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特開2023-144532切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体
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  • 特開-切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144532
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20231003BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20231003BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C1/05 H
B23B27/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051548
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】河原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一樹
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF43
3C046FF44
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF53
3C046FF57
4K018AB02
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018DA22
4K018DA32
4K018EA21
4K018FA06
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ステンレス鋼の切削でも靱性、耐塑性変形性を有する超硬合金と該合金の切削工具用基体の提供。
【解決手段】Co、Niを合計で4.0~15.0質量%、NbCとVCを合計で1.0~12.0質量%、残部がWCと不可避不純物、(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.48~0.52、副硬質相は(比:(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)])が0.30以上、0.40以下の第1相3、前記比が0.60以上、0.70以下の第2相4を有し、硬質相2の平均粒径が0.5~6.0μmで、第1相と第2相の平均粒径D1(μm)、D2(μm)が、2.0≦D1≦6.0、2.0≦D2≦6.0、4.3≦L/A0.5≦7.2(L:第1相と第2相との界面長を第1相の数で除した値、A:前記第1相の総面積を第1相の数で除した値)である超硬合金と切削工具用基体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoとNiの1種以上を合計で4.0質量%以上、15.0質量%以下、
NbCに換算したNbとVCに換算したVを合計で1.0質量%以上、12.0質量%以下、
残部がWCと不可避的不純物からなり、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.48以上、0.52以下であり、
副硬質相は、(Nb、V)Cを共に主体とする第1相と第2相を含み、
前記第1相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.30以上、0.40以下であり、
前記第2相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.60以上、0.70以下であり、
前記WCを主体とする硬質相の平均粒径が、0.5μm以上、6.0μm以下であり、
前記第1相および第2相の平均粒径をそれぞれD1(μm)およびD2(μm)とすると、
2.0≦D1≦6.0、
2.0≦D2≦6.0、
4.3≦L/A0.5≦7.2
(ただし、L:第1相と第2相とが接する界面長を第1相の数で除した値、A:前記第1相の総面積を第1相の数で除した値)である、ことを特徴とする切削工具用超硬合金。
【請求項2】
CrをCrに換算して0.1質量%以上、0.5質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載された切削工具用超硬合金。
【請求項3】
