定することができる。個々の軟磁性合金粒子21は、周囲長の平均が所定範囲内の粒間領域31で覆われている。
【0042】
本実施形態では、二つの粒子21のみで挟まれる二粒界の粒間領域31の幅は、好ましくは1μm以下程度に薄く、好ましくは0.01~0.3μmである。粒間領域31の幅は、FE-SEMを用いて得られた軟磁性成形体12の観察範囲内の断面で、二つの粒子21のみで挟まれる二粒界の粒間領域31と判断された部分の幅の最大値として求めることができる。二粒界の各接線間の幅であり、故意に斜めに横切った幅は該当しない。本実施形態では、3つの粒子31で取り囲まれる3重点の粒間領域31に関しては、粒間領域31の幅の定義に入らないことにする。
【0043】
本実施形態の軟磁性成形体12の表面には、被覆層が形成してあってもよい。被覆層の材質としては、特に制限されず、たとえばガラス組成物、SiO2 、B2 3 、ZrO2 または樹脂などが例示される。なお、被覆層は複数の材質から構成されていてもよいし、複数の層からなる積層構造を有していてもよい。被覆層は、たとえば、軟磁性成形体12の表面の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【0044】
次に、本実施形態に係る軟磁性成形体12の製造方法の一例を説明する。
【0045】
本実施形態の軟磁性成形体12は、軟磁性合金粉末と、結合材(バインダ樹脂)とを含む加圧成形体を熱処理することにより、作製することができる。以下、本実施形態のコアの好ましい製造方法につき、詳述する。
【0046】
本実施形態に係る製造方法では、まず、軟磁性合金粉末と、結合材とを混合し、混合物を得る。次に、混合物を乾燥させて、造粒粉を形成する。次に、混合物または造粒粉を、作製すべき軟磁性成形体12の形状に成形し、予備成形体を得る。その後に、得られた予備成形体を熱処理することにより、軟磁性成形体を得る。
【0047】
軟磁性合金粉末としては、クロム(Cr)をCr換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成された合金粉末を用いることができる。軟磁性合金粉末の形状は特に制限はないが、高い磁界域までインダクタンスを維持する観点から、球状または楕円体状とすることが好ましい。これらの中では、コアの強度をより大きくする観点から、楕円体状が望ましい。また、軟磁性合金粉末の平均粒径は、好ましくは1~8μmであり、より好ましくは、2~5μmである。
【0048】
軟磁性合金粉末は、公知の軟磁性合金粉末の調製方法と同様の方法により得ることができる。この際、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて調製することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性合金粉末を作製しやすくするため、水アトマイズ法が好ましい。
【0049】
結合材としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、水ガラス、などが用いられるが、好ましくはシリコーン樹脂を用いる。結合材としてシリコーン樹脂を用いることにより、軟磁性合金粒子21の粒間領域31に、軟磁性合金粒子21に含有される元素に由来しないケイ素(Si)が効果的に含まれる。その結果、軟磁性合金粒子21の間の領域31に、アモルファス相が形成され易くなる。結合材の添加量は、必要とされるコアの特性に応じて異なるが、好ましくは軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.2~10質量%添加することができる。
【0050】
また、前記混合物または造粒粉には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒としては、結合材を溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、酢酸エチルなどの各種溶媒が挙げられる。また、前記混合物または造粒粉には、必要に応じて各種添加剤、潤滑剤、可塑剤、チキソ剤などを添加してもよい。
【0051】
混合物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の方法により、軟磁性合金粉末と結合材と有機溶媒とを混合して得られる。なお、必要に応じて各種添加材を添加してもよい。混合に際しては、例えば、加圧ニーダ、アタライタ、振動ミル、ボールミル、Vミキサー等の混合機や、流動造粒機、転動造粒機等の造粒機を用いることができる。また、混合処理の温度および時間としては、好ましくは室温で1~30分間程度である。
【0052】
造粒粉を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法により、混合物を乾燥して得られる。乾燥処理の温度および時間としては、好ましくは室温~200°C程度で、1~60分間である。必要に応じて、造粒粉には、潤滑剤を添加することができる。造粒粉に潤滑剤を添加した後、1~60分間混合することが望ましい。
【0053】
予備成形体を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法により、所望する形状のキャビティを有する成形金型を用い、そのキャビティ内に混合物または造粒粉を充填し、所定の成形温度および所定の成形圧力でその混合物を圧縮成形することが好ましい。
【0054】
圧縮成形における成形条件は特に限定されず、軟磁性合金粉末の形状および寸法や、磁性コアの形状、寸法および密度などに応じて適宜決定すればよい。たとえば、通常、最大圧力は100~1000MPa程度、好ましくは400~800MPa程度とし、最大圧力に保持する時間は0.5秒間~1分間程度とする。成形温度は、特に限定されないが、通常、室温~200°C程度が好ましい。
