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特開2023-144560土壌改良資材の製造方法、黒腐菌核病の防除方法及び土壌改良資材
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  • 特開-土壌改良資材の製造方法、黒腐菌核病の防除方法及び土壌改良資材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023144560
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】土壌改良資材の製造方法、黒腐菌核病の防除方法及び土壌改良資材
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/32 20060101AFI20231003BHJP
   A01N 63/22 20200101ALI20231003BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231003BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20231003BHJP
   C09K 17/50 20060101ALI20231003BHJP
   C05F 17/00 20200101ALI20231003BHJP
   C05G 3/60 20200101ALI20231003BHJP
【FI】
C09K17/32 H
A01N63/22
A01P3/00
C09K17/14 H
C09K17/50 H
C05F17/00
C05G3/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051600
(22)【出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】506177051
【氏名又は名称】株式会社里源
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】青井 透
(72)【発明者】
【氏名】林 智康
【テーマコード(参考)】
4H011
4H026
4H061
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB21
4H011DA11
4H011DD04
4H011DG06
4H026AA01
4H026AA08
4H026AA10
4H026AA15
4H026AB03
4H026AB04
4H061AA01
4H061CC41
4H061DD07
4H061DD14
4H061EE42
4H061EE62
4H061EE66
4H061GG41
4H061GG48
4H061HH42
4H061HH44
4H061KK09
(57)【要約】
【課題】薬剤や特別な作業を行わずに黒腐菌核病菌の防除が可能な土壌改良資材及び土壌改良資材の製造方法及び黒腐菌核病の防除方法を提供する。
【解決手段】この土壌改良資材及び黒腐菌核病の防除方法は、ネギ属の植物が存在しない状態で土中に混ぜ込むことで、土中に残存する黒腐菌核病菌の菌核を発芽誘引材のネギ属臭によって一斉に発芽させる。そして、発芽した菌糸を宿主植物の不在により餓死させる。これにより、薬剤や特別な手間をかけることなく、駆除が困難な黒腐菌核病を効果的に防除することができる。また、この土壌改良資材及びその製造方法は、上記の黒腐菌核病の防除機能を備えた土壌改良資材を、全て廃棄物で製造することができる。これにより、極めて低い材料コストでの製造が可能となる。また、廃棄物の再利用が可能となり環境負荷の低減を図ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自活性線虫が生息する種線虫源と、抗菌物質を分泌するバチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する第1の混合工程と、
前記第1の混合工程で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化させるとともに前記自活性線虫の増殖を促す第1の発酵工程と、
前記第1の発酵工程後の混合土にネギ属の植物を原料とし黒腐菌核病の病原菌の菌核の発芽を促す発芽誘引材を混合する第2の混合工程と、
前記第2の混合工程で得られた混合土を再発酵させ前記発芽誘引材のネギ属臭を強化する第2の発酵工程と、を有することを特徴とした土壌改良資材の製造方法。