TaCに換算したTa、TiCに換算したTi、ZrCに換算したZr、HfCに換算したHfの1種以上を合計で1.0質量%以上、12.0質量%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載された切削工具用超硬合金。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載された切削工具用超硬合金を用いた切削工具用基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、機械的強度、耐熱疲労性等に優れるため、金属材料の切削工具用基体として用いられている。そして、この切削工具用基体の使用条件は、切削加工の高能率化により厳しいものとなっており、切削工具用基体にはより一層の耐久性が求められている。
【0003】
そのため、切削工具用基体に使用される超硬合金に対して、耐久性を向上させるべく種々の提案がなされている。この提案の中には、靭性、耐欠損性の向上を目的としたものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、WC粒子同士の接触率(接触部の全面積の全粒子表面積に対する比率)が15%以下となるようにした超硬合金が記載され、該超硬合金は靱性が向上しているとされている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、WCを含む第1硬質相粒子と少なくともTiおよびNbを含有する炭窒化物を含む第2硬質相粒子と鉄族元素を含む金属結合相とを含む超硬合金において、該第2硬質相粒子は、粒状の芯部と前記芯部の少なくとも一部を被覆する周辺部とを含み、前記芯部はTiNbWCNで示される複合炭窒化物を含み、その表面から深さ方向に脱β層を含む超硬合金が記載され、該超硬合金は靭性が高く高温環境下における耐欠損性が高いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5-20492号公報
【特許文献2】特開2019-157182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情や提案を鑑みてなされたものであって、切削工具用基体として用いたとき、特に、ステンレス鋼等の難削材の切削工具用基体として用いたときにも刃先が高い靱性を有し、耐塑性変形性が向上した切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る切削工具用超硬合金は、
CoとNiの1種以上を合計で4.0質量%以上、15.0質量%以下、
NbCに換算したNbとVCに換算したVを合計で1.0質量%以上、12.0質量%以下、
残部がWCと不可避的不純物からなり、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.48以上、0.52以下であり、
副硬質相は、共に、(Nb、V)Cを主体とする第1相と第2相を含み、
前記第1相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.30以上、0.40以下であり、
前記第2相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.60以上、0.70以下であり、
前記WCを主体とする硬質相の平均粒径が、0.5μm以上、6.0μm以下であり、
前記第1相および第2相の平均粒径をそれぞれD1(μm)およびD2(μm)とすると、
2.0≦D1≦6.0、
2.0≦D2≦6.0、
4.3≦L/A0.5≦7.2
(ただし、L:第1相と第2相とが接する界面長を第1相の粒子数で除した値、A:前記第1相の総面積を第1相の粒子数で除した値)である。
【0009】
本実施形態に係る切削工具用超硬合金は、次の(1)~(2)の一つ以上を満足してもよい。
【0010】
(1)CrをCrに換算して0.1質量%以上、0.5質量%以下を含有すること。
(2)TaCに換算したTa、TiCに換算したTi、ZrCに換算したZr、HfCに換算したHfの1種以上を合計で1.0質量%以上、12.0質量%以下を含有すること。
【0011】
本発明の実施形態に係る切削工具用基体は、前記切削工具用超硬合金を用いたものである。
【発明の効果】
【0012】
前記切削用超硬合金は、靱性が高く耐塑性変形性を有しており、前記切削工具用基体は、ステンレス鋼等の難削材の切削に用いたときであっても刃先の耐塑性変形性、耐チッピング性を有し、耐久性が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る切削工具用超硬合金の組織の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、前記目的を達成する切削工具用超硬合金を得るために鋭意検討を行った。その結果、切削工具用超硬合金において、その組成を所定のものとし、かつ、硬質相の平均粒径が所定の範囲にあり、Nb原子数とV原子数の比で区別される2種の副硬質相のそれぞれが所定の平均粒径を有し、この2種の副硬質相同士の界面長に所定の関係があるとき、切削工具用超硬合金をステンレス鋼等の難削材の切削工具用基体として用いても、刃先の耐塑性変形性、耐チッピング性を有し、耐久性の優れた切削工具用超硬合金を得ることができるとの新規の知見を得た。
