(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144531
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】切削工具用超硬合金および該合金を用いた切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/02 20060101AFI20231003BHJP
C22C 1/051 20230101ALI20231003BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231003BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22C29/02 A
C22C1/05 G
B22F3/24 102A
B23B27/14 B
B23B27/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051547
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】河原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一樹
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF19
3C046FF25
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF43
3C046FF44
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF53
3C046FF57
4K018AB02
4K018AB03
4K018AC01
4K018AD03
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC33
4K018CA02
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA06
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐欠損性と耐塑性変形性が向上した切削工具用超硬合金の提供。
【解決手段】CoとNiの少なくとも1種を6.0~11.0質量%、CrをCr
3C
2に換算して0.1~0.6質量%、TiをTiNに換算して1.0~5.0質量%、M(MはTa、Nb、Zr、Hf、Vの1種以上)をMCに換算して1.0~5.0質量%含有し、残部がWC1と不可避的不純物からなり、第1固溶体相2、第2固溶体相3および結合相4を有し、WC、第1固溶体相および第2固溶体相を結合相が結合し、WCの平均粒径r1が、1.50~3.50μmであり、第1固溶体相は、TiNを含み、その平均粒径をr2μmとしたとき、r2/r1が、0.40~0.60で、第2固溶体相は、MCとMCの窒化物を含み、その平均粒径をr3μmとしたとき、r3/r1が0.05~35で、結合相は、CoとNiの1種以上を含む切削工具用超硬合金。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具用超硬合金であって、
CoとNiの少なくとも1種を6.0質量%以上、11.0質量%以下、
CrをCr3C2に換算して0.1質量%以上、0.6質量%以下、
TiをTiNに換算して1.0質量%以上、5.0質量%以下、および、
M(Mは、Ta、Nb、Zr、Hf、Vの少なくとも1種)をMCと換算して1.0質量%以上、5.0質量%以下含有し、
残部がWCと不可避的不純物からなり、
第1固溶体相、第2固溶体相、および、結合相を有し、
前記WC、前記第1固溶体相、および、前記第2固溶体相を前記結合相が結合し、
前記WCの平均粒径r1が、1.50μm以上、3.50μm以下であり、
前記第1固溶体相は、前記TiNを含み、その平均粒径をr2μmとしたとき、r2/r1が、0.40以上、0.60以下であり、
前記第2固溶体相は、前記MCおよび前記MCの窒化物を含み、その平均粒径をr3μmとしたとき、r3/r1が0.05以上、0.35以下であり、
前記結合相は、前記Coと前記Niの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする切削工具用超硬合金。
【請求項2】
前記r2に対する前記r3の比、r3/r2が0.10以上、0.60以下であることを特徴とする請求項1に記載された切削工具用超硬合金。
【請求項3】