【請求項2】
発芽誘引材にネギ属の植物の不要部分もしくは廃棄品を用いることを特徴とする請求項1記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項3】
第1の混合工程において、脱水した浚渫土をさらに加えることを特徴とする請求項1記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項4】
第1の混合工程において脱水した浚渫土を加え、発芽誘引材にネギ属の植物の不要部分もしくは廃棄品を用いることを特徴とする請求項1記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法により製造された土壌改良資材を土中に混合し、前記土壌改良資材が含有する発芽誘引材のネギ属臭により黒腐菌核病の病原菌の菌核を発芽させ、発芽した前記病原菌を宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とする黒腐菌核病の防除方法。
【請求項6】
土壌改良資材を日中の気温が20℃以上となる日に混合し、発芽した黒腐菌核病の病原菌を熱と宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とする請求項5記載の黒腐菌核病の防除方法。
【請求項7】
ネギ属の植物が発酵して形成されネギ属臭を放って黒腐菌核病の病原菌の菌核の発芽を促す発芽誘引材と、自活性線虫と、抗菌物質を分泌するバチルス菌と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を含有し、
土中に混合することで前記発芽誘引材のネギ属臭が防除対象となる黒腐菌核病の病原菌の菌核を発芽させ、発芽した前記病原菌を宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とした土壌改良資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネギ属の農作物の病気である黒腐菌核病の防除機能を備えた土壌改良資材、この土壌改良資材の製造方法、及びこの土壌改良資材を用いた黒腐菌核病の防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じ作物を同じ場所で連作すると土壌生態系のバランスが崩れ、作物に病気や栄養障害などの連作障害が生じる。この連作障害の大きな原因として、連作作物に有害な寄生性線虫や病原菌の増殖が挙げられる。そして、この連作障害の防止法としては、土壌を農薬やボルドー液(硫酸銅・石灰の混合液)等で殺菌することが一般的である。しかしながら、これら薬剤の使用は土壌の生態系をさらに破壊して土地が痩せる原因となる。また、多用すると連作障害への防止効果が減少することに加え、残留農薬の河川等への流出や農業従事者への健康被害が懸念される。
【0003】
ここで、土中に生息する線虫には前述した作物に有害な寄生性線虫のほか、他の線虫を捕食する捕食性線虫と動植物の遺骸や細菌等を餌とする腐生性線虫とが存在し、これら捕食性線虫と腐生性線虫をあわせて自活性線虫という。そして、捕食性線虫は寄生性線虫を捕食して連作障害を抑制することが期待される。また、腐生性線虫のうち細菌食雑線虫は病原菌を捕食して連作障害を抑制することが期待される。
【0004】
また、バチルス菌(枯草菌:Bacillus subtilis)は、稲藁などに付着する菌であり、抗菌物質を分泌してカビや細菌など、植物の病気を引き起こす病原菌を殺菌する能力を持つことが知られている。
【0005】
このため本願発明者らは、バチルス菌を含む汚泥と自活性線虫が生息しやすいセルロース源とを混合して所定の温度で発酵させる土壌改良資材の製造方法に関する[特許文献1]、[特許文献2]に記載の発明を行った。そして、このバチルス菌及び自活性線虫が大量に生息する土壌改良資材を土中に混ぜ込むことで、バチルス菌が分泌する抗菌物質と自活性線虫による捕食により土壌生態系の回復と連作障害の抑制を可能とした。
【0006】
さらに、本願発明者らは、シスト線虫の孵化誘引材を含有し、防除が極めて困難といわれているシスト線虫を効果的に防除可能な土壌改良資材に関する[特許文献3]に記載の発明を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4226065号公報
【特許文献2】特許第6057312号公報