【0015】
以下では、本発明の実施形態の切削工具用超硬合金、および、該合金を用いた切削工具用基体について詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、「L以上、M以下」と同義であって、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)のみに単位が記載されているときは、下限値(L)の単位は上限値(M)と同じである。
【0016】
1.合金の組成
本実施形態に係る切削工具用超硬合金の組成について説明する。
【0017】
(1)CoとNi
CoとNiの1種以上の合計含有量は、4.0質量%以上、15.0質量%以下であることが好ましい。
CoとNiの1種以上の合計含有量をこの範囲とする理由は、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体に用いたときに、4.0質量%未満であると耐欠損性が十分でなく、一方、15.0質量%を超えると耐塑性変形性が損なわれるためである。より好ましくは、CoとNiの1種以上の含有量は、6.0質量%以上、11.0質量%以下である。
【0018】
ここで、CoとNiは、主に結合相に存在し、結合相の主成分、すなわち、結合相を形成する全ての成分に対して、CoとNiの1種以上の合計含有量が50質量%以上を占めている。
【0019】
結合相中には、硬質相の成分であるWやC、その他の不可避的不純物が含まれていてもよい。さらに、結合相は、Nb、Vの他、選択的に添加されるCr、Ta、Ti、Zr、Hfの1種以上を含んでいてもよい。これら元素が結合相中に存在するときは、結合相に固溶した状態であると推定される。
【0020】
(2)NbとV、および、Ta、Ti、Zr、Hf
NbとVは、共に、もっぱら副硬質相を構成するものである。副硬質相はWC以外のMCで表される炭化物を含む相である(Mは、Nb、Vの他に、選択的に添加されるTa、Ti、Zr、Hfの1種以上を含む)。これらの炭化物は、化学量論的な原子比で結合した炭化物に限定されず、MとCが結合した複合炭化物を含む炭化物全てをいい、また、この炭化物の結晶構造は立方晶構造である。
【0021】
ただし、NbおよびVの含有量は、それぞれ、NbとC、および、VとCが1:1で結合した炭化物で存在すると仮定して、すなわち、NbC、VCと仮定してその含有量が、合計で1.0質量%以上、12.0質量%以下含有することが好ましい。その理由は、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体として用いたときに耐摩耗性が向上するためである。
【0022】
副硬質相を構成するためにTa、Ti、Zr、Hfの1種以上が、金属成分とCが1:1で結合した炭化物、すなわち、それぞれが、TaC、TiC、ZrC、HfCと仮定して、切削工具用超硬合金中に1.0質量%以上、12.0質量%以下含まれていてもよい。その理由は、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体として用いたときに耐摩耗性がより一層向上するためである。また、副硬質相には、Co、Niや不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0023】
(3)NbとVの含有量の比
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.48以上、0.52以下であることが好ましい。
【0024】
その理由は、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体に用いたときに、この比が0.48未満または0.52を超えると耐塑性変形性が損なわれるためである。前記比はより好ましくは、0.49以上、0.51以下である。
【0025】
(4)NbとVの複合炭化物
副硬質相は、共に、(Nb、V)Cを主体とする第1相と第2相を含み、
前記第1相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.30以上、0.40以下であり、
前記第2相は、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.60以上、0.70以下であることが好ましい。
ここで、第1相に含有される(Nb、V)とCとの比、および、第2相に含有される(Nb、V)とCとの比は、それぞれ、制約がない。
【0026】
「副硬質相は、共に、(Nb、V)Cを主体とする第1相と第2相を含み」とは、副硬質相の第1相および第2相の金属成分の主成分がNbとVであり、それらの合計が第1相、第2相の金属成分の50質量%以上占めていることであって、これにより耐塑性変形性が向上する。
【0027】
(5)Cr