前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれがWCと接する界面長さ、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さ、および、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが前記第1固溶体相と前記第2固溶体相と接する界面長さの和に対して、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さの占める割合(R)が25%以上、45%以下を占める
ことを特徴とする請求項1または2に記載された切削工具用超硬合金。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の切削工具用超硬合金を用いたことを特徴とする切削工具。
【請求項5】
切れ刃に、被覆層を設けていることを特徴とする請求項4に記載された切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用超硬合金および該合金を用いた切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の切削加工には、硬度が高く耐摩耗性に優れた超硬合金(WC基超硬合金)製切削工具が使用されている。しかし、切削条件によっては、強度不足が生じることがあり、この強度不足を補うために切削工具用超硬合金の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Wと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Moの中の少なくとも1種とを含有してなる複合炭化物および/または複合炭窒化物のBl型固溶体と炭化タングステンとでなる硬質相75~95mass%と、残りNiおよび/またはCoを主成分とする結合相と不可避不純物とからなり、該硬質相は0.5μm以下の細粒が該硬質相全体の20vol%以下および4.0μm以上の粗粒が該硬質相全体の20vol%以下で、しかも該硬質相の平均粒径が1~3μmであり、かつ該硬質相中の該炭化タングステンの平均粒径と該Bl型固溶体の平均粒径との比が0.8~1.2である超硬合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情や提案を鑑みてなされたものであって、切削工具として用いたときに、耐欠損性と耐塑性変形性が向上した切削工具用超硬合金の提供を目的とする。
【0006】
また、本発明は、前記切削工具用超硬合金を切削工具として用いたとき、特に、フライス加工において、耐欠損性と耐塑性変形性が向上した切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る切削工具用超硬合金は、
CoとNiの少なくとも1種を6.0質量%以上、11.0質量%以下、
CrをCr3C2に換算して0.1質量%以上、0.6質量%以下、
TiをTiNに換算して1.0質量%以上、5.0質量%以下、および、
M(Mは、Ta、Nb、Zr、Hf、Vの少なくとも1種)をMCと換算して1.0質量%以上、5.0質量%以下含有し、
残部がWCと不可避的不純物からなり、
WC、第1固溶体相、第2固溶体相、および、結合相を有し、
前記WC、前記第1固溶体相、および、前記第2固溶体相を前記結合相が結合し、
前記WCの平均粒径r1が、1.50μm以上、3.50μm以下であり、
前記第1固溶体相は、前記TiNを含み、その平均粒径をr2μmとしたとき、r2/r1が、0.40以上、0.60以下であり、
前記第2固溶体相は、前記MCおよび前記MCの窒化物を含み、その平均粒径をr3μmとしたとき、r3/r1が0.05以上、0.35以下であり、
前記結合相は、前記Coと前記Niの少なくとも1種を含む。
【0008】
前記切削工具用超硬合金について、次の(1)~(3)の一つ以上を満足してもよい。
【0009】
(1)前記r2に対する前記r3の比、r3/r2が0.10以上、0.60以下であること。
(2)前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれがWCと接する界面長さ、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さ、および、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが前記第1固溶体相と前記第2固溶体相と接する界面長さの和に対して、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さの占める割合(R)が25%以上、45%以下を占めること。
(3)前記切削工具用超硬合金を用いた切削工具切れ刃に、被覆層を設けること。
【発明の効果】
【0010】