【特許文献3】特許第6893378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ネギ、玉葱、ニンニク、ラッキョウ、ニラなどのネギ属の農作物の病害の一つとして、近年、全国的に被害が拡大している黒腐菌核病がある。この黒腐菌核病は土壌伝染性の病害であり、カビの一種である糸状菌のスクレロチウム・セピボラム(Sclerotium cepivorum)によって引き起こされる。また、このスクレロチウム・セピボラム(以後、黒腐菌核病菌とする。)は菌核の状態で農地の土中で休眠し、宿主植物であるネギ属の植物が定植されると、その臭い(成分)(以後、ネギ属臭とする。)に反応して発芽する。そして、菌糸が宿主植物に入り込むことで増殖して発病させ、その感染力は非常に強い。尚、黒腐菌核病菌は気温10℃~15℃が生育適温とされており春季、秋季に蔓延するが、気温20℃を超えると増殖速度は停滞し、気温25℃以上が続くと菌糸の状態では生存できないとされている。また、この黒腐菌核病菌は菌核の状態では乾燥や低温、農薬等の化学物質に対して強い耐性を示し、土壌の高温殺菌が事実上不可能な農地では一度定着すると根絶が難しい病原菌の一つとされている。尚、この菌核はネギ属臭(成分)に反応すると気温が20℃以上でも発芽することが知られている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、薬剤や特別な作業を行わずに黒腐菌核病菌の防除が可能な土壌改良資材及び土壌改良資材の製造方法及び黒腐菌核病の防除方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)自活性線虫が生息する種線虫源と、抗菌物質を分泌するバチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する第1の混合工程S202と、
前記第1の混合工程S202で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化させるとともに前記自活性線虫の増殖を促す第1の発酵工程S204と、
前記第1の発酵工程後の混合土にネギ属の植物を原料とし黒腐菌核病の病原菌の菌核の発芽を促す発芽誘引材を混合する第2の混合工程S206と、
前記第2の混合工程S206で得られた混合土を再発酵させ前記発芽誘引材のネギ属臭を強化する第2の発酵工程S208と、を有することを特徴とした土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)発芽誘引材にネギ属の植物の不要部分もしくは廃棄品を用いることを特徴とする上記(1)記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)第1の混合工程S202において、脱水した浚渫土をさらに加えることを特徴とする上記(1)記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)第1の混合工程S202において脱水した浚渫土を加え、発芽誘引材にネギ属の植物の不要部分もしくは廃棄品を用いることを特徴とする上記(1)記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(5)上記(1)乃至上記(4)のいずれかに記載の製造方法により製造された土壌改良資材を土中に混合し、前記土壌改良資材が含有する発芽誘引材のネギ属臭により黒腐菌核病の病原菌の菌核を発芽させ、発芽した前記病原菌を宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とする黒腐菌核病の防除方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(6)土壌改良資材を日中の気温が20℃以上となる日に混合し、発芽した黒腐菌核病の病原菌を熱と宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とする上記(5)記載の黒腐菌核病の防除方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(7)ネギ属の植物が発酵して形成されネギ属臭を放って黒腐菌核病の病原菌の菌核の発芽を促す発芽誘引材と、自活性線虫と、抗菌物質を分泌するバチルス菌と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を含有し、