【0055】
次に成形後に得られる成形体を熱処理して軟磁性成形体を得る(熱処理工程)。熱処理工程の保持温度は、特に限定されないが、通常、600~900°C程度が好ましい。熱処理工程の昇温速度は、特に限定されないが、成形体を加熱開始後短時間で保持温度に達成することが好ましい。具体的には、炉内の予備成形体の近傍の実際の温度を5~50°C/分の範囲内の速さで加熱することが好ましい。
【0056】
熱処理工程の上記の加熱法としては、特に限定されないが、たとえば1平方メートルの面積中に予備成形体500gを1層積みで積載し、好ましくは最高保持温度まで速度8°C/分以上の速度で昇温する。
【0057】
熱処理工程の雰囲気は、特に限定されないが、酸素含有雰囲気下にて行うことが好ましい。ここで、酸素含有雰囲気とは、特に限定されるものではないが、大気雰囲気(通常、20.95%の酸素を含む)、または、アルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられる。なお、アルゴンや窒素等の不活性ガスの下にて行ってもよい。
【0058】
次に、得られた軟磁性成形体に対して、必要に応じて、その表面に、ガラス組成物、バインダ樹脂等から構成される熱処理前の被覆層を形成する。このようにして得られた軟磁性成形体12を磁性コア10として用いることができる。
【0059】
本実施形態では、図2Aに示す軟磁性合金粒子21の中心O1における元素Mの割合が特定の範囲内であることと、軟磁性合金粒子21の粒間領域31の周囲長が特定の範囲内である。本実施形態の軟磁性成形体12では、直流重畳特性を向上させることができる。また、チッピング率の低減も図ることが可能になり、製造時の不良率が低減することができると共に、使用時の耐衝撃性が向上する。さらに、本実施形態の軟磁性成形体12では、耐電圧、絶縁抵抗および曲げ強度も向上する。
【0060】
本実施形態に係る軟磁性成形体の用途は特に限定されず、たとえば、磁性コアなどとして利用され、インダクタ、トランス、チョークコイル、スイッチング電源、DC-DCコンバーター、ノイズフィルター、リアクタなどの各種電子部品の一部として、好適に用いることができる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々に改変することができる。
【0062】
たとえば、上述した実施形態では、混合物または造粒粉を圧粉成形することで軟磁性成形体からなる磁性コアを製造しているが、上記混合物をシート状成形して軟磁性成形体を製造し、これらを積層することにより磁性コアを製造してもよい。また、乾式成形の他、湿式成形、押出成形などにより熱処理前の予備成形体を得てもよい。
【0063】
上述した実施形態では、軟磁性体組成物の粒界にケイ素(Si)を含有する層を形成するため、結合材としてシリコーン樹脂を用いているが、シリコーン樹脂に代えて、添加剤としてシリカゲルやシリカ粒子等のケイ素(Si)含有成分を用いてもよい。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0065】
実施例1
[軟磁性合金粉末の調製]
【0066】
鉄(Fe)単体、クロム(Cr)単体およびケイ素(Si)単体のインゴット、チャンク(塊)、またはショット(粒子)を準備した。次に、それらをクロム(Cr)4質量%、ケイ素(Si)5質量%および残部鉄(Fe)の組成となるように混合して、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。次いで、不活性雰囲気中、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600°C以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して融液を得た。
【0067】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、ルツボ内の融液を噴出すると同時に、噴出した融液に高圧(50MPa)水流を衝突させて急冷することにより、Fe-Si-Cr系粒子からなる軟磁性合金粉末(平均粒径;4μm)を作製した。
【0068】
[軟磁性成形体の作製]
得られた軟磁性合金粉末100質量%に対し、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコ-ン(株)製:SR2414LV)4質量%を添加し、これらを加圧ニーダにより室温で30分間混合した。次いで、混合物を空気中において150°Cで20分間乾燥した。乾燥後の軟磁性合金粉末に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成製:ジンクステアレート)を添加し、Vミキサーにより10分間混合した。ステアリン酸亜鉛の添加量は、軟磁性合金粉末100質量%に対して0.5質量%であった。
【0069】
続いて、得られた混合物を、外径18mm×内径10mm×厚さ5mmのトロイダルサンプルに成形し、予備成形体を作製した。なお、成形圧は600MPaとした。
【0070】
1平方メートルの面積中に予備成形体500gを1層積みで積載し、最高保持温度まで速度8°C/分以上の速度で昇温し、保持温度700~800°Cで、大気中で60分間保持して、軟磁性成形体12を得た。このトロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルについて、前述した方法により組成分析を行い、軟磁性成形体12の組成分析を行ったところ、原料粉末の組成と一致することが確認できた。軟磁性成形体12を構成する軟磁性合金組成物における元素MとしてのCrの割合M0は、FeとCrとOとSiの合計を100質量%として、4質量%であった。