前記切削工具用超硬合金は、耐塑性変形性が向上しており、切削工具として用いたとき耐欠損性、耐塑性変形性が向上し優れた耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る切削工具用超硬合金におけるスケルトン構造の模式図である。
【
図2】切刃の逃げ面塑性変形量の一例を示す模式図である。なお、上図(すくい面)は平面図、下図(逃げ面)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、切削加工、特に、フライス切削加工において、耐塑性変形性を向上させた切削工具用超硬合金を得るために検討を行った。例えば、当該合金において、硬質相の平均粒径を小さくし、結合相の占める割合を減らせば、硬さは向上し、耐塑性変形性が向上するものの、耐欠損性が足りず、一方、硬質相の平均粒径を大きくし、結合相の占める割合を増やすと、耐欠損性が上がるものの、耐塑性変形性が足りず、十分な耐久性を有しないことが判明した。
【0013】
そこで、検討を更に行ったところ、切削工具用超硬合金において硬質相としてWCと二種の固溶体相(第1固溶体相と第2固溶体相)を有する組織では、
WCと第1固溶体相の平均粒径の比が適切な範囲にあれば、強固なスケルトン構造が形成され、耐塑性変形性を強化すること、
そして、WCと第2固溶体相の平均粒径比が別の適切な範囲にあり、かつ、第2固溶体相が適切に分散していれば、硬質相と結合相の界面長が増えることによって、進展した亀裂が硬質相を迂回して結合相を経由する確率を高め、切削工具として用いたときの耐欠損性を向上させるとの新規な知見を得た。
【0014】
以下、本発明の切削工具用超硬合金(以下、超硬合金ということがある)および該超硬合金を用いた切削工具、特に、切削工具のミーリングカッターとして用いられる実施形態を中心にして、説明する。
【0015】
なお、本明細書、特許請求の範囲において、数値範囲を「M~N」(M、Nは共に数値)を用いて表現する場合、「M以上、N以下」と同義であって、その範囲は上限(N)および下限(M)の数値を含むものとし、上限値(N)のみに単位が記載されているときは、下限値(M)の単位も上限値(N)と同じ単位である。
【0016】
1.切削工具用超硬合金の組成
本実施形態に係る切削工具用超硬合金の組成の詳細は、次のとおりである。
【0017】
(1)CoとNi
CoとNiの1種以上の合計含有量は、6.0質量%以上、11.0質量%以下であることが好ましい。
その理由は、6.0質量%未満であると切削工具として用いたときに十分な靱性を確保できず、耐欠損性が損なわれ、一方、11.0質量%を超えると十分な硬さを確保できず、耐塑性変形性が低下するためである。
この合計含有量は、6.5質量%以上9.0質量%以下がより好ましい。
【0018】
ここで、CoとNiは、主に結合相に存在し、結合相の主成分、すなわち、結合相を構成する全ての成分に対して、CoとNiの1種以上が合計で50原子%以上を占めている。
【0019】
結合相中には、硬質相の成分であるWやC、その他の不可避的不純物が含まれていてもよい。さらに、結合相は、Cr、Ti、MCのMとして添加するTa、Nb、Zr、Hf、Vの1種以上を含んでいてもよい。これら元素が結合相中に存在するときは、結合相に固溶した状態であると推定される。
【0020】
(2)Cr
Crは、結合相中に固溶し、硬質相に含まれるWCの成長を抑制し、WCを微細化させ、超硬合金を微粒・均粒組織とし、耐塑性変形性を向上させる働きがある。
そこで、CrをCr3C2に換算して0.1質量%以上、0.6質量%以下含有することが好ましい。その理由は、0.1質量%未満であると、結合相の強化が十分ではなく、満足する耐塑性変形性を得ることができず、一方、0.6質量%を超えると欠損が発生しやすくなるためである。
Cr3C2の含有量は0.1質量%以上0.3質量%以下が、より好ましい。
【0021】
(3)Ti
TiはTiNに換算して、1.0質量%以上、5.0質量%以下添加される。Tiは、TiNとなって前述のスケルトン構造を強化する。Tiの含有量が1.0質量%未満の含有量であると、スケルトン構造を強化する働きが十分でなく、一方、含有量が5.0質量%を超えるとTiNが凝集しやすくなって欠損の起点になる。
TiのTiNに換算した含有量は、2.0質量%以上、4.0質量%以下がより好ましい。
【0022】
なお、Tiは第1固溶体相に含まれる。第1固溶体相において、Tiは窒化物として存在するのが好ましいが、炭化物、炭窒化物としても存在してもよい。このとき、第1固溶体相は、Tiの窒化物、炭化物、炭窒化物のそれぞれの単一相で構成されていても構わないし、それぞれが第1固溶体相中に混在していても構わない。そして、これらTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の組成は化学量論的組成に限定されず、これらTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の結晶構造はいずれも立方晶構造である。