土中に混合することで前記発芽誘引材のネギ属臭が防除対象となる黒腐菌核病の病原菌の菌核を発芽させ、発芽した前記病原菌を宿主植物の不在による餓死により防除することを特徴とした土壌改良資材を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る土壌改良資材及び黒腐菌核病の防除方法は、ネギ属の植物が存在しない状態で土中に混ぜ込むことで、土中に残存する黒腐菌核病菌の菌核を発芽誘引材のネギ属臭によって一斉に発芽させる。そして、発芽した菌糸を宿主植物の不在により餓死させることで、発芽可能な菌核の数をゼロもしくは大幅に減少させることができる。これにより、本発明に係る土壌改良資材及び黒腐菌核病の防除方法は、薬剤や特別な手間をかけることなく、駆除が困難な黒腐菌核病を効果的に防除することができる。また、本発明に係る土壌改良資材及びその製造方法は、上記の黒腐菌核病の防除機能を備えた土壌改良資材を、全て廃棄物で製造することができる。これにより、極めて低い材料コストでの製造が可能となる。また、廃棄物の再利用が可能となり環境負荷の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る土壌改良資材、土壌改良資材の製造方法、及び黒腐菌核病の防除方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。尚、ここでのネギ属の植物とは基本的に長ネギ、玉葱、アサツキ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、チャイブ等のネギ属の農作物を指す。また、ここでのネギ属臭とはネギ臭、ニンニク臭、ニラ臭等のネギ属が発しジスルフィドを主成分とし黒腐菌核病菌が発芽反応を示す臭い成分を指す。
【0014】
本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、自活性線虫が生息する種線虫源と、抗菌物質を分泌するバチルス菌が生息する種菌土と、バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する第1の混合工程S202と、この第1の混合工程S202で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させる第1の発酵工程S204と、この第1の発酵工程後の混合土にネギ属の植物を原料とした発芽誘引材を混合する第2の混合工程S206と、この第2の混合工程S206で得られた混合土を再発酵させ発芽誘引材のネギ属臭を強化する第2の発酵工程S208と、を有している。尚、第1の混合工程S202においては、種線虫源、種菌土、セルロース源に加えて浚渫した土を脱水した浚渫土を混合することが特に好ましい。また、浚渫土の入手が困難な場合には畑の土を用いても良い。
【0015】
次に、本発明の特徴的な構成である発芽誘引材に関して説明を行う。本発明の発芽誘引材は、黒腐菌核病菌の宿主植物であるネギ属の植物を原料とする。また、発芽誘引材の原料としては、ネギ属の農作物の不要部分、例えば、長ネギの外皮や根や葉、玉葱、ニンニク、ラッキョウ等の根、茎、葉等を用いることが好ましい。また、これらネギ属の農作物の廃棄品を用いることが好ましい。そして、これらの構成では、発芽誘引材の原料として廃棄物であるネギ属の農作物の不要部分や廃棄品を用いるため、土壌改良資材の材料コストを低減することができる。また、廃棄物の再利用が可能となり、ゴミの排出量の削減と環境負荷の軽減とを図ることができる。尚、発芽誘引材は植物由来のためセルロース源としても機能する。よって、発芽誘引材がセルロース源の一部を構成することも可能である。
【0016】
次に、本発明における種線虫源に関して説明する。本発明における種線虫源は自活性線虫(捕食性線虫及び腐生性線虫)が生息している堆肥や腐葉土、その他のセルロース源であり、特に製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫源とすることが好ましい。また、後述のセルロース源に自活性線虫が生息している場合、セルロース源が種線虫源を兼ねるようにしても良い。
【0017】