【0071】
また、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルの一部を切断し、その断面について、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察し、図2Aに示すように、「軟磁性合金粒子21」と「軟磁性合金粒子の間の粒間領域31」との判別を行った。
【0072】
次に、断面写真内の隣接する10個の軟磁性合金粒子21の中心O1について、EDS装置を用いて、それぞれEDS分析を行い、FeとCrとOとSiの合計を100質量%として、元素MとしてのCrの質量%をそれぞれ求め、それらの平均を求めた。その平均値を、軟磁性合金粒子21の中心O1における元素M(Cr)の割合(質量%)M1とした。元素Mの割合(質量%)M1を、前述した組成物中の元素M(Cr)の割合M0で割り算した値(M1/M0)のパーセント表記を、表1に示す。
【0073】
また、断面写真内の隣接する10個の軟磁性合金粒子21の中心O1と、各粒子21を取り囲む粒間領域31のランダムな10点での所定位置O2とで、FeとCrとOとSiの組成分析を行った。結果を表2に示す。
【0074】
また、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルについて、以下の測定を行った。
【0075】
<直流重畳特性:Idc10A>
トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルに銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、10Aの直流電流を印加したときの透磁率μ1をLCRメーター(HEWLETT PACKARD社製4284A)を用いて測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度25°Cとした。得られた測定値から100×μ1/μ0(%)を求め、Hdc 4.9A/m相当とした。なお、μ0は、直流電流を印加する前の透磁率である。結果を表1に示す。
【0076】
<チッピング率>
チッピング率は、以下の方法で求めた。3個のサンプルについて、試験前の合計重量(W1)を測定した。次に、3個のサンプルを、内部に邪魔板を有する直径約10cmのポット(ラトラ試験機)に入れた。そして、回転数100rpm、回転時間10分で3個のサンプルをポット内で転がした。その後、3個のサンプルの試験終了後の重量(W2)を測定した。3個のサンプルの試験前後での重量の減少率を求め、これをチッピング率とした。すなわち、チッピング率(%)は下記式(1)により算出した。
チッピング率(%)=100×(W1-W2)/W1 ・・・式(1)
【0077】
比較例1
周囲長とM1/M0を表1に示す値に変化させるために、Fe-Si-Cr系粒子からなる軟磁性合金粉末の平均粒径が小さい原料粉末を用い、熱処理条件として、昇温速度を2°C/分に変化させた以外は、実施例1と同様にして、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルを作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例2、5および比較例2~6
周囲長とM1/M0を表1に示す値に変化させるために、Fe-Si-Cr系粒子からなる軟磁性合金粉末の平均粒径が徐々に大きい原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルを作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。なお、実施例5のFE-SEM画像を図2Bおよび図5に示し、比較例3のFE-SEM画像を図2C図3Bおよび図4に示す。
【0079】
実施例3
元素Mとして、Crの代わりにAlを用いた以外は、実施例2と同様にして、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルを作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例4
シリコーン樹脂の代わりにエポキシ樹脂を用いた以外は、実施例2と同様にして、トロイダル形状の軟磁性成形体12のサンプルを作製し、同様な測定を行った。結果を表1および表2に示す。
【0081】
[各種評価]
表1に示すように、周囲長およびM1/M0が所定の範囲内である各実施例のサンプルでは、直流重畳特性に優れ、しかもチッピング率が低いことが確認された。また、実施例では、曲げ強度、耐電圧および絶縁抵抗も良好であることが確認できた。
【0082】
すなわち、実施例の軟磁性成形体は、たとえば磁性コアや磁性コアを用いた電子部品などに好ましく用いられることが確認できた。なお、Idc10Aは、好ましくは90以上であり、さらに順次好ましくは91以上、92以上、93以上、95以上である。また、チッピング率は、好ましくは0.20以下であり、さらに好ましくは0.19以下である。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【符号の説明】
【0085】
10…磁性コア
21… 軟磁性合金粒子(軟磁性粒子)
31… 粒間領域
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5