【0023】
ただし、Tiの含有量は、Tiの窒化物、炭化物、炭窒化物が合金中に存在していても、便宜上TiとNが1:1で結合した窒化物(TiN)としてのみ超硬合金中に存在すると仮定して含有量を規定している。
【0024】
(4)M
M(MはTa、Nb、Zr、Hf、Vから選ばれる1種以上)は、Mの炭化物、すなわち、MCとして1.0質量%以上、5.0質量%未満で含有することが好ましい。
その理由は、1.0質量%未満であると、耐クレーター摩耗性が十分ではなく、一方、5.0質量%を超えると、MCが凝集しやすくなって欠損の起点になるためである。
【0025】
MCは第2固溶体相に含まれる。第2固溶体相は第1固溶体相に由来するTiC、TiNが含まれていてもよい。さらに、第2固溶体相には、第1固溶体相に含まれるTiの窒化物、及び炭窒化物、あるいは、焼結中の窒素雰囲気によって、Nが由来するため、MCの一部は窒化物(MCN)として存在していてもよい。しかし、合金中のM(金属原子)の含有量は、MがすべてCと結合した状態の炭化物として、すなわち、MとCが、1:1にて結合した炭化物と仮定して規定している。しかし、これらの炭化物は化学量論的な原子比で結合した炭化物に限定されず、MとCが結合した複合炭化物を含む炭化物全てをいう。MCNも同様に、MとC、Nの総和が、M:(C+N)=1:1で結合した炭窒化物に限定されない。なお、これらの炭化物、炭窒化物の結晶構造は立方晶構造である。
【0026】
(5)WC
WCは、第1固溶体相、第2固溶体相と共に構成する硬質相の主成分、すなわち、硬質相と判断される相(結晶)を構成する全ての成分に対してWCが50原子%以上を占めている。硬質相には、更に、第1固溶体相の成分、第2固溶体相の成分、結合相の成分、および、製造工程で不可避的に混入する不可避的不純物が含まれていてもよい。また、WCの結晶構造は六方晶構造であるため、第1固溶体相、第2固溶体相とは結晶構造が異なる。
【0027】
(6)不可避的不純物
前記のように、硬質相、および、結合相は、それぞれ、製造工程で不可避的(意図せずに)に混入する不純物を含んでいてもよく、その量は切削工具用超硬合金全体を100質量%として外数として0.3質量%以下が好ましい。
【0028】
そして、W、Co、Ni、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、CrおよびC等の含有量は、鏡面加工面に対し、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて、電子線を固体試料表面に照射し、発生する特性X線を分析することにより測定することができる。なお、鏡面加工は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB装置)、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)等を用いる。
【0029】
2.切削工具用超硬合金の組織
本実施形態の切削用超硬合金は、硬質相(WC、第1固溶体相、第2固溶体相)と結合相を有している。
図1に、本実施形態に係るWC(1)、第1固溶体相(2)、第2固溶体相(3)、および、結合相(4)からなるスケルトン構造を模式的に示す。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る切削工具用超硬合金におけるスケルトン構造は、WC(1)の間に第1固溶体相(2)および第2固溶体相(3)が存在し、これらWC(1)、第1固溶体相(2)および第2固溶体相(3)を結合相(4)が結合している。それぞれWC(1)と異なる粒径比の第1固溶体相(2)および第2固溶体相(3)が存在することにより、第1固溶体相(2)は合金のスケルトン構造を高める働きをし、第二固溶体相(3)はその他硬質相と接せずに結合相中に分散し、亀裂の一例として、亀裂(5)が硬質相を迂回するように結合相を経由して進展するようになるため、切削工具として用いたときに耐欠損性と耐塑性変形性が向上する。
以下、これらの相について説明する。
【0031】
(1)WC
WCの平均粒径r1は、1.50μm以上、3.50μm以下であることが好ましい。この範囲とする理由は、平均粒径が1.50μm未満であると切削工具用超硬合金が硬くなり耐欠損性が損なわれ、一方、3.50μmを超えると硬さが低下して切削工具として用いたときの耐塑性変形性が損なわれるためである。
WCの平均粒径r1は、1.50μm以上、2.50μm以下がより好ましい。
【0032】
(2)第1固溶体相