また、本発明における種菌土はバチルス菌が生息する土や汚泥等であり、し尿処理乾燥ケーキ、農業集落排水余剰汚泥、下水処理脱水汚泥、上水処理脱水汚泥、その他の汚水処理汚泥等を用いることが可能である。中でも、重金属成分がほとんど含まれていない食品工場の処理水の脱水汚泥を用いることが安全性の面から特に好ましい。また、汚泥等は乾燥や次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌処理を施すことが好ましい。そして、この殺菌処理により雑菌は死滅もしくは減少するもののバチルス菌は芽胞状態で生存するため、発酵工程においてバチルス菌を優占化することができる。尚、種菌土は市販されている液体バチルス(液体中にバチルス菌を培養させたもの)を用いても構わない。また、製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫源兼種菌土としても良い。尚、バチルス菌は、前述のように抗菌物質を分泌してカビや細菌など、植物の病気を引き起こす病原菌を殺菌する能力を持つことが知られており、バチルス菌が優占化した本発明による土壌改良資材は、このバチルス菌が作物に有害な病原菌等の増殖を抑制する効果を有する。尚、この殺菌効果は宿主植物に未侵入の黒腐菌核病菌の菌糸に対しても有効と考えられる。
【0018】
また、本発明における浚渫土は、湖沼や堀、人工池、農業用ため池等の貯水池の底に溜まった土や砂、シルト、落ち葉、ゴミ、ヘドロ等を浚渫した後、小石や砂、ゴミや落ち葉等の大きな夾雑物を除去し脱水したものである。尚、本発明に好適な浚渫土の取得方法としては、先ず、浚渫を行う湖沼等の底にポンプ等の吸引装置を降ろし底土を水ごと吸引する。次に、吸引した底土水中の夾雑物を分離除去する。次に、夾雑物が除去された底土水にカルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を投入し底土を凝集沈殿させる。次に、沈殿濃縮した底土を適宜抜き取りベルトプレス等で脱水する。これにより、本発明に好適な含水率が50%~55%程度の浚渫土となる。尚、上記のカルシウムを主成分とする無機中性凝集剤は水中のリン成分を固定するため、湖沼等の富栄養化の原因となるリン成分を浚渫と同時に除去することができる。また、凝集剤にカルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を用いた場合、凝集剤のカルシウム成分及び固定されたリン成分が植物の肥料として機能するため、農地等へのカルシウム成分、リン成分の施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0019】
尚、一般的な湖沼、貯水池等の底土はシリカを含むシルトや粘土、マグネシウム等のミネラル成分、有機物成分を豊富に含有している。そして、シリカはバチルス菌が芽胞を形成する際に必要な栄養素である他、各種ミネラル成分、有機物成分はバチルス菌や自活性線虫の優れた栄養源となる。このため、本発明に係る土壌改良資材に浚渫土を用いることで、発酵工程におけるバチルス菌及び自活性線虫の増殖を促進することができる。
【0020】
また、本発明におけるセルロース源はバチルス菌の栄養となる植物素材であり、剪定枝、杉や松、檜等の樹皮バーク、キノコの原木栽培及び菌床栽培から出た廃菌床、腐葉土、おがくず、もやし滓、木炭や竹炭等の炭のほか、フスマ、米糠、トウモロコシ糠、ビール粕、ウイスキー粕、焼酎粕、綿花粕、ダンボール等紙類、樹木の幹や根株の粉砕物、除草作業によって発生した草等、如何なるものを用いても良い。また、複数種を混合して用いても良い。さらに、セルロース源が樹皮や枝等の硬いものの場合には3mmから1cm、特に5mm程度の大きさに粉砕して用いることが好ましい。尚、これらセルロース源は、基本的に廃棄物となるものを再利用することがコスト面及び廃棄物削減の観点から特に好ましい。
【0021】
次に、本発明に係る土壌改良資材の製造方法を説明する。尚、ここでは材料に浚渫土を加えた土壌改良資材の製造方法を説明する。先ず、セルロース源を取得する(ステップS104)。また、例えば前述の手法により脱水した浚渫土を取得する(ステップS102)。また、必要であれば水処理施設等から乾燥汚泥等を種菌土として取得する(ステップS106)。また、必要であれば自活性線虫の生息が確認されている堆肥等を種線虫源として取得する(ステップS108)。尚、前述のように種菌土、種線虫源は初回のみ他所から取得して、次回以降は前に作製した土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて種線虫源兼種菌土としても良い。また、これと並行して、例えば農家や畑等から発芽誘引材の原料となるネギ属の植物を取得する(ステップS100)。このネギ属の植物は前述のようにネギ属の農作物の不要部分、廃棄品を用いることが好ましい。、
【0022】
次に、セルロース源、浚渫土、種菌土、種線虫源を混合して混合土とする(第1の混合工程S202)。このときの混合方法は如何なるものを用いても良い。
