(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144551
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
E04B1/58 D
E04B1/58 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051583
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB01
2E125AE13
2E125AG03
2E125AG12
2E125AG23
2E125AG32
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる、座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】鋼製でプレート状の芯材10と、芯材10の有する2つの広幅面10aに対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20とを有する、座屈拘束ブレース100であり、芯材10の広幅面10aには、1つの貫通孔16と、貫通孔16に連通して貫通孔16の左右の両側においてそれぞれ芯材10の長手方向に延びている2つの切り込み17とが設けられており、貫通孔16と切り込み17が芯材10の軸力調整手段を形成している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製でプレート状の芯材と、該芯材の有する2つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、該芯材と該拘束材の間に介在するアンボンド材とを有する、座屈拘束ブレースであって、
前記芯材の広幅面には、1つの貫通孔と、該貫通孔に連通して該貫通孔の左右の両側においてそれぞれ該芯材の長手方向に延びている2つの切り込みと、が設けられており、該貫通孔と該切り込みが芯材の軸力調整手段を形成していることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記1つの貫通孔と、左右のそれぞれに2つある前記切り込みとからなるユニットが、前記長手方向に隙間を置いて複数設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
隣接する左右の前記ユニットから延びるそれぞれ2つの切り込みのうち、対応する1組の該切り込みの間に前記隙間があり、対応する他の1組の該切り込みが前記隙間を設けずに連続していることを特徴とする、請求項2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記貫通孔の平面視形状は矩形であり、前記長手方向に直交している該矩形の左右の直線からそれぞれ、2本の前記切り込みが延びていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定され、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されており、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでおり、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。
【0004】
この座屈拘束ブレースにおいて、芯材の広幅面にはスリットが設けられ、このスリットにより芯材に作用する軸力調整(もしくは耐力調整)がなされるようになっている。このスリットにより、芯材が軸力(圧縮力)を受けた際に、芯材の弱軸方向に高次モードの座屈が有効に生じることになるが、広幅面にスリットを設けたことにより、芯材の強軸方向の強度が低下し、強軸方向に高次モードの座屈が生じるといったトレードオフの関係があり、この強軸方向の強度低下を抑制するべく、スリットに対してスリットよりも長さの短いスペーサーが内挿されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、芯材の広幅面にスリットを設けつつ、スリットにスペーサーを内挿することにより、芯材の軸力調整を図りながら、強軸方向への強度低下を抑制することができる。
【0007】
ところで、芯材の広幅面にスリットを設け、ここに別途製作された相対的に長さの短いスペーサーを内挿する形態では、スペーサーよりもスリットの長手方向の長さを長くしておくことで、地震時に作用する軸力(圧縮力)による芯材の長手方向への所定の圧縮ひずみがスペーサーにより阻害されることを防止している。しかしながら、このようにスリットが長手方向に圧縮されつつ高次モードの座屈が生じた際には、スペーサーが自重でスリットから抜け落ちる恐れがある。また、芯材の強軸方向への高次モードの座屈の際に、スペーサーがスリットの一方端側に偏ってしまい、スリットの他方側の隙間が大きくなって、スペーサーにより補剛されない領域が生じるといった課題もある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる、座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、該芯材の有する2つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、該芯材と該拘束材の間に介在するアンボンド材とを有する、座屈拘束ブレースであって、