第1固溶体相は、TiN、TiC、TiCNを主成分(第1固溶体相を構成する全ての成分に対して、TiN、TiC、TiCNが50原子%以上を占める)として含み、他にW、C、M、結合相の成分や不可避的不純物が含まれていてもよい。第1固溶体相の平均粒径をr2μmとするとき、r2/r1が0.40以上、0.60以下であることが好ましい。その理由は、この範囲にあると、WCと第1固溶体相が十分な強度を有するスケルトン構造を形成するためである。
【0033】
(3)第2固溶体相
第2固溶体相は、MC(TiCを含む)とMCN(TiCNを含む)を主成分(第2固溶体相を構成する全ての成分に対して、MC、MCNが50原子%以上を占める)として含み、他にW、C、結合相の成分や不可避的不純物が含まれていてもよい。第2固溶体相の平均粒径をr3μmとするとき、r3/r1が0.05以上、0.35以下であることが好ましい。その理由は、この範囲にあると第2固溶体相が切削工具用超硬合金中に適切に分散して、切削工具として用いたときの耐欠損性を向上させるためである。
【0034】
また、第1固溶体相の平均粒径r2μmと第2固溶体相の平均粒径r3μmとの間には、r3/r2が0.10以上、0.60以下の関係があることがより好ましい。その理由は、この範囲にあると、切削工具として用いたときの耐欠損性と耐塑性変形性が、より確実に、向上するためである。
【0035】
(4)界面長の比
第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれがWCと接する界面長さ、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さ、および、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれと接する界面長の長さの和に対して、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さの占める割合(R)が25%以上、45%以下を占めることがより一層好ましい。30%以上、40%以下を占めることがさら一層に好ましい。
その理由は、この範囲にあると、耐欠損性と耐塑性変形性共に、より確実に、向上するためである。
【0036】
3.各相の測定
各相の平均粒径、各相が他相と接する界面長さの測定は以下のように行う。
【0037】
(1)各相の鑑別
各相の鑑別は、切削工具用超硬合金の任意の表面または断面を鏡面加工し、その加工面に1視野として、例えば、24μm(縦)×72μm(横)で、エネルギー分散型X線分光器(EDS)と後方散乱電子回折(EBSD)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で、複数視野(例えば、5視野)を観察することによって行う。なお、鏡面加工は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB装置)、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)等を用いる。
【0038】
この複数の視野の観察により、4000個以上のWC、並びに、それぞれ500個以上の第1固溶体相および第2固溶体相を、それぞれ、鑑別する。
【0039】
鑑別のため、例えば、OIM(OIM Data Collection)結晶方位解析装置を用いて、EBSDパターンの取込みとEDSデータの同時取込みを行う。続いて、OIM Analysisにて測定データを読み込み、各結晶粒について、各元素に対応する結晶粒内部の各測定点から得られたEDSのカウント値を平均し、各結晶粒の各元素EDS測定値とし、得られた測定値から各結晶粒の組成を導出する。得られたEBSDパターンから、第1固溶体相はfcc相と同定された結晶粒のうち、TiN、TiC、TiCNが50原子%以上を占める相、結合相はfcc相と同定された結晶粒のうち、CoとNiの1種以上が合計で50原子%以上を占めている相、第2固溶体相はfcc相と同定された結晶粒のうち、それ以外の相、WCはhcp相と同定された結晶粒のうち、WCが50原子%以上を占める相と判断する。
【0040】
(2)平均粒径(r1、r2、r3)
前述のEBSDとEDSの同時測定を用いて鑑別されたWC、第1固溶体相、および、第2固溶体相のそれぞれの相ごとに各粒子の面積を求め、その面積に等しい円の直径を算出し、各粒子の直径と面積を乗算した値の総和を全粒子の面積の総和で除した値として各相の平均粒径r1、r2、r3を求めるものである([数1]を参照)。
【0041】
【0042】
[数1]において、
N:測定視野内の各相の粒子の数
Di:各相のi番目の粒子の粒径
Ai:各相i番目の粒子の面積(ΣAiは測定視野中の各相の全粒子の面積)
D:平均粒径(相ごとにr1、r2、r3である)
である。
【0043】
(3)相が他相と接する界面長さ