【0023】
次に、この混合土を発酵させる(第1の発酵工程S204)。一般的に、この第1の発酵工程S204では初めに種菌土中のバチルス菌がセルロース源を栄養に大増殖して優占化する。このときの発酵温度は60℃近くまで上昇する(高温発酵期S204A)。尚、発酵温度が40℃を超えると細菌食雑線虫を含む自活性線虫の生存には不適であり、自活性線虫は比較的低温の表層に偏在することとなる。これにより、バチルス菌は細菌食雑線虫に捕食されることなく増殖を続けることができる。また、発酵温度が60℃近くまで上がることで熱に弱い他の雑菌の殺菌や混合土中の雑草の種を熱死させることができる。
【0024】
そして、数日間経過後、バチルス属細菌種の増殖は沈静化して発酵温度が低下し、20℃~40℃の温度で発酵が継続する(熟成発酵期S204B)。この20℃~40℃の熟成発酵期S204Bでは自活性線虫の活動が活発化し、細菌食雑線虫がバチルス属細菌を餌に大増殖する。次いで、この細菌食雑線虫を捕食する捕食性線虫が増殖する。またさらに、熟成発酵期S204Bでは複数種のバチルス属細菌が発生し土壌生態系の復元及び連作障害抑制にさらに効果的となる。これにより、混合土中でバチルス菌及び自活性線虫が優占化する。尚、高温発酵期S204A、熟成発酵期S204Bにおける発酵温度は人為的に制御しても良い。例えば夏季等で発酵温度が60℃を超えて高温となる場合には発酵速度の遅い剪定枝や樹皮バーク等のセルロース源の添加や攪拌による放熱で発酵温度を低下させても良い。また、冬季等で発酵温度が20℃を下回る低温の場合には米糠やオカラ等の発酵速度の速いセルロース源を添加すること等で発酵温度を上昇させるようにしてしても良い。尚、第1の発酵工程S204の期間(発酵期間)は外気温や用いるセルロース源等によって変化するが、概ね数週間~1ヶ月程度である。
【0025】
尚、この時点での各材料の比率は乾燥重量で浚渫土が30wt%~50wt%、セルロース源が発芽誘引材を含めて30wt%~50wt%、種菌土及び種線虫源が5wt%~10wt%程度とすることが好ましく、特に浚渫土とセルロース源の比率を1:1とすることが最も好ましい。また、この時点の土壌改良資材の含水率は概ね30%~60%程度とすることが好ましい。
【0026】
次に、第1の発酵工程S204で得られた混合土に発芽誘引材となるネギ属の植物を混合する(第2の混合工程S206)。尚、このときの混合方法も第1の混合工程S202と同様に如何なるものを用いても良い。また、混合するネギ属の植物は予め適度な大きさに切断して混合することが好ましい。このとき混合する発芽誘引材の量は第1の発酵工程後の混合土に対して概ね湿重量で10wt%~20wt%、乾燥重量で2wt%~5wt%とすることが好ましい。
【0027】
次に、ネギ属の植物が混合された混合土を再発酵させる(第2の発酵工程S208)。この第2の発酵工程S208によって、ネギ属の植物が発酵しジスルフィドを主成分とする強いネギ属臭を放つようになる。これにより、黒腐菌核病に対する防除機能を備えた本発明に係る土壌改良資材が完成する。尚、ネギ属臭は時間とともに減少する。このため、第2の混合工程S206、第2の発酵工程S208は、土壌改良資材のネギ属臭が維持されているうちに圃場での使用が可能となるように、使用時期から逆算して製造時期を計画的に調整することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る土壌改良資材及びその製造方法では、第1の発酵工程S204、第2の発酵工程S208の後に家畜糞を主原料とした堆肥を混合し、肥料成分としての全窒素量、全リン量、カリウム量を略同等となるように調製しても良い。尚、家畜糞堆肥としては豚糞堆肥、牛糞堆肥、鶏糞堆肥、及びこれらの混合堆肥が挙げられるが、中でも特に豚糞堆肥を用いることが好ましい。このようにして得られた土壌改良資材は、植物の成長に必要な3大栄養素がバランス良く配合されているため、基本肥料として使用することが可能となり、農地への施肥量の低減もしくは施肥自体を不要とすることができる。尚、土壌改良資材及び混合する家畜糞堆肥の全窒素量、全リン量、カリウム量は用いる材料等により変化するため、家畜糞堆肥の選定及び混合量は第1の発酵工程後もしくは第2の発酵工程後の土壌改良資材に応じて適宜調整する。ただし、その混合量は土壌改良資材に対し概ね10wt%~20wt%である。
【0029】