前記芯材の広幅面には、1つの貫通孔と、該貫通孔に連通して該貫通孔の左右の両側においてそれぞれ該芯材の長手方向に延びている2つの切り込みと、が設けられており、該貫通孔と該切り込みが芯材の軸力調整手段を形成していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、鋼製でプレート状の芯材の2つの広幅面が角形鋼管からなる一対の拘束材により拘束されている座屈拘束ブレースにおいて、芯材の広幅面に、1つの貫通孔と、貫通孔に連通して貫通孔の左右の両側においてそれぞれ芯材の長手方向に延びている2つの切り込みとが設けられ、貫通孔と左右それぞれの2つの切り込みが芯材の軸力調整手段を形成していることにより、左右の2つの切り込みの内部にある領域がスペーサーとなり、このスペーサーは芯材そのものであってスリットに挿通されているものでないことから、貫通孔と左右それぞれの2つの切り込みによって、芯材の軸力調整と芯材の強軸方向の強度低下抑制の双方を図りながら、スペーサーの脱落やスペーサーの移動による補剛不能領域の発生といった課題を解消することができる。
【0011】
このように、芯材には、左右それぞれの一対の切り込みによって2つの仮想のスリットが形成され、それぞれの仮想のスリット内には、従来のように別途製作されるスペーサーでなく、芯材自身により形成される仮想のスペーサーが配設されることになる。
【0012】
また、芯材の広幅面にスリットを加工し、スペーサーを別途製作し、スリットに対してスペーサーを内挿する一連の製作方法と比べて、芯材の広幅面に例えばレーザー加工等によって貫通孔を開設し(刳り抜き)、貫通孔に連通する左右それぞれの2本の切り込みを加工するのみでよいことから、製作効率は格段に向上する。
【0013】
ここで、アンボンド材は、ブチルゴム等の変形性能を有する弾性材により形成される。このアンボンド材が芯材の広幅面と拘束材の間に介在することで、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせることが可能になる。
【0014】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記1つの貫通孔と、左右のそれぞれに2つある前記切り込みとからなるユニットが、前記長手方向に隙間を置いて複数設けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、1つの貫通孔と左右それぞれの2つの切り込みとからなるユニットが長手方向に隙間を置いて複数設けられていることにより、芯材の強軸方向への高次モードの座屈の際の複数の山を効果的に拘束でき、設計ひずみを例えば1つの貫通孔により吸収する際に当該貫通孔の長手方向の長さが大きくなり、補剛不能領域の発生に繋がるといった課題を解消することができる。
【0016】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
隣接する左右の前記ユニットから延びるそれぞれ2つの切り込みのうち、対応する1組の該切り込みの間に前記隙間があり、対応する他の1組の該切り込みが前記隙間を設けずに連続していることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、例えば、隣接する2つのユニットを形成する、左右から延びるそれぞれ2つの切り込みのうち、対応する1組の切り込みの間に隙間があり、対応する他の1組の切り込みが隙間を設けずに連続していることにより、1箇所の隙間のみによって2つのユニットと芯材との接続を図ることができる。
【0018】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記貫通孔の平面視形状は矩形であり、前記長手方向に直交している該矩形の左右の直線からそれぞれ、2本の前記切り込みが延びていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、貫通孔の平面視形状が矩形であって、矩形の左右の輪郭が長手方向に直交する直線状を呈していることにより、芯材が長手方向に圧縮された際に、貫通孔の左右の輪郭線の相互干渉が抑制され、芯材の自由な(設計)圧縮ひずみを保障することができることに加えて、左右の輪郭を含む貫通孔の全輪郭がいずれも直線によって形成されていることから、貫通孔の製作効率が良好になる。
【0020】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定され、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されており、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでおり、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、芯材の両端において広幅面に直交する一対の接合板が固定され、一対の接合板に対して補強板が固定され、広幅面と一対の接合板と補強板により形成される空間に拘束材の端部が収容されていることにより、高強度な端部構造を備えた座屈拘束ブレースとなる。ここで、接合板が接合される他部材とは、建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具が一例として挙げられる。また、芯材の端部をウェブとした場合は、このウェブに直交する一対の接合板は一対のフランジとなる。
【0022】
また、芯材の側方において一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでいることにより、芯材の幅方向(強軸方向)の変形を補剛材により拘束することができる。
【0023】
また、本発明による座屈拘束ブレースは、アンボンド材と拘束材の間に、内挿板が介在している形態であってもよい。この形態によれば、アンボンド材と拘束材の間に例えば鋼製の内挿板が介在していることにより、芯材の弱軸方向への高次モードの座屈による押圧力が拘束材に直接作用して、拘束材が局部破壊することを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図である。
【
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
【