前述のEBSDとEDSの同時測定、およびOIM Analysisによる解析によって鑑別されたWC、第1固溶体相、および、第2固溶体相に基づいて、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれがWCと接する界面長さ、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さ、および、前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれと接する界面長の長さを視野毎に測定し、その総和に対して前記第1固溶体相と前記第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さの割合を算出する。そして、視野毎に算出された割合を平均し、Rとして求める。なお、隣接する測定点が同一の相であった場合、互いの測定点から得られた方位の差が5度以上であったときに、それら測定点2点の間の境界を界面とした。なお、OIMでは測定点の形状は正六角形であるが、測定点形状が正方形や正三角形であっても原理的には同等の結果が得られる。
【実施例0044】
本発明の切削工具用超硬合金を切削工具(ミーリングカッター)に適用した場合について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.原料粉
原料粉末として、平均粒径(d50)が1.57~3.76μmのWC粉末、平均粒径(d50)が、いずれも、1.00μmのCo粉末、Ni粉末、Cr3C2粉末、0.50~2.50μmのTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、0.15~1.32μmのTaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末を用意した。
【0046】
このとき、WC粉末の平均粒径(d50)d1μm、TiN粉末、TiC粉末、および、TiCN粉末を一つのグループとしたときの平均粒径(d50)d2μm、また、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末を一つのグループとしてみたときの平均粒径(d50)d3μmを、合金中のr2/r1、r3/r1、r3/r2が好ましい範囲となるように調整した。
【0047】
具体的な例として、この調整は、0.40≦d2/d1≦0.62、0.03≦d3/d1≦0.36、0.08≦d3/d2≦0.62とすることが好ましいので、表1に示すように本実施例では、これらの範囲を満たすように調整した。
【0048】
ここで、グループiの平均粒径di(i=1~3)の求め方を説明する。グループiに含まれる原料粉が1種類のときは(i=1のときは、常に1種類)、含まれる1種類の原料粉のd50の値がdiとなる。
グループiに含まれる原料粉が2種以上である場合は、グループiに含まれる各原料粉の平均粒径(d50)の値に各原料粉の質量%と各原料粉の比重を乗算した値を、各原料粉の質量%と各原料粉の比重を乗算した値の総和で除した値として求める[数2を参照]。
【0049】
【0050】
[数2]において、
i:1~3
di:グループiの平均粒径
ρj:グループiに含まれる各素原料粉の比重値
wj:グループiに含まれる各原料粉の質量%
d’j:グループiに含まれる各原料粉のd50値
N:グループiに含まれる各原料粉末の種類
である。
【0051】
次に、TiN粉末、TiC粉末、および、TiCN粉末に表面酸化処理を施し、粉末表面を酸化した。酸化処理は、大気炉中に素原料粉を入れ、TiCは、400℃で4時間(酸化処理条件はこれに限らず、350~450℃で1~5時間であればよい)、TiNは、500℃で4時間(酸化処理条件はこれに限らず、450~550℃で1~5時間であればよい)、TiCNは、450℃で5時間(酸化処理条件はこれに限らず、400~500℃で1~5時間であればよい)の熱処理を行い、これら原料粉の表面をTiOとした。ここで、TiOは化学量論組成に限定されないものであった。粉末表面の酸化処理は、これら粉末に他の元素が固溶することを防止するためのものである。
【0052】
2.混合
これらの粉末を、表1に示す割合で配合した。まず、WC粉末、Co粉末、Ni粉末、Cr3C2粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、および、VC粉末のみをボールミルを用い、回転数20rpmで9時間混合した。
この混合物に、粉末表面に酸化処理を行ったTiN粉末、TiC粉末、および、TiCN粉末を加え、さらに、回転数20rpmで2時間混合した。
【0053】
3.成形
前記2.で得た混合物を100MPaの圧力にてプレス成形し、成形体を作製した。
【0054】
4.焼結工程