切削工具用基体として用いたときに、靭性を劣化させることなく耐塑性変形性をより一層向上させるため、Crを含有させてもよい。その含有量は切削加工用超硬合金全体に対して、CrがCrとして含有されているものと仮定して0.1質量%以上、0.5質量%以下が好ましい。
【0028】
(6)WC
WCは硬質相の主成分、すなわち、硬質相を形成する全ての成分に対してWCが50質量%以上を占めている。硬質相には、Co、Niの他に、Nb、V、Ta、Ti、Zr、Hfや製造過程で不可避的に混入する不可避不純物が含まれていてもよい。また、硬質相の結晶構造は六方晶構造であるため、副硬質相とは結晶構造が異なる。
【0029】
(7)不可避不純物
前記のように、硬質相、副硬質相、および、結合相は製造過程で不可避的(意図せずに)に混入する不純物を含んでいてもよく、その量は超硬合金全体を100質量%として外数として0.3質量%以下が好ましい。
【0030】
2.合金の組織
本実施形態に係る切削工具用超硬合金の組織を図1に模式的に示す。図1から明らかなように、本実施形態に係る切削工具用超硬合金は、結合相(1)、硬質相(2)、副硬質相の主相として第1相(3)、第2相(4)を有している。以下、各相について説明する。
【0031】
(1)硬質相の平均粒径
WCが主成分である硬質相の平均粒径は0.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましい。この範囲が好ましい理由は、0.5μm未満であると、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体としたときの靱性が十分でなく、一方、6.0μmを超えると耐塑性変形性が損なわれるためである。平均粒径の測定方法は後述する。
【0032】
硬質相の平均粒径は、前記視野に対して画像解析を行い、少なくとも300個(300~1000個が好ましい)の硬質相の面積を求め、その面積に等しい円の直径を算出して平均したものである。
【0033】
(2)副硬質相の第1相と第2相の平均粒径
副硬質相の主相である第1相および第2相は、FCC構造を有し、第1相および第2相の平均粒径を、それぞれ、D1μm、D2μmとすると、
2.0≦D1≦6.0、
2.0≦D2≦6.0
(D1とD2は同じであっても異なっていてもよい)
であることが好ましい。
【0034】
その理由は、2.0μm未満であると、本実施形態の合金を切削工具用基体としたときの靱性が十分でなく、一方、6.0μmを超えると耐塑性変形性が損なわれるためである。
副硬質相は、硬質相の鑑別を行ったものと同じ視野において、WC、CoおよびNiの含有量がそれぞれ50質量%未満の結晶粒を有する相とする。
副硬質相の平均粒径の測定方法は、後述する。
【0035】
(3)副硬質相の界面長と面積
副硬質相の主相である第1相および第2相との間に以下のような界面長と面積に係る関係が成り立つことが好ましい。
すなわち、
L:第1相と第2相とが接する界面長を第1相の数で除した値、
A:前記第1相の面積を第1相の数で除した値
とするとき、
4.3≦L/A0.5≦7.2
であることが好ましい。
【0036】
このL/A0.5が、4.3未満であると、本実施形態の切削工具用超硬合金を切削工具用基体としたときの耐塑性変形性および耐欠損性が十分でない。なお、L/A0.5の上限値は特段の制約はないが、後述する実施例に示す製造方法では、7.2程度が上限となる。
ここで、副硬質相の界面長(L)とは、隣接して互いに接する第1相と第2相の界面の長さの合計値である。
【0037】
副硬質相の第1相および第2相の平均粒径およびL、Aの導出について説明する。
【0038】
1)切削工具用超硬合金の任意の表面または断面を、例えば、集束イオンビーム装置(FIB装置)、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)等を用いて鏡面加工する。
2)この鏡面加工面に1視野が、例えば、24μm(縦)×72μm(横)、測定点間隔を50nmとして、複数視野(例えば、5視野)を設定する。
3)この観察視野に対して、エネルギー分散型X線分光器(EDS)と後方散乱電子回折装置(例えばEBSD測定装置(EDAX/TSL社製(現AMETEK社))を搭載したフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(SEM)で、例えば、加速電圧15kVにて観察を行う。
4)ここで、結晶方位解析用データの測定および解析に使用するソフトウェアは、TSL社製 OIM Data Collection バージョン6およびTSL社製 OIM Analysis バージョン7を例示できる。この例示されたソフトウェアを用いると、後述する各相の結晶粒の面積と数、粒界長も計測することができる。
【0039】
5)解析の結果、HCP構造を有する相を硬質相とする。また、FCC構造を有する相のうち、CoとNiのEDSカウント値の平均値よりも高い値を示すものを結合相とし、残りのFCC構造を有する相を副硬質相とする。