図3】実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
【
図5】芯材における貫通孔と2つの切り込みの一部を拡大した図であって、芯材の圧縮前後の状態を示した平面図である。
【
図8A】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図である。
【
図8B】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースについて添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る座屈拘束ブレース]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図であり、
図2は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、
図3は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。また、
図4は、芯材の一例の平面図であり、
図5は、芯材における貫通孔と2つの切り込みの一部を拡大した図であって、芯材の圧縮前後の状態を示した平面図である。
【0028】
座屈拘束ブレース100は、芯材10と、芯材10の有する2つの広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20とを有する。ここで、図示例の他に、アンボンド材20と拘束材30の間に、鋼板により形成される内挿板が介在する形態であってもよい。
【0029】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0030】
芯材10は、細長の鋼板により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。
【0031】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。ここで、芯材10の狭幅部11と広幅部12の境界領域は、狭幅部11から広幅部12にかけて幅が徐々に湾曲状に広がるような形状を有しており、幅が急激に変化することによる局所的な応力集中域の発生を防止している。
【0032】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の2つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起14が張り出している。突起14は、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0033】
また、芯材10の狭幅部11には、1つの貫通孔16と、貫通孔16に連通して貫通孔16の左右の両側においてそれぞれ芯材の長手方向に延びている2つの切り込み17とを有するユニット15が、複数(図示例は2つ)設けられている。このユニット15に関しては、以下で詳説する。
【0034】
芯材の両端にある広幅部12には、その広幅面10aに直交して他部材に接合される、一対の鋼板からなる接合板13が溶接等により接合されている。
【0035】
広幅部12と接合板13にはそれぞれボルト孔12a,13aが設けられており、不図示の建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具(他部材)のボルト孔と位置合わせされ、ボルト接合されるようになっている。
【0036】
一対の接合板13に対して鋼板からなる補強板18が溶接等により接合され、芯材10の広幅部12と一対の接合板13と補強板18とにより形成される空間に、拘束材30の端部が収容されるようになっている。補強板18により、拘束材30の芯材10の端部の弱軸方向への開きが抑制され、座屈拘束ブレース100の端部の強度低下や損傷が抑制される。
【0037】
アンボンド材20は、芯材10の狭幅部11と拘束材30の間に介挿され、アンボンド材20の厚みをクリアランスとして、建物架構の変形の際に芯材10に圧縮力が作用して狭幅部11に面外方向(弱軸方向)の高次モードの座屈(波状の変形)が生じるようになっている。
【0038】
アンボンド材20としては、例えばブチルゴム等の弾性材が適用される。また、アンボンド材20の長手方向の中央位置には、芯材10の突起14が嵌まり込む突起孔20aが設けられている。
【0039】
拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されており、矩形の長辺に対応する側面がアンボンド材20に当接している。拘束材30のうち、アンボンド材20に当接する側面にも、芯材10の突起14が嵌まり込む突起孔30aが設けられている。尚、図示例の角形鋼管30の各隅角部は、直角でなく、曲面(R部)を成しているが、各隅角部が直角であってもよい。
【0040】
芯材10の側方において、一対の拘束材30の両側(矩形の短辺に対応する側面)を一対の鋼板からなる補剛材50が溶接等によって繋いでおり、芯材10は、一対の拘束材30と一対の補剛材50とにより包囲されている。
【0041】
次に、
図4乃至
図7を参照して、芯材に設けられる軸力調整手段について説明する。
【0042】
図4に示す例は、芯材10の狭幅部11において、1つの貫通孔16と、貫通孔16に連通して貫通孔16の左右のそれぞれにある2つの切り込み17とからなる1つのユニット15が、2つ設けられている形態であり、図示する2つのユニット15が芯材10の軸力調整手段を形成している。
【0043】
貫通孔16は、例えばレーザー加工により、芯材10の長手方向に所定の幅tで刳り抜き加工されている。
【0044】
貫通孔16の幅tは、例えば、設計ひずみに相当する長さを下限値とし、芯材10に強軸方向への高次モードの座屈が生じた際の座屈長(山と山の間の長さ)を上限値とし、これらの間の長さに設定される。このようにして貫通孔16の幅tが設定されることにより、設計ひずみを貫通孔16にて吸収することができ、芯材10の強軸方向への高次モードの座屈の際の補剛効果を確保することができる。