つづいて、これらの圧粉成形体を、所定の温度で所定時間保持する液相焼結工程を行った。本実施例では、表3に示す条件、すなわち、10~100kPaの窒素雰囲気中、1350~1400℃の保持温度範囲まで加熱し、該保持温度で60分の第1焼結を行う、その後1400~1450℃で0.1Pa以下の真空下で30分の第2焼結した。その後、炉内を0.1Pa以下の真空雰囲気に維持し、さらに、表3に示す条件(1100~1200℃まで2℃/分)で徐冷を行い、表4に示す超硬合金1~10(以下、実施例1~10という)を作製した。
【0055】
5.切削工程
焼結工程に続いて、焼結体を機械加工、研削加工し、SEEN1203AFSN1の形状に整え、表4に示す本発明の超硬合金製切削工具1~10(以下、実施例工具1~10という)を作製した。
【0056】
これに対して、比較例として比較例の超硬合金製切削工具1~8(以下、比較例工具1~8)を作製した。
その原料粉は、TiN粉末、TiC粉末、および、TiCN粉末に表面酸化処理を施しておらず、その製造工程は、第1焼結工程を行わず、表3の第2焼結工程条件に示すように、0.1Pa以下の真空下、1380~1440℃で60分間焼結を行い、800℃まで50℃/min以上の急冷を行い、超硬合金焼結体を得た後、機械加工、研削加工し、SEEN1203AFSN1の形状に整え、表5に示す比較例の1~8として作製した。
【0057】
このようにして作成した実施例1~10および比較例1~8の断面を前述の方法で観察して成分の含有量、WCの平均粒径(r1)、第1固溶体相の平均粒径(r2)、第2固溶体相の平均粒径(r3)、および、
第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれがWCと接する界面長さ、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さ、および、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが第1固溶体相と第2固溶体相と接する界面長さの和に対して、第1固溶体相と第2固溶体相のそれぞれが結合相と接する界面長さの占める割合(R%)を求め、その結果を表4(実施例)、表5(比較例)に示す。
なお、ピクセルの境界形状は正六角形であった。
【0058】
なお、不可避的不純物の含有量は、いずれの実施例、比較例とも前述の0.3質量%以下であることを確認した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表3において、「-」は該当する処理を実施しなかったことを示している。
【0063】
【0064】
【0065】
次に、前記実施例1~10および比較例1~8の表面には、表6で示す原子比の組成を有する平均厚さの被覆層をPVD法で被覆形成し、実施例被覆工具1~10および比較例被覆工具1~8を作製した。
【0066】
【0067】
被覆層を有していない実施例工具1~5(実施例基体1~5)および比較例工具1~5(比較例基体1~5)に対し、以下の切削試験を行った。
<乾式正面フライス加工、センターカット切削加工>
被削材:SCM440 幅60mm、長さ250mmのブロック材
カッタ径:100mm
切削速度:100m/min
切り込み:1.0mm
送り:0.3mm/rev
切削時間:2分
【0068】
被覆層を有する実施例被覆工具1~10および比較例被覆工具1~8に対し、以下の切削試験を行った。
<乾式正面フライス加工、センターカット切削加工>
被削材:SCM440 幅60mm、長さ250mmのブロック材
カッタ径:100mm
切削速度:300m/min
切り込み:1.5mm
送り:1.0mm/rev
切削時間:5分
【0069】
前記切削加工試験後の、切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。なお、切れ刃の逃げ面塑性変形量は、工具の主切れ刃側逃げ面について、切れ刃から十分離れた位置で主切れ刃側逃げ面とすくい面が交差する稜線上に線分を引き、同線分を切れ刃部方向に延伸し、延伸した線分と切れ刃部稜線間の距離(延伸した線分の垂直方向)が最も離れている部分を測定し、切れ刃の逃げ面塑性変形量とした。また、逃げ面塑性変形量が0.04mm以上であったとき、損耗状態を刃先変形とした。
表7、8に、これらの試験結果を示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表7および表8において、「-」は、切削時間終了前に欠損が生じたことを示している。
【0073】
表7および8に示すように、実施例工具、実施例被覆工具は、寿命に影響を及ぼす欠損を生じず、かつ逃げ面塑性変形量が少なく、優れた切削性能を発現した。これに対して、比較例工具、比較例被覆工具は、所定の切削時間に置いて工具に欠損が発生したり、塑性変形が大きくなったりし、短時間の寿命であった。