次に、本発明に係る土壌改良資材の製造方法の好適な具体例及びこの土壌改良資材を用いた黒腐菌核病の防除方法を説明する。先ず、ステップS104~第1の発酵工程S204を行って、自活性線虫とバチルス菌とが優占化した混合土を作製する。一方、ネギ属の農作物の収穫が終了すると、黒腐菌核病菌は菌核の状態で圃場の土中に残存する。尚、収穫されたネギ属の農作物は不要部分が除去されて然るべきルートに則って商品として流通する。
【0030】
そして、例えば春先等、本発明に係る土壌改良資材の製造時期に排出されたネギ属の農作物の不要部分や廃棄品は、発芽誘引材の原料として取得される(ステップS100)。尚、取得された発芽誘引材の原料は必要に応じて適度な大きさに裁断される。次に、第1の発酵工程後の混合土に発芽誘引材の原料(ネギ属の農作物の不要部分と廃棄品)を添加して第2の混合工程S206を行う。次に、第2の発酵工程S208を行ってこれらの部材を再発酵させ、発芽誘引材のネギ属臭を強化する。これにより、黒腐菌核病に対する防除機能を備えた本発明に係る土壌改良資材が完成する。
【0031】
次に、この土壌改良資材を用いた黒腐菌核病の防除方法を説明する。上記のようにして作製された土壌改良資材はネギ属臭が維持されている間に収穫後の圃場に例えば3t/10a(3000Kg/100m)の割合で鋤き込み混合される。これにより、黒腐菌核病菌の菌核は、土壌改良資材中の発芽誘引材が放つネギ属臭(成分)に反応して一斉に発芽する。しかしながら、圃場には宿主植物であるネギ属の植物が存在しないため、発芽した菌糸は宿主植物から栄養を得ることができず餓死に至る。また、このとき土壌改良資材中のバチルス菌は抗菌物質を分泌し、これも発芽した黒腐菌核病菌を殺菌するように働く。これにより、発芽した黒腐菌核病菌は死滅し、発芽可能な菌核の数をゼロもしくは大幅に減らすことができる。これにより、黒腐菌核病は防除され、この圃場にネギ属の農作物を播種もしくは定植しても黒腐菌核病の発生を防止することができる。
【0032】
尚、前述のように黒腐菌核病菌の菌核は20℃以上の気温でもネギ属臭に反応して発芽する。しかしながら、黒腐菌核病菌の菌糸は20℃以上の気温では宿主植物に寄生した状態でも生育が滞り、25℃以上では生存できないとされている。よって、土壌改良資材の圃場への混合は日中の気温が20℃以上、さらに好ましくは25℃以上となり、さらにこの気温が数日続く日に行うことが好ましい。この構成では、黒腐菌核病菌を餓死だけでなく熱によっても弱体化もしくは殺菌することができる。
【0033】
以上のように、本発明に係る土壌改良資材及び黒腐菌核病の防除方法は、ネギ属の植物が存在しない状態で土中に混ぜ込むことで、土中に残存する黒腐菌核病菌の菌核を発芽誘引材のネギ属臭によって一斉に発芽させる。そして、発芽した菌糸を宿主植物の不在により餓死させることで、発芽可能な菌核の数をゼロもしくは大幅に減少させる。これにより、本発明に係る土壌改良資材及び黒腐菌核病の防除方法は、薬剤や特別な手間をかけることなく、駆除が困難な黒腐菌核病を効果的に防除することができる。
【0034】
また、本発明に係る土壌改良資材はバチルス菌及び自活性線虫が優占化しているため、これを農地等に混ぜ込むことで有益な線虫の増加による土壌生態系の再生を行うことができる。また、土壌改良資材に含まれるバチルス菌は抗生物質を分泌して黒腐菌核病菌を含む作物に有害なカビや細菌の増殖を抑制する。また、自活性線虫に含まれる捕食性線虫は作物に有害な寄生性線虫を捕食する。これにより、農地等での連作障害の発生を防止することができる。またさらに、本発明に係る土壌改良資材はそれ自体が優良な肥料として機能する。このため、農地への施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0035】
さらに、本発明に係る土壌改良資材及びその製造方法は、上記の黒腐菌核病の防除機能を備えた土壌改良資材を、浚渫土やネギ属の農作物の不要部分や廃棄品、水処理汚泥、樹皮バーク等、全て廃棄物で製造することができる。これにより、極めて低い材料コストでの製造が可能となる。また、廃棄物の再利用が可能となり環境負荷の低減を図ることができる。
【0036】
尚、本例で示した本発明に係る土壌改良資材の製造方法、黒腐菌核病の防除方法及び土壌改良資材の構成は一例であり、各工程の手法、用いる発芽誘引材、浚渫土、種線虫源、種菌土、セルロース源の種類等は上記の例に限定されるものではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
S202 第1の混合工程
S204 第1の発酵工程
S206 第2の混合工程
S208 第2の発酵工程
図1