【0045】
二つのユニット15を形成する2本の切り込み17同士の間(芯材10の中央付近)には、隙間Gが設けられていて、双方のユニット15は連続していない。
【0046】
ここで、図示を省略するが、3つ以上のユニット15が、芯材10の狭幅部11の長手方向に相互に隙間Gをもって配設されている形態であってもよい。
【0047】
図4と
図5の実線で示すように、貫通孔16の平面視形状は矩形であり、左右の輪郭はともに、長手方向に直交する直線16aである。
【0048】
芯材10の狭幅部11において、芯材10の設計ひずみを吸収する貫通孔16が設けられ、この貫通孔16に連通する左右の2つの切り込み17が芯材10の長手方向に延びた状態で設けられていることにより、左右の2つの切り込み17によって芯材10に軸力調整用の仮想のスリットが形成され、左右の2つの切り込み17により挟まれた領域は、芯材10そのものでありながらも、仮想のスリットに挿入された仮想のスペーサーSを形成する。そして、左右の2つの切り込み17における貫通孔16と反対側の端部は、他の芯材10に連続していることから、左右の2つの切り込み17により挟まれている2つのスペーサーSは、芯材10の他の領域から脱落することはない。
【0049】
従って、貫通孔16と左右の2つの切り込み17により、芯材10の軸力調整と芯材10の強軸方向の強度低下抑制の双方を図りながら、2つのスペーサーSの脱落やスペーサーSの移動による補剛不能領域の発生といった課題を解消することができる。
【0050】
また、従来のように、芯材の狭幅部にスリットを加工し、スペーサーを別途製作し、スリットに対してスペーサーを内挿する一連の製作方法と比べて、図示例では、芯材10の狭幅部11に例えばレーザー加工によって貫通孔16を開設し、貫通孔16に連通する左右の2本の切り込み17をレーザー加工するのみでよいことから、製作効率は格段に向上する。
【0051】
また、貫通孔16の平面視形状が矩形であって、左右の輪郭がともに直線16aであることにより、芯材10が長手方向へX1方向に圧縮された際に、貫通孔16の左右の直線16aの相互干渉が抑制され、芯材10の自由な圧縮ひずみを保障することができる。
【0052】
図6に示す例は、芯材10Aの狭幅部11において、左右のユニット15の備えるそれぞれの二つの切り込み17のうち、対応する1組の切り込み17の間の隙間Gが解消されて、双方のユニット15の対応する切り込み17同士が連続している形態である。
【0053】
この形態でも、双方のユニット15の対応する切り込み17の間に1つの隙間Gが存在することにより、左右のユニット15によるそれぞれ2組の一対の切り込み17の間に仮想のスペーサーSが計4つ形成されながら、これらが芯材10Aにおける切り込み17の外側の領域と隙間G等を介して一体となっていることにより、仮想のスペーサーSの芯材10Aからの抜け落ちが防止される。
【0054】
図7に示す例は、芯材10Bの狭幅部11において、1つの貫通孔16と、貫通孔16に連通して貫通孔16の左右のそれぞれにある2つの切り込み17とからなる1つのユニット15が、1つ設けられている形態である。
【0055】
2つのユニット15のそれぞれの一対の切り込み17によって仮想のスリットが形成され、仮想のスリット内には芯材10B自身により形成される仮想のスペーサーSが設けられている。
【0056】
芯材10Bでは、1つのユニット15のみを備えていることから、他の芯材10,10Aに比べて製作効率がより一層向上する。
【0057】
この形態でも、ユニット15の左右にある切り込み17の左右端が芯材10Bの他の領域と繋がっていることにより、左右の2つの切り込み17により挟まれている2つの仮想のスペーサーSの芯材10Bからの抜け落ちが防止される。
【0058】
以上で説明するように、座屈拘束ブレース100によれば、芯材10,10A,10Bを備えていることにより、芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材10,10A,10Bの変形の際に、スペーサーが抜け落ちるといった不具合や、スリットに補剛不能領域が発生するといった不具合の発生を防止できる。
【0059】
次に、
図8を参照して、芯材10の弱軸方向に生じる高次モードの座屈について説明する。
【0060】
座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられている接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力Nとして伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。言い換えると、芯材10に圧縮力Nが作用した際に芯材10の全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0061】
図8Bに示すように、芯材10に作用する圧縮力Nによって高次モードの座屈が生じ、座屈による波状の変形の山が拘束材30に当接し、拘束材30に対して押圧力Qを付与することになる。そのため、拘束材30は、局所的に作用する押圧力Qに対して局部破壊を生じないように、その局部降伏耐力が設定される。
【0062】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0063】
10:芯材
10a:広幅面
11:狭幅部
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:接合板
13a:ボルト孔
14:突起
15:ユニット
16:貫通孔
16a:直線
17:切り込み
18:補強板
20:アンボンド材
20a:突起孔
30:拘束材(角形鋼管)
30a:突起孔
50:補剛材
100:座屈拘束ブレース
S:スペーサー(仮想スペーサー)
G:隙間
N:軸力(圧縮力)
Q:押圧力