6)副硬質相とされ相を構成する結晶粒に対し、EDSスポット分析を行い、組成情報を取得し、
(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.30以上、0.40以下のものを第1相、(Nbの原子数)/[(Nbの原子数)+(Vの原子数)]が0.30以上、0.40以下のものを第2相とする。
【0040】
7)各相の同定後、各相に含まれる結晶粒について、少なくとも300個(300~1000個が好ましい)の結晶粒それぞれの面積と、その面積に等しい円の直径をそれぞれ求め、この円の直径を平均することにより、各相の結晶粒の平均粒径とする。
8)次に、第1相と第2相の界面長さ、第1相の粒子数と総面積を求め、LとAを算出する。
【0041】
なお、隣接する測定点が同一の相であった場合、互いの測定点から得られた方位の差が5度以上であったときに、それら測定点2点の間の境界を界面とした。
【実施例0042】
本発明の切削工具用超硬合金をインサートとして用いた場合について実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.実施例のインサートの作製
以下の工程により、インサートを作製した。
【0044】
(1)NbC-VC-Co粉砕粉の作製
平均粒径(d50)1.0μmのNbC粉末、平均粒径(d50)1.0μmのVCを合計して90質量%以上、95質量%以下、Coを5質量%以上、10質量%以下となるように配合し(配合割合は表1を参照)、ボールミル混合し、SNMN120408形状にプレスして、表3に「NbC-VC-Co焼結条件」と示すように、1600~1650℃で、60~300分、Ar雰囲気0.3~0.4MPaで保持して焼結し、その後圧力を維持したまま1000℃まで表3に示す速度で冷却した。
このようにして得たNbC-VC-Co焼結体をハンマーで粉砕し、粉砕粉の平均粒径(d50)が10μm以下のNbC-VC-Co粉砕粉を得た。
【0045】
(2)合金の作製
表2に示すように、前記NbC-VC-Co粉砕粉とWC粉末(1.0μm、1.5μm、3.0μm、4.0μm、5.0μm、あるいは、6.0μm)、Co粉末(1.0μm)、Ni粉末(1.0μm)、さらに必要に応じてCr粉末(1.0μm)、TiC粉末(1.0μm)、ZrC粉末(1.0μm)、HfC粉末(1.0μm)、TaC粉末(1.0μm)を用意した。ここで、各粉末名の後の括弧内の数字は、平均粒径(d50)であって、単位はμmである。これら粉末を表3に「切削工具焼結条件」と示すように配合してボールミル混合し、乾燥した後、焼結型に充填し、表3に示すとおり、加圧圧力100MPa、昇温速度80~120℃/分、加熱保持温度1250~1300℃、保持時間5~15分、0.1Pa以下の真空雰囲気下でプラズマ焼結を行い、焼結体を得た。
【0046】
次に、焼結体を機械加工、研削加工し、CNMG120408-R-2Gの形状に整え、表4に示す超硬合金基体(インサート)1~10(以下、実施例1~10という)を作製した。
【0047】
2.比較例のインサートの作製
比較のインサートを次のように作製した。
実施例と異なり「NbC-VC-Co粉砕粉の作製」工程を行ったもののプラズマ焼結の温度を1400℃とした焼結体、および、「NbC-VC-Co粉砕粉の作製」工程をせずに作製した焼結体をそれぞれ用意し、該焼結体を機械加工、研削加工し、CNMG120408-R-2Gの形状に整えることにより、表4に示す比較例超硬合金基体(インサート)1~10(以下、比較例1’~10’という)として作製した。
【0048】
すなわち、「NbC-VC-Co粉砕粉の作製」工程を行った焼結体(比較例10’)は、実施例と同様に「NbC-VC-Co粉砕粉の作製」工程を行った粉砕粉と他の粉末を、表2に示す配合組成に配合して焼結用粉末とし、ボールミル混合し、乾燥した後、焼結型に充填し、表3に示すとおり、加圧圧力100MPa、昇温速度120℃/分、加熱保持温度1400℃、保持時間5分、0.1Pa以下の真空雰囲気下でプラズマ焼結を行ったものである。一方、「NbC-VC-Co粉砕粉の作製」工程をせずに作製した焼結体(比較例1’~9’)は、表2に示す配合組成に配合した焼結用粉末を、ボールミル混合し、乾燥した後、焼結型に充填し、表3に示すとおり、加圧圧力100MPa、昇温速度80~120℃/分、加熱保持温度1250~1300℃、保持時間5~15分、0.1Pa以下の真空雰囲気下でプラズマ焼結を行ったものである。
【0049】
3.実施例と比較例のインサートの解析
実施例1~10および比較例1’~10’のインサートの断面について、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、その成分であるCo、Ni、Cr、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、Vの各元素につき、その含有量を10点測定し、その平均値を各成分の含有量とした。
なお、ここで、Cr、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、Vは、それぞれの前述の炭化物に換算して含有量を算出した。表4に、それぞれの平均含有量を示す。なお、不可避的不純物の含有量は実施例、比較例とも前述の好ましい範囲にあることを確認した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表2において、「-」は該当するものがないことを示している。
【0053】
【表3】
【0054】
表3において、「-」は該当する処理がないことを示している。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
表5において、「/」は該当する相が存在しないために測定できないことを示している。
【0058】
次に、前記実施例1~5および比較例1’~5’の表面には、被覆層を形成しなかったが(表6では「-」により表している)、前記実施例6~10および比較例6’~10’の表面に、表6に示す平均厚さの被覆層をCVD法で被覆形成した。
なお、ここでは、3層の積層構造として被覆層を蒸着形成したが、この層数は、3に限定されるものではなく、1、2または4以上の層の積層構造であってもよい。
また、硬質被覆層の蒸着条件について特段の制限はないが、前記実施例6~10、比較例6’~10’におけるTiN、TiCN、Alの化学蒸着条件は、以下のとおりであった。
【0059】
[TiNの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
TiCl 2%、N 30%、H
反応圧力:7kPa
反応温度:1000℃
【0060】
[TiCNの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
TiCl 2%、CHCN 0.7%、N 10%、H
反応圧力:7 kPa
反応温度:900℃
【0061】
[Alの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
AlCl 2.2%、CO 5.5%、HCl 2.2%、
S 0.2%、H
反応圧力:7kPa
反応温度:1000℃
【0062】
【表6】
【0063】
次に、被覆層を形成しなかった実施例1~5および比較例1’~5’には、切削試験1を、被覆層を形成した実施例6~10および比較例6’~10’には、切削試験2をそれぞれ行い、切刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。
【0064】
切削試験1:合金鋼(JIS・SNCM439)の丸棒の乾式外径旋削加工(直径200mm)
被削材:JIS・SNCM439
切削速度:45m/min
切り込み:1.7mm
送り:0.48mm/rev
切削時間:1分
【0065】
切削試験2:ステンレス鋼(JIS・SUS304)の丸棒の湿式外径旋削加工(直径200mm)
被削材:JIS・SUS304
切削速度:160m/min
切り込み:3.0mm
送り:0.28mm/rev
切削時間:5分
湿式水溶性切削油を使用
【0066】
前記切削加工試験1、2後の、切れ刃の逃げ面塑性変形量を測定するとともに、切れ刃の損耗状態を観察した。なお、切れ刃の逃げ面塑性変形量は、工具の主切れ刃側逃げ面について、切れ刃から十分離れた位置で主切れ刃側逃げ面とすくい面が交差する稜線上に線分を引き、同線分を切れ刃部方向に延伸し、延伸した線分と切れ刃部稜線間の距離(延伸した線分の垂直方向)が最も離れている部分を測定し、切れ刃の逃げ面塑性変形量とした。また、逃げ面塑性変形量が0.100mm以上であったとき、損耗状態を刃先変形とした。
【0067】
【表7】
【0068】
表7において、「*」は、20秒毎に切削を中断し刃先観察を実施し、この欠損が塑性変形に起因したものであることを確認した。また、この欠損は刃先に発生し稜線の判別が困難であったため、塑性変形量を測定することができなかった。
【0069】
【表8】
【0070】
表8において、「*」は、1分毎に切削を中断し刃先観察を実施し、この欠損が塑性変形に起因したものであることを確認した。また、欠損が刃先に発生し稜線の判別が困難であったため、塑性変形量を測定することができなかった。
【0071】
切削試験1の結果を示す表7および切削試験2の結果を示す表8から明らかなように、実施例は、いずれも寿命に影響を及ぼす逃げ面の塑性変形量が少なく、偏摩耗や欠損を発生することなく、優れ靱性、耐塑性変形性を発揮した。これに対して、比較例は、所定の切削時間において工具の塑性変形が大きく、所定の被削材寸法を得る加工を行うことが困難であった。
【符号の説明】
【0072】
1 結合相
2 硬質相
3 第1相
4 第2